月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

   

第07話 『まだ引き摺ってる』

五日後

 ヨウコや紫織の涙ぐましい裏工作が実り、

 シンペイは、父親の進める合気道行きが決まる。

 しばらくすると、同じ道場に通うことにしたヨウコから

 やる気のなさそうなシンペイがダラダラと基礎訓練をする映像が送られてきた。

 「・・・なんか、覇気ないわね。シンペイちゃん」

 「オタクだもの、陸に上がったカッパね」

 「シンペイ君。しょうがないな・・・」

 ミナとクミコは新作テレビゲーム待ちで暇潰しに店番を手伝う。

 足立クミコは、緑中学に行っていたが付き合いは続いている。

 三人並んでいると客も増えている気がする。

 丁寧に本を拭き、綺麗に書棚に並べるのは、ミナとクミコが、ほとんどやってくれる。

 あの事件以来、同級生や奈河町小出身者。

 淀中の生徒が古本を持ってくれることも多く、売れ筋の古本も増えている。

 「あ〜あ。古賀君が、いないと寂しいね」

 ミナは、誰も座ってない脚立を眺める

 「うん、登下校も走っているみたい」

 「へぇ〜 道場の方針?」

 「だらけている割に真面目にやっているのシンペイちゃんだけかも。けっこう距離もあるし」

 「大神先生のダイエットで体育の授業で一年間も走らされたから。走るのは、もう良いよ」 ミナ

 「公私混同よね。あれって」

 「一石二鳥とも言う」 紫織

 「まあ、それらしい、もっともな理由は、付けられるからね」 ミナ

 「わたしも道場に行こうかな」 クミコ

 「クミコちゃんは、女の友情より男を取るのね」 ミナ

 「マイナスとマイナスは、反発するけどマイナスとプラスは、くっ付くの」

 「きゃー! クミコちゃん、露骨」 ミナ、イヤイヤ。

 「それより、クミコちゃんの中学は、どう?」

 「結構、嫌われている」

 「“俺の教科書に書くなよ” とか “わたしのノートに書かないでね” とか」

 「わたし、そんなことやっていないのに・・・」

 「偏見で見られちゃうし。学校に行きたくないな・・・」

 「他の小学校出だと奈河町小の一組四組と二組三組の差なんて、どうでも良いのよ」 紫織

 「わたしがマスコミを襲撃してやる〜」 クミコ、ゲンコツ。

 「クミコちゃん。がんばって地上の星になって、応援だけはするから手伝わないけど」

 ミナがクミコの手を握る

 「・・・ミナ。あんたね〜・・・ねえ、そっちは、どうなの?」

 「同じかな」

 「でも、元二組三組と元一組四組が対立しているから。他のクラスに比べると物凄く異様なの」

 「担任の先生からも、白い目で見られているし」 泣き

 「紫織は、大丈夫?」

 「親を轢き殺されたことに比べたら、たいしたことないよ」

 「でも、紫織ちゃんは、マシな方だから・・・」

 「ほかのクラスの子も古賀君と、紫織ちゃんだけは、普通に話しかけているし」

 「・・・・・」 紫織

 「クラスに紫織ちゃんがいなかったら、わたしも不登校よ」

 「ねえ、奈河小の父兄会が学校を訴えて、学校がマスコミを訴えるって聞いたけど」 クミコ

 「なんか、生徒が減ってるから小学校も統廃合みたいね」

 「げっ!」

 「奈河小の存続も怪しくなって、学校も、父兄会も、わたしまで参加させようとしているし」

 「断ったの?」 クミコ

 「だって、仕事しないと」

 「でも、裁判で勝ったら、一人当たり、いくらで、もらえるんじゃない」

 「勝ったら、でしょう。なんか、気が向かないな」

 「休みの日以外は、学校が終わってから店を開けるでしょう」

 「そんなのに参加したら生活費が減っちゃうもの」

 「一日でも閉めちゃうと、何日か、客が減るし」

 「近くに大型古本屋チェーン店が出来たら潰れちゃうし」

 「結構、大変なのね。紫織ちゃん」 ミナ

 「そうね・・・看板娘にするには、もう少し魅力が無いと〜」 クミコ

 「悪かったわね。魅力がなくて」

 「まあ、三人で並べば、客も増えるわよ」 クミコ

 「悪いね。ただ働きで手伝わせて」

 「いいよ。こうしてた方が楽しいし。お母さんも、カリカリしているし」 ミナ

 「うちも、わたしが寄せ書き書いたわけじゃないのに」

 「お父さんは、会社で言われて。お母さんは近所から・・・」 クミコ

 「わたしだって、言われたことあるよ」

 「どれが、おまえが書いた文字だって。画像付きでメールが来ることあるもの」

 紫織は、携帯を見せた。

 「ホント。ムカツク〜」 クミコ

 「ヒドイ。誰これ。送り返しちゃおうか」 ミナ

 「無視するのが良いわね。届いていない振り」

 「でも、怖くない? 変質者かも〜」 ミナ

 「えぇ〜 変質者だったらどうしよう」

 「襲われるかも・・・」 クミコ

 「・・・・・・・」 紫織

 「紫織ちゃん・・・・・貞子は、止めてね」 ミナ

 「おい!」

 「自衛が必要よ。戸締りは、ちゃんとしないとね」 クミコ

 「古賀君に添い寝してもらう?」 ミナ

 「ば、ばか。自衛にならないでしょう」

 「いくら、マンガオタクでも、そこまでやったら襲われるわよ」

 「変質者に襲われるより、古賀君の方がマシでしょう」 ミナ

 「あ、あのね〜 変質者じゃなくても、シンペイちゃんに襲われた後に、ヨウコに殺されちゃうよ」

 「あはは」 クミコ

 「はあ・・・・・なんか考えよう」

 身の危険を感じた紫織は、店内を映しているビデオカメラを見る。

 多少、小金が溜まってきたものの、警備会社に依頼する資金は無い。

 両親の保険金は残っていても、使う気になれない。

 お父さんとお母さんとの絆を使うようで気が引ける。

 紫織は、自分を襲ってくるような人間に寛容さも、哀れみも、感じる人間ではなかった。

 そして、古本屋の娘である紫織は、その種の本で軍関係のものを利用する。

  

 中学生活は、襲撃事件で大怪我していた相楽リュウイチ、元四組の大友シゲルが入ると、

 さらに混迷。

 二大派閥は、相変わらず。

 例え、気が合いそうな人間がいても向こう側だと、話さなかった。

 寄せ書きを書かなかった白根ケイと石井ショウヘイ以外は・・・・

  

  

 昼休み

 紫織、ヨウコ、ミナ、白根ケイは、校庭で、ぼんやりと我が身を憂う。

 白根ケイは、まあ、普通で中肉中背。大人しそうな子で、寄せ書きに書かなければ虐められてもおかしくない。

 「ねえ、ケイちゃん。何で、寄せ書きに書かなかったの」 ヨウコ

 「人を悪く書くのって、いやじゃない」 白根ケイ

 「自分が虐められても」 紫織

 「上川って、なんかいやで教科書とかノートに触りたくなかったし」

 「持ってきた、あの女も、いやなやつでさ。嫌いだったんだ」

 「それで書かなかったら、虐められたんだ」 紫織

 「そう。いつの間にか、わたしの教科書やノートにまで書かれているし」

 「友達の字もあったから。人間不信よ」

 「だれ?」 ヨウコ

 「二人とも緑中に行ったから。なんかホッとする」

 「ねえ、ケイちゃんは、襲撃されたとき、どこにいたの?」 ヨウコ

 「わたしは、トイレ」

 「なに騒いでるんだろうと思って外見たら血だらけで倒れている生徒がいて、悲鳴とか聞こえたから」

 「そのまま、隠れたけど。逃げ道がなかったから、怖かった〜」

 「・・でも書かなくて良かったじゃない」

 「書いていたら “わたしの教科書に書かないでね” って言われるし」 ミナ

 「まあね。あの時は、自殺したくなったけど」

 「いまとなってはね・・・」

 「でも書いてなくても “わたしの教科書に書かないでね” って言われるし」

 「仲間見たく見られるし・・・」

 「元一組とは、どう?」

 「まだ絶縁状態。何人か謝ったけど。一度は、仲間外れにされたし」

 「わたしの教科書とノートに落書きしたのは、10人くらいだから全員じゃないけど・・・」

 「いまは、仲良くしたいとは思わないな。風当たり強そうだから」

 「そうだよね。そのほうが良いよ」 ミナ

 「結局さ、寄せ書きに書かなかっただけで、風当たりを気にするんだから、同類だけどね」

 「わたしだって、一組にいたら、どうなってたか、分からないから。運が良かっただけかもね」 紫織

 「やっぱり、長いものに巻かれるよね」 ミナ

 「でも、思ったとおり、中学校も大変ね」 ヨウコ

 「紫織ちゃん。英語は、どう?」 ミナ

 「駄目だ〜 語学の才能が無い〜」

 紫織、へこむ

 「教えて、あげるね」 ミナ

 「うぅ・・・ありがとう。ミナちゃんだけが頼りよ」 紫織

 「だけどね。先生たちもD組は、手抜きしているみたいだし」

 「塾、行ってないと、付いて行けそうにないよ」

 「最初から、そのつもりね・・・・・」 ヨウコ

 「そうなの?」 紫織

 「それ、ありそう。ひいきしているの感じるもん」 白根ケイ

 「テストで学級ごと点数順に並べられるから、D組は、下位独占ね」 ミナ

 「が〜ん」 紫織

 「わたしなんか、塾を減らして古賀君に付き合って道場行っているから厳しいな」 ヨウコ

 「へぇ〜 ヨウコ、彼氏持ちか。それも人気の古賀シンペイ君」 白根ケイ

 ヨウコ赤くなる

 「問題あり、だけどね」

 「シンペイちゃん。合気道は、ちゃんとやっているの?」

 「全然! やる気なし。ダラダラと時間潰しているんだもの、興ざめ」

 「嫌いになった?」

 「そ、そんなこと無いわよ。日曜日は、デートに行くんだから」

 「へえ・・・今度は、進展あるかな〜」 ミナ

 「・・・・・・」 ヨウコ

 「マンガオタクじゃ、ね〜 将来は、マンガ家か、マンガ評論家ね。フッ」

 「幼馴染って、ヒーローでも、マンガオタクでも幼馴染は、変わらないのよね〜」

 「大丈夫! 命がけで助けてくれたの覚えているもん」

 「ヨウコったら。け・な・げ」 ミナ

 「う・る・さ・い。ミナも、彼氏を作れ」

 「いいもん〜 紫織が、いれば」

 ミナ。紫織と腕を組む

 はあ〜 紫織、ため息。

 「不健全なやつ。紫織は、彼氏作らないの?」

 「そうね。気乗りしないな・・・あ、ケイちゃん、彼氏は?」

 「わ、わたし?」 白根ケイ、焦る

 「「「うんうん」」」

 紫織、ヨウコ、ミナがハモる

 「誰? 三森君、それとも進藤君」 ミナ

 「い、いまは・・・そんな気分じゃないから」 白根ケイ

 「やっぱり、将来性からすると奈河町小の出身じゃない方が良いわね」 ミナ

 「もう、ミナちゃん。世知辛くなって」 紫織

 「世知辛くもなるよ。D組は、外からも白い目で見られて、クラス内も、真っ二つだし」

 「最近、また小学校襲撃事件があったし。そのたびに奈河町小が出るから」 ヨウコ

 「クラスも今の状態で馴染んできているし」

 「小山君は、虐められていないから、まだ、大丈夫よ」 紫織

 「あいつ、携帯で、直接、マスコミに送るから」

 「この前も録音した内容をマスコミ流したし」

 「もう、みんな近付かないよ。無視されて、かわいそうだけどね」

 「でも、そういう自衛策を選んだら自業自得よ」 ミナ

 「元四組と小山君の溝は深いよね」

 「お互いに相手が死ねばいいと思っているんだから」

 「小山の親は、もう一人の上川だっけ、親と奈河町小と元四組の保護者も訴えているし」

 「元奈河町小と父兄会は、マスコミを訴えているし」 ヨウコ

 「あ、家の親も虐めに関わってないからって、ほかの五人の親と共同歩調とっている」

 「でも、別になるみたい。わかんないけど・・・」 白根ケイ

 「泥沼ね」 ヨウコ

 「自分がさ。人から死んで欲しいと思われていること自体、ショックよね」

 「それも “おまえ達が死ねば嬉しい” って、ハッキリと言われるなんて」 ミナ

 「自業自得よ。あんなこと教科書やノートに書くんだから」

 「それを言うなら、小山の方が、もっとショックよ」

 「数が違うんだから、少しは元四組のバカども懲りれば良いのよ」 ヨウコ

 「あの後、何人か、謝ったんでしょう」 紫織

 「何人か、謝ったみたいだけどね。でもね、謝って済むような虐めじゃなかったみたいだし」

 「一度、見下していた人間に頭を下げるのは難しいみたいね」

 「小山君も、意地になっているし」 ミナ

 「はあ〜 D組は、絶望的かな・・・・・」 紫織

 「ここは、紫織に一肌脱いでもらって」 ヨウコ

 「え、脱ぐの?」

 紫織、セーラー服を脱ごうとする

 「キャー! 紫織ちゃん、素敵!」

 ミナが脱がそうとする

 「じょ 冗談だから。冗談! も・・・もう止めて・・ただのボケだから・・・」

 「ミナ・・・駄目!・・・きやー! 脱がさないで〜!」

 「・・・平和ね・・・・」 ヨウコ

  

  

 中学校生活も、二ヶ月すれば、どこのクラスでも小集団ごとに仲良くなり、大きくまとまっていく。

 そして、新しい生活が馴染んでくる。

 学校側も先生が交代で見回っているのか、

 虐めらしい虐めは、起きていない。

 しかし、D組だけは違う。

 元二組、三組と元一組、四組のストレスは高まり。

 互いの反感は、さらに酷くなり、一触即発の状態が続く。

 多数対多数だとリスクが大き過ぎて、虐めに発展せず。

 事務的・惰性的に仕事をする学級委員長の古賀シンペイが両派の対立を緩和させていたりする。

 そして、人間関係でバランス感覚がある角浦紫織のお陰。

 元々、マンガオタクの古賀シンペイは、社交性なしの唯我独尊。

 自分に対する社会的評価も気にせず、どちらの派にも属していない。

 なぜ自分が委員長に選ばれたのかも考えていないようだ。

 さらに小学校襲撃事件のヒーローであることを利用する気配すらない。

 そして、角浦紫織。

 あまり積極的でないが、ある程度、人間関係に精通。

 ミナとユウコのサポートでクラス内対立がD組の立場を悪くしていると、良識派の意見を広く、深く、浸透させていく。

 それでも、二組・三組と、一組・四組の険悪な対立は止まらない。

 感情は恐るべし。

 

 

 

 二ヶ月が過ぎた。

 古賀シンペイも事務的ながら学級委員長の顔になっていた。

 そして・・・・・

 「あのね、シンペイ君。凄いの」

 「この前の練習で先輩を “えいっ” て、倒したの・・・才能あるんだ・・・」

 「鎌ヨ・・・それ、朝から五回目。昨日も言ったし」 ミナ

 「意外ね。合気道やっているなんて見えないけど」 白根ケイ

 「紫織ちゃんがね。学級委員やるから鍛えさせようと思って」

 「シンペイ君の親に掛け合ったの、幼馴染だからできたわけ」

 「ふ〜ん」

 「それでね。ちょっと聞いて、そのときね・・・・」

 と、ヨウコは楽しげに話す。

 なんとなく、教室の雰囲気も良くなるかのように見えた。

 「・・・でね。その先輩がシンペイ君は、強いというより動きが予測しに難いっていうんだ」

 「鎌ヨ。喜んでいるけどさ」

 「古賀君。カッコ良くなればなるほどライバルが増えるんだけどな・・・それ、分かってる」 ミナ

 「あ〜ん。分かっているけど。この嬉しさは、何?」

 「この相反する気持ちが快感なの〜」

 「は、はは、ははは」

 「何よ」

 「何でもありません・・・ねえ、紫織ちゃん。やっぱり、D組は、部活から締め出されているのかな」

 「みたいね。わたしは店があるから断ったけど」

 「わたしも誘われたけど気が進まなくて」 白根ケイ

 「いいな、紫織ちゃんとケイちゃん。ああ〜」

 「部活から締め出される中学校生活なんて福神漬けのないカレーよ」

 「入っても虐められるだけよ」

 「特に奈河町小出身の二年と三年は入試で5点引きの扱いを受けるって、噂しているから」 ヨウコ

 「内申書はともかく、あり得ないでしょ」

 「内申書が大きいのよ」

 「でもさ、部活に入れば先輩とか、後輩とか、横だけじゃなくて縦の関係もできて・・・」

 「人間関係の幅も広がって。充実した学園生活で良かったのにな〜」

 「で、ミナちゃんは何がやりたかったの?」 紫織

 「テニス!」

 「カッコ良い」 紫織

 「テニスか〜 良いわね。道場がなければ、わたしもやってみたいな」

 「四組だけで何か、同好会でも作る? 勉強ばかりじゃ辛いし」 紫織

 「なんかな〜」 ミナ

 「何でも同好会は?」

 「何でも同好会〜」 ヨウコ

 「D組全員で作る同好会。全員で他の部活に挑戦していくの」

 「どうせ嫌われているんだもの」

 「えぇ〜 ゲリラ型学園もの? 大丈夫かな。そんなの」 ミナ

 「北島先生に聞いてみるか」

 「学校側も部活から拒絶されているって知っているし。反対できないと思う」

 「部活側が挑戦を受けるかどうかは別だけどね」 紫織

 「なんか、面白そう。D組のなんでも同好会か」

 「学校側に反撃できるのって、嬉しいじゃない」 ヨウコ

   

 騒ぎは唐突に起きた。

 教室内でのケンカ。

 いやイジメ。

 元一組の相楽リュウイチと元四組の大友シゲルが二人掛かりで小山ケンジを殴り始める。

 二つの派の対立が緊張の限界を超えた時、孤立し、仲間のいない小山に怒りが向けられる。

 教室内は、騒然とし、

 さらにキレた元二組の大田シンゴ。元三組の田城タクヤが割り込んだ。

 元二組・三組の大田、田城と元一組・四組大友、相楽の殴り合い。

 さらに元二組三組の男子数人も大友、相楽に殴りかかる。

 そして、小山ケンジが起き上がると大友、相楽に殴りかかる。

 「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」

 と小山ケンジが叫びながら、大友、相楽を殴り、蹴り始める。

 あまりの異様さに田城と大田も退き、

 クラスメートは遠巻きにその様子を見詰めるしかない。

 古賀も黙ってみているだけ。

 そして、元四組の生徒は真っ青になっていく。

 元三組の沢木ケイコ、元二組の中山チアキが止めさせようとするが小山は止まらない。

 「古賀君。止めさせてよ。委員長でしょう」 チアキ

 「小山の気が済むまで、やらせろ」

 シンペイが決然として言う。

 「でも、死んじゃうよ」 ケイコ

 「元四組の生徒は、小山を自殺させようとしたのに誰も止めようとしなかった」

 「どうして、大友と相楽だったら助けるんだ。綺麗ごというなよ」

 「綺麗ごと言うなら、小山が虐められていたときに助ければよかったんだ」

 「中山も、沢木も、小山より、大友と相楽が好きなだけなんだろう」

 「ち、違うわよ。こんなこと、ばれたら、怒られるじゃない」 チアキ

 「そうよ。D組が、悪く言われるんだから」 ケイコ

 「じゃ 小山が小学校を襲撃しても良いのか?」

 「・・・・・」 沈黙

 シンペイが廊下を見ると、他のクラスの生徒が覗いている。

 小山は、疲れたのか、元四組の大友に集中。

 結局、復讐が終わらない限り、小山の気が済まない。

 元四組の生徒が、泣きながら止めるように訴える。

 「小山が泣きながら “止めて” と言っても止めなかったんだろう」

 「何で “止めろ” って言えるんだ。いまさら偽善者ぶるな」

 「自殺させようとしてたんだろう。死ねば良いと思っていたんだろう」

 「立場が入れ替わったら、それかよ。最低だな」 シンペイ

 「・・・・・・・・・・」 元四組

 小山の復讐は、汗だくのヘトヘトになってフラフラと席に戻るまで続いた。

 元四組の生徒は、小山の憎しみの大きさに泣き出す。

 その後、知らせを聞いた北島先生が来るとD組のクラスで臨時のホームルームが行なわれる。

 北島先生の追及は厳しかったものの、

 シンペイは、小山に一部でも復讐させるべきだと主張。

 北島先生は、綺麗ごとで片付けようとして怒るが、

 「小山が大人になって、淀中を襲撃しても良いんですか?」

 シンペイの脅迫じみたセリフで収まる。

 そして、紫織も、シンペイの味方をしたため、

 クラスの意見も、そちらに傾いてしまう。

 沈黙した北島先生は、 「もう虐めは、止めるように」 と言って出て行く。

 他のクラスから人間のクズのように思われていたD組の騒ぎは、面白、おかしく、全校中に知れ渡っていた。

 とはいえ、紫織は、状況を楽観しはじめる。

 小山の仕返しは、少なくとも一部が終わったのだから・・・

  

  

 下校

 シンペイとユウコが合気道の道場に行くために分かれ、

 紫織は、しばらくするとミナとも分かれて、一人で帰ることになる。

 近道で公園を抜けようとしたとき・・・・・・・・・

 「あ・・・大神先生!」

 「紫織ちゃん。セーラー服。かわいい」

 「へへぇ 似合う」

 紫織は、クルリとターン。

 「うん。かわいい」

 「先生。どうしたの? 公園で一人なんて・・・フラレた?」

 「あ、あのね・・・紫織ちゃん。憎たらしいこというわね」

 「まさか、振られる相手もいないんじゃ・・・・・」

 「こらっ! 大人をからかわないの」

 「えへへ」

 「みんな、元気にしている?」

 「それが・・・・・・・・」

 大神先生は、話しを聞きながら公園で売っているハンバーガーとコーラーを奢ってくれた。

 「そう・・・そっちも、大変なんだ」

 「奈河町小も大変?」

 「・・・・・・・」 大神、頷く

 「それで黄昏ていたの」

 「一年から六年まで父兄が、ちょっとしたことでも大騒ぎするから・・・」

 「最近の日本人って、ちょっとしたことでも神経質になって攻撃的だもの」

 「生徒も他の小学校に編入していくし」

 「先生が3人も辞めたのに、代わりもなかなか来なくて」

 「教員資格を持って、何百人も順番待ちしているはずなのに、みんな断っちゃうし」

 「ケガレを嫌うなら保身ね。沈みそうな船には乗らない。か」

 「なんか、紫織ちゃんの若さが羨ましい」

 「大神先生」

 紫織が大神の手を握る

 「な、なに」

 「こうなったら、恋人を見つけてバラ色の人生を掴むしかない」

 紫織が夕陽を指差す

 「わ、わかっているわよ。そんなこと」

 「ったく。そんな簡単に恋人が見つかるなら、こんなに苦労はしないわよ」

 「んん・・・やっぱり出会いよね」

 「古本屋に来る客で、先生に会いそうな人は・・・2人・・・3人・・・」

 「えっ! いるの?」 大神、喜!

 「店内をビデオで取っているから、映っているかもしれない」

 「ホ、ホント!」

 「今度の休みに見に来る?」

 「3人とも本を探しているから、住所と名前も、控えているけど」

 「い、行く。行く」

 「結婚しているかどうかは、わからないけど。20代後半から30代前半の、なかなか良い感じ」

 「きゃー! し、紫織ちゃん。あなただけよ。わたしに優しくしてくれるの」 大神、泣き

 紫織、大神の背中を撫でる。

 「よしよし」

 「必ず行くから」

  

  

 一年D組

 小山と大友、相楽の三人は、不思議と接近している。

 三人とも気負いが無くなったのか、憑き物が落ちたように和らいでいる。

 逆に真っ青になっていたのは、他の元四組の生徒達。

 「あんなのやり過ぎだよ、信じられない」

 「小山のやつ。あんなに殴ったり蹴ったりしないと気が済まないなんて。何様のつもりだ」

 「何でわたしたちが、あんな小山カスに殺されるほど憎まれるの。ムカツク」

 「そうよ。小山カスなんてチビで、ばかで短足で陰気なやつじゃない。ふざけるな」

 「本に “死ね” って書いただけで、なんで、こんな目に遭わないといけないの」

 「古賀が小山の味方するなんて、幻滅。馬鹿じゃないの」

 「うんうん、頭、悪そう」

 「小山が小学校を襲撃したいなら、させれば良いのよ」

 「もう、この学校、辞めたい。小山のせいで人生台無しよ」

 人は、自分が人から憎悪されているとき、逆にその相手に対し攻撃的になる。

 元四組が大人しかったのは、小山を攻撃すると、

 元四組の方がクラスから爪弾きにされる事が決定的になったからだ。

 そして、元四組が小山を見ているような目で、元二組三組は、元一組四組を見ていた。

  

  

  

 学校生活は人気があって友達を作って、

 ある程度の学力があれば、楽しく過ごせるはずだった。

 しかし、元奈河町小卒業生は、その前提に偏見という差別が付け加えられる。

 それだけではない。

 元一組、四組の名簿は顔写真付で、奈河町小出身の二年、三年の先輩に配布されるほど憎まれる。

 先生の見回りがなければ、リンチも起こりえる。

 そして、ホームルームで副委員長、角浦紫織がD組で “何でも同好会を作ろう” という提案が出される。

 北島先生は、むくれていたが反対しなかった。

 そして、現状を打開したいと思う、一年D組の大多数が賛成。

 男子で三森ハルキ、進藤ジュン。

 女子で中山チアキ、沢木ケイコを核に “なんでも同好会” が創立する。

 全員が重複してもやりたい運動や文化活動を投書させて、一覧表を作る。

 D組が閉塞された内憂外患という状況から初めて外部に対してアプローチをした瞬間といえる。

 そして、早朝一時間、昼30分、放課後1時間の活動が決まる。

 D組も、ようやく希望らしきものが芽生えようとしていた。

 一年D組に “なんでも同好会” が作られた話題は、あっという間に学校全体に広がる。

 「やっぱり、三森君のほうが、リーダーの風格があるね」

 ミナがコソコソと紫織に呟く。

 紫織も思わず頷いて微笑む。

 「聞こえているんだけど、ミナちゃん」

 「や、やだあ〜 鎌ヨ。聞いてた〜」

 「あのね。古賀君が委員長なのは、北島先生が決めたの」

 「シンペイ君が決めたんじゃないんだからね」

 「はいはい。愛は、盲目ね」

 「別にシンペイ君が委員長じゃなくても、いいもん。わたし変わらないもん」

 「元一組の高見コウスケも、佐藤エミも、見る陰も無しか」 白根ケイ

 「あのカッコ良い二人?」 紫織

 自分の机に一人座って、ぼんやりしている。二人の生徒がいた。

 「うん・・・大人しくなっちゃって。寄せ書きに書いたばかりに・・・」 白根ケイ

 「ふ〜ん」 ヨウコ

 「でも、カッコ良い人間って、陰があってもカッコ良いんだ」 ミナ

 「そうそう。世の中不公平よね」

 「わたしが、あんな風にしていたら、絶対に虐められるよ」 白根ケイ

 「ちょっとした出来心が人生を狂わせたのね」

 「あれなら、古賀君がまし」 ミナ

 「シンペイちゃんは、そんなに悪くないよ」

 「三森君と比べると。ちょっと、人並みで暗くて、無関心でマンガオタクで、勇敢なだけだから」

 「それ、フォローになってないって、紫織ちゃん」

 「・・・・・・・」 ムスッとする

 「大丈夫! もっとカッコ良くなる・・・そのうち」

 「シンペイ君。小山君の時だって、自分の意見をキチンと言ってたし、しっかり、してるもん」

 「そうね。あれは意外だったわね」 ミナ

 「丸く収めるのなら復讐はいけないとか言って」

 「小山一人を悪者にして多数派の味方をするのが楽で良いけどね・・・」 紫織

 「元一組と、二組を敵に回しちゃったかな」 ヨウコ

 「たぶんね」 紫織

 「げっ! やばくない」

 「んん・・・あのマンガオタク。正義感だけで正論言って。私まで小山の味方をする羽目になっちゃったし・・・」

 「えらい! 幼馴染の肩を持ったんだ」

 「でも、あれは、あれで良かった、かも」

 「わたしも轢き逃げ犯人を見つけたら思いっきり、やってみたいものね・・・」 軽い殺意

 「・・・それって、ちょっと怖いかも」 ミナ 寒気

 「まぁ そうだけど・・・」 ヨウコ 寒気

 「シンペイちゃんも空気読めないんだから」

 「頭の中が漫画なのよね。マンガの世界だと弱い者の味方やっているけどね」

 「一般常識は多数派の味方よ」

 「「うぅ・・・」」

 「でも、わたしは、そういうの好きかも」 白根ケイ

 「古賀君の考えって。マンガオタク思考か。胸は、スカッとするね」

 「いいもん、わたし、シンペイ君の味方だもん」

 「ふ〜ん。マンガオタクの古賀君とドラマオタクの鎌ヨじゃ 合わないね」 ミナ

 「そ、そんなことないもん。合わせるもん」

 「どうかな〜 ドラマオタクって、ドラマの影響に感化されて、言動がコロコロ変わって、バカやるし」

 「マンガオタクの方は妄想で一貫しているけど」

 「一般常識から一線引いているでしょう。合うのかな〜」 ミナ

 「合うよ」

 「一学期はシンペイちゃんに任せましょう。マンガチックな一学期になるけど」

 「わたしも一学期までね。委員なんて、やってられないし」

  

  

 紫織は、学級運営のことで三森ハルキ、進藤ジュン。

 中山チアキ、沢木ケイコと話し合うことが増えた。

 ハルキも、ジュンも格好が良く性格もよしで紫織は、ムフフフ。

 チアキとケイコも仕切り屋で、どちらかというと四人が長の風格があった。

 それでも、四人とも委員長のシンペイ、副委員長の紫織を立てる程度の良識があるらしい。

 運営のほとんどは、なんでも同好会の場所取りで他の部活と衝突しないようにすることだった。

 走る、体操するなど基礎練習だけなら、場所を取らず、ぶつからずに済む。

 学校中で話題になったのか、

 他のクラスが何でも同好会について、D組の生徒に質問してくる。

 紫織の計画は、なんでも同好会がいくつかの部活と練習試合。

 もし出来なければ他校と練習試合をする。

 もし成績が良ければ、D組が見直されて状況が良くなる。

 状況が良くなれば、なんでも同好会を続けるか。

 解体して、D組の生徒も部活に入れてもらうようにするかの選択に分かれる。

 というもので、4人とも賛成する。

  

  

 同好会の時間調整で、

 紫織は、一番人気の三森ハルキと一緒に行動して、ムフフフだった。

 「・・・角浦って、一人で、働きながら生活しているんだろう。凄いよ」

 「生活がにじみ出ちゃって、カッコ悪いけどね」

 「そ、そんなこと無いよ」

 「角浦って、がんばっていると思うよ」

 「それに奈河町小が襲撃されたときだって沢渡を引っ張って逃げて助けようとしたし。立派だよ」

 「僕なんか、三階の図書室から下を見ていただけだったから・・・」

 「・・・そ、そうかな」 紫織、赤

 「見てたんだ。角浦が沢渡を引っ張って逃げるところ」

 「副委員長だって、ちゃんとやっているし。カッコ良いよ」

 「そ、そう。自信もてそう」 えへへ状態

 「もっと自信持って良いと思うよ。全面的に協力するから」

 「じゃ もっと、がんばろうかな」 舞い上がる

 「そうだ、古本が、あるから今度、持っていくよ」

 「本当! 嬉しい・・・・」

 「休みとか、ないんだよね」

 「うん。働かないと、いけないから」

 「・・じゃ デートとか出来ないのか〜」

 「デ、デートだったら、い、一日くらい都合つけるかな」 期待、期待

 「角浦って、古賀が好きなんじゃないの?」

 「えっ! 違う、違う」

 「シンペイちゃんは、ただの幼馴染」

 「それにシンペイちゃんは、鎌ヨと仲良くなっているし」

 「そうなんだ。でも古賀が古本屋に入り浸っているって聞いたけど」

 「あいつ、マンガオタクで別世界の住人だし・・・・だから。それだけ」

 「そういう、雰囲気は、あるね。ていうか、角浦が全国放送で、そう言ったし」

 「あ、見てた?」

 「うん・・・夕食とか古賀の家で食べているんだろう」

 「うん・・・なんか、惰性でそうなっちゃって」

 「わたしも一品作っていくんだ。お陰で食費もかなり助かっているから」

 「そう」

 「ほら、商店街とか、近所の人もね、わたしを利用してね。いろんなもの買い叩くの」

 「オール電化にするときなんか、凄かったの」

 「自分のこと言われているのに、かわいそうになって貰い泣きしちゃった」

 「近くにいたお客さんが “一緒に買うからもっと安くしてくれ” とか言い出すし」

 「近所でそれだけ結束しているって凄くない?」

 「だって大きな買物だったら何人かで集まって、わたしをダシにして買えば半値以下だもの」

 「ほとんど脅迫って感じ。結構、恥ずかしいけどね」

 「た、大変なんだね」

 「・・・・・あ、やっぱり、生活がにじみ出ちゃうか。中学生らしくないよね」

 「そ、そんなこと無いよ。たくましいって思うし」

 「・・・友達と話していても、感覚が違っているのが分かるの」

 「みんなが興味を持って真剣になっていることより」

 「古本屋が上手く行くことや生活費のことばかり考えているし」

 「でも、何でも同好会は、角浦が発案したんだろう」

 「ミナが、テニスの部活がしたいって言ってたから代案を出しただけ」

 「わたしは、どうでも良いの、どうせ、部活なんか出来ないから」

 「そうなんだ」

 「失望した?」

 「そんなことないよ。委員長って、そういう仕事だから」

 「どうせ、委員なんて、一学期だけで精一杯だし」

 「一学期だけは、出来ることだけはするけど。それだけ」

 「角浦は、偉いと思うよ。僕が知っている中学生の中では一番、一生懸命だよ・・・」

 「そうだ。今度、プールバーにいかない?」

 「プールバー?」

 「ビリヤード。けっこう、好きなんだ。駄目? 忙しい?」

 「そ、そんなことない。一日くらいなら、都合つけられるから」 ドキドキ、ドキドキ

 「いつが良い? 角浦の都合の良い日に合わせるよ」

 「じゃ 来週の日曜日」

 「じゃ 朝迎えに行くよ」

 「うん。楽しみにしてる」 感動〜!

  

  

 こもれび商店街の改装工事は、ほぼ完了。

 桜並木、花壇、石畳が、雰囲気の良い風景を作り、

 桜が散っても客足は減っていない。

 ドラマで使われて、カップルが歩きやすくなり。北奉銀行に支援された有名店も進出。

 そして、生活空間まで侵入していた段ボールの山も、北奉銀行が持つ空テナントに置かせてもらう。

 最低限の生活空間を確保し、北奉銀行とのツテでリフォーム計画も進めていく。

  

 この頃、奈河町小襲撃事件の影響を受けたのか、

 虐められていた者が反撃するといった事件が相次いでいた。

 小学校が一件、中学校が二件。元社員による会社襲撃。

 そして、ダンプカーごとヤクザの組長宅に突入するといった事件が起こっていた。

 転業など、潰しの利かないヤクザ家業は、さらに肩身が狭くなっていく。

  

 

 

 

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第06話 『こもれび商店街と中学入学』

第07話 『まだ引き摺ってる』

第08話 『初デート。むふっ』

登場人物