月夜裏 野々香 小説の部屋

    

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第46話 1986 『へ〜ん〜し〜ん〜 モスマン一号』

 4強の国防GDP比率は、アメリカ70パーセント、ドイツ5パーセント、

 日本2.5パーセント、ソビエト8パーセントとなっていた。

 日本の国防費が低く抑えられたのは、海底トンネルや土木工事など、間接防衛な国土開発費に食われ、

 さらに予算案可決後のGDPの増加分を見込んだ予算案を通せないことにあった。

 どちらにせよ。日独米ソの4強は国防費に予算だけでなく、有能な人材と資材を取られ、

 大きな足枷となっていた。

 高度技術開発競争は、後進国の利権で上乗せしなかればならず、

 列強は国内の高騰していく賃金では対応できなくなっていた。

 利権を持つ後進国の低中級品生産の増産と収入の利潤によって賄われ、

 結果的に国内産業の空洞化を招いていた。

 

 歯舞諸島 水晶島

 「へ〜ん〜し〜ん〜 モスマン一号」

 「へ〜ん〜し〜ん〜 モスマン二号」

 「「「「・・・・」」」」  しら〜〜〜

 「ごほん! 一色少尉、赤星軍曹。準備はいいようだな」

 「はい、いつでもいけます」

 「ところで、藤堂司令。この擬態は、少しばかり物言いがありますが」

 「人が空を滑空して降りてきたらおかしいだろう」

 「モスマンならモスマンとして騒ぎになるだろう」

 「その隙に人間に戻って、やり過ごせばいい」

 「し、しかし・・・」

 「まぁ 宇宙人や異世界の連中も似たようなことをしてるようだし」

 「モスマンは時空標準脱出装備と考えていいだろう」

 『『なんか、納得いかねぇ』』

 「では、決められた運行で飛行してくれ」

 「「はい」」 敬礼

 水晶島が軍の実験場として選ばれた理由は濃霧が多いことにあった。

 この時代、サーモグラフィー、レーダーの精度は高まり、

 衛星軌道からの多視点観測で正体が知られやすくなる。

 しかし、DPPの精度も向上し、遮蔽と迷彩の技術も進み、

 そして、至近距離からの光学・目視でなければ誤魔化し可能になっていた。

 八咫烏と名付けられたUFOは、直径12m×全高3mの円盤だった。

 動力機関は、物質を光速の二乗に転化させ

 総質量で割った距離を移動できる対消滅機関だった。

 船殻さえ堪えられるなら光速以上の速度で移動できるだけでなく、

 次元モーターの時空周波数を変えることで次元移動も可能だった。

 船殻は外からの重圧に耐えられる深海潜水艇と、

 宇宙空間で内からの膨張の両方に耐えられる構造でなければならず、

 複合装甲のシームレス化も進んでいた。

 八咫烏は、時速40kmほどで飛ぶ、

 それ以上の速度で飛ぶと、遮蔽演算処理が追い付かず、目視でばれてしまう恐れがあった。

 コクピット

 「一色少尉。DPP反応が三つ」

 「ペルム紀系1機と古第三紀系2機が接近してきます」

 「速度は?」

 「ペルム系2400km/h。古第三紀系1669km/hです」

 「その速度で遮蔽してるのか。信じられない技術だな」

 「そんな速度、日本中の電算機を並列処理させても遮蔽できませんよ」

 「位置は?」

 「正確な観測はできないようですね」

 「こちらはロックオンできず。向こうは、いつでも撃墜できるってことか」

 「建造中の春日でも負けそうですね」

 「連中にしたら春日も大きいだけだろう」

 「そういえばアメリカ、ドイツ、ソビエトもUFOを研究してるそうですよ」

 「異世界人と組まれると、日本の優位性は、いつまでもつやら」

 「異世界人と組まれますかね」

 「それは、条件次第だろう」

 「列強が生態系分岐世界の住人に権益を譲るということですか?」

 「さぁね。しかし、日本に置いていかれるくらいならって、可能性はあるだろう」

 「それはちょっと嫌ですね」

 「だよな」

 

 

 

 

 世界4強の一角、ソビエト連邦

 第二次世界大戦において、ドイツ帝国と死力を尽くして戦い、

 日本に対し軍事的な圧力をかけ続け、

 連合国軍の戦線を維持させた陰の主役。

 この時代においても、ソビエト軍は世界最大の地上軍を有し、

 核兵器の弾頭は主要国全ての都市に向け、

 共産主義を世界に伝播させ、

 周辺諸国だけでなく、列強内にも親派を作り、

 アフリカ大陸では、民族独立ゲリラの精神的な支柱として、

 植民地主力守護軍の華漢軍と血みどろの戦闘を繰り広げていた。

 共産主義世界は、共に生産し公平に分配する平等な社会、

 しかし、国民の移動は厳しく監視され、言論と思想の自由さえなく

 体制批判をする者は、反逆者として投獄させられる。

 個人の成功は全体に薄められ、見返りが少なく、活力を失わせる。

 格差を望んで努力しても、見返りのない社会では、ウォッカの消費量が増えるばかり、

 競争のない社会の1人当たりの労働生産性は、日増しに低下し、

 多くの生産品が国家機密として、国外との貿易を禁じられ、

 内需以上の生産力は、武器弾薬を除くなら、資源と穀物しかなく、

 国際競争力を喪失させていた。

 膨大な資源を抱えながら物資は滞り、

 店頭の商品は少なく、品質は劣化の一途を辿り、

 日用品だけでなく、食糧品さえこと欠き、

 人は何の行列かもわからないにもかかわらず、長蛇の列を作って並んでいた。

 第8代最高指導者ミハイル・ゴルバチョフは、共産主義の限界に気付き、

 ペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)の改革を強行し、

 合理化と民主化を進めていた。

 そして、チェルノブイリ原子力発電所で炉心溶融(メルトダウン)後、核爆発を起こした。

 10t前後の放射性物質が大気圏にばら撒かれ、

 放射性降下物は、半径30kmが被曝圏圏に晒され、

 ウクライナ・白ロシア(ベラルーシ)・ロシアなど、

 風下の北東350mに向かってホットスポットと呼ばれる汚染地帯を作り出してしまう。

 そして、チェルノブイリ原子力発電所事故は、物理的なダメージだけに収まらなかった。

 社会生活で限界に達していたロシア人の失望感を絶望に追いやり、

 共産党の確信を瓦解させ、反ゴルバチョフ陣営を揺るがした。

 ゴルバチョフ書記長の改革陣営は、急速に改革勢力を伸ばしていく、

 

 満州帝国

 救援物資を満載した列車が物資のチェックを済ませると国境を超え、

 ソビエト領内へと入っていく、

 大戦中は日ソとも日ソ中立条約(1941年4月25日)を守り、

 現在も日ソ中立条約が自動更新されていた。

 結果、45年間も続く長寿中立協定となっていた。

 とはいえ “名目上の中立条約がたまたま継続しているだけ”

 と、日ソ首脳だけでなく、日露両国民とも信じて疑わなかった。

 日満・ソ国境は、緊張関係が続いており、

 列車のチャックだけでなく、ソビエト将兵も便乗していた。

 客車の代表者たち

 「シベリアか。こういうときでもないと入っていけないからな」

 「ソビエトを助けるあるか?」

 「こういうとき助けないと、ソビエトに核攻撃されたら困るだろう」

 「納得いかないある」

 「ロシア系外資シンジケートと話しを付けるの大変だったんだぞ」

 「むかし、黒竜江省で釣りをしていた伯父がソビエト軍に撃ち殺されたある」

 「本当に釣りだけだったのなら大変遺憾ではあるが・・・」

 「本当に釣りある。白人女性が釣れたある。いま愛人の一人ある」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「しかし、ソビエト外務省と話すより」

 「中華民国外資シンジケートと交渉する方が早いとは恐れ入った」

 「ふっ ロシア社会もかなり腐ってるな」

 「中華のロシア系シンジケートは、ソビエト国内マフィアより強くなってるある」

 「資本力と社会性のノウハウも、ロシア系シンジケートが上ある」

 「それで、ロシア系シンジケートの下剋上か」

 「下手すると書記長より強かったりしてな」

 「中華のロシアシンジケートは、ソビエト共産主義の崩壊に一役買ってるある」

 「一発撃って、雲南省に逃げ込めばいいだけある」

 「そういえば、ソビエト軍部もシンジケートに侵食されてると聞いたことあるな」

 「もう、核兵器より、お金が怖いわ」

 「人間、金の魅力に取りつかれると壊れるからね」

 「利己主義こそ、最強の思念エネルギーある」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 共産主義を全世界に振りまくソビエト連邦、

 その直轄の対中華外資シンジケートが資本主義に毒され、

 本国のソビエト共産主義を裏切っていた。

 「これを機にソビエトにスパイ組織を構築ある」

 「無垢の策というのもあって、善意が敵意を消失させてしまうこともあるからね」

 「日本人は御人好しある。大陸じゃ通用しないある」

 「せっかく45年も続いてる日ソ中立条約にひびを入れることもないだろう・・・」

 客車にソビエト女性士官が現れ、ウォッカを配っていく、

 「い、いまの見たあるか。亡命したがってるある」

 「愛人と同じしぐさある。誘ったある」

 「あほ」

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 宇宙艦隊、次元艦隊の考察、

 “宇宙空間及び次元艦隊での戦艦、巡洋艦、駆逐艦のカテゴリーは、海上戦力と変わらない”

 “火力、防御力、速度の比重の違いに過ぎない”

 “さらに装甲など防御力を省くなら宇宙航空機といえるモノになるだろう”

 “遮蔽や静粛性能を優先するなら宇宙潜水艦を兼ねることができる”

 “問題は、宇宙空母が戦力となりえるか、といえる”

 “エネルギー(E) = 質量(m)×光速度(c)の2乗の質量を全て、光速の2乗に変換できるのなら”

 “答えは、YESになるだろう”

 “代償として、宇宙艦載機の耐久年数は、宇宙艦艇の50分の1ほど”

 “さらに短いサイクルで推進エンジンを換装すると割り切るのなら”

 “宇宙空母、次元空母の建造は、可能といえるだろう”

 “しかし、多くの宇宙勢力や平行次元勢力がそうであるように”

 “本格的な宇宙艦隊や次元艦隊を保有する勢力は確認されていない”

 “多くは探査を目的とした大型母艦と艦載機といった汎用船と思われ”

 “多くの文明は基礎になる生物学的な格差があり”

 “100年近い科学技術の開きがあるため軍事力で張り合う意欲が失われていると考えられている”

 “さらに、彼らは武力侵略や植民地化を目的としていないと思われる”

 “原因は宇宙樹システムにおける生態系分岐の拡散が悪影響を及ぼすと考えられていること”

 “さらに高度な精神文明が侵略を是としていないことがあげられる”

 “もっとも地球で自らの勢力拡大のため、彼らを引き込む勢力があるのなら話しは変わる”

 “そして、その人類分岐世界の裏切り勢力は、誘惑に晒されている・・・”

 

 

 

 月巳諸島

 南洋の樹木がうっそうと茂っていた。

 都市を中心に建築物が増え、

 民族主義と回顧主義勢力によって、仏閣神社城郭が建設されていく、

 そして、日本人の習慣なのか桜の代用が植えられていた。

 南洋桜(フレームツリー)が真っ赤な花を開き、

 イペの木が白、赤紫、ピンク、オレンジ、黄色の花を咲かせる。

 月巳で花見というと、南洋桜か、イペの木が多く、

 ハイビスカスの花も都市の景観を飾った。

 それとは別に実利的な樹木も植えられ、鈴生りにマンゴとパパイヤが実っていた。

 月巳人は、庭先のマンゴ、パパイヤで、食事を済ませることがあった。

 季節によっては、来た客に果実を振舞わないと庭が汚れ、

 子供たちは小遣い稼ぎで店に売りに行かされ、

 食卓や庭のテーブルにマンゴとパパイヤが山のように置かれ、コンプリートさせられる。

 米を中心とした食卓は、必ずしも必要とされなくなり、

 若者は、月巳州府広報の “一日、一日本食” のこだわりもなくなっていた。

 そして、そういった変化は、生産流通販売関連産業全般で悪影響を与える、

 早い話し、米や食品を作って運んで売っても利益にならなず、

 他の業種のトータルコストまで悪化させ、足を引っ張っていた。

 上品な喫茶店を作っても利益になりにくい、熱帯域特有の経済が作られていた。

 さらにエンゲル係数に占める出費が低いと勤労意欲まで影響する。

 少年たちは、重たいマンゴ、パパイアを売り歩くより、

 効率の良い客を見つけ、

 夜、野鳥や虫が不気味な鳴き声を発する森の中を分け入る。

 そして、白いシーツに電灯を当て、金になりそうな虫を捕まえる。

 目利きは1人で、残り3人が長い棒を持って周囲を警戒する。

 カエルが増え、灯りに惹き寄せられた虫を食べていた。

 カエルは虫を追いかけ、

 蛇はカエルを追いかけ近付いてくる。

 食物連鎖は、熱帯に近付くほど密度が増す、

 少年たちは、用心深く、藪を見張る、

 有史以前から培われた嫌悪感なのか、

 蛇の気配に気付くと棒で叩いて殺すか、追い散らす。

 「3匹目か。今日は、蛇が多いな」

 「そういや、爺さんが戦争中は、カエルや蛇を食べたことがあるとかいってたな」

 「マンゴを食べろよ」

 少年たちは思い思いにマンゴ、パパイヤをかじっていた。

 比較的小型のマンゴでも7〜8個も食べれば、一食分になった。

 「マンゴ、パパイヤ、アボガド、パイナップルが植えられるようになったの、戦後だろう」

 「爺さんの頃は、タロイモだったらしいよ」

 「あれか・・・」

 「農薬と水を考えなくていいとか、キャッサバといい勝負だな」

 「毒の強い食物は、雑草並みに育つから」

 「・・よし、そろそろ帰るか」

 「収穫は?」

 「10匹くらいだ。2、3万は堅い」

 目利きの少年は籠を見せてほほ笑んだ。

 「それじゃ 帰ってシャワーでも浴びて寝るか」

 「だな」

 じっくり温泉に浸る月巳人は、少数派になり、

 若者を中心に一日に数回シャワーを浴びる生活習慣に切り替えられ、畳敷きの部屋もなくなる、

 世代間の生活習慣は広がり確執も強まっていた。

 

 

 縦割りな利権構造で支持基盤が作られ、

 離合集散な派閥争いの結果、日本の権力構造が定まる。

 国民公選の総理大臣と県民公選の知事は、

 縦割り利権構造の枠外になることが多いものの、

 支持基盤の弱い権力に過ぎなかった。

 かといって、巨大利権構造と癒着した支持基盤の強い権力構造が

 国益と民益に適うと誰が保障できよう。

 月巳諸島は、日本圏から適度な位置になるのか、

 利権構造が大きくなるにつれ、

 月巳の政治勢力が日本に与える影響も大きくなり、

 権力基盤でも相互作用し合うようになっていた。

 

 老齢者の苦い記憶とは別に、

 文献・写真・映像を中心とした戦前戦中の記録が残されていた。

 自己正当化と虚飾で歪められた記録は、国家と国民を騙す行為であり、

 欺瞞に立脚した勢力は、正常な判断力を失わせ、

 次代の政策の障害として、国益と民益を損なわせる恐れがあった。

 人が善悪混在であることに寛容になれそうな世代、

 歴史博物館が団体割引で利用される、

 施設は、写実を中心に構成され、

 高校生たちは三々五々、一巡りし、

 日本・月巳と欧米諸国、周辺諸国の歴史としがらみを認識していく、

 人の醜さや集団心理の怖さを垣間見、各国の国民感情など、およそ把握できた。

 過去を引きずるか、未来志向かは、個人に委ねられるものの、

 あくまでも個人の志向であって、他国の国民がどう思うかは、別の問題となった。

 「日本か、どんなとこなんだろう」

 「親の代にこっちに来て、それから戻ったことないからな」

 「おれは一度、日本に行ったことあるぞ。スキーで」

 「いいなぁ」

 「どんなとこ?」

 「んん・・・涼しいだけで、あまり変わり映えしなかったかな」

 「リンゴと柿は、美味かった」

 「日本が祖国って言っても接点がないからな」

 「そういや、日本からおばさんが訪ねてきたけど、ピンとこなかった」

 「ぶっちゃけ、俺たちの祖国って月巳だろう」

 「だよな」

 「修学旅行も日本よりニュージーランドが人気あるんじゃないの」

 「珍しさならニュージーランドだよ」

 「満州まで行くと日本と違うらしいけど」

 「満州か・・・雲南省も興味あるな」

 「そういや、今度、中華の雑技団が来るってよ」

 「いいねぇ 見に行きたい」

 大人の思惑と期待を他所に、展示品をまともに見てない高校生たちが施設から出てくる。

 施設と施設の間を半透明のケブラー製渡り廊下が繋いで太陽の直射を防いでいた。

 

 月巳は日本と同様山岳地が多かったものの、

 初期の区画整理が日本の平均的な道路・住宅地より20パーセントほど広く取られていた。

 工業力は、地熱発電、水力発電、太陽光熱発電を主電源とし、

 豊富な電力を利用した電化により、

 電気自動車生産は日本より増加していた。

 もっとも工業生産品の多くは日本のミラー産業というべきもので、

 日本で開発されたモノを支工場で生産していた。

 そして、軍装備消耗品の自給率は7割に達し、

 アメリカ機動部隊の強襲に対しても一定期間の抗戦を可能にしていた。

 ニューブリテン島中央域、

 標高1600m級の高原が広がっていた。

 高原地帯は太陽が頭上近くを横切ったとしても涼風が得られやすく、

 開発が進むにつれ別荘地から住宅地へと変貌し、商業と工業も誘致してくる。

 そして、月巳空軍基地が建設されていた。

 主力機は、水冷5000馬力ディーゼルエンジン4発装備の

 早期警戒機アマテラス、対潜哨戒機スサノオ、輸送機ツクヨミの3機種であり、

 ほか、攻撃ヘリ朱雀V(ka54)、哨戒ヘリ海燕V(Ka31)が配備されていた。

 月巳周辺の軍事事情から、それだけでも十二分な戦力だった。

 しかし、世界4列強の航空兵団であるためか、

 過剰と疑問視されながらも20機ほどの戦闘機が配備され、

 瑞燕から瑞鶴へと機種転換が進んでいた。

 バンカー(格納庫)

 「へぇ〜 これが蜘蛛の糸を編み込んだスーツか」

 「どう?」

 「んん・・・よくわからんが」

 「ケブラー、ナノチューブ、シリコンも編み込んで、どれもこれも一長一短あるからね」

 「ナノチューブ、シリコンが切れるくらい引っ張られないと、わからないか」

 「もっとも、その前に死ぬだろうけど」

 「意味ないだろう」

 「一番の特徴は、蜘蛛の糸がDPP障壁を帯磁しやすいということかな」

 「遮蔽は演算処理速度で無理でもDPPは、放射線、電磁波に強いし」

 「物理的衝撃に弱くても放射線を防ぎやすく、レーダー上は消せる」

 「複合素材でサンドイッチ状に挟み込むことができれば機体のステルス化も容易になる」

 「まぁ 既存の技術にDPPとオーラの強さをプラスアルファさせることになるだろう」

 「このスーツは、オーラローブを増幅させるオーラスーツでもあるのか。悪くない」

 「それは、既存の手段に頼らないで?」

 瑞鶴は、増漕4本とレーダーホーミングミサイル8本を装備し、

 100mほどの滑走で離陸していく、

 STOL能力は、即応性が高く、

 基地依存の低さが加味され、実戦で真価を発揮する。

 もっともアメリカ機動部隊が攻撃してこない限り、宝の持ち腐れで、

 瑞燕、瑞鶴が配備されていなければ攻撃されるような国際情勢でもなかった。

 

 

 

 良港ラバウル湾は、国立公園に指定され、

 民間は開発できなくなっていた。

 政府関係者たち、

 「94年に大噴火か・・・」

 「その後はわからんがね」

 「穴は掘っているんだろう」

 「地熱発電所か。熱エネルギーを地上に逃がしたらどうなるか、調べないとな」

 「上手くいけば、日本と月巳のマントル地熱発電所建設が加速するだろう」

 「上手くいけばか・・・」

 「試作はともかく、技術的にクリアしなければならない問題が大き過ぎて、工業レベルに達していない」

 「それに下手をすれば早めてしまう可能性すらあるよ」

 「核融合炉より、安全じゃないのか」

 「DPPを使えるなら、計画中の “もんじゅ” も悪くないよ」

 「むしろ、次元テスラーモーター発電の方が・・・」

 「どっちも露鳳の素材が必要だし」

 「ハードルが高過ぎて、どうにもならんよ」

 「春日が完成すれば、材料を採集出来るんだろうか」

 「まぁ 露鳳のように大規模じゃないが可能だろうね」

 「ところで、ムッサウ(夏日)島の宇宙ロケット基地は、増築しないのか」

 「そろそろ、有人ロケットを上げてもいいんじゃないのか」

 「んん・・・予算をほかに取られた」

 「戦争するわけでもないのに軍部に予算を渡すなよ」

 「ふっ 竹槍の時代みたいに即席で軍を創設できるわけじゃないし」

 「一定の水準で一定の規模は、事前に必要だからな」

 

 

 日本ハワイ州

 戦後、日本人の移民が増えていた。

 戦前からのアメリカ人と日系アメリカ人も少なくなく、

 外資系の白人も急増し、人種的な比率は黄色人6、白人4という世界が作られていた。

 行政は、露風にある日本に近く、

 人権に関していうなら、日本圏で、もっとも自由な気風が作られ、

 アメリカナイズされていると言っても過言ではなかった。

 非合法な中華民国系外資シンジケートを除くなら、

 白人外資系最大の合法的な対日拠点であり、

 対日戦略上の拠点ともなっていた。

 日本の妥協は、外資投機の大きさにあり、

 小さな島であるにもかかわらず、GDPは、非常に高い数値を示していた。

 そして、日本的なムラ社会的な派閥原理、年功序列、

 資本階級的な地位と賃金のコネの持ち回りを脱したい庶民の念願の強さでもあり、

 外資資本で生活してしている日本人の多さにも比例していた。

 中華民国ほどでないとしても、日本国内にも階層差別が存在し、

 膠着しそうな社会を抑制する需要も少なくなかった。

 そして、日本にとっても、開かれた国際国家であることを証明する州でもあった。

 ボーイング737がランディングアプローチを執って滑走路に進入していく、

 航空機は、風向きや気圧などの変化に合わせ、刻々と微調整がなされていく、

 やや向かい風から横風下方に変わると、

 機首を向かい風側に向け、機首を上げて揚力を増やし、

 揚力とバランスを保ちながら主脚をタッチダウンさせていく、

 一人の黄色人種が降り立つと、風を切って歩き、会合場所へと向かう。

 バスを乗り継いで、真珠湾を望む高台にキリスト教教会があり、

 黄色人種は、懺悔室で白人神父と向かいあった。

 「アメリカの情報を仕入れてきたニダ」

 「助かったよ。エリア51の様子は、どうだったかね?」

 「宇宙人のUFOを隠してる可能性は高いニダ」

 「本当に?」

 「本当ニダ。UFOを見た子供に喋ると殺すと脅しをかけたニダ」

 「テープと証拠写真ニダ」

 「よく聞き出せたな」

 「大変だったニダ。お金をたくさん奮発したニダ」

 「わかった。これからもよろしく頼むよ」

 「全力で、応援するニダ。日本の情報も売れるニダ」

 「いい情報があるのかね」

 「日本人は、特殊迷彩の特殊部隊を編成し、UFOも製造しているニダ」

 「ほう・・・それも・・・買い取ろう」

 封筒が神父に渡され、

 「子羊よ。下にあるかばんを持っていきなさい。儒陀に安かれ」

 「ありがたいニダ。ドイツ帝国、ドイツ皇帝万歳ニダ」

 儒陀人が教会を出ていくと、

 白人の神父たちが集まり、秘密の部屋に入る。

 『『『『・・・・・』』』』 ため息

 一瞬にして、日本人の神父に変わる。

 「儒陀は、白人だと、どうして、こう情報を教えてくれるのか、不思議だな」

 「まったく」

 「ドイツに送った儒陀人は、3時着だっけ?」

 「ああ、エアビーチの教会に来るよ」

 「しかし、漏洩はどこからかな」

 「どうせ、アホな議員や恥をかきたくない官僚からだろう」

 「アホどもが・・・」

 「アメリカは黒スーツと黒メガネのメン・イン・ブラック組織で脅しをかけてるそうだが」

 「んん・・・MIBシステムか・・・国際常識なら日本でもやってみるか」

 「ふっ」

 「しかし、儒陀情報の信憑性がどうにも怪しいと思うのは、なぜだろう」

 「アメリカ人、ドイツ人、ロシア人も、そう思ってても儒陀人を使うんだろうな」

 「「「「あははは・・・・」」」」

 DPP迷彩遮蔽技術が進むにつれ、

 直接的なカウンタースパイも活発になっていた。

 

 

 

 100000t級ニミッツ型原子力空母4番艦セオドア・ルーズベルト

 世界最新最大最強の原子力空母が就役する。

 飛行甲板にF14トムキャット、F/A18ホーネット、

 A6イントルーダー、E2ホークアイ、C2グレイハウンド、

 CH53シースタリオンが翼を連ね、

 空母を守る艦隊が周囲に配置され、

 世界最強の機動部隊が編成される。

 艦橋

 コーヒーブレイクの一時、

 「艦長、4強の緊張関係が緩和されるそうですよ」

 「じゃ リストラのリストでも作らなきゃな」

 「代わりに中東、アフリカ大陸で爆弾を落とせるのなら・・・」

 「まぁ そのつもりで4強会談を開くつもりだろうが・・・」

 「弱い者いじめは、あまり、いい気分じゃないですがね」

 「この機動部隊を維持するのは、大変だからな」

 「どうせ叩くなら、儒陀をやりたいですがね」

 「「「「あははは・・・」」」」

 「儒陀が反ソ、反独、反日を煽ってくれたからな」

 「それで、国民のモチベーションを保てて軍が助かったこともあった」

 「しかし、軍事より、経済の要因が強くなってきてるし」

 「中進国が成長すれば、列強の対応も変わらずにはいられまい」

 「核で睨み合っているうちに、毒気が抜けてしまいましたからね」

 「ふっ 通常兵器で睨み合うより、安上がりだからな」

 「そういえば、来年、キエフ型4番艦バクーも完成するとか」

 「たぶん、あれがX艦の正体だな」

 「そんな気がしますね」

 「問題はどうやって、航空巡洋艦を過去に送ったのか」

 「もしくは、不可抗力で送られてしまったのか」

 「現状では不可能とか」

 「過去に送れたとしても、送れた場所によっては、さらに悪化するだろうな」

 「正確な座標は特定できないと?」

 「座標を特定できるのならバルト海か、白海に送るよ」

 「もう少し、正確な情報があればいいのですが」

 「そういえば、儒陀の映画でX艦のタイムトラベルを防ぐ映画をやってたな」

 「成功すると、日本は原爆を2発落とされて、焼け野原だったと」

 「ふっ 儒陀人の情報は、どうにも信用できんよ」

 

 

 

 アイスランド

 レイキャビク 日米独ソ 4ヵ国首脳会談

 チェルノブイリ原子力発電所事故が契機になって4列強の会談が開かれていた。

 核兵器を向け合う国家間でも、

 表向き、国権や国民の生命を守るためであり、それ以上ではなかった。

 無論、権謀術数と組織権益が国権と国民の生命を上回ることもあるが、

 国民の票が得られなければ、次はない、

 少なくともアメリカはその傾向が強く、

 日本とドイツも利権構造を維持する不可欠な票数があった。

 四竦みの緊張状態で得られる利権構造が国民の嫌悪感となる頃で、

 満州、中華民国の急成長への警戒感と、

 アフリカ大陸の新たな状況に対処する好機とも見られていた。

 「取り敢えず、ソビエトの原発事故の救援関連は、いいとして・・・」

 「中華資本の浸透と、アフリカ大陸での漢民族の拡大」

 「これは、憂慮すべき事態だと思うのだが」

 「中華民国の外資シンジケート利権はドル箱だし」

 「アフリカ大陸の華漢需要もドル箱だよ」

 「これで利益を上げてる企業は多いだろう」

 「むかしの帝国主義時代が懐かしいねぇ」

 「中華民族資本は58パーセントで増加傾向にあるし」

 「外資シンジケート権益の総占有率は42パーセントで減少傾向にある」

 「この状態で、元安だと輸入が増えて国内産業は空洞化」

 「元高だと高い資源を買わされる羽目になるな」

 「積極的であれ、消極的であれ。どちらにせよ。低賃金で国民を使役できる国は有利だ」

 「「「・・・・」」」

 日本の総理大臣に視線が集まる。

 ごほん!

 「主たる国民の相互信頼、相互保護によって国家は、保たれるものですから・・・」

 「いいよあ。赤面しそうな綺麗事が言える国は」

 「未来の年表は、あと、何年までもってるんだ」

 「仮に持っていたとしても役に立たないでしょう」

 「自然災害もかね?」

 「・・・・」

 「本当は、チェルノブイリも予期してたんじゃないのかね」

 「まさか、そんな・・・」

 「まぁ 知ってても言えんよな。信じてもらえそうにないだろうし」

 「・・・・・」 ごほん!

 「「「・・・・」」」

 「そんなことより中華民国を何とかしないと、低中級産業は軒並み廃業に追い込まれる」

 「「「「・・・・」」」」

 有力者は切磋琢磨しつつも、公平や平等を望まない、

 後塵が追い上げてくる時、先人同士で結託し後塵を抑え込む、

 それは、国際情勢においても当てはまる。

 後進国が追い上げてくる時、対立していた先進国が結託し、後進国群を抑え込む、

 かってのアメリカとイギリスが、日本とドイツに対しそうであったように、

 今では、4強に成り上がった日本とドイツが

 アメリカ、ソビエトと共に後進国の成長を牽制する。

 中華民国の民族資本は徐々に増え、遠からず5強になり上がる勢いを見せていた。

 さらにアフリカ大陸の華漢勢力が連合し統合するなら、

 中華勢力は2大陸にまたがり、アングロサクソンに迫る勢ることになった。

 「だいたい、植民地を維持するためとはいえ、中国人を植民地軍にしたイギリスが悪い」

 「「「「・・・・」」」」

 

  

 新・儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 「皇帝。モヘンジョダロの発掘と半島の調査により」

 「儒陀地球人類系譜図が完成したニダ」

 「おお、ようやく、完成したニダか」

 日本製プロジェクターで映像が映し出される。

 「儒陀が直系民族ニダ」

 「ユダヤ民族、ゲルマン民族、アングロサクソン民族の儒陀12支派族と連なるニダ」

 「天孫の子ら、覇者の衣をまといての太古の発祥の野に降り立つべし」

 「失われし人類の系譜と絆を結び、迷いし人々を皇国の地に導かん」

 「アイゴ〜〜〜 古き言い伝えは誠であったぁ」

 「なんという儒陀神の愛ニダ」

 「儒陀の神は、直系の儒陀民族に心を開いているニダ」

 「アイゴ〜 涙で眼が曇って、よく見えないニダ〜〜〜」

 「儒陀は人民から選出された最高皇帝が統べる世界最古の皇国ニダ」

 「そうであった。そうであった。学校で学んだ通りだったニダ」

 「紛いモノの日帝と日本民族を焼き尽くし」

 「人類長子の儒陀民族によって世界人類は統治されるニダ」

 「皇帝。日本の宇宙産業の妨害は一定の成果を収めてるニダ」

 「有人宇宙ロケット開発に待ったをかけることに成功したニダ」

 「アイゴ〜 よくやったニダ」

 「宇宙産業に資本投資するニダ」

 「先端技術で負けても先に産業を軌道に乗せて有利になるニダ」

 「それがインドが儒陀のロケット開発は、敵対行為とみなし、国境封鎖と言ってるニダ」

 「インド藩王諸国は、いつもいつも卑劣で汚い国ニダ」

 「どうするニカ?」

 「日本とインド藩王諸国を戦争させるニダ」

 「日本は、戦争を嫌がってるニダ」

 「じゃ 日本がインド藩王諸国を占領しようとしてると風評を流すニダ」

 「インド藩王諸国は儒陀の企みに気付いているニダ。上手くいかないニダ」

 「日本の電気自動車産業の妨害はどうニカ?」

 「日本の電気自動車産業は世界最大ニダ。勢いがついて妨害できないニダ」

 「なにやってるニダ。総動員で日本の電気自動車開発の足を引っ張るニダ」

 「儒陀が先に産業に乗せて、日本より外交で有利になるニダ」

 「しかし、既に日本の電気自動車は、日本圏を走ってるニダ」

 「日本の脱・化石燃料は、絶対に許さないニダ」

 「日本の言論に圧力をかけるニダ」

 「数少人数ても騒ぎまくって、全力で脱石油燃料を妨害するニダ!!!!」

 「そして、もう一度、日本を戦争させて漁夫の利ニダ!!!!!!」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 どうやって終わらせようかな。

 でも生態系分岐世界にも行かないとな。

 

 

 

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第45話 1985 『空から恐怖の・・・』

第46話 1986 『へ〜ん〜し〜ん〜 モスマン一号』
第47話 1987 『虚飾の帝国』