第16話 『不純でも友達?』
校舎裏で紫織と白根ケイ
「ケイちゃん。佐藤さんのこと、どう思う」
「・・・頭が良くて美人でスタイルが良くて、それだけかな」
「好きになれないんだ」
「わたし、変わり者で。あの人、お嬢様風で相手にされなかったから」
「直接恨みは無いから嫌いじゃないけどね。住む世界が違うみたいな。壁があるし」
「へぇ〜」
「もう一人、寄せ書きに書かなかった横井君の方は嫌がらせされなかったの」
「体格が良くてナイフとか持ってて、一匹狼の不良だったから・・・」
「死んだ三木とケンカして殴って大友君にナイフ突き付けたことあるから。みんな怖がって」
「佐藤さんに嫌がらせは、されてないのね」
「・・・どうかな、嫌がらせされた本やノートは、10人くらいに書かれたものだったけど」
「その中の二つは、友達の字だった」
「佐藤さんの字は無いと思う」
「大変だったね」
「わたしね。あの事件がなかったらクラスの生徒全員の本とノートをズタズタにしてやろうとしていたの」
「ケイちゃん強い!」
「ほかにもね。先生の車のタイヤに釘を刺してやろうとか」
「職員室の窓を全部割ってやろうとか。思った」
「そうなんだ」
「だって、わたしの教科書やノートに死ねとか、臭いとか、書かれたのよ」
「わたし、それを高島先生に見せて抗議したけど」
「教科書に落書きするなって、わたしのほうが怒られたし」
「それなのに書いた人間は、罰せられないんだから復讐しても良いじゃない」
「いい気味よ。三木タカオが死んで嬉しかったもの。あいつの字もあったし」
紫織、苦笑い。
「だから学校の窓ガラスが割られる事件とか、タイヤに穴があけられる事件が多いんだ」
「確実にそうよ。不良グループじゃない」
「先生からも生徒からも虐められていた生徒が学校に復讐していることよ」
「高島先生も大友シゲルも襲撃事件で死ねばよかったのに・・・」
「だから、小山の仕返しを見逃そうとした古賀君が気になったりするのよね」
「へぇ〜 シンペイちゃんを? 冗談じゃなかったんだ」
「・・・・古賀君自身が好きというより・・・なんか、わかんない・・・平凡だし。話さないし」
「でも、シンペイちゃんは、復讐じゃなくて道理を通しただけだと思うよ」
「普通さ、人間的に田城、大田が、大友、相楽を殴っても気にしない」
「大友や相楽が、小山を殴っても、なんとも思わない」
「でも、小山が大友、相楽を殴るのって納得いかないって、感情的に贔屓する人間が多いもの」
「それくらい、小山がいやな感じでしょう」
「まあね。小山と友達になりたくないわね」
「でも、シンペイちゃんは人間的な価値を無視して、その逆もありって単純に思うわけ」
「だから復讐してくれたから、という理由で付き合おうとしても、上手く行かないと思うよ」
「そうね。鎌ヨとの関係を壊したくないし」
「だいたい、沢木さんに勝てないし・・復讐ってイヤだしね。カッコ悪いか」
「わたしだって、親を轢き殺した人間に復讐してやりたいから気持ちは分かるよ」
「紫織ちゃんの気持ちに比べたら。虐めなんて、たいしたことないかな」
「でも、気持ちは分かる・・・・ねえ。ケイちゃん」
「なに?」
「わたし、佐藤さんと仲良くしたら駄目かな」
「何かあったの?」
「ちょっとした。切っ掛けがあってね」
「佐藤さんが上級生に襲われた事件?」
紫織、固まる
「知っているんだ」
「いま広がっている噂、本当だったの?」
「奈河町小卒の三年が元一組か、四組の女の子を襲う計画があったみたいなの・・・」
「三年の5人が自宅謹慎でしょう。佐藤さんも休んでいるし」
「未遂だったの」
「わたしと三森君が男子生徒に拉致されて体育館に連れ込まれそうになった女の子を見つけたから・・・」
「慌てて助けに行って警察呼んで倉庫にいたのを佐藤を救出したの」
「まだ誰にも言わないでね。学校に止められているから」
「・・・へえ。少しは、かわいそうね」
「少しか・・・」
「まあ、わたしも轢き逃げ犯人が強姦されたら。少し、かわいそうに思うかもしれないけど」
「いいよ、仲良くしても」
「個人的に佐藤に恨みはないから。でもわたしが佐藤と仲良くできるかどうか期待しないでね」
夏休み。
紫織は、通信簿を法定代理人に見られ、一言、二言、三言、いわれる。
しかし、経済的に自立している紫織は強かった。
ただ、良い高校に入った方が良い出会いがある。
社会でも高い評価がある。
可能性も大いに開けるだろうという言葉に、哀愁を覚える。
ハルキとの別れは決定的だった。
といっても紫織にとってハルキは、恋愛の対象というより、あくまでも憧れ。
無論、キスを迫られたら断る気はしない。
その先は、どうか・・・これは、流れに任せるしかないような気もする。
下手すれば妊娠という可能性もある。
“三森君の子供か・・・むふっ♪”
“どうしよう。まだ早いし”
しかし、逃すのは、あまりにも惜しいほど、三森ハルキは、オールマイティーに優れている。
外せば、一生、縁が無い上物。
この家に泊まりに来るのは、6人。
鎌田ヨウコ、沢渡ミナ、足立クミコ、白根ケイ、沢木ケイコ、中山チアキ
なぜ、恋のライバルの中山チアキが泊まりに来るのか。
どうやら最初は北島事件のあと心配してがあった。
いまは、一人は寂しいだけで、それほど怖くない。
チアキの口実は、勉強を教えるため。
しかし、本音は、自分が家庭教師を引き受けることで、
ハルキが近付かないようにしているのだと分かってくる。
動機は見え見えでも紫織は、それを受け入れていた。
ハルキがステキ過ぎて釣り合わず。
一緒にいるときの疲労感は極限だった。
そして、朝からクミコに頼んで化けさせてもらっていた。
今日は、ハルキが来て勉強を教えてくれる。
紫織は、ドキドキしながらハルキに夏休みの宿題を教わる。
二階でハルキと二人っきり。
あんなことや、こんなことも、ありといえば、ありだった。
あのドアの向こうには、ベット。
このリビングにもソファベットが二つ。
紫織は、思わず妄想状態に入る。
一時間・・・二時間・・・三時間・・・
紫織は、料理を作って二人っきりで食事。
シンペイと違って、ちゃんと料理が美味しいと褒めてくれるのが良い。
“夫婦だ〜”
その後、片付けをして、午後も勉強する。
勉強嫌いの紫織は、反復詰め込み型のチアキ。
総合と分析の統計型なケイコに教わるときのような麻痺、拒絶反応はない。
しかし、極度の妄想と緊張状態に陥る。
「大丈夫? 角浦」
「は、はい、大丈夫です」
「そんなに緊張すること無いよ」
「自分にあった勉強のコツさえ覚えれば成績も上がるし」
「はい」 少し失望
「お店は、大丈夫?」
「ええ、今日は、アルバイトに頼んじゃったから」
「凄いね。年上の人を雇うなんて」
「マニュアル通りやれば、上手く行くようにしたから」
「へぇ〜 どんなマニュアル」
「・・あ、見る? 持ってくる」
紫織は、テーブルの上にあるマニュアルをハルキに見せた。
「へえ。第18回」
「時々、思いつくから、そのときに優先順位を変えていくの」
「そのたびに印刷しなおすから。アルバイトは、優先順位にそって動けばいいだけ」
「へえ、第1回から第18回まで全部あるんだ・・・見ていい」
「うん、いいよ」
ハルキは、興味深そうに見ていく
「最初のマニュアルが10項目で最後の18回は35項目。角浦。頭良いんだ」
「そ、そんな。ことないよ」
「マニュアルは、アルバイトと相談しながら決めたし。テストも通知表も悲惨だったし」
「でも、このマニュアル。他の古本屋さんに持っていったら高く買ってくれると思うよ」
「そ、そうかな」
「“こもれび”商店街も、今度改装される “せせらぎ” 商店街も角浦が名付け親だろう。凄いよ」
「そ、そういってもらえると嬉しいかな」
「嬉しく無いの?」
「不安のほうが大きいから」
「・・・・・そうなんだ」
「・・うん。失敗したら責任感じるし。二つの商店街が潰れたら・・・」
「気晴らしに、すこし、遊歩道を歩かない」
「う、うん。でも夕食作らないと」
「いいよ、僕、何か、奢るから」
「そんな、勉強教えてもらっているから。わたしが・・・・」
「いや、ぼくが奢るよ。そんなに高いものは、奢れないけど」
「あ、ありがとう。三森君」
「あ、佐藤のお父さんからとんでもないお金を貰ったけど。角浦は?」
「・・・わたしも、貰った」
「なんか使うのが怖くて銀行に入れたままだけど・・・」
「でも・・・友達って、金をもらって、できるものじゃないよね」
「うん。でも、佐藤さん。今度、家に泊めてみようと思う」
「良いと思うよ。ぼくのところじゃ無理だから」
「仲良くなれたら良いけどね」
ハルキと並んで歩く紫織。
“こもれび”商店街の遊歩道は石が敷き詰められ、桜の木や花壇が植えられている。
雰囲気が良かった。
極貧商店の息子や娘の大学生が、
街路樹の桜と花壇の世話をすることで組合からお金を貰うようになっていた。
ウィンドウに映る三森ハルキと角浦紫織。
二人の姿を直視するのが怖い。
紫織も着飾っているから綺麗なのだが、それでも普段着のハルキの方がカッコ良くて釣り合わない。
紫織を知る、商店街の店主や常連客が驚いているのが良く分かる。
擦れ違う女の子がチラチラと見ては面白そうに笑う。
紫織が精一杯の背伸びをしているのが笑われているようにも感じる。
普通のカップルなら楽しめる遊歩道。
主観的に劣等感いっぱい。
客観的にもアンバランス。
苦痛に感じる。
「・・・・ここで食べよう」
“こもれび”商店街の中の定食屋だった。
『確か・・ま、松本さんだっけ』
紫織。メガネをかけた、少し太った親父。
全通型立体交差の駅ビルに反対していた。
「え、えぇ」
引きつる紫織。あまり流行っていない。
つまり不味いという事だろう。
店自体は、それなりに綺麗だ。
雰囲気は、良くも無く。悪くも無く。なにか引っ掛かるような気がする。
“まぁ どんなに不味くても毒は盛られまい”
ギョッとする店主とおかみさん。10のテーブルの内、4つが埋まっている。
夕食時にこれでは儲からないだろう。
ハルキが焼き魚定食二つと餃子。野菜スープを選ぶ。
「角浦。どうかしたの?」
「あ、自分の商店街なんだけと、あまり他所の店に入ることって、ないから」
「そうなんだ」
「うん。初めて入る。ほとんど自炊しているから」
「それか、隣の理髪店で夕食をご馳走になるから」
「料理つくるの、大変だろう」
「料理つくるの、好きだから外食って、ほとんどしない」
「友達と、ファーストフードに入ることがあるくらい」
「角浦って家庭的なんだ。なんか良いね」
「そういうのって安心する。料理とか美味しいし。お母さんが作った料理より美味いよ」
「えぇ〜 本当〜」
「うん」
「な、なんか自信が付いちゃったな」
食事が運ばれてくる。
食べてみると美味しい方だろうか。ハルキと一緒に食べて気分も良い。
少なくとも自分が作ったものより、上のような気がする。
外食をしない紫織に比較できるものは少ない。
「どう?」
「美味しい」
「そう、良かった」
「でも、外食ってしないから、ほかと比べようが無いけどね」
「あ、そうか、ぼくもファミリーレストランしか、入ったこと無いから。悪く無いと思うな」
「ファミリーレストランより安いし。ごめんね、良いお店とか知らなくて」
「そんなことないよ」
ハルキとのデートは、こもれび商店街を一回りしただけで終わる。
これで、自分の彼氏を商店街中の店主に教えたようなものだ。
次のデートを決めた後、ハルキは帰っていく。
その後、彼氏だけでなく、
こもれび商店街のキツネ娘とか、こもれび商店街の化け娘とか、
と角裏紫織の化けっぷりも商店街で評判になってしまう。
数日後
ミナとクミコが来ていた。
西口商店街の代表者、吉野コウキチが数人のお供をつれて来る。
公募した “せせらぎ” が採用されたからだ。
20万の賞金と土産物まであった。
そして、かなり斬新な “せせらぎ” 遊歩道の設計図を見せる。
単純に費用対効果で優れている方が良い。
いくら使うつもりなのだろうか。
少なくとも資金力は “せせらぎ” が上とわかる。
「・・・・魚のオブジェが、高そう」 紫織
「ええ、“せせらぎ” というイメージに合わせましたから」 吉野代表
「・・・・・・・・・」
「イメージに合いませんか?」
「い、いえ・・・わたし、貧乏が長かったから」
「石畳の遊歩道を川にイメージして」
「遊歩道に魚やカメ、アメンボ、岩にトンボ、蝶とか、絵を安上がりに埋め込むかなって・・・・」
「・・・・・・・・」 吉野代表
「あ、わたしが物心、付いたときには、東口商店街の方が落ち目だったから」
「・・・ああ・・そ、そのう・・・いまのアイデアですが」
「・・・」 紫織
「使っても良いでしょうか。もちろん、お礼は、後ほど、お支払いします」
「別に構わないけど」 無頓着。
その後、思いっきり腰の低い西側の代表と、そのお供は帰っていく。
奈河市議会
奈河駅ビル再開発の修正は、大いに揺れ動く。
未成年で法的拘束力を持たない角浦紫織と組む者はおらず。
利害関係は、最初に指摘した紫織を離れ、いくつもの派閥が形成される。
特に野党市議員が全通型立体交差への修正案で固まると、一般市民の賛同者も増加。
JRも利益回収を先延ばしにしても、市全体の交通網を整備する方に同調、傾いていく。
そして、南興だけでなく、北奉までも独自の設計図を出すと、
奈河駅再開発は、さらに混迷を深めていく。
その日
佐藤エミが遊びに来る。
「・・・・ごめんね。佐藤さん。外とかに遊びにいけなくて」
「良いの。忙しいんでしょう。呼んでくれてありがとう。紫織ちゃん」
「いつもは、何をしているの?」
「家で・・・勉強している事が多いの」
「そう・・・そういえば、学年総合3位で、沢木さんと、並んでたっけ」
天は、どうして二物を与えるんだろうと神のやりように不平を言いたくなる。
顔だけの仁科マイが普通なのだ。
「むかしは、クラスの生徒と仲良くしてたの」
「遊びに行ったり、遊びに来てもらったり、でも、いまは、お互いに交流もなくて・・・・」
「そ、そうなんだ」
「最初は、軽い気持ちだったの。でも、寄せ書きなんて書きたくなかったけど・・・」
「だんだん、そうしないと仲間はずれになるような気がして、でも、あんな目に遭うなんて・・・」 佐藤エミ、泣き始める
彼女の言ったことは、事実だ。
寄せ書きを書かなかった生徒は、一組に二人、四組に三人いて、
彼らの多くは、書かなかったことで新しい虐めの対象になった。
「あの三年の五人組の方が悪いんだから」
紫織は、こういう美人で頭の良い人間を慰める機会は、一生無いだろうと思いつつ、
エミの背中を撫でる。
「助けてくれてありがとう・・・本当にありがとう・・・もう、あんなことしない、絶対にしない」
「うん。大丈夫よ・・・たぶん。みんな、分かってくれるから」
「それに、もう、忘れ去られそうだし」
「・・・うん。ありがとう。いつも掲示板とかで庇ってくれて」
「本当のことしか、書いてないよ」
「そう思う。特に酷いこと書いた人に」
「あなたが一組か四組にいたら寄せ書きに書いたと思う」
「って書いてくれた時は嬉しかった」
「わたしが一組か、四組にいたら同じように書いたかもしれないもの」
「紫織ちゃんがいたら、虐めは無かったかも」
「そんなこと無いと思うけど」
「わたし、紫織ちゃんと仲良くしたかったんだ」
「引き立て役で?」 自虐的。
「そ、そんな違う。尊敬していたから」
「そ、そうなの?」
「たまに沢木さんや中山さん。三森君と歩くけど、もう、王子様や王女様と歩く侍女よ」
「・・・・・・・・」 佐藤エミ
「やっぱり、そう見えるのね」
「で、でも、そういうんじゃなくて紫織ちゃんと、一緒にいたいのよ、きっと」
「ふっ きっと思いっきり引き立つよ」
「そういう、ひねたこと言わないで・・・羨ましいな」
「紫織ちゃんと歩ける。三森君や沢木さん、中山さんが」
「佐藤さんと一緒に歩いてもいいよ。仕事が暇になったらね」
「・・・エミでいいよ」
「エ、エミちゃん」
自分より美人でハルカに頭の良い人間をちゃん付けするのは、気が引ける。
「うん」
「でも、エ、エミちゃんが、あの佐藤おばさんの子供なんて、知らなかった」
「知ってたの? お母さんのこと」
「うん、月に一回くらい古本を買いに来るから」
「・・・家、お金持ちだから、古本なんて買わなくても良いのに」
「佐藤のおばさんが来るようになったの。おばあちゃんが亡くなってから」
「わたしが天涯孤独になった後からだったの」
「そうだったんだ」
「お金持ちなのに古本屋に入るなんて恥ずかしい思いをしたと思う」
「礼を言ってもらえる。ありがとうって」
「うん」
「すこし、休んでて店を見ないといけないから。ゲームとかもあるよ」
紫織は、テレビゲームやDVDを見せて準備する。
「あ、手伝わせて」
「・・・駄目、15歳未満を働かせたら労働基準法違反で、訴訟されちゃうもの」
「そう、なんだ・・」 落胆
「一時間くらいで戻ってくるから」
不便な法律だ。
しかし、認めれば子供を働かせる親が増えるとでも言うのだろうか。
この手の法律は、後進国から先進国への向かう途上に起きる過渡期的なものだろう。
しかし、金の必要な一五歳以下はどうするのだろうか、
まともな働き口が無いのなら援助交際か、親父狩りしかない。
紫織は、6月18日で、13歳。
かわいい13歳だといいが上には上にいて、沢木ケイコ。中山チアキ。三森ハルキ。
そして、佐藤エミと一緒にいると劣等感と自己嫌悪に陥る。
どう考えても古賀シンペイ、鎌田ヨウコ、沢渡ミナ、足立クミコ、白根ケイといる方が気が楽。
紫織は客足、本の購入と売り上げ、お金の動きを見直し、
残金と在庫の差に不備があると指摘。
これを怠ると、ダダ漏れになって大損害。
抜き取り検査もする本が汚れていないか、やることは、いくつもあった。
汚れている本、落丁、乱丁した本が混ざっていると信用問題になった。
マニュアルに不備がないか、アルバイトと話し合う。
もし不都合があれば、優先順位を変更、新しい項目を付け加える。
世相を反映して緊急事マニュアルが別枠で作られ、
労仕共に納得できるマニュアル作りは、それなりに面白く。
同時にアルバイトの店に対する意識調査にもつながる。
紫織は、売り上げ利益に一定のパーセントを掛けた金額を、
アルバイト料と別にお小遣いとしてアルバイトに渡した。
そのため真面目に働く場合が多い。
そして、売り上げ増加と時間延長に伴い、アルバイトは、4人に増える。
店の改装後、貯蓄が減り、
店の売り上げに生活が依存するようになると紫織の真剣みも増していく。
特に夏休みに入ってから売り上げは伸びていく。
そして、読書の秋で、さらに増えればいいが本屋と違って、
一線級で売れる古本が回ってくるかどうか別の話し。
紫織は、佐藤エミを誘って本屋に偵察に行く。
こもれびの遊歩道に出ると、どことなく陰のある美人、佐藤エミに視線が集まる。
平均8対2の割合で、佐藤エミに視線が注がれ、ステルス戦闘機になった気がする。
『・・・・どうせ、そうでしょうよ』 紫織は、思った。
奈河駅から東口商店街に入ると、せせらぎ商店街への改装が始まっている。
紫織は、改装を秋にやって、冬のクリスマスで一気に巻き返しと思っていた。
それが時期外れ、発注価格が安かったのか。
短期の内にやってしまおうと思ったのか。
これだけの規模でやれば、完成は早いだろう。
夏休みの売り上げを犠牲にしての改装工事。
道理で、こもれび商店街の売り上げが増加していると思った。
夏休みの後期に完成すると、客が振り子のように戻る。
「紫織ちゃんが発案したんだよね。せせらぎ商店街」
「うん」
「どういう気分。自分のつけた名前が商店街の名前になるのって?」
「・・・嬉しいかな・・・でも・・・子供の思いつきで付けた名前を使うのって、不安になるよ」
「“こもれび” も “せせらぎ” も、良い名前だと思うよ」
「もっと、良い名前を考えようかとか、思わない? 普通。大人だったら」
「・・・そうかもしれないけど。本屋閉まっているよ」
「花火大会は南奈河町の方だから、その前に完成したら東口のせせらぎ商店街が有利になる・・・」
「それに店舗も改装しているところも多いみたい」
「負けそうなの?」
「古本屋だけなら負けないけど、商店街同士になると負けるかも・・・」
「でも古本屋も改装しているみたいね」 紫織が覗き込む
「お客が減ると大変なんだ」
「客が、こなくなったら潰れちゃうかな」
「15歳にならないと仕事が出来ないから・・・援助交際は、したくないけど」
「そんな、駄目」
「なんてね。どうかな。住みやすくなれば人口も増えるし」
「両方の町にも大きなマンションが建設されているから、悪く無いと思う」
「わたし応援するから」
「ありがとう・・・・エミちゃん」
その後、東口の商店街から外れた本屋に入って売れ筋の本を調べる。
「エミちゃんは、どんな本を読むの?」
「少女マンガより、少年マンガの方が好きかな。でもこういうのも好き」
「鉄道・・・時刻表・・」
「うん、こうやって見て旅行するの」
「自分で泊まるホテルを決めたり、地図見て観光で回るところを決めたり。バスに乗って移動したり」
エミは、パラパラと時刻表をめくる。
「・・・実際に動かないで机の上で?」
紫織は、数字の羅列を見て諦めた。
「そう・・・・変わっているでしょう」
「そ、そうでもないかも・・・」
紫織は、鉄道の時刻表の本の山を見て思う。
「実際に行かないの?」
「小学校の時は、二回、友達と行ったことがあるけど、いまは、もう・・・・無い」
「そう・・・一日ぐらいなら夏休みを利用して付き合えるかも」
「本当!」
「まあ、何とか都合付けようかな」
「やった♪」
「三森君も呼ぶかな。女の子二人だと無用心だし」
「三森君って、ステキね」
「・・・エミちゃん。狙ってる?」
エミは首を振る
「きっと嫌われているもの。あんなこと寄せ書きした。わたし、なんて」
紫織が三人で歩く姿を想像する。
どう考えても王子のハルキ、王女のエミ、侍女の紫織になる。
クミコに化けさせてもらっても。ワンランク落ちる。
中身や過去は、外から見て分かるわけがない。
これで傷心の美少女エミにハルキを取られたらバカ丸出し、
その上、チアキやケイコになんと言われるか想像したくも無い。
損な性格と思いながらも安全保障上、男連れが良いと思う。
「大丈夫。取らないから、それに中山さんに負けそうだし」
「紫織ちゃんを出し抜いたり出来ないもの」
この手の問題は、約束そのものが当てにならないと直感できるほどエミは美人だ。
並みの男が憂いのある少女を放っておくだろうか。
頭が良くて上手く立ち回ったせいで不幸な立場に追い込まれたに過ぎない。
性格が悪いわけじゃない。
「まあ、いいか、行けそうな日を調整して連絡するから。携帯番号交換しよう」
「それに三森君じゃなくて婦警さんを連れて行く、という手もあるし」
「婦警さん?」
「友達がいるの。北島先生のお陰かな」
「何もされて、なかったんだよね」
「うん。怪我をしたのは北島先生の方だから」
「階段で転ばなかったら犯されて、殺されて埋められていたんでしょう」
「でも、北島が階段から落ちて全治6ヶ月。セーフ」
「よほど酷い落ち方したのね」
「そうね」 苦笑い
その後、ファーストフードで昼食。
家に戻って古本屋の仕事を少しした後。
エミに勉強を教えてもらう。
そして、夕食にカレーを作って食べる。
よくよく付き合えば、陰があってもエミは、良い女の子だろう。
いや、偏見がなければ陰も魅力に思えた。
美人は得だ。並みの女だと根暗。
紫織は、小学校襲撃事件で、いやな事が、あっても株を上げていた。
一組・四組に対する偏見が、あっても恨みはない。
そして、夜にうなされるエミは、かわいそうに思えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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