第19話 中山チアキ参戦』
こもれび小旅行本の発行を境にエミとミナは、仲が良くなっていく。
小旅行本は、一号から四号まで発刊。
小旅行本に大吉、中吉、小吉、末吉、小凶、中凶、大凶と、
おみくじのシールを貼ることで売り上げを伸ばすことに成功していた。
そして、エミとミナは、小旅行本のプログラムを確認と、
安全のためにシンペイを引っ張り出す。
すると、グアム旅行から戻った鎌田ヨウコと沢木ケイコも一緒について行く。
古本屋の二階
中山チアキと国谷ヒロコが遊びに来て、おみくじシールを貼っていく。
「小旅行本は、意外と評判良いようね」 チアキ
「中山さんは、行かないの」
「佐藤が気に入らないのよ」
「シコリがあるんだ」
「三森君が塾じゃなかったら、わたしも行ったけどね」
「三森君。カッコ良いものね」
「でも、あんた。ライバル店の手伝いして良いの?」
「・・・勉強になるから」
「この旅行本が、こもれび商店街の売り上げに貢献しているんだ」
チアキが暇潰しにシールを張りながら呟く
「こもれび商店街でしか売ってない小旅行本は強いよね」
紫織が二階に戻ってくる。
「外、あつ〜い」
紫織が回転焼きを持ってくる
「息抜きが終わったら勉強ね。紫織ちゃん」 チアキ。ニヤリ
「うぅ・・・・」 紫織
「ふっ わたし、なんて優しいのかしら。恋敵の勉強を見てあげるなんて」
「これも、一種の虐めね。誰からも本人からも非難も文句も言われない」 国谷ヒロコ
「国谷こそ。また真似しようとしているんじゃない」
「えぇ〜 こういうの作れそうにないから」
「へぇ〜 どうかな〜」 チアキ
「紫織ちゃん。古本屋やめて小旅行本の全国展開する方法もあるんじゃない」 国谷ヒロコ
「ほう、そっちで攻めるか。成功しても失敗しても、せせらぎ古本屋は安泰ね」 チアキ
「へへぇ〜 ねえ、紫織ちゃん。凶の比率、もっと減らした方が良いんじゃない」 国谷ヒロコ
比率は、大吉100分の1。中吉100分の9。小吉100分の20。末吉100分の40。
小凶100分の20。中凶100分の9。大凶100の1になっていた。
「それじゃ。面白くないでしょう。ありがたみも小さいし」
紫織が回転焼きとお茶を準備する。
「少なくとも、古賀君は、大吉ね」
「女の子4人の中に男の子1人でハーレムか。あの頭と顔と体格で、ありえない」 チアキ
「シンペイちゃんは、変だけど、あれで良い男だと思うよ」
「変なのが問題よ。だいたい、なに考えているのかわからないし」
「“次は、なんのマンガを読もうかな” でしょう」
「国谷。どう思う?」 チアキ
「対象外ね」
紫織は、なんとなく、ホッとしている。
シンペイを巡って、沢木ケイコ、鎌田ヨウコが対立。
そこに白根ケイコと足立クミコ。
そして、武田ハルコも微妙に関わろうとしている。
既にシンペイの能力を超えて対処できないだろう。
中山チアキと国谷ヒロコが参戦しないなら修羅場にならず、ありがたいことだ。
「小旅行本。四冊とも100部増刷が決まったから」 紫織
一部100円で、100部なら月に10000円。
それが四冊なら40000円の売り上げ。
原価を引いて純利益を紫織、ミナ、エミの3人で分ける。
ちょっとしたお小遣い。
「へぇ〜 儲かっているんだ」 チアキ
「こもれび商店街の目玉で店頭に置くんだって」
「“せせらぎ”商店街も注文するかも」 国谷ヒロコ
「あんたのところ、プライド無いの。プライド」 チアキ
「だって、奈河駅を起点にした小旅行本だもの」
「たぶん、駅ビルも注文すると思うよ。JRも、そういうの目聡いから」
「紫織ちゃんって、やり手なんだ」チアキ
「発行部数が少ないから純利益は、苦労の割に少ないんだ」
「広告を乗せれば、少しはお金になるかもしれないけど」
「発行部数が少ないから広告も意味ないし」
「それは、おみくじ付きにするからよ。手作業だし」 チアキ
「100円だから、おみくじとして買う客もいるから」
「注目はされているけど、まだ、様子見よ」 紫織
「いま、何部」 国谷ヒロコ
「増刷分を入れて、1号から4号が300部。全部で1200部か」
「こもれび文庫か」 国谷ヒロコ
「もっと売れるようになれば増刷できるんだけどね。まだわかんないし」
「やっぱり、1000部単位で印刷しないとね」 国谷ヒロコ
「それより、勉強は?」
「あ〜ん」
紫織は、夏休みの間に学力の遅れを取り戻そうとしていた。
しかし、現実、夏休みはフルに儲けなければならない。
さらに“こもれび”小旅行本の創刊で余計な時間のほとんどを取られていく。
学生の本分は学業と言いながら、
夏休みの宿題を終わらせる事ができても追い込みをかける余力はない。
“せせらぎ” 商店街の完成以降 “こもれび” 商店街は集客が低下、
打開策の一つで “こもれび” 小旅行本が注目される。
その夜、事情があってチアキが家に帰らなければならなかった。
仕方がなく、シンペイを引っ張り出して、家まで送ってもらうことに・・・・
それが、チアキのシンペイに対する認識を変えさせる結果になる。
紫織は、沢木ケイコと鎌田ヨウコに思いっきり恨まれることになるが不可抗力。
夏の夜にありがちな不良2人に絡まれて。という、ありふれたパターン。
そして、古賀シンペイが不良2人を退けたという顛末は刺激的といえる。
帰り道
夜中の一二時を回っていた。
チアキは、シンペイをバカにしていたのか適当な距離をとっている。
20代の大人2人組みが中山チアキに目を付けて後を付け、暗がりに入った時、
チアキを襲う。
一人がチアキを羽交い絞め。
「い、いや!」
もう一人がシンペイを押さえ込もうとした。
「・・・・・・」
シンペイが黙ったまま近付く。
「・・・・・・」
シンペイは迫ってくる手を捻り上げ、
そのまま、腕を圧し折ると同時に足を脱臼させる。
うぐぁあああああああ!!!!!
男の悲鳴が辺りに響く。
「こ、この野郎!」
うぁ。うぐぁ。いてぇ!!!
そして、自分より頭二つ分背の高いはずの大人2人の足を脱臼させ。
腕を圧し折った。
2人とも逃げられない。
「・・・・」
シンペイは棒を見つけて拾うと2人に迫る。
「た、頼む。止めてくれ・・・許してくれ」 男A
「分かった。俺達が悪かった。助けてくれ」 男B
シンペイは右手を2人に出す。
要求しているものは、明らか。
2人は、シンペイが本気だと知ると財布を渡す。
「古賀君」 チアキ
「半分、あげるよ」
「い、良いの。こんなことして」
シンペイは、2人の財布ごとポケットに入れる
「携帯も、よこせ」
2人が携帯を渡すと2つの携帯を踏み付けて壊す。
「じゃ 元気で」
シンペイが、そう言うと2人から離れた。
チアキがシンペイについていく。
ファーストフード。
シンペイは、23万8千円をチアキと山分け。
財布は、ゴミ箱に入れられる。
「古賀君。まさか、いつも、こういう事やってないでしょうね」
チアキは怒りながらも11万9千円を貰ってほくそえむ。
「・・・初めて」
「ありがとう。古賀君。助けてくれて。なんかお礼しないとね」
「良いよ。お金貰ったし」
「貰ったんじゃなくて奪ったんじゃないの」
「違うよ。手を出したら財布を乗せてくれたんだよ」
チアキが笑う
「古賀君が、もてる理由が分かった気がする。強いのね。どうして?」
「・・合気道やっているから」
「そうなんだ。合気道か・・・沢木は、知っているの?」
「うん」
「・・そういう事か・・・鎌田も、紫織ちゃんも知っているのね」
「うん」
「あいつらぁ〜・・・・」
「家は、まだ遠いの?」
「あと、300メートルくらい先」
「じゃ 行こうか」
「ねえ、古賀君って意外とワルね」
「山分けしたから。同罪じゃないか」
「うん。良いけど。なんかさ、そういうの惹かれちゃう」
「・・・・」 シンペイ
「古賀君って、なにが好き」
「マンガ・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「他には」
「無いけど」
「・・今度、一緒にアニメ映画見に行こうか。お礼に奢るよ」
「うん・・なに?」 期待、期待
「なにが見たい」
「西映アニメ夏祭り」
チアキの脳内で5人の戦隊物、変身物。
そして、ハムスターや悪たれ保育園児、
たぬきロボットが歩き回る。
「・・そ、それで良いよ。とりあえず。携帯の番号を交換しよう」
「持ってないよ」
「うそ〜 ホームページで、メールやっているじゃない」
「あれ、パソコンを弁護士に貰ったものだから」
「お小遣い貰っているんでしょう」
「うん」
「よし。じゃ そこからね」
チアキは、頭一つ低い、シンペイに惹かれたのか、
ベッタリ、くっ付いて家まで送ってもらうことになる。
夏休みの終わりに近い、昼下がりのことだった。
最初、中山チアキに引っ張り出されるシンペイに気付いたのは佐藤エミと沢渡ミナだった。
アイドルと付き人が歩いている気がするものの、2人の距離は近い。
なにしろ、教室の女子で一番背の高いチアキがシンペイの手を引っ張っていた。
エミとミナが紫織の家に飛び込み。
古賀シンペイの浮気が沢木ケイコ、鎌田ヨウコに伝わる。
その後、沢木ケイコと鎌田ヨウコが古本屋の二階で大騒ぎ、
「シンペイちゃんに浮気、という感覚があるのか・・・怪しいけど」 他人事
「でもさ、中山さんって、古賀君とくっ付くの?」 ミナ
「高飛車な中山さんの場合、ありえないと思うよ」 エミ
「鎌ヨと沢木さんは、町に行ったの?」 紫織
「あの2人、探しに行ったけど、見つかると思えないけど」 ミナ
「恋敵同士で仲が良いこと」 エミ
「でもさ、中山とシンペイ君が仲良くなれば紫織ちゃんは、シメシメね」 ミナ
「ムフ♪」
「それより仕事しようよ」 エミ
「そうだった」
紫織、ミナ、エミは、画像、旅行詩、旅行の行程、注意書き、魅力など、
話し合いながら “こもれび” 小旅行本の添削、編集。
素人ながら3人揃えば何とかで旅行代理店のパンフレットを参考。
より完成度の高い本が作られていく。
“こもれび”小旅行本は、広告に依存していない、
金を使わせる観光ではなく、純粋に旅を楽しむというコンセプトで一貫している。
そのため、差別化が出来上がり、JRも関心を示しす。
エミやミナも学力偏重で中学校や高校、大学へと進んで就職していくより。
自分の趣味を生かした生活に興味を持ちはじめる。
そして、エミは、紫織の専属家庭教師も兼ね始める。
紫織は、佐藤家の豪邸に遊びに来る。
佐藤エミが何かの集まりで来ていた鈴木イチロウを「おじさん」と呼んでいたのに気付く。
“こもれび” “せせらぎ” 商店街の遊歩道の権利を持つ佐藤家との交友で、
紫織は、商店街の発言力を高めてしまう。
佐藤家の資産も債権も “こもれび” “せせらぎ” の商店街にあるのは遊歩道だけ。
しかし、佐藤家から土地建物を譲られたのは広く浅く知られ、
佐藤家に逆らうのは恩知らず。
金だけの関係よりも強い強制力があった。
中山チアキと古賀シンペイの関係が良くなった理由を知ったのは、その夜のことだ。
紫織に勉強を教えるという大義名分があるため、
沢木ケイコと中山チアキが、一緒に泊まるのも初めてのことだ。
古本屋の二階で沢木ケイコと鎌田ヨウコが中山チアキと睨み合う。
「だから、深夜に家まで送ってくれたお礼で “アニメ” 映画に誘っただけだから」
チアキは、アニメという言葉に嫌悪感をあらわにする。
「映画の後は?」 ヨウコ
「映画の後は、昼食食べて・・・遊園地に行ったけど」
「夜中に家まで送っただけで、それだけの礼をするわけ・・・その後は?」
「遊園地で遊んだあと、夕食して戻ってきたけど」
「シンペイ君が誘ったんじゃないのね?」 ケイコ
「わたしが誘ったの」
「どうして?」
「だから夜遅く送ってもらった、お礼だってば」
「じゃ シンペイ君とは、何も無いわけね」 ヨウコ
「な、なによ。こんなのよ。こんなの」
チアキが肩の高さで手を振る。
シンペイの背の高さだ。
「ふ〜ん。その割には、親しげに話していたみたいだけど」 ケイコ
「お礼するのにケンカ腰になるわけないじゃない・・・」
「わたしだって礼をする時は、愛想良くするわよ」
「それだけなら良いけどね」 ヨウコ
ケイコとヨウコがなんとなくホッとし、
紫織も矛先が収まったと思って、一息。
「でも・・・次の合気道の大会の応援に行こうかな」
にや〜 チアキが、もう、一度、引っ掻き回す。
瞬間的にケイコとヨウコの眉間に皺が寄る。
「古賀君ね。わたしが男2人に襲われたとき、助けてくれたんだ」
「2人とも腕を圧し折ったの・・・」
「20代で、こんなに背が高い2人・・・」
チアキが自分の頭一つ分、上で手を振った。
「古賀君って、カッコ良いんだ」
「「「・・・・・・・・・・・」」」 ケイコ、ヨウコ、紫織
「もう、古賀君を押し倒しちゃおうかと何度思ったことか」 くねくね。
ケイコとヨウコの冷たい視線が紫織に刺さる。
「・・だ、だって、急に帰らないといけなくなったって、言うから」
「一人で帰せば良いでしょう」 ヨウコ
「なによ。わたしが、あの2人に犯されてもいいわけ」
「・・・そ、そこまでは、言わないけど」
「少しくらいバカで、チビで、オタクでも、守ってくれる男の子は良いわね」
「カッコ良かった・・・感動しちゃった」 ウットリ
「あんた。三森君でしょう」 ヨウコ
「み、三森君は、良いけど・・・三森君だったら犯されていたかもしれないじゃない」
「そう考えると古賀君もありかな・・・」
紫織、なんとなくホッとする。
「もう、礼は良いから。シンペイ君に近付くな」 ヨウコ
「そうそう。引っ込め」 ケイコ
「そんな恩知らずなこと出来ないわ」
「体を助けてくれたんだから、お礼は体で・・・」
「おい!」 ヨウコ
「釣り合わないでしょう。あなたとは」 ケイコ
「大丈夫。わたしが優しく抱きしめてキスしてあげれば」
紫織が、その場面を想像して、こける。
「ふん、シンペイ君が料理もまともに作れない女を相手にするものですか」 ヨウコ
「なによ。あんた達2人は、作れるわけ」
「・・・・・・・」 ヨウコ、ケイコ
自然と視線が集まり、
紫織は勉強に没頭したふりをする。
荒れ模様の夏休みが終わり、新学期。
一年D組は、出席率八割という学年最悪の教室・・・・状態。
そして、古賀シンペイと角浦紫織が委員の続投を拒否。
投票で進藤ジュンと中山チアキが決まる。
副学級委員長の中山チアキは、引継ぎと権限を利用し、
古賀シンペイといることが多くなる。
D組は、チアキがシンペイに接近する事態と、
元一組の佐藤エミが紫織たちのグループに入っている変化に戸惑う。
昼休み
「あの中山のやろう。副学級委員の権限を利用しやがって」 ヨウコ
「チッ! 迂闊だったわ。考えられる範囲内だったのに」 ケイコ
「だいたい後からしゃしゃり出て、手を出そうなんて汚いわよ」
「わたしも、帰りに送ってもらうとき、襲われたかったな」
「そういう関係って決定的だもの・・・」
「・・・まずい。明らかに、まずいわ」
中学の昼休み
佐藤エミと沢渡ミナは、鉄道の時刻表。
そして、市街地図と路線図と睨めっこし、ブツブツ言い合っている。
一種異様だった。
「この名所の間のルートって何も無いような気がするけど」 ミナ
「詩が作れない?」 エミ
「まあ・・・内面を掘り下げていけば何とかなるけどさ」
「目に映るものもで目を惹くものが欲しいじゃない」
「詩で感性を呼び覚ますって言っても限度があるから」
「なんの風情も無いところだと辛いか」
「過去になにがあったのか調べれば、意外と名所になる可能性もあるけどね」
「詩で名所を作れるの?」
「遺跡とか無い?」
「神社仏閣。お地蔵さん。お稲荷さん」
「温故知新で過去と現在をつなげてみるけど。感性が名所を作るの」
「ただの住宅地でも関ヶ原という史跡があれば、感銘が起こるでしょう」
「うそ書かないでしょうね」
「ウソを書くつもりは無いけど。関が原について書かれている本が全て本当だと思う」
「帰納法や演繹法で脚色されている本で史実通りがあると思う?」
「・・・お寺を見に行く?」
「ルート上に3ヶ所あるけど。実際、歩かないと詩は、辛いよね」
「うん、佐藤家の事も詩で残そうか、ただで土地をあげちゃうなんて凄いもの」
「どうかな・・・お父さん。そう言うの喜ぶかな・・・」
「名所を作れば、観光になるでしょう」
「少しは、紫織を助けてあげないとね」
「そうね」
教室
古賀シンペイ、石井ショウヘイ
「古賀、もててるな」
「なんかね。良いように使われているような気もするけど」
「俺にも、まわしてくれよ」
「誰が好きなの?」
「んんん・・・誰って事も無いけどな・・・」
石井ショウヘイ。
類は友を呼ぶ。
2人の会話の99パーセントはマンガ・アニメ。
彼もまた、オタク性思考の持ち主。
果実が美味しそうでも実際に手を延ばして採ろうとしない。
見るだけで満足してしまうタイプ。
「古賀君。帰りに付き合ってよ」 ミナ
「えぇ〜」
シンペイ、なんか、いやそう
「桜もち、奢ってあげるから」 ミナ
「何で、お前ばかりがもてるんだ」
「石井君も来て良いよ。ただのボディーガードだから」
「やった!」
最初4人組だったがシンペイが行くと、
ケイコ、ヨウコ、チアキも付いて来て七人になる。
余り組みの紫織、白根ケイ、三森ハルキが帰る
「紫織ちゃんは行かないの?」 白根ケイ
「商工会議所に行かないと行けないから」
「大変ね」
「ケイちゃんは、エミちゃんとまだ、ぎこちないの?」
「今日は、国谷さんに借りていた本を返すから」
「交流があったんだ」
「虐め報道の後ね。寄せ書き書かなかった家族で、いろいろ話し合ったことがあったの」
「そのとき咲中学に行ったから、安井ナナミちゃんとも仲良くなったんだけどね」
「咲中学って私立じゃない」 紫織
「親のコネで入り込んだみたい」 白根ケイ
「ふ〜ん」 紫織
奈河商工会議での議題は “せせらぎ” 商店街が完成した後、
利害の集中する駅ビルの改装は、それぞれの思惑が絡んで、なかなか進まず。
マスコミも、一部取り上げ始めた。
紫織も “こもれび” 小旅行本と佐藤家との繋がりで、名実共に発言力が増し、
好むと好まざるとに関わらず発言を迫られる。
紫織は、気付いていなかったものの、
独自のマスメディアを持つのは、そういう事だった。
紫織が、その気になれば生殺与奪権を行使できる弱小店舗が何店もある。
この日
駅ビルとせせらぎ商店街が “こもれび” 小旅行本の4冊を1000部ずつ注文。
増刷が決まり、広告に対するアプローチもあった。
様子見で印刷していた紫織にすれば、リスクが減って利益も大きい。
そして、駅ビル再開発も、
我田引水やリベートと関わりのなさそうな紫織の意見に落ち着いていく。
結果的に利益供与を受けられない中立的で、
健全な意見と思われた紫織の発言が無派層を取り込む。
さらに女子中学生の意見を採用した話題性で集客を目論む勢力も現れ、
事態を流動的にさせつつ、
全通立体交差型駅ビル再開発が決定してしまう。
こもれび古本屋に制服を着た楠カエデと萩スミレが来たのは、午後。
「・・・・紫織ちゃん。元気にしてる」 楠カエデ
「楠お姉ちゃん。萩お姉ちゃん。どうしたの?」
「ちょっと、いい?」
3人は2階に上がる
「あのね、3日前、三条通りで2人の男が腕を圧し折られたんだけど・・・」
「あと2人とも足を脱臼ね」
ドキッ!!!
「・・・・」
「実は、その2人に殺人容疑がかかっているの。テレビ見た?」
「・・・・・」 紫織が首を振る。
萩カスミから新聞を受け取る。
「・・・特にどうという事は無いんだけど」
「その時間、その場所に、その2人がいたという証言が必要なんだけど」
「その2人が “古賀君” という名前を出したの」
「2人は、高校生の女の子と中学生の男の子を襲ったけど逆にやられたというのね」
「・・・・・・・・」
「証言を聞くと、その2人が言っている相手が、わたしが知っている子供みたいだから来たんだけど」
「あ、別にそれで、その子をどうこうする気は、無いのよ」
「2人とも腕を圧し折られ、足を脱臼させられて、その古賀君に財布を奪われてもね」
「・・・・」 呆気に取られる
「2人は、連れの女の子を襲おうとしたと認めているし」
「子供2人に危害を与えるつもりだったから自業自得だって言っているんだけど」
「ただ、12時頃、そこにいたという事を証言して欲しいらしいの」
「年齢差と体格差と人数の差を見ると正当防衛なんだけどね」
「財布は、返さないと駄目よね」 萩スミレ
「そ、そうなんだ。シンペイちゃん。合気道やっているから」
「げっ! 本当なの? 意外」
「ナイフ持っているのと同じ扱いになるわね。オタクでしょう。あの子」 楠カエデ
「そうだけど・・・シンペイちゃん。財布取ったんだ」 ショック。
「まあ、慰謝料みたいなものかしら」
「意外と魅力的な子ね。古賀シンペイ君って、会ってみたいな」 萩スミレ
紫織が楠カエデが持ってきた新聞に目を通す。
「娘と2人暮らしのおばあさん。堀サナエ、75才が殺され」
「現金134万が奪われ、娘の堀ミサエが誘拐され」
「五里印刷工場の廃屋で発見される」
「違うの、こっち2人の上司で青木ケイゾウが自動車事故で川に突っ込んで溺死」 萩スミレ
「へぇ〜 場所が近いから、こっちだと思ったんだけど。同じ時間に、もう一件あるんだ」
「死んだのは、三件よ」
「一人暮らしのおばあさんと」
「そこに書いている、サラリーマンの自動車事故と」
「実業家の武蔵野コウゾウの首吊り」
「お陰で署も大騒ぎ」
「首吊りは自殺でしょう。自動車事故も事故」
「・・・まだ、捜査中」
「この、誘拐未遂も怖いわね」
「そう、おかげで、いきなり人手不足よ」
「本庁と周りの県警からも応援を呼んでいるの」 楠カエデ
「・・・この人・・・スケベ変態おやじじゃない」
「へぇ〜 知っているの?」
「いやなやつ。H本をわたしに調べさせて、ニタニタ笑っていたやつ」
「こいつが自殺するわけないよ」
「だいたい、こいつ、人間のクズのくせに本当に社長なの」
「交通課だから詳しくわからないけど・・・」
「刑事課が交通事故の方がリストラを恨んで、その2人の犯行だと思って動いているみたい」
「首吊りの方も疑惑があるみたいで容疑者の位置関係から」
「交換殺人なら時間の問題は解決するんだけどな・・・」 萩スミレ
「スミレちゃん!」
「あはは」
「じゃ 古賀君と一緒に居た女の子に心当たりある」
「たぶん、中山チアキ」
「そう、裏が取れたから、古賀シンペイ君に会って見るかな」
婦警2人が出て行く
「シンペイちゃんのバカ」 紫織が呟く
紫織は、新聞で事件を読む
4つの事件は、場所こそ離れている。
容疑者は、その時刻に違う事件の場所に近いところにいた。
交換殺人なら可能だった。
偶然だろうか?
紫織は、すぐに楠カエデと萩スミレを追った。
幼馴染と元恋敵兼家庭教師の権利を守る必要がある。
警察が理不尽に手続きをやってしまえば未成年でも人権が著しく制約される。
紫織は、楠カエデと萩スミレと交渉。
シンペイとチアキに事情を聞くと弁護士に頼み、
2人の容疑者に念書を書かせた後。
古賀シンペイと中山チアキに引き合わせる。
けっこうな出費になったが念書の書き方を覚える。
警察病院でシンペイとチアキ。
そして、紫織が2人の容疑者に会う。
串間セイゴ、23歳、身長176cm。右腕骨折、左足脱臼
後藤ヨウジ、22才、身長178cm。左腕骨折、左足脱臼
2人ともギブスをし、痛々しく車椅子に座っていた。
シンペイとチアキに会うと「こいつだ」と騒ぎ始める。
「シンペイちゃん。本当に、この2人をやっつけたの?」
「・・・・うん」
古賀シンペイの身長は、紫織とほぼ同じで145cm。
まだ、チアキの159cmで高い。
冗談でなければ、タチの悪いドッキリだろう。
「・・・うそ」
「本当よ。凄かったんだから、こう、パンチをかわして腕を捻りながら足を折って」
「そのまま、腕を捻ってボキッって。2人とも・・」
チアキが思い出しながら実演する
警察署に呼ばれた古賀シンペイも、中山チアキも、
その日、時間にその場所に2人がいた事を証言。
被疑者2人は、証言をしてもらえるのならと、
古賀シンペイの正当防衛を認め、窃盗を不問にする。
2人とも証言を得られなければ、殺人犯として重罪になる可能性は高く。
泣く泣くといった風だったものの、選択の余地無しといえる。
警察も古賀シンペイが初犯と信じたのか、念書もあることから、不問。
古賀シンペイは、カツアゲや障害で処罰されることも、
学校に報告されて厳しく指導されることもなかった。
古本屋の二階
「ったくぅ シンペイちゃんも意外とワルね。中山さんも・・・・」
「・・・・・・・・」
「だって、シンペイ君じゃなかったら、わたし、犯されていたかもしれないのよ。当然、慰謝料よ」
「・・・ああいう時は、名前を言ったりしないの。足が付くでしょう」
紫織も意外に極悪。
「・・・ごめんね・・・シンペイ君。許して」 拝む
「良いよ。二度と強姦なんて出来ないようにしたかっただけだから」 シンペイ
「・・・次は、名前言わないからね。シンペイ君」
と、なぜかシンペイと腕を組む。
いつの間にか、チアキが下手に出てシンペイ君と呼んでいる。
次と言うのが度々、あるとは思えないが、
中山チアキ、沢木ケイコ、佐藤エミの3人といるなら無いとはいえない。
暑い夜に男女が寂しい場所を歩けば、そういう機会もあるだろう。
特にアンバランスなカップルで男がダサく、弱そうに見えた時は・・・・・・・
「あれ、シンペイちゃん。携帯持ってたっけ」
紫織が目聡くポケットからはみ出しているストラップらしき紐に気付く。
「・・・うん。中山が、これ使えって」
シンペイがポケットから携帯を出す。
引きつる。
沢木ケイコ、鎌田ヨウコ、中山チアキの対決は決定的になる。
「中山さん・・マジ・・・」
「紫織ちゃん。どっちが良い?」
「せ、節度さえ守れるなら交友は自由だから」
紫織は、玉虫色の調停案を出した。
節度と自由が水と油で言っていることは無茶苦茶でも、
鉄が重いからといって空を飛ばないわけもない。
我を通せば無理も通るだろうか。
強敵、中山チアキが戦線離脱すると紫織と三森ハルキとの関係は安泰に近い。
『ごめんね。鎌ヨ。沢木さん』
紫織は、夕暮れを見ながら思った。
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第19話 『中山チアキ参戦』 |
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