月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第27話 1967年 『国際相互補償機構は?』

 魔業は、状況に対処する兵器関連ではなく、

 状況を作り出す基幹産業へ移行していく。

 貧富の格差を拡大し、巨大資本で大規模開発することもなく近代化していく。

 東京

 観光客の白人たちは、道路の幅を目視で検討を付け、

 コンクリートの厚みを確認するように歩く。

 そして、計算に合わない建造物を見つめる。

 走っている車は、長距離の山岳トンネルと海底トンネルが多いせいか、電気自動車が多かった。

 富の集約の進むアメリカ資本に比べると、日本最大の財閥の資産は非常に小さなものだった。

 日本の中小企業の比重は大きなものと感じられる。

 にもかかわらず、強大な建造物が沿線上に連なり・・・

 「60トン級戦車の移動に耐えられる程度という報告は、正しいようだ」

 「日本のセンチュリオン戦車の配備数は580両。それほど多くないはずだが」

 「むしろ、バルカン、カフカスの戦車配備の方が多い」

 「どちらにしろ、道路建設を進めながら、それだけ配備したのだから褒められるべきだろう」

 「戦前の戦車の重量制約が15トン級」

 「それが、戦後間もないというのに52トン級センチュリオン戦車だ」

 「アメリカの経済学者がどう計算しても、25トン級戦車でやっとこのはずだ」

 「しかし、目に見えない基礎工事でこれだと、公共工事の私腹率は小さいようだな」

 「じゃ このビル群も砂上の楼閣とは言えんな」

 「耐震、耐火、耐水に優れた素材と構造も眉唾ではなさそうだ」

 「アメリカの摩天楼と違うな」

 「むしろ、背丈を低くして、広範囲に土地収用できて再開発できるドイツ型に近い」

 「全体主義の強い国にありがちだ」

 「まぁ 移民が進んでいるからね」

 「先に収容先の物件を作って移動を足しているのだから、動きやすいだろう」

 「どちらにしろ、1円当たりの生産力、価値は、戦後の数百倍に達している」

 「保護貿易をするか。為替を1ドル1円に変えるべきだろうな」

 「このままだとアメリカ市場が奪われる」

 「保護貿易も、市場が奪われるのも、まずいだろう」

 「しかし、タネも仕掛けも掴めないのが問題だな」

 「しばらく、瑞樹州の情報収集に集中していたら、これか」

 「魔法関連は瑞樹州に集まっているらしいからな」

 「一般の日本人は、魔法を信じていないようだが」

 「情報操作ってやつだろう」

 「これだけ調べて、尻尾が掴めないとはな」

 「四国の室戸岬から海底トンネルを掘り進めて、メタンハイドレートを採掘する噂もあるな」

 「日本がメタンハイドレート採掘に成功すれば、エネルギー問題は解決か、良い身分だ」

 「しかし、日本はロクに海底調査も進めていないのにメタンハイドレート量を確信している」

 「そういえば、北海油田を真似て、東シナ海の油田を採掘しようとしているらしい」

 「油田があるのか?」

 「さぁね。イギリスは北海油田で英国病を脱せるかもしれないが・・・」

 「日本人の資源開発は、いい加減にタネ明かしをしてもらわないと、まずい」

 「ダウジングでは?」

 「日本沿岸の海底にあるとか言うメタンハイドレートをダウジング出来る奴がいたらお目にかかりたいよ」

 「いっそ、対日戦争仕掛けて、ボロを出させるしかなさそうだが」

 「参戦理由がないだろう」

 「アメリカ国民は国益のために血を流す気などないし、そういう政府を嫌う」

 「キューバ、ベネゼエラ、コロンビアの軍事力拡大で防衛費を保ってるくらいだからな」

 「第一、アメリカ極東権益地は、どうするんだ」

 「あそこは日本人労働者と対日貿易で成り立っているからな」

 「アメリカ合衆国でも日系アメリカ人の生産力と資本力は増している」

 「日系議員も増えてるし、発言力は、対日参戦を困難にさせる」

 「それにドイツ系の移民が減ってモラルと工業力が低下してるからな」

 「生真面目な日系人労働者はアメリカ産業で有用だ・・・」

 一人が公衆電話の受話器を取って、金を入れる。

 「予定に変更は?」

 『いや、ない』

 「わかった」

 がちっ!

 「付けられていないそうだ」

 「嬉しいねぇ これでも欧州じゃ 名うての工作員のはずだが」

 「気を回し過ぎじゃないのか」

 「昔なら特高が監視していたそうだ」

 「むかしと違って日本に入国している白人は多い、いちいち張り付いていられるものか」

 「防諜も水際防衛から内陸拠点防衛か、秘密があるはずなのに余裕だね」

 「自信の現れだな。交易は有利になる」

 「それに入ってからガラガラじゃなくなり、緊張を保ちやすい」

 「何か雲を掴むような気分だ」

 緑樹に囲まれるように区画が整備され、公園も至るところにあった。

 白人たちは、自動販売機でアイスクリームを買い、子供たちとすれ違う。

 「・・・よう、坊主たち。ゲームをしないか」

 「ゲーム?」

 白人の指の間に挟まれた赤い玉に集まる。

 「右手の赤い玉の数を当てるんだ。当たったらアイスを上げよう」

 アイスより、赤い玉の刺激に関心が集まっている事で食料事情。

 子供たちの変化も見当がついた。

 男は、両指で赤い玉を絡め、

 「「「「・・・・・・・・」」」」 じ〜!!!

 右拳を差し出し、

 「「「「1つ!」」」」

 「3つ」

 子供たちの数字を外していく。

 「どうだ。魔法だぞ〜♪」

 「手品だよ」

 「「「「・・・・・・・・」」」」 じ〜!!!

 「「「「2つ!」」」」

 「4つ」

 「魔法だぞ」

 「そんなのあるわけないよ。タネと仕掛けがあるんだ」

 「どこにある?」

 「「「「・・・・・・・・」」」」 じ〜!!!

 「「「「3つ!」」」」

 「惜しい、2つ」

 「で、でも手品だもん」

 白人たちがアイスを配ると子供たちが去っていく。

 「魔法・・・ないのかな・・・」

 「ちくしょう〜 それでも魔法はあるんだ〜!!!」

 

 

 

 沖ノ鳥島

 沖大東島まで670km。

 硫黄島まで720kmある小さな環礁だった。

 それ以外の主要な島は、1000kmを越えて孤立していた。

 この環礁に東西4kmと南北1.5kmの滑走路が建設されていた。

 孤島に巨大な飛行場を建設すれば、周囲の制空権は手の内に入りやすく・・・

 「空母建造をケチって、飛行場を建設か」

 「どちらかというと民間航空の中継飛行場だけどね」

 「大型4発ジェット旅客機を開発しろよ」

 「ビッカースVC10は?」

ビッカースVC10ジェット旅客機
重量 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続距離 乗員 乗客
63278/141520 48.36×44.55×12.04 264.9 9300kg×4 933km/h 9412km 3 151

 「日本・瑞樹を行き来しやすいがね。尾翼にエンジン4発だと強化は無理そうだ」

 「STOL性能がいいのは悪くないがね」

 「日本から瑞樹州まで4000kmから5000km。900km/hなら4時間から6時間以内なら我慢できるだろう」

 「航空機は、国産で開発したいのだけどね」

 「まぁ 日英同盟で得られる利益。イギリス連邦の日本資本の収益は莫大だ」

 「植民地が保たれているのは、日本のおかげというのは信憑性があるのか?」

 「さぁ 自由フランスも、オランダのインドネシアも現地を同化しているというより、乗っ取りだな」

 「本土が失われて、人口が移動したおかげだろう」

 「イギリスの場合、移民しているのは日本人か」

 「イギリス開発でも、日本のライセンス生産が圧倒的に多いからね」

 「改良が進んで、本家のイギリス製より性能がいいくらいだ」

 「イギリスも日本の補修治具を購入してるからな」

 「そのうち、日本から丸ごと買うかも」

 「イギリスも本国が落ち目で、カナダ、オーストラリアの方が成長してるしね」

 「日本が資源開発をしたからだろう」

 「白豪主義がなければもっと経済成長してたよ」

 

 

 バルカン連邦

 都市自治法の強い連邦国家だった。

 なので、自分の好みに合う都市へと人口が移動していく。

 日本人街は、日本の法律の影響を受けており、

 アメリカ的な法律の影響がある街もあった。

 日本法務省の役人たち

 「法が一律じゃないのが問題だね。煩わしいし、不公平感がある」

 「基本的な部分は同じだよ。それに法の酌量が都市によって変動があるだけだ」

 「市民有利、商人有利、老人有利、労働者有利か・・・」

 「公平より、不公平を求めて移動しているとはね」

 「適当な裁量の部分を官僚任せにする日本は、官僚有利ってわけか」

 「ドイツのような厳格な法。中国のような官僚任せの徳治法よりマシだ」

 「アメリカは移民国家で、民族的なつながりがない」

 「裁量部分を陪審員。そして、検察と弁護士の戦いに任せている」

 「バルカンの都市は、官僚の酌量権を許さないだろう。アメリカ型が多い」

 「だが同じ民族が多くなれば、日本型に近付くだろう」

 「どうかな。異質な差別は違法で、層差別は認められている」

 「自働車に乗っている人間を有利にするか」

 「歩いている人間を有利にするかでしかないから、人種も宗教も関係ないよ」

 「自動車に乗らないやつは、歩いている人間有利の街に行くし」

 「自動車に乗るやつは、自動車有利の街に行く」

 

 バルカン連邦は、ガソリン自動車、ディーゼル自動車全盛だった。

 白人たちが日本の某自動車会社を監視していた。

 「ロータリーエンジンは、魔法じゃないのか?」

 「むしろ優れた工作機械と熟練工によってなされたと思うね」

 「魔法で底上げされたとはいえ、日本人の熟練工も随分増えたものだ」

 「利権が確保されれば、移民も増えるさ」

 「日本のバルカン権益地は、拡大模様か、日本への回収もないというのに」

 「日本は、余剰人口を減らせて、区画ごと順番に開発していける」

 「それだけでも大きいよ」

 「ドイツ車に並ぶ自動車を日本が量産できるとはな」

 「日本は、エコノミック車だろう。ドイツは高性能車だ。カテゴリーが違うよ」

 「しかし、日本車の国際競争力は高まっている」

 「メイド・イン・バルカン製だろう。だいたい日本は電気自動車の生産が多い」

 「自動車燃料を産出できる国と出来ない国の違いだな」

 「日本は燃料を温存して、戦争できる状態でいたいわけだ」

 

 

 ワシントン国際会議

 各国の代表者たちが集まっていた。

 “戦争する” “戦争しない” を決める背広組たちであり、

 国力の一番大きなアメリカ代表が発言する。

 「我々は、国際的な対立を避ける良識を持ち、協調の時代を迎えたと思う」

 「つまり戦争をすると損をする状況を作り出すべきだろう」

 「戦争は外交手段だと思うが?」 ドイツ代表

 「いや、戦争をしない方が得をすると言ったほうが良い」

 「「「・・・・・」」」

 「つまりだ。アメリカ、ドイツ、日本、イギリス4ヵ国が互いに1000億ドル相当の国債を交換する」

 「つまり3000億ドル相当の国債を抱え込んで、お互いに債権者、債務者となり」

 「相手国の経済を補償し合うのだよ」

 「「「・・・・・」」」

 「富裕国じゃなければ、仲間に入れない機構だな」

 「ところで、アメリカ国債に何か魅力があるのか?」

 「ア、アメリカは、世界最大の金持ちだろう」

 「魅せ掛けのイルミネーションドルだろうが」

 「ドルは、世界でもっとも流通して信頼されてる紙幣だぞ」

 「何でもある国は、需要がないよな」

 「そうだ、そうだ。落ち目のアメリカ国債に魅力を感じられない」

 「ていうか、アメリカドルは意図的に高く設定されてるだけじゃないか」

 「俺たちの足引っ張るつもりだろう」

 「ば、馬鹿を言うな。世界平和と国際通貨経済の安定のためだろう」

 「1マルク当たりの製造原価で考えるべきだ」

 「なんでマルク?」

 「日の沈まないポンド基軸が常識だろう」

 「「あり得ない」」

 「安定収入のポンドだ」

 「庭弄りで余生を送ってるイギリスを安定させてるのは日本資本じゃないか」

 「それがイギリスの力だ」

 「「「・・・・」」」

 「・・・日本はどうしたいんだ?」

 「み、みんながそうしたいなら・・・」

 「「「・・・・」」」

 『『『お前が一番損してるんだよ』』』

 

 

 英語とアメリカドルが支配する世界が極東に作られていた。

 アメリカ極東権益地

 黒人と朝鮮人の間で流血事件が拡大していく。

 漢民族、白人、日本人は、巻き込まれないように遠巻きに見つめる。

 権力が集中すれば、利権外れは搾取されるばかりの人生、地獄であり。

 権力が分散すれば、内紛で機能障害か、癒着を招いて行き先も定まらない。

 アメリカ極東権益地の主人はアメリカ資本であり、

 アメリカ政府の関与さえ、困難にさせていた。

 そういう意味では、極東権益地は、法人国家連合体と言える。

 そして、法人有利な地域は喜ばれたのか、欧米各国とも資本の進出が続き。

 日本資本も少なからず足場を築いて末席に加わる。

 当然、日本人と外見の似た朝鮮人は心穏やかでなく。

 反日運動を起こしたり、反黒人蜂起を起こしたり。

 日本資本のビル

 「やれやれ、どうも、満州は鬼門らしいな」

 「北東は天門。北西は鬼門なんですが方位学も当てになりませんね」

 「朝鮮転売前の朝鮮人は従順だったと聞きましたが?」

 「面従腹背だよ。あれが本性だろうな」

 「自分たちが極東権益地の支配者で、日本や中国を支配しないと収まらないのだろう」

 「泣いて喚いて暴れてダダこねているだけのような気もするがね」

 「しかし、こういう、拝金主義な利害関係の世界は、どうもねぇ」

 「金にはなる」

 「だけど、10代の若い男女が打算で交際を決めてるからな」

 「ある意味、正しいような気がするね」

 「性格・性欲とか、収入・容姿だけで決めるより、結婚して得な事がないと辛いよね」

 「結婚して年齢を経れば容姿は下降線」

 「収入が少し増えても子供が生まれれば自由になる時間も、一人の使える金も減る」

 「経済的に家庭が上手くいくのは、一握り」

 「惰性と怠惰に浸って、忍耐や向上心を失えば、家族同士で憎み合って破綻する」

 「権益地じゃ 妥協で結婚して破綻するより、寂しく刹那的に死んでいく方が良いかもね」

 「企業にとっては、安定した労働力じゃないか」

 「企業優先だと、就労人口以外の世代が痩せ細りそうだな」

 「貧富の格差を広げ過ぎると衣食住で余裕がなくなって貧民層が増える」

 「近代化して偽善な法律が増えると愛も権利や義務になるし」

 「家長の権利も侵害される」

 「間引きも楽じゃなくなる。皺寄せがどこに行くのか、日本も参考になりそうだな」

 「むかしみたいに婆さんが孫を間引きしていた時代には戻れそうにないか」

 

 

 国境線を接すると軍事的優位性を保とうとする。

 アメリカ極東権益地

F111 アードバーク
重量 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続距離 乗員 兵装
21410/45360 22.40×19.20(9.74)×5.22 61.07(48.77) 11157kg×2 M2.5 4700km 2 11340kg

 「素晴らしい機体だな」

 「ファントムとB56爆撃機の中間だよ」

 「圧倒的に優勢な気がするが、不安は尽きないね」

 「純粋な迎撃機の方が良い気がする」

 「日本のアロー戦闘機を掻い潜れそうなのか?」

 「さぁねぇ ターボファンエンジンだから経済的には有利だよ」

 「アードバークでアローをスクランブル発進させてやれば、自動的に勝てる」

 「アローもターボファンエンジンに改造しようとしてるんじゃないのか」

 「どちらにしても、ライトニングもアローも機体数が少ないだろう」

 「戦争になれば押し切れるさ」

 「上層部はそう思ってないようだが」

 「さぁ 日本の戦力は3倍増しで試算しろと言われてるらしい」

 「ジーンリッチじゃあるまいし。チビの日本人を恐れる理由はないだろう」

 「小さい方が弾が当たらないんだよ」

 

 基地の地下に権益地の資本家が集まる場所があった。

 世間一般に悪の巣窟と認識されており、資本家の牙城。

 その末席に日本の資本家も呼ばれていた。

 「どうだろう。日本資本はもう少し、土地を買われては?」

 「円高傾向にあるようですし」

 「日本人労働者は、権益地での収入に魅力を感じなくなっているようで・・・」

 「だから、日本資本の君たちに権益地の利権を売るんじゃないか」

 「だから労働者がドルに魅力を感じなくなっていると」

 「い、いや、そうじゃなくてさぁ 君らのためだって」

 「「「「!?」」」」

 「ほら、ここでたくさんの利益を上げてだな、楽しめって・・・」

 「「「「!?」」」」

 『こいつら、わかってねぇ ハッキリ言ってやれよ』

 『いや、普通、わかるだろう』

 『だから、ハッキリ言ってやれって』

 「「「「!?」」」」

 「だ、だから、ほら、君たちの私腹を肥やす場所として」

 「「「「私腹・・・・」」」」

 「あははは、つまり、我々、権益地の資本家がやってることだよ」

 「政府に対しても、国民に対しても、聖域だぞ」

 「既に聖域ですが・・・」

 「い、いや、社長だったら、もっと利益を求めるだろう」

 「大きな家に住んで、良いもの食べて、人を侍らせて」

 「日本の数倍の家に住んでますよ」

 『ぐぅあああ〜 わかってねぇ〜』

 『あんなの掘っ立て小屋だよ』

 「「「「!?」」」」

 「だから、もっと贅沢しろって!」

 「いや、もう、十分・・・」

 「だから、違う〜!」

 「」

 「」

 

 

 日本 厚木飛行場

アブロ・カナダ CF105アロー戦闘機
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
21245/31120 23.71×15.24×6.25 113.8 10453kg×2 3062km/h 860km 1 8+4 2

 チタンの材質が増えれば、その分だけ軽量化が進む。

 日本のチタン製造費用は、アメリカの10分の1ほどであり、

 乱暴なやり方でも、部品をチタンに置き換えるだけで性能が向上する。

 制約があるとすれば、スペックを低めに設定し、

 ばれないようにすることだけだったりする。

 F111アードバークより巨体な機体は、格闘戦で不向きだったものの、

 レーダーレドームの積載容積の大きさから先制発見・先制攻撃の可能性は高く、

 火器管制、ルックダウン能力、後方レーダー、ECMなど電子装備に優れ、

 対空ミサイル、30mm機銃、チャフ、フレアの積載も余裕があった。

 また、ミサイル類を機内格納できる特典も大きいと言えた。

 管制塔

 日本空軍の将校たちがCF105アロー戦闘機の離陸を見守る。

 「チタンで1トンほど軽量化したとはいえ、こいつで小型戦闘機を追いかけ回すのは骨だな」

 「コンピューター “ガイア” で設計して、国産開発すれば良かったのに」

 「多少、不具合を改良してるよ。カナダの資源開発は、重要だからね」

 「そういう裏事情かよ」

 「チタン採掘は産業でも軍でも大きいだろう」

 「・・・・」

 「アローとライトニングで編隊を組めば先制発見・先制攻撃から格闘戦まで戦えるよ」

 「対空哨戒機とライトニングの組み合わせでも間に合うと思ったがな」

 「管制機はレーダーで誘導できても、直接レーダー照準で撃墜するのは戦闘機だからね」

 「多数を相手にできる兵装も魅力だな」

 「何より、複座なら、魔法使いを搭乗させられる」

 「高価過ぎる戦闘機を守るには、それが一番だろうね」

 「むしろ、対艦ミサイルを搭載して攻撃機にした方が良いかもしれないな」

 「電子装備を対艦用に取り変えないとな」

 

 CF105アロー戦闘機

 戦闘機乗りの注意力のほとんどは後方に向けられる。

 機体上下に配置した後方レーダーは、敵戦闘機の機首レーダー並みの広角を有し、

 ECMジャミングは、数秒で同じレーダー波を返し、

 距離を4分の1から5分の1に狂わせた。

 ECCMは、妨害波の誤差を排除して、電子機器の正常を保たせる。

 煙幕入りチャフは、レーダーと同時に視界を見失わせ、

 フレアは、エンジン排気熱を曇らせ、赤外線探知機を誤作動させた。

 機外カメラの映像は、後部座席のモニターに映され、

 ECM作動中でも後方を光学的に捕らえることができた。

 最悪、鹵獲されても製造価格以外、疑われないであろうギリギリの戦闘機だった。

 『・・アルファ1、アルファ1、これより地対空ミサイルを発射する』

 「夕凪カゲハ少尉。大丈夫か?」

 「いつでもどうぞ」

 「駄目な時は、早めに言ってくれよ。ジャミングかけなきゃならないからな」

 「大丈夫だって」

 「・・・撃ってくれ」

 『10カウントから始める。弾頭は外してるが諦めは早めにな』

 「了解してる」

 カウントがゼロになると、基地から2本の火柱が立ち昇っていく。

 2発の地対空ミサイルは、上下左右に機動するアローを精確に追撃する。

 「捕捉し難いから、あまり揺らさないで」

 「対空ミサイルの精度も測りたいんだ」

 高速で迫る地対空ミサイルを自爆させるスイッチは、アローにも基地にもあった。

 「ぅ・・・酔いそう」

 「早く逸らせよ」

 「いいから、まっすぐ飛んで」

 背後から迫るミサイルは、機体から30m付近で軌道を外れ、

 目標を見失って自爆させられる。

 「・・・際どかったぞ」

 「近い方が寿命を稼げるもの」

 「そう言われると、言い返せないか」

 「M機関には、もっといい機体があるんだろう?」

 「バルカン爆撃機よ。コクピットは広いし。飛行石と魔法の杖の二つだもの」

 「使わなければ良いな」

 「そうね」

 

 

 イギリス

 英語はようわからん、

 数回のやり取りの後、少年と少女は、フィッシュ・アンド・チップスを買って店を出た。

 「また、ため息をついて・・・」

 「あのアイリッシュ野郎。俺の発音に間違いはねぇ」

 「あははは・・・まともに英語を喋れないとカモにされるわよ」

 「ぅぅ・・・なんで、こんな国に来なきゃならないのかな」

 「一応、親の仕事の都合でしょ」

 「喰命鬼なら勉強抜きで、覚えられるのに」

 「いやらしい」

 「ハミハラはそうだけど、そうじゃないのもあるっていうし」

 「喰命鬼が殲滅されても知らないわよ」

 「需要があるうちは大丈夫」

 「需要ねぇ」

 日本は基本的にスパイされる国であって、

 危険を冒して魔法使いで他国をスパイするより、

 遮二無二に魔業に専念した方が良い国だった。

 しかし、特別な事情が生じると魔法使いの海外出張が行われる。

 魔法使いは社会影響力の強い数人を定期的にトレースしており、

 ロンドンの一角に不透過な地域が生まれたことが分かる。

 これは、強い対魔法がなされていると仮定できた。

 広範囲で生体素粒子を不活性化させる技術は、人間の直観的な成功を失わせる技術であり。

 統計以上、統計以下にもなり難く、好まれないとされている。

 魔法が認知されているガイアでも消極的な技術なのか進んでいない。

 「事前に察知できるから、イギリス政府、財界筋からのじゃないよね」

 「最悪の事態を察知するための必要最小限の透視だもの、全部は無理」

 「でもイギリスの首相がそこに入ったという事は・・・」

 !?

 「・・・猫が支配から切り離されたわ」

 「こっちもだ」

 少年は地図を広げつつ、なんとなく周辺を透視する。

 使い魔から切り離された気分は最悪。

 MI5は基本的に子供を気にしたりしない、用心深くしている方が返って疑われる。

 なので、ベテランの諜報員は、無神経なほど図太かったりもする。

 とはいえ、後ろめたいモノはしょうがない。

 「・・・という事は、中心は、あの大学になりそうだ」

 「どうやってるのかしらね」

 「生体素粒子は、生体であるが故、普通の素粒子に比べて透過性が低いからね」

 「機械的にやってるのかしら」

 「あとは、現地の工作員にまかせよう。魔法使いが出ることないよ」

 「でもさすがイギリスってところね。政治中枢にこういう技術を置かれたら、もう透視出来ないわね」

 「開発はイギリスでも、成功はドイツで、儲けるのはアメリカだよ」

 「働くのは日本人だったりして」

 「あははは・・・」

 2匹の黒猫が現れフィッシュ・アンド・チップスの残りにありつく。

 「さてと、どうしようか?」

 「んん・・・イギリスといえば競馬、競馬といえばイギリス。万馬券を当てて・・・」

 「あまり目立つ金額だと怒られるよ」

 「わかってるって」

 「問題は、まともに買えるか、だね」

 「ぅぅ・・・英語なんて嫌いだ」

 「何か買い物?」

 「魔法使いだって野心と野望を叶えたい」

 「どんな野心と野望よ」

 「・・・一発当てて、さざれ石ウォーターフロントで口直ししよう」

 「うん、やっぱり日本人は焼きイモね」

 

 

 新大陸の日英同盟の拠点が、いくつか存在する。

 ベリーズ(22966ku)

 バハマ(13940ku)、

 タークス・カイコス諸島(430ku)

 ケイマン諸島(259ku)

 ジャマイカ(10991ku)

 イギリス領ヴァージン諸島(153ku)

 セントクリストファー・ネイビス(262ku)

 アンティグア・バーブーダ(443ku)

 モントセラト(102ku)

 ドミニカ国(754ku)

 セントルシア(616ku)

 バルバドス(421ku)

 セントビンセント・グレナディーン(389ku)

 グレナダ(344ku)

 トリニダード・トバゴ(5128ku)

 ガイアナ(214970ku)

 排他的特権は、日本企業の進出を足し、

 綾風が定期空路を開拓し、

 アルミ製のクルーザーが島と島を結びつけた。

 ガイアナ、ベリーズ、バハマの産業が安定すると中米英連邦の牽引役となっていた。

 

 バハマ(13940ku)の歓楽街

 同じ酒を出しても建物が違えば値段が変わり、

 女性が付けばさらに釣り上がる。

 観光客相手の店が並び、日本人の客もいたりする。

 欧米諸国が日本のインチキを疑っているように、

 日本のM機関も欧米諸国、あるいは、特定組織のインチキを警戒していた。

 歓楽街のホテルの一室。

 数人の日本人が戻ってくると、

 「どうやら、喰命鬼の類じゃないようだ」

 留守番は、何度も読んだであろう伝記、神話の上に聖書を放る。

 「親子が似ているからといって、喰命鬼とは限らんからね」

 「これで、アメリカ、イギリス、ドイツの政治経済の中枢にいないと言っていいと思うが」

 「本当にいるのだろうか」

 「かって、地球にガイア産の喰命鬼。あるいは、魔法使いがいた可能性はある」

 「現在、いるかどうかは未明だが」

 「相手が魔法使いなら良いがね。喰命鬼だと危険だぞ」

 「先に本体を見つけた方が有利だ」

 「その魔力が地球産という事はないか?」

 「魔法使いの出現率から換算して、喰命鬼の発生の可能性はあるよ」

 「生体素粒子の含有率を差し引いてもね」

 「じゃ 魔法の杖がないだけか」

 「地球産喰命鬼を発掘できれば良いのだけどな」

 「喰命鬼の発症は、先天的、後天的があるらしくてね。よく分からない」

 「わかっているのは、気宇なことだろうな」

 「もし死なないとしたら数は多くないか」

 「生きていることに飽きなければだな」

 「少なくともお金持ちが集まっているところにいる可能性は高いね」

 「どうかな。だらだらと隠遁生活してる可能性もある」

 「寿命を延ばして贅沢する以上の野心がなければ問題ないがね」

 

 

 瑞樹州

 数千メートル上空の綾風。

 「いけるかね」

 「ええ、大丈夫ですよ」

 「・・・・」

 魔法使いが飛び降りた。

 体重55kgほどであり、

 飛行石6kgの加熱を最大にすれば、単純計算で質量を−5kgで上昇すら可能であり。

 魔力を使えば、自由に飛び回ることも可能だった。

 ガイアでは飛行石と呼ばれている、

 厳密に言うと斥力石であり、引力に反発する反重力石ともいえる。

 斥力石は、光や熱によって斥力が発生するため個体として結合されている。

 なので、無理な過熱をすれば分子崩壊した。

 飛行石の精製は、特定の形状を保ちながら反重力を発揮させることであり、

 ようやく軌道に乗ったといえる。

 火墨は、落下速度と降下地点を調整しながら降下し、ゆっくりと着地する。

 『やったね。火墨ちゃん』

 半透明の着物を着た娘が声を掛けた。

 霊体も生体素粒子であり、大半は、魔力が使えない。

 「なかなか楽しかったよ。曾おばさん」

 『お京でしょ お京』

 先祖を遡ること5世代前、結核で死んだ娘(14歳)だった。

 この時期、魔法使いは、寿命を保つため生体素粒子を壊さない技術を向上させていく。

 その一つが霊体との契約だった。

 とはいえ、ほとんどが義務教育も受けておらず、封建的、無知、無力。

 それでも、情報は、得られやすかった。

 契約といっても契約霊を祀り墓守することで、

 人間に対するようにお茶を出したり、会話したり・・・坊さん業は煩わしい。

 契約霊も相性で、先祖だったり、無縁仏だった。

 実体があっても話せない動物より、

 実体がなくても話せる幽霊と組む魔法使いも現れる。

 とはいえ、幽霊も嘘は付く、逆恨みはする、怠けるわで人間と同じ、

 実体のある人間より変わらないので、恨みが強過ぎたり、未練があり過ぎたりはNG。

 “もっと人生を楽しみたかった” くらいの幽霊で契約を守れる幽霊だった。

 本来なら魔力を持つ霊体だと良いのだが、この世もあの世も同じ、

 実力者が誠実とは限らないのである。

 

 瑞樹州オーエンスタンレー山脈

 列車の乗客は、多くもなく少なくもなく7割ほど埋まっており、

 10人に1人が外国人に思えた。

 モニターにテレビ放送が流され、音声はイヤフォンで聞く事ができた。

 “悪いやつは、耳長魔人が寿命を食べにくるからね・・・”

 “早く人間になりたい”

 「くだらない・・・」

 「人気あるそうですよ」

 「ガキにはな」

 「道義的な勧善懲悪が財欲と支配欲に駆られた大人に通用するものか」

 サービスは、営業スマイルで、人手不足なのか、自動販売機の貨車もあった。

 通常なら狭軌なのだが山岳鉄道も標準軌(1435mm)が使われていた。

 当然、トンネルも多く、路線の蛇行も大きく、200km/h以上で駆け登り。

 標高によって、路線の周囲に育っている木々の種類が変わっていく。

 「随分、外国人観光客が増えましたね」

 「城郭風の官庁、校舎。それに神社仏閣が増えたせいだろうな」

 パンフレットを見るとそうなっていた。

 「何人かはスパイだろうがね」

 「盗まれるようなものがありますかね」

 「地図を見つめる」

 「ないから問題なんだ」

 中年の男とアシスタントが標高2500m級高原都市の駅で降りた。

 雨雲が山裾側に広がって流れていく。

 二人とも好奇心丸出しで辺りを見回すため、

 たいていの人間は、フリーライターに類した職業と察しがついた。

 「凄いですね。こんな高原に街を作ってしまうなんて」

 「この標高になると、まるでスイス並みだな」

 「ええ。梅が咲いてて、雨の多い熱帯雨林と思えない光景ですね」

 「農地もな、採算度外視で大したものだ」

 「鉄道より街が先に作られたというのは、本当なんでしょうか?」

 「本当らしいな」

 「腑に落ちませんね」

 「まず、軍が建設を始めて、民間業者が引き継いだそうだ」

 「今では、現地産業が軌道に乗っている」

 「瑞樹州に開発を掛けるのは、権利の委譲だし、地方分権になる」

 「これだけの資金を掛けての投機は、日本にとっても大きな負担のはず」

 「日本の生産力、消費、市場を縮小させている」

 「アメリカ権益地と中国7軍閥の市場が日本産業を補填しているに過ぎないのだから」

 「外人が多いようですね」

 「そりゃそうだろう。なぜ、この街が建設されたのか」

 「どうやって街を建設したのかわからないのだからな」

 「日本政府の公式見解は、鉱物資源開発と水力発電量、清涼需要があったからと」

 「後付けで都合の良いように解釈しているだけだ」

 「そうですか、微妙に合理的ですし、納得できそうですよ」

 「あり得んね」

 「人間は機能として合理的でも、精神は合理的にできていない」

 「政府は何かを隠している」

 「問題は、軍機扱いで、建設当初の関係者が掴めないところですね」

 「不可解な証言は残っているようですが・・・」

 「これだけの規模の開発で建設初期の記録がほとんどないのがあり得んよ」

 「噂の魔法使いですかね」

 「もっとあり得んな。まだ、双頭の龍計画の方が信憑性がある」

 「日本と瑞樹の国力で国防する、ですか?」

 「いまのところ兵器生産拠点は、効率の良い日本が多い」

 「それに瑞樹州のプラスチック、ステンレス、セラミック、チタン生産は日本以上だ」

 「雨が多いですからね。水力発電のエネルギーも大きいですし」

 「工業力は、瑞樹州も日本と同水準で武器弾薬なら、すぐ対応できるし」

 「その気になれば、軍需移行は、難しくない、兵器も生産可能だろう」

 「問題は、採算性ですか」

 「そうだ。いくら水力発電が大きくても1円で生産できる工業製品が大き過ぎる」

 「円高傾向は、続きそうですよ」

 「農業の機械化も進んでいるし、1円が0.5ドルになる可能性も高いな」

 「貿易黒字はともかく」

 「これだけの設備投資を行って、財政赤字が小さいのは不思議ですね」

 「気薄な人口で小さな利権のくせに、巨大な開発。あり得んな」

 「ですよねぇ」

 「日本人って、そんなに公益性が高かったか?」

 「回りの人間を見ると、そう思えないんですがね」

 「上層部の人間を見ると、収入もそうだが偉く質素だからな」

 「癒着して事を興すかと思えばそうでもないし・・・」

 「返って新興企業の社長連中のほうが成金趣味ですけどね」

 「そういう連中は、外地の方が自己資本を集めやすいと行くからな」

 

 

 

 

 地下深く

 将校は、拳銃を抜くと布に向けて撃ち込む。

 銃弾は薄い布で止められ、パラパラと落ちていく。

 「この薄さで銃弾を防ぐとはな」

 「シート状に広げて重ねることもできますから、ベストの組み合わせは、思考錯誤です」

 魔業は、カーボンナノチューブ、シリコンナノチューブの微細加工を可能にしていた。

 また、ほう素、モリブテン、タングステン、ニオブなどの微細加工が進んでいく。

 魔法使いたちは、電子顕微鏡を覗き込み、

 編み物でもするかのように規格製品を作り上げていく。

 「しかし、いまだ手工業の域を出ないか。内職だな」

 「微細加工の方が寿命の消費が少ないですからね」

 「その上、利益も大きいか」

 「いざとなったら組み立てるだけか」

 「厚みが増えればライフル弾も貫通させません。最強の歩兵部隊ですよ」

 「いまのところ、魔法使い用の分だけだが・・・」

 「そういえば、ヘリウム3の製造を検討しているとか」

 「んん・・・科学者の話しだと潜水艦の機関で有用らしい」

 「じゃ 怖いのは、核兵器だけですかね」

 「フラーレンに水素原子を入れて、中性子を防げるか検討している」

 「もっとも、戦争なんてしたくないのが政府筋らしい」

 「アメリカ、ドイツ、イギリス、ソビエトが飛行石と魔法以上のモノを隠してないのなら、勝てるからね」

 

 

 海洋安保庁

瑞嵐型 ヘリ巡視船 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続距離
14000 210×32×7 100000 30 20kt/8000海里
FCS 70口径40mm砲×4基 ヘリ × 4〜12機
瑞嵐  、 瑞雪

 空母は、プラットフォームとしての艦体構造が優れていれば、性能は艦載機で決まる。

 レーダーとソナーなど電子装備を除けば、機密は少なく、

 巨大な格納庫、医療設備を持つ、汎用性の高い巡視船が建造された。

 瑞嵐 船橋

 「やれやれ、最新鋭の大型艦が海洋安保庁とはね」

 「戦時下になれば国防省隷下だけど」

 「面白くない」

 「きっと、戦前の阿漕な行いが祟ったからだろう」

 「自浄能力はあったじゃないか」

 「あははは・・・」

 ヘリが飛行甲板に着艦する。

ウェストランド ワスプ
重量 全長×全幅×全高 hp 速度 航続距離 7mm×43 乗員 乗客
1569/2500 12.30×9.85×2.72 1050 193 488km 1 2 4

 「対潜魚雷を載せてぇ」

 「基本は、警備と救助だからね。戦争が始まるまで無用だよ」

 「ちっ 他はともかく、FCS区画だけは、軍機だからな」

 「わかってるよ」

 「もっとも、M機関に比べたら軍機なんて軍機とは言えないがね」

 「あそこのインチキ振りは別格だからな」

 「ていうか、非常識過ぎてついて行けないよ」

 「いまいる魔法使いは、一人だっけ?」

 「ああ、巡視船最大の船でさえ、魔法使いは、一人」

 「ほとんど、手工業部門にとられてるらしい」

 「使い魔は?」

 「アホウドリが3羽だ」

 「現場軽視は相変わらずか」

 「というより魔法使いは、法務省の監視係みたいなもんだ」

 「ちっ 嫌な時代になったな」

 「戦前より良さそうだ」

 「陸軍兵力と航空機総数は、ソ連どころか、権益地、中国7軍閥にも負けている」

 「国防を預かる者としては、座視できんよ」

 「結局、揚陸艦の数なんじゃないのか?」

 「いや、見掛けで弱い方が貿易しやすいんだと」

 「本音は、大陸側で軍拡競争やらせて手抜きしたいようだ」

 「CF105アローは最強だと聞いたぞ」

 「1対1なら確実だけどな」

 「戦力が少なめの方が装備を更新しやすいだろう」

 「日本に上陸されてからでは遅かろう」

 「無能扱いされて吊るし上げられるからか?」

 「本当は、敵に対し、国民を挙国一致できて良いのだがね」

 「日本民族はバカだから、上層部を吊るし上げる方を選択するだろうよ」

 「国家にとって必要なのは、スケープゴートになれる上層部だよ」

 「上層部の保身と見栄で血税を浪費されたらたまらんな」

 「喜んでいる国民もいる」

 「一握りの軍人関係者だけだろう、相変わらず視野狭いな」

 「一部の利権団体だけじゃなく、最強麻薬が好きなやつも多いだろう」

 「アロー戦闘機は大人気だ」

 「あははは・・・」

 「次の戦争は、比較的、短期間で終わりそうな気がするな」

 「軍人は、毎回、そういうんだよ」

 無線が入る。

 「・・・船長。新潟で水害です。救援準備にかかるようにとのことです」

 「そうか、早速、救助活動だな。来年の予算が楽しみだ」

 「きっと堤防建設に予算を取られるよ」

 「日本全国で堤防を建設できるほど豊かじゃないから、救助活動できる巡視船は有用だよ」

 「救助なら新幹線で行く方が早い。それに土建屋が強くなってるから、国債発行してやっちゃうかも」

 「民主主義が強くなると後先考えないというか、抑制効かないな」

 

 

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 危険な未開地が陸地のほとんどを占める世界が広がっていた。

 砲撃がジャングルの木々を粉砕し、枝葉を千切って、土誇りを吹き上げさせる。

 「少尉。第二小隊壊滅!」

 「右翼が突破されたのか」

 「下がって戦線を立て直すぞ。撤退だ」

 FN FAN(7mm×43)の射線が魔物に向かい、直前で弾道が逸らされる。

 魔力結界を突破して、銃弾を魔物に命中させるのは、至難の技だった。

 !?

 「げっ 喰われた」

 うぅぅああああ〜!

 「撃て! 撃て!」

 巨大な黒猫が人族を人飲みする。

 魔物に気付かれないように長距離から狙撃するか、

 魔力封じの破魔矢を射るよりない。

 部隊が総崩れにならず、危地を脱したのは、人鬼村製の銅具が増えたからといえる。

 赤い光線が一閃。

 !?

 魔獣の足から赤い血が噴き出した。

 『ほぉ〜』

 「魂鬼。お前は身代わりとなって退くがよい」

 『はい、センリ様』

 総合力で、未開地の攻勢を僅かに押し返し、未開地側への拡大も足していた。

 

 人鬼村

 日本人の多くは危険な開発業者から、安全な工業生産者へと移行し、

 良心的なというより、杓子定規な社会が作られていた。

 ガイアの知的生物から日本的として認知されるようになり、

 日本語を覚える鬼族、エルフ族、ドワーフ族、人族も増えていた。

 結局、経済力がモノを言うのであり、金持ちに靡く世界でもあった。

 とはいえ、権威主義は身分の世襲をもたらし、

 膠着した社会を打破しようとする勢力は常に生まれる。

 そして、貧富の格差が膨れ上がれば、拝金主義がモラルを破壊し、

 守るべき資産が増えるほど、私兵が必要になっていく。

 権力を戦利品としての価値を下げるには、権力を適度に分散させるよりなく。

 私財を戦利品としての価値を下げるには、富を適度に分散させる必要があった。

 支配が純粋な欲望から帝王学的な技術に貶められ、

 権力の移譲と貧富の格差の分配が進み、

 法的に人権が認められると、不満が解消し、国家の寿命も延びていく。

 少数の人族が曲がりなりにも人鬼村を支配し、

 ガイア世界の雄と認識されたのは、文化的に奇異に思われながらも、

 軍事力以上に政治的なバランスが保たれていたからと言える。

 人鬼神社

 どこかの真似をして作られた神社が建てられ、

 それっぽく、有り難く、仰々しい行事が行われ、

 人鬼村の発展に興味を持つ種族たちが集まり、

 有り難いのか、有り難くないのか、賽銭を入れていく。

 「やっぱり、お祭りと観光だね。おみくじも結構売れてるし」

 「富くじも行けるかも、むふっ♪」

 「あと、人鬼そば、人鬼ラーメン、人鬼カレー、人鬼パン、人鬼ハンバーガー」

 「やっぱり、素材から完成品を作れる人間は利幅が大きいし、価値あるよ」

 「軌道に乗ったらホテル業だよねぇ」

 「うんうん」

 

 工場

 対戦車ロケット。FN FAN。FNハイパワー自動拳銃が量産されていた。

 もっとも、鉄が少ないため武器も弾薬も少量生産であり、

 弾薬不足のためか、銅剣の需要もあった。

 「銅剣B22号か・・・」

 「合金にしてようやく、日本刀並みか。鉄がないというのはどうしようもないな」

 「だけど、地球から鉄を輸入すれば、簡単に労働力と資源が手に入るのは嬉しいね」

 「安楽だな」

 「まぁ あまり一つの業種に頼り過ぎるのも考えものだけどね」

 「人口を増やさない限り他業種進出は、難しいと思うよ」

 「人口か・・・」

 「どこか、喰命鬼いないかな」

 「滅多にいないと思うよ」

 「簡単に異世界の扉が開くなら、とうのむかしにどこかの国が繋げているか」

 

 

 人鬼村の辺境

 怪我をした黒猫が横たわり、

 子供たちが傷薬を塗り、たどたどしく、包帯を巻く。

 「いたい?」 少女

 「・・・・・」

 黒猫は、ぼんやりと子供たちを見回すと、

 「いたそう」

 「・・・・・」

 もう一度、眠る。

 人鬼村 うどん屋 五十鈴

 「ねぇ お母さん、飼って良いでしょう」

 「ええ〜 タマちゃん。家は客商売なのよ」

 「それに黒猫じゃない。縁起悪いわね」

 「そんなことないよ。だって、かわいいよ」

 「もう・・・いいけど、店に出さないこと。面倒はあなたが見るのよ」

 「うん、良かったね。黒光(くろみつ)」

 なでなで

 「おいしい?」

 「・・・・」

 黒光は、ドラ魚のダシを利かした人鬼うどんが気に入ったのか、大人しく食べていた。

 

 

 

 蒼乃ツバキ(12)は、船着き場の仕事を終えると、久しぶりの学校に行く。

 「街が大きくなって、雰囲気が変わったな」

 『・・・・』

 「鬼碧。どうしたの?」

 『・・・・』

 「2軍校になにかあるの?」

 人鬼村の学校は、魔力の強い生徒が行く特務校舎があり、

 魔力の弱い生徒が行く一般校舎と分かれ、2軍校と呼ばれていた。

 『人鬼村も綱渡りみたいね』

 鬼碧は、校庭で遊んでいる生徒たちを注目している。

 「なに? 何かあるの?」

 『さぁね。気付かないようじゃ 聞いても対処できないよ』

 「そんなの聞かないと分からないじゃないか」

 『・・・わかる』

 

 

 深夜

 黒猫がぼんやりと赤い天の川を見上げていた。

 背後に桁違いの生体素粒子の光が集まっていく。

 「魂鬼か」

 『センリ様。我々の気配を嗅ぎ取ったモノがいるようです』

 「そうか、似たような行動をとるからの」

 『どうされますか?』

 「むかしみたいに人間に飼われてみるのも変化があって面白いかもしれないな」

 『不愉快で卑屈な人生です。食べて取り込んでやるのが情けでは?』

 「必要な知識は手に入れた。それに寿命は十分に溜まったよ」

 「うどんが気に入られましたね』

 「自分で作って食べるより楽だろう」

 『確かに似合いませんね』

 「そういうことだ」

 『戦乱の頃の人族の騙し殺し奪いも表面的に変わったようです』

 「愚かな感情の起伏を小賢しくまとめたのだろう」

 『上澄みの偽善は鼻に突きますね』

 「少し、退屈してみるのも良いだろう。光るモノもある」

 「脆弱なくせに自らの選択で、この世界に来たのだ」

 「野心の行き先を見届けてやろう」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 さてと、秘密の魔業が自信につながっているのか、

 日本民族らしからぬ内政と外交戦略に・・・

 矛盾を内包出来る精神力と指導力が日本民族にあればいいのですが、

 必要以上に潔癖な民族性なので難しいかもです。

 この戦記では、魔業を利用して、そっちへ持って行きました。

 

 

 猫又=センリ=黒光

 この戦記では、数百人分の生体素粒子を取り込んで自らの肥やしにする化け物にしました。

 取り組む方法は単純に食べること。

 地球←→ガイアを行き来した事があるのか、分知りで怖いやつです。

 

 

 

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第26話 1966年 『権力の行方』
第27話 1967年 『国際相互補償機構は?』
第28話 1968年 『愛・白鳥』