月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第17話 『小旅行に行こう』

 淀中学一年の夏休み

 紫織にとって学力回復と同時に稼ぎ時。

 東口のせせらぎ商店街改装が完成する夏休み後半まで、

 利潤を上げなければ、余剰資金で厳しくなる。

 こもれび商店街は、改装中の東口から客が流れてくる収益で借金の返済を急ぐ。

 そして、次期改装案が、こもれび商店街組合会議で続けられる。

 せせらぎ商店街の完成が近付くにつれ、

 角浦紫織に対する視線や言動も厳しくなっていく。

   

  

 そして、古賀家も店の改装でもめていた。

 収益が上がっていても手持ちのお金を店の改装に回すのは大きな賭けだった。

 失敗すれば回転資金で余力を失う。

 この頃になると紫織が持っていく料理は簡単な一品から簡単じゃない一品になっていく。

 カオリに遠慮してかメインでなく、オマケのようなものだったものの、

 小食な人間なら十分、それで一食、食べる事ができる。

 紫織とシンペイは、店の改装でムッとしているトオルとカオリの前で食事をする

 紫織は、何とか、場を良くしようと・・・・

 「今日も、うどん美味しい」

 「・・どうも・・・・・・」

 「・・・・・・・」 トオル

 「・・・・・・・」 シンペイ、我関せず

 「・・し、食事の時、くらい・・楽しくした方が・・・・」 控えめ

 「紫織ちゃんは、どう思う?」 カオリ

 「さあ・・・店主が決めて自分で責任を取ることだから・・・・」

 「・・・じゃ 決めた」

 「ちょっと! 待ちなさいよ」

 「いや、このままだとジリ貧だ」

 「だいたいの設計図も出来てる。せせらぎ商店街の完成に合わせて、改装だ」

 「借金が、あるのよ。他の商店街だって儲かっていないところもあるし」

 「自分の分の借金は何とかなる」

 「団体保証なのよ。一軒でも夜逃げされたら、その分も降りかかるでしょう」

 「保険を解約すれば良い」

 「だって、勿体無いじゃない」

 「このままかけ捨てる方が勿体無い」

 シンペイが食べ終わると逃げていく。

 まだ食べ終わっていない紫織は焦る

 「でも、何か、あったら、どうするの?」

 「花火大会前にせせらぎ商店街は、完成して全店開店。そうなったら、一気に客が離れる」

 「どう思う? 紫織ちゃん」

 「せせらぎ商店街開店とか、奈河駅ビル完成とか、向こうに勢いがある時は、止めた方が良いかもしれない」

 「「・・・・」」

 「クリスマス商戦とか、来年の桜の開花とか、節目があるから、そのときに合わせても良いと思うけど」

 「3年後の桜の開花に合わせるのなら賛成」 カオリが妥協案を出す

 「・・・・・・」 トオル。むす〜。

 「・・・・・・」 カオリ

 「売り上げがいまより、二割落ちたら即やる」

 『損益分岐点か・・』 紫織

 「・・・・いいわ」

 なんとなくホッとした空気が流れた。

   

  

 部屋に戻るとメールが来ていた。

 エミから旅行スケジュールだ。土日平日に分けて、3種で9個の行程だ。

 既存の旅行と違う手作りの旅行設計だが面白い。

 商売になりそうというのが紫織の感想。

 携帯をかける紫織

 「ねえ、エミちゃん」

 『何? 紫織ちゃん』

 「この日程は、エミちゃんが考えたの?」

 『うん』

 「商売が出来るよ。こういう旅行を紹介したら」

 『あるよ。こういうの好きな人、いっぱいいるから』

 「あ、あるんだ」

 『郷土のお菓子とか、お店とか、紹介することで、お金もらっている人いるもの・・・』

 『あそこのラーメンとか、ここで、このケーキセットとか、回転焼きとか・・・』

 『金にしている人もいるけど、わたしは、ただの趣味だから』

 「へえ・・・商売しないの?」

 『してもいいけど、お小遣いたくさん貰っているから、あまり興味ない』

 「・・・き、興味ないって。いくら貰っているの?」

 『月に5万円・・・使いきれなくて、400万くらい残っているけど』

 「・・・・・・・・・」 絶句

 『・・・どうかした・・・』

 「ごめん、一瞬。気を失ってた」

 『・・・おかしい・・・』 笑う

 “・・・・住む世界が違う・・・”

 「この行程なら楽しめそうだし、誰でも誘えると思うから当たってみるよ」

 『うん』

 「あと、エミちゃん。いくら貰っているか聞かれて5万円なんて言っちゃ 駄目よ。誘拐されるからね」

 「ウソでもいいから1000円ぐらいにしとかないと」

 『うん、紫織ちゃんには正直に言いたくて・・・』

 「それならいいけど」

 『・・・・』

 「エミちゃん。商売やろうよ。お小遣い断って。その・・・小旅行案内」

 『うん、いいよ。小旅行案内情報に登録すれば、いろんな商品が紹介されるんだ』

 『あとは、ルートを作るだけなの。商品や路線を一つ紹介するだけで、何円か入ってくるの』

 『後は、書き込みがあれば、お金が入ってきたり・・・・』

 「そうなってるんだ」

 『重複しないようにしなければならないけどね。意外と重複させないようにするのが難しいの』

 「そんなに、ライバルが多いの?」

 『私の場合、机上の空論通り進むかが面白いの。そうじゃない人もいるけど』

 「そうなんだ・・・・」

 「家でね。A4かA5で10ページくらいを編集印刷製本して50円とか、100円くらいで売っても良いかな、と思ったんだけど」

 「そういう機械もあるから・・・じゃ また、連絡する」

 『うん』

  

  

 紫織、佐藤エミ、古賀シンペイ、三森ハルキ、

 婦警の楠カエデ、榊カスミの六人で電車に乗って、一日小旅行。

 保護者付きなので思い切って寒村の駅で降り、

 山を一つ越え、途中で駅弁を食べて、別の路線に乗って戻る。

 机上の空論といえるものだったものの、

 時間的は3時間ほど余裕がある。

 ハイキングコースを歩きながら時間を調整する。

 ケイコやヨウコに内緒でシンペイを引っ張り出すのは骨が折れた。

 しかし、エミの相手を確保するため、今後の展開を考えれば、無難。

  

 天気上々で、夏の日差しを浴びながら山道を歩くのは、楽しく暑かった。

 そして、この女たちの中で一番見劣りする紫織は “海よりましよ” といえる。

 エミは、ハルキに助けてもらった礼を言った後、なんとなく思惑通り。

 ハルキから離れ、地図、コンパス、デジカメを持って先頭を歩く。

 なぜか、長い枝を拾って持っている。

 その後をシンペイ。

 そして、紫織の側にハルキが並んで、楠カエデと榊カスミが続く。

 「いいなあ、紫織ちゃん。中学生でカップルだなんて」 楠カエデ

 「彼氏連れで、良いよって言ったよ」

 「婦警って男に敬遠されやすい職業なの」

 「私達って我が身の青春を犠牲にして、地域社会のために働いているんだからね」 榊カスミ

 「言ってくれたら。学校に20代後半で格好いい独身教師がいたのに・・・」

 「本当! 紫織ちゃん」 榊カスミ

 「だれ?」 エミ

 「武藤タケオ先生 27歳。英語教師」

 「ああ、カッコ良いかな。偏見とか、差別も、ほとんどしないし良い人よ」

 「紫織ちゃん。その人のこと、もっと詳しく聞かせてよ」 楠カエデ

 「それより、自然を見た方が良いよ」

 「せっかく来たんだから遠くの入道雲も大きいし、おたまじゃくしも泳いでいるし」

 寒村のあぜ道を歩くのは気持ち良かった。

 トンボが滑空し、蝶が、花の間を飛んでいる。

 カエルの声や虫の音がやかましいほどで空気も美味いような気がする。

 「紫織ちゃん。自然は逃げないけど。男は有効期限があるんだから」

 楠カエデの手が紫織の肩に乗せられる。

 「楠先輩。わたしに紹介してくれているのに、取ることないじゃないですか」

 「いつ、だれが、あんたに紹介したのよ」

 「だって、わたしよね。紫織ちゃん」

 「なに言ってんのよ。年功序列よ」

 「それは、相手が決めることでしょう」

 「あ、あとで、映像付きでメールを送るから。公平に」

 「本当!」 榊カスミ

 「うん」 頷く

 なんとなく、楠カエデと榊カスミが明るい

 「先輩。子供達の目線で良い先生は、期待できそう」 喜ぶ

 「うんうん」 期待、期待

 「警察仲間にいないの?」

 「だってぇ〜」 榊カスミ

 「恋愛は、未知との遭遇に憧れて、結婚は、良く分かっている人と、よね」 楠カエデ

 「婦警って他の職種と比較して、合コンの機会、少ないんだから」

 「な、なんか、結婚詐欺に引っ掛かりそう」

 「あはは」 エミ

 「結婚詐欺にも逃げられるのよ」 楠カエデ

 「あはは」

 「ったくぅ でも、けっこう楽しいわね。こうやって、田園の中、歩くことないから」 楠カエデ

 「弁当は、どこにするの? 三ヶ所に分かれているけど」 榊カスミ

 「時間を調整しながら決めるんだって、三ヶ所は、見晴らしの良いところ」

 「佐藤エミちゃんが、これ作ったの、良く出来てる」 榊カスミ

 「安上がりに楽しめるのが人気あるんです」 エミ

 「確かに、全部合わせてもレストランで食べるより安い」 楠カエデ

 「ホームページだと5年前にツチノコが目撃されたそうですよ」 エミ

 「「「ツチノコ〜」」」

 榊カスミ、面白がる

 「でも、マムシも気をつけてくださいね」 エミ

 「それは怖いわね」 榊カスミ

 思わず全員が水田の周りを見渡す。

 「エミちゃん、一人だけ枝持っているなんて、ずる〜い」

 「あっ! みんな、どうして持ってないの?」

 「案内の注意書きに “マムシに気を付けて” って、書いているのに・・・」

 確かに大きく赤で書いてあった。

 水田を出て山道に入るまで、水田を注視しながら歩かなければならず。

 「あ、ヘビ」

 シンペイが水田の中でコブシ大のカエルをくわえている茶系のヘビを見つける。

 「「「きゃー!!」」」

 と騒ぐ、紫織、楠カエデ、榊カスミ

 「カ、カエル食ってる」 紫織

 背筋に悪寒が走って目が放せない。1m30cmは、ありそうだった。

 佐藤エミが枝で突付くとカエルをくわえたまま、蛇行しながら逃げていく。

 「ちょっと、エミちゃん・・・こ、怖すぎ」 紫織

 「まだ、机上の空論から出てないから想定内よ」

 「だ、だって」

 「案内書に書いてある範囲内だもの」

 「じ、じゃ マムシだけじゃなくて、スズメバチも」

 「あれは、青大将だから。噛まれても死なない」

 「いや〜 ヘビ。気持ち悪い」 紫織、いやいや。

   

 あぜ道から山道に入ると、

 紫織、シンペイ、三森ハルキ、楠カエデ、榊カスミは、慌てて手頃な枝を拾う。

 佐藤エミは、山間の家を見つけると。

 そこにいた、おじいさんに山を越えていくルートや獣道を確認。

 風景の良さそうなところも、新たに地図に書き込んでいく。

 さらに、いろんな情報を聞き出す。

 人の良さそうなおじさんが山道の説明をしながら、

 採りたての各種キノコとトウキビを焼いて、トマト、キュウリをご馳走してくれる。

 佐藤エミは、いかにも慣れているといった感じで、

 お礼の封筒と、お菓子をおじいさんに渡す。

 6人は、おじいさんの家の縁側で一休み。

 「佐藤さん。慣れているんだね」 ハルキ

 「こういう、小旅行は好きだからホームページで、いろんな文献を読んでいるの、だから」 エミ

 陰のある佐藤エミは、なんとなく大人の魅力があり。

 紫織もドキリとさせられる。

 「勉強になる。楠先輩。私達もやろうよ。今度、独身寮のみんなで・・・」

 「そうね・・カスミが下準備するなら良いけど」

 「え〜 わかんない〜」

 「そういうと思った」

 「紫織ちゃん。また誘ってね。武藤タケオ先生27歳。英語教師も一緒にね」

 「酒場で下手な合コンよりも良いかも」

 「うん・・・でも、仕事があるから夏休み中は、難しいかも」

 「良いわよ。秋も恋の季節、冬も恋の季節」

 「カスミは、全季節全天候型で恋ができるんでしょう」

 「わたし抜きなら、動きやすいかも。エミちゃんが先導すれば」

 「良いの?」

 「うん。だって、楽しいのに勿体無いよ」

 「同級生とかつれてきたら、みんな仲良くなれるよ」

 「保護者なら武藤先生と婦警さんがいるし」

 「うん・・・でも紫織ちゃんが、いないと・・・・」

 「大丈夫よ。三森君は、人気あるし。シンペイちゃんは、一応、まだ、学級委員長だし」

 「良いと思うよ。こういう、小旅行」 ハルキ

 「たまにはいいかな・・・こういうところでマンガ読むのも」 シンペイ

 「・・・・」 嬉しげに頷く、エミ

 「まさか、持ってきてないでしょうね。シンペイちゃん」

 「朝、来るとき、全部調べて3冊とも没収したじゃないか」

 「普通、こういう旅行に行くときには、マンガなんて持ってこないの。仲間と語らいなさい」

 「この子が、あの古賀シンペイ君なの?」 榊カスミ

 「そうなんです・・・思いっきり、周りの期待を外すんですよ」

 「そっち系なの・・・」 楠カエデ

 「でも命がけで女の子助けたりするから、人気あったりするんです。いま彼女が二人」

 紫織がVサイン。

 「え〜 中学生の癖に二股なの」 榊カスミ

 「どんな。娘と付き合っているの?」 楠カエデ

 紫織が携帯で二人の映像を見せる

 「うそ〜! この娘。超かわいい」 榊カスミ

 「アイドルになれるよ。勿体ない」 楠カエデ

 「こんな美人に二股かけるなんて、犯罪よ」 榊カスミ

 「二人がシンペイちゃんを取り合っているのよね」

 「え〜!」

 楠カエデと榊カスミがトリップ

 「え、じゃ 佐藤さんと三森君が付き合っているの?」 楠カエデ

 「ぼ、ぼくは、角浦と・・・」 ハルキ

 「・・・・・・・」 楠カエデと榊カスミが絶句。

 紫織、無上の喜び。にへら〜

 『良かったね。紫織ちゃん』

 エミが耳打ち。にへら顔で頷く。

 ぼんやりと紫織を見詰めるシンペイと、目が合う佐藤エミ。

 そして、ハルキも含んで複雑な視線が交差する。

 知らないのは、幸せに浸る紫織だけだった。

  

  

 民家でトイレを済ませると山道を歩く。

 情報通りに進む山道。

 そして、獣道へ。

 「エ、エミちゃん・・・そっちに行くの」 紫織

 「大丈夫よ。ちょっと寄り道するだけだから。道もわかっているし」 佐藤エミ

 佐藤エミは民家のおじさんに教えてもらった獣道を恐々と進む。

 紫織、三森ハルキ、シンペイ、楠カエデ、榊カスミは、付いて行く。

 獣道を散策し、スズメハチに追われ、カブト虫を捕まえ、蛇に騒ぎ、

 クワガタを捕まえ、クモと毛虫とムカデに驚き。

 そして、獣道の途中に蜜蜂の巣。

 「・・・エ、エミちゃん。そ、それも想定の範囲内なの」 紫織、引く

 「あぶないよ。エミちゃん」 楠カエデ

 「案内文に書いてないし。戻ろうよ」 榊カスミ

 「虫除けスプレーもつけているし、やり方、知っているから」 佐藤エミ

 ロールプレイングゲームなら通り道の前に怪物だが現実は、蜜蜂の巣。

 佐藤エミは、風上を計算して枝木を集めてタバコに火をつけ、そのまま燃やした。

 タバコの匂いと焚き火の煙で蜜蜂の巣は大騒ぎになって、

 しばらくすると大人しくなる。

 ボトボト落ちる蜜蜂。

 佐藤エミは、ナイフで蜂の巣を三分の一ほど削り取り、ビニール袋に入れる。

 紫織、楠カエデ、榊カスミは青くなっている。

 「佐藤さんってワイルドなんだ。お嬢様っぽいのに」 楠カエデ

 「ていうか、あの豪邸の佐藤家の娘だから、本当にお嬢様でしょう」 榊カスミ

 「憧れていたの、こういうの・・・」

 佐藤エミがペットボトルの水をかけて焚き火を消す。

 「インディージョンズ?」 楠カエデ

 「・・・・パーティーは蜂蜜を手に入れた。経験値が三UP。HPを5ずつ回復」

 「そっちか!」 楠カエデ

 「・・・冗談」

 「どうせなら、金貨の方が」 榊カスミ

 「それは・・・怪物を倒さないと」

 その後、獣道を走破して、山道に戻る。

 昼過ぎに山の頂きで昼食。

 おじいさんに教えてもらった風景を楽しみ。

 時間を調整しながら山道を降る。

 行きと違って、なんとなく物悲しかった。

 これからではなく、終わりに向かっていたからだ。

 あとは山を降り、駅から奈河駅まで何回か乗り換えるだけだった。

 なんとなく口数が減っていく。

 奈河駅の二つ前に降り、セブンイレブンで、おにぎりと花火を買う。

 そして、川辺の近くの焼鳥屋で買った焼き鳥と、おにぎりを夕食にして、

 花火で遊ぶ。

 この全ての行程は佐藤が決めたものだった。

 楽しい一日を過ごして、奈河駅で分かれていく。

 シンペイは、佐藤エミを家に送り。

 ハルキは、紫織を送っていく。

   

  

 シンペイと佐藤エミ

 「ありがとう。古賀君。今日は、付き合ってくれて」

 「うん・・・楽しかった」

 「本当に?」

 「本当」

 「わたしといるの、イヤじゃなかった?」

 「別に」

 「別に。か。わたしといても楽しくないよね」

 「わたし “学校に来るな” って、書いたの。なんで書いたんだろう」

 「本当は、違う文字を書いたんだろう」

 「・・・・・」 佐藤エミ

 「声色でウソが分かる」

 「“死ね” って書いたの・・・寄せ書き書いて。ウソまでついて最低ね。わたし」

 「別に」

 「別に・・・わたしが、どうでもいいから!」

 「寄せ書き書いたのもウソをついたのも。どうでも良かっただけで、佐藤のことじゃないよ」

 「同じよ。古賀君は、わたしのこと、どうでもいいんでしょう」

 「佐藤だって、ぼくのことは、どうでもいいんだろう」

 「・・・そ、そんなこと無い・・・」

 「周りのこと気にし過ぎだよ。また同じ失敗をするよ」

 「古賀君は、わたしの事が嫌いなんでしょう」

 「クラスに40人いるけど、ぼくにとって30人は、どうでもいい存在だよ」

 「5人は、嫌いな人間。5人は身近な人間。それだけ」

 「佐藤は、30人の中の1人だよ」

 「・・・それって、寂しくない」

 「生贄を一人作って残りの生徒と上手くやるより。好みだね」

 「・・・・・・」 エミ

 「・・・・・・」 シンペイ

 「古賀君と身近になるのは、どうすれば良いの?」

 「分からない。身近になる時は、なんとなく身近になる」

 「古賀君にとって、一番、身近なのは、角浦紫織ね」

 「・・・うん」

 「ふっ なんとなく。古賀君の性格、分かった」

 「小山君が仕返ししていたとき、そのまま仕返しさせたから」

 「一組と四組の生徒を憎んでいると思っていたけど」

 「ただ、自分の道理を通しただけ?」

 「自分にとって関係ないことだから」

 「やっぱり変わってる。みんなが偏見と見栄と保身ばかりなのに」

 「人数の多い方と上手くやって行こうと必死なのに・・・」

 「どうしてそれを放棄できるの・・・信じられない・・・古賀君の価値観・・」

 「僕の生き方が気に入らない人間は、たくさん入るよ」

 「そういう人間は、みんな、ぼくを嫌うから」

 「そんなの、信じないから」

 「白根ケイ、石井ショウヘイ・・・ほかにもいただろう。一組と四組で五人」

 「自分が虐められると分かっていても寄せ書きに何も書かなかった人間」

 「みんなと、上手くやっていこうと思わな・・」

 「止めて!」

 「・・・嫌われやすいのは、佐藤じゃない。ぼくの方だ」

 「・・・どうして、損ができるの」

 「・・・佐藤のお母さんは、お金持ちなのに古本屋に入った」

 「評判を落としても紫織ちゃんを助けようと思ったんだ」

 「札束を渡す方がよっぽど楽で簡単なことなのに・・・」

 「・・・・・」 エミ

 「・・・・・」 シンペイ

 「そう・・わたしは、好かれようとして、逆に嫌われた・・・」

 「そして、嫌われても良いと思った者が好かれた」

 「・・・・・・・」

 シンペイは手を振る。

 佐藤家の豪邸の前だった。

 エミは、シンペイの腕を掴んだ。

 「・・・お茶、出すから、入って」

 エミが、シンペイを引っ張る

 「嫌っているんだろう?」

 「・・・どうでも良いわよ。古賀君なんて」

 エミとシンペイは、大豪邸の中に入っていく、

   

  

 紫織とハルキ

 「・・・・三森君。今日は、付き合ってくれてありがとう。嬉しかった」

 「楽しかったよ。ああいう旅行が、あるなんて知らなかった」

 「元一組、四組と仲良くした方が良いね。きっと良いこともあるよ」

 「・・・・ぼくは、まだ、そんな風に割り切れないんだ」

 「バスケットは、協力しているじゃない」

 「バスケットはね。でも、本心からじゃない」

 「本心なんて・・・みんな本心で仲良くしているのかな」

 「・・・・」

 「わたしだって、一組や四組に偏見があるし」

 「元二組の生徒の間だって虐めは、あったし。でも仲良くする振りでも良いじゃない」

 「振りなら、何とかやってみるけどね」

 「でも二組と三組の生徒は、一組と四組の生徒のせいで社会からのけ者にされる」

 「・・・・」

 「高校に入るとき、大学に入るとき、就職するとき」

 「必ず。いやな思いをするよ。そのとき、憎みたくなるんだ。きっと」

 「悲観的。わたしも、嫌味なこと言われるけど・・・」

 「見たことあるでしょう。ホームページの書き込み・・気にしないようにしている」

 「社会は、ともかく、個人は当人でもなければ、三年前のことなんて覚えていないよ」

 「偏見より自分の目で見て判断する方が強いから大丈夫よ。三森君、カッコいいし」

 「本当にそう思っている?」

 「うん、思っている。そう思った方が楽でしょう」

 「やっぱりさ・・・」

 「・・え・・・」

 「角浦って、強いね」

 「そ、そんなこと無いけど。佐藤さんには負けた」

 「いや、別の意味で。強いよ・・・本当に」

 紫織とハルキは、古本屋の前。

 「お茶。飲んでいって」

 「今日は、いいよ。忙しいんだろう」

 「・・・・ありがとう。三森君」

 「じゃ いつでも誘ってくれていいよ。今日は楽しかった」

 「わたしも」

 

 

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第16話  『不純でも友達?』

第17話  『小旅行に行こう』

第18話  『新装せせらぎ商店街』

登場人物