月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

   

第11話 『新こもれび古本店』

 紫織は、婦警達との会話から犯罪の増加と、警察官のモラル低下が反比例ししていること。

 検挙率の低下は、犯罪の総量と反比例していること。

 強者に対して法を曲げ、弱者に対して法を適用。

 警察による弱い者虐めも着実に増えていると実感する。

 

 「・・・紫織ちゃんは、絶対にやったら駄目だからね」 私服の婦警

 「・・・うん」

 などなど、あまりの悪どい手口に引きつりながら頷く。

 まるで悪党養成教育だ。

 さらに悪党事情まで耳にする。

 そして、自己矛盾を押して、凛々しく仕事に向かう婦警の生態も見られる。

 しかし、婦警の独身寮は、意外と世俗的で面白みがある。

 私服に着替えた婦警さんに花札とマージャンを教わったのも、

 警察の内部事情と、社会の裏表と仕組みを教わったのも。

 人間の上下関係を体験談から聞いたのも、この頃だった。

 「・・・・紫織ちゃん。ここだけの話しだからね」 私服の婦警

 「うん」

 警察という職業を選択したのは、人より正義感があるだけの違い、と思える。

 さらに実際に取り締まった悪党連中の手口を実技で教わる。

 犯罪話しの愚痴やお喋りが自分だけ、と思っている婦警が意外に多く。

 総量は、相当なものになっていく。

 そして、婦警という新しい人脈は紫織にチャンスを与え、

 特に婦警の楠カエデと榊カスミ、萩スミレは良くしてくれた。

  

 

 屋台

 紫織は、楠カエデにラーメンを奢ってもらい、

 榊カスミ、萩スミレは、しょんぼり。

 「紫織ちゃん。まだ、怒ってる?」 楠カエデ

 「・・・・・」 むすぅ〜

 「ごめんね。紫織ちゃん」

 「・・・・・」 むすぅ〜

 「でも繋がっていたの一日だし、それなりに楽しかったし・・・ね!」 萩スミレ

 「・・・まあ、良いけど」

 「やさしい。紫織ちゃん」 萩スミレ

 「食べて、食べて」 楠カエデ

 「美味しい」

 「この屋台が、この辺で一番美味しいの。おでんもね」 楠カエデ

 「ありがとう。楠お姉ちゃん」

 「良いのよ。この子達が夕食、世話になっているし」

 楠カエデが二人を睨むと、榊カスミと萩スミレが引きつる

 「・・ったく。子供に晩飯作らせてどうするのよ。情けない」

 「だ、だって、美味しいし。味噌汁作れるし」

 「この前のカレーなんて、商売できるよ」 榊カスミ

 「・・・お金払ったし」 萩スミレ

 「お金の問題? プライド無いの? プ・ラ・イ・ド」

 「13歳の女の子におさんどんさせるなんて」

 「でも、一食作るのも三食作るのも同じだから。けっこう食費も助かるし」

 「偉い、紫織ちゃん。わたしが男だったら、お嫁さんにしてあげるのに」 榊カスミ

 「あんた達。婚期が遠のくよ」

 「榊先輩。男性化してる」

 「そ、そんなこと無いわよ。男が出来たら、やるときはやるわよ」

 「ふ・・・そんな付け焼刃で “美味しいよ” なんて言ってもらえるの。1回から3回までよ」

 「男は、美味しくないとき、黙り込むの。そして、飽きたら振られるよ」

 「え〜! 楠先輩。経験者語るですか?」 萩スミレ

 「その経験を少し、伝授してくださいよ。楠先輩。参考にしますから」 榊カスミ

 「・・・向上心と努力を怠ると、ふられるよ。マンネリ化していると思われると危ないし」

 「んん・・・意味深です」 萩スミレ

 「ふられたんだ♪」 榊カスミ

 「やかましい!」 ちょ〜ぷ!

 いでぇ!

 「・・最後にものをいうのは、女としての性格とスキルね」 萩スミレ

 「でもやっぱり、社会的評価も・・・」 榊カスミ

 「榊お姉ちゃん “警察辞めて興信所家業で大儲けする” というのは本当なの?」

 「んん・・・なかなか、思いっきりが付かなくて」

 「ったくぅ〜 最近の子は、すぐに金に目が眩むから警察のモラルが落ちるのよ」

 「だって、紫織ちゃんなんて、こんなに小さいのに独立経営者だし」

 「宮仕えも厳しいし、4期前の先輩も興信所に行っちゃったじゃないですか。今では年収・・・」

 カスミがカエデの耳元でコソコソ話す。

 「・・げっ!・・・・」 楠カエデ

 「わたし達の情報を幅広く、かき集めて儲けているんだもの」 カスミ

 「情報をそれだけ幅広く集められるのは人望があるからよ。あんたたち、無いでしょう」

 「「・・・・・・」」  落ち込む。

  

  

 北島住宅侵入の事情聴取が行われていた。

 侵入未遂、暴行未遂、暴行殺人未遂・・・

 北島の運命は大きく変わろうとしている。

 警察署は、角浦紫織を署の広報パンフレットで利用しているのか、

 轢き逃げのことで後ろめたいのか、厳しかったりする。

 

 そして、紫織は、日曜日、土曜日に三森ハルキと遊園地、公園、動物園を歩いたり、

 古本屋に束縛されず。働かずに過ごす感覚は価値ある時間で、のんびりと出来た。

  

 新しい古本屋

 一階が35畳分の57uの建物で二階建てで屋根裏に倉庫。

 紫織は、楠カエデ、榊カスミと一緒に改装したばかりの家に入っていく。

 「へえ〜 これが新しい紫織ちゃんのお店とお家か。古本屋には勿体無いね」 楠カエデ

 「一階は、全部、古本屋で二階が生活空間か、中学生なのに思い切ったことをするわね」 榊カスミ

 「カウンターがカッコいい」 カエデ

 「こうでもしないと大型古本屋チェーン店が出店してきたら潰されるし」

 「それに失敗してもテナント店として売れるから」

 「紫織ちゃんって、やり手〜 婦警をリストラされたら雇ってね」 カスミ

 「いいけど、警察は、リストラされないでしょう」

 「さすが、やり手の紫織ちゃん、良く知ってる」

 「だから不正があるのね」

 「あ〜ん。紫織ちゃん。それは言わないで〜 婦警は真面目なのよ」

 「下っ端は真面目じゃないと生きていけないから」 紫織、ぼそ

 「紫織ちゃんたら荒んでしまって、嘆かわしい」

 「あんたが紫織ちゃんのいる前で喋っていたことでしょう」

 「・・あ・・そうだっけ」

  

  

 3人は工事の進んでいる2階へと進む

 3畳の浴室、半畳のトイレ、12畳の3対1に仕切られたリビング&キッチンと6畳部屋が三つ。

 3LDKと、もう一つ、屋根裏の倉庫部屋。

 「紫織ちゃん。お婿さんがもらえるわよ。駅も歩いていけるし、素敵な商店街だし」 カエデ

 「とっかえ、ひっかえの通い婚よ」 カスミ

 ちょ〜ぷ!

 いでぇ

 「カスミ! なんてこと女子中学生に言うのよ」

 「あはは」

 「でも大丈夫なの? 紫織ちゃん」

 「北奉銀行が助けてくれたけど、両親の保険金でやってしまったから」

 「割安で信用できる業者さんで助かっちゃった」

 「法定代理人の人も弁護士も見張ってくれているみたいだし」

 「銀行がバックについていると得よね」

 「銀行には逆らえないから、悪質業者だって羊に化けるもの・・」

 「結局、日本文化って、人脈が大きいのよね」 カスミ

 「でも、こもれび商店街か・・・素敵じゃない」

 「二階から遊歩道を見下ろすと桜の木があるなんて・・・」

 「紫織ちゃんの発案なんだって?」 カエデ

 「わたしが、いったのは、木と花のテーマパーク型商店街にしようって」

 「あと “こもれび” の名称だけ」

 「いくつか提案したけど、ほとんどは組合と北奉銀行がやってしまったみたい」

 「それが、発案よ」 カスミ

 「でも、素敵な商店街になったわね」

 「前は東口側の南奈河町商店街に行ってばかりだったけど」

 「今度は、こっちに流れてくるわね」 カエデ

 「うん、客は増えているみたい。遊歩道がドラマとかに使われたし」

 「学校に行っている間も開けないとね」 カスミ

 「まだ給料を上げられるかどうか分からないし、信用できる人がいればね」

 「二階は完全に閉めることができるし、階段の下にもトイレはあるけど・・・・」

 「そうよね。アルバイトとか雇ってもね」

 「相手は確実に年上になっちゃうし、やりにくいよね」 カエデ

 「それに商店街の人にやっかまれてる感じがする」 紫織

 「新築建てたり、リフォームすると、どこでも、大抵そうだから」

 「神経質になったり、気にすると生霊に僻み殺されるわよ」

 「げっ」

 「まぁ 3、4年は、無神経か、図太く生きようね」

 「・・・・」 紫織は頷く

 

 

 

 “こもれび古本店”

 真新しい看板が取り付けられて古本屋が完成した。

 引越し業者に空テナントから運び込んだ本を決められた場所に並べていくと在庫の本が埋まっていく。

 自動販売機とテーブルと椅子が置かれ、常に客がいるように外から見えるようにしていた。

 その日、紫織が作ったものがテーブルに並べられ、

 古賀家、トオル、カオリ、シンペイ、法定代理人を呼び、完成披露パーティーをささやかに行った。

 トオルは、店の大きさと、真新しく広いリビング&キッチンに啓発され、

 カオリは羨望する。

 シンペイは、いつもと同じ。

 「紫織ちゃん。中学生で、これだけ料理を作れる子はいないよ」

 「いや。立派なもんだ。やっていけそうなのかい?」

 「貯蓄は、なくなったけど。客は増えると思うから」

 「しかし、アルバイトとか雇わないと売り上げは伸びないぞ」

 「分かってる。でも在庫の本もほとんど並べる事がで来たから」

 「それに北島先生のお陰で、リフォーム代も少し浮いたし」

 「本当。一時は、寝る場所も無いくらい段ボールで埋まっていたものね」

 「お陰で命拾いか、なにが幸いするか分からないわね」

 「うん・・・」

  

 そして、開店祝いに婦警や北奉銀行の職員が古本を持って来る。

 さらに新古本が納入される。

 綺麗な真新しい、「こもれび古本店」は、紫織の小さな城だった。

 一階の防犯シャッターと二階の生活空間の防犯扉は最新のもので、指紋や暗証番号で開けられる。

 警備システムは万全に近かった。

 そして、商店街の歩道全域が監視カメラで撮られている。

 余力の無い商店街の多くの店主は、寂しげ、と同時、集客に繋がると複雑。

 新装開店する角浦紫織の店を羨望の眼差しで見つめる。

 こもれび商店街の有力な集客店舗の一つになり、

 集客の相乗効果に繋がっていけばヨシで、

 魅力のある個々の店が増えれば、相乗効果で、さらに客が増える。

 問題は、開店時間だった。

 いくら有力な集客店舗でも、

 平日の午前から午後に閉まっては、商店街としてうまみが小さい。

 そして、商店街の不利益は、借金返済が滞る危険性があるため北奉銀行でも得にならなかった。

 そこで、角浦紫織、法定代理人、北奉銀行、こもれび商店街組合の会合でアルバイトを雇う事が決められた。

 結局、信用の置ける人材二人を北奉銀行で探し、銀行と組合が保証人となり。

 紫織がアルバイトを雇う。

 単純計算でアルバイト代を払っても、集客が増え利益が払えるのなら問題ないといえた。

  

 そして、杉山キョウコ(20歳)と鴨川ヒトミ(19歳)のアルバイト二人を雇うことになる。

 セーラー服を着た13歳の店主が学校に行く。

 九時頃にアルバイトが店に来て暗証番号で店を開けて10に開店。

 真新しさと床面積増加の相乗効果で客が入ってくる。

 保証人になっている組合と銀行も気になるのか時折足を運ぶ。

 集客は申し分なく、売り上げも見込みがあった。

 こもれび商店街全体の客足も増えていく。

  

 その日から、足立クミコ、沢渡ミナ、鎌田ヨウコ、白根ケイ、

 中山チアキ、沢木ケイコが交代で紫織の家に泊まる。

 新装開店した古本屋は、警備会社と契約していなかったものの、

 学校の経費で防犯は、高度だった。

 そして、報道こそされなかったものの、

 紫織が階段にトラップを仕掛けていた事が警察の間で知られるようになると。

 警察の情報に敏感な泥棒も、ここに入ろうという者はいなくなる。

 高い技術を持った泥棒が狙うのは、せいぜい防犯システムを破ってというレベルであり、

 殺傷を目的とする対テロ・ゲリラ戦用トラップに飛び込むなど論外だった。

 

  

 心配して、泊まりに来た中山チアキは、性格が強く、自然とリーダーになる風格がある。

 紫織が背伸びして、やることを自然に出来て、格の違いを見せ付けられる。

 その夜、紫織は、中山チアキに勉強を教えてもらう。

 「・・・・働くって、結構シビアね」

 「テレビ見る時間も遊ぶ時間も無いし。当然、勉強する時間も少しだけ」

 「うん。こっちの態度で売れ行きも変わっちゃうから・・・」

 「遊んでいるように見せられないし。でもアルバイトが入ってくれて助かったけど」

 「凄いのね。中学生なのに、こんなに綺麗な店のオーナ店主なんて」

 「有り金全部使っちゃった。資金が回収できなかったらお終い」

 有り金、全部はウソで余剰資金を温存していた。

 「でも凄いよ。自分で働いて生活して中学校に通っているなんて」

 「そう」

 「ねえ、紫織ちゃん。三森君と付き合っているの?」 軽い牽制

 「・・・・・・」 頷く紫織

 「やるわね。わたしや沢木さんが何度か、三森君に声を掛けたことがあるのに・・・」

 「で、でも三度、デートしただけだから」

 「・・・・・」 チアキが息をのみ

 「・・・・・」 紫織が息を殺す

 「紫織ちゃんから好きって言ったの?」

 「バレンタインチョコは、渡したことあるけど。それだけ・・・・」

 「ふ〜ん。三森君。紫織ちゃんのどこに惹かれたのかしら」

 『中山さん、怖い』

 「か、かわいいから、かな・・・」

 「・・・・」 じー 睨みつける。

 「・・・・」 思わず、上目使いになる

 「否定はしないけど・・・」

 「三森君になんて言われて、デートに誘われたの?」

 「プールバーに行かないかって・・・」

 「・・・・・・・」 チアキ、理不尽さに堪えている表情

 「・・・・・・・」 紫織

 「それ違う!」 チアキ。練習問題の一つを指差す

 「えっ!」

 紫織が練習問題を見る。

 英語の綴りを何度か書き直す

 「三森君。優しいからよ。きっと」

 「うん、三森君。優しい」 むふっ♪

 ムッとするチアキ

 『やっぱり気が合いそうにないよ〜』

 「でも、紫織ちゃんの料理が上手いのは認める」

 「三森君も美味しいって」

 「そう・・・・・」

 その後、勉強を終えて寝ることになったがチアキは頭が良く。

 中学一年と思えないほどスタイルも顔も良かった。

 一方、紫織は、自分が人並みと言うことを思い知らされる。

 「中山さんって、綺麗ね」

 「そう、自分で自分を見られないのが残念ね」

 「ほんとう。かわいそう。物凄くスタイルが良くて綺麗なのに」

 「自分で自分の姿を見れないなんて、鏡だと左右が逆に見えちゃものね」

 「そう」

 「・・・なんかウットリしちゃう」

 「変わってあげても良いよ。三森君とデートできるのならね」

 「どうしようかな〜」

 「わたし、諦めてないから・・・」

 「・・・・・・・・」

  

  

 校庭、シンペイとハルキ

 「古賀」

 「なに?」

 「おまえさ・・・本当は、角浦が好きなんじゃないのか?」

 「・・・・・」

 「角浦に劣等感を感じているから好きと言えないんじゃないのか?」

 「・・・・・」

 「否定しないのは、図星か」

 「・・・・・」

 「角浦が俺に憧れているのは、嬉しかったよ」

 「・・・・・」

 「本気だぞ・・・」

 「そう・・・」

 シンペイは、そう言うと去っていく

  

  

 休憩時間、古賀シンペイは、机の上につっぷしてまどろんでいる

 「古賀君。バスケット、大活躍だったね」 沢木ケイコ

 「うん・・・」

 シンペイ、声をかけられて不承不承に起きる

 『古賀君。にぶ〜』

 「意外とスポーツマンね。大友君に競り勝っちゃうなんて。同好会に入るの?」

 「う・・・名前だけ・・」

 「バスケットやってみたら良いかも。学校のバスケット部に挑戦できるじゃない」

 「うん」

 「古賀君って、好きな女の子がいるの?」

 シンペイは、教室の隅から、こちらを見ている、紫織、ヨウコ、ミナの方を指差した。

 「あいつ・・・」

 「そ、そうなんだ・・・」

 ケイコは引き上げて行く。

   

  

 紫織、ミナ、ヨウコ、ケイ

 「や、やっぱり、沢木のやつ。シンペイ君に手を出そうとしているよ」 ヨウコ、泣き

 「だから、朴念仁に堪えられなければ、古賀君と付き合えないから沢木じゃ無理」 ミナ

 「だけど、興味持っているもの」 ヨウコ、泣き

 「押し割って入れば良かったのに。手を出すなって」 ケイ

 「だ、駄目よ。沢木と一緒に並んで比較されたくないよ」

 「うん、沢木さんと並ぶとヨウコの顔怖いから」 ミナ

 「あ〜ん」 ヨウコ泣き

 「よしよし」 ケイがヨウコを撫でる

 「なに話してたのかな?」 紫織

 「ねえ、紫織ちゃん。なに話したか、シンペイ君に聞いてきて」 ヨウコ

 「鎌ヨの彼氏でしょう」

 「だって、沢木が本気で狙っていたら怖いもの」

 「負け犬」 ケイ

 「・・・・・・」 ヨウコ、落ち込み

 「でもシンペイ君がヨウコを指差して、沢木がどこかに行ったという事は諦めたんじゃない」 ミナ

 「そうそう、胸を張って」 紫織

 「もう、張ってる」

 「うぅ 慰めてあげない」

 「ああ〜ん。うそ、うそ!」

 「ったく」

 「大丈夫でしょう。古賀君のこと良く分かっているヨウコの方が有利よ」 ミナ

 「だから、不安なのよ」

 「なに? 何か、あるの?」 ミナ

 「いえない・・・」

 「え、なに」 ケイ

 「ぶっ!」 紫織、笑う

 「笑うな!」

 「え、なに、なに」 ミナ

 「ガキだってこと・・・チョロいよ」

 「え、なに、なに?」

 「なに?」 ケイ

 「絶対! 教えない」

 ヨウコは、ムッとする。

 紫織は笑い続ける。

 ミナとケイは分からない。

  

  

 淀中学は、北島先生の生徒暴行未遂が大きく報道された後、しばらく静かな日が続いた。

 中学生生活だけでなく、

 紫織は、古本屋家業に精を出さないといけないため、ハルキとデートに行く暇もなく不利。

 しかし、ハルキは、時々、古本屋を手伝いに来る。

 紫織は、クミコと一緒におしゃれな服を買いに行き、それらしい小物を購入。

 普段着でもカッコ良いハルキと、余所行きを着ても釣り合わない紫織は、焦燥感しかなく。

 極度な緊張を強いられる。

  

  

 沢木ケイコが泊まりにくる。

 中山チアキより小柄で、その分、ケイコの方が、かわいい。

 「玄関がステンレス製で頑丈になっている」

 「学校が弁償してくれたの、最新型で暗証番号や指紋で開けられるんだ」

 「じゃ 一安心ね」

 「うん」

 『ねえ、紫織ちゃん。古賀君。いつもああやってマンガを読みに来るの?』

 店内においているテーブルでコーヒー缶を飲みながら本を読んでいるシンペイを見つめる。

 「うん」

 『怒らないの、完全に冷やかしでしょう』

 『人が入っている方が、お客が入りやすくて長くいるの。だからサクラ』

 『古賀家では、夕食お世話になっているし』

 『そうなんだ。古賀君って、なにが趣味かな』

 『マンガ・・・アニメ・・・』

 『ほかには無いの?』

 『無いと思うけど』

 『女の子に興味ないのかな』

 『鎌ヨと付き合っているけど。マンガ方が好きかも』

 『ふ〜ん。どこまで行ってるのかな』

 『土日は、二人で出かけているみたいだけど。せいぜい散歩かな』

 『誘惑しちゃおうかな・・・』

 『シンペイちゃん。女の子の扱いとか知らないよ』

 『マンガオタクで自分から喋りかけること、ほとんど無いし、つまんないと思うよ』

 『だ・か・ら、私が目覚めさせて、その気にさせちゃおうかな』

 『うぅ 悪女ッポイ』

 「紫織ちゃん。歯ブラシ買ってくるね」

 ケイコは、そう言うとシンペイに声をかけた。

 ケイコが誘い、

 不承不承に本を戻して立ち上がるシンペイの腕にケイコの腕が絡んだ。

 シンペイは、突然のことに動揺し赤くなり、

 ケイコは、紫織に手を振りながらシンペイと出て行く。

 紫織は、思わず携帯で撮影し、これをヨウコに送るか、かなり悩む。

 商店街で歯ブラシを買いに行くなら10分もかからない。

 しかし、適当に気に入らないなど言って時間をかけると、

 さらに腕を組んだまま商店街中を歩き回ることが出来そうだ。

 絶対に嫌われない、腕を払いのけられない自信があるからできる技だと確信する。

 紫織は、真似できない。

 ハルキ相手に、そんなことをすれば周りからあの女は、なんて事をするんだと犯罪者のように見られるに決まっている。

 ため息。

 ヨウコに教えるべきか、教えないべきか。

 やめさせようと努力した。やめた方が良いとケイコに言った。

 ケイコが強引だっただけ。

 自分は、友達として最低限の義務を果たしている。

 悪くない。

   

 

 商店街を、あの二人が腕を組んで歩く、

 明日の昼には、商店街全部が知る事になるだろう。

 当然、ヨウコの耳に入るのも時間の問題。

 問題は、沢木ケイコが本気か、遊びなのか、それだけだった。

 本気なら口出し出来ない。

 しかし、遊びなら邪魔してやろうと思うだけ。

 客観的に沢木ケイコは美人で、本気なら鎌田ヨウコが圧倒的に不利。

 紫織は、どうしたものかと悩みながら携帯を見る。

 いまごろ、シンペイは、ケイコの色香に発情している。

 それどころか、欲情しているかもしれない。

 ケイコとシンペイの組み合わせは、紫織とハルキの組み合わせに匹敵するほどアンバランスだった。

 ハルキとケイコ。シンペイと紫織の組み合わせなら誰も文句を言わない。

 しかし、これが互い違いだと、物言いが入る

 “ちょっとその組み合わせ待った” だ。

 このことをヨウコに教えたところで、どうなるだろうか。

 ヨウコを不安にさせてしまうだけ、

 修羅場をわざわざ作って、楽しむような資質は持ち合わせていない。

 恋敵に取られないような、予防をしなかったヨウコが悪い。

 そして、明日は我が身。

 チアキがハルキに対し、同じ行動を取らないと誰が保障するだろうか。

 かといって、しつこくしていいものでもない。

 美人と不美人が同じ行動を取れるわけが無かった。

   

  

 しばらくするとシンペイとケイコが腕を組んだまま、戻ってくる。

 一時間半だ。

 どうやらデートもしてきたらしい。

 シンペイの頬が赤く。

 目は、ケイコの色香に惹かれているのがわかる。

 ケイコは、してやったりという雰囲気だ。

 紫織は、シンペイを不実な男だとなじろうかと思ったものの、シンペイが悪いことをしたわけではない。

 『明日は我が身か・・・・』

 ハルキとチアキが腕を組んで見詰め合っている姿が目に浮かんで、ため息。

 美人は得。

 ケイコは、さらに頭が良く、押しもある。

 どこが気に入ったのか、古賀シンペイを誘惑するくらい簡単なことだろう。

 シンペイにすれば高嶺の花が言い寄ってくるのだ。

 数段落ちる鎌田ヨウコを捨てるくらいするだろう。

 「紫織ちゃん。食べてきちゃった。お土産」

 ケイコは、カウンターの上にハンバーガーセットを置く、

 「ありがとう」 紫織、ため息

 『鎌ヨ。泣くだろうな』

 「帰るよ」 シンペイ

 「うん。シンペイ君。また明日ね」

 「うん」

 シンペイは、帰って行く。

  

  

 紫織は、古本店を閉める。

 「本気なの沢木さん」

 「本気よ」

 「シンペイちゃんは、マンガオタクで頭悪いし、無口で出世も出来そうに無いし、付き合っても良いこと無いよ」

 「紫織ちゃんは生活が、かかっているから、そういう事を含めて、考えているけど」

 「わたしは、学生だし、シンペイ君が好きなの」

 「沢木さんは、綺麗で頭も良いから、もっと良い男を捜せると思うけど」

 「・・・たとえば?・・・・三森君?」

 どきっ!

 「む、難しくないわね」

 ドキドキ

 「三森君と付き合うの、大変でしょう」

 「・・・・・うん」

 「紫織ちゃんを見てて良く分かった」

 「たぶん、わたしでも三森君と付き合うの大変だもの」

 「でもシンペイ君なら気が楽なの」

 「そして、気が楽な割に良い男だもの」

 「沢木さんは、どうして、シンペイちゃんが好きになったの?」

 「わたしが小山君が大友と相楽に復讐するのを止めようとしたのに」

 「古賀君が、そのまま小山君に復讐させたとき、かな」

 「復讐させた事が結果として良かったかどうか、まだ分からないと思うけど」

 「あれで元三組・四組がシンペイちゃんに対して反感を持ったんだから」

 「善悪じゃないの。わたしが止めようとクラスを扇動したのに彼が反対して止めたから」

 「人の偽善的な志向とか、人間関係の勢力比とか読めない。マンガチックな思考よ」

 「小山君一人を味方するより、一組と四組の方が多いんだから」

 「普通なら小山君を悪者にして、大友君や相楽君の味方して収めるよ」

 「だからといって、マンガチックが悪いわけじゃないでしょう」

 「紫織ちゃんが、お友達の肩を持ちたい気持ちは分かるけど」

 「・・・・」  紫織

 「味方してくれる?」

 「本気なら、馬に蹴られたくないから邪魔はしないけど味方はしない」

 「それで結構」

 「でも、正攻法でシンペイちゃんを誘惑するなんて。アニメ映画から誘うかなと思ったのに、さすがね」

 「私自身を見て感じて欲しいんだもの、アニメなんか見て欲しくない」

 『・・・鎌ヨ。かわいそう』

 紫織は、ヨウコに同情する

  

  

 学校。

 一年D組で動揺が広がる。

 学年で一番、美人と思われている沢木ケイコが古賀シンペイに接近していたからだ。

 焦ったのは、鎌田ヨウコ。

 ケイコと張り合うのは無謀に近く。

 ヨウコは、一歩引いて落ち込む。

 「もう駄目かも・・・」

 「わたし、言ったのよ」

 「沢木にシンペイちゃんは、やめて、もっと良い男を捜した方が良いって」

 「それで・・・・」

 「“それは、三森君とか” って」

 「それで・・・」

 「・・・・“む、難しくないと思うけど” って、言ったけど・・・・・」

 紫織、口篭もる

 「それで・・・」

 「“わたしでも三森君と付き合うのは大変だって”」

 「どうして好きになったのか聞いたの」

 「そしたら、沢木さんが小山君が大友と相楽に復讐するのを止めようとしたでしょう」

 「そのとき、古賀君が、そのまま小山君に復讐させたとき、好きになったって」

 「はぁ〜」 ヨウコ、落胆

 「鎌ヨ。まだチャンスはあるから。気を落としたら駄目よ」 ミナ

 「あるかな〜?」 ケイ

 「紫織ちゃん。昨日、何かあった?」

 「シンペイ君。沢木を見る目が違うんだけど・・・・」

 「シンペイちゃんに案内させて、一緒に歯ブラシを買いに行ったけど・・・」

 「・・・・」

 「夕食も一緒にしたみたいね」

 「いやな予感がしてたのよ。沢木が泊まるって聞いたとき・・・」

 「こんなことになるなら、わたしも手料理くらい食べさせてあげれば良かったな・・・・・」

 「うちで作って食べさせて、あげたら良いかも」

 「たぶん、別れ話しを切り出されるよ。惨め・・・」 ヨウコ泣き

 「シンペイちゃん。結構、優しいから、しばらく、ズルズルよ」

 「すぐに別れ話しなんてしないよ」

 「それも残酷かな」 ミナ

 「それに紫織みたいに美味しい料理作れないし」

 「沢木と比較されたら。良いところ無いし」

 「鎌ヨ。外見でも頭脳でも負けているんだから」

 「性格と・・・沢木のどっちが美味しい料理を作れるかでしょう」

 「特訓よ。このままだと、負け犬よ」 ミナ

 「甘かった」

 「無口でマンガオタクのシンペイ君を好きになる女の子なんて出てこないと思っていたけど」

 「よりによって、クラスどころか学年第一位の沢木が出てくるなんて・・・」

 「わたしだって、中山さんに宣戦布告されたわよ」

 「それって厳しいかも、中山さんと沢木さんって、学年でも双璧の美人よ」 ケイ

 「似合うのよね。三森君と中山さん。王子と王女そのもの」

 はあ〜

 「紫織ちゃんは、戦意喪失していま〜す」

 ミナが紫織の後ろに向かっていう

 『本当! 紫織ちゃん。三森君とのこと諦めてくれるの?』

 チアキが後ろから紫織に囁く。

 「・・わ・・・わたしは、私なりに、がんばるから」 ドキドキ

 紫織は、チアキの色香に気後れ。

 「そういう風にくっ付くとさぁ 完璧! に負けているわね」 ヨウコ、客観的評価

 「そういう風に強調しなくても良いじゃない」

 『三森君をビリヤードに誘っちゃおうかな』

 チアキが紫織の耳元で囁く

 「そんな・・・・」 紫織、泣き

 「負けるな。紫織。正妻の意地を見せろ」 ミナ、ゲンコツ

 「気合よ、気合!」 ケイ

 『スケートにしようかな・・・・・』

 「気合よ。紫織。女の意地よ」 ミナ、ゲンコツ

 「根性よ。紫織、踏ん張れ」 ケイ

 「中山チアキさん。わたしがいるから・・・三森君とは・・友達以上にはなれないよ」

 ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ

 「おーし。紫織。偉い。良く言った」 ヨウコ、ゲンコツ

 「さすが、紫織ちゃん!」 ケイ

 『強気な紫織ちゃんって、魅力的〜』

 チアキは、紫織の頭を撫でると微笑みながら去っていく、

 紫織は、力尽きて机に沈む。

 「感動しちゃった。紫織ちゃん。偉い。さすが副委員長」 ミナ

 「中山さんと三森君を取り合うなんて、紫織ちゃんは、私たちの希望よ」 ヨウコ

 「・・・いま・・・中山さんに後ろから抱きつかれて囁かれたとき・・・」

 「“男だったら良かったのに” って、思った」 紫織、負け犬

 「「ぶっ!」」 ミナ、ケイ

 「あははは」 ヨウコ

 「笑い事じゃないでしょう。鎌ヨ。あんたも沢木さんと張り合ってきなさいよ」 紫織。沈んだまま。

 「はぁ〜」 ヨウコ。落胆。

 窓際でシンペイに勉強を教えるケイコに干渉できる者はいなかった。

 「胸の大きさと腕力だけなら勝てそうだけど・・・・」 ヨウコ。

 ヨウコも紫織と同じように机に沈む。

 「負け犬〜」

 「戦意喪失ちゃって、二人とも情けない」

 「あの時、命がけで、わたしを引っ張って逃げた角浦紫織は、どこに行ったの」 ミナ

 「逃げるのはね・・・得意よ」

 紫織。まだ机に沈んでいる。

 「まだ、紫織ちゃんの方が有利なんだから大丈夫よ」

 「鎌ヨもね。付き合いは鎌ヨの方が長いんだから」 ミナ

 (紫織 & ヨウコ) × どんより。

 「ミナ〜 いまは、そっとしてて、放課後までに立ち直るから」

 「右に同じ」 ヨウコ

 ミナは、諦めて白根ケイとお喋り。

  

  

 D組の何でも同好会。

 大友シゲル(一組)   進藤ジュン(三組)

 久保木モトヤ(四組)  大田シンゴ(三組)

 古賀シンペイ(二組)

 五人は、体育の時間で選抜され、もっとも希望が持てるチームだった。

 それ以外に希望的なのは、相楽イチロウが柔道で強かったこと。

 女子では、鹿島ムツコ。島津カズエ。中山チアキの三人がテニスで優れていた。

 そして、淀中バスケット部は、少しずつ力をつけてくる “なんでも同好会” が目障りになったのか、

 早めに潰したくなったのだろう。

 D組の “なんでも同好会” に挑戦してきた。

 放課後の体育館

 塾をサボった生徒。暇な生徒が200人近く残って見ていた。

 相手は、1年A・B・Cから選び抜かれたバスケット部一年の選抜チーム。

 平均身長差10センチ。

 D組の一番背の高い大友と、

 ABC組選抜チームの一番身長の低い二人が同じ身長だった。

  

  

 ゲーム開始

 ABC選抜チームとD組同好会チームの平均身長差は大きかった。

 バスケット部のパスはD組同好会チームの頭上を越えて行く。

 なんでも、同好会チームは、明らかに不利で、

 元二組三組の進藤ジュン、大田シンゴと

 元一組四組の大友シゲル、久保木モトヤ、久保木モトヤのチームワークは悪い。

 それでも、D組最強のバスケットプレイヤの大友シゲルを外すわけに行かない。

 単純に勝とうとする古賀シンペイだけが大友シゲル、久保木モトヤとコンビネーションが良かった。

 そして、選抜チームは核になっている古賀を抑えると、

 ますます、点差が開いていく。

 古賀シンペイの身長は、1年で平均でもバスケットの平均より低くい。

 このまま負けてしまうのか、という空気がD組に漂い。

 ABC選抜チームが楽勝ムードのまま、勝つ気配を見せる。

 そして、1年A・B・C組、2年、3年の大連合軍の応援団が一年D組を圧倒する。

 特に元奈河小出身の先輩のやじは酷く、

 D組の応援団は、次第に小さく、固まっていく。

 もはや、二組・三組と一組・四組の垣根を取り払っても絶望的。

 しかし、点差が開く中で、ABC選抜チームは焦り始める。

 古賀シンペイの運動量だけが落ちず、動きが読めないでいた。

 疲れを見せ始めるABC選抜チームが古賀シンペイに翻弄され、カットされる。

 疲労していく両チームの中、

 一人、汗だくになりながら運動量で落ちないシンペイにD組は感動していく、

 バスケット部の一年選抜チームが先に選手の交替を出せるわけがなく、点差の開きが止まる。

 シンペイが指示を出した。

 それまで予測されていたパスルートがシンペイの指示で変わり、点差が徐々に縮まっていく。

 疲れを知らないシンペイの動きが同好会チームを奮起させ。

 D組全員の声援をあげさせる。

 点差が縮まるに連れ、それまで二組・三組と一組・四組の壁が消え、

 シンペイの指示がなくても勝つためのパスが出されていく、

 感動は、次第にD組からA・B・C組。

 そして、二年、三年へと飛び火して、古賀シンペイへの声援が起こった。

 シンペイがセンターサークルでカット。

 投げたボールが時間切れスレスレでリングを通ったのは感動的だった。

 孤立無援のD組は、善戦したと言って良かった。

 なんでも同好会50点。

 バスケット部選抜一年チーム52点。

 一年D組は負けてもクラスに希望を与えて喜び。

 ABC組連合に不安を抱かせ、勝ったはずの一年ABC連合が気落ちする。

 古賀シンペイの活躍に感動した生徒は多く、

 D組の元二組・三組、元一組・四組のわだかまりも一瞬だけ消えていた。

 しかし、一年D組の古賀シンペイ、角浦紫織、石井ショウヘイ、白根ケイを別格扱いは変わらず。

 D組全体のイメージを上げることは失敗していた。

 

 

 

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第10話 『憎悪の恐怖。そして、婦警さん』

第11話 『新こもれび古本店』

第12話 『日銭を稼がなきゃ』

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