月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

 

第29話 『中堅の探偵だもん』

 こもれび古本店の二階

 テーブルに回転焼きとクレープがあって紫織、榊カスミ、安井ナナミがパクつく。

 笹村ヒロシの追加情報の中で、気になる内容が佐藤エミから入る。

 三週間前におやじ狩りに遭ったらしく、左手の感覚が弱って病院で治療。

 そして、一週間前に休んだ日の夜が大友シゲルが殺された日。

 大友シゲルと一緒におやじ狩りをしていた4人。

 相楽リョウイチ、大田シンゴ、三浦ノゾミ、林コノエが浮かび上がる。

 「ねぇ 紫織ちゃん。笹村ヒロシが疑わしいのは確かだけど」

 「彼が大友シゲルを追いかけていたような。素振りはないの」

 「たまたま、夜道で出会って犯行を行ったとしたら」

 「かなり偶然に頼らないといけないんじゃない」

 「それにナイフを持ち歩いていたのも変だし」 榊カスミ

 「一度、おやじ狩りに遭って、ナイフを持ち歩くようになったんじゃない」

 「問題は、偶然、夜中に加害者と被害者が出会ったとだと思うけど」

 「偶然に頼らないといけないのは無理があるけど。探偵小説なら落第よ」 榊カスミ

 「取り合えず。笹村ヒロシを調べたいんだけど」

 「警察は、上川の家族」

 「そして、事件当夜、合流するはずだった4人」

 「相楽リョウイチ、大田シンゴ、三浦ノゾミ、林コノエを疑っているの」

 「じゃ おやじ狩りをしようとしていたんだ」

 「ええ、結局、来なくて途中で殺されたみたいね」

 「残りの4人で、おやじ狩りをやったみたいだけど」

 「へぇ〜」

 「三浦ノゾミ、林コノエのどっちか、囮になって酔っ払いおやじに寂しい場所に引っ張りこませて」

 「そこで集団で襲うのが常套手段みたいね」

 「へぇ〜 あの二人が、ぶりっ子するんだ」

 「化粧をすれば、それなりに行けるみたいね。夜だし」

 「ふ〜ん」

 「仲間内で憎しみのようなものが芽生えて、やったんじゃないかっていうのが警察の方で考えね」

 「大友シゲルの殺された時間と親父狩りの時間帯が近いから」

 「親父狩りされたサラリーマンを探している」

 「じゃ そっちは警察に任せれば良いでしょう」

 「うちは、笹村ヒロシ。住み分け」

 「ねぇ〜 どうして、笹村ヒロシを疑ったのか、知りたいんだけど」

 「確かに調べた後は、加害者と被害者らしいけど。二人をくっ付ける発想に無理があるの」

 「大友シゲルの関係者だと思って、奈河小学校の上川が怪しいと思ったでしょう」

 「それで、元奈河小の生徒もいる緑中にも行ったの」

 「そこで、笹村先生が事件の翌日休んだのを聞いて」

 「調べさせたら三週間前、病院のカルテで、おやじ狩りの被害に遭っていたのが分かったでしょう」

 「そして、大友シゲルも深夜のおやじ狩りが分かる」

 「この二人が結びついたから調べる。おかしくないよ」

 「・・・笹村先生が怪しいと最初に思ったことに、無理があるような気がするけど・・・」

 「まあ、良いわ、その線でいきましょう」

 「警察とまともに競っても、勝ち目が無いし」 榊カスミが帰っていく

 『あんたも、警察でしょう』

 紫織の心の突っ込み

 「・・・確かに無理があるわね」 安井ナナミ

 「だって、大友シゲルが刺されている写真みたら、大友シゲルより背が高くないと・・・」

 「大人だよ」 紫織、顔をしかめる

 「うぅ・・・きもい」 安井ナナミ

 「また思い出した。ナナミちゃん。今日も一緒に寝てね」

 「もう・・紫織ちゃん。しがみついてくるから。怖がり」

 「だって、怖すぎ」

 「一人で、トイレにもいけなくなるわけ?」

 「だって、あんな写真見たら怖いじゃない」

 「探偵業は、向かないわね」

 「今度は、検死報告書を見ないようにしよう。特に写真」

 「仕事にならないじゃない」

 「じゃ 今度からナナミちゃんが見て、絵を描いてよ」

 「・・やだ。気持ち悪い」

  

  

 佐藤エミとBファントム茂潮カツミの組み合わせ。

 性格的に最悪なのに仕事内容でシックリといく。

 佐藤エミの計画に合わせて、

 電脳課の茂潮カツミが秋葉原で集めた部品で工作品を作る。

 それを安井ナナミの関係者が仕掛ける。

 笹村ヒロシのアパートに仕掛けられる霊現象装置は、指向性の音源をいくつか用意。

 共鳴を利用し、空中に不気味な声や音を出すものだった。

 さらにオーソドックスに夜にドアを叩いて逃げるピンポンダッシュ業も使う。

 数日後

 笹村ヒロシが怯えて部屋を出ると道路を歩いていく。

 どうせ、繁華街側に行くだろうと占い師に化けた榊カスミが待ち伏せていた。

 占い師(榊カスミ)は、にっこり笑いかけ。

 「・・・・」

 「・・・・」

 笹村ヒロシは、なんとなく惹かれるように見てもらう。

  

 水晶を占いだった。

 「死相が出ていますよ・・・」 占い師(榊カスミ)

 「ど、どうして、そう思う?」 笹村ヒロシ。動揺

 「人に恨みを買っていますね・・・」

 「恨みが原因で、金運、仕事運、恋愛運とも後退しつつあるようです」

 占い師(榊カスミ)は、直接言及を避ける。

 「・・・・・・」 笹村ヒロシ

 「賭け事は、才能がないので、やめた方が良いですね・・・」

 「酒も減らさないと病気に・・・なりそうです。胃と肝臓の調子は、どうです?」

 「・・・医者に胃潰瘍と言われていませんか?」

 調査済みの内容をぼかしながら、それでいて真実味を持たせられるように話す。

 「・・・悪い」

 「・・・あなたを恨んでいる人物・・・若いですね・・・」

 「高校・・・中学生・・・・背の高い少年ですね」

 「この若者も後ろめたい気持ちがあるようです」

 「・・・・・・」 笹村ヒロシ

 「この若者は、とても苦しんでいて・・・・」

 「あなたが・・・償いをするのなら・・・・仕返しをしないと言っていますね」

 「償い・・・」

 「とても、強い恨みを持っているようです・・・・」

 「これが原因で、寿命と運命が、閉ざされていきます」

 「償いをすれば・・・・寿命を保ち・・・運命が開けていきますね」

 「・・・そう、ですか」

 笹村ヒロシ、真っ青

 「1000円です。お役に立てましたか?」

 「・・・・」 笹村ヒロシは、黙って、お金を渡す

   

  

 その後、三日間

 霊現象装置を使い続けた結果。

 笹村ヒロシは、自首。

 紫織は、カメラで録画していた笹村ヒロシのビデオを大友シゲルの両親に引き渡し成功報酬を貰う。

 「自首させたんですか?」 大友コウゾウ

 「はい、偶発性が強い事件なので物証もなく」

 「推理ショーをやっても逃げ切るだろうと判断しました・・・」

 「出来れば復讐したかった・・・・」

 「お気持ちは分かりますが、大友君は、喜ばないと思います」

 「・・・ありがとうございました。息子も浮かばれるでしょう」

 笹村ヒロシは、警察で、深夜、偶然、前におやじ狩りをした大友シゲルと出会って、

 衝動的に刺したと自供した。

  

  

 こもれびの二階

 「シンペイちゃんのお陰ね・・・無事に解決」

 紫織は、成功報酬を分ける

 「本当の犯人は、上川ユウタだよ。あいつが笹村を誘導して大友を殺させたんだ」

 「どうやって?」 紫織

 「憎しみが無意識に働いたんじゃないかな」

 シンペイは、成功報酬の一部をポケットに入れる。

 「それ怖過ぎ」

 「好き嫌いに関わらず」

 「大義名分があっても自分から進んで、人から恨みを買わない方が良いね」

  

   

 理髪店のリフォームが完成。

 木目調の落ち着いた板張り、床面積が広く、集客性の高い理髪店。

 石井ショウヘイ、角浦紫織、沢木ケイコ、中山チアキ、鎌田ヨウコは、完成披露に呼ばれる。

 そして、沢木ケイコ、中山チアキ。

 「ったくぅ むかつくほど、綺麗よ。二人とも」 紫織

 沢木ケイコが黙々と玉子焼きを食っているシンペイに気付く

 「紫織ちゃんも、そこそこ、かわいいわよ」 中山チアキ

 「やっぱり、むかつく」

 「・・・紫織ちゃんの作った。玉子焼きもね・・・」

 「なんで、玉子焼きぐらい手抜きしようと思わないわけ」

 「少しくらい、わたしに花持たせても罰は当たらないでしょう」 沢木ケイコ

 「どれ・・・・ぅ・・・ダシ巻き卵」

 中山チアキは、玉子焼きを食べて顔色を変える

 「あっ・・・本当だ。ものすごく美味しい」 古賀カオリ

 「どれ・・・すごい美味いよ」

 「塩加減も良いしダシが効いているし、ちょうど良いとろけ具合だし」 石井ショウヘイ

 「紫織ちゃん・・・けんか、売ってるでしょう」 中山チアキ

 「違うって」

 費用対効果で圧倒する紫織は、主婦カオリを脱帽させる。

 「ふっ わたしのシーフードが玉子焼きに負けてる〜」 鎌田ヨウコが崩れる

 「か、鎌ヨのサラダも美味しいから」

 「シンペイ君。次は、わたしの蟹コロッケよね」 沢木

 「わたしよ!」 鎌田ヨウコ

 シンペイが母親を指差した。

 「わたしも・・・紫織ちゃんの玉子焼きに負けたのね」 カオリ、泣き

 紫織は、居心地が悪くなる。

 美味しいものを食べたいと思うのは人間の性だろう。

 当然、料理の上手い奥さんと一緒になれば、美味しい料理が食べられる。

 それは、綺麗な奥さんと一緒にいたいと思うのと、

 天秤に載せて比較して良い内容だろうか。

 さらに一人暮らしで掃除洗濯炊事の実績がある角浦紫織の評価は群を抜いて高い。

 沢木ケイコ、鎌田ヨウコは、ムッとし、

 カオリは、恥じる。

 中山チアキは、論外。

  

  

 その日、古本屋の二階

 佐藤エミと中山チアキが泊まる。

 シンペイの部屋の密室性が高くなり、心配気味の中山チアキが荒れる。

 「ちょっと、なんで、味が違うわけ」 中山チアキ

 「わたし、その本の通り作っただけだから」

 「古本のくせに生意気よ」

 「・・・まあ、まあ、かな。紫織ちゃんの玉子焼きより、かなり劣るけど」 佐藤エミ

 「だから頭にくるのよ・・・だいたい、ずる過ぎるよ」

 「中学生なんだから学力とか、顔とかスタイルで勝負しなさいよ。料理で出し抜くなんて卑怯よ」

 「ふっ 愛人型ね」 佐藤エミ

 「佐藤。あんたは、どうなのよ」 中山チアキ

 「わたしは、お金持ちで、コック付きだし」 佐藤エミ

 「だ、だいたい、料理なんて、いまどき作らないわよ」

 「弁当を買えば良いのよ。美味しいし」

 「一人で食べるときは、断然。弁当が良いよね」

 「限られた予算だと弁当の方が栄養バランス良いもの」

 紫織も認める。

 「そ、そうよ。その通りよ。弁当の方が種類も多いし、バランスが良いわよ」

 「だいたい、好き嫌いがあるかの問題であって」

 「“外食や弁当が偏って” なんて、頭の悪い女の方がいうのよ」

 「それで、彼氏の両親を説得できたらね。毎日、弁当だわ」 佐藤エミ

 「・・・・・」 チアキ

 「でも、今回のように持ち合わせになってしまうと不利よね」

 「芸能界に行こうかな〜」

 「行かないの?」 佐藤エミ

 「行ったら沢木にシンペイ君を取られそうだし、紫織ちゃんも油断できないし」

 「わ、わたしは、三森君の方だから」

 「でも、気が変わって “やっぱり、シンペイ君と〜” って、なったら?」

 「古賀家は、だれも反対しないでしょう」

 「ど。どうかな・・・結構、危ない仕事しているし」

 「危険な女って、男から見ると魅力かも」

 「中山さんも、かなり危険になってきてない?」 佐藤エミ

 「段持ちには、なったわね」

 「鎌ヨと、どっちが強いの?」

 「良い勝負かな。でも、暴力女じゃあるまいし、紫織ちゃんの危険と、比較にならないでしょう」

 「沢木さんは?」

 「まあ、弱いわけじゃないけど、護身用レベルね」

 「シンペイちゃんは?」

 「もう、神業よ。高校生とか、大学生相手で、やっているから」

 「へぇ〜 そんなに強くなっているんだ」

 「うん。強すぎ。わたしなんか、すぐに捻られちゃうし。心配だな、シンペイ君」

 「シンペイちゃんって、積極的に女の子を押し倒すタイプじゃないから」

 「沢木の方が、やるかもしれないじゃない」

 「あはは」

 「あはは、沢木さんが “わたしのものになれって” って、古賀君を押し倒すの?」 佐藤エミ

 「ないない・・沢木さん。結構、どぎつい性格だけど・・・それはないよ」

 「それにシンペイ君の部屋じゃなくて、リビングで教えるって協定、結んでいるんじゃないの」

 「・・・そうなんだけどね・・・・さてと、久し振りに紫織ちゃんの勉強を見てやるか」 中山チアキ

 「げっ!」

  

  

 こもれび名探偵の噂は、さらに評判になる。

 見かけを完全に裏切ってベテラン刑事の勘を持つシンペイと、佐藤豪族。安井組。

 そして、Bファントムと呼ばれる電子使いの茂潮のネットワークを持ち。

 国家権力を背景にした交通課の雑木林婦警トリオの活躍で成功率は高い。

 空いた時間を見て、推理物のマンガを読む紫織。

 シンペイのお陰で先に犯人がわかり、動機、証拠を集めていく方法は効率が良かった。

 だからといって、このままで良いといえない。

 かといって検死報告書を見て検分し、推理していけるほど無神経でもない。

 そして、交通課の雑木林トリオも、まともな推理が出来ると思えない。

 ふと、一人の顔が浮かぶ。

 茂潮カツミ。

 茂潮探偵・・・なんとなくカッコ良い。

 あのオタクに弁護士資格でも取らせて、

 現場に行かせて推理させれば、楠カエデも、見直して、くっつく気になって完璧。

 と妄想を展開させてしまう。

 だいたい、裏家業で探偵をやっているのに女子供しかいないという、

 あり得ない状況は、なんとしても打開すべきだ。

 経営者としての勘が働く。

 

 

 ストーカー被害の依頼が入る。

 費用対効果からすると、お金持ちだ。

 ストーカーから救われるのにも、お金がいるということだろう。

  

 第一段階

 ストーカーを発見する

 

 第二段階

 張り込んでいた婦警がストーカーをやめるように警告を与える。

 

 第三段階

 その後、ストーカー行為が続いた時、佐藤豪族の圧力を受けた上司が警告を与える。

 (または、会社にストーカーをしていることを証拠もつけて送ると警告)

 

 第四段階

 それでもストーカーが続いた時、

 Bファントムからウィルスが送られ、

 パソコンまたは携帯の画像に警告文が流れる。

 

 第五段階

 それでもストーカーが被害者に近づいたいとき、

 安井組の若い衆がアルバイトでボコボコ。

 ストーカーは入院する羽目になる。

 ほとんどの場合、第二段階から第三段階でストーカーは、あきらめて撤収する。

 それでも第五段階まで行く猛者もいる。

 この種の問題で、ストーカーが誰か分からない場合を除き、

 紫織、シンペイの出る幕はなかった。

  

  

 二年B組ホームルーム

 修学旅行は、京都。

 佐藤エミはムッとする。

 旅行プログラムの内容と費用の落差が酷すぎるのだ。

 いくら学習教育の一環でも内容が貧困すぎる。

 「・・・搾取ね」 佐藤エミ、ボソッ。

 「外国の方が良いの?」 白根ケイ

 「国内でも、海外でも、費用から得られる内容が乏しいの」

 「無駄な移動時間が多すぎる。1人6万円。150人以上の団体旅行がこれ?」

 「冗談。搾取するにも限度があるわ」

 「でも・・・南興系の代理店よ」 紫織

 「この内容だとせいぜい、1、9、8のパック旅行じゃない。バカにして」

 「どうせ、食事も手抜きに決まっているわね」

 「でもさ、修学旅行で持っているホテルって、多いんじゃない」

 「あ、あのう・・・一応、このプログラムで行こうと思っているんだけど・・・・」

 武藤タケオ。かなりやりにくい

 「学校は、いくら貰っているのかしら」

 「汚ねえぞ。先公! 本当かよ」 藤堂アキオ

 「先公っていうな!」

 「汚ねえぞ。先公!」 田城タクヤ

 騒ぎ始めるクラス

 「おまえら〜・・・分かった。上の方には、伝えるが、どうなるかは、分からんぞ」

 「先公 “俺に任せろ” とか言えねえのかよ」 鹿島ムツコ

 「サラリーマン先生には無理よ」 北野ヒロミ

 「お、おまえらな。修学旅行は、俺の担当じゃないんだから、簡単にはいかないんだ」

 「そこを捻じ曲げるのが渉外能力だろう。使えね〜な」 蓮間シンジ

 「とにかく、言っておくから」

 「よし、修学旅行の話しは、お終いだ。ちゃんとご両親に見せておくんだぞ」

 ブーイング

 二年B組の修学旅行に対する不信任は、学校を直撃。

 旅行代理店の修学旅行担当は、反発した生徒の名簿を見て絶句。

 三日後、修正した日程表プログラムが作られた。

 「ふっ 三・九・八か。落としどころね」 佐藤エミ

 佐藤エミの表現にB組教室は、不承不承に承認。

 旅行に対して専門知識を持っている者は、佐藤エミだけだった。

 事実、「三・九・八」と佐藤エミが見抜いた事が伝わると、旅行代理店の担当は、かなり焦る。

 問題は、修学旅行の利益が利潤の多くを占めるホテルが少なくなく。

 この時期の収入不足は、不渡り招く恐れがあった。

  

  

 この頃、こもれび探偵団の能力が高く評価されたのだろう。

 ハードルが次第に高くなり。

 行方不明者の捜索願が入る。

 どうやら、被害者が加害者を捜索したいらしい。

 ここで交渉に入る。

 殺人を犯して逃亡しているかもしれない隣人の捜索であり。

 警察に優先的に伝えるかどうかだった。

 依頼人は、最初ごねたが、こちらが依頼を断ろうとすると渋々、折れる。

 楠カエデが説明するとプロジェクターで映し出される映像が関連した人物を映し出される。

 テーブルの上には、サクラの焼印のついた回転焼きと、お茶がある。

 「2年前。養鶏業の古川カツノリ、35才の娘で、古川ノゾミ、7歳が自宅で暴行絞殺」

 「その日のうちに隣人の溶接工の山田クニオ、33才が行方不明となる」 楠カエデ

 プロジェクターを操作している茂潮カツミは、この部屋にいない双方向通信。

 テレビの警察ドラマで見るミーティングが黒板やホワイトボードを使っているのと違う。

 「山田クニオが犯人というのは事実なの?」 紫織

 「DNA検査の結果は、彼の暴行を証明している。形式上、被疑者と呼んでね」

 「山田家の妻サトミと娘ユキは、事件後、名古屋の実家に戻ったのね」

 「娘同士は仲が良かったのに・・・酷い」 佐藤エミ

 「もっと詳しい資料がないと、辛いわね」 安井ナナミ

 「警察の資料課には、あるんだけどね・・・」

 「当然、持ち出せないか」 安井ナナミ

 「当然」

 「あまり見たくない」 紫織

 「紫織ちゃん。怖がりだから」

 「その手の見ると、一週間ぐらい添い寝しないといけないから」 佐藤エミ

 「・・・確かに写真でも見たくないものが多いわね」 楠カエデ

 「あれ、交通課でもそういうの見るんだ」 安井ナナミ

 「一番、死んでいるのは、交通事故なの・・・見る機会もあるわよ」

 「おみそれいたしました」 安井ナナミ、敬礼

 「でも、これって広域調査が必要なんでしょう。ただの行方不明と違うから無理よ」 佐藤エミ

 「んん・・・そっち系の人が逃げ込む場所の方が限られているけどね」

 「日本中となると、やっぱり範囲が広いから。ここだっていうのがないと」 安井ナナミ

 「古賀君がダウンジングで調べられるって本当なの?」

 「刑事課で話題になったことがあるんだけど」 楠カエデ

 紫織は、注目される。

 「へっ? そういうのはあまり、当てにしないほうが良いんじゃないかな」

 「あのね。この種の依頼が来るっていうことは、そういう力を当てにしてのことなんだから」

 「ははは」

 「「「「・・・・・・・・」」」」 一同

 「取り敢えず、調査してみましょう」

 「だめなら、この種の依頼を受けないようにすれば良いわ」

 殺人を犯した人間が逃亡する場合。まったく、縁のない場所にいく。

 逃亡先に隠れ住んで食べていくとなれば、真っ当な場所は限られる。

 大都会に溶け込んで隠れる事が多い。

 佐藤豪族も、安井組も、地場有力者で奈河市の外に出ると、影響力は消えて行く。

 日本経済の上位の南興系、北奉系も、それだけで日本経済を語れるというものでもない。

 茂潮カツミがネット世界で山田クニオの人物像に炙り出しをかける。

 むろん、個人情報が一般ホームページに載っているわけもなく。

 調べている先は、役所、警察、銀行、法人の個人情報であり、

 見つかると、まず、処罰対象。

  

 

 こもれび古本店の二階

 シンペイがダウジングロッドや振り子を使って、

 写真を見ながら地図の上を行き来させる。

 「わからない」

 「やっぱり駄目か・・・地道に事件のあった近所を歩いてみるか」 紫織

 「なんか絶望的だね」

 「生体情報を組み込んだ国民総背番号制でも取らないと無理ね」

 「やったら良いのに」

 「プライバシーは、国家権力より上と思っている人は多いもの」

 「それに後ろめたい人も少なくないから・・・」

 「・・・山田クニオの妻サトミと娘のユキも生まれ故郷の加茂市じゃなく、奈河市に移り住んでいる」

 「じゃ 行くの?」

 「当然」

 「また、刑事さんが、いるのかな」

 「時効間近になれば刑事が張り込み始めるらしいけど」

 「いまは、巡回ルートに入っているだけだって」

  

  

 山田クニオの元。妻サトミと娘ユキを見つける。

 一時、実家に身を寄せた母娘も居づらくなったのか、

 奈河市のスーパーで働き、小さいアパートに移り住んでいた。

 「どう?」 紫織

 「違うと思うよ」 シンペイ

 「そう」

  

  

 数日後

 萩スミレの運転するマイクロバスに乗る紫織と、

 シンペイ、鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキ、佐藤エミ、沢渡ミナの8人。

 鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキの三人も、紫織とシンペイの遠出を許さなかった。

 仕方がなく、こもれび小旅行も兼ね、

 佐藤エミ、沢渡ミナも来ることになる。

 「道守村か・・・古墳でもあれば良いんだけどね」 佐藤エミ

 「期待薄?」 紫織

 「まあ、取材も兼ねてみるけどね。神社仏閣とも乏しいし、路線も貧弱だし・・・駄目ね」

 「シンペイちゃん。大もてね。このまま、無人島にでも行きたくなった」 紫織

 「別に・・・」

 「既に三人確保しているから、どうでも良いんだって」 沢渡ミナ

 「し、してないよ!」

 「ふ〜ん。まだ、してないのか〜」 安井ナナミ

 エンジンの調子が悪いのか、時々、余計にふかす。

 「せま〜い」 鎌田ヨウコ

 「ボロ〜ィ 無事につけるの〜?」 沢渡ミナ

 「マイクロバスじゃね」 沢木ケイコ

 「あんたたちね。本当なら、お呼びじゃないんだからね」

 「たまたま、わたしが大型免許持っていたから良かったけど」 萩スミレ

 「だってぇ〜 人の彼氏を連れまわすなんて、倫理道徳に劣るもの」 中山チアキ

 「はぁ〜 後からしゃしゃり出て来た。あんたが何で言うわけ?」 ヨウコ

 「運命かな〜」

 「てめぇ〜」

 「・・・ったく」 萩スミレ

 「ねぇ〜 萩ちゃん。どうして、大型免許持っているの?」 中山チアキ

 「暇潰し、大学の就職で役に立つと思って一通り取ったの」

 「へぇ〜」 沢木ケイコ

 「ほら、面接のときにも話題になるじゃない。それで、印象が良くなったりとか」

 「なんだ〜」 中山チアキ

 「あのね〜 高校卒業すれば、少しは、わかるようになるよ。生存競争というのがね」

 「ねぇ 殺人現場に寝泊りするの?」 佐藤エミ

 「殺された側の家が良いか、殺した側の家が良いかね」

 「空部屋は、あるけど。向こうにって決めたら良いし」

 「ふ〜ん」

 「結局、隣の山田の家と土地は、古川家の物になっちゃったのか」 安井ナナミ

 「しょうがないよ。ほとんど犯人確実だったんだから」 萩スミレ

  

  

 おんぼろマイクロバスは、山道を登って、人口100人に満たない道守村に入る。

 廃村に向かって、転がり込んでいるような農村だった。

 「ったく。どうしょうもない場所ね」 佐藤エミ

 「素敵じゃない。情緒があって、日本の農村って感じ」 沢渡ミナ

 「ここはね。二つの国道が大きく外側に迂回されている中間にあるの」

 「せめて、奈河市と加茂市を結ぶ定期バスの路線があれば、ここもこんな風にならないのに」

 佐藤エミが地図を見ながら呟く

 「でも落ち着くけど」 沢木ケイコ

 「人が住みたがらない場所で落ち着けるわけない。気晴らしで少しいるだけ」 佐藤エミ

 「・・ぅぅ・・・・シンペイ君といるところは、どこでも落ち着けるの」

 「沢木、離れろ」 鎌田ヨウコ

 「シンペイ君。川辺を歩こうよ」

 「いいから離れろ」

 「ちょっと、季節が早いけどキャンプも悪くないよね」

 村人のおじいさんやおばあさんが珍しそうにマイクロバスを見る。

 「言っとくけど、仕事組と遊び組に分かれるのは良いけど、仕事の邪魔をしないでね」

 「シンペイ君。邪魔しないから、一緒にいてね」 沢木ケイコ

 「だから離れろ!」 鎌田ヨウコ

 「はぁ〜」 萩スミレ

 

 

 

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第28話 『事件だ。事件だ』

第29話 『中堅の探偵だもん』

第30話 『ちょっと、本格的』

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