タイムスリップ系架空戦記
『時空巡洋艦 露鳳』
第21話 1961 『人はそれを悪と呼ぶニダ』
世界史は露鳳の情報から逸脱していた。
米ソの二大超大国を中心とした東西冷戦ではなく、
日米独ソの4強による勢力均衡となっていた。
戦後、各国は商船の自由航行を保障し、
関税以外の制限を必要最小限にすることで再建を急がせた。
日本は、米英仏支配下の植民地を独立させ、
大東亜共栄圏を成立させたものの支配力を維持できず、
軍事支配から経済支配へと移行していた。
中華民国は、外資と組みした匪賊に支配され、
蜀華合衆国は、互いに相手の国を認めない北の共産勢力と
南の自由資本主義勢力に分かれていた。
ドイツ帝国は、西欧の大半から北欧・中欧・東欧、バルカン半島を勢力圏に組み込んでいた。
大戦で消耗した国力と、削がれていた精強さは徐々に回復していた。
アメリカ合衆国は勝利に覚束なかったものの
国民は驕ることなく生産力を伸ばし、海外に市場を広げていた。
ソビエト連邦は、粛清で生じた不穏分子を大祖国戦争で払拭し、挙国一致を成功させ、
米英との同盟を利用してドイツ軍をポーランドの東半分まで押し返すことに成功していた。
イギリスは、戦後、列強の地位から脱落していた。
原因は、インドの離脱で戦費の回収ができないことで、
中華シンジケートに植民地の防衛と維持を依存してしまうほど国力が低下していた。
列強だったフランスは、3分割され、国土の大半をドイツが支配し、
残りを米英保護国のブレスト・フランスと独伊保護国のヴィシー・フランスに分割され、
海外領は、ブレスト・フランスとヴィシー・フランスに分裂、
両国とも独立運動に悩まされていた。
そして、イタリアはドイツ軍が駐留する北イタリアと米英軍が駐留する南イタリアに分割されていた。
日本国 総理官邸
「なになに・・・」
「日本は儒陀藩皇国を執拗に貶め、国内外で誹謗中傷を繰り返している」
「日本人は頭脳と体力に優れた儒陀人の人気を妬み」
「儒陀が話題に上るとすぐに話しを逸らすか、批判する」
「これは明らかに反儒陀思想に基づいた日本人原理の行動で・・・」
「なんだ、これ?」
「抗議文のように思えますが」
「んん・・・なんか、よくわからんな」
「一応、正式な外交文書のようです」
「適当に善処して返事を書いといてくれ」
「いい加減、儒陀とは関わりたくないものだが」
「まったく、ですが日本語を習得してる者が相当数いるようですし」
「まったく、どこの馬鹿が併合したんだ」
「というより、彼らを教育したのが失敗ですかね」
「国内で汚い仕事をしてるようです」
「あまり汚い仕事に依存すると」
「日本社会全体がシンジケートに支配されてしまうんだがな」
「外見が似てますから入国条件を増やして比較的善良な人間を入れたいものですが・・・」
「しかし、需要のあるのは汚い仕事のできる連中か。困ったものだ」
「大型工場の建設が相次いでますし、特に労働運動も・・・」
「労働運動か・・・」
「もう少し我慢してもらわないとな」
「アメリカ人労働者の労働運動も縮小傾向にあるようですから・・・」
「戦争で大勝利できなかったのが原因かな」
「そうだと思います。逆に日本の方が驕り高ぶりがあるような・・・」
「はぁ・・・」 ため息
知識は経験を裏付けにして継承されていく、
露鳳の情報はそれらを省いてしまったため、
第一人者でさえ、教科書追随のステレオ型の教師でしかなかった。
弊害はあるものの、
高い視点と広い視野から得られた高度な未来知識であり、
低い視点と狭い視野に固執した偏執的な中傷は避けられ、
派閥の離合集散による損失もある程度、緩和できた。
日本全国から集まった天才肌の若者たちは露鳳の情報を知り、
実証試験を経験していくことで、技術とノウハウを習得していく、
彼らは選ばれると同時に安楽な老後と特権を引き換えに隠遁生活に送られ、
秀才肌の若者たちは、2012年までの情報を利用して未来産業を組み上げていた。
日本産業は地下の完全機密産業と半地下の時限式産業と、
地表産業の三層構造となっていた。
未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)
研究者たち
「アメリカは宇宙ロケットを打ち上げるためというより」
「電子産業を育てるために宇宙ロケットを開発してる節があるね」
「ドイツの宇宙ロケットは直球勝負かな」
「日本はどうするって?」
「露鳳の研究だ」
「助かるね。いま研究費を奪われると後々困る・・・」
テーブルに置かれた物体が消え、
また現れるを繰り返していた。
露鳳の物質と環境を準備しなければ起こりえない不可能な現象といえた。
「・・・とはいえ、2012年までの情報習得にも達していないし」
「次元モーターは、さらにその彼方。ハードル高いよ」
「どちらかというと、戦前戦中は燃料。戦後も希少資源」
「どちらも国家産業の要が他国領土にあることが大きいからね」
「大陸の特権権益派閥と組んで利権を押さえているだけだし。いつ国有化されてもおかしくない」
「政府が露鳳に賭けているのは、そういった資源を失っても代替できるなにかが欲しい」
「その程度だと思うね」
「相変わらず対処能力か、日本人は状況を作り出す能力に欠けてるよ」
「状況を作り出せるだけの国力と才覚がないのが辛いねぇ」
「むしろ、国力もなく、才覚もないのに押しの強さで成り上がってる儒陀人が凄いけどね」
「「「「あはははは・・・・」」」」
日本の核兵器は、移設型。
爆撃機搭載とV3ロケットを改造した地対地ミサイルに移行していた。
いずれも敵国領内への侵攻は考えておらず、
権益領内、あるいは領海内の使用を目的とした陣立てだった。
しかし、技術の向上による原子爆弾の小型化が進むにつれ、
攻守に優れた艦搭載型核ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)へと移行していく、
そして、核運用能力向上は核使用の制限となり、逆に使用が困難となってしまう、
核の発射は、内閣(総理)の承認コードと国防省の発射プログラム、
艦長と政府派遣の代理人が持つ、暗証とカギがなければ発射されない、
自動化が進んでいても、緊急の場合、対処できないのでは、
と思えるような管理の下に制限されていた。
日本の戦後潜水艦は、露鳳の情報から、
通常推進型潜水艦
3000t級キロ型、2300t級ラーダ型、
原子力推進型潜水艦
48000t級タイフーン型原子力潜水艦、24000t級オスカー型原子力潜水艦、
8600t級ヤーセン型原子力潜水艦が参考にされていた。
とはいえ、原子炉は離島で実証試験中で、
建造されたのは、3000t級おやしお型通常潜水艦だった。
そして、やむえないことながら通常型潜水艦に核ミサイルが装備されていた。
背広の男が2層の潜水艦の天井と床を貫いた4本の筒を見上げる。
全く訓練を受けていない彼は、艦長、副長と同様、2畳未満の個室を持つ身分だった。
そんな彼は、持て余した時間を潰すため、一日、何度か艦内を歩きまわる。
内閣関係者は、純然たる部外者のためか、
潜水艦内の摩擦を緩和させる効果もあった。
「数日ごとに浮上することになるのに核ミサイル装備か」
「副長は怖くないですか」
「アメリカ原子力潜水艦を巻いても浮上のたびに見つかって追いかけられますからね」
「前任者は、何か仕事をしてませんでしたか?」
「いえ、同じように暇を持て余していましたよ」
「内閣の出向で核ミサイル発射要員じゃ 使い物にならないかな」
「訓練を受けていない人間は危なくて・・・」
「船酔いするようじゃ そうでしょうね」
「AIP非大気依存推進機関で何か進展があればもう少し、生活が向上できるのですが」
「そういえば、水と酸素とエアコンのため10t級200kw型原子炉を検討してるとか。聞いてます」
「200kwだと、だいたい、272馬力相当ですか」
「離島用の使い捨て小型原子炉ですよ」
「と言っても日本の潜水艦はディーゼルエレトニック型機関」
「巡洋艦はガスタービンエレトニック型機関ですからね」
「小型低出力でも原子炉を搭載していれば補助電源ですし」
「生活電力と電装品を動かすくらいの電力になるでしょう」
「その分、航続距離を伸ばせるので燃費は悪くないはず」
「巡洋艦にも搭載を?」
「原子炉と言っても10t程度の定力発電で世話いらず」
「いざとなったら艦底から原子炉だけを落とせる代物です」
「政府も軍上層部も上層部もガスタービン機関の燃費の悪さは辟易してますからね」
「3500t級スキップジャック級原子力潜水艦は15000馬力。ワット換算だと11100kw以上ですよ」
「本格的な原子力潜水艦は、もう少し先の事になりそうです」
「やはり、予算不足で?」
「どこもかしこも予算の取り合いですから・・・」
「内地に戻ったら、是非、よろしくお願いしたいですな」
「同じ釜の飯を食った仲ですし、努力はしますよ」
某工場
クリーモフRD33
乾燥重量1055kg 全長4230mm×直径1040mm 推力5040kg/8300kg 推力重量比7.47:1
の生産ラインが軌道に乗ろうとしていた。
技術者たち
「クリーモフRD33はJ79より優れているから、しばらくは余裕がある」
ゼネラル・エレクトリック J79
乾燥重量1750kg 全長5300mm×直径1000mm 推力5290kg/7930kg 推力重量比4.6:1
「しかし、F14とF15が開発されると、ほぼ互角か、不利な状況い追い込まれそうだ」
プラット・アンド・ホイットニーF100
乾燥重量1696kg 全長4851mm×直径1181mm 推力7910kg/12960kg 推力重量比7.8:1
「推力重量比は、悪くないから電子装備の優劣にあると思うけど」
「瑞鶴は、F15の開発に間に合えばいいと思うがね」
リューリカ=サトゥールンAL31
乾燥重量1570kg 全長4990mm×直径1280mm 推力7450kg/12260kg 推力重量比8:1
「質的にはそうかも知れんが、量的には厳しくないか」
「アメリカ機動部隊は空母15隻体制になるだろう」
「艦載機総数は、1100機を超えるし、700機は戦闘機になるだろう」
「対して日本航空機は1000機配備に達しておらず、20か所以上に分散されている」
「早い話し、艦載機が全てF4戦闘機であったとしてもだ」
「日本の航空戦力じゃ 対処不能だよ」
「しかし、アメリカの軍事力に対応しようとして国力を擦り減らしてしまうと、戦前に戻ってしまう」
「それではあまりにも芸がないというか、馬鹿丸出しだ」
「だからアメリカの民間航空機を買ったのだろう」
「ロビー活動もしやすいし」
「是非はともかく、一つの外交戦略ではあるね」
「野党にしたら権力欲しさで、屈辱外交で突っ込みどころ、足の引っ張りどころだがね」
「野党が勝って、もう一度、軍用機も軍用機もで相互貿易制限」
「アメリカと疎遠になるのは面白くないよ」
「まぁ 民間機開発で手を抜けるなら、落とし所は悪くないかもしれないだろう」
「増税できなさそうだし。民間より軍需に金を回せは、正直な意見でもある・・・」
嫌な臭いがしたかと思うと試作中のリューリカ=サトゥールンAL31の炎が乱れ始める。
「緊急停止!」
「やれやれ、代用品が多いとなかなか進まんな」
「基本的にリューリカ=サトゥールンAL31は、クリーモフRD33と同時系列のエンジンだ」
「クリーモフRD33が製造できるなら、リューリカ=サトゥールンAL31の製造は可能だよ」
「予算がないだけだけどな」
「本格的な生産に入る頃にはプラスアルファの性能が見込めるんだろうか」
「それは予算と新素材の生産量によるよ」
「「「・・・・」」」 ため息
満州帝国
チチハル、竜鳳(大慶)、ハルピンを囲むように対戦車塹壕が築かれ、
塹壕を渡る鉄橋を電車や自動車が行き来していた。
元々戦車は塹壕を乗り越えるために開発された。
しかし、その戦車すら越えられない塹壕が作られると侵攻できず架橋戦車の到着を待つか、
工兵の造成が済むまで待たなければならなかった。
ハルピン総司令部
「そろそろ、ソビエトが41.5t級T62戦車(55口径115mm砲)を作るはずだが?」
「ソビエトは、まだT62戦車を公表していない」
「大丈夫だろうな」
「T62を最優先に配備するのは極東じゃなく、欧州だからね」
「それに、こちらは、46口径120mm滑空砲塔の準備をしている」
「ソビエトがT62戦車を公表したのち」
「54式戦車の70口径100mm砲塔を46口径120mm滑空砲砲塔に乗せ換える」
「それで、61式戦車の出来上がりか。安直過ぎる気がするね」
「いやいや、ドイツが1000馬力級の水冷ディーゼルエンジンを開発してね」
「それをライセンス生産するから、正式な61式戦車は1000馬力になるよ」
「それに複合装甲は、毎年のように向上してるし」
「それは希望的だな」
「だいたい、戦車は対ソ戦というより、漢民族の犯罪抑止と武装蜂起を押さえるものだよ」
「現実はそうだが、いい加減、正規部隊で満州を守りたいものだ」
「やめてくれ、破産してしまうから」
「そんなに苦しいわけがないだろう」
「建設する線路、道路、橋、上下水道は、最低限、日本列島だけの5倍以上」
「内地は労働者不足というのに、さらに発電、通信網に・・・」
「わかった、わかった」
「予算は、いくらあっても足りないよ」
「戦車よりブルドーザーっていうのは、ウンザリするほど聞かされてるよ」
「そりゃ ブルドーザーを廃棄するまで使い潰せば十数キロに渡って対戦車塹壕を掘れるからね」
「人海戦術も含めたらもっと水増しできる」
「戦車じゃ それだけの時間稼ぎはできないし」
「しかし、まともな機甲師団くらい欲しいだろう」
「まぁ アメリカ相手の貿易黒字は上向き加減だから、戦車は増やしていける予定だよ」
ドイツ帝国は、露鳳の情報にない世界を構築していた。
アメリカが主従関係より実力と能力を重視する社会なら、
ドイツ帝国は日本と同様、実力と能力より主従関係を重視する社会といえた。
とはいえ、日本とドイツ帝国は文化形成で共有する接触がなかったことから違って見える。
ベルリン
重厚な大理石の建物と石畳が無機質で幾何学的な模様を作って大地を塞ぐ、
自然との絆を銀杏、ブナ、ポプラ、トウヒの並木が残し、
忘れ去られそうな人間味を白と赤茶色を基調にしたカフェテラスが思い出させる。
金髪美人おウェートレスがテーブルの間を擦り抜けてビールとウィンナーを運び、
そのまま映画館で流せる風景が広がる、
日本人たちが再建されたベルリンを眺めていた。
「皇帝と貴族の国か・・・」
「ルイ・フェルディナント皇帝の権力基盤は、どんな?」
「形骸化まで行ってなさそうだけど。騎士団も強いみたいだ」
「ヒットラーが民族社会主義に舵を切ったからだろう」
「ナチの残党勢力に対抗するためじゃないかな」
「今後、ドイツ産業に金が流れるか。帝国のため騎士団に金が流れるか、気になるね」
「経済的に貢献した人間を騎士団に任命するんじゃないの?」
「先任の騎士団が妬んで邪魔しなければね」
「その辺は、既得権益を握る人間と新興勢力の確執だから日本と変わらないかな」
「まぁ 誰が得をするかで考えるなら、どこが邪魔してるかなんてすぐわかるしね」
「日本とアメリカの貿易協定は、日独関係に影響があると思う?」
「微妙だな」
「日米独ソの緊張関係を是正したがってるドイツ人もいるし」
「日米の歩み寄りを面白くないと思ってるドイツ人もある」
「民間機なら問題は小さいと思うがな」
「どの道、航空産業は需要が小さいし、縮小するしかないだろう」
「ドイツも航空産業の縮小は大変だったんじゃないの」
「いや、バルカンと東欧の開発に振り分けられたらしい」
「国家統制の強い国は、その辺が楽だね」
「元々 ドイツの生産力は、国内に収まらないとしてもアメリカみたいに溢れるほどじゃなかったし」
「民需に戻して、大きくなった分の国土開発と対日・対中貿易ができるなら何とかなる程度だ」
「日本の場合、自動車産業に流してもショボかったけどな」
「日本が自動車産業に流せたのだって、竜鳳油田のおかげだろう」
「それに竜鳳は油質が悪いから、火力発電と電気自動車の系統もあるし」
「そういえば東南アジアの油田も油質が良くなかったんだよな」
「アラブ石油は?」
「アラブ石油は、生産量が多いよ」
「しかし、中東・インド洋は、日米独ソで勢力が拮抗している」
「地理的にはインド洋に艦隊を派遣しやすい日本が有利なんだけどね」
「ふっ その艦隊がないのが辛いね」
「というより、艦隊を派遣するだけで、収益分が消えてしまう」
「原子力機関で艦隊を作れば?」
「特別手当を払わない限り、原子炉の近くで寝たいと思わんよ」
「たしか、補助発電用の小型原子炉を開発してると聞いたが」
「離島用だろう。一般家庭で20軒分くらいだと聞いたぞ」
「使えねぇ」
「だから補助発電なんだろう」
「つまり中東を完全に支配下に置くか。商船だけの行き来で利益を上げる方がいいわけか」
「ドイツはどうするんだろう」
「いまのところ、その気はないみたいだね」
「原子爆弾もあるけど、人が死に過ぎて、まだ回復してないんだろう」
「ドイツ人とって、ナチスの第二次世界大戦は第一次世界大戦の民族的な報復みたいなものだし」
「ドイツ人は取り敢えず面子を取り戻した」
「もう一度、戦う気になれるか疑問だね」
「日本だって、戦う気ないだろう」
「衣食住足りて、財布が膨らめば荒事を避けたくなるのが人情だよ」
「個人はそうでも、組織と国はアレ欲しい、コレ欲しいで税と社会資本を毟り取るからな」
「無理をすると地域と貧富の格差が広がる」
「それに一人当たりの生産力が上がってしまうと不労者を増やすことにもなるからね」
「供給より需要が大きい間は大丈夫だろう」
南洋諸島の弥生(ニューブリテン)島、飛鳥(ニューアイルランド)島、端花(ブーゲンビル)島は
しがらみのない区画整理で工業用地と商業用地が最初から確保されていた。
南洋三島開発は免税誘導で工業化が進み、赤道近辺にあるにも関わらず近代化が進んでいた。
政府関係者たち
ヤシの木モドキの日傘を囲むテーブルは、高原地帯にあった。
南国風のカフェテラスは、上り下りするロープウェーの近くにあり、
青々とした山間を見渡せた。
「・・・美味いな。このコーヒー」
「弥生、飛鳥、瑞花を銘柄にしたコーヒー豆は、ブルーマウンテン並みだよ」
「南洋の経済は悪くないようだな」
「ふっ いいように見えて、国際市場で押さえられてる」
「なんで?」
「日本人とアフリカ・南米諸国の賃金格差だよ」
「ブルーマウンテン並みでも利潤は著しく低い」
「というよりブルーマウンテン並みで、やっとこ賃金を払える程度かな」
「南半球は搾取されてるな」
「というか、日本の内地もコーヒー市場価格を押さえる側だからね」
「コーヒー豆が唯一、南洋三島の特産にならない限り高騰はないし」
「多分、ブレンド用の香り付けでしか生き残れないかな」
「やれやれ・・・」
「熱帯雨林は、鋼材に不利だから新素材を使いたいね。ケブラーとか」
「ケブラーは65年の開発だよ」
「建築材なら分からないだろう」
「削って持っていかれたらどうするんだよ」
「木目にして、見かけだけも木材に見せ掛ければ」
「まぁ 検討はしてみるがね」
「それはそれとして南洋三島は、どこまで近代化できるかな」
「自己防衛できる台湾くらいの産業に育って欲しいね。それ以上でもいいけど」
「オーストラリアとの貿易がもう少し進まないとな」
「警戒されてるのか」
「そりゃもう、次戦争になったら日本に占領されかねないってね」
「経済的に困ってないのに戦争する気になれないね」
「しかし、経済的なことを考えるならオーストラリアの地下資源は大きいし」
「資源を中国大陸に依存するのは危険だ」
「いい加減、大陸のシンジケート支配は、どうかと思うよ」
「それは言える」
「それはそうと、火山の爆発は94年だけど大丈夫か?」
「開発から外して国立公園にしてるよ」
「立地がいいから一部、反発があるけどね」
「知らない人間はそう思うだろうけど・・・」
「伊勢湾台風みたいなのは、ちょっとって思うよ」
「あれで大型の開発を進められたし、移民も進んだ」
「南洋三島の発展ぶりを見ると、しがらみは日本経済の足を引っ張ってるよ」
「中華民国のようにしがらみごと処分できればいいんだけどね」
「そういや、中華民国の社会資本が膨れ上がってるけど」
「まぁ 陳公博が毛沢東と違って人口抑制派なのは助かるけどね」
「中華民国が人口より資本と近代化で伸ばされるのも、日本にとって厳しいかもしれないな」
「アメリカとイギリスは中華民国を対日用の咬ませ犬しようとしてるし」
「要は、その手に乗らないと事だろう」
「そうはいっても中華民国にF4ファントムとB66デストロイヤーを売り込まれちゃな」
「日本側はF4ファントムとB66デストロイヤー以上の機体を中華民国に売り込まない限り機種選定で負ける」
「そして、それ以上の機体を売り込んでも中華民国空軍は、日本にとっての咬ませ犬となるわけだ」
「痛し痒しか」
「歴史は繰り返すってやつだろう」
「まったく、どうしたものかな」
「まぁ 軍事的にはともかくだ」
「日系シンジケートは中華民国資源帯権益の4割を支配している」
「権益が守られている間は大丈夫だろう」
「どうかな。イタリア系シンジケートは徐々に拡大してるし」
「ロシア系シンジケートも侮りが固い」
「東欧・バルカン系シンジケートは、雲南省を占領してるかのような振舞いだ」
「日系シンジケートは紳士的にやり過ぎてんじゃないのか」
「ヤクザを送ってんだけど、一般の漢民族に負ける時があるしな」
「笑えねぇ」
「向こうは交渉段階から銃を抜く気でいるし、タイミングが合わないらしい」
「どちらにしろ、中華民国相手に消耗するわけにはいかない」
「むしろ、アメリカと中華民国を戦わせて消耗させたいくらいだ」
「どちらにしろ、そういった画策に乗らないことだけどな」
「政治的な派閥抗争の段階で外患を利用する連中がいるからね」
「外国勢力が日本を攻撃すれば、日本人は一致して反撃するけど」
「外国勢力が日本の一派閥を攻撃すると」
「利害が一致する派閥は外国勢力と一緒になって対立派閥を攻撃してしまう」
「さも愛国主義者、さも博愛主義者を気取ってるが」
「権力層と国民をバラバラにされ、不毛な潰し合いをさせられる」
「そして、どちらの勢力も日本の国勢を磨り潰していることに気付かず」
「いつの間にか、政争に明け暮れて、年月を浪費してしまうわけだ」
「そういえば、南洋三島は静かだね」
「そういった内輪揉めを利用してる人間が少ないからだろう」
東京駅
一般人に紛れた人たちがバラバラに一人の後をついてく、
“迷い、苦しみ、恨みが満ちていくニダ”
“幸せを目指すと、誰かが地獄に行くニダ”
“誰かが幸せを目指すと、自分は地獄い行くニダ”
“パンドラの箱の蓋を開けるニダ”
“決断すればきっと抜け出せるニダ”
“恨みを解き放つと、あしたに希望が繋がっていくニダ”
“追い詰められた最後の道を人は悪と呼ぶニダ”
“祖父ニダ 祖母ニダ 父親ニダ 母親ニダ”
“兄ニダ 弟ニダ 姉ニダ 妹ニダ”
“親戚ニダ お隣さんニダ”
“社長ニダ 上司ニダ 同僚ニダ 先輩ニダ 後輩ニダ”
“右翼ニダ 左翼ニダ”
“報われない毎日を選民が金で解決するニダ”
“いらない人間を処分するニダ”
“邪魔な人間を消すニダ”
“遺産ニダ 復讐ニダ 保険金ニダ 政敵ニダ 恋敵ニダ ライバルニダ”
“囲んで押すだけニダ”
“人々の恨みを晴らして、お金を貰うニダ”
“囲んで押すだけニダ”
“日本人の不幸は金の成る木ニダ”
“生まれてこなかった方が良かったニダ”
“ぽんっ!”
きゃー!!
喧騒
“日本人の願いを叶える貧乏神ニダ”
“日本人の希望をつなぐ死神ニダ”
“日本人の恨みを晴らす厄病神ニダ”
“囲んで押すだけニダ”
“駅のホームニダ 屋上ニダ 岸壁ニダ 山の中ニダ”
“悪いのは日本人のクライアントニダ”
“自殺はいけないニダ 不注意で滑った事故ニダ”
“後ろに気を付けるニダ”
“何もしてないニダ〜♪”
“でも、漢民族は、用心深いから依頼は3倍ニダ”
人格が家族と地域の文化形成に及ぼす影響は計り知れない、
その逆も然りで家族と地域が人格形成に与える影響もまた計り知れない。
卵が先か、鶏が先かという命題にもなるのだが、
権力基盤形成で捻じ曲げられた思想体系に支配された歴史と、
利己主義によって社会基盤と文化が破壊された地域は悲劇といえる。
国家形成どころか、社会基盤を構成する人々の人格形成すらままならず、
そういった地域で生まれた人々は、圧政、間違った教育、人間不信、恐怖により利己主義が蔓延し、
法と秩序は暴力によって破壊され、法的は破るためにあるといった気質は強くなり、
同じ悲劇を繰り返し、社会全般は殺伐としていく、
どういった形であれ、治安は、人々の良識、品格、知性といったモノに依存し、
組織形成は、純然たる信頼関係と利害関係によって成り立っていく、
それを強制的に組織させ、
強圧的に押さえ込まなければならないとなると社会的な負担は大きく、
さらなる利己主義を生むことになっていく、
インド大陸 儒陀藩皇国 アメリカ軍駐留地
アメリカ人たちが校門を見つめていた。
生徒たちが先生に向かって最敬礼していく、
「まいったねぇ どいつもこいつも嘘吐きばっかりだ」
「人を騙さないと生きていけないから嘘をつくことが習慣になっているんだろう」
「アメリカ人は自己犠牲を美徳にしてるんだけどな」
「日本やドイツのように組織の強さを追求した社会は我慢できる」
「日本人はどちらかというと杓子定規で偽善的な部分が強いけどな」
「しかし、儒陀は私利私欲ばかりで他人を犠牲にするのも平気だ」
「儒陀人は昔より、よくなってる気がするけどね」
「日本人の教育と血が混じったからだろう。少しばかり謙虚で良心的な子供を見かける」
「社会的な影響というか、文化的な影響というか、民族的なエゴというか。不憫だねぇ」
儒陀藩皇国 アメリカ駐留地 日本語学校
「先生。日本と日本民族を知りたいニダ」
「日本?」
「世界最悪の国ニダ。世界最低の民族ニダ」
「世界中で一番嫌われてる国の惨めな民族ニダ」
「せ、せんせい・・・」
「わたしは皇国最高顧問ニダ」
「世界史上、世界一権威のある学者ニダ」
「あの国は粗が多過ぎて、国民は自意識過剰で話しにならないニダ」
「ソビエトがいい国ニダ。でもソビエトより儒陀がいい国ニダ・・・」
!?
「それは?」
「・・・日本の鉛筆ニダ」
「駄目ニダ。その鉛筆は没収ニダ」
「日本のモノは使う価値がないニダ」
「儒陀皇国最高顧問がいうのだから間違いないニダ」
「あの国は見るのも堪えられない。嫌われてる国ニダ」
「文化内容がスカスカで調べるのも堪えられない国ニダ」
「あんな国より、世界最貧国のソマリアが100倍も1000倍も益しな国ニダ」
「みんな。お父さんとお母さんから日本の悪口を聞いてるはずニダ」
「みんなで、日本の悪口を暗誦するニダ」
「」
「」
「」
儒陀皇帝府
ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!
ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!
ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!
「暑いニダ〜」
「皇帝。インド人と関係を持つ儒陀の女が増えているニダ」
「強姦ニダ! 馬鹿な儒陀の女を殺すニダ。きっと日本人のスパイニダ」
「それとインド商人との取引で負けてるニダ」
「インド藩王国に賄賂を贈って、勝ったインド人を闇から闇に葬らせるニダ」
「子供たちの反発が増えてるニダ」
「力付くで押さえるニダ」
「全部、日本が悪いニダ」
「世界中で日本の誹謗中傷を繰り返すニダ」
「日本が悪い、日本が嫌いという印象を植え付けるニダ」
「世界的に日本悪、日本嫌いの印象操作ニダ」
「在日に日本人同士の権力闘争と功名心利用して、いがみ合わさせるニダ」
「女たちに自己主張させて家庭を破壊させるニダ」
「男たちには飲む打つ買うを推奨させるニダ」
「子供たちに親と社会に反乱をおこさせるニダ」
「日本人を自虐させて、核兵器の配備に反対させるニダ」
「そして、在日に群を煽らせて、もう一度、軍拡させるニダ」
「日本人を傲慢にさせ、凶暴化させて狂犬のようにするニダ」
「日本人に世界を敵だと思わせるニダ」
「世界を相手に暴走するか、押し潰されるか、二者選択させるニダ」
「日本人は遠慮深いから、語調の強い断定意見に言い負かされるニダ」
「絶対に押し切れるニダ」
「皇帝。アメリカ大統領補佐官の来儒延期ニダ。日本に行くらしいニダ」
「なぜニダ!」
「貿易関係の協定ニダ」
「いけないニダ。きっと、日本の賄賂攻勢ニダ」
「大統領補佐官の日本行きを邪魔するニダ」
「難しいニダ」
「日本から賄賂を受け取ってる大統領補佐官は許せないニダ」
「大統領に言いつけるニダ」
「世界中に儒陀の悪口を言いふらしてるインド人に謝罪と賠償を要求するニダ」
「インド人の悪口を言う口を野放しにしていたイギリスにも謝罪と賠償を要求するニダ」
「存在するだけで、儒陀を貶めてる日本に謝罪と賠償を要求するニダ」
「世界から孤立してる日本なんて簡単に滅ぼせるニダ」
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月夜裏 野々香です
たらたら、だらだらと年月が過ぎていきます。
第21話 1961 『人はそれを悪と呼ぶニダ』 |
第22話 1962 『自分より馬鹿が安心』 |