第10話 『憎悪の恐怖。そして、婦警さん』
深夜。
紫織は、ドカドカという転げ落ちる物音と呻き声で目を覚ました。
『・・・!?・・・誰かいる・・・・』
数分のまどろみ、
『・・・!?・・・誰かいる・・・・』
紫織は、起きて電気をつける。
階段の下で呻き声、確かに人の気配がある。
「・・・・」 ぼんやり〜〜〜
枕元に置いている携帯で警察に通報。
そして、恐る恐る。
タンスからバットを取り出し、様子を見に行く。
階段の上に仕掛けていた5段重ねの段ボールの箱が台車ごとなかった。
階段の下は、台車と一緒に転がりおちたのか、段ボールが破れ、古本がバラバラに散乱し、
倒れている人間がいる。
怯える紫織がバットを構え、携帯を録音にする。
階段の電気を点けると北島先生だった。
「・・・先生」
「・・・・・・」 北島は、憎悪で紫織を睨みつける。
減棒と謹慎させられた復讐に来たのだ。
「先生・・・」
紫織、恐ろしさのあまり、バットを持つ手が震える
「くそ! 角浦。貴様、覚えていろ!」
北島は、そう言うと逃げ出そうとし、体中が痛いのか、上手く歩けない。
紫織は、メールやホームページに書かれている内容に用心し、階段に罠を仕掛けていた。
それも、警備会社の設置するようなものでなく、
対ゲリラ作戦用の殺傷を目的とする仕掛けを参考にしていた。
紫織は、ガクガクと震えて座り込む。
襲撃事件を思い出す。
あの時の青年の表情は、悪意も狂気も感じられない無機質なものだった。
しかし、北島先生の表情は明らかに紫織自身に向けた憎悪、悪意、復讐があった。
夜中の3時半。
近くの派出所の警察官が駆けつけ、
北島先生は、古本屋を出る前に捕らえられる。
パトカーが増え、警察が集まってくる。
騒ぎを聞きつけた古賀家や近所の人たちも集まってくる。
「紫織ちゃん。大丈夫なの?」
隣のカオリが起きてきて、声をかける。
「・・・・・」
紫織は頷く。
警察官は、紫織が掴んで硬直しているバットを放させる。
「本当に大丈夫なの? 紫織ちゃん」
「・・・うん・・・大丈夫だから」
シンペイが虫の息で倒れている北島に蹴りを入れ、
慌てて駆け寄った警察に引き離される。
「何があったの?」
「わたし、メールとかホームページの書き込みで身の危険を感じたから」
「階段のところに罠を作っていたの・・・」
「それに北島先生が・・・」
救急車のサイレンが近付いてくる
「・・・その罠を見せてもらっていいかな」
警察官の職務質問
「・・・・・・・」 頷く
警官と一緒に紫織は、現場検証。
階段の罠は、階段に釘を打って、そこにピアノ線を引っ掛け、
階段の上の段ボールを載せた台車に結んだモノだった。
ピアノ線に引っ掛かれば、台車ごと古本の入った段ボール5個が階段を落ちていく。
段ボールの重量。
仕掛けられたピアノ線が中段であることから逃げ道なし。
明らかに殺傷を目的とするものだった。
北島先生が生きているのは運が良かったというべきか。
救急車に乗せられて去って行く。
「これは、君が考えたものかね」
紫織は、参考にした古本を渡し、参考にした個所を見せた。
「この古本屋には、他にこれに類する本は無いのかね」
紫織は、軍関係の本でそれらしいものを三冊ほど見せる。
「警備関係のものは?」
「ありません」
「身の危険を感じたメールや書き込みの見せて欲しい」
「はい」
「本当は、早く寝ないといけないだろうが」
「いまのうちにやっておかないといけないことがあってね」
「ええ」
「ご両親は・・・・確か・・・」
「轢き逃げされました」 引きつる警察官
「・・・犯人は捕まっていません」
「まだ、捜査中だから」 警察官は、誤魔化す
「時効になったら “もう、時効ですから” って、言うんでしょう」 けんか腰。
「・・・もし、不安であれば、警察の方で、一時的に宿舎を用意できるけど」
警察官、さらに誤魔化す。
「いらな・・・・あ、使わせて」
「あ、じゃ 空いている部屋を聞いてみよう」
「うん」
「これからも、この罠を使うの?」
「使う」
「あの罠は、殺傷を目的とした軍事用の罠を応用している」
「北島先生は、首の骨が折れていなかったのは幸運だっただけだ」
「運が悪ければ死んでいたよ。君は、それでもいいのか?」
「私が犯されて殺されるくらいなら、その方がいい」
「どうせ、北島先生も、捕まえることも出来ないんでしょう」
「警察は能無しばっかりよ」
「いまさらかもしれないが、あの轢き逃げに人を振り分けているそうだ」
「わたしが五月蠅くなったから?」
「上からの命令で、わたしが決めたわけじゃない」
「都合が悪くなると、上のせいに出来て良いわね。おまわりさん」
「・・・・・・・・」 警察官が苦笑いする
「何が、おかしいわけ?」
「いや、その通りだからね。お詫びする。済まなかった」
「・・・宿舎に泊めてもらえるんでしょう」
「ああ、しばらく、本屋の巡回を増やすことになると思うから」
「それと、明日、動機とか事情聴取したいので警察官が来ることになる」
「階段は、散らかったままにしてもらうよ」
「残念だけど、明日から店をリフォームするの」
「じゃ 今日の午前中にやってしまうか。人が死んだわけでもないから、すぐに終わる」
「立ち会わないと駄目?」
「君だけで作ることが出来たかどうか。仕掛けをもう一度作ってもらうことになるがね・・・」
「学校は休んでもらうかな」
「それより、警察の宿舎をいつまで使うつもりだ」
「リフォームが終わる。ほんの一ヶ月よ」
「警察が見回れば、リフォームも早く終わるかも」
「・・・婦警の独身寮だから。都合は、つけられなくも無いがね」
「じゃ 朝の現場検証の後に行くことにする」
「許可を貰っておくよ」
玄関の鍵穴は無残にも壊されていた。
現場検証は、朝方の6時になって終わり。
巡回を一人残して警察が引き揚げる。
「紫織ちゃん。わたし、家に泊まってもいいけど」
カオリが心配そうに言う
「いい。一人でも大丈夫だから」
「担任の先生がどうして・・・・」 トオル
「きっと、わたしが、かわい過ぎるから」
「けっ!」
「シンペイ!」
「そうね。紫織ちゃん。かわい過ぎて罪作りなんだから
「じゃ 少し休むね。明日休むからよろしく言って置いて、やることたくさんあるから」
そして、紫織は、針金で戸締りをすると寝る。
紫織は、リフォーム業者に連絡した。
午前中に警察官の現場検証が始まり。
それが終わると配送会社が古本を段ボールに入れ、
北奉銀行が用意した空テナントに運び込む。
午後には、リフォーム業者が来るはずだった。
昼頃になって紫織は、起きて店を開ける。
テレビで昨夜のニュースがやっていた。
学校が映されている。
校長先生が、テレビを前に苦しい答弁。
次々に運び出される古本。
そして、一部の生活用品が警察の女性寮へと送られる。
ニュースは淀中学の教職員、北島カツジが担任するクラスの女生徒の家に忍び込み、
階段から落ちて大怪我。
病院に連れ込まれたこと。
そして、女生徒は無傷だと報道されていた。
どうやら、この手の被害では、女生徒を映さないようだ。
そして、警察は、罠のことを報道していない。
北島先生がドジだった事にしたようだ。
しばらくすると電話が鳴る
「大丈夫です・・・・はい・・・いえ・・・そうです・・・」
「これまで通り・・・あ、リフォームは、します・・・・」
「警察の独身女子寮に・・・後で連絡先をメールで送りますから・・・はい・・・はい・・・」
紫織は養護院の職員の電話に応対した。
そして、弁護士と法定代理人。
リフォーム業者が来て、あれこれと交渉する。
「大丈夫ですか? 角浦さん」 弁護士
「ええ、大丈夫です」
「警察には、弁護士抜きで話し合いは応じられないと伝えています」
「事件の概要は、警察から伺っているので、確認してもいいですか」
「どうぞ」
「え〜と・・・・ホームページの書き込みやメールを読んで身の危険を感じていた」
紫織、うなずく
「そして、書棚にあった古本の中からテロ・ゲリラ作戦用の本を選んで」
「一ヶ月ほど前から就寝前に罠を仕掛けていたとか」
「ええ」
「まあ、角浦さんは、罪には問われません」
「過剰防衛と見られなくもありませんが正当防衛で扱えます」
「作為障害とか、いろいろ、こじつけられますがね」
「何より、前提段階で未成年ですから」
「そうですか」
「今回の事件を奈河町小の差別からきたものと扱ってもよろしいでしょうか」
「わたしが不利益を受けるような事がなければ構いませんけど」
「今回のような場合、被害者の報道は制限されますから公には出ません」
「しかし、ネットの世界は、違います」
「彼らから受ける不利益を越えるような内容には、ならないと思います」
「差別からきたものなら淀中に対し、発言力が得られるので総合的に待遇が良くなるはずです」
「そうですか」
「ところで、被害は無いのですか?」
「別に、北島先生の方が酷いようですけど」
「出来れば精神的な被害も、あった方が良いのですが」
「??・・・」
「その方が北島先生に対する拘束を大きく出来るので・・・」
「学校側に対する責任請求でも、建物で壊れているところがあれば、その分だけ有利になりますから」
「そうなんですか?」
「ええ、北島先生に付く弁護士は、北島先生が未遂事件・・・」
「既に肉体的、精神的、社会的な制裁を受けていると無罪を要求するのは目に見えていますから」
「それはイヤね」
「いまわかっているのは全身打撲で7ヵ所が骨折、全治六ヶ月ですね」
「どちらの味方ですか?」
「奈河町小の生徒、父兄の味方です。流れとすれば小学校襲撃事件。虐め発覚」
「それに対する一連の奈河町小生徒、父兄に対する差別騒動に、今回の事件を入れて全体としてプラスになるかどうかですね」
「今回の件で別途弁護士を付けるのであれば、個人的には、さらに有利になると思いますが」
「北島先生が無実になれば復讐されそうで怖いです」
「北島先生に付く弁護士の腕次第ですね。器物破損と住居侵入は確実です」
「ただの住居不法侵入事件に出来れば有利」
「追加で暴行未遂事件だと北島先生は不利」
「暴行殺人未遂なら北島カツジにとって最悪でしょう」
「それでも未遂ですから実刑は、難しいでしょう」
「角浦さんに近付かないよう、法的処置を取ることは出来ると思います」
「何で、わたしなんですか?」
「まだ、北島先生への証言は取れないんですよ。ですが復讐だったと思われます」
「一人暮らしであったこと、結果として最悪の家に踏み込んだようですが」
「そして、ビデオを撮ったのが角浦さんと小山君で知られていたこと」
「ビデオを撮ったのは、わたしに原因が、あるので、こちらで最善の方法をとります」
「お願いします」
「とりあえず。担任の先生に受けた精神的な苦痛と物損の被害」
「義務教育を著しく阻害されたことにしておきます」
「・・・肉体的には、ありませんか?」
「ないです」
「偽証はマイナスになりますが事件が原因で転んで打撲した。でも、何とか、なるようなものです」
「精神的な診断書は、どうにでなるものですから “大丈夫” という言葉は、なるべく、使わないのが、いいでしょう」
「まあ、それらしいふりは、しなくても、いいので・・・」
「こちらで適当なストレス障害の病名をつけますから、元気じゃないことにしてください」
「悪夢を見るとか、大きなストレスを受けたという事にします」
「怪我と違って、本人が、そうだと言い張れば何とかなる分野ですから」
「はあ・・・」
「北島先生は、何か言いませんでしたか。脅迫染みたような。言葉とか」
「あ、携帯で録音したんだ」
紫織は、携帯を取り出した
録音で残っていたのは、「先生」「くそ。角浦。貴様、覚えていろ!」から始まって。
そして、消し忘れたまま、警察官とのやり取り。
「十分です」
弁護士は、ニヤリと笑うと録音した内容をコピー。
その間にも、引っ越し業者が荷物を全て運び出そうとしていた。
紫織は、予定していた安アパートの短期使用計画を中止。
婦警の独身寮に転がり込んで結構な金額を浮かす計画だった。
弁護士が帰ろうとしたとき、
学校から校長先生と新しい担任、三田ケイコ (二四歳)。数学教師が来る。
三田ケイコは、北島先生の謹慎と、さらに停職。
そして、懲戒免職が突然であったため。
準備の出来ていない父兄会側と教育委員会側の妥協の産物。
校長と三田先生は、弁護士同席に緊張しつつ、
北島先生の行為に対して詫びる。
弁護士は、この事件に関する事柄で、弁護士を介していない角浦紫織との約束事は、一切の拘束はないと通告。
校長は、やりにくそうな顔をし、北島先生の懲戒解雇と、学校の一年D組に差別的な内容は無いと繰り返す。
紫織は、だんだん腹が立ってきたものの、
奈河小学校襲撃事件の学校の対応と同じだったことで経験済み。
弁護士は、学校や北島先生の奈河町小の生徒に対する差別が明白だったこと。
そして、差別を認めない限り現状は変わらないとして、差別を認め待遇改善を要求。
校長は、差別を認めたがらず、新たな制度という形を取ろうとする交渉が続く。
『なんか・・・権利の殺し合いか、戦争みたい。不毛というか、醜いというか・・・』
『ずっと聞いてると、性格悪くなりそう・・・』 紫織
弁護士は、カギの修理費を学校側に請求。
さらに高度で安全性の高い扉に改装する費用を要求。
校長は、リフォームの防犯に関する費用を学校側で負担することを承諾。
そこに紫織の心配をした生徒達が集まってくる。
紫織は、弁護士と校長の話しを終わってもらい、同級生の相手をする。
三森ハルキ、古賀シンペイ、沢渡ミナ、鎌田ヨウコ、白根ケイ、
進藤ジュン、中山チアキ、沢木ケイコが心配していた。
お見舞いは三森ハルキだけ、という思惑が外れ、紫織が引きつる。
しかし、お見舞いの果物、ジュース、お菓子・・・
角浦古本店は、古本が運び出され空っぽになりつつあった。
校長先生と担任と生徒達は、何事かと周りを見渡す。
「大丈夫なの?」 ミナ
「・・・“大丈夫” って、言わない方が、良いって、弁護士さんが」
「・・・・・・・」 一同
「でも、心配しないで北島先生が大変みたいだから」
「なに良い子ぶって、北島が階段から落ちなかったら紫織が危なかったんでしょう」 ヨウコ
「うん、危なく貞子になるところだった」
「北島のやろう、半殺しにしてやる」 ハルキ
『既に半殺しで、あと少しで死ぬところだったけど・・・』 紫織、苦笑い
「北島のやつ、許せない。絶対、リンチよ」 ケイ
「他の先生に聞いたけど、病院を教えてくれないの」
「田城、大田、大友、相楽は、半殺しにしてやるって息巻いていたけど」 ケイコ
「でも、階段から落ちたくらいで大怪我するなんて、北島もドジじゃない」
「どうせなら、そのまま死ねば良かったのに」
チアキは、綺麗な顔をして怖いことを言う
「そうね」 紫織、苦笑い
「紫織ちゃん!」
「あんた、北島に犯されて殺されて、どこかの山に埋められるところだったのに、なに余裕こいてんのよ」
「もっと、怒りなさいよ」 ケイ
「お、怒ってるって、病院から出てきたら、北島のやつ半殺しよ」 紫織、ゲンコツ
「・・・紫織ちゃん。なんか、軽くない」
「みんな怒っているのに当事者の紫織ちゃんがそれだと気が抜けるんですけど・・・」 ミナ
「これでも必死に怒ってるから、北島は、もう一回、半殺しよ」 紫織、ゲンコツ。
しかし、表情に説得力がない。
「紫織ちゃん。北島に同情したら駄目よ」
「死んだっていいようなやつ、死んだ方がいいやつなんだから」 チアキ。美人は怖い
「でも、何で引越し業者が来たの?」 ハルキ
「古本屋をリフォームするの」
えぇ〜 と生徒達
「本当!」 ミナ
「うん。ごめんね。黙ってて。いろいろあってね」
そこにカオリが、紫織の昼食を持ってくる。
「あ、ありがとうございます。おばさん」
「いいのよ。こんなときくらい。お世話させて」
目の前に見たことも無い大きなエビフライ定食が置かれる。
「わあ・・・エビフライが大きい・・・・美味しそう・・・・」 紫織、感涙
「北島という男」
「一人暮らしの未成年の紫織ちゃんを狙うなんて、なんて卑劣で恥知らずな人間なのかしら」
「何で、紫織ちゃんばかり、こんな目に遭って・・・」
「何も悪いことしていないのに・・・」
「両親を轢き逃げされて、犯人も捕まらないで。おばあちゃんまで亡くなって・・・」
「一人で、古本屋を切り盛りして、一生懸命に生きようとしていただけなのに・・・」
「小学校が襲撃されて、危なく殺されそうになって・・・」 カオリ涙ぐむ
「・・中学校で差別されながら一生懸命に生きようとしているのに・・・」
「今度は、一人暮らしをしているからって、担任の先生に暴行されて、殺されるかもしれなかったなんて・・・」
「ただでさえ、人よりも辛い思いをしているのに・・・」
「こんなに優しくて、かわいくて、幼いのに。なんてかわいそうな子・・・」 カオリ、涙涙涙涙
貰い泣きする生徒達。
紫織もホッカホカの大きなエビフライの前で “おあずけ” させられて、涙ぐんだ。
奈河警察署 女子寮
紫織は、寮長、やや美人の楠カエデ(二六歳)に空いている部屋に案内される。
「・・・あなたが角浦紫織ちゃんね」
「噂には聞いているけど、やり手の中学生なんだって」 楠カエデ
「それほどでもないです」
「独身寮四畳半だけど大丈夫?」
「はい、綺麗な部屋」
「一応、ユニットバスと小さな台所もついているの」
「あと近くに銭湯もあるの。駅まで一キロあるけど淀中学校までいける?」
「学校を挟んで家と反対側だけど距離はだいたい同じだから、自転車でいける」
「じゃ 大丈夫ね」
「はい。一ヶ月ぐらいですけどよろしくお願いします」
「よろしくね、ちゃっかり紫織ちゃん」
翌日
学校に行くと心配した生徒達が集まって、北島に非難が集中。
D組生徒が職員室に押しかけ、
学校に北島の病院を教えるように抗議するが、当人は、全治六ヶ月。
警察が監理しているため、面会謝絶になっている、と伝えられる。
新しいクラス担任、三田ケイコ(24歳)は、教育実習を終えたばかり。
父兄会側も突然のことで担任を都合つけられず。
県の教育委員会が元奈河町小出身という事で選んだ。
彼女は、結婚までの腰掛先生といった雰囲気で、問題ありのD組を背負っていくには役不足に思え、
学級委員長のシンペイと紫織は、覇気なしで、クラスを引っ張る力がなく役不足だった。
それでも、空中分解せずに済んでいるのは、古賀シンペイが、合気道で培った雰囲気。
そして、無機質に委員長をしている姿勢が二組・三組と一組・四組の反発を抑えさせる。
紫織も、こもれび商店街の顔で北奉銀行、婦警と付き合いがあると、一目置かれていることだけだった。
人間的に見れば二人ともリーダーに向かない平凡な中学生だった。
角浦古本店のリフォーム工事は、バタバタと進められる。
婦警ばかりの独身寮は、安心感を与え、それまでと違う中学生生活ができた。
婦警達も紫織の両親が轢き逃げされ、犯人が捕まっていない負い目があるのか、マスコット代わりに、かわいがられる。
そして、紫織は、北島に襲われそうになった危機感からか、何か、武道を学ぼうと思った時期と重なる。
独身寮近くの空手道場に入って、婦警に混ざり、空手の基礎を習う。
僅か一ヶ月という条件で集中的に訓練。
働いていない時間があるのは、これほど自由なのかと思う時間だった。
女子寮
「・・・・紫織ちゃん。未成年なのにそんなに子供作って」
「お姉さんは許しませんからね」 榊カスミ
「そうよ。楠先輩の半分の年齢なのに」 萩スミレ
「おい!」 楠カエデ
休みの日。
紫織、
やや美人の楠カエデ(26歳)。
ソコソコ美人の榊カスミ(24歳)。
それなりに美人の萩スミレ(22才)の婦警3人と人生ゲームに興じていた。
「そうそう、未成年なのに発電所と鉄道を牛耳るなんて」
「ホテルだけにしなさい」 榊カスミ
「わかったから、お金払って。榊お姉ちゃん。萩お姉ちゃん」 紫織
「鬼!」 榊カスミ
「紫織ちゃん。世の中、お金じゃないのよ」 萩スミレ
「楠先輩。お金貸してください」 榊カスミ
「あんた、いくら借金すれば良いの。もう破産よ」 楠カエデ
「そ、そこを何とか・・・」 榊カスミ
「ったく。元金どころか、利息も払えなくなるわね」 楠カエデ
「うぅ・・・こんな、非現実的な人生ゲームなんて嫌いよ」 萩スミレ
「そうよ、そうよ。闇ルールで巻き返しを取り入れるべきよ」 榊カスミ
「・・・お金は?」
「あ〜ん。恵まれない。貧民層に愛の手を・・・・」 萩スミレ
「あ、紫織ちゃん。路上賭博って知ってる?」 榊カスミ。ニヤリ
「どんなの?」
「・・・あれ?」 萩スミレ
「・・・紫織ちゃん。教えてあげようか?」 榊カスミ
「なんか、ずるしようとしているでしょう。引っ掛からないからね」 紫織
「ふふん。ちょっとした賭けよ。今もって来るね」 榊カスミ
「・・・あんた達、人格疑われるわよ。子供相手に」 楠カエデ
「人生ゲームだから経験になるのよ」 萩スミレ
榊カスミは、トランプをダイヤのキング、クィーン、ジョーカーの三枚持ってくる。
「じゃじゃん。ジョーカーが当たれば、倍にしてあげるね」 榊カスミ
そう言うと、一枚ずつ、見せながら、置いていく。
真ん中にジョーカーがあるのは、分かる。
疑わしげに見詰める。紫織
「どれだ?」 榊カスミ
「・・・真ん中」 紫織
「じゃ 賭けても大丈夫でしょ」 榊カスミ
紫織は、一枚賭ける。
すると榊カスミが自分の有り金全部30枚ほどを出して、その一枚を混ぜてしまう。
「これあげるから。後、2枚出して」 榊カスミ
「えっ!」
紫織、2枚出す。
榊カスミはそのお金も一緒に混ぜてしまう。
「後、3枚、これあげるか」
目の前に出される札束。
「・・・」紫織は、3枚出す
「後、4枚だして、これあげるから」
目の前に出される札束。
「・・もう止めるから」
「これあげるから。後、3枚出して」 榊カスミ
「えっ!」
紫織、3枚出す。
「後、1枚、これあげるか」
榊カスミ、目の前に出される札束。
「・・・」紫織は、1枚出す
「後、4枚だして、これあげるから」
榊カスミ、目の前に出される札束。
「・・・も、もう止める」
「これあげるから。後、2枚出して」 榊カスミ
「えっ でも・・・」
紫織、2枚出す。
「後、3枚、これあげるか」
目の前に出される札束。
「・・・」紫織は、3枚出す
「後、4枚だして、これあげるから」
目の前に出される札束。
「・・・も、もう止める」
「これあげるから。後、3枚出して」 榊カスミ
「えっ!」
紫織、3枚出す。
「後、1枚、これあげるか」
榊カスミ、目の前に出される札束。
「・・・」紫織は、一枚出す
「後、4枚だして、これあげるから」
榊カスミ、目の前に出される札束。
「・・・も、もう止める」
「後、4枚だして、これあげるから」
目の前に出される札束。
「・・・・・・・」紫織、4枚出す
次々とお金が抜き取られて、目の前に出される札束が大きくなる。
「これあげるから。後、3枚出して、全部あげるからね」榊カスミ
「えっ!」
紫織、3枚出す。
「後、1枚、これ全部あげるか」
榊カスミ、目の前に出される札束。
「・・・」 紫織は、1枚出す
「後、4枚だして、これあげるから」
榊カスミ、目の前に出される札束。
札束がどんどん大きくなって、紫織の持ち金が寂しくなっていく
「さてと、どれだっけ」榊カスミ
「ま、真ん中」 紫織、引きつる
真ん中を開くとジョーカーでなくクィーン。
「ああ・・・・ず、ずるい〜」 紫織、真っ青。
「ふふふ、これが路上賭博。真似したら駄目よ。紫織ちゃん」 榊カスミ
「ったく。子供相手に2人でインチキして。ごめんね。紫織ちゃん」 萩スミレ
「こら! わたしじゃなくて、あんた達二人でしょう」 楠カエデ
「うぅぅ・・・酷い〜」
「これが本物の人生ゲームの醍醐味ってやつよ」
「しかも、路上詐欺の手口は、いくつもパターンがあるけど」
「なんと、全世界共通。インチキが原則」 榊カスミ
榊カスミが萩スミレと札束を山分けする。
「榊お姉ちゃんが目の前に札束を突き出して、萩お姉ちゃんがカードを摩り替えたんでしょう」
「当たり。他にも、1枚、手に隠す方法もあるの」 萩スミレ
萩スミレが試しにやって見せると、
テーブルの上は、3枚ともスカで、
手に平に隠している1枚を見せる。
「最初は、小額を賭けさせて、次第に小出しに出させるようにするの」
「2枚、3枚、1枚、4枚って波を作って、分けわからなくして」
「目の前に突き出す札束を大きくしていくのが味噌ね」
「既に渡した掛け金が惜しくて止められない」
「これが路上賭博の常套手段」
「周りの人は、みんなサクラで、カモがかかってくるの待っているの」 榊カスミ
「・・・まだ負けて無いもん。お金」 紫織が手を出す
事実、特権と地場を広げていた紫織は、当座の資金を失っても利権を担保に銀行からお金を借りると巻き返していく。
最後は、第二位の富豪にまで盛り返し、
萩スミレを極貧、榊カスミを貧乏にまで追い詰めてしまう。
「悪銭身に付かずね。榊お姉ちゃん、萩お姉ちゃん」 紫織、にま〜
「「・・・・・」」 ぶっすぅうう〜!!!
人生ゲーム、第二回戦開始
「・・・・楠先輩が味方したからよ」 榊カスミ
「道義的にね」
「お金だけに目が眩んで株券まで、賭けなかったからでしょう」 萩スミレ
「路上に株券、持ち歩かないじゃない」 榊カスミ
「路上で億単位の金をかける人間もいないけどね」 萩スミレ
「あれは賭けじゃなくて盗るって言うのよ」 紫織、むすっ!
「紫織ちゃんは、路上詐欺に近付かないようにしようね」 榊カスミ
「見つけたら画像撮って、お姉ちゃん達のところに送ってあげる。違法でしょう」
「詐欺賭博だから捕まえても良いんだけど」
「刑務所に空が無いとすぐ出されちゃうから・・・」
「あと、撮って送るときは見つからないようにしてね」
「ヤクザと組んでいることもあるから」 萩スミレ
「ヤクザと非ヤクザの境界線も曖昧だけどね」 榊カスミ
「警察もヤクザが怖いんだ」
「ヤクザは違法行為ができるけど、警察はできないのが辛いのよね」 萩スミレ
「問答無用で射殺できるなら、根絶やしに出来るんだけど」 榊カスミ
「それ怖いって」
「ヤクザと事を構えるというのは、そういう事なのよね。現行法じゃ戦えないもの」
「偽善者の拝金専属弁護士も付いているし」
「組織じゃなくて、個人攻撃してくるし」
「警官も家族があるから他人のために家族を犠牲にしてって厳しいもの、補償少ないし」
「やるなら、組を全滅させるだけじゃなく、組員全部、息の根止めないと」 楠カエデ
「基本的人権って、善人も、悪人もあるから」 榊カスミ
「正義の味方じゃないの。警察って」 紫織
「正義を通すと独裁化するから・・・・刑事ドラマも、そこまでやらないでしょう・・・・」 萩スミレ
「刑事ドラマじゃなくなるし・・・それとも・・必殺シリーズ・・・」 楠カエデ
「ヤクザって、そんなに強いのか・・・」
「弱点もあるけどね」 楠カエデ
「ご、どんな?」
「ヤクザだけじゃないけど。権力、財力、暴力の三つが癒着している状態が一番強いの」
「でも勢力争い、利権争い、利益配分で分裂して孤立した時」
「そういう時は、法律を適用して、バッとやっちゃうみたいな」
「ほら、警察も手柄を立てて出世しようとする時もあるし」
「官僚も代替わりで成果を見せようとするときが、あるから」
「どんなに偉ぶっていても分裂するときは、分裂しちゃうし」
「時々、あるでしょう、政治家、官僚、社長、ヤクザが吊るし上げられるとき」
「前もって相手にどんな弱みがあるのか、相手の立場に立って知っておくのが良いわね」 榊カスミ
「無いように見えて健康上の理由で、あっという間にいなくなったりするから意外と脆かったり」
「諸行無常だから」 楠カエデ
「なんか、お姉ちゃん達。シビアすぎ」
「紫織ちゃん、相手が乞食と泥棒しかいない場合、どっちと付き合う?」 榊カスミ
「・・・どっちもいや」
「他に男がいなくても」 榊カスミ
「・・・泥棒」
「じゃ 善良な貧乏人と搾取しているお金持ち」 榊カスミ
「んん、辛うじて貧乏人」
「冤罪の受刑者と自由なヤクザ」 榊カスミ
「んん・・・微妙」
「意外とシビアでしょう」
「大多数の中間層を抜いた極端な分け方だけど、わたしも同じかな」
「人間って、思ったより正義に生きられないのよね」 榊カスミ
「なんか悪党になりそう」 紫織
「ほら、カスミ、スミレ。あんた達。いい加減にしなさい」
「紫織ちゃんが屈折したらどうするの」
「人一倍、苦労して、まっすぐ、良い子に生きているのに」 楠カエデ
「いや、それほどでも、ないけど・・・」
「強いのは、確かね。体育会系の屈強な強姦魔を半殺しにしたんだから」 榊カスミ
「・・北島先生は、どうなんですか?」
「あばらが三本、右腕一本、両足が二本が、まだ折れているから」
「もうしばらくは、大丈夫よ。反省しているみたいだけど」 楠カエデ
「本当に反省しているんですか」 紫織、疑い気味
「怪我して動けない時は、人間、気弱になるから」 萩スミレ
「なんか、警察病院から出てくるのいやだな」
「でも、自分の立場を決定的に不利にしたビデオを撮った紫織ちゃんと、小山君が狙われたのは事実ね」
「でも、不運な方を選んだのは確かみたいね」 楠カエデ
「わたしが悪いというの?」
「いいえ。警察としては助かるわね」
「証拠がきちんとしているのなら面倒な証拠探しをしなくて良いし」
「今度から復讐されないように、わからないように撮らないとね」
「でも、盗撮は駄目よ。犯罪だから気をつけてね」
「言っている意味は分かっていると思うけど」 楠カエデ
「もちろん」
「でも、いい気味よ。女ばかりが損しているんだから」
「こういうのが、もっと、増えたら良いのに」 榊カスミ
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第10話 『憎悪の恐怖。そして、婦警さん』 |
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