第08話 『初デート。むふっ♪』
そして、土曜日。
朝から紫織は、店を開ける。
日曜日の臨時休業の紙が張っている。
そこに大神が、お土産のケンタッキーフライドチキンを持ってやって来る。
紫織は、頭出ししていたテープで島村タクヤ、日下ヨシオ、五味ケイスケを見せる。
「・・・どう? 先生」
「いい・・・3人とも、いい感じ、この人が島村タクヤ君か・・・」
「人当たりが柔らかくて良いな」
「先生、お目が高い!」
紫織、手もみ ・・・・・ポン引き?
「そう そう思う?」
「ここで見たのは内緒ね。守秘義務があるから」
「わ、わかっているって、ムフゥ♪」
「問題は、どうやって出会うかね。自然さとウィットに満ちた演出は・・・・・・」
「うん、うん・・・・何、何」 大神。期待
「先生。この本持ってる?」
紫織。控えの紙切れを見せる。
「いわさきちひろの画集・・・・」 大神。落胆
「え〜と。これかな、この絵」
紫織は、絵本を見せる。
「趣味良いわね・・・画家志望?」
「さあ、ただ、この人の絵が好きなだけかもコレクションかな」
「この画集があれば、自然な形で・・・」
「んんん」
「あとね、島村さんと五味さんは夕方に来る事が多くて」
「日下さんは土曜日の昼に来る事が多いわね」
「なるほど・・・・・」
大神は、携帯に必要事項を入力する
「他の二人は、日下ヨシオさんが山の写真集、五味ケイスケさんが文庫本ね」
「三人とも趣味は悪く無いでしょう」
「んんん・・・探している本をわたしが持っている場合。確かに出会いは、自然ね・・・・」
「ねえ、もし、本が見つかったら、わたしに先に教えて、お願い!」 大神、拝む
「そうね・・・大神先生のために一肌脱ぐか」
「でも、この、いわさきちひろの画集、プレミア付いているから、店の買値でこれくらい・・・・」
紫織が紙に値段を書く
「げっ・・・」
「・・・もするから、売値になったら・・・定価の二倍以上で・・」
紫織がさらに値段を書き込む
「げっ・・・・・」
「この三冊の本、私が先に探せば良いのね」
「やっぱり、恋に生きる女性は、輝きが違う」
「ホント! 輝いてる?」
「うん!」
「紫織ちゃん。ありがとう・・・持つべきは教え子よ」 大神。紫織を抱きしめる。
「がんばってね。先生」
紫織は、フライドチキンを頬張る。
「うん・・・紫織ちゃん。生活は大丈夫?」
「何とかやっていけそう。これ以上、不幸にならないと思えば気持ちも楽だし」
「そう・・・でも苦しいことや嫌なことがあったら先生に相談してね」
「うん」
そうしていると、ミナとクミコがやってくる。
「あれぇ〜 大神先生」
「久しぶり、沢渡さん、足立さん、元気にしてた」
「どうして? 先生。懐かしい」 クミコ
「紫織ちゃんの陣中見舞い?」 ミナ
「まあ、そんなところかな」
「陣中見舞いにしては、このケンタッキーフライドチキン。量が多いわね」 クミコ
「なんか “越後屋、そちも悪よの〜” 的な悪巧みを感じるけど」 ミナ
「あはは、まさか。あはは、まさか」
「みんなも食べなよ」
「やった〜」 ミナ
「わ〜い」 クミコ、万歳
その後、小学校の話と中学の話題になり。
紫織は、客が来たので途中で古本屋家業に戻る。
客は、開店時間が短い割に密度が多く、ソコソコ利益がある。
両親の保険金に手をつける必要も無い状況で、
奈河小学校襲撃事件は、紫織にとってマイナスよりプラス。
隣の床屋も同じで増えていた客足は、以前の倍のまま安定している。
「紫織ちゃん」 ミナが並んで座る
「明日の臨時休業は、何かな〜」
「えっ! ちょっと。ね。用事が出来ちゃって、ごめんね」 紫織
「怪しい〜」 ミナ
「そ、そんなこと無いわよ」
「ふ〜ん・・・・・デートだな」
「な、何、言ってんのよ、ミナちゃん。そんなんじゃないから」
「・・・・相手は、誰?」
「だ、だから、そんなんじゃないって!」
「本当のこと言わないと、明日、朝から来て張り込んじゃうぞ」
「・・・三森君にプールバーに誘われただけだから」 紫織、ぼそぼそ
「ええぇ〜 三森君と〜!」
「しぃー! しぃー! 大声出さないでよ」
背後に気配を二つ感じる
「なに? なに? 紫織ちゃん。デートの話し」 大神
「紫織ちゃん。あの三森君とデートするの?」
「クラスで一番、カッコ良い男じゃない」 クミコ
「・・・・・」 紫織、赤
「へえ〜 紫織ちゃんも春が来たんだ」 大神
「ビリヤードだって・・・でも、それだけじゃ終わらないよね〜」 ミナ
「でも、紫織ちゃん、三森君のこと好きだったの?」 大神
「去年のバレンタインチョコは、三人で三森君だったよね」 ミナ
「いや、好きって言うか、カッコ良いな〜 って思っていただけだけどね」
「ねえ、紫織ちゃん。三森君にキス迫られたらどうする」 ミナ
「ええぇ〜!」 紫織、赤
「それくらい考えとか無いとズルズルと、だらしなく奪われちゃうわよ」 ミナ
「だ、だって、まだ、中学生だし。そんな・・・・」
「結婚詐欺に引っ掛かるタイプね」 クミコ
「そうそう、相手が、かっこよくて、ちょっと好かれているかなって、思わせて」
「逃げられそうになると、ああぁ〜 もったいな〜い、で、お金も、体も使われちゃうタイプね」
「げっ」
「紫織って、ああいうカッコ良い男に誘われることなんて、今後、無いだろうから」 ミナ
「・・あ、あのね〜 三森君は、そんなに悪い人じゃないよ」
「どうかな〜〜」 クミコ
「先生。ミナとクミコが虐める〜」
「心配しているのよ」
「紫織ちゃんは幸せよ。三森君がどういう子か、付き合ってみないと分からないし」
「用心しなさいって言われているんだから」
「明日は、がんばってね」
「身持ちが堅いという理由で振る男は、やめた方が良いのよ」
「それに身持ちが堅い女は、信用されるし、好かれるの」
「先生は・・・三森君を真面目な生徒だと思ったけどな」
「よーし。明日は、がんばるぞ」
「付いて行ってあげようか」 ミナ
「来るな!」
「服貸してあげようか」 クミコ
「か、貸して! クミコちゃん」
「明日、何時に持って来たら良い」
「六時」
「はやっ!」
「ごめん〜 クミコちゃん。恩に着るから」 紫織。拝む
「三着くらい見繕って持ってきてあげるね」
「紫織ちゃんの生まれて初めてのデートだし」 クミコ
「むふっ♪」
「最初で最後のデートかも」 ミナ
「おい!」
「にやけちゃって」 ミナ
「ヨウコに続いて、紫織も、彼氏持ちか。次は誰かな〜」 クミコ
「そ、そんなんじゃないから」
「わたし、そんなにデートできないし。たぶん、これっきり」
「紫織ちゃん。大人になれば働きながらでも、時間を見つけて、デートするの」
「他の中学生と時間帯が合わなくて、感覚的も開きがあるけど自信を持って良いのよ」
「紫織ちゃんは、紫織ちゃんの魅力があるんだから」
「きっと紫織ちゃんに惹かれる人が出てくるから。諦めちゃ駄目よ」
「無理よ。土日は、稼ぎ時だし」
「平日も学校が終わったら、店を開けるし、自分の時間なんて」
「でもね。こうやって、友達が集まってくるじゃない」
「それは、紫織ちゃんに魅力があるからよ」
「紫織ちゃんの魅力に惹かれる男の子なら紫織ちゃんに合わせてくれるようになる。きっとね」
「だから自信を持って」
「いやなやつなら、少しくらいカッコ良くても、振って大丈夫。すぐに良い男が来るから」
「・・・・主旨は、分かるけど三森君が駄目、駄目みたいに聞こえるじゃない」
「カッコ良いだけは、失望させてくれるから。挫折に弱いし、タフさに欠けるし」 ミナ
「でも、紫織ちゃん。挫折に強いし、タフだからちょうど良いかも」
「チンチクリンには、チンチクリンの強さがあるわ」 クミコ
「あ、あのね。チンチクリンまで言う?」
「紫織ちゃんの良さは別のところにあるから。大丈夫」 ミナ
「そう」
「大神先生も焦って結婚詐欺に引っ掛からないでね」 クミコ
「「・・・・・」」 頷く、紫織、ミナ
「あ、あんたたち・・・・」 大神
日曜日
朝早くクミコが服を持ってくる。
紫織は、勝負服に感動。
クミコとあれこれ、検討しながら服を決めていく。
美形は、なに着ても美形で似合うが並の人間は、服装で大きく変わる。
紫織は、服装で美人にもブスにも化ける、役柄の広いタイプだった。
クミコによってリメイク改造された紫織は、思わず鏡に向かって・・・・
「鏡よ、鏡よ、鏡さん・・・」 と呟く
「300番目」
とクミコが答える。
そして、カッコ良い三森ハルキが文庫本30冊を持ってくる。
「す・・・角浦・・・こ、これ・・・・」
ハルキが紫織の変わりように動揺しながら本を渡す。
「す、すぐ計算するから」
「あっ! 良いよ。家で余っている本だから、もう読まないし」 ハルキ、ドキドキ
「ほ、ほんとう! 助かる。ありがとう」
「・・・・角浦。なんか、いつもと違う」 ハルキ、驚き
「そう」
「・・・・うん、見違えた」
「・・・・・・」 紫織、ぽっ!
「じゃ 行こうか」
「うん」
ハルキと紫織のデートは、プールバーでビリヤードから始まる。
ハルキは、慣れているのか、紫織を手取り足取り教える。
紫織、真っ赤。
紫織にとって、ナインボールは初めてで、楽しいものだった。
午後は、イタリアン・スパゲッティを食べた後、
映画館で、映画を見た後、スケート。
紫織にとってハルキと手を繋いでスケートを滑るのは夢のような話しだ。
「・・・三森君。今日は、楽しかった。夢見たい」
「ぼ、ぼくも・・・・こういうの久しぶりかな」
「へえ、誰との間で久しぶりなのかな〜」
「お姉ちゃん」
「・・・お姉ちゃんとデート?」
「デ、デートなんて思ってないよ。ただ仲が良かっただけ」
「ビリヤードもお姉ちゃんに教えてもらったんだ」
「でもお姉ちゃんは、あいつと仲良くなって・・・・・それだけ」 ハルキ、寂。
『・・・シ・・・・シスコン』 紫織、少し退く
「そ、そう・・・三森君って物凄く、もてるから、彼女かと思ってた」
「うん、バレンタインチョコは、クラスで一番多かった」 しれぇ〜
「そ、そうでしょうね・・・・わたしも、あげたから」
「あ、ありがとう・・でも特定の彼女は、いないよ」
「お姉ちゃんといることの方が多かったから」
『シスコン・・・シスコンよ〜』 錯乱
「そうなんだ。わたし、兄弟とかいないから、そういうの分からなくて」
「でも、角浦に付き合ってもらって、なんか、良かったよ。楽しくて」
「わたしも。でも、わたし、時間取れないから、こういうの、とうぶんないな」
「じゃ 時々 遊びに行って良いかな、仕事も手伝うよ」
「えぇ〜 でもなんか、悪いよ。三森君に手伝わせるなんて」
「でも、邪魔したくないし、角浦が、一生懸命に生きているのって、見てみたいんだ」
「一人で生きるのって、どういう事かなって」
「いいよ。で、でも。あのう、ミナちゃんとか、クミコちゃんとかも良く来るんだけど」
「へぇ〜 楽しそうだな」
「ただの溜まり場。手伝ってもらったりもするけど」
「そう・・・・じゃ 行く前には電話するよ」
「うん」
紫織はハルキに家まで送ってもらう途中でシンペイと出会う。
「・・・???・・・」 シンペイ
「やあ、古賀」
「し、紫織ちゃん?・・・・うそ・・・」 シンペイ、驚
「・・・な、なによ・・・」
「化けた?」
頷く、ハルキ
「し、失礼ね。シンペイちゃん」 紫織、ゲンコツ
「詐欺」
「あ、あんたね」
「デートしてたんだ」
「良いでしょう」
「紫織ちゃんにとってはね」
「んん・・憎たらしいことを〜」
「あ、料理は上手だ」
「へえ〜 角浦。料理。得意なんだ」
「ポイント高い?」 得意
「古賀は、角浦の手料理を食べているんだ。羨ましいな」
「あ、今度、作ってあげる。来週の日曜日のお昼は、どう?」
「やった!」 シンペイ
「おまえには、言ってない!」
「ありがとう。必ず行くよ」
「うん。待ってる」
「じゃ 僕は、もう、行くよ」
「うん・・・じゃ」 ハルキは、去っていく。
「ふ〜ん」 シンペイ
「なに?」
「いやいや」
「はっきり言いなさいよ。言いたいことがあるなら」
「おめでとう。楽しかった?」
「かなり楽しかったかな」
「そう・・・・じゃ」 シンペイも去っていく
「・・・シンペイちゃん」
「・・・・・・・・」 シンペイが振り返る
「三森君の前で “料理が上手い” って言ってくれて、ありがとう」
シンペイが紫織のかわいさにドキリとする
「・・別に・・」 シンペイ
紫織は、夕食でシラスの玉子焼きを持っていく。
紫織の料理は、安上がりながら美味しく。
一家の主婦であるカオリは、手抜きが出来ない。
紫織が一品持って行くことで古賀家庭の食事は著しく向上した。
「紫織ちゃん。今日は、すごく綺麗」
「おぉぉおお!! たいしたものだ」
主人のトオルが感動する
「・・・・・・・」 シンペイ
ターンしてみせる紫織にカオリとトオルが拍手
「シンペイ。おまえ、若い娘が一生懸命に着飾っているのに」
「“かわいい” くらい言わんか。失礼な男だな」
「・・・かわいい」 シンペイ、棒読み
「・・・ありがとう」 むっ!
「もう、パッとしないわね」
「パーは嫌いだ」
「はあ〜 ごめんなさい。紫織ちゃん。気が利かなくて」
「大丈夫です。わかって、ましたから」 紫織、ゲンコツ
シンペイは相変わらずだった。
ほとんど喋らず。食事が終わると部屋に戻っていく。
ヨウコに聞くと。シンペイが自分から積極に話すことは、ほとんど無いそうだ。
トオルとカオリの方が紫織に息子のことを聞いてくる。
そして、紫織も学校生活のことで根掘り、葉掘り、聞かれる。
しかし、店があるから長くいられるわけでもない。
「紫織ちゃん。学校生活。肩身が狭いでしょう」
「うちの子、良いことも、悪いことも、言わないから・・・・」
「良いことは後回しに出来るが、悪いことはすぐに対処しないと大変なことになる」 トオル、腕組
「なんでも同好会で、元二組三組と元一組四組の対立も少し緩和すると思う」
「ある程度、力が付けば学校の部活に挑戦してみる」
「相手にされなかったら他の中学校と練習試合」
「たぶん、部活側も面子があるから挑戦を受けると思うし」
「もし、勝てば、D組の意識も変わっていくし、D組対する偏見も変わっていくと思う」
「んん・・・期待できそうだ」
「そうね。自分達の力で道を切り開いていこうとしているんだもの、わたし達と違って希望的ね」
「父兄同士で争っているのが、いやになるほどだ」
「ケンカしているんですか?」
「紫織ちゃんは、未成年だけど自立しているから話すわね・・・」
「父兄会の中でも一組、四組の父兄と、それ以外の奈河町小の父兄が争っているの」
「その上に上川君と小山君のご両親が学校を訴えている」
「それと殺された三木君と青島君のご両親も違う方向に行っているの」
「あとね。東口商店街側の父兄会と。こもれび商店街側の父兄会も連絡が上手く行かないでしょう」
「それと寄せ書きに書かなかった子供達の親もいるから・・・バラバラ」
「家も、忘れているだろう」
「・・・何度か、集会があったの。父兄の集まりでね」
「いろいろ考えがあってのことだと思うけど、うちが仕切ってくれって言われたの・・・」
「でも、店も客が増えて時間の都合が付かなくなったでしょ」
「それと、父兄会同士の意見の相違が大きくなったでしょう」
「一組四組の父兄会と和解が出来なくて。学校も違う意見・・・」
「あと、家が他と状況が違うから、やっかみもあったの」
「それにマスコミ側の切り崩しで空中分解・・・」
「本当は、力不足なんだけどね」
「子供達が自分達の力で道を切り開こうとしているのを聞くと恥ずかしくなる」
「いまは、有力な議員と弁護士が中心になってまとめているみたいだがね」
「父兄会も少しずつ状況が違っているから複雑になっている」
「本当に複雑そう」
「本当にイヤになるけどね」
「でも父兄の職場や近所でも虐めで突付かれているし」
「奈河町小の卒業生も白い目で見られているから」
「家と紫織ちゃんは、それほど悪い待遇じゃないけど、他のところは、あまり良くないから」
「時間は、大丈夫?」
「うん。今日は、臨時休業にしたから」
「そう・・・それでね。紫織ちゃんとも少し話したいって」
「どうして?」
「紫織ちゃんが一生懸命にがんばっているから、奈河町小の評判が良くなると思っているみたい」
「でも、親がいないことをあんまり言いたくないの」
「保護者なしの未成年の女の子の一人暮らし。危ないでしょう」
「・・・公には放送されてなくても、だいたい気付いていることよ」
「古本屋は、紫織ちゃんしかいない。でしょう」
「うん」
「あの寄せ書きは本当に酷いからな。先生まで書くなんて」
「今は、ほとんど映されることが無いが、それでも同じような事件があると必ず、映されるし」
「ホームページには、ずっと掲載されている・・・・」
「で・・・話しって?」
「紫織ちゃんは、勉強しながら働いているから時間が制約されていると言ったんだ」
「うん、難しいと思う」
「父兄会のほうでパソコンを買うから、ホームページの書き込みをして欲しいそうだ」
「ホームページなんて作れないけど」
「それは、プロで作ってもらうから書き込みだけでいい」
「携帯からでも書き込みは出来るらしい」
「でも質疑応答は、大型のモニターでやったほうが良いからね」
「水曜日の夕方にパソコンを持って挨拶に来るそうだ」
「僕たちも、一緒いるけど」
「それに古本の在庫もホームページに載せられるように設計するそうだ」
「売り上げが上がるぞ」
「ほ、本当! やる。やります!」
「ははは。実は家も作ってくれるらしいがシンペイが書き込みするから、どうもな・・・」
「大丈夫です! シンペイちゃんなら」
「本当!」
「・・たぶん・・・」
「「・・・・・・・」」 沈黙
「でも・・・結構、時間を取られそう。頭、いたくなりそうだし」
「まだ、わからないけど先生たちがD組の授業を遅らせているというか」
「手抜きしているっていう噂もあるの。勉強もしないと」
「まあ、そういう不当な扱いを奈河町小出身者が受けている事も書いて欲しいらしい」
「紫織ちゃんが自分で決めていいことだから」
「それに電話代や書き込み代で父兄会から少し出すそうだ」
「家のシンペイも書くように話すらしいがね」
「はあ・・・パソコンは嬉しいけど。期待に応えられるかどうか、自信ないよ」
「思いもしてないことを書くほど社交性無いし」
「奈河町小の卒業生全員が弱いもの虐めをしていないという事が浸透すればいい」
「紫織ちゃんは弱いもの虐めは、してないんだろう」
「寄せ書きまでは、いってないけど、虐められている人を助けたことも無いし」
「真っ白じゃないよ、灰色かな」
「まあ・・・それは、直接、弁護士に説明すればいいわ。どういう反応をするか楽しみ」
「好ましい人間じゃないのね」
「それは、紫織ちゃんが判断してね」
「そうする」
「そう良かった。コーヒー飲むでしょう」
「うん」
「ケーキもある♪」 カオリが棚からケーキを出す
「きゃー! 良いんですか」
「どうぞ」
テーブルにケーキとコーヒー。
「いただきま〜す♪」
紫織、ムフッ 状態
「でも、今日は、本当にかわいいわね。紫織ちゃん」
「クミコちゃんにやってもらったの。服もクミコちゃんの」
「そう・・・今日は、デート?」
「うん」
「そうか・・・なんか寂しいな」 トオル、感慨深げ
「ちょっと幸せ、感じちゃった」 えへっ。
カオリが感極まって口を押さえ。
トオルは息を呑む。
「・・・・・」 紫織
「ご、ごめん。なんか、急に泣けちゃって」
「・・・家のシンペイがもう少し、紫織ちゃんに良くしてくれればな」
「紫織ちゃんのご両親にも顔向けできるんだが・・・」
「まあ、あんなやつだと迷惑になるだろうが」
「ああ、でも、シンペイちゃんとは、なんとなく気心が知れているし」
「サクラで協力してくれたりもするし、いたら心強いし」
「そういってくれるのは紫織ちゃんだけだ。ありがたいな」
「ほんとう。もう一人の鎌田さんとは、上手く行っているのかしら」
「大丈夫ですよ。鎌ヨの方が一途みたいだし」
「クミコちゃんも、シンペイちゃんと仲良くしたがっているから」
「命の恩人かもしれないが、いつまで続くか不安だな」
「女の子に優しくしようという気は無いようだ」
「でも、気の利いた人って信用できないって、鎌ヨが言ってた」
「ほら、ホストって、そういう人種でしょう」
「不器用な分だけシンペイちゃんが信用できるって、鎌ヨが」
「良い娘だ」
「まあ。あなたも気が利くほうじゃないから、信用できるのかしら」
「・・お、俺だって、ホストくらいなれるぞ。なろうと思えば」
「あははは、芸人の才能はありそう。そっちでも、もてるか・・・」
「ふん・・・・」
「・・・・・・」 紫織
学校。
なんでも同好会は、元一組二組三組四組の混成でなければ数を揃えることができず。
グループが出来るとD組は、雰囲気が少しずつ和らいでいた。
「おはよう。角浦」
「あ、おはよう。三森君」 ドキドキ
見た目の客観的評価で言うと、ハルキと紫織が付き合うというのは、考えられないことだった。
頭の良さ、外見、人柄、家柄のどれをとっても合わない。
少ない友達が紫織に自信を持つように言ったとしても、気後れするのは当然。
「へぇぇ〜 冗談かと思っていたけど、本当だったんだ」 ヨウコ
「・・・・・・・へへへ」
「紫織ちゃん、目が媚びているよ。ご主人様とメイドみたい」 ミナ
「そ、そんなこと無いよ」
「そうね。王子様と女中よ」
「月とスッポン」 白根ケイ
「ひどっ〜」
「わたし、紫織の、そういう、ところ見たくないから」 ミナ
「わたしも〜」 ヨウコ
「ちょっと、みっとも無いわね」 白根ケイ
「うそ、そういう風に見えるんだ〜」
「客観的に・・他人はともかく。三森君も、そういう紫織ちゃん。見たくないと思うよ」 ミナ
紫織、くら〜。
「だって〜 本当に王子様に見えるんだもの〜」
「そういうの。みっともないよ」 ヨウコ
「が〜ん・・・・ど、どうしたら良い」
「そうね〜 古賀君に対するような態度かな」 ミナ
「えぇぇ〜! だって全然、違うじゃない。絶対無理! 嫌われる」
「相手によって人当たりを変えるな」
「そういうの紫織ちゃんに合わない」 ミナ
「紫織ちゃんはね。もっと毅然とした態度を取りなさいってこと」
「それが紫織ちゃんの魅力よ」 ヨウコ
「・・・・・」 斜めに頷く
同級生に注目される中、
ハルキと紫織は、一緒にいることが増え、
なんとなく、窓辺で雰囲気の良い二人が注目される。
「少しは、紫織ちゃんも自信が付いたかな」
ヨウコが、雰囲気の良い二人を見て呟く。
「でも、凄い組み合わせね」 白根ケイ
「そうね・・・でも上手く行くかな、あの二人」 ミナ
「はあ、アンバランスだから、干渉は多いと思うよ」
「綺麗どころの中山チアキ、沢木ケイコ、仁科マイが三森君を狙っているし」
「クラスの女の子半分は “相手が角浦なら、わたしだって” と思うでしょうね」 ヨウコ
「わたしも、思う」 白根ケイ
「あれぇ〜 沢木ケイコは、古賀君に目移りしてたと思ったけど」
「う、うそぉ〜!」
「あれ〜 鎌ヨ。気が付かなかった。正妻の座にあぐらをかいて、惰眠を貪ってたな」
「やだ〜 ま、負けるじゃない」 焦る
「いや、勝ち負け以前。沢木さん。美人で押しが強いから。ふっ」 白根ケイ
「鎌ヨが微妙に勝っているのは胸だけ」 ミナ
「なんで、沢木が古賀君を気に入るわけ」
「あっちの世界に住んでいるマンガオタクじゃない」
「やっぱり命がけで女の子二人を助けたポイントで大きいでしょう」
「それに古賀君。小山君が大友と相楽に復讐したとき。同情しないで毅然と見逃したのも、女心をくすぐったかも」
「あの時は反発する女子も多かったんだけど」
「いまでは、あれで良かったんだって思う子が多いの・・・・」
「そういうのって強いじゃない」
「大友も、相楽も、小山よりカッコいいから誰だって大友と相楽の味方をするもの」
「周りの一時的なヒイキ感情に媚びて妥協しない」
「自分の意志を通して、結果、雰囲気が良くなったのって。女の子、憧れるよ」 ミナ
「不味い〜」
「自分の間違いを正されたら。やっぱり、ね。古賀君の評価も上がっているし」
「男は、顔だけじゃないという事ね」 ミナ
「わたしも、そういうところ、けっこう、好き」 白根ケイ
「・・ケイちゃん」 ヨウコが白根ケイの首を絞める
「うぅぐ・・・ウソウソ」
「んんん〜」 ヨウコ
「がんばってね。鎌ヨ」
「ど、どこをどう、がんばれば沢木に勝てるのよ」
「ぶっ!」 ミナ、噴出す
「あはは」
「笑うな!」
「あははは、だって、沢木さんと鎌ヨがマンガオタクの古賀君を取り合うなんて、おかしい〜」 ミナ
「あんた。見た目で古賀君を判断しているでしょう」 ヨウコ
「だってぇ〜 古賀君は悪くないよ」
「古賀君から言い寄ってくれば付き合ってもいいかなって、程度よ」
「まあ、好感は持っているけど発情前じゃ 恋愛未満ね」 ミナ
「ケイちゃんは誰を狙っているの?」 ヨウコ
「わたしは・・・まだ人間不信・・・」
「「・・・」」
「ミナちゃんは、誰を狙っているの?」
「わたし、三森君には憧れていたけど。いまはいないな〜」
「なに? ミナ。悩み事?」
「家、母子家庭でしょう」
「営業だから娘の母校が襲撃事件で話題になった奈河町小と分かると、結構、言われるみたい」
「それで会社が上手く行ってないから、こっちにもしわ寄せが来るの」
「恋愛どころじゃないというか」
「うちも・・・恋愛って、余裕が無いと無理だから・・・」 白根ケイ
「うちは、技師系だから営業ほど人の目を気にすることないけどね」
「でも出世とかにも影響があるみたい・・・厳しいわね」 ヨウコ
「マスコミのお陰で酷い扱いよ。クラスが違うといっても通用しないときがあるし」
「そう思うと元一組、四組の保護者は、悲惨ね。みんな顔色悪いもの」
「最悪の子供達というのが定着しているから」 ミナ
「自業自得よ。こっちは、それで殺されるかと思ったんだから」
「わたしは、クラスが違うから、寄せ書き、なんて書いていないのよ」
「それなのに “殺されそうになったという事は、書いたのか” なんて言われるし」 ヨウコ
「わたしも」 ミナ
「はぁ〜」 ヨウコ
「紫織の部屋に泊めてもらおうかな」 ミナ
「あ、わたしも・・・・オール電化♪」 ヨウコ
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