月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第27話 『若葉マークの探偵団』

   

 “こもれび”探偵団

 シンペイの特技のお陰で探偵らしい推理物に挑戦できるようになると。

 警察からも注目される。

 飾りとしか役に立たないだろうダウジングロッドを持った古賀シンペイと、

 当てずっぽうで真相に近づいていく角浦紫織のチグハグな中学生カップルが、

 難事件を解決していく。

  

  

 秋野ヨウヘイ (23歳)

 お金持ちの息子が殺人事件に巻き込まれ犯人にされていた。

 角浦紫織と古賀シンペイは、弁護士から状況を聞く。

 深夜

 秋野ヨウヘイ23歳は、援助交際をしていた朝井ヨシミ(18歳)を町で引っ掛けてホテルへ。

 そして、翌日

 朝井ヨシミは、刺殺死体となっていた。

 秋野ヨウヘイは、慌てて逃げ出したが、途中、監視カメラに撮られ。

 他に容疑者らしい人間はいない。

  

 現場

 「子供の出る幕じゃないんだがな」  刑事A

 「久しぶり。刑事さん」  紫織

 「最後にあったのは、小学校六年だったな」

 「弁護士に頼まれたの」

 「・・・・それで、中学生になった。ヒーローとヒロインの出番になるのか」

 「とうとう、事件現場にまで、来るようになったとはね。睡眠針など持ってないだろうな?」

 「あはは」

 「へぇ〜 ダウジングロッドで犯人探しか、本当なんだ」 刑事B

 シンペイは、ダウジングロッドを持っていた。

 「ご無沙汰しています」 シンペイ

 「犯人は、秋野ヨウヘイしかいないんですか?」

 「・・・死亡時刻は、深夜2時から3時にかけてだ。部屋のカギは、かかっていたはずだ」

 「翌朝、7時12分に秋野ヨウヘイが目を覚ましたら」

 「ベットの隣で、朝井ヨシミが心臓を刺されて死んでいた」

 「慌ててホテルから逃げ出したところを監視カメラで捕らえられたのが7時20分」

 「秋野ヨウヘイは、5時間から6時間も死体といたことになるな」

 「他の被疑者は、3人」

 「マスターキーを持っている真内トモヒコと、カギを持っている木村ヨシオ、名取ユウコの二人だな」

 「ドアノブの指紋は?」

 「ないな。秋野ヨウヘイが拭いていったらしい」

 「バカな男だ。監視カメラに映っているのに偽装工作して逃げ出してしまうとはな」

 「では、資料にある人たちと、会っても良いんですよね」

 「・・・弁護士の立会いの下にしてくれ」

 「法定代理人の許可は貰っているんだろうな。面倒な手続きに巻き込まれたくない」

 「ええ」

 紫織は、資料を見せ、関係者と会いに行く。

 『シンペイちゃん・・・いないの?』

 合図を決めていて、

 犯人らしき人間に会うとシンペイが合図を送ることになっている。

 そして、一通り関係者を見て回っても犯人らしき人間と会わなかった。

 『いないよ』

 『秋野ヨウヘイは、犯人じゃないのね?』

 シンペイは頷いた。

 『カギは、閉めていなかったか。朝井ヨシミが開けたということかしら』

 『それとも窓から侵入したか』

 『3階だよ。それに窓から侵入できないって』

 『朝井ヨシミが開けたかもしれないでしょう』

 『なるほど』

 『最悪じゃない。朝井ヨシミの関係者を一通り会わないといけないわね』

 『それとも秋野ヨウヘイを恨んでいそうな人間』

 「ねぇ〜 刑事さんは、犯人を秋野ヨウヘイだと思っているの?」

 「・・・さあな。しかし、他にいなければ、秋野ヨウヘイが犯人だ」 刑事A

 「朝井ヨシミは、どこで麻薬を手に入れてたのかしら」

 資料から麻薬をやっていたことが、わかる

 「路上だろう」 刑事A

 「中学生の手に負えるとは思えないな」

 「例え、雑木林婦警やお金持ち、極道と手を組んでいてもね」 刑事B

 どうやら、雑木林婦警のアルバイトは、公然の秘密になっているらしい。

  

  

 紫織は、外に出ると朝井ヨシミの交友関係と秋野ヨウヘイの交友関係を調べさせ、

 無差別殺人の可能性があることからホテルの宿泊客を調べ、ホテル周囲を歩き回る。

 「駄目だな。証拠品も、人間も、ほとんど見ていない」

 「あれでは、犯人は捜せんよ」 刑事A

 「聞いた話しだと。隠していた遺産をすぐに見つけたそうですよ」 刑事B

 「ふん。犯人らしいのに案内させながら相手の顔色を伺い、宝物を見つけたに過ぎん」

 「今回は、そういう手は使えんよ」 刑事A

 「しかし、秋野ヨウヘイは、犯人と思えないのですが」 刑事B

 「俺も、そう思うが、他にいなければ犯人にされてしまうだろうな」 刑事A

  

 紫織は、朝井ヨシミと秋野ヨウヘイの交友関係を弁護士に聞いて、一人一人と会った。

 そして、シンペイは、犯人を見つける。

 秋野ヨウヘイの友人で借金がある野田ヒデオ (26歳)。

 体格の良い男だった。

 何か武道をやっているようにも見える、

 この際、殺人が可能なら老若男女を後回し。

 推理と言うより推認。

 弁護士を通じて、野田ヒデオから事件当日のアリバイを聞く。

 普通の人間に夜中の二時に何をしていたかと聞いて、

 アリバイがあると応えられるはずもなかった。

 ネットでもしていないのであれば、普通、寝ているはずで。

 寝ていたという。

 そして、弁護士を介して野田ヒデオに朝井ヨシミとの関係を聞いていく。

 「朝井ヨシミなんて、知らないよ」 野田ヒデオ

 「事件当夜は、どうしていました?」 紫織

 「寝てたよ」

 「ホテルに行ってませんでした?」

 「・・・なんだと・・・おれが殺したと思っているのか」

 「野田さんの後ろに、朝井ヨシミがいるよ」

 野田が慌てて後ろを見る。

 「じゃ またね・・・野田さん」

  

 「野田ヒデオがやったんですか?」 弁護士

 「あの慌て振りは、本物でしょう」 紫織

 「確かに・・・しかし、どうして・・・カギを持っている人間が犯人なのでは?」

 「だから、野田さんの後ろに朝井ヨシミがいるって」

 「本当に?」

 「あとは、証拠探しね。動機は、借金の踏み倒し」

 「たぶん、朝井ヨシミと交渉して、夜になって部屋のカギを開け、野田さんを引き入れたけど」

 「最初から朝井ヨシミを殺して秋野ヨウヘイを犯罪者にするつもりだったのよ」

 「警察は、秋野ヨウヘイか、カギを開けられる3人を疑っているんですよ」

 「警察と違って組織力も情報もないんだから」

 「それらしい人間を見つけて、カマをかけるのが手っ取り早いのよ」

 「確かにそうかもしれませんが・・・」

 「いえ、確かに野田の様子から怪しいのは事実ですね・・・」

 「しかし、どうして、野田ヒデオを怪しいと思ったんですか?」

 「企業秘密・・・じゃない。野田さんの後ろに朝井ヨシミがいるの」

 「・・・そうですか」

 紫織は、楠カエデ、榊カスミ、萩スミレ、佐藤エミ、安井ナナミに野田ヒデオと朝井ヨシミ。

 そして、殺された秋野ヨウヘイの関係を調べさせる。

  

  

 路上

 背広を着た中年がミニパトに背もたれしていた。

 そばで、榊カスミと萩スミレが駐車禁止の取締りをしている。

 「角浦紫織は、野田ヨウヘイを調べさせているようだが」 刑事A

 「・・・邪魔するとボーナス減らされますよ。稼いでいるんだから」

 榊カスミは、駐車違反切符を書き込む

 「どうして、野田なんだ」

 「・・・得意のデカの勘ってやつで、先に挙げないと恥をかくかも」

 「いま時、デカの勘なんて言ってるやつなんかいないだろう・・・」

 「っで、どうなんだ。野田と朝井。秋野を調べたんだろう」

 「何のことかしら。部下に調べさせたら良いのに・・・」

 「そんな余裕はない」

 「ふっ」

 「あの・・ダウジング・・・使えるのか?」

 「さぁ〜・・・新種のプロファイリングかも・・・」

 「ふっ・・・せいぜい、稼いでくれ・・じゃあな」

 刑事Aと刑事Bが離れていく

 「馬宮警部」

 榊カスミが敬礼する

 「・・・・」  答礼する馬宮

  

 「・・・むかつきますね。馬宮警部」 刑事B

 「広瀬・・・おまえ、野田に張ったりかまして見てくれ」 馬宮

 「・・・信じるんですか?」 広瀬

 「はったりをかませて様子を見るだけで良い。捜査方針を変えるつもりはない」

 「はい」

  

  レッカー中の路上

 榊カスミ、萩スミレ

 「先輩。紫織ちゃん。本当に名探偵になったのかしら?」 萩スミレ

 「天は、そんなに才能を与えたりはしないよ」

 「たぶん、ダウジングは、フェイクね」

 「被疑者がビビったところを付け入っているのよ。きっと」

 「へぇ〜 それって、わたしたちが教えた悪党の常套手段の一つじゃない」

 「実際に実績があればフェイクも信じてしまうのね。被疑者も」

 「もう、紫織ちゃんたら、いつの間にか稼ぎ頭になって」

 「秋野ヨウヘイは、野田ヒデオに酒の席で “援助交際している朝井ヨシミが良い” と話して誘導していた」

 「では、部屋のカギを開けたのは?」

 「たぶん、野田ヨウヘイに誘導された朝井ヨシミ」

 「何で、そんなことしたんだろう。何か利益があるのかな」

 「朝井ヨシミは、麻薬をやっていた・・・ということは・・」

 「安井組の出番ね」

 「安井組、麻薬から引いているから、どこまで迫れるか分からないけどね」

  

 古本屋

 紫織とシンペイが帰宅すると。

 シンペイは、ケイコ、チアキ、ヨウコに連れ去られる

 二年になっても、ケイコ、チアキ、ヨウコのシンペイ争奪戦が続いている。

 たぶん、4人とも、合気道という緩衝材で決定的な破綻を招かずに済んでいた。

 「お帰り。紫織ちゃん。良い情報と悪い情報の2つがあるよ。どっちを先に聞く?」 安井ナナミ

 「じゃ 悪い方を先に」

 「朝井ヨシミの使っていた麻薬は、プラムクィーン」

 「新型で今後、増加傾向が見込めるの」

 「安井組で関係者の2人が脱会させられたの」

 「それで、良いほうの情報は?」

 「野田ヒデオと朝井ヨシミがプラムクィーンで繋がった」

 「そして、魁市の三島組ともね」

 「そ、それって・・・」

 「戦争になるかもね」

 「うそ」

 「上位組織で和議できるか、調停が入るけど、面子があるから、落とし所が問題になりそうね」

 「これが、証拠の手帳。魁組の二人と安井組の二人」

 「そして、小田ヒデオと朝井ヨシミのラインが分かる」

 「朝井ヨシミが殺されたのは?」

 「たぶん、朝井ヨシミが致命的な失敗をしたか、抜けようとしたか」

 「この手帳を使っても良いの?」

 「ええ、元々、麻薬に手を出した時点で破門だから組員を守る義務無いし」

 「魁の2人をどうするかだけが、問題だから」

  

 角浦紫織がプラムクィーンの密売ルートの手帳を証拠として弁護士と一緒に警察に提示。

 野田ヒデオは、密売人として逮捕された。

 秋野ヨウヘイを殺人の罪で犯罪者にすることで借金不払いと。

 自分自身で麻薬を使ったバイヤーの朝井ヨシミの殺害を自白して事件が終わる。

 角浦紫織、古賀シンペイ、安井ナナミは、成功報酬を受け取り、

 規定に沿って、仲間と分配。

 テレビで、朝井ヨシミ殺人事件と秋野ヨウヘイの釈放。

 新型麻薬プラムクィーンと摘発の報道がされていた。

 こもれび探偵事務所は、報道されず、存在すらしていなかった。

  

  

 未成年が探偵事務所の代表をするわけにいかない。

 それでも、口コミで“こもれび”古本店の二階に来る依頼人は少なくない。

 こもれびの狐娘。こもれびの化け娘。

 そして、被害者の霊が容疑者に憑いているのが見える。

 という噂が広がったせいか。

 こもれびの魔女。

 こもれびのイタコ娘の名称が付け加えられる。

 角浦紫織に言わせると 「けっ!」 だった。

 

 遊歩道に桜並木が花開いている。

 客は、うんざりするほどいる。

 「花見か」 佐藤エミ

 「だれか、こもれびの聖女。こもれびの巫女。こもれび小町」

 「こもれびのユリとか。バラとか、言い広めてくれないかな」

 「なにが、こもれびの狐娘・・・化け娘・・・魔女・・・イタコ娘・・・」

 「わたしが沢木ケイコみたいな顔だったら。こもれびの天女だったのに・・・・・・」

 「広めてもいいけど、定着しないと思うよ」

 「ふっ」

 「死神とか、疫病神とかじゃなくて良かったじゃない」 安井ナナミ

 『際どいけどね』 ため息

 「ほら、足立クミコが来たら、化けてすぐに行くんでしょう」 佐藤エミ

 「化け娘・・・・・ふっ・・・スッピンで勝負したいよ〜」

 「スッピンでも大丈夫よ。紫織ちゃん」

 「聞いた。ナナミちゃん。いまの」

 「エミちゃんは、並みの女の子の苦しみって、分からないよね」

 「そう “また化けたのね” と視線を浴びても化けないといけない。並み女の子の気持ちよ」

 「来たよ・・・」

 佐藤エミが二階から遊歩道を歩く、足立クミコに手を振る。

 ・・・・・・・・・・・・・

 そして、足立クミコにリフォームされた紫織が脱力したまま、遊歩道に出る。

 サクラが咲き、人通りが増えていた。

 長椅子で、シンペイが沢木ケイコ、中山チアキ、鎌田ヨウコに茶菓子Aコースを振舞っている。

 シンペイがいくら稼いでいても、

 古賀家当主の命令で月に使えるお小遣いの上限を決められ。

 残りを貯金させられていたシンペイにすれば結構な痛手だろうか。

 足立クミコの手で角浦紫織と安井ナナミは化け、佐藤エミと遊歩道を散歩する。

 それでも土台の差で、一番美人は、佐藤エミだろう。

 そして、国谷ヒロコも、白根ケイと歩く。

 「紫織ちゃん。サクラは綺麗で良いんだけど、裏の仕事も入っているよ」 安井ナナミ

 「・・・でも、あまり、やっても。ミナちゃんに皺寄せが行くんだもの」

 「そうそう。わたしも、ミナちゃんも基本的に堅気なんだから」

 「ふん。人一倍。えげつない思考回路しているくせに」 安井ナナミ

 「・・・人の世の道を選択しているよ」 佐藤エミ

 「人の世の道というのは、なんでもありという意味ね」

 「一般的な人の世の道よ」

 「道理で腐敗していると思った・・・・・第13号は、まだなの?」

 「番号的に良いからって、時期外れの幽霊スポットでしょう。ミナちゃんは、悩んでいるみたいだけど」

 「ミナちゃん。怖がりだもん。だいたい、幽霊を題材にした詩なんて聞かないし」

 「妖怪スポットの方が良かったかな」

 「なんか、イヤ」

 「紫織ちゃん。主役だから」 安井ナナミ

 「ふん」

 「売れると思うんだけどな。古本屋の二階の化け娘」 安井ナナミ

 「芸人じゃあるまいし。そこまで身を落としたくない」

 そして、角浦紫織は、仲間と別れて三森ハルキと合流。

 久し振りのデート。

 「最近は、古賀と仕事しているの?」 三森ハルキ

 「・・・うん。シンペイちゃん。合気道が強いでしょう」

 「いざという時、役に立つし、隣同士だから便利で・・・」

 「でも、ケイコと、チアキと、ヨウコに断らないといけないから、意外と煩わしいの」

 「僕を呼んでくれても良いよ。合気道は、出来ないけど」

 「・・でも・・・シンペイちゃんなら置いて逃げても良いかなって思えるけど、三森君は、無理かな」

 「・・・な、なんか酷くない、それ」

 「あはは・・・・どっちに?」

 「いや・・・嬉しいような。悲しいような」

 「・・・・」 紫織

 「足手まといかな。角浦の役に立つ男になりたいな」

 「でも、何かあったとき、三森君の両親に性悪女みたいに言われたくないし」

 「古賀の両親は?」

 「両親の了解をもらっているの。シンペイちゃんの自由に任せるって」

 「・・・そうなんだ」

 「あれ・・三森君がシュンとしてる。初めて見た」

 「なんだよ。僕だってシュンとくらいするよ」

 「だって、見たことある人いないと思うよ」

 「そうかな」

 「・・そういう表情って良いかも・・・年上の女性にもてるよ。きっと」

 「別にもてたいと思わないけど・・・年上の女性にもてた方が良いんだ」

 「あ、ごめん、なに、言ってんだろう。わたしって・・・」

 「・・・・そういう風に僕に言える女の子も角浦だけだろうね」

 「あ、今日は、みんなとチーズフォンデュだから」 紫織 、誤魔化す

 「へぇ〜 楽しみだな」

   

  

 満開の桜。

 角浦紫織、沢渡ミナ、佐藤エミ、鎌田ヨウコ、

 足立クミコ、白根ケイ、国谷ヒロコ、沢木ケイコ、中山チアキ、

 古賀シンペイ、三森ハルキ、石井ショウヘイ、横井タケトの13人の大所帯でチーズフォンデュ。

 紫織の中学二年の春は、勉強で遅れ気味を除けば、なんとなく充実していた。

 「紫織ちゃん。シンペイ君に髪を切ってもらっているでしょう」 鎌田ヨウコ、絡む

 「えぇ!! 紫織。ずる〜ぃ!!」 中山チアキ

 「紫織ちゃん。どうしてそういう風に人を逆撫でするようなことができるかな」 沢木ケイコ

 「え〜 だって、いつもタダ読みしているから髪を切らせてみただけよ」

 「最初は、酷かったんだから」

 「酷い! 紫織ちゃんがシンペイ君の初体験を盗った〜!」 鎌田ヨウコ、泣き

 「か、鎌ヨ! ひ、人聞きの悪いこと言わないで。髪でしょう。髪!」

 「じゃ・・次、わたし」

 中山チアキ、手を挙げる

 「駄目! わたし」

 沢木ケイコ、両手を挙げる

 「なに言ってんのよ。わたしに決まっているでしょう」

 鎌田ヨウコ、立ち上がる

 素人に髪を切らせるというのは、勇気が必要で、その点、3人とも、勇敢だろうか。

 「どこが良いんだか」

 「ふっ アイドル行きを蹴って、ここにいるくらい。良いのよ」 沢木ケイコ

 「わたしだって、断ったんだからね。アイドル」 中山チアキ

 「一度、言ってみたいわ。そのセリフ・・・」

   

 こもれび商店街最大の集客が見込めるサクラの開花。

 古本店も大きな利益を上げていた。

 この時期は、せせらぎ商店街も太刀打ちする気がないのか休みを取る店も多い。

 そして、このサクラの時期が終われば駅ビルの再開発が行われ。

 隣の古賀理髪店も改装が行われることになっていた。

   

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

   

 その日も紫織は、佐藤エミに勉強を教えてもらう。

 勉強にかける意気込みはともかく。

 投資に対する回収率の悪さは、佐藤エミをして “火の車ね” と言わしめる。

 そして、古本店の二階に依頼人が来る。

 弁護士で結婚相手の素行調査。

 この手の仕事は、雑木林三人組婦警にやってもらい。

 佐藤エミと安井ナナミが支援した。

 元々、紫織は、受付業務が仕事。

 それが、名前ゆえか、犯罪絡みの依頼が増え、

 雑木林三人組は、アップアップ状態。

 仕方がなく、豪族系の佐藤エミと極道系の安井ナナミの支援を受けて解決。

 元々、弁護士や興信所の主流ネットワークから外れている裏家業。

 しかし、実績と解決率が高まると、弁護士や興信所からの払い下げ仕事が舞い込む。

 古賀シンペイのオーラが見える、

 という素晴らしい特性が分かると紫織はシンペイを引き抜いてしまう。

 そして、実質、名探偵としての地位を確立してしまい。

 さらに有利な条件で仕事が舞い込む。

 ダウンジングロッドを使う探偵とか、

 被害者の霊が見える探偵とか

 虚飾された噂が一人歩きし、差別化が成功していた。

 もちろん、それでも表向き興信所や弁護士のネットワークに加盟していない。

 裏家業でも、未成年に探偵をやらせて良いわけがない。

 事故でもあれば依頼した興信所や弁護士も、ただでは済まない。

 それでも仕事が入る。

 そして、時間が空いたときは、当事者に会いに行く。

 紫織は、シンペイを誘うと学校の帰りに調査する。

    

 喫茶店

 小池サワコ(24歳) 銀行の職員で身堅く、

 堅実、才色兼備で、お金持ちのお眼鏡に適った女性。

 そして、彼女の前に座っているのが鮫島ヨシアキ(28歳)。お金持ちの長男坊。

 「どう思う? シンペイちゃん」 紫織

 「女性の方は、良いんじゃない」

 「でも、男の方は、止めた方が良いかもしれない。病気しているよ」

 「・・・本当に?」

 「お腹が黒ずんでいるような気がする」

 「ふ〜ん。依頼人は、男の方なんだけどね」

 「男の方は、知ってて黙っているのかもしれない」

 「じゃ ただ、子供を生むための相手って事かな」

 「彼女は、知らないみたいだけど」

 「むかつくわね。お金持ちって言うのは・・・・酷いの? 癌?」

 「それは、分からないけど・・・」

 「病院に行けば良いわね。そうすれば、比較できるから。だいたい分かるでしょう」

 「・・・どうするの?」

 「鮫島家の妻としての権利が保障されるのなら黙っておくつもり」

 「女性もお金持ちだからって、不用意に結婚した責任があるもの」

 「それで良いの?」

 「この手の仕事をしていると幸せなうちに死別も、悪くないと思うもの」

 「嫌いになって憎み合う旦那と子育てで生きていくより」

 「死に別れた愛する夫の思いでを抱えて生きていく方が幸せかもしれない」

 「お金持ちの鮫島家が妻の権利を保障するのならね」

 「子供を生んで、ポィってこともあるんだ」

 「金の力で何でもされるとむかつくのよね」

 「あの女性が子供を取られて、それで良いのなら良いけど」

 その後の調査で鮫島ヨシアキが病気を知らないことが分かると、

 婚約者と一諸に人間ドックに行くことを勧める。

 鮫島ヨシアキは、初期の小腸癌が発見され。手術を受けて完治。

 2人は、予定より、時期を遅らせ、結婚することになった。

 そして、紫織が “彼のお腹を念入りに” と診査医に言ったことが依頼人に伝わると評判になる。

 「良かったね」 シンペイ

 「結婚生活が上手く行けばね」 紫織

 「上手く行かないの?」

 「ふっ 離婚率が4分の1を超えているのに。なに甘いこと言っているんだか」

 「潜在的な別居夫婦を除けば、結婚の成功率は半分よ」

 「半分か・・・むかしから、かな」

 「たぶんね」

 「ねぇ 紫織ちゃん。このダウジンロッド。かっこ悪くない?」

 「そうかな?」

 「こんなの持ち歩くの・・・なんか間抜け」

 「じゃ 水晶の振り子みたいなやつがあるけど」

 「使い方、知らないよ」

 「ダウジングロッドだって知らないでしょう」

 「いや、分かる」

 「わかる?」

 「なんとなく反応が分かる」

 「じゃ 水晶の振り子も慣れれば使えるかもしれない?」

 「さぁ」

 「便利な男ね。シンペイちゃん」

 「紫織ちゃん。なんか女親分みたいだ」

 「うっ! いかん、いかん」

 「まあ、いいか、あの事件のとき助けてくれたから」

 強姦未遂事件後のカツアゲの事だった。

   

 ある日の、こもれび古本店の二階

 紫織は、中間調査報告書を依頼者に渡した。

 素行調査、浮気調査、企業調査、失踪人探索の順で多く、

 今回は、失踪人探索。

 ネット仲間に北海道に呼び出された後、

 ネット仲間とケンカ。

 その後、行方不明となったところまで・・・・

 「追跡調査は、範囲を広げていますから、もうしばらくお待ちください」

 紫織は、報告書を見ながら言った。

 「そうですか。随分早いですね。よほど良い専門家をお持ちで」 弁護士

 「はぁ ありがとうございます」

 弁護士が出て行くと、

 紫織は、ため息まじりに昼食の準備に取り掛かった。

   

  

 そして、その専門家がパソコンの修復。

 秋葉系キャラ服とリュックを背負った男がパソコンの前に座り。

 楠カエデが、ムッとしたようにソファに掛けていた。

 通称、電車マンは、楠カエデのストーカーで捕らえられた男。

 ネット世界の住人でウィザード級 “Bファントム” と呼称され、超がつくほどの達人。

 紫織が見るとBファントムは、開いた口が塞がらないタイプの男性で、

 彼に比べれば古賀シンペイや石井ショウヘイもオタク度レベル1だろうか。

 彼が悪いというわけでなく、住む世界が違い過ぎて接点がないだけ。

 榊カスミと萩スミレは面白がり。

 楠カエデは、人身御供的に付き合いを強要されている。

 いまの時代、ネットや携帯抜きに仕事が出来るほど甘いものではなかった。

 パソコンが使えない人種は、一般的な評価で程度の低い人間。

 酷い言われようだと原始人に見られてしまう。

 というわけで、楠カエデは、ストーカー男と付き合わなければ、探偵事務所の運営が不可能。

 それほど仕事が多いともいえる。

 楠カエデが青春を犠牲にしたお陰で、

 こもれび探偵団は、雑多な依頼をこなしていく。

 現代の企業の多くは、電脳世界のウィッチ級、マジシャン級、ウィザード級と、

 特殊電脳技術を持った希少逸材を確保。

 維持するため、どれほど負担を強いられているだろうか。

 電脳世界の妄想回路で変換された彼らの価値体系は、常人の理解の範疇を超えている。

 しかし、彼ら職人技がなければ採算が合わないことも事実。

 紫織が料理を作ってテーブルに並べる。

 彼が、いなければ古本屋家業も、小旅行本も裏家業も機能停止。

 紫織は、人格的に問題があっても茂潮にオベッカを使うつもりでいる。

 受身な企業であれば干してしまいたいところだが、紫織は、受身ではなかった。

   

  

 昼食が済んで。

 「茂潮さん。パソコン、直りそうですか?」 紫織

 「・・・・・もう直りました」 茂潮カツミ

 「はやい」

 「こ、これ、と、とても、美味しかったです」

 「そうですか、いつもお世話になっているのに、挨拶できなくてすみません」

 「い、いや、そんな。ゆ、有名な、す、角浦紫織さんに、し、食事を作ってもらえるなんて」

 「それも、こ、こんなに美味しいなんて」

 茂潮カツミは、感動する。

 「有名かな」

 「ええ、も、もちろんです」

 「す、角浦紫織のプロフィールも、う、裏の、ホ、ホームページにありますから」

 「げっ!」

 「裏家業も表に漏れ出しているし、公然の秘密になりかけているわね」 楠カエデ

 「うぅ 表に出ているのは、わたしだけなのよね」

 「損はしないわよ。認めなければ、良いんだから」

 「だけどね〜」

 「テレビでも言ってたじゃない “わたし、そんなお金、知りません” って」

 「げっ!」

 「どこに行ったかわからない、お金のお陰で犯罪組織に逆襲できたんだけどね」

 「・・・・・」 紫織

 「どこに行ったのかな。ウン千万円・・・」

 警察は、犯罪組織の行方不明者が、ウン千万を隠したと考えていた。

 「さぁ〜」 紫織は惚ける。

 「まあ、いいけどね。おかげで受付してもらっているし」

 「あはは・・・・あのう・・・茂潮さん」

 「コンピューターで、何か必要なことあったら教えてください。こうした方が良いとか」

 「・・・あ・・そ、そうですね・・・ウ、ウィルス対策は、つ、常にしておいた方が良いと思います」

 「あと、データの保存と・・・」

 「????」 紫織。意味不明

 「・・・と、とりあえず。ウ、ウィルスが、は、入ってもデーターだけは、ま、守れるようにして、おきましたから」

 「添付ファイルは、開かないことですね」

 「あ、ありがとう。茂潮さん」 おべっか、おべっか。

 「さ、茂潮。終わったら、帰るよ」

 「あ、茂潮さん。デートの邪魔して、ごめんなさい」

 「な、な、なんてこと言うのよ。そ、そんなんじゃないからね」

 「茂潮さん。女を釣る時は、宝石よ。ダイヤ。それと花束」 紫織、ガッツポーズ

 「し、紫織ちゃん、何てこと言うのよ」

 「ほ、本当ですか? じ、じゃ 楠さん。プ、プレゼントさせてください」

 ムッとする楠カエデ。

 期待する茂潮カツミ。

 「紫織ちゃん。あんた〜 カスミやスミレと同じ様なこと考えているでしょう」

 この男と楠カエデがくっついてくれれば、コンピュータは安泰で調査も楽だった。

 「み、みんな。ぼ、僕たちのことを、み、認めてくれるんですね」

 「し、仕事仲間だもの、な、仲良くすべきよ、本当に。あは、あは」

 「この、おやじ娘!」

 例えどんなにキモイ、オタクでも、茂潮カツミを失って、

 前近代的な職場環境を送るわけにはいかない。

 “いやなら、代わりを連れて来い” だ。

  

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第26話  『副業は・・・・探偵』

第27話  『若葉マークの探偵団』

第28話  『事件だ。事件だ』

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