タイムスリップ系架空戦記
『時空巡洋艦 露鳳』
第07話 1947 『フェイク ブラフ そして・・・』
満洲平原
一羽の鷹が旋回し、数回羽ばたいたあと舞い降り、
低空を滑空し、ウサギを狩ると戻ってくる、
日本軍将兵たち
「凄いじゃないか、今日はウサギか」
「軍用名目で研究されてるけど、やっぱり、実益だよな」
「「「うんうん」」」
歩いて捕らえるには遠過ぎる、
馬で近付くと蹄の音に気付かれる、
広大な草原で鷹匠が生まれたのは頷けた。
「鷹狩りは将軍家が好きだったというし」
「子供に銃を持たせるのは危ないし、鷹匠の学校でも作らせたら面白いかもしれないね」
「「「うんうん」」」
「ところで・・・暇だね」
「油送管の見回りなんて、襲撃されない限り暇だよ」
「これで、飛行機や軍艦を動かせるなら悪くないか」
「でも油質が悪いからガソリンになる量は少ないらしいよ」
「なんか、日本は、苦労の割に報われないね」
竜鳳石油精製所
軍政と軍令の激しい予算折衝で施設費用が捻出され、
なけなしの日本資本も投じられていた。
漢民族数十万人の人海戦術で土地が整地されていた。
日本から資材と機材が持ち出され、竜鳳製油所が増設されていく、
ドイツから購入した人工石油の資材と機材は、粘土質だった油質を液化し、
油送管に押し出した。
油送管は、鉄道沿いに満州と韓国を突き進み釜山港へ向かっていく、
半島から日本へと運ぶ油送ルートが作られ、
石油燃料は、日本産業を好転させる起爆剤となりえた。
もっとも、軍需を中心とした産業に限定した回復であり、
軍需以外の経済は、まだ破綻していた。
生活物資は配給制に移行し、
食糧不足は、結核患者を増大させ、労働生産力を低下させていた。
庶民生活は困窮し、
戦争需要は、日本国の経済成長を発展させるどころか、
社会生活を麻痺させ、日本国民の血(資産)と汗(労力)と涙(生命)を削ぎ、飢えさせていく、
戦線を維持するために膨大な国家資産は消耗させられ、国家基盤を弱体化させていた。
日本経済がもし再建されるとしたら
正常な国体、
正常な国家運営、
正常な需要と供給を元にした経済に戻すよりなかった。
国民軍は、米英の援助が断たれると、さらにモラルが低下し、
もともと低かった繊維はさらに低下し、攻勢能力を喪失していく、
共産軍は、ソビエトから細々と支援を受けていたものの、
漢民族の支持を得ていなかった。
日本軍は、点と線の防衛に集中しつつ、軍の一部を生産部門へと移籍させ、
生産性をスズメの涙ほど向上させていた。
日本の某工場
70口径AK100砲の機構を模倣した56口径3式120mm単装砲が製造され、
艦艇と陸上を問わず要衝防空を担っていた。
「1分20発を達成できたとしてもだ。単装砲は、まずい気がするがね」
「だが、両用砲だ」
「一分で20発撃てるならこれまでの倍以上になる、単装砲に負けないだろう」
「砲身命数がまだ怪しいからな」
「それに同じ単装なら50口径5式127mm砲が評判が良かったぞ」
「レーダーとソナーの重量が増してる」
「口径が大きいと弾数に制限のある艦載砲に向かない」
「というよりレーダーとソナーの重量が増してトップヘビーになりかけてるからな」
「127mm砲は、2500t級駆逐艦に搭載できる火力じゃなくなる」
「しかし、魚雷の発射管を減らしてるそうじゃないか。攻撃力が低下するのは問題だぞ」
「ドイツの音響魚雷を模倣できるらしい」
「火力が低下してるようでも攻撃力のバランスは取れるそうだ」
「それより、無線と音響関連のラインを作るから工学科の学生を寄こせだと・・・」
「馬鹿な。戦場で “もしもし” と音楽が何の役に立つ」
「その “もしもし” と音楽で音響魚雷を作るんだろう」
「「「・・・・」」」
「兵器生産を減らして民需を増やす動きもあるらしい」
「戦場じゃ 弾薬がないというのに、そんなモノを作れというのか?」
「戦争中に馬鹿なことを、そういうのは戦争前にやっておくものだ」
「戦争前から軍が予算を取ってたからな」
「配分も軍内派閥で分けてたし」
「「「「・・・・」」」」
電話が鳴る、
「・・・どうした?」
「なに・・・」
「予算を地雷に取られた〜!?」
北緯34度、東経148
九十九里浜から760kmの洋上、
第一機動部隊が幕露守の周囲を巡回し、
対潜哨戒機の東海、94式水上偵察機が幕露守と艦隊上空を哨戒していた。
幕露守 管制塔
広げられた地図にアメリカ軍占領地から三重の同心円(哨戒圏、爆撃圏、戦爆圏)が描かれていた。
B29爆撃機
自重32400/61.200kg 2200馬力×4
全長43.1×全幅30.2×全高8.5 翼面積161.5u
速度574km/h 航続距離9650km 5200km(爆4.5t) 最大9t
12.7mm×10 20mm×1
地図だけを見るならば、日本の勢力圏はアメリカの科学技術と工業力によって押し返され、
衰退しているように思われた。
そして、アメリカホイホイ周辺域は、点々と撃沈マークが記され、
無線の報告で、さらに一つ増やされる。
赤レンガの住人たち
「マーシャルのアメリカ航空基地は拡張されつつあるようだ」
「最大航空戦力は、ポートモレスビー空軍基地だろう」
「アメリカ軍は山岳鉄道をニューギニア島北辺にまで伸ばして航空基地を前進させている」
「B29爆撃機の哨戒圏は、マリアナどころか、フィリピン沖にまで達してる」
「アメリカは好きな場所に原子爆弾を落とせるわけか」
「爆撃圏は哨戒圏より狭いよ、それほど深刻ではない」
「それに爆撃圏というだけで、護衛機抜きの爆撃機だけで侵入しないだろう」
「戦闘機で護衛できる場所には落とせるかもしれないが」
「日本も内線深くに戦闘機を配備させなければならない」
「当然、十分な兵装と装備も必要から、日本の防空戦略は破綻するよ」
「爆撃させればいいさ、占領されるわけじゃない」
「爆撃されてもいい体制か。地下壕を広げるように通達を出すか」
「アメリカ軍の根拠地を攻撃すべきでは?」
「そう短気になるな」
「竜鳳石油精製所と製鉄所の増産が進めば戦線は立て直せる」
「まだ油資源を確保しただけだ。基礎工業力とは別物だな」
「さらに産業まで波及するのは年月がかかるし、社会基盤となると10年単位だ」
「生産者の大量養成と練達。組織形成から連携までの年月も必要になるし」
「産業は、軍隊の命令と服従より、子育てに近いからな」
「最近は、そればっかりだな」
「昔と違ってジリ貧気味でな。政治的に軍は劣勢だよ」
「というよりハードルが高くなり過ぎた」
「性能を向上させるには産業の裾野を広げなければ成り立たない」
「露鳳のコンピューターのフローチャートを工程管理に応用できるようになったがね」
「まだまだ産業の効率化から程遠いね」
「あれは? 東シナ海の海底油田?」
「どんなボーリング機械を使ったか知らんが現状は、不可能だ」
「いい加減、採掘とか生産とか、社会基盤の会話から抜け出せないのか?」
「我々は、一兵卒じゃないし、戦いばかりやっていられるものか」
「まぁ 目先の戦果と引き換えに貴重な戦力を磨り潰して満足するわけにもいかないからな」
「それより、アメリカ海軍に幕露守を攻撃させる方法はないかな」
「アメリカが急いで、幕露守を攻撃させる方法となると・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「幕露守に原子爆弾があるというのは?」
「いいねぇ 露鳳のコンピューターにそれらしいものがあった」
「で、どうやって作るんだろう」
「作り方はなかったが構造はだいたいわかったらしい」
「たしか、ウランとサイクロトロンとかいう加速器がいるんじゃなかったかな」
「じゃ 作れよ」
「材料の見当ついても作り方知ってる人間がいないなら無理だろう」
「だいたい、予算がないし。1個艦隊とか5個師団潰して研究施設なんて嫌がるだろう」
「そういう取捨選択ができなくなったから、軍は暴走するんだ」
「と、とにかく、アメリカに攻めさせればいいのだから原爆を持ってる振りすればいいだろう」
「それより、なにか、アメリカの戦意を殺いで停戦させられる方法はないものか」
「作家連中に頼んだところ」
「不可避的な脅威を作りだせばいいというアイデアが多いようです」
「一つは、戦争の長期化が二酸化炭素を増大させ、地球が温暖化するアイデアと」
「もう一つは、露鳳が百年後の氷河期から逃れてきたというアイデアです」
「地球温暖化詐欺と、地球氷河詐欺ねぇ そんなもんに騙されるやつがいるのか」
「アメリカ側に協力者がいない限りは・・・」
「だいたい、そういう脅威だとアメリカは尚更、利権を得るため戦争を強行するだろう」
「そうなんですよね」
「ったくぅ 碌な作家がいない」
「それはそうと、欧州で米英軍が大陸反攻作戦を準備してるそうじゃないか」
「暗号解読でな。しかし、はっきりしたことはわからんが、ドイツには知らせてる」
「それで?」
「現状での戦力比で、米英軍の大陸反攻はあり得ないそうだ」
「だろうね・・・」
第一機動部隊
加賀、瑞鶴、翔鶴 (零戦114機、彗星74機、天山40機)
初瀬(マサチューセッツ)、三笠(アラバマ) (朱雀10機 海燕10機 双発水上機2機)
利根、妙高、那智、
吹雪、白雪、初雪、深雪、叢雲、綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、暁、響、
初瀬(マサチューセッツ)艦尾飛行甲板から物資を吊るした海燕(Ka31)が発艦し、
綾波の艦尾甲板に積み荷を降ろしていく、
「なんか、ホバリングがフラフラして頼りないな」
「オリジナルより性能が怪しいからな」
「それでも旗艦や本部からの手紙や新鮮な食料品が届くなら、ヘリは手放せない」
「艦隊内移動も速いしな」
「駆逐艦もヘリコプターが着艦できる程度大きくなるかもな」
「それより、新造艦の建造は?」
「産業はじり貧で限界だそうだ。改装で凌ぐらしい」
「戦力不足というより戦力を維持できなくなっている」
「第4機動部隊がアメリカ戦艦6隻、軽巡1隻、駆逐艦8隻を拿捕したからだろう」
「ワシントン、ノースカロライナーと補助艦艇は使えるがね」
「サウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマは最強戦艦といえるがね」
「船として駄目だな」
「三番砲塔を剥がして余剰浮力を増やしても不安だよ」
「火力と装甲を余剰浮力限界まで詰め込む。軍艦なんて多かれ少なかれそんなもんだろう」
「もう少しスマートさが欲しいし、それに火力3割減だと使いにくい」
「満洲の油田にお金を取られたから新造艦はなさそうだ」
「工業力が貧弱すぎて話しにならん」
「軍で根こそぎしたらしいからな」
「国を守るためだ」
「「「「・・・・」」」」
オアフ島 真珠湾
白レンガの住人たち
テーブルの上にニューブリテン島の地図が広げられ、
幾つもの駒が動かされていく、
士官が入ってきて、将校に耳打ちすると、
「・・・またかね」
地図上から護衛艦1隻と、油送船2隻の駒が取り去られる、
「タスマン海で撃沈されたらしい」
「計算し直してくれ」
「「「「・・・・」」」」 ため息、
「上陸地点が知られていると仮定すると、戦力比が有利でも戦況は不利だ」
「日本軍が地雷の量産を増やしたというのは本当かね」
「情報からするとそういう動きだ」
「ん、んん、短気な日本人らしからずだな」
「地雷は・・・新兵より厄介だよ」
「少なくとも地雷なら輸送と補給を考えずに済むから、日本の国情に合っているがね」
「んん・・・進撃速度が低下するな」
「しかし、どういった気紛れだ。日本が地雷の生産を割り振りを増やしたなんて」
「工作機械の精度が保てなくなって、生産力が低下したか」
「別の考え方をすると。こちらの暗号が日本軍に読まれてることも原因にある」
「侵攻ルートがばれていたら、地雷と機雷の効果は、数倍に増す」
「ちっ 本当に暗号が日本にばれてるのだろうな」
「そうでなければ戦艦6隻が待ち伏せされて、奪われるものか」
「それに輸送船団の被害は、Uボート参戦を差し引いても不自然だ」
「じゃ 日本側に読まれていると仮定しての上陸作戦も仕方がないわけか」
「しかし、戦力で勝ってるだけは・・・・」
「ふっ これで勝っても損失が大き過ぎて、予備役に回されること確実だな」
「これで地雷が増やされたら、進攻速度が遅れる」
「進攻速度が鈍れば爆撃と砲撃と機銃掃射を受ける時間が増えるな」
「計算より、被害が増すかもしれない」
「いや、資源の総量は変わらない、地雷が増えた分だけ、火力が落ちるよ」
「ふっ 実のところ、日本は地雷製造がせいぜいの生産力しか持っていないと思うね」
「どちらにしろ、ラバウル上陸は被害が大き過ぎる」
「暗号が読まれているとしたら、飛び石(アイランドホッピング)作戦は危険だよ」
「日本のX艦と暗号解読を何としかしないと、上陸作戦は、また延期だぞ」
日本の師団が前進し、
サイコロが放り投げられ、
アメリカの師団が引っくり返って後退する。
「「「「・・・・」」」」
「X艦が未来から来たという噂が将兵から出ている」
「君たちはどう思うね?」
「H・G・ウェルズのタイムマシンは読みました。面白かったですよ」
「状況的には否定し得ませんが・・・」
「アインシュタインにいわせるとだな」
「お湯が水になることがあっても、水がお湯になることは “あまりない” そうだ」
「“あまりない” 現象が起きたのなら、あり得ますかね」
「状況から人為的に起こった可能性は否定できないな」
「それで現象の調査は、進んでいるので?」
「ああ・・・時間に関するレクチャーなら受けたよ」
「それで?」
「・・・・」
「・・・・」
「残念ながら、最優先で報告することにさせて、専門家の判断を信じることに決めたよ」
「どの道、結論が出たら、対処は軍の仕事でしょうからね」
「それとは別に日本が流した偽の写真も見つけた」
「御丁寧に撃墜した我が軍の偵察機のカメラで撮って、我が軍の救命ボートで流したものだ」
数枚の写真がテーブルに載せられる。
「・・・この・・・]艦隊が偽物である保証は?」
「専門家がいうには高度と速度差の光の加減だそうだ」
「写真自体は良くできてるから、こちらも信じるしかないな」
「また・・日本軍も小細工を・・・」
「つまり逆に考えるなら、こういう状況はない、といえるな」
「それは助かりますが、日本軍が裏をかいてる可能性は?」
「日本人が、そこまで考えると思えん」
「傍目に見るなら結果の見えてない右翼勢力が盲目的に膨張してるとしか見えませんからね」
「どうせ、利権が大きくなり過ぎて自制できず、見境がなくなってるのだろう」
「もっと、日本人に弱点はないのかね」
「聞くところによると、こういった場でも自分の意見を出せず」
「派閥力学や力関係を優先するとか」
「そして、作戦の是非じゃなく、声の大きさと派閥で強い側に流される」
「んん、アメリカは多数決だが個人主義で自分の意見は言うからな」
「しかし、軍隊は、専制君主だろう」
「無論、そうですが自分の意見は言いますよ。上官には従いますがね」
「日本は参謀が強いと聞いたが?」
「その場で総合力が強い側に流される傾向にあるようです」
「アメリカは総合的な統括で強く、日本は個別的な専門で強くなるわけか」
「んん・・・意思決定に違いはあるが、どちらにも長短がある。決定的な差じゃない」
「これまでの戦果をX艦を差し引いて考えるとそうですね」
「例のモノは?」
「極秘裏に遂行中です」
「完全通信管制で頼むよ。アレが敵に渡ったら死活問題だ」
「安全装置は、二重三重にしてますし。わかっています」
「二重三重では足りんよ。四重五重で頼むよ」
「はっ」
「成功すれば一気に形勢が変わるはずだ」
将校たちの目線が一点に集まる、
ハリウッドの職員がカメラを回し、露鳳に似た模型を映していた。
アメリカ軍将校たち
「これで、日本艦隊を引き摺り出せるのか?」
「X艦の同型艦がアメリカ側に現れたら日本軍がどうするか。興味あるだろう」
「どうやって、第二のX艦の存在を日本に伝えるつもりだ」
「真珠湾の機動部隊に潜り込ませた形で撮影し、中立国に配給すればいい」
「日本海軍がX艦の同型艦の存在に気付き、ハワイに突撃してくれたら助かる」
「向こうは実物。こっちは想像で作ってるんだぞ。見破られるだろう」
「ふっ 日本の3流映画会社の技術がこの程度だ」
将校が写真を指で弾いた。
「舐めた真似しやがって、ハリウッドの映像技術なら勝てるよ」
「だといいけど」
「しかし、堂々と映すわけにもいかないし、うっかり入ってしまった程度だからな」
「中立国に配給しても日本外交武官がX艦に気付かない可能性もあるな」
「「「・・・・」」」
日米の戦線は、二つ
ニューブリテン島(日本軍) VS ニューギニア島(アメリカ軍)と、
クサイ島(日本軍) VS マーシャル(アメリカ軍)だった。
日本沖海戦は、日米海軍戦力比を縮めただけでなく、
情報戦略で日本優位も明らかにしてしまう。
アメリカ合衆国 ワシントン
男たちが書類を見比べていた。
「随分集まったな」
「日本は島国で閉塞的ですがね」
「一旦入り込めたら警戒感が低く、情報収集しやすい」
「相変わらず、情報に対する認識の低さか」
「というより、勘違いですね」
「スパイ最大の条件は、社交性なんですがね」
「日本人は、社交性がなく能力の高い者か。得体のしれない泥棒をスパイと思い込む民族性がある」
「内輪贔屓というやつでしょうね」
「いつも話している相手を信じたいと思い込みますから」
「誰かをスケープゴートにすれば、そちらをスパイと信じて意識を向けてしまう」
「おかげで、X艦の情報も少しずつ入ってきてますよ」
「・・・X艦が一回限りの支援か。複数回見込めるものか」
「持続的に支援されるものか。なにか、制限があるのか」
「それが最大の問題だな」
「その件は、一過性の可能性が高いと・・・」
「だといいが、不意打ちの代償が大き過ぎた」
「これ以上不意打ちを食らい続けるわけにいかない」
「我々の常識の範囲で戦えれば勝てるのだが・・・」
「戦況は?」
「ニューギニアとニューブリテンの航空戦は、損失比1対4で推移」
「マーシャルとクサイ島の航空戦は、損失比1対3で推移」
「負けていますがこのレートでも日本の方が先にパイロットが尽きるはず」
「日本航空部隊を全滅させられます」
「日本の新型戦闘機は?」
「震電は強力な戦闘機ですが、ムスタング、サンダーボルトで撃墜可能です」
「では、例のX艦とヘリとは、明らかに違うな」
「オリジナルのグリフォン(Ka54)は、12.7mm機銃では落とせなかった」
「これは、潜入部隊が確認している」
「まだ、技術的な融合が成功していないのでしょう」
「ふっ 日本は、ドイツの技術でさえ、消化不良を起こしている」
「それ以上の科学技術を吸収できるわけがない」
「問題は、規模の大きな作戦上のハッタリが通用していない事だな」
「では、また、暗号が解読されたのか」
「ああ・・・信じられんことにな」
「裏切りじゃないだろうな」
「まさか」
「暗号が解読されている限り、攻勢不能だ」
「ニューブリテン潜入部隊は?」
「包囲されているが殲滅にまで至っていない」
「しかし、暗号が解読されてるなら、なぜ、壊滅させられない?」
「暗号が解読されているとアメリカに知られたくないのだろう」
「日本人は、そんなに深慮ではない」
「例のX艦の影響かもしれない」
「いや、我々が思っているより、日本人は短慮でも戦場馬鹿でもないのだろう」
「ふっ 我々が思っている以上に日本人が戦場馬鹿で戦闘民族なら分かるがね」
「日本人が我々と対等以上の策略戦、謀略戦を展開できるわけがない」
「だが我々の情報は日本に知られ、日本の情報は不明確だ」
「情報戦略で劣勢で負けている?」
「原子爆弾は?」
「ドイツ空軍の迎撃力は増強されてますし」
「対日作戦で使用するとしても不確定要素が大き過ぎます」
「ラバウルに原爆を落とせないのか?」
「ラバウルに原爆を落として、対抗処置を執られたらどうする?」
「日本まで、まだ距離がある」
「日本が原爆を保有している可能性は?」
「X艦の科学技術は50年は進んでいると考えていいでしょう」
「ないと言いきれませんね」
「ところで、X艦の名称は?」
「たしか、露鳳(ろうほう)とか」
「露鳳ね。露の様に消えて欲しいものだ」
「当面の目標は、幕露守だがね」
「確かに幕露守殲滅は、大きな戦果になるだろう」
「しかし、幕露守の防潜能力と防空能力は高いはずだ」
「「「「・・・・・」」」」
「それと、欧州大陸の反攻作戦の方だがばれていないだろうな」
「はい、現状の戦力比では不可能と認識されているようです」
「まぁ そうだろうね・・・」
「「「「・・・・」」」」
太平洋で商船が沈むと、大西洋の護衛艦と商船の数が確実に減っていく、
地球が海洋によって繋がっていることを認識できている者は少なく、
アメリカが有限な軍需物資を太平洋と大西洋の振り分け
戦線を構築していると認識している者は少ない、
認識している数少ない指導者の中にヒットラーがいた。
彼は、例え、旧式の750t級VII型Uボートでも
食糧・水・燃料を満載し、乗員を3分の1に減らし、
日本に回航させられるなら日本人が戦果を上げると認識できた。
太平洋のUボートの3分の2は日本人が乗艦して、戦果を上げ、
Uボートの3分の1はドイツ人が乗艦して、戦果を上げ続けることができた。
横浜のドイツ人居留区
八頭身のドイツ軍将校たち
「X艦の情報は?」
「まだないな」
「やはり、新型Uボートでも送らないと情報が得られ難いか」
「X艦は、日本の切り札だからな」
「新型を送り込んでもX艦のオリジナル情報は得られ難いと思うよ」
「どちらにしろX艦のおかげでアメリカ軍は、日本向きだし」
「ソビエトも対日作戦を躊躇して非公式な会談が増えてるらしい」
「次の戦争のための布石に入ってるわけか」
「おかげで、ドイツ本国は、戦線を持ち直せているがね」
「とにかく、本国は、X艦の秘密を最優先で知りたいそうだ」
「最優先ねぇ」
数十機の機体が軌跡を描いて交錯し、
炎上した機体が幾筋もの黒煙を棚引かせ、落下していく、
ムスタングの編隊が蒼空を駆け抜け、
撃墜された震電と疾風が緑の大地に激突する、
アメリカ航空部隊は、質と量だけでなく、
飛行時間でも日本軍パイロットを圧倒していた。
被弾しても帰還できるアメリカ軍機のパイロットは、失敗の蓄積が容易となって経験となり、
被弾に弱い日本機のパイロットは、失敗の蓄積が生かされることもなく、機体ごとパイロットが失われていく、
1947年中旬以降、
アメリカ軍は、戦力比で日本軍を圧倒していた。
しかし、大規模な反攻作戦は、延長され、
日本の戦線は保たれていた。
もっとも広大な戦線を身を削りながら維持しなければならない日本は、生殺しに近く、
無理、無駄、ムラな労力を強いられていた。
火口から噴煙が立ち昇り、スコールが降れば火山灰が大地を覆う、
桜島より湿っぽく暑苦しい世界が広がっていた。
機械類が錆び、真空管は次々に駄目になっていく、
しかし、本国からの交換部品は滞る、
日本軍は、本土でさえ不足しがちな物資をラバウル要塞のため送り込み、
本土も前線もスッカラカンといった情景があちらこちらで目に付いた。
戦艦大和、武蔵から剥がした45口径460mm砲塔2基は、蔦が絡まり草木に覆われ偽装されていた。
日本軍将兵たちは、砲塔の駆動部分の火山灰を削ぎ落し、
綺麗に掃除した後、油を塗り込んでいく、
「試射しても歪みはないし、コンクリートは、安定したみたいだな」
「いくら改造したからって商船に460mm砲塔を載せて運んでいいものじゃないよ」
「大和、武蔵をラバウルに投入するよりいいだろう」
「これで、ラバウル防衛が容易になればいいがね」
「少なくともアメリカ艦隊の艦砲射撃と上陸作戦は、他の場所を選ぶと思うね」
「爆撃は相変わらずだけど」
「そりゃ 航空基地と潜水艦基地がラバウルにあったら攻撃したくもなるよ」
「それよりこの戦況でX艦の技術を生かせないのか?」
「日本産業がボロボロになってるのに?」
「いまだに劣化模造品を作ることに躍起になってるんだからな」
「生かすどころか、殺してるよ」
「どこの馬鹿が始めた戦争か、神経を疑うね」
「軍事費の取り過ぎて破綻した結果だな」
「一旦、軍を解体しないと持ち崩しだよ」
「世界中を敵に回した後だと、立て直しようがない気がする」
「そこは、それ、X艦で何とか・・・」
「燃料が無尽蔵ならともかく、なんともならんよ」
「満洲の竜鳳油田は?」
「航空燃料は駄目駄目、艦船燃料はまずまず。火力発電用だな」
「頭いてぇ」
「発電を起こせるなら、日本産業は立て直せるよ」
「極東ソビエトが攻めて来なければな」
「それじゃ いつまでたっても軍事国家継続じゃないか」
「愛国心で締め付けられた庶民がいつまで我慢できるかね」
「父が戦死で、兄が手足を失って、家を空襲で焼かれて」
「疎開先で母と姉妹と娘が強姦されたら愛国心なんて吹き飛ぶし」
「馬鹿な戦争をしたと思うだろうけど」
「ふっ 遺族年金を考えると、頭痛いだろうな」
「受取人も爆撃で死ねばいいんじゃないか」
「ちっ 碌な未来像が浮かばねぇ」
「物資が増えるより減っていく社会じゃな」
「生産力が落ちてるのか」
「粗製濫造ばかりでまともなモノは前線に来なくなってるだろう」
「少数精鋭主義に囚われ過ぎてるからな」
「いや、本土にもないらしいね」
「日本で、まともな兵装を持つ師団は5、6個に過ぎないし」
「平均的に強いアメリカ軍とまともにぶつかったら勝ち目がないよ」
「ラバウル軍は大丈夫なんだろうな」
「関東軍の精鋭を回してるよ」
「満洲がヤバいだろう」
「武器弾薬を掻き集めて何とかするんだろう」
「なんともならなさそうなのが問題なんだがな・・・」
一号輸送艦が堤防に到着すると
如何にも砲身命数の乏しい大砲が降ろされていく、
山頂に置くことで、アメリカ砲兵部隊と辛うじて撃ち合える代物で、
平地で撃ち合えば鎧袖一触で破壊される、
そういう大砲ばかりだった。
「アメリカの155mm砲弾が1000発単位で降り注いでくるかもしれないというのに・・・」
「アメリカ軍に1000発撃ち込むのが惜しいと思わせられればいいけどな」
「船ごと沈めるのが一番なんだがな」
「Uボート艦隊が実行してるけど、不完全らしいよ」
「ドイツ海軍は商船を狙えるほど魚雷があるなら御金持だよ」
「日本は連合国商船隊を沈められるだけの魚雷も作れないのか」
「魚雷一本は家一軒分らしいよ」
「「「「・・・・」」」」
「俺は、家の方がいいな」
「「「「うん・・・・」」」」
当直の将校がやってくる、
「地雷を持って来たらしい、どこに埋めるか検討したいから、海軍側も何人か出して欲しいそうだ」
「やれやれ、どうせ、陸軍が、ここに置くからで、終わりだな」
「門外漢だからね」
「しかし、最近、地雷と機雷が多いな」
「せっかちな日本人に有るまじきだな」
「簡単に作れるからだろう」
「学生に銃を持たせて前線に放り出すより、地雷や機雷の方が幾らかましだろうよ」
「日本じゃ 地雷や機雷より、学徒兵の方が割安と聞いたこともあるが?」
「まぁ 人より土地と資源の価値が高い国だからな」
インド大陸の韓国人たち
「皇帝。移民船が来たニダ」
「皇帝はまだ早いニダ」
「もう、決まったようなものニダ」
「・・・同胞の受け入れと土地の分配をするニダ」
「まだ邪魔なインド人が残ってるニダ。それと反発してる同胞も・・・」
「旧約聖書のように頼むニダ・・・」
「はい」
聖書は律法と欲望と虐殺で綴られていた。
愛や許しといった概念が現れたのは新約以降で、
旧約以前は、神と組みした主人公の物語とユダヤの抗争だった。
そして、自分の側が神と組みしていると信じるなら、その行為は聖戦として正当化される、
インドに上陸した朝鮮人は、なにを中心に統一するかで混乱し、
古代から連綿と繋がる二つの源流に行きついた。
一つは力ある者が多くを得る思想であり、
特権階級を作り支配と被支配の主従関係を強化する手法だった。
それは、権力を集約させ、統制やすいものの
人民の総意と活力を失わせやすい社会となった。
もう一つは、あるモノを公平に分ける思想であり、
人民の総意と活力を得やすい手法であるものの
挙国一致からかけ離れた社会になった。
多くの国は、二つの思想を妥協しながら取り入れ、
一極集中ではなく、地方分権。
国家資本集中でなく、資本家への分散で社会を構築する。
インドに上陸した朝鮮民族は、国家形成の過程にあった。
李垠(イ・ウン)大将は、在印イギリス軍を駆逐しつつインドの支配域を広げ、
移民させられた朝鮮族の象徴となっていく、
しかし、消え失せた李朝の亡霊が復活し、
封建社会へと回帰していく過程で権力からあぶれる者たちが増えていくに連れ、
両班が復活し、生殺与奪権を握られることを恐れた。
そして、李垠(イ・ウン)大将を中心に朝鮮復活を目指す勢力と、
自らの権利を主張できるアメリカ型自由資本主義の派閥と
平等であることを望むソビエト型共産主義の派閥が派生し、
統一国家の形成を困難にしていく、
ムンバイ港
朝鮮人たちは眠らされ、貨物船に鮨詰めされていた。
船腹当たりの人口密度は、移民船が改装されるたびにギネス記録を塗り替え、
船が着岸すると同時に群れをなした朝鮮人が飛び出していく、
船橋
「大本営も酷いことをする」
「17、18世紀の奴隷船並みだそうですよ」
「彼らはインドで、どうやって生きていくのだろう」
「朝鮮民族コロニーを作ってタフに生きていけそうですがね」
「腹が減ってロクに歩けないはずだが、ファビョりながら暴走してるように見えるぞ」
「感情に支配されやすく、ストレスに弱い民族性ですし、怒りで我を忘れてるのでしょう」
「んん・・・上陸させた朝鮮軍に武器を渡してるから、インド社会の方が心配だな」
「インド大陸はカーストと人種・民族・宗教・言語でバラバラですからね」
「4000万のニューフェースが増えてもインド社会は堪えられますよ」
「朝鮮インド帝国建国なんてことになったら、かなり嫌だけどな」
「大丈夫でしょう。逆にいうならインドは統一性がない、ですかね」
「まぁ 朝鮮人はエゴが強いし、あれでバラバラだからな・・・」
先に来た朝鮮人たちは、後から来た朝鮮人をカモにしていく、
東海は、Ka31と並んで、アメリカ潜水艦の通商破壊作戦を減退させた功労機だった。
その機体が月明かりの下、幕露守を発艦していく、
幕露守の管制塔はいつになく慌ただしく、
将兵たちは、海図に印を付けていく、
「いったいどういうことだ。幕露守の周り全部、敵に囲まれたのか」
「無線輻射を辿って、位置を確認し、艦隊と対潜哨戒機に伝えよ」
「これだけの水上艦艇が動けば事前に気付くはずですし、潜水艦と思われます」
「しかし、この数はローテーションで考えても多過ぎる」
「潜水艦の撃沈・・・本当に撃沈なのか怪しかったからな」
「撃沈は漂流物の確認だけですし、現実は3分の1と考えた方がいいかもしれませんね」
「まぁ 戦果を疑い過ぎるのもあれだが、信じ過ぎるのも危険過ぎるからな」
「しかし、なんで突然、通信管制を解いて無線発信してるんだ」
「解読は?」
「それがまだ」
「暗号は、解読してるはずだろう」
「新型暗号か。デタラメかと・・・」
「新型暗号なら露鳳でなければならないか・・・」
「無線輻射は、幕露守の北に10か所。南に22か所。西に32か所、東に29か所です」
「何かの陽動だろうか」
「ニューブリテン上陸が近いのでは?」
「とにかく、あるだけ、対潜哨戒機を出せ、哨戒艇もだ」
「司令。先行した東海5号機から入電」
「無線の発信元を撃破。敵は救命ボートか。ブイのようなものと・・・」
「29mm機銃でも撃破可能だそうです」
「ちっ 紛らわしい。念のため哨戒艇に回収させろ」
「本物がいるということでしょうか。それとも爆弾が仕込まれてるとか」
「哨戒艇は、トラップと潜んでるかもしれない潜水艦に注意せよと伝えろ」
「じゃ・・ほかに陽動があるだろうか」
「数の少ない北から本命が来るとか?」
「夜中で視界が悪い、裏の裏で狙って数の多い西ということも・・・」
2424t級パラオ型アーチャーフィッシュ
司令塔
艦長と副艦長は、揃って腕時計を見つける、
「そろそろ、幕露守の全周囲域で囮ブイが無電とソナーを打つはずだ」
「幕露守の対潜部隊は飽和攻撃に晒されていると思い」
「囮ブイの多い南、東、西に移動するだろう」
「そこで、我々は、北から侵入する」
「調整は、大丈夫なんだろうな」
「はい、実験は成功してるので機械的な不備はないはずです」
「それに、この辺の海流も全て計算してます」
技師が応える、
「エンライト艦長。そろそろですかね」
「カヴァラを切り離せ」
「カヴァラ。切り離します」
アーチャーフィッシュから無人の2410t級ガトー型潜水艦カヴァラが切り離されると
400km先の標的に向かって4ktで海中を進んでいく、
改造されたガトー型潜水艦カヴァラの蓄電池は通常の4倍、水中速度は2倍強、
そして、魚雷室には・・・
東海が低空から機銃を掃射していくと、
救命ボーかブイらしきものが破壊されていく、
「これで、全部か」
「北は少ないですからね。そのようです」
「いったい何をたくらんでる」
「睡眠妨害では?」
「ふっ それならアメリカの作戦成功だな」
「帰投しよう」
「ええ・・・」
!?
「・・磁気に反応したぞ」
東海は旋回しながら反応の強い方向に飛ぶ、
「潜水艦見〜つけ」
海面に黒い影が映っていた。
「味方じゃないだろうな」
「近付いたら問答無用で撃沈するとドイツ側にも通達しているから自己責任」
「・・・まっすぐ、幕露守に向かってるな」
「撃沈しろ」
東海は、進路に合わせて緩降下すると、250kg爆弾2発を投下・・・
水柱と・・・海面が盛り上がり、火球が水面下から吹き上がり、
閃光が闇を遠のかせ、
数秒で辺り全てを白光が包み込み、意識を途切れさせていく、
白熱火球は、十数機の哨戒機と、対潜護衛艦4隻を巻き込み、
15km離れた幕露守の管制塔にまで届き、将兵の目を焦がした。
飛行甲板
「な、なんなんだ? 夜が明けたぞ」
「いったい、どうした?」
「み、見えん」
白光が少しずつ薄れ、視界を取り戻すと、目も前に巨大なキノコ雲が立ち昇っていた。
「な、なんだぁ」
「ば、ばくだん?」
「だ、大丈夫か?」
「ぅぅ・・目が痛い」
「バカ! 見続けるからだ。医務室に行ってろ」
「戦闘配備だ!」 管制塔の士官が叫び、
空襲警報が鳴り響いた。
B29爆撃機の4機編隊は、ミッドウェー島を出撃すると、片道3400kmの距離を飛行し、
目的の海域に近付いていく、
深夜の水平線から閃光が広がり、キノコ雲が立ち昇っていく、
「「「「「・・・・・」」」」」 茫然
!?
「どうした! 予定時刻より早いぞ」
「見つかって、撃沈されたんじゃないのか」
「やっぱり、直前で深度を上げるのは反対だったんだ」
「海中深過ぎると戦果が届かないかもしれないだろう」
「少なくとも、爆発したのなら日本軍に原爆を回収される心配はないな」
「潜水艦は大丈夫だろうな」
「・・・確認した・・・アーチャーフィッシュはカヴァラの切り離しに成功して後退してる」
「ほかの潜水艦は?」
「5隻とも安全圏に離脱してる」
「レーダーは?」
「まだ、核爆発の後遺症でノイズが・・・」
「この距離だ。すぐ収まる」
!?
「レーダーに幕露守を発見。艦載機を出撃させているようです」
「ちっ 無事か・・・」
「真珠湾に作戦は、失敗したと伝えろ」
「帰還する」
B29爆撃機は大きくバンクすると、
赤黒いキノコ雲をバックに引き揚げていく、
ドイツ帝国 ベルリン
ヴィルヘルム街と直角に交わるフォス街に東西400mにも及ぶ細長い建物、
新総統官邸(フォス街1-19番地)があった。
建物の北側に塀で囲った庭園が作られ、少なからず安らぎを与えていた。
ドイツ軍上層部は、庭園の東に面した総統地下壕に集まり、
巨大な欧州地図を囲んでいた。
大西洋にUボートの駒が配置され、
連合国の商船と艦艇の推定数が大雑把に表示され、
イギリスに世界最大最強の米英戦略爆撃部隊が駒として置かれていた。
東部戦線は、ドイツ軍の3倍近いソビエト軍の駒がドニエプル河の東側を埋め尽くし、
見るからにドイツ軍の戦力を圧倒している。
前線から送られてくる無線と電報を元に幾つかの駒が動かされ、
幾つかの駒が取り除かれていく、
ドイツ軍は明らかに不利だったものの、兵器の質的優位性が保たれ、
アメリカ軍の対日作戦戦力の振り分けが大きいのか、
戦線を破綻させてしまうような決定的な戦力差にならず、
東西の戦線は支えられていた。
ドイツ軍将校たち
「Me262戦闘機とF80シューティングスターの空中戦は、Me262戦闘機に軍配が上がっている」
「しかし、数では負けてる」
「それ以前にジェットエンジンは耐久性が低過ぎて量産に向かない」
「Me109とFw190をTa152に統合できたのは不幸中の幸いだったな」
「東部戦線ではパンターが圧倒的に足りない」
「パンツァーファウストがなかったら総退却だったよ」
「パンツァーファウストを日本に送り過ぎてないか。予備戦力を捻出できなくなってる」
「日本軍が我々の予備戦力なのだろう」
「太平洋に回航させた旧式Uボートは、連合国の輸送船と護衛艦を太平洋に回航させてるのか?」
「減っているようには思えないのだが」
「太平洋の護衛艦と輸送船が大西洋に回航されたら目も当てられないよ」
「もう少し、日本の動きが良ければいいのだがな」
「X艦の運用で梃子摺っているのではないか」
「耐久年数と補修部品を考えるなら、そろそろ限界だろう」
「そういえば、ライセンス生産中のヘリは?」
「日本よりマシなヘリを作れるよ。できるならオリジナルが欲しいね」
「同軸反転式ローターなんて高等技術を日本国産などと白々しい嘘を言いやがって」
「まぁ 開発過程の資料を見せろと言ったらシドロモドロだったからな」
「信じる奴は誰もいないから安心しろ」
「それはそうとX艦の運用が低下しているということはだ」
「持続的な支援を受けられていないと判断すべきじゃないか」
「X艦は一過性の現象か。どうせならドイツで起きればよかったのに」
「どちらかと言うと、現象に興味があるな」
「例の海域に巨大な建造物を浮かばせてると聞いたが」
「ふっ 寄せ集めの艦船を繋ぎ合せたものだろう」
「知らずに突撃したアメリカ機動部隊は大損害らしい」
「例の海域そのものを守るためのものじゃないのか」
「XXI型を何隻か、派遣して調べさせよう」
「日本海軍は無警告で撃沈すると通告してるぞ」
「ばれなきゃ大丈夫だろう。ばれてもコンパスが狂ったで済ませるさ」
「ふっ・・・」
緊急入電が入ると航空管制官たちが動き始める。
「司令! ノルマンディに米英軍上陸部隊です」
「何だと・・・規模は?」
「艦船は5000隻」
「先行の部隊は10万ほどですが橋頭堡を築かれたら、最終的に300万は・・・」
「司令。西部方面は2線級以下の弱兵か、外人部隊ばかりです」
「予備戦力と予備機をフランスに増援させるしかないな」
「総統に裁可を仰ごう」
ルフトバッフェ(ドイツ空軍)は最大規模の連合国戦略爆撃部隊の攻撃に忙殺されていた。
“撃墜 撃墜”
戦果報告が無線から伝わり、
ドイツ軍将校たちは駒を動かし、数字を書き換えていく、
「ムスタングとB19爆撃機の編隊がカムフーバー・ラインを突破!」
「規模は?」
「約1500機・・・さらに増加してます」
「コースは?」
「敵編隊は北と南に分かれつつ、ハンブルグからベルリンに向かってます」
「久しぶりに大都市爆撃か」
「予備機と対空砲のほとんどを西部戦線に移動させた後ですから辛いですね」
「ああ・・・ルフトバッフェ(ドイツ空軍)と対空砲部隊に通報。迎撃の準備を急がせろ」
「途中で地方都市にバラける可能性もあるな」
「それなら各個撃破だ」
「こちらの戦闘機の方が圧倒的に少ないのだが」
「仕方がない、決められた優先順位で迎撃だ」
とある防空壕
私服の男たち数人がワルサーPPKを握りしめていた。
「本当に今日、総統をやれる機会があるんだろうな」
「ベルリンを爆撃するから防空壕に閉じ籠もってやり過ごした後に行け、だそうだ」
「爆撃の混乱か・・・」
「とにかく、爆撃が終わるまで防空壕に閉じ籠もってろだと」
「新総統官邸から5kmも離れてか。ついた頃には臨戦態勢で待ち構えてるよ」
「と、とにかくそういう指示なんだよ」
フラックタワー(高射砲塔)
ドイツ軍将校たちは、北と南で展開される防空戦を見守る。
航空機の軌跡が空一杯に入り混じり、
火を吹きながら黒煙を棚引かせた機体が次々と落ちていく、
B29爆撃機の巨大な機体が街に叩きつけられ、炎を上げて爆発し四散する。
「壮観だな」
「ええ・・・」
「どうやら直上は、爆撃しないようだ」
「空白地帯になってしまいましたね」
「少佐。指揮所から11時、高度7600m来ます」
配置された88mm砲の砲身が上がり旋回していく、
「防空戦闘機。間に合いません」
「予備機は残っていないのか」
「それが米英軍がノルマンディーに上陸したらしく、そちらに・・・」
「ちっ! 何機だ?」
「3機、2機、2機、1機が縦列20km間隔で向かってきてるそうです」
「ちっ コンバットボックス編隊から逸れた迷子か。偵察だな」
「気兼ねなく撃てるってもんです」
ほどなく、3機編隊に向かって砲撃が始まる。
「・・・少佐。先行の3機はランカスターです」
「なに?」
3機のランカスターが対空砲火に晒されながらトールボーイ3発を投下、
落下速度は音速を超え、
3つの爆発の後、大音響が伝わり、
辺り一面が炎と爆煙に包まれる、
「馬鹿な。1t爆弾より大きいぞ」
「1発は、新総統官邸近くに着弾・・・」
「何だと!」
「被害は?」
「まだわかりませんが近いようです」
「第2波、2機、来ます」
「ちっ 総統暗殺部隊か。撃ち落とせ!」
対空砲火が2機のランカスターに集まる。
そして、さらに二つの爆炎が立ち昇り、瓦礫と土砂を辺りに一帯に撒き散らした。
「くっそぉ 迎撃機をこっちに回させろ」
「高度9000m。B29爆撃機2機来ます」
「撃ち落とせ!」
2機のB29爆撃機が新総統官邸直上に侵入し、爆弾を投下する。
新総統官邸の上空400mが閃光に包まれ・・・
「なっ・・・」
爆心から広がる衝撃波は音速を超え、数十万気圧で地表を押し潰した。
太陽かと思える光と
アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線の放射線は人々を殺傷し、
3000〜6000度の熱線は、あらゆるものを燃やし、
直下の住人を炭化させながら吹き飛ばした。
爆心地から900mが致死圏、1700mが被爆圏、2600mが熱傷圏、
爆風は半径8kmに達し、ベルリン市民百万人を殺傷しながら吹き飛ばした。
核爆発が広がり切ると、気圧の低くなった爆心に向かって大気を押し戻させ、
地表にあるものを宙に舞いあがらせ、巨大なキノコ雲を作っていく、
即死に至らなかった者たちも致命的な火傷を負わされ、
放射能は人体に深刻な後遺症を残した。
総統地下壕は、トールボーイの直撃が外れたものの、
側壁が破壊され、
扉は爆撃機数機の侵入と油断していたのか、きちんと閉じられておらず、
数十万気圧の爆風と熱と放射線と
直後の低気圧と押し戻して吹き飛ばされた。
4m厚のコンクリートで堅く守られていた総統地下壕内は数十万気圧の爆風が荒れ狂った。
5人の男たちは、ポケットの中の拳銃を握り、
防空壕から恐る恐る外に出ると辺りの様子が激変してることに気付いた。
辺り一面、煤煙が立ち込め、家屋が焼け爛れ、人々が瀕死の状態でうずくまっていた。
「いったい何があったんだ」
「い、急ごう」
「ああ・・・ん・・・上を見ろよ」
巨大な円形の雲が立ち昇っていた。
そして、黒い雨が降り始める、
「なんか変な雨だな」
「防空壕に傘があったな」
「傘使うのかよ」
「雨の中を傘も使わず新総督府まで歩いて行ったら疑われるだろう」
「まぁ いいか。あと1時間半くらいで決着がつくだろう」
「「「「・・・・」」」」
辺り一面、大粒で粘り気のある黒い雨が降り注ぎ、
傘をさした男たちは生きて帰る可能性が低いことを確信しながら歩いていく、
無数の砲弾が放物線を描いてノルマンディーのドイツ軍陣地を粉砕していく、
イギリス軍モントゴメリー将軍総指揮の下
上陸部隊は、ユタビーチ、オマハビーチ、ゴールドビーチ、
ジュノービーチ、ソードビーチの5軍管区に分けられた。
砲撃が上陸用舟艇の周辺に落ち、水柱が瀑布となって降り注ぐ、
砲撃の直撃を受けた上陸用舟艇が粉々になって吹き飛び、
機銃掃射によってハチの巣にされた舟艇は阿鼻叫喚となった。
上陸用舟艇が海岸に着岸すると米英軍将兵は、砲撃を恐れて駆け降りて散開し、
艦砲射撃の支援を受けながら、海岸に伏しつつ匍匐前進し、
戦車の群れが海岸に乗り上げると、徐々に橋頭保を拡大していく、
ドイツ軍の反撃は連携がなされておらず、
散発的な迎撃防御を繰り返しながら徐々に後退していく、
戦力比からあり得ないと言われた米英軍上陸作戦はドイツ軍上層部の喪失によって成功し、
作戦前にアメリカ東海岸を出航した大輸送船団はイギリスによることもなく、ノルマンディに向かい、
カリブ海でパナマ運河通航の順番待ちしていた輸送船団も北大西洋へ移動していた。
輸送船は、コンクリート製の即席桟橋(マルベリー)着岸し、アメリカ軍将兵と軍需物資を降ろしていく、
仮設港湾は、ノルマンディの作戦海岸ごとに作られ、
橋頭保の拡大とともに集積物資は山積みとなっていく、
重巡洋艦オーガスタ 艦橋
「戦況は?」
「いいようです」
「日本沖海戦で生き残った強運は、まだ残っているようだな」
「あの海戦は生きた心地がしませんでした」
「まったくな、何度、沈むかと思ったことか・・・」
「今回は大丈夫そうです」
「ドイツ軍の反撃は思った通り、遅れ気味だな」
「戦略的な権限を持つ師団長も中央から切り離されれば弱いはずですからね」
「特に全体主義の軍隊ほど指示待ち族が増え、自由な思考が失われやすいからね」
「予想外の衝撃を受けると脆いかもしれませんね」
「そうだろうな」
イギリスの飛行場
ボロボロになったB17、B29爆撃機が群れをなして、滑走路の脇で崩れ落ち
飛行場全体を褐色の煤煙で覆っていた。
両翼のエンジンが一つずつ止まった穴だらけのB17爆撃機が着陸したとたん、車輪が壊れ、
右翼が滑走路を引き摺っていく、
消火班が放水し、救護班が駆け寄って乗員を脱出させ、
滑走路を塞いだ機体を155mm砲、対空砲、M4シャーマンの砲撃が破壊し、
ブルドーザーの群れが排除していく、
基地の周りは、負傷者が倒れて呻き、
白いシーツが覆われた死体が運び去られていく、
米英戦略爆撃部隊最大の作戦は、未帰還率25パーセントという最大の損害を出していた。
「滑走路を塞ぎそうな機体は、どこかの空き地にでも着陸させろ。邪魔だ」
「もう、空いてる空き地なんて、ありませんよ」
「爆撃機と戦闘機合わせて300機も撃墜されたのか」
「帰還した爆撃機の半数も大破といえる状態です」
「総督府上空に向かおうとしたドイツ戦闘機を護衛機に追撃させて妨害させたからな」
「コンバットボックスの一部が崩れた」
「しかし、原子爆弾投下のためとはいえ、これほどの損害を出してしまうとは・・・」
「しばらくは作戦不能かと」
「時間差を置いて出撃させたB29爆撃機がベルリンの撮影に成功したそうです」
「10分後のベルリンは、地獄だそうですよ」
「「「「・・・・」」」」
「撮影の準備は?」
「あと、5分ほどで帰投するそうです」
「着陸待ちは、あと何機だ」
「撮影した機体を含め、あと12機ほど」
「それで最後か」
「連絡のあった機体で残ってるのは、それだけです」
「燃料で逆算した時間は?」
「あと32分です」
「いま送り狼が来たら最悪だな」
「集計予測では、ドイツ空軍も最大の被害のはずです」
「そうでなければ釣り合わないだろうな・・・」
「司令。モントゴメリー将軍が戦略空軍の支援も欲してるそうです」
「無理だ戦術空軍とやってくれと言ってやれ」
「とてもじゃないが彼らに再出撃の命令は出せそうにないね」
そういう光景が飛行場全体に広がっていた。
東部戦線
シュトルモビク編隊が爆弾を投下していく、
同時に地表から9発単位のロケット弾が打ち上げられ、数機が命中した。
ルフトファウストB型を抱えたドイツ軍将兵は爆片を散らして数十メートル先に墜落するシュトルモビクを見守る。
歩兵携帯の対空火器は、連合国だけでなく、
ヘリを実用化した日本にも影響を与えていた。
「中尉。後退するぞ」
「なんだ? ドニエプル防衛線を捨てるのか?」
「ベルリンに原子爆弾が落ちて、総統以下ナチス上層部が消えたらしい」
「それはめでたいな」
「おいおい」
「川の氷が融ける冬季開けまで防ぎたいが上層部不在でな」
「生産と輸送計画が上手くいかなくなってる」
「それで、今のうちに後退しないと日干しらしい」
「敵が迫ってるのに、将軍同士で権力闘争か。どこまで馬鹿なんだか」
「結果的にそうでも、ここは寒過ぎるだろう」
「まぁ 後退するのは賛成だね。ソビエト軍に追撃されると五月蠅いぞ」
「ソビエト軍は都市を占領した途端に略奪と暴行で軍規が乱れるからな」
「その時、逆襲すれば時間を稼げるよ」
「その作戦はドイツ国外で頼むよ」
欧州ベルリンに投下された原子爆弾はベルリンと一緒にナチス首脳陣を一掃し、
米英連合軍のノルマンディ上陸作戦は、ドイツ帝国の混乱に拍車をかけた。
中央から切り離された軍隊は、戦線の構築で混乱し、無暗に攻勢も掛けられず、
徐々に後退していた。
そういった中、
ドイツ帝国は、権力構造の再構築という難事業を行わなければならず、
古い形の権力機構が頭をもたげていく、
幸運にも被爆から逃れたドイツ皇太子ヴィルヘルムの次男は注目され、
ドイツ帝国は、ルイ・フェルディナント皇帝を中心に、
臨時の地方行政から引き抜いた連邦制と軍代表の二重構成となり、
暫定的な権力機構を形成していく、
もっともドイツ帝国を取り巻く情勢は悪く、
古い貴族系出身者が生き残りの多数を占めたことから、
暫定的な政治機構は、そのまま、ドイツ帝国の再興となり、
ベルリンから南西27kmのポツダムの街、
ツェツィーリエンホーフ宮殿で、
ルイ・フェルディナント・フォン・プロイセン(41)は、ドイツ帝国再興を宣言した。
もう一人、キール港Uボート基地を訪れていたカール・デーニッツも無事で、
ほかの将軍が東西の戦線で身動きが取れないことから、
国防宰相を押し付けられてしまう。
「戦況は?」
「現在、東部戦線は、ポーランド国境線まで後退しています」
「西部戦線は米英軍にノルマンディ半島を奪われました」
「軍の立て直しは?」
「人事処理を行い指揮系統を回復しました」
「防衛線を形成し、生産と流通と兵站を確認してるので反撃も可能です」
「我が国はどうなってしまうと思う?」
「戦況はよくありませんが、戦線を維持できれば継続して交戦は可能です」
「講和を結べないだろうか」
「ヒットラー総統死去は、講和の切っ掛けにはなります」
「中立国を介して、交渉してもらえないだろうか」
「ドイツ国民はベルサイユ条約以上の負担を強いられるかと・・・」
「それは困る」
「「「「・・・・」」」」
小雪が降る中、
M4戦車が列をなし、フランス平原の街道を東進していた。
左右は田園とブドウ畑が広がり、所々森が点在する、
街道沿いの森の小屋にドイツ軍将兵たちが潜んでいた。
「歩兵部隊の先行なしで戦車部隊の進撃か・・・」
「戦車を歩兵のように使ってるのでは?」
「ふっ ソビエト軍もそんなところがあるな」
「アメリカは、お金持ちですからね」
「そろそろだな。エンジンは冷えてないだろうな」
「大丈夫です。一発でかかりますよ」
キングタイガー戦車の主砲が火を吹くと先頭のM4戦車が破壊され、
M4戦車群は散開し、キングタイガー戦車を押し包もうと押し寄せる。
キングタイガー戦車はバックして小屋の壁をぶち抜いて後退し、
時折、停止して砲撃を繰り返してM4戦車を破壊し、
鉄橋の反対岸まで後退すると、ドイツ軍によって鉄橋が爆破される。
川を挟んでM4戦車とキングタイガー戦車が撃ち合うが、
キングタイガー戦車の砲撃は、M4戦車を破壊できても、
M4戦車の砲撃は、キングタイガー戦車を撃ち抜くことができず、後退していく、
キングタイガー戦車
「これで、ひとまず、進攻は収まるか」
「シェルブール港は、連合国商船で埋まってるそうです」
「戦力が整ったら渡河してくるのでは?」
「それまで、この河川を防衛すればいいさ」
ソビエト連邦 モスクワ
11月を過ぎると白銀の世界が暗く吹雪き、戦争行為が困難になっていく、
ドイツ軍は、ベルリン原爆投下とノルマンディ上陸作戦の影響で大幅に後退し、
ソビエト軍の戦況は好転していた。
とはいえ、ドイツ帝国の権力構造が再建されると状況も変わる、
ドイツ軍の指揮系統は回復しつつあった。
兵站線は滞りなく繋がり、師団同士の相互支援も有機的になり、
ソビエト軍の攻勢は、冬季とともに停滞し、
年が明ければ、新政府の下、ドイツ軍の命令系統は安定するだろう。
「書記長。アメリカは対日参戦を要求しています」
「ソビエトが知りえた情報だと、あのX艦は数十年先の技術で作られたモノらしい」
「しかし、レンドリースを考えると・・・」
「アメリカは人的損失に耐えられない政体だ」
「原子爆弾もあの後使われていないとなると製造に年月を要すのだろう」
「これ以上の人的損失を避けるなら、ソビエトにレンドリースするしかないはずだ」
「ではソビエトは、ロシア人の血の対価で国力を押し上げるわけですな」
「それの何が悪い、ほかの国もやってるじゃないか」
「少なくとも自ら粛正するより、敵に殺してもらった方がいい」
「来年の冬季明けには、ドイツ軍も再建するだろう」
「東部戦線で進撃が困難になるとなったら、対日参戦は不可能だ」
「それより、わが国も原子爆弾の開発を急がせろ」
「はっ」
日本の呉
ベルリンの原爆投下、
幕露守近海の核爆発、
アメリカ軍の決定的な破壊力に対し、
日本とドイツ帝国は苦境に落とされていた。
原子爆弾がさらに使用されれば戦線が破壊され、大きな被害を受ける。
もはや塹壕を掘ったくらいでは見を守れない時代となっていた。
正気なら講和の道を模索するものの、
敗北した時、民族と国体がどうなるかではなく、
自分の地位名誉財産と家族がどうなるのか保身が先に立つ、
国と国民と軍隊を犠牲にしても守りたいものもあった。
そして、原爆投下は、大本営が発表していないのに巷の噂で流れていく、
巷の人たち
「アメリカの新型爆弾で、ベルリンが壊滅したらしい」
「本当に?」
「ああ、米英軍はフランスに上陸してるし、ドイツは危機的状況だ」
「まさか」
「ドイツUボート艦隊の居留地を覗いてみなよ。空気が違うから」
「大本営はそんな発表してないだろう」
「ふっ 大本営は年功序列と権威主義で老外化してしてるからね」
「日本より、面子大事、派閥大事で嘘を付くし」
「都合が悪くなれば本当のことなんて言わないよ」
「そういや、あの空母も正体を知らされてないよな・・・」
空母 露鳳
異質で使い勝手の悪い未来艦の補修が行われていた。
こちらの方は基礎の概念がわかるのか、容易だった。
しかし、CICのデーターベースの解読作業は、そうもいかない、
若い情報将校たちは、通訳担当と操作担当と組になっており、
すったもんだしながらも多少慣れたのか、コンピューターを操作していた。
基本的に軍用プログラムだったものの、
百科事典が仕込まれており、世界史を網羅し、日本史も綴られていた。
赤レンガの住人たち
「・・・気に入らない歴史だな」
「少なくとも45年の日本敗戦は切り抜けてますよ」
「俺、死に損なってるし」
「お前はまだいい、俺の死に方、情けなさ過ぎる」
「もう少し、詳しく書かれていてもいいのだが・・・」
「軍用以外は、一般常識の範囲のものだろう」
「それでも膨大な量だが・・・」
「ですが評価基準がロシア人の考察ですからね。真に受けてもいいものかどうか・・・」
「いや、アメリカ、イギリスのもある。翻訳で割り引いたとしても日本の状況はよくない」
「日本。というより我々が。だね」
「日本を内側から見る事なら誰でもできるし、馬鹿でもできる」
「外から日本を見ることも必要だよ」
「例え、それが的外れだったり、不可避的な非難だったりとしてもだ」
「それが外国の評価で言動と行動を起こす動機になるのだからな」
「しかし、歴史が変わっても、日本の根本的な問題は変わってないのが問題だ」
戦後世界の画像が映し出されていく、
「国家基盤以前に国家の体質がね・・・」
「敗戦後の日米同盟と日本の経済発展か・・・」
未来の東京の光景は、軍人の意識も変えていく
「軍国主義は不健全で、国と国民の利益として有効な手段でないことは認めよう」
「しかし、自由資本主義が国と国民の利益と言えるのかね」
「弱肉強食と貧富の拡大と利己主義の増大だろう」
「行きつく先は、子が親に歯向かい、妻が夫を訴え、家族がバラバラになるだろう」
「・・・今よりいいと思うね」
「しかし、もう、歴史は変わってる」
「ドイツはまだ交戦中だし、日本もまだ戦える」
「日本の敗戦抜きでも、これは可能かね?」
「現在の軍需中心の利権構造だと、いくら海外利権を押し広げても国民は豊かにならないな」
「どう修正したものですかね」
「取り敢えず、平時になったら民需への転嫁を図らないとな」
「しかし、世界中を敵に回した後で、民需中心に転換できますかね」
「日本の軍需産業は大きいから、下手をすると殺されるな」
「これを見せては?」
「あまり公開したくないが、最後の手段として有効だな」
「それに戦後は日清・日露でも揺り戻しで軍縮が少なからず行われてる」
「民需に誘導することはできるだろう」
「朝鮮人のインド強制移民は土地が増えて、農地改革もしやすくなるし悪くなさそうだけど」
「戦後の内政は経済重視でいいとしてもだ」
「問題は、どう戦争を終わらせるかだよ」
「損失比でアメリカを継戦不能に追い込むか」
「それとも、なにか、取引できるものがあるか・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「X艦は?」
「「「「・・・・・」」」」
「この艦の設計思想は気に入らないが、高度の技術が使われていることには変わりない」
「アメリカにしたら喉から手が出るほどだろうな」
「しかし、アメリカは取引相手として信用できないね」
「それはあるな・・・」
「しかし、こういう戦後が許されるのなら・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「ドイツ次第かな」
「ドイツの戦況は?」
「西部はジークフリート線で持ち堪えている」
「空爆と機甲師団の攻勢に固定要塞が耐えられるのだろうか」
「ドイツ上層部の立て直しと同時に指揮系統が回復したからね」
「戦力比で言うと持ち堪えられる程度らしい」
「独裁が消えて、前線指揮官の裁量が増したみたいだが?」
「がっぷり四つに組んだら物量差が出るよ」
「ドイツは、日本に支援を・・・」
「連合軍輸送船を一隻で多く撃沈して欲しいらしい」
「「「「・・・・」」」」 ため息
ラバウル陣地
ワイバーン(ka31)モドキとグリフォン(Ka54)モドキが滞空する。
見よう見真似で製造したヘリは、オリジナルの数分の1の性能しか発揮できなかったものの、
世界の水準を大きく引き離していた。
しかし、アメリカの原子爆弾の開発は、山頂からの砲撃防衛を困難にした。
一発で戦線に穴が開く、
そのため、これまでより、深い穴掘り作業が行われ、
日本軍将兵は、アメリカ軍航空機が来襲するたびに防空壕に隠れ震えた。
日本軍将校たち、
「やれやれ・・・飛行機が来るたびにか・・・」
「原爆投下後、上陸作戦決行なら、アメリカは上陸作戦の準備ができていない」
「まだ余裕なのに、ついな」
「物資を高い場所に運び込む事が戦略上、特筆すべき要因になるはずだったのにな」
「大砲を運びこめない場所に大砲があれば、いいだけですからね」
「空からしか行けない場所は孤立してしまう恐れがあるがヘリなら余裕で補給できるからな」
「あと、あの辺りに地雷原を配置すればアメリカ軍も躊躇するはずでした」
「爆撃も突破も困難なわけか」
「原子爆弾が完成するまでは・・・」
「それとは別に地雷が雨で錆びて使いモノにならなければいいがな」
「内側は鉄製ですが外側を陶器で覆ってます」
「原子爆弾か・・・いろんな意味で、戦争が嫌になって来た」
「後は弾薬と水・食料ですかね」
「水源に近いし、水は何となりそうだが、弾薬と食料は日本軍の弱点だからな」
「あとは、原子爆弾と細菌化学兵器が使われなければいいのですが」
「使われると負けるな」
「日本も原爆を持っていると伝えれば?」
「持ってないのに?」
「張ったり、ブラフですよ」
「サンフランシスコ港沖で一発、核爆発させられるなら交渉になるかもしれないがね」
「ポーカーフェンスの得意な外交官がいたっけな・・・」
「このままだと、次はラバウル要塞に落とされるのでは?」
「だよな・・・」
「疾風がB17を4機撃墜したぞ」
防空壕から外を覗いていた士官が声を上げた。
「おお〜」
「損害は、疾風1機です」
損失比で勝ってる間は上陸作戦が遠く、
上陸作戦が遠ければ原子爆弾の投下も遠いと推測できた。
もっとも、それも原子爆弾の数次第といえなくもない。
「敵編隊引き上げました」
「「「「「・・・・・」」」」」
「よし、みんな。作業を続けるぞ」
「「「「はい」」」」
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月夜裏 野々香です
航空巡洋艦バクー(露鳳・X艦)と、
Ka31(海燕・ワイバーン)、Ka54(朱雀・グリフォン)の出現、
第4機動艦隊の活躍と、謎の海上要塞、幕露守
日本海軍は日本沖海戦で大戦果を上げ、ドイツ海軍のUボート回航を促し、
そして、露鳳の暗号解読技術は、アメリカ軍の反攻作戦を躊躇させる、
ソビエトは、露鳳に興味深々です。
アメリカ軍の欧州反撃は、B17、B29の飽和爆撃と原子爆弾、
そして、極めつけはノルマンディー上陸作戦でしょうか。
太平洋での反撃は、原爆搭載の無人潜水艦の特攻です。
お金持ちなアメリカ合衆国じゃないとできない荒業でしょう。
なにしろ、戦前の基礎産業能力が歴然としており、
1938年自動車生産
アメリカ 200万0985台
イギリス 34万1028台
ドイツ 27万6592台
フランス 18万9691台
イタリア 5万8966台
日本 8500台
これはもう、相殺戦で1対1の等価交換するだけで日本は消えてしまいます、
たまたま走ってる車を見かけたというレベルではなく、
大衆車として使われているか、
公用車・富裕層の持ち物かという感じです。
そして “たかが” 自動車と考えると、とんでもないことになるわけで、
自動車産業は、工程管理、生産管理、品質管理、等々
兵器生産に流用できるノウハウが詰まっていたわけです、
昭和初期の軍人は、兵器でも武器弾薬でもない自動車を
“たかが” と思ってしまったのかもです、
地下防空壕にいた場合、
ナチス上層部は生き残る可能性が高いと助言をもらったので、
前段階で、トールボーイ4発投下、
原子爆弾も爆心の高度を600mから400mに落とし、
さらに暗殺部隊を派遣させました。
ドイツは、木造家屋じゃなく、石レンガ作りですし、
原爆の表現は難しいですね。
第07話 1947 『フェイク ブラフ そして・・・』 |
第08話 1948 『インド儒陀皇帝ニダ〜♪』 |