月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第28話 1968年 『愛・白鳥』

 ビル群の合間をAH1コブラが駆け抜け、

 ロケットランチャーと機銃掃射が撃ち込まれていく。

 そして、ビルの壁がM95戦車の突進で削り取られる、

 ロケットランチャーも

 機銃弾も、

 主砲の60口径120mm砲弾も

 弾道が逸らされ、民間人たちを掠めて行く。

 ターゲットスコープから狙いすまされた弾道も狂わされていく。

 「な、何故だ。なぜ当たらない」

 「撃て、撃て!」

 民間人の一人がおもむろに瓦礫を拾い上げ、

 「えい」

 投げられた瓦礫が加速しながらカーブし、

 ボコッ!

 壁に隠れたアメリカ軍兵士に命中する。

 そして、近付いて撃とうとした兵士のM16小銃は、筒内暴発し、

 将兵は、自らの銃によって、殺傷されていく。

 「・・・やれやれ、大切な街を壊しちゃって、しょうがないな」

 「そうだよ。俺たちの目的は破壊でも戦争でもない」

 「支配なんだけどな」

 「黙って従ってりゃいいものを・・・」

 !?

 潜んでいた米軍兵士が襲いかかり、

 民間人が掌底突きを食らわせ、倒してしまう。

 民間人が拾ったパイプが投げられ、

 加速しながらコブラに突き刺さり、

 コントロールを失った機体は、よろめきながらビルに激突して爆発する。

 「ラン。あまり壊すなよ。直すの大変なんだぞ」

 「そうだよ。俺お金出すの嫌だよ」

 「ふ、不可抗力よ」

 秘密結社ME(ミュータント・エスパー)団に対し、

 アメリカ軍は無力だった。

 不意にEM軍が影に包まれ、

 !?

 機関車が四散しながら爆発し、

 避難したME軍は、動揺する。

 青いスーツを着た男が赤いマントを翻し、空中に浮いていた。

 「・・・なんだ。あれ?」

 「正義の味方じゃん」

 「かっこいい〜♪」

 ぱち ぱち ぱち

 ぱち ぱち ぱち 

 「おーぃ!! 俺たちは、平和主義者なんだぞ!!」

 「米軍が一方的に俺たちを攻撃してるんだ」

 「私たち、被害者なのよ」

 「・・・そう思って、見ていた」

 「こら! 正義の味方。俺たちは、撃ち殺されてるのに見てるな!」

 「そうよ。人で無し!」

 「・・・お前たちは、自分たちの寿命と力を保つため、人の寿命を奪っているだろう」

 「「「「ちっ!」」」」

 スーパーヒーローとEM軍の乱闘になっていく。

 「このぉ 正義の味方め・・・」

 「国立図書館にあった太古の呪文を教えてやろう」

 「普通の人間は使えないぞ」

 ME軍は魔法を唱え、

 米軍兵士に触れると精神を支配して味方にしていく。

 そして、アメリカ軍の半分がME軍の傘下に加わり、

 敵と味方が入り乱れ、激戦となっていく。

 スーパーヒーローがME軍を追い詰めて行くと、

 不意に次元の扉が開かれ、

 異空間が現れる。

 !?

 「あれはなんだ?」

 「「「「わはははは!」」」」

 「ふっ 我々は、次元の向こう側から来た侵略者の先兵だったのだ」

 「なに〜!?」

 「「「「わはははは!」」」」

 

 スクリーンに魅入る観客たちは、手に汗握り、

 米軍同士の内戦を巻き込んだME軍とスーパーヒーローとの戦いを見守る。

 「・・すげぇ」

 「なんか、ME軍って、ジーンリッチぽいような、日本人っぽいような。微妙だな」

 「遺伝子改良で生まれたミュータントって設定だけど」

 「それじゃ まずいから日本人を入れたんじゃないの」

 「ドイツのジーンリッチを非難しつつ、日本企業のアメリカ進出も牽制か・・・」

 「アメリカも阿漕な品種改良種で商売してるくせに、似たようなジーンリッチを非難しやがる」

 「ジーンリッチは個人の品種改良だから危ないかも」

 「近代文明で不自然を悪いとは言えないけど、どこか、しわ寄せが行く気がするな」

 「牽制映画はともかく。品種改良は、もっと、年月をかけるべきかな」

 「でも日本で暴力モノは微妙だから、楽しいよ」

 「だけどM95戦車の大砲を逸らせるって、どんな超能力だよ」

 「60口径120mm砲って、元々、M1高射砲だろう。あり得ねぇ〜」

 

 

 アメリカ軍の対外駐留基地は、アメリカ極東権益地を除くと、イスラエルだけだった。

 世界大戦に参戦しなかったことによる弊害であり、

 平和を愛する超大国アメリカを大半の国民が望んでいた。

 それが、国家にとって望ましくない、名目を保っている理由だった。

 戦後、列強各国は、経済再建から大型艦艇の建造を停止させている折から、

 アメリカ海軍は、太平洋と大西洋・地中海の足場を守るため、

 強大な艦艇を展開させていた。

 その主役は、空母機動部隊であり、世界最強の海軍といわれていた。

 一方、イギリス海軍は、財政的な問題から縮小しており、

 日本も政策的な勢力図が民需産業に向かったため縮小していた。

 そして、ドイツ海軍は、大型艦艇を建造していたものの、

 陸軍・空軍に予算を奪われており、

 何より宇宙開発予算に巨費を投じられているせいか、

 アメリカ海軍と敵対する戦力はなかった。

 西太平洋

 世界最強の空母エンタープライズが沖縄島と宮古島の間、270kmを抜けていく。

 東シナ海の海底ガス油田基地 “あしはら” は、作業をしており。

 海上のプラットフォームには、メガフロートが建設されていた。

 当然、配備できる航空機は、艦載機のような制限がなくアローも配備できた。

 エンタープライズ 艦橋

 提督とCIA局員

 「いつもながら日本の領域を抜けて、極東権益地に来るのは生きた心地がしないな」

 「艦隊にとってライトニング戦闘機とバルカン爆撃機は脅威」

 「それにもまして、CF105アローが配備された基地にF4ファントムを突っ込ませる気になれないね」

 「A6イントルーダーのECMも期待できん」

 「CF105アローは、まだ機体数が少ないと聞いてますよ」

 「あんな高い機体を滑走路に並べられてたまるか」

 「まぁ 権益地の航空部隊も戦意を低下させているそうですからね」

 「何より、日本の潜水艦は危険だ」

 「海軍は、ディーゼル潜水艦じゃないと言い張ってますからね」

 「CIAの判断は?」

 「少なくとも原子力ではありませんよ」

 「ではなんだね?」

 「ディーゼルエンジンでは?」

 「あり得ん」

 「では、非大気依存推進機関ですか?」

 「似て非なるものだ。考えられる限り既存のモノとは違う」

 「日本・瑞樹の人口6500万。外地邦人人口4000万」

 「そこそこの資本と、それなりの員数の中小規模研究機関」

 「努力の9割が無駄になる開発より、実利に傾倒していることをご存じで?」

 「では、なぜ、日本は、すぐLSI、ICを模倣できるのだ」

 「現場の改良ですよ」

 「それ、専門家の意見じゃないだろう」

 「アメリカの技術者が努力しないで保身で、そう言ってるだけだ。クビにすべきだ」

 「君は、資本主義の生存競争を舐めているのか」

 「アメリカ資本主義経済は、勝ち組の利益は莫大だよ」

 「利益のため、努力しない者がいるものか」

 「はぁ 安直な状況証拠を並べて、自己満足に浸っても無駄だよ」

 「アメリカ機動部隊が危機に瀕している現実は変わらんよ」

 「負のスパイラルに入れば、努力の内容も向上から、潰し合いに変わる」

 「アメリカ自由資本主義が劣っているというのか」

 「欧州列強に対し、優位性を保ってるぞ」

 「総合で勝っているだけだ」

 「個人の能力では、ドイツ帝国に負け。摩訶不思議な力で日本に負けている」

 「少なくとも、戦後初の空母は、海洋安保庁所属だ」

 「どうやら、日本国防軍は政府にも国民に信頼されていないな」

 「ヘリ空母をタダのプラットフォームと考えただけだろう」

 「平時はともかく」

 「戦時は、対潜ヘリか、対空哨戒ヘリを載せる気なのだな」

 

 

 

 船舶がスエズ運河を行き来していた。

 運河は、全長163km、幅34m、深さ15m。

 両幅2kmは日本、イギリス、自由フランスの利権で、

 その外側をエジプトとイスラエルの国境線が広がっていた。

 エジプト側は、砂漠が広がっていたのに対し、

 イスラエル側は、草木が育ち始めていた。

 これは、ユダヤ人が草木のある地域から移民してきたためであり、

 技術、勤労意欲の違いであり、

 投資されたユダヤ資本も大きかったからといえる。

 日・英・自仏の権益地は、ユダヤとイスラムの緩衝地帯だった。

 運河沿いの高台に建つのホテルから船舶の行き来も、

 イスラエル軍とエジプト軍の両方を見ることもできた。

 屋外に大きく張り出した大理石のバルコニーは強い太陽に照らされ、

 パピルスを編んだパラソルが日差しを緩和させ、風を流していく。

 遺跡を写した写真がテーブルに並べられ、

 エジプトが知れば返還を求めてきそうな、いけないブツも並び、

 日本の考古学者たちは、おもむろに見入っていた。

 「こういうの集めて何かあるのか?」 バイヤー

 「というより、何かを探している、だな」

 「なにかねぇ 日本の考古学者は、他の国の考古学者と毛並みが違うようだけど」

 「・・・そういえば、政情はどうかな。こういうのばかりやっていると疎くなるよ」

 「エジプト・シリアとイスラエルは戦力的に拮抗している」

 「イラクが加わってもイスラエル打倒は難しいだろう」

 「それなら、このままでいいな。考古学調査も出来る」

 「こうして見るとイスラエルは、自然が豊かそうだから、戦争したくないだろうな」

 「エジプトは、砂漠だから奪いたくなる側か」

 「アメリカ軍が駐留している間は大丈夫だろう。どちらにも圧力をかけられる」

 「だと良いがね」

 「しかし、権益地も随分整備されてきたな」

 「だけど、瑞樹州やバルカンの土を敷いても、水がないと緑化は難しいよ」

 「太陽光熱発電と風力発電で淡水化が進んでいるだろう」

 「んん・・・ちょっとずつかな」

 「権益地を整備しても戦乱に巻き込まれたら、すぐ失われそうだ」

 「運河の上澄み分の利益でやっていることだし」

 「土地を生かし、価値を生み出せないのなら奪われても同情されないよ」

 「ちょっとずつねぇ まだまだ、海水浴を楽しむぐらいかな」

 「雨が降らないからね。水を汲み上げても砂漠化は進むだけだし・・・」

 国境線に沿って4機編隊のミグ21が飛び去っていく。

 「エジプトも戦闘機や戦車を買って戦争準備より、緑化を進めて欲しいね」

 「そっちの方が金になるかも」

 「緑化は、技術的に成り立ってない産業だからね」

 

 

 

 軍事、内政、外交を牛耳られ、

 都市行政レベルでバラバラにされたことで保たれた大国。

 天文学的な借金を押し付けられ、

 無理やり近代化された大国があった。

 市役所

 日本人たち

 「アメリカ型の憲法を流用する自治都市が増えてるようだ」

 「自由と権利という名の紙幣を売って、庶民を奴隷として働かせてしまう自由資本主義か」

 「個人主義で家族を破壊して、収入にしている連中もいるようですし」

 「でも核家族化は良いよ。自立心が芽生えて自己完結型で独立できるし」

 「日本人の場合、中途半端に家族主義が強いから、マイナスに働きそうな気がする」

 「無駄に浪費が増えるかもね」

 「最悪なのは、人間関係で軋轢がなくなって、堪え性がなくなることかな」

 「日本人は、むかしから短気なとこあるよ。商品改良も早いし」

 「しかし、家族主義で蓄えるばかりだと人間が淀む気がするね」

 「ぱぁ〜と公益性を発揮してもらわないと」

 「個人主義で、ぱぁ〜と私益と趣味に走られそうな予感がする」

 「まぁ 個人の裁量と力量でしょう。自由資本主義の方が経済性が良くなるし」

 「だけど、日本人街も影響が出そうだね」

 

 市役所が開くと白人の農民たちが役所に押し寄せる。

 「新しい作物を輸入規制するのは何故だ」

 「このままだと穀物生産で負けるだろう」

 「アメリカの品種改良種は、土地を薬漬けにしますし」

 「土地も作物も肥料に依存しなければなりませんし」

 「最終的には、土地を痩せさせ、砂漠化を広げる恐れがあるので・・・」

 「農業といい、医療といい。日本人は、我々に貧乏な生活をさせようとしているんじゃないのか」

 「ま、まさか、アメリカは拝金主義な国ですし」

 「気を許して、目先の利益に飛び付くと中毒症状というか、奴隷より酷いことに・・・」

 「証明しろ」

 「し、証明と言われても資本主義が、そういう性質ですし・・・」

 「証拠もないのにアメリカの品種改良種を悪く言うのが気に入らない」

 「め、目先の利益に囚われず、もう少し様子を見てからということに・・・」

 「いつまで見るんだよ。規制を解除しろよ」

 「アメリカから品種改良種を購入している国は、砂漠化の傾向がありそうですし」

 「もっと、調査してからという事で・・・」

 「」

 「」

 

 平原

 白刃が激しく打ち合い、群衆が押し合い、入り乱れていく。

 日本刀と槍を持った白人が “明治維新 愛・白鳥” を繰り広げていた。

 凹凸のはっきりした表情の白人は、映像になりやすく。

 いろんな言語で放送されていく。

 日本人より、白人に共感され、

 日本の歴史、文化、伝統を広げ、一部、誤解させていた。

 試写会

 関係者たち

 「刺激が足りない気がするな」

 「暴力と残酷な描写を減らせだと。Hな奴も諸事情で駄目だ」

 「そりゃ 行き成り、刃と血吹雪を出せとは言わんよ」

 「しかし、もっと、非日常な刺激で引っ張らないと駄目だろう」

 「バルカン・カフカスで犯罪や暴動を誘発されてはかなわんそうだ」

 「まぁ 多民族国家だからねぇ」

 「同族で殺し合う場合、犯罪を誘発する状況付けになりそうだけどね」

 「多民族の場合、無条件で対象の人種になるから・・・」

 「だからって、明治維新を融和的な恋愛にしてしまうのはな」

 「日本で作ったモノはこっちに来るから、日本でも規制が作られそうだけど」

 「あ、あり得ん。既成の損失の方が多そうだ」

 「国策で表現の自由が捻じ曲げられていくのか」

 「バルカン・カフカスの利権を抱え込んで、日本の利権も膨れ上がってるからね」

 「北アイルランドみたいになったら困るだろう」

 「・・・島津の家紋が十字架だし」

 「丸に十字なのは正しいよ」

 「白鳥ってなに? 日本の国鳥はキジでしょう」

 「ほら、優雅に羽ばたいていく姿が平和で近代日本のイメージになりそうじゃん」

 「・・・いろいろ、史実と違わないか?」

 「街が増えて、映せる範囲が減ってるんだと」

 「400m級の電波塔なんか建てるからだ」

 「建てたから放送出来るんじゃないか」

 「まだ、映画館だ」

 「TV放送しないと定期的な利益にならないし」

 「細部も怪しいな。監督だしやがれ」

 「どこの国だって恥部を映像に出さないと思うよ」

 「水洗以前のトイレなんて特にね」

 「日本と瑞樹で、慌てて上下水道を整えたって、そういうことね」

 「バルカン連邦だって、同じだよ」

 「公共設備費の一部をバルカンとカフカスに押し付けてるし」

 「戦車作るより身近で役に立って喜ばれるし」

 「雇用になるし、金になるじゃないか」

 「国防省がチーフテン戦車の量産が遅れてるって、ブスくれてなかったっけ」

 「利便性の高い街を守りたいと思う人間が立ち上がって、国を守ってくれるよ」

 「彼らの借金と、我々の利権もね」

 

 

 国防が保たれれば、外資の投資が増す。

 国防が脅かされれば外資は恐れて退いて行くのだった。

 巨大な高翼デルタ翼を持った戦闘機が高原に建設された飛行場に着陸する。

 鷹の丘 飛行場

アブロ・カナダ CF105アロー戦闘機
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
20245/31120 23.71×15.24×6.25 113.8 10453kg×2 3062km/h 1040km 1 8+4 2

 チタン部品への置き換えによって軽量化が進み、

 さらに形状の変化と電子機器の更新によって近代化が進んでいた。

 「無事に組み立てられて良かった」

 「アロー戦闘機を配備とは、バルカン連邦の予算も増えたモノだ」

 「海軍手抜きだからね」

 「最大離陸重量時の翼面荷重は302.4kg/uか。バルカン爆撃機並みだな」

 「いや、バルカン爆撃機も軽量化が進んでいる」

 「ライトニングが428.9kg/u。ファントムが569.7kg/uだったな」

 「出力荷重の方が翼面荷重より重要だよ」

 「燃料と弾薬を半分と見込んでも、アローの翼面積は大きいな」

 「旋回の度に落ちなくて良いけど、加速と機動性が悪くなるぞ」

 「カナダ空軍に言えよ」

 「だけどM機関のバルカン爆撃機は、もっと凄いらしいぞ」

 「宇宙に飛び出せるほどだそうだ」

 「潜水艦とM機関のバルカン爆撃機は、課外だよ。数に入れるな」

 「しかし、魔法使いのナビゲーターが確保できんのは納得できんよ」

 「戦争になるまでまてだと」

 「元々、パイロットの資質に欠けてるからね」

 「いざ乗る段になって、コクピットで酔われたら困るだろう」

 「だから、魔法使いの実験中隊を作って、交替で出向させて乗せるんじゃないか」

 「あのなぁ パイロットとナビは、阿吽の呼吸と信頼関係が大切なんだよ」

 「命を保障しあっているのに、即席でコンビが組めるわけないじゃないか」

 「だいたい、優秀な人間を産業に持って行ってるんだから、魔法使いくらい都合付けろ」

 「無理言うなよ。代わりにチタン増やして軽量化してるだろう」

 「アホが乗って高価な戦闘機を落とされたらかなわんよ」

 「翼面積が大きいから落とし難いだろう」

 「戦闘機とは思えん」

 「もう、野生の勘で乗ってくれ」

 「いや、両翼の後ろを切って菱型翼にしてくれ」

 

 

 

 

 ロンドン

 アメリカの巨大資本と市場に支えられたコンピューター業界は、隆盛を極め。

 イギリスのコンピューター産業のElliott社、ICL社は、市場を失って敗退していた。

 理由は同じ、英語圏であるというそれだけであり、

 日英コンピューター業界が調印し、フラッシュを浴びる。

 落ち目のElliott社、ICL社は、日本のコンピュータ産業に特許ごと買われてしまう。

 日本のコンピューター業界は多国言語プログラムを基礎に設計を構築。

 世界市場へと食い込んでいく。

 さざれ石ウォーターフロントホテル

 記者たち

 「華々しいな」

 「見かけはな」

 「日本メーカーは、英語に対する特許侵害を受けずに済む。大躍進じゃないのか」

 「聞いた話しじゃ 試験的に人工知能の段階だそうだぞ」

 「人工知能?」

 「ああ、数人分の知識、情報を持ち自律意識を持った何か・・・」

 「何だそれ?」

 「噂だよ。使い魔システムとか。ロボットみたいなのがあるらしい」

 「ファミリアル・スピリット・システム・・・・聞いたことのない会社だな」

 「コンピューターなんて、自分の都合の良い、擬似的な部下みたいなものだ」

 「無口で言われたことしかできない秘書だな」

 「生意気で自己弁護な部下より、マシかも、下剋上しないし」

 「仮に一人一台保有する時代になって仕事量が増えても能力以上の仕事を発揮できるか別だよ」

 「しかし、いくらなんでも人工知能まで行かないだろう」

 「出所だけなら信憑性のある噂なんだがな」

 「どこだよ」

 「MI5・・・」

 「「「あははは・・・」」」

 

 

 ドイツ帝国 パリ

 非人間的なほど堅実な大国ドイツ。

 制服風の服を着た八頭身・金髪青目のゲルマン人がシャンゼリゼ通りを行き来していた。

 そして、酒場の一角に黄色人種たちがいた。

 ドイツ料理がテーブルに並べられ、それなりに注目されていた。

 「ソーセージは、味以外に差がない。慣れれば追いつける気がする」

 「地ビールは癖があって面白いが、日本では流行らなそうだ」

 「小売店が大手に遠慮してるんじゃないか」

 「ありがちだね」

 ウェートレスがワインをテーブルに置き、

 チップのやり取りと同時に取引が行われる。

 「・・・へぇ〜 アイスワンって、ワインなのか」

 「秋に収穫せず、冬越しで作るワインで、凍ったワインという意味らしい」

 「ドイツの風土ならではだな」

 「東北以北なら真似できそうだな。極東権益地に先を越される前に・・・」

 「権益地は、資本力あるし、労働力が安いし、広いから張り合っても負けるよ」

 「もう、日本人労働者を日本に戻せよ」

 「権益地で働く方が年俸良いから・・・」

 「白ワインになるのなら、日本だと、愛(アイ)・白鳥(スワン)の方が売れそう」

 一人がウェートレスから受け取った紙を確認するとワインをかけ火を付ける。

 「・・・どうやら、MP5(9mm×19)の配備が終わったらしい」

 「呉(上海)の受け皿があるとはいえ。ドイツ軍80万を最新装備で更新し続けられる国力は異常だよ」

 「だがドイツの原子力空母の建造は見送りらしい」

 「原子力潜水艦の方が使いやすいのだろう」

 「アロー戦闘機をバルカンに配備した影響じゃないのか?」

 「数が少ないだろう」

 「人件費が高騰しそうだから、員数減らして精鋭化しないと」

 「貧乏な国が大国と張り合うと精鋭化する傾向にあるからね」

 「面従腹背の7000万を抱え込んだバルカン連邦の日本民族1600万じゃ ドイツ民族1億に勝てんよ」

 「それにジーンリッチ世代が増えているんじゃないか、ますます差が開くな」

 「静止軌道上のアーリアは、増築中だし、アメリカもソビエトも追随が遅れてる」

 「列強の平均IQと比べて40くらい高いから、差は付くよ」

 「IQだけじゃなく、オリンピックでも独り勝ち。ドイツ対全世界だな」

 「だけど、酔っ払って路上に寝てると、起きたら強制労働の現場だそうだ」

 「詰まらん世界だな」

 「人間を型にはめるドイツ支配は地獄だよ」

 「家と遊園地と酒場は、羽目を外せるらしいがね」

 「道理で遊園地が増えてると思ったよ」

 「酒場に逃げられたら、ソビエトの二の舞だろう」

 「ポーランド人とフランス人を移民させたのに窒息しそうな世界は、ドイツ人の性質だろうな」

 「オランダ・インドネシアと自由フランスは、白人が増えて安定してるじゃないか」

 「バルカン・カフカスからインドネシアに移民している人間も多いようだ」

 「おかげでバルカン・カフカスのガス抜きができて治安も良くなって・・・」

 若い学生っぽい男女が入ってくる

 「・・・ゲシュタポだな」

 「型にはめ過ぎて、私服着ても分かるのがドイツ人だよ」

 「わざとらしく動くから目を付けられるんだ」

 「いいよ。どうせ俺たち囮だし。シンディたちが上手くやってくれる」

 「ハミハラの使い魔が増えたんじゃないの?」

 「ああ、ハミハラは、閉じ籠もって物作りしながら羽目を外せるらしい」

 「何か、得な人生だな」

 「カゲロウが人間の寿命を羨んでるような感じだ」

 「はかな過ぎる」

 

 

 静止軌道上 宇宙ステーション “アーリア”

 外縁部は、低・人工重力によって、上下のある生活を送ることができた。

 支柱の増築は続き、

 外縁部(直径300m)の居住区画(直径10m)も、二重(×2)になりつつあった。

 「直径300mでは、足りないな。せめて、直径600mないと」

 「もっと強い支柱を増やさないとな」

 「カーボン、シリコン、チタンとも素材だけは、世界最高峰だよ」

 「日本に負けているという噂は?」

 「資本・研究費用、工場の大きさ、工員の質、歩留まりから、生産量と製造価格とも異常だよ」

 「現在の日本の規格と生産量は、損益分岐点でマイナスでなければならないはず」

 「10倍の産業がなければありえない」

 「無論、それを支えるだけの消費市場もない」

 「つまり、あり得ない」

 「日本じゃ 狐に騙されているというらしい」

 「諜報はどうしたんだ?」

 「成功してない」

 「どこか、我々の知らない世界と取引しているという事はないのか?」

 「そんなシャングリラがあるなら、ドイツは、こんな宇宙にまで来ないよ」

 「アメリカは、来年、月面ロケットを打ち上げるらしいけど」

 「俺たちは、アポロ計画並みの予算で宇宙ステーション建設に使っている」

 「アメリカは、月面着陸に使っている。それだけだろう」

 「もう、アポロ計画予算を越えてる気がするね」

 「俺らも月に行きたいものだ」

 「月に行くより、足場を作るのがドイツ式だろうね」

 

 

 東シナ海

 海底ガス油田基地 “あしはら” が掘削を続けていた。

 100万トン級タンカー並みの大きさだったが居住区画は、100分の1ほどだった。

 例の如く、水深260mの海底基地で試削抜きで一発で油田を当て、

 海底パイプラインで700km先の長崎まで引っ張れていた。

 領海を挟んで呉(上海)の警備艇がうろつき、

 海中には、ドイツ潜水艦が潜み。

 アメリカ機動部隊の航路ともぶつかる。

 海上のプラットフォームへ燃料を送り、

 発電した電力と酸素をポンプを使って海中へと供給していた。

 海底260m “あしはら” 管制塔

 透明度は、15mほどであり、

 小さな小窓から漏れる明かりに小魚が呼び寄せられていた。

 「外は、寒そうだな」

 海底灯台が点々と海底を照らし、無人潜水艇とイルカが海底牧場を作ろうとしていた。

 「水温は0.6度だそうです」

 「これで、日本も産油国か、原油価格が暴落するな」

 「原油価格の安定、でしょうか」

 「呉より先に開発しないとまずいからね」

 「海軍が剥れてましたよ」

 「海軍だって燃料は欲しいさ」

 「海軍の燃料消費率は低いですよ」

 「カーボン、シリコン、チタンの使い過ぎでは?」

 「高いチタンは、国益のために使うべきだよ」

 「・・・司令。準備完了しました」

 「では、押し出せ」

 直径1220mmパイプの中の海水が噴出するガス原油に押し出され、

 長崎へと油送されていく。

 「ガス油田の噴出が減ったら海水を流し込むことになるかもしれませんね」

 「ガス油田が薄まるのは面白くないがな」

 「油田より比重が重くて安く大量のモノがあればだね」

 「海底の土砂ならあるが採掘を含めても採算不能な気がするね」

 「いずれは、決断すべきだろうな・・・」

 「司令。海龍がドッキングするそうです」

 「早速、海軍と顔合わせか」

 「持ちつ持たれつでしょう」

 「まぁ 海底で孤立するよりいいな」

 新型6500トン級潜水艦 “海龍” が “あしはら” に着停する。

 

 

 瑞樹州

 瑞樹123実験中隊

 実験中隊のCF105アローは、飛行石を使用していなかったものの、

 オーパーツな素材が使われており高性能だった。

 雨雲の上空を飛べば下から見えなかった。

 もっとも、米英独ソの偵察衛星が監視しており、

 異常な機動は、たまにしかできない。

 2機のアローが訓練のため高度18300mに達していた。

 大陸間弾道弾の軌道を変えるため可能な限り弾頭に近付く。

 その方が寿命を保ちやすかった。

 もっとも弾頭の軌道が変われば、起爆させられる可能性もあり、

 その場合、接近してると命はない。

 なので精度不安な長距離迎撃ミサイルとどちらが良いか、という命題にもぶつかる。

 「ぅぅ・・酔いそう」

 「おいおい、頼むよ」 パイロット

 「・・・降ろしてください」

 「やれやれ、三半規管は人並みか、酔わなければ、最強なんだがな」

 「こりゃ 翼面積を減らす話しは、微妙だな」

 「バルカン爆撃機でも十分ですよ。あれなら休める空間も広いし」

 「あのバルカン爆撃機が撃墜されると、飛行石が他国に渡る可能性があるからな」

 「魔法使いが乗っていたら撃墜させませんよ。潜水艦もね・・・」

 「そう言わずに君らの寿命を減らさせない努力をさせてくれよ」

 

 

 魔力と新素材を使った人体改造が進んでいた。

 カーボン、シリコン、チタンなどの素材は、生体素粒子の器。人体を変革する。

 生体素粒子が直接衝突する人体への干渉は、双方の生体素粒子を破損させてしまう恐れがあり、

 素材の変質は、徐々に行われていく。

 「生体素粒子と器の関係からすると、年月がかかりそうだな」

 「生体素粒子と人体の関係もあるよ。根幹の部分はわかっていないからね」

 「しかし、まるで、悪の組織の人体改造だね」

 「本人の同意はあるし、犯罪をさせるわけでもないし、給与も払ってるよ」

 「人体改造が成功すれば、人造人間まで行くかも」

 「人造人間は、生体素粒子との融合が保証できないし」

 「人工知能は、肝心の矛盾を融和させる部分で頓挫してるからね」

 「知性、感情、誠実を優先させる個体プログラムを作って・・・」

 「蓄積データーと環境状況に合わせて、ランダムに優先順位をかえて多数決させるか」

 「ナノ技術は良いとして、カーボン基盤とシリコン基盤と、どっちが良いかな」

 「左脳をカーボン。右脳をシリコンにするか」

 「もっと予算がねぇ」

 「しかし、人造人間は物理的に強くでも生体素粒子がない」

 「魔法使いに攻撃されると負けそうだけどな」

 「んん・・・予算が足りないと負ける以前の問題だけどね」

 

 

 魔法使い同士の戦いで、もっとも有効なのは、気付かれず長距離からの射殺。

 あるいは、罠。

 気付かれた場合、寿命が尽きるまで飽和攻撃。

 しかし、魔法の杖、飛行石、新素材を用いた服が作られるようになると防御力は高まり、

 魔法の杖を単機能に特化した魔法剣(ルビーレーザー)の剣術戦が有効になっていく。

 魔法使い同士の子供は、魔法使いになりやすく。

 そして、魔法使いが生まれる。

 魔法剣を振ると、5m先の木を切り倒してしまう。

 「凄い・・・」

 「二世は怖いな」 教官

 「これ、貰えるんですか?」

 「いや、官給品で、魔力の強さを知りたかっただけだ」

 「残念」

 「当分、木刀を使って経験を積むことだ」

 「かなり上手くなったと思いますよ」

 「味方を切らないようになるまで、あと数年は必要だな」

 「ぅぅ・・・」

 「戦友や民間人を真っ二つにしたら人殺しだぞ。お前と組む人間もいなくなる」

 「ぅぅ・・・」

 

 ガイア研究所

 引力に対する斥力の考察。

 “斥力は、質量に対し反発する”

 “宇宙誕生ビックバンと同時に斥力物質が発生”

 “しかし、質量に対して反発する斥力物質は、宇宙の外へと押し出されたと推測される”

 “そして、斥力物質は、宇宙外縁側から宇宙の膨脹を抑制している”

 “惑星ガイアに偏在する斥力物質は、光と熱により初めて斥力物質となる”

 “なぜガイアに斥力物質が閉じ込められたのか不明”

 “平行次元宇宙における膨張時の歪な資源分布として考えるべきであろう”

 “飛行石、ガイアの斥力石の精製は、日本国の科学技術における特典であり”

 “安全保障であり、未来の可能性であると言える”

 “飛行石の入手は、平行次元世界への扉を開く事であり”

 “大量の魔力。生体素粒子を消耗する”

 “消耗は、魂の本体である生体素粒子の損壊と同意といえた”

 “個体の目的としては、最悪であり、望まない犯罪行為と言える”

 “機械的な方法で平行次元世界との扉が開けないものかと研究しているものの”

 “平行次元を挟んだ集団意識の共鳴によって扉が開くのであり”

 “扉の発生は、機械的なものではないのである”

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ムー大陸は惑星ガイアに存在する。

 アトランティス大陸も惑星ガイアに存在する。

 太古、ガイアの船乗りが洋上にて消失し、地球に出現、

 1日にして帰るべき祖国を見失った者たちの大陸沈没と、

 虚飾された祖国の伝説が地球に残される。

 

 ムー大陸とアトランティス大陸は、沈んでおらず。

 大陸の8割が前人未到の未開地であり、魔獣、妖獣を恐れる危険な世界だった。

 無論、進んだ科学技術はなく。

 進んでいるとすれば、生体素粒子を運用する魔法技術であり、

 飛行石を使った帆走飛行船だった。

 都市ビラニプラ

 人族が比較的多く、石作りの家と灰色の屋根が並んでいた。

 ムー大陸と人鬼村は遠いことから細々とした交流であり、

 付き合いも儀礼的なモノになっていた。

 日本人たちは、はるか昔に失われた同胞の住むビラニプラを訪れ、大通りを歩いていた。

 武器の携帯が認められており、

 2人はFN FALを肩から下げ、

 2人は魔法剣を腰に下げていた。

 これは近距離・長距離の両方で対応できるためであり。

 玄人通行人は、興味深そうに一瞥し、擦れ違っていく。

 「・・・こういう場所だと、洗ってすぐ撃てるAK47の方がいいな」

 「AK47は命中率が怪しいけど、仕様に余裕があるからね」

 「ジャングルで撃ち合えば、掃除しているうちに殺されそうだな」

 「しかし、7つの都市があるのは、本当なんだな」

 「言語的には、どこが近いんだろう」

 「微妙過ぎて分からん。召魂術がなければ大変だな」

 「召魂術は気持ちが伝えられても、気持自体が矛盾してるし曖昧だからな」

 「節が古典ぽい感じの日本語の時もあるし」

 「最後の大接触が12000年前だと言語的にアウトだよ」

 「その後だって、接触があると思うがな」

 「小さな接触なら消えていくよ。人鬼村だって怪しいモノだ」

 「少なくとも人族同士の交配率は高いから、言葉を覚えて損はしないな・・・」

 日本人と人族女性の視線が絡む。

 「なぁ 異世界固有惑星種とガイア・ハブ惑星説は良いと思う」

 「しかし、生体素粒子は、ガイア起源な気がしないか」

 「まぁ 異種間交配ができるってことは、そういう可能性もあるかもね」

 「生体素粒子が変化、経験、成長を求め、身を守るため肉体を構成したと考えるなら」

 「こういうった多様な生体系もあるだろう」

 「自分の生体素粒子をほとんど意識しないが、そういえなくもないな」

 「強い魔物の生体素粒子は50倍の1kg近いらしい」

 「人間の生体素粒子は平均21g。魔法使いだって倍もない」

 「能力が小さいのだろう」

 「人間の生体素粒子は、生きるだけで精一杯か、肉体を使い捨ての器と割り切ってるのかも」

 「唯心論か。この世界を共産主義が知ったら崩壊しそうだな」

 「でも超能力の研究は進んでいるらしいよ」

 「名前が魔法じゃなければ良いんだよ」

 「間違ったままでいたいのなら、間違ったままでいさせれば良いさ」

 「大多数の日本人に対しても背信ぽい」

 「正直に話して馬鹿にされるくらいなら、迷わせておけばいいさ」

 「そうなると、喰命鬼は、危険で魅力ある目標みたいなものか」

 「日本政府に魔法を国家目標で利用できる力があれば良いけどね」

 「でも、こっちのAクラスの魔物は本当に怖いよ。下手に送ったら恐怖だ」

 「いや、生き死にだけなら自動車の方が上だろう」

 「辺境地域の掃討戦なんて引き受けたモノなら命がいくらあっても足りないな」

 「領地拡大は、まともな魔法使いのいる2世以降にしてもらいたいね」

 「こっちもまともな魔法使いじゃないとチーフテン戦車だって嫌だよ」

 「砲弾は良くて逸らされるか、悪いと筒内爆発だ。くわばらくわばら」

 「戦闘機だって、斥力の反発で浮いてなくて、推進力と揚力だからね」

 「タネ明かしされたら、揚力を失わされて叩き落されるよ」

 「やはり、浮力に余裕のある飛行石じゃないとな・・・」

 

 

 取って付けたようなカカシと龍人族が数メートルを挟んで睨み合う。

 「そんな。借り物の体で俺と戦えるのか?」

 『来る途中で波長が合うモノを見つけたと思えば、こんな姿とは、まったく、ついてない』

 辺境の森がざわつくと枝葉が風を切って魔物に襲いかかる、

 砲弾の軌道でさえ変える魔物だった。

 半分の枝葉が散らされ、

 残った半分の枝葉が槍や刃物となり、魔物の体を切り刻んでいく、

 魔力で魔力を捻じ伏せることができた。

 「き、きっさまぁ〜」

 『おやおや、ここは、センリ様の縄張りなのですがね』

 「この使い魔風情が・・・」

 『ふっ 強いモノが場を支配する』

 !?

 不意に森の枝葉が8方向に走って、エルフ3人、鬼5人を襲って倒していく。

 『どうします、この使い魔風情と本気でやり合いますか』

 「くぅ・・・一先ず退いておこう」

 

 

 人鬼村

 武道場

 未開地の恐怖は本物だった。

 子供たちに老後と未来を託す親は、少しスパルタ風でも反発しない。

 鍛錬は、ガイアの風土を取り入れつつ、幼少から始まり、

 生体素粒子を鍛え強くする方向に変わっていく。

 五十鈴タマは、学校から数キロ走った後、帰宅する。

 「ただいま」

 「お帰りタマ」

 「走っても勉強しても生体素粒子と、ほとんど関係ないのに・・・」

 「直接関係ないだけよ。体と頭を鍛えていろんな経験をしておきなさい」

 「はぁ〜 黄昏ちゃう」

 「若いのになに言ってんのよ。タマ。食事よ」

 「はい」

 タマは、縁側に寝そべってる黒光の前にうどんを置くと、

 「黒光もね」

 「にゅぁあ〜」

 一緒に食べ始める。

 「黒光が犬だったら、一緒に走ってくれたかな」

 「にゅぁあ〜」

 「黒光。かわいい、お利口ね」

 頬摺り、頬摺り、

 「にゅぁあ〜」

 撫で撫で

 「にゅぁあ〜」

 

 

 M機関の一部は、ガイアとの接触で魔法と新素材で人体強化を試んだ。

 主流は、生体素粒子の “質の変化” と “量の増加” を人類の “進化” と考えていた。

 もっとも生体素粒子は、個体差、個性差があり、掴みどころがなかった。

 進化は集団の均等でなく、個体の出し抜きであり、差別的に行われるのである。

 飛行帆走艦、大和が人鬼村に戻ってくると、地球から召魄した物資を降ろしていく。

 わいわい、がやがや

 「これが新しい服か、頑丈そうだな」

 「何種類もの新素材ナノシートで魔法の杖、飛行石を重ねているそうだ」

 「こっちの剣は?」

 「これは新素材の硬いナノシートと柔らかいナノシートをサンドイッチ構造で重ねたやつだ」

 「硬さと柔らかさのバランスがよく、折れ難く良く切れる」

 「剣そのものが魔法の杖と同じ構造になっていて、チタンサファイアレーザーは、魔力次第」

 「魔法剣に集中すればレーザーが増幅されるらしい」

 「バイオローブに集中すれば、服でライフル弾くらい弾ける」

 「どっちもはないの?」

 「魔力過多で純正の魔法使いじゃないと難しいな」

 「でも寿命を削ってだから、なるべく、物理的に守りたいよね」

 「そうそう、家内安全、商売繁盛、無病息災、長生き長生き・・・」

 

 

 人鬼村 総督府

 「魔物の侵入が減っているようだ」

 「一年前の酷い戦いの後だから落ち付くね、ほっとするよ」

 「ああいう魔物の侵入が未開地の開発を妨げてるのでしょうね」

 「ガイアにとっては、我々が異物なのだろうな」

 「彼らの生体素粒子の強さからすると、人間の方が劣性ですかね」

 「どうかな。独善的な強さの裏返しは、孤立を生む」

 「未開地は非社会的で孤立した生き方のような気がするな」

 「では、人族、鬼族、エルフ族、ドワーフ族の選択も悪くないと?」

 「集団による世俗で利己的な結束か、生体素粒子の魔力統制か・・・」

 「喰命鬼の体は、何人もの魂を繋ぎとめる家のようなもの」

 「魔獣の体に至っては、そのものが村に匹敵して、家を守る村も必要ない存在だ」

 「原始的に見えて彼らの生体素粒子は強大で、生活居住空間を必要としないほど自己完結している」

 「人間の常識は当てはまらないな」

 「んん・・・多数の都合によって異質な個人がいじめられ、喰い物にされるか」

 「異質な個人の意思によって集団が支配され食い物にされるかの違いだろう」

 「強者が弱者を虐げる」

 「多数がスケープゴートにされるより、少数がスケープゴートにされる方が健全かもしれません」

 「スケープゴートにされる側の意見ではないな」

 「まぁ どっちも相手に対し、殺意を抱きますがね」

 「勝つか負けるかでなく、もっと、和を重んじて欲しいものだ」

 「その点、ガイア世界の方が人種差別の幅が大きくて良いような気もしますね」

 「そういえば、地球側の大同小異な反応が目に付き始めたな」

 「地球人で、ひとまとめに結集して欲しいくらいですからね」

 

 

 蒼乃ツバキ(13)

 鬼碧のおかげで生体素粒子が増大し昇級できた。

 そして、地球から送られてきた4基の専用特注品。

 カスタムメイド品がツバキの周囲に浮かぶ。

 魂魄機と総称されるそれは、通常は10cmほどの球体だった。

 魔法使いの生体素粒子、斥力原子、レーザー素子を新素材ナノシートで覆ったものだった。

 一種のゴーレムであり遠隔操作によって自在に操る事ができた。

 4つの魂魄機は、体の周囲を回り、目と耳の役割だけでなく、

 スペード (攻撃)、 ダイヤ、(索敵)

 クラブ、(変体) ハート (防御)

 など素材とプログラムで特性があり、

 攻守に使う事ができた。

 「攻撃モード、スペード、ダイヤ、クラブ、ハート」

 瞬時に4本の槍に変形し、先端からレーザーを発射。

 標的の木材を切り落としていく。

 自分が操作できる最大個数が4つであり、直径10cmが最大容量と言えた。

 なので、頭に被せているカルザン茨で生物を操れなくなる可能性もでてくる。

 これは、瑞樹ガイア研究所も思考錯誤中であり、

 ヒュブロ蜘蛛、ケスムカデ、虎ハチなど魔物4体を支配し操るのと、

 ゴーレム型4体を遠隔操作の比較検証だった。

 ゴーレム型とはいえ、LSIが組み込まれて自律機能があり、

 プログラムで操作を補足してくれる。

 「自動索敵モード、スペード、ダイヤ、クラブ」

 3つの円盤がプログラムに従って、飛んで行く。

 ハートは、守備としてのプログラム機能が強く、

 基本的に身近に配置され、盾にもなった。

 意識の中に4つの新しい目と耳が作られ、世界が広がっていく。

 これなら自立制御任せで楽ができそうだった。

 とはいえ、魔物支配とどっちがいいかというと、長短があった。

 魔物支配だと攻撃命令を出せば、後は自分で戦ってくれる。

 多少なりとも魔力を持ち、力も強いことから、

 大きな部分、支配に意識は割かれるものの、

 細かい動きでの負担は小さい。

 ゴーレム型は、常に動きをトレースしなければならず。

 自分自身を散漫にしてしまう。

 どちらを選択するにせよ。

 エルフの魔法使いは隠れて操作し、必ず従者に守らせていた。

 間接的な方法であっても、己の生体素粒子を守りやすいことから、

 こういった手法が取られやすかった。

 『凄い凄い』 鬼碧

 「君をやったやつから身を守れそうかい?」

 『・・・・・』

 「・・・駄目ってことね」

 『あの毛カエルやろう・・・』

 10m級の魔物だった。

 「強いの?」

 『気がついた時は、パクリよ。くやしぃいいい〜〜!!』

 「まぁ 毛カエルに喰われるのは嫌だね」

 『間一髪で、魂ごと生体素粒子を離脱させて逃れたけど、むかつくぅ〜』

 「そんな事よくできたね」

 『ふっ ふっ ふっ ふっ そういう癖があったのよ』

 「それ威張ってんの?」

 『あんな奴の肥やしになるもんですか』

 どうやら、強い魔物に比べると、カスタムメイドの魂魄機も気休めらしい。

 『いい、絶対に索敵を怠っちゃ駄目よ。常に先に発見』

 「へいへい」

 『そして、逃げる』

 「へいへい」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 地球とガイアの相互交流は召魂・召魄に限られています。

 とはいえ、ファンタジーな魔法と物理的な科学は、深みに入っていきそうです。

 

 

 

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第27話 1967年 『国際相互補償機構は?』
第28話 1968年 『愛・白鳥』
第29話 1969年 『黎の時代』