月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第15話 1955 『・・・・の野望』

 日本も幾つかの権益を持ちつつ、大東亜共栄圏を独立させていた。

 独立した大東亜共栄圏の諸国家が適当なモデル国家を探そうとすると日本にならざるを得ず。

 日本型の政体と官僚組織が作られ、日本人の顧問が派遣されていた。

 独立国家の多くは封建社会ですらなく、部族社会の集まりだった。

 いまだ国家意識が芽生えていないとはいえ、

 地主がおり大家が地域を支配していた。

 階級が固定され不正腐敗が増えると勤労意欲が減退し犯罪が増加する。

 大東亜共栄圏で始まった農地解放は既得権益の破壊であり、

 独立したばかりの政府は中央集権型で喜ばれ、

 大多数の現地民は所得が増えることで喜ばれた。

 とはいえ、占領軍が占領国で何をするかというと財閥解体、

 近代的な工業力と資本を潰すことで政治経済の両面で支配していく方式だった。

 既に植民地の時代ではなく、

 日本側の意図は、農地解放で反日勢力を糾合しかねない地主層を潰すものだった。

 表向き共産主義の台頭を防ぐため、

 中央集権化、農地解放による貧富の格差の是正の政策と言いながら、

 日本資本が大東亜共栄圏で唯一の財閥、基幹産業体になろうとしただけと言える。

 なにはともわれ、アジアで工業生産力を有する国は日本ばかりとなり、

 港湾を整備し、鉄道を施設し、道路を伸ばし、橋を建設し、徐々に権益を押し広げていた。

 土木関係者

 「アスベストスは、駄目なんだって」

 「なんでだよ理由を言え理由を」

 「それは言えん」

 「奇跡の鉱物なんだぞ。理由も言わずに駄目ってどういうことだよ」

 「とにかく駄目なモノは駄目だ」

 「政府は横暴過ぎるぞ」

 「とにかく駄目だ」

 「ほかの国は使ってるんだよ」

 「・・・・」 にゃあ〜

 

 

 

 スウェーデン ストックホルムの某ホテル

 アメリカ、イギリス、ソビエト、ドイツ、日本、南北イタリア、東西フランスの代表が席に付いていた。

 戦後、疎遠だった国々の二カ国間協定は限界に達しており、

 国際会議の議題は、オリンピック再開と

 貿易、通信、為替などの国際協定だった。

 「順番的に日本では?」

 「「「「「「・・・・・」」」」」」

 特に反対もなく、56年の東京オリンピック開催が決まってしまう。

 既にオリンピック準備中の日本に不備はなく、

 60年のヘルシンキオリンピックも決まり、

 同時にオリンピック開催と併せて、国際会議が開かれる事も決まる。

 『いいのか、日本でオリンピック?』

 『自分で、やりたがっていたし。スパイを送り込みやすいだろう』

 『じゃ 急いで観光を煽らなきゃ』

 『『『『『・・・・』』』』』 にゃ〜

 

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 硬質ガラスの中、露鳳の部品が青白い光に包まれていた。

 露鳳の素材や海底を漁った物質を使った時空移動の研究が進むと、

 研究は僻地の地下深く、対核シェルター内に移動していく、

 「現象としてはこうだ」

 「例えば1942年のこの世界を甲潮流0番地の時空とし」

 「露鳳の最終的な時間軸2012年を甲潮流70番地としよう」

 「露鳳が出現したことで」

 「我々の世界は、甲潮流の時空から分岐した乙潮流となり8年が経過した」

 「この世界は、甲潮流から分岐した乙潮流8番地となる」

 「それと、もう一つの考え方もできる」

 「甲潮流0番地1942年と甲潮流70番地2012年を接点として捻じれてると考えられることだ」

 「つまり、我々は、捩じられて作られた70年分の輪っか、閉じた乙潮流の中にいることになる」

 「では後62年、2012年でもう一度、甲潮流0年に戻ってしまうのですか?」

 「まだ、仮定に過ぎないが可能性はある」

 「では、我々の乙潮流は70年分の時空潮流の輪を抜け出せず何十回も繰り返してる可能性が・・・」

 「メビウスの輪のように捻じれてる可能性もあるが、その辺の研究も検討すべきかもしれない」

 「わかったことは、時間移動が非常に大きなリスクを伴う事だ」

 「しかし、次元移動は、甲潮流8番地から乙潮流8番地への移動であり」

 「それほど大きな危険は伴わないと考えられる」

 「次元移動でも分岐が行われるのでは?」

 「二つの潮流が一時的に連結されるだけで、この移動は時空的な予定調和になると仮定していいと思う」

 「移動した場合、元の世界に戻ることができるのでしょうか?」

 「いまのところ、片道だ」

 「しかし、放射性素粒子年代測定で宇宙の年齢測定が可能であるし」

 「時空潮流の遺伝子と言うべき時空潮流素子が露鳳の素材で確認されている」

 「なので時空推進機関と時空潮流素子レーダーがあれば帰還は考えられる」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 露鳳(バクー)の推進機関は、蒸気タービン25000馬力×8缶4軸推進だった。

 バクー建造の時代はガスタービン機関と原子力機関が開発されていたものの、

 バクーの推進機関は、蒸気タービンが用いられていた。

 関係者たち

 「どうやら新素材と構造的な革新で機関の性能が著しく向上してるようだ」

 「結局、どの程度の熱と圧力に耐えられるかだからね」

 「日本や西側が進んでるようだけど、ソビエト製もいまの日本より上か」

 「上手く利用できれば相当な向上が見込める」

 「現物はなくてもガスタービンはなんとなくわかるね」

 「TV3-117ターボシャフトエンジンと基本的な概念は同じだよ」

 「ウダロイ級駆逐艦のM63ガスタービン(18000馬力)2基とM8KFガスタービン(45000馬力)2基」

 「スラヴァ級巡洋艦のM70ガスタービンエンジン(10000馬力)2基とM8KFガスタービンエンジン(22500馬力)4基」

 「二つの違う機関を使うのは面白くないな」

 「M63ガスタービン(18000馬力)4基72000馬力か」

 「M8KFガスタービン(45000馬力)4基180000馬力」

 「M8KFガスタービンエンジン(22500馬力)4基90000馬力で考える方がいいと思うね」

 「通常航行用と戦闘航行用だろう」

 「それなら、半分でいいのでは」

 「燃料不足で漂流したことがあるらしいけど」

 「それだけ、燃料消費が大きいということか」

 「大小2軸で一つの機関と考えるべきなんだろうな」

 「原子力機関を考えたくなるのも道理か」

 「キーロフ型巡洋艦のKN3加圧水型原子炉の構造はなんとなくわかるんだが・・・」

 「どうも、ソビエト製は機関不良が多いらしくて・・・」

 「人間の気質的な問題じゃないかな」

 「日本人なら大丈夫とは言い難いがな」

 「すぐ排他的になって猿山になっちゃうし」

 「その方がこじんまりと機能させやすいだろう」

 「さてと、心臓部の機関は向上型が見込めるとして、どういう組み合わせで行くかだね」

 「軍上層部は兵装中心で考えるからな」

 「船は、機関と船体の関係をまず考えてもらわないと無理が出てくる」

 「しかし、原子力機関を中型戦闘艦以下で使いたくないな」

 「だよねぇ」

 「満州大慶油田と東シナ海の海底油田が見込めるならガスタービンでもいいと思うけど」

 「んん・・・」

 

 

 日本国防省は露鳳の情報からミサイル化は避けえないとしり、

 ミサイル開発で露鳳の艦対艦P500、艦対空9K330、対潜RBU-12000ミサイルを利用する。

 これらはいずれもマニュアル図だけで設計図も現物もなかったものの、

 流用するだけで飛躍的な性能が見込めた。

 もっとも国情が違えば戦略的なドクトリンも違ってくる。

 とくに艦対艦P500(全長11.7m、直径880mm、翼幅3.2m、重量4600km、射程700km)

 は、重厚長大過ぎて誤魔化しようがなく、

 電子的なデーターリンクが可能な状況でもなく、

 対艦用の射程は40kmもあれば十分といえたのだった。

 もう一つ、他国に気付かれ難く、

 違和感なく使える91式航空魚雷、93式酸素魚雷、95式酸素魚雷があった。

 技術者たち

 「ロケットモーターで打ち出して、ターボジェットエンジンで敵艦に向かって飛翔させる」

 「ある程度の距離になったらレーダーで標的に向かっていく」

 「大きさ的には91式航空魚雷型(5270mm×450mm)でいいと思うな」

 「航空魚雷を巡洋艦に搭載するのは不自然過ぎると思うけど」

 「95式酸素魚雷型(7150mm×533mm)なら巡洋艦搭載でも違和感無い」

 「対潜魚雷ということにしたらいいだろう」

 「95式魚雷ということにして、同じ筒と同じ大きさで対艦と対潜でいいじゃないか」

 「んん・・・対潜と対空は弾頭が小さくていいからVLS式の艦内サイロでもいいけど」

 「対艦ミサイルは弾頭が大きいし、外付けの筒に入れたい」

 「筒は爆発しても艦を守れるくらいで・・・」

 「あまり重いのは困る」

 「セラミック、ケブラー繊維、カーボン繊維は軽くて強いらしいけど」

 「それに対艦といっても弾頭部分はHEATか。APDSだろう」

 「例え戦艦が相手でも弾頭重量を省けるはず」

 「それだと対潜はもっと小型化して、対空ミサイル並みにした方が・・・」

 「小型化は、せめてICレベルじゃないと」

 「軍艦が怖いのは、対空と対潜だと思うね」

 「むしろ、対艦は航空部隊にやってもらう方が・・・」

 「それはそうとトランジスターの生産は? こっちに回ってくるんだろうか」

 「「「「・・・・」」」」

  

 

 

  東シナ海

 石油掘削のプラットフォームは固定式、甲板昇降型浮遊式、船型浮遊式、半潜水型が検討され、

 大陸棚の五島列島と魚釣島に石油開発関連施設とヘリポートが建設されていた。

 海底ガス油田の採掘が成功し、

 油圧が高ければパイプラインで五島列島か魚釣島まで引っ張ることも考えられていた。

 魚釣島(3.8ku)

 全長1000m、全幅30mのトンネルが刳り抜かれ、

 出入り口にはヘリポートが作られていた。

 AK100 70口径100mm単装砲5基 AK630 65口径30mmCIWS5基と

 朱雀(Ka54)モドキ5機、海燕(Ka31)モドキ10機が配備されつつあった。

 「飛行場建設するより軍艦建造しろって海軍が喚いていたぜ」

 「取り敢えず、石油だよ。石油」

 「満州にあるだろう大慶油田」

 「ソビエトに脅迫されそうだから、危険分散で東シナ海の海底油田も押さえて置きたいんだろう」

 「ところで、石油掘削技術は大丈夫なのか」

 「ドリルビットだろう。タングステン・カーバイドかダイヤモンドを使うことになるね」

 「戦艦の装甲がオモチャの板に思えるくらいの掘削機を作らないと・・・」

 「それはいつできるの?」

 「んん・・・」

 

 

 陸上配備型AK100 70口径100mm単装砲塔

 艦艇配備の砲台と陸上配備の砲塔は基本的な素材が違っていた。

 艦艇砲塔が浮力の関係で軽量金属の合金に対し、

 陸上砲塔は土台次第で重量金属の合金でも構わない特性があった。

 例えばタングステンは艦艇の素材で使われることがほとんどなく、砲弾の弾芯で使うくらい、

 戦車でさえ機動性が損なわれるためタングステンの配分は少なめだった。

 それが陸上配備の固定砲塔だと工業力と経済力が許せるだけ重量金属を含めた合金が使用できた。

 早い話しが陸上砲台は重量と強度が高く防御力で勝っており、

 大口径砲が命中するか、対装甲誘導ミサイルが命中しない限り無事だった。

 関係者たち

 「これが爆発反応装甲?」

 「衝撃を受けた瞬間、外側に向かって爆発する」

 「核爆弾でも?」

 「この前の核実験では外側に向かって弾けて、母体を守ってたな」

 「距離は秘密だけどね」

 「どうせなら、もっと大口径砲か、誘導ミサイルを配備すればいいのに」

 「現物とマニュアル図があっても難しいのに。マニュアル図だけじゃね」

 「金もないしか・・・」

 「また、核実験はするの?」

 「捕鯨団体からクレームが来たから、当分はなさそうだな」

 「まぁ 鯨肉が売れないと困るだろうから、怒るだろうけど・・・」

 「日本は核実験ができるような場所が少ないからね」

 「大東亜共栄圏でやっちゃえば?」

 「いま民衆の不評を買いたくないそうだ」

 「また現地サイドか・・・」

 「日本人行政官は、基本的に穏便に済ませたがるからね」

 「経歴気にし過ぎなんだよ」

 

 

 歯舞諸島 水晶島

 見た目だけMiG29Kラーストチュカがロールアウトしていた。

 瑞燕と名付けられた機体は代用品が7割を占め仕様の8割ほどの性能を発揮していた。

 関係者たち

 「無理な背伸びしてる割に悪くなさそうだな」

 「ステルス形体を取り入れたし、航空力学的な形状は最高峰だと思うね」

 「問題は、トランジスターか」

 「トランジスターは、アメリカといい勝負で生産してるよ」

 「IC技術でトランジスターを生産すれば競争力で負けないわな」

 「ICの試作品は歩留まりが悪いが、アメリカより先行してる」

 「一般市場に回せないと赤字だろう」

 「赤字はしょうがないかな」

 「しかし、機密を守りやすい基幹産業と軍用でICを使えるなら産業効率は良くなるし」

 「経済的な優位性は揺るがないよ」

 「あとは素材の生産か」

 「複合素材の生産は幾つかヒントになる文面があったからかなり早いと思う」

 「だけど日本経済が人口労働集約型じゃないのが足を引っ張ってるらしい」

 「領土が大きくなってるのに農地解放して、小作人に気前よく土地を分配するからだ」

 「いまの列島は5000万程度の人口で1915年頃だからな」

 「この状態で農地開放なんてやったら労働集約、市場集約がぶっ飛んで失速するよ」

 「民衆の望みだからね。民主主義の自殺だろう」

 「というより民主化は民間活力を利用できれば強いけど諸刃の剣だね」

 「個人主義の台頭で家庭崩壊、企業の非国業化、党利党略と権謀術数で政治的な停滞」

 「だけど、人口は増えるし、低成長は一時的なものだろう」

 「土地売買が増えて少数の勝ち組と多数の負け組が作られるし」

 「それで、もう一度、労働集約型、市場集約に戻るよ」

 「いつになるやら」

 「50年くらいしたら」

 「いま戻したい」

 

 

 戦後、日本の国際的な地位は、アメリカ、ドイツ、ソビエトに次ぐ、第4位と言われていた。

 イギリスとフランスがずり落ちたともいわれるが、

 X艦の未知の技術が列強を怯えさせ、

 核兵器の配備が日本の軍事技術の高さを実証させる。

 そして、日本列島と扶桑(朝鮮)半島と満州帝国を含む大東亜共栄圏と

 大陸の日系シンジケートの資源と市場が日本経済を潤わせていた。

 もっとも経済の潤いと

 総合的な科学技術力、工業力の水準は別の角度から見るべきもので同一ではなく、

 就労人口を国民総ドカタと揶揄される国土開発に殺がれ、

 日本の科学技術の向上は産業の拡大に比べ低かった。

 なにはともあれ、国民総生産は毎年右上がりに上がり、

 日本の潜在的な国力の高さは、国民の勤勉と勤労によって顕現しつつあった。

 上下水道と電線・通信ケーブル用のパイプが埋められるとローラーで道路が踏み固められ、

 鉄筋の網が敷かれコンクリートが流されていく、

 関係者たち

 「移民政策と農地解放のドサクサで土地収用ができて助かる」

 「土地問題で絡んでくるヤクザも少ないしな」

 「延辺朝鮮族自治州の住人がヤクザの母体になる動きがあるぞ」

 「あいつら自作自演のマッチポンプで絡んでくるからな」

 「半島の朝鮮人と一緒にインドに流してしまえばよかったんだ」

 「満州帝国は一応、国外だし、いないといないで土地を買えなくて困ることもあるし」

 「年寄りは土地命だからね」

 「そういうときは土地を担保にビルを建てさせて破綻させちゃう」

 「欲の皮、突っ張らかせてるから上手くいくんじゃ」

 「銀行がそんなことしたら流石に社会問題になるわい」

 「正邪で機能を分けておかないと」

 「じゃ 朝鮮人じゃなくて漢民族?」

 「中国は日本よりでかいから、いろんな意味でヤバい」

 「取り敢えず、外国人の所得を制限してるから大丈夫だろう」

 「それも閉鎖的だと非難されるからね」

 「アメリカだって先端技術の製品は輸出したがらないからな」

 

 

 オリジナルのクリモフTV3-117は新素材が多く、

 新素材の量産が軌道に乗ったことで、まともな仕様を発揮することができた。

 問題は構造はともかく、新素材を売却できないことであり、

 それは、クリモフTV3-117エンジンだけにとどまらず、

 露鳳の技術全般に対して言えることだった。

 現物はなくてもマニュアル図があり、

 基本的な概念が書かれた教本があり、

 それらを利用していくうちに常識が変わり、

 日本の常識と世界の常識は、技術と着想で隔絶し、

 その格差を誤魔化すため国内向けと国外向けの2社体制とならざるを得なかった。

 

 この頃、列強は次世代の艦艇を模索し、建造していた。

 ソビエト連邦が13350t級スヴェルドロフ級巡洋艦

  全長210m×全幅21.2m×吃水6.88m

   蒸気タービン118000馬力 32.5kt  1250人

   152mm3連装4基 100mm連装砲6基 37mm連装砲16基

   533mm魚雷5連装2基 機雷68〜132発

 

 アメリカ合衆国が13600t級ボストン級ミサイル巡洋艦

  全長205.2m×全幅21.9m×吃水8.2m

  蒸気タービン120000馬力 33kt  1142人

  203mm3連装砲2基 38口径127mm連装砲5門 50口径70mm×12門

  テリアSAM2基

 

 軍事的要求は、巨大な投資で工業的な記録を更新させ、

 民間技術と生産力を軌道に乗せることができた。

 その工業技術が民間に反映させられるなら技術的な優位性を利用し、有利な国際交易ができることもある、

 しかし、軍機は往々にして国外への流出を望まない事が多く・・・

 とはいえ、露鳳の情報から機密に何年までと区切りが記されたことは救いのある進歩といえた。

 日本海軍は、巡洋艦大淀と、

 露鳳のデーターバンクで適当と思われたウダロイU級駆逐艦を参考にし

 見かけは戦後艦艇、中身は2000年型というコンセプトで独自の艦艇を設計し建造しつつあった。

 装甲、砲塔、機関、設計、品質、電子装備が一新され・・・

 関係者たち

 「乗員はほぼ大淀の半分以下か」

 「C4Iシステムは大丈夫だろうか」

 「露鳳で概念だけは理解できたけど衛星は使えないよ」

 「それはしょうがないけど」

 「カーボン繊維とケブラー繊維や光ファイバーは上手く働くんだろうね」

 「実験は成功してるよ。61年と65年初で70年代の技術だけどね」

 「技術的には10年先行してるわけか」

 「完成度は60年先行ってるよ」

 「工業力が歪過ぎて、不安だな」

 「試金石で予算貰ってるようなものだからね」

 「積載量を増やして艦を安定させるなら、もう少し、横幅が欲しい」

 「戦後艦艇だし、ガスタービンはディーゼルの倍は燃料を食うから丁度いいかも」

 「倍か・・・大慶油田が無かったら泣きたくなるよ」

 「ミサイルは?」

 「両舷側にずらりと並べて、装甲も兼ねたVLS方式の格納サイロを80基」

 「対潜、対艦、対空ミサイルは、91式航空魚雷型(5.270mm×450mm)に決まったらしいよ」

 「適当だな。昔の戦列艦みたいじゃないか」

 「二重隔壁は軍艦の常識だし」

 「同じサイズなら対艦対空対潜を入れ替えるだけでいいからね」

 

  9000t級 相模型巡洋艦

  全長190m×全幅18m×吃水6m

  M70ガスタービンエンジン(10000馬力)2基+M8KFガスタービン(45000馬力)2基

  110000馬力 速度34kt 航続距離10000km/16kt   300人

  AK100 70口径100mm単装砲2基 AK630 65口径30mmCIWS4基

  91式航空魚雷型(5.270mm×450mm)対空対潜対艦ミサイル VSLサイロ60基

  海燕(Ka31)2機

 

 「しかし、これだけのミサイル化は流石に不味くないか」

 「ヘリを機搭載してるし、張りぼてでも載せて、大型対潜哨戒巡洋艦にすればいいだろう」

 「使わなきゃサイロなんて分かんないし」

 「まぁ 原子力潜水艦が建造されてるし、わからなくもないけどね」

 

 

 

 戦車は全長を越える対戦車塹壕を越えられない、

 戦車の機動力を封じることさえできれば、戦線は第一次世界大戦並みに膠着する。

 満州帝国は大規模造成機械と人件費の安い人海戦術を行使できる数少ない国だった。

 大慶油田を守るための対戦車塹壕が掘られていく、

 幾つかの陸橋は破壊するための細工があり、日本軍駐留部隊が管理していた。

 46t級54式戦車が陸橋を渡る。

  54式戦車

  46t級 全長9.270m  車体長7.55m×全幅3.4m×全高2.4m

  800馬力 54km/h 航続力350km

  70口径100m砲  機銃(6mm×45)2丁

 

  54式対空戦車

  40t級 車体長7.55m×全幅3.4m×全高3m

  800馬力 54km/h 航続力350km

  65口径30mm6束 機銃(6mm×45)1丁

 

 54式戦車は、複合装甲で身を固めており、

 この時期ソビエトで量産されていたT54戦車と比べスペック以上に強力だった。

 関係者たち

 「複合装甲が効果あるなら、十分戦えそうだけど、問題は数だね」

 「陸軍は3000両ほど欲しいらしいよ」

 「月産15両じゃ 17年近くかかるよ」

 「土建屋は、対戦車塹壕と対戦車トーチカーで戦車の不足分を埋められるってよ」

 「あいつらどうしても国防予算を取りたいみたいだな」

 「年末のボーナスにも繋がるし」

 「戦車1両でどれだけ掘れるかって計算だし、戦車と違って恒久的に使えるからね」

 「政府も漢民族を合法的に減らせるから督戦隊に前向きだし」

 「地下施設掘って歩兵にパンツァーシュレック持たせた方が空爆に強いって気にもなるし・・・」

 日本車が煙を吐きながら道端で故障し、ドイツ車が脇を抜けていく、

 経済性優先で開発された日本車両に

 大陸の高速道路を延々と走り続けられる力量はなかった。

 ドイツ社と提携を結んだとしても基本コンセプトが島国半島仕様では作りが違ってくる。

 街の近くで故障ならともかく、郊外での故障は最悪で、冬なら致命的といえた。

 「もうちょっとマシな車を作ればいいのに」

 「車両の構造はともかく、使えない素材があってね」

 「大陸仕様車は開発しないの?」

 「日本人の購買能力と市場を考えると採算性が取れない」

 「低級品はアメリカ市場のガードが固いし、まだ、賃金差を広げられないんじゃないかな」

 「アメリカ人の個人消費が冷えてるってことかな」

 「大陸のアメリカ系シンジケートの生産品がアメリカに行ってるし」

 「アメリカ合衆国も、いまのところ消費より生産に意識が行ってるみたいだね」

 「アメリカ経済の牽引が弱いと日本産業の伸びはいまいちか」

 「老人が少ない間、無理やりインフレを起こさせる方がいいんじゃ」

 「これ以上のインフレは貯蓄してる人間にとって不評だし、不味いと思うよ」

 

 

 

 アメリカ合衆国

 日本人が街を歩くと振り返られる、

 戦後、ハワイと大陸シンジケートを仲介にした商取引は日米の貿易を促進させていた。

 日本人に殺された家族も少なくないものの文明国としての気概があり、

 決闘による講和と核攻撃の応酬による講和は、アメリカ国民の意識を変えていた。

 アメリカ人の慢心は消え失せ、向上心と献身性が街を支配している。

 元々 個人が社会を作っているという自負が強く、

 個人は社会の構成物であるという自意識に閉じ込められた日本人と根底から違って見える。

 黄色人種が機械部品をテーブルに載せる。

 「この部品は安定供給できるのかね?」

 「はい」

 「日本は、いつの間にこういう機械部品を量産できるようになったかな」 じー

 「日本人は物真似と改良が得意なんですよ」

 「我が社は一年前に量産に入ったはずだが?」

 「一部の部品だけなら、難しいことではありませんし・・・」

 「「「・・・・」」」 じーーーー

 「工場を確認したい」

 「で、では・・・」

 「アメリカは、成り上がりの資本家の国だ」

 「政府の制約で売る制約があるがね。買う制約は低いのだよ」

 「それにこの部品を安定供給できるとなるとそれ以下の部品の輸出も可能になるということだ」

 「こ、工場は、いつでも構いません」

 「何なら日本の新型戦闘機を買ってもいいが」

 「い、いやぁ アメリカと違って日本は一機種しか開発できませんでしたし、難しいと思いますよ」 汗々

 アメリカは競争社会であり、採算次第で日本製を使っても生き残ろうとする、

 工業的な優位性は販路を抉じ開け、日本経済に波及効果をもたらせた。

 

 

 大東亜共栄圏インドネシア

 インドシナの貧富の格差は農地解放によって一部是正されていく、

 もっとも日本資本や華僑資本の囲い込みが始まると少しずつ貧富の格差が生じていく、

 結局、農地解放は農村に対してであり、都市部の資本家が力を手に入れてしまう。

 資本主義による近代化ドクトリンともいうべき過程といえた。

 とはいえ、大多数を占める小作人は機会を得られ、自分の才能を生かすことができた。

 日本の利権を中心に日本人町が形成され、

 インドネシア人の雇用が確保されていく、

 そして、インドネシア独立、

 インドネシア独立が後回しにされたのは、インドネシア資源があまりにも大きいこと、

 そして、ジャワ中心の独立という歪さに、インドネシアの代表権を与えていいものか、

 疑われたこともあった。

 とはいえ、日本資本は、インドネシアの利権を得ることに成功し、

 日本人町の形成によって日本資本の基盤は支えられていた。

 スカルノ大統領は日本資本の基幹産業を利用できなければ広大なインドネシアを支配できず、

 独立後も日本資本は権益の拡大を見込めた。

 日本人町 “はつせ”

 陸王とジープパクリの四式小型貨物車が走っていた。

 舗装は徐々に行われ、

 日本製の家電が店頭に並び、インドネシア人が買っていく、

 生産と流通を支配し、社会基盤の建設も日本資本が受注していた。

 港湾が整備され、発電所が建設され、鉄道が敷かれ、道路と公共施設が建設されていく、

 産業のノウハウがある国が優位であり、

 大統領は発展と国の成長の代償にインドネシアの利権を日本に売却し、

 資源が日本へと送られていく、

 それでもオランダ支配の時よりマシであり、

 雇用で有利な日本語はインドネシア人の中に浸透していく、

 床屋

 「参った、参った。インドネシアの地主層に滅茶苦茶恨まれてるわ」

 「農地解放なんかやるからでしょう」

 「農地も雇用も増えてるんだけどな」

 「お金と交換に働かされてることに気付いたんじゃないですか」

 「だって貨幣経済の方が需要と供給が発展するでしょう」

 「電気も通せるし、消費が増えれば生活は便利になるし」

 「共産主義は浸透していないんですか?」

 「土地持ちは共産主義なんて言わないよ」

 「なるほど」

 「気を付けるのは都市部かな。労働者階級は賃金闘争の動きがあるらしいから」

 「インドネシア人はインドネシア人に任せるのがいいと聞きますけど」

 「それが森を一つ越えただけで別の部族で別の言語だろう」

 「インドネシア人も千差万別で頭が痛いよ」

 「さすが多民族国家」

 「まぁ インドネシアの国家統一に協力してるから権益が増えるんだけどね」

 「現場の苦労なんて上は知らないからな」

 「でも今の日本はハングリーですけど」

 「豊かになったら白人の国みたいになってしまうんですかね」

 「そりゃ 国が貧しいから国外に出て行こうと思うんであって」

 「お金が貯まって年とったら日本国内で、のんびりとしたいわな」

 「ですよね」

 「まぁ お金が貯まっても資源は必要だからそこそこ外国に行くと思うけどな」

 

 

 インド大陸の各地で銃撃戦が起こり、

 その渦中に儒陀人がいた。

 儒陀はインド統一を画策していたものの、

 インド大陸は、騒乱程度にしか受け取られず、

 儒陀に対する嫌悪感だけが大きくなっていた。

 そもそもインド事情というものがあり、

 統一に近付くほど無慈悲で非道な事が行われ・・・

 儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 「皇帝。日本から華城の設計図が届いたニダ」

 「すぐに作り直させるニダ」

 「し、しかし、もう・・・」

 「4000年間培われた伝統は大切ニダ」

 「皇帝。大変ニダ」

 「インド藩王会議で、儒陀レストランのサービスとキムチカレーが非難されたニダ」

 「儒陀レストランを非難できるのは、儒陀レストランと対等以上の企業だけニダ」

 「インド統一する儒陀皇国の企業に意見できるインド藩王国は存在しないニダ!」

 「キムチカレーを誹謗中傷した罪でインド全藩王国に謝罪と賠償を要求するニダ」

 「インド企業に肩入れしてる日本企業にも賠償を謝罪と要求するニダ」

 「儒陀サービスをインド企業に教育できなかったイギリスも謝罪と賠償を要求するニダ」

 「キムチを馬鹿にする国は許せないニダ。個人攻撃で潰していくニダ」

 

 「皇帝。大陸シンジケートを経由して、延辺朝鮮族自治州とルートが作れたニダ」

 「よくやったニダ」

 「日本を大衆操作して、お馬鹿にして自滅させるニダ」

 「どうやるニダ」

 「ヒントは聖書にあるニダ」

 「偽キリストは、宗教、政治家、資本家で権威がある者ニダ」

 「偽預言者は、メディアと専門家で人気と能力がある者ニダ」

 「獣は人間の性欲、食欲、怠惰、睡眠欲で大衆を煽るニダ」

 「上手く日本で成り済まして日本人の倫理観と価値観を狂わせるニダ」

 「権威主義に事勿れに弱い日本人は、それで、自滅ニダ〜♪」

 「素晴らしい考えニダ」

 「大本営が対米対英対中対ソ作戦計画で練っていたニダ」

 「民主化した国にはとっても効くニダ。自分がやられたらいいニダ」

 「とってもいい作戦ニダ」

 「天皇を打倒して、儒陀皇帝が世界最長寿の皇帝になって世界に君臨するニダ♪」

 「ケンチャナ城はまだニカ?」

 「華城ニダ」

 「そうだったニダ」

 「華城は、まだニダカ?」

 「まだ、ニダ・・・」

 「日本人は半島や満州に日本の城郭を作ってるニダ」

 「華城を世界一の城にするニダ」

 「しかし、華城の設計図が・・・」

 「構わないニダ。歴史は習うモノでなく、作るモノニダ」

 「儒陀は、消極的で矮小でイエスマンな日本人とは根本的に違うニダ」

 「儒陀は、ダイナミックでケンチャナで生まれながらのレジスタンスニダ」

 「変えることは勇気ニダ」

 「日本人のように惰性に流される臆病な人間は駄目ニダ」

 本音と建前の無い儒陀民族は、朝令暮改が繰り返される、

 その時その時の感情が優先されるため、命令がコロコロ変わり、

 華城の建設は、そのたびに変更されていく、

 !?

 不意に銃声と砲声が執務室に伝わる

 「・・・皇帝。大変ニダ」

 「何事ニダ」

 「軍事クーデターが起きたニダ」

 「そんなはずはないニダ。軍は完全に掌握してたニダ」

 「インドに隠れていた儒陀ニダ」

 「じゅ 儒陀皇帝だけは変えてはいけないニダ!!!」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 戦後世界は、ドイツ、ソビエト、アメリカ、日本の四極です。

 日本人は列島と半島に住み、ハワイを押さえ

 満州帝国を策源地にしています。

 中国大陸は外資企業と匪賊が支配するシンジケートの世界、

 大東亜共栄圏は農地解放で日本権益拡大でしょうか。

 イギリスは生存圏を賭けてカナダと豪州に向かい、

 フランスは貿易で生きるか、植民地の開発でしょうか。

 インドは儒陀藩王国によって統一されてしまうのでしょうか (笑

 日本で革命が起きず、儒陀皇国で革命が起きてしまったようですが (笑

 

 

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第14話 1954 『・・・・の予感』

第15話 1955 『・・・・の野望』
第16話 1956 『強者が笑い、弱者が泣く』