月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第20話 『トライアングル殺人パズル事件』

 佐藤エミが紫織のグループに入ると、

 旧一組四組も少しずつD組に和み始める。

 夏休みのせいか。

 奈河町小の虐め報道が忘れ去れつつあるせいか。

 学校や生徒のD組に対する無視は次第に緩和され、惰性になっていく。

 しかし、D組の出席率、5分の4という最低レベルのクラス。

  

 紫織は、舌打ちしたくなる。

 こっちがアルバイト代を払って学校に来ているのに、

 扶養者が義務教育に来ないのは、どういう了見だろうか。

 紫織がそんな事をすれば、養護施設行きだと脅されている。

 この世の理不尽さに復讐したくなる気持ちを押さえ、

 せめて、楽しもう二学期。

   

 古賀シンペイを巡る、鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキの争奪戦は見ものの一つ。

 もう一つ、夏休みの間に何が、あったのか、

 田城タクヤ、大田シンゴ、大友シゲル、相楽リュウイチの極悪さも増しているようにも見える。

 そして、鹿島ムツコ、三浦ノゾミ。島津カズエ、林コノエの四人も凄みが増している。

 こういう同級生がいると思うと、

 鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキが古賀シンペイに頼りたがるのも頷ける。

 それでも学校に来ているだけマシで、

 危険な状態にあるのは学校に来ていない生徒だろうか。

 三田先生は、頭を抱えて連絡をとると学級委員にも手伝わせようとする。

 そうなるとチアキが、古賀シンペイを引継ぎで誘い。

 バランスが悪いからと紫織も引っ張り出される。

 新旧学級委員という組み合わせでチアキは、シンペイにベッタリ。

 余った紫織と進藤ジュンの会話が増える。

 帰り際に不登校生徒、一人の家に寄って話しを聞いて学校に行く事を足す。

 それだけだった。

 進藤ジュンは、チアキがシンペイに接近していることに納得行かないといった風で、

 見た目で劣る紫織と話したくないらしい。

 不登校の原因は、虐め報道にあるように見える。

 うつ病や引き篭もりになっている場合が多く。

 こういう場合、蚊帳の外にいる紫織とシンペイは説得力がない。

 当然、眩いばかりの進藤ジュンや中山チアキも説得力に欠く。

 「はぁ〜 どうしたら良いのかしら。ごめんね。みんな」

 「先生も大変ね。ババつかまされて」

 「分かってくれる。角浦さん」

 「ちょっとだけ」

 「みんな酷いの」

 「他の先生の方がベテランなのに新米のわたしが一番難しいクラスを受け持たされるなんて」

 「煩わしくて、いやな仕事で責任を取りたくないと、訓練だとか言って若手にやらせるの」

 「良くあることだから。どこの会社でも、学校でも同じ」

 「酷いよ〜」 三田先生、泣き

 「仕事内容によって賃金格差を変えない限り、なくならないよ」

 「D組担任の給料を倍にしなくちゃ」

 「そうよ。それくらい貰わなきゃ 割に合わないもの」

 「結婚退職で逃げるか。クラスをまとめ上げて、ざまあみろと見返すか、どちらかね」

 「ダラダラやっていたら良いように使い捨てで人身御供よ」

 「くぅ・・・見返してやりたい・・・でも使い捨てかしら」

 「彼氏がいないんだ」

 「ふっ いろいろあってね」 落ち込み

 「そのうち良いこともあるよ。三田先生」

 「あ、ありがとう。角浦さん。内申書だけは期待してね」

 「内申書だけね・・・・」 落ち込み

 夏休みの追い込みも優秀な家庭教師も効果が小さい。

 あれやこれやの雑用で紫織の学力は、現状維持程度に収まっているだけ。

  

 仁科マイは、元三組の子で引き篭もり。

 自業自得ならミソギ期間と考えればいい。

 しかし、仁科マイは虐めと関わっておらず、巻き込まれ損。

 部屋に入ると仁科マイは、六畳一間で1人マンガを読んでいた。

 三田先生が学校に誘っても、チアキや進藤ジュンが誘っても気の無い返事。

 なんとなく、普通に見え、沈んだ表情は、重傷のようにも見える。

 

 

 5人は、何の成果も上げられず仁科家から出る。

 「・・あ・・・ここって・・・」

 シンペイが辺りを見回す

 「気付いた? わたしの家の近く」 チアキ

 「ああ、そう言えば・・・・」

 「暗かったから雰囲気が違うけど」

 「ほら、あそこの角を曲がって少し行くと公園があって」

 「あそこで、あの二人をやっつけたところ。見に行く?」

 「うん・・」

 公園に行こうとすると声を掛けられた。

 「紫織ちゃん」 楠カエデ

 婦警に声をかけられた三田先生、古賀シンペイ、中山チアキ、進藤ジュンは、ギョッとする。

 「楠お姉ちゃん。どうしたの?」

 「あれ〜 見知った顔だな〜 何しているの?」

 萩スミレが古賀シンペイと中山チアキに気付く。

 「引き篭もり生徒の見舞い」

 紫織が、仁科家を指差す

 「へぇ〜 隣の家か・・・」

 「あの家。例のおばあちゃんが殺された場所なの」

 「マスコミとか、冷やかしがいるから整理しているの」 楠カエデ

 「へぇ〜 婦警さんってそういう事もするんだ」

 「雑用一般全部。そのくせ何かあると、こっちにシワ寄せ」 萩スミレ

 「へぇ〜 身に沁みる話しね、三田先生」

 その後、大人同士の社交辞令が続く。

  

  

 「ねえ、紫織ちゃん」

 「刑事課の人が仁科マイさんが事情聴取に応じてくれないって、ぼやいてたけど」

 「どういう感じなの?」 カエデ

 「学校には、行きたくないんだって、ほら、あの虐め報道のせいね」

 「もう、あの報道は、ほとんどやっていないのに・・・」 萩スミレ

 「誰かが話し合っているのを見るだけで寄せ書きの話しをしてると感じるようで・・・」 三田先生

 「最近の子供って薄弱で、そういうのに脆いから」 楠カエデ

 「ったくぅ 除菌とか抗菌とか、ケガレとか、過敏というか、耐性なさ過ぎ、神経質すぎよ」 萩スミレ

 「仁科さんが何か知っているかもしれないんですか?」

 「・・・・夜の11時から30分の時間にね」

 「子供部屋から隣の家のおばあちゃんが殺された部屋は、木の陰になって見えないんだけど」

 「物音とか、人の出入りとか、知っているかもしれないから」 萩スミレ

 「スミレ!」 楠カエデ

 「あはは」 萩スミレ

 「仁科さん。三組だから寄せ書き書いてないのに・・・同じ小学校だから」

 「そうなんだ・・・かわいそうね。そういうのも」 萩スミレ

 その後、例の公園を見た後に解散する。

  

 

 古本屋の二階。

 広告料に惹かれながらも、紫織、エミ、ミナは、広告の問題を棚上げ、

 純粋に小旅行の醍醐味を追及していく。

 商業主義より、まだ趣味に走りやすい年齢。

 というよりミナが商品名を旅行詩に入れるのを渋り。

 エミもルートを捻じ曲げられるのを嫌う。

 彼らは、いくつかの商店のパンフレットや資料、割引券、金券をテーブルに置く。

 紫織は、上等の和菓子とお茶を出す。

 お互い結果が見えているのか、何の感銘もない。

 そして、法定代理人、鈴木イチロウも来る。

 「こもれび小旅行本で宣伝すれば、いくつかの特典があるそうだ」

 紫織は、法定代理人の意見を初めて聞いたような気がした。

 「広告の件は、もうしばらく、待っていただけませんか」

 「というより、いまは、まだ考えたくないんですが・・・」

 「そうですか。発行部数は20000部」

 「大吉や中吉を当てるため、何冊も買う人間もいるそうです」

 「広告は、魅力的ですが・・・仕方が無いでしょう。先方には、そのように伝えます」

 「すみません」

 「いや、構わないよ。冊子も部数が大きくなってくると、せっつかれる事も多くなってね」

 「気にしなくて良い。一応、確認したかっただけだから」

 鈴木イチロウが帰って行く。

 基本的に不動中立であるはずの鈴木イチロウが、せっつかれて仕方なく動いたらしい。

 紫織は、悪いと思いながらも見送る。

  

 こもれび旅行本は、詩の中から一文字を選び、

 第一号から第六号まで名前をつけた。

 “芽生”“舞呼”“爽夏”“遊季”“雨飴”“水樹”。

 一冊当たり5つの小旅行曜日別プログラムと注意事項、旅行詩、おみくじシールがあった。

 そして、小旅行の感想ハガキなども寄せられ、

 「・・・・・むふっ♪」

 「!? むかつく」

 エミとミナを喜ばせたり、怒らせたり。

 「それでも続けるのは、喜びと怒りのない生活に戻るより、楽しいからかな」 エミ

 「仲間と一緒に・・だからかも・・・」 ミナ

 「ミナちゃん・・・」

 

 

 広告が重要であると紫織も知っている。

 広告を載せれば、載せた店や関連業者の協力で一気に販売シェアーを広げ、

 印刷費用も負担が最小限で済み、相乗効果も、リスク分散も、優れている。

 問題は、流行が広告やスポンサーに左右されることが大きい事。

 常にスポンサーの利益を気にしてプログラムや旅行詩が影響を受けてしまう。

 紫織は、まだ、商業主義に移行するのは早いと認識していた。

 “こもれび” “せせらぎ” 商店街、駅ビルの商店街や奈河市全域も、

 こもれび小旅行に注目しているのか、問い合わせも少なくない。

   

 そして、回転焼きの山下のおばさんも

 「紫織ちゃん。うちの回転焼き、宣伝しておくれよ」

 だった。

 「ごめんね。おばちゃん。まだ、広告を扱う気になれなくて、みんな断っているんだ」

 「扱う気になったら載せるからね」

 「その時は、お願いね」

 もちろん、広告文化や広告芸術を否定しているわけでもない、

 エミもミナも趣味を実益にするための意識転換がなく、資質も育っていないだけ、

 “中学生らしくないだろう”

 といえば、ほとんどの場合、二の次がつげられず、お開きになる場合が多い。

 それでも、旅行プログラム編集者 佐藤エミ。

 そして、旅行詩人 沢渡ミナ。

 もとい、三渡サナ先生は、とある場所に行くと、下心のある商店から最大級の歓迎を受ける。

 もっともサービスの方は、事前に断ることにしていた。

   

 そして、北奉系の代表の唐津モトキが紫織に会いに来る。

 なぜ、銀行なのかと言うと、

 未成年の紫織にゼネコン関係者が合いに来ると問題あり過ぎ。

 という事で、こもれび古本店のメインバンク。

 北奉銀行の行員なら比較的自然だった。

 唐津は、はちきれんばかりの封筒を紫織に渡す。

 「・・・・・この、お金は?」

 「成功報酬ですよ」

 「記載されていないお金ですので安心してください」

 「黙っていれば分からないお金ですから、税務署に気をつけてください」

 「い、良いんですか、こんなに」

 「駅ビル再開発で北奉系が受けた利益のほんの一部ですよ」

 「・・・・・」

 「上層部は、そちらに価値があり」

 「今後も、お互いに協力関係が気付いていけると判断をしたようです」

 唐津は、そう言うと紫織を残して降りていく。

 残された紫織は、札束を数えて絶句する。

 一冊何十円の利潤を積み重ねて生活している人間にとって、非常識なお金だ。

 そして、この頃、いろんな噂が紫織の耳に入ってくる。

 どこどこの業者がまた儲けたとか。

 どこどこの土建屋が大儲けしたとか。

 紫織は、自分が腐ってきているような気がしていく。

 なんとなく、店のテーブルでマンガを読んでいるシンペイが無垢に思える。

 強姦魔二人を半殺しにして、財布ごと奪ったシンペイの方が清く見えるのだ。

 夕食用のひじきを作って、古賀家に行く。

 メインではない控えめさを持ちながらも、ひじきの出来は良い。

 隣の部屋で父親のトオルと母親のカオリが店の改装図面を見て、あれこれと言い合う。

 「ごめんね。食事の準備はしているから二人で先に食べてて」  カオリ

 というわけでシンペイと紫織が二人で食事を取ることに・・・・

 「シンペイちゃん。理髪店を改装するんだ」

 「どうかな」

 「シンペイちゃんは、理容師になるの?」

 「「・・・・・」」 トオルとカオリが沈黙する

 どうやら、紫織は、店の改装より重大事項を聞いてしまったらしい。

 緊張感が伝わる。

 「どうかな。わからないよ」

 「ふ〜ん。マンガ読みながら髪を切らないでね」

 「ふん」

 紫織は、衝動的にシンペイに触られたくなる。

 「シンペイちゃん。試しに、わたしの髪、切ってみる」

 「うん」

 「へぇ〜 じゃ 切ってよ」

 トオルとカオリは理容師資格がどうのこうのと喋るが、

 シンペイと紫織は、その気になってしまい。

 トオル、カオリが見守る中、シンペイが両親の見よう見真似で紫織の髪を切り刻む。

 シンペイのぎこちない手で髪を触られるのがなんとなく、こそばゆく、

 それでいて、落ち着ける。

 そして、最悪の状況になる前にトオルと交代し事なきを得た。

  

 紫織は、なんとなく、面白かったが贖罪のため、髪を切ったようなものだ。

 シンペイの方は、最後の調整を父トオルがやることになり、

 面白くなかったようだが、それは、それで良い経験だろうか。

 筋は良いように思えた。

 しかし、古本屋の二階に戻って引き出しを開けると、

 佐藤の父親に貰った、あのお金が残っていた。

 その、お金に手をつけていないのに、また、それより分厚い札束が引き出しに入っている。

 そして、それらより、はるかに薄い “せせらぎ” 商店街から貰った封筒も手をつけていない。

 このお金を稼ぐため、それほど大きな労力を必要としなかった。

 そして、いまのところ、古本屋業と、

 こもれび小旅行本の売り上げで、十分、生活が出来ている。

 大型古本チェーン店が出店してこない限り。

 こもれび古本屋は安泰に思えた。

  

 

 学校  

 出席率は、相変わらずだった。

 一人来るようになっても一人が休む。

 “このままでは良いように使い捨て、人身御供よ”

 の言葉が聞いているのか、三田先生の落胆は大きく。

 なんとなく。先生の事情が分かる紫織は同情する。

  

  

 放課後

 一年のD組とABC組連合とバスケの試合、

 連合、最後のシュートは、放物線の頂点に届く前、

 !?

 シンペイによって無情に叩かれ、

 D組は、64点対60点で勝ってしまう。

 狂喜するD組と落胆するABC組連合。

 三田先生も、これに賭けていたのか大はしゃぎ、

 生徒より喜んでいた。

 D組は、一年ABC選別チームに勝ち、

 なんでも同好会は、一気に株を上げることに成功する。

 そう、他のクラスが何を言っても、負け犬の遠吠え。

  

  

 勝者の古賀シンペイに食事を作ろうと、

 沢木ケイコ、鎌田ヨウコが材料を買い揃える。

 紫織は、構わなかった。

 自分のお金じゃないのだ。

 そして、沢木ケイコや鎌田ヨウコとも気心が知れる。

 今回は、鎌田ヨウコが古賀家で食事を作ることになり。

 沢木ケイコが古本屋の二階で、夕食の中華スープを作っている。

 二人とも目付きが真剣で紫織は、声もかけられそうにない。

 監視カメラを見ると、

 シンペイがマンガを読んでいて、

 紫織は、中山チアキに引っ張られないか見張り役。

 「沢木さんが甲斐甲斐しく、古賀君のために料理を作るなんて・・・」

 「わたしが男なら惚れてしまう。いちころよ」 国谷ヒロコ

 「国谷にも作ってあげるね」 ケイコ

 「きゃー! 嬉しい〜 女のわたしでも、惚れてしまう〜」 国谷ヒロコ

 「紫織ちゃんと、ここで食べてね」

 「わたしは、行ったら駄目なの?」

 「狭くなるでしょう」

 「良いけど・・・」

 紫織は、わかっていた。

 ケイコも、ヨウコも、シンペイが紫織の料理の方が美味いという言葉を聞きたくないのだ。

 最悪でも、その場に紫織にいて欲しくないのだろう。

 「鎌田さんは、何を作っているのかな」 国谷ヒロコ

 「さあ、取り決めだと、スープ対野菜炒めだけど」 紫織

 「へぇ〜 違うもの作ると比較できないか、どっちが有利かな」

 「でも沢木さんが、古賀シンペイ君に、そこまでする価値あるの?」 国谷ヒロコ

 「鎌田ヨウコには負けない」

 「確かに、沢木ケイコが鎌田ヨウコに競り負けたら、生きて行けないわね」

 「ヒロコちゃん。そこまで言うか」

 「勝てると思う、鎌田さんが」

 「・・・思わないけど」

 「でしょう」

 「それ言ったら・・・わたしだって」

 客観的に中山チアキと競り勝って、角浦紫織が三森ハルキとくっ付く可能性は低い。

 「紫織ちゃんは、大丈夫よ」

 「中山チアキのやつ。シンペイ君の方に気を寄せ始めているから」

 「えぇ〜 なんで古賀シンペイ君なの?」

 「中山さんの方が背が高いじゃない」

 「古賀シンペイって、マンガオタクで頭悪そうだし」 国谷ヒロコ

 「中山に言って上げて、本人にズバッ!と」

 「自覚していないみたいだから。釣り合わないって、言ってあげて」 ケイコ

 「えぇ〜 怖すぎる。怖すぎて言えない」

 国谷ヒロコが首を振る

 「確かに怖いよね」

 「ねぇ〜 紫織ちゃん。髪、切ったんだ」 ケイコ

 「うん、ちょっと短めにしようかなって」

 「ふ〜ん・・・ボーイッシュも悪くないか」

 「うん。ちょっとイメージが変わって良いかも」

 「そう・・・」

 古賀シンペイが合気道の達人と言わない暗黙の了解は、一致している。

 秘密を知らなければ、それだけライバルが増えない。

 もちろん、紫織も言わなかった。

 好き好んで沢木ケイコ、中山チアキ、鎌田ヨウコに睨まれたくないだろう。

 今日も、バスケットで大活躍したシンペイを中山が引っ張り出そうとし、

 沢木ケイコと鎌田ヨウコが左右からガード。

 誰も寄せ付けず、家まで連行していた。

  

  

 合気道の県大会

 古賀シンペイの両親。

 紫織、鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキ、沢渡ミナ、足立クミコ、白根ケイが来ていた。

 これだけ女性が集まるのは、古賀シンペイが、もてるからだろうか。

 なんと、淀中学校にも知られていないのは珍しく。

 古賀シンペイ本人が無口であること、

 鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキから睨まれたくない理由も大きい。

 古賀シンペイの団体戦。個人戦で上位にランクされ、

 同世代で古賀シンペイに勝てる者は数人しかおらず。

 中等部で優勝候補。

 そして、敗者復活で決勝にまでのぼって、中等部第二位で大会が終わる。

  

 紫織たちは、大会から帰宅中、

 ミニパトの榊カスミ、萩スミレと出会う。

 「この先、危ないの? 榊お姉ちゃん」

 「・・・ちょっと、調べものしているあいだ。監視しているだけだから・・かまわないよ」 榊カスミ

 「・・・変態おやじの工場に近いの」 萩スミレ

 「げっ! でも、死んじゃったんだよね」

 「かわいそうだけど。でも、おばあさんの担当じゃなかったの?」

 「交通課だもの、どこでもよ」

 「でも、今回は、四つの事件の被害者と容疑者が他の事件と入り組んでいるから」

 「刑事課も縄張りでピリピリして、大変」 榊カスミ

 「みんな神経張り詰めちゃって・・・また、小旅行に行きたいな」

 「わたし6冊とも買っちゃった。中吉が2つよ」

 「婦警だけで3つ行ったけど、楽しかったね。先輩!」 萩スミレ

 「まあね。でも、最初に行ったときが刺激、あったけどね」 榊カスミ

 「エミちゃんと一緒に行けばね・・・・旅行詩は、どう?」

 紫織が聞くと沢渡ミナが聞き耳を立てる。

 「良い詩を読むと誘われちゃうもの」

 「やっぱり、詩の良い順番に行くかな」

 「でも、おみくじの影響もあるかも。凶が多いって、本当?」 萩スミレ

 「3割は、凶だもの」

 「多すぎ〜」 萩スミレ

 「中吉のありがたみが増すでしょう」

 「そうだけど・・・」 萩スミレ

 「今日は、合気道の大会なの古賀シンペイ君」 榊カスミ

 「うん」

 「成績は、良かったの?」萩スミレ

 「中等部で2位」

 「へぇ〜 そんなに強いんだ」 榊カスミ

 「狭い世界だから」

 「でも強いと、もてるものね〜 それに、大人を2人やっつけちゃうんだもの」 萩スミレ

 シンペイは、沢木ケイコと鎌田ヨウコに挟まれている。

 さらに中山チアキもそばにいる。

 単純に友達の応援をしに来た紫織、クミコ、ミナ、ケイとは、距離が違う。

 「わたしを守るために闘ってくれたのよね。シンペイ君」

 シンペイが頷くと。

 ヨウコとケイコがムッとして何も言わない変わり、

 握りこぶしの血管が浮き出る

  

  

 どうやら、4つの事件は複雑に絡まっているらしく、

 他の県からの応援も多いのか、奈河周辺は警察官が増え始めている。

 テレビも4つの事件の関連性を示唆して、注目度は高くなっていた。

 この事件の面白さは、もっとも動機のある容疑者が別の事件の近くにいたこと。

  

『トライアングル殺人パズル事件』
PM23:00〜00:00  ほぼ同時刻 車で1時間の距離
場所 被害者 死亡原因 近くにいた人 動機あり
工場 武蔵野コウゾウ 首吊り 堀ミサエ 誘拐(廃屋) 五里ヘイハチ 恋人
自宅 堀サナエ 刺殺 串間セイジ 強姦未遂 堀ミサエ 嫁姑
後藤ヨウジ
奈河川 青木ケイゾウ 入水 五里ヘイハチ 第一発見者 串間セイジ 上司と部下
後藤ヨウジ

 

 堀サナエを刺殺したと思われる堀ミサエは、

 夜中一二時に実業家、武蔵野コウゾウが首吊りした工場の近く、

 廃屋で猿ぐつわをされて発見され。

 青木ケイゾウが、車ごと川に沈められて溺死。

 最も動機がある串間セイジ、後藤ヨウジは、堀サナエ宅の近くの公園で、

 強姦未遂事件を起こして逆に負傷し入院中。

 そして、武蔵野コウゾウの首を吊って殺した容疑者が五里ヘイハチ

 彼は、青木ケイゾウの車が川に落ちていたところを見ていた第一発見者。

 殺害された時刻が、ほぼ同じで、

 三つの地点は、それぞれ、一時間以上、離れている。

  

 紫織は、テレビを見ていた。

 シンペイやチアキも事件にかかわっている可能性があるため、他人事ではない。

 シンペイとチアキは、青木ケイゾウ殺害事件を捜査している刑事だけでなく。

 現場近くの堀サナエ刺殺事件の捜査をしている刑事からも似たような質問をされている。

 偶然起きた同時刻多発殺害事件なのだろうか。

 容疑者の位置関係を考えれば交換殺人の可能性もあるが関連性が無いとされていた。

  

 紫織に関連ありそうなのは、南興系建設会社の重役の青木ケイゾウになる。

 駅ビル再開発で割損を食った青木ケイゾウの煽りで、

 部下の串間セイジ、後藤ヨウジは責任を押し付けられてリストラ。

 

 その串間セイジ、後藤ヨウジがチアキを襲った結果。

 シンペイに逆襲され病院行きと、かわいそうな被疑者でもある。

 『わたしが悪いんじゃないわよ』

 紫織は、そう思うことにする。

 『また、シンペイに髪でも切らせようかな』

 紫織のミソギは、シンペイに髪を切ってもらうことになりそうだ。

 白根ケイ、国谷ヒロコ、安井ナナミが遊びに来る。

 安井ナナミは、顔だけ知っていた。

 どうやら、違う中学校に行っても、寄せ書きに書かなかった三人組は、仲が良いらしい。

 そして、どことなく気質が近いようにも思えた。

 「ナナミちゃんの制服カッコ良い。私立は違うわね」 紫織

 「やっぱり。咲中の制服。気にいってるんだ」

 「緑中に行っても良かったんだけど。この制服見ちゃうとね」 安井ナナミ

 「学校生活は、楽しい?」

 「それはもう。ほら寄せ書きに書かなかったというだけで、ちやほやされているから」

 「実際はね。そんなにカッコよくなかったんだけどね」

 「へぇ〜 どうして?」

 「親がヤクザだから。無視されていただけ」

 「そ、そうなの・・・こわ〜」

 「で、でも親分とか言うんじゃなくて、一応、表向き、土建屋みたいなんだけど」

 「ほら、仕事柄、腕っ節が強いのがいて、わたしが寄せ書き書かなくても無視されたから」

 「一度、クラスの男の子がナナミちゃんを虐めた事があったの」

 「その夜に安井組組員が、その子の家を壊しかけ、虐めた男子生徒は殴られて脅されたみたい」

 「それで大人しくなったのよね」 国谷ヒロコ

 「あっ! 四組で、そういう事があったって聞いたことある」

 「ナナミちゃんが原因だったの?」 白根ケイ

 「そう、でもね。ヤクザってだけで悪い目で見られるから、少しくらい良い事があっても良いじゃない」

 「じゃ ナナミちゃん。大きくなったらヤクザになるの?」

 「ならないわよ。お兄ちゃんがなるんじゃないかな」

 「じゃ 足洗うの?」 白根ケイ

 「ていうか、ヤクザじゃないもん」

 「良かった」 白根ケイ

 「もう、参っちゃった。家が、あの自動車事故の河川敷の近くだから警察に、あれこれ聞かれて」

 「夜中の一二時に外、歩いたりしないし、外なんて見ないから。分かるわけ無いのに」

 「安井組が疑われているの?」 紫織

 「そうなの、でも、やらないと思うよ」

 「ヤクザって言っても所詮、お金だから。金にならないことしないもん」

 「・・・そ、そうなんだ」

 「その点は、卑怯でシビアね」

 「えぇ〜 卑怯なの?」 白根ケイ

 「だって、任侠とか仁義と偉そうに言ってもさ。自分より強い相手とケンカしないよ」

 「上には、へいこらして、下には思いっきり威張るし」

 「それがカッコ良いと思っているから。ただの権威主義。くだらない人間よ」

 「ははは、警察の内部と同じ」

 「へぇ〜 そうなの?」 安井ナナミ

 「うん。婦警さんと知り合いが多いから。内部事情は良く聞くもの」

 「お父さんがね。お前も角浦紫織みたいにならないと駄目だぞっていうんだ」

 「げっ! な、何で」

 「な、なんで、って。みんな知っているよ」

 「お父さんとも握手もしたんじゃない」

 「若い衆が “俺は、商店街で、あの娘を見たんだ” って、話しているの聞くし」

 「握手って、いつ?」

 「“せせらぎ” 商店街。落成式典で」

 紫織が名刺入れを調べると安井土木株式会社、安井ヒロタカという名刺があった。

 「み、身の危険を感じる」

 「大丈夫よ。何もしないから」

 「ただ、あの北島先生を撃退しているでしょう」

 「それと “こもれび” と “せせらぎ” 商店街の顔役になってて」

 「駅ビルの再開発でも影響を与えたって」

 「それに小旅行本で独自のマスメディアも握っているから。お前も見習えって」

 「ヤ、ヤクザに注目されているなんて・・・な、なんか、普通の生活が遠のいていくような」

 「紫織ちゃんは警察とも近い位置にいるから、心配ないわよ」

 「警察の広報誌にも載っているでしょう。警察の顔潰すと、とんでもないことになるし」

 「ヤクザも警察と本気で事を構えたくないの、割が合わないから」

 「だと良いけど」

 「・・・わたしと友達になるの・・・いや」

 「そんなことないよ。わたしもけっこう、問題児だし・・・」

 「でもヤクザのおじさんの近くにいたくないかな」

 「その辺は大丈夫よ。わたしには普通の生活をさせたいと思っているみたいだから」

 紫織は、婦警の言った事を思い出す “権力、暴力、財力は癒着しやすい” と、

 確かに癒着すれば心強いと実感する。

   

  

 角浦紫織、中学一年生一三歳。

 天涯孤独で古本屋を相続して営んでいた。

 ポッと聞けば立場は非常に弱い。

 それでありながら、いつの間にか、こもれび商店街、せせらぎ商店街の顔になっている。

 さらに、こもれび小旅行本という独自のマスメディアを持ち。

 駅ビル再開発に影響を与えている。

 名刺入れを見る。

 奈河市でも有力者の名刺だ。

 安井ナナミとの出会いで紫織は、これらの名刺が持つ意味を理解する。

 「げっ! 武蔵野コウゾウだ」

 紫織は、一枚の名刺に気付いて、思わずこけそうになった。

 五里印刷株式会社 代表取締 武蔵野コウゾウ

 「き、気付かなかった。そんなバカな」

 「あのスケベ変態おやじと気付かなくて握手したのか・・・・」 頭を抱える。

 緊張のあまり、あの時、挨拶した爺さん達の顔を覚えていない。

 さらに商工会議所の会議で貰ったときの名刺入れを見る。

 「・・・・青木ケイゾウもいる」

 南興建設会社 第2事業部 部長。

 「ま、まさか、駅ビル再開発の関係で起きた多発殺人事件じゃないでしょうね・・・・」

 そして、五里印刷株式会社 営業部 五里ヘイハチ

 「あ、五里ヘイハチって武蔵野の変態おやじに婚約者を寝取られたとか」

 「親の印刷会社を奪われたとかで容疑者だっけ・・・」

 「こもれび小旅行本の印刷を引き受けたいとか、名刺を貰ったんだ・・・・」

 顔が広くなるのも問題だと思いながら、名刺入れを片付けると寝る。

   

 

 そして・・・

 『・・・ふっ・・・・遅刻か・・・・』

 紫織は、眼を覚まし、時計を見て呟いた。

 学校に行く準備をする。

 休みがちになると、養護院行き確定・・・

 義務教育という大義名分があれば可能性がある。

 しかし、本当に養護院行きは、あるのだろうか。

 未成年とはいえ、古本屋を営業している。

 学校についた時は一時間目の終わりだった。

 武藤タケオ先生 二七歳。英語教師が、一言

 「・・・・お、角浦も引き篭もりになったのかと心配したぞ」 嫌味。

 「引き篭もりは、高校教師のあとに・・」

 「高校教師は、レッドゾーンから出てからにしような」

 「ダークサイドに取り込まれないようにレッドゾーンに引き篭もっているの」

 「ダース三森に。レッドゾーンに引き篭もったジェダイ角浦を助けるように頼むのも、やめておくか」

 「あ〜ん。ダース武藤。お願いです」 レイアの真似

 授業の終わりの鐘がなる。

 「さて、終わりだ。ジェダイ角浦。ちゃんと自分で勉強しておくように。他のパダワンもな」

 「あ〜ん」

  

  

 学校の本文が勉強である限り。

 角浦紫織は、日陰者。

 「あ〜ん」 泣き

 「ジェダイ。無理してダークサイドにくることないよ」 チアキ。にや〜

 「これから勉強したら。ダークサイドも良いよ」

 佐藤エミが紫織の勉強を見る。

 「・・・なんか集中力がなくて」

 「また。泊まって特訓しようね」 佐藤エミ

 「うん」

 「わたしが泊り込みで教えようか」 沢木ケイコ

 「駄目よ。沢木は、ほかのこと狙っているんだから。エミちゃんにお願い」 ヨウコ

 「わたしは?」 チアキ

 「「駄目!」」 ケイコ、ヨウコ

 「なんか、ついでに教えられているような気がする」

 「教えられる方もね。時々、店に下りていくんだから集中できるわけ無いじゃない」 チアキ

 「だって・・・生活かかっているし」

 「でも、けっこう儲かっているんじゃない?」 ヨウコ

 「大型古本チェーン店が入ってこない限り。安泰かな」

 「わたしも、そういう身分になれるなら。レッドゾーンでも良いかな」 チアキ

 「ねぇ、中山。本当に三森君をやめるの?」 ケイコ

 「んん・・・んん・・・・微妙かな〜 あんたたち結束固いし」

 「あのね・・・シンペイ君が合気道の達人だから慌てて好きになるミーハーはね」

 「出る幕じゃないんだからね」 ヨウコ

 「どう思う。紫織ちゃん?」  チアキ

 「んん・・・・勉強、勉強」

 友情と恋の板ばさみ。

 恋敵に戻って来いとも言えず誤魔化す。

 「・・・紫織ちゃん。今日は、鹿島さんのところに行くから」 チアキ

 「えぇ〜 来てないんだ」

 「まあ、三日目だから。まだ良いと言ったんだけど三田先生がね・・・」 チアキ

 「しょうがないか」

 「また勉強が遅れるね」 佐藤エミ

 「良いよ。シンペイ君が来れば」 チアキ

 「わたしも今日は、行くから」 ヨウコ

 「わたしも」 ケイコ

 「学級委員じゃないでしょう。関係ないもの」 チアキ

 「前学級委員だって、関係ないじゃない」 ケイコ

 「だって、引き継ぎしないと」 チアキ

 「紫織ちゃん。シンペイ君をちゃんと、家まで連れてきてね」 ヨウコ

 「道場に行かない日は、マンガ読みたくて、すぐ帰るでしょう」

 「あ、今日は、道場休みだ。じゃ。マンガね」

 「わたしも、合気道習おうかな」 ケイコ

 「あ、わたしも」 チアキ

 「勉強しなさいよ。勉強!」 ヨウコ

 「勉強は、体力が必要だから」 ケイコが去っていく

 「そうそう。シンペイ君に手取り足取り、教えてもらおうかな」 チアキが去っていく

 「シンペイ君。手が届かないわね。きっと」 ヨウコ

 ぶっ! 紫織とエミが噴出して笑う

 「・・・・」 チアキ、落ち込む

     

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第19話  『中山チアキ参戦』

第20話  『トライアングル殺人パズル事件』

第21話  『ヤクザの娘もいるよ』

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