第09話 『山あり谷あり』
ミナ、ヨウコ、クミコ、白根ケイの外泊は、
中学生になったことで、保護者の面子を潰さない程度、制限付きで認められる。
角浦紫織の家に泊まるという安心感もある。
社会的に白い目で見られている事が紫織、ミナ、ヨウコ、クミコ、白根ケイの結束を強めた。
「ねえ。これ何? 紫織ちゃん」
白根ケイ。古本屋に飾っている額縁を指した。
「それ、弁護士を通してない訪問販売の購入の支払い契約を無効できるの」
「わたし、未成年だけど、養護員の人が、これがあった方が良いって紹介してくれたの・・・」
「だから、訪問販売の人は、これを見ると何も言わないで帰っちゃう」
「へえ・・・そういうのがあるんだ。お父さんに教えちゃおうかな」
「お母さん、時々、お父さんに怒られているから」 ケイ
「訪問販売の会社。潰れちゃうわね。家、訪問販売だから」 ミナ
「そ、そうなの・・・あはは」
「世のシガラミね」 ヨウコ
「くす」 紫織
紫織の家に泊まるミナ、ヨウコ、ケイ。
夜。七並べで遊ぶ
「・・・ねえ、紫織ちゃん。三森君と本気で付き合っているの?」 ケイ
「んん・・・付き合っているのかな。一回、デートしたけど」
「どうやったの?」
「三森君って、ジャーニーズ系でしょう」
「んん・・・ビリヤードして、ご飯食べて、映画見て、スケート」
「い、いい・・・羨ましい」
「あれぇ〜 ケイちゃん。進藤君〜 じゃなかったの」
「今日、話していたみたいだけど」 ヨウコ
にや〜 × 紫織、ミナ
「進藤君なんだ〜」 紫織
「ふ〜ん」 ミナ
「進藤君〜 じゃないって、元一組の虐めの事を聞かれて、話をしただけよ」 ケイ
「まだ、付き合う気になれないんだ・・・」 紫織
「うん・・・なんかさ、人間って、本当に信用できるのかなって」
「それ分かる。社会に出ると。特に」
「じゃ どうやっているの? 紫織ちゃんは?」
「利害関係よ。利害関係は、裏切らない」
「人間は、損する事を避けようとするから。互いに支え合っている時は、信用できるの?」
「その利害関係で・・ハートの6。止めているの・・・誰?」 ミナ
沈黙。顔を見合わせる四人
「紫織ちゃんね」 ミナ、ボソ。
「な、何でよ・・・」
「顔で分かるわね」 ケイ
「正直者」 ヨウコ
紫織、にやりと笑って、クラブの9を出して、ブーイング。
「で、紫織ちゃん。三森君に、なんて誘われたの?」 ケイ
紫織の回想
“角浦は偉いと思うよ。僕が知っている中学生の中では一番、一生懸命だよ”
“そうだ。今度、プールバーにいかない” byハルキ
むふ むふっ むふふふ〜
「なに、赤くなって、にやけてんのよ」 ヨウコ
「信じられない。ちょっと、三森君になんて、言わせたの?」 ケイ
えへへ えへへ にや〜ぁあ〜
「向こうの世界に。いっちゃってる」 ミナ
「い、いえな〜い」 恍惚
「教えなさいよ。わたしには、根掘り葉掘り聞いて尾行までして・・・」
「駄目〜 二人だけの思い出〜」 赤
「ずるい」
「うぅ・・・もっと、綺麗な女の子が、言い寄ってきたら三森君、そっちに行っちゃうかも」 ケイ
「大丈夫〜 あの言葉は消えないもの〜」
「一人だけ、幸せそうな顔して・・・紫織の番!」 ミナ
「は〜い」
紫織は、ニヤケまくりながらダイヤの1を出す。
ブーイング
水曜日の夜
トオルと一緒に弁護士がくる。
40代の黒ブチメガネの男は、名刺を出した。
法定代理人も同席。
「角浦紫織ちゃんだね」 弁護士
「はい」
「話しは、古賀さんから聞いていると思うので、単刀直入にいうと」
「角浦紫織ちゃんにホームページの書き込みをお願いしたい」
「いま、父兄会は、二組・三組と一組・四組を分けない形で待遇を改善が望ましいグループと」
「二組・三組と他の奈河町小卒業者の待遇だけを良くしたいグループ」
「大きく二つに分かれていてね」
「まあ、もっと、細かく分かれている人たちもいる」
「・・・・・・・」 紫織
「どのような書き込みをするか、お任せします」
「出来れば・・・奈河町小の生徒が差別的な状態を改善できるような書き込みをしてください」
「そして、差別的な内容があれば教えて欲しいと思っています」
紫織が頷く。
「弁護士さんは、どちらのグループなんですか?」
「わたしの事務所で、それぞれのグループに弁護士を派遣しています」
「私自身は全体を代表しているので、全体の利益を守るという立場です」
「ただ、一組、四組を悪者にしても・・・というグループは、一番、多いですね」
「一部は、上川君、小山君だけを悪者にしようという動きもありますが不可能です」
「あと、寄せ書きに書かなかったグループもあるので複雑です」
「じゃ わたしは、奈河町小の生徒が差別的な状態を改善できるような書き込み」
「そして、差別的な内容があれば教えるだけで良いのね」
紫織は、小型のデジカメを見る。
「そうです。ノートパソコンの使い方は分かりますか?」
「・・・・・・・・・」 紫織。首を振る。
引きつる弁護士
紫織は、弁護士の事務的な態度で、親身になっていないと感じたのだろう。
古賀家の両親が嫌悪感を見せているのがわかる。
紫織は、教わった通り、
ノートパソコンを開けると電源を入れる。
ウィンドウズが立ち上がる。
インターネットを繋げて自分のサイトを開ける。
古本屋も開けて、働きながらの書き込み、
簡単なことではないが在庫本の書き込みも少しずつ進んでいる。
特にプレミア本は、重要。
ヨウコとクミコが泊まりに来ていた。
彼女達も在庫本の書き込みをしてくれている。
二人は紫織が上手くいけば、それだけ自分達も助かると思うのか、店の手伝いも親身になった。
ホームページの内容は、奈河町小学校襲撃事件より、
角浦紫織の角浦古本屋と淀中学といえる。
紫織が気に入ったのは、アニメ風の紫織がかわいかったこと。
そして、淀中学校一年D組に関する内容もあった。
それでも関心を持っている人間は多く。
奈河町小学校襲撃事件に関する書き込みがある。
弁護士が言ったことを思い出す
“変な書き込み、泥沼になりそうな書き込みは、返事を出さないで無視してください”
“こちらのほうで制限をかけますから、書き込めないようにします”
“こちらの弁護士もチェックして援護射撃みたいなこともするので安心してください”
“いくつか、暗号的な文句を決めておきましょう”
“応えないほうが、いい場合もあるので” 弁護士
『またまた、変な書き込みがあるわね。なにを書こうかしら』 紫織、ため息
「“店を開けました。友達二人が泊まります”と」 紫織、無難な立ち上がり
「あ・・・いきなり、失礼な書き込み。頭に来る」 ヨウコ
「超、ムカツク」 クミコ
「・・・でも、他の書き込み客が応援してくれてる」
「紫織ファンクラブ0001だって」 ヨウコ
「誰かな、淀中の生徒か、クラスの子かも」 クミコ
「三森君かな〜」 ヨウコ
「エヘェ〜」 紫織、でれ〜
「何がエヘェ〜 よ。むかつくわね。あんなカッコいい男捕まえて」 クミコ
「今度のデートのときも助けてね」 紫織
「・・・紫織ちゃんって、大化けするから」
「俳優、めざせるんじゃない」 ヨウコ
「俳優〜」 紫織、てかぁ〜
「のぼせてる・・・・」
「美人は、どうやっても美人だけど」
「紫織ちゃんは、ブスから美人まで、全部やれるってことよ」 クミコ
「ふぇ〜ん。嬉しいような、悲しいような」 紫織
「あぁぁ・・・この書き込み。こいつも、むかつく」 クミコ
「ええと、返事は・・・元一組四組のみんなは、後悔しています」
「あのような寄せ書きも虐めも二度としないと思います と・・・」
「この人、直言的なセリフが、シンペイちゃん、ぽい」 紫織
「た、確かに言い回しはそうだけど、シンペイ君。そういう考え方、しないもん」 ヨウコ
「そうよ。シンペイ君は優しいもん」 クミコ
「クミコ。あんた。いま “シンペイ君” って言った?」 ヨウコ
「えへぇ〜」 クミコ
「わたしのシンペイ君だからね」 ヨウコ
「女の戦いだ〜」 紫織
「だってぇ〜 あの時、運命を感じちゃったんだもの」 クミコ
「ちょっと、何とか言ってよ。紫織ちゃん」 ヨウコ
「シンペイちゃんは、マンガオタクだから」 紫織
「効かない」 クミコ
「勉強、駄目だし」 紫織
「わたしが、お・し・え・て・あ・げ・る」 クミコ
「クミコ〜 シンペイ君に手ぇ〜 出したら、ただじゃおかないからね」 ヨウコ
「ただのお勉強よ」
「けっこうです。わたしが教えるから」
「わたしの方が頭良かった気がするけど」
「シンペイ君は、わたしが好きなの」
「・・・いまはね」
「・・・・・・・・」 ヨウコ
「鎌ヨ。シンペイちゃんは、合気道、がんばってる?」
「最近は、コツを掴んだみたいで面白いみたい。うふっ♪」
「へえ・・・まんざらマンガオタクでもないのか」
「良かった♪」 クミコ
「クミコ〜 ほかを探せ!」
紫織が店内の隅にいる少年に気付く。
「そうね〜」 クミコ
「・・・シンペイちゃん。そこにいるみたいよ」
紫織がいうと脚立に座って大人しくマンガを読んでいるシンペイがいた。
「「・・・・・」」 引きつるヨウコとクミコ
「・・・・・・・」 シンペイは、チラリと3人の方を見ただけでマンガに目を落とす。
真っ赤になっていく、ヨウコとクミコ
『い、いつからいたの?』 ヨウコ
『知らない。でも単行本が、半分くらいだから、だいたい。30分前』
『き、聞かれてる。恥ずかしい』 クミコ。真っ赤
『わたしだって恥ずかしいわよ』 ヨウコ。赤
『もう、こうなったら、告白!』 クミコ、立ち上がる
『だ、駄目〜 絶対駄目〜』 ヨウコが、クミコを捕まえる
『こ、ここは、自棄にならないで押さえて、押さえて』 紫織が、クミコをなだめる
『そうよ、発情しているんじゃないんだから』
『は、発情なんかしてないでしょう。失礼ね。中学生として正しいお付き合いよ』
『あんた。彼女のわたしがいる前で告白するな』
『そこは、友情で・・・』
『友達ななら、友達の彼氏に告白するな!』
『クミコ。とりあえず。告白するなら、もっと場所を考えようよ』
『そ、それも、そうね。古本屋じゃね』
『わたしは、古本屋で、告白されたのよ』
『いいから、いいから』
その日、シンペイは、古本屋で夕食を食べることになる。
若い女の子三人がいると明るいのか、
客が惹かれるように入ってくる。
友達が泊まる時は、夕食が古賀家と別々。
そして、ヨウコやクミコも仕事をだいたい覚えたのか、お金も扱えるようになっていた。
紫織が食事を作る間、ヨウコとクミコが店番。
二人とも紫織の泊客A、Bで書き込みをするが10分後に正体がばれる。
世間の注目を浴びているのは怖い。
「紫織ちゃん。料理、上手。すぐに結婚できるよ」 クミコ
「中一で結婚するか」
「わたし、シンペイ君と食べたかったな」
「鎌ヨは、シンペイちゃんと一緒に合気道やっているんだから怒らせると怖いよ」
「そういえば、怪力だった」
「前から大柄だったけど、最近、凄みが増したかな」
「でも、合気道って、そんなに強いの?」
「さあ、クミコちゃんは、合気道、行かなかったね」
「護身用で、わたしも行こうかな・・・」
「奈河町小出身で上手くいってないんだ。学校」
「虐められているの?」
「虐めまで行かないけど、なかなか、友達って出来ないよ」
「みんな、わたしと距離を置こうとするから」
「挨拶とか、お喋りとかもできるけど関係が薄いの、居場所が無いっていうか」
「わたしも淀中に行きたかったな〜 南奈河町側だから仕方が無いけど」
「そうなんだ・・・でも、こっちは、外から、中からって、感じ、一組・四組との確執あるし」
「わたしの中学も同級生に一組、四組の子がいるけど、まだ、話しもしてない」
「二組と三組の三人と一緒にいることが多いんだ。差別されているって感じる」
「がんばろうね」
「うん」
シンペイとヨウコの食事
「・・・・・・」 シンペイ、もくもくと食べる
「シンペイ君」
「なに?」
「クミコのこと、どう思う?」
「別に・・・・」
「わ、わたしのことは?」
「好き・・・」
「・・・・・・・」 ヨウコ、にま〜。
「・・・・・・・」シンペイ
「わたしも、シンペイ君が好き」
「うん・・・・・」
「シンペイ君」
「なに?」
「最近、シンペイ君。強くなったね」
「うん・・・・」
紫織は、友達が泊まると楽しく。親のいない寂しさを忘れられる。
友達も、紫織の家に泊まるのは楽しんでいる。
さらに差別している、
みんなを見返そうとしているクミコは、塾に行って頭が良く。
紫織は、勉強も教えてもらえる。
三人は、布団に寝転びホームページの書き込みを読み。
怒ったり、笑ったり、することになる。
「・・・ねえ、本当に三森君が日曜日に来るの?」 ヨウコ。疑い
「うん、お昼を食べに」
「餌付けね」 クミコ
「餌付けって、言わないでよ」
「あら、餌付け効果は大きいから」
「“こういう食事が出来るんなら結婚しても良いかな“ って、思うかも」
「えぇぇ〜 三森君と結婚なんて、そんな〜」
「浮気されるわね」 クミコ
「や、やだ〜」
「もっと若い子が寄ってきて、ふら〜って」 クミコ
「あのね〜 若い子だったら小学生じゃない」
「年上よ。上級生が三森君に熱い視線を投げているときあるよ」 ヨウコ
「うそ〜」
「奈河町小出身だから、少し様子を見ているだけだと思うけど」
「ジャーニーズ系でオールマイティーな優良人種の三森君が紫織みたいなのと付き合っていたら、チョッカイかけてくると思うよ」
「“わたし、三森君とならどこまでも落ちていけるの〜” なんてね」 ヨウコ
「ぅ・・・困る〜」
「中山チアキ、仁科マイが三森君を狙っているのに勝てるかな」 ヨウコ
「勝てない・・・」 紫織、しょぼ〜ん。
「だから、餌付けよ。浮気されても我慢。食事には戻ってくる!」 クミコ
「それって惨めじゃない。家政婦だし」
「あのね、紫織ちゃん。この世の美人未満の九割が同じ心配をしているのに」
「自分だけ、それから、逃れられると思っているの?」
「うん、三森君なんてホスト並みよ」 ヨウコ
「だってぇ〜」
「特に美男子と人並み女のカップルなんて浮気率九九パーセントよ。紫織、くじ運良かったっけ」 クミコ
「・・悪い」
「わたしだって、そういう心配が、あるんだからね」
「・・・シンペイちゃんは社交性無いから、自分から女の子を誘惑する可能性は低いよ」
「女の子が言い寄ってくれば別だけど」
「そうなのよね・・・女の子を喜ばせようという気持ちが無いの・・・」
「自分から話しかけてくること、あまり無いし」
「ま、どっちか選びなさいってことね」
「不安と嫉妬を抱えながら生きるか、欲求不満のまま生きるか」 クミコ
「はあ・・・・」 紫織
「はあ・・・・」 ヨウコ
北奉銀行から紹介されたリフォーム業者と話し合う紫織。
設計図は、一階のほとんどを店内に出来て満足できるものになる。
階段が大きめのカウンターに連結されて、二階の生活空間につながる。
床面積は三倍に広がって、在庫の本は、全て収容できると思われた。
空テナントに収容されている古本の山も、
テナント進出に合わせて移動させなければならない。
リフォームの間、住む場所も決めている。
時間的に行動を起こさなければならない。
法定代理人とも交渉し、
リフォーム業者も信用できると判断された。
淀中学にとって、一年D組は、特別教室のような扱いを受ける。
他のクラスや先輩との交流は、ほとんどない。
淀中全体で見るとクラスに二人から4人の不良らしき者はいた。
彼らの多くは、嫌われていたが一年D組は、それと同様に見られる。
自業自得の元一組四組の生徒。
理不尽な扱いをうける元二組三組の生徒。
それでもD組は “なんでも同好会” で結束しようとしていた。
しかし、奈河町小出身の先輩や不良生徒の嫌がらせも受ける。
担任の北島先生も助けようとせず。
D組は、孤立無援。
一年D組の不登校率は、10パーセントを越えて、B組の嫌がらせ。
一度、レッテルを貼られると、それが大義名分や口実になって・・・・・
ホームルーム
シンペイを議長に紫織が並ぶ。
北島先生は、ぼんやりと腕を組んで、窓際の椅子に座っているだけ。
「・・・・もういや!」
中山チアキがキレた。
「そうよ! どうして、こんな扱いを受けなきゃならないわけ!!」
沢木ケイコが自棄気味になって言う
「人生台無しよ!!」 中山チアキ
「こんな扱いを受けるなんて!」
「こんな扱いを受けるなんて! どうしてよ!」 ケイコ
「B組のやつら。むかつくぜ。やっちまうか」 田城タクヤ
「そうだな。面白いな」 太田シンゴ
「おまえら、分かっているだろうな。問題を起こすなって言っただろう」
北島先生が立ち上がる
「ふざけんな! おい。センコウ!」
「俺たちが自滅するように追い込みやがって。汚いんだよ」 田城
「なんだと、田城。貴様、俺に向かって、そんなこと言って、ただで済むと思うなよ」
北島が田城に掴みかかって、殴った。
「や、止めろ!」 飛び掛る大田
「このクズどもが!」
北島が大田を投げ飛ばす。
そこに、元一組の相楽リュウイチと元四組の大友シゲルが加勢に入る。
たちまち、一年D組全員で、北島先生にかかって乱闘。
いくら北島が体育会系で強面でも結束した一年D組の全員が本気になれば、多勢に無勢。
北島の懐に入り込んだシンペイが北島の体勢を崩し、倒されると、あっという間に袋叩きにあう。
北島先生は、D組が大きな抑圧を受け、ストレスが異常に高まっていることに気付いていなかった。
騒ぎを聞きつけた他の先生が割って入るまで、北島は、D組全員に殴られ蹴られ、ボロボロになっていく。
高圧的な先生側と、ヒステリックなD組の生徒は、職員室で対峙することになった。
そこに父兄会の弁護士数人が駆けつける。
それまで高圧的だった先生側は、奈河町小父兄会側の弁護士の登場で一気にトーンダウン。
弁護士は、紫織と小山からデジタルカメラを受け取ると、それを映す。
騒動の始まりから学校側の脅迫にも似た映像が流れる。
それを校長と教頭が一緒に確認し、弁護士が最後通牒を突きつけると、
お互いに公にしたくなかったのか、D組の処罰は取り消される。
そして、内申書を事前に弁護士に見せること、北島先生の謹慎と担任変更が決まり。
弁護士側が推薦する教師が担任になる事が決まる。
喜ぶ一年D組は、大騒ぎになった。
「紫織ちゃんがビデオで撮ってたんだ」 ヨウコ
「ごめんね」
「途中でビデオ撮っていると言って北島先生を止めると中途半端になってしまうし、学校側も警戒すると思って・・・」
「弁護士が来るまで黙って隠し撮りしてた」
「ありがとう。角浦」 ハルキ
「礼を言うなら小山君にもね。小山君もビデオで撮っていたから」
どんよりとした空気が流れる。
シンペイが礼を言うと5分の1程度が小山に礼を言う。
「まったく、それなら、そうと先に言ってくれよ」
「スゲーカッコ悪い撮られかたじゃないか」 大田
「北島を殴って学校も辞めようと思っていたのによ」 田城
「そうよ。もう、これで中学校も退学になると思って、みんな、覚悟を決めていたのに」
「角浦だけが冷静になっていたわけ」 中山チアキ
「角浦には負けた」 沢木ケイコ
「あの・・・古賀君は、どうやって北島先生を倒したの?」 仁科マイ
「あ、どうやったんだ。あれ、見事に決まったけど」 大田
「偶然・・・」
映像は、シンジが北島の懐に入るタイミングが良かっただけに見える。
「「「「・・・・・・」」」」 紫織、ヨウコ、ミナ、ケイ
「偶然かよ。俺と大田。そして、大友、相楽の4人がかりでも振り回されていたのに」
「古賀が、ふらりと入り込んで北島を転がしてしまうのかよ」 田城
「これでさ。学校側が差別を無くしてくれれば良いんだけど」 沢木ケイコ
「差別を無くせか、良く言うぜ!」 大友
「冗談言ってんじゃねえよ!」 相楽
「・・・・・・・」 その他、多数
「あんたたち、一組、四組は、自業自得じゃない」
「わたし達が、こんな目にあっているのは、あんた達のせいなのよ」 チアキ
「なんだと!」 大友
「止めろ!」 古賀
「一年D組で、ケンカしても学校側が喜ぶだけよ」
「世間も仲間割れを面白がるだけよ」
「やっぱりD組は、バカの集まりだって、同類だって」 紫織
「で、でも」 チアキ
「D組の中で争っても状況は変わらないよ。どんなに頭にきてもね」 進藤ジュン
「今日のことで学校側も対応を変えてくれるよ」
「D組を怒らせるとどうなるか、分かったと思う」 三森ハルキ
「ケンカは、しない。休戦したほうがいい」 進藤ジュン
「それは、そっち側、次第だ」 相楽
「・・・・・・・」 むっすぅうう〜!!! × 全員
日曜日
紫織は、ミナとクミコに手伝ってもらいながら、昨夜から料理の下ごしらえ。
そして、クミコの手で誰もが別人と思うほど美人にリフォームされ、待っていた。
「・・・クミコ、どうして、あなたの服もかわいいの? うっすら唇も赤いし」
「え〜 そんなことないよ。気のせいよ」
「100人に聞いたら、100人が勝負しているって思う服でしょ それ」
「気のせい、気のせい」 クミコ、ニヤリ
「邪魔しようと思っているでしょう」
「だいたい、新しい、下着までつけて、なに考えているわけ?」
「そんなこと無いよ。こうやって応援しているじゃない」
「下着は、念のためっていうか、偶然、新しいのをつけようと思っただけよ・・・」
「三森君か、久しぶりだな〜 ムフッ♪」
「ねぇ〜 クミコちゃん。わたしの服は?」 ミナがポーズをとる
「ミナちゃんも、かわいい」
「おまえら〜 略奪しようと思ってない?」
「だってぇ〜 ジャーニーズ系よ」
「ホストよ。一言でも “かわいい” って言われたら、嬉しいもん」 ミナ
「一言でも、一抱きでも・・・むふっ♪」 クミコ。ウットリ
「・・・・」 ムッとする
「冗談、冗談」 クミコ
「三森君、足が長くて、カッコいいんだもん」
「頭も良いし、スポーツも強いし、あそこまで行けば、天然記念物よ」 ミナ
「どうせわたしは、胴長短足の寸胴よ。頭以下、人並み」 紫織
「まあ、まあ、少女マンガ級の組み合わせなんだから紫織も苦労するわよ」
「繋ぎとめるだけで精力使い果たすんじゃない」 クミコ
「これ読む? 参考になるよ」
ミナが少女漫画4冊を見せる
「・・・もう、読んだ!」 紫織
「ああいう、良い男は、一瞬の永遠の思い出だけでもいいのよね」
「一瞬なら背伸びできるし。うふ♪」 ミナ
「泥棒女」
「ちゃんと返すからね」 ミナ
「おまえら、帰れ」 紫織、ゲンコツ
店を開けてしばらくした後。
ハルキは、ラフな普段着だったが二枚目は、何を着ても二枚目。
「やあ。角浦、手伝いに来たよ」 ハルキ、さわやか
「あ、ありがとう。三森君」
「久しぶり、三森君♪」 クミコ
「あ・・・足立だ」 ハルキ
「覚えてくれてた。嬉しいな」
「うん、久しぶり、なんか、雰囲気が変わった」
「えぇ〜 どんな風に?」 クミコ、期待
「・・んん・・・綺麗になったかな」
「きゃー! 本当? 嬉しい」 クミコ、飛び跳ね
「「・・・・」」 ムッとする
「あ・・・みんな、綺麗になった」
「ありがとう」
「やっぱり♪」 ミナ
「今日は、古賀、いないんだ」
「シンペイちゃんは、鎌ヨとデート」
「へえ・・・・やるね〜 古賀も隅に置けないな」
『綺麗だって、古賀君は絶対に言わないね』 ミナ
『そうそう、あのオタク。拷問されたって言わないよ』 クミコ
「あ、何したらいい。手伝うよ」
既に仕事の多くは、紫織、クミコ、ミナの三人で終わっていた。
「あ、先にコーヒーでも中に入って」
「ありがとう」
紫織は、店番をクミコとミナに頼むとハルキと中に入る
「パソコンがあるんだ」
「うん。父兄会の弁護士に頼まれたの」
「角浦は、凄いよ。親がいないのに、自立して、生活しているんだから」
「その上、父兄会とか、弁護士とかと直接交流があるなんて」
「そ、そんなこと無いよ。全部人任せだし」
「ホームページだって、弁護士とか父母会の人が作ったものに書き込みしているだけだし」
「僕も早く独り立ちしたいな」
「三森君は、やりたい事があるの?」
「・・・ないんだ」
「親がサラリーマンだから自分もサラリーマンになるのかなって思うけど、いやだな〜 とも思うし」
「だから角浦の手伝いをさせてもらえたら、何か、見つかるかもしれないって」
「きっと見つかるよ。三森君なら」
「でも、不安だな」
「奈河町小の襲撃事件と虐めのことで高校、大学、就職とも最初から偏見で見られるし」
「最近は、自信が無いんだ」
「大丈夫。三森君は、行きたい高校に行ける。行きたい大学にいける」
「好きな職業に就けるよ」
「そうかな、淀中でもああいう扱いだったから、高校はどうだろう」
「同じような目に合うんだろうな。内申書になんて書かれるか」
「父兄会の弁護士が内申書を確認することになっているから、酷いことは書かれないと思う」
「それに内申書が酷いという事は、担任と学校の教育能力が欠如していることだから」
「自分達を無能だと教えているようなものよ」
「全部、角浦のお陰だ。角浦がビデオを撮っていなかったら。今頃、どうなっていたか」
「あの時は、僕もヒステリックになってた、良く覚えていなかったけど」
「映像を見たとき、本当に恥ずかしかった」
「みんな、怖かったね」
「冷静だったのは、角浦と古賀だけだったね・・・あと小山か・・・」
「わたしは、弁護士に頼まれていたから・・・・」
「シンペイちゃんは、マンガオタク性 情感失落症で全部、他人事だから」
「それだけ?」
「・・・ん・・・唯我独尊・・・・閉塞性アニメ依存症・・・・他にあるかな・・・」
「・・・いや、なんでも・・・・あ・・・仕事、何したらいい」
「・・・・・・・・・」 考える紫織。
「あ・・・き、脚立で上の埃を綺麗にしてもらえれば〜 と、届かなくて〜」 紫織は、モップを渡した。
「分かった」
ハルキは、そう言うと脚立に乗って拭き掃除を始めた。
『はぁ〜 いいな』 紫織、ボゥ〜
『なに、紫織。三森君を働かせるなんていい度胸ね』
『ヒモにさせなさいよ。王子様を働かせるな』 クミコ
『な、何てこと言うのよ』
『紫織。ヒモなんて、さすが自立した女』 ミナ
『あんたたち、前に言っていることと全然違うじゃない』
『自信を持てとか、媚びるなとか、そんな紫織見たくないとか言ってたくせに』
『だって、三森君。目の前にしたら、王子様なんだもの。かっこ良すぎ〜』 クミコ くねくね
頷くミナ
『あのね・・・ヒモって、お金ないんだから』
『紫織が、ただで三森君をこき使っているなんて、酷い、残酷。何様のつもり?』 ミナ
『だから、三森君が手伝いたいって、言うんだもの』
『きっと、自立した女が、かっこよく見えて錯乱したのね。三森君かわいそう』 クミコ
『あんたたち。わたしを悪者にして、三森君に近付こうとしているだけでしょう』
「えへぇ♪」 ミナ
「あはは」 クミコ
「こいつら〜」 紫織、ゲンコツ
昼食は、紫織が作った。野菜カレー。
カレーの一部は、古賀家にも運ばれ、
紫織、ハルキとミナ、クミコの組み合わせで食事を取る。
その日、一日楽しんだ。
そして、ハルキに勉強を見てもらう紫織は幸せだった。
夕食でトンカツを食べたあと、ハルキ、ミナ、クミコは帰って行く。
紫織は、店を閉めると風呂に入りパソコンを開く。
ハルキ、鎌田ヨウコ、沢渡ミナ、足立クミコ。白根ケイからのメールがあった。
紫織は、それを読んで返事を返す。
そして、ホームページの書き込み。
なかなか充実している。
暇つぶしにシンペイのホームページを見る。
シンペイは、時折、返事を書いているようだが一言二言だ。
弁護士と父兄会側の書き込みは、時間帯が集中している傾向があった。
シンペイの返事は、誤解を招きやすい言葉が無いらしく。
一応、考えていると思われた。
『そういうやつね。シンペイちゃん』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第09話 『山あり谷あり』 |
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