月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第18話 1958 『これが日本人ニダ!』

 扶桑半島は都市計画が進んでいた。

 移民を足すためにも工業誘致が盛んであり、

 より良い生活環境と労働環境を求めて列島から半島へと移り住んでいく、

 社会資本は少しずつ増加傾向を見せていたものの、

 国家産業は国運を左右するため、

 産業構造を維持するため沿線人口集約型経済はやむえないことであり、

 そのことによる地域格差と貧富格差は失政というより、

 行政が甘んじて受け入れる類のモノでしかなく、

 戦後も親方日の丸意識は、政官財の基幹産業を中心に蔓延り、

 卑屈と言えないまでも沈黙の反目も続く、

 伊勢湾付近の赤ちょうちん屋台

 「親父さん、最近、天災が起きるって噂が流れてるけど、知らない?」

 「さぁ お客さんの何人かがよくないことが起きるんじゃないかって不安がってましたね」

 「その割には不動産関係が動いてるし、工場移転も増えてるし」

 「移民募集も多いですからね」

 「日本から離れるのはちょっとねぇ」

 「行くと生活が楽になるみたいですよ」

 「まぁ 土地持ちはいいけどね」

 「お金持ちだって動いてるらしいですよ」

 「本当に?」

 「いま家屋が安くて土地が高いでしょう」

 「特に伊勢湾なんか。家屋がべらぼうに安くて、土地が高騰」

 「国外じゃ 半島は日本の半額以下で、南洋は3分の1以下、満州は10分の1以下ですからね」

 「土地が2倍、3倍、10倍で免税なら事業主も考えますよ」

 「それで内地が過疎じゃな」

 「そういえば、43年でしたか、強制的に工場移転が始まって追い出されたんですわ」

 「そしたら、そこが翌年の12月に大地震と津波でしょう」

 「命拾いしたんですが、なんか、あんな感じみたいですよ」

 「おいおい、困るよ。家を何軒か買ってるんだから」

 「あははは・・・土地は人のモノだけど、家だけはね」

 「豪勢ですね。将来は家賃収入ですか」

 「まぁ 子供が独立してもいいようにね」

 

 

 

 日本領ハワイ

 日米通商関係者たち

 「ほぉ 我々が望んでるトランジスターですな。しかも安い」

 「どうでしょう」

 「もちろん、買いますよ。安いですし」

 「それは良かった」

 「ドイツにも売ってるのでしょうな」

 「そりゃ 外貨があるといろいろと便利ですし」

 「日本は、より高性能なトランジスターを開発している噂もありますが」

 「それは、まぁ 商売ですから研究はしてますよ」

 「研究ねぇ・・・」

 「しかし、アメリカのトランジスターのラインが軌道に乗って半年もしないうちに売り込むに来るというのは」

 「どういう種明かしなのか説明が欲しいな」

 「テレビですよ。有用でしょう」

 「有用ねぇ〜」

 「ところで、アメリカの航空会社は大丈夫ですか?」

 「・・・・」

 「何ならアメリカの旅客機を買ってあげてもいいですよ」

 「・・・・」

 「その代わり、日本の家電とか。自動車部品とか。買ってもらえると嬉しいのですが」

 「・・・・」

 日本が航空機産業から後退した噂はあっという間に世界に広がる。

 逆にいうなら日本は、戦後のアメリカ航空会社の窮状を見抜き、

 代わりに家電、自動車部品の輸出の突破口を切り開いたと言える。

 戦後、アメリカ航空産業は大きくなり過ぎていた。

 かといって、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーという強豪がひしめく、

 自動車産業への転進もできなかった。

 アメリカ航空市場は、高度な航空産業を維持できるほど大きくなかった。

 そして、アメリカ政府は、未知の技術を持つかもしれない日本の軍事力を恐れ、

 高度な航空産業を維持するため、日本の提案に乗ってしまう。

 

 

 ハワイから南西1600km。

 澄み切った蒼い空を大小の白い雲の峰が漂い、

 西に向かって流れる北赤道海流と、東に向かって流れる赤道海流が交差する、

 水平線ばかりが広がる青い海は、年間平均気温29.4度の熱帯で、

 年間4445mmもの雨が海面に降り注ぐ、

 その空と海の狭間にある小さな環礁がパルミラ環(11.9ku)だった。

 北のクーパー島と南のカウラ島と50もの小島と砂州が14.5kmの暗礁と二つの環礁湖を作っていた。

 幅70mほどの水路を2kmほど進むと半径1kmも満たないウェストラグーン環礁湖があり、

 パルミラ環礁で唯一停泊可能な港だった。

 まともな軍艦は入港できず、小型の輸送船が出入りしていた。

 全長2000m幅60mの滑走路が作られ、

 将校たちは不満げな視線を新型4発輸送機に向ける。

 ユモ224改5000馬力エンジンは、重量、体積とも面白みのない水冷ディーゼルエンジンだった。

 取り立てて優れているとしたら燃費の一言に尽きる。

 職人気質なドイツ人がしつこく作っただけあってディーゼルエンジンとして完成しており、

 最高級の工芸品と言えるものだった。

 ユモ224改は日本がユモ224のライセンスを買い取り新素材を使って馬力を向上させ、

 重量を低減させたものだった。

 とはいえ、ジェットエンジンでもなければ、ターボプロップでもなくディーゼルエンジンに過ぎず

 性能的な限界が存在する、

 「飛べばいいってもんじゃないと思うけど・・・」

 「対潜哨戒機と対空哨戒機型も作るってさ」

 「まぁ 巡洋艦より速いけどな」

 「軍艦より飛行機って、いつの間になってしまったんだか」

 「戦訓でしょう」

 「戦場で学んだことは、命を尊ぶ者は命を失い、命を捨てる者は命を保つ、事だと思うね」

 「今の世相には我慢ならんことが多いよ」

 「まぁ 国威を尊ぶ国は国権を失い、国威を捨てる国は国権を保つ、事もあるし」

 「危なくそうなりそうになっただけで、現実にはなってない」

 「露鳳のおかげで、現実に焼け野原を見ずに済んで良かったですよ」

 「原子炉の調子はどうですか?」

 「まぁ 悪くはないな。その気になったら5000人は常駐できる」

 「せいぜい、潜水艦の休息所ですよ」

 「それより大量の土砂とセメントは、どこから?」

 「中国大陸ですよ。土木工事の利権が大きくてね」

 「あまり自然環境を変えたくないがな」

 「湾と港湾設備と飛行場周辺だけですよ」

 「レーダーサイトは高台に置いた方が哨戒域が広がりますからね」

 「土木工事のわりに正面装備を頼むよ」

 「正面装備は持ってくるだけでいいですが、土木工事は平時の間にやらないと」

 「海堡のような無駄なモノにはなりませんよ。邪魔にもなりませんし」

 「あの鉄筋を覆ってるモノは?」

 「新素材ですよ、鉄筋を錆びないようにしてくれるし」

 「爆撃されても瓦礫が飛び散り難くなりますし、地下施設も守りやすい」

 「高いのか?」

 「まぁ 複雑な計算は必要ないですから空母を建造するより安上がりでしょうね」

 

 

 日本 首相官邸

 「本当に良かったので?」

 「ん?」

 「航空産業からの後退」

 「露鳳の情報を調べると、戦後のアメリカ産業が大変だということはわかる」

 「そして、アメリカの要求に従った結果、日本の民需は一気に伸びて行った」

 「航空産業は収益率は悪いし、中級産業と違って潰しが利かない」

 「そして、日本産業が必要なのは航空産業より、新素材産業と中級品産業と電子産業だな」

 「不満の声もあるようですが」

 「国産自家用車に乗れない不満かね。それとも家電生産が少ない不満かね」

 「い、いえ」

 「アメリカには高度な航空産業を保つために無理をしてもらおう」

 「どうせ、航空技術に関して言うと50年分くらい先行してるから構わんよ」

 「日本は、いまのうちに中級品の輸出利益で、社会基盤と公共事業をやってしまおう」

 「遅れ気味なので?」

 「アメリカとの貿易収支を黒字にしないと、どうにも伸び悩みだ」

 「それにアメリカから買ったモノを改良すれば採算性は良くなるし、怪しまれないだろう」

 「ふっ 確かに・・・」

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 露鳳がプラス因子の時空潮流素子であり、

 海底に沈殿した物質はマイナス因子の時空潮流素子と言えるものだった。

 高周位相波、高位相電圧の調整に成功すると

 プラス因子の時空潮流素子の全周をプラズマ化したマイナス因子の時空潮流素子が覆い始める。

 研究所の人たち

 「面白い現象だな」

 「ええ、位相幾何学的に変化してますが、一種の障壁ですかね」

 「アメリカ、ドイツ、イギリス、ソビエトが海底を漁ってるし」

 「役に立つのなら、日本も、もっと回収しないとまずいな」

 「潜水艦にコーティングすれば集めやすくなるのでは?」

 「それもあるが輸送船をコーティングして沈めて引っ張れば大量に取れる気がする」

 「それもそうですね」

 

 

 医療フロア

 医師団が見守る中、

 被験者の周囲をマイナス因子の時空潮流素子が覆い始める。

 「あ、あのう、自分は、どうなってしまうのでしょうか」

 「んん? わからん」

 「そんな殺生な」

 「済まん」

 「済まんで済みますか、もっと医者らしいこと言ってください」

 「なんて言ったらいいのかな」

 「心配ないよ、とか。大丈夫だ、とか。命に別条はない、とか」

 「心配ないよ。大丈夫だ。命に別条はない」

 「そのまんまじゃないですか!」

 「あはははは・・・ところで何ともないのかね?」

 「はぁ 特に何も・・・あ、この周りの、口に入っても大丈夫なんですか?」

 「それをいうなら手遅れだよ」

 「1942年から数えて16年。食物連鎖でも海流でも地球規模で汚染されてるし」

 「魚を食べていたら腹にも入ってる」

 「しかし、いまのところ、平常だし、特に世界が変わったわけでもない」

 「でも自分は、露鳳の薬を使ったので・・・」

 「だから、問題なのだろう」

 「はぁ・・・」

 「高周位相波と高位相電圧を調整していくから、何か。異常があったら言いなさい」

 「こちらで数字をいうから、数字を覚えて、どんな気分なのか、どういう異常があるのか教えて欲しい」

 「本当に大丈夫なんでしょうね」

 「心配ないよ。大丈夫だ。命に別条はない」

 「・・・・」 憮然

 『ある種、原子核の周囲を電子雲が覆ってるような感じでしょうか』

 『プラス因子の時空潮流素子をマイナス因子の時空潮流素子が覆う様は、それに近いが・・・』

 『プラス因子の時空潮流素子は、なぜ、体内にとどまってるのか。不思議だな』

 『人間の何かが、プラス因子の時空潮流素子を捕えさせ』

 『プラス因子の時空潮流素子がマイナス因子の時空潮流素子を抱え込んでる?』

 『そう考えるのが妥当かもしれない』

 『問題は、吉とでるか、凶とでるか、ですかね』

 

 

 

 爆薬開発局

 関係者たち

 「これがヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン?」

 「露鳳の情報や書類によると。そうだと思うのですが」

 「露鳳の兵器と武器は残ってましたが、爆薬類が降ろされていたので、たぶん、としか・・・」

 「TNT換算で190パーセントだそうです」

 「火薬として安定してるのなら申し分ないがね」

 「製造工程が複雑だし、工場も大きくなりそうだな」

 「あと、機密を要するから使用品目は限定した方がいいねぇ」

 「ええ」

 「核兵器の起爆用トリアミノトリニトロベンゼンの方は?」

 「安全を確認したので、量産に入るそうです」

 

 

 

 満州帝国

 竜鳳(大慶)油田に巨大な石油精製所は毎年の如く増設され日本経済圏を支えていた。

 ドイツ人技術者たち

 「日本の歪な工学は、どう表現していいものか」

 「まぁ 日本の資源開発力と資源輸出でドイツ帝国産業も安泰だから文句を言うつもりはないがね」

 「日本の54式戦車は、どう思うね?」

 「いい戦車だよ。さすが、我が国の水冷ディーゼルエンジンをライセンスしてるだけはある」

 「それ以外は?」

 「そうだな。重量のわりに少し寸法が大きいような気がするな。その分、装甲は薄くなるはず」

 「砲塔リングも大きめだ」

 「たぶん、より大口径の大砲を載せるためだろう」

 「70口径100mm砲か」

 「ラインメタル製52口径105mm砲をライセンス生産すると思ったが意外だな」

 「日本の海軍艦砲は陸軍の大砲より優れてるよ」

 「X艦のモノを模倣したって聞いたけどな」

 「砲身命数は真似できないだろう」

 「マザーマシンを使えば製造できるんじゃないか」

 「まぁ 冶金と中繰りの問題でもあるからね」

 「戦車の配分は、火力4、防御3、機動力3くらいかな」

 「特殊装甲を使ってるという噂もあるぞ」

 「ほう、我々が研究してる複合装甲を先取りしてるのかな」

 「さぁ X艦はビックリ箱らしいからな」

 「アメリカがトランジスターを生産した数ヵ月後にトランジスターの対米対独輸出交渉を始めるし」

 「トランジスター以上のモノを開発してるという噂もある」

 「日本に技術供与するのは考えモノだな」

 「だがドイツも希少資源は必要だ」

 

 

 

 ドイツ帝国ウィルヘルムスハーフェン港

 6000t級原子力潜水艦モルトケ、ゲーベン

 全長100m×全幅10m 30000HP 30kt以上

 発射管6基×42本(533mm×7163mm)  乗員100人 深度500m

 原子力潜水艦は、潜水艦を対艦戦闘可能な戦闘艦艇に変えていた。

 それは、ドイツ海軍の潜水艦戦術を根底から変えてしまう。

 「魚雷が浮上したら水上艦艇に向かって飛んでいくのか?」

 「ええ、水面下の船腹に穴を空けるより打撃は弱いですが」

 「潜望鏡深度以下の深度に潜った状態からでも攻撃できますよ」

 「射程も200kmですし」

 「当たるモノなのか?」

 「想定海域まで飛ばした後、レーダーと赤外線で勝手に命中させるものですよ」

 「当たる当たらないは、相手側の防御力次第かと」

 「モノになってたら凄いな」

 「ところで、最初の任務は、例のX海域らしい」

 「アメリカ東海岸でなくて?」

 「アメリカも新型潜水艦をX海域に常駐させている」

 「日本が何を隠してるのか、気になるところだが・・・」

 

 

 

 イタリア半島

 今日も南北イタリア国境ヴィテルボ線(42度線)を挟んでピッザとワインが飛び交っていた。

 観光客は、この風物を眺めるためにカフェテラスの席に付くと、

 食事とフォルツァ(Forza)の掛け声を楽しんだ。

 日本人観光客たち

 「イタリアは景気よさそうだな」

 「中国権益のおかげだろう」

 「現場で中国の匪賊を仕切れるのイタリアマフィアか、ロシアマフィアだけじゃないかな」

 「普通の人間は、軍隊に入って、命令でもされなきゃ引金なんて引かないけどさ」

 「イタリア人、ロシア人、中国人は、一般人でも余裕で引金引けるから」

 「剥き出しのエゴか、怖い怖い」

 「中国人が国際社会に進出してるらしいけど」

 「イギリスが残りの植民地開発だろう」

 「アメリカは蜀華合衆国の関係だろう」

 「社会資本をかき集めて成功してる中国人は雪達磨式に増えてるよ」

 「本国への侵入を拒んでるのは日本とドイツ帝国かな」

 「満州でもエライ問題になってるし入れない方がいいよ」

 「でも中国人のお金持ちは金払いがいいから、好かれてるんだよな」

 「結局、歴史的な暴政とか圧政から生き残るための集団組織防衛みたいなものだし」

 「中国人、イタリア人、ロシア人は、仲間以外が敵だろう」

 「つまり、国と民族が違ってもだ」

 「一旦、仲間になってしまうと絆の強さと実入りの良さで、国の保護以上の利益が上がる」

 「アメリカの金融支配もえげつないが、連中の暴力支配もなかなか毒があるねぇ」

 「大陸じゃ 日本のヤクザも一般人相手に辟易らしいからね」

 「先が思いやられるよ」

 

 その日、北イタリアからドイツ軍第一線級部隊が本国に引き揚げ、

 南イタリアからアメリカ・イギリス軍第一線級部隊が引き揚げていく、

 「「ねぇ どうして、行ってしまうの?」」 南北イタリア

 「「ふざけんな!!!!」」 ドイツ帝国 & アメリカ・イギリス

 ドイツ帝国の情報がアメリカ・イギリスに漏洩し、

 アメリカ・イギリスの情報がドイツ帝国に漏洩していく、

 ドイツ & アメリカ・イギリスは、このイタチゴッコに疲れ切ったのか、

 示し合せた様に第一線級装備を本国に持ち帰り、

 二線級装備部隊を駐留させてしまう。

 

 

 

 中華民国 雲南省

 ドイツ帝国は東欧・バルカン半島から諸民族を狩り出し、

 ドイツ系シンジケートを通じて雲南省の権益地へと強制移民させていた。

 東欧・バルカン半島の諸民族は雲南省に根付くと、

 ドイツ帝国の統制を離れ、独自利益的な行動を執り始める、

 特にチトー率いるユーゴシンジケートは強力な戦闘力で現地匪賊を支配していた。

 庶民の生活費の一部は自動的にシンジケートの懐に転がり込んだ。

 山間の峠の関所がシンジケートの境界線だった。

 白人と漢民族がサブマシンガンを持って睨み合い、

 庶民はミカジメ料を支払うことで境界線を行き来できた。

 中華民国の法的な手続きは通用せず、

 シンジケートと話しを付けることで物事が運ぶ社会が作られてしまう。

 ここまで事態が悪化すると、通常の国なら軍隊か警察が動くものの、

 中華民国の軍隊と警察は、シンジケートと相互不可侵を結ぶことで互いの家族を守り、

 中国社会もシンジケート支配を容認していた。

 それが不幸かというと、

 中華民国の圧政にシンジケートの利権が反発することで暴政が緩和され、

 庶民が生きやすい社会となっていた。

 そして、そういった世界が祖国より好ましいと思う、人々が少なからず存在し、

 東欧系だけでなく、イタリア系、ロシア系シンジケートが地盤を作り、

 自分の王国支配を謳歌する。

 日系ホテル

 雲南料理が並んでいた。

 日本人たち

 「ずいぶん、東欧系が増えてきたじゃないか」

 「この辺は、チトー王国に入ると中流以上の生活が送れるからね。特に白人は」

 「しかし、意外に治安がいい」

 「シンジケートが中華民国と戦争する時、徴兵するからだろう」

 「シンジケートって怖いねぇ」

 「合法か非合法かの違いでしかないと思うね」

 「人は一人では生きていけないから身を守るため互助会集団を作って身を守り」

 「互助会集団は、抱え込んだ人員と組織を守り戦いながら利益を上げる」

 「アメリカと日本とドイツは合法な企業という形を執ってるだけだし」

 「中国大陸、イタリアは、非合法なシンジケートという形を執ってるだけだ」

 「企業であれ、シンジケートであれ、集団という外堀で、個人と家族という内堀を守る」

 「反政府と反骨精神か。圧政の続いた社会の顛末かね」

 「民族性じゃないかな。一朝一夕じゃ変わらないよ」

 「むしろ、日本とドイツのような体制依存型民族の方が少数派かもね」

 「ふっ・・・」

 

 

 歯舞諸島 水晶島

 瑞燕(MiG29Kラーストチュカ)が垂直上昇していく、

 代用部品の数は、徐々に減り、仕様に近付いていく、

 滑走路の将校たち

 「いい調子じゃないか」

 「ああ、悪くない」

 「世界最強だよ」

 「世界最強でも数が少な過ぎて話しにならないね」

 「予算がない」

 「無いと言えば済むわけじゃないだろう」

 「最低でも18の航空基地に最低40機ずつ720機を配備しなければならないのに」

 「数は足りてるだろう」

 「プロペラ機だろう」

 「どの省庁に行っても予算がないとぶつぶつ言ってるよ」

 「欲張りが」

 「誰だって自分の街が住み良くなる方がいいさ」

 「国防も大事だ」

 「やはり国が広いと大型戦闘機の方がいいな」

 「瑞鶴(Su33ジュラーヴリク)の開発は?」

 「おいおい、まだ、定数も揃ってないのに無理いうなよ」

 「本当は、遊撃部隊でプラス280機。1000機は欲しいんだぞ」

 「ミサイルで我慢してくれ」

 「ミサイルは年金もいらなければ、遺族年金も見舞金もいらないからな」

 「露鳳で本当に開発費は浮いてるのか」

 「もう、戦前戦中とは違うよ。日本は軍部中心の国じゃないんだ」

 

 

 東シナ海

 石油掘削が始まろうとしていた。

 久場島(1.55ku)

 1km程度の小島にヘリポートが作られ、物資が運び込まれていく、

 「こんな小島にヘリポート作ってどうする気かね」

 「中華民国と国境問題になると厄介だろう。既成事実だよ」

 「中華民国はシンジケートに食い荒らされて機能不全だろう」

 「中国シンジケートが麻薬を日本に送り込むために使うかもしれないし」

 「大陸シンジケートが、いつまでもつかわからんね」

 「まぁ 中隊規模の配備だし、必要な物資は、空輸で済むし、軍艦貼り付けるよりいいよ」

 「いまは極東ソビエトが怖いからね。遊兵にならなきゃいいけど」

 「海底油田の採掘が成功したらお釣りがくると思うよ」

 「メタンハイドレートとか言うのは?」

 「んん・・・ソビエトも開発してなかったし、西側もまだみたいだったからな」

 「メタンハイドレートの研究をするとしても先の事になると思うね」

 

 

 

 アメリカ合衆国

 UH1イロコイが飛行場に着陸すると背広組が降りてくる。

 「間に合ったかな」

 「ええ、そろそろ、試験飛行です」

 「期待の新型戦闘機になるといいな」

 「このヘリも・・・」

 「ふっ まだまだ。グリフォン(Ka54)、ワイバーン(海燕)の半分以下の性能だよ」

 「前のより、随分、よくなったと思いますが」

 「贔屓目に見て半分と言ったんだ」

 「交戦した将兵に聞くと3分の1以下の性能らしい」

 爆音が響くと、ずんぐりとした双発ジェット戦闘機が滑走路から飛び立っていく、

 「F4ファントムUねぇ」

 「ドイツのHe1100。Ta300の方がスマートだし」

 「日本の戦闘機の方がかっこいいと思うが」

 「スペックはF4ファントムの方が上だ」

 「日本が公表した瑞燕のスペックだろう。あんなの誰も信じちゃいないよ」

 「ふっ ドイツ戦闘機も日本戦闘機も迎撃機に過ぎない」

 「F4ファントムUは積載量が多いし、侵攻用の戦闘機だ」

 「「「「・・・・」」」」

 「いつ完成するの?」

 「まぁ 微調整しながら、あと、2、3年後かなぁ」

 「日本の双発戦闘機は、もう飛んでるんだぞ」

 「そうはいっても、戦中に設備投資した航空産業を維持するだけでも大変なんで・・・」

 「人員整理して縮小したじゃないか」

 「足りませんね」

 「民需に移行しろよ」

 「はぁ? 戦時中は月産5000機。民間機は、そんなにいらないんだよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「大型旅客機の需要は、いいところ1000機程度あればお釣りがくる」

 「耐久年数15年で計算しても1000機を維持するなら月産5、6機で足りる」

 「いまの航空業界は存在するだけで設備過剰で、民需は、そんなに消費しない」

 「このままだと潰しの効かない大手航空会社は恐竜のように滅びる。半分は潰れるな」

 「航空機を外国に売れば」

 「最新技術をか?」

 「んん・・・」

 「だいたいなんで日本からトランジスターを買ってんだ」

 「や、安いからじゃないの」

 「馬鹿か。アメリカ産業が空洞化するだろう」

 「そうはいっても日本のトランジスターを買った方が安く上がるし」

 「大型旅客機だって安くできる方が運賃も安く済むだろう」

 「日本も旅客機を買ってくれるというし」

 「そうじゃないとボーイング707、ダグラスDC8、コンベア880が売れずに会社が潰れちゃうし」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 

 ソビエト連邦

 国防省はクレムリンから1kmほど離れた場所にある。

 地理的な距離は政治的な距離ともいえる。

 極東の地図が広げられ、図上演習が行われていた。

 「「「「・・・・」」」」

 「いいようで、上手くいかないものだな」

 「やはり “と金” 部隊が一番厄介だな」

 「“と金?”」

 「日本軍は我々で言うところの督戦部隊と囚人部隊を “と金” 部隊と呼んでるらしい」

 「どういう意味?」

 「日本のチェスは駒が敵陣の3列を越えると強い駒になる」

 「さらに相手の駒を取って使えるが、一番弱い駒との交換では割が合わない」

 「一番厄介で弱い駒が “と金” だ」

 「日本軍の “と金” 部隊は、どのくらい見込めそうなんだ」

 「そうだな。人口の10分の1で500万くらいは・・・」

 「多いなぁ」

 「日本は、脅威と厄介者を同時に処分できるから、好都合だしな」

 「そんなモノと戦車を交換されてはかなわん」

 「漢民族がソビエトの側に寝返ってくれたらいいのだが」

 「満州の治安はいいし、開拓と農地解放で土地持ちも多い」

 「さらに公共工事で雇用もある」

 「少なくとも日本は、大多数の生活保障に成功してるし」

 「漢民族は自分の生活を脅かす外敵が現れたら慎ましい生活を守るために銃を執るだろう」

 「ほぉ 近代化のため、大量餓死させてるソビエトとはえらい違いだな」

 「ソビエトと違って不作時の打撃が小さいからね」

 「それに満州国は極東シベリアの食料庫でもある」

 「ソビエトは、もう少し民間活力を利用すれば生産性も上がるのだが・・・」

 「コルホーズやソフホーズより、軒下で作ってる作物の出来がいいのが人間ってやつだろうな」

 「人間は元々利己主義だから、個人主義と私有財産は抑制すべきだと思うね」

 「自由・平等・博愛は聞こえはいいが人を淘汰できない社会は、人権尊重のあまり人を増長させてしまうし」

 「増長し過ぎた社会は、みかん箱ごと国民を腐らせるよ」

 「それをいうなら満州帝国は淘汰することに躊躇しない。ソビエトよりだといえるね」

 「日本は民間活力を利用するためにアメリカよりだけど、個人主義はそれほどでもない」

 「生かさず殺さずというやつか」

 「満州帝国と日本が戦争でもしない限り難しいかな」

 「工作はしてるがね」

 「味方をしてくれそうな朝鮮族は、日本人からも漢民族からも信用されてない」

 「漢民族は?」

 「漢民族は信用できんよ」

 「我々が侵攻すれば味方してくれるなどと思わない方がいい」

 

 

 

 インド大陸

 儒陀 藩皇国 アメリカ駐留軍 日本語街

 日本語の看板が置かれ、日本そっくりの町並みが作られていた。

 そして、儒陀人が日本人のように・・・騒がしく喚き散らしていた。

 儒陀人とアメリカ人

 「おかしいニダ。日本はもっと薄汚れて貧しい国ニダ」

 「映像と写真の町並みに合わせて作ったんだが」

 「その映像と写真は日本の捏造ニダ」

 「日本は、もっと醜い街ニダ。こんな大きな建物はないニダ」

 「ここは、アメリカ駐留軍の所有地だ。口出しせず・・・」

 「違うニダ。絶対に違うニダ!!」

 「黙って日本人のように生活しろ」

 「」

 「」

 「」

 

 アメリカ人とイギリス人

 「日本の街とそっくりに作ったつもりなんだが。どうも日本と違うような気がするな」

 「日本人は、もっとシャイで静かだし、もう少し、品があると思うんだが」

 「どうも、日本人の醜悪さを過剰に表現して、インド人に宣伝してる節もあるし」

 「とにかく、姿形の似てる儒陀人を日本人の様に教育して日本に潜入させないと足場ができない」

 「延辺朝鮮族自治州は?」

 「んん・・・他の満州国の地域と違って、日本語教育をしてないようだ」

 「意図的に朝鮮民族を孤立させてる節があるな」

 「我々の意図に気付いたのだろうか・・・」

 !?

 「こら! そこ! 建物に落書きするんじゃない!」

 「日本の街と日本人ニダ」

 「「違うだろう」」

 !?

 「おい、お前も街中でスカートめくりするな」

 「日本人の真似ニダ」

 「「違うだろう!」」

 「最後までやらないと駄目ニダカ?」

 「「違うといっとるだろう!!」」

 !?

 「こら、そこ! 店のモノを盗んでいくな!」

 「これが日本人ニダ!」

 「「違う!!!」」

 

 

 儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 「そういえば、今日は、天孫儒陀民族降臨の日ニダ」

 「儒陀の祝日は、全インド大陸で祝日として祝わないといけないニダ」

 「本当は全人類が天孫儒陀民族降臨の日を祝わないと駄目ニダ」

 「皇帝。インド藩王諸国評議会が仏陀は儒陀人ではないと・・・」

 「なにをいってるニダ!!!!」

 「儒陀の儒は儒教の儒。儒陀の陀は仏陀の陀!」

 「孔子も仏陀も儒陀民族なのは自明の理ニダ!!」

 「儒陀歴史4000年に伝わる一般常識ニダ!!!」

 「栄光ある尊い儒陀民族を誹謗中傷してるインド藩王諸国評議会は謝罪と賠償をするニダ」

 「インド人に儒陀の栄光ある歴史を伝えなかったイギリスにも謝罪と賠償を要求するニダ」

 「儒陀民族史を認めようとしない日本歴史学者にも謝罪と賠償を要求するニダ」

 「インド藩王諸国は、こぞって儒陀人の孔子と仏陀の偉業を称え上げ祭らないと駄目ニダ」

 「皇帝。インド人は無教養ニダ」

 「ローマ帝国の興亡と匹敵する真・儒陀民族興亡史を全インド諸族語に翻訳して配布してやるニダ」

 「真実の歴史を下等なインド人に伝えるニダ」

 「インド藩王諸国評議会は、真・儒陀民族興亡史の証拠を見せろと・・・」

 「・・・歴史は作るものニダ」

 「歴史を後ろ向きに学ぶだけでは日本人みたいに駄目駄目民族になるニダ」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 危機もなく、淡々と歴史が流れていきます。

 アメリカは、戦中に膨れ上がった軍需産業をどうするのでしょう。

 民需転換では維持できないでしょう。

 蜀華内戦は消化不良ですし、

 ベトナム戦争はなさそうです。

 どうやって、軍需産業を保つのでしょうか

 

 

 軒下?

 うっかり書き忘れてました。

 ソビエト連邦は社会主義ですので私有財産がありません。

 コルホーズ(集団農場)、ソフホーズ(国営農場)で作物・畜産です。

 いいようなのですが、一生懸命働いても成果は変わらない、

 なので労働意欲は減退していきます。

 ところが軒下、あるには庭先の小さな空き地で作る作物は、自分で処分できるわけです。

 私利私欲が動機となって、軒下の作物の手入れは一生懸命になったりするわけです。

 コルホーズ、ソフホーズで不作。軒下の作物は青々として、

 闇市場で高値で買い取られるという・・・・

 

 

 

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第17話 1957 『日本さえ不幸になら儒陀は幸せニダ』

第18話 1958 『これが日本人ニダ!』
第19話 1959 『浸蝕 悪発症 自滅 伝染』