月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

   

第13話 『・・・越後屋・・・そちも・・・・』

 放課後

 紫織、ミナ、ケイが、合気道の道場の見学。

 それなりに大きい道場に50人ほどの弟子が組み手をしていた。

 そこに着替えたシンペイとヨウコが入る。

 ヨウコは、それなりというか、平均。

 しかし、シンペイの組み手は少し違う。

 動きが速いでもなく、強いわけでもない。

 相手がシンペイの動きを掴み難いように見える。

 そして・・・・カメハメ波?

 光線のようなものは出てない。

 直接両手の掌が脇腹に当たって、相手が倒れる。

 合気道の技では、なさそうなのだが絶妙なタイミングでやってのける。

 “ただのマンガオタクじゃないのね。確かにカッコいい” だった。

  

  

 こもれび商店街のファーストフード店

 紫織、シンペイ、ヨウコ、ミナ、ケイが間食。

 女の子四人に囲まれ、シンペイは居心地の悪い。

 「やるじゃない。シンペイちゃん。意外、意外」

 「そうやっていると。強く見えないのに」 ケイ

 「・・・・」 シンペイ

 「紫織・・・分かっていると思うけど・・・・」

 「・・・鎌ヨと沢木さんの間に割り込むほど、酔狂じゃないって」

 「んんん・・・いい感じ・・・シンペイ君。わたしって尽くすタイプなの」

 ミナがシンペイを見詰める

 「ミナ!」

 「だって〜 守ってくれる力がある男って、頼れるじゃない〜」

 じーーー!

 ミナは、じっくりとシンペイを見詰める

 「ミナ!」

 「シンペイちゃん 女の子が “わたし、尽くすタイプなの” って言った時は、気を付けてね」

 「許容限度と期限付きだから代償も求めるし・・・」

 「紫織ちゃん〜 それ言っちゃ駄目〜」

 「・・・・・」 シンペイ、黙々と食べ飲む。

 「へい、へい。鎌ヨは、ともかく。沢木と張り合う気は無いわよ。無謀すぎて」

 「ったく・・・・ところで、紫織ちゃんは、三森君と上手く行っているの?」

 「・・・古本屋を新装開店してからは、デートして無いけど」

 「中山さんに取られるかも」

 「紫織ちゃん。キスした。キス」 ミナ

 「するか!」

 「え〜 なんで、イヤなの?」

 「い、いやってわけじゃ・・・ないけど」

 「奥手〜」

 「普通でしょう」 ヨウコ

 「じゃ シンペイ君と鎌ヨもまだなんだ〜」

 「「・・・・・」」 ヨウコとシンペイが、うつむく

 妙な空気が漂う

 「・・・あっ! 二人の邪魔したら悪いから。先に行くね。行こう、ミナ、ケイ」 紫織

 「ちょっ ちょっと!」

 「じゃあね。鎌ヨ〜〜」 ミナ

 「がんばってね」 ケイ

 「・・あ・・」

  

  

 途中でケイが家に帰るために分かれる。

 紫織、ミナ

 「キスか。良いな〜 相手がいる人間は」 ミナ

 「・・・でも、中学生だし、抵抗あるな。それにキスって生々しくない」

 「あれ、シンペイ君とキスしたんじゃないの」

 「・・・・・・・」

 「あっ・・・やっぱり」

 「あ、あ、あのね・・・こ、こんな小さい時の話しよ。こんな小さい時!」

 紫織が右手をへそ辺りまで持ってくる。

 「へへへ。キスしたんだ〜 生々しかったの?」 にま〜

 「誰にも言わないでね」

 「言わないけど・・・幼馴染ってさ、そういう事あるよね。イメージで」 面白がる

 「ったくぅ 本当に言わないでよ。バカなテレビを見て、やってしまったんだから」

 「うんうん。ありがち、ありがち。幼馴染パターンEね」

 「ミナも秘密を教えなさいよ」

 「えぇ〜」

 「当然よ」 迫る。

 「んん・・・んん・・・・んん・・・・」

 「ねぇ ミナちゃん・・・」

 紫織がミナの胸倉を掴む。

  

  

 古本屋のアルバイト、杉山キョウコ、20歳。

 そして、鴨川ヒトミ、一九歳は、北奉銀行の職員の関係者。

 素性は明らかで紫織の作ったマニュアル通りの仕事ぶりも悪くない。

 というより、紫織よりテキパキしている。

 何より、紫織よりパワーがあって重たい本を運べるのが良い。

 データー入力も速く。在庫管理も進んでいる。

 とはいえ、自分より年上にあれこれ指図するのは、苦痛でしかない。

 北奉銀行側からもある程度、指導力を発揮しないと、

 経営がガタガタになると指摘されていたため、仕方なく、がほとんど。

 紫織は、基本的に亡くなった。おばあちゃんが、やっていた事を自分なりに模倣していた。

 作業マニュアルを項目別に作って、第一条は、本を大切に扱うこと。

 それは、おばあちゃんのやっている仕事を見て、覚えた最初の姿勢だった。

  

  

 唐津モトキ39歳は、北奉銀行 こもれび商店街担当。

 奈河市全域の実務的な責任者で2番目か、3番目。

 丁寧な言葉裏に何か含んでいるような雰囲気を感じる。

 紫織は、未成年であることから法定代理人が同席していなければ、実行力を伴わないものだった。

 約束ができない事を前提とした関係であっても世間話しはする。

 「角浦さん。南奈河町商店街は、北奈河町商店街と同じ。木と花のテーマパークで行くようですよ」 唐津モトキ。

 年上に、さん付けされるので違和感爆発。

 「何か不利益があるんですか?」

 「そうですね、利益・不利益半々でしょうね・・・」

 「角浦さんが何も言わなければ、そのまま、南奈河町も同じようなテーマパーク型商店街になるだけでしょう」

 「わたしは、気にしないけど」

 「極貧商店が違う意見を持っているようですけどね」

 極貧商店は、一歩、舵取りを誤ると失速し回転資金すら失う。

 こもれび商店街は、借金を低空飛行のスレスレで返済している5店から7店の店があった。

 「・・・駅が悪いのよね」

 「高架線なのに東口から西口まで真っ直ぐ、歩いて行けないから」

 「南興系が計画している再開発駅ビルも、これまで通り階段を上がるか、下りないと行き来できないようです」

 「それじゃ 今と変わらないじゃない。不便よ。立体交差させないと」

 「南興系は南奈河町と北奈河町の経済格差を利用して、利益を上げている節がありますから」

 「それと地下商店街の利益でしょう」

 「じゃ まだ。南興銀行主導の再開発を諦めていないの?」

 「銀行だけというより複合ですけどね。まあ、人のことは言えないですがね」

 「北奉銀行も?」

 「奈河市では、融和策ですよ。正直に言うと」

 「それって、銀行同士の勢力的な違いなだけ?」

 「グループといっても、広範囲で複利的な群れなので銀行だけだと、正確じゃありませんけどね」

 「勢力比が9対1で覇権策。7対3で強行策。5対5で競合策、3対7で融和策。1対9で浸透策」

 「行風は、違うのに似たような行動を取るのが不思議ですね」

 「奈河市では南興銀行の方が強いのね」

 「ええ。どちらかと言うと」

 「で、どうして欲しいの?」

 「東口商店街の再開発は、どうでも良いですよ」

 「東口側にも北奉銀行をメインバンクにしている商店が、ありますから」

 「店が潰れても、潰れなくても、担保がありますし」

 「どちらかと言うと南興の駅ビル建設で、そうですね」

 「さっき言われたような。全通立体交差型駅ビルに修正させるというアイデアは悪く無いですね」

 「わたしを巻き込まないで」

 「今度の奈河駅での会議で一言、言ってもらえるだけで良いですよ」

 「切っ掛けだけ。あとは、こっちでやりますから」

 「北奉銀行で言えば良いでしょう」

 「それだと、拗れてしまうので、逆効果になりますから」

 「・・・・・・・・」

 「成功報酬は・・・後日、相談の上で・・・」

 「それって “越後屋・・そちも悪よの〜” じゃない」

 「いえいえ、世間一般では、よく行われている事柄ですから」

 「・・・なんかな〜」 引いていく

 「角浦さんは、全通立体交差型駅ビルの方が奈河市にとって有益。そう思うんですよね」

 「仮に、わたしが、そう思ったとしても未成年だから約束事に効力無いよ」

 「だいたい、余計に経費がかかるんですよね。駅地下商店街に恨まれそうだし」

 「ええ、でも、こちらは、成功報酬の約束を守りますよ」

 「お得意様で長い付き合いになりそうですし」

 「そういう機会があればね」

 「誰も中学生の意見なんて求めないし、聞かないだろうし」

 「そちらは、こちらで何とかしますから」

 「・・・じゃあ・・・考えておきます。学校帰りだから遅れるはずだけど」

 「構いませんよ」 唐津。ニンマリ

 「“北奉” も “南興” も、まっとうな商取引だけでは生きていけなくて」

 「周りを食い潰しながら、恐竜のように滅びるような気がする」

 「それは、弱肉強食という一つの側面として言えますがね」

 「これでも贅肉を落としてスリム化しているんですよ。力押しもしてませんし」

 「だと良いけど」

 「自己改革している間は大丈夫ですよ」

 「角浦さんもいまの3倍の床面積に出来れば、どうです」

 「・・・・・」

 「それだけ聡明なら。大型古本屋チェーン店がどうしてあの大きさなのか」

 「実感していませんか?」

 「書籍量と床面積に比例して収入が増加する」

 「・・・・・」

 「隣の店舗が潰れ、自分が買い取って増築すれば、どうです」

 「・・・・・」

 「職種にもよりますが小細工無しで生存権を確実に出来る空間というのがあるでしょう」

 「肥大化の誘惑に駆られませんか?」

 「・・・まず、小細工から試してみることにします」

 「才能が続く限り、小細工で成功報酬を受けられますよ。角浦さんならね」

 紫織は、口約束の成功報酬を信用していなかった。

 言葉だけで右から左に金を動かせるわけが無い。

 会計で、どんな項目で引き出すというのだろうと思う。

 つまり成功しないという事だ。

 ただ、北奉が南興に嫌がらせしたいだけ。

 婦警さんとのやり取りを思い出す。

 組織が強大でも個人は違う場合が多い。

 「唐津さんは北奉を越え太らせた見返りで、一生、北奉に仕えるんですか?」

 「ごく一部を除いて、3分の1は、そのまま定年を向かえ」

 「3分の1は、定年前に退職。3分の1は自立しようとし、3分の2は失敗ですかね」

 「自立の準備をしていた者で成功する者でさえ、ごくわずか」

 「トラの威を借っている、しがない宮仕えですよ」

 「できれば覇気が残っている間に角浦さんの様に自立したいものです」

 「北奉さんが理不尽で無い事を希望してます」

 「企業努力で可能な限り沿いますよ」

 「銀行が無慈悲に利益を上げても、唐津さん個人が無用な敵意をもたれたら損するのでは?」

 「なかなか、交渉上手で・・・」 にやり。

  

  

 北島は、複雑骨折で入院。

 取調べの結果。

 復讐の相手は、ビデオで撮って、

 自分の立場を決定的に悪くさせた紫織と小山に向けられたものだった。

 角浦紫織が、一人暮らしだったことから先に襲撃したと自供。

 暴行だけで終わるつもりだったのか不明。

 家宅侵入と暴行未遂事件として扱われる。

 紫織に付いている父兄会の弁護士は、マスコミから誘導された社会的な影響があり。

 奈河町小卒業生に対する器物破損、家宅侵入、暴行未遂事件として扱うことで。

 問題を大きくし、北島を奈河市から追い出し、紫織や小山を守る戦略だった。

  

 北島側の弁護士は、原告側が対テロ戦用の殺傷を目的とした罠を仕掛けていたこと。

 北島が全治六ヶ月の負傷で既に制裁を受けているとし、

 身の安全を図るという範疇を越えた過剰防衛であると、無罪を要求していた。

  

  

 角浦紫織は、古本屋経営、商店街、駅ビル再開発、学校、裁判、同好会など、

 なかなか、ハードで、忙しい毎日を送っている。

 そして、収益が増えるに従って、水城ナミエ(21)がアルバイトで入って、三人になっていく。

 ただし、夏休みから秋の中旬までの期間限定。

 唐津の言ったことは正しかった。

 この床面積では、いかに魅力的な店でも品揃えの面で力不足。

 売れ筋の本だけは、確保しようと常に眼を光らせ、きめ細やかな小細工が必要だった。

 紫織は、ホームページの自分自身のアニメを縮小し、取り込んで名刺を作ろうとする。

 数回の試行錯誤の末。

 それが出来るようになり。編集し、厚紙に印刷。切断。

 なかなかの出来栄えで意外に編集、印刷、製本が面白いと考える。

  

  

 奈河市商店街会議

 遅れてきた角浦紫織は、市長から東口商店街再建と駅ビル再開発で意見を求められた。

 未成年の中学生でありながら、赤字借金無しと健全経営で一定の利益を上げている店主は少なかったからだ。

 話題性からも注目される。

 “駅ビル再開発は、予算が許すのなら市全体の収益の得られる。全通立体交差の方が良い”

 と述べて実質的に注目され台風の目になってしまう。

 その後、それに賛成を示す商店街側と、線路の反対側の商店に客を取られたくない商店。

 そして、駅地下商店街の反対で大きく割れていった。

 南興銀行は、外堀の東口商店街のテーマパーク型再建案で、ごねられると思っていた目論見を崩され、

 本丸の駅ビル構想が批判されたことで動揺。

 そこに北奉銀行が全通立体交差型の駅が市全体の物流と移動で優れていると全面的に賛成。

 不足分の予算の貸し出しを検討すると付け加える。

 要は分け前をよこせの介入策だった。

 その後、会議は荒れ模様のまま閉会してしまった。

  

  

 その夜、古賀家での食事。

 紫織、トオル、カオリ

 「・・・あれは、本当に紫織ちゃんの意見なの?」

 「ええ」

 「そ、それならいいんだけど、誰かに言って欲しいと言われたんじゃないの?」

 「駅を上り下りしないで反対側にいける方が利益が大きくて収入が増えるもの」

 「でもね。こもれび商店街も苦しい商店が多いの」

 「駅向こうのライバル店に客を取られると潰れる店も出てくるのよ」

 「何年も先の話しよ。その頃には、借金も減っているでしょう」

 かなり微妙な沈黙。

 「・・・だといいけど。困っている店主に恨まれるよ」

 「敗北主義者は、このままでも敗北主義者よ」

 「奈河駅で降りる人間が増えれば、集客も増えて利益も上がるはず」

 「そう言えば、駅向こうの美容院は流行っていたよな」

 「家は、理髪店だから、そんなに関係ないでしょう」

 「俺も、スーツを着てホストカリスマ美容師になろうかな」

 「あはは・・・やってみれば・・・その前に店の改装費を稼いでからね」

 「随分稼いだはずだぞ」

 「団体保証で汲々としているのにいるのに、余剰資金を簡単に使えますか」

 「どう思う。紫織ちゃん」

 「資金があるうちに投資して、客を増やすのも良いと思う」

 「わたしは、そう思って保険も断って、やったから」

 「ほら見ろ」

 「事情が違うでしょう。事情が、家は家族持ち」

 「その上、団体保証の金額。馬鹿にならないんだから」

 「そうか? あの工務店から名刺を受け取っているし。悪くないと思うけどな」

 「もっと、お金を貯めてからね。シンペイと商店街改装のお陰で収益が上がったけど」

 「借金も増えて、余裕があるわけじゃないんだから」

 「はいはい・・・とりあえず・・・」

 「駅周辺の集客が増えれば、少しくらい客を取られても損はしないという事だ・・・」

 「長期的に見れば確かに利益は大きいし、土地の価格も上がる」

 「悪くないさ。その辺は、こもれび会議で話してみよう・・・」

 「・・・しかし “敗北主義” は使わない方が良いぞ、潰れかけている店主は、命がけだからな」

 「はい」

 「なんにしても実力がないと潰れていくぞ」

 「駅向こうの方が魅力的な店は多い。東口の改装が進めば・・・」

 「東口のテーマパーク型商店街は、こもれび商店街と同じらしいけど、紫織ちゃんは、反対じゃないのか?」

 「別に気にしないけど、どうせなら駅前にも桜を植えればいいのに」

 「まあ・・・それも面白いな」

 「しかし、こもれび商店組合は東口のこもれびと同じ“木と花”のテーマパークを反対して欲しかったらしい」

 「前もって言ってくれたら適当な口実をつけて、考えたかもしれないけど」

 「紫織ちゃん、学校にも行っているし、時間が無かったでしょう」

 「組合側も、はっきりと反対って固まっていないかったの」

 「でも、上り下りしないで駅向こうに行くとなったら組合側も意見がはっきりと分かれるでしょうね」

 「次の組合会議、荒れるぞ。駅向こうの店と比較して実力のある店と実力の無い店」

 「サボろうかな」

 「・・・未成年だから特にうるさく言われないかもしれないが・・・」

 「サボタージュと取られるから、自分で説明した方がいいかもしれないぞ」

 「北奉銀行の方が喜んでいるみたいだけど」 紫織

 「そりゃ 南興銀行の駅ビル再開発に待ったをかけ、介入できるかもしれない、北奉系は、喜ぶだろうな」

 「一般の奈河市市民が味方するでしょう」

 「そうだな。市民団体も動くだろうな。製造業側も賛否が割れる。商工会議も荒れるだろうな」

  

  

 教室

 紫織は、自分の発言が意外と影響が大きかったのに動揺する。

 『ったくぅ〜 誰も気が付かなかったわけ』

 『全通立体交差の駅ビル。普通、設計段階で考えるでしょう』

 『利害関係があっても、何で、わたしが、悪者になるわけ。一般論でしょう。一般論』

 「・・・そんなに難しい問題かな。角浦さん」

 三田が教科書を持って、目の前にいる

 「・・・へ?」

 「黒板の問題を解いてもらいたいんだけど。副委員長さん」

 「・・・はい?」

 大爆笑だった。

  

  

 昼休み

 紫織、ヨウコ、ミナ

 「はあ〜」

 「勉強、遅れたね」

 「後ろから数えたほうが早いのは相変わらずだけど」

 「遂に下の上になってしまうなんて、もう、お嫁にいけないかも・・・」

 「バカは、貰ってもらえない・・・」 紫織、自虐的な笑い

 「紫織ちゃんは、既に社会で働いているし、関係ないよ」

 「お嫁にいけるかは、別だけど」 ミナ

 「大丈夫だって。クミコに頼んで化ければ引っ掛かるって」 ヨウコ

 「売春じゃないんだから。一回引っ掛けかけてどうしようって、いうのよ」

 「三森君も呆れているよ。きっと・・・馬鹿はいやだって」

 『うんうん』

 中山チアキが背後から囁く。

 「・・・どうして、湧いて出てくるかな」

 『テスト近いけど大丈夫? D組は、遅れ気味だから厳しいよ』 にま〜

 「中山さんは、いい点数を取れそうなの?」 紫織。ドキドキ

 『他のクラスに負けるつもり無いから足を引っ張らないでね。副委員長の角浦紫織さん』

 「・・・・・」 どよ〜ん

 「負けるな。紫織。言い返せ。根性を見せろ」 ミナ

 「・・・・こ、今度は駄目〜」 沈む

 『敗・北・主・義・者』 中山チアキは、そういうと去っていく

 「・・・・・・・・・・・」 負け犬のまま固まる

  

  

 その日は、沢木ケイコと鎌田ヨウコが泊まる。

 生徒の間では紫織を守るより、ホテルに泊まるような感覚になっていた。

 ケイコとヨウコは互いに相手が出し抜かないように監視する。

 「・・・ねえ、紫織ちゃん。今日のわたしの作った玉子焼きは、どうだった?」 ケイコ

 ヨウコとケイコが来ると料理の勉強のためか、夕食を作るようになった。

 「うん。美味しかった」

 「わたしが作った、そばの方が、美味しいよね」 ヨウコ

 「美味しかったけど、違う料理だから比較できないでしょう」

 「要は、シンペイ君が美味しいというかどうかよ」 ヨウコ

 「そうそう」 ケイコ

 「絶対、言わないよ、あいつ」

 「わたしの料理が美味いって言ったのだって、あの時が初めてよ」

 「あ、二回目か、三森君にも言ったっけ」

 「・・・・・・・・・」 ケイコ

 「・・・・・・・・・」 ヨウコ

 「・・・・なに?」

 「嬉しかった? シンペイ君に美味しいって言われて」 ヨウコ

 「まあ・・・・う・・嬉しかったかも〜」 にへら〜

 「くぅ〜 やっぱり。キープしているでしょう」 ヨウコ

 「紫織ちゃん・・・」 ケイコ

 「ま、まさか・・・ほら、反作用で余計に嬉しかったかなって、ちょっと思っただけ」

 「もっと上等な料理を作るわ」 ケイコ

 「で、でも、ほら、あそこの家の基本概念は、安い材料で丁寧に時間をかけて、だから」

 「高級素材で簡単料理作っても馴染まないと思うよ。それにお母さんの主婦の立場もあるし」

 「んんん・・・・」 ケイコ

 「それより、この問題は〜」

 「はぁ〜 これはね・・・・・・」 ケイコ

 「なるほど・・・綺麗で頭が良くて、スタイルも良いって、どういう気分なのかしら」

 「自立して高収入で料理で男を垂らし込めて」

 「商店街の顔が、どういう気分なのか教えてくれたら言って、あげても良いけど」

 「そうそう、あれは、悔しかった」

 「一生懸命に作ったはずなのに、“紫織ちゃんが作った料理の方が美味い” だって」

 「わたし、その日、眠れなかったもの」

 「ははは・・・・勉強しよ。勉強」

 「中山チアキにやり込められたって」 ケイコ

 「うん・・・」

 「手強いよ、中山さんに勝てそう?」

 「あ、あの、中山さんに後ろから、ふわっ、て、やられて、耳元で囁かれたら気が遠くなるもの」

 「へえ〜 女の子にも効くんだ」

 「男だったら、いちころよ。あれ」

 「まず、女の子相手に練習して、三森君に使おうとしているのね」

 「うぅ・・・・・」 紫織

 「わたしもシンペイ君に試してみようかな〜」

 「沢木〜」 ヨウコ。ゲンコツ

 「ほほほ」 ケイコ

 「むかつく」

 「・・・鎌田さんが先にやっても良いわよ」 ケイコ。ニヤリ

 「・・・・」 ヨウコ。ぐうの音も出ない

 絶望の淵に落とされる紫織とヨウコは、鏡を見て相談しろよ、のタイプ。

 「・・・・わかんない」 紫織

 「はぁ〜・・・・これは、こう!」

 「塾行ってないせいかな・・・・このままだと、バカ高校ね」

 「わたしも塾いってないけど・・・・毎日三時間、予習と復習しているだけ」

 「うぅ 三時間も勉強してるの? そんなにやって脳がストライキ起こさない?」

 「慣れよ、慣れ」

 「無理〜 脳がクーデター起こして別人格になりそう」

 「でも応援してあげるね。紫織ちゃんが三森君とくっ付けば有利だし」

 「・・・そんなに強敵? わたし?」

 「紫織ちゃんって異色系だもの、同列系の中山の方が、やりやすいから」

 「どっちが来ても最悪」 ヨウコ

 「うふっ♪」 ケイコ

 「・・・なにが、うふっ♪ よ」

 「あんた美人で頭が良いんだから、進藤君とか、もっと良い男がいるでしょう」

 「あんな、マンガオタクで頭の悪い男なんて好きになるな」

 「鎌田さんは、なんでシンペイ君が好きになったの?」

 「・・い、命の恩人だからよ」

 「わたしを好きになってくれたら。わたしのことも命がけで助けてくれるわね。きっと」

 「・・・・・・・・・」 ヨウコ

 「三森君や進藤君はカッコ良いし頭も良い」

 「強そうだけど、命がけで助けてくれるか、わからないし。逃げちゃうかも。違う?」

 「・・・・・・・」 ヨウコ

 「・・・・・・・」 紫織

 「そういえば、武田ハルコもシンペイ君を狙っているみたい」

 「・・・・本当?」 ヨウコ

 「ほら、あの子、自動車に連れ込まれそうになった事があるの」

 「だから、シンペイ君みたいに少しくらい馬鹿でも好きな女の子を守ろうする男の子に惹かれるの」

 「うぅ・・・・」 ヨウコ

 「・・・そうだ。わたし、シンペイ君の家庭教師して、あげようかな」

 「そんなの、ずるい」

 「鎌田さんが教えても良いけど」

 「・・・・・・・」 ヨウコ

 「じゃ わたしが教えようかな。同じ高校に行きたいし」

 「で、でもさ、シンペイちゃん。沢木さんみたいに美人が教えても。妄想状態になって頭に入らないかも」

 「わたしで、どんな妄想するのか聞いてみようかな」 むふ

 「沢木さん。合法的に一緒にいたいだけなのね」

 「・・・耳元で囁きながら教えちゃおうかな〜」

 ヨウコが落ち込む、

 「わたしも美人に生まれたかった」 紫織

 「あれ、確か、紫織ちゃんって思いっきり化けるって、聞いたけど・・・仁科マイ並みって?」

 「誰に聞いたの?」

 「・・三森君・・・誰と付き合っているのか聞いたら、角浦紫織だって」

 「よし!」 紫織。ガッツポーズ

 「三森君も自覚しているみたいね・・・詐欺に近いほど美人になるって」

 「さ、詐欺って、そんなに原型が酷い?」

 「普通よ。でも自分のためにそれだけ化けてくれたら、嬉しいかもね」

 「じゃ わたしもクミコにやってもらうか」

 「でもクミコもシンペイちゃん狙っているから、協力してくれるかな」

 「あ、あいつは〜」

 「足立さんも、狙っているの?」

 「一応、命の恩人だから」

 「ふ〜ん。緑中でも虐められているのかしら」

 「友達が出来難いって、最近、何人か友達が出来たみたいだけど」

 「やっぱり。義務教育で、それだから高校になると、もっと酷いわね。へこむわ」

 「へこんでいるように見えないけど」 ヨウコ

 「へこんでいるけど。紫織ちゃんが、がんばっているのを見たら、わたしも負けられないって」

 「へ・・・わたし?」

 「そうよ。その顔、その頭、その体型で無謀にも三森君と付き合える勇気に感動して、随分、力付けられた」

 「・・・沢木さん。な、なんか凄く酷いこと言ってない?」

 「三森君と一緒に歩いているところ、鏡か、ガラス越しで見たことある?」

 「・・・・」 へこむ

 「違ったら、ごめんなさい」

 「ち、違わないけど・・・」

 「まあ、大丈夫よ。自信を持って。わたしも味方してあげるから」

 「う・・・ありがとう。沢木さん」 (T・T)

  

 

 

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第12話  『日銭を稼がなきゃ』

第13話  『・・・越後屋・・・そちも・・・・』

第14話  『しがらみ』

登場人物