月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第21話 『ヤクザの娘もいるよ』

  

 鹿島ムツコは、レストランの娘。

 三田ケイコ、角浦紫織、古賀シンペイ、中山チアキ、進藤ジュンが鹿島宅に来たとき。

 鹿島ムツコは、外出していた。

 仕方なく、解散して家路に向かう紫織とシンペイは、久しぶりに2人っきり。

 奈河川敷を歩くのは、それなりに気分が良い。

 

 

 「シンペイちゃん。なんか久しぶりね。2人っきりで歩くの」

 「・・・うん」

 「カメハメ波は、まだやっているの?」

 「うん」

 「げっ!」

 「・・・みたい?」

 「そうね。暇つぶしに見てやるか」

 「じゃ・・・」

 シンペイは、小石を拾うと上に投げた。

 「カ・メ・ハ・メ・波!!」

 シンペイは、落ちてくる頃にタイミングを合わせると、カメハメ波を撃つ。

 手を触れてもいないのに小石が軌道を変えて二メートルほど弾けて落ちる。

 「・・・・うそ・・・・凄い・・・なんで・・・」

 「イメージの問題だね」

 「・・・ひょっとしてヨウコとか、ケイコは知っているの?」

 「さあ〜 教えたこと無いけど」

 「どっちが好きなの?」

 「・・・沢木の方が綺麗だけど・・・なんか・・・合わないかも」

 「じゃ 鎌ヨ?・・」

 「う〜ん。そういうのまだ早いみたいだし、慌てなくても良いような気がする」

 「母親の意見ね・・・」

 「うん・・・」

 『・・こいつ意外とマザコンか。マンガオタクで、マザコンで、合気道の達人??』

 『三森君も、シスコンだし、男って・・・・』

 「・・・・2人の気持ちは、どう思うかな?」

 「2人には、そう言ったから」

 「げっ!・・・じゃ ファンになっているわけ?」

 「・・・さあ」

 据え膳食わぬは、なんとやらだが、今時の中学生の過半数は、そういうものだろう。

 中学生でやるとすれば、相手は年上だ。

 中学生同士で、少数派だろうか。

 

 しかし、高校生になれば、あっちこっちで起こる。

 「・・・・・鹿島だ」

 シンペイが、河川敷のほうを指差す。

 鹿島は、河川敷で一人たたずむ。

 制服じゃなく、ジャケットにジーンズ。なんとなく大人びて見えるのは、胸の差。

 「本当だ。行ってみよう」

 「・・うん」

 紫織とシンペイが近付くと鹿島が振り向く。

 なんとなく泣いていたような気がした。

 鬼の目にも涙? 鬼の霍乱?

 「・・・三田先生と鹿島の家に訪問した帰りなんだけど」

 シンペイと無神経に聞く

 「ふっ 学校の犬が」

 「・・・だって、内申書しかないもの」

 「そう言えば、2人とも、バカだったね」

 「・・・・」 落ち込む。

 不良の鹿島の方が成績が良かった。

 「鹿島の家。レストランなんだ」

 「だから何?」

 「鹿島も何か作れるの?」

 「・・・」 鹿島がムッとする

 紫織は思わず、おかしくなる。

 自分なら間違いなく儲かっているかと聞く。

 自立している人間は、やはり、感覚がずれてくるのだろう。

 「・・・角浦! なに笑ってんだ。てめ〜」

 「あっ! ごめん・・・私の場合・・店儲かっているのかなって、聞くだろうなって。つい」

 「・・・そ、そんなの知るか!」

 「・・・じゃ 一応、伝えたから」 シンペイが帰り始める

 「・・・じゃ 鹿島さん。明日。学校でね・・・その服に合うね」

 鹿島は、憮然として、一人残った。

  

 「相変わらず怖いね。鹿島さん」

 「なんか寂しそうだね」

 「慰めてあげたら」

 「無理だよ」

 「何で?」

 「殴られそう」

 「シンペイちゃんは、寂しく無いの?」

 「どうして?」

 「だって、マンガばかり読んで、鎌ヨとか、沢木さんと遊んで無いでしょう」

 「マンガは、面白いよ」

 「・・・そうでしょうよ」

 2人とも、その気になっているに、わからないとは・・・

 それとも分かっているのに気が進まないだけなのか。

 「紫織ちゃんは、三森とデートしないの?」

 「・・・・頭の差がありすぎて、近付き難いの」

 もちろん、紫織も、三森ハルキが好きだが、その気になっている、というわけでもない。

 むろん、来れば拒む気になれなかったが・・・

 こもれび商店街に近付くと、

 刑事か、ヤクザか、という風体の男が2人。

 近付いてきて、おもむろに警察手帳を見せる。

 「・・・・古賀シンペイ君だね」 刑事A

 「はい」

 「あの事件の夜。怪しい人物を見かけなかったかね」

 「見てないと言いました」

 「何でも良いんだ。小さいことでも。思い出したら言って欲しい」 刑事B

 「思い出したら、言います」

 「そうか・・・また来るよ」 刑事A

 2人の刑事は、歩いていく。

 「あれは、おばあちゃんの担当ね」

 「そうなの?」

 「おばあちゃんの担当と、娘の誘拐と、スケベおやじの担当と」

 「あと、青木って言う人の担当の4つに別れているの」

 「スケベおやじ?」

 「ほら、テレビでやっているでしょう。印刷会社の社長で首吊ったて」

 「ふ〜ん。知らない」

 『マンガオタクのこいつがニュースを見ない事を忘れていた』

 「あいつが、店にスケベな本を売りつけに来た事があったの」

 「小学生の女の子にスケベな本を見せて喜んでいた変態よ」

 「へぇ〜 紫織ちゃん。スケベな本を見たんだ」

 「し、仕事よ。仕事!」

 「好きで見たわけじゃないの。もう、スケベ本を取り扱っていないし」

 「ふ〜ん」

 「あんなスケベおやじ、死んだほうが良かったのよ」

 「ふ〜ん・・・・小学生の女の子にスケベな本を見せ付けただけで、そう思われるんだ」

 「・・・・・・・・」

  

  

 古本屋に戻ると、

 佐藤エミと沢渡ミナが鉄道の時刻表、地図、ノートを広げてブツブツ。

 「・・・ごめんね。ミナちゃん、エミちゃん。待った」 紫織

 「ほんの、30分・・・か」 沢渡ミナ

 「第七号は、上手くいきそう?」

 「第七号は “紅葉” だっけ」 佐藤エミ

 「間に合う?」

 「そうね。昔の人で、それなりの人がソコソコいるから、なんとかね」 沢渡ミナ

 「奈河神社で調べたけど300年前」

 「田城ブンパチという人が南奈河と北奈河の水利紛争を止めさせるため」

 「私財の半分を売って、田奈城水路を掘ったんだって」 佐藤エミ

 「田奈城水路?」

 「奈河川から奈河小の脇を通っているじゃない」

 「・・・・ああ・・・あれ・・・そうなんだ」

 「いまでは、田んぼが10枚くらいしか残ってないけどね」 沢渡ミナ

 「でも、紅葉が弱いじゃない」 佐藤エミ

 「だから、歴史的な人物と、ちゃちな紅葉を結びつけることで情緒をね・・・」

 「まあ、水路自体は、たいしたこと無いから」

 「かする程度で良いでしょう。面白みなさそうなルートだもの」 佐藤エミ

 「妥協するけど。でも、秋といってもね。これといって、イベントもなかったし」 沢渡ミナ

 「これは?」

 「450年前に、この辺の領主の北野サネトモが嫡子誕生を祝して」

 「まだ実っていない稲の代わりにススキで、神輿を作らせて納めたのって」 佐藤エミ

 「ふ〜ん。一度だけ・・・」

 「詩にはなるけどね」 沢渡ミナ

 「二階で、やろう」

 3人は、二階へと上がっていく

 「勉強も、ね」

 「・・・はい」 紫織、ガックリ

 「でもさ、エミちゃんも、勉強は、大丈夫なの?」 ミナ

 「まあ、何とかね。最近は、こういうのが面白くてさ」

 「お父さんも好きにしなさいって、それに教えているほうが勉強になるの」

 「へぇ〜 親公認か。良いな」 ミナ

 「けっこう、お小遣いも、増えているから良いじゃない」

 「家の親は、微妙かな」

 「詩を書いているって言わないからよ。製本の手伝いだけで貰っているお金じゃ」

 「秘密よ」

 「そう言えば、500部、増刷よ」

 「うそ〜 季節が変わっているじゃない」 ミナ

 「全部〜」 佐藤エミ

 「そうよ。3000冊。5万円の6倍だから、30万の売り上げと思いなさい」

 「もう、印刷屋に回そうよ。来ているんでしょう」 沢渡ミナ

 「分け前減るよ。広告無しだし」 紫織

 「・・・第七号で頭、使っているのに・・・」 沢渡ミナ

 「アルバイトに片手間に製本をしてもらっているけど」

 「あくまでも片手間だから、客が来ている時は、こっちで作らないと」

 「それに印刷屋に頼むと、印刷屋からも言われるよ、広告入れて旅行詩を作ってくれって」

 「・・・いや」 沢渡ミナ

 「お父さんも、どこからか言われているみたいで、わたしに何か言いたそうな顔しているけど」

 「それって、よっぽどじゃないの?」

 「大人同士の付き合いというか、シガラミって、やつじゃないの」

 「広告無しで、これだけ売り上げている地域旅行冊子ってないから」

 「アルバイトを増やすという手もあるけどね、場所も狭いし」

 「大量印刷向きの印刷機や製本機じゃないから」

 「三階の屋根裏は?」 佐藤エミ

 「倉庫?」

 「店の天井を高くしているから屋根裏は、シワ寄せで、大人は、中腰よ」

 「まあ、座ってやると決めてやるなら良いけど、圧迫感が大きいから環境は、最悪ね」

 「落とし階段じゃね〜」 ミナ

 「・・・辛いか・・・紫織ちゃんは、勉強ね」

 「あ〜ん」

 「ねえ、今日は、何?」 ミナ

 「家が焼ソバで、お隣がお好み焼」

 「やった〜」

   

  

 紫織は、勉強する時間がなかった。

 気が他に削がれている割に成績が良いと思って良いだろう。

 どちらかと言うと、古賀シンペイの方が怠け者。

 佐藤エミに勉強を見てもらいながら、時折、下に降りていく。

 アルバイトと仕事の内容を話し、新古本の購入を決める。

 どの本が売れるのか、勘に頼るしかなく、センスの差が明暗を分ける。

 そして、売り上げが増えるにしたがって、買い取り本より新古本購入の割合が増えていく。

 自信が、なくなると他の古本屋や本屋に行って、売れ筋を聞きたくなってくる。

 といっても、他の本屋や古本屋に行って調べても実際は、試行錯誤。

 自分で本を読むのが、一番確実なのだが、

 そんな事をすれば、勉強をする時間は、確実になくなる。

 そこで手っ取り早く、マンガの売れ筋をシンペイに聞いてみたりもする。

 シンペイのマンガ趣向は、外れがない。

 この才能だけで食いっぱぐれないかも、と思う。

 文庫本は、アルバイトと相談、ホームページを覗いて調べたりする。

 しかし、評判が良くて売れると思った本が売れず、棚で腐らせていることもある。

 勉強中も、どの新古本を購入しようか、買い取り本と、売り上げ状況が気になる。

  

 夕食

 焼ソバも、お好み焼も、なかなかのもので、

 紫織とカオリとの料理の競り合いは、続いていた。

 紫織は、集中できない。

 「・・・はぁ〜」 紫織

 「わたしも最近は、勉強より、小旅行本のプログラムの方が気になるのよね」 佐藤エミ

 「道理で小旅行本の出来が良くなっていると思った」

 「わたしも、気が付くと旅行詩の文句を探しているの」

 「道理で詩の出来が良くなっていると思った」 佐藤エミ

 「不利だわ。勉強しながら働くなんて」

 「三田先生は、何か、言ってる」 佐藤エミ

 「最後に聞いたのは、“わたしより高収入なのね・・・”」

 「紫織ちゃんの場合。自立しているから勉強は、どうでも良いのか」 佐藤エミ

 「でもね〜 バカ高校に行くと、三森君とお別れだし」

 「三森君は、勉強して良い高校に入って差をつけようとしているし」

 「それって、痛いじゃない」 ミナ

 「まだ、十分に時間があるから大丈夫よ。要は集中力」

 「それが無いから困っているのよ〜」

 「分かった。明日、竹刀持ってくるから」

 「うそ〜」

 「じゃ〜 高校は、三森君だけじゃなくて、わたしたちともお別れね」

 「あ〜ん」

 「この辺でバカ高校の聖心高校に一人で行けば」

 「あ〜ん」

 天涯孤独の紫織にとって、友達との別れは辛い。

 監視カメラでは、沢木ケイコがシンペイに勉強を教えている。

 そして、勉強を教えてもらった後、家まで送ってもらう。

 誰か襲ってこないかと、期待しているのだろうか。

 ケイコだけシンペイに助けられていないのは、寂しいはずだ。

 女心というやつだろうか、

 男にしたら迷惑千万。

 とはいえ、女が好きな男に守ってもらいたいと思うのは、有史以来、誰しも思う。

 男の方も、愛する女を力付くで守るのは、萌えるはず。

 中山チアキが散々、チビ、バカ扱いした古賀シンペイに乗り換えたのだから効果あるのだろう。

 あんなやつでも、命がけで守られたら、女の本能で好きにして状態なのかも知れない。

 『このままだとシンペイと、同じ高校だよ』

 『イヤじゃないけど・・・』

  

  

 安井ナナミからメールが届く。

 “紫織ちゃん。古賀シンペイ君も隅に置けないんだ。びっくりしたよ”

 “なんで?”

 “強姦魔2人を半殺しにして、財布を奪ったんだって?”

 “なんで知ってんのよ”

 “紫織ちゃんが先手を取って弁護士を使って、警察から古賀君の権利を守ったこともね”

 “うぅ・・・”

 “おやじが、お前、角浦紫織の弟子にして貰えって、真顔で言うんだ”

 “だって、幼馴染だから”

 “親分子分の関係も、そういうもんなんだって”

 “弟子なんてイヤだからね”

 “まあ、そういう本格的なものじゃないけどね。また遊びにいって良い?”

 “良いよ”

 “でも、古賀君。見直しちゃった”

 “あいつ、財布なんて取るから余計にお金使っちゃったよ”

 “でも、こっちの世界じゃ 評価高いのよ”

 “ただの正義の味方だと強さだけ。古賀君には、怖さもあるじゃない”

 “そして、怖さのほうが重要なの”

 “シンペイちゃんをヤクザにしないでね”

 “もちろんよ。わたしも、ヤクザ嫌いだから。でも古賀君は好きになったな”

 “相手がいるから、これ以上、ややこしくしないでね”

 “おやじが、そういうのも見習えって”

 “なに、それ?”

 “良いものがあっても節操なく自分のものにするなって事”

 “姉さんにしないで・・・そっちの道には行かないからね”

 “気概だけだから。それだけ、紫織ちゃんに、こっちにこられたら流血沙汰になって負けそう”

 “大丈夫。行かないから”

 “じゃ こっちから行く前にメール送るね”

 “うん”

   

 安井ナナミ、角浦紫織、佐藤エミと3人で、商店街を歩く。

 3人とも気晴らしで歩いているだけだった・・・・

 紫織は、すぐに一般の人間と、そうでない人間の見分けが付いた。

 佐藤エミを8。角浦紫織と安井ナナミを2の割合で見る一般的な人間と、

 均等に見ている人間。

 ヤクザの娘、

 奈河市の新名士、

 名家の令嬢

 3人で歩いてると認識できた人間は、それらしい反応を見せる。

 その筋の者と素人さんと分けられる。

 それとも、その筋のスケベか・・・

 「・・・やっぱり。せせらぎ商店街のケーキの方が、美味しくない?」 安井ナナミ

 「こもれび商店街にも、クレープの有名店がテナントに入るよ」 紫織

 「また、宣伝してくれとか、言われそうね」 佐藤エミ

 「いま、注目のこもれび小旅行本?」 安井ナナミ

 「注目されているの?」 紫織

 「だって、利権が絡んでいるもん。おやじが “組の専属で、広告代理店やりてぇ〜” って」

 「堅気しか、相手しないからね」

 「言っとく」

 「Hな写真なんか、入れるもんですか」

 「・・・それは、契約とか念書でどうにでもなることよ」

 「権益っていっても代理人みたいなものだから、俺を通せと広告料回収屋」

 「割り引かれても確実に広告料を貰うなら、そういうところを仲介に入れると便利なのよ」 安井ナナミ

 「そ、そうなの?」

 「金額が小さい間は、大丈夫よ」

 「でも部数が増えて広告料が大きくなると月末の掛け払いが多いでしょう」

 「他の企業とかも月末の掛け払いで金が支払われて、賃金もそれで払うでしょ」

 「一つでも不払いが起きると大変なの」

 「健全経営企業でも賃金を払う3、4日でさえ、銀行が貸してくれなくて潰れてしまう事があるの」

 「連鎖倒産とか言うでしょう」 佐藤エミ

 「うぅ。なんか身につまされる話し」

 「掛け払い無しの場合は大丈夫。現金で余裕があれば何とかなるよ」

 「でも広告が入ると一冊当たりの単価が跳ね上がる」

 「それで、回収が月末になるから・・・分かるでしょう」 佐藤エミ

 「へぇ〜 紫織ちゃん。ブレーンがいるんだ」 安井ナナミ

 「お父さんが、そういう話しをしているの聞いた事があるだけ」

 「佐藤家も、広告代理店を狙っていたの?」

 「わたしは趣味だもの・・・そういうの関心ないし」 佐藤エミ

 「わたしは紫織ちゃんのお手伝いするね。いろいろ、勉強したいから」 安井ナナミ

 中学生一年の3人組だが、ある意味怖い3人組。

 「・・・・まずは旅行本としての価値を高めてからで良いと思うの」

 「うん、賛成。その方が自由にプログラムが組めるもん」

 「行程を捻じ曲げるのは、ミナちゃんだけで十分」 佐藤エミ

 「広告が無い方が古さを感じさせない強みがあるのよね・・・」

 「矛盾しているけど本自体の価値が高いから広告を載せたい企業も多いの」

 安井ナナミが売店に置いてある“こもれび”小旅行本をパラパラめくる。

 奈河市全域で売られ、売店だけでなく、喫茶店やレストランでも見る事ができる。

 「矛盾か・・・でも、ミナちゃん。まだ塾終わらないのかな。進まない?」 紫織

 「ルートで、詩の表現微妙に変わるから。ルートの方を変えられることがあるし」

 その時、2人組みが近付いてくる。

 むかし校長室であった刑事2人だと分かる。

 「・・・・安井ナナミだね」 刑事A

 警察手帳を見せる。

 「ええ〜 そうよ」

 「例の奈河川の交通事故のことで何か思い出したことは、ないかな?」

 「・・・寝ていたって、言っているでしょう」

 「では、何か、気付いた事があれば、知らせてくれないか」

 「わかった」

 2人の刑事が去っていく。

 「本当にしつこいんだから」

 「事件の方は進んで無いのかしら」

 「みたいよ」

 「わたしの家の近くで青木ケイゾウって建設会社の部長が車ごと川に落ちて溺死したのが疑われているの」

 「でも被疑者が、串間セイゴと後藤ヨウジ」

 「その時、遠くから目撃したのが五里ヘイハチで」

 「武蔵野コウゾウを自殺したと見せかけて殺害した被疑者なの」

 「そいつが川に向かって走っていく青木の車を見て助けようとしたんだって」

 「詳しい。ナナミちゃん」

 「おやじが自分でやったんなら自分で身の証を立てろっていうし」

 「えぇ〜 ナナミちゃんが犯人なの?」 佐藤エミ

 「違う! 家の方針なの、やっても、やらなくても、自分の身の潔白は自分で示すのが中学生だって」

 「それって、なんか、違うような気がするけど」 佐藤エミ

 頷く紫織

 「警察だって、本気でわたしを疑ってないと思うけど」

 「へぇ〜 その時何してたの?」 佐藤エミ

 「寝てたよ。10時には、寝てたんだから」

 「げっ! ヤクザの娘らしくないよ」

 「ドス持って熱カンで徹夜の花札とか、マージャンしないと」 佐藤エミ

 「す、するか!」

 「じゃ アリバイ工作をしようとして逃げた場所で別の殺人現場に行き合わせたの?」

 「そう・・・堀ミサエは、偽装誘拐をもくろんで五里印刷工場の廃屋を使ったんだけど」

 「五里印刷工場で、武蔵野コウゾウが首吊り」

 「お陰で誘拐犯が逃げて堀ミサエが発見されたことに、なっているんだけどね」

 「それで、青木ケイゾウを殺したと思われる串間セイゴと後藤ヨウジが中山チアキちゃんを強姦しようとして・・・」

 「古賀シンペイ君に半殺しにさせられたでしょう」

 「殺された、おばあちゃんの家の近くの公園で・・・・」

 「え〜 なに? 古賀君が! えっ」 佐藤エミ

 「あっ! 知らなかったんだ」 安井ナナミ

 「な、内緒よ。エミちゃん」 紫織

 「なんで・・カッコ良いじゃない。中山さんを助けたなんて。道理でベッタリだと思った」 佐藤エミ

 「そいつらから財布をカツアゲしなければね」

 「古賀君って、そういうことするんだ〜・・・・意外と魅力的」

 「紫織ちゃんが警察より先に弁護士に頼んで動いたから表沙汰にならずに済んだけど。慰謝料よね」

 「紫織ちゃんって、そういう事もするんだ・・・」

 「だ、だって、幼馴染だから・・・仕方ないじゃない」

 「普通、幼馴染でも、そこまでしないと思うけど」 佐藤エミ

 「そ、そうかな〜」

 「ねぇ〜 犯人が分かっているんなら何で捕まえないの」 佐藤エミ

 「動機があるけど。アリバイがあるからじゃない。殺された時間にそこにいたんだもの」

 「じゃ 別の人が犯人?」 紫織

 「組の若い衆も疑われたみたいで調べたみたいなの」

 「人を殺すだけの十分な動機という点では、その4人が最有力候補だから」

 「最近は、短絡的で、しょうもない理由で人を殺したりもするけどね」

 「そういう場合は、トリックは使わない。せいぜい毒殺ね」

 「ヤクザも警察の真似事みたいなことするの?」

 「普通は、やらないけどね。でも警察に入ってこないような情報も入るし」

 「組の近くで殺人事件でしょう」

 「組が、やったんなら良いな〜って、思う警察官や近所もいてね」

 「冤罪でも、とか。別件でも、とかで引っ張るし・・・・」

 「おやじも良い訓練になるとか思ったみたいで」

 「やっても、やっていなくても自分の身の潔白は、自分で証明しろとかいうから」

 「そんなことやってんだ。警察」

 「・・・そんなことやっているから、犯人が捕まらないのよ」

 「嫌がらせで犯人にしちゃうんだ」 佐藤エミ

 「裁判までは行かないけどね。事情聴取で嫌がらせよ。それで別件逮捕」

 「じゃ 捕まらないという事は、アリバイトリックがあるわけ」 紫織

 「死亡時間で判断したらね」

 「へぇ〜 その手の本は、仕事柄、けっこう読んでいるけど」

 「時間のトリック? 場所のトリック? 人のトリック?」

 「警察は、探偵じゃないからトリック破りは、二の次にしているの」

 「事故、自殺、他殺、病死を判断して動機や物証、から容疑者を浮き彫りにしているから」

 「面白い事件なの?」 佐藤エミ

 「面白いのは、遺産目的の殺人で虚偽誘拐をした堀ミサエね」

 「二日前、買物していたら突然。クロロホルムで眠らされて」

 「ずっと五里印刷所の廃屋に閉じ込められていたんだって」

 「犯人は、わからないし」

 「廃屋は外からカギがかけられて、クロロホルムが入ったビンから液体が漏れ出すようになっている」

 「堀ミサエが発見された時は、そこで眠らされて」

 「殺された堀サナエおばあちゃんの家に身代金の脅迫状が郵送されていたの」

 「しかも、堀おばあちゃんの受け取りで保険も入っていたみたい」

 「おばあちゃんが誘拐を仕組んで殺そうとしていたとも思えるし」

 「じゃ 偽装誘拐じゃないの・・・いま、流行の手品トリック?」 佐藤エミ

 「そういう事。警察も手品の種を買わないといけないから」

 「特に大掛かりな脱出トリックは高いから二の足を踏んでいるみたい」

 「ほ、他のは?」 紫織

 「五里ヘイハチ。彼は、五里印刷工場を武蔵野コウゾウに奪われた元二代目社長」

 「許婚の鹿島セイコを寝取られたのが動機の一つみたい」

 「武蔵野コウゾウが首を吊った時」

 「彼は川に沈んでいく車から、眠っている青木ケイゾウを助けようと川に入ろうとしていたんだって」

 「んんん・・・・・ややこしい」

 「へぇ〜 殺人の被疑者が人助け? 社長は自殺じゃないんだ」 佐藤エミ

 「自殺するタイプじゃないわね。あの変態スケベおやじ」

 「知っているの?」 安井ナナミ

 「家の古本屋にH本を売りに来た男、小学生だったわたしにH本を見せて喜んでいたんだから」

 「青木ケイゾウは、自殺じゃないの?」 佐藤エミ

 「五里ヘイハチの証言だと車は川に向かって走っているのに」

 「青木ケイゾウは眠ったような状態で。そのまま、川に落ちて溺死」

 「変でしょう」

 「串間セイゴ、後藤ヨウジは、南興建設会社の営業で」

 「駅ビル再開発を修正させられた責任を取らされて、青木ケイゾウにリストラ」

 「責任者の青木ケイゾウは、そのままなのにね」

 「じゃ 被疑者が、ほぼ確定なら、トリックさえ分かれば、解決?」 紫織

 「警察が三つから四つに分かれて捜査しているの」

 「一つが容疑者で一つが証人、もう一つか二つが参考人でしょう。どうなると思う?」 安井ナナミ

 「・・・・」 紫織

 「トライアングル殺人パズルって警察がぼやいているの」

 「解決する気があるか、わからないけどね」 安井ナナミ

 「解決する気ないの?」 紫織

 「事件を解決する警察より上に挨拶する警察の方が評価されるでしょう」

 「だから、事件を解決するより警察内部での処世術が得意な人間の方が有利なの」

 「身を磨り減らして、ひたすら事件を追いかける警察官は一人もいないよ」

 「使い捨てされるだけだもん」

 「特に今回は入り組んで縦割組織の弱点がモロに出るわね」

 「人間関係をこじらせると出世に関わってくるから」

 「はぁ〜 サービス業じゃないんだから。なんか日本の公僕も終わりって感じ」 紫織

 「大丈夫。ヤクザもそうだから」 安井ナナミ

 「ははは」 紫織

 「企業もね」 佐藤エミ

 「ははは」 安井ナナミ

 この時、三つの事件との関わりは小さいと考えていた。

 幼馴染や友人が微妙にかかわっているだけで直接的なものじゃなかった。

 しかし・・・・

 「そのトライアングル殺人パズルで小旅行プログラム作って良いかな」 佐藤エミ

 「・・・・不謹慎すぎるよそれ」

 「エミちゃんって意外と極悪」 安井ナナミ。面白げ

 「・・・なんか、人格疑われそう。それに祟られたらどうするのよ」

 「献花を添えるように書いておけば、人格は疑われないし、祟られないと思うよ」

 「警察も真剣にやると思う」

 「市民が注目しているんだもの」

 「それに広告を載せていないから商業主義と言われて非難されない」

 「・・・・確かにそうだけど・・・」

 「奈河市で、こういう殺人事件が解決されないまま、迷宮入りってイヤじゃない」

 「死んだ方が良い人間もいるけどね・・・でも・・・悪く無いと思うよ」

 「おやじも疑われたままというのは、気持ち悪いみたいだし。良いんじゃない」 安井ナナミ

 「・・・・ミナちゃんにも聞かないと・・・・」

  

  

 それが出来るグループと出来ないグループに分かれる。

 広告媒体としての機能を持っていない、こもれび少旅行本は、身軽だった。

 こもれび小旅行本で三つの殺人現場の小旅行プログラムを載せるのは内容次第で可能だった。

 第七号は、“紅葉” を止めて “温故” と命名され、

 奈河市の過去の忘れ去られた偉人を扱った四つのプログラム。

 そして、今回の同時多発殺人、トライアングル殺人パズルのプログラム一つが入る。

 沢渡ミナは、それらしい弔い旅行詩のようなものを作って、

 奈河市でこのような事件を見逃してならないといった詩が、完成。

 第七号“温故”は、過去、最大級の注目を浴びる。

  

 

 その日

 古本屋の二階に訪れたのは、市長の大牟田リョウジと、そのお供。

 300年前、田城ブンパチの田奈城水路。

 450年前、北野サネトモのススキ神輿の真偽を確かめるためだった。

 町興し、市興しで興味を持ったらしい。

 佐藤エミが資料を渡すとコピーを取って大学で調べさせるそうだ。

 そして、

 “事実確認が取れたら史跡碑を建てるつもりだ”

 “石碑文も、この文を使うかもしれないから。その時は、謝礼を送らせていただきます”

 と言って帰っていく。

   

 第七号“温故”発行部数は、いきなり二万部が発注され、

 売り上げ200万円という大きな金額だった。

 常に旅行本の在庫がある“こもれび”古本店は、客が増える。

 そして、今回の事件に似た推理小説に印を付ける。

 ちょっとした、小技だったが古本の売り上げも伸びる。

  

 そして、300年前、田城ブンパチの田奈城水路。

 450年前、北野サネトモのススキ神輿の事が地方紙に取材され、

 詩人 三渡サナ先生の詩とコラムが地方紙に載る。

 そして、トライアングル殺人パズル事件の現場を旅行本に載せたことも紙面に載った。

 儲かったのは献花用の花を売っていた花屋だっただろうか。

 

 

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第20話  『トライアングル殺人パズル事件』

第21話  『ヤクザの娘もいるよ』

第22話  『不良娘もね』

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