月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

   

 第12話 『日銭を稼がなきゃ』

 なんでも同好会が善戦、興奮冷めやらず、

 なのだが家路に戻る紫織は、どんよりしていた。

 『あの感動は、どこに行ったのやら・・・』

 鎌田ヨウコと沢木ケイコが泊まると言い出したのだ。

 後ろで大きな買物袋を抱えた二人は無言の冷戦。

 “料理を作るから台所を貸して” と。

 二人ともバスケットで活躍したシンペイを手料理で、労おうという考えは、一致している。

 「シンペイちゃんに料理で美辞麗句を期待するのは止めた方がいいよ」

 「不味くなければ何も言わない朴念仁だから」

 “シンペイは作り甲斐の無い男だ”

 ショックは小さい方がいい、と、前もって二人に伝える。

 もう一つ、広くなった台所でも対立する二人が作ると、どうなるか、

 想像するだけでぞっとする。

 紫織は、携帯でカオリに電話する。

 シンペイちゃんの彼女二人が手料理を作りたいと。

 そして、古賀家の台所を貸して欲しいと。

 返事は、

 “えぇ〜本当に♪”

 で古賀家の主婦は、ご飯だけを作ることにして、夕食のおかずを放棄。

 シンペイの彼女候補二人に台所を明け渡してしまう。

 鎌田ヨウコと沢木ヨシコは、くじを引くと鎌田ヨウコが角浦家の台所。

 沢木ケイコが古賀家の台所を使うことになる。

 紫織は、古賀家と自分の家を行ったり来たり、

 古賀家の夫婦は、沢木ケイコの美人さに狂喜、驚嘆しているのがよくわかる。

 最大の当事者であるシンペイは古本屋で、いつものテーブルに座ってマンガを読んでいた。

 『こんなマンガオタクのためにヨウコとケイコは、女の意地を賭けて戦っているのか・・・・』

 紫織は、世の不条理に呆れる。

   

  

 シンペイは、バスケットで両陣営フリースローレーン間の攻防で身長差を感じさせないほど活躍した。

 センターサークルでカットして投げたボールが時間切れスレスレでリングを通ったのは感動的だった。

 同一人物と思えないのは、わたしだけだろうか。

 それとも、ヨウコとケイコには違う風にシンペイが見えるのだろうか。

 それでも最近、シンペイが異性に目覚め始めたのは、分かる。

 時折、視線を感じる。

 特にいやらしい視線というのではないが、紫織を女と意識して見詰めているような目だ。

 これは、沢木ケイコの手柄だろう。

 しかし、無理やり目覚めさせて良いものか、怪しい。

 少なくともマンガと同レベルで女性に関心を持っているなら成長したと考えて良いかもしれない。

  

 

 二時間後、

 鎌田ヨウコと沢木ケイコが作った料理がテーブルの上に所狭しと並べられる。

 鎌田ヨウコのイタリアンと沢木ケイコのフレンチの対決。

 経験不足ながら一生懸命に作ったご馳走だろう。

 ヨウコとケイコは、誰がどれを先に食すか注視。

 トオルもカオリも緊張する。

 ・・・・・・・・・・・

 何も考えていないシンペイは、いつものように黙々と食べ始める。

 紫織、カオリ、トオルは、シンペイを小突いてやろうか、という気持ちを抑えながらヨウコ、ケイコに同情する。

 『こういうやつなのよ。こいつは〜 誰が何を作ったものかどうでもいいのよ』

 紫織がため息

 「ど、どれも美味しいわね。ねっ。シンペイ」

 カオリは、なんとか、取り繕うとする。

 「お、おう、中学生でこれだけ作れば、たいしたものだ。な。シンペイ」

 トオルも、せっかく来たシンペイの恋人候補を傷付けまいと必死。

 『き、緊張のあまり味が分からない〜』

 「・・・・紫織ちゃんの作った料理が美味いよ」 シンペイ。ポツリ

 「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」

 『げっ! こっちにふるな!』 紫織、泣き

 瞬間的に冷たく重たい空気が辺りを覆い。

 殺傷能力の高そうな視線が紫織に刺さる。

 「や、やだ。わたしのは、庶民的な料理だから。ひ、比較にならないよ」 紫織、焦る。

 そして、極めて、気まずく。どうしようもない空気が漂う。

 「し、紫織ちゃんは、ほ、ほら、作るの、な、慣れているから」

 カオリは、バカ息子の弁護をする。

 「あ、紫織ちゃんは、お母さんより美味しい時があるから比較したら駄目だ」 トオルの墓穴。

 さらに空気が重く凍りつく。

 そして、強力な視線が増える。

 空気を読めないシンペイが黙々と食べてしまうと、さっさと部屋に帰っていく。

 カオリとトオルは、ムッとしているヨウコとケイコを何とか、なだめようとする。

 『シンペイちゃんのバカたれ!!』

 「・・・コ、コーヒーを入れるわね」

 カオリがコーヒーを入れ、高そうなケーキを出す。

 トオルは、空気に堪えかねて店の掃除を口実に逃げ、

 「ごめんなさいね。ああいう子で。もう少し気を使えば良いんだけど」

 ケーキで少しだけ空気が和むのは、中学生だからだろう。

 「い、いえ、紫織ちゃんの料理が美味いの知っていますから」 ヨウコ

 「そ、そうなの。わたしも、手抜きできなくて」

 「ふ〜ん。紫織ちゃん。誰のために作っているのかな」 ケイコは、ムッとしたまま

 「わ、わたし?」

 「わたしは・・・・料理が好きなだけだから・・・誰のためとかないけど」 汗々

 「美味しい料理が出来る方が良い結婚が出来るものね。紫織ちゃん」

 「それは、紫織ちゃんならシンペイ君の相手でも良いという事ですか?」

 「えっ! うちの子なんて、女の子に相手してもらえるだけでも御の字ですから」

 「それに、三人とも、まだ中学生なんだから、のんびりと構えていた方がいいのよ」

 「慌てて相手を探さなくても人間なんて、コロコロ変わってしまうし」

 「結婚なんて考えるのは20代からで十分」

 「いまはね、自分自身の可能性を高める時期なんだから」

 「人のことなんて気にしないで、自分自身を見詰めた方が良いのよ」

 「自分自身を高める人」

 「人のためになる努力をしている人は結果として輝いて見えるし、もてるからね」

 やはり、年の功はある。

 3人とも、大人しく、おばさんの話しを聞いて紫織の家に戻ってくる。

 「紫織ちゃん。ずるい〜 三森君だけじゃなくて。シンペイ君もキープしているんだ」

 「しかも、古賀家からも認められているし」 沢木ケイコ。むくれる

 「そ、そんなんじゃないよ。ただの幼馴染だから」

 「よくよく考えると幼馴染なんだから、何か、あるわよね」

 「な、何も無いわよ。何も・・・・」

 「本当かしら・・・」

 「本当かしら・・・」

 「共同戦線張らなくても大丈夫だから・・・ただの幼馴染だから」

 紫織は、疑いの目で見られて引きつる。

 「でも、誰も泊まりに来ない時は、一品持って夕食を古賀家で食べるんでしょう」

 「それって、物凄く有利よね」

 「シンペイ君も古賀家全員も紫織ちゃんの料理が美味しいって認めているし」

 「餌付けされているし」 ヨウコ

 「餌付けじゃないって」

 「一番の強敵かも」 ケイコ

 「うん。紫織ちゃんが、その気になればトンビに油揚げね」 ヨウコ

 「だから・・・・シンペイちゃんは、恋愛の対象じゃないから」

 「紫織ちゃん。今日のシンペイ君。カッコ良くなかった?」

 「カッコ良かった。幼馴染を自慢できることって少ないから」

 「それだけ〜」

 「・・・・うん」

 「“あ〜ん。もうあげても良い〜” とか思わない」

 「うそ〜」

 「ちょ ちょっと、沢木。あんたね。無茶苦茶言わないでよ」 ヨウコ、焦る

 「鎌田は、思わないんだ」

 「・・・お、思わないこともないけど・・」

 「げっ! 鎌ヨ」 紫織

 「だから、その瞬間だけよ」

 ケイコのセリフに紫織とヨウコがホッとする

 「わ、わたしも・・・」

 「・・・ははは」 紫織

 完全無欠の美人、沢木ケイコの言動とも思えず。呆れる

 「なに?」 ケイコ

 「まあ、そういう感覚は、わからないわけでもないけど」 紫織

 「紫織ちゃんって精神的にタフなんだ」 ケイコ

 「・・どうして?」

 「だってさ。両親がいないでしょう」

 「危ない目にあっているのに。男にしがみ付いて行くようなところが無いじゃない」

 「えぇ〜!」 紫織。引く

 「・・・そういえば、紫織って精神的に安定してる」

 「心理学とかだと両親が揃っていないと。歪になるんだよね」

 「お、男に、し、しがみ付くって・・・沢木さんって。凄い露骨な指摘」

 「そうそう。沢木。学園の憧れの的なのに表現が、けっこう露骨」

 「ふっ どうせ、ろくなこと考えていないんだから、勝手に外見に憧れてれば良いのよ」

 「・・・そ、そういうのは、まだ早いかなって」

 「・・・分かった。男の子が経済的に自立していないから物足りないのか」

 「いま、くっ付いても負担になるだけだものね」

 「そ、それも、打算的過ぎ・・」

 「沢木って分析好き」

 「・・・客観的にわたしを見てどう見える」

 「ち、知的な美人」 ヨウコ。いやいや搾り出して言う

 「期待には、応えなきゃ」

 疑いの目で見られながらも、それなりに楽しい時間を過ごしたりする。

 店を閉めて風呂に入る。

 そして、テレビゲーム。

 それが終わって並んで寝るとケイコの綺麗さに呆れる。

 掛け値なしの美人で、三人で歩けば、ヨウコも、紫織も、オマケ。

 引き立て役でしかない。

 それでありながら、シンペイは相変わらず。

 普通の男ならのぼせ上がって、何とかケイコに近付こうするものだが・・・

 『意外と大物かも・・・』

 思わずシンペイを見直す。

 シンペイの母親のお陰でヨウコとケイコの関係は、冷戦状態から、

 紫織を巻き込みながら三つ巴の雪解けで、泥沼に入っていく。

 『わたしは、違うのに・・・・』

 朝早く、走って学校に行くシンペイと、

 一緒に自転車で学校に行こうとする沢木ケイコと鎌田ヨウコ。

 のんびりと一人、自転車で遅れていく紫織だった。

  

  

 担任の三田先生は、生徒指導で相関図を作っておくと良いと先輩格の先生に聞いていた。

 D組の歪な人間関係に興味を持って相関図を埋めていく、

 二組・三組は、一組・四組を憎んでいた。

 相反する二つの集合は、鏡合わせに近かった。

 元二組、三組の優良派とも言うべき三森ハルキ、進藤ジュン、沢木ケイコ、中山チアキと

 元一組・四組の優良派の高見コウスケ、佐藤エミと。久保木モトヤ、清水ヒトミは、なんとなく似ていた。

 そして、反抗派も元二組・三組の田城タクヤ、大田シンゴ、鹿島ムツコ、三浦ノゾミと

 元一組四組の相楽リュウイチ、大友シゲル、島津カズエ、林コノエが、やはり似ていた。

 本来なら単純な優良派と反抗派の対立になるはずの教室が、

 元一組・四組と、二組・三組に分かれて対立し、四つに分裂しているような状態。

 そして、中途半端な実力しかない古賀シンペイと角浦紫織を中心に安定。

 D組の特殊性からすれば、エンターテイメント性やスター性を全面に出さず。

 当たり障りの無い事務的なシンペイと実社会で実績のある紫織がいいのだろうか。

 反対勢力が、まとまることなく、切り崩され、妙に安定している状況。

 この種の人間組織が成立するのは、大勢が悪化して見通しが立たず。

 実力者が、ミソギの時間稼ぎで引いて、人柱的に立てられた代役だろうか。

 ところが、古賀シンペイと角浦紫織は予想外に能力を発揮。

 というわけで、三田先生は、クラス運営をシンペイと紫織に相談すれば良かった。

  

  

 「角浦さん。古本があるから今度、持っていくね」 三田

 「ありがとうございます。先生」

 「古本屋は上手くいっている?」

 「はい。何とか、生活できる程度は」

 「凄いのね。中学校に行きながら働いて生活できるなんて」

 「おかげさまで」

 「儲かっているの?」

 「新装開店してアルバイトが来てから、売り上げが四倍になったの」

 「大型古本屋チェーン店が進出して来ても何とかなりそう」

 「ずっとスレスレの生活だったから一息つけたみたい」

 「じゃ 儲かっているんだ。わたしより高収入ね。きっと」

 「そうかも」

 「うぅ 人は、見かけによらないのね」

 「た、確かに見かけに自信はないけど」

 「えっ いや、そういう意味では・・・」 三田、汗。

 紫織は、経費を差し引いて、月収30万を越えようとしていた。

 貯蓄が一桁減っても5年もすれば回復できそうだった。

 襲撃事件以前、スレスレで低空飛行生活していた紫織は一息といえた。

 ある意味、資本主義の怖さ。

 投資して成功すれば見返りも大きい。

 そして、北奉銀行の後押しで優良店が出店してくると “こもれび” 商店街の客足が増えた。

  

 問題は、紫織が、それほど変わっていないのに周りの評価が違ってくる。

 確かに本屋は一新され、店内は、三倍ほど広くなり。

 二階の3LDKは、オール電化が、そのまま上に上がっていた。

 全面板張りのフロアでリビングキッチンには大型のテレビとソファー。

 寝室にはダブルベットが置かれる。

 これは、まとめて買う方が安く割り引いてもらえるという合理的な判断だった。

 そして、渉外でも使える利点もある。

  

 以前、狭い畳敷きでテレビゲームをやっていた。

 いまは、ミナ、ヨウコ、クミコも大型スクリーンでゲームをしている。

 そして、紫織の仕事は、アルバイトの監視。

 レシートと現金。在庫の状況を見る事が主になっていた。

 高いお金を出してバーコード読み取り機と、

 本のデーター監理ソフトを買って、一階と二階をネットワークで繋ぐ。

 「カッコいい。紫織ちゃん、ここで下を管理できるんだ」 ミナ

 二階のリビングの一角に監視モニターとコンピューターが備えられ。

 本の在庫の動きと現金の収支状況が流れてくる。

 「・・・昔が良かったかも長柄仕事で、のんびりやれたから」

 「確かにノスタルジーを感じるけど、こっちの方がカッコいいよ」

 ヨウコ、クミコ、ケイが大画面で大戦物を楽しんでいた。

 監視カメラにシンペイが映る。

 直接、自分の目で見るのと違って見える。

 数字の羅列から、売れている本の傾向が分かってくる。

 そして、回転率のいい本も・・・

 定価で買いたくない本でも半値なら買って、

 読んだら古本屋に売りやすい本が見えてくる。

 つまり市場適正価格。

 新古本で入れようか・・・・。

 なんとなく、いやな気がする。

 気持ち的なものだろうか、

 直接、自分自身で客と対していたときの事が思い出される。

 あの馬の柄がついたステッキを持っているおじさん。

 スケベおやじ。

 佐藤のおばさん。

 女子高生。

 良し悪しがあっても確かに人と人の結びつきがあった、

 今は、それが気薄になっている。

 「面白い? 紫織ちゃん」

 ミナが、声をかけた

 「・・・え。そんなこと無いけど・・・」

 そのとき、沢木ケイコがシンペイのところにやってくる。

 今日は、泊まる日ではない。

 たぶん、シンペイとデートを狙っているのだろう。

 「ほほう。古賀君もてる〜」

 「そうね。これは教えたほうが良いわね」

 「そうね〜 でも、どうかな、シンペイ君は沢木に乗り換えるんじゃない」

 「んん〜 雰囲気的に、そんな感じかな〜」

 ミナがヨウコに耳打ちするとヨウコは、立ち上がって下に降りていく。

 そして、監視カメラ越しでシンペイとケイコ、ヨウコが映る。

 紫織、ミナ、クミコ、ケイは、ニヤニヤとモニターを覗き込む。

 品性の欠片もないと思いつつ・・・

 シンペイを挟んでケイコとヨウコがなにやら話し、

 シンペイは、時折、マンガに眼を落としている。

 「んん、沢木に100円」 ミナ

 「わたしも、沢木に100円」 クミコ

 「沢木に100円」 ケイ

 「・・・わ、わたしも沢木さんに100円」 紫織

 「賭けにならないじゃない」 ミナ

 「だって、わたしが男なら沢木さんを選ぶもの・・・」 紫織

 「わたしも」 ミナ

 「当然ね」 ケイ

 「かわいそう。ヨウコ」 クミコ

 モニターの向こう、居心地の悪そうなシンペイと、ムッとしているヨウコとケイコがいた、

 三人は、外へ出て行く。

 どう客観的に見ても下僕とメイドを連れた王女様に思える。

 「やっぱり、人間ってさ。出来の良さって必要よね」 紫織

 「でも、出来の良さなら、沢木は、なんでシンペイ君なの?」 クミコ

 「そう言えば “三森君だと疲れそう” って、言ってたっけ “紫織を見てたら分かる” って」

 「でも、本当のところ、どうなの? 三森君」 クミコ

 「疲れる。緊張するもの、自分が自分じゃない感じ」

 「現実に付き合うとなると、そうね〜」 ケイ

 「でもさ、紫織。前よりかわいくなってない?」

 「背伸びし続けるのも悪く無いでしょう。デブ肉も引き締まるし」 クミコ

 「確かに効果あるわね」

 紫織は、ハルキに気に入られるため、腹筋していた。

 たるみ気味だった腹もいまでは微妙に引っ込んでいる。

 「少しくらい無理しても女を上げる方が良いでしょう」 クミコ

 「でもね。中山チアキと張り合うのって、絶望的になるのよね」 紫織

 「仁科マイもでしょう。中山より少し落ちるけど、紫織よりかわいいし」 ミナ

 「うぅ 人間は財力よ。見かけや頭じゃないわ」 紫織

 「・・・なんかすさんでる」 クミコ

 「ある意味正しいけどね」 ケイ

 「でも、中学生は、あまり関係ない」 ミナ

 「だよね・・・」

 「こうやって古本屋を大きくしたのだって大型古本屋チェーン店に潰されるのが怖かったからだし」

 「人間の魅力って、一対一の時、出るものね」

 「でも、大丈夫よ。紫織は化けやすいから」 クミコ

 「それだけが頼りね。もうすぐ交替か」

 「ホームページは、やっている?」 ミナ

 「うん、例の襲撃事件とイジメの方は、最近、熱が冷めているから」

 「今では、在庫案内の方がメインね。もう、当事者だけって感じ」

 「ねえ、古賀君の家、まだ夕食、食べに行っているんだ」 クミコ

 「うん、前より少し居心地が悪くなったけど、良くしてくれているし、作っていけば喜んでくれるし」

 「でも、向こうで食べるより、こっちで食べる方が広いでしょう」 ミナ

 「そうそう。三人で段ボールの間でカップラーメンをすすっていたのが懐かしい」 クミコ

 「本当。なんかさ、楽しかったよね」 ミナ

 「苦しいときに一緒にいたのが楽しいのよね」

 「苦しかったのは紫織だけ。こっちは楽しんでいただけ」 クミコ

 「そうだっけ」

 「じゃ 帰るね」 ミナ

 「うん・・・」

 この日、クミコとケイが泊まる。

 クミコの緑中も奈河町小のイジメ事件の影響を受けていたものの、

 何とか友達が出来たらしい。

 「紫織ちゃんの友達だった、おかげかな」

 「まさか」

 「東口商店街側は、紫織ちゃんを意識してるよ」

 「うそぉ〜」

 中学生でありながら “こもれび” 商店街発案者で、

 古本屋を新装開店して運営している角浦紫織は、過大に評価されている。

 こもれび商店街の中で、借金無しの健全経営をしているのは紫織の店と、

 新たに進出してきた有力店5店だけ。

 他の店は、まだ団体保証で借り受けた借金返済が済まず、

 店舗の改装すらおぼつかない状態。

 食事を一品作ってクミコ、ケイと一緒に隣の家に夕食をご馳走になりに行く。

 最近は、収入にあわせて高価な材料を使い始めた。

 しかし、紫織の作る料理は、基礎がしっかりして素材に頼っていない。

 カオリは、主婦より美味しいものを持ってこられると困るらしく、

 危機感から味を上げていた。

  

 同じ料理でもカオリと紫織の味付けは違っている。

 どちらが美味いと言えないほど接戦で、鍔迫り合いに近く。

 カオリも、紫織の味を盗もうとする。

 シンペイは、デートから帰っていなかった。

 息子の留守中、幼馴染と同級生が上がり込んで、

 母親と微笑ましく夕食をするのも面白い関係といえる。

 「・・・あなたが、寄せ書きに名前を書かなかった子」 カオリ

 「はい」 ケイ

 「普通の女の子よね」

 「わたしの場合。ほとんど、同じです。たまたま、書かなかった側で・・・・」

 「でも、書かなかったら虐められるって、分かってたんでしょう」

 「分かってたけど。その時には仲間外れに近かったから。意地になっちゃって」

 「でも、カッコいいわよね。そういうのって」

 「古賀君や紫織ちゃんの方がカッコ良いですよ」

 「そう♪ どこに行ったのかしら? シンペイ」

 「女の子2人とデートです」 クミコ

 「あの子がデートなんて、最近の娘は変わっているわね」

 「シンペイ君にデート申し込まれたら、わたしも行きますよ」 クミコ

 「まあ、嬉しいこと」

 「意外とモテているよね。シンペイちゃん」

 「うん」 クミコ

 「でも、沢木さんと歩いているとアイドルと付き人に間違えられるけどね」

 「あ、あの娘。綺麗ね。中学生で、あれだけ美人だと、将来、芸能人かしら」

 「うん、いけそう。でも頭も物凄く良いの」

 「あんな美人なのに」

 「うん」

 「オーデションを受けたら。良いのに」 クミコ

 「でも沢木さんって、歌、上手だったっけ」 紫織

 「アカペラで歌うわけじゃないから、調整できるもの」 クミコ

 「それで、歌手デビューが多いのね」

 「美空ひばりみたいな歌唱力はいらないから」

 「よほど下手じゃなければ、ビジュアル受けで歌手デビューできるもの」 クミコ

 「いまは、そうなんだ・・・・あと20年若ければ」

 「ぶっ」 トオル

 「なによ」

 「い、いや、なんでもないよ」

 「あっ! 紫織ちゃん」

 「今度。奈河駅で北奈河町と南奈河町の商店が集まって、奈河市商店会議あるの。大丈夫?」

 「回覧、届いているでしょう」

 「学校が終わってから出る」

 「東口の商店街も改装するみたいよ」

 「テーマパーク型で?」

 「たぶん。その話しが出ると思う」

 「東口の方が回転資金に余裕がある店が多いし」

 「南興系も駅ビル建設で動いているから説明会も、あると思う」

 「北奉銀行が神経質になっているし」

 「テーマパーク型商店街が、どんなものになるかわからないけど」

 「クミコちゃん。南奈河町でしょう。何か知ってる?」

 「そういう話し、しないから・・・でも、商店街改装で、もめてるって、聞いた事あるけど」

 「奈河市市長が議長になるけど、彼は風見鶏で、どちらにも向くから」

 「こもれび商店街が不利になることもある」

 「わたし、たいしたこと出来ないよ」

 「いや。東口がテーマパーク型商店街する場合。意見を聞きに来るはずだ」

 「突然聞かれるより、前もって知ってた方が良いだろう」

 「それと南興銀行系と北奉銀行系の争いに巻き込まれないようにすることかな」

 「といってもメインバンクに逆らわない方が良いがね。お金を借りられなくなる」 トオル

 「なんか怖いな」

 「いや、こもれび商店街の件もあるし」

 「南興系も、北奉系も、地元商店に強引な手法を取れなくなってきているから、それほどでもないんだが・・・」

 「紫織ちゃんの場合、良いように利用される可能性があるから気をつけて、という事かな」

 「気を付けます」

 「本当よ。紫織ちゃん」

 「あなたが巻き込まれると、こもれび商店街まで巻き込まれてしまうことがあるから」

  

  

 人間性を否定される一年D組。

 北島事件で淀中学そのものが問われ、

 それまで蚊帳の外と思われていた淀中学の生徒も問題視される状況になっていく。

 まるで疫病神か、貧乏神のような元奈河町小学校生徒で、

 角浦紫織と古賀シンペイ。白根ケイ、石井ショウヘイは別格で見られ、

 角浦紫織と古賀シンペイは、その親分的な存在としても見られていた。

 朝の登校で、クミコは、反対方向に行くため分かれ、

 紫織とシンペイは、バッタリと出会う。

 お互いに付き合っている相手がいると気が楽だ。

 「・・・久しぶりね。一緒になるなんて」

 「今日は、遅刻しそうだったから。自転車」

 「本当に毎日、走って学校に行っているの?」

 「うん」

 「凄すぎ」

 「・・・・・・」 シンペイ

 「シンペイちゃん。昨日は、鎌ヨと沢木さんと、どこに行ったの?」

 「東口の商店街でラーメン食べた」

 「へぇ〜 それだけ。ねえ。どっちにするの? 鎌ヨと沢木さん」

 「まだ、そういうんじゃないよ」

 「あれ・・・授業中にぼぅ〜 として沢木を見ているけど、どうしてかな?」

 「あ、あれは、どうして近付いてきたのか、気になったからだよ」

 「好きだからでしょう。嫌いな人間には近付かないもの」 紫織、にや〜

 「良い男だと思うけど。取り合いするほどじゃばいと思うけどな」

 『こいつ、本当に良い男と思っているのか・・・』

 『少なくとも取り合いされるほどの価値は無いのは、分かっているのか』

 「・・・・二人とも、ゲテモノ食いなのよ」

 「ふっ 趣味ワル〜」

 『シンペイちゃんをゲテモノと言っているんだよ』

 「・・合気道は、続けているの?」

 「・・・うん・・・結構、強いよ」

 「へえ、そう見えないところが味噌ね」

 「まだ、カメハメ波は出せないけど」

 「まだ、カメハメ波の練習しているわけ?」

 「部屋でね一日、200回。道場でやると白い目で見られたから」

 「いや、どこでやっても白い目で見られるって」

 「気合とイメージ力だと思うけどな」

 『鎌ヨ〜 沢木さん〜 こういうやつなんだよ〜』

 「って、あんた。タフなのは、分かったけどさ。本当に強いの?」

 「今度、合気道の県大会に出るよ。中等部で」

 「う、うそっ。だって、まだ、初めて3ヶ月たってないじゃない」

 「中等部は、15人しかいないから・・・」

 「と言うと15人の中で、一番強いわけ」

 「三番目だよ」

 「はあ〜 良かったね。人から認められる才能があって」

 「紫織ちゃんも何か武道やった? 姿勢が良くなったけど」

 「婦警の女子寮にいた時、伝で空手。教えてもらったけど・・・分かるの?」

 「姿勢とか、雰囲気で分かるよ」

 「県大会に応援に行ってあげるよ。いつ?」

 「来月の四日。場所は、パンフレット見ないと」

 「ヨウコは知っているの?」

 「いや、師範に直接言われただけだから」

 「ち、ちょっと、今日、見学に行っていい? 道場」

 「うん」

  

 学校部活となんでも同好会の関係は微妙だった。

 同好会はバスケットで選抜一年チーム相手にいい勝負をして株を上げている。

 部活勢と戦って例え負けてもいい勝負になれば、同好会側は喜べる状況だった。

 かといって、二年が、しゃしゃり出てくると気が重い、

 そして、進学を控えている奈河町小学校出身の3年生2人が遂にキレて、D組の元一組の中田ケンスケを暴行。

 中田ケンスケは、ボロボロに殴られ、元一組と二組は身の危険を感じ、

 明日は、我が身かと元二組と三組は心配する。

 「僕は毎日、そんな気分だったよ・・・でも、もっと酷いかな・・・一人だったから・・・」

 と、小山は、ほくそえむ。

 D組生徒は、担任の三田先生に抗議し、職員会議で話題になった。

 ホームルームは沈黙だけだった。

 誰からも意見が出ず。学校生活が不安になっていく、

 元奈河町小出身の2年と3年が直面している進学問題は大きかったからだ。

  

  

 昼休み

 紫織、ミナ、ヨウコ、ケイ

 「・・・・重苦しいわね」ミナ

 「一人、やられただけでクラス全員がこんな風になるなんて」

 「他のクラスじゃ、なかなか、ないわね」 紫織

 「本当、腹立つわね」

 「事件と関係のない奈河町小の上級生が進学で影響を受けるなんて、少しだけよ」

 「学生人口が減っているけど、学校の統廃合より余裕あるし、進学できないなんてこと無いよ。売り手市場よ」 ヨウコ

 「努力しないで、いやなことを事件のせいに出来るから。便利ね」 紫織

 「でも努力以前に偏見で見られたら不公平すぎて、やる気も起きないじゃない」 ケイ

 「公平なんてウソよ。世の中を公平だなんて思ったこと無いもの」

 「だから、偏見で見られても当たり前。鎌ヨだって、沢木さんと歩いてそう思わなかった」 紫織

 「死ぬほど、思った」 ヨウコ

 「紫織ちゃん、強い」 ミナ

 「うん、さすが、こういう状況に強いわね」 ヨウコ

 「別世界の、あいつもね」

 紫織は、上級生の一人と話し込んでいるシンペイを見る

 「あの上級生ね。合気道の渡辺先輩なの」

 「でもね。いまは、シンペイ君の方が強いよ」

 「ウソ〜 頭一つ高いじゃない、先輩の方が体格も良いし。何で?」

 「物理の法則を無視しているじゃない」 ミナ

 「だから言ったでしょう。強いって。何で強いかわからないけど強いの」

 「へぇ〜 沢木さんもメロメロかな」 ミナ

 「知らないみたいよ。合気道やっているの」

 「えっ! なんで」 ケイ

 「何でだと、思う?」

 「シンペイちゃんが無口だから」

 「当たり〜 わたしも、教えるつもりないし」 ヨウコ。ムフ♪

 「鎌ヨ。シンペイちゃんが合気道の県大会に出るのは知ってる?」

 「出るの? シンペイ君が?」

 「朝、一緒になったとき、話してたら、そう聞いたの?」

 「あいつっわ〜」 ヨウコ。ゲンコツ

 「無口なんだから怒ったってしょうがないでしょう」 紫織。なだめる

 「でもさ、人間としてさ、言うべき事って、あるじゃない」

 「それで沢木さんに合気道の事が知られていないんだから良いじゃない」

 「ん・・・・んんん・・・んん・・・」 ヨウコは、怒りに堪える

 「もう止めたら。あの朴念仁」

 「いや!」

 「どこが良いんだか」

 「合気道やっているとき。カッコいいんだ」

 「最初の頃は、ヘナヘナ練習だったけど、強くなって無敵みたいな」 ヨウコ。憧れ

 「・・・誰の話しだっけ?」 ミナ

 「シンペイ君よ!」

 「今日、練習しているところに行っていい?」 紫織

 「良いよ・・・でも、沢木には内緒よ」

 「うん」

  

 

 

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第11話 『新こもれび古本店』

第12話 『日銭を稼がなきゃ』

第13話 『・・・越後屋・・・そちも・・・・』

登場人物