月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 

 第02話 1942/04 『それは、神風とともに』

 破竹の勢いで進撃している日本の帝都東京が爆撃された。

 何かしないといたたまれず、

 海軍は第1艦隊に出撃を命じ、

 扶桑 山城が艦隊を率いアメリカ機動部隊を追撃していた。

 ドーリットルの帝都空襲は、皇居を脅かした事も含み、

 皇軍の威信を著しく傷つけたからだった。

 扶桑 艦橋

 「3号機より入電。敵機動部隊の発見できずです」

 「それはよかった」

 「艦長・・・」

 「こんなボロ戦艦で機動部隊を追撃しても返り討ちなんだがな」

 「面子ですよ。爆撃されて放置では、海軍の沽券にかかわりますからね」

 「面子に、沽券か・・・日本人の面子が日本という国の首を絞めているのにな」

 「燃料も鉄も石炭も自給できない日本が欧米列強と対抗できると勘違いしてしまったのが運の尽きですかね」

 「とりあえず、機動部隊が逃げることを期待して、追撃するしかないか・・・」

 !?

 「艦長! 前方10時方向より発光・・・」

 前方で閃光が広がり、

 「「「「・・・・」」」」

 「い、いったい・・・何が・・・」

 追撃艦隊に向かった爆風と津波が押し寄せる

 「全艦、艦首を津波側に向けろ!」

 追撃艦隊は、押し寄せる津波に煽られながら、津波を乗り切ってしまう。

 

 扶桑 艦橋

 「いったい、なんだったんだ」

 「こんな外洋で、これだけの津波を起こすなんて、地震だろうか」

 「まさか、外洋で、この規模の地震だと、日本列島は水没です」

 「それに地震は、光や爆発を起こしたりはせん」

 「海上だけのことなら、日本まで津波は届かないか・・・」

 「一番近い、哨戒機は?」

 「3号機だと思われます」

 「無線で、爆発海域に急行させて確認させろ」

 「本艦隊も、このまま、該当海域に向かう」

 

 

 エンタープライズ

 艦橋

 「どうした?」

 「後方で発光です」

 「な、なんだあの光は、?」

 「もうひとつ太陽が・・・」

 「上空の戦闘機を偵察に向かわせろ」

 轟音が艦隊を擦り抜けていく、

 「どうした?」

 「暴風です。爆風の可能性もあります」

 「まさか、このような大きな」

 「つ、津波が押し寄せます」

 「さ、最大戦速。艦尾を波側に。急げ!」

 「艦首側を見せなくていいので?」

 「日本側の新兵器かもしれない。それに遠出して燃料が寂しい」

 「しかし、あれだけの・・・」

 「あり得ん・・・」

 

 

 扶桑 艦橋

 「副長。あれは、なんなんだろうな?」

 「・・・そうですね。小官には、軍艦に見えますが」

 「そうか・・・よかった」

 「どうやら、私の気のせいでは、なかったわけだ・・・」

 

 

 扶桑に曳航された軍艦が横須賀に到着した。

 

  改キエフ型航空巡洋艦バクー

   排水量38000t/満載排水量45500t

   全長273.1m(水線長242.8m)×全幅53m(水線幅31m)×吃水8.2m

   飛行甲板 全長192m×20.4m

   200000馬力 速力32.5kt 航続距離18kt/7590海里

   乗員1615名

   兵装P500SSM連装発射筒8基 3K95SAM用VLS16セル 24基

   AK100  70口径100mm単装砲2門 (60発/分 初速880m/s 射程21000m)

   AK630  65口径30mmCIWS 6束8基 (83発/秒 初速900m/s 射程4000m)

   533mm5連装魚雷発射管2基 RBU1200010連装対潜ミサイル発射機2基

   搭載機

カモフKa54 (5機)
備重/全備重 馬力 回転翼 全長×全高 速度 航続距離 武装 爆装
7800kg/10400kg 1638hp×2 14.50m 13.50m×4.90m 300km/h 1160km 30mm×1 2000kg
カモフKa31 (40機)
備重/全備重 馬力 回転翼 全長×全幅×全高 速度 航続距離 武装 爆装
5520kg/12200kg 2200hp×2 15.90m 11.60m×3.80m×5.50m 255km/h 680km 30mm×1 4000〜5000kg

 

 日本海軍将兵の目は、2機種のヘリコプターに目を奪われていた。

 この時代、ドイツ帝国がFa223 (1000馬力 重量3180kg/3860kg) を実用化し、

 Fl282コリブリ (160馬力 重量760kg/1000kg) を開発し、

 アメリカのスコルスキーがR4 (200馬力 952kg/1170kg) を飛ばしていた時代だった。

 日本にはヘリコプターは存在しない、

 カ号観測機は (240馬力 755kg/1170kg)は、推進エンジンを別に持つオートジャイロだった。

 見た目で、それらをはるかに凌駕する。

 「「「「・・・・」」」」 ごっくん!

 「長官。誰もいません」

 「そうか・・・」

 「なんですかね」

 「ソビエト製のようですが、こういった艦艇を建造した形跡はありませんでした」

 「中途半端だが飛行甲板を斜めに使っている」

 「日本海軍の空母より優れた設計思想のようだ」

 「しかし、ソビエトが、こういったヘリコプターを配備してるなど聞いたことがありません」

 「武器弾薬は?」

 「兵器はありますが、砲弾、弾薬は発見できませんでした」

 「燃料は?」

 「重油が3分の2ほどです」

 「このヘリコプターは、動かせそうかね?」

 「そうですね。電子部品関連は、生きてるようですが、真空管を使っていないようです」

 「んん・・・」

 将校が駆け寄ってくる

 「長官。文書は、インクの剥離が進んで、ほとんど解読できないそうです」

 「じゃ 手探りで戦力化していくしかないのか」

 「モニターの文字は、読めるはずです」

 「ロシア語の分かる人間を集めてくれ」

 「はっ しかし、陸軍が多くなると思いますが」

 「んん・・・仕方があるまい」

 「あと、プレートで就役が、20/Декабрь (12月)/1987と彫られているのが気になります」

 「んん・・・」

 「現物が存在するということは、ジョークではなさそうですね」

 「戦争中に、これだけのジョークをかませる国は、ないはずだがな」

 「長官。このヘルメット。凄いですよ」

 「ロシア語で表示されてますが、なんか、操縦できそうです」

 「なに?」

 将校が走ってくる。

 「長官。この艦は、中央付近に指令室があるようです」

 「な、なんで?」

 

 

 ラバウル

 「MO作戦の中止とは、どういうことだね」

 「長官は、ソロモン諸島の攻略は、攻勢の限界を超えるばかりでなく、各個撃破の恐れがあると」

 「それでは、ラバウルを守れないではないか」

 「長官は、聖域を作れば根腐れすると・・・」

 「ちっ それなら、もっと補給を増やしてもらいたい」

 

 

 呉

 軍艦は、あっても軍艦を動かす燃料がなかった。

 日本はそういう国であり、じり貧地獄に向かって降下中だった。

 そういった世相の中、異質の空気を作り出している軍艦があった。

 航空巡洋艦 バクー CICルーム

 周辺海域の要するがモニターに映像が映されていた。

 「レーダーと船外カメラで周りが見渡せるとはな」

 「安全な場所で指揮がとれるのはいいですね」

 「上の艦橋は、飾りか?」

 「航行は、上でやって、CICルームで指揮を執るのでしょう」

 「軍艦にしては、無駄な空間があるようだが」

 「いまは、テスラコイルと、よくわからない観測機械が敷き詰められているようですが」

 「元々は、サイロと呼ばれる穴は、誘導ロケットが格納されていたようです」

 「垂直にロケットを打ち上げて、敵に命中させられるのかね」

 「無線とレーダー誘導技術は、進んでいたようです」

 「んん・・・いったいどこから来たんだろうな」

 「未来からでは?」

 「未来ね・・・」

 

 

 飛行場

 カモフKa54とカモフKa31が飛行場上空を飛びまわっていた。

 「どう思うね」

 「そうですね・・・高性能です」

 「しかし、どうして、航空機型でないのか、不思議ですね」

 「大型は対潜哨戒用なのだろうな」

 「小型は戦闘ヘリのようだが・・・」

 「微妙だな」

 「長官は、どうすると?」

 「MO作戦とMI作戦は延期」

 「あの軍艦の操艦と、艦載機の操縦の習得を優先するそうだ」

 「エンジンの複製は?」

 「不可能だそうです」

 「じゃ 破損すると修復は不可能ということか」

 「予備はあるようですが、予備部品を使い切ったら終わりですね」

 「見通しは暗いな」

 「空母が1隻増えた。それでいいのでは?」

 「空母か。飛行甲板が全長192m×20.4mだから空母として微妙だな」

 「千代田クラスですね」

 「艦首部まで格納庫と飛行甲板を伸ばすそうです」

 「それで零戦、彗星、天山を70機は、搭載できるかと」

 「兵器の方は?」

 「ロケットは無理だそうです」

 「100mm砲2門と30mm機関砲8基は、使えるのだろうな」

 「はい、特注で弾薬を作れば何とか」

 「大砲も複製不能なのだろう」

 「ええ」

 「どこまでも後進国か・・・」

 「ところで勝手に使っていいのかな」

 「さぁ 拾得物ですが、持ち主が現れない限り、大丈夫なのでは?」

 「まぁ 持ち主が現れたら、その時はその時で、善処しよう」

 

 

 

 川崎重工神戸

 空母大鳳の建造が進められていた。

 設計の変更がなされ、飛行甲板に斜めの張り出しが付けたされ、

 バランスを取るかのように艦橋が外側へと張り出されていく、

 技術者

 「また、徹夜だよ」

 「飛行甲板を斜めに張りだすなんて、後から言われてもな」

 「高射砲を外してバランスを取ろうとしても限度があるよ」

 「それに艦内に戦闘管制室を作れなんて正気かね」

 「あの軍艦は、技術上の集積があるから、それを可能にしてるのであって」

 「そういった技術がないのだから無理なんだけどね」

 「破損した空母は、斜めの飛行甲板を作りたいから準備しておいてくれ、だそうだ」

 「やれやれ」

 「赤城と加賀は、二層にしないと斜めの飛行甲板をつけられそうにないな」

 「というより、あの航空巡洋艦の橋梁計算は、高過ぎるな」

 「ヘリの最大積載は12tだそうだ」

 「そんなもの載せたら、天井が落ちるな」

 「着艦時の衝撃に比べたら小さいだろう」

 「それにしたって、ヘリを運用できる空母はないぞ」

 「大鳳は、装甲を減らして橋梁を強くすれば載せられる」

 「ヘリが戦力になればな」

 「対潜哨戒では、有望らしい」

 「戦闘型ヘリは夜間でも飛べるようだ」

 「あの変なヘルメットでか?」

 「複製は作れないらしいがね」

 

 

 

 呉

 どこからか出現した航空巡洋艦は、元々なかった日本の戦略に影響を与え、持久策を執らせた。

 MO作戦、MI作戦の中止により、

 それまで、戦線を拡大することでアメリカの対日政策を変更させようとしていたのに対し、

 戦線を防衛し、アメリカに犠牲を強いて対日作戦遂行を困難にせしめる方針へと変わっていく、

 戦線拡大に伴う無謀な輸送計画は行われず、現戦線への輸送計画のみ行われる。

 そういった中、アメリカ機動部隊の攻勢に対し、柔軟な迎撃戦が求められ、

 日本海軍の再編成が行われる。

 山本長官は、主力になる艦艇を中心に同型艦を集めることで、作戦能力を合わせる方針を執った。

 「長官。例の軍艦は、何とつけるのです?」

 「ああ、ソビエト製みたいだから “露鳳(ろうほう)” とでもつけるか」

 技術将校が入室してくる。

 「新型艦艇の一部建造を中止。旧式艦艇の解体と改装は、これで、よろしいので?」

 「んん・・・まともにやっても勝てんからな」

 「それでも、露鳳次第だが・・・」

 旧式艦艇の改装が急がされていた。

 露鳳の出現により、過渡期的な開発が早まり、

 新型艦艇を建造するより旧式艦艇の急場の改装で戦う方針が執られる。

 日向は、5月に5番砲塔が爆発しており、

 砲塔を2基から4基を廃止し、

 艦体が頑丈なことから、Ka31、Ka54搭載で都合がいいと航空戦艦への改造が始まっていた。

 

 

 

 第一機動部隊

  加賀、瑞鶴、翔鶴

  利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

  陽炎、不知火、黒潮、親潮、早潮、夏潮、初風、雪風、天津風、

 

 加賀 艦橋

 「やはり、あの大型哨戒用ヘリは、搭載できないのか?」

 「橋梁を補強しないと重みに耐えられないそうです」

 「あれが艦隊上空を飛べば、周囲150km上空と200kmの海上を索敵できるのだがな」

 「プロペラは折りたためられるのですが、エレベーターは拡張しないと難しいようで・・・」

 「それでは、あの空母モドキを実戦配備するしかないわけか」

 「艦とデーターリンクされているようで、一番効率が良いようです」

 「あれを3機も搭載すれば、同戦力の機動部隊相手でも負ける気がしないのだが」

 「まったくです」

 「改装してでも載せたいものだ」

 「問題は、モニターのロシア語を読める日本人パイロットが少ないことでしょうか」

 「まぁ いないだろうな」

 

 

 第二機動部隊

  赤城、飛龍、蒼龍

  筑摩、妙高、那智、足柄、羽黒

  時津風、浦風、磯風、浜風、谷風、野分、嵐、萩風、舞風、秋雲

 赤城 艦橋

 「赤城はもらったが、先行きは不安だな」

 「アメリカ製オイルが少ないのが最大の問題でしょうか」

 「工場も潤滑油と工業用ダイヤがなくてモノが作れなくなるそうだ」

 「じゃ 戦力を維持しようとするだけで、自動的に敗戦になるな」

 「なんで戦争始めたんですかねぇ」

 「軍隊を守るためだろう」

 「日本国を道連れにしてですか?」

 「もう、意地だな」

 「ところで、例の作戦は、本気なんですかね?」

 「ん? あれか・・・例の軍艦の解読が進まないと何とも言えないらしい」

 「このままだとアメリカとの戦力比が広がってしまうのでは?」

 「だから、例の作戦なんだろうな」

 

 

 

 アメリカ ワシントン

 白い家

 偉そうな男たちが、世界地図を見て謀略を巡らしていた。

 「日本に未知の大型艦が出現したらしい」

 「それは、事実なのかね?」

 「同盟国のドイツ、イタリア」

 「そして、ソビエトも未知の大型艦艇に関する情報を集めている」

 「日本軍のブラフではないのか」

 「日系人を知ってるが、策を弄するような人間ではないな」

 「まじめで繊細で小心で、直情短絡馬鹿」

 「だからと言って、大型艦が突然現れたりするものか」

 「その件に関する情報なら裏付けがあったな。時期は一致している」

 「ドーリットル空襲を終えて帰還していたエンタープライズが後方で尋常でない大きな閃光を見たと」

 「索敵と確認は、しなかったのかね」

 「日本艦隊の追撃を恐れてましたから、そのまま、引き上げたと」

 「それと、日本の暗号電文に、謎のX艦に関する符号を見つけています」

 「ドイツ筋は、日本で高性能ヘリコプターを見たという噂も・・・」

 「噂ばかりだな」

 「しかし、日本が作戦を検討していたMO、MI作戦は、延期されたようですし」

 「侵攻作戦も再検討されてる節があるようです。確認すべきでは?」

 「変化の裏にX艦の存在か・・・」

 

 

 ニューブリテン島 (35144ku)

 ラバウルは島北辺の町だった。

 その湾は、直径3kmほどの湾を囲うように “く” 字に折れ曲がり

 南東に港口を開いていた。

 花吹山(タブルブル山標高700m)は、白い噴煙を立ち昇らせ、

 東(ラクナイ)、西(ブナカナウ)、南(トベラ)、北(ケラバット)

 の4つの飛行場に火山灰を積もらせていく、

 雨が降れば、火山灰は固まり、離着陸にも支障を与える。

 環境は、悪くても、艦船を停泊させられる広い湾があることから、南洋の根拠地となった。

 日本陸軍は、35000の兵力をラバウルに上陸させ、城砦を建設し、

 補給物資は、集積されつつあった。

 そして、現地の主食キャッサバ(タピオカ)とタロイモも食材として食卓に上り始める。

 もっとも、キャッサバは毒抜きが必要であり、

 根茎を煮出し、乾燥させたタピオカを煮戻すとデンプン状になった。

 タロイモは、サトイモの一種で、地上に大きな葉を作り見つけやすく、

 魚介類と並んで早いうちから、おかずとなった。

 陸軍将兵たち

 「ラバウルが最前線になるらしいよ」

 「じゃ この島で、アメリカ軍を迎え撃つんだ」

 「日本は出血多量で衰弱死しかけてるんだから、死ぬ前に突撃すべきじゃないのかな」

 「それが何か、秘密兵器を開発したらしい」

 「へぇ〜」

 「プロペラを上に付けて、空中に浮かぶんだと」

 「プロペラを回す燃料がないのに?」

 「軍の上層部なんて、いい兵器があれば国が守れると思い込んでる」

 「税金を浪費するばかりで浅はかだし、そんなもんだよ」

 「お金を作れない連中ばかりだ」

 陸海軍航空部隊は、ラバウルに基地航空隊を進出させていた。

 そして、日本海軍は、第三機動部隊と潜水艦部隊を配備していた。

 ラバウル港

 第三機動部隊

  飛鷹、隼鷹、龍鳳、

  最上、三隈、鈴谷、熊野、

  夕雲、巻雲、風雲、長波

  朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、霰、

 

 飛鷹 艦橋

 「アメリカ機動部隊は、ヨークタウン、ホーネット、エンタープライズ」

 「そして、サラトガ、レキシントンの5隻だ」

 「第三艦隊だけでは負けですね」

 「真珠湾攻撃の折、停泊していたのが戦艦でなく、空母だったらと思う時があるよ」

 「ラバウルの航空隊でどこまで戦えるかだがね」

 「それだって、ポートモレスビーのアメリカ航空部隊と相殺されてしまうのでは?」

 「一番怖いのは、マラリア、デング熱、潰瘍、アメーバ赤痢だな」

 「基地航空部隊のパイロットと整備士は、ぼちぼち、やられはじめている者もいる」

 「本当はトラックに後退すべきなのでは?」

 「それを言うと、クビが飛びそうだな」

 

 

 シンガポール港に第四艦隊が配備され、

  第四機動部隊

   祥鳳、瑞鳳、龍嬢、(零戦30機、97式艦攻42機)

   古鷹、加古、青葉、衣笠

   阿賀野、

   白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風

 引き続き、インド洋作戦が進められていた。

 龍嬢 艦橋

 「イギリス東洋艦隊は、およそ、戦艦5隻、巡洋艦5隻、駆逐艦14隻です」

 「まともに戦っても勝てませんね」

 「増援があるはずだが」

 「千代田と千歳です」

 「通商破壊に役立つかもしれませんが、それでも戦力不足かと」

 「・・・・日本が唯一、攻勢に出られそうな戦線なのだがな」

 「問題は燃料ですかね」

 「燃料を消耗せず、敵をたたくのは無理だな」

 「・・・待てよ。そういえば、露鳳の噂が連合国側に流れているんだったな」

 「えっ まぁ あれだけ大きな軍艦ですから隠しおおせることなんてできませんし」

 「何しろ、ドイツ、イタリアは同盟国で港からすぐ見えますし」

 「ソビエトも中立国ですし、アメリカの新聞でも噂になってるとか」

 「・・・そういう・・・ことなら・・・」

 その日、仮装巡洋艦 報国丸、愛国丸の2隻と、

 潜水艦、伊10、伊16、伊18、伊20がインド洋へと出港した。

 

 

 ケニア

 モンバサには、イギリスの暗号解読部分遣班が置かれ、

 日本海軍の暗号解読を行っていた。

 「所長。シンガポールの第四機動部隊が、何かを捜索しているようです」

 「捜索?」

 「暗号名 “英鳳” の予定出現位置についてです」

 「“英鳳” とは何だ?」

 「不明ですが、例のX艦と関連があるのかもしれません」

 「X艦か・・・信憑性がどの程度なのか、不明だな」

 「全長270m越えの大型艦が突然現れるなどあり得ないだろう」

 「ドイツ側の暗号でもX艦は、最重要機密になっていますし」

 「イタリアも同じような暗号が発信されているようです」

 「ソビエトも、イギリス海軍へ、日本の新型艦に付いて問い合わせているようですし」

 「艦型が異様というのは、どうにも信憑性に欠けるな」

 「それで、予定推測位置は?」

 「アムステルダム島の北西200kmほどの海域です」」

 所員は、地図を指さしていく、

 「日本艦隊は、そこから無線を発しているようです」

 「アムステルダムは、誰か住んでいるのか?」

 「いえ、今は無人のはずです」

 「んん・・・」

 「アメリカ機動部隊は?」

 「アメリカ軍は、ソロモン諸島上陸作戦が始まっているので、インド洋に来れないかと」

 「では、独り占めできるかもしれないな」

 

 

 キリンディニ港

 イギリス東洋艦隊

 戦艦ウォースパイト、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソブリン、リヴェンジ

 軽巡洋艦エンタープライズ、エメラルド、ダナエ、ドラゴン

 オランダ軍軽巡ヒームスカーク

 駆逐艦13隻、オランダ軍駆逐艦1隻

 

 戦艦ウォースパイト 艦橋

 「どうやら、日本第四機動部隊が南インド洋で何か探してるらしい」

 「何か、というのは?」

 「わからんな。なにか、だそうだ」

 「そんなあやふやなモノのために艦隊を出撃させるのですか?」

 「ロンドンからの出撃命令があった」

 「なぜ、そんな辺境の作戦に中央の命令が?」

 「さぁ・・・なぁに、第四機動部隊と言っても弱兵だ」

 「我が東洋艦隊が押し迫れば退くだろう」

 

 

 

 南緯38度、東経77度。

 緯度で言うなら寒冷域にあたるものの、

 その南インド洋の海域は、北緯側の同緯度よりやや寒く、霧が多かった。

  

 サンポール島(6ku)は、なにもない岩肌ばかりの小さな火山島だった。

 断崖のペンギンの群れが興味深そうに直径1km弱の湾を見下ろす、

 そこには、飛行艇と水上機がひしめいていた。

 2式大艇5機、97式大艇15機、零式水上偵察機50機、

 入り江には物資が集積され、茶褐色のシートが被せられて偽装され、

 小さな焚き火が幾つも炊かれ、釣った魚が芳ばしい煙を上げていた。

 日本海軍パイロットたちは、霧と湿気の多い寒冷地に震え、

 整備士とともに愛機の整備をしていた。

 「本当に来るのかよ」

 「来るらしいけど」

 「寒いな」

 「季節が逆だから、これから暖かくなるんだよ」

 「暖かくなると、霧が増えそうだな」

 「霧が増えると怖くて飛べねぇ」

 「大丈夫だろうな。攻撃されるのは嫌だぞ」

 「無線は発信するな。だそうだ」

 「イギリス艦隊の捜索域は、300kmほど北西らしいよ」

 「ついでにってことは、あるんじゃないのか」

 「その時は、こっちが先に出撃さ。たぶん・・・くっしゅん!」

 

 

 

 イギリス東洋艦隊

 戦艦ウォースパイト、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソブリン、リヴェンジ

 軽巡洋艦エンタープライズ、エメラルド、ダナエ、ドラゴン

 オランダ軍軽巡ヒームスカーク

 駆逐艦13隻、オランダ軍駆逐艦1隻

 イギリス東洋艦隊は、南インド洋に向かって、航行していた。

 水上機型ソードフィッシュMkIが艦隊上空を旋回して周辺海域を警戒し、

 別機は、艦隊前方を先行し、索敵も行う。

 

 戦艦ウォースパイト 艦橋

 「東洋艦隊勢揃いで、こんなところに・・・」

 「提督。偵察機は、アムステルダム島の索敵終了しました。異常ありません」

 「そうか、帰投させてくれ」

 「日本艦隊は?」

 「第四機動部隊が、ココス島を南西に向かって航行中」

 「まだ、2800kmほど、離れています」

 「他には?」

 「仮装巡洋艦2隻が北上中、後退している模様です」

 「それ以外には?」

 「潜水艦の無線をキャッチしています」

 「対潜警戒を怠るな」

 「はい」

 「イギリスも空母くらい派遣してくれれば、なんとかなるものを・・・」

 「アメリカ海軍に知られたくなかったようです」

 「ふっ お宝でもあるのだろうか・・・」

 「・・・て、提督。航空部隊が南東より、急速に接近してます」

 「な、何だと!」

 「日本機動部隊か?」

 「いえ、出撃する前、太平洋で日本の第一、第二、第三機動部隊の位置を確認してます」

 「じゃ 第四機動部隊か?」

 「いえ、ココス島の南西400km域だと思われます」

 「じゃ アメリカ機動部隊なのか?」

 寒々とした南東方向から大小70機ほどの航空機がイギリス東洋艦隊に迫っていた。

 「ば、馬鹿な」

 「面舵一杯」

 「戦艦を中心に輪形陣を組め、総員対空戦闘用意」

 2式大艇5機、97式大艇15機、零式水上偵察機50機、

 水上爆撃部隊がイギリス戦艦部隊上空に達すると旋回し始めた。

 艦隊から対空砲火が撃ち上がり、

 炸裂弾が爆発し、黒煙の塊が作られていく、

 機関銃の弾道が巨大な飛行艇と水上機を追いかけ、

 直前で後方へと流れていく、

 零式水上偵察機50機が数機単位で弾幕の中へ飛び込み、

 250kg爆弾を投下していく、艦隊周辺に水柱が立ち昇せ、

 時に爆発し、金属片を描き散らせ、爆炎と黒煙を立ち昇らせた。

 艦隊は、大きく回頭し、

 2式大艇と97式大艇は、回頭する側へと回り込み、

 魚雷2本を投下していく、

 同時に2式大艇は、右翼にエンジン2基が炎に包まれ、

 海面に叩き付けられ、四散し、爆発した。

 しかし、投下された魚雷の軌跡は、まっすぐウォースパイトへと迫り

 将兵たちは総毛立つ

 魚雷が艦腹に命中すると、爆発の衝撃と同時に水柱を吹き上げた。

 「左舷8時。雷跡4!」

 突然、脈絡もなく、現れた雷跡も2本が命中し、艦体を軋ませ、傾かせていく、

 「右舷、注水」

 「いつの間に雷撃された!」

 「どうやら日本の潜水艦のようです」

 「ちっ 罠だ」

 爆発が後方から轟く、

 「提督。敵機がレゾリューション艦橋に体当たりしました!」

 爆炎に包まれた艦橋は焼け焦げ、黒煙を噴きだしていた。

 「提督。機関室に浸水。速度8kt」

 「何ということだ・・・」

 

 

  第四機動部隊

   祥鳳、瑞鳳、龍嬢、(零戦30機、97式艦攻42機)

   古鷹、加古、青葉、衣笠

   阿賀野、

   千代田、千歳

   白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風

 祥鳳 艦橋

 雑音混じりの無電が艦橋に伝わる。

 「水上爆撃部隊より入電」

 「東洋艦隊の戦艦5隻に魚雷2本以上を命中。軽巡5隻に命中弾1発以上!」

 「艦長。作戦は成功した模様です」

 「そうか、損失は?」

 「潜水艦1隻が行方不明」

 「二式大艇2機、97式大艇5機、零式水上偵察機5機の損失です」

 「そうか・・・酷いな・・・」

 「大艇は、3次攻撃まで行ったようです。損失に見合う戦果かと」

 「それは、我々の追撃と戦果次第だな」

 「はっ!」

 「索敵機の発艦急がせろ!」

 「はっ」

 「駆逐艦から先に撃沈していけば、全滅させることもできるかもしれないな」

 「しかし、艦攻では、回避される恐れがあるかと」

 「そう・・・だな・・・」

 モーリシャス沖海戦と呼ばれた海戦は、イギリス戦艦部隊に護衛機がなく、

 日本第四機動部隊の一方的な空襲だった。

 祥鳳、瑞鳳、龍嬢から第一波、97式艦攻42機が発艦し、

 大破していた戦艦5隻に狙いを定めた。

 97式艦攻は水上機より洗練された機動を見せ、低空より迫った。

 砲撃と機銃掃射が97艦攻に集束し、周囲の海面を叩いて、大小の水柱を立てた。

 

 機体は、爆発の衝撃で上下左右に揺れ、

 バチバチと炸裂弾の破片が機体に当たって、窓ガラスに亀裂が入る。

 機体に向かって機銃弾が迫ってくる光景は寿命が縮む、

 雷撃は近付けば近付くほど有利といえたものの、

 雷撃距離は計算しやすいよう800m〜1000mを基準に訓練されていた。

 あとは、機体の速度を280km/hで安定させ、

 魚雷の速度(21.6m/s)で投下後、37秒〜46秒に命中する。

 敵艦の速度範囲を艦首と艦尾の波状の大きさと形で検討を付け、

 敵艦の速度が30ktなら570m〜708m手前、

 20ktなら377m〜469m手前、10ktなら188m〜234m手前になり、

 何もない海域に向けて魚雷を落とすことになった。

 敵艦の水線長の幅があるといっても訓練を重ねないと当たらない、

 さらに軌跡で回避運動を判断し、角度を加味した大雑把な補正をしつつ、

 次の瞬間、死ぬかもしれないという恐怖とギリギリまで戦う・・・

 「てぇー!」

 不意に機体が軽くなって浮かび上がり、

 2機の艦攻は機銃に晒されながら、ラミリーズの艦首手前を通過していく、

 ほどなく、ラミリーズの右舷に2本の水柱が立ち、艦が衝撃で震える。

 第四機動部隊の攻撃部隊は、大破して身動きの遅いイギリス東洋艦隊を襲い。

 戦艦ウォースパイト、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソブリン、リヴェンジにとどめを刺し、

 第二波で、軽巡洋艦エンタープライズ、エメラルド、ダナエ、ドラゴンを撃沈してしまう。

 このアダムスミス沖海戦、モーリシャス沖海戦の一連の戦いで、

 イギリス東洋艦隊は駆逐艦10隻ほどの艦隊となってしまい。

 インド洋の覇権は第4機動部隊の手中に収まってしまう。

 

 

 最弱の第四機動部隊が大戦果をあげると日本海軍将校は色めき立つ。

 窓際、叩き上げ、掃溜めの第四機動部隊将兵が出世し、老後の安寧を図れるのだから、

 精鋭キャリア部隊、エリート部隊の第一、第二機動部隊は、面白くない。

 大本営

 日本海軍将校たち

 「MO作戦でポートモレスビーと、アメリカ軍が上陸作戦中のソロモンを攻略すべきだ」

 「いや、MIでミッドウェーを攻略すべきだ」

 「そんな余計な物資と燃料があるわけがないだろう」

 「だから、誘き寄せて、敵艦隊を撃沈すればいいのだ」

 「敵地に誘き出されてるのは、日本機動部隊のような気がするがね」

 「そんなことはない、絶対に勝てる」

 「そうだ、養子の第四機動部隊でも勝ったのだ」

 「第一機動部隊、第二機動部隊が出ていけば鎧袖一触・・・」

 「豊臣秀吉は、家臣どもの手柄争いに負けて朝鮮出兵を行い、豊臣を滅ぼす原因を作った」

 「徳川家康は、家臣どもの手柄争いを潰して、徳川260年の江戸幕府の基盤を作った」

 「大本営は、どうしたものかな・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 大本営は、大戦の切り札の露鳳を解析しつつあり、

 士官たちの功名心に関心を示さなくなっていた。

 士官たちは、がっくりと肩を落として退出していく、

 「やれやれ、第四機動部隊にも困ったものだ」

 「あははは・・・手柄を立てて困られては、可哀想だろう」

 「日本の体質を考えると、馬鹿どもを押さえるのが難しくなるんだ」

 「日本有数のキャリアたちじゃないか」

 「頭はいいさ、予算が欲しいだけ、功名心だけで使い方を間違っていなければな」

 「生活に余裕がないからな、出世できれば、老後は安泰だ」

 「士官以下の老後なんて、のたれ死ねと言わんばかりだ」

 「平時ならそうでも戦時なら最悪でも靖国には入れるさ」

 「靖国に祀られたいからって、戦争したくなるまで人が荒むもんかね」

 「祀られると祭られるの違いは大きいよ」

 「どちらにしろ、彼らの支持を得るには、手柄を立てて、振り分けるしかない」

 「そんなの無理だろう。日本の国力は限界にきている」

 「もう、全将兵を養っていられない」

 「それはそうと、第四機動部隊は、暗号で罠を仕掛けたんだよな」

 「ああ・・・」

 「それは・・・つまり・・・91式印字機と97式印字機が破れていると考えてもいいのだな」

 「まぁ あんな僻地にイギリス東洋艦隊が集結すること自体、異様なことだからね」

 「新しい暗号を考えなければ、作戦不能だな」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 第四機動部隊がイギリス東洋艦隊を壊滅させたことでインド洋はガラ空きとなっていた。

 シンガポール

 「・・・では、しばらく本土で休養を取れと?」

 「第四機動部隊は、十分な戦果を上げた」

 「しかし、本艦隊は、比較的整備が新しく、本格的な修理は・・・」

 「いや、内地の戦意高揚もあるし」

 「ここは、戦艦部隊が配備される」

 「戦艦部隊では、アメリカ機動部隊の餌になるのでは?」

 「いやいや、防衛的なもので、インド洋に出ていくとしても、通商破壊程度だ」

 「第4機動艦隊は、休養を取った後、戻ってくるといいだろう」

 「はぁ〜」

 

 

 日本の工場

 Ka31 イソトフ製TV3-117VMAR ターボシャフトエンジン 1633馬力×2基

 Ka54 クリーモフ製TV3-117VMA ターボシャフトエンジン 1660馬×力2基

 どちらも同じ規格で違う工場で作られたものだった。

 「TV3-117VMA。最大2400馬力、離昇馬力2200馬力、通常馬力1600馬力だ」

 全長2055mm×全幅660mm×全高728mm 乾燥重量295kg 耐久時間7500時間、

 馬力は、大きく、改良すれば、航空機エンジンとしても使用できた。

 「ターボシャフトエンジンか。軽量なくせに、とんでもないエンジンだな」

 「こいつを2基連結させてるのが信じられんよ」

 「日本の栄21型は?」

 「1130馬力。高度2850mで1100馬力。高度6000mで980馬力・・・」

 全長1630mm×直径1150mm 乾燥重量590kg 耐久時間

 「作れたらなんとかなりそうなんだがね」

 「複製は無理だな」

 「劣化版でいいから作って欲しいらしいよ」

 「劣化も何も・・・ガスタービンなんて・・・羽(ファン)が熱で溶ける」

 「設計が僅かでも狂ってたら即燃えるな」

 

 

 呉

 日向の改造が進んでいた。

 5番砲塔、6番砲塔が剥がされ、ヘリ搭載可能な飛行甲板が設営されていく、

 航空戦艦への改造は、露鳳の影響が色濃く、改造の着手も早かった。

 

 

 リンガ泊地に戦艦部隊が集結しつつあった。

 戦艦部隊

 大和、武蔵、長門、陸奥

 榛名、霧島、金剛、比叡、

 伊勢、扶桑、山城

 天龍、龍田

 球磨、多摩、北上、大井、木曾

 長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒、阿武隈

 川内、神通、那珂

 夕張

 初春、子日、若葉、初霜、有明、夕暮、

 吹雪、白雪、初雪、深雪、叢雲、東雲、薄雲、白雲、磯波、浦波

 綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、狭霧、朧、曙、漣、潮

 暁、響、雷、電

 

 大和 艦橋

 「修理改装が多く、集結率は3割です」

 「まだ霧鳳の解析が進んでいないというのに早過ぎる修理改装だな」

 「霧鳳の技術の本格的な導入は、新型艦からになるかと」

 「旧式艦艇は、試しか・・・」

 「しかし、来たのはいいものの、翼無き艦隊ではな」

 「千代田と千歳が居残るはずです」

 「それに大和と武蔵は維持費が高くつくので給油しやすい南方配置は悪くないですよ」

 「まぁ トラック配備よりましだろうがね」

 「使いにくい軍艦です」

 「国力の割にな。日本海軍の過ぎたるもの大和、武蔵と言えるな」

 「ですが過ぎたモノでも、霧鳳は使えますよ」

 「そうだな」

 「例の島は、まだ使えるのかね」

 「どうでしょう。サンポール島は、なにもない島ですし」

 「第四機動部隊は、一時的な作戦居留地として利用しただけのようです」

 「だが、漏れつつあった霧鳳の機密を利用して誘き寄せたのはいい手だ」

 「島をそのまま使えば、アメリカ機動部隊を誘き寄せられるのではないか?」

 「アメリカ機動部隊は、空母5隻に達します」

 「第一、第二機動部隊を合わせても互角。罠ごと食い破られるのでは?」

 「しかし、僻地に何かあると思わせるのは、いい手だと思うね」

 「現場は、霧が多く、艦砲射撃で壊滅させられる恐れもあるとか」

 「それは、困るな」

 「しかし、なにもないので、ドイツ潜水艦の基地としても使えるかと」

 「そうだな。霧鳳の噂がアメリカにも伝わっているとしたら」

 「アメリカ海軍も気になって仕方がなくなるはず」

 「適当な罠さえ、仕掛けられるなら・・・」

 「日本海軍将校はせっかちで堪え性がありませんから、待つのは苦手ですよ」

 「苦手でもやってもらうしかないだろう」

 

 

   

 この島に何かを置くとしたら、豪州遮断の水上機基地、潜水艦基地といえた。

 もっとも、湾は浅く、駆逐艦や潜水艦でさえ使えない。

 一時的な使用なら堪えても、

 恒久的に使うなら大規模な浚渫をしなければならなかった。

 作戦後、日本軍は引き揚げ、

 その後、アメリカ巡洋艦ノーザンプトン、チェスターがサンポール島を調査したものの、

 日本軍の基地があった痕跡のほか、なんら発見されるものはなく、撤収していた。

 この時点で、イギリス東洋艦隊は、日本第四機動部隊の姦計に嵌まったと認定され、

 アメリカ海軍は、興味を無くしていた。

 

 

 ニューブリテン島

 ラバウル上空を幾つ筋もの軌跡が爆音とともに絡み合い、曲線を描き、

 銃撃音を響かせていた。

 ポートモレスビーのアメリカ・イギリス軍の航空戦力は日増しに大きくなり、

 ラバウル航空部隊は、迎撃戦に明け暮れていた。

 アメリカ軍がソロモン諸島に上陸し、飛行場が建設されると、

 日本の豪州通商破壊作戦は、狭められてしまう。

 降下したP38ライトニングの機銃掃射が施設をズタズタにしていく、

 アメリカの国力は、20mm機銃と12.7mm機銃を遠慮なく地上施設に撃つことができた。

 そして、急上昇していく、

 陸軍の鍾馗が上昇しながらライトニング戦闘機の後方に回り込み、

 機銃弾を浴びせていく、

 「陸軍は、よく、航続距離の短い鍾馗を運び込めたな」

 「輸送船で運び込んで組み立てた」

 「よくやるよ」

 「無理な作戦さえしなければ、輸送船は、無事に来れるよ」

 「鍾馗は、古参パイロットより若手パイロットに人気があるな」

 「飛行時間が長くないと難しいだろう」

 「いや、空中戦に拘らなければ大丈夫のようだ」

 「しかし、日本機動部隊の方が強いのにソロモン諸島に上陸するなんて、アメリカも勇気あるな」

 「第四機動部隊みたいに攻撃を仕掛けたい」

 「零戦に航続距離があるからって、こちらから行くな」

 「誘き寄せないと駄目だと言われてるだろう」

 「しかし、こうも空襲されてばかりだとつらい」

 「だが、地表で戦果を確認しやすいし、パイロットに戦果を偽証されなくていい・・・」

 零戦がF4Fワイルドキャットの後方下に回り込んで、銃撃。

 片翼を捥がれたワイルドキャットが黒煙を棚引きながらジャングルに落ち爆発する、

 「・・・それより、ヘリコプターのエンジンは、まだ模倣できないのか?」

 「無理だって言っただろう」

 「何とかしろよ」

 「いや、そういうレベルのエンジンじゃないから」

 「だから、なんとか・・・」

 「おまえ、一度、工場に行って部品を比較してみろ」

 「んん・・・・」 ぶっすぅ〜

 

 

 ドイツ帝国

 ドイツの資源は日本より多く、国力で勝り、それだけ余裕があった。

 しかし、そのドイツでさえ、総合的な生産力で連合国に劣って焦燥感が大きく、

 次第に追いつめられ不利な状況へ追いやられていた。

 ベルリン

 「スターリングラードはまだ落ちぬのか」

 「はい」

 「そういえば、日本で奇妙なことが起きたと聞いたが?」

 「それが、妙な軍艦が突如、日本列島の太平洋沖に出現し」

 「日本海軍は、その艦を拿捕したと」

 「妙な軍艦とは、どこの国の軍艦だ?」

 「それが、まったく不明でして、この世界のものではないかと」

 「・・・・それは、確認されたものなのか?」

 「はい、日本駐在大使は、港のそれを見たと報告してますし」

 「見たこともない二重反転ヘリコプターと報告しています」

 「同様の報告を武官から得ています」

 「んん・・・」

 「例のイギリス東洋艦隊壊滅も、その機密に近付こうとして起きたとか」

 「ブラフの可能性もあるが、日本人らしくないな」

 「ですが・・・」

 「分かった。日本に潜水艦部隊を派遣しよう」

 「どこで沈めても連合国の船が沈めば、イギリスへの輸送は滞る」

 「・・・・」

 「なんだ?」

 「日本側の報告ですが」

 「11月にスターリングラードでソビエト軍の反撃があるかもしれないと」

 「・・・・」

 

 

  改キエフ型航空巡洋艦バクー

   排水量38000t/満載排水量45500t

   全長273.1m(水線長242.8m)×全幅53m(水線幅31m)×吃水8.2m

   飛行甲板 全長192m×20.4m

   200000馬力 速力32.5kt 航続距離18kt/7590海里

   乗員1615名

   AK100  70口径100mm単装砲2門 (60発/分 初速880m/s 射程21000m)

   AK630  65口径30mmCIWS 6束8基 (83発/秒 初速900m/s 射程4000m)

   カモフKa54(5機) カモフKa31 (40機)

 複製困難な兵装を取り除き、

 全通型空母への改装がされ、艦載機の格納庫を押し広げられていた。

 最大の戦力は邪魔になるほど大きな艦橋に付属していた。

 対空レーダー、火器管制レーダー、航空機管制レーダーは、世界最高峰であり、

 日本海軍は、これらを機能的に運用できさえすれば最強の軍艦を手に入れたことになった。

 CIC 関係者たち

 「しかし、凄い性能だな」

 「同じモノを作れたら無敵の艦隊になるな」

 「最初に言っとくが無理だそうだ」

 「改装は?」

 「それが装甲が薄いくせに頑丈で手間取ってるよ」

 「備え付けられている精密機械のモニターの表示だと、原子共有結合が積層されているらしい」

 「はぁ?」

 「研究者によると、時空が入れ替わった影響で位相振動を起こしているかもしれないそうだ」

 「また適当なこといえば、信じてもらえると思ってるんじゃないか」

 「向こうとまだ繋がってる可能性もあるから、出現地点に軽巡を派遣してるよ」

 「・・・しかし、どこから来たんだろうな」

 「書類はインクの剥離が進んで、ほとんど読めなくなっていたが西暦2000年以降らしい」

 「じゃ 未来か。現物を見ないと信じられないな」

 「弾薬の類があればな」

 「凄いのか?」

 「そりゃもう、モニターが信じられんよ」

 「意図的に弾薬を降ろしていたということか」

 「テスラコイルと精密機械がいたるところに置いてあったから、何かの実験をしていたようだ」

 「その実験で過去に?」

 「のようだ」

 「おかげで日本は一息か」

 「兵器だけじゃ ハードルが高くなるだけだ。一息にも満たないね」

 「それは、使いようだろう」

 「第四機動部隊なら、どう使う?」

 「他の艦隊と違って、第四機動部隊は潰しが効きますからね」

 「何か戦局を有利にできる算段があるかね?」

 「また、最重要機密をダシにして敵を誘き寄せるなど売国行為と言われそうですな」

 「まぁ かなり漏れていたとしても、戦果を上げたら、やっかむ者が現れるさ」

 「敵より味方のヤッカミの方が怖いですかね」

 「君は権謀術数は嫌いだからな」

 「・・・軍艦を何隻か捨てる気になれば、何とでもなるでしょう」

 「捨てる・・・」

 「し、しかし、武運拙く撃沈されるなら諦めがつくが、捨てるのは・・・」

 「それが事勿れな日本型将校の限界・・・ですかね」

 「まぁ 例外的な場合もあるだろう・・・」

 「それと・・・」

 「・・・お前・・・外道・・・」

 「提督」

 「なんだ」

 「モニターに映ってる、露鳳の戦略目標なのですが・・・」

 何の変哲もない過疎地が戦略目標として映され、

 ロシア語で表示がされていた。

 「なんでこんな場所が、戦略目標なんだ?」

 「さぁ・・・」

 日本の中国大陸の開発が加速していく、

 

 

 北緯34度、東経148 九十九里浜から760kmの洋上、

 17830t級護衛空母

  大鷹(180.24m×22.5m)、冲鷹(180.24m×22.5m)、雲鷹(180.24m×22.5m)

 13600t級護衛空母 海鷹(166.55m×21.9m)、

 17500t級護衛空母 神鷹(198.34m×25.6m)、

 防潜網が周囲を覆い、

 5隻の護衛空母モドキ、10000t級越えの大型船1隻が洋上で連結されつつあった。

 そして、連結されつつある巨大なプラットホームに観覧車モドキが建設されようとしていた。

 ある者は、愚かな連環の計と呼び、

 ある者は、壮大といった。

 それは 暗号名 “扉” と呼ばれ、通常であれば、偽物と一笑にする。

 しかし、日本に出所不明の巨大航空巡洋艦が出現し、

 高性能ヘリコプターが飛ぶようになると真実味が増してしまう。

 「おーい 波濤対策はしっかりな〜!」

 「はい、周囲の海中に網を張ります」

 「この護衛空母5隻を捨てることと、観覧車が、お前のいう手か?」

 「そう、アメリカ軍をミスリードさせて、この即席洋上飛行場を攻撃させる」

 「まさか」

 「他の場所を攻撃されるより対処できるでしょう」

 「しかし・・・」

 「完成すれば全長600m。全幅60m。あと4隻も足せば1000mはいけるな」

 「輸送計画がおじんだ」

 「アメリカ艦隊をこちらに引きつければ他で被害が減る」

 「あと、周囲に噂されているコンクリート船を配置することもできる」

 「大きく見せられるなら何でもいいからな」

 「問題は、アメリカ軍を時期早々で攻撃させる方法かな」

 「どんな方法を?」

 「日本が別の世界から援軍を得ようとしている」

 「そんな嘘デタラメを・・・」

 「“露鳳” は現実ですよ」

 「・・・それで慌ててアメリカ軍が攻撃して来ると?」

 「日本の本土から離さないといけませんし、この距離がギリギリでしょうね」

 「あとは、燃料不足で日本艦隊が動けないと言った情報を流せば、来るでしょう」

 「そ、それは、事実ではあるが・・・そんなに酷いわけじゃないだろう」

 「露鳳という現実と、異世界の援軍という嘘」

 「無資源であるという事実と、燃料が足りず軍艦を動かせなくなったという嘘」

 「事実ほど、信じる根拠になるでしょうね」

 「しかし、本当に、そんな嘘を・・・」

 「手品は、種も仕掛けもある」

 「手品師自身は、呆れるような嘘でも他人が見れば驚きますし」

 「日本人であれ、アメリカ人であれ、信ずる根拠があれば信じますよ」

 「それにアメリカ人は、日本軍を遅れた民族と思い込んでますから、侮って来るでしょう」

 「アメリカ人が人が良くて信じやすい性格ならいいなぁ」

 「怖いのは、こちらの予想を上回る戦力をアメリカが投入してきたときですよ」

 「アメリカは、それだけの国力はある」

 「んん・・・・しかし、飛行甲板が広くなると陸軍機が・・・」

 「そんな日本が危ないというのに、陸海軍が協力せずに何をするんです?」

 「セクショナリズムなんて、どうでもいいでしょう」

 「世の中は、お前みたいなやつばっかりじゃないんだよ」

 「それは、そうと、戦艦部隊がサンポール島を使おうとしてるが?」

 「まぁ あちらに気を取られてるなら・・・」

 「こちらのアメリカホイホイ仕掛けが完了するまで見つからないでしょう」

 「お前、ネーミングだけは、三流だな」

 

 

 

 日本艦隊がサンポール島の周辺海域を警戒し、

 大発で物資が荷揚げされていく、

 日本軍将兵たち

 「柳の下にドジョウが二匹いると思うのが人間の性かね」

 「規模を大きくすれば成功するだろうなんて考えてるんだよ」

 「いるんだよな。膠着した思考の持ち主は新しいことを考えられないからね」

 「それで成功したって、馬鹿にされるだけだぜ」

 「だけど、今度は陸軍から、ドイツ潜水艦までかよ」

 「俺にも戦果を寄越せじゃないのか」

 「ドイツもイギリス戦艦戦艦5隻撃沈がよほど、嬉しかったんだろうな」

 「そりゃ 旧式戦艦でも5隻だからな」

 「しかし、食料はどうするんだ?」

 「南氷洋でクジラ狩りだと、漁船が来てたぜ」

 「こんな寒い海に、クジラがいるのかよ」

 「さぁ 希望的観測だろう。馬鹿上官には付き合いきれん」

 「「「あははは・・・」」」

 

 

 

 アメリカ合衆国 白い家

 煙草の煙が室内に漂う。

 ルーズベルトは、紙巻き煙草、

 チャーチルは、葉巻から煙を出していた。

 マッカーサー将軍は、格下らしく、パイプを弄ぶだけで我慢している。

 こと、問題が国力の及ばない個所に来るほど煙の量は増え・・・

 「どうやら、日本で超自然的なインチキが行われたらしい」

 「東洋艦隊の壊滅と、日本のX艦は関連性がないよ」

 「・・・・」 むっすぅ〜

 「第四機動部隊に騙されて、ノコノコ出かけて騙し討ちされるとはな」

 「おかげでいい迷惑だ」

 「アメリカが空母を二隻、インド洋に配備してくれるだけでいいだろう」

 「はあ? どの口だ。そんなことを言える口は、どの口だ」

 「・・ぅ・・ぅ・・・ぅ・・・」

 「この口か? この口か? あー」

 「・・ぅ・・ぅ・・・ぅ・・・」

 「北太平洋に2隻、南大西洋に2隻、修理と補給に1隻」

 「太平洋に5隻しかない空母をインド洋に回せるか」

 「インド洋を守れずには、我々は勝てませんぞ」

 「・・・日本のX艦は、存在するのかね?」

 「情報源は多様多彩で作為的に流しているとは思えない」

 「X艦の総トン数は?」

 「45000t級だそうだ。物資の流れから裏が取れてる」

 「例の新型戦艦なのでは? 確か2隻建造していたはず」

 「X艦は、そのどれとも違うよ」

 「だいたい、200km/hで飛ぶヘリコプターなど荒唐無稽すぎてる」

 「問題は、空白地帯となったインド洋だ。戦力を埋めなければならん」

 「・・・一度に戦艦5隻を撃沈させられるなど、ものすごい間抜けぶりだな」

 「だからX艦のせいだ」

 「最近の情報では、日本の北海道に異世界に通じる扉が作られつつあるそうだ」

 「直ちに総攻撃を加えるべきだ」

 「そんな戦力はないよ」

 「船ならあるのでは?」

 「上陸作戦に使う船は、通常の船舶と少し違うのだ」

 「ソロモン上陸作戦では、手間取ったからな」

 「ましてや敵前上陸など、死にに行くようなものだ」

 「将兵を無駄死にさせれば、落選決定だよ」

 「それと、朝鮮半島で何か動きがあるようだが?」

 「朝鮮半島がどうなろうと、日本を降伏させれば解決するだろう」

 「しかし、X艦の問題の方が深刻だよ」

 「もう少し、情報収集してはどうかな、インド洋と同じ、デマかもしれんし」

 「本当にデマなのか?」

 「はぁ?」

 「日本艦隊は、あの島に戻って基地を建設してるぞ」

 「なにもないところだ。巡洋艦2隻で確認させた」

 「では、なぜ基地が建設されようとしてるのだ?」

 「いつ確認した?」

 「二週間前だ」

 「潜水艦を調査に向かわせたら、日本軍が島にいて上陸できなかったよ」

 「「「・・・・」」」

 「例の海域から電波の発信を確認している」

 「「「・・・・」」」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 タイムスリップ系架空戦記です。

 改キエフ型航空巡洋艦バクーは、どの世界から来たのでしょうか、

 史実でしょうか。

 国防戦記の外伝でしょうか (笑

 それとも・・・

 マッドサイエンティストの無責任ぶり、やりっぱなしは呆れますが、そんなものでしょう。

 元祖マッドサイエンティストのアインシュタインもそんな感じです (笑

 核戦争には年少のころからビビらされました。

 いや、マジで、

 全然、恨んでませんけど。

 もちろん、タイムマシンを持ってても、やったりしません (笑

 

 

 日本は、無事にアメリカをミスリードさせることができるでしょうか、

 アメリカホイホイにミスリードさせるには相手に侮られる必要があるのですが、

 逆に恐れられ、手強いと思われてたりです。

 

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第01話 20XX年 『モノは試しで・・・』
第02話 1942/04 『それは、神風とともに』
第03話 1943 『アメリカホイホイ』