月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第10話 1950 『聖域から腐るよ』

 日本の某工場

 露鳳には、クリーモフRD33ターボファンエンジン(推力11000kg)のマニュアルがあった。

 2000年以降の先端戦術は、日本陸海軍将校を驚嘆させる。

 完全な設計図でないものの構造の模倣は可能だった。

 しかし、チタン技術、シリコン、カーボン、光ファイバーなど、蓄積さえた技術の結晶で、

 蓄積された技術が足りなければ、構造を模倣できても耐久性、精度、品質が落ちた。

 それでもオリジナルに近付き、

 オリジナルを超えることを目標に開発と試作量産が進んでいく、

 日本軍将校たち

 「完全複製率は2パーセントくらいかな」

 「すくなっ・・・」

 「耐久性と品質は落ちるけど、紛いモノでも飛ばせるよ」

 「どのくらい工場を大きくすればいいって?」

 「ソビエト並みは最低でも必要だろうけどよくわからないし。アメリカに準ずるくらいは・・・」

 「して、予算は如何ほどに?」

 「あと10年、国家予算を全部注ぎ込んでも足りんね」

 「どちらにしろ、アメリカとドイツ相手に技術革新競争をしないとまずい」

 「開発か・・・先行開発しても産業はアメリカが上なんだよな・・・」

 「やっぱり、民需中心の方がいいのか」

 「質より数で民間活力を最大限利用して産業基盤の底上げでしょう」

 「現物モデルがあるだろう。民間にお金を取られるのは面白くない」

 「技術に裏打ちされた兵器じゃないと戦えない」

 「そして、技術を支える産業基盤を大きくしないと」

 「特にマザーマシンの精度向上はトンビが鷹を生むくらいの奇跡だから」

 「「「・・・・」」」 むっすぅうう〜

 「少なくとも露鳳の日本史よりましだと思うね」

 

 

 

 日本内地人口は5000万に減少し、

 扶桑(朝鮮)半島の日本人人口は3000万に達していた。

 地震の少ない半島で大陸資源を利用した工場建設が増えていく、

 予算の比重が民需へと移行するにつれ、

 巨大なロードローラーが地固めし、

 発電、上下水道、港湾整備と道路の建設が急速に増えていく、

 関係者たち

 「ずいぶん予算が動いてるじゃないか」

 「平時の間にやっておかないことがあるって気付いたんだろう」

 「まぁ 人口を半島に移動させることができたおかげで労働者を得られたし」

 「内地は土地収用が容易だったらしいけど」

 「道路なのに、ずいぶんと頑丈に作るんだな」

 「アウトバーン以上だから、飛行機が離着陸できそうだ」

 「60t級戦車を移動させたいらしい」

 「60tって・・・97式戦車は16tないだろう」

 「だから60t級の戦車を走らせるための道だろう」

 「無舗装で16t戦車を走らせると酷いことになるからね」

 「逆にいうと97式戦車の4分の1くらいしか作れなくなるということだろう」

 「60t戦車1両なら16t戦車4両に勝てるってことだろう」

 「なるほど・・・」

 「それに人件費を含めると、60t戦車の方が安く上がることになるよ」

 「それで・・・60t戦車は開発してるの?」

 「まだ30t戦車を試作してる程度らしい」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 ハルピン日本軍司令部

 関係者以外立ち入り禁止の張り紙がドアに貼られ、

 中では、未来戦車の画像が映されていた。

 「日本の最大級戦車は50tで、最終的な新型は40t級戦車になるのか?」

 「この先はないようですね」

 「ソビエト戦車のデーターの方が詳しいようだが」

 「未来のロシア軍のものですから、それは仕方がないでしょう」

 「とはいえ、手探り開発なのは同じですが」

 「んん・・・この滑空砲と複合装甲というのは?」

 「滑空砲は砲の内側にライフルが無いもの」

 「複合装甲は装甲、チタン、セラミック、シリコン、カーボンなど幾つもの素材を組み合わせたものです」

 「作れるのか」

 「研究中です」

 「滑空砲、複合装甲を装備したT64戦車が60年代にソビエトで量産されることになってるぞ」

 「予算さえあれば対抗して量産できると思いますよ」

 「予算は?」

 「残念ながら・・・」

 「大本営は満州の現状を知ってるのか」

 「日本軍10個師団。極東ソビエト軍30個師団だ」

 「さらに極東ソビエト軍は増えている」

 「満州帝国を守れんじゃないか」

 別の映像が流れる

 “・・・軍国主義の発生に付きましては”

 “陸軍と致しましては、陸軍内の者が軍人としての正しき物の考へ方を過つたこと”

 “特に指導の地位にあります者がやり方が悪かつたこと、是が根本であると信じます”

 “或る者は軍の力を背景とし”

 “域る者は勢ひに乗じまして、所謂独善的な横暴な処置を執つた者があると信じます”

 “殊に許すべからざることは、軍の不当なる政治干与であります”

 “私は陸軍の最後に当りまして、議会を通じて此の点に付き全国民諸君に衷心から御詫びを申上げます”

 “此の陸軍の過去に於ける罪悪の為に、只今斎藤君の御質問にもありましたように”

 “純忠なる軍人の功績を抹殺し去らないこと”

 “殊に幾多戦歿の英霊に対して深き御同情を賜はらんことを、此の際切に御願ひ致します・・・”

 「「「「・・・・・」」」」

 「強大な組織に溺れ、組織防衛を優先した軍人の末路ですよ」

 「下村大将。こういう答弁が無くて幸運でしたね」

 「「「「・・・・・」」」」

 「まず国力を付けなければ、戦力を作れませんよ」

 「国力を越えた戦力を作ろうとしても国が衰弱するだけです」

 「もう懲りたでしょう」

 「だが、国防を預かる者として、現状の戦力比は困る」

 「この映像にある日本より発展させたいというのが政官財が一致した目標です」

 「未来を知ってもなおその未来以下では、未来を知らなかった方がましですし」

 「ふん! チャラチャラした国民だ。気持ち悪い」

 「そちらの方は修正を検討してます」

 「まぁ 3分の1くらいは戦争に負けたのが原因でしょうが」

 「残りの3分の2は?」

 「人間は神ではない、日本人も高潔な人種じゃないということです」

 「不正腐敗事件も未然に防ぐことができるでしょう」

 「もっとも別の不正腐敗も事件も起こりえるかもしれませんが」

 「ふん!」

 「今更、臭いものに蓋をしても仕方がないでしょう」

 「それで、大本営は、国防の不備をどうせよと」

 「漢民族がいるじゃないですか。督戦隊と囚人部隊方式を使ってください」

 「ば、馬鹿な。そんなこと。日本軍将兵の士気が保てるか」

 「どの道、道を舗装しないと戦車が移動するだけで経済損失なんですよ」

 「満州国内の漢民族の方が邪魔なのですから」

 「あなたの建前と美学で満州帝国を滅ぼさないで下さいよ」

 「だいたい、なんでソビエト軍の軍艦にこんなモノがあるのだ」

 「戦争に勝つには敵の動機と目的を知ることですよ」

 「情報は多ければ多いほどいいし、日本人の精神的な水準も参考になりますからね」

 「というより、公文関係は余裕で入るコンピューターのようです」

 「まぁ 趣味で集めてるデーターもあるようですけど」

 ほかの映像と音楽が流れる、

 「といってもソビエト連邦も国力的に限界で戦争する意欲はないと思います」

 「攻撃ヘリと対潜ヘリの現物はあるので、そちらを優先した方がいいかもしれません」

 「そんなものでジェット戦闘機に勝てるものか」

 「人は実績に怯えるもんですよ」

 「たとえ、スペック上で勝てると思っても躊躇するもんです」

 「だといいがな・・・」

 「まぁ アニメは面白そうだ」

 「あなたの言う、軟弱の象徴ですよ」

 「ふっ 戦車開発は、せめて日本戦車型にしてくれないか」

 「まぁ それも検討中です」

 「しかし、国力がつくまで、軍の聖域は広げられませんからね」

 「「「「・・・・」」」」 憮然

 

 

 竜鳳油田

 露鳳の情報で試掘した油田は、日本に必要な石油を賄うことができた。

 無論、油質の問題はあるものの、火力発電所で使う分には申し分なく、

 製油所の精製能力が増せば軽質油の大量生産も可能になり、

 日本のエネルギー事情は改善され、

 膨大な燃料は工場を動かし、

 低賃金で生産された製品は少しずつ国際社会へ流れ出していた。

 自動車工場

 関係者たち

 「取り敢えず、燃料と資源があれば産業は維持できそうだ」

 「しかし、いまだにドイツの技術に依存しないといけないとはね」

 「日本でドイツよりいい工作機械は露鳳に積んであったモノだけだろう」

 「あれをマザーマシンに工作機械を製造すればコンマ幾つかマシな精度の工作機械が出来上がる」

 「あとは、どれだけ沢山の優良工作機械を工場に置けるかだけど」

 「絶対数で劣ってるし、一新するまで時間がかかる」

 「それに日本の工員は、もう数世代分のノウハウが欲しいね」

 「BMWと提携が組める話しは?」

 「あちらさんも日本の部品の品質が向上してるので、興味があるらしい」

 「本当に興味があるのは露鳳に繋がる技術じゃないのか」

 「まぁ 戦争終結も日本との取引で遅れまいとした部分もあるらしいからね」

 

 

 

 首相官邸

 「日本は敗北せず、国土は大きいまま、資源もある」

 「にもかかわらず、史実以下の成長になる可能性というのは?」

 「大きな国土を守るため軍事費が多いこと」

 「異民族支配と犯罪の負担」

 「新工場を作れないこと」

 「既得権がそのまま残ってるため意識を刷新できないこと」

 「土地の拡大で大家地主意識が強くなり、企業依存者の減少します」

 「何と言っても近代化は貧富の格差を広げないことにはどうにもならないし」

 「総地主農民では・・・」

 「そして、徒歩圏内の人口減少が市場と流通を痩せさせます」

 「あと、予算分の国土で、分数の計算になります」

 「また、民主化が制限されるので、民間活力が押さえられます」

 「せ、積極財政はいつまで続けられる」

 「露鳳の情報を見ると基幹産業を興すため聖域を作ることになりますが1980年頃まででしょう」

 「その後は、民間活力に移行した方がよさそうです」

 「現在の日本は、列島、半島、満州を含めて5倍以上、100年以上の積極財政が可能です」

 「しかし、過度な積極財政は社会資本を不自然に流用させてしまいますし」

 「民間活力を長く削ぐことになるので、その発展が差し引かれます」

 「社会基盤が整ったのち、予算を退いた場合。収入を絶たれた周辺産業は数倍の規模になりますし」

 「生き残るため法スレスレの商法に移行し、バブル崩壊に至る過程になりそうです」

 「ふっ しかし、未来を見ても人間の欲望は変わらんな」

 「怖いのは核戦争でしょうか」

 「アメリカ2発。ドイツ2発で講和なら痛み分けではある」

 「政治的なセンスで言うと史実より落ち着くと思うが」

 「はい、ですがソビエトも配備するでしょう」

 「んん・・・」

 「そして、予算さえ投入すれば日本も・・・」

 「しかし、経済状態を考えると核の数を制限しないとソビエトみたいに自壊するぞ」

 「それはありますね」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 時空研究室

 露鳳が消える寸前の映像が流れていた。

 「露鳳が現れたと思しき海底で大量の金属反応が出ていることが判明した」

 「海底を浚った結果、黒海の都市ムィコラーイウ」

 「チェルノモールスキイ第444海軍工廠造船所と考えるのが妥当といえる」

 ロシア語で書かれた鉄板がテーブルに載せられる。

 「見ての通り、海底であってもこのような腐食はしないし、破壊のされ方も不自然だ」

 「露鳳の船体はある種の磁場に守られ」

 「その周囲は守られていなかったと考えるべきだろう」

 「テスラコイルを使ったとか。およその実験内容は理解できたが」

 「結論を言うと、電力が足りない」

 「また、この実験方法を使用した場合の代償は高く、成功率も低いと言える」

 「その上、物体を過去に送った時に起こる未曽有の被災も原子爆弾を越えると考えられる」

 「しかし、アインシュタインは、時間を逆行するには光の速さを越える速度が必要だと・・・」

 「宇宙は光速の約3.5倍の速度で膨張しているらしい」

 「我々が何に対し、光速であればいいのかということになる」

 「太陽系に対してということでは?」

 「太陽系の速度は秒速225km」

 「速度を稼ぐため逆方向に秒速、約300000kmで進むとしてだ」

 「既に我々は宇宙の果てに向かって、光速の3.5倍の速度で移動してる」

 「光速を越えると、どうして過去に戻れるのかという話しにもなる」

 「「「「・・・・」」」」

 「時間軸の流れを速度で考えるのは遠回りではないのか、というのがこの実験の主旨でもある」

 「この実験は時間移動を物質エネルギーの消失としてとらえています」

 「そういうこと、一旦エネルギー化した物質が時間移動後、物質の記憶で再構築されている」

 「不確かだが少なくとも成功している」

 「では、未来と連絡できれば、その利益は計り知れない?」

 「問題は不確実性と、その時に起こる災厄になるだろう」

 「ほかの方法を考えた方がいいと?」

 「というより、列強に日本が時間移動に対し決定的な秘密を握ってるかもしれない。と思わせる研究をしたい」

 「あまり期待してないと?」

 「既に1942年から、本来の未来と決別しているし」

 「未来の日本が我々と連絡を取ることを望んでいるとしたらだ」

 「もう、我々の元に来てるのではないか」

 「少なくとも、これを送ってきた未来と、我々が進むであろう未来は別のモノになっている」

 「そして、未来が過去に干渉するたびに別の未来を分岐させているということになる」

 「もう一つの可能性として、過去に干渉してしまうと」

 「いまの我々の世界を変えてしまう可能性もあるということだ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「まぁ 思考停止しない程度に監査も入るし、研究に必要な予算もある」

 「当面の目標は、時間に対する研究になるな」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 素材技術室

 ミクロ技術が積み上げられマクロな兵器のスペックに反映される。

 ミクロ技術が向上すればスペックは大きく跳ね上がる、

 露鳳の新技術に裏打ちされた戦果は大きく、

 これまで考慮されなかった材質開発の比重は、大きくなっていた。

 研究者たち

 「チタンはともかく。シリコン、カーボン、セラミックは期待できそうだ」

 「だけどなぁ 現物を渡されて同じモノを作れと言われても困るんだが」

 「こういうのは何十万通りもの試行錯誤の蓄積なんだよね」

 「分母の大きさに比例して得られる奇跡みたいなものだし」

 「だいたい時間移動した際の変質は考えなくてもいいのかな」

 「コンピューターが支障なしなら、ミクロレベルはなさそうだな」

 「救いがあるとしたら露鳳の工作機械かな」

 「あれと同じモノを作れたら・・・」

 「それよりコンピューターだろう」

 「ヘリが夜中ん飛んで正確に爆弾を落とせたのもコンピューターだし」

 「コンピューターを作るのも工作機械なんですけど」

 「そ、そうだった」

 「とはいえ、コンピューターで計算しないとこういうエンジンは作れんよな」

 「堂々巡りかよ」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 呉

 これまでと違った潜水艦が建造されつつあった。

 ドーナツ状の船殻が溶接によって繋げられていく、

 その構造は、ぱっと見た目でも耐水構造で優れていると思われていた。

 海軍将校たち

 「1675t級ラーダ型潜水艦か・・・」

 「やっぱり、潜水艦はソビエト型にするのか」

 「一番、設計がわかるのがソビエト潜水艦だしね」

 「まぁ 多少手探りで、細かい部分は日本型になりそうだけど」

 「改良するとしても、こればっかりはしょうがない」

 「改良って?」

 「冷房が少し弱いような気がしてね」

 「北極海運用だからか」

 「性能は期待できそう?」

 「材質はともかく、構造を模倣するだけでも世界最強になると思うよ」

 「あのプロペラは?」

 「ハイスキュード・プロペラ・・・」

 「鉄板で真似して実験したところ、いいようなので加工してみるつもりだ」

 「原子力潜水艦は?」

 「この艦だってかなり怪しいモノだし。まだ、無理かな」

 「アメリカは、1560t級タング型潜水艦だけど」

 「多分、勝てると思うよ」

 

ラーダ型 排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 魚雷 人員
水上 1675t 67×7×6.5 2700hp×2 21kt 11000km/7kt 6門 35人
水中 2300t   740km/3kt

 

タング型 排水量 全長×全幅×吃水 hp 速度 航続力 魚雷 人員
水上 1616t 87.4×8.2×5.2   15.5kt 19000km/10kt 6門+2門 87人
水中 2100t   18.3kt 32km/17.5kt

 

 「大型艦艇の建造計画は?」

 「当分ないかな。予算ないし」

 「ふっ 建造しても上官の憂さ晴らしの体罰制裁で水兵を殺してしまうか」

 「嫌気が差した水兵に軍艦ごと無理心中で爆沈させられそうだけどな」

 「その辺は何とかするってなったんじゃないのか」

 「とにかく、軍縮で徴兵を戻したけど、海軍は元々志願兵率が高くてな」

 「訓練と規律が厳し過ぎるのでは?」

 「まぁ 陸上と海上の二交代勤務は検討してるがね」

 「水兵を甘やかすと最新鋭艦でもカモだけどな」

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 

 

 日本 ハワイ州

 個人の才覚と努力と資本で伸し上がるアメリカ社会に

 日本の閥社会の枠組みが作られていく、

 日本型が天候と地の利の影響を受けやすい受動的な植物相だとしたら

 アメリカ型が個体の力量差がモノをいう能動的な動物相であり、

 これは、国の形成時の遺伝子ともいうべき価値観の相違で相容れることは少ない、

 無理な融合は水田で牛を飼うようなもので、双方の生産性を阻害し、マイナスとなってしまう。

 とはいえ、異物を取り込むことで起こりえる奇跡もあり得た。

 ハワイ自治法が幾つか制定された。

 アメリカ人の存在は、馴れ合いしながら劣化していくムラ社会な壁を壊す切っ掛けになり、

 植物相と動物相が混在する秩序のある森林文化となって憩いを求める観光客が殺到する。

 日系人は増え、アメリカ人は減りつつあったものの、

 日米の取引は増えていた。

 アメリカ西海岸の隆盛は、対日対中貿易にかかっており、

 日本人のロビー活動が無くとも、西部のアメリカ人がアジアとの取引を望み、

 アメリカ合衆国も西部域防衛のための産業育成を阻害するものではなかった。

 日米中間の取引は、急速に拡大していた。

 真珠湾

 港湾で日米合作映画が作られていた。

 軽巡 大淀 艦橋

 「日米合作で恋愛映画ですか」

 「まぁ 国策映画といえるね」

 「しかし、ずいぶん、船舶が増えてきてるな」

 「アメリカ人って、意外にサバサバしてるんですね」

 「もっと恨みがましいと思ってましたが」

 「アメリカ人は、日本人より民族的な結束が弱いし、地域と因習的なしがらみも弱いからね」

 「彼らが意識してるのは法と自由と権利と利害関係だけだ」

 「怒っていたとして、その分を差し引くから、日本人より陰湿じゃなさそうだな」

 「まぁ たとえ、銃の所持が禁止されたとしてもだ」

 「法が不公平なく執行されてるのなら構わないのだろう」

 「個人主義ってやつですか」

 「ああいう馴れ合わない人種を見ていると、日本人の気質が明確になるね」

 「いいんですかねぇ 風紀が恋愛モノになっていくのは面白くないですよ」

 「ふっ 日本人はお見合いが主流だからな」

 「繊細でシャイなんですよ」

 「違う言い方をすると小心ってことだろう」

 「アメリカ人は、いい意味で刺激になっていいよ」

 

 

 アメリカ合衆国

 デトロイト西方28kmのウェストランドと、

 ワシントン北西54km。ボルチモア西方10kmのウッドラーンで追悼の黙祷が捧げられていた。

 ほぼ同時刻に発射されたV5ロケットは、着弾もほぼ同時刻だったからだ。

 外国との戦いでアメリカ国民が戦火に晒されることは少なく、

 このショックは、少なからずアメリカの外交政策に影響を与える。

 対日戦の脅威と、対独戦の恐怖は大きかった。

 その一つ、アリューシャン海戦は、アメリカ合衆国とアメリカ人の威信をかけた決闘で、

 海戦の敗北は、コンプレックスとなっていた。

 その主要因が日本のレーダーとヘリの爆撃にあったとしても、

 撃ち合ったのは戦艦と戦艦でアメリカ戦艦は全滅し、

 日本戦艦大和、武蔵は残っていた。

 ワシントン

 「これがBB72。10万t級戦艦バーモントか・・・」

   排水量100000t 全長340m×全幅40m×吃水11m

   260000馬力、32kt、航続距離15kt/20000海里

   50口径460mm3連装3基、38口径127mm連装20基、72口径40mm砲100基

 「海軍の反発があるようですが」

 「時代遅れというの聞き飽きたし、私自身もそう思ってる」

 「しかし、世界最強の戦艦を建造し保有する。これは政治的国民的な要求なのだ」

 「艦尾の飛行甲板は?」

 「やはり将来的な柔軟性やヘリ運用を考えると・・・」

 「ヘリか。日本より遅れているな」

 「残念ながら・・・」

 「日本人は低賃金で一生懸命に働いてるではないか」

 「どうしてアメリカ人は高賃金で労働意欲が劣るのだ」

 「いえ、ハワイの情報では一概にはそう言えないかと」

 「日本人は、惰性で時間を無駄に使い、労力を浪費しています」

 「そこには無理な疲労があり、ムラな暇があり、歩留まりも多いと聞いてます」

 「そして、アメリカは合理的なベクトルを先に定め失敗の少ない工程で作業しています」

 「最近、日本の歩留まりが高くなってきてると聞いたが」

 「X艦の影響かと・・・」

 「あの国民性だ。工程マニュアル通りに作らせれば平均以上のモノを作ってしまうぞ」

 「ドイツ帝国も国力を巻き返しつつある。何とかしたまえ」

 「日本がインドに強制移住させた朝鮮人は日本人に憎しみを持ってるので使えるかもしれません」

 「役に立つのかね」

 「インド権益の口実になるかもしれません」

 「インドか。日独連絡を絶つうえでも押さえておくべきだろうか」

 「むしろ中東の石油の方が大きいかと」

 「日本は海底油田の掘削を検討してるというが?」

 「はい、日本は我が国の石油会社と技術提携を計画してるようです」

 「アメリカじゃ 地面を掘れば湧いて出てくるのに海底を掘る技術など・・・」

 「日本は地面を掘る技術でも劣ってるようで・・・」

 「断らせよ」

 「そうなるとドイツと・・・」

 「なら、好きにさせればいい」

 

 

 南イタリア

 アメリカとイギリスの資本が参入し、南イタリア経済を支えようとしていた。

 しかし、ローマに摩天楼を建設しようとしても遺跡物に突き当たって進まない、

 そして “無能で高圧的な公権力に対し、誇り高く名誉ある男として振る舞う男たち”

 と国家権力に対し明確な敵意を持って暗躍するコーサ・ノストラに悩まされる。

 アメリカ人たち

 「ったくぅ どうして、マフィアときたら力付くで支配しようとするかね」

 「南イタリアの近代化が進まないじゃないか」

 「南イタリア上陸後、どこかの馬鹿が刑務所からマフィアを出したからだよ」

 「あの時は、反ムッソリーニで都合がよかったからだろう」

 「いまじゃ 南イタリアの裏社会を支配してるのはマフィアだよ」

 「気をつけろ、あいつら外交特権なんて気にしてないし」

 「その気になったら人質にとって身代金を要求するような連中だ」

 「ふっ やりかねんな」

 「しかし、連中と組むのは考えモノだよ」

 「とはいえ、ドイツ帝国はバルカン半島で力を蓄えつつあるし」

 「北イタリアはマフィアが壊滅していて、元々から南イタリアより経済力が強い」

 「アメリカ政府がどう思おうと計画を強行するとマフィアと抗争になるし」

 「イタリア市民を巻き込んだ市街戦は気が進まないね」

 「チェーザレ・モーリの再来を願うしかないな」

 「それは全体主義下であることと、そういう資質のある人間じゃないとな」

 「民主主義ではできんよ」

 

 

 

 インド大陸

 儒陀藩王国

 儒教と小中華の伝統を引き継ぐ儒陀(朝鮮)民族の老害化は早い、

 というより価値観そのものが老害思想に凝り固まっている、

 国境線が作られても商才に勝るインド人の浸透は防げ得ず、

 儒陀民族は巻き返しのため法的な不公平を実行し、

 そのたびにインド商人の失笑と侮蔑を買う。

 とはいえ、余裕の無さは同程度であり、

 儒陀民族は商才の不足をマフィア化によって補ってしまうため、

 インド大陸中で騒動を巻き起こしていく、

 儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 「流しそうめんが食べたいニダ」

 「冷麺があるニダ」

 「冷麺は飽きたニダ」

 「冷麺の方が美味しいニダ」

 「美味しくても毎日だと飽きるニダ」

 「とろろ蕎麦でもいいニダ」

 「我がままニダ」

 「儒陀皇帝は我がままニダ」

 「日本人を呼ぶニダ」

 「そうニダ! 儒陀民族を高揚させるため城を築くニダ。華城ニダ」

 「そんな財政的な余裕はないニダ」

 「祭りごとは商業より大切ニダ」

 「そ、それに・・・華城の設計図が無いニダ」

 「そんなのケンチャナ城ニダ」

 「ケンチャナじゃないような」

 「ケンチャナは太っ腹で誇り高い儒陀民族の気概ニダ!!!」

 「男らしい男の儒陀文化ニダ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「作るニダ」

 民意と需要供給を無視した祭りごとは社会を疲弊させていく、

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 帝王学というのがあります。

 年表を見ると数世代から十数世代は使える金メッキでしょうか。

 後続は長いですが権力を捨て、権威に特化してるので、

 宗教に近く、法王のような立場になっています。

 どんな形であれ、国をまとめていくと

 全体主義的な右翼と個人主義的な左翼の力関係とか、

 貧富の格差が問題になってきます。

 適当な水準で収まるといいのですけど

 目を瞑らないとまずい部分とかでてきたり、

 かといって偏り過ぎると悲劇かもです、

 

 

 この世界の日本は、エネルギーと資源が満州で得られそうです。

 そして、露鳳の工作機械、機材、検査機が使えます。

 あと、ドイツが潜水艦で運んできた工作機械類もあるので、

 史実より品質のいい製品を製造できて、

 戦後は、上手くスタートダッシュができそうです

 

 そうそう、ハワイの全体主義と個人主義の関係は、いまの日本に一番近いと思います。

 まぁ モデルになる情報があるので・・・

 

 

 

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