月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第18話 『新装せせらぎ商店街』

 

 紫織は小旅行から古本屋に戻ると、東口商店街からの招待状がきていた。

 アルバイトの杉山キョウコと鴨川ヒトミに今日の売り上げと、

 購入した古本、残金と在庫の報告を受ける。

 なかなか、優秀なアルバイトだ。

 「上々ね」

 「この収益なら、けっこうな。お小遣いになりそうね」 杉山

 「・・・そうね。夏休みは期待できそう。秋も読書の秋だし」 にま〜

 「これだけ高収入の中学生なんて珍しいわね」 鴨川

 「皆様のお陰です。そのうち、定休日を作って、みんなで小旅行に行こうね」

 「小旅行は楽しかったの?」 鴨川

 「うん、田舎の水田と山道を歩いただけ」

 「でも、農家のおじいさんにとうもろこしと、キノコを焼いてもらって、ご馳走になったの」

 「楽しいのは、仲間と一緒だからかもしれないけどね」

 「獣道とかにも入ったから蛇とか、ムカデとかいたよ」

 「なんか、たのこわそう」 杉山

 「ミツバチの巣のお土産」

 紫織がミツバチの巣を袋から出して舐めると杉山と鴨川も舐める。

 「な、なんかハード・ワイルドね」 鴨川

 「「甘い〜」」

 「エミちゃんは、そういう趣向の持ち主だったみたいね」

 「あの大人しそうで、陰のある? お嬢様風の子?」 鴨川

 「お嬢様よ。たぶん」

 「へぇ〜 意外」 杉山

 「みんな、そう思っていたけど印象変わったかも」

 「いいな〜 わたしは海がいいな〜」 杉山

 「いいね〜 海」 鴨川

 「・・・美人は、海の方がいいけどね」 紫織、落ち込む

 「大丈夫よ。店長もかわいいから」 杉山

 「比較される相手によるでしょう。自己嫌悪に陥らせてくれる女の子が多いから」

 「お友達。美人が多いものね」 杉山

 「そう・・・引き立て役よ」

 「農家のおじいさんだって視線が8対2も違うんだから、ムカツク。海に行ったらゼロよ。ゼロ!」

 「分かる分かる。いるのよね。美人と一緒いる引き立て役。分かっていても一緒に行くの」

 「相手にされなくても出会いが広がるじゃない」

 「行ったら結局、惨めな思いするのに世の中、不公平ね」 鴨川

 「わたしだって高校になれば、もっと・・・」

 「・・・まあ、山でもいいか」 鴨川

 「そうね。山も悪くないわね」 杉山

 「計画は、佐藤さん任せだから」

 「どんな小旅行になるかわからないけど。決まったらいうから」

 「うん、楽しみにしている」 鴨川

 その夜、せせらぎ商店街からの招待状を見つつ、

 沢渡ミナにメールを送り、寝る。    

  

 

 翌日。

 古本屋の二階で、むすっ、としているミナがいた。

 「・・・どう?」 紫織

 「この旅行行程とデジカメの写真で詩を書けって」 ミナ

 「旅行詩。こもれび古本屋で、一泊未満の小旅行の本を出版してみようかなって」

 「・・・・・・」 ミナ

 「書ける?」

 ミナは、パソコンで文書を打ち始めた。

  

  ガタンゴトン 小気味良く揺れていた人影 仲間と軒下から出て行く 

  日を隠れ あぜ道に揺れ 水田へのびて 木漏れ日に踊る 

  カエルの歌 虫の音 好きな人の微笑み 

  トンボ 蝶 恋しい人の喜びに舞い 山道でかくれんぼ 

  夕陽を背にのびて行く 思い出を乗せて 町に伸びて行く ガタンゴトン 

--------------------------------------------------------------------

  流れていく風に誘われて いつもの喜怒哀楽が物足りなくて 

  仲間と一緒に 怖がって 泣いて 迷って 驚いて 手を繋ぐ 

  獣道で クモと ムカデに騒いで ヘビと スズメバチに逃げ回る 

  戦利品は 蜜蜂の巣の半分と カブト虫と 刺激という宝物 

  裏切られても 差し伸べられた手の優しさが思い出せる 

  寂しくても 差し伸べた手の気持ちに癒される 

 ------------------------------------------------------------------

   

 「・・・とりあえず、二つ」

 「こんなものかな。長くもなく、短くもなく、苦もなく手軽に読めて意味が分かる」

 「うぁああ!! 凄い。良い。ミナちゃん。旅行本が売れたら還元するからね」

 「今度、行くときは私も誘ってね。紫織ちゃん。イメージが湧かないから」

 「うん必ず誘うからね」

 「・・・誰かさんのファーストキスと一緒に封印したんだけどな〜」

 「そ、そこを何とか。詩人の沢渡ミナ先生」 拝む

 「三渡佐奈。ペンネーム、MIWATARI SANAで良いわね」 ミナが、打ち込む

 「あ、ありがとうございます。三渡先生」 紫織、ゴマスリ。

 「でも、紫織ちゃん。こういう才能もあったんだ。小旅行の案内スケジュールと行程なんて」

 プログラムを見て感心する。

 「・・・わたしじゃないの」

 「・・・誰?」

 「今度、紹介してあげるね」

 「・・・・良いけど」

 

  

 夏休み

 クミコ、ミナ、鎌田ヨウコ、白根ケイが時折、遊びに来て泊まる。

 夏休みの中旬になるとケイ、ヨウコが海外旅行に行くとクミコ、ミナの泊まりが増える。

 それとは、別にケイコ、チアキも暇潰しに来る。

 ケイコは、シンペイとデートのついで、

 チアキは、紫織がハルキとくっ付かないように見張りながら勉強を教えるため。

 たまにエミが来る。

 エミは、いろんな小旅行を提案し、

 紫織は、それをミナに転送して、旅行詩を考えてもらう。

 パソコンとプリンター、製本機で編集、印刷、製本してA五版10ページの小旅行本、

 “こもれび旅行” を販売。

 利益は、紫織、エミ、ミナの三等分。

 在庫をまったく気にしなくて良い本の販売は、楽で、

 こもれび古本屋出版本は、一部、同好の趣向を持った人たちに注目される。

 

 

 その日

 ミナとエミが古本屋の二階で会合。

 ムッとするミナと、うつむいたままのエミ。

 紫織が “こもれび” 小旅行本を片手に説明する。

 ミナが小旅行本の行程と、活字にされた自分の旅行詩を見比べる。

 ミナの肩を揉む紫織。

 ミナがようやく条件付で頷き、

 低姿勢のエミと握手したのは午後になってからだった。

 

 

 南奈河町、東口商店街の “せせらぎ” 落成大安売りと花火大会。

 紫織は、最初から “せせらぎ” と争うのを諦めて朝から店を閉めて臨時休業。

 勢いがある相手と競うのは精力を失うだけ。

 どうしても失いたくない天王山ではない。

 揺り戻しが必ずあるはずと機会を待つことにする。

 ハルキ、シンペイ、クミコ、ミナ、ケイコ、チアキ、エミと、

 せせらぎ商店街の新装開店セール式典にいく。

 クミコ、ケイコ、チアキは、佐藤エミが一緒にいることに納得が行かない。

 しかし、紫織、ハルキ、シンペイ、ミナが、かばうので、不承不承に一緒にいる。

 遊歩道の石畳に小川のように小魚やカメ、カエル、トンボ、蝶などのオブジェが埋め込まれていた。

 両側にいろんな種類の木が植えられている。

 魚のモニュメントなども多く施され。

 面白い作りになっている。

  

  

 さりげなく、チアキがハルキに接近。

 ちょうどハルキを挟んでチアキと紫織が歩くと、

 客観的に紫織は “出しゃばるな、お邪魔虫”

 紫織もハルキも、エミが孤立しないように話しかけ、さりげなく気を使う。

 そして、ケイコとクミコがシンペイを挟んで互いに牽制する。

 クミコにすれば、友達のユウコに遠慮しても、

 新参のケイコに遠慮するつもりはないようだ。

 残ったミナとエミは、なんとなく、微妙に話したり。

  

  

 東口商店街の代表。

 “せせらぎ” 商店街代表の吉野コウキチは、化けた紫織に驚きの表情で近付いてくる。

 「角浦さん。服がとてもお似合いですよ」 吉野代表

 「招待していただいて。ありがとうございます」

 「ようこそ、せせらぎ商店街に。昼食も夕食もこちらで準備しますから」

 「連れは8名様ですね」

 「あ、よろしくお願いします」 ペコリ

 「いえ、お礼をしなければならないのは、こちらですから。どうです、イメージ通りですか?」

 モニュメントとオブジェ。

 石畳の遊歩道は、川をイメージして、

 魚やトンボ、蝶、ゲンゴロウ、ザリガニなどオブジェが埋め込まれていた。

 「思っていたより素敵です。楽しく歩けそうで・・」

 「それは良かった。どうぞ、楽しんでください」

 「時間までに店に来ていただければ、準備していますから」

 「ありがとうございます」

 「あ、それと招待券を見せていただければ喫茶店もファーストフードもタダですので休んでください」

 「ありがとうございます」

 『凄い待遇じゃない』

 『西口商店街の店主なのに東口の商店街でこれだけ待遇が良いなんて』 チアキ

 『西口だって、こんな待遇、受けたことないよ』

 「あ、佐藤エミさん。お父様には、お世話になっています」

 「どうか、よろしくとお伝えください」

 「・・・・・」 佐藤

 『東口商店街の代表、吉野さん』

 紫織が、エミに耳打ちする

 「・・・東口商店街の吉野さんですね。父に伝えます」

 「楽しんでください」 代表、微笑む

 「はい」

 「では、角浦さん。テープカットの時間ですから、こちらへ」

 正面入り口のテープカットで並んでいる10人以上の大人に混じって中学生の角浦紫織がいる。

 ブラスバンドがテープカットを待っている中。

 代表が簡単な挨拶とテープカットをする人の紹介を行う。

 エミの父親もいる。

 紫織は自分が紹介された時、簡単にお辞儀をする。

 そして、テープカット。

 ブラスバンドが勢いよく音楽を鳴らして客が流れ込む。

  

 セレモニーは、東口の方が上手い。

 というより、西口のやり方に手を加えたのだろう。後からやる方が有利だ。

 あっという間に客で遊歩道が埋まっていく。

 子供達が遊歩道の魚や昆虫にさわり、オブジェに触る。

 多くの店舗が改装され身奇麗になっていた。

 一緒にテープカットした年寄りが紫織に挨拶をして名刺を渡していく。

 紫織は、自分で作った、お気に入りの名刺を年寄りに渡し、

 一通り、人付き合いを終わらせて、仲間と合流。

 「・・・疲れた」 紫織

 「でしょうね」 ミナ

 「カッコ良かったよ。角浦」 ハルキ

 「どこかで、休もうか。ただなんでしょう」 ミナ

 「そうね・・・でも、忙しいときに入るのは気が引けない」 紫織

 「引けない」 クミコ

 「でも資金力と実力の差を思い知らされるわね」

 「紫織ちゃん。わたし達が、しがない中学生なのに」

 「紫織ちゃんは、こもれび商店街 と せせらぎ商店街の顔なのね」 ケイコ

 「そ、そんなこと無いんだけど、わたしがいると受けるから、出したがるだけ」

 「確かにジジイ達の中に女子中学生がいると受けるわね」 チアキ

 「わたしよりも、中山さんの方が受けるのにね」

 「・・どうせ、わたしは、見かけだけよ」

 「わたしが見かけで、どれだけ損をしているか、教えてあげたいわ」

 「紫織ちゃんもソコソコにかわいいわよ・・ふっ」

 紫織は、クミコに化粧してもらって、いつになくかわいかったのだ。

 「ソコソコにね」 紫織は、ゲンコツ。

 「中山さん。そんな風にいったら駄目よ。奢ってもらうんだから」 ケイコ

 「あ・り・が・と・う。紫織ちゃん。お招きいただいて」

 「いえいえ、綺麗で親切で良心的で善意の家庭教師にお礼をしたくて」 嫌味

 「本当? 二人っきりのデートじゃなくて、みんなに実力を・・・・・」 もっと、嫌味

 「はいはい。じゃ 喫茶店で、続きをしようね。う〜んと離れた席で」 ミナが割って入る

 喫茶店に行くと注文を取る前に、ケーキセットが出てくる。

   

  

 どうやら顔パスらしい “サービスです。ほかにご注文は” といわれる。

 ミナが “チョコパフェ” と応えただけだった。

 チアキは、紫織と思いっきり離されて座らされ、ムッとし、

 紫織とハルキの間に納まったエミが気に入らない。

 チョコパフェがミナの前に置かれる。

 レシートが無いのは、タダでミナの目がランランと輝く。

 「ミナ。大丈夫なの?」

 「チョコパフェなんて、昼食が、ご馳走だったらどうするつもり?」 クミコ

 「大丈夫。食べられるもん」

 「ねえ、紫織ちゃん。これから、どうするの? 昼まで」 ケイコ

 「どうしよう?」

 「はいはい。食い倒れ」 ミナ

 「却下」 チアキ

 「え〜 何でよ?」

 「デブになるから」

 「ぶ、ぶぶうぅ!!」

 「ゲームセンターは?」 クミコ

 「・・・・・・・・・」  沈黙

 「ったく。企画力無いわね」 チアキ

 「こういう時は、男が決めるのよ」 クミコ

 視線がハルキとシンペイに集まる。

 「・・・・・・」 シンペイ

 「食事のお礼に角浦にプレゼントするよ」 ハルキ

 「それいいわね。さすが、三森君。みんなでショッピングに行こう」

 「え〜 なんか、悪いよ。ただ券なんだから」

 「良いんじゃない」チアキ

 「あ、でもその前に古本屋に行っていい」

 

 八人が、ぞろぞろと新装開店した古本屋に中に入って行く。

 紫織の古本屋に似た店内になっている。

 違うのは、床にも魚やカエル、トンボなどオブジェが埋め込められていたこと。

 遊歩道と同じ石畳を床に使って内装を割安に利用したのだろう。

 「真似してるよ」 チアキ

 「真似だけでなく改良しているから。こっちの方が良いね」

 「床面積は同じくらいか」 紫織はホッとする。

 「え〜 でも、なんか許せない」 クミコ

 「床面積が同じくらいで書籍の数が同じなら北奈河町と南奈河町で住み分けできるから大丈夫よ。品揃えにもよるけど」

 「でも、一言、言いたくなるよ」 ハルキ

 「一言、言って、もっと、良いのができると困るもの。真似されるほうがマシ」

 「真似されるより強敵になったけど・・・でも、駅を降りたら・・・こっちにくるわね」

 紫織は、こもれび商店街の集客が7〜9パーセント減と単純に試算する。

 カウンターを見ると同じくらいの女の子がいて、手を振っていたが見覚えがない。

 「・・・誰だっけ」

 「元四組の国谷ヒロコ。いまは、緑中」

 「・・・ああ、寄せ書きに書かなかった子」

 紫織がクミコを見る

 「・・・クラスが違うよ」 クミコ

 「ここの娘なの。今日、忙しいから借り出されちゃって」 国谷ヒロコ

 「へえ、古本屋の娘だったんだ」

 「お父さんは、会社員で古本屋はお母さんがしているの」

 「でも店が大きくなったから、お父さんが会社を辞めるか、アルバイトを雇わないと、間に合わないみたい」

 「綺麗な店になったね。ここも・・・」

 「角浦さんの店。参考にさせてもらみたいなの。ごめんね」

 「光栄ね」

 その時、30代後半の母親らしい人が近付く

 「角浦紫織さん、どうぞ、ゆっくり楽しいでください」

 「せせらぎ商店街も、家も、とても感謝しているんですよ・・・この子の母、ヨシミです」

 国谷の母と握手する紫織

 「あ、いえ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 「こんなに大盛況になるなんて初めてですから・・・あ、ごめんなさい」

 国谷の母がお客の応対に行く

 「あ、みんな、上がって、お茶入れるから」

 「・・うん」

 8人は、ぞろぞろと二階に上がっていく。

 カウンターと階段の関係もソックリ。

 二階が個人の部屋と浴室とトイレ。

 三階がリビング&キッチンで二階だけの紫織のところより広かった。

 国谷ヒロコは、お茶を入れ、

 8人は、リビングのテーブルに思い思いに座る、

 「家ね。お父さんが商店街の改装に反対だったの。団体保証で、たくさんお金使うでしょう」

 「・・・・・・・」

 「でも、“せせらぎ”と言う名前で、お父さん、反対しなくなって・・・」

 「ほら、遊歩道の魚とかカエルとかトンボとか」

 「角浦さんのアイデアで、この店も改装することになったの」

 「だから、ありがとうね、角浦さん。こんなにステキな家になるんだもの」

 「・・・・・・・」

 「家だけじゃなくて他の店とかも、そうだったの」

 「商店街の改装と店舗の改装が別でしょう」

 「どうするか、バラバラで、もめていたのに角浦さんのお陰で一気に傾いて」

 「・・・・・・・」

 相手が既に結束、まとまっていたと勘違いしていた紫織が引きつる。

 こもれび商店街の店主たちには、とても聞かせられない事実だ。

 「お父さんもリストラとか、候補に挙がっていたみたいだから、退職金前借で一気にね」

 「じゃ 家族で本格的に古本屋を」

 「どうかな・・お父さん。役付きでリストラの候補に挙がっているだけで微妙だから」

 「でも、せせらぎ商店街が完成してからは、“この店も良いかな” って」

 「むかしは、家と同じでボロかったものね」

 「そうそう。わたしもお母さんも古本屋に嫌気が指していたし」

 「お父さんも、仕事で行き詰っていたから荒れてたけど」

 「角浦さんのお陰で、なんとなく仲良くなってさ。借金は背負ったけどね」

 「そう・・・借金以外は、良くなったんだ」

 「角浦さんの古本屋がH本の取引停止したから、こっちに回ってきたでしょう」

 「お金にはなったけど。お母さんの顔色とか悪くなってカリカリして・・・」

 「家もね。改装してからH本の取引を中止したの」

 「それで、わたしも手伝いやすくなったし、お母さんも明るくなったの」

 「やっぱり、世の中お金じゃないよね」

 「いやな思いするものね・・・お金 “だけ” じゃないよね」

 「・・うん・ねえ・・角浦さん、時々、遊びに行っていい」

 「うん・・・良いよ」

 「国谷さん」 ミナ

 「なに?」

 「・・・どうして、寄せ書き書かなかったの?」

 「イヤだったから。悪口書くのもイヤだったけど・・・」

 「本当は、四組は、小山ケンジでしょう。あいつの本とかノートとか触りたくなかったの」

 「そこまでイヤか」 ミナ

 「小山と友達になりたいの?」

 「・・・なんか、イヤ」 ミナ

 「半分、半分。かな・・・あ、でも、本を持ってきた女の子も嫌いだったから。三分の一ね」

 「へぇ 白根ケイちゃんと似ている・・・虐められたんでしょう」 ミナ

 「昼休みに席に戻ったら、本とかノートに落書きされていたから」

 「真っ青になって、すぐに帰って、そのまま、不登校・・・」

 「襲撃事件の後、行くようになったけど。あんな小学校、行く価値もないよ」

 「緑中は、寄せ書き書かなかったからって人並み」

 「テレビだと、けっこう持ち上げられていたけど」 チアキ

 「本当の事は言わず “弱いもの虐めはイヤ” とか “正義感に燃えてとか” とか言ったから」

 「カッコ良い〜」 ミナ

 「いや思いした分、取り戻さないとね」

 「なるほど」 チアキ

 「・・・でも、角浦さんって・・」 国谷ヒロコ、微笑む

 「・・なに?」

 「・・噂、本当だったんだ」 国谷ヒロコ。にやり

 「噂って?」

 「こもれび商店街のキツネ娘とか、化け娘。って」

 「なっ なに?」

 周りが噴出して、大笑い。

 真っ赤になる。

 「だ、誰が流したの、その噂。ちょっと、誰が流したの?」

     

   

 古本屋を出ると紫織にプレゼントを買うことになって、高級ブティックに入っていく。

 いまどきの中学生は、みんなで、お金を出せば服でも、宝石でも、一式、買える。

 紫織は、みんなの前で着せ替え人形、デジカメで取られる。

 どうみても、ケイコ、チアキ、エミが着た方が様になる。

 上下の服と帽子、ネックレスを購入しようとすると、

 30000万円の買物が顔パスでサービスにされてしまう。

 8人は、店の前で呆然。

 「・・・・・・・・・」 沈黙

 「いったい、何者なの紫織ちゃん。何様!」 チアキ

 「きっと、今日だけだよ。次の機会にすればいいよ」 ハルキ

 「み、みんなからのプレゼントだと思うから」

 「まるで王女様か、アイドルがテレビカメラ持って店に入った感じね。付き人になった気分」 チアキ。不満。

 『けっ! たまには、そういう気分を味わいやがれ』 紫織

 「・・・だって、この招待券って昼食と夕食だけなのに・・・」

 紫織が招待券を読む。

 「昼食に行こうよ」 シンペイ

 「その前に買った荷物をコインロッカーに入れたほうが良いわね」 クミコ

 八人は、ぞろぞろと高級和食の店に入る。

 あまりの場違いさにキョロキョロ。

 案内されるまま、予約席に着くと次々に料理が運び込まれる。

 「テレビで見た事があるような。料理ばかりね」 紫織。呆れる

 「紫織ちゃんの友達でよかった」 クミコ。満身の笑み。

 「鎌ヨとケイちゃんは旅行中か、かわいそうね」 ミナ

 「ありがとう。紫織ちゃん。誘ってくれて」 ケイコ

 「でっ 昼食後はどうするの?」 チアキ

 「・・・・・・・」 沈黙

 「やっぱり、男に決めてもらうか」 クミコ

 「・・・・・・・」 ハルキ

 「・・・腹減らしに奈河神社まで、散歩」 シンペイ。ぼそ

 「それ、良い。賛成!」 ケイコ

 「確かに育ち盛りでも、この量は厳しいわね」 チアキ

 「3回くらい往復したいわね」 ミナ、げんなり気味

 「チョコパフェなんて食べるからよ。夕食が思いやられる」 クミコ

 「あのケーキセットだけでも厳しいよ。あのケーキも大きかったし」 ハルキ

 「包んでもらえば良いよ」

 「足立さんの家が近いなら冷蔵庫に入れてもらえば良いし」 ケイコ

 「そうね。お母さんのお土産が出来る。良い? クミコちゃん」 ミナ

 「うん。良いよ。冷蔵庫に空があって、弟につまみ食いされなければね」 クミコ

 「夕食分が残るから少しくらい食べられても良いわよ」 ケイコ

 「わたしの残した分を弟にあげれば良いよ。身内、いないから」

 「・・・・・・・・・」 沈黙

 「クミコの家に行って奈河神社に行って、夕食前に戻れば良いわけね」 チアキ

 食事中は、ほとんど無言。

 舌がまだ出来上がっていない子供が黙り込んでしまうほど美味いものだった。

 食べ盛りだけあって八人は気合で食べ、一部残した。

  

 食後

 残った食事を包んでもらって、足立クミコのマンションに行く。

 生意気な小学五年生の弟がケイコ、チアキ、エミにボーゥとなり。

 面白がるケイコとチアキは、両側からお土産の弁当を箸で食べさせるなど。

 弟が鼻血を出して寝込むまでかわいがる。

 「悪女ね。あの二人」 ミナ

 「私達じゃ 無理ね」 紫織

 「弟が変態になったらどうするのよ。沢木と中山のやつ。面白がって」

 「生意気な弟も美人二人には勝てないか・・・写真、撮ったけど、どうする?」 紫織

 「わたしの携帯に送って生意気なこと言ったら」

 「これで黙らせるから。鼻血出して寝込むなんて・・・ガキのくせに情けない」

 「無理ないよ。あの二人に両側から抱き寄せられて食べさせられたら」

 ミナがクミコの部屋で、一枚の写真に気付く。

 「クミコと一緒に写ってる。この写真はだれかな」 ミナ

 「・・・それ・・横井君・・・元一組の子。最近。仲良くなっちゃって」

 「ああ、寄せ書きに書かなかった人・・・なんか、怖そう」

 「ちょっと、不良っぽいけど。わたしには良くしてくれるから」

 「へえ〜 寄せ書きに書かなかった子」

 ミナがしつこく言うとエミは、眼をそらす。

 「ナイフ持っているんでしょう、横井君って危ないんじゃない」 紫織

 「相手が二人以上のときにしか使わないから。そうでもないの」

 「寄せ書きに書かなかったのはテレビとかで知られているし」

 「でもね、ホームルームの時 “どうして寄せ書きを書かなかったんだ” って、先生に質問されたとき」

 「みんなが見ている前でナイフを取り出したの・・・“これ、持っていたから書かずに済んだ” って・・・」

 「みんな、引いちゃって・・・後で、職員室に呼ばれたみたいだけど」

 「こわ〜」 ミナ

 「でも・・いっぺんに学校中に伝わって、奈河町小の虐めで嫌がらせが減ったの・・・」

 「“ナイフを持ってないと寄せ書きに書かされるのか” って、ね」

 「っで。デートとかしているの? 大丈夫?」 紫織

 「遊園地と動物園に行ったかな。けっこう、普通で優しいかな」

 「無難」 紫織

 「本当は、良くしてくれるから一緒にいるだけでイヤなんじゃないの」 ミナ

 「イヤじゃないよ。普通かな」

 「やられてないでしょうね」 ミナ

 「や、やられてないわよ!」

 「エミちゃん。どういう人。横井君って」

 紫織がエミに聞く

 「・・・一匹狼の不良。友達作るの苦手みたい」

 「古賀君みたいに人に無関心じゃないけど似てる。弱いもの虐めはしない」

 「ふ〜ん」

 ミナがエミとシンペイを見て怪しむ

 「だから見かけより普通よ」

 「だと良いけど。見かけはともかく、一組の中では良い人に分類できるわね」 チアキ

 「・・・・・・・」 エミ。沈む。

 

 その後、8人は、奈河神社まで、ぶらぶらと歩いていく。

 ハルキ、ケイコ、チアキ、エミの四人がいると思いっきり目立つ。

 紫織、クミコ、ミナ、シンペイの四人は従者に近い。

 「ごめんね、紫織ちゃん。わたしのために・・・」

 「気にしないでエミちゃん」

 「互いに睨み合いながら一年間も一緒にいられないもの、良い機会よ」

 「3年間になるかもしれないし」 ハルキ

 「同じクラスで3年は、厳しいよ。本人のためにもならないし」 紫織

 「どっちが厳しいと思う」 ハルキ

 「どうかな・・・エミちゃんは、どっちが良い」

 「紫織ちゃんと同じ教室なら。どっちでも良い」

 「みんなで同じクラスも悪くないか」 紫織

 「佐藤のお父さんって何の仕事しているの?」

 「東口の代表みたいな人が知ってたけど」 ハルキ

 「不動産と運送会社の社長。むかし。この辺の大地主だったの」

 「西口商店街も東口商店街も元々は、うちの土地だったみたい」

 「戦争で負けてボロボロになったとき」

 「両方の商店街の店主達が大変だからって、ただで土地をあげたらしいの」

 「じゃ 私の家もむかしは佐藤さんの土地だったの・・・」

 「あ、でも、おばあちゃんが佐藤さんは偉いんだって話してたっけ・・・」

 「ん、固定資産税が安かったのって、それ?」

 「それなのに・・・わたしが、家の名誉を傷付けてしまうようなことして・・・」 エミが落ち込む

 「エミちゃんだけが悪いわけじゃないから」

 「でも、わたしが、したことだから。何があっても自業自得だから」

 「自業自得と分かっているんなら。救いがあるわね」 チアキ

 「そうね。好き嫌いがあっても一組や四組の真似をするわけにいかないし」 ケイコ

 「いつまでも過ぎた事をネチネチいうのもカッコ悪いか」 ミナ

 「私達の間だけでも水に流すか」 クミコ

 「・・・本当にごめんなさい!」

 佐藤エミが七人に頭を下げる

 「・・・・・・・・・・・」 沈黙

 なんとなく、わだかまりが弱くなっていく。

 神社をぶらぶらしながら腹を減らし。

 昔懐かしい鬼ごっこをして遊ぶ。

 賞金は、うちわ一人、200回分で、7人だと、1400回。

 鬼が、どんどん増えていく、

 7人の鬼は、シンペイを囲もうとして失敗し、

 最後まで掴まらず、逃げ切る。

 

 七人は神社で買ったウチワで木陰で、くつろぐシンペイを扇ぐ。

 「ちょっと古賀君。何で、そんなにタフで運動神経が良いの?」

 「マンガオタクじゃなかったの?」 チアキ

 「スーパーマンガオタクね」 クミコ

 「・・あの時のバスケットのタフさは、これか」 ハルキ

 「でも、七人がかりで掴まらないなんて」 エミ

 「シンペイ君。わたしにも掴まらせないつもり」 ケイコ

 「うぅ・・・こんなに汗かくなんて気持ち悪い」 ミナ

 「・・・気持ち良い」

 シンペイは、7人にバタバタと、うちわで煽られている

 「シンペイちゃんは、そうでしょうよ」

 「温泉が近くにあるよ」

 エミが煙突を指差す

 「行こう。温泉」 クミコ

 「間に合うかな」 紫織

 「急げばね」 ケイコ

 八人は、時間を合わせて温泉に入る。

 

 

 夕食は、中華料理だった。

 満漢全席とは行かないものの、それでも贅沢すぎるほどの食卓。

 鬼ごっこと風呂上りで腹が空いたのか、美味しく食べる。

 「フ、フカヒレよ。テレビで見た事がある」 クミコ、感動する

 「これ、スズメの巣」 ミナ、にま〜

 「沢渡・・・・ツバメの巣・・・」 チアキ

 「あ、そうだっけ」

 「美味すぎる」 ハルキ

 「・・・・・・・」  シンペイ。黙々

 「生きてて良かった」 紫織

 「「「「「「・・・・」」」」」」」

 

 

 

 

 夕食後、河川敷で 

 大輪の花火が、いくつも輝いて少年少女を照らしていく。

 角浦紫織は、三森ハルキに手と繋いでもらって赤くなる。

 古賀シンペイは、その二人を後ろから、ぼんやり見詰め、

 そして、沢木ケイコは、古賀シンペイを見直す中山チアキを警戒する。

 佐藤エミと沢渡ミナは花火を見ながら話し、

 離れた場所で足立クミコは、横井タケトと合流する。

 紫織と仲間達にとって、花火大会は良い思い出になっていく。

 

 

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第17話  『小旅行に行こう』

第18話  『新装せせらぎ商店街』

第19話  『中山チアキ参戦』

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