月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 

 第04話 1944 『ラバウル要塞の攻防』

 ラバウル

 アメリカ軍機の攻勢はラバウル沖海戦以後、低迷していた。

 しかし、それは、増強するための温存のためであって、

 ラバウルへの攻撃を諦めたわけではなかった。

 日本軍もラバウルの要塞化を推し進めており、

 レーダーなどの装備を整備し、対抗していた。

 ソビエト製のレーダーは、あまりにも高度なため模倣すらできなかったものの、

 試行錯誤すべき方向性を定め狭めることができた。

 日本陸海軍の電子戦術に対する認識とセンスは、加速度的に早まり、

 フェーズドアレイ型のレーダーサイトを山頂に配置させる。

 四方を固定して監視し、首を振るアンテナ型でないことから、

 アメリカ軍から遅れているとみられたレーダー監視装置は、より早く発見するためであり、

 アメリカ航空部隊の偵察と奇襲は、ほとんどが失敗させられていた。

 

 ポートモレスビーのアメリカ航空部隊は、大損害と捕獲戦闘機への対処が立たないことから、

 ラバウル基地への直接攻撃を停止、

 B24リベレーターと潜水艦をニューブリテン島の北方を周回させ、ラバウル封鎖を行った。

 しかし、日本は、周辺の島々にレーダー基地を建設し、

 駆逐艦の大砲を剥がしてレーダーを設置、

 さらに艦底にソナーを設置し、曳航ソナーを垂らして、哨戒させていた。

 レーダーで追跡されたB24リベレーターは撃墜され、

 ソナーで発見された潜水艦も撃沈されるとアメリカ軍は窮した。

 日本軍は、連合軍でX艦の存在が危ぶまれるころから戦術が多彩になり、

 洗練され、変化していた。

 

 

 深夜のラバウル上空

 そして、双発機2機が日本の哨戒圏を突破していく、

 「・・・ルーク少尉。真っ暗で静か過ぎるぞ」

 「迎撃もされてないし、航法を間違ってないだろうな」

 「まさか、僚機もいるし、ちゃんと計算してるさ」

 「ラバウル要塞は、どうなってるかな」

 「気を付けてくれよ。偵察機が何機も撃墜されているらしい」

 「この機体は別格だよ。日本のレーダーに負けることはない」

 「ん・・なんか、妙な無線が入ってるな」

 「録音しておけ」

 「さて、吊光弾を落として撮影もするか」

 「ちゃんとラバウル上空だろうな。対空砲がないじゃないか」

 「真っ暗だから、見つからないと思っているんだろう」

 

 100式司偵4機は、地上の無線によって誘導されていた。

 そして、暗号に誘導されるままに飛行して、

 「!? おっ 双発機・・・」

 不意に目の前に現れた黒塗りの夜間戦闘機を撃墜してしまう。

 100式司偵が撃墜したのは、P61ブラックウィドウであり、

 アメリカで開発されたばかりの最新鋭の夜間戦闘機だった。

 それが日本の夜間戦闘機によって撃墜されたことは脅威であり、

 対日作戦を躊躇させる。

 

 

 そして、日本軍は、戦力の温存を図ろうとするアメリカ軍を刺激する。

 ラバウルは、難攻不落の要塞として、アメリカ軍の前に立ち塞がり、

 Uボート基地としても機能しはじめる。

 そして、アメリカ軍の攻勢を強制するかのような工事が進められていた。

 ディークオブヨーク島は、ニューブリテン島とニューアイルランド島に間に位置する島だった。

 日本軍は、その島に巨大な側溝を掘り、埋め立て、周りをコンクリートで囲み始める。

 難攻不落のラバウル要塞をさらに難攻不落にする工事だった。

 イギリス海軍のコマンド部隊が潜水艦でニューブリテン島から上陸し、

 高台を目指していく、

 「いいか、高台に上がって、ラバウルの様子を探る」

 「ソロ中尉・・・」

 「日本軍が何をしているか調べるんだ・・・」

 「ソロ中尉・・・」

 「なんだ。五月蠅い・・・」

 ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ

 「手を上げろ」

 日本の守備隊に捕らえられ、

 「残念だったな。どうやって来たか吐いてもらおうか」

 「「「「・・・・」」」」

 コマンド部隊は日本軍に連行され、

 !?

 「ぐぅ・・・」

 不意の射撃と弓矢で日本軍将兵が倒れ、

 乱闘が始まる。

 「大丈夫か?」

 「味方か?」

 「アメリカ陸軍航空部隊だ」

 「おや、植民地に航空隊なんてあったか?」

 「いえ、農地しかなかったはずです、サー」

 「・・助けるんじゃなかったよ」

 「この未開人たちは、なんだ?」

 「日本軍が大っ嫌いな、お友達たちだよ。ナイフと交換して仲良くなった」

 「そういえば、むかし、この近くに伝道所があったらしいな」

 不時着した連合軍パイロットと合流し、高台に上がる。

 「ルーク少尉。あれを見ろよ」

 「・・・何だあれは?」

 「何か工事をしてるな」

 「ああ、ヤバそうなものだ」

 「ドックだろう」

 「あんな小島にドックを建設しない」

 「それにかなり深いというか、海面より高いドックだな」

 「それも出口のソロモン海に向かって、2つも・・・」

 「何だと思う?」

 「巨大な砲塔を置くんじゃないのか」

 「いや、巨大クレーンを建設できるような場所じゃなさそうだし・・・」

 「あれだ・・・」

 2隻の大型輸送船が向かってきていた。

 「なんだ。あの馬鹿でかい砲塔を乗せやがって」

 「まさか・・・」

 「戦艦の砲台を商船に載せて、そのまま埋め立てる気らしい」

 「そんな・・・」

 「出入り口を機雷封鎖するか、無力化して、南のワイド湾から上陸して北上するしかないというのに・・・」

 「しかし、あんな大きな大砲を商船に載せて撃ったら引っくり返って沈没するだろう」

 「埋め立てて、船の中にコンクリートを流し込めば済むだろう」

 「砲塔の設置部は?」

 「砲塔は、ただ載ってるだけじゃないんだぞ」

 「コ、コンクリートが衝撃に耐えられるもんか、壊れるに決まってる」

 「じゃ 偽物だろうか」

 「・・・し、しかし、砲塔を載せられるなら、それだけの強度が商船にあるということか」

 「特殊艦かもしれないな」

 「じゃ 報告しないと・・・」

 

 ニューブリテン島 ラバウル

 設営部隊が南に向かって鉄道を施設していく。

 それが簡易鉄道でもニューブリテン島の防衛で重要だった。

 鉄道は、墜落機の獲とくと、パイロットの救出で価値が高く、

 またラバウルを防衛する前衛の飛行場設営でも重要だった。

 流通の確保は、ラバウルの生産力拡大に繋がり、

 生産力の拡大は、自給自足の増大となって防衛力に跳ね返った。

 そして、ラバウルに配備されたKa31は、5t近い機材を山頂に運び込む。

 そこは、アメリカ爆撃部隊の監視のための電探基地であり、

 砲撃観測所、対空砲、野砲の配置所でもあった。

 重いと師団に嫌われる90式75mm野砲(射程14000m)が1.4t、

 91式105mm野砲(射程10800m)でさえ1.5tだった。

 そして、96式23.5口径149.1mm野砲(11900m)でさえ、4.14tに過ぎず、空輸可能だった。

 高地に置かれた野砲ほど厄介なものはなく、

 同じ程度の野砲100倍を低地に置いても、容易に狙い撃ちにする。

 そして、高台に配備された野砲が大口径になるほど手に負えないものになっていく、

 また、96式25mm3連装機銃(射程3000m)は1.8tであり、

 飛行場を機銃掃射しようと低空に降りた戦闘機は恰好の標的となった。

 また、海軍の3年式40口径76.2mm高角砲(10800m)は3.3t。

 短二十糎砲(射程6500m)は3.75t。

 短十二糎砲(射程5300m)は1.8tで空輸可能だった。

 89式40口径127mm高角砲(14622m)21tも分割すれば空輸可能であり、

 そして、ヘリコプター空輸の供給で鉄道は有用だった。

 陸海軍将校たち

 「大砲と対空砲を全部、高台に持っていくつもりか?」

 「どうせ飛ぶのに何も運ばない手はないさ。いい飛行訓練になるだろう」

 「気前がいいな」

 「鉄道が敷かれれば輸送を維持できるだろうが、ヘリは、いずれ、飛べなくなる」

 「試作中のモドキ、ヘリじゃ空輸は難しくなるし、重いモノを運ぶのなら、今のうちだな」

 「ニューブリテンが強力な要塞なら航空戦に負けてもアメリカ軍の反攻を食い止められるだろう」

 「もっと早く、動いてくれたら、今頃、ポートモレスビーを落としていたんだがな」

 「ポートモレスビーを落とせても補給難に陥るだけだよ」

 

 

 ポートモレスビー アメリカ航空基地

 ラバウルの地図の上で、上陸作戦のシミュレーションがされていた。

 前回の直接ラバウル攻撃の失敗で、

 ラバウルに面した海岸に上陸することが危ぶまれていた。

 ラバウル航空隊を無力化し、出入り口を封鎖し、

 ワイド湾から上陸し、直線距離で40km北上した先のラバウルまで進撃する。

 しかし、現実的な距離ともなると日本陸軍将兵35000と戦いながら山岳地帯を縫っていく、

 その距離も最短で120kmの行程となった。

 そして、30kmもある海峡幅の完全封鎖は、見込みなしだった。

 希望的な観測でも苦戦を強いられる作戦だった。

 「ポートモレスビーの航空戦力は十分に強力だよ」

 「ラバウルを攻撃するのには足りない」

 「ポートモレスビーとガダルカナルを守る航空戦力はある。艦隊をインド洋に出せるはずだ」

 「日本の基地哨戒圏に機動部隊だけで突入するのは危険だよ」

 「戦力比で勝ってる」

 「ラバウル攻撃の時もそうだった」

 「中東には油田がある」

 「日本人が砂漠まで遠征できるとは思えないがな」

 司令部に士官が現れ、報告を済ませ、退席する。

 「・・・やはり、最新鋭の夜間戦闘機P61ブラックウィドウは、2機同時に撃墜されたそうだ」

 「まぁ 2機同時ともやられたのなら偶然と言えないな」

 「日本のレーダーの能力は高いと言わざるを得ない」

 「では、そのパイロットたちと、イギリスのコマンド部隊が撮影した写真だけが頼りだ」

 撮影された写真がテーブルに載せられ、

 米英の将校が頭を抱えることとなった。

 「このドックが高台を削って深いのは、パナマ運河と同じ要領で砲台を高台に上げるためだな」

 「作業は繰り返しが面倒だが、注排水ポンプと根気のある作業でできそうだ」

 「砲塔は?」

 「3連装砲塔は、既存の戦艦にないモノだ」

 「2基の砲塔は、410mm砲以上の新型戦艦のモノのようだ」

 「たぶん、430mmから460mm砲クラスだな」

 「ありがとう。実に有益な解析だ。ところで要塞砲台は本物かな?」

 「掘られた側溝は深いし、周囲の堤防も浚渫されて強化されている」

 「一応、手前のドックは、潜水艦のものだろうが」

 「周辺の作業に粗はないし、本物と仮定して、仕事をしているとしか思えないな」

 将官は行ったり来たり、

 「第一目標は、日本の航空部隊の飛行場だが」

 「第二目標は、設置されつつある要塞砲台だ」

 「いいか、何としても日本の航空部隊を殲滅し、要塞砲台を叩く」

 「コンクリートが乾くまで、まだ時間は残っているはずだ」

 「ですが、まだ、航空部隊の数が不足かと・・・」

 「だが、コンクリートが乾いてからでは、徹甲爆弾でも破壊できなくなる」

 「機動部隊にも支援させよう」

 「基地航空部隊と共同なら出撃してくれるだろう」

 「陸上を通過すると対空砲火が激しいと思われます、海上を飛ぶべきかもしれません」

 「・・・ドラゴンの腹に沿って北上し」

 「ドラゴンの口から入って、要塞砲を爆撃しながら通過し、飛行場も爆撃する」

 「その後、ビスマルク海側から帰還する」

 「爆撃機は可能ですが、戦闘機の負担が大きくなるかと」

 「それに迂回するほど、日本は、迎撃しやすくなるのでは?」

 「では、ニューブリテン島上空を縦断するデット・コンバットボックス隊と」

 「海沿いを進むブルー・コンバットボックス隊に分けよう」

 「日本の航空隊は、デット・コンバットボックス隊に気を取られ」

 「ブルー・コンバットボックスは、奇襲になるだろう」

 「機動部隊のF6Fをブルーコンバットボックス隊に付ければいい」

 「問題は、日本の機動部隊では?」

 「全部、戦闘機にしてしまえば艦隊防空はできるだろう」

 「それに海軍は、VT信管に自信を持ってるらしいからな」

 「まだ、VT信管の数が揃っていないのでは?」

 「それに機動部隊は高速戦艦が不足して、夜間の前進を恐れてるのでは?」

 「アイオワ型戦艦が4隻あるはずだ」

 「旧式戦艦1隻に新型戦艦6隻が撃沈されるのでは足りませんよ」

 「このまま、攻撃を遅らせれば、ラバウル要塞は難攻不落になる」

 「陽動でもやってもらおう」

 

 

 ポートモレスビー基地

 B17、B24爆撃機、P38ライトニングが滑走路に並んでいた。

 「ルーク少尉。行くのか」

 「ああ、撃墜された仕返しをしてやる」

 アメリカ爆撃部隊の大編隊がスタンレー山脈を越えていく、

 この段階で、ニューギニア島の日本軍から第一報の通報がラバウルに出される。

 780kmの距離を3時間ほど掛けて飛行する行程は、パイロットに疲労を強い、

 ラバウル航空隊に出撃の準備をさせた。

 アメリカ軍機の大編隊は、海峡を越え、

 ニューギニア島上空をラバウルに向かって進む、

 ニューギニア島には、対空監視塔が各地にあり、通報がラバウルへと送られていく、

 そして、ラバウルに基地にはもう一つの脅威が迫っていた。

 アメリカ機動部隊が夜明けとともに350kmまで近付き、

 F6FヘルキャットとSB2Cヘルダイバーを発艦させていた。

 基地航空部隊と時間を合わせていたことから、ラバウル手前の上空で合流する予定だった。

 

 

 マーシャル沖

 第一、第二、第三、第四機動部隊

 空母 加賀

 「なんでこんなところに・・・」

 「機体を全部、ラバウルに置いたからだろう」

 「飛行甲板が寂しいな」

 「まぁ 敵の手に乗った振りをするのも一興だろう」

 「しかし、露鳳は、本当にアメリカの暗号を解いてるんだな」

 Ka31が対潜哨戒機を引き連れ、海上に爆弾を投下していく、

 アメリカ軍の陽動作戦は、潜水艦部隊の群狼作戦であり、

 アメリカ海軍は、潜水艦の6割をこの作戦に投入していた。

 日本機動部隊は、三式指揮連絡機、97式艦攻、99艦爆を搭載して周辺海域を捜索し、

 虱潰しにアメリカ潜水艦を沈めていた。

 第一機動部隊

 加賀 艦橋 

 「アメリカ機動部隊を攻撃したいな」

 「無理だと思うよ」

 「護衛艦の対空砲火で第二、第三機動部隊の97艦攻は壊滅したんだからな」

 「新型の天山なら・・・」

 「とりあえず、潜水艦狩りでいいじゃないか。99艦爆と97艦攻の方が操縦しやすいし」

 「三式指揮連絡機は、いい練習になる」

 「だけど、露鳳は、翼幅15mもある三式指揮連絡機を載せられるんだからな」

 「これからは、大型サイドエレベーターの時代か・・・」

 

 

 第四機動部隊

 露鳳 艦橋

 「やはり暗号解読通り、アメリカのマーシャル上陸作戦は陽動だったな」

 「それで、陽動に乗った振りで、艦載機をラバウルに移して」

 「対潜水艦狩りとミクロネシア増強作戦ですか?」

 「今のうちにマーシャル方面の陣地を強化しておくべきだろう」

 「マーシャルは切り捨てにするのでは?」

 「切り捨てにするにしても、あっさりくれてやることはないだろう」

 「戦訓を得られるし」

 「来るとわかってるなら、機雷や地雷を敷設できるし、地下壕を深く広げることもできる」

 「地雷はともかく、機雷は戦果確認が難しいですから嫌われてますよ」

 「だが飛行機より簡単に作れるよ」

 「それに基地が近いなら航続距離の短い呂号でも待ち伏せできる」

 「やはり、マジェロ島に来ると?」

 「環礁が大きな島だからな」

 「しかし、地下壕を掘ると海水が吹き出すそうです」

 「コンクリートは?」

 「これまでに鉄板・鉄骨・鉄筋4000t。セメント12000tを送ってたので少しは足しになると思います」

 「大本営は思ったより、気前が良いですね」

 「アメリカ軍の初上陸作戦の損失が大きいほど、次の作戦を躊躇させられる」

 「無理もするよ」

 「しかし、本気で防衛するなら、マーシャルより、ポナペ、トラックからだろうな」

 

 

 

 ラバウル航空基地

 陸海軍パイロットが次々と愛機に飛び乗り、

 「全機、出撃!」

 零戦と鍾馗が次々と滑走路から飛び立っていく、

 ふわりと浮かび上がる零戦と違い、鍾馗の滑走は長くかかった。

 零戦と鍾馗は、上昇すると100式司偵に誘導されて一旦、基地上空を離れていく、

 

 鍾馗は、アメリカ爆撃部隊の後方上方に付くと目標を定め急降下して銃撃する。

 アメリカ爆撃部隊は、1000機以上の機体でコンバットボックスを編成し、

 相互支援しつつ突進しているため、背後を取られても戦うことができた。

 しかし、戦闘機同士の航空戦は、背後を取られ、

 高度と速度のエネルギーの総量で負けると致命的だった。

 たちまち乱戦となり、得意のサッチウィーブが封じられてしまう。

 そこに零戦の編隊が乱入する。

 F6FヘルキャットとP38ライトニングは、零戦に内側に入り込まれ銃撃される。

 零戦は先制攻撃を受けず、数で負けていなければ、十分に戦うことができた。

 「どういうことだ。計算の倍以上の零戦がいるぞ」

 「鍾馗も多い」

 「い、いや、速い・・・新型機だぞ」

 ドイツ製1600馬力級空冷BMW801エンジン装備機を含めた試作生産中の4式戦闘機疾風と、

 ドイツ製1445馬力級水冷DB605エンジンを搭載した3式戦闘機飛燕が雪崩れ込む、

 僅か十数機の乱入でもアメリカ軍機を圧倒する戦闘機が参戦したことで、

 アメリカ戦闘機群は、慌てふためく、

 しかし、この日のアメリカ爆撃部隊は、数で圧倒的だった。

 アメリカ戦闘機は数に任せて反撃しようと日本軍の戦闘機を追いかけ、

 速度差を利用して、零戦の背後に付いていく、

 しかし、別の戦闘機がアメリカ軍機の背後に回り込んで銃撃し、撃墜してしまう。

 その瞬間、アメリカ爆撃部隊に戦慄が走った。

 味方のライトニング戦闘機が味方のヘルキャットを撃墜したのだ。

 そう、ラバウル航空隊最狂の部隊は、撃墜され、捕獲され、

 組み立てられたアメリカ軍機を集めた部隊だった。

 ライトニング、ワイルドキャット、ウォーホークがB17とB24爆撃機に迫る。

 味方と誤認した瞬間に機銃掃射を食らったB17爆撃機が撃墜されていく、

 迎撃が始まっても、アメリカ製の機体は、重防御と機銃を多数装備しており、

 コンバットボックスに突入し、被弾を恐れず、銃撃していく、

 ラバウル航空戦史上最大の戦いは、アメリカ軍機同士の大規模な航空戦も展開され、

 敵と味方は大混乱を起こした。

 もっとも、日本軍パイロットは、アメリカ軍機に乗った日本機と知っており、

 深緑に塗られた機体と、

 描かれた日の丸だけで味方機と判別するしかなかった。

 「うぁあああ」

 『It is a stupid friend! (馬鹿、味方だ!)』

 「み、味方?」

 『・・・・』

 「・・・・」 ほっ

 機銃が浴びせられ、

 「み、味方って言ったじゃないか〜〜〜」

 ヘルキャットを撃墜したライトニングが上昇していく、

 ライトニング戦闘機で低空をノロノロ飛行しているのはバカだった。

 ライトニング

 「引っかかりやがんの、練習した甲斐があったぜ」

 実質6倍の戦力で押し寄せたはずのアメリカ軍機は、味方軍機から攻撃され、

 大混乱に陥りながら、撃墜され、ニューギニア島のジャングルに落ちていく、

 アメリカ軍機は味方機が信じられなくなり、数の多さが災いする。

 日本軍機から見渡せば敵機ばかりなのに対し、

 アメリカ軍機から見渡せば、怪しげな味方機ばかりだった。

 さらに日の丸を付けたB17爆撃機がB17爆撃機を銃撃して撃墜すると、大恐慌に陥る。

 そして、基地に近付くほど、対空砲火が激しくなっていく、

 アメリカ艦艇から降ろした艦砲と40mm対空砲は、強力でB17爆撃機が落ちていく、

 まともに狙うこともできず爆弾を落とし、撤退していく。

 アメリカ爆撃部隊がラバウル上空に達する頃、

 アメリカ軍機は、半減しつつあった。

 ライトニング戦闘機の編隊が海上を低空で飛ぶ、

 陸地と違い、発見され難い代わりに神経を使い燃料も食った。

 『ルーク少尉。鍾馗に後ろを付かれた! 3機だ』

 「もう少しだ。頑張ってくれ」

 『ルーク少尉、急げ!』

 機銃掃射が僚機を撃墜し、

 ライトニング機の機体を7.7mm機銃が掠める。

 『穴だらけだな』

 駆逐艦3隻が囲むように三方から対空砲と25mm機銃を向けて弾幕を張ると、

 後方の鍾馗が退避していく、

 ライトニング機は、集束する炸裂弾と機銃の弾道の中、

 駆逐艦の上空を掠めるように突っ切って、右側の放蕩に向け爆弾を投下、

 期待がふわりと浮きあがり、

 徹甲爆弾は、砲塔に当たると大きな音を立てて弾かれていく、

 『まさか・・・』

 アメリカ航空部隊の戦略は、最初の一撃で日本軍の戦力を挫き、

 その後、100機単位の連続攻撃を行うつもりだったため、

 初っ端の総攻撃が躓くと、ラバウルの無力化は頓挫してしまう。

 

 ラバウル基地

 ラバウル航空隊が最大の戦果を上げた日、

 その日は、ラバウル航空隊最大の損失を出した日でもあった。

 日本航空部隊が可能な限りパイロットの温存を心掛けた防空戦に徹しても、

 連合国の数と量で圧倒されており、

 捕獲戦闘機を用いても天秤を戻さなければならなかった。

 日本陸海軍将校たち

 「損失は?」

 「パイロットの5分の1を失った」

 「飛行場も二ヵ所が爆撃されたが、被害は小さい」

 「機動部隊は何をしていたんだ。こんな大損害を出すなんて」

 「マーシャルがやられると思ったらしい」

 「そういえば、要塞砲台に爆弾を命中させたやつがいたな」

 「ああ、ライトニングだ。そのまま低空を全速で逃げて行った」

 「ああいうパイロットが欲しいな」

 「しかし、低空で投下したからだろう、角度が浅過ぎて弾いただけだったがな」

 「砲台は傾いてないだろうな」

 「幸運な事に水平だ。爆発してたら危なかったな」

 

 

 深緑色に塗られ、日の丸が描かれたF4Fワイルドキャットが着陸する。

 この部隊は、アメリカ製を組み立てて作られた部隊であり、

 ジンギスカン部隊といわれていた。

 その性質から、味方から撃たれることも覚悟しなければならない部隊であり、

 陸海軍共有の数少ない飛行場だった。

 パイロットたちは、地図に名前を書き、円を描いていく、

 「俺、7機落としたよ」

 「俺、5機で、ギリギリエース」

 かなり大きい円が描かれるが、

 撃墜した機体を目で追っていくパイロットは、生き残れない。

 戦闘開始前の座標を覚え、単純に戦闘時間で範囲を特定し、

 大雑把に円を描くしかなかった。

 重要なのは、戦果確認以上に、回収部隊が機体を集めに行くためであり、

 ジンギスカン部隊が存在するため、敵の部品が必要だったからに他ならない。

 ニューギニア島の山の中から集められてくる機材が山のように集められ、

 機体の組み立てと修復が進められる。

 「アメリカ軍機は、新型戦闘機ばっかりだったな」

 「ワイルドキャットは、もう勝てない気がするよ」

 「ライトニング機で爆撃機を落とせよ。20mm機銃が付いてよく落ちるよ」

 「そうだな・・・」

 「サンダーボルトが良いぜ」

 「「絶対に嫌だ」」

 P47サンダーボルトを戦闘機として認識できるもは少数派だった。

 しかし、サンダーボルトは頑丈なためか、

 拾われ集められてくる率が高く、

 燃料を馬鹿食いする巨大な機体は、滑走路に並び始めていた。

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 日本の某工場

 AK100  70口径100mm単装砲 (60発/分 初速880m/s 射程21000m)

 3式 50口径127mm砲 (10発/分 初速910m/s 18445m)

 98式 65口径100mm砲 (19発/分 初速1000/s 18700m)

 AK630  65口径30mmCIWS 6束 (83発/s 初速900m/s 射程4000m)

 96式25mm高角機銃 (2発/s 初速900m/s 射程3000m)

 工場でAK100とAK630の弾薬を量産していた。

 関係者たちが実物大の木製AK100とAK630を見つめる。

 構造的な動きだけは模倣できた。

 「まったく、話しにならない」

 「砲身命数は、まず太刀打ち不能だな」

 「真似して作るにしても、露鳳規格に合わせるか、日本の弾薬規格に合わせるかだ」

 「真似できないのが問題だよ」

 「しかし、30mm砲クラスをガトリング砲なんて・・・」

 「単純計算で、AK630、一基で、25mm機銃41門分の弾幕か」

 「射程と命中精度とベルト式を含めると、それ以上だ」

 「25mm機関砲をAK630と同じ構造で6束にすれば、12発/sになるが」

 「ベルト式にして、冷却さえ上手くいけば、もっと、連射が速くなるな」

 「ガトリング式は、場所を稼げて艦砲向きだ」

 「性能を考えるとAK630をそのまま模倣する方がいい」

 「いや、戦争中で、ラインを考えると難しいし、混乱は避けるべきだ」

 「それに弾数を考えると、25mm機銃でやる方がいい」

 「しかし、レーダー射撃で弾道計算まで無理そう」

 「真空管じゃな」

 「トランジスターは?」

 「品質がまだ安定してないな」

 「しかし、仮に物を真似できても、システムは・・・」

 「プログラムを創作できる人間も、運用できる人間もいない」

 「半手動半自動でやるしか・・・」

 「100mm砲は?」

 「65口径の100mm砲でさえ、砲身命数350発。70口径なんかドイツじゃなきゃ作れんよ」

 「話しにならんね」

 「傾向としては初速を落として、連射を増やす方が益しか」

 「しかし、目標にはなるな」

 「機構の一部を模倣して性能を上げることはできるだろう」

 

 

 アメリカ ワシントン 白い家

 男たちが集められた情報を分析していた。

 「欧州は、ドイツ軍が東部戦線へ生産拠点を移動しつつあり」

 「ドニエプル川防戦に成功している模様です」

 「ドイツ本土爆撃は?」

 「主要都市の爆撃には成功していますが、生産量は増大中です」

 「イタリア戦線は?」

 「まだ、ローマには達していません、もう一度、上陸作戦ができるのなら北上できるのですが」

 「対日戦で空母と戦艦を移動させている。無理だ」

 「対ティルピッツは?」

 「戦艦と空母を一部残しているし、イギリス航空戦力は、世界最強だ」

 「対Uボートは?」

 「ドイツ海軍は、Uボートをインド・太平洋に回航させて戦わせているようです」

 「途中で撃沈できないのか」

 「護送船団に向かってくるであれば、返り討ちにできます」

 「しかし、逃げ回るUボートを追いかけるのは、効率的ではありません」

 「だが、ドイツ潜水艦を追いかけ、護衛空母と護衛艦を太平洋に移動させなければならない」

 「そうなれば、北大西洋の護送船団は、護衛空母と護衛艦を減じて苦戦する」

 「輸送力の低下は、攻勢力の低下だ」

 「ムスタングとサンダーボルトで巻き返したというのに、量で負けると厳しくなる」

 「それより、日本の作戦能力は低下していないぞ」

 「満洲で油田を見つけたことと、中国沿岸で資源開発に成功したようです」

 「それでは、日本の継戦能力が高まってしまうではないか」

 数枚の写真がテーブルに置かれる

 「「「「・・・・」」」」

 「最近、ニューブリテンの中部で撮られたもので、日本のヘリコプターだ」

 「ほぉ〜 噂通り、ヘリコプターを実用化してるのか」

 「撮った場所で判断すると、空輸と救出で使ってるようだ」

 「X艦の日本支援は、本物の様だな」

 「「「「んん・・・」」」」

 「そういえば、我が軍の爆撃部隊が帰還中を襲われて撃墜されることが増えている」

 「もう一つ、気になることが・・・」

 「ん?」

 「日本列島から760kmほど東の海で、固定されて電波を確認しています」

 情報将校が地図を指さした。

 「確認は、電波だけなのか?」

 「例の閃光と爆発の海域ですし」

 「飛行艇と潜水艦を現地の調査に向かわせていますが」

 「いずれも行方不明、撃墜あるいは撃沈されている模様です」

 「では、空母か、大型飛行艇を遠征させ、索敵させればいいのでは?」

 「日本本土に近く、危険では?」

 「では、飛行艇の数を増やしてもいいだろう」

 「我々は、世界の法則に対し、日本軍より無知であってはならない」

 「日本が知っており、我々が知らないことがあってはならない」

 「戦果のための犠牲を惜しんでも、情報のための犠牲を惜しんではならない」

 「はっ」

 

 

 

 ベルリン

 米英戦略爆撃部隊がドイツ本土を爆撃していた。

 爆発の激震が地下壕へも伝わる。

 日本からターボシャフトエンジンの設計図が届いており、

 劣化版の現物エンジンがドイツで試運転され、

 性能向上型が試作されていた。

 メッサーシュミット工場

 技術者たち

 「日本がこれほどの基礎研究を大成させていたとは、信じられんな」

 「我々のターボプロップエンジンより50年くらい進んでるじゃないか」

 「ええ、随分成熟された基礎研究ですな。改良すべき点がほとんどない」

 「しかし・・・どことなく、ソビエト製を思わせる構造と部品だな」

 「この構造ならヘリコプター、プロペラ機、船舶、戦車だけでなく、発電機としても流用できる」

 「だいたい、まともなシャフト、ベアリング、ファンを作れないのに、なんで開発したのでしょう」

 「ドイツ帝国ならできるかね」

 「ええ、まぁ 耐久時間も伸びるはずですよ」

 「もっと早く欲しかったな」

 「ええ、一年前なら、確実に連合軍を押し返せてましたよ」

 

 

 大西洋でのUボートの戦果は低下し、損失が増えていたのに対し、

 インド・太平洋のUボートの戦果は、著しく増えていた。

 ベルリン 偉い人たち

 「また日本の支援か」

 「おかげで、エニグマが解読された事が伝えられた」

 「その信憑性は?」

 「日本が大西洋のUボート作戦の暗号無線を解読して御丁寧に作戦内容を教えてくれたよ」

 「いつ、どこどこで、給油を受けろと命令しただろうってね」

 「当たっていたのか」

 「ああ、全部ばれていたよ」

 「日本に解読されたのなら連合国は、尚更解読しているわけか」

 「やはり、X艦が怪しいな」

 「しかし、太平洋に回航させて戦果が上がるものなのか」

 「日本海軍潜水艦も通商破壊作戦に移行していますし」

 「3分の1は、こちらで自由にやれる」

 「Uボートの日本回航をもっと増やそう」

 「太平洋で輸送船を撃沈すれば、大西洋の護衛艦と輸送船が減る」

 「日本を信用できるのですか?」

 「信用できなくとも、米英ソの戦力を太平洋側へと移動させられる」

 「新型戦車の設計図は、渡したかね」

 「はい」

 「せいぜい、日本に戦ってもらって、ドイツ帝国の戦いを有利にしてもらおう」

 「工作艦型の潜水艦も建造してやれ、そして、X艦の情報をもっと引き出させろ」

 「はっ」

 

 

 東部方面 ドイツ軍占領地キエフ

 ドニエプル川の向こうは、数倍のソビエト軍が集結していた。

 ソビエト空軍のシュトルモビク機は、200km範囲の陣地を爆撃し、

 ソビエト砲兵隊の42口径76.2mm砲は、13000mの射程を持ち、

 22.7口径122mm砲は11000mを越えて着弾し、

 29口径152mm砲は、17000mの射程を誇った。

 キエフは、その射程内に収まるものの、

 兵器補修と武器生産の拠点として軌道に乗りつつあり、

 ドイツ戦闘機部隊は、キエフ上空の制空権を守り、

 ドイツ軍の砲兵隊は、ソビエト砲兵隊を川岸に近付けさせないだけの火力をまだ有していた。

 そのため、キエフが爆撃と砲撃に晒されても、一部であり、一時的だった。

 何より外堀のドニエプル川と、

 その後方に広がる内堀の縦深陣地は、ソビエト軍の進攻を躊躇させる。

 ドニエプル防衛線が危険に晒されるのは、幅300mを超える外堀の川が冬に凍る季節だった。

 砲声と爆音が響く中、

 機関車から新兵が降り、傷病兵が乗せられて帰還していく、

 ソビエト軍の戦力は日増しに増大し、ドイツ軍を圧倒しつつあった。

 ドイツ軍司令部

 「また子供が来たよ・・・」

 「学校で勉強してろって、年齢だからな」

 「頭の悪い大人が増えたら、ドイツの未来はどうなるんだろうな」

 「それより、未経験者の新兵じゃ 戦力弱体化だ。こりゃ 危ないかな」

 「今年の冬は、突破されるかもしれないな」

 「だいたい、この投げやりな攻撃」

 「ソビエト軍のスターリングラード反攻時前夜を思い出すね」

 「ウクライナの独立を支援するなら、なんとか人手を得られるんだがな」

 「総統は、その気がないようだ。それに、いまさらウクライナ人に信用されないだろう」

 「撤退の準備をしないと、駄目かもしれないな」

 「とにかく大打撃を与えて勢いを削がせないと、殲滅させられるな」

 「パンツァーファウストとパンツァーシュレックで何かと押さえられればいいが・・・」

 

 

 

 日本

 生産量を増やそうとすると資源が消えていく、

 オイルと切断油が乏しくなり、ひまし油は、トウゴマからとれた植物油であり、

 酸化し易く腐りやすく、高品質の製品は作れず、

 産業全般で、まともな製品は、心臓部だけに限定されていた。

 外国製の工作機械は消耗し、

 国産工作機械は数カ月で精度を失い、

 開戦前の精度さえ保てなくなろうとしていた。

 役に立たなくなったクズ鉄は溶鉱炉へと放り込まれ、

 再生産しようとしても、満足な機械は減少していた。

 関係者たち

 「問題はオイルかな」

 「アメリカ・ペンシルベニア産のパラフィン系は、最高峰だからな」

 「軍と工場は、酸化しやすいけど、ひまし油を使ってるらしいよ」

 「酸化って、腐るってことだろう。オイルタンク腐らせたら目も当てられねぇ」

 「まぁ 掃除が大変ってことだ」

 「北方はまだいいらしいけど、ラバウルみたいな南方は大変だそうだ」

 「ただでさえ、大変な整備士が大量にいるな」

 「輸送中に腐ったりすると悲惨だな」

 「冷房するだろう」

 生活品は急速に高くなり、軍属への配給と生活が優先され、

 犯罪率は上昇していく、

 物価高騰で物々交換は増え、

 配給の悪化から結核は増え、弱い者から死んでいく、

 国家を守ろうとした英霊の未亡人、娘、姉妹でさえ、

 体を売らなければ生きていけなくなろうとしていた。

 人の面倒などみてられない社会であり、

 建前と秩序が薄れ、

 家族でさえ奪い騙し合う世界へと変貌していく、

 食べられなくなった家族が玄界灘を渡り、半島で与えられた土地を耕す。

 しかし、実った米も国に取られ戦地へと送られていた。

 日本陸軍は、さらに米を得ようと、朝鮮人を次々と狩り出し、

 船に乗せ、インドへと送り出していた。

 関係者たち

 「行きは朝鮮人で、帰りは、南方資源か・・・」

 「日本は、いつから奴隷交易するようになったかな」

 「インド独立の立役者だろう。上手くやっていくさ」

 「どうだかな・・・」

 「どちらにしろ、日本から水飲み百姓が消えるのならいいよ」

 「中東に行けば原油があるらしいが?」

 「原油か・・・満洲で見つかった油田や東南アジアの原油より多いのかな」

 「さぁ」

 

 

 呉

 35000t級戦艦 

  富士(ワシントン)、八島(ノースカロライナー)、

  敷島(サウスダコタ)、朝日(インディアナ)、初瀬(マサチューセッツ)、三笠(アラバマ)、

 9650t級軽巡 浅間(ホノルル)、

 1850t級駆逐艦 ききょう(ウィンスロー)、ぼたん(クラーク)、あやめ(バルチ)、

 1360t級駆逐艦 ばしょう(デイル)、かきつばた(モナハン)、つつじ(エールウィン)、

 1500t級駆逐艦 しおん(ドレイトン)、あじさい(ラムソン)、

 日本国内の状況はともかくとして、

 人の将来設計を狂わせ、国内基盤を弱体化させながら捕獲艦艇の修理改装が進んでいた。

 そして、緒戦から戦い続けてきた艦艇もオーバーホールしなければならない時期であり、

 造船所の周りは、修復待ちの艦艇が並んでいた。

 関係者たち

 「いつまで、部品を待たせるつもりだ?」

 「船はあっても部品の取り合いで、使える船が少ないからな」

 「あまり沈んでいないと、こういうことが起きるんだな」

 「インドで1000隻も拿捕するからだ」

 「あれはよかったよ。得られた資源も多かったし、戦線も一息ついた」

 「朝鮮人の上陸作戦を継続しながら、南洋資源の輸入と、前線への輸送ができる」

 「しかし、まともな船乗りの方が少ないからな」

 「車にも乗ったことがない水飲み百姓が、船乗りか」

 「いきなり船酔いするから泣けてくるよ」

 「艦隊はインド砲撃で新兵を増やしてたぞ」

 「新造艦と捕獲艦が増えたから、それでだろう」

 「尖鋭化し過ぎで底辺がボロボロじゃないか。底上げしろよ」

 「底上げすると近代化できなかったんじゃないか」

 「それだって限度があるだろう」

 「兵士を取られ過ぎてるし、産業は低迷して、生活はアップ、アップ」

 「結核患者続出で、作業効率は悪化の一方だ」

 「そういえば、前線でも薬が必要らしい」

 「はぁ 本土にないモノを、どうやって前線に送るんだ?」

 「とりあえず、戦力より国力だよな」

 「・・・落石で積み荷が遅れるそうです」

 「もう、話しにならん」

 

 ドイツを出港したUボート潜水艦隊が呉に到着する。

 ドイツ海軍は、Uボートの損失増大と戦果縮小の打開策で、

 水中戦能力の高いXX1型潜水艦を開発していた。

 欧州は、港近くで空襲を受けやすく、

 強力防衛陣を突破して米英護送船団を攻撃しやすい新型XX1型潜水艦を配備し、

 根拠地の港が空襲されにくく、

 船団攻撃の襲撃しやすい太平洋に旧式潜水艦の配備の派遣を検討する。

 中型Uボートでも魚雷と人員を減らし、

 燃料と食料を増やして出港させ、途中で補給を得ることで日本の勢力圏に到達する。

 日本海軍に引き渡すことで欧州での損失を減らし、太平洋での戦果を期待したのだった。

 その中の一隻は、最新のXX1型Uボートだった。

XXI型 排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速度 航続距離 兵装 乗員 深度
海上 1621t 76.7m×8.0m×6.32m 4000 15.5kt 28700km(15500海里)/10kt 20mm連装機銃×2 57 280
海中 1819t 5000 17.5kt 630km(340海里)/5kt 533mm発射管×6 23

 Uボート 艦橋

 ドイツ軍海軍将兵たちが甲板に立って、港の一角を見つめていた。

 「すげぇ 本当にアメリカの新型戦艦6隻を捕獲してるぞ」

 「信じられん」

 「いくら夜戦だからって、戦艦1隻で待ち伏せて戦艦6隻片付けるなんてないだろう」

 「「「「怪しい・・・」」」」

 「あの戦艦だろう、日向って?」

 「「「「古ぅう・・・」」」」

 「総統自身が、ラバウル夜戦の事実確認して来いって言ってたのは、このことか・・・」

 「旧式のUボートを持ってこさせて配備したのも、このためか」

 

 

VIIC型 排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速度 航続距離 兵装 乗員 深度
海上 769t 66.5m×6.2m×4.7m 2800 17kt 15742km(8500海里)/10kt 20mm連装機銃×2 44 100
海中 871t 750 7.6kt 148km(80海里)/4kt 533mm発射管×5 14

 欧州では小型Uボートであり、

 対潜能力が進んだ米英護送船団を前にすれば、鴨となりつつあった。

 そして、XX1型潜水艦の開発が進むと、練習艦扱いとなるような潜水艦だった。

 しかし、ドイツ海軍Uボート艦隊で、もっとも数の多い潜水艦だった。

 ドイツ海軍は、今後、大西洋で生き残れなくなる潜水艦を日本に派遣し、

 米英護衛艦艇を太平洋へと誘致する作戦を立て、

 航行に最小限の人数に燃料と食料を満載させて、日本へと回航させる、

 日本へ回航されたUボート艦隊は、日本海軍将兵によって運用され、

 日本の予算によって賄われることになった。

 871t級VII型Uボート 艦橋

 「どうだ?」

 「呂35型より深く潜れて遠くまで行ける。いいですよ」

呂35型 排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速度 航続距離 兵装 乗員 深度
海上 960t 80.5m×7.05m×4.7m 4200 19.8kt 9260km(5000海里)/16kt 25mm連装機銃×1 61 80
海中 1447t 1200 8.0kt 83km(45海里)/5kt 533mm発射管×4 10

 「それに、少ない人数の方が連帯を作りやすいし、運用もしやすいだろう」

 「何隻くらい来るんです?」

 「さぁ 大西洋は護送船団方式が採られて、戦果が落ち込んでいるらしくてな」

 「ドイツ帝国は、日本のために太平洋で戦果を上げたいらしい」

 「ヒットラー総統は、いい人だ」

 「「「「うんうん」」」」

 「よーし、みんな」

 「ヒットラー総統に期待に応えられるように、がんばるぞ〜!!」

 「「「「おー!!」」」」

 「がんばるぞ〜!!」

 「「「「おー!!」」」」

 「がんばるぞ〜!!」

 「「「「おー!!」」」」

 

 

 

 大和 艦尾飛行甲板(全長86m×42m)

 日本製Ka54モドキが着艦する。

 機体後尾の排気ノズルの吹き出しを推進の足しにしていた。

 馬力はオリジナルの5.5分の1。

 当然、性能は、重量/馬力比で余剰馬力の低さで5.5分の1より、さらに劣る。

 それでも、この時代の最高峰の性能を持つヘリであり、

 日本は、対潜哨戒、対空哨戒、空輸で3機種のヘリコプターを開発試作していた。

 「Ka31は、まだ模倣できなかったか」

 「ドイツ製BMW1700馬力エンジンで、Ka31を模倣しているはずですよ」

 「16人もの人員を輸送するので、より信頼性が重視されますからね」

 「日本製空冷600馬力エンジンとドイツ製空冷1700馬力エンジンの信頼性が同じレベルなのか?」

 「いや、俺が乗るならドイツ製エンジンのヘリに乗るよ」

 「・・・TV3-117VMAの複製は?」

 「そいつもドイツ製の方が期待できるかもしれないな」

 「渡したのは、日本製の製図と劣化物だろう」

 「工業でドイツに追い付くのは何十年も先らしい。露風のおかげで10年先になっただけだ」

 「基本設計さえ理解したら追い抜かれるだろうね」

 「日本の機密なんだぞ」

 「だが、Uボート艦隊のおかげで、アメリカの兵站は遅れ気味だし」

 「Uボート工作艦のおかげで品質は向上している」

 「まぁ 大和と武蔵で艦隊哨戒ができるのならいいがね」

 「問題は、対潜水艦戦は一息でも、対空戦ではどうかな」

 「哨戒ヘリなら電探を載せてる」

 「艦との無線同調は、これからだが航空部隊の誘導は可能だよ」

 「現実の防空戦は、零戦頼りか」

 「第四機動部隊は零戦が増えるはずだ」

 「よほど第四機動部隊に手柄を上げさせたくないんだな」

 「露鳳を守るためだ・・・」

 「しかし、Ka31のデータリンクは露鳳でしか・・・」

 「効率よく使えるのはわかるが、ヘリ単体の戦闘力は高い」

 「レーダーに映りにくい機体構造。レーダー吸収塗料でレーダーの精度が高くなければ見えない」

 「あの大きさで、鳥くらいの反応だそうだ」

 「そして、ECM・ECCMを使えば、レーダーからも自動的に消える」

 「それほど優れているのか?」

 「例えば高度6000mなら同じ波長で倍返すとレーダー上は高度3000m」

 「3倍の波長で返すとレーダー上は高度2000m。当然、相対距離も変わる」

 「「「「・・・・」」」」

 「実際は、もっと複雑らしいが、その気になれば敵のレーダー波だけを使えなくできるらしい」

 「目視困難な夜間作戦なら戦果は莫大だ」

 

 金剛、榛名、比叡、霧島、

 伊勢、扶桑、山城

 戦艦部隊がインド洋作戦を終えて帰還してくる。

 インド大陸沿岸のイギリス軍に主砲を撃ち込み内陸へと後退させ、

 朝鮮人を上陸させ続けた戦艦部隊の帰還だった。

 「7隻ともインドへの艦砲射撃で廃艦寸前まで酷使か」

 「インド独立と戦艦7隻の交換と思えばいいだろう」

 「あるだけ全部の356mm砲身と砲弾を撃ち続けたし」

 「アメリカの捕獲戦艦6隻を就役させられるなら、戦艦はいらないだろう」

 「それだって、艦尾主砲塔を廃止して、航空戦艦だろう」

 「全部、航空戦艦にするのはまずいのではないか」

 「それで、1隻当たり10機近い哨戒ヘリを搭載できるのなら悪くないよ」

 「艦隊決戦は、夢に消えたな」

 「それでも哨戒ヘリを飛ばせば命中率は向上する」

 「例の100mm砲と30mm砲は?」

 「艦に弾薬がなかったのが残念だが、弾なら製造してる」

 「大砲の方は?」

 「まぁ まともに複製できたら、その二つの大砲だけで、この戦争を切り抜けられるな」

 「また複製できないのかよ」

 「馬鹿どもが後先考えず一番いい工作機械で兵器を作ったりするからだ」

 「戦争しなきゃよかったのに・・・」

 「露鳳が出現するとわかってたら戦争なんかするものか」

 

 

  露鳳 (改キエフ型航空巡洋艦バクー)

   排水量38000t/満載排水量45500t

   全長273.1m(水線長242.8m)×全幅53m(水線幅31m)×吃水8.2m

   飛行甲板 全長192m×20.4m

   200000馬力 速力32.5kt 航続距離18kt/7590海里

   乗員1615名

   AK100  70口径100mm単装砲2門 (60発/分 初速880m/s 射程21000m)

   AK630  65口径30mmCIWS 6束8基 (83発/秒 初速900m/s 射程4000m)

   カモフKa54(5機→2機) カモフKa31 (40機→20機)

   零戦50機

 露鳳 艦橋

 「疾風は21uで翼面荷重185.24 kg/m²。紫電は23.5uで翼面荷重165.96 kg/m²」

 「紫電が艦載機として優れている」

 「共有機が、疾風に決まってしまったものは、しょうがないだろう」

 「それにヘルキャットの翼面荷重は184kg/u」

 「疾風と、ほとんど変わらないじゃないか」

 「紫電は、開発で遅れてたからな」

 「それに共有機先決を言い出したのは君だ」

 「まぁ どの道、大型空母でしか運用不能な機体だがね」

 「疾風ではフックを装備しても離着艦が思いやられる」

 「疾風は “幕露守” 配備でいいだろう」

 「ドイツ製とアメリカ製エンジンを装備した疾風は、たぶん、最強だよ」

 「誉エンジンは、直径1130mmだ」

 「BMW(直径1290mm)とダブルワスプ(直径1321mm)は、重いし、直径比が大き過ぎる」

 「脚が弱いと折れやすくなるし、機体の重心も変わる」

 「まぁ 脚を強化して、重心を保つため全長を伸ばすしかないが」

 「ダブルワスプは、ハ109(直径1263mm)や火星(直径1340mm)より性能いいし」

 「ラバウルに1000機近く落ちてる」

 「いっそ、F6Fヘルキャットを拾ってきて搭載したらどうだ」

 「ヘルキャットは、もっと機体を細く削れば性能が良くなりそうだがな」

 「アメリカの戦闘機は、銃撃を受けることを前提にしてる戦闘機だから強いよ」

 

 

 朝鮮半島

 がちゃ がちゃ がちゃ がちゃ

 「酷いニダ〜」

 「オパ〜 オンマ〜」

 「日本人は、酷いニダ〜」

 日本軍将兵が銃口を向けると、

 リヤカーを曳いた朝鮮人の家族が家と土地を奪われ、泣きながら移動していく、

 アーリラン アーリラン アーラーリーヨ アーリランコーゲーロ ノーモガンダ〜♪

 ナールルポリゴ カ シヌン二ムン シムニド モーカーソー パルピョナンダ〜♪

   ※土地と糧を奪われアリラン峠を越えてく、十里もいかないのに足が痛む。(意訳・たぶん)

 「酷いニダ〜」

 「オパ〜 オンマ〜」

 「日本人は、酷いニダ〜」

 とぼとぼ とぼとぼ とぼとぼ・・・

 

 戦争の恐怖と憎悪は、人の正気を狂わせ、全てを自己正当化させる。

 窮地に陥った日本人の正気を失わせたのは、対米戦で敗北する恐怖だった。

 個人資産は、戦争のために喪失し、守るべき国家が憎むべき敵となっていた。

 父を殺され、息子を殺され、兄弟を殺され、

 母、娘、姉妹、妻、恋人が貧しさのあまり、軍属に身を売って生活していく、

 心の内で滅ぼしたいと考える対象に媚び、

 その国家に万歳しなければならない、

 日本人の屈折した精神が建前を崩し、

 恐慌に走らせ、朝鮮人のインド上陸作戦を引き起こした。

 その対象は、全朝鮮人に及び、女子供へと対象が広がる。

 戦争のドサクサとはいえ、身近な家財だけを持たせられての移動であり、

 朝鮮人の移動に比例して、日本人の所領は拡大していく、

 朝鮮民族強制移民は、スターリンの大粛清、ヒットラーのユダヤ人虐殺と並んで、

 20世紀三大悲劇として名を連ねることになった。

 某日本家族

 「お母さん♪」

 「良かったね。これで、お米を作って、生活できるよ」

 「「うん♪」」

 「お父さんが戻ってくるまで、頑張って生きていこうね」

 「「うん♪」」

 

 

 満州帝国

 ハルピンからチチハルまで行く途上、竜鳳村の北西に油田が発見される。

 一番近い竜鳳村の名前から竜鳳油田と総称される油田は、採掘が進むにつれ、

 日本産業の血液となって流れ出した。

 とはいえ、そのままではとても使えないような代物であり、

 ガソリンを抽出するには、人工石油工場に準ずるような施設を必要とした。

 とはいえ、莫大な油田であることに変わりなく、

 日本経済は活性化の見通しを持つことができた。

 関係者たち

 「こりゃ 酷いね」

 「まぁ とにかく、火力発電で工場は安定して回せるだろう」

 「しかし、場所柄、ソビエトの攻撃を受けないか?」

 「ドイツが頑張っている間は大丈夫さ」

 「ドイツは、いつまで頑張っていられるんだよ」

 

 

 

 ラバウル

 日本の鍾馗と零戦は、レーダー誘導の優位性と、

 数で互角を保つことができたものの質で敗北する。

 P51Dムスタング、P47Dサンダーボルトは、日本側の覆し、鍾馗をジャングルに叩き落とした。

 まともにムスタング、サンダーボルトと戦うことができたのは疾風だけであり、

 それを除けば幸運と、

 数で圧倒できなければラバウルの制空権は危ういものとなっていく、

 陸海軍将校たちが上空を見上げていた。

 「駄目だな。こりゃ 速度が全然違う。勝てんわ」

 「よく頑張ってるじゃないか」

 「レーダー誘導と、対空砲火の支援でなんとか戦ってるだけだからな」

 「損失比を1対1にされたら、日本の航空部隊は、全滅させられるよ」

 「疾風は、もっと生産できないのか?」

 「誉じゃ 稼働率で駄目だろう。火星か、ハ109なら数を作れるが」

 「どの道、馬力不足じゃ 勝てんよ」

 「ダブルワスプや火星じゃ 設計を丸ごと変えないと安定しない」

 「だから、最初から雷電にすればよかっただろう」

 「共有機で負けたんじゃしょうがないよ・・・」

 「捕獲戦闘機は?」

 「落とせなくなってきてるのにジンギスカン部隊を維持できるわけがない」

 「ワイルドキャットとウォーホークの時代は鴨で捕獲機が多かったからな」

 「しかし、サッチ・ウィーブとコンバットボックスで来られると苦戦する」

 「ライトニングとヘルキャットは手強くて捕獲機も減って来たし」

 「ムスタングとサンダーボルトの時代になると、もう駄目だな」

 「まぁ 捕獲機は、乱戦狙いだから数が少なくても、一定の成果を見込めるけどね」

 「いまとなっては、戦闘機より、高地に物資を送れる輸送ヘリの方が防衛の役に立ちそうだな」

 「Ka31とKa54は、直接攻撃使う方が敵艦捕獲で得では?」

 「同じ手は通用しないだろう。アメリカ軍もそこまで馬鹿じゃない」

 「モドキ生産が軌道に乗るまでオリジナルで戦略物資を高台に上げた方が得だ」

 「高台に大砲と対空砲を配備できるのなら1対100でも戦える」

 

 ラバウル湾内

 サンダーボルトの機銃掃射が飛沫を上げ、

 軽巡 長良、五十鈴に向かってくる。

 途中で零戦が割り込んで援護射撃をすると翼を翻し、

 零戦の追撃に負けない加速で急上昇していく、

 その巨体に似合わぬ上昇力に乗員は目を見張り・・・

 「急いで物資を降ろせ」

 「ムスタングとサンダーボルトに圧倒されてるじゃないか」

 「やばくないか」

 「敵機は、要塞砲台と飛行場に集中しているようだ」

 「いまのところは、大丈夫そうだな」

 ラバウルの制空権が怪しくなると、

 危険性が増し、旧式軽巡のラバウル輸送が増加していた。

 

 高度6000m。外気−30℃以下、

 B17爆撃機は、コンバットボックスを組んで飛行していた。

 寒々とした機内は、与圧されていないため酸素ボンベは、手放せない。

 とはいえ、高度が高いほど、迎撃側の条件も同じになり、

 工業力の差は、戦力の差となり、無理をしている日本を疲弊させる。

 日本航空部隊襲撃予想地点は、航続距離を逆算すれば、見当が付いた。

 しかし、日本航空基地は、ラバウルだけでなく、

 ニューブリテン島中部と南部にも航空基地が建設され、

 帰還を狙っての送り狼を仕掛けてくる事が多く、

 特に味方になり済ました捕獲機の奇襲に手を焼いていた。

 もちろん、前座での断続的な暫減邀撃も可能で、油断できない、

 そして、行きは迂回できても帰還は被弾のせいで迂回できないことが多く、

 対空砲の餌食になる爆撃機、戦闘機も少なくなかった。

 もっとも大規模な迎撃は、日本の輸送力の関係か、ラバウル付近になることが多かった。

 「おい、コーヒーだ」

 「ああ、済まない」

 「そろそろ来るぞ」

 「ああ」

 将兵は、用心深く、魔法瓶のコーヒーを飲み、サンドイッチを口に入れる。

 後部機銃座の機銃手が下を見ると、

 掠れた雲間からニューブリテン島の青々とした稜線と青く澄んだ海岸線が見えた。

 空を見上げると、不意に太陽に隠れて小さな黒点がポツポツと現れ、

 「敵襲!」

 迫る日本機に向かって機銃を撃っていく、

 次の瞬間、衝撃が伝わり、飛び込んだ銃弾と跳弾で機内がズタズタにされ、

 乗員を殺傷する、

 震動した機体が傾き、何度も大きく揺れる、

 「2番機がやられた」

 ムスタングが零戦を追いかけ、

 割り込んだ鍾馗の13mm機銃掃射がエンジンを被砕していく、

 「くそぉ 3番艦も食われた!」

 攻める鍾馗、零戦と守るP51Dムスタング、P47Dサンダーボルトが入り乱れ、

 双方の戦闘機が落ち、

 B17爆撃機が火を噴き、黒煙を上げながら落ちていく、

 護衛戦闘機が無理やり抉じ開けた空路に対空砲弾が炸裂し、

 「4番機、5番機。編隊を狭めてコンバットボックスを維持しろ」

 「針路よし」

 「投下!」

 1機当たり3発の900kg爆弾を投下していく、

 爆弾の雨が放物線を描いて落ち、

 ニューブリテン島とニューアイルランド島の中間の島デュークオブヨークに爆炎と爆煙が立ち昇り、

 直径20m規模の穴を開け、その爆圧は500m範囲の将兵を殺傷し、

 吹き上げた土砂を45口径460mm3連装砲台2基と大地に上に降り注いでいく、

 陸海軍将校たち

 「「「「・・・・」」」」 ごくん!

 土砂が全て大地へ落ちた頃・・・

 アメリカ爆撃部隊は後退していく、

 「・・・爆撃終了です」

 「東ラクナイに3発。西ブナカナウに4発」

 「南トベラに3発。北ケラバットに2発」

 「要塞砲台に直撃なし、無事です」

 「「「「ほぉ〜」」」」

 「運がいいな」

 「だが、航空戦は押されてるじゃないか」

 「ムスタングとサンダーボルトは別格だな」

 「しかし、要塞砲台は大和の砲座より高い位置にある、大したものだ」

 「高台に置く方が遠くまで飛ぶし、塩害の悪影響も小さくなる」

 「手前は、潜水艦のドックで使うのだろう」

 「だが、大和と武蔵は、艦首の3連装砲塔2基だろう、弱くなるな」

 「艦尾にヘリと水上機を搭載して、索敵を引き受けるらしい」

 「大和、武蔵か・・・なんか、勇ましいこといいながら後方に下がりそうな気がするな」

 「勝てねぇ」

 「射撃用電探は、電力をたくさん使うから振り分けるには、大砲を減らさないと」

 「真空管がポンポン使えなくなるのが問題だろう」

 「もっといい工作機械を使えよ」

 「問題は、真空にするノウハウの方だと思うが・・・」

 「露鳳の技術は?」

 「集積回路は、作れん」

 「付属物のゲルマニウムとシリコンの結晶のトランジスタは、なんとかなりそうだがね」

 「とりあえず、真空管で構造を真似るしかない」

 「ドイツに渡したのか?」

 「日本で試作したモノを渡したよ」

 「それで、日本製よりいいものを作るのだろうな」

 「工作潜水艦を送ってくれるらしいし、ドイツがそれで戦えるのなら教えるよ」

 「それより、疾病対策をなんとかしないとな」

 「露鳳になかったのか?」

 「あったよ。手術室から医療品から一式。薬剤も未知の物が多かった」

 「模倣すればいいじゃないか」

 「それが一部、医薬品の組成が一部、変わってるらしい」

 「なんで未知のモノなのに一部変わってるとわかるんだ」

 「今と同じ薬品もあるからね。臨床試験しないと話しにならない」

 「しかし、医療器具は、はるかに進んでるから、模倣できるものは模倣している」

 将兵が駆け寄ってくる

 「大変です、マーシャルへ上陸作戦が始まりました」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 アメリカ軍の上陸作戦は、暗号解読で事前に気付かれていた。

 しかし、ほとんどの日本軍将兵は、知らされておらず、

 数日前に警戒態勢へ移行し、護衛艦と商船は脱出し、

 環礁の出入り口に機雷が敷設され、

 前日に戦闘態勢への移行が伝えられていただけだった。

 マジェロ環礁

 標高は、ほとんどが1mから2mのサンゴ礁だった。

 高い場所でも海面から7mほどで、穴を掘ると海水が噴出してくる。

 守備隊は、苦労しながらも海抜以下まで、恒久的な地下壕を掘り、

 二重ドラム缶と二重タンクの中空にコンクリートを流し込むことで即席の塹壕も造っていた。

 夜明けとともにアメリカ海軍の艦載機ヘルキャットが押し寄せ、

 一撃離脱を繰り返す鍾馗と、格闘戦に持ち込む零戦と乱戦に陥る。

 ヘルキャットが旋回すると、奇襲をかけて逃げようとする鍾馗の内側へと回り込んでいく、

 これは、機体重量と翼面積の関係であり、技量の問題ではなかった。

 そして、さらに内側に零戦が滑り込み、ヘルキャットを照準器に入れていく、

 機銃掃射がヘルキャットの右翼を吹き飛ばし、

 ヘルキャットは錐揉みしながら海面に叩きつけられた。

 管制塔

 「思った通り、戦闘機だけの攻撃か」

 「巡航速度でだいたいわかるな」

 「しかし、戦闘機を出さないわけにもいかないだろう」

 「上空を押さえられて爆撃機を出されたらお手上げだ」

 「カタパルト射出ができるアメリカ空母は有利だな」

 地表に半没させられていた対空砲が火を噴き、

 爆音と爆風と衝撃が飛行場に穴を開け、大地を震わせ、

 ヘルキャットの機銃掃射が管制塔に穴を空け、ガラスを粉砕していく、

 伏せた将校たちが起き上がり、変わり果てた航空基地を見渡す、

 「ほぉ・・・少し遅れてきたヘルキャットは爆装していたのか」

 「巡航速度は?」

 「増漕と爆装。電探では、ほとんど変わりません」

 「厄介だな」

 「ヘルキャットは、450kg爆弾2発装備できるはずです」

 「増漕の代わりに爆装すれば戦闘爆撃機になりえます」

 「羨ましい話しだ。馬力で負けると、爆装に振り分ける余力もない」

 「捕獲したヘルキャットは?」

 「2機が撃墜され、残存機は8機です」

 「飛行場が潰されたら、防空は困難になる」

 「100式司偵に空中指揮を一任するのは正解と言えるな」

 「全航空戦力の指揮なら二式大艇の方がいいのでは?」

 「速度が遅い機体では、空中指揮は困難だろう」

 「しかし、これだけ、滑走路がやられると・・・」

 「航空部隊の生き残りは、戦訓と一緒に、二式大艇と潜水艦で後方に避難させよう」

 「しかし、幕露守の防御力は、マジェロ環礁より脆弱だ。本当に戦えるのだろうか」

 「露鳳と連合艦隊全艦が護衛に付くよ」

 「それに日本本土が近いから航空支援も得られやすい」

 アメリカ機動部隊の波状攻撃によって、マーシャル、ギルバート諸島の航空戦力は壊滅してしまう。

 

 

 900kg爆弾は15mほど減り込んだ後、直径20mほどの穴を空け、

 被害は500mにも及び、

 356mm砲弾は、15mほどの穴を空け、被害半径は150mにも及ぶ、

 どちらも直撃されれば塹壕でも破壊した。

 護衛空母を出撃したヘルダイバーが爆弾を落とし、

 アメリカ旧式戦艦の艦砲射撃が大地を抉り、地表を吹き飛ばしていく、

 マジェロ環礁 地下司令室

 陸海軍将兵たち

 「艦砲射撃だけで、防衛線がズタズタにされたか」

 「戦艦クラスの要塞砲がなければ、話しにならないか」

 「いや、護衛空母の爆撃でも艦砲射撃の代行ができる」

 「小さな島では、標的が過密過ぎて、戦えないな」

 「せめてポナペ島の大きさと標高が欲しい」

 「しかし、護衛空母と護衛艦は、通商破壊で引き抜いたと思ったんだがな」

 「そうかな。アメリカの攻勢を1年遅らせたと言えなくもないだろう」

 「後は、持久戦でアメリカ艦隊を疲弊させ、隙を突いて損害を与えられるかだな」

 「上陸作戦にアメリカ艦隊を張り付けさせるほど、他の戦域のローテンションが悪化するはず・・・」

 「可能な限り、時間を稼ぐ方が良いわけか」

 

 

 厚木基地

 ドイツ製戦闘機が中立国を介して、購入されていた。

 Fw190A8

 BMW801D2 1700馬力 3225kg/3995kg 

 全長8.85×全幅10.05×全高3.95 翼面積18.30u

 速度660km/h 航続距離800km

 20mm機銃×4  7.92mm×2

 

 Me109G

 DB605D 1800馬力 2670kg/3148kg 

 全長9.02×全幅9.92×全高3.04 翼面積16.2u

 速度650km/h 航続距離720km

 20mm機銃×1  13mm×2

 

 そして、捕獲したアメリカのムスタング戦闘機も並ぶ、

 P51Dムスタング

 V1650 1695馬力 3235kg/5488kg

 全長9.82×全幅11.2×全高4.16 翼面積21.6u

 速度703km/h 航続距離1609km+(増漕2091km or 爆装907kg)

 12.7mm機銃×6

 

 P47Dサンダーボルト

 V1650 2430馬力 4850kg/8800kg

 全長11.0×全幅12.4×全高4.47 翼面積29.9u

 速度697km/h 航続距離1657km+(増漕1403km or 爆装907kg)

 12.7mm機銃×8

 

 日本陸海軍将兵たちが興味深げにドイツ空軍の戦闘機を見つめる。

 「いいぃ〜」

 「綺麗なエンジンで最高だよな」

 「疾風と造りが全然違うよ」

 「負けたな」

 「余裕で製造してるんだろう。悔しい」

 「アメリカ製ムスタングだって、落ちた部品を寄せ集めて飛ぶのが凄い」

 「性能もドイツ製と、いい勝負だ」

 「いや、ドイツ戦闘機は迎撃機だがムスタングとサンダーボルトは、攻守で使える」

 伝令の兵が駆け寄ってくる。

 「大変だ。ギルバートとマーシャルが落ちたぞ」

 「「「「・・・・」」」」

 「日本機動部隊は出撃せずか・・・」

 「国力がないのにミクロネシア防衛で消耗してしまうと、後がないよ」

 「しかし、このままだと、ラバウル要塞も制空権を奪われて孤立してしまう」

 「ラバウル要塞は陸軍主導で戦い。幕露守は海軍主導で戦えばいい」

 「アメリカ軍がどちらを攻撃しても損失は堪え難いものになるはずだ」

 

 

 日本の工場でKa31、Ka54を小型貧弱にしたヘリコプターが宙に浮く、

 Ka31 “海燕(かいえん)”

 Ka54 “朱雀(すざく)” 

 欧米列強の疑惑をかわし “これが飛んでたんだよ” と、苦しい辻褄合わせをするためだった。

 600馬力級9気筒寿エンジンは、9つのピストンを順番に上下に動かし、

 中央のカムを回し、シャフトを高速回転させる。

 このエンジンがヘリコプターに選択されたのは、比較的、信頼性が高いだからだった。

 2基装備され、二重反転プロペラを回した。

 「どうだ?」

 「まぁ 機体の重心と重量配分はいいようですがね・・・」

 それは、確かにヘリコプターと呼ばれる機体であり、

 小型ながらギリギリまで重量を削り、外見も似せられていた。

 そして、この時期、有り得ないほど優れた性能を発揮するヘリコプターだった。

 しかし、日本陸海軍将校は、Ka31、Ka54を見慣れているせいか、

 民間機を見るような寂しげな表情を見せる。

 「Ka31モドキは、積載重量500kg。Ka54モドキは、積載重量800kgですかね」

 「Ka54の方が積載重量が大きいじゃないか」

 「小型軽量ですから余剰馬力が大きいのでしょう」

 「飛行甲板に降りられるか?」

 「本物と違って、軽量ですし、爆弾を搭載するなら、Ka54モドキが有用かもしれませんね」

 「Ka31は、艦隊の中で移動用が良いでしょう」

 「安全なんだろうな」

 「ええ、安全ですが元々 馬力制御の得意なエンジンではないですし」

 「プロペラの制御もオリジナルに遠く及びませんよ」

 「艦隊哨戒に使えるのなら悪くないが・・・」

 「ヘリは、速度がないから防空で不利。航続距離も短いから索敵も不利だな」

 「対雷撃機なら上から7.7mm機銃を撃ち込めていいが」

 「滞空してたら戦闘機に狙い撃ちだろう」

 「艦の真上を通過しようとすれば、戦闘機は、対空砲火に晒されるだろう」

 「対急降下爆撃機は、邪魔になるだけで役に立ちそうにないな」

 「オリジナルのKa31、Ka54と違って射撃管制装置、ヘルメット装着式表示装置がありませんからね」

 「あと、操縦が難しくなるので素人は、練度向上に時間がかかります」

 「マニュアルか、ロシア語の単語を覚えれば何とかなるわけじゃないのか」

 「こりゃ パイロットを育成するまで燃料を食いそうだな」

 「陸軍は、高台への空輸で使いたがってるらしい」

 「アメリカ軍とソビエト軍を相手に平戦するのは、馬鹿げてるからね」

 「そういえば、満洲北東部や山東半島で油田や資源を見つけたそうじゃないか」

 「ああ、露鳳の戦略目標のおかげでな」

 「おかげで一息らしいが、油質が酷くてな。航空機に向かないし、船舶も怪しい」

 「発電用の燃料でもいいよ。それで工場が回るならね」

 

 別の工場では、陸戦兵器の試作生産が続いていた。

 日本の国力で戦車製造は限られており、

 道路・港湾事情を逆算して16t級に制限された戦車で戦えるものではなかった。

 かといって、設備投資するだけの余裕はなく・・・

 パンツァーファウストの製造が進む。

 「これでラバウルが守れるならいいけどな」

 「トーチカは作ってるらしいよ」

 「92式機関銃、99式軽機関銃、擲弾筒、99式小銃と並ぶ5本柱になりそうだな」

 「戦車や大砲を作らないとな」

 「数を作れなくなる」

 「大和を溶かしちまえよ」

 「あははは・・・」

 「92式機関銃は、2175円だから、大和建造費で68000丁になるな」

 「弾薬分を半分にすると、34000丁か、それだけ並べて撃ったら楽しいだろうな」

 「インドに上陸した武器を朝鮮人に分け過ぎたんじゃないのか」

 「小銃以上は渡してないよ」

 「小銃だって、100円近いだろう」

 「それでインド独立だからイギリスは実質負けだよ」

 「インドはいいからアメリカを負かす方法をどうにかしないとな」

 「しかし、ラバウル防衛は、損失比が悪化してる、限界だろう」

 「ムスタングとサンダーボルトが強過ぎて、零戦と鍾馗じゃ勝てない」

 「疾風は数が少ないし」

 「捕獲戦闘機の乱戦狙いも個体性能差で負けてると、難しくなってきてる」

 「じゃ いよいよ、幕露守戦か・・・」

 

 

 

 

 

 北海道で大噴火が起こり、新しく造山され、昭和新山と命名される。

 

 

 ドイツ潜水艦部隊の回航は、日本潜水艦作戦を大きく変えることになった。

 回航された3隻に2隻は、日本海軍将兵によって運用されるようになり、

 その作戦域は太平洋全域におよび、

 標的は、商船狙いとなっていく、

 アメリカ輸送船の損失は、急速に拡大し、

 アメリカ太平洋艦隊は、太平洋でも護送船団方式を取らざるを得なくなり、

 輸送効率は低下し、

 大西洋から護衛空母と護衛艦を引き抜いた。

 護衛空母と護衛艦の減少は、前線への兵站能力の制約は戦力低下と直結し、

 対日作戦の遅延につながった。

 南太平洋

 爆雷が炸裂するたびにUボートが震える、

 乗員は物音を立てることを恐れ、黙り込む、

 爆雷の落ちた音、艦の水深までの到達時間、

 ベテランになるほど、艦の外から伝わる反響でイメージできる。

 赤色灯が点滅し、バブルが跳び、海水が吹き出し、凍りついた乗員が海水を塞ぐ、

 「針路1-4-8、速度最大、深度+12」

 音の反響で海面までの位置、海底までの距離、

 海中の位置、艦の進んでいる方向と、

 迫る敵艦の推進音から位置と方向が三次元的に脳裏に映し出される、

 水中速度と作戦能力の不足は、潜水艦にとって致命的だった。

 

 連合軍の護送船団は、定められた蛇行を繰り返していた。

 燃料と時間を余計に食い、

 潜水艦に先回りされる恐れがあるものの待ち伏せされるよりよく、

 まず、民主主国家で経済効率優先は、撃沈された時のリスクが大きく、

 危険水域が広がっているにもかかわらず蛇行しなければ、軍法会議ものになった。

 それは、速度の遅いUボートが主流の大西洋の常識であり、

 太平洋は、速度の速い伊号に追い抜かれる恐れの方が高く、

 蛇行するより直進が、マシと言えなくもない。

 しかし、連合軍の対潜能力は向上し、

 ノコノコ追いかけてくれば伊号であっても撃沈確実となり、

 脅威は、待ち伏せだけとなっていく、

 そして、蛇行は、伊号に追い付かれても、Uボートに追い付かれない平均速度が定められる。

 とはいえ、大西洋と違って、航路の長い太平洋で蛇行すると大変な浪費となった。

 Uボートの回航を最も恐れてたのは、作戦能力を著しく削がれるアメリカ太平洋艦隊であり、

 優れた将官は、最小限の蛇行で往復の日数も少なく、燃料と日数を浮かせられた。

 そして、潜水艦の襲撃が始まれば、魚雷の斜線を狂わす為、小刻みに変進する。

 15000t級護衛空母ナッソー 艦橋

 「ジュリー被雷。沈没します」

 「左舷の護衛艦を1隻救助に向けさせろ」

 「6時方向から、探信。潜水艦です」

 「4番機を向かわせろ」

 カタパルト射出でドントーレス爆撃機が射出される。

 米英護衛空母は、例え夜間でもレーダーがあれば離着艦ができた。

 「3時方向、雷跡!」

 「面舵一杯!」

 回頭しつつある輸送船の喫水線から水柱が立ち昇り振動する、

 輸送船の船腹は、簡単に撃ち抜かれ、船内奥深くで爆発する、

 水柱は驚くほど小さく見えて、船内隔壁のほとんどを破壊して致命傷を与える。

 護衛空母からドントーレス爆撃機が射出され、

 右翼の護衛艦が速度を上げて、飛沫を上げる。

 Uボート戦隊の通商破壊が前線から護衛空母と護衛艦を引き抜き、

 無駄な燃料と航行日数を費やさせ、

 アメリカ太平洋艦隊の攻勢能力を喪失させていく、

 Uボート 指令室

 被雷音が響き、金属音が軋みを立てる音が伝わる。

 「僚艦の雷撃のようです」

 「敵艦が引き揚げていきます」

 「針路4-2-7 潜望鏡深度まで浮上、雷撃戦用意」

 ソナー音で敵船団の位置は、見当が付き、

 「1番、2番、3番、4番発射管注水・・・」

 逃亡するより援護の雷撃を強行する。

 精確な計測は、潜望鏡で確認してからになる。

 限られた時間の間で周囲を確認し、

 闇の中を燃え上がる方向を確認し、

 敵船団の速度と方向を計測手に伝える、

 「10秒置きに発射だ。発射後は直ちに急速潜航する」

 「・・・てぇ!」

 敵駆逐艦が迫る音が伝わる中、

 自艦の速度を含めた計算結果に向け、魚雷を発射する、

 射出音が10秒間隔で伝わり、

 「潜航! 針路7-2-0」

 護衛艦から投射された爆雷が海面に落ちていく、

 しばらくすると海面が盛り上がり、水柱が吹き上がり、

 潜水艦を上下左右に揺らした。

 潜水艦のいそうな海面にヘッジホッグの弾体24発が落ち、

 その一発がUボートの舷側を掠めて落ちていく、

 群狼作戦は、奇襲と飽和攻撃で護送船団に襲いかかり、

 護送船団側は、艦載機の哨戒爆撃と、

 周囲に配置した護衛艦による爆雷攻撃で船団を守った。

 護衛空母ナッソー 艦橋

 「手強いですね」

 「どうやら、770t級VII型潜水艦の日本回航は事実か・・・」

 「乗員は3分の1、魚雷は発射管の中の分だけ、残りは燃料と食料だけなのだろう」

 「3隻回航させれば、1隻は、ドイツ軍将兵だけで運用できる」

 「300隻回航させれば、ドイツ海軍は100隻のUボート艦隊をインド・太平洋に展開できるわけか」

 「しかし、ドイツは、そこまで日本に肩入れするでしょうか」

 「大西洋で戦果が縮小して、損害が増大している」

 「旧式潜水艦を日本人に運用させて、新型潜水艦を自国民用にすれば得なのだろう」

 「旧型潜水艦で死ぬのは3等民族の日本人なのだからな」

 「ですが、潜水艦作戦は数では?」

 「数だとも、インド・太平洋と大西洋の比重が変わって、連合国側の護衛艦は不足気味」

 「ドイツの戦況は持ち直して安定している」

 

 

 深夜の呉湾

 29800t級空母大鳳からフロート装備のKa34モドキが飛び立たち、

 航空巡洋艦 最上の飛行甲板(80m×20m)に着艦する。

 日本海軍将校たち

 「・・・凄い。モドキでも夜間の離着艦ができるよ」

 「航続力と速度で水上機に劣っても、滞空できるヘリコプターの特性だな」

 「操縦さえ覚えれば、夜でも哨戒できるのだろう」

 「オリジナルで練習させて、モドキを操縦させれば覚えるのも早いか」

 「それより、オリジナルエンジンの複製に成功するか。もっと強いエンジンをつかえよ」

 「ヘリコプターのエンジンは、信頼性第一だよ」

 「瑞星(1080hp)は?」

 「複列式は、微妙だな」

 「光(840hp)は、神風号で信頼性が高いぞ」

 「生産量が少ないのが問題だ」

 「哨戒はヘリを使う方がいいとしてもだ」

 「索敵用は、水上機だろう」

 「大型艦は、ヘリ搭載艦でいいとしてもだ」

 「中型艦以下は、甲板が狭いから攻撃主体がいいような気がする」

 「アメリカ機動部隊への攻撃は、損失が大き過ぎて困難だと聞いてるぞ」

 「らしいね。どう図上演習しても戦果が得られないのに、損失は莫大らしい」

 「ランチェスターの法則通りだろう」

 「地の利を生かして戦う以外にないか」

 「しかし、それだと、陸軍にいいところ持っていかれるな」

 「陸軍に盾になってもらって、アメリカ軍を疲弊させるしかないね」

 「ラバウル防衛が厳しいのに艦隊にヘリ配備は、大丈夫か?」

 「取りあえずだろう」

 「対空機関砲はどうするって?」

 「25mmガトリング砲は、まだ試作中だよ」

 

 

 

 

 12/07

 東海道沖で東南海地震

 M(マグニチュード)7.9、死者・行方不明者1223人、建物全壊36520件。

 地震と津波で三重県、愛知県、静岡県の工業地帯が壊滅的な打撃を受けていた。

 政府関係者たち

 「酷いな」

 「半島移民で再開発していなかったら、もっと悲惨だったかもしれないね」

 「むしろ、半島移民に弾みが付きそうだ」

 「しかし、開戦して3年目で、こんなことになるとはね」

 「もう祟りだな」

 「こうなると、ドイツの潜水工作艦が頼りかな」

 「工員を派遣して4交替制を取ってフル稼働だけど、情けなさ過ぎるよ」

 「立て直しは効きそう?」

 「インドは、少しダイヤが採れるから。気持ちだけ救いだし」

 「比較的安全に工業生産するとしたら鉄道でも資源を得られる半島かな」

 「資源が採れそうなところは見当付くし、半島だけでなく、大陸へもか・・・」

 「なんか、嫌な国になってしまったな・・・」

 「みんな表面的に従ってるだけだろう」

 「貧困層は、こんな国、滅んでしまえっていう気運だし」

 「憎しみの対象は、軍と軍属にも向けられている」

 「モチベーションが上がらねぇ」

 「軍が好きな人間は軍を醜くするし、国が好きな人間は国を醜くするのさ」

 「可愛がるほど子供は腐る、よくある話しだ」

 「国、軍、組織、大人だって同じだよ」

 「このままだと、軍だけを悪者にできなくなるぞ」

 「アメリカ軍に、もっと日本本土を爆撃させればいいんだ」

 「そうすれば、国民の敵愾心は国や軍部でなく、アメリカに向けられる」

 

 

 ベルリン

 Me262の編隊が米英爆撃部隊に襲いかかるとムスタング、ライトニングを蹴散らし、

 メッサーシュミットとフォッケウルフがB17爆撃機を撃墜していく、

 東部戦線の停滞は、ドイツ本国の余力を保たせ、

 イタリアの北部を守り、

 米英軍の大陸反攻作戦を頓挫させることに成功していた。

 ランチェスターの法則の差がそうさせたのであり、

 戦術的な大勝利でもたらされた戦況ではなかった。

 米英大西洋艦隊は、日本へ回航されるUボート追撃に手を焼き、

 護送船団は、新型XX1型Uボートの脅威に晒される。

 ドイツの工場

 ガラス製ターボシャフトエンジンが回転していた。

 電動モーターで回転させ、技師たちが煙の流れを見つめる。

 「大したものだ。ファンの形に無駄がほとんどないな」

 「周辺の部品も練達されたものだ」

 「品質さえ良ければ、最高のエンジンになるぞ」

 「しかし、こいつの前期型はイシカワジマタービンに存在しないし」

 「試行錯誤の痕跡もないし、論文さえ存在しない」

 「それらしい開発者は、挙げられているが有り得んな」

 「では、突然現れたモノになるわけか」

 「工業製品は、魔法みたいに出現しない、蓄積された技術と技能がモノを言う」

 「造れるかね」

 「蓄積された結果でないとしたら、日本以上のモノが作れるだろう」

 「しかし、日本の情報が・・・できればオリジナルが欲しい」

 「もっと、Uボートを派遣するように仕向けてみよう」

 

 

 将校の仕事は、前線への輸送を滞りなく送り出し、兵站を安定させる事と言えなくもない。

 兵站効率が優れているなら常時、攻勢可能な武器弾薬を前線に保持させることも可能だった。

 そして、アメリカの生産力は世界最大であり、

 アメリカ軍将校は合理的で兵站能力は高かった。

 この兵站能力の高さで、対欧州戦線を有利に戦い、

 太平洋戦線においても対ラバウル戦線、対中部太平洋戦線で選択肢を広げさせていた。

 オアフ島 白レンガの住人たち

 地図の上に数枚の写真が置かれていた。

 「この空母は、一体なんだ」

 「零式輸送機の大きさで逆算すると、全長1000m以上、全幅120m以上らしい」

 「馬鹿な。こんな巨大空母の建造などあり得ない」

 「だが現実に存在する」

 「何かの間違いではないのか?」

 「航跡がないようだが?」

 「停泊しているのだろう」

 「生き残ったパイロットの証言では、巨大空母は攻撃直後から攻撃終了まで停船していたらしい」

 「どちらにしてもだ」

 「この写真を撮影するため、第16機動部隊は、ヘルキャット114機を失った」

 「戦闘機のほぼ半分じゃないか」

 「迎撃してきたのは、零戦と疾風だったそうだ」

 「疾風は陸上戦闘機じゃないか」

 「この大きさなら双発輸送機でも離着艦できるよ」

 「それに少数だが、水冷エンジン搭載の疾風も確認された」

 「おかげで、索敵に出したヘルキャット部隊は壊滅した」

 「「「「・・・・」」」」

 「この海面に張り出した観覧車みたいなものはなんだろう」

 「わからんな」

 「光ってるぞ」

 「「「「・・・・」」」」

 「少なくとも航行向きの観覧車じゃない」

 「それと、この小さな空母みたいなモノは、なんだ?」

 「載せられてる機体から逆算すると、40000t級だ」

 「例の噂されてるX艦の特徴に似てるな」

 「パイロットの証言だと、この空母が観覧車から出てきたように見えたそうだ」

 「「「「・・・・」」」」

 航跡の方向から事実に思われた。

 「日本が建造している大鳳型空母じゃないのか?」

 「いや、空母にしては艦橋が大き過ぎるし、艦橋上部の円筒形のドームはなんだ」

 「レーダー?」

 「我々が知ってるレーダーと明らかに違うな」

 「アンテナは、むしろ少ないように思うが・・・といより、ない」

 「この斜めの飛行甲板はなんだ?」

 「・・・艦橋はともかく、斜めの飛行甲板は良い考えだ」

 「上に取り入れるよう、進言してみよう」

 「噂の信憑性は?」

 「異世界からの援軍の事か?」

 「ああ・・・」

 「それは噂話しだ」

 「噂話なら、日本軍のレーダーは大きいだけで、我々のモノより優れていることはなかったな」

 「マーシャル・ギルバートのレーダーシステムは大きいだけでバトルオブブリテンの頃のモノだ」

 「高空探知用と低空探知用のチェイン・ホーム・レーダーを島の周囲に張り巡らしていただけだった」

 「レーダー装置は、占領する前に内側から四方に爆破されていたじゃないか」

 「日本のマグネトロンも分からずじまいだろう」

 「メートル波が分からなければ、精度は判定できないし」

 「きちんとしたシステムが分からんと何とも言えないな」

 「日本の分割陽極型マグネトロンの論文からすると古い気がするね」

 「だが、マイクロ波マグネトロンを先行開発したのは日本だ」

 「新たなレーダーを開発していた可能性はある」

 「我々は、開戦前から日本のレーダー開発を監視していた。大きな発展はない」

 「大型レーダー装置の残骸はブラックウィドウが撃墜した裏付けになっても」

 「戦艦6隻を一度に機能不全にできた裏付けにはならない」

 「そうだ。それにチャフも使った偵察でも失敗したことがあるし」

 「いや、逆探に反応せず、撃墜されたのはおかしい」

 「まさかミリ波のレーダーじゃないだろうな」

 「まさか、三式一号電波探信儀三型は、そんな高性能なものじゃないし」

 「そんなものは、連合軍にもない」

 「私に言わせればだ・・・」

 「この40000t級の・・・」

 将校は、写真を表にして見せ回す。

 「この大型艦を秘密裏に建造できるというファンタジーを信じる気にはなれんね」

 「「「・・・・」」」

 「しかし、いまの戦況で、機動部隊は動かせないぞ」

 「だが異世界からの増援は困る」

 「それは噂話しだ」

 「確かにインド洋のサンポール島はフェイクだろう」

 「しかし、日本のX艦は? ヘリは? この巨大空母は? これも噂なのか?」

 「「「「・・・・・」」」」

 「イギリスのコマンド部隊がニューブリテンに上陸し、火砲を山頂に運び込むヘリを目撃してる」

 「証拠写真は?」

 「無線で聞いただけだ。途中で全滅したよ」

 「・・・それが事実としても大砲が本物と言えないだろう」

 「全滅したのならコマンドを誘き寄せるえさで、よくできた模造品の可能性だってある」

 「どうせなら日本のレーダー技術を奪うべきだろうな」

 「奪おうとして見かけたんだ。それで発見され全滅した」

 「まさか日本軍相手にこんな作戦を執らねばならないとはな」

 「「「「・・・・」」」」

 「今思えば、インド洋のサンポール島は、目を逸らすのに適当な罠だったな」

 「今すぐ、機動部隊全軍で攻撃して、この巨大空母を撃沈すべきだ」

 「無理攻めすることはなかろう。ラバウル夜戦の二の舞になるぞ」

 「運が悪ければだ」

 「運以上の脅威を日本に感じてるから、これだけの議論が起きてるのじゃないのか?」

 「「「「・・・・」」」」

 「この海域は、例の閃光が見えた座標ではないのか」

 「だから何度も偵察して撃墜され、撃沈されている・・・」

 将校が巨大空母の写真をしげしげと見つめる。

 「・・・まさか、こんなことになっているとはな」

 「こ、この巨大空母を攻撃するとしてもだ」

 「この海域に巨大空母がずっといるとは限らないだろう」

 「二日前、潜水艦を向かわせたら消息を絶ったよ」

 「まだこの海域に居ると仮定していいのでは?」

 「異世界の援軍など考えられんよ」

 「ラバウル夜戦で新型戦艦6隻を日本海軍に奪われたこともあり得ない部類に入るよ」

 「通常の作戦でも押してるじゃないか」

 「それに日本本土に近過ぎるし、兵站が維持できなくなる恐れがある」

 「だが、仮に異世界からの増援が事実として、このまま、異世界の援軍が増加すれば・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 伝令の士官が入室し、電文を将校に渡す。

 「・・・日本の名古屋で関東大震災クラスの地震と、大型の津波が起きたそうだ」

 「本当に?」

 「地震の翌日には、ニューヨークタイムズにすっぱ抜かれてるよ」

 「日本の大阪、名古屋、浜松、静岡、長野は地震と津波で大打撃だ」

 将校たちは、地図で確認する。

 「「「「・・・・」」」」 にや〜

 

 

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 月夜裏 野々香です

 国産ヘリです、

 600馬力級9気筒寿エンジン2基1200馬力でどのくらいの性能になるでしょう、

 自重は、2600kgくらいで、最大離陸重量は4000kgぐらいでしょうか。

 1400kgほどの積載重量を燃料・その他の装備で振り分けられるなら

 500kg分くらいの爆弾を搭載できそうです。

 

 さてと、終戦と戦後はどうしよう・・・

 

 

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第03話 1943 『アメリカホイホイ』

第04話 1944 『ラバウル要塞の攻防』
第05話 1945 『継戦不能?』