月夜裏 野々香 小説の部屋

    

ファンタジー系火葬戦記

 

『魔業の黎明』

 

第29話 1969年 『黎の時代』

 ゴーレムは、その場しのぎであり、

 魔法使いは、土と魔法の杖。

 そして、血。または、毛を混ぜながら作る。

 「「「「おぉおおお〜」」」」

 徐々に形作られていく1mほどの泥人形に政府閣僚は驚く。

 しかし、そういったゴーレムは組織の整合性と結合力に欠け、

 代謝機能を全て魔力に依存しているため、恒久性がなく、

 時間とともに崩れていく。

 恒久性のある人造人間は、魔力の力だけで足りず、

 素材の緻密さと整合性と結合力。

 そして、代謝機能が必要だったのである。

 日本の科学技術力と魔業は、力不足であり、

 人造人間の製造は困難を極めていたのである。

 「恒久的なゴーレムは製造不可かね?」

 「現在、人造人間型と機械型の戦闘ゴーレムを検討しています」

 「エネルギーはヘリウム3を斥力(反重力)装甲の内側に包みこみ」

 「莫大なエネルギーを得られるようにしています」

 「しかしながら、緻密を要する作業でして・・・」

 暗中模索で、ほとんど進んでいなかった。

 一方、改造人間は

 チタン骨格。

 カーボンナノチューブ・シート。

 シリコンナノチューブ・シート。

 など、体の部位を変えた人間だった。

 身体の生体電気信号を読み取り、筋肉を収縮・拡張させ、

 多くの部位を置き換えることに成功していた。

 偉い人たちの前で被験者は、振り下ろされる太い鉄棒を腕で受け止め、

 今度は、鉄棒をネジ切ってしまう。

 「あまり重要でない部位の置き換えに成功しました」

 「電気信号伝達、筋力の収縮・拡張とも常人の数倍を示しております」

 「新城中尉。体調は?」

 「手術前とあまり変わりませんが力が溢れ体が軽いです」

 「飛行石は?」

 「5kg使用していますので、体温によって変動しますが最大で−50kg」

 「中尉、跳躍をお見せしてみろ」

 「はっ」

 ばんっ!

 「「「「「おー!」」」」」

 とん!

 「・・・屋根の上まで楽に跳躍できます」

 「「「「「おー!」」」」」

 ふわ〜〜

 ぱた! 着地

 「新城中尉。君は国宝だよ」

 「恐れ入ります」

 「技留博士。改造人間は進んでいるようだな」

 「生体素粒子より、掴みどころがありますから」

 「改造人間も同じだよ。科学技術は、火によってなされてきた」

 「しかし、魔業は、生体素粒子と魔法の杖を使わないとなされない」

 「今後は、火より、魔力を使う、黎の時代になるのだろうな」

 「今後とも務めを果たしてくれたまえ」

 「はっ!」

 技留博士と新城中尉が出ていくと、

 数人の閣僚は目を細める。

 医学の進歩は、己が世の春を満喫する権力者と富裕層を喜ばせた。

 無論、ばれない、程度、庶民に流用される。

 「改造人間はどう思うね?」

 「子供たちの寿命を奪ってきた私が言う事じゃありませんが」

 「アレだけの人体改造だと永遠の命に繋がるかもしれませんね」

 「生殖能力が低下するのでは?」

 「死ななくなるなら、人口を増やさないことだよ」

 「世代交代がないと変化がないですね」

 「ですが、日本も瑞樹も、もっと人口が増えても良いですよ」

 「それは言えるな。人口が足りないくらいだ」

 「ガイアへの移民も可能性がありそうですし」

 「ですがハミハラの仕事量は調整しないと。重犯罪者の突然死が微妙だな」

 「景気が良いので重犯罪者が少ないのでは?」

 「まさか。寿命を天引きしたいから、犯罪を起こしてくれとは言えんだろう」

 「ですよねぇ」

 「「「「んん・・・」」」」

 統治者の理不尽な思惑と無慈悲な打算は尽きない。

 

 

 三陸海軍基地

 断崖を掘り抜かれたトンネルの奥に広大な地下基地が作られていた。

 偵察衛星から監視しても全容の知れない日本海軍工廠の拠点であり。

 陸軍、空軍の工廠も併設されて、複合軍事産業体となっていた。

 とはいえ、日本全体からすれば、小さな産業地に過ぎず。

 瑞樹州にも似たような工廠があった。

 これらの機密の産業はM機関であり、魔業と深くかかわっていた。

 そして、魔業は、日本全体の基礎工業力を注意深く引き上げていた。

 軍事的に開発のイギリス、量産の日本の関係だったに過ぎない。

 国策的な必要性で続けられているだけであり、

 工業品質ではイギリスを抜いており、

 軍事的には追随している。

 戦前のイギリスとアメリカの関係と対比された。

 もっとも間に受けているのは、知識人、一般人、素人であり。

 間に受けていないのは、日本は特別オカルト神秘主義者、

 あるいは、事実を知っているごく僅かな者たちだった。

 現実は列強の科学技術を抜き去り、

 地平の果て、平行次元の向こう側にまで進んでいた。

 そして、誰が教えるもんかと列強だけでなく国民にも秘匿していた。

 赤レンガの住人たち

 引っ越し後、需要と供給のルートがようやく安定し、

 三陸海岸で採れた海鮮食材が食堂に並ぶ、

 一般人の立ち入りが禁止されているのか、ちょっと贅沢だったりする。

 「三陸の方が締まりが良いみたいだな」

 「良いよ、良いよ。お得意さんも出来たし、安い店も開拓できたし」

 「生活は良いとして、問題は、予算か・・・」

 「植民地防衛なら、VC10輸送機と緊急展開部隊で良さそうだけど」

 「10機も用意すれば連隊規模の1500人だからね」

 「でも、外交戦略上、巡洋艦を減らして、揚陸艦を建造したい」

 「示威、外交用か・・・」

 「それ言っちゃ 身も蓋もない」

 「民主主義って正直に言えないし、変に偽善ぶるから嫌いだ」

 「ヤクザがヤクザらしくないと逆に争いごとに巻き込まれるからね」

 「国家として、武力行使できる力があるという態度が大切だよ」

 「でも戦前の大東亜共栄圏とか、よほど大嘘で誇大広告だったけどな」

 「・・・民主主義の方がセーブが効くか」

 「イギリスのフィアレス型強襲揚陸艦は、良さそうだけど」

フィアレス型強襲揚陸艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度
12120 160×24×6.4 22000 21
FCS 20mm砲×2基 ヘリ × 5機 陸兵400〜700 戦車15、車両27
フィアレス、イントレピッド

 「やだ、14000トン級の瑞嵐型ヘリ巡視船を揚陸艦に改造する方がマシ」

 「くそぉ〜 安保庁め、良い思いしやがって」

 「飛行石があるから、その気になれば空中戦艦を建造できるし」

 「水上艦艇はいらないからね」

 「質のM機関と量の安保庁に挟まれてしまったのが痛い」

 「M機関は無いと仮定していいよな」

 「その気になれば大陸間弾道ミサイルの軌道だって逸らせるのに?」

 「あり得ねぇ」

 「まぁ 寿命はかなりいっちゃうらしいが」

 

 この時期、列強で懸念されている機体がいくつかあった。

 アメリカ軍が開発しているF14トムキャット、F15戦闘機イーグルであり、

 ドイツ帝国が配備しているMeファルケ、Fwブレッツであり、

 ソビエト連邦が配備しているMiG25フォックスバットだった。

 CF105アロー戦闘機は、カナダでの開発時から最大最強の迎撃機と思われており、

 日本のライセンス購入と改良と補修によって完成されていた。

 既存技術でも最高の素材で製造されており、列強の疑惑の的でもあった。

 疑われているのは、国家予算の仕組みであり、

 日本軍需産業の損益分岐点や製造価格だった。

 計算上、労働者を数倍酷使し、賃金を限りなく小さくできなければありえず。

 円ドル為替が異常であると言えなくもない。

 しかし、それを含んでも異常と考えられていた。

 日本軍需産業は、アロー戦闘機の製造能力で不足していたのである。

 アロー戦闘機の性能をそのまま、その製造価格で製造できない事であり、

 滑走路に威並ぶアロー戦闘機の存在への疑惑だった。

 もっともM機関からすると、大学生が小学校のテストを受けているようなものといえた。

 最強の迎撃戦闘機アローでさえ、科学技術上のオーパーツではなく。

 潜水艦乗り、M機関のバルカン爆撃機乗りから玩具扱いされていた。

 

 三陸基地は大きく、陸海空の地下開発工場も併設されていた。

 CF105Jアロー戦闘機をターボファンエンジンにすべく検討されていた。

 ファンの径だけ外縁が大きくなるため、機体の形状を変えるか、

 ファンを径の中に収めるため、推進力を減らすかだった。

 戦闘機の性能が高速でなく、レーダー、電子機器で推し量られるようになり、

 そして、チタンによる軽量化とエンジンの耐久性が増すと状況も変わる。

 技術者たち

 「低バイパス比ターボファンなら良いと思うが・・・」

 「径の中にファンまで組み込むと推力が落ちるだろう」

 「チタンを増やして軽量化で対応すれば、それほどは落ちないと思うよ」

 「それにエンジンは設計の変更とジルコニウム採用で耐久性もで高まっている」

 「巡航速度も徐々に大きくなっているから良いような気もする」

 「軽量化を考えるなら、やはり、デルタ翼の後ろを削って、菱型翼にすべきだろうな」

 「運動性で不安だな」

 「そういえば、コクピットを競り上げて、レーダー機器を増やしたがっていたな」

 「重量を落とすと、電子装備が重くなりそうだな」

 「あと垂直翼を左右に分けて、脱出時の安全確保」

 「コクピットが競り上がれば、死角が減って、電子機器も余裕ができるのでは?」

 「目は、プラスアルファで考えるべきじゃないか、おまけな気がするね」

 「レーダーで、死角のない戦闘機は有利だよ」

 「まぁ 電子装備を搭載できる容積はあるがね」

 

 もっとも、戦力の限度を制限する国防予算は存在する、

 日本空軍の年間飛行時間は150時間であり、

 バルカン・カフカスの日本空軍の飛行時間は180時間だった。

 国民にすれば血税を垂れ流しながら飛んでいるのであり、

 何とかしろよとか、金にならないのに飛ぶなとか、

 といった視線も避けられなかった。

 オペレーションルーム

 「スペック以上は、絶対に飛ぶな」

 「スペックの腹7分目だ。以上」

 「「「「・・・・」」」」 敬礼

 巨大な主翼は、十分な揚力があるのか、CF105は軽やかに飛んだ。

 他国の戦闘機が機外に装備を装着しているのに対し、

 CF105は、全ての装備を内装可能だった。

 とはいえ、巨体の割に運用スペックは、落とされていたのである。

 これは、エンジン、レーダーとも小型機器を最大限に無理をさせる消耗品であり、

 悪くすると100時間持たず。

 平時、最大スペックに近付いて飛ぶだけで年間予算で足が出た。

 各国とも高出力・高性能の高価なエンジンとレーダーを維持するため、

 莫大な消耗を強いられ、国防貧乏といえなくもなかった。

 列強各国が積載量で余裕のある旅客機に、仕様に余裕のある大型機器を載せ、

 巡回パトロールさせるのも負担軽減のためであり。

 現実は、練度維持のため流して、飛んでいるだけだったりする。

 青緑色に塗装されたCF105アローが4機編隊で飛んでいた。

 戦闘機の運動能力は、出力荷重(重量/出力)と翼面荷重(重量/翼面積)で計算できた。

 翼面荷重が小さければ機体を落とす割合が小さく、

 ライトニング戦闘機より小さく旋回ることもできた。

 もっとも、優位な位置に到達する出力荷重は翼面荷重より重視されており、

 翼面荷重を削っても軽量化する発想になりやすかった。

 320号

 「なんか、また身軽くなった気がする」

 「それは、いいけど、国防も予算ありきとは世知辛いね、なんか、鬱だ」

 「プロペラの複葉機で領空侵犯繰りかえされたら、自動的に財政破綻して負けだよな」

 「その時は、陸軍に任せるとか」

 「やだ、そん時は付き合いで、烈風の再就役かも」

 「烈風は良い機体だけど、アローに乗った後は、ちょっとな」

 「まぁ これだけ、翼面荷重が小さければ、MiG25より燃費が良さそうだし、遊覧飛行だよ」

 「ところで、隊長機の後部座席に搭乗してるのは?」

 「んん・・何かようわからんが、とっかえひっかえだな」

 「どういうつもりなんだろう」

 「しかも若いのや娘みたいなものまで・・・」

 「でも階級を付けてたな」

 「原隊はどこだ?」

 「瑞樹空軍123航空実験中隊だと」

 「また取って付けたような部隊だな・・・」

 「まぁ 友軍同士の顔繋ぎってやつじゃないの、横の繋がりも大切だし」

 「なんか、すげぇ 怪しい」

 

 

 

 カーボンナノシート、シリコンナノシート、

 タングステンナノシート、モリブテンナノシートを重ねると驚異的な複合素材となり、

 魔法使いの服にも採用されていた。

 しかし、その新素材で戦車を作ってみたいという欲望に勝てず。

 「いいだろう1両だけ」

 「何人分の服になると思うんだよ」

 「魔法使い用の戦車という事で・・・」

 「あのなぁ 戦車なんて引っ繰り返されたら亀と同じじゃないか」

 「飛行石は使わないから」

 「当たり前だ。大砲撃つたびに引っくり返る」

 「ヘリウム元素を挟み込むだけにする」

 「そんな技術がこの世界にあると思ってるのか、ばれたらどうする」

 「だからM機関の基地専属でも良いから、見たいんだよ」

 「あほ」

 「んん・・・」

 「これ以上、M機関を大きくすると諸外国から隠せなくなるし」

 「財政的に表面化してしまう」

 「大蔵省もこれ以上は一般監査対象から隠せないと、通達してきたし」

 「法務省からも駄目押しされたよ・・・」

 「というわけで駄目だ」

 「・・・・」 むっすぅう〜

 

 

 カナダ 飛行場

 CF105アロー戦闘機が配備されていた。

 日本へライセンスした事でようやく、配備できた機体であり、

 船便された日本製の部品を組み立てただけだった。

 素材上は、CF105Jよりスペックダウンされていたものの、

 原型機以上の性能を発揮しており、

 こなすべき、試験飛行を全てやり終え、

 改修が済んだ機体は、安全性が確認されていた。

 カナダ国民に日本資本にいくら資源を売ったと陰口を叩かれつつ、

 カナダ空軍は、CF105Cアローが世界最強の迎撃機である事を確認し、

 初期開発された高性能戦闘機は、試行錯誤しながら補修しつつ安全性を高めていく、

 これは、開発に準じるほど手間と暇を掛けるのであり、年月を必要とする事だった。

 「日本のCF105Jアローと比べるとチタンがケタ違いなんだけどね」

 「あと電装品とエンジンもスペックダウン」

 「アメリカ人とカナダ人は外見上の違いはほとんどないし、こんなもんだろう」

 「それでもCF105Cは、原型機より強力に違いないよ」

 「カナダが強ければ日本の対米戦略上も得なはずだ」

 「イギリスもCF105Eで対独戦略上、一息のはずだけどね」

 「あとは、消耗品の供給で安定収入かな」

 「消耗品を国産化するまでだろう」

 「日本で買う方が安いと思うよ」

 「じゃ 苦しくなったら鉱山を売るかな」

 「どうだろう。カナダも経済成長してるし」

 「その時はスペックUPした機材を小出しに売っていくんだよ」

 「それいい」

 

 

 アメリカ合衆国

 国防は、利権の保身と打算で行われる。

 弾薬より標的の価値が低ければ戦うだけで経済的敗北であり、

 戦争投機に勝る利権を得られなければ戦略的敗北だった。

 とはいえ、列強は、仮想敵国に勝るため兵装が年々、高騰していく。

 後進国に対し、過剰な兵装体系となってしまうのだった。

 アメリカ国防関連予算を圧迫していたのは、国内の平和主義勢力であり、

 ドイツ帝国のジーンリッチであり、

 象徴的な存在が宇宙ステーション “アーリア” だった。

 そして、日本の不可思議な力であり、

 象徴的な存在がCF105アロー戦闘機といえた。

 これらに対抗するためアメリカ安全保障関連は、常に高いモノを買わされ、

 より高い技術を開発し、生産し、維持しなければならず。

 数と質をアンバランスにさせられるのだった。

 

 日本のCF105アローの量産は、日本の工業力の高さを証明する。

 そして、アメリカは日本に高値で輸出できそうな工業品を持っていなかった。

 生産効率の高さから、ドルに対する円高は確実であり、

 各国は、日本資本に利権を売却しなければ、為替を保てない状況に追い詰められる。

 “日本人はもっと遊んで贅沢をすべきだ”

 という珍妙な意見が口から出たのだった。

 

 カンザス州

 日本人がダウジングドットを持って歩く。

 そして、地主と売買交渉を開始すると、人々が興味深そうに魅入り、

 第三者が参入して、土地の価格が上昇していく。

 遂には30倍の価格で土地が落札され、

 日本人は、地主から成功報酬の20パーセントを受取。

 さらに落札者から20パーセントの利権を受け取って引き揚げる。

 小さな鉱山の正当な利益でも、大きな収入となり、

 詐欺をすれば、さらに利潤が懐に入り込んだ。

 そして、日本資本が直接、円によって購入するようになっていく。

 円高ドル安傾向は、確実とみられ、

 円を得て貯蓄しようというアメリカ人の気持ちの表れでもあった。

 アメリカ資本の圧力なのか、アメリカ政府は、それでドルの為替を保てると考え、

 日本資本の中小資源開発は増大し、

 日系資本家は地元の明主になりやすく、日本風の文化も広がっていた。

 中小資源開発による地元の経済自立は、アメリカ資源メジャーの収益を脅かした。

 そして、アメリカ合衆国が州の連合体である事を証明してしまう。

 経済的な国家統一は、大企業の力によってなされ、

 経済的な地方分権は、中小企業によってなされるのだった。

 日系中小企業連合は、州を越えたネットワークを構築しつつ結束し、

 アメリカ合衆国での発言力を拡大していった。

 カンザスの酒場

 CIAとFBI

 「日系人が市長に当選か」

 「何で日系人市長の暗殺に失敗したんだ?」

 「それが巡回パトロールの警官がたまたま、狙撃場所に出合わせてな」

 「あり得ないだろう」

 「さぁ たまたま廃工場の中が気になって見回っていたら」

 「狙撃銃を構えていた奴がいて、慌てて後ろから銃を突き付けて捕まえたそうだ」

 「それでシンジケートが一つ潰されたって」

 「いろいろ探られたくない連中が動いているのだろうか」

 「この辺の弱小マフィア独断だろう。日本人なら脅せば、安値で売って逃げ出すと思ったんだろう」

 「ますます、日本と日系人の発言力が強まっていくじゃないか」

 「ドル防衛なんて考えるからだ」

 「誰だって自分の財布の中の価値が半分になったら嫌だろう」

 「そりゃそうだけどねぇ」

 「日本円は高くなるよ」

 「アメリカ国債をもっと日本に買わせろよ」

 「アメリカの土地権益と交換じゃいやだろう」

 「ドイツ系の移民が減ってからというもの工業力が低下している」

 「生真面目な日系人で工業力を保たないと」

 「本当に生真面目なのか、山師だろう」

 「山師は日本人の一部じゃないか。基本的に労働者の国だよ」

 「それも異常な低賃金のな」

 「低賃金じゃなく、アメリカが無理にドル高にしているだけだ」

 「経済をまともにするには、平均賃金に合わせて、ドル安にするしかない」

 「もっと、あり得んよ」

 「くっそぉ〜 日本は、何か隠してやがる」

 「だいたい、日系の暗殺失敗が多過ぎるだろう」

 「日系資本を何とかしたいのにできないか・・・」

 「少なくとも我々より、地元経済に貢献している」

 「日系資本家の搾取率低いし、人気がある」

 「ほかの白人に任せるくらいなら日系人に任せるさ」

 「下手に手を出すと、こっちが袋にされかねないか」

 「まるで、バルカン連邦か、カフカス連邦だな」

 「面白くない」

 

 

 戦前戦中の艦艇が次々と解体され、

 あるいは、記念艦とされていく中、

 ようやく、戦後、艦艇とも言うべき、巡洋艦が就役する。

蔵王型巡洋艦 2隻
排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度
8000 168×20×10 100000 30
FCS 55口径120mm砲 対空ミサイル 対潜ミサイル 対潜ロケット
  2基 シー・スラグ4基 4基 2基
蔵王 吾妻

 蔵王 CIC

 軍艦の心臓部は、艦橋ではなく、火器管制の集中するCICにあった。

 その中央に巨大な水晶が存在し、

 蔵王を中心にレーダーとソナーで得られた情報が全天球映し出されていた。

 「魔法使いは?」

 「水戸 潮中尉。ヘリでこちらに向かっているそうです」

 「そうか、イルカが4頭だったかな」

 「はい」

 「海の男の適性はどうかね?」

 「悪くないようです」

 「問題は、魔法使いは軍人に向かないところか」

 「波風を立てなきゃいいがね」

 「法務省M機関からの出向ですし、参謀格と思う方がいいかもしれませんね」

 「まぁ しょうがないか」

 「全周探査より不安ですが、ソナーより使えるかもしれません」

 「いまは、プラスアルファでいい。寿命と交換だと無理は言えまい」

 「これで、瑞嵐が海軍所属なら楽なのですが」

 「日本海軍の主力は潜水艦だよ。我々は、おまけに過ぎない」

 

 

 石畳と南洋樹林が規則的に並木を作っていた。

 ハイビスカスが咲き乱れ、階段を降りていくと水路が広がっていた。

 水路(5〜10m)が区画を分けており、イタリア風のゴンドラが行き来していた。

 中央の湖水に走る水路は、30000トン級艦船を航行させ着岸させることができ、

 区画ごとにビルが立ち並び、日本企業の進出も進んでいる。

 水上都市 坤城

 例の海域が近いため日本政府の肝煎りで開発が進み、

 大企業も興味があるのか、利権にありつきたいのか、集まりやすかった。

 ベトナムとの交易が急増するにつれ、資本も増え、

 対岸のベトナムに対し50mほど造成が進み、

 蒸し暑いこと、それを除けば、経済は悪くないのである。

 総督府

 「随分、白人が増えたな」

 「どうやら、怪しまれているようです」

 「例の海域に近い上に投資が増え産業が大きくなれば、白人も住み易いか」

 士官が入室する

 「最新のリストです」

 「A176人、B452人、C665人、D975人・・・」

 「総数も、男女比とも、毎月、微妙に変動してるな」

 「18歳から24歳の年齢枠ですから」

 「問題は、扉が開いたとき、どうやって1000人もの男女を送るかですね」

 「80人くらいなら事故で済むが、日本人が1000人も消えたら大騒ぎだがな」

 「遺族が黙っていない。ですかね」

 「死ぬかも知れないが、死ぬわけじゃない」

 「一応、関係者の子弟という事にしていますが・・・」

 「どこまでガイアの秘密が守れるやら・・・」

 「というより、いつ扉が開くかだ」

 「いつまでも志願者が心の準備を持続できるとは限らない」

 「まして、ほとんどが手に職を付ける教育だと、現在の求人では低くみられるな」

 「農作業を知っていても、先端技術と違いますし」

 「小麦からパンやうどんが作れても、給料が上がるわけじゃないですからね」

 「それに年齢も変わるし、家庭を持てば人生設計も変わる」

 「そうなると、受け入れ先も不安だろう」

 「それに親の言う事を子供が素直に聞くか、怪しいモノだ」

 「まず豊かになり過ぎて、動けなくなるかもしれませんね」

 「まぁ 余程のうまみがなければ、志願者は減少していくだろうな」

 「日本は利便性が良い国ですからね」

 「異動で失う寿命を考えると、いまのところ、扉が開くのを待つか」

 「喰命鬼しか行き来できそうにないな」

 「地球側にハミハラ級の喰命鬼が5人から6人いれば、扉を開けそうなのですが・・・」

 「いつになるやら」

 

 

 瑞樹州

 パワードスーツの製造は、素材上、クリアされていた。

 チタン、カーボンナノシート、シリコンナノシート、

 魔法の杖、飛行石を精製し、組み合わせていくとパワードスーツが完成する。

 内骨格の改造人間研究が進んでいても、

 外骨格のパワードスーツ研究が廃れたわけではなかった。

 むしろ、着装でパワーアップできるパワードスーツは汎用性が高く好まれていた。

 全高3m×全幅67.6mmの人型2足歩行機械が立っていた。

 「パワードスーツなんて下品な言い方をするなよ。“オーラーローブ”って言えよ」

 「オーラーローブねぇ 着ぐるみかと思った」

 「魔法使いの服をさらに強化した戦場用だよ」

 「形が微妙だ」

 「潜水艦発射の魚雷型(直径533mm×全長6m)でね。変形して人形型になる」

 「強いの?」

 「魔法使いの魔力次第だ。使い魔でよし、装着してよし」

 「才能があって、相性が良ければゴーレムのように戦わせられる」

 「魔法使いは戦闘意欲に欠ける。一般兵士仕様のはないのか?」

 「飛行石とチタン、新素材の組み合わせだと “サイバースーツ” ね」

 「昼間は、熱量が上がるから、飛行石で駆動系を補助できるけど気休めかな」

 「取り敢えず、ライフル弾の直撃から守れるのならいいよ」

 「こいつを召魄術で人鬼村に送れば村を守りやすいはず」

 「人鬼村は人を欲しがっているらしいがね」

 「現状での召喚は消耗が大き過ぎる。扉が開かない限り駄目だな」

 

 

 

アブロ・カナダ CF105Jアロー戦闘機
重量/全備重 全長×全幅×全高 翼面積 推力 速度 航続力 30mm機銃 ミサイル 乗員
19215/31120 23.71×15.24×6.25 113.8 10453kg×2 3062km/h 1340km 1 8+4 2

 最初に安い資材で機体を作り、

 補修改良を繰り返しながら徐々に高価なチタン部品に置き換えて行く手法が取られた。

 チタンの生産が軌道に乗るにつれ、機体重量が低下し、航続距離が延びていった。

 「もう少し、航続距離が欲しいな」

 「元々の設計が制空戦闘機じゃなく、迎撃戦闘機だからでしょう」

 「SVTOL機だし、航続距離があれば、攻守に使える機体になりそうだな」

 「戦闘機をアローに統合できるんだがね」

 「ターボファンエンジンに換装できれば、航続距離は延びるよ」

 「部品生産がいくつか台無しになるし、年月がかかりそうだな」

 「機体に余裕があるから、大丈夫だろう」

 「魔法使いを動員すれば、多少の調整は無駄にならない」

 「部品の売り手先はあるよ」

 

 

中国大陸   面積 台湾比 友好国
アメリカ極東権益地 満州、朝鮮半島

135万2437

   
軍閥七雄
(北京) 河北、山東、山西、河南、東・内モンゴル 106万8200 5.93 アメリカ
(上海) 江蘇、安徹、浙江、 34万4000 3.91 ドイツ
(重慶) 湖北、貴州、湖南 57万3800 3.19 中立
(成都) 四川 48万5000 1.66 中立
(広州) 広東、福建、江西、広西、 70万2900 4.06 日英同盟
(蘭州) 甘粛、青海、陝西、寧夏、西・内モンゴル 182万0800 1.32 ソビエト
大理 (昆明) 雲南 39万4100 1.23 中立
 
ウイグル ウルムチ ウイグル 166万0000 0.44 中立
チベット ラサ チベット 122万8400 0.34 中立

 日本と瑞樹が双頭の龍と呼ばれ、

 中国7軍閥が七臥虎と称されていた。

 巨大な大国が中央集権によって、8億の民を重圧下に置くのではなく、

 7つの軍閥国の勢力均衡下で、それぞれの国民に思い思いの重圧を掛けていた。

 劣悪で非人道的な労働環境下であったものの、

 それは、初期の資本主義でありがちなことであり、

 文化大革命中の涼(蘭州)を除き、

 残った燕、呉、穂、楚、蜀、大理の6軍閥国は、1億近い人口を有し、

 1国が中規模以上の国土と資源を持ち、

 じわりじわりと産業を増大させていた。

 長期王朝の頃でさえ、中央集権の成り立ちにくく、

 地方分権の強い国情であったものの、

 揚子江、黄河は、国際河川となって、欧米列強との取引量を増大させ、

 夏冬戦国時代は、中国大陸に政治、経済、文化で新風をもたらしていた。

 中華思想的に横柄な風潮は消え、

 欧州風、アメリカ風、日本風、ロシア風の街並みが広がっていく。

 穂(広州)国

 中古のライトニング戦闘機とセンチュリオン戦車が並べられていく。

 日本、イギリス、バルカン・カフカスは、アロー戦闘機、チーフテン戦車へと移行しつつあり、

 採算が合うのなら、遠慮なく穂国に売られた。

 先進国にとって希少資源はそれほど重要であり、

 資源が満載された船が港湾から出航していく。

 穂国は、不正蓄財分が差し引かれた分で、ビルが建ち並び、近代化も進んでいく。

 ホテル

 「しかし、これほどの資源が埋蔵しているなんて」

 「中国の不正腐敗は、喜ばしいことだよ」

 「モラルが高かったら、日本どころか、世界が征服されていたね」

 「まぁ 兵器だけじゃ世界は征服できないってわけだ」

 「だけど軍拡中で脅威である事に変わらないよ」

 「中国軍閥軍は、縦割りで横の繋がりを減らし、自己完結させないようにしている」

 「練度は低く。少なくとも連携した攻勢は無理だろう」

 「しかし、それは軍の実行支配を阻み」

 「軍事クーデターを防止する政治的な技法ともいえる」

 「中国人は、軍事力を即応可能な対外戦力より、支配の道具としか見ていない」

 「戦後の日本と瑞樹は、そういう縦割りが進んでいるから風通し悪くて、融通利かないだろうな」

 「しかし、中国軍閥ほど進んでいないだろう。アメリカ軍くらいだな」

 「バルカン・カフカスは、即戦体制だから日本・瑞樹との将兵交換でギャップがあるらしい」

 「意図的に組織の風通しを悪くして軍の暴走を防ぐって微妙だな」

 「戦争する気がなければ構わないさ」

 

 

 静止軌道上 宇宙ステーション “アーリア”

 直径300mの外縁から、さらに支柱が伸び、

 直径600mの外縁が作られようとしていた。

 ドイツ人たちは、倍の引力になった外縁床に喜び。

 ジャガイモ、キャベツ、ニンジン、カリフラワーの植えられた作物ポットを並べて行く。

 料理は、薄くスライスし、太陽熱発電器で得た電熱器で炒めることもできた。

 「これは?」

 水槽が置かれる。

 「日本産のマリモ。二酸化炭素を吸収する、高酸素排出植物だ」

 「これで自給自足が進めばいいがな・・・」

 警報が鳴り、

 “アポロ11号が打ち上げられたぞ”

 「「おお〜!」」

 ドイツ人たちは、支柱エレベーターに乗ると無重力区画へ昇っていく。

 管制室

 「あれだ!」

 「「おお〜!」」

 NASAとアメリカの国旗が描かれたロケットが宇宙ステーションの横を通過していく。

 「アポロ11号か・・・アメリカは月に行くなんて夢があるな」

 「アーリアは、詰まんないよね」

 「月面着陸と違って、エンドレスだし」

 「堅実なのが一番かな」

 「戦争しなくてもいいだけの希望を作れる政府は有能だよ」

 

 

 

 人は誰かの利益のため、利用され、殺され、

 何の報いもないまま、一族が衰え消えて行く事を望まない。

 立身出世の道が兵役しかない社会は不幸であり。

 立身出世の道が多様な社会は、自由を渇望する民衆によって方向性を定められず。

 安全保障を脅かされる。

 フランスの不幸は、民権が強く選択肢の道が広かったこと、

 国難に対し挙国一致で備えられなかったことにあった。

 対独戦に敗退したフランスは、ドイツに恭順するヴィシーフランス(ペタン)と、

 日英同盟に組みした植民地の自由フランス(ドゴール)に分かれ、

 戦中から戦後にかけて、対立していた。

 二つのフランスは、本国の独立と植民地の利権を守りつつ、

 権力の座から当事者が消えるにつれ、歩み寄り、

 偽装離婚の如く、名目的な2国連邦制へと移行していた。

 両フランス政府は、戦前戦中の経験則から、国民の自由を束縛し、

 立身出世の選択肢を減らされたフランス国民も、フランスではないと不平を言いつつ、

 列強へ戻ろうと働き、結果的に列強の末席にしがみ付いていた。

 自由フランス 首都ダカール

 シャンゼリゼ通りモドキは、パリの本物を越えて大規模だった。

 フランス人の心を慰めると同時に、ノスタルジーに浸らせていた。

 他の列強諸国は、支店を足場に勢力を拡大しようとし、

 中国人の入植で華僑資本と労働力が増すにつれ経済を活性化させていく。

 列強にすれば黒人より中国人労働者が使いやすく。

 フランス軍将兵とAML装甲車が通りに配置され、

 増えて行く中国人の監視を増やしていた。

 フランス軍将兵たち

 「ヴィシーフランスが自由フランスにAMX30戦車を売りたがってるらしい」

 「費用対効果だと、装甲車をたくさん配備した方が治安を守れそうだけど」

 「反政府勢力にソ連製RPGが流れてきているらしい」

 「んん・・・治安維持に金がかかり過ぎると、自由フランスを維持できなくなりそうだ」

 「北フランスをドイツに奪われて、フランス人の移民が増えていなければ存続は厳しかったよ」

 「ポーランド人の移民も減っているし、バルカン・カフカスの移民も減っている」

 「中国人の利権を認めて、体制を維持するしかないかもしれないな」

 「中国人は信用できん」

 「信用できなくても支配体制が崩壊するよりマシだろう」

 「中国人の方が数が多い、国を乗っ取られると泣きを見るぞ」

 「既に泣きを見たよ」

 映画館で リシュリュー VS ジャン・バール の映像が流れ、

 フランス人たちが感慨深そうに魅入っていた。

 海軍力を失った自由フランスが日英同盟から植民地を守った戦いであり、

 弱体化したヴィシーフランスが同盟国スペイン領を守り、独立を保った戦いでもあった。

 日本人観光客は、暇潰しで見ていたりする。

 「フランス人も変わったな」

 「文化を誇らず、日本より、殺伐とした雰囲気で緊張感があって良いですね」

 「日英同盟からも、独伊同盟からも疑われて孤立気味だからね」

 「かといって、地政学的にアメリカと組み難く、ソビエトとも組み難い」

 「独自で国産兵器を開発し始めているのもそれか」

 「フランスは、オランダより、悲壮な気がしますね」

 「ヴィシーフランスは地政学的に危ういし、自由フランスも植民地をまとめきれてない」

 「オランダ・インドネシアは、一つにまとまって力を付けているし」

 「欧州オランダは小国だから、国防権も回復もしやすいだろうな」

 

 

 バルカン連邦 ルーマニア

 4つ塔がそびえ、高い塀が館を囲んでいた。

 ルーマニア人は怖々と前を歩き、

 日本人のカップルに説明する。

 「小さいですが歴史のある古城です」

 「いまは誰も住んでいないのね」

 「ええ、町から少し離れていますから・・・」

 「それに・・・小さい城でも掃除が大変で・・・」

 黒い影が辺りをうごめいていた。

 「・・・確かにそうね・・・」

 「ですが新しく、住宅地が広がっているので有望です」

 「電気と上下水道はまだですが、すぐに手続きできます」

 「これだけ安いのなら、買っても良いわね」

 黒い影が目の前に立っていた。

 「・・・そうだね」

 普通なら見えないモノが辺りを漂っていた。

 日本人の男女二人が頷くと持ち主は喜んで売る。

 どこの世界にも幽霊の出る場所があり、

 人が呪い殺されるの場所があった。

 

 その夜

 大理石の室内をロウソクの炎が照らしていた。

 「一国一城の主なんて、素敵じゃない」

 「そう思えなくもないね」

 不意に黒い影が現れる。

 “お前たちは誰だ”

 「やあ、君。もう、十分じゃないか?」

 “何の事だ”

 「人殺しだよ」

 “弟は、父と母を殺し、わたしから全てを奪った”

 “弟の子孫を根絶やしにする”

 「弟の子供はあと、どのくらい?」

 “王はたくさんの女と寝ることができる”

 「実に羨ましい」

 「はぁ?」

 ごほん!

 “お前たちをどうしようか”

 「関係ないと思うよ」

 “だがお前たちがこの城いると、兄の子孫たちが来なくなるな”

 「君。まさか、本気で僕らとやり合うわけじゃないだろう」

 “・・・・・”

 「君を殺したのは、誰だと思う」

 “兄だ”

 「彼と少し話してみないか・・・」

 男が手を振ると、

 もう一つの黒い影が現れる。

 “お前は、誰だ”

 “お前たちルーマニアの貴族に殺されたハンガリー人よ”

 “お前の兄を操り、お前を殺したのは私よ”

 “き、貴様ぁ〜!”

 “楽しかった。お前たちルーマニア貴族を滅ぼしかけた♪”

 “なんだと”

 「なぁ お互い、見当違いもあるようだし、恨み事は、飽きただろう」

 ““・・・・””

 「別の生き方も楽しいかもしれない」

 ““・・・・””

 「強い生体素粒子を持つ幽霊は少ないからね」

 「僕らの命令を聞いてくれるのなら、器を貸してあげるよ」

 “お前たちの家来になれというのか”

 「このまま、素でいると、君らの生体素粒子は崩壊して消えてしまうよ」

 ““・・・・・””

 二人は、それぞれ、金貨を取りだした。

 「コンパクトだろう。最新型だぞ」

 “それが牢獄なのか”

 「君らのベットだよ。わかっているだろう。このままだと消える」

 “・・・・・”

 「労使契約は、そうだねぇ 僕らが王様で君らは兵卒長というところかな」

 ““・・・・・””

 「必要な時は出してやるよ」

 幽霊は、諦めたように金貨の中に入っていく。

 「コイン型はかさ張るけどね」

 「カード型は、まだ先の事になりそうだ」

 「少なくとも、この城の住み心地は良くなったはず」

 「良い城なのにホテルにするのは、惜しい気もするね」

 「今時の城なんてホテルくらいにしか役に立たないよ」

 「まぁ 温泉も出そうだし、日本人の観光客は喜ぶかも」

 「ねぇ 宗教とかやった方が儲かるかも」

 「宗教はオリジナルティのある教理が必要だし、反発されるから・・・」

 「ガイアの宗教は? オリジナルティあるよ」

 「んん・・・微妙だな」

 「でも、新興宗教と反対組織のどっちにもいて、両方から富を吸い上げれば、二重取り」

 「なるほど、どっちの情報も利用できるから、有利かも」

 ガイア研究所で生体素粒子ROMが造られるようになると、

 魔法使いは、強い生体素粒子を持つ霊を取り込み始める。

 大規模資源開発は一段落ついて、終息しつつあり、

 魔業と民間不動産需要と利害が一致し、小遣い稼ぎにもなっていた。

 

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・異境ガイア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 人鬼村

 少年が両手の中に黒い塊の粒子の塊を作る。

 ガイア生まれの魔法使いの生体素粒子とナノテクノロジーの組み合わせだった。

 新素材のフラーレン、ナノチューブ、ナノシートに生体素粒子を組み込み、

 魔法使いは自在に操る。

 生体素粒子の破損を防ぎ、寿命を保つためであり、

 剥き出しの生体素粒子を活用するより消耗が少なかった。

 ガイアの民は、石、木、水など自然のモノを使うため、

 人鬼村の日本人魔法使いと比べ、戦力で大きな開きが生まれた。

 「生体素粒子、飛行石、魔法の杖を入れ子のフラーレンに組み込んだ方がいいね」

 「普通はベストで使った方がいいかな」

 「まぁ 服にした方が邪魔にならないけどね」

 「だけど、操れる数といい、大きさといい。何か小粒だな」

 「そりゃ 未開地の魔物に比べてだろう。ヤバのもいるから」

 「でも、ドワーフに聞いたことがあるけど、本当にヤバいやつは、町の中に潜んでるらしいよ」

 「げっ! いつ、取り込まれるかわかったものじゃない」

 

 

 人鬼村の公園

 蒼乃ツバキ(14)

 「・・あ・・頭いてぇ〜」

 額から血筋が流れ落ちる。

 『刺激のあるものを食べるから、カルザン茨が頭に食い込むんじゃないの』 鬼碧

 「こ、この痛みが、きっと快感となって、老後の生活を支えるんだよ」

 『爺くせぇ』

 「そう思わねぇと、教官がキレそうになるだろうって」

 『じゃ 我慢できるんだ』

 「できるか!」

 『なんか住みかが荒れてると辛いな〜』

 「仲間の中じゃ 俺は静かな方だよ」

 『ツバキ。わたし相手に憂さ晴らししてるでしょ 弱っちぃやつ』

 「なっ! 憂さ晴らしなんてしてないぞ」

 『嘘! 人間って、身を固めると内側から腐ってくるのよね』

 「うぅぅ・・・」

 『わたし、いない方がツバキのためかなぁ』

 「あ、そ、そんなぁ 鬼碧がいないと困るよ」

 『だらしないの嫌いよ・・・』

 すぅ〜

 「げっ!」

 

 

 学校 剣道場

 通常の剣道と違うのは、1対多、多対多、と、実戦的な事と言える。

 通常、行動する場合、2人以上が多かった。

 しかし、人数が多い方が優勢なのだが人数に限度がある。

 2人、3人、4人、5人と増えて行くにつれ陣形・陣立てが編成され、組み直され、

 相手が2人、3人、4人、5人と増えて行くにつれ、やはり、編成が組み直される。

 攻めもランチェスターの法則を取り入れた戦い方であり。

 相手が有利だからと、無秩序に逃亡すれば壊滅だった。

 そして、実戦を踏む上で攻めより、秩序だった後退が重視され始めていた。

 今では、相手側に人数を多くすることが多く。

 陣立ての6割が段階を踏んで守勢を保ちながら後退する訓練になっていた。

 2対3で相手に付け入れさせないように200mほど後退していく。

 数が少ない方は圧倒的に不利であり、実力が互角であれば、まず、全滅。

 それを200m後退するまで持たせるのだから至難の連携技と言えた。

 数が少数の方が攻守の見極めと連携で巧みでなければならず。

 異常なほど疲れてしまう。

 2人が無事に200m後退するとそれだけで汗びっしょりなのだ。

 「・・・・・」 どょょよ〜ん

 「えい!」

 ばしっ!

 「いでぇ」

 「蒼乃君。動き悪い。元気ないね」

 「・・・・五十鈴ちゃんか・・・鬼碧が行っちゃったんだ」

 「鬼碧? 彼女?」

 「彼女かぁ・・・」 機密だった。

 しょんぼり・・・

 「女に逃げられるのはね。蒼乃君に魅力がないのかな」

 が〜〜〜ん!!!!

 「そんなぁ 有望株の魔法使いのに・・・」

 「女の子の好みの集合と社会的地位の集合は、共通部もあるけど、イコールじゃないもの」

 「数学は嫌いなんだよ」

 「数学じゃなくて、心理学かな」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 黎は、黒色。人々。夜明け前の時刻。始まる前。

 物事が定まる前の非物理的で曖昧なカオスでしょうか。

 

 

 

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第28話 1968年 『愛・白鳥』
第29話 1969年 『黎の時代』
第30話 1970年 『主義者は人を殺す』