タイムスリップ系架空戦記
『時空巡洋艦 露鳳』
第16話 1956 『強者が笑い、弱者が泣く』
この時期、伊勢湾付近の神社仏閣の補強が行われ、
住宅街では・・・
「抵抗は無意味ニダ。お上はおれたちの味方ニダ」
「・・・・」
「警察も見て見ぬふりニダ」
「・・・・」
「さっさと印鑑押してサインするニダ」
「・・・・」 しょんぼり
開発公団系列会社によって土地が買われていく、
単に家主が変わるだけなのだが、人口の少ないためか土地の売買は増えていた。
「いつもいつも、こういうショボイ仕事ばかりニダ」
「土地が値崩れしてるせいニダ」
「戦前戦中戦後のゴタゴタは良かったニダ」
「日本人は昔から荒事を避ける傾向があって我々を利用してきたニダ」
「戦前に戻っただけニダ」
「明治維新の前は、もっと仕事が無くて、冷飯だったらしいニダ」
「庄屋の “ヤクザに頼む” が脅しだったニダ」
「次の仕事はどこニダ?」
「ダム建設ニダ」
「今度は、少し実入りがいいニダ」
「日本が戦争に負けてたらドサクサに紛れて、もっと、あんなことやこんなこともできたニダ」
「駅前の土地も奪えたニダ」
「無念ニダ」
「これからでも間に合うニダ。右翼と左翼に潜んで頑張れば日本を滅ぼせる明日が来るニダ」
「よし、日本を滅ぼすニダ!」
「「「「日本を滅ぼすニダ!!!」」」」
「日本を滅ぼすニダ!!」
「「「「日本を滅ぼすニダ!!!!!」」」」
「日本を滅ぼすニダ!!!」
「「「「日本を滅ぼすニダ!!!!!!!」」」」
クライアントの需要に従って汚れ役の集団が日本中を徘徊していく、
大陸と半島で敗者は、一族郎党皆殺し、
しかし、日本は、親の因果が子に及びにくく、彼らが滅びる可能性は少なかった。
未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)
時空研究室
書き 書き 書き
“・・・日本の科学技術は、2012年の未来技術の集大成である露鳳のおかげで多少余裕がある”
“と言っても露鳳の就役は1987年でソビエトの科学技術は西側に比べて低い”
“しかし、空母型が幸いし、新しいヘリと装備が搭載されていた”
“弾薬は降ろされていたものの”
“弾薬の代わりに載せられていた精密機械は、ありがたい”
“技術的には、そちらの効果が大きいだろう”
“また露鳳が時空を越えたことで生じた位相属性も含め得ると大きな財産になると考えられた”
“とはいえ、位相属性は、人間に害を及ぼす可能性も否定できず”
“人知を越えた災厄をもたらす可能性も否定できない”
“暗中模索なため、思い切った実験もできない”
“通常、この位相属性は顕現しない”
“しかし、テスラコイルの発生で特殊な場を作ることで”
“時空に対し、干渉できるようでもあるが、いまだ手探りに過ぎない”
“露鳳の材質で作ったテスラコイルは高周波・高電圧を発生させるだけでなく”
“次元位相を共振させている節がある”
“数万の空心電磁誘導実験でわかったことと言えば天才が必要であるという・・・”
「おい、飯に行こうぜ」
「ああ・・・」
戦略研究室
“露鳳の情報によれば、日本近海に燃える氷メタンハイドレートがあるという”
“上手く利用すればエネルギー革命となり、産業は活性化するだろう”
“それを利用した軍事体系に移行したいものだが水深500mから1000mらしい”
“メタンハイドレートは、厄介なことに1立方メートルの個体が気化すると164立方メートルに化けてしまう”
“元々 メタンは気体なのだから仕方がないとしても”
“常圧常温で164倍に体積が膨れ上がられては困る”
“自噴しないため掘り上げる必要があり”
“というより高圧高温に晒して自噴した時が怖いと言える”
“メタンハイドレートの研究も必要ありなのだが、研究員は、露鳳に依存しきっており”
“それを越える技術革新に思いを寄せる者は少数派といえる”
“とはいえ、蓄積された技術は膨大なのだ”
“その技術の一部でさえ一般的なレベルで工業化できていない”
“新資材の生産は、軍と特定財閥の一部で限定に使われている”
“とはいえ、機密に属するため予算は限られ、新素材の生産は割高となっている”
“軍で大量配備できるようになるのは、新素材の多くが国際市場に乗ってからということになる”
“現物があり量産が軌道に乗りつつあるKa31とKa54の利用は、最良の選択といえなくもない”
“しかし、新素材の生産量から限定的なモノとならざるをえず”
“新素材を使用した空母の建造などできないと言える”
“例え、どこかの橋の支柱の芯に新素材が使われていたとしても”
“どこかのビルの支柱に使われていたとしても”
“それは再生産に関わることであり”
“その新素材が明らかになる可能性は、破局的な震災でもない限り露わにならないと言える”
“そして、年表によるなら2012年まで、そういった規模の震災はない”
“なにより軍より多くの予算を持つ省の勝手なのであり”
“再生産と関わりのない軍の新型空母は二の次とされている”
“とはいえ、旧式艦艇は人件費が著しくかさむ”
“これから建造される新型艦艇は、人件費を半分から3分の1にできるだろう”
“それら人件費の浪費と”
“彼らが生産部門に移行した分のプラスと、新型艦建造を天秤にかけるなら”
“建造が可能になり次第、建造すべきと・・・” 書き 書き 書き・・・
「少将。赤城・加賀型代艦の45000t級強襲ヘリ母艦です」
「露鳳を越えるものだろうな」
「はい」
「科学技術の進捗と新素材の革新を信じるなら、このトン数で押さえるべきだろうな」
「新素材の寿命は長く一世代をはるかに超えてしまいますし、新型艦の建造は尻すぼみ」
「技術的なノウハウが失われる可能性もありますね」
「そういえば、どこか、西側の民需主導の軍事兵器というロシアの論文があったような・・・」
「共産主義崩壊は前提ですか」
「彼らは資本主義の研究をよくやってる。滅ぼそうとしていただけはあるよ」
「考え方としては、これまでの逆になるな」
「民需生産品から軍需品を組み立てていく」
「国力の総量と、軍首脳のセンスが試されるな」
「国防的な観念からすると好ましいとは言えませんが」
「国力の総量から戦力が割り出されるなら戦力はおのずと限界がある」
「分母の国力が大きい方が戦力を増やし易いし、戦力が大きい方が勝つからね」
「新型空母の建造はいつ頃になりますかね」
「60年まで置いとくらしいよ」
「まともに動かしてないじゃないですか」
「だから新型強襲ヘリ母艦建造だし、離島の飛行場建設なのだよ」
「普通の空母は建造しないんですか」
「国は生存圏を確保して、外征する意欲を喪失しているからね」
「空軍の制空権下の運用しか考えてないよ」
日本領 水無月(ミッドウェー)島 (6.2ku)
決闘によって得た新領土の一つであり、
日本軍が進出していた。
日本海軍は退役艦が増え、代わりに島礁基地のポストが増えていく、
海軍将校は島流しに憮然とするものの軍艦より戦力は大きく、
軍艦島と開き直るなら持久力もあった。
輸送船が土砂を降ろし、浚渫船が海底を浚っていく、
計画が達成されるなら水無月(ミッドウェー)島の面積は6倍の18kuになった。
日本とハワイを結ぶ要衝で
大型レーダーサイトを配備でき、大型飛行場と港湾施設を持ち、
対空対艦対潜哨戒の一大拠点で強固な要塞となりえた。
とはいえ、原子爆弾一発で破壊されるご時世である事に変わりなく、
土建屋のゴリ押しといえなくもない。
関係者たち
「原子力発電の噂は本当かね」
「海水の淡水化で有用ですからね」
「制御に失敗したら・・・」
「だから小島じゃないと・・・」
「軍に犠牲になれってか」
「逃げる時間すらない潜水艦で実験するより良心的でしょう」
「安全性は、最優先なんだろうな」
「もちろん」
「風力発電とかじゃ駄目なのかね」
「そんなの回ってたら索敵の邪魔になるでしょうが」
「爆発しても地表に出てこない程度、地下深くで小型の原子炉ですよ」
「だといいがね」
地表の質量を支えるためボーリングは深く大きくなっていく、
地表から突き出された支柱は40mを越えるモノがあり、
レーダーサイトが置かれるとしたら、その上になった。
ハワイ島マウナケア山頂(4205m)にレーダーサイトを置くと245km先の艦艇を探知できた。
水上艦艇の探知は、オアフ島まで届かないものの、
対空レーダーは、さらに遠距離の探知が可能になる。
とはいえ、地の利を生かした防衛と裏腹に白人の多い島は防諜が困難であるとされ、
空軍基地がハワイ諸島カホオラウェ島(116ku)に移設されつつあった。
そこは断崖が多く、
満足な港湾もない200〜300m級の荒れた台地が広がるだけの島だった。
即席の港湾設備が整備されると
レーダーサイト、飛行場、対空対艦ミサイルサイロが建設され、
基地全体が整備されていく、
「島全体を基地にできるなんて豪勢だねぇ」
「というより日本軍全体が工兵みたいでどうかと思うよ」
「それは言える」
「どうせなら川とか流れてるくらいの大きな島が欲しいね」
「頑張って植樹しなよ。誰も文句言わないからさ」
「産業に寄与できないからって疎まれてたから生産性の低い島を押しつけられたって感じだね」
「住民を移動させるとますます嫌われるし」
「それで空母を建造できなくなるんだから泣くに泣けない」
「大本営は侵攻作戦する予定はないっていうし」
「それなら空母はいらないだろう」
「早い話し、ハワイ防衛は強襲ヘリ母艦より大型輸送機が有用だと思うね・・・」
蒼い空と青い海の狭間を瑞燕が爆音を響かせ駆け抜けていく、
欧米は日本で開発中の双発戦闘機を注目しつつあった。
日本空軍は、いまだ仕様に満たない性能と
数量を揃えられない事で焦っているにも関わらず、
列強は、最強の戦闘機かもしれないと噂していた。
「取り敢えず、何機配備するって?」
「40機」
「少ないよ」
「やっぱり、満州、半島、北方配備が中心だよね」
ソビエト連邦
戦後、ソビエトと米英は、蜀華合衆国で米ソ代理戦争を行いながらも裏で取引をしていた。
ソビエトの航空機と戦車に技術的な向上が見られた背景にアメリカとイギリスがあり、
イギリスは、グロスター ミーティアをソビエトに売却し、
アメリカは、P59エアラコメットを売却していた。
それは、日本とドイツの軍事的圧力を分散するためで、一定の成功が見られた。
米英は、蜀華内戦終結後もソビエトに資源、機械部品を売却し、
イギリスは比較的新しいホーカー ハンターをソビエトに売却していた。
ソビエトは、ジェット機開発を軌道に乗せ、
MiG9ファーゴ、MiG15ファゴット、MiG17フレスコを完成させ、量産に漕ぎ付けていた。
スターリン死後3年、
ニキータ・フルシチョフは政敵ラヴレンチー・ベリヤを処刑すると着実に権力を掌握していく、
フルシチョフは権力闘争が得意なだけの、愚かな年寄りだったがスターリンほど残忍でなく、
そして、そのことが救いなのか、モスクワの空気は和らいでいるように思えた。
カザコフ館 執務室
テーブルに写真が並べられていく、
「これが日本の新型戦闘機?」
「はい、アメリカやドイツの戦闘機より洗練された機体のように見えます」
「日本は独力でジェット機を開発する国力があるとは思えない。例のX艦の情報だろうな」
「もう少し大きく写った写真はないのか?」
「これでは、双発ジェット機としか、わからない」
「飛行場の半径2kmを立ち入り禁止にしてますし」
「人気のない空域を選んで訓練してるようです」
「それでは、練度が足りないだろう」
「冬季は、満洲でなく。日本本土で訓練してるようです」
「日本本土で写せばよかろう」
「日本本土も僻地の飛行場を使ってるらしく、上手くいかないようです」
「こちらが領空侵犯して、日本空軍がスクランブルした時、写真を撮ればいいのでは?」
「そうすれば発見までの時間と、スクランブルまでの時間差もわかります」
「機体の撮影も成功しやすいな」
「それが日本軍は国境から100kmほど内陸に地対空ミサイルを配備しており」
「警告後、発射、撃墜してます」
「日本空軍にスクランブルさせるには、外延部の防空ミサイル網を突破させなければ困難かと」
「地対空ミサイルがそんなにあるわけがないだろう」
「どこか隙間があるはずだ」
「それを確かめるために領空侵犯を続けろと?」
「かまわんではないか」
「「「「・・・・」」」」
満州帝国 ハルピン
日本人の入植が利権を中心に増えていく、
遼東半島と行き来する自動車の数より、
扶桑(朝鮮)半島と行き来する自動車が増えていた。
そして、大慶、チチハル側に向かう自動車も増えている。
アメリカの利権排斥に成功すると五族協和と王道楽土の理念が邪魔になり廃れていく、
日本人は、権力、財力、言語、文化の優位性を生かして生活できたものの
漢民族は、生かさず殺さずの生殺し社会でしかない、
その満州帝国が漢民族の流入を食い止めなければならず、
満州帝国から漢民族が逃げ出さないのはアメリカ合衆国とメキシコの関係に似ていた。
満州帝国は差別されても秩序があり、働く場があり、
安全に生きていける世界で漢民族の成功者も少なくなかった。
「凄い凄い地平線が見える」
子供たちが防塁の上ではしゃぎ回る、
ハルピンと外界を隔てる防塁は高速道路と遊歩道があり、人々の憩いの場となっていた。
目を見張るほど高くないものの、
防塁と塹壕を合わせると戦車が突破できない地形がおよそ見当がついた。
防塁の下に何十ものトンネルが作られ、
その下は、環状地下鉄道線が建設され、
幾つもの種類の陸橋が対戦車塹壕を越え、流動性を保たせ、経済的な損失を最小限にとどめていた。
トンネルと橋の数が多いことから不安がられるものの、
ヒットラーがワルシャワに築こうとした都市要塞の数十倍の規模らしく、
幾分か気休めになるのか、ハルピン投資は行われていた。
「あまりはしゃぎまわると落ちるぞ」
「「「は〜い」」」
「凄いのねぇ こんなに高く盛り上げるなんて」
「人件費が安いし、戦車の侵入を防ぐためだろう」
「爆弾や砲弾が飛んできても占領されるわけじゃないからな」
「ソ連が攻めてくるの?」
「アメリカ、ドイツ、ソビエト、日本で睨み合ってるからね」
「どこかが戦争すれば他の2カ国が喜ぶだけだし」
「死傷者が多くなると祖国の権力者に銃口を向けたくなるし」
「楽に勝てる戦争じゃないと攻めてこないだろうな」
「ハルピンは大丈夫かしら」
「さぁ 3年は持ち堪えられる備蓄はあるらしいけど・・・」
「チチハル、大慶、ハルピンの350km圏を対戦車防塁で繋げるって話しもあるみたいだし」
「不落都市というものあながち嘘じゃないか」
「でも軍縮してるんでしょ」
「見た目で軍縮できるようにやってるんじゃないかな」
大陸に来ると緊迫感と危機感から主婦も少なからず意識を外に向ける、
もっとも物価と防塁の高さが連動してると気付くかは不明だった。
そして、どうしても防塁を完成させ、且つ物価を上げたくないのなら
漢民族に苦役を強いるよりなかった。
男たちが双眼鏡で地平の台地を見つめていた。
「アルバイトは騒音の記録ニダ」
「これで測ればいいんだね」
「そうニダ。時間と音の大きさを書き込んで飛行機の写真を撮るニダ」
「うん」
「これは軍がどれだけ騒音で住民を悩ませてるかの記録ニダ」
「でも周りは畑・・・」
「軍の横暴を許さない心が大切ニダ。これは平和の仕事ニダ」
「わかった」
「それじゃ 頑張るニダ」
「はい」
美辞麗句と大義名分は人々を利用しやすく、
右翼は、愛国心と国防を利用して人々を対立と主戦に煽り、
左翼は、人権と平和を強調して人々の戦意を低下させ、意識を散漫にさせる。
そして、そのどちらにも同じ目的が隠されていた。
そう、日本人同士の左右分断と同族対立が目的で、
民族主義と国家主義を破壊することだった。
満州帝国北東部
さした要害もない平野が広がっていた。
ハバロフスクに近く、
戦争がはじまると真っ先に制圧されそうな凸域だった。
春になると機械を使って黒豆(黒大豆)、大納言、小豆を植え、
冬になる前に機械で刈り取っていく、
穀物を満載したトラックが行き来し、
国境に近い危険地帯に敢えて住む農家が一年間生活できる収入を上げていく、
農業機械の導入が戦車開発より優先された理由であり、
極東ソビエトにすれば魅力的な穀物生産地域で機会があるならと狙ってもおかしくない、
極東ソビエト軍との戦力差から辺境を守れそうにないのだが、
極東ソビエトも広大な未開地を抱え込み、
これ以上国土を広げたところで国民が豊かになるわけでもなく、
原子爆弾を保有する国に攻め込んでも、
得られるモノより失うモノが大きいと気付く、
不意に空襲警報が鳴り響き、
比較的小高い台地から噴煙が上がり、炎と共に電柱のようなものが飛び上がり、
蒼空を横切る機体と電柱のようなものが交差すると衝突し粉砕される。
国境警備隊が落ちた残骸を回収するために集まり、
「お前ら、順番に身体検査をする」
「何か、拾ったモノがあればすぐ差し出せ」
「見つかったらスパイ容疑だからな」
何人かが諦めたように隠し持ったいたモノを日本軍将兵に渡し、
国境警備隊は、不安げな見物人たちを追い散らしていく、
ソビエトは、領空侵犯があった事を認めず、
日本も領空侵犯に、おざなりな抗議しないため有耶無耶になっていく、
イギリス
ドーバー海峡の対岸はドイツ領で、
ドイツ帝国の戦後再建は着実に進んでいた。
ブルターニュ・ノルマンディーフランスは橋頭堡と成り得ても
イギリスを守る緩衝地帯として小さ過ぎた。
イギリスは、カナダと豪州に工業力を移転させ、
国家財政を立て直しつつ、国家主権の独立を保とうと躍起になっていた。
ロンドンには、非公式ながら米英ソの共同戦略会議室が存在し、
対独・対日に対する検討が行われていた。
フロアは、列強の製鉄、石炭、石油の保有量がグラフになって書き込まれていた。
それ以外にも戦略物質があるが、三つを比較するだけで、およその国力比の見当がついた。
しかし、懸念されている情報筋から不安定要素は拡大しつつ・・・
「日本は、製鉄以外の新素材を開発していると聞くが?」
「その噂はある。化学工場の建設が確認されている」
「セラミック工場もだ」
「例のX艦の情報だろうか」
「それもあるが、日本人の吸収力は強いし、改良する能力も高い」
「日本が独自の科学技術体系を構築していてもおかしくないだろう」
「X艦がロシア、あるいは、ドイツの系列の技術を継承してる節があるのだが?」
「そんな根拠はなかろう」
「あのX艦の野暮ったそうな造艦センスは、我々の造艦系列と言えない。ロシア人のセンスと思うね」
「とにかく、X艦が未来のモノか、別世界のモノか、確認すべきだ」
「外交筋で?」
「そんなもの応えるわけがなかろう」
「諜報となると至難の業だな、日本は白人が入り込めない場所が多いからな」
「儒陀民族が使えるのではないか。日本語を使える者が多い」
「それならやってるよ」
「しかし、彼らは諜報に向かない」
「連中のヒソヒソ話しが100m先に届くのだからな」
「むしろ、扇動家だな」
「扇動でも何でもいいから日本のX艦の情報を得るべきだ」
「X艦に関してはドイツとも共闘できるかもしれないな」
「ドイツは我々と組む必要などないほど対日諜報が進んでるよ」
ドイツ帝国
国力で引き出せる物量の総量を戦線の長さで分けると、1km当たりの防衛トン数が割り出せる。
そのトン数を妥当な数両で割ると、主力戦車の平均トン数もおよそ決まる。
この頃、ドイツ陸軍の主力戦車は40t級レオパルド戦車だった。
重量40t 全長9.54m 車体長7.09m×全幅3.25m×全高2.61
ユモ 205D 880馬力 速力68km/h 航続距離600km
ラインメタル製sK18 52口径105mm 7.92mm機銃2丁
無論、巨大戦車の開発が可能かというとエンジン次第と言えなくもない、
ドイツはユモ223ディーゼルエンジン(2500馬力)の量産に成功し、
100t級重戦車の試作に成功していた。
重量100t 全長12m 車体長10m×全幅4.2m×全高3m
2500馬力 速力65km/h 航続距離260km
PaK44 55口径128mm砲 7.92mm機銃2丁
質量と馬力配分で言うなら1t/25馬力で、
M48戦車の1t/15.6馬力、T54戦車の1t/14.7馬力、センチュリオン戦車の1t/12.5馬力、
レオパルド戦車1t/22馬力より優れていた。
そして、ドイツはさらに強力なユモ224ディーゼルエンジン4500馬力の試作に成功し、
180t級重戦車も開発していた。
こちらも質量と馬力配分で言うなら100t級重戦車と同等の1t/25馬力であり、
重量180t 全長14m 車体長12m×全幅5.2m×全高4m
4500馬力 速力65km/h 航続距離260km
K39クルップ製52口径149.1mm砲 7.92mm機銃2丁だった。
ドイツが大型戦車を試作したのは、ソビエトの大攻勢によって多くの火砲が戦線に取り残され、
ソビエト軍に奪われてしまった事に他ならない、
無論、戦車と火砲の価格を重量で割って投射比較するなら戦車がいいと言い切れず、
むしろ自走砲か。
剥き出しの火砲をたくさん作った方が戦線が安定する計算も成り立った。
とはいえ、攻勢に出たときの重戦車の攻勢力は戦訓で確認され、
攻守で真価を発揮できると考えられていた。
日本人たちが巨大な戦車を見上げる
「なんとまぁ デタラメな」
「きっと、作ってみたい衝動にかられたんだろうな」
「日本も満州に配備しないかって?」
「いらんいらん」
「というか、アウトバーンを走れるんだろうな。凄いわ」
「キャタピラ幅が広いから重量は分散されそうだけど」
「作るなら新素材の複合装甲で作る方がいいし」
「漢民族にRPGが流入してる疑いがあるから戦車は数が欲しいね」
「どちらかというと燃費のいいユモのディーゼルエンジンが欲しい」
「まったく、船舶用ディーゼルエンジンかと思えば航空機用で開発されたものだからな」
「マイバッハは1500馬力級ガソリンエンジンを開発後、ディーゼルエンジンに切り替えてるらしいけど」
「ユモに先行されて逃げ切られてるようだ」
「ガスタービンは燃料消費が激しいからわかるとしても、ガソリンエンジンは駄目なのか」
「ディーゼルエンジンでいいのがあればそれを使うだろう」
「構造さえわかれば新素材でもっといいディーゼルエンジンを作れると思うが」
「いま調整中かな。露鳳の技術と取引が必要かも」
「んん・・・ドイツは本当に追い越して行くからな」
「TV3-117の応用で、ここまで技術を引き上げるなんて」
「ダイムラー・ベンツとユモのターボプロップエンジンは?」
「8000馬力級を開発してる。日本が先行してると思ってたら追い抜かれた」
「そういえば早期警戒用航空機のエンジンを欲しがっていたっけ」
東京オリンピックが開催される
戦後初のオリンピックの観客動員は多からず少なからずだった。
欧米諸国の工作員は、多くの外国人観客に紛れ日本各地に散っていく、
特高は目を光らせていたものの、あまりの人数に対処できず、
列強は、ドサクサに紛れて日本国内に足場を作っていく、
白人観光客が特高たちの脇をすれ違って行く、
「こりゃ オリンピックが終わるまでスパイ天国になりそうだな」
「スパイ注意の立札でも張った方がましですかね」
「スパイを警戒して安心するより、日本人同士が人間不信する経済損失の方が大きいそうだ」
「最近は本当に経済主導ですか」
「いまは民需と民需系省庁が強いからな。利益誘導でどうしてもそうなっちまうのさ」
しかし、最大の見物は地方でなく、
オリンピック会場上空で曲芸飛行を繰り広げる5色の瑞燕5機で、
外国人観客たちは5色棚引く青空を呆然と見上げるしかなかった。
日本人関係者
「結構、驚いてるね」
「フライ・バイ・ワイヤとCCV技術が怪しいし」
「まだまだ、仕様に達してないんだけどな」
「少し高いようだが・・・」
「機密保護で、高度は3500m以上らしい」
京都
懐石料理を前に日本人と白人が席を同じくしていた。
「源田中将。ご無沙汰ですね」
「久しぶりです。ルメイ中将」
「東京オリンピックは大成功でしたね」
「いやぁ 欧米諸国からの観光客がこれほど来るとは思いませんでした」
「黄色人種唯一の列強ですからね。興味津々なのでしょう」
「日本は滞在はどうですか?」
「絨毯爆撃し損なって良かったですよ。安心して日本料理を食べることができる」
「「「・・・・」」」
「アメリカはB52爆撃機を開発したとか。主要な国家は射程に収めているので?」
「ええ、もっとも原爆のおかげで、アメリカ国民は主戦派と厭戦派に分かれて大変です」
「我が国も戦後は、憑き物が落ちたように軍将校が日蔭者扱いされて」
「白い目で見られることも珍しくないですよ」
「国を守り切ったのに?」
「国の中心になる利権構造が軍需から民需に変わったせいです」
「軍部にその気がなくても省庁の反目は、よくあることですよ」
「予算の取り合いは切実ですからね」
「ところで、日本は新型戦闘機を開発してるとか」
「まぁ 主権国家ですので、街を燃やされない程度の戦闘機は保有しないと」
「戦闘機と言えば、日本は音速付近での抵抗増大を解決されてるとか」
「え、ええ・・・」
「日本の航空技術も大したものです」
「い、いやぁ 風洞実験での思考錯誤の結果ですよ・・・」
『ルメイ中将。どうやらエリアルールを知ってるようですね』
『ああ、カマ掛けてみるもんだな』
「なるほど、堅実な民族らしいやり方ですな」
「あははは・・・」
日本
山頂のレーダーサイトでも地平線・水平線に隠れた空域は探知できない、
ジェット機が音速の倍以上の速度で飛ぶことは予測がつき、
低空から高速で侵入するジェット機はスクランブルが間に合わない公算も成り立っていく、
そのため高高度を飛び、
水平線と地平線の陰に隠れた空域を索敵可能な早期警戒機が必要になった。
電子装置の開発とケブラー、カーボンナノチューブの量産が進むにつれ、
長時間飛行可能な早期警戒機の開発が検討される、
関係者たち
「4発機用の適当なエンジンが無いというのが辛いねぇ」
「火星は?」
「やめてくれ、ドイツから買った方が益しだ」
「まったく、日本の基礎工業力と産業基盤の貧弱さには足を引っ張られるよ」
「民需は、いまのところ米英ソと張り合えてるけど」
「露鳳の工作機械とドイツから輸入した工作機械が無かったらヤバかったね」
「こうなったら瑞燕と同じクリーモフRD33エンジンで4発か」
「開発中のサルトゥンAL31Fエンジンの4発で早期警戒機を・・・」
「高バイパス比エンジンを開発しようぜ」
「「「「・・・・」」」」 ため息
この時代、ターボジェットエンジンが主流であり、
ターボファンエンジンを開発してるのは日本だけだった。
日本資本が大東亜共栄圏の公共設備を建設すると
大東亜諸国の資源が債権となって転がり込む、
資源が日本の工場で加工され、
日本国内経済で消費できない生産品と、維持ができない産業基盤が作られ、
生産品が大東亜諸国へと売られ、大東亜諸国の国債が机の上に山積みとなり、
大東亜諸国民から徴収した税収がサービスという形で債権者に支払われ、
利潤と利息が膨れ上がっていく、
日本国民相手にコツコツ利益を上げるより、
大東亜諸国に借財を背負わせた方が資源となり、利益になる構図が作られていた。
そして、その関係は、中華民国と蜀華合衆国にも当てはまる、
中華民国の資源開発省は、日系資源シンジケートそのものであり、
採掘されるタングステン、モリブテン、アンチモン、レアアースは一位。
マンガン、バナジウム、リチウムは2位。インジウムは3位の埋蔵量を誇り、
新素材産業の要といえた。
日本資本は、これらの権益と、膨大な債権と利権に胡坐をかく事が出来た。
そして、日本国内消費をはるかに超える巨大産業が作られ、
莫大な社会基盤と産業基盤が作られていく、
土建屋
テーブルの上に大東亜諸国の債券が積み上げられていた。
それは、打ち出の小槌であり、金の成る紙切れ・・・
「英仏が搾取と軍事支配なら」
「日本は生産と押し売り経済と言えるね」
「アメリカは金融支配経済かな」
「革命でも起きない限り、独立国のお金に不自由はしないな」
「農地解放を強行したからね。総農民で総労働者みたいなものだ」
「勝ち負けで格差が広がって不満が鬱積するまで何十年も先だし」
「大多数の現地民は日本軍を解放軍と思ってるよ」
「しかし、アメリカが武器を売り込み始めてるから不安だな」
「武装ゲリラにも土地を振り分けてるだろう」
「鍬を持って自分の土地を耕すか。武器を持って土地を捨てるかだね」
「まぁ 国有化されないように手は回しておくべきだろうね」
南極大陸
15000t級砕氷艦スサノオは氷海を押し割りながら進み、
岸に近付くと海燕(Ka31)3機が艦尾飛行甲板から発艦し、物資を空輸していく、
そこは、露地があり湾の水深が深く、船舶補給がしやすい湾だった。
積載物資は1000tに及び、海燕(Ka31)は3tの物資を一度に空輸することができた。
艦橋
「これなら積み荷を降ろし易い。港湾を整備できたら輸送は楽になるな」
「露鳳にプログレス基地の情報があったのは幸いでしたよ」
「サンポール島まで3500kmなら飛行機でも往復できる」
「ヘリは、一度に9tなら100回以上往復しないと駄目ということか」
「設営してる陸地まで10kmほどですから100回でも2000kmほどです」
「訓練通り進めばそれほど時間はかからないかと思います」
「吹雪く前にドームを設営できればいいが」
「ですがヘリのおかげで空輸も早く進みそうです」
「アメリカのマクマード基地やアムンゼン・スコット(南極点)基地に負けない基地にしたいものだ」
「それは、予算次第ですかね」
「しかし、昭和基地に飛行場を建設してしまうと砕氷艦じゃなくてもいいという事になりそうだな」
「それは気象条件次第でしょう」
儒陀皇国は、軍事クーデターが成功したものの権力抗争が続いていた。
それまで権力の座に胡坐をかいていた一族が次々に根絶やしにされていく、
首謀者は、アメリカに利権を売り渡して支援を得ると第2代儒陀皇帝を引き継ぎ・・・
儒陀皇帝府
ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!
ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!
ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!
「暑いニダ〜」
「日本をアメリカと戦争させたいニダ」
「日本をソビエトと戦争させたいニダ」
「日本を中国と戦争させたいニダ」
「日本の軍部と軍部を暴走させて漁夫の利を得たいニダ」
「いまは難しいニダ」
「日本人は神経質で性急で対処を求められやすい社会ニダ」
「外国の牽制を過敏に受け取る帰来があるニダ」
「何でもいいから対米対ソ対中不信を煽って敵愾心を増大させるニダ」
「ちょっとしたことでも、なにもできないと無能扱いだから、すぐに踊りだすニダ」
「それでも駄目なら女と麻薬で日本人を籠絡させるニダ」
「皇帝。オリンピックで不味いことが・・・」
「なにニダ?」
「英語順でYutaはJapanの後ろになったニダ」
「な、なんでニダ」
「なんで日本は、いつもいつも儒陀の前に出ようと姑息な画策をするニダ!」
「許せないニダ!!」
「Japanは歴史的な表記捏造ニダ。きっと、Zapanが本当ニダ。日本に謝罪と賠償を要求するニダ!!!」
「作為的なアルファベット順を定めたイギリスに謝罪と賠償を要求するニダ」
「皇帝。アメリカとイギリスが日本語街を作って欲しいと」
「なぜニダ?」
「そこで諜報の訓練をしたいとか」
「日本を諜報する価値は無いニダ」
「日本は、儒陀の複製文化で儒陀の残りかすニダ」
「と、とにかく作って欲しいと煩いニダ」
「あんな、頭の悪くなる言葉を儒陀国民に話させるなど、儒陀民族への冒涜ニダ」
「アメリカは新型M48戦車を配備させてやると言ってるニダ」
「それに日本潜入部隊は外貨になるニダ」
「そ、それならいいニダ」
「しかし、アメリカ軍駐留地区だけニダ」
儒陀藩皇国の一角に日本語街が作られ、
その地区は、日本語学校が作られ日本語使用が義務付けられていく、
「日本に儒陀語を奪われた儒陀民族がいるニダ」
「やさしい儒陀皇帝は彼らをかわいそうに思い」
「儒陀民族として扱うため自治日本語街を用意したニダ」
「本当にやさしい儒陀皇帝ニダ」
「だから日本人は儒陀民族に謝罪し、賠償するニダ」
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月夜裏 野々香です
伊勢湾台風で利益を上げようと思ってる人たちがいるのでしょうか。
本当の事言っても国益を損なうだけですし、
信じてもらえそうになかったりです。
民需に工業力が取られて、軍需は冷飯です。
国力差と工業力差で列強に少しずつ引き離されそうになったりです。
瑞燕のお披露目、
そして、核の傘は、どこまで日本を守れるでしょうか (笑
第16話 1956 『強者が笑い、弱者が泣く』 |
第17話 1957 『日本さえ不幸になら儒陀は幸せニダ』 |