月夜裏 野々香 小説の部屋

タイムスリップ系架空戦記

『時空巡洋艦 露鳳』

 

 第47話 1987 『虚飾の帝国』

 アメリカ海軍の3520t級原子力潜水艦ノーチラス(1954年就航)に遅れること33年。

 ドイツ海軍の4000t級原子力エンプレ(1957年就航)に遅れること30年。

 ソビエト海軍の5000t級ノヴェンバー型原子力潜水艦(1958年就航)に遅れること29年。

 イギリス海軍の4000t級ドレッドノート原子力潜水艦(1973年就航)に遅れること15年。

 9000t級海龍型原子力潜水艦海龍就役

 日本海軍は初めて加圧水型原子炉の原子力潜水艦建造した。

 関係者たち

 「ようやく、原子力潜水艦か、道のり長かったな」

 「本格的な就航は数か月後だよ」

 「というより、ほかに予算を取られたのが痛い」

 「予算が民間に流れたからな、集票の力だろう」

 「しかし、こいつなら平行次元世界に飛ばしてもいいような気がするね」

 「と、思うだろう」

 「違うの?」

 「実はそうでもないんだな」

 「意味深な言い方だな」

 「実のところ、平行次元世界行きは空間の移動じゃない」

 「時空の周波数を変えて次元を異動するのだから、相似性の強い地面が空間座標を固定しやすい」

 「よくわからん」

 「生態系分岐世界は、ほとんど地形が変わらない」

 「だから、陸地は海や空より時空間座標を固定しやすい」

 「ラジオで音を聞くのが容易になるというべきかな」

 「ふ〜ん」

 「じゃ いま建造してる春日は?」

 「あれは露鳳の素材を3600tも使ってる」

 「正真正銘、本物の時空間異動用の船だよ」

 「そういえば、もう露鳳の素材は尽きてたっけ」

 「残念だけど、もう、後がないな」

 「じゃ あとは現行技術プラスアルファで行くしかないのか」

 「だから原子力潜水艦なんだけどね」

 「大丈夫なんだろうな」

 「そりゃ DPPが些少なりとも使えるなら原子炉の安全性は高い」

 「たぶん、世界で最も完成度の高い原子力潜水艦だろうね」

 「日本初の原子力潜水艦なのに?」

 「露鳳の情報でソビエトの原子力潜水艦の概要は知ってたし」

 「アメリカ原子力潜水艦も見当がついていた」

 「DPP迷彩技術でアメリカの技術も入手できたし」

 「工業力だけならドイツ、アメリカと同水準以上のモノを作れるよ」

 「露鳳の素材はほとんど製造部が持って行ったんだから、そう願うよ」

 「そうじゃなきゃ 米英ソとも輸出規制してたのに戦後から工業立国転身なんて無理だって」

 「貧弱な工作機械しかなかったんだからな」

 「それがここまでこれたのなら良しとするか・・・」

 原子力潜水艦の建造は列強が列強である証の一つでもあった。

 補助電源代わりの自然対流型原子炉でない海龍は、莫大な発電エネルギーを発揮でき、

 機械的にDPPを帯磁させ持続させることができた。

 もっとも乗員全員が展開させるDPPの総量が機械的に発現させるDPP総量より大きかった。

 

 

 

 満州帝国

 満州文化圏は、初期の不協和音を奏でた混乱から脱却し、

 日漢の伝統を融合させつつ欧米露文化を取り入れ、

 和洋中が混然一体に昇華した近代的な世界を形成しつつあった。

 そして、独自のアイデンティティと国風を育み、

 満州発の流行を世界に発信するまでになっていた。

 日系人行政官僚は2代目、3代目が主流となり、

 日系人の生活様式も満州風へと移り変わっていた。

 生活基盤が満州帝国の産業と深くなるにつれ、

 日本から派遣される行政官との衝突も増えていた。

 祖国と利害対立が大きくなると同族嫌悪で絆も薄まり、

 アングロサクソン系国家群と同様の現象も見られた。

 ハルピンは、来年のオリンピックに備えて総仕上げにかかっており

 オリンピックが成功すれば日本の衛星国家からの脱却もありえた。

 銀杏と紅葉の街路樹が区画を囲うように植えられ、

 街の周囲を対戦車塹壕が幾重にも囲い、

 地方で収穫した作物を山のように載せたトラックが入ってくる。

 品質のいい作物は国際競争力が強く、日本だけでなく、

 中華民国、ソビエト、アメリカ、東南アジアへも輸出されていた。

 満州帝国の経済力は、成長著しい中華民国の3倍強といわれ、

 軍事的な側面を除くなら国力は、アメリカ、日本、ドイツに追随し、ソビエトを抜いていた。

 もっともそれがいつまでもつかは、不確定で、

 日本や列強の外資シンジケートが中華民国の手綱を緩められないように、

 日本が満州帝国の手綱を緩められないように、

 満州帝国も中華民国の手綱を緩められないといった現象が作られていた。

 それほど、中華民国経済成長が早まっていた。

 これは、漢民族の学力水準が高まり、

 多くの分野で他国に先んじるポテンシャルを身に着けたからといえる。

 

 ポーランド人留学生ヤン・シェリングに成り済ましたタミアラ人は、今日もクレープを焼いていた。

 日本の特高が時折現れ、クレープを買っていく、

 彼らは自意識過剰なのか、軍関係の情報漏洩を警戒してるようだ。

 安全保障の関心が高いのは悪いことではない、

 しかし、この人類系世界でタミアラ人の脅威となりうる軍事力は存在せず、

 人類系世界がタミアラ人に敵対する動機になりそうなものもない、

 そして、タミアラでは、より本質的な人類分岐系の人生が興味を持たれている。

 なぜ、クレープを焼いてるかというと、

 大多数の人類の人生に興味があるのであって、

 それ以上の価値は、人類生態系に存在しない、

 多くの生態系がそうであるように個体、家族、集団の衝突と確執は起こる。

 個体が強すぎると家族化が困難となり社会の構築が困難になる。

 家族が強すぎると個体が犠牲になり、社会の発展が抑制される。

 集団が強すぎると個体と家族が犠牲になり、最終的には社会が衰弱していく。

 問題は、個体と家族と集団の力関係であり、

 力関係が極端でない限り、善悪といえるようなものではない、

 そして、この生態系分岐世界でバランスが良くても

 ほかの世界でバランスがいいとは限らない、

 それほど生態系の個体差は大きい、

 少なくとも先進国は個体、家族、集団の力関係でバランスがいいようだ。

 白人がクレープを買い、毒付の金を渡す。

 即効性のもので、毒はすぐに死ぬが金を渡す間は持つ代物だ。

 タミアラ人のDPPは、特高のより数段精度が強く、数十倍は、処理速度が速い、

 数分後、DPPは皮膚の表面にカブレをつけた。

 少しかゆそうにして見せ、手を洗うだけでよかった。

 そして、遠くから様子を見ていた白人たちは関心をなくし帰っていく、

 最近は、この手の小賢しい確認が多い、

 まぁ いきなり殺しに来ないだけましだが、

 特高がさり気なく、監視カメラを周辺において、他国の諜報員を牽制している。

 諜報部員は途中、何度も監視カメラに映っている

 捕まれば国際問題になりかねず、荒事は避ける傾向があるようだ。

 しかし、こうも注目されると支障になるし、潮時だろうか、

 ポーランド人留学生である必要はなく、別の擬態は準備できている。

 

 

 満州帝国 延辺朝鮮族自治州

 元から住む延辺朝鮮族と

 インドへの強制移民を逃れた数百万の朝鮮族が融合し、現在の延辺朝鮮に至る。

 この自治州の産業は事大産業といえるもので、

 上位者には、ひたすら媚。下位者は過酷に踏み躙られる。

 有力者が来ると天上人のように扱われるため、

 日本の政官財の有力者も時に足を運び、妓生を侍らせる。

 「先生さま、おめでとうニダ。50000人目のお客様ニダ」

 「ほぉ それはすごい。この前は、40000人目だったと思うが」

 「・・・先生さまは本当に運勢に恵まれてるニダ」

 「きっと日本の総理になられる方ニダ」

 「そうか、そうか、わしもそう思うとる」

 「例のお気に入りの妓生は準備万端ニダ」

 「そうか、そうか、日本人は、すぐに足がついてかなわんからな」

 「初めての妓生もつけたニダ」

 「ふっ いつもすまないな」

 「お任せニダ」

 先生といわれる男は寝室に入っていく、

 「上手くいくといいニダ」

 「彼女には上手く言い含めたニカ?」

 「はい、上手くX艦の情報を聞き出せればいいのですが」

 「何としてもX艦の情報をつかむニダ」

 「それより、来客数を水増ししすぎではないニカ?」

 「数字を信じる日本人が馬鹿ニダ」

 「50000人も来てたら、もう、仕事なんてしてないニダ

 「日本人を騙すのは、全然、心が痛まないニダ。誉れニダ」

 「それに騙すだけならただニダ」

 「騙せたら実入りがいいニダ。特に日本人の騙しはやめられないニダ」

 「「ウェハハハハハ」」

 

 

 

 中華民国

 近代的なビルと工場が建ち並び、漢民族は徐々に豊かになっていった。

 第一次産業、第二次産業とも好調に伸びているものの、

 中華民国経済最大の牽引は、国益になりにくい外資系カジノ産業が中心であり、

 一夜で中規模の国家予算が動くといわれる資本還流が中華民国経済を支えていた。

 さらに黒人、東欧系、インド系、東南アジア系の外資系シンジケートの代理人が急増し、

 中間管理職を占めると、

 民族主義、国粋主義系の人々を中心に不満が強まっていた。

 漢民族資本が強くなり、漢民族の知識階級が増えるにつれ、

 民族的な自信が増すにつれ、差別に鋭敏になり、上海でデモが起きていた。

 “中華民国は、独立国ある”

 “それが外資シンジケートに社会が支配されてる現状はよくないある”

 “外資シンジケートから利権を買戻し、真の独立を勝ち取るある”

 「しかしある」

 「民族資本が買い戻したあと、酷い不正腐敗が起きて、サービスが悪化してるある」

 “そ、そんなことはないある”

 “外資シンジケートがそう仕向けてるある”

 “騙されてはいけないある”

 「外資シンジケート系の学校のほうが学力が上ある」

 “そ、それは、外資シンジケートの望む試験を出してるからある”

 “外資シンジケートは、インチキしてるある”

 「民族資本系は、階層を守るため意図的に教科書を劣化させてるある」

 「私塾に行ける、お金持ちしか、頭が良くならないようにしてるある」

 「お金持ちは、そうやって自分たちの地位と収入を守ろうとしてるある」

 “そ、そんなことないある”

 「嘘ある。民族系の教科書読んでも問題が解けなかったある」

 「外資系の教科書を読んだら問題が解けたある」

 “そ、それは、たまたまそういうテストだったある”

 “外資系の得意な誘導ある”

 「民族資本系のミルクを赤ん坊に飲ませたら死んだある」

 “そ、それは、たまたまある。事故ある。外資系シンジケートの陰謀ある”

 「外資系を追い出したら権力者は、国を守るためとか言って、昔のように人民から搾り取るつもりある」

 「それで私利私欲で蓄財し、文句を言ったら軍隊の銃口を俺たちに向ける気ある」

 “そ、そんなことないある”

 “漢民族の漢民族による漢民族のための政治ある”

 “漢民族が本当の自由を取り戻す時ある”

 「「「「・・・・・・」」」」 疑心暗鬼

 漢民族資本が膨らむにつれ不正腐敗は増え、階級が膠着していく、

 その状況を見るにつけ、

 漢民族は、外資系シンジケート同様、

 民族資本の増大と民族主義国家にも疑惑の目を向け始めていた。

 なにより、カジノ産業は、国益に反映しにくくても生活や雇用で民益になっており、

 資本の非還流からくる不況の解毒剤ともなっていた。

 

 

 

 中華民国雲南省

 アジア最大の白人世界が作られていた。

 中華民国外資シンジケートの総本山であり、

 満州帝国と並び、漢民族の外患拠点というべき総本山だった。

 

 洋風の城郭に白人たちが集まっていた。

 

 「未知の分野で日本国が突出してる兆候がある」

 「調査結果はそうだ」

 「しかし、日本がボーイング747-400の開発で妥協してるのも事実」

 「もし、日本が突出した未知技術を有してるのなら、国産ジェット旅客機を開発するのでは?」

 「むしろ、747-400で妥協したことで、疑惑の追及を逃れようとしてると考えるべきでは?」

 「利権の大きさからないと思うが」

 「いや、航空機部品供給で日本産業も恩恵を受けてる」

 「考えられないことではないだろう」

 「日本のマザーマシンが精度で二桁ほど勝ってる情報の信憑性は?」

 「それは、歩留まり率から算出したもので、マンパワーだけで考えられない数値だ」

 「日本人は、減点制で失敗を恐れる傾向が強く」

 「新規性は低くても、技巧に優れやすい傾向にある。国民性では?」

 「我々の知らないレベルでの裏付けがなければ、日本の歩留まり率の低さは、説明できない」

 「日本社会は、数十の利権構造で有力な代表が政府を作る傾向にある」

 「この構造は、封建時代の将軍体制より流動的ではあるが近似している」

 「主流の利権構造体の産業は、列強の中でも高い水準になると思う」

 「戦後の首相公選で利権構造より、国民の支持基盤があるようだが」

 「有力な利権構造体の支持がなければ議会の反発を受けやすく、権力基盤として安定しない」

 「これは大統領制の弱点ではあるがね」

 「資本と民主のバランスなら大統領制がすぐれてる」

 「日本の場合、調整型が代表になりやすく」

 「アメリカ型大統領制より、利権構造との癒着が強いようだ」

 「アメリカだって軍産複合体との癒着が大きいだろう」

 「あいにく、軍産複合体は統廃合で死に体でね」

 「そろそろ、どこかで紛争してくれないと困ってる」

 「そういえば、中東であの国が動く気配を見せてるが?」

 「好都合だね」

 「問題は配分だよ」

 「配分か、まぁ そのために集まったようなものだからな」

 「「「「・・・・」」」」 にやり

 

 日本の建設業者たちが寒々とした高原地帯に穴を掘り、

 建造物を入れていく、

 日本製の自然対流型小型原子炉は、雲南省のお金持ちに人気があった。

 もっとも、いざという時の籠城のためであり、

 子飼いの家族や私兵を含めた1000軒分ほどの発電量しか出せない、

 よく知らない人間なら原子炉のある区域を攻めていこうなどとは思わないもので、

 一度、設置すれば30年以上発電し続けることができ、長い目で見るなら得な買い物だった。

 そして、雲南省のお金持ちのほとんどがそうであるように、

 水源と電力を抑えていたのだった。

 白人のお金持ちと業者

 「本当にただの箱なんだな」

 「ええ、水の量の割に燃料棒が小さ過ぎて水を沸騰しきれませんから」

 「危険はないのかね」

 業者は、ガイガーカウンターを建物に当てる。

 見ての通り、最小の単位でも針は動きませんよ」

 「この箱が壊れるというようなことは?」

 「そうですねぇ 箱は鉛板を挟んだ強化鉄筋コンクリートですし」

 「耐震で地下ですし、バンカーバスターの直撃でも受けない限り大丈夫ですよ」

 「それに外に漏れても放射性物質自体少ないので、土で埋めるだけで済むはずです」

 「そうか、しかし、工業畑泣かせなシステムだな」

 「ええ、ほとんど土建の力でやれますからね。工業畑の産業はうまみなしですよ」

 「まぁ 金ならあるし、単純な構造で放射能の危険性を下げることができるのなら悪くないさ」

 

 

 

 アフリカ大陸で中華街が広がっていく、

 英語、フランス語と並んで中国語が併記され、

 中国語を話す黄色人種が街を賑わせていた。

 黒人民族独立勢力は、部族単位で固有の歴史文化で太刀打ちできず、

 イギリス文化やフランス文化で対抗するものの、所詮、付け焼刃に過ぎず、

 そもそも身に着けていない、

 中華風の社会構造が作られていくのを見てるよりなかった。

 中華風ホテル

 日本人たち

 「本当に華漢帝国が成立してしまいそうだな」

 「武力侵略でさえ、これほど効率良く、アフリカ大陸を征服できないだろうな」

 「浸透戦術ってやつだろう」

 「武器を持っていたら侵略なんていう思い込みはやめた方がいいな」

 「ことの是非はともかくとして発展してるし、華漢需要で日本経済が助かってる」

 「日本経済は、利潤の小さな個人消費じゃ成り立たないからな」

 「こういう、大型海外需要でもないと・・・」

 繁華街で漢民族と黒人の喧嘩が始まり、

 「おいおい・・・・突然始まるんだな」

 繁華街の一角で始まった喧嘩は、周りを巻き込んで大乱闘になっていく、

 「漢民族は確実に勝てそうになると反撃する」

 「だから、大乱闘になったときは、だいたい、漢民族が勝ってしまうんだよ」

 「そうなの?」

 「見ため漢民族が多いときに始めるんだよ」

 「へぇ〜」

 「こういう、荒事は避けたいよね」

 「日本じゃなかなか見かけないからね」

 「日本の一億総中間層は同好会みたいに和みすぎで、逆に、やばいような気がするがね」

 「公正に競争するより、組織権益を守って守られて、ってやつだから、事勿れになっていくしな」

 「こういうカルチャーショックがないと内輪で籠もってしまう」

 

 

 どこかの家

 「今日は、世界的にも名高い、攻撃ヘリ朱雀、哨戒ヘリ海燕を開発した経緯をインタビューするニダ」

 「朱雀と海燕は1943年に完成し、改良されながら、いまだに使われている世界一優秀なヘリコプターニダ」

 「中将は、世界最強のヘリ開発に関わった方ニダ」

 「もう、元中将ですから・・・」

 「では、元中将閣下、開発の動機と経緯を聞きたいニダ」

 「出版されてる通りで、それ以上のものでは・・・」

 「元中将は、歴史的な開発をしたニダ。もっと、自慢していいニダ」

 「んん・・・まぁ ほとんど忘れてしまったかな」

 「元中将は、大変、謙虚な方ニダ」

 「開発秘話をもっと聞きたいニダ」

 「んん・・・ヘリは、ドイツで開発されていたので日本でも開発したのだったな」

 「反対はなかったニダカ?」

 「反対は、あったかもしれないが、新しいものは得てしてそういうものだから」

 「完成した朱雀。海燕は、ドイツのモノよりはるかに優れていたニダ」

 「んん・・・まぁ そういうこともあるかもしれないな」

 「途上の記録が曖昧ニダ。突然、完成品が出来上がった気がするニダ」

 「んん・・・軍事機密だったからな・・・そういうのは表に出ないものじゃよ」

 「ゼロ戦や隼は、開発途上のものが、たくさんあったニダ」

 「前段階の96式戦闘機からの発展とか。97式戦闘機からの発展とか」

 「その前の機体も全部わかってるニダ」

 「朱雀と海燕はそういうものが少なすぎるニダ」

 「んん・・・筆不精での、そういう記録は、あまりとらなかったの・・・」

 「もう、昔このとニダ。守秘義務の期限も切れてるはずニダ」

 「まぁ 隠しているわけではなくてな。度忘れと記録の紛失が原因かな」

 「最初からなかったのではないニカ?」

 「あははは・・・宙から湧いて出てくるようなことはなかろう」

 「「あはははは・・・・」」

 記者たちが帰っていく、

 中将は、受話器を持つとダイヤルを回す。

 元中将はプッシュホンに抵抗があった。

 「もしもし、いま帰って行ったよ」

 “中将。ばれてないでしょうね”

 「疑いは晴れてないと思うね」

 “国際的に疑われてるのは確かですからね”

 「なぜ、あんな連中がはびこるのかね」

 “昔からですよ。潰しのきくアウトローで汚い仕事を引き受けてきましたからね”

 「最近は正規の仕事にも浸透してるようだが」

 “延辺朝鮮の教育水準も上がっているようですし、時代の流れってやつでしょう”

 「安易にアウトローに頼って勢力を維持しようとするからだ」

 “安上がりなのでどうしても使ってしまうんでしょうね”

 「公正を求める同胞より、忠実な犬畜生を重用するのは、どうかと思うね。足元救われるよ」

 “あははは・・・確かに・・・”

 

 

 ソビエト連邦

 ゴルバチョフにとって、チェルノブイリ発電所事故は改革の追い風だった。

 共産党は自信喪失し、国民は改革を望み、

 ペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)が進められる。

 しかし、共産党支配が緩むと、民族主義の台頭を抑えることができなくなり、

 中華圏で力をつけたロシア系シンジケートの資本侵食も始まる。

 そして、ドイツ人の青年がセスナ機で領空侵犯し、

 赤の広場に着陸しては、ソビエト軍部の威信まで失墜していた。

 外国人用ホテル

 外を見ると薄暗く、雪の降る中、行列ができていた。

 世界4強といわれ、軍事力に傾注しすぎたなれの果てがこれだった。

 もっとも配給制が取り入られているのはウォッカだけで、

 それも酔っ払いが増えて仕事の支障があるからであり、

 そう考えるなら、まだ、社会機能不全に陥ってるわけではなさそうにも思える。

 客は、ソビエト政府筋の需要で、ここにいる。

 客たちが多少、反ソビエト的な工作をしたとしても、

 政府筋の仕事さえ行っているのなら多少の融通が利いた。

 盗聴器がないこと確認すると話が始まる。

 実のところ盗聴器はあったのだが、時間をかけて酸を吹きかけ、

 今では、錆びて使い物にならない。

 「KGBは?」

 「あそこは、買収してるし、何とかなるよ」

 「だといいが」

 「空母バクーの就役は間近だ」

 「今までの調査の結果、特別な素材が使われた形跡はなさそうだ」

 「ツングースで何かを見つけたというのはないのかね」

 「その形跡も含めて、今のところないな」

 「しかし、ソビエトが空母バクーでタイムマシンの実験を行い」

 「結果、空母バクーが過去のX海域に飛ばされた、というのが半々と思う」

 「だがソビエトの科学技術力は、褒められたものじゃない」

 「むしろ、日本やドイツが脅威に思うが」

 「いまはそうだがね」

 「意図的にしろ、事故にしろX艦がバクーなのは間違いないと思うが」

 「若干、設計に違いがあるように思うが」

 「歴史が変わったのだから設計くらい変わるだろう」

 「はたして、変わったといえるのかどうか」

 「現在の世界情勢が予定調和というのかね」

 「それがわかっている者が果たしているのかね」

 「まぁ 仮に歴史が変わっても、航空巡洋艦が使いやすい国は限られているし」

 「地政学的に、あの形に収まってしまうのは、変わらんよ」

 「可能性としては、ソビエトが時間移動に対し、何らかのアクションを見せるかもしれない」

 「バクーがウラジオストックに配備された時が警戒するときだろうな」

 「我々は時空に対してきちんとした法則を知っているわけではない」

 「タイムスリップしたら場所が変わっていることだってあるだろう」

 「まぁ そういう可能性もなくはない」

 「しかし、缶詰が人気とはね」

 「放射能物質が降ってきてるらしいし、外国産が安心できるのだろう」

 「おかげでソビエトに足場を築くことができた」

 「足場を築くことができたのはロシア系外資シンジケートのおかげだろう」

 「ふっ まぁな」

 「しかし、本国に刃向かえるロシア系シンジケートのタフさは、驚嘆ものだね」

 「我々はロシアを愛してるのであって、ソビエト共産党を愛してるわけではない」

 「共産党は、ロシアとロシアの栄光を蝕む内患そのものだよ」

 

 

 

 

 

 

 未来科学研究所 (Future science laboratory : F・S・L)

 次元(Dimension) + 位相(Phase) + 粒子(Particle) 

 露鳳の素材は研究用を除いて、ほぼ消費され、存在しない、

 しかし、春日が完成すれば生態系分岐を起こさずDPPを採取できる見込みがあった。

 研究室

 “人型ロボットの考察”

 “DPPは、放射線を遮蔽しやすいことから、原子炉を小型化でき”

 “さらに電子機器の高性能化により、姿勢制御機能は向上している”

 “有人人型ロボットの開発は可能といえる”

 “より多くのDPPを用いることができるのなら次元モーター装備ロボットも建造できるだろう”

 “その場合、ロボットアニメを現実に見ることになると推測できる”

 “そして、DPPを用いるなら、ほかの専用機械で行った方が作業効率で勝る”

 “どちらにせよ。有人でなければDPPの発生が非効率的になるため”

 “無人ロボットより、有人人型ロボットが先行する公算が高い”

 “もう一つ、ロボットの有用性を考えなければならない”

 “縦型であるため、場所を取らずに済む”

 “不整地での有用性”

 “作業の汎用性”

 “この三つの利点を除くなら、有人人型ロボットは、エネルギー効率が悪く”

 “ほかの専用機械の代用機械にすぎない”

 “強いて有人人型ロボットの最適運用を考えるなら”

 “未知の生態系分岐世界に行く場合が上げられ・・・・”

 「調子はどうだい」

 コーヒーが目の前に出され、研究員は手を止める。 

 「DPPがなくなると急に暇になるな」

 「新しいことができなくなるからね」

 「温故知新でちょうどいいと思うがな」

 「それにDPPに頼り過ぎで既存の技術で後れを取っていた観がある」

 「基幹産業以下は、DPPを知らないからそれほどでもないが」

 「日本企業全体がDPPの恩恵を受けて怠性化してる」

 「その上、F・S・Lも金食い虫と思われて、評判はすこぶる悪いからな」

 「ふっ 国が何かやるたびに利権構造が作られる」

 「そして、既得権益に胡坐をかくやつが出てくる」

 「それが巨大になればなるほど増長して、我田引水を繰り返し、国を傾ける」

 「未来科学研究所はその最たるものだからね」

 「やろう・・・工作機械でコンマ二つ違うのは、俺たちのおかげだろうが」

 「それ、言えないのがつらいねぇ」

 とはいえ、一定の予算を得るため、

 既存の新素材を中心にした研究開発へと移行していく、

 そして、既存技術のほうが公開しやすく、

 庶民に対し、未来科学研究所の株を上げやすく、

 存在価値を安定させやすかった。

 

 

 

 雪と氷の世界、南極大陸

 砕氷艦から物資が降ろされ、昭和基地へと運び込まれていく、

 越冬隊

 「DPPを利かせると本当に寒くないんだな」

 「ほどほどにしないと皮膚が退化するらしいぞ」

 「じゃ 緊急避難以外、使うなってこと?」

 「やたらに使うな、だと」

 「しかし、この服も相当に暖かいが」

 「気密性が高いから体温をほとんど逃がさないそうだ」

 「ふ〜ん 宇宙服みたいだな」

 「有人宇宙ロケットが後回しになって、こっちに回ってきたらしい」

 「なんで?」

 「お金がなかったんじゃないのか」

 「もう、南極でいいよ」

 「だな。うまくいけば天下り先も安泰。老後は左団扇・・・」

 「「・・・・・」」 にまぁ〜〜

 南極大陸は、ほかの生態系分岐世界でも無菌の可能性が高いこと、

 不用意に知的生命体と接触せずに済むこと、

 双方の雑菌が互いの分岐世界に影響を与えにくいこと、

 未熟な技術でもバックフラッシュを避けやすいこと、

 以上の理由で南極大陸が生態系分岐世界の最前線基地となった。

 もちろん、ほかの生態系分岐世界も南極に前線基地を建設している公算が高く、

 外交の窓口になる可能性も高かった。

 昭和基地の地上設備は氷山の一角にすぎず、地下には巨大施設が建設されていた。

 政府関係者たち

 「南極大陸に、こんなものを建設するから金がなくなるんだろうが」

 「建造中の春日だけに頼るわけにもいかないだろう」

 「そして、空間座標を固定するほうがエネルギーが少なくて済む」

 「しかし、温帯湿潤気候の日本で空間座標を固定させると感染爆発。パンデミックが怖い」

 「というわけで、ここ昭和基地に決まったのだよ。ワトソン君」

 「誰がワトソンだ。だれが」

 「水晶島で殉職したくないだろう。被害は日本だけにとどまらない」

 「まぁ そういえなくもないが・・・」

 「というわけで、細菌、ウィルスが不活性化しやすい、南極大陸になった」

 「稼ぐ方は不安で眠れない毎日というのに、あるだけ使いたがる連中は、簡単に言ってくれる」

 「一度、自分で稼いだ金でやってみろと言いたいね」

 「ふっ」

 

 

 

 インドネシア

 350年に及ぶオランダ支配の元凶は、部族社会、多民族、言語の不統一、

 歴史認識の不一致にあった。

 インドネシアが大東亜共栄圏として、オランダ支配から脱した後も元凶は残され、

 独立後も日本の行政・経済支配を受け影響下にあった。

 インドネシア人が部族社会を脱し、国家意識を持つには、歴史的な共有が必要であり、

 国粋教育、民族教育が必要だったものの

 多言語社会と多民族社会と部族社会が障害になり、

 その多くを日本に依存していた。

 学校

 日系人教師たちは、生徒たちの人形劇のワヤン・クリを見ていた。

 打楽器が響き、歌が広がる。

 石油ランプでスクリーンが照らされ、

 影絵が浮き上がる。

 その光景は、抽象的であり、幻想的でもあった。

 「なぜ色のついた人形で影絵をするんだろうね」

 「影絵を見てる観客側が現世で白黒なんだと」

 「スクリーンの向こう側が、あの世は、色がついて見えるそうだ」

 「ふ〜ん 死後の世界を重んじるのは、宗教の基本なんだろな」

 「それはそうと、生徒たちは、ワヤン・クリのバリエーションを増やしてるようだ」

 「日本のアニメに啓発されたかな」

 「まぁ 刺激を与えてるのなら良しとすべきだろう。伝統ばかり固執してたら何も生まれない」

 「しかし、いまひとつ、文系が伸び悩みだな」

 「理数系が伸びてるから、日本語に反発してるんじゃないか」

 「インドネシア人の教師が育つのはこれからだし」

 「俺らが教えやすいのは日本語だからしょうがないけど」

 「儒陀の二の舞は嫌だねぇ」

 「日本語は第一外国語で強制してないし、あそこまで逆恨みはしないだろう」

 「理系は人類共通だけど、文系は民族的なオリジナリティを形成するのに重要な要素なんだけどな」

 「ベースが日本語だから面白くないんだろう」

 「しかし、インドネシア語、ジャワ語、スンダ語が混在して、部族語も使われているし」

 「言語で集中できないと専門分野で成果を上げにくいな」

 「バイリンガルとトライリンガルは、思考で柔軟性があるよ」

 「固有の文化に依存してない方が理系向き」

 「しかし、アイデンティティが少ないのも近代化で障害になりそうだな」

 「文化的なしがらみがないのがインドネシアのアイデンティティなんじゃないか」

 「しかし、歴史が薄いと寂しいぞ」

 「ふっ 自尊心が強いあまり嘘教える国よりいいがね」

 「城や宗教モノを無理やり作らされてないのは、幸運というべきか不幸というべきか・・・」

 「主従関係は当事者にとって不幸でも歴史観の共有で必要だよ」

 「歴史で教えるものが少ないのは悲劇だ」

 「多すぎて泣きたくなる時もある」

 「それだけ歴史が重厚ってことだろう」

 

 

 

 新・儒陀皇帝府

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ! ぱたっ!

 「暑いニダ〜」

 「皇帝。日本に潜入させた諜報員によると、やはり、露鳳の建造は国家的な詐称がなされているニダ」

 「露鳳は未知の世界のモノだったニダ」

 「日本による世界歴史改竄の疑いがあるニダ」

 「や、やっぱりそうニダ」

 「せっかく、日帝右翼を煽って、日本と世界中を戦争させたと思ったのに」

 「日本が戦争で負けないのは、おかしいと思ったニダ」

 「日本は、自国の利益のためタイムマシーンで故意に歴史を改竄してると国際動議にかけるニダ」

 「国際的な日本批判運動を起こして、日本を孤立化させ、日本と世界を戦争させるニダ」

 「そして、露鳳を引き渡させて、改竄した歴史を本当の歴史に戻すニダ」

 「露鳳は解体されてしまってるニダ」

 「日本は証拠隠滅したニダ。許せないニダ」

 「主要各国に日本はタイムマシンという危険な研究をしてると訴えるニダ」

 「日本の右翼に成り済まして日本を四面楚歌にしてやるニダ」

 「日本の左翼に成り済まして日本人をもっと自虐に追い込んで自信を喪失させてやるニダ」

 「在日にもっと日本人に成り済まして暴走と自虐ブームを起こさせるニダ」

 「やりすぎると、日本を暴走させられなくなるニダ」

 「自作自演だから、どっちでもいいニダ」

 「日本の都合のいい右翼思想左翼思想を弾圧して封じ」

 「儒陀の都合のいい右翼左翼思想を日本に広めるニダ」

 「組織的に右翼と左翼を反発させて日本を二者選択で極化させるニダ」

 「日本の言論の主導権を取ればこっちのものニダ」

 「日本人は近視眼のお人よしだから簡単に引っかかるニダ」 

 「絶対に日本を滅ぼすニダ」

 

 

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 月夜裏 野々香です

 露鳳を素材にした希少マテリアルDPPがなくなりました。

 

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第46話 1986 『へ〜ん〜し〜ん〜 モスマン一号』

第47話 1987 『虚飾の帝国』
第48話 1988 『儒陀藩皇国の興亡』