月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第43話 1983 『死に至る心』

 北大西洋

 機動部隊は、広大な外洋を自由に移動し、

 まとまった航空戦力を投入できた。

 航空機の行動半径圏を支配する戦力は、一国の航空兵団と変わらない、

 逃れる術の無い固定基地は機動部隊の奇襲に怯え、

 対応し得る対空戦闘能力を持っていない艦艇は、すえもの斬りされるよりなく、

 悪夢のような戦力といえた。

 アメリカ合衆国は、旧大陸に対するイニシアチブを確保するため機動部隊の創設を続け、

 3隻目のニミッツ型空母カール・ヴィンソンを建造していた。

 巨大空母の周囲を巡洋艦と駆逐艦が囲み、

 建造されたばかりの7700t級タイコンデロガ型ミサイル巡洋艦1番艦タイコンデロガが現れる。

 タイコンデロガ 艦橋

 「いい艦だ」

 「これでようやく、日本の相模(さがみ)型巡洋艦に対抗できそうですね」

 「それはどうかな」

 「艦の設計が既に先取りされてる」

 「イージスに近い情報統合システムとVLSミサイルを両舷に配置してるはず」

 「艦の前部に集中配置してるのと、どっちが有利でしょうか」

 「管理するなら集中配備が上だろうな」

 「しかし、防弾や被災を含めるならVLSミサイルの両舷配置は悪くない」

 「やはり、コンピューターで負けていたのでしょうか」

 「マイクロプロセッサで先行されてなければ、VLSミサイルなんて無理な話しだろう」

 「まぁ ソビエトにも先を越されてるし、そればっかりというわけじゃないだろうが」

 「やはり採算重視が仇になってるんですかね」

 「利益優先が資本主義の鉄則だからな」

 「その代わり、軌道に乗ったら生産力で他国を引き離せ・・・」

 F/A18ホーネットがタイコンデロガの脇を掠めていく、

 予算不足で高価なF14トムキャットの大量配備が難しくなると、

 F14トムキャットの制空権下で戦える補助戦闘機が求められた。

 同時に核ミサイルの小型化により、専用攻撃機の存在が薄れていた。

 結果、費用対効果で優れ、

 攻守で使いやすい多用途・多任務戦闘機の要求が高まり、

 マルチロール戦闘機F/A18ホーネットが開発される。

 「それに外洋で航空戦力を展開できるのはアメリカ機動部隊だけだな」

 「ですが日本が対核兵器用防御壁を開発してる噂があるようですが?」

 「噂ならドイツもプラズマ障壁を開発中だし、アメリカもそうだ」

 「まぁ 超兵器の信憑性の高さなら、やはり日本か・・・」

 

 

 厚い雲に覆われた街は、薄暗い灰色の空間に閉ざされていた。

 凍った足場を踏んで安全を確かめ、目的の場所に向かっていく、

 枯葉並木と雪を中間色の照明が染めていた。

 満州帝国の国力は、日本の搾取率が低下すると急速に伸び、

 都市を照らす照明は増え、

 GDPは、ソビエトと中華民国を合わせたものより大きくなっていた。

 もっともGDPは、日本の娯楽商品が含まれ、

 中華民国の賭博が含まれ、

 ソビエトのウォッカ消費量も含まれる、

 国力と国民総生産はイコールではなく、

 国民総生産と軍事力もイコールとはいえない。

 少なくとも満州帝国は中華民国やソビエトより健全な国家と言える。

 都市中心部に摩天楼が作られ、

 都市化が進んでも、これだけ寒いと人通りは半分に減る。

 新素材で軽量でカラフルなジャンバーコートを着る人が目立ち始めていた。

 しかし、大半は毛皮で全身を覆い両目と口だけを外気に晒す。

 完全に凍った粉雪が両肩に溜まりサラサラと零れ、

 真っ白な吐息もすぐに凍り、キラキラと風に流される。

 生態系の呼吸が大気成分を作る。

 生態系が変われば大気組成は変わり、

 生態系で積み重ねられた土壌も変わる。

 人類は、ジュラ紀に生態系分岐し、環境も変わっていた。

 大気成分が僅かに違い、土壌成分もやや違い、

 同じ緯度と同じ経度でも温度が違う、

 育つ作物も主流の種族も違い、

 生態系のハードウェアが違えば、社会形態のソフトウエアも変わる。

 とはいえ、どの世界でも種族間の生存競争と、同族同士の縄張り争いが起こり、

 弱肉強食と共生など生態系を作っていく過程は似ている。 

 また個体の利益。繁殖利益。群れの集団利益は対立する、

 個体の中で相反する矛盾と葛藤が起き、行動を選択する。

 降る雪は白く冷たく変わらず、同じように降り積もる。

 日本のコンピューター、ドイツのコンピューター、アメリカのコンピューターと同様、

 似て非なる一面もあれば、非て似た一面の社会のソフトウェアも作られる。

 このジュラで分岐した世界は、同じように何度か生態系が絶滅し、

 最後の白亜紀の絶滅後、似て非なる生態系を生みだし、いまに至る。

 同じ人類種時空潮流で生態系が同じでも

 歴史が違えば似て非なる社会が作られる、

 こちらは、生存競争における絶滅後の淘汰分岐ではなく、

 知的生命体の矛盾から生じる葛藤から分岐するため選択分岐と呼称されている。

 どの分岐が実を成らせられるかわからない、

 しかし、人類の一部は、宇宙樹の概念に気付き、

 さらに時空世界に雄飛しようと、もがいている。

 どこに異世界があるのか。

 哀れな生命体は、一つの周波数の世界しか知らない、

 距離の概念でしか移動できないと思い込んでいる。

 チャンネルを変えるだけで数十もの異世界の扉が開かれることに気付いていない、

 我々の世界とこの世界は生態系の違いもあるが、

 もう一つ、白亜紀に滅んだ前知的生命体の古代遺跡の有無がある。

 我々の種属は、白亜紀の古代遺跡に啓発され、

 この世界の人類より早く近代化できた。

 そうでなければ、この世界に来るのはもう少し、遅れただろう。

 最初、来た時、ばれないかとヒヤヒヤものだった。

 いまでは、生活と習慣に慣れ、人間らしく生活できた。

 DPPは、人間の皮膚とほとんど変わらない効果をみせた。

 とはいえ、哺乳類から進化した知的生命体でも、元が違う。

 いまDPPが消えたら大騒ぎだろう。

 もっとも、人類で気付いてる者たちがいて、影のように監視している。

 彼らは狭心的な秘密主義に陥り、秘密を独占しようとしている。

 愚か・・・

 とはいえ、どの世界にも派閥力学を優先する事があって共通する。

 彼らが暴力的な行動に移らないのは、異世界に行く気になっているからだろう。

 新参者にしては、殊勝なようだ。

 しゅー

 自動ドアが開くと暖気と寒気が入り混ざり向こう側に抜けていく、

 ドアが閉まると、パチッ パチッ と小気味いい音が聞こえてくる。

 「お、ヤンじゃないか」

 「いつもの半分だね」

 「寒いのによく来たな」

 「寒いのは強くてね」

 お金を払うと、いつもの場所に座り、

 人を待つ、

 数分後、馴染みの女性が目の前に座り、

 先行と後攻を碁石を置いて決める。

 定石通り石が置かれ、勢力分布が盤上に形成されていく、

 囲碁は、異世界進出の戦略に通じるものがあった。

 対戦相手の彼女は料亭の女将さんで、

 暇をみつけては碁会所やってきて、3時間ほど打っていく、

 まぁ 好き者ってことだろう。

 「今日は負けないある」

 「こっちは、勝ち越されてるから、あと、2勝しないと」

 「白人の子供には負けないある。返り討ちある・・・」

 ふっ

 囲碁は、単純ながら偉大な発明で、ジュラ世界にも広がっている。

 人気はコンピューターを使った複雑なゲームに及ばないものの、

 囲碁発祥の人類文明は注目され、

 興味を持った分岐世界の住人が人類社会に来ていた。

 もっとも、数は少なく、身内に会うことも、

 ほかの異世界人と出遭うこともほとんどない、

 

 

 どこか雪が積もった屋上で男たちが双眼鏡を覗き込んでいた。

 都市は人工的に造成された対戦車防塁に囲まれ、

 内側は摩天楼が増えていた。

 外周部は、雪を被った大きな三角屋根の家が並ぶ。

 家があり土地があると生産手段が生まれ、自家栽培が増え、

 消費が減ると食品流通と売り場がやせ細る。

 とはいえ、都市の地価は上がり、

 市は防災上必要な最低レベルの自給生産比率を下げなければならず、

 余計な土地を手放す市民も増え、

 大型のショッピングモールが作られ、

 都市化が加速していた。

 実のところ都市の抗堪性はインスタント食品で高まり、

 都市防衛だけで計算するなら、農耕依存は低下していた。

 伝え聞けば、対満州シミュレーションしていたソビエト将校が投げたとも言われている。

 もっとも双眼鏡は、都市の景観ではなく、

 碁会所に向けられている。

 「彼は、学校の囲碁クラブで、週に1度は碁会所に行ってるようですね」

 「ヤン人は囲碁が好きなのか」

 地球の生態系に彼に属する哺乳類がおらず、

 彼の発音に近い、タミアラ人と記載され、

 面倒だとヤン人と呼称していた。

 「さぁ しかし、アルバイトで生活してる苦学生の様ですし」

 「時間の使い方からすると、好きという表現があってるかもしれませんね」

 「上手く溶け込んでるようだが、仲間はまだ見つかっていないな」

 「この近くにいないかもしれませんね」

 「時空船をどこかに隠してるのだろうか」

 「聞くところによるとな」

 「チャンネルを変えるだけで、この世界から消えて、時空船の中という事もあるそうだ」

 「例の未来科学研究所のレクチャーですか」

 「ああ、あそこも最近は、SFの世界に片足を突っ込んでてな」

 「どこまでが本当で、どこまでが推測なのかわからんよ」

 「このDPPを使えば裸でも寒くありませんし、あり得ますね」

 「あまりやり過ぎると、体が貧弱になると彼が言ってたぞ」

 「先行してるだけあって含蓄のあること言いますね」

 「まぁ 当然と言えば当然だな」

 「しかし、それに気付く気付かないは種属の資質だろうな」

 

 

 利権団体は大きくても小さくても自制が利かない、

 少しでも都合の悪事柄は、目を瞑り、

 事実を語ることもなく、忠告すら耳を塞ぎ、封殺してしまう、

 少しでも有利になるなら虚飾し、無理やりにでも風潮し、

 自作自演で国民を騙し増殖させてしまう、

 虚像と虚栄に包まれた組織人が地位と利権を求めて画策し、

 胡散臭い集団でも迎合すれば味方とし、

 堅実な見識でも利権を脅かすなら排斥する。

 言葉尻を変えて針小棒大に風潮し、

 誹謗中傷と自画自賛を繰り返して現実を捻じ曲げる。

 彼らは欲に魅入られた愚かな集団となって、巨大な仮想敵を創作して脅威を煽り、

 社会全体を押し流し、特には脅迫し、暴力的な集団さえも躊躇しなくなる。

 この光景は戦前・戦中に見られ、

 戦後も形を変えて、存在する。

 特に訪れるであろう東北地方太平洋沖地震(2011/03/11)に備えた造成工事を優先させるか。

 扶桑半島や満州帝国に投資するかで揉めていた。

 もちろん、戦前・戦中の懐古主義者も少なからず存在し・・・・

 日本 大蔵省

 「機動戦闘車って、かっこいいよね」

 「そうだねぇ かっこいいよね」

 「74式戦車もいいけどさ。46tもあると小回りが利かないし」

 「市街戦は市民に迷惑をかけない26t級機動戦闘車だよねぇ」

 「かもねぇ」

 「ほら、儒陀の人たちって延辺朝鮮族自治州に80万人もいるし、危ないじゃない」

 「4000万もいる漢民族も儒陀に迎合するかもしれないしさ」

 「そうかもしれないねぇ」

 「機動戦闘車なら空輸も簡単だしさ、すぐに救援に駆け付けられると思うんだ」

 「そうだねぇ」

 「ほら、ゲリラって対戦車ミサイルを持ってるかもしれないだろう」

 「機動戦闘車なら戦車より安くて数を揃えられるし」

 「数の少ない戦車を側面から援護できるんだよ」

 「そうだねぇ」

 「災害救助だって、役に立つし」

 「そうだねぇ」

 「ゴ、ゴジラに踏み潰されそうになっても機動装甲車なら逃げられると思うんだ」

 「そうだねぇ 凄いよねぇ」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」 ため息

 予算折衝終了

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 蜘蛛に使うナノマシンの研究が続けられていた。

 蜘蛛のコントロールに成功すれば、蜘蛛の糸を大量生産し自由に加工出来た。

 関係者たちは、天井から吊るされ糸を出して降りようとする蜘蛛を見つめていた。

 送風で天井に登ることができず、

 糸は常に巻き取られ、空中の餌を捕ろうとさらに糸を伸ばしていく、

 恐らく糸を出さなくなるまで、寿命が尽きるまで続く光景といえた。

 「蜘蛛の糸は本当に有望なのかねぇ」

 「あの蜘蛛は、露鳳の医薬品を薄めたモノが使われてましてね」

 「通常の蜘蛛の糸より丈夫で、強度は鋼鉄の6倍でケブラ以上」

 「鋼鉄の20倍の強度のカーボンナノチューブに負けますが」

 「伸縮率50パーセントで糸の編み方次第で70パーセントでも行ける」

 「さらに少ない電力消費でDPP障壁を張れる」

 「蜘蛛の糸はタンパク質だろう。耐熱は?」

 「まぁ 民間はともかく、軍用レベルでいうなら熱に弱い」

 「チタンかセラミック。そして、DPP障壁で補うしかないか」

 「DPPの将来性を期待するなら総合で最強かもしれないけどね」

 「どちらにしろ、この蜘蛛の糸生産方式も、工場になる過程で改良しないと採算割れだな」

 「どちらにしろ複合素材という形で使うことになる」

 「複合素材か」

 「セラミック、チタン、ケブラー、カーボンナノチューブ、シリコン、蜘蛛の糸・・・」

 「部品一つ、作るのに大きな工場が幾つもいるな」

 「当然、設備も人員も経費も数倍。末端の工場を含めるなら数十倍の裾野になる」

 「兵器の単価が跳ね上がるわけだ」

 「特に時空巡洋艦は耐圧・耐減圧構造で、新規格ばかりだから」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 花火が打ち上げられ、

 水素の詰まった風船が何百と空に浮かんでいく、

 そして、ミッキーマウス、ドナルドダックに成り切ったキャラクターが客を出迎える

 東アジアで幾つか候補地が揚がり、消えていった。

 選ばれたのは、島全体をユートピアに変える見込みがあること、

 集客とサービス品質の安定感だった。

 巨済ディズニーランド開園

 関係者たち

 「ハルピンも良かったけどねぇ 冬は集客が減るだろうし」

 「従業員は日本人じゃないとサービスが劣化するかもしれないし」

 「あと将来的な対馬海峡海底トンネルの可能性かな」

 「巨斉なら大陸の集客が見込め、半島全域にも観光客が波及するでしょう」

 「日本からの集客も当てにできそうです」

 「東京でも良かったのでは?」

 「東京は地震が怖いからねぇ」

 「しかし、大陸の観光客は、治安が不安になりますね」

 「ですが大きなホテルを建てた手前、部屋を埋めないと赤字ですし」

 「外資シンジケート系の中国人は羽振りがいいですから金を落としていきますよ」

 「治安を悪化させるために大きなホテルを建てたみたいに言われると困るよ」

 「過当競争になるので、取り敢えず、外国客に期待しないと・・・」

 「本当はカジノを併設させて儲けたいのだが」

 「いや、それは、国策上・・・ディズニーも嫌がるでしょうし」

 「建前が好きだからね」

 「だからディズニーランドの誘致が決まったのでは?」

 「まぁ そうではあるがね。表と裏。どっちも、とはいかないか・・・」

 

 

 厚木基地

 瑞鶴(Su33)が主力戦闘機になると、

 瑞燕(MiG29K)は一部、支援戦闘機に改装されるも、多くが退役していく、

 支援戦闘機の主流は、瑞鶴(Su33)を改造した “瑞嵐” で

 アメリカが開発しつつあるストライクイーグルに似たコンセプトで開発されていた。

 “瑞嵐”

 全長23.34m×全幅14.70m×全高6.50m  主翼面積62.00m

 空虚重量14000kg/通常離陸重量38240kg/最大離陸重量44350kg

 推力7450kg/12260kg × 2基

 航続距離 約4000km  最大速度マッハ1.8

 固定武装30mm機関砲×1  最大兵装搭載量8000kg  乗員2人

 「悪くないな」

 「共有部品を考えるなら瑞燕より、瑞鶴を改造した瑞嵐がいいからね」

 「インド・太平洋は広いから。本当は、ベア爆撃機クラスが欲しいのだが」

 「予算がなくて残念だ」

 「いったいどこに使われてるのやら」

 「ふっ」

 「せめて、もう一回り大きなF111クラスがあると対機動部隊に備えられていいんだけどな」

 「電子戦能力は、まだ勝ってるし、これでも守れるだろう」

 「だといいけどねぇ」

 

 

 南極大陸

 アメリカとドイツとソビエトが南極大陸にとりつき、勢力を競っていた。

 日本は、露鳳の情報で昭和(プログレス)基地を建設していた。

 湾の水深は深く、砕氷船が横付けして荷を降ろすことができた。

 露地に飛行場が建設され、短い夏季を利用して、空輸を行い、

 地下に設置された小型原子炉で発電と暖房を賄っていた。

 巨大なドームの外は暗く極寒の吹雪に包まれ、

 中は、照明で照らされ暖房で温められ、

 作物が植えられ菜園が作られていた。

 夏は数百人規模で建設作業に従事しても、

 越冬隊は20人ほどしかいない、

 「アメリカ、ドイツ、ソビエトは、基地を増やしてるのに日本だけ一つか」

 「少ないんじゃないのか」

 「上層部は、財政難で基地を維持できなると見越してるらしいよ」

 「そんなに金がないのか」

 「原発族が地下に大型原子力発電所を建設しようとしてるらしい」

 「基地の地下にもあるだろう」

 「地下のは自然対流で冷やせる小発電の小型原子炉で世話いらず」

 「作ろうとしてるのは事故起こしたスリーマイル島の加圧水型原子炉と同じもの」

 「危ないだろう」

 「だから地下に作るんじゃないの」

 「燃料は満州と東シナ海にあるだろう」

 「満州産業の使用電力が増えてるし」

 「オイルショック後は状況が変わってね」

 「ついに経済効率に負けて、折れたんだ」

 「そんなとこらしい」

 

 

 

 

 中華民国 上海

 ボーイング737は緩やかに降下しながら滑走路に侵入し着陸する。

 巨大な飛行場は、富裕層が増えている証しだった。

 外資系ビルが立ち並び、周辺にスラム街が広がり、

 その周囲にさらに近代的なビル群が立ち並び、

 貧富の格差は広がっていた。

 外資系シンジケート圏は、比較的治安がいいものの、

 中華資本が増えていくにつれ、公害が拡大して、食料の毒性が増し、

 中国人は外資系シンジケート圏へと逃れ、

 さらにアフリカ大陸へも広がり、相乗効果から国際的な地位を高めていた。

 一際大きく、一際近代的な高層ビルで交渉が行われていた。

 中華民国海軍は、戦後、1350t松型駆逐艦、745t級丙型海防艦を購入し配備していた。

 しかし、外資シンジケートの発言力が強まり、

 国家財政が上向くと松型駆逐艦と丙型海防艦のライセンス生産が始まり、

 熟練工員を育てながら造船技術を確立し、量産化に成功していた。

 外資シンジケート間の派閥力学が複雑に絡み、紆余曲折を経たのち、

 アメリカ合衆国、3100t級ノックス級フリゲート

 ドイツ帝国、2990t級ケルン級フリゲート

 日本、2950t級はつゆき型巡視船

 の新規ライセンス契約の取り付け騒ぎとなり、

 攻防が繰り広げられる。

 中国大陸の大きな資源帯を押さえてる日系資本と軍関係者たち

 上海ガニの山が皿の上に盛られていた。

 「手応えは?」

 「中国人の手応えっていってもなぁ」

 「海軍将校は、いいモノを選ぶ傾向が強いが発言力が小さい」

 「決定権を持つ、政府筋は、利権と私腹に執着している」

 「日本と似てるが、数段上だな」

 「ライセンス契約を結べたら、数百億の金が転がり込むし」

 「次のライセンスでも引き継がれやすくなる」

 「アメリカやドイツに負けたくはない」

 「やっぱし、賄賂しかないのか」

 「賄賂か・・・」

 「スペックさえ良ければ、賄賂で居住性最悪のゴミ軍艦が売れるかもしれないな」

 「ふっ・・・」

 「しかし、露鳳の情報にある中共中国より、戦力が近代化してないか」

 「民需中心で社会基盤が広がって、総合的な国力は増してるし」

 「各シンジケート管区軍は、無理な軍拡がないから近代化してる」

 「その気なったら、あっという間に軍事大国になるかもな」

 「危ない橋だ」

 「しかし、国内需要をはるかに超える日本産業だからな」

 「中華民国の市場はどうしても必要だ」

 「だけど、我々が中華民国軍の近代化に手を貸すというのもな・・・」

 「どの道、アメリカとドイツがその気になれば、同じだよ」

 「そういえば儒陀人が中国人に・・・」

 「“外資シンジケートを追い出してアジアの盟主に返り咲くニダ”」

 「って、囁いてるらしいぞ」

 「おれは、“日本でヤバくなったらクーデター起こすニダ”」

 「“資金、武器弾薬、人材は提供するニダ” っ聞いたぞ」

 「ふっ 相変わらずだな」

 「だが、頭の悪い平和主義者や軍属連中は、安上がりな懐刀で使ってるらしい」

 「また、戦前みたいな右翼化は御免だけどな」

 「まぁ 全体主義が好きな奴もいれば、個人主義が好きな奴もいる」

 「それは相性みたいなものだ」

 「しかし、どっちのいいとこ取りはできないし」

 「偏れば、得るモノより、失うモノの方が大きいんだがな」

 「民権派の平和主義にしても、国権派の資本誘導も」

 「JCIAの自作自演臭いし、大規模浸透戦術に利用されてると思うのだが」

 「ふっ そうはいっても、党利党略、派閥力学しか頭にない連中はやめられんよ」

 

 

 日本は戦後軍縮で、余剰資本、人材、資材を民需に転換させ、

 満州帝国と中華民国の利権を踏み台に国家基盤を整備し、

 低賃金を利用した競争力で外貨収入を得て、再生産を起こし、

 財政再建と近代化を果たしていく、

 とはいえ、工業力は、需要を超えて生産すると赤字となって国力を削ぎ、

 且つ、発電量を超えられない、

 オイルショック後、中東の石油の価格は高騰し、

 採算率は悪化していた。

 満州油田と東シナ海ガス油田の生産で補填しても、利潤が得られにくくなり、

 各企業は省エネによって、利潤を上げようとするものの、

 配当が目減りするにつれ、投資は差し控えられていく、

 余剰資本が淀めば、経済活力が低迷し、不況となっていく、

 宮城

 「海抜10m級か・・・こんなに高い防波堤がいるのかね」

 「半分の5mくらいの高波は防げるらしいけど」

 「前例はないだろう。そんな高波」

 「100年に一度の災難に備えるより採算性のいい、産業に投資すべきだと思うね」

 「土建屋のゴリ押しじゃないの」

 「危ないからとか、住民の生命安全を考えろとか、大義名分かざすから」

 「だけど、大型建設物は、標高50m以上の内陸側が圧倒的に多いし」

 「お金持ちは、高台に移動している」

 「アメリカ軍の上陸阻止で考えても割が合わない」

 「もっと社会資本が必要だというのに、なに考えてるんだかな」

 「工場の扶桑半島移転も増えてるしさ」

 「内地を空洞化させたいのかね。もっと考えりゃいいのに」

 「大きな土木建設やると、在日儒陀の力が増すからなぁ」

 「物分かりのいい住人ばかりとは限らないからね」

 「だけど、反政府活動してるのも在日儒陀だろう」

 「その方が時給が上がるからな・・・」

 街宣車のスピーカー音が聞こえてくる。

 “この防波堤はもっと高くしなければならないニダ”

 “偉い先生が言ってるニダ”

 “大きな天災が来るから、日本人は反省しないといけないニダ”

 「なんだ。あいつらは?」

 「在日儒陀の連中だよ」

 「高さ15mくらいにしたがってる馬鹿の集まりだ」

 「騒乱を起こすほど、ポケットが膨らむ連中か」

 「だいたい、7m級の高波に備えて15m級の堤防なんて1000年に1度だろう」

 「どんなオカルト雑誌読んだか知らんが、馬鹿としか思えんよ」

 「だから、15mという勢力を作って、10m級の防波堤を正当化しようという連中だよ」

 「まぁ 国家事業なんて言うと最大100年の大計だよ」

 「それ以上は、採算性が悪過ぎてマイナスだろうな」

 「だよなぁ だいたい、あいつら日本が沈むの喜んでる連中だから・・・」

 「「「「・・・・」」」」 苦笑

 

 某新聞社

 「新しく入った。在・儒君だ。よろしく頼むよ」

 「偉い先生のコネと書付があるニダ。だからとっても偉いニダ」

 「「「「「・・・・・」」」」」 じとぉ〜〜〜〜

 「よろしくニダ」 にゃぁああ〜〜

 

 

 インド大陸

 儒陀藩皇国

 “・・・いまの歴史は歪められた歴史ニダ”

 “本当は、太平洋戦争で日本は負けていたニダ”

 “そして、韓国は、半島で独立し列強となっていたニダ”

 “しかし、日本人は、半島の古代儒陀遺跡を発掘したタイムマシンを気付き”

 “敗戦の日本に堪えられず、X艦を過去に送り歴史を改竄したニダ”

 “チャンよ。半島の古代儒陀遺跡に行け”

 “そして、改竄されてた歴史を元に戻し・・・”

 “真実の歴史に戻すニダ・・・” がくっ!

 「「「「「アイゴーーーー!!!」」」」」 涙々

 映画館

 

 アメリカ系ホテルの一室で非公式協議が行われていた。

 「日本は、インド藩王諸国を贔屓してるニダ。許せないニダ」

 「建設会社は発注に応じて受注してるだけだと思いますよ」

 「我が国の発注を断ってるニダ」

 「そ、それは、価格交渉で合わないからと・・・」

 「日本は、儒陀をインドに追いやった責任があるニダ」

 「しかし、それは戦時下におけるカルネアデスの板的な暴挙でして・・・」

 「許せないニダ!!!」

 「こっちの言い値で受注するニダ」

 「そうは言っても、インド藩王諸国は障害が少なく、儒陀藩皇国は障害が多いと・・・」

 「障害の問題じゃないニダ」

 「儒陀藩皇国は、インド洋国家ニダ」

 「アメリカと同盟し、インド洋を支配してるニダ」

 「日本の生命線を握ってるニダ・・・」

 『局長。どうやら、脅迫してるようですよ』

 『だいたい、こうなるとわかってたけど、あからさまだなぁ』

 『アメリカ海軍を恫喝に利用してますけど、どうしたもんでしょう』

 『相変わらず、他力本願か・・・』

 『儒陀海軍の戦力は?』

 『2450t級ギアリング型駆逐艦7隻』

 『2900t級アレン・M・サムナー型駆逐艦2隻』

 『2050t級フレッチャー型駆逐艦3隻』

 『大したことないが、輸送船全部に軍艦を張り付けさせるわけにはいかないな』

 『ですよね・・・』

 「取り敢えず、関係省庁に善処するよう、通達しておきますよ」

 「本当ニカ?」

 『『『『うんなわけあるか! 時間稼ぎに決まってんだろうが!!!』』』』

 

 

 新・儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 どしゃん〜♪ がしゃん〜♪ どしゃん〜♪ がしゃん〜♪

 どしゃん〜♪ がしゃん〜♪ どしゃん〜♪ がしゃん〜♪

 日本沈没舞が始まる。

 「インド藩王諸国が日本・ドイツ・ソビエトと組んで、新幹線を導入しようとしてるニダ」

 「許せないニダ。インドのナショナリズムを高めて妨害するニダ」

 「インド藩王諸国の新幹線導入は、反儒陀・パキスタン・ハイデラバードが強いからニダ」

 「こっちもアメリカの新幹線を導入するニダ」

 「アメリカに新幹線はないニダ」

 「なぜニダ。アメリカは日本より先進国のはずニダ」

 「石油・自動車産業に潰されるニダ」

 「日本にもっとJCIAを送って大浸透戦術するニダ」

 「組織対立を煽って地位と金を手に入れさせるニダ」

 「新聞、雑誌、出版を押さえこんで、儒陀の都合のいい政策をさせるニダ」

 「言論をJCIAの牙城にして、日本を情報操作するニダ」

 「平和主義者を台頭させて、軍属を反発させるニダ」

 「日本人の対中、対米、対ソ、対独不信を煽る記事を載せるニダ」

 「日本人の反中、反米、反ソ、反独を煽るプロパガンダ作品をたくさん作るニダ」

 「日本の馬鹿な軍属と組んで軍拡させるニダ」

 「軍部を煽って日本政府を打倒させて、軍国化させるニダ」

 「日本と世界を戦争させるニダ」

 「そして、日本を滅ぼすニダ」

 「日本と日本人に死ぬまで、謝罪と賠償をさせるニダ」

 「日本と日本人は大局観もなく、利権抗争にかまけて戦意が無いニダ」

 「イチコロニダ」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 死に至る心は、利己主義、権謀術数、不和、対立・・・でしょうか。

 和を尊ぶどころか、外患誘致してまでの党利党略と利権の拡大です (笑

 複雑な派閥力学で、常識人が間違い、

 利権まみれ反日儒陀の人たちが正しいという、皮肉めいたことも起こるかもです。

 史実より軽度ですが、

 我田引水と不正腐敗に長けた在日儒陀が徐々に日本社会に浸透します。

 

 

 中華民国は、軍事力をケチって、

 経済大国化しそうです。

 どこかで見たような。ていうか、日本でしょうか (笑

 低中級品技術で収まればいいのですが・・・

 

 

 経済効率に負けて原子力発電所を建設です。

 地下に建設しますし。

 DPPは、物理攻撃にはまだ弱いのですが、

 放射線を防ぎやすいので、史実より安全かもしれません。

 

 

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第42話 1982 『蜘蛛の糸と猫じゃらし』

第43話 1983 『死に至る心』
第44話 1984 『時空鳥居』