月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第17話 1957 『日本さえ不幸になら儒陀は幸せニダ』

 60000t級フォレスタル型空母フォレスタル、サラトガ、レンジャー

 65000t級ユナイテッド・ステーツ

 45000t級フォレスタル型空母パールハーバー、レキシントンU、サラトガU

 27000t級エセックス型空母ランドルフ、ハンコック、ボクサー、レイテ、

 27000t級エセックス型空母アンティータム、プリンストン、シャングリラ、レイク・シャンプレイン、

 27000t級エセックス型空母エンタープライズU、ヴァリー・フォージ、ヨークタウンU、ホーネットU、

 空母総数19隻、

 モンタナ型戦艦ニューハンプシャー、ルイジアナ 2隻、

 巡洋艦32隻、駆逐艦180隻

 世界最強の艦隊が結集し、太平洋を西進していた。

 「提督、レーダー妨害です」

 「気付かれたか」

 「全周に渡ってレーダーが妨害されています」

 「艦隊の位置すら把握が困難です」

 「索敵機を出して順次発艦させよ」

 「レーダー無しの離着艦はベテランでも不可能です」

 「カホオラウェ島まで後、200kmか・・・」

 “ボイル小隊は連山攻撃機を視認。攻撃します”

 「闇夜でも見つけられるものだな」

 「攻撃部隊を発艦させますか」

 「レーダー無しでかね。白人のいる街を爆撃せよと?」

 「まさか、日本軍管轄のカホオラウェ島です」

 「戦闘機を全機発艦、敵の夜襲に備え・・・」

 “連山がミサイルを発射しました”

 闇夜を数百条の炎煙が棚引き、艦隊に迫ってくる。

 護衛艦が被爆し、空母にもミサイルが命中していく、

 アメリカ機動部隊は戦力と兵力で日本機動部隊とハワイ守備隊を圧倒していた。

 しかし、アリューシャン海戦の戦訓から日本軍の電子戦能力を加味するなら、

 F3Hデーモン戦闘機は、日本のレプシロ機の夜襲と対艦ミサイルの攻撃を防ぎきれず、

 空母は大打撃を被ってしまう。

 A1スカイレイダーは日本の迎撃機の正面から突入しなければならず、

 開発したばかりの戦闘機F8クルセイダーも、

 攻撃機のダグラスA4スカイホークとA3スカイウォーリアーも性能で心もとなかった。

 そして、日本潜水艦の襲撃に怯えながら後退していく、

 「・・・酷いものだ」

 「アリューシャン海戦以上に悲惨だな」

 「むしろ悲劇」

 「いや、道化に近いね」

 「酷過ぎないか?」

 「アリューシャン海戦の戦訓から割り出した数値だよ」

 「日本の800kgクラスのミサイルの威力に異論を挟みたいね」

 「弾頭は200kgほどですが」

 「成形炸薬弾(HEAT)と弾芯にタングステンを使った徹甲弾の二重構造」

 「弾薬はRDXが15〜25パーセント、

 アメリカ合衆国 国防総省ペンタゴン

 対日図上演習が時折、繰り返される、

 「アリューシャン海戦の答え合わせをするとこうだ」

 「海域は極寒のアリューシャンの夜戦」

 「暴風雨と時化で航空戦力は日本のヘリを除き使えない」

 「日本艦隊は、こちらのアルミ箔と電子妨害を波長を変えることで回避し」

 「逆に逆探で爆撃し砲撃してきた」

 「アメリカ艦隊は、多様なアルミ箔と多種類の妨害電波によって開きメクラにされ」

 「不利な戦場で不利な戦いを強いられた」

 「特攻作戦を執っていなかったら、一方的に壊滅だったと言えるね」

 「そしてだ。図上演習は、当時の日本の電子戦能力を元にしている」

 「図上演習の結果を見てもわかるが、現状は変わっていないということだ」

 「電子関連には予算を回したはずだ」

 「無論向上している」

 「しかし、日本の電子戦技術に達していない」

 「それに一朝一夕に電子戦能力が高まるわけがなかろう」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 戦後の日本は、権力と権威を嵩に着た命令と服従の全体主義な社会から

 積極的な富国強産社会、

 社会資本が膨れ上がるにつれ、自由(下剋上)競争、弱肉強食の資本主義社会へと移行していた。

 封建的な視点で見るなら秩序が混沌と乱れ、

 個人の才覚で成り上がる社会に近付いたと言える。

 左翼的な社会にも見えるかもしれない、

 しかし、自由資本主義は、民間活力を最大限に利用でき、

 民意とモラルが高ければ公益優先な全体主義より経済力を伸ばしていくことができた。

 軍機に近い日本のチタン加工技術がゴルフのドライバーに使われたり、

 メガネのフレームに使われたりするのも需要と供給の関係で、

 それを日本の技術力と公然と国外に持ち出されたところで、

 貿易黒字と産業維持との引き換えでしかなく、

 民需のチタン加工総量が軍需のチタン加工総量に勝り、

 技術力の漏洩が不信されたとしても、

 優先して反映されるべきは工業力と産業基盤の大きさと言える。

 この頃、満州帝国の農産物によって物価が低迷し、

 収入減となったことから兼業農家が増え、

 農業代行業者も徐々に増え、

 二次産業三次産業労働による収入が生活の中心になっていく、

 移民による人口減を利用して鉄道と道路が拡張されたことで

 交通と物流が増大し、就職地と商業地は時間的に縮まっていた。

 深夜になると機材を積んだトラックが連なって、建設現場に到着し、

 ボーリングされた穴に支柱が建てられていく、

 中核に新素材が使われており、

 早々に鉄筋コンクリートで埋められていく、

 怪しい人たち

 「日本の産業機密を調べるニダ」

 「どれが産業機密ニダ」

 「わからないニダ」

 怪しい人たちは自ら産業機密の一部を運び、支柱として埋め立てていく、

 

 

 日本の某工場

 ユモ224ディーゼルエンジン4500馬力のライセンス生産が始まっていた。

 元々航空用ディーゼルエンジンのためか。

 ガソリンエンジンより重量があるものの船舶用より小型で燃費が少なく、

 新素材を利用すれば軽量化しやすく、馬力向上も可能だった。

 同時に早期警戒機と対潜哨戒機の開発も始まる。

 「アメリカはロッキードL188エレクトラを対潜哨戒機に改造する気のようだ」

 「E2ホークアイ早期警戒機も予定通りの用だし」

 「馬力は?」

 「対潜哨戒機はアリソン571ターボプロップエンジン3750馬力4基だから15000馬力になるな」

 「早期警戒機はアリソンT56A427ターボプロップ5100馬力2基で10200馬力」

 「対潜哨戒機は5000馬力級に換装されるとしたら4基で20000馬力か」

 「こちらは新素材を使ったとしてもディーゼルエンジンだからターボプロップエンジンより大きいし重くなるはずだ」

 「早期警戒機は専用機だが2発で、こちらの方が優位」

 「対潜哨戒機は旅客機の改造機」

 「こちらは専用機で機体も新素材ならいい勝負じゃないか」

 「まぁ 長く飛べるのは悪くないがね」

 ハワイ諸島も含めた西太平洋全域をカバーするため

 空気抵抗が大きそうな航空用ディーゼルエンジンが選択され、

 新素材がふんだんに使われる、

 

   対潜哨戒機

    自重26000t/全備重56000t

    ユモ224ディーゼルエンジン改5000馬力4基

    全長32m×全幅28m×全高9m

    速度740km 航続距離18000km

    対潜兵器一式

 

   早期警戒機

    自重26000t/全備重56000t

    ユモ224ディーゼルエンジン改5000馬力4基

    全長32m×全幅28m×全高9m

    速度740km 航続距離18000km

    対空哨戒管制機材一式

 

 「でも将来的に大型ジェット機になるんじゃない」

 「電子装備とシステムは日本が上だからね」

 「それに領空が広いんだから質より数だよ」

 

 

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 露鳳を素材にしたテスラコイルは、高周位相波、高位相電圧を発生させ、

 メビウス状の制御伝達盤により、次元位相を探知することができた。

 それは、次元位相の覗き穴と言えるものだった。

 研究者たち

 「どうやら、露鳳がプラス、海底に沈殿する残骸がマイナスの資質のようだ」

 「面白い関係ですね」

 「問題は、時空に対してどう作用してるのかだが・・・」

 「位相域でテスラ波を確認」

 「座標を調整してくれ、この世界の時空潮流素子を当ててみよう」

 「「「「・・・・」」」」

 この世界の時空潮流素子が別の世界の時空潮流に当たるとソナーのように戻ってきた。

 そして、テスラー装置を研究している世界の様子が闇の中の烏のように映される。

 「人型だ」

 「こっちに気付いたかな」

 「「「「・・・・」」」」

 「いや、気付いてないようだ」

 「表情がわからないと何とも言えないね」

 「アメリカ、ドイツ、ソビエト、イギリスのテスラ研究室では?」

 「異質な地球だったら楽しいですがね」

 「地球じゃなかったらもっと楽しい」

 「「「「・・・・」」」」

 「もう少し、様子を見て、映像として映し出されるように改良しないと」

 

 

 火器管制開発局

 移動しながら移動している目標を砲撃し、数分後に命中させる。

 自艦の速度、方位、独自の揺れと

 燃料消費に伴った海抜上の砲座の高さ、

 これらは常に変化し、

 敵艦の速度、方位、未来位置は推定でしかなく、誤差を含んでいた。

 海の水面波と潮汐。天候の風、湿度、温度、気圧も複雑に命中率に絡んだ。

 燃料や消費財を使っても、甲板を水平に保つ構造計算は熟練が要求され、

 それらの計算を機械式でやると膨大な歯車が使われてしまう。

 とはいえ、海戦の雌雄を決する研究は古くからおこなわれており、

 計算式は既に存在し、

 集積回路に艦に合わせた数値を入れていくだけだった。

 技術者がモニターをみながら数字を入れていく、

 「・・・やっと終わったよ」

 「これだけの計算式が板切れに入ってしまうなんてな」

 「大和じゃ200人がかりだったのに、それが箱一つに収まってしまう」

 「計算も速いし精確だから命中率もよくなるだろうな」

 「後は、実際に運用しながら調整していくだけだ」

 「簡単に破壊されそうだけどな」

 「いや、小さい方が防弾しやすいからね、そうでもないだろう」

 「それにミサイルはレーダーでビーコンに向かうように仕組むか」

 「赤外線で熱源を追いかけるかだからね」

 「速度は速いけど基本的には同じかな」

 「あとは、ICがたくさんいるだけか」

 

 

 空技廠

 Yak38のマニュアル図とYak141の概略図が調べられていた。

 「Yak141の方向可変ノズルは斬新じゃないか」

 「概要だけじゃわからんね」

 「Yak38のマニュアル図は詳しい」

 「予算が限られてるからVTOL機を諦める選択肢はあるよ」

 「兵種が増えても投入できる戦力が減ったら戦果にならないからね」

 「離島の航空基地建設で土建屋に予算を取られてるのが悔しい」

 「侵攻作戦の予定はないし」

 「当面は、瑞鶴(Su33)の開発と、瑞燕(MiG29K)を仕様並みにしていく方がいいと思うね」

 「予算か・・・」

 「対潜哨戒なら海燕(Ka31)で十分だし」

 「エアーカバーの内側限定なら本格的な空母でなくてもいい」

 「大本営も覇気が無くなったねぇ」

 「無くなったのは覇気じゃなくて金だろう」

 「優秀な人材をほかの省庁に取られ始めてるのも痛いが」

 「愛国心の幅も軍部だけでなく、産業全般に広がったからね」

 

 

 中華民国

 日系資源シンジケートは希少金属の開発に成功すると

 採掘した資源の半分を日本に輸送し、

 残り半分の希少資源を外資系と取り合う、

 タングステンを精製加工できるだけの工業力があるという前提であり、

 この資源の奪い合いが国勢を推測する上で大きな目安になった。

 タングステンの保有が多くなれば工作機械だけでなく、

 石油掘削にも使われ採掘量を増やすことにつながる、

 また、軍事利用の比率も増え、性能と戦力に反映されてしまう。

 「タイミングを考えない無理な買い付けはリスクを伴うと思うがね」

 「加工技術が高まって生産速度が上がっててね」

 「いったい、なんに使ってるんだ」

 「民需だよ。貿易黒字だろう」

 「余計な金を中華民国に渡すと近代化してしまうよ」

 「大陸はカオスだと思うがな」

 「学制、軍制、税制は整備されつつあるよ」

 「中華民国は、この前、採掘権を得た現場まで直線で線路と道路を建設してしまったよ」

 「土地収用費はなく、軍隊を動かしただけだった」

 「こんな出鱈目な大国がどう転ぶか」

 「産業が軌道に乗ると手が付けられなくなりそうだな」

 「それで済むとはとても思えんね」

 「権益を押さえてる間は大丈夫だろう」

 「そんなの大衆扇動で国有化なんてされたら手の施しようがなくなる」

 「中国人は中国統一と、その後の圧政を恐れてると聞いたが」

 「シンジケートに支配されてる現実に耐えられない人間もいる」

 「特に中華民国と地場シンジケートは華僑と組んで近代化を画策してる」

 「近代化は日本の方が早いよ」

 「日本の政治がまともならいいがね」

 「中国のシンジケート抗争が長引くと助かるけどね」

 「獅子が病気な間はいい」

 「しかし、回復すると檻に閉じ込めておくか、手懐けて飼い慣らすか」

 「漢民族が相手だと、どちらも難しい」

 「特に日本が党高政低の派閥政治と利権の馴れ合いだからな」

 「利権主導で外交戦略は機能不全になりやすいし」

 「下手をすると喰い殺されるのは日本だな」

 「列島と半島と満州帝国を足せば対抗できるだろう」

 「だといいけど、体質的に昔の幕府と天皇の関係に近い」

 「軍事的な要素は低いから昔で言うなら、大化の改新」

 「いまの守護大名は都道府県というより省庁だから」

 「律令制を敷いて地方行政に守護を置いて豪族を抑え込んだ頃か」

 「まぁ 世襲でないだけましか」

 「世襲に移行する傾向はあるけどね」

 「どちらにしろ国土が広がって中央と地域の利害も大きくなってるし」

 「扶桑半島の統制も効きにくい」

 「中央で混乱が起きて弱体化すると地域が自主性をもたげて守護大名になる」

 「そして、地域行政と軍管区の関係が強くなると戦国大名が現れるよ」

 「中央もそこまで馬鹿じゃないだろう」

 「自分を馬鹿だと思っていないだけだと思うね」

 「国の外にいると国境を広げただけだし、ドメ派の保身と陰湿さが気になるね」

 

 

 

 ドイツ帝国

 参謀本部

 「例のX海域の物質ですが原子崩壊を起こしつつあるようです」

 「原子崩壊?」

 「重原子ではなく、安定してるはずの軽原子が崩壊し、プラズマ化してるようです」

 「α崩壊、β崩壊とも違うようですし、放射線は出してないようです」

 「たぶん、時空移動の衝撃で原子が壊れたかと」

 「それは利用できる物質なのかね」

 「低温プラズマのため燃料になり難いと思われます」

 「X艦は?」

 「いまは運用されてるようです」

 「んん・・・X艦だけ特別なのか?」

 「わかりません」

 「もっと海底を浚った方がいいな」

 「地勢的に日本やアメリカに比べて不利です」

 「それでもやらずにはおれまい」

 「予算が続くならタンカー十数隻分でも海底を浚ってくるべきだ」

 「そんなに予算はないがな」

 「日本の工業力は歪な伸びを見せてる」

 「露鳳は、数十年進んだ技術だと思うが」

 「工業基盤と産業基盤を考えるなら数十年分なら十分射程内だと思うね」

 「いや、日本は工業基盤も産業基盤も増大させてる」

 「低級品や中級品が主流だが大東亜共栄圏なら十分だ」

 「アメリカとの貿易を増やしてるのが気になるな」

 「ハワイを中継にしてるのだろう」

 「あそこはアメリカ人が多い」

 「真珠湾攻撃をどう教育していくのやら」

 「たしか、事実だけを伝えていると情報が入ってる」

 「自己弁護なしで?」

 「自己弁護したところでしょうがないだろう」

 「まぁ 我々の工作員が潜入してもわかり難いところだから助かるがね」

 「アメリカとイギリス。ソビエトもそう思ってるだろうよ」

 「しかし、日本も上手く白人世界のヒエラルキーに成り上がったものだ」

 「白人世界の覇権争いを利用して割り込んだのだろう」

 「割り込めるだけの最低限の力があったということだろう」

 「多少インチキに助けられてる気もするが」

 「高い山の頂上は風が強い」

 「日本が強国足る力があるのなら高い山で居続けられるだろうよ」

 

 

 

 ジョンストン島

 全長500m×全幅100mほどの小島は埋め立てられ、

 全長1km×全幅300mほどになっていた。

 ジョンストン島は、北方のミッドウェー島まで1000km、東方のハワイまで1300kmで

 巨大な三角形を形成しており、

 航空基地は浚渫と埋め立てられ大型化していく予定だった。

 小型原子炉は、淡水化プラント、レーダーなどを動かす低出力発電用で、

 最下層に降ろされ、組み立てられていた。

 「空母艦長から島流しとは涙が出てくるね」

 「最終的には全長4km全幅1kmほどになりますし、中隊規模なら寂しくないですよ」

 「ふん、どうせ、中継基地に過ぎないし、原子力発電の試作実験場だろう」

 「いえいえ、大切なレーダーサイトと対潜哨戒の役割もありますよ」

 「いっそのこと原子爆弾で島ごと沈めてしまったらどうだ。守らなくていいぞ」

 「まさか。領海と経済水域が絡んでるのに沈めるわけにいかないでしょう」

 「結局、兵装はどうなった?」

 「60口径155mm砲4基。AK630 30mm機関砲12基」

 「サイロは、防御を考えて発射口を減らしたカートリッジ型も検討中だが120基分くらいかな」

 「サイロの対空対艦対潜の配分はこちらで選べるわけか」

 「実のところハワイとミッドウェーを盾に核ミサイル配備も検討されてる」

 「それだともっと、造成をしてもらわないと困るな」

 「だから検討中だって」

 「しかし、軍の最大砲台が155mm砲とは時代も変わったものだ」

 「射程は30kmを超えるし、命中率は高いよ」

 「それに島礁も艦隊も早期警戒機を上げて、ミサイルを誘導させる方が勝ちでね」

 「制空権は、ECMとECCMの戦いで決まると言えなくもないね」

 「航空機は?」

 「ミサイルの方が安いよ」

 「人は死なないし退職金も遺族年金もいらないし燃料は片道だけで済む」

 

 

 アメリカ合衆国

 飛行場

 F106デルタダートが急上昇していく、

 アメリカ軍将校たちは、日本の新型双発ジェット機の写真を見つめていた。

 「高過ぎてよくわからんがコクピットの大きさで判断するとF100スーパーセイバーより一回りでかいな」

 「一番、はっきりと写ってるのがオリンピック会場を飛んでる奴だからな」

 「もっと、詳しい写真と映像はないのか」

 「それが一番良く写った写真だよ。映像も似たようなものだ」

 「なんで専門の撮影部隊を送らなかったんだ」

 「まさかデモンストレーションで会場上空を飛ぶと思わなかったからね」

 「どうも、日本の双発戦闘機に負けそうだ」

 「そりゃ 日本の瑞燕は双発で、F106デルタダートは単発だからね」

 「そういうレベルじゃない」

 「戦ったことが無いのに?」

 「パイロットとしての勘だよ」

 「技術力を補うため墜落防止で双発機にしてるのかもしれないだろう」

 「エンジンの精度は知らんがね。この機体は強いよ」

 「機銃弾より機体の速度の方が速くなるし」

 「軍はジェット機をプラットフォームとしか思わなくなってきている」

 「それにF106デルタダートは単発機だが双発機より小回りが利くだろう」

 「機体と翼面積の関係をみると、それも怪しいね」

 「公式の性能はなんと?」

 「まだ試作量産中で寸法は明らかにできないらしく、推力5000kg2基。速度は1500km/hだと」

 「嘘臭いな」

 「だいたい、いきなりあんな双発ジェット戦闘機を開発するなんてインチキとしか思えん」

 「X艦のせいだろうな」

 「20年以上進んだ機体に思える」

 「何とかしないと日本の方が強くなってしまうよ」

 「日本を一回りした連中は、太平洋沿いに工場地帯が作られてると言ってる」

 「44年に日本で地震があったじゃないか」

 「地震の前に工場を移動させた節があってね」

 「「「「・・・・」」」」

 「あと半島も工場が建設されていて、材質不明の部品を幾つか手に入れたらしい」

 「予算のほとんどが公共投資と産業投資に使われてるかもしれないな」

 「軍事費は?」

 「5パーセントほどだが4パーセントに落とそうとしている」

 「戦前、常時30パーセントだったらしいが随分と減らしたものだ」

 「戦後の厭戦機運とX艦の潜在的脅威を利用したのだろう」

 「まぁ ソビエトも対独戦から立ち直っていないから、列強相手に戦争もないだろう」

 「たしか、陸軍は36万」

 「満州に10個師団、半島に5個師団、列島に12個師団。ハワイと南洋に2個師団相当」

 「海軍は大戦の機能不全な残存艦隊と新造艦数隻。大型艦艇はほとんど動いていない」

 「空軍は戦闘機部隊20個600機。爆撃部隊5個150機。哨戒部隊15個150機。ヘリ部隊10個300機」

 「ほとんどがレプシロ機で質的な向上が見受けられるが軍縮中らしい」

 「財政破綻を起こしてたはずだ。軍事費5パーセントにしては兵力が大きくないか」

 「大陸と大東亜共栄圏の利権と。武器弾薬の売却で儲けたのだろう」

 「欧米列強をアジアから駆逐した兵器だから人気もある」

 「それと退役後に半島の優良物件を分配してるらしい」

 「税収が伸びて、人件費を抑えられてるならそんなものだろう」

 「満州は守れそうにない兵力のようだが?」

 「日本の基本的な防衛システムは巨艦巨砲時代から変わらんよ」

 「陸海空のプラットフォームを使ったアウトレンジ戦法だ」

 「レーダー哨戒機を滞空させて、ミサイルを打ち上げる、らしい」

 「それと、核防衛だと」

 「ふっ シンプル・イズ・ベストってやつか。わかりやすくていい」

 「しかし、核の恐ろしさを知らん国の発想だな」  

 

 

 どんなことであれ、デメリットを無視すれば物事を正当化できる。

 たとえば、

 “個人が国家の暴力と大資本の不当に屈せず”

 “自らの人権と尊厳を守るため武器の所持が認められるべき”

 といった事でも、デメリットを無視するなら、なるほど、と言える、

 銃は、産業となって工業力を底支え、

 同時に国民は銃の経験と戦術を認識する事が出来た。

 蜀華合衆国は、個人の武器所持が認められたアメリカ型の世界だった。

 武器に慣れた国民は周囲を敵対国に囲まれ、

 国民を抑圧してでも国を発展させなければならない蜀華合衆国にとって諸刃の剣であり、

 蜀華合衆国の社会は、毎日のように銃撃戦が行われ、

 銃社会のデメリットに直面しなければならなくなっていた。

 蜀華は、内戦後、疲弊した国を存続させるためアメリカ合衆国駐留軍に頼るよりなく、

 アメリカにとっても、西太平洋・東アジア圏で自由に活動できる唯一の国が蜀華合衆国だった。

 

 在蜀アメリカ軍基地に新型M48Sパットン戦車が配備されていた。

 もっともフロンティアスピリットは死語となっており、

 例えアメリカの国益でも大陸の奥地に孤立した世界に赴任したがるアメリカ軍将兵は少数派だった。

 「涼しい・・・」

 「冷房付きだよ〜」

 「これだよ、これ」

 後部車外に着脱型小型ディーゼルエンジンとエアコンが取りつけられ、

 湿気を外に飛ばし、車内を冷房していた。

 将兵の戦闘意欲減退は士気を崩壊させ兼ねないことから、

 蜀華駐留軍のM48S戦車は冷房付きだった。

 「これでテレビとポテトチップがあれば完璧なんだがな」

 「ふっ こんな楽しみのない国に駐留じゃ 面白みがない」

 「そういえばテレビなかったっけ」

 「いまアジアでテレビがあるのは日本だけか」

 「来年から中華民国と蜀華合衆国でテレビの試験放送が始まるらしいけど」

 「中国語わかんねぇ」

 「シンジケートが株主だから、英語も流してくれると思うけどな」

 「最大の株主は日系シンジケートじゃないのか」

 「プロパガンダを上手く流せれば、中国の挙国一致を防げるし」

 「大陸市場を押さえられ続けられるんだけどな」

 「年月の問題だと思うけどな。あっちこっちで工場が建ってるし」

 「どうせ、日本の中古工作機械だろう」

 「つまり、日本を列強に押し上げた工作機械って、ことだよ」

 「ちっ いくら希少資源が欲しいからって、日本も危ないことしやがる」

 「日本が紡績工場ばかりだったのは、戦前の話しらしい」

 「いまじゃ 船に自動車に新幹線に飛行機だと」

 「自力で開発してるのか?」

 「軍艦の代わりに商船。戦車や大砲の代わりに自動車と鉄道。戦闘機の代わりに旅客機」

 「品質と生産のハードルは、低いくせに経済的な利益と再生産の波状効果は絶大だからね」

 

 

 

 IC(集積回路)のアイデアは1952年レーダー科学者ジェフリー・ダマーに出されていた。

 テキサス・インスツルメンツ社のジャック・キルビーは

 1959年2月6日、ゲルマニウムでできた集積回路を完成させ、

 フェアチャイルドセミコンダクター社のロバート・ノイスは

 1961年4月25日、シリコンでできた集積回路を完成させる。

 扶桑半島の某工場

 1957年、まだこの世界に存在しないはずの集積回路が試作量産されていた。

 「歩留まりはいま一つか」

 「LSIまで遠いなぁ」

 「特許取りてぇ」

 「そんなことしたら難癖付けられて露鳳の情報を開示を求められるだけだ」

 IC集積回路を使用してるのは省庁、大企業、軍部、警察など

 守秘義務を課すことができる限られた世界だけだった。

 役員会議

 「IC集積回路の振り分けだが・・・」

 「現在、LSI開発2。IC量産3。産業3。行政1。軍産1とある」

 「LSIを1に減らして、IC量産を4にすべきではないか?」

 「そうだ。ICの振り分け分を増やしたい」

 「軍は重量制限と品質が厳しい」

 「トランジスターでやれるところは、トランジスターでやるべきじゃないのか」

 「軍は今、休閑期間だろう」

 「・・・・」

 「いま戦ってるのは我々だよ」

 「むしろ我々が敗北した時、軍の出番になる」

 「勝ち過ぎて、相手が怒って攻撃してきた時も軍の出番かな」

 「いまのところ負けていないし、勝ち過ぎてもいない」

 「日米独ソの四竦みだしね」

 「・・・・」

 「TV3-117だっけ? ターボシャフトエンジンだかなんだかしらんけど」

 「あんなもの民間じゃ赤字確定で使えないじゃないか」

 「そうそう。そんな使い物にならないもので国のソースを殺ぐな」

 「ターボプロップ型エンジンは旅客機で使ってるじゃないか」

 「共有性の高いディーゼルエンジンに予算を賭けて欲しいね」

 「軍隊は命令と服従と破壊の勝ち負けの世界だからな」

 「需要と供給と採算性の観念とか。人材と産業を育てる意識がないと見える」

 「・・・・」

 

 

 

 戦後残存艦隊

  露鳳、

  赤城、加賀、大鳳、瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍、雲龍、天城、葛城

  飛鷹、隼鷹、龍鳳、祥鳳、瑞鳳、龍嬢、

  大和、武蔵、

  富士(ワシントン)、八島(ノースカロライナー)

  朝日(インディアナ)、三笠(アラバマ)

  利根、那智、高雄、愛宕、最上、

  大淀、酒匂、浅間(ホノルル)、

   秋月、照月、霜月、冬月、涼月、初月、新月、若月、

   吹雪、白雪、深雪、綾波、朝霧、天霧、暁、響、

   長波、涼波、藤波、朝霜、早霜、清霜

   朝潮、大潮、満潮。早潮、夏潮、雪風、

   白露、時雨、村雨、夕立、春雨、

   高波。谷風、野分、萩風、秋雲

   ききょう(ウィンスロー)、しおん(ドレイトン)、

   千歳、千代田

  大型空母6隻、中型空母5隻、軽空母6隻、

  戦艦6隻、重巡5隻、軽巡3隻、駆逐艦40隻、水上機母艦2隻、

 世界第3位だった日本艦隊は第二次世界大戦で半減し、

 疲弊し切った国家財政のため緊縮財政を強いられ、

 大型艦艇は記念艦にされるか、モスボール化され、

 新造艦艇は潜水艦のみ、

 主要艦艇は定期的にボイラーに点火し、清掃するだけ、

 丙型海防艦と輸送艦ばかりが動いていた。

 しかし、人件費のかさむ旧式艦艇を使っているわけにもいかず、

 新型艦艇を建造開始していた。

 相模型は、これまでの日本の軍艦と違う思想と兵器体系で建造されており、

 新素材が多用されていた。

 凹凸の減らされたシンプルな艦影は、

 ステルス型でなくても無駄にレーダー反射をさせない構造物で、

 その造艦美は、これまでの日本型艦艇の艦型を踏襲していないものの、

 日本的で露鳳とも違っている。

 

 9000t級相模型巡洋艦

  全長190m×全幅18m×吃水6m

  M70ガスタービンエンジン(10000馬力)2基+M8KFガスタービン(45000馬力)2基

  110000馬力 速度34kt 航続距離10000km/16kt   300人

  AK100 70口径100mm単装砲2基 AK630 65口径30mmCIWS4基

  91式航空魚雷型(5.270mm×450mm)対空対潜対艦ミサイル VSLサイロ60基

  海燕(Ka31)2機

 

 教官と新兵たち

 「いいか。両舷にずらりと並んだ60個の蓋は軍事機密だ」

 「存在することは家族にも秘密だ」

 「もし、喋ったら軍事裁判で闇から闇にということもある」

 「「「「・・・・」」」」 ごっくん

 「これは、垂直発射ミサイルを格納していて、装甲に挟まれている」

 「装甲と言っても砲撃や魚雷から艦を守るモノではなく」

 「船体の構造を保つためのモノで」

 「且つ、打ち上げの時の爆焔と誘爆から艦を守るモノでしかない」

 「ミサイルは対空、対潜、対艦の3種があり、必要に応じて割合を変えられる」

 「ミサイルを打ち上げるための情報は、艦橋周囲に張り巡らしたレーダーから得る」

 「そして、艦尾の海燕(Ka31)2機の観測によっても発射できる」

 「海燕(Ka31)は対空哨戒用と対潜哨戒用の2機種があるが」

 「その時々の作戦によって装備を変えることができる」

 「近接戦闘では艦首の70口径100mm単装砲2基と65口径30mm砲4基が頼りだ」

 「大砲は小さく、数も少ないが・・・」

 「9000t級相模型巡洋艦は世界最強の軍艦だ」

 

 

 演習場

 46t級54式戦車の70口径100m砲が火を吹くと戦車に見立てた木箱を粉砕していく、

 朱雀(Ka54)が旋回しながらロケット弾を撃つと数条の白煙が伸び、

 目標を爆焔で包み込んでいく、

 関係者たち

 「そろそろ、モドキは返上かな」

 「アビオニクスはショボイですがね」

 「くっそぉ〜 あいつらがICを持って行きやがったからだ」

 「プログラム技術者がまだ育っていないこともあるようですが」

 「連中と同じことを・・・」

 「それとドイツ製の朱雀(Ka54)、海燕(Ka31)に負けてるそうです」

 「ドイツの工業力は常軌を逸してるからな。露鳳並みのインチキをしてるとしか思えん・・・」

 無線誘導の標的機99艦爆が横切っていくと、

 54式対空掃討戦車の砲塔が回り30mm機関が火を吹き、

 機銃弾が命中すると99艦爆はバラバラに破壊されていく、

 「ドイツは元々工業基盤が大きいですからね」

 「日本は、露鳳の高度な技術と、元々脆弱な工業基盤は格差を埋めるだけで精一杯」

 「いまだに技術格差が埋まっていないのも問題か・・・」

 「ただ、ドイツはシーメンスが電子産業に力を入れているようですが本格的でないようです」

 「日本と同じように米英の電子兵器に痛い目に合ってるはずだが意外だな」

 「秘密主義かもしれませんが、気質かもしれません」

 「それより、新型小銃の支給はまだなのか」

 「まだ命数残ってるだろう」

 「売っちまえよ」

 「我が侭いうから製造ラインが大変なんだろう」

 「そうは言っても、命預けるんだから・・・」

 「スペック上は、ちょっとでもラインは倍にしないと駄目になることもあるし」

 「自分で正面装備減らしてどうするんだよ」

 「だから・・・将来への投資・・・」

 

 

 儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 「日本から儒陀犬が全て戻されてきたニダ」

 「インド犬は、口に合わなかったニダ」

 「これで、医食同源、身土不二。ようやく、本来の犬食ができるニダ。良かったニダ」

 「皇帝。在日儒陀は、日本の右翼と左翼に定着しつつあるニダ」

 「基盤を大きくするので増員を求めてるニダ」

 「増援を送るから送金させるニダ」

 「まだ出世できてないので難しいニダ」

 「世界一有能な儒陀民族を出世させない日本に謝罪と賠償を要求するニダ」

 「儒陀民族に拝礼しないインド人に謝罪と賠償を要求するニダ」

 「儒陀民族の尊さをインド人に教育できなかったイギリスに謝罪と賠償を要求するニダ」

 「右翼と左翼は?」

 「上手く入り込めてるニダ」

 「在日が重要なのは生きることであって、右も左も生きる為の手段に過ぎないニダ」

 「主義を目的に生きてる人間は、それを可能にしてる社会と環境に甘えてるニダ」

 「日本人は自分が勝つことより、組織が勝つことを第一にしてるし」

 「主義で生きてる人間は思考が狭く膠着してる」

 「敵と味方だけ。組織の勝ち負けしかないニダ」

 「馬鹿ニダ」

 「左右対立を利用して、日本の世論を揺さぶってやるニダ」

 「そして、日本の中枢に入り込んで儒陀を悪く言う勢力を叩き潰して」

 「提携を持ちかけて日本の資産を食い荒らすニダ」

 「そして、日本の天皇を打倒し」

 「儒陀皇帝が世界最長の皇族になるニダ」

 「ヨーロッパにも王がいるニダ」

 「皇帝は王の王ニダ。世界は王の王である儒陀皇帝に跪くニダ」

 「日本の不幸な話しを聞きたいニダ」

 「・・・・」

 「日本さえ不幸あら儒陀は幸せニダ」

 「日本軍が夜間行軍訓練で2人死亡したニダ」

 「それは幸せニダ。どんな訓練ニダ」

 「夜間土砂降りの中、10kgの完全武装で80km走破したニダ」

 「それで二人ニダカ?」

 「二人ニダ」

 「では、儒陀軍も夜間土砂降りの中、11kgの完全武装で80km。いや90km走破させるニダ」

 「何人死んでもいいから、絶対、日本軍に勝つニダ」

 「日本軍より死者少ない方が勝ちなのでは?」

 「違うニダ。日本軍将兵が2人死んで嬉しいニダ」

 「それで、儒陀の訓練が日本の訓練に勝つと、もっと喜べるニダ」

 「何人死んだとしても、儒陀の訓練が日本の訓練に勝ったことが大事ニダ」

 「むしろ、死んでも強行できた気概が誇りニダ」

 「死人の数は畏敬だけでしかないニダ」

 「勝ち負けと関係ないニダ」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 戦前、生糸が主要産業だった日本ですが、

 戦後、世界第三位の海軍力を作った軍需産業を民需に切り替え、

 工業化と社会基盤を広げていきます。

 軍需の基本も重厚長大なので、電子産業は苦手かもですが、

 アメリカ、イギリス、ドイツもこれからの産業なので、やっとこ追い付けそうです。

 

 

 

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第16話 1956 『強者が笑い、弱者が泣く』

第17話 1957 『日本さえ不幸になら儒陀は幸せニダ』
第18話 1958 『これが日本人ニダ!』