月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第24話 『勉強しなきゃ』

 “こもれび”と“せせらぎ”の古本店でメールのやり取りが数回にわたって行われ。

 数日後。

 二つの商店街で初めて趣味本と実用本が交換された、

 これは、二つの商店街で初めてのことで話題になる。

 そして、ある雑誌社で “こもれびの狐娘の “せせらぎ” に対する強制と支配” と書かれた。

 でたらめで、かなり気分を害していた。

 「むかつく。何が強制と支配よ」

 「どっちでも良いと言って、選択権は向こうにやったのに、むかつく!」

 雑誌を読みながらムッとする。

 「狐娘か。ふっ♪」 佐藤エミ

 「この狐娘が一番あたまに来た」

 「まともに取材しないで事実だけを裏読みしたのね。売るために」 安井ナナミ

 「何もしなければ自滅。何かすれば叩かれる」 佐藤エミ

 「むかつく」

 「ペンと剣は、どっちが強いかしら」 安井ナナミ

 「ナナミちゃん。目が怖い〜」 佐藤エミ

 「ちょっと、変なことしないでよ。わたし、呪われたくないからね」

 「手遅れだったりして・・・」 安井ナナミ

  

 とある雑誌社のフリー記者と編集長が何者かに襲撃され、

 全治一ヵ月の入院したのは、数日後。

 この雑誌社は、いろんなところに恨みを買っており、

 どの勢力が行ったのか、不明のまま。

 もちろん証拠がなく、

 犠牲者から判断して、狐娘の呪いと、

 安井組が本命と予測される。

 “次は家族のところへ行く”

 と言われたらしく、

 数日後、同じ雑誌に虚偽報道の謝罪文が載せられる。

  

  

 回転焼き屋

 回転焼きと、お茶で、間食の紫織

 『わたしも、落ちるところまで、落ちたような気がする』

 『いまさらナナミちゃんに文句を言うつもりもないけど・・・』

 『何もなければ、三流雑誌社に潰されていたかもしれないし・・・・はぁ〜』 紫織

 過剰防衛の後味の悪さ。

 北島のときもそうだった。

 黄昏た気分で回転焼きを食べる。

 あと12、3ほど歳が上でバーやスナックなら様になる背中だ。

 「し・お・り・ちゃん」 楠カエデ

 「・・・楠のお姉ちゃんだ」

 「私も回転焼き」 萩スミレ

 楠カエデが長椅子に座る

 「良くあることだから・・・最善の方法で片付けたのよ」 楠カエデ

 雑誌を見ながらいう。

 「精神衛生上。良くないでしょう」

 「へぇ〜 やさしい。ゲスに同情しているんだ」 萩スミレ

 「ゲスなの?」

 「ああいう輩に人権を認めていたら・・・図に乗るだけ。やってけないよ」 楠カエデ

 婦警と思えないセリフ。

 「でも、家族とかいるんじゃないの?」

 「だから、相手が弱いと思って、手を出したのよ」

 「北島と同類。もう、二度と、うそは書かないでしょうね」 楠カエデ

 「そういう世界で生きたくなかった」

 「Aランクに入ると手が出せないグループ」

 「Bランクになると条件次第で手が出せるグループ」

 「Cランクになると一方的にやられるグループ」

 「Dランクになると手を出しても話題にもならないグループがあるの」

 「紫織ちゃんは、Bランクに昇格ね」 楠カエデ

 「そう、悪さしなければ手を出せない人間ね」

 「あの雑誌社は、誰も同情しないから大丈夫よ。北島と同じ」 萩スミレ

 「狐娘の呪いだって分かるんだ」

 婦警3人組にばれているのでショック。

 「バレバレよ」 楠カエデ

 「その筋の人からすればね」 萩スミレ

 「なんとなく、気分が楽になったけど、狐娘って、むかつく」

 「化け娘の方が良かった?」 萩スミレ

 「もう、何でも知っているのね」

 「警察の情報網って、けっこう、強いのよ」 楠カエデ

 「最近、化けてないみたいだけど。デートはしないの?」

 「あのカッコ良い男の子と」 萩スミレ

 「三森君・・・勉強に集中しているみたいだし」

 「わたしも点数低いから住む世界が違うみたいな感じ」

 「三森君が勉強しているのは紫織ちゃんと同じ世界に住みたいと思って勉強しているの」

 「勉強して実力を付けたいって」

 「紫織ちゃんと並んで歩けるくらいになりたいってね」 楠カエデ

 「そうかな・・・」

 「そうよ・・・だって、このままだと、ヒモにされちゃうし、男のプライドがあるものね」 萩スミレ

 「そうなんだ。あんなにカッコ良くて、頭も良いのに」

 「カッコ良いのは生まれつきだけど。頭が良いのは努力するから」 楠カエデ

 「そうか・・・そうなのか・・・むふ♪」

 「良いわね。努力家の彼氏がいるのって」 萩スミレ

 「わたしも、勉強しないといけないんだけどな」

 「実社会で役に立たない勉強が多いから」 萩スミレ

 「学んだことが生かせる職業があるって言う子もいるの」

 「まぁ、そういう人もいないと、先進国じゃないか」 楠カエデ

 「でも一部よね。そういうの、ごく一部。普通なれないもの」 萩スミレ

 「入れる高校しだいかな」

 「紫織ちゃんを拒む、高校はないと思うよ。少しくらいバカでも」 楠カエデ

 「本当!」

 「紫織ちゃん。バカって言われて抵抗感をなくしているなんて・・・・」 萩スミレ

 「・・・だ、だって・・・」

 「特待生って、あるでしょう。スポーツや勉強ばかりじゃないもの」

 「適当な名目つけて紫織ちゃんを入れて、人気取りしようという高校は多いと思うよ」 楠カエデ

 「やった〜」

 「でも、バカすぎたら授業について行けなくなって、転落の道ね」 萩スミレ

 「ははは・・・」

 「まだ分からないから、油断しない方が良いけどね」

 「3年になれば、どこからか内定が来るかも。特待でどうかって」 楠カエデ

 「よ〜し。がんばるぞ」

 「勉強を?」 楠カエデ

 「ほかの町でも歴史を掘り起こすから」

 「そっちね・・・」 楠カエデ

 安井ナナミと佐藤エミが近づいてくる。

 手を振る紫織。

 2人の婦警に気付いて、安井ナナミに緊張感が漂う。

 「ふ〜ん。紫織ちゃんの右腕と左腕か」 楠カエデ

 楠カエデが安井ナナミと佐藤エミの後ろにいる人影に気づく。

 「さすが〜」 楠カエデ

 「えっ!」

 「いえ。じゃあね。紫織ちゃん。ほら、スミレ。パトロールよ」 楠カエデ

 「お友達によろしくね」 萩スミレ

 「うん」

  

   

 慣れてしまえば、学校と古本屋。

 そして、印刷製本業も単調になる。

 小規模でありながらパソコンと直結した最新式の印刷機械と製本機械。

 もともと専門的で特殊な印刷技術を使わないジェットプリンターから進化したものだった。

 そう、紫織が理解したくない。萌え産業機械。

 安井ナナミは、印刷製本に関する技術を覚えてしまうと、

 アルバイトの杉山、鴨川といくつかの工夫とマニュアル化を講じて作業効率を高める。

 「ミナちゃん。ほかの町の歴史も掘り起こすの?」 佐藤エミ

 「いいけど・・・なんか二番煎じだな」

 「駄目?」 紫織

 「一日未満の旅行プログラムだから、奈河市の外に起点を作らないとね」 佐藤エミ

 「そ、そうだった」 紫織

 「ほかの市でも似たような小旅行本を創刊する動きがあるみたいよ。それも、市の予算で」 佐藤エミ

 「へぇ〜」

 「でもうまみがないみたい。一冊一〇〇円じゃね」 安井ナナミ

 「そうなんだ」

 「だって、市の予算をたくさん使って懐に入れるんだもの」

 「小旅行本の内容とか、市場がどうのこうのじゃなくて」

 「贅沢に作って自分のポケットに入れるのが目的」 安井ナナミ

 「・・・じゃ 市長が著作権料を支払うから、市で小旅行本を印刷させて欲しいというのは・・・」 紫織

 「市の予算を使って、自分のポケットに入れるだけ」

 「広告が載ってないのに結構、売れているでしょう」

 「市が目をつけて当然よ。最近、官僚や役人を悪者にする風潮が強いから・・・」

 「市で発行すると上質の紙でハードカバー、凝った印刷で赤字分がポケットと」

 「子飼いの関連業者に流れ込む」 佐藤エミ

 「げっ!」

 「市と一緒に心中するならやっても良いけど」 安井ナナミ

 「市は、市長と、その取り巻きを代えれば良いだけ、紫織ちゃんは、評判を落とすわね」 佐藤エミ

 「やっぱり、止めよう」

 「とか言って、佐藤家も広告代理権を狙っていたりして」

 「安井組が牽制したんじゃない」

 「はぁ〜?」 紫織

 「へぇ〜 じゃ いまは、市と佐藤財閥と安井組の三竦みってやつ?」 沢渡ミナ

 「そうなの?」 紫織

 「労働基準監督署や教育委員会が出てきて」

 「勉学が阻害されているとか口実つけて、こもれび小旅行本を取り上げないのは」

 「佐藤家と安井組が睨んでいるからでしょう」 佐藤エミ

 「佐藤家と安井組って、そんなに強いの?」 紫織

 「別に・・・市も後ろめたいことがあるから手を出さないだけ」 安井ナナミ

 「あれ〜 市の弱みを握ってたんじゃ・・・」 佐藤エミ

 「・・・良く知らないけど・・・持っているかも・・・」 安井ナナミ

 「そういう世界なのか〜 じゃ 紫織ちゃん。市に口実を渡さないように勉強しないと」 沢渡ミナ

 「結局。そ、そこに行きつくのね」

 「法定代理人の鈴木さんも難しい立場よね。佐藤家と市長に突付かれて」 安井ナナミ

 「はぁ〜」 紫織

 「紫織ちゃん、話しは変わるけどさ〜・・・」 沢渡ミナ

 「・・なに?」

 「ほら・・・そっち系の生徒たちがイラスト集を発刊したいって言ってるんだけど」

 「そっち系・・・・」

 「オタク系」

 「オタク系か・・・・難しいと思うよ。こもれび小旅行本の増刷。間に合ってないもの」

 「わたしも、そう言ったんだけどさ・・・これ、借りたから」

 沢渡ミナがカバンからイラストノートを出す。

 パラパラと捲られるノート。そっち系の画が描かれていた。

 「へぇ〜 上手いじゃない」 安井ナナミ

 「・・・そうでもないよ。絵だけじゃない、動きが感じられないもの」

 「やっぱり、絵からも性格、意思、思い、人生が伝わらないと」

 「あと、背景に世界観とか・・・全然、ちぐはぐね」

 「好まれそうなものをとって付けたような感じで、時代を追いかけているような・・・・」

 「もっと、時代を突き抜けるのが良いのよね」 佐藤エミ

 「なんか専門的な意見」 安井ナナミ

 「家に画廊がきて、色いろ話しているの聞いているから」 佐藤エミ

 「高尚なことで・・・」 安井ナナミ

 「じゃ 実力不足で却下ね」 沢渡ミナ

 「ねぇ〜 どこからの頼まれたの?」

 「アニメクラブ」

 「淀中の?」

 「そう」

 「編集印刷製本販売までルートがあるから目をつけたんだ」

 「古本屋に置いとけば現実に流通されているようなイメージも与えられるし」

 「売れるか実力を確認できる」 佐藤エミ

 「実力不足じゃね・・・」 安井ナナミ

 「実力不足を分からせる方法で一番良い方法は市場に置いとく方法ね」

 「市場調査にもなる」 佐藤エミ

 「置かせた方が良いというの?」

 「アニメクラブは、淀中だけじゃないもの」

 「大学で完成度の高いところもあるし。興味のある人は集まってくるでしょう」 佐藤エミ

 「なるほど。ちょっとキモイけど、こっちで印刷製本してオタク系の区画を置いて販売するのね」

 「でも・・・このお人形レベルじゃ駄目ね」

 「全周囲で立体的に躍動的に描けなくちゃ・・・基礎が駄目」 佐藤エミ

 「シンペイちゃんに見てもらうか、あいつ、マンガで外れ引いたことないから」 紫織

  

  

 学校の帰り

 紫織は、微妙なバランスの上に立っている。

 学力の足りない部分を内申書で補えるか分からない。

 D組の成績は、下の下で低い方だった、

 一年全体では、下の中。少しマシ。

 仁科マイの家に向かう。

 三田先生、進藤ジュン、中山チアキ、古賀シンペイ、角浦紫織。

 学力低いのだから家に戻って勉強しろもあるが、わずかな時間勉強しても焼け石に水。

 というより、帰れば勉強より仕事。

 それなら気晴らしに内申書目当てで訪問する方が効率良い。

 訪問が終わって外に出る。

 「仁科さん。最近は、D組も良くなってきているのに分かってくれないのかな・・・」

 三田先生が仁科家の二階を見つめる。

 「なんか暗いみたいだけど、でも訪問すると喜んでくれるのは、期待して良いのかも」 チアキ

 「何で、こないんだろう」 進藤ジュン

 「まだ、虐めのことで風当たりとか強くない?」 三田先生

 「誰かさんのお陰で、随分、言われなくなったけど」 チアキ

 「角浦さんのお陰ね」 三田先生

 「一組四組は、まだ、差別されているみたいだけどね」 紫織

 「自業自得よ。自分の尻拭いを他人にさせるのは限界があるもの」 チアキ

 仁科家のドアが開く

 「あのう・・・角浦さんと話しがしたいって、マイが」

 仁科マイの母

 「わ、わたし」

 「・・・・・・・・」 三田先生

 「・・・・・・・・」 チアキ、ジュン、シンペイ

 「・・・わたし・・・だけ?」

 「ええ・・・帰りは、車で送りますから・・・お願いします」 仁科マイの母

 「じゃ 角浦さん・・・・お願いね」 三田先生

 仁科マイの部屋は、二階の6畳。

 窓からおばあちゃんが殺された家が見える、

 隣の庭木の紅葉したカエデ3本が視界を遮っている。

 「ごめんね。呼び戻して」 仁科マイ

 「良いよ。なに?」 紫織

 「どうして良いか、分からなくて」

 「・・・・・・・」

 「わたしね。見たの・・・・」

 「見た?」

 「隣の家のおばあちゃんが殺されたとき、電気を消して星を見ていたから」

 「へっ・・・・」

 「警察官が、おばあちゃんの家の近くにいたの」

 「警察官が、殺したのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないけど」

 「そ、それで警察官が殺したのなら。おまわりさんに聞かれても怖くて言えなくて」

 「・・・ど、どうしてそれを、わたしに、三田先生だっていたのに」

 「三田先生より、角浦さんのほうが頼りになるもの」

 「・・・・・・・・・」 紫織、13歳

 「警察に言わない方が良いよね? なんか、怖くて」

 「・・・・知り合いに婦警がいるの。直接話してみると良いと思う」

 「まず、仁科のことを秘密にして・・・」

 「事件の夜、この近くを警察官が巡回していたか調べてもらえばいいから」

 「・・・・・・・・・」 仁科マイ

 「仁科の証言をビデオに撮って、何人かで預かるの」

 「仁科に何かあれば、それを公開する。手を出す人はいなくなるでしょう」

 「・・・・・」 仁科は、頷いた。

 「でも警察官は関係ないと思うけど・・・・おまわりさんは、どこにいたの?」

 仁科マイは窓辺に近づくと道路に面した道を指した。

 「夜、11時半過ぎ頃、あそこから、うちの道路に向かって歩いてきたの」

 偶然だろうか、鹿島ムツコが見た警察官と同じだろうか。

 2人の証言で、警察官が近くにいたというのなら、事実だろうか。

 犯人は、警察官に気付いて反対側から逃げたか、擦れ違う。

 警察は、嫁の堀ミサエを保険目当ての誘拐に見せかけた。

 遺産、目当ての殺人の疑いで取り調べ。

 隣の家に人影が見える。

 50代の男。たぶん、辞職させられたという中央官僚のエリート。

 妻が母を殺したと疑われ、警察に調べられ。

 母親が、殺された家に住むのは、どういう気分だろうか。

 「仁科。隣のおばあちゃんって、どういう人だったの?」

 「良く知らない。でも・・中肉中背で腰とかも曲がっていなかった」

 「迫力ある人かな。豪傑って感じの雰囲気だけど・・・・・」

 「強盗殺人なんて・・・・・」

 「じゃ 最初は、嫁が誘拐されて」

 「警察官の格好をした犯人に身代金を払わなかったから殺されたのかな」

 「辻褄が合っているかも」

 「嫁を誘拐して身代金を請求」

 「犯人が警察官に化けて、油断しているところを殺して、家にあった金品を奪って逃げる・・・」

 「それで、ひょっとしたら本物の警察官だったのかもしれないと考えたわけね」

 仁科マイが頷く

 「警察が調べていることと違うわね」

 「そうなの?」

 「警察は、妻が虚偽誘拐で遺産目当てに姑を殺したと思っているの」

 「そうなの? あの人が、そんなことすると思えないけど」

 「知っているの?」

 「一応、隣だから。仲は良いと思えなかったけど、ケンカしているのは見たこと、無いし」

 「そういうことするような人じゃないと思うけど」

 紫織は、驚く。

 警察は、違う方向に捜査を進めているのではないかと。

 婦警との付き合いで初動捜査でのミスは、致命的だと聞いている。

 今回は、本庁や他県から応援を受けていたとしても実質、四分割されているはず。

 警察は、虚偽誘拐にすることで四分割を三分割にしようとしたのかもしれない。

 「じゃ こっちで、手配するから、わたしの家に遊びに来ることにして、そこに婦警を呼ぶから」

 「やっぱり、角浦さんって頼りになる」

 「・・・あ、あまり嬉しくないんだけど」 紫織、13歳

 「婦警は、携帯で呼べば良いから車で送ってくれるみたいだし。今日は、家に泊まっても良いよ」

 「本当! ありがとう。そうする」

 「学校を休んでいたのは、その警察官が犯人だと思ったから」

 「うん」

 「警察官のお顔は見た?」

 仁科マイが首を振った。

 「暗かったから、メガネをかけて、壁の縁に近かったから170cmくらいで30代くらいだと思う」

 「警察官と犯人が互いに気付かずに擦れ違っただけなら」

 「安心して学校に行けるようになるのね」

 「うん」

 「そう」

   

 その日

 紫織は、婦警三人にメールを送ると仁科マイの母親の車で家に送ってもらう。

 紫織はカメラをセット。

 しばらくすると、いつものように安井ナナミが来て佐藤エミ、沢渡ミナが来て、

 こもれび小旅行本の仕事を始める。

 その後、私服の楠カエデ、榊カスミ、萩スミレの三人が来ると、

 小旅行本の印刷製本を中止。

 そして、角浦紫織、安井ナナミ、佐藤エミ、沢渡ミナを交えて、

 楠カエデ、榊カスミ、萩スミレ、三人の婦警の前で、仁科マイの証言。

 質疑応答が一通り終わる。

 楠カエデは証言が怪しいと思ったのか、

 質問の言い回しを変えて、同じ質問をするが矛盾はないようだ。

 「11時から12時頃、堀おばあさんの家の近くを警察官が巡回していたのは、ないの?」 紫織

 「もし、捜査段階で、そんな話しがあれば必ず伝わるはず」

 「事件当夜近くに警察官が巡回して事件に気付かなかったなんて処罰ものだから」

 「黙っているかもしれないけど、ばれたら、もっと酷いことになるし・・・」 楠カエデ

 「三条のパトロールだと、蛍野交番ね」 榊カスミ

 「先に調べてみるか、証言は、本当みたいだし」

 「それから、仁科マイちゃんには警察で証言してもらう事になるわね」 楠カエデ

 「でも、どうして、その警察官を犯人かもしれないと思ったの?」

 「道を歩いていただけなのに何か気付いたの?」 榊カスミ

 「分かりません。夜、トイレに起きて」

 「なんとなく、星を見ようと思って窓から外を見たら道を歩いている警察官に気付いたの」

 「翌日、学校が終わって戻ってみたら」

 「お巡りさんたちが、おばあちゃんの家の周りに集まっていたのに驚いて」

 「その時、ひょっとしたらと思って・・・・」

 「その・・おまわりさんは懐中電灯をつけていなかったの?」 紫織

 「えぇ・・・星も綺麗だったし、そんなに暗くなかったから。あの近くは、電灯もあるし」

 「夜のおまわりさんと昼間のおまわりさんに違いがあったのかしら・・・違和感とか」 楠カエデ

 「分からないけど帰ってきたとき」

 「集まったおまわりさんの中には、いなかったような気がした」

 「当然、夜勤明けなら休むか、午後の出勤で留守番ね」 楠カエデ

 「でも交番のパトロールなら、どの辺をパトロールするか、だいたい分かるはずだけど、変ね」 榊カスミ

 「派出所で隠匿」 萩スミレ

 「まさか、とりあえず。仁科マイちゃんの不安を取り除くために調べましょう。それからね」 楠カエデ

 仁科マイがホッとしたような表情を見せる

 「楠おねえちゃん、まだ、妻が虚偽誘拐を仕組んだと思われているの?」

 「刑事課は、そう判断している」

 「証拠があるの?」

 「んん・・・誘拐犯に関する気配が、まったくないらしいの」

 「じゃ 犯人が別にいて、誘拐がフェイクで、本当は、強盗殺人が目的ということはないの?」

 「まさか、二重の危険を冒して取り分が一つなんて、ばかげた話し、推理小説にないでしょう」

 「偶然、二組の犯人が同時刻に二つの事件を起こしたなんていうのも、なしね」

 「普通の外部犯なら二人まとめて強盗殺人で、って、思うよね」 萩スミレ

 「そうなるとトライアングル殺人パズル事件、そのものが異常ね」

 「三つの殺人事件と一つの誘拐事件」

 「同時刻多発で第一容疑者が別の事件現場の近くにいるのは・・・」 榊カスミ

 「三つの事件で関連性は、ないわね」

 「ほかの事件の被害者も容疑者も、つながりはない」

 「交換殺人以外で誰かが利益を受けるというのもなさそう」

 「だから、偶然でしょう」 楠カエデ

 「じゃ 今日は、これで、終わり?」 紫織

 「えぇ〜 明日には、警察に呼ばれると思うから。マイちゃんは、学校、どうする?」 楠カエデ

 「・・・行く」

 「そう」

 婦警三人が帰っていく。

 紫織は、ビデオカメラを止めて、コピーを作る

 「ありがとう。角浦さん」

 「良いよ。クラスメートだし」

 「やっぱり。頼りになるんだ」

 「先生より頼りになるのは、問題だけどね」

 「三田先生に何か出来るとは思えないけど」

 「・・・・・・・」 紫織

 三田先生なら別の方法を取るだろう。

 仁科マイが見た警察官が事件と関係ないのなら、

 仁科マイは、安全なはずなのだから。

 「紫織ちゃん。頼りにされているじゃない」 安井ナナミ

 「でも、警察の不祥事と直結しているかもしれないから」

 「仁科さん。しばらく警察から出て来られないかも」 佐藤エミ

 「そんな」 仁科マイ

 「警察じゃなくて。ガードマンと見間違いなら問題ないんじゃない」 沢渡ミナ

 「とりあえず。DVDのコピーを四人で持っていれば安全でしょう」 紫織

 「さてと、仕事、仕事」 沢渡ミナ

 「紫織ちゃんは勉強ね」 安井ナナミ

 「げっ!」

 「とりあえず。昨日の続き、練習問題を片付けてもらうしかないわね」 佐藤エミ

 「エミちゃん、それだけ、頭小さいのに何で、頭良いの?」

 「それだけ脳を使っている比率が違うということじゃない」

 「携帯を頭に仕込める日がくれば、こんな苦労しなくても良いのに」

 「そうねぇ・・・」

 「何もしなくても人と携帯で話せて、テレビを見れて、音楽が聴けて、勉強しなくても答えや資料が分かるの。良いでしょう」

 「紫織ちゃんが、そういう研究をしないと誰もやらないでしょうね」

 「そんなに頭良くないよ」

 「ニューロンやシナプスの神経回路と脳に埋め込んだ携帯を双方向で正確な電気信号に変えるだけよ」

 「???? 難しいの? それ」

 「携帯に脳内物質を埋め込んだら独裁政治も出来るよ」

 「それ、怖すぎる」

 「だったら地道に勉強しなさい」

 「わたしは、何したら良いかな?」 仁科マイ

 「・・・わたしと一緒に勉強する?」 紫織

 「・・うん」

 仁科マイにとって未知の世界だった。

 沢渡ミナと佐藤エミが第八号の編集で議論し、

 安井ナナミと二人のアルバイトが印刷製本で仕事をこなしている。

 そして、中心になるはずの紫織が黙々と学校の勉強。

 「仁科さん。親に怒られなかった? テスト受けなかったこと?」

 「怒られたけど・・・怖かったから」

 「そう・・・・」

 「・・・あの時、あの警察官が、わたしが見ていた窓の方を見ていたような気がしたから」

 「見られたんじゃないんでしょう」

 「・・・・でも、気のせいかもしれないけど、見張られるような気もしたし」

 「ふ〜ん」

 まっとうな中学生は、殺人事件に関わらない、

 とはいえ、中学生の殺人、殺害の報道はある。

 そして、今回は、微妙に関わっていて、

 古賀シンペイ、中山チアキ、鹿島ムツコ、仁科マイは、証言できるほど近くにいた。

  

  

 仁科マイの登校、三田先生は喜ぶことになった。

 紫織の中学一年の内申書は、たぶん、良いはずだ。

 仁科マイが角浦紫織のグループに入ると平均美人値が上がり、

 紫織は不利になった気がする。

  

 午後になると楠カエデと榊カスミが古本屋に来る。

 問題は、最悪の方向に向かおうとしていた。

 婦警が調べたこところ、事件当夜、警察官の巡回はされておらず。

 交番の当直は、3人とも派出所にいたことが確認される。

 「じゃ マイちゃんがウソを言ったということなの?」 紫織

 「ええ、三人とも交番で、一緒にいたと証言しているの」

 「だから、仁科の言ったことがウソか、誤認になってしまうわね」 楠カエデ

 「そうですか・・・・」

 「刑事課は、仁科マイを一度疑ったこともあるくらいだから」 楠カエデ

 「まさか」

 「基本的に殺人事件では、殺人可能な人間を全員疑うの・・・」

 「それから、被疑者を消去法で減らしていく」

 「仁科マイもすぐに被疑者から外されたけど」

 「仁科がウソを言っているように思えないから・・・・」

 「もう少し調査して見る必要があるわね」 楠カエデ

 「警察官の格好をして、事件当夜、現場付近を歩いていたなんて怪し過ぎるから」 榊カスミ

 「その交番のお巡りさんの写真を貸してもらえたら。わたし、仁科さんに聞いてみるから」 紫織

 「・・・それが良いわね」

 「それが確認された後、どちらにしても警察で証言してもらうことになる」 楠カエデ

 「トリックは解けたんですか?」

 「まだみたい」 楠カエデ

 「はぁ〜 警察も、なにやってんだか」

 「ははは」 楠カエデ

 「探偵さんも入っているんでしょう」

 「大きな事件だから入っているんだけど」

 「刑事課も面子を潰されたくないから情報管制中」 楠カエデ

 「一般市民の支持があると思えないけど」 紫織

 「あはは、ごめんね」

 「警察組織を守るという生存本能みたいなものもあるから。セクト主義ね」 楠カエデ

 「・・・まあ、分かるけど」

 紫織も古本屋を守るためなら、少しくらいの不正くらいするつもりだった。

   

  

 婦警たちが帰ると。

 安井ナナミ、佐藤エミ、沢渡ミナが来る。

 仁科マイが見た警察官が交番の警察官でないことが分かると安井ナナミが興味を示す。

 「青木ケイゾウの事件も事件の夜、近くに不明の警察官がいたみたい」

 「交番の警察官じゃない警察官」 安井ナナミ

 「偽警察官?」 沢渡ミナ

 「本物のお巡りさんと、ぶつかりでもしたら、大騒ぎになるじゃない。それに目立つし」 紫織

 「偽警官2人。大規模な犯罪組織が動いているのかな」 佐藤エミ

 「偽警察官の同時多発殺人事件?」 紫織

 「じゃ 印刷工場で首吊りした五里コウゾウは?」 佐藤エミ

 「変態おやじか・・・・」 紫織。嫌悪感

 「変態はともかく。結構、しっかりした人みたいよ」

 「うちにも、多額の寄付をしてくれていたから」 安井ナナミ

 「どういうこと?」

 「思想的に右翼的な人なのよ」

 「父親が “彼がいなくなると静かになるだろうな” って、残念がってたし」

 「そういえば中央官僚を辞職させられた。堀セイゾウも右翼的な人よね」 佐藤エミ

 「な、なんか、怖いことが起きているんじゃない」

 「ねぇ・・・じゃ 青木ケイゾウは?」 沢渡ミナ

 「南興建設会社の社員だっけ。良く分からないけど南興系自体は、右翼的よね」 佐藤エミ

 「じゃ 左翼と右翼の権力争いなの?」 紫織

 「いまどき、右翼左翼の権力闘争で殺人事件なんか起きないわよ」 佐藤エミ

 「それは、どうかな・・・」 安井ナナミ

 「なに? あるの?」 佐藤エミ

 「結構ね。最近、犯罪が多いでしょう」 安井ナナミ

 「うん」

 「右翼左翼の事件が少しくらい紛れ込んでも分からないのよ」

 「うっ そういう話しがあるの?」 紫織

 「ほとんどの場合は、表に出ないんだって」

 「でも、たま〜に、お父さんと幹部が将棋しながら “あれは、あれだろうな” とか言っているし」

 「そういうの分かるんだ」

 「今回のなんか、かなりそれっぽいみたいでピリピリしているの」

 「“うちの島で、もめごと起こした連中がいるかもしれない” って」

 「“どうせミスリードさせられるだけだ” って」

 「ほら、ミカジメ料・・・用心棒代ね。取っているのに揉め事起きると信用失墜」

 「島ごと、ほかの組に取られちゃったりとかするし」

 「上位組織に口実を与えると付け込まれるし」

 「じゃ 組織犯罪?」

 「・・・・底が見えないみたいで、はっきりしないみたい」

 「本当は、遺産目的の虚偽誘拐殺人」

 「首吊り自殺に見せかけた、恋人を寝取られた男の殺人」

 「自動車による飛び込み自殺に見せかけたリストラの復讐殺人かもしれないし」

 「そうよ、右翼や左翼を弱体化させるためだけの組織犯罪なら」

 「殺人じゃなくて合法的に個人を破滅させるとかよ」

 「ほかにも弱みを掴むだけで身動きさせなくして、目的を達成できる」 佐藤エミ

 「確かに、もっと、行方不明とか、スマートな方法をとるはずよね」

 「殺人なんて危なすぎるもの」 安井ナナミ

 「行方不明と殺人とどう違うの?」 紫織

 「死体が見つからないと行方不明。死体が見つかると、殺人事件」

 「あと身代金を要求すると誘拐事件」

 「普通、プロは、捕まらなくてすむ、行方不明を選ぶわ」 安井ナナミ

 「・・・・・・」 紫織

 「でも、連続殺人事件ならともかく」

 「トリック付きの同時多発殺人事件なんて偶然じゃなければ、組織犯罪としか思えない」 佐藤エミ

 「危険を冒して、そんなことする意味ないんじゃ・・・・」 安井ナナミ

 「・・・なんか、二人とも、会話が怖すぎる」

 「・・・さて、仕事、仕事」

 安井ナナミがそそくさと製本機械のところに行く

 「・・・さて、勉強、勉強」

 佐藤エミが練習問題をパラパラめくる

 「げっ!!」

  

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第23話  『あれもこれも、あっちもこっちも』

第24話  『勉強しなきゃ』

第25話  『トライアングル殺人パズル事件・・・解決?』

登場人物