月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第28話 『事件だ。事件だ』

 淀中二年B組

 紫織は、ぼんやりと黒板を書き写す。

 聞いている間は、なんとなく分かっても、あくまでも、なんとなくだ。

 実際にテスト問題を前にすると、頭に入っていないことが明白になる。

 「うぅぅ・・・エミちゃん。わたし、もう駄目、置いていって」

 「紫織ちゃんを置いていくなんて、出来ない。がんばって!」

 「でも、このままじゃ エミちゃんも・・・」 紫織、泣き

 「・・・麗しい。友情だな・・・角浦、佐藤・・・・」

 「ちょっと、角浦。いまの英語でやってみろ」 武藤タケオ

 「え〜」

 「ほら、言ってみろ “エミちゃん。わたし、もう駄目、置いていって” だ」 武藤タケオ

 「え〜 Put・・Put・・ me・・・no・・・do’t・・・no・・have・・・not・・・me・・・throw・・?・・」 赤っ恥。

 紫織は、学校の授業に付いていけなくなっている。

 シンペイにさえ差を付けられ、落ち込みも酷かった。

 休み時間に佐藤エミが補足してくれていたお陰でなんとか赤点を取らずに済んでいた。

  

 保健室

 葉山ミチコが書類を書いている

 「参った・・」

 紫織がよろけるようにイスに座る

 「大変ね。中学二年生も」

 「葉山先生。勉強をしようとすると動悸が激しくなって、胸が苦しくなるの」

 「それで、意識がね。散漫になってくるの。病気かな?」

 「・・んん・・・ストレス性の・・・病名は、勉強嫌いね」

 「薬は、何かあるの?」

 「そうね・・・角浦さんが、それを発明できたら、ノーベル賞貰えるわよ」

 「なんかな〜 やる気が起きなくて」

 「角浦さん。養護院行き断って働いているんだもの」

 「勉強に意識が行かなくても、しょうがないけどね」

 「だって、先生も勉強しろって言うし」

 「当然でしょう・・・でも、仕事で生かせる時だってあるし、勉強して損はないよ」

 「わ、分かっているけど・・・・」

 「角浦さんは、お金持ちなんだから、言わなくても分かるか」

 「それほどでも、ないけど」

 「勉強すれば、それだけ可能性が広がる。あとは、それを活かせるかどうかよ」

 「うん」

 「・・・そうだ。角浦さん。私の弟を連れ戻して欲しいんだけど」

 「・・・・・」 紫織

 「依頼よ。裏家業の・・・・・」

 依頼の内容は、暴走族に入っている葉山ミチコの弟シゲキ (19才)の救出だった。

 つまり、暴走族から足を洗わせること。

 葉山シゲキは族の幹部の一人で引っ張り出そうとしても無理。

 しかし、安井ナナミや佐藤エミは、ニヤリと微笑む。

 「なに? 担任の先生や両親が暴走族のところに殴り込んで・・・って。いうのと違うの?」

 「ふっ ドラマじゃあるまいし」 佐藤エミ。嘲笑。

 「無駄な精力を使うことないでしょう」

 「もう一つ、暴走族の・・・なんだっけ “紅蓮” の依頼がきていたよね」 安井ナナミ

 「奪われた小室スーパーの売上金378万の返還」 佐藤エミ

 「ついで、仕事ね」 安井ナナミ

 「上手く行きそうなの?」

 「大丈夫。シナリオが少し変わるだけだけど・・・一石二鳥だから」 佐藤エミ

 「・・・エミちゃん。この手のシナリオ考えている時って、かなり目が怖いよ」 安井ナナミ

 「ふっ」

 「本当は、小旅行プログラムを考えるより得意なんでしょう」 安井ナナミ

 「ふふ・・ふふ・・・ふふふ・・・・・あははは・・・」 美人は怖かった。

   

  

 三日後

 暴走族“紅蓮”は、内部抗争の末、崩壊。

 佐藤エミは、族内部の軋轢を利用し、葉山シゲキを孤立させ、

 中傷誹謗だけで族を空中分解させる。

 そして、抗争中に安井組が介入。

 いつの間にか、バイクや金目の物が消えてなくなる。

 その後、交通課が “紅蓮” を包囲殲滅。

   

 翌朝。

 安井組に拉致されていた葉山シゲキは、公園で目を覚ます。

 葉山シゲキは、暴走族に絶望して家に戻る。

 「・・・・車が9台、バイクが45台で1500万か」

 「経費を差し引くと、結構な利益になったわね」 佐藤エミ

 「30万で暴走族一つ潰してしまう。佐藤って本当に女子中学の二年なの?」

 「うちのおやじが “大幹部にするから来ないか” って」 安井ナナミ

 「まさか・・・角浦組だもの」

 「げっ! それだけはやめて、やば過ぎる」 安井ナナミ

  

  

 放課後の学校、保健室

 「角浦さん、ありがとう。弟のシゲキが戻ってきた」 葉山ミチコ

 「・・たぶん、族には戻らないと思う」 紫織

 「族ごと壊滅させるなんて。かなりドギツイわね」

 「内部分裂だから。更生する人間も多いかも」

 「・・・車とか、バイクがたくさん、消えたそうだけど?」

 「ほ、ほら、必要経費って、色いろ、あるから」

 「まあ・・平和になって、良かったけどね」

 葉山ミチコが封筒を紫織に渡す。

 「あはは・・はは・・はは・・・・」

 紫織は、封筒のお金を数える。

 「・・・・・・確かに」

 「紫織さんから、社会勉強を教わろうかしら」

 「あはは・・はは・・はは・・」

 「あくどい、お金は、受け取らなかったんじゃないの?」

 「わたしは、今回、仲介料しか受け取っていないから」

 「結構、組織的なのね」

 「それなりに」

 「それくらい、たくましければ、少しくらい点数が低くても大丈夫よ」

 「ありがとう」

   

  

 警察署

 馬宮、広瀬

 「ったくぅ 警察を利用して暴走族を壊滅させ、荒利を得るとは、とんでもない連中です」 広瀬

 「いや、内部抗争を始めた時点で “紅蓮” は終わっていた」

 「どうせ、強姦、強盗、恐喝やら、ろくでもないことばかりやっていた連中だ」

 「安井組もいい加減腹を立てていたんじゃないか・・・」

 「しかし、安井組らしくない方法だがな。普通は、力業を使うはず」

 「紅蓮は、仲間内の万引き、恐喝、暴行中の写真ばら撒きで不信感を募らせて」

 「自然崩壊は、珍しい現象ですからね」

 「そんな暴走族など聞いたこと無い。下っ端に対して、やるならともかく、幹部同士で・・・・」

 「内部抗争を誘って自滅させるのは・・・らしくない」 馬宮

 「そういえば、手際が良かったですね」

 「大型トラックで、ほとんどのバイクをもって行きましたからね」

 「車も、あっという間に流されて交通課も気付きもしない」

 「堅気に手を出しているわけでもないから、どうということはないがね」

 「しかし、1000万から2000万は、安井組に入っているのでは」

 「まあ、交通課が最後に出張って、とどめを刺したようなものだから、世間の評判だけは良いが」

 「ですが噂では、こもれびの探偵団が動いていると」

 「どうも、あそこの娘3人を仲介にして、安井組と佐藤豪族が、結んでいる可能性はあるな」

 「しかし、暴走族はともかく。タダの殺人事件を、いきなり本星に向かっていく」

 「さらに麻薬密売ルートを潰して解決されると、こっちの立場がないな」

 「麻薬絡みだと公安も出張るし」

 「まじめに推理し過ぎたのでは」

 「ふん。どうせ、安井組の情報に決まってる」

 「ですが麻薬は、安井組も、佐藤財閥も気付いていなかったと」

 「信じられん。裏があるに決まっている」

   

  

 トライアングル殺人パズルを解決した角浦紫織を利用し、

 交通課の雑木林婦警三人組がアルバイトで始めた探偵家業。

 当初は、浮気調査、素行調査など楽をして利益を上げようとしたところ、

 犯罪関連の割合が多く、もてあまし気味だった。

 それを救ったのが、佐藤豪族の娘、佐藤エミ。安井組の娘、安井ナナミ。

 あっさり解決されていく事件。

 しかし、さすがに未成年者にこの種の仕事を回せるはずもなく。

 弁護士、興信所のネットワークから外れ、裏ネットワークで依頼が入る。

 そして、オーラが見えるという古賀シンペイがアルバイトで入ると、

 苦手だった本格派推理物を解決。

 さらに仕事が舞い込む。

  

  

 資産家の身内を殺害してしまうのは、非常に危険で警察ばかりでなく、探偵まで動く。

 そればかりでなく、暴力団まで動いて闇から闇へと葬られてしまうこともある。

 金持ちケンカせずでも、金持ちにケンカを売るのは、致命的に不味いことだ。

 そして、資産家の一人息子が刺殺されると、

 田んぼが一枚売られ、こもれび探偵事務所の扉が叩かれる。

 裏家業の場合。

 アルバイトに 「家宝の、のらくろを見せて欲しい」 と言うのが依頼の合言葉になっていた。

 そして、時価ウン万円の “のらくろ” のマンガ本は合言葉にされ、売るわけにいかず。

 こもれび古本店の二階に鎮座していた。

 40代の夫婦が事務所に来る。

 紫織が被害者の名前を聞いて驚いたのは、それが大友シゲルだったことだ。

 奈河小元六年一組と淀中の一年D組の同級生。

 いまは、二年になってC組になってクラスが分かれた。

 しかし、資産家の一人息子と知らなかった。

 マニュアルにしたがって必要な項目を尋ねていく。

 「あ、あのう、大丈夫でしょうか?」 婦人

 「不安でしたら、ほかの探偵事務所を紹介しましょうか?」 紫織

 ほかの事務所を紹介しても紹介料が入る。

 興信所や探偵事務所、弁護士でさえ得意不得意があり。

 余裕があるとき、近場で、ほかを紹介するのも珍しくない。

 そして、中学生だと、実力を疑われてまで引き受けるつもりはなかった。

 実のところ、お小遣いも溜まったことだし、この辺りで真っ当に生きようかと・・・

 「あ、いえ、こちらで、お願いします」 夫人

 必要な項目が書かれていく。

 カメラで2人の様子が映された。

 その後、楠カエデ、榊カスミ、萩スミレや佐藤エミ、安井ナナミの眼に入る。

 殺されたのは、深夜の繁華街の裏通り。

 刺殺。

 基本的に部外者は、現場から締め出される。

 そして、今回は、探偵の仲間内に弁護士がいないため、

 警察からの情報も制約される。

 それでも、交通課の雑木林婦警とBファントムからの情報。

 佐藤豪族、安井組からの情報が集まっていく。

 紫織がシンペイと一緒に現場に行くと

 警察官が何人か残っていた。

 テレビで見るような、紐が人形を作っている。

 調査状況が気になる犯人が野次馬に紛れ、見にきている可能性もあった。

 知らぬ中でもなく、事前に買った花を添える。

 紫織、シンペイも緊張しながら見渡す。

 「シンペイちゃん。どう?」

 「悪いのは、かなりいるけど。犯人は、いないみたいだ」

 「ふ〜ん。大友シゲル君。死んじゃったんだ。バスケット。一番上手かったのに・・・」

 「うん」

 「何で夜中にこんな街中にいたんだろう」

 「店は全部閉まっているはずだし、家に帰る途中だったか、どこかに行く途中だったか」

 「うん」

 「検死が終われば、葬式だから行かないとね」

 「うん」

 「でもね・・・恨んでいる人間が元二組と三組の生徒」

 「その関係者か・・・うちに依頼したのも、それか・・・・へこむな・・・」

 「うん」

 「シンペイちゃん。へこんでる?」

 「うん」

 シンペイは基本的に友達が少ない、

 バスケットで一緒にがんばった仲間が殺されたのは、どういう気持ちだろうか。

 「おや〜 角浦紫織。仕事かな〜」 馬宮

 「刑事さん」

 「古賀君。ダウジングロッドは、使わないのか?」 広瀬

 シンペイは、紫織が買ってくれた。水晶の振り子を取り出した。

 「ほう。替えたのか・・・何でも、良いのか?」 頷くシンペイ

 「やっぱり、フェイクか。種明かしは何だ」 馬宮

 「企業秘密よ」

 紫織が、シンペイを引っ張っていく

 『シンペイちゃん。能力のことは黙ってて』

 『この業界、情報が知られると致命的なんだからね。爪は、絶対に隠さないと駄目よ』

 どこぞのスーパーヒーローの様に能力をひけらかすわけに行かない。

 「うん」

 シンペイは、無口だが聞かれたことに応える性格だった。

 「おっと、2人とも事情聴取を受けてもらおうかな」 馬宮

 「任意なら、イヤよ。法定代理人を通してもらうから」

 「情報交換なら?」

 「そ、それなら良いかも。その代わり、2人一緒だからね」

 「なるほど・・・」

   

 

 取調室、

 紫織とシンペイは、検死報告書と大友シゲルの携帯の記録を見せられ、

 大友シゲルの質問をされる。

 そして、大友シゲルが刺されて死んでいる写真を見ると、

 紫織とシンペイは、すぐに目を背ける。

 佐藤豪族や安井組から携帯に送られてくる情報の一部を伝えて情報交換。

 互いに出し惜しみしているのか、等価交換の折衝が続く。

 「で、わたしたちも、疑っているんだ」

 「そりゃ 安井組とつながりがあって」

 「その気になれば、闇から闇に人を葬り去ることが出来る角浦紫織と」

 「合気道の達人の古賀シンペイ君だからね」

 「闇から闇は、死体も発見されないということじゃない。殺人にならないわね」 紫織が毒づく

 「ははは・・・そうだな・・確かにそうだ」 広瀬が笑う。

 「死亡推定時刻が、夜の11時30分以降、って」

 「普通の中学生は家にいるでしょう」

 「アリバイは・・・・」

 「その日、佐藤さんと安井さんといたかな、泊まったから」 紫織

 「古賀シンペイ君は?」 馬宮

 「中山さんを家に送ってた」

 「・・・ところで、犯人探しは、どうやっているんだ?」

 「本当に被害者の霊が見えるのか?」 広瀬

 「・・地道なリサーチ。基本ね」

 「じゃ 霊が見えるというのは?」

 「刑事さんも脅しで使うでしょう・・」

 「それで、自首させるんでしょう」

 「子供がやる方が効くのよ・・・・」

 「・・・・・・・」 馬宮

  

  

 大友家の葬式。

 同級生や親戚が集まってきていたが犯人らしい人物は現れない。

 「シンペイちゃん。それらしいのは、いない?」

 「いないよ」

 紫織は、参席者の名前に線を引いていく。

 紫織とシンペイは、大友シゲルの部屋に案内される。

 綺麗でも汚くもない部屋。

 「シンペイちゃんの部屋より、まともね」

 「僕の部屋の方が普通だよ」

 「・・・お人形さんが増えてない?」

 「茂潮さんがくれたんだ。いい人だな・・・」

 「・・・・」

 一般的な中学生男子の部屋と言える。

 「・・・調査は、進んでいますか」 大友コウゾウ

 「ええ、情報は集まっています」

 「やはり、あの日、夜中に外に行った理由は、思い当たりませんか?」

 「元々、夜遊びする子じゃなかったので・・・・・」

 「本当に?」

 「・・・一ヶ月くらい前から、週に一度くらいは遅く帰ってくるようになったがね」

 「なにか、思いついたことはありませんか?」

 「いえ、あの、虐め事件の報道と淀中のことで思いつめていた・・・くらいでしょうか」

 「最近は、言われなくなってきているので、喜んでいたんですが」

 「大友君は、一度、学校から戻って。何も言わずに外に出て行ったんですよね」

 「ええ、夜に帰ってくるだろうと思っていたもので」

 「この部屋も警察が一度、調べたのですが、これというのはなかったと思います」

 「携帯を見せてもらいましたが誰かを呼び出したり、呼び出されたりした節もありませんでした」

 「警察は、偶発的というか、衝動的な事件だと考えているようですけど」

 「・・・・あの子では、元一組の上川ユウタ」

 「・・動機だけなら十分ですね」

 「いまは、緑中に行っているはずです」

 「知ってますよ。たぶん、警察も調べると思いますから」

 もう一人、白根ケイもそう思っているはずだ “死ねば良いと”

 彼女は、望みがかなって喜ぶだろうか。

 どんなに不毛だと説得されても、恨みが消えるわけではない。

 紫織も、両親を轢き殺した人間が死ねば良いと思っているクチだ。

 しかし、本当に死んで喜ぶだろうか。

 なんとなく、恨みを抱えたまま、失望するような気もする。

  

 警察の捜査でも上川ユウタは、動機あり、

 家にいたという家族だけの証言は、アリバイ無しとされる。

 そして、大友シゲルを刺殺したナイフは、突き刺さったままだった。

 物証から足が付くはずが市販品で良く売れているものだった。

 指紋がなく、そこからの追跡は困難。

 現場百篇という鉄則は、推理力の乏しい紫織にとって気休めでしかなく。

 オーラを見て犯人を見極める古賀シンペイの特性からもない。

 可能な限り、関係者と会って犯人の目星をつける。

 動機も、物証も、アリバイも二の次。

 いうなれば、百戦錬磨の経験で相手の表情や仕草で犯人かどうか分かるベテラン刑事の特性。

 それをオーラが見えるという、生まれつき才能でやっているのが古賀シンペイだった。

 さらに相手が眼光の鋭い大柄な刑事でなく。

 あまり警戒されない中学生。

 どれほど有利か、生かさない手はない。

 当然、相手を油断させるため、バカの振りをすれば、さらに効率が良くなる。

   

  

 せせらぎ古本屋の三階

 紫織とシンペイは、

 緑中学二年A組の国谷ヒロコと、C組の横井タケト、足立クミコから、

 事前にC組の上川ユウタの情報を聞く。

 「みんな “上川の呪い” って、言っているよ」 国谷ヒロコ

 「そう “生霊に刺されたんだ” って」 足立クミコ

 「・・・・・・」 横井タケト

 「よ、横井君は、ど、どう思うかな?」

 紫織、思いっきり怖がっていた。

 「バカくせ〜」 横井タケト

 「ご、ごもっともです」

 「なにビビッてるのよ。紫織ちゃん。気合よ、気合」 足立クミコ

 「え〜」 紫織。へなへな〜

 「なに?」 横井タケト

 「・・・あのう・・・上川君は、学校で、どうかな〜 って思って」

 「あいつ、大友が死んだって聞いて、すげぇ喜んでるよ」

 「同じクラスの同級生が、ちょっと、退いたって」

 「根暗な、晴れ晴れって感じだな」

 「あははは・・・」

 「あいつなら、陰に篭ってるから殺せる機会があるんなら。殺すだろうけど」

 「うん、なんか、不気味」 足立クミコ

 「・・・で、でも実行に移せるかよね」

 「大友シゲルがぼんやりと歩いて、上川がナイフを持っていたら、刺すかもな」

 「そ、それくらい頭にきているんだ」

 「淀中の小山ケンジは、どうなんだ」

 「そ、そうね・・・」

 「一度、思いっきり相楽リョウイチと大友シゲルをボコボコにしたから落ち着いているかもね」

 「へぇ〜」

 「シンペイちゃんが、やらせたんだよね」

 「・・・うん」

 「そういうのがあれば殺意まで行かないんだろうけど」

 「上川は殺すだろうな。機会があれば」

 「はあ。動機は、十分というわけね」

 「なあ。角浦。俺も探偵って、やらせてくれよ。面白そうだな」

 「・・・・じゃ 大友君を殺したかどうか、上川君に聞いてもらえる」

 「クミコちゃんは、その時の様子を隠れて携帯で撮影してもらえれば良いから」

 紫織は、5000円札を置く。

 「お〜」

 「しつこく聞かなくていいから。一言、聞いて、表情を映すだけで良いの」

 「すげ〜 探偵って儲かるんだ」

 「依頼人になったら泣きたくなるよ、きっと」

 「そうだろうな」

  

  

 せせらぎ商店街 遊歩道

 紫織、シンペイ

 「横井に頼まなくても良いのに」

 「まあ、何かあったときに物事を頼みやすいでしょう。先行投資よ」

 「横井。見かけほど凶暴じゃない。合理的なだけだよ」

 「そうなの?」

 「最初に威圧しておけば、ナイフを使わなくて良いと思っているだけだな」

 「まさか、横井君じゃないでしょうね」

 「違う」

 「上川の家を張り込むか」

 「うん」

 「ほかに大友シゲルを恨んでいるのは、いないかな」

 「北島」

 「北島は、弁護士が、ほかの県に仕事を見つけて、そっちに住んでるから」

 「事件のときも、そっちにいたし」

 「鉄道系事件って、ダイヤが、わかる人がいないと・・・・・」

 「佐藤エミ」

 「あ・・・・やってもらうか・・・」

   

 紫織とシンペイが上川家を張り込み、

 上川ユウタとその家族を見るが父親も、母親も、上川ユウタも、犯人でなかった。

 そこに二人の刑事が現れる

 「ほう。名探偵コンビが、ここで何をしているのかな」 馬宮

 「依頼があって」

 「いつも、いつも、出し抜けると思っているのか」

 「警察も、競争相手がいた方が、まじめに働けて良いと思って」

 「中学生の出る幕じゃない。相手は、殺人犯なんだ。殺されるぞ」 広瀬

 「ふっ じゃ 怖いから帰ることにする」

 シンペイが刑事に手を振る。

 紫織とシンペイが去っていく

 「・・・なんだ・・・張り込みは終わったのか。何しにきたんだ」 馬宮

 「・・・分かりません。まさか、夕食だから帰るっていうんじゃ」 広瀬

 「そんなものは、張り込みとはいわん」

   

 四日後

 淀中と緑中のバスケットの練習試合

 緑中相手に実力を出し切るのは、惜しいと口実を付けたのは紫織だった。

 そして、部員でもない古賀シンペイを割り込ませたのも、紫織のお金と手練。

 紫織は、バスケット部の臨時マネージャーとして、

 シンペイは、バスケット部の選手として、緑中に入る。

 緑中に来たのは元同級生で大友シゲルを恨んでいる人間がいるかもしれない、と考えたからだ。

 『どう? シンペイちゃん。いる?』

 『・・・うん・・・でも、少し違う感じ』

 シンペイは、学校の先生らしい40代の男性を見つめる。

 『あの・・・メガネかけた人? 思いっきり人が良さそうじゃない』

 「・・・んん」

 「・・・元同級生じゃないのか」 紫織、ホッとする。

 『なんで、先生が他校の中学生の生徒を殺す理由がるの? 動機は?』

 『分からないよ。なんか、違うけど、彼のような気がする』

 『取り敢えず。調べてみるか』

 紫織は、携帯で写真を撮る

 「ねぇ〜 ヒロコちゃん。あの先生は、だれ? あのメガネかけた人」

 「・・・笹村ヒロシ先生。音楽の先生よ」 国谷ヒロコ

 「ふ〜ん。どういう人?」

 「・・・良く知らない。ピアノは上手いかな・・・」

 「“むかしはピアノの大会に出てたんだぞ” って、自慢してたけど・・・」

 「“これが、絶対音階だ” とか、遊び感覚で教えてくれるから人気があるけど、40代に近いから」

 「ふ〜ん。笹村ヒロシ先生か・・・何か、変わった事なかった」

 「んん・・・3週間くらい前に3日くらい休んだけど」 足立クミコ

 「あっ! 一週間くらい前も、一日休んだよ」

 「そういえば、最近、ピアノ弾かないわね」 国谷ヒロコ

 「うん」 足立クミコ

  

  

 紫織は、携帯で婦警の楠カエデ、咲中の安井ナナミ、淀中の佐藤エミに連絡を入れる。

 バスケの試合は、淀中が緑中を押していた。

 情報が入ってくる。

 笹村ヒロシ39歳。

 学校では気さくで、人気のある先生でも、

 私生活は、飲む打つ買うの三拍子揃っていた。

 もう一つの顔は、刹那的で、無節操で、だらしない独身男。

 まじめそうに見えて、表面的に繕えば、学校の先生になれるのだろうか。

 そして、いまのところ、大友シゲルとの接点はない。

 「紫織ちゃん。シンペイ君、すご〜い」 足立クミコ

 シンペイがカットすると、すぐにドリブルで相手チームを掻き乱す。

 「喜んでたら。横井君に睨まれるよ。クミコちゃん」

 「だって、一番動きが良いよ。背が低いのに、弾丸みたい」

 相手チームのゴール下まで食い込んでいく。

 その後、ウサギと弾丸を掛け合わされて、古賀ラビリットと呼ばれるようになる。

 紫織には、シャカシャカ逃げ回るゴキブリに見えなくもない。

 「やっぱ。命の恩人はカッコ良くなくちゃ」

 「彼氏が睨んでるぞ」

 「だって・・・なんで、あんなにタフなの?」

 「確かにカッコ良いじゃない。モテるでしょう」

 「もうちょっと顔がよければ、なんでもありね」 国谷ヒロコ

 シンペイのカット。

 そして、ドリブルが試合の流れを変えていく。

 シンペイのパスが通って、シュートが決まり、点が入っていく。

 淀中は、ベストメンバーでなかったものの、逆に個性的な戦術が可能になった。

 シンペイが掘り出し物だったと、味方チームの反応を見ても明らか。

 切り札を隠すつもりが練習試合で切り札を出してしまったと、

 バスケットの顧問、浅原先生は、苦虫をかんだような表情をみせた。

 シンペイのカットと、流れるようなパス。

 緑中からも歓声が上がる。

 シンペイは、背が低いためにシュートやゴール下のせめぎ合いは苦手だった。

 しかし、それ以外では、最良の選手だろう。

 フリースローのゴールが決まって、さらに歓声が上がる。

   

 

 

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第27話 『若葉マークの探偵団』

第28話 『事件だ。事件だ』

第29話 『中堅の探偵だもん』

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