月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

 

第30話 『ちょっと、本格的』

 

 一〇時頃 山田家に到着。

 養鶏業の古川カツノリ (37才)。古川ユリコ (36歳)。長男のヨシト(1歳)が迎える。

 そして、室内に案内される。

 萩スミレ、角浦紫織、古賀シンペイ、佐藤エミ、安井ナナミ、

 沢渡ミナ、鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキ。

 8人が殺されたノゾミの仏壇に手を合わせる。

 「どうもありがとうございます。きっと、娘も、浮かばれるでしょう」 古川カツノリ

 「いくつか、調査をしますので、案内をお願いします」

 「一応、記録はとらせていただきます」 萩スミレは、デジカメを見せる

  

 山田家の室内を歩く4LDK、古い感じの家で、

 娘が、殺されていた部屋に入ると沈痛な表情を見せる。

 「あの日、娘は、学校から戻って食事をしたあと眠っていたと思います」

 「わたしと妻が隣の養鶏場で仕事をして、妻が先に戻ったのが夕方の5時過ぎでした」 古川カツノリ

 「妻が真っ青になって戻ってきて、わたしが家に戻ったとき娘が殺されていたんです」

 「お父さんが家に戻ったのは?」 萩スミレ

 「すぐだったと思います」

 「何か・・気付いたことは?」

 「いえ、いつもと変わらない一日だと思っていたのに・・・」

 「あとは、警察に連絡して・・・そ、それからの事は・・・よく覚えていません」

 「山田クニオとの関係は?」

 「うちも、山田家も、よそ者なんです」

 「家が6年前、山田家が5年前。この村に引っ越してきたんです」

 「お互いよそ者同士でしたから、仲良くしていたと思っていたんですが・・・」

 古川カツノリは、友人から裏切られた特有の雰囲気を見せる。

 「山田クニオは、ここに引っ越してきた理由を言っていませんでした?」 萩スミレ

 「前は、加茂市の方に住んでいたそうです」

 「“田舎に住みたかった” とか言って、毎朝早く家を出て夜遅く帰っていたと思います」

 「事件の日は?」

 「その日は、会社の創業記念とかで休んでいたと聞いています・・・」

 「山田の妻と娘は街に買い物に行ってたんです」

 「夕方に戻ってきたとき。車が消えて行方不明になったそうです」

 「車は、奈河市に乗り捨てられていたそうですね」

 「ええ」

 「外部犯だと、この村に入ってくるときに目立つから、そういう証言があるはずだけど」

 「あの・・・今でも山田クニオがやったと思っていますか?」

 「・・・信じられないですが・・・・証拠があるので」

 「なにか、気付いたの?」

 「意外と、気が弱そうな人ね」 紫織

 「・・・確かに・・・・・流れからすると・・・家族を捨てて、逃げ出したとなると・・」

 「そういう一面は、あるかも」 萩スミレ

 「溶接工の他に何か、ありますか? 趣味とか」 紫織

 「・・・自然志向でしたからね」

 「趣味といっても・・・酒も、タバコも付き合い以外では、やらなかったですし」

 「賭け事も好んでいなかったと思いますね・・・・日曜大工か、農作業ですかね」

 「飲む、打つ、無しか・・・面白みがないわね」 安井ナナミ

 「いや、あったら、苦労するって。ナナミちゃん」

 「じゃ 買う。愛人でもいれば、そこから探せるんだけど」 佐藤エミ

 「・・・聞いたことはないですね」

 「隣の部屋を見ても良いですか?」 萩スミレ

 「ええ・・・でも警察が持っていった物もあるし」

 「家族が持っていった物もあるようです。あとほとんど、入っていないので」

 隣の部屋は、ほとんど使われておらず。家具の一部は残されている。

 慌しく夜逃げにように引っ越していったのだろう。

 それでも、掃除されていた。

 「あのう・・・紙切れとか、ゴミのようなものは?」

 萩スミレ

 「ああ、一応、ビニール袋に入れて、捨ててないようにしています」

 「でも警察が持っていった物もあるので、本当にゴミですけど」

 古川カツノリは、部屋の角を指差した。

 「あのプレハブは?」

 紫織は、庭の一角にある建物を指差した。

 「ええ、養鶏場が軌道に乗って、収入が安定したので家を建て直そうと思って」

 2つの家から離れた場所には、養鶏場の大きな建物があった。

 「結構、お金持ちなんですね」 佐藤エミ

 「元々、農業高校出身で養鶏場で働いていて・・・宝くじが当たった機会に独立したんです」

 「そうなんですか・・・警察の方は、山田の奥さんと娘さんの方を張っていると思いますので」

 「こちらは、可能性の高い場所をピンポイントで捜索すると思います」 萩スミレ

 「大丈夫ですか? 女子供ばかりのようですが」

 「実績で、判断してください」

 「噂だけは聞いています。犯罪事件絡みの成功率が高いと」 古川カツノリ、疑心暗鬼

 『いまのところね・・』 紫織

 その後、証拠品を項目別に集める萩スミレ。

 そういう目で見れば、ゴミは、ヒントの集まり。

 髪の毛一本、指紋一つで犯罪が立証されることがあり、

 全てを確認することが出来なくても検挙率が上がる。

 「紫織ちゃん。刑事課が殺人事件のためにいくらの経費を使えると思う」 萩スミレ

 「わからないけど」

 「刑事ドラマのように旅行会社と結託して」

 「観光地を好き勝手に行ったり着たり出来るわけじゃないの」

 「部署の予算は、決まっている」

 「探偵もね。経費を効率よく使おうと思えば頭を使わないといけないし、足を使わないとね」

 「犯罪心理学が発達したのも、人件費や固定費以外の予算が限られていたからよ」

 「確かに腐るほどお金があれば検挙率は上がるし、犯罪自体、起こしにくくなるわね」 紫織

 「そういうこと。本当は、身内に密告させられるだけの予算があれば、楽なんだけどね」

 「・・・わたしたちは、村を見て回って良い」

 「・・・ええ」

 「行こう。シンペイちゃん」

 昼食後、紫織とシンペイは、レンタルの折りたたみ自転車で農村を走る。

 養鶏場を除けば、何もない農村。

 バスの路線も、この村まで来ない。

 電化製品が、あっても、自給自足で外に出て行く事は少ない。

 養鶏場の卵の出荷を除けば、外の世界にとって存在価値のない農村といえる。

 佐藤エミの言う通りだった。

 これでは、江戸時代と変わらない。

 閉塞した社会になぜか違和感を覚える。

 農村のあぜ道を二台の自転車が走る。

 時折、すれ違うおじいさんやおばあさんが珍しそうに見つめる。

 「どう思う? ここ?」 紫織

 「・・・分からない」 シンペイ

 「分からないって?」

 「オーラの感じが少し違うんだ」

 「えっ! なに? 悪い話し」

 「むかし、なんか、悪いことがあったんじゃないかな。村の人たちが、みんな似ている」

 「なに? 集団で殺人? 八墓村とか?」

 「そんな気がする」

 「それって怖くない?」

 「かなり昔だと思うよ。何十年も前」

 「・・・それで、積極的に外と交わろうとしないわけね」

 「そんな気がする」

 「・・・そういえば、なんか、雰囲気が馴染めないかも」

 「街は、ここより悪い人たちもいるけど、雑多で、ごちゃごちゃしている」

 「ここは、なんか、みんな同じ感じだから・・・・」

 「ノゾミちゃんの事件と、関わりはありそう」

 「・・・直接は、ないと思うよ」

 「オーラが見えても犯罪の詳細は、分からないか」

 「うん、殺人とかだと、オーラが黒っぽくなって減ってしまうから」

 「そう」

 「だから、人を何人も殺す、騙す、盗むって、自分自身の命を削っているような。感じ」

 「ふ〜ん・・・戦争とか大変だよね」

 「戦争は、少し違うみたい」

 「大義名分があると減り方が少ないような気がする。心理的なものが大きいのかも」

 「そういうの分かるんだ」

 「最近は、テレビを見ても、なんとなく分かるから」

 「・・・そ、そういう能力、強くなっているの?」

 「うん・・合気道が強くなっていくのと同じ感じで、分かるようになっていく気がする」

 「へぇ〜 すごいね」

 「ひょっとしたら将来は、師範とかでもやっていけるかもしれないって」

 「そうなんだ。すごい・・・・でも、先生とか出来るの?」

 「自信ない」

 「・・・シンペイちゃんって、先生という雰囲気じゃないよね」

 「うん」

 「でも、自他共に物凄く強いのが分かれば、先生は、他の人にやってもらえば良いよ」

 「そ、そうかな」

 「・・・シンペイちゃん。社会性ないから、信用できる人に任せるのが良いかもね」

 「紫織ちゃんは、信用できる」

 「え〜 彼女にやって貰えば良いじゃない。三人もいるんだから」

 「ははは」

 「なに、信用できないの?」

 「紫織ちゃんが、一番頼りになる」

 「あのね〜 か弱い女の子に何てこというのよ。人が聞いたら誤解されちゃうじゃない」

 「ははは」

 「ったく・・・でも・・オーラで信用できる人と騙そうとしている人は分かるんでしょう」

 「・・・なんとなく」

 「だったら、大丈夫よ。わたしもそういう能力があれば、随分助かるんだけどね」

 「紫織ちゃんは、大丈夫だよ。そういう人間を遠ざけているから」

 「・・・というか、未成年だから契約不能よ」

 「ふ〜ん・・・どこ行くの?」

 「廃校と郵便局。交番かな。あと店。お寺とお墓もあるか」

 紫織は、ビデオを撮り続ける。

  

  

 紫織とシンペイは、夕方に戻ると、

 鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキに思いっきり疑惑の目で見られる。

 「・・・な、何も、ないよ」 紫織。ぼそ。

 夜食後。

 少し時期が早いが花火で遊ぶ。

 ノゾミちゃんの遺影が照らされて、喜んでいるようにも見える。

 女の子が7歳で犯され、殺されて、喜べるようなことがあるだろうか。

 父親の古川カツノリ。母親の古川ユリコが微笑み。

 長男の古川ヨシトが喜んでいるのは、なんとなく救いだった。

 一通り大型の花火が終わると線香花火が増える。

 「少しは弔いになるかな」 安井ナナミ

 「気休めにはなるかも。酷すぎるもの」 佐藤エミ

 「いやなことがあっても綺麗なものを見れば気も晴れるよ」

 二度も、そうなり掛けた紫織にすれば他人事じゃなかった。

 運が良かったというより、用心していたお陰だった。

 「でもさ、ここ、寂しくない?」 沢木ケイコ

 「あれ〜 沢木。気に入ったんじゃないの、ここ」 中山チアキ

 「星は綺麗だけどね。周りがこれだけ真っ暗だとね。ちょっと怖いよ」

 「暗くなったら寝る。これが自然よ」 鎌田ヨウコ

 

 

 寝場所で多少のゴタゴタがあった。

 山田家、古川家の両方で寝る空間だけは、十分にある。

 ここで得た情報の一部をメールで仲間に送る。

 紫織、萩スミレ、佐藤エミ、安井ナナミは、横になって寝る。

 「怪談しま〜す」 佐藤エミ

 「えぇ〜 止めようよ」 紫織

 「むかし、ババ捨て山がありました・・・周りの山で〜す」

 「うっ!」

 「戦後、ドサクサで起きた。小作農たちの大地主一家虐殺事件」

 「げっ!」 紫織

 「その跡地が、この山田家と古川家で〜す」

 「ちょっと、エミちゃん。止めてよ〜」 紫織、泣き

 「し、紫織ちゃん。そんなに引っ付くと熱いから」 萩スミレ

 「わ、わたし真ん中で寝る」

 紫織が真ん中に移動する

 「シンペイ君は、大丈夫かな」 佐藤エミ

 「うふ、沢木ちゃんと、中山ちゃんと、鎌田ちゃんと、沢渡ちゃんか、シンペイ君、楽しいだろうな」 萩スミレ

 「ていうか、拷問・・・」

 「シンペイ君が一人で寝ようとしていたのを無理やり引っ張り込んでなに考えているんだか」 安井ナナミ

 「信用できないのよ。自分が寝ている間に誰かに出し抜かれないようにしているだけ」 佐藤エミ

 「じゃ だれとでも好きなだけ〜 きゃー! シンペイ君」 萩スミレ

 「いや、全員と〜」 佐藤エミ

 「「「きゃー!」」」 一同

   

  

 翌朝

 全員が、なんとなく寝不足。

 奈河川に流れ込む支流のひとつで道守川とでもつけるのだろうか。

 シンペイ、鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキ、

 沢渡ミナ、佐藤エミ、安井ナナミは、清流で川釣りをする

 紫織と萩スミレは、養鶏場の中を歩く

 「どう? 紫織ちゃん」

 「かなり因縁めいたところだけど・・・村自体は、直接関係ないと思う」

 「そうか・・・じゃ かなり、手間取るわね・・・」

 「証拠品は乏しいし」

 「たぶん、思い入れの強そうな場所は、警察が当たっているはずだし・・・」

 「でも、佐藤ちゃんの言ったことが本当なら村人のウツ反応は、十分に納得がいくわね」

 「警察は、知らなかったんだ」

 「戦後すぐよ。警察なんて、まともに機能してない時期」

 「村人全員で隠せば、どうにでもなるもの」

 「はぁ〜 悪代官の末路か」

 「人望がないと怖いということね」

 「仮に人望があっても、戦中戦後の狂気に触れたら、十分、対象になるかもね」

 「ノゾミちゃん事件と同じ様なことも起きたのかな」

 「ありえるわね。家族皆殺しなら」

   

  

 そして、たいした証拠も挙げられずに加茂市へと移動する。

 ここで、萩スミレと沢渡ミナ、佐藤エミ、安井ナナミ、

 沢木ケイコ、鎌田ヨウコ、中山チアキが奈河市に戻る。

 そして、榊カスミが紫織とシンペイと合流。

 加茂市の山田クニオが勤めていた溶接工場に行く。

 バチバチと火花が飛び散っては、消えていく。

 榊カスミが保険会社の社員ということで、工場の人に山田クニオの事を聞いていく。

 『・・・あの人がやったんだ』

 シンペイが工場で働いている一人の男性を見て紫織に呟いた。

 「へっ!」 紫織。わけがわからず、呆然。

 30代前半の男性。

 おとなしそうなタイプで、女の子を暴行するような人間には見えなかった。

 『シンペイちゃん。犯人は、山田クニオでしょう』

 『あの人が、人を殺した。それは確かだよ』

 『だれを?』

 『ノゾミちゃんを殺したのは山田クニオでしょう。DNA鑑定でわかっているんだから』

 『でも・・・人殺しって、結構、珍しいよ』

 『別の人じゃないのかな・・・』

 『・・そうかな・・・・』

 「一応・・・洗ってみるか」

 紫織は、その男の映像をカメラに撮る。

 「そろそろ、行きましょうか?」

 「山田クニオの生家も行ってみないと」 榊カスミ

 「榊おねえちゃん。山田クニオの仕事振りは、どうだったんですか?」

 「まじめな人で、ちょっと古い職人気質みたいなところもあったみたい」

 「あの人は?」

 「・・・あの人・・・・」

 榊カスミは携帯を見る

 「・・・名前は、緒方ヒトシ。山田クニオの下にいたみたいね」

 「なんか、山田は、上に調子よく、手下に辛く当たるタイプだったから、結構、嫌っていたみたいね」

 「・・・・・・・」 紫織

 「なに・・・気になるの?」

 「・・・な、なんか、インテリっぽいから」

 「た、確かに、溶接工にしては、知的な感じよね」

 「逃亡を手伝っているとか・・・ないかな」

 「まさか “嫌っている” って、言ったでしょう」

 「暴行殺人幇助の刑罰って、洒落にならないのよ」

 「・・・そうか・・・そうよね・・」

 話しがとっぴ過ぎた。

 そう、まともな思考回路で緒方ヒトシとノゾミちゃん事件が結びつかない。

 そして、遊んでいられるほどの経費はない。

 

  

 山田クニオの生家。

 長男坊が後を取っているのか、山田クニオの居場所はなかった。

 生家の家族が逃亡を助けている可能性もある。

 警察が被疑者の幇助に対する刑罰を家族に伝えているはず。

 逃亡の幇助は、犯罪だが盗まれたと言い張れば余ほどのことがなければ解からない。

 300万も渡せば、人一人が、しばらく生きていくだけの資金になる。

 見つかれば犯罪者の家族。

 見つからなければ被疑者で行方不明者の家族。

 どう考えても見つからない方が良いに決まっている。

 しかし、金の受け渡し以外で接触はない、と考えても良さそうだ。

 「・・・どう思う? 紫織ちゃん」 榊カスミ

 「・・・特に・・・分からないわね」

 「両親が2人揃って、さらに長男家族と妹家族がいる。4人同時に見張ることは出来ないし」

 「そうよね。親子兄弟の情が薄くなってもポンとお金を渡されるだけで捕まらなくなっちゃうし」

 「逆にあっさりと、警察に通報される可能性もあるし」

 「結局、お金の問題か」

 「お金を持っている間は、被疑者がよほどの間抜けか、お人よし、ドジ」

 「運が悪くなければ、捕まるもんじゃないわね・・・」

 「でも、警備会社が指名手配の顔を登録して」

 「監視カメラの人物像で検索をかけるシステムを構築しているみたいだけど」

 「へぇ〜 警備会社。お金持ち」

 「そりゃ システムが出来上がれば、利益が大きいもの」

 「指名手配の指紋を登録して検索をかければ、銀行の端末さえ使えなくできるし」

 「なんか、住みにくい世の中になりそうね」

 「被疑者にはね。それと革命家」

 「革命〜」

 「あら、民族的な緊急避難で革命って、必要じゃない。矛盾しているけどね」

 「今の政治が、だんだん腐っていって、どうしようもなくなった時は、って思うじゃない」

 「そのときは、革命家が、たくさん出てきて血で血を洗うのね。きっと」

   

 こもれび古本店に戻った紫織は、佐藤エミ、安井ナナミに緒方ヒトシの情報を聞く。

 元医大生で、挫折して溶接工になった変り種で、

 先輩の山田クニオにかなり虐められていたらしい。

 そして、佐藤エミから聞いたのが山田家、古川家の前に住んでいた地主の名前が緒方という名前。

 復員者名簿に緒方の名前があった。

 「ふ〜ん。どこかで、聞いたことがあるような推理物ね」

 「包帯男が出てくれば決定的だけど」

 「でも復員者の曾々孫だから、あまり関係ないと思うけどね」

 「隣の国じゃあるまいし、3代も、4代も祟らないと思うよ」

 「日本人は身内にも他人にも冷たいから」

 「復讐のため、奪われた土地に住んでいる他人の娘を暴行殺人しないでしょう」 安井ナナミ

 「緒方ヒトシと古川ノゾミちゃんは、直接繋がらない」 佐藤エミ

 「・・・というか、山田クニオは、どこに行っちゃったのかな」 紫織

 「山田クニオは、逃げ回っているから、将を射んとすれば馬を射よ」

 「怪しいと思う者に的を絞った方が良いわね」 佐藤エミ

 「警察は、だれを馬と思っているのかな」 紫織

 「元妻のサトミと娘ユキじゃない」

 「もし、妻と子供を捨てて、第二の人生を歩む気にならなければね」 安井ナナミ

 「見た感じ、良い感じの奥さんだと思うけど。捨てるかな」

 「刑事ドラマじゃあるまいし」

 「自分がかわいければ捨てるでしょう。それが、お互いのため」 安井ナナミ

 「ふぇ〜 なんかな・・・・人間不信になりそう」

 「もう十分に人間不信よ・・・探偵の手伝いなんてするから・・・」

 「一応、盗聴器と霊現象発生器を仕掛けたから」

 「脅しをかければ、何か出てくるでしょう。今夜あたり」 安井ナナミ

 「でもさ、この、4つの偽造小型マイクを共鳴させて霊現象を起こすのって・・・・茂潮って、怖いよね」

 「だって、オタクだけじゃなくて、ストーカーでしょう」

 「性格はともかく、ウィザードクラスのBファントムなんていったら」

 「年俸で億積んでも、という、ヤクザな企業は腐るほどあるよ」 佐藤エミ

 「レーザーホログラムもね」 安井ナナミ

 「安井組の若い衆も商売替えできるんじゃない」 佐藤エミ

 「・・・面白がっているけどね。お兄ちゃんからは睨まれ始めているよ」

 「えぇ〜 なんで」 紫織

 「組員を食わせられる人間が発言力を持つからよ」 安井ナナミ

 「げっ!」

  

  

 その夜

 緒方ヒトシのアパート202号室で霊現象が起こる。

 緒方ヒトシは、音の衝撃で目を覚ます。

 女の子のすすり泣きが部屋に響き、窓にはそれらしい光が浮かぶ。

 身動きが取れない。

 緒方ヒトシが怯えるように呟く声が聞こえる。

 「・・・・許してくれ・・・・俺が悪かった・・・・許してくれ・・・」

 「俺が悪かった・・・・・許してくれ・・・・俺が悪かった・・・・」

 盗聴した音が流れると、

 紫織、佐藤エミ、安井ナナミが顔を見合わせる。

 「もう、やめて良いよ・・」

 紫織が、そういうと霊現象が静かに消えていく。

 「何よ。どういうこと。DNA鑑定は山田クニオでしょう」

 「何で緒方ヒトシなのよ」 安井ナナミ

 「1、緒方ヒトシは山田クニオが古川ノゾミを暴行しているときに現れ」

 「古川ノゾミを殺した」 佐藤エミ

 「わけわかんない・・・」

 「だいたい、何で緒方ヒトシが直接恨みのない古川ノゾミを殺さなければならないの、が問題よ」 安井ナナミ

 「でも・・・あの怯えようは現実に古川ノゾミを殺したのが緒方ヒトシということじゃない」

 「謝っていたんだから」 紫織

 「2、緒方ヒトシは、山田クニオを殺した」

 「そして、古川ノゾミを殺し、緒方ヒトシの死体を隠すことで」

 「自分が容疑者にならない、偽装工作を作った」 佐藤エミ

 「それだと暴行と殺人の二つの事件が同時期に同じ場所で起きたことになるの?」

 「無理あるよ」 安井ナナミ

 「それに関係のない子供を殺すって、酷くない」 佐藤エミ

 「・・茂潮さん。山田クニオの霊現象も出せるかな」

 紫織が茂潮カツミに連絡を取る

 「・・10分待って。30代中頃ですよね」 茂潮カツミ

 「お願いします」

 「山田クニオが死んでいるのが正しいということ?」 安井ナナミ

 「もし、緒方ヒトシが犯人の場合。可能性としてあるということでしょう」

 「別の女の子を殺したんじゃないの。タダ働きかも」 佐藤エミ

 「・・・このまま、霊現象で追い詰めて自首させましょう」

 「どうせまともに推理できる人間なんていないんだから」

 「その最初から投げているところなんか、公式覚えるときの紫織ちゃん。そっくり」 佐藤エミ

 「あはは」 安井ナナミ

 「うぅぅ・・・」 紫織

 「紫織ちゃん。正攻法で推理できないと行き詰っていく事ぐらいわかっているでしょう」 佐藤エミ

 「そうなんだけど〜」

 「ほら、紫織ちゃん。公式を埋めるのと同じよ」

 「いつ、だれが、どこで、何をした、どうやって。当てはめて」 佐藤エミ

 「二年前・・・緒方ヒトシが・・・道守村で・・・山田クニオと古川ノゾミを殺した・・・」

 「どうやってかな?」

 「いい。警察がわかっているのは “二年前、山田クニオが古川ノゾミを暴行し、殺した” なの」

 「わたしたちが、どのくらい核心に近づいているかわかるでしょう」 佐藤エミ

 「なるほど・・・・問題は、どうやってか」

 「でもさ、あの村に入るのに車で入るでしょう」

 「村人たちは気がつかなかったのかしら」

 「よそ者が入ってくれば目立つはずなのに」 安井ナナミ

 「出来ましたよ」 茂潮カツミ

 「始めて」 紫織

 霊現象が、もう一度、始まる。

 今度は、30代の男性の声のような呻くような声が加わる。

 「・・・・許してくれ・・・・俺が悪かった・・・・・」

 「・・・俺が悪かった・・・・・許してくれ・・・・俺が悪かった・・・・」

 「山田さん・・・あ、あんたが俺を馬鹿にしたからじゃないか・・」

 「・・おれを馬鹿にしたんだ・・・このおれを・・・・」

 「許してくれ・・・・頼む・・・おれが、悪いんじゃない・・」

 「・山田・・・・おまえが悪いんだ・・・・」 緒方ヒトシ

 青ざめる紫織、佐藤エミ、安井ナナミ

 「やっぱり。二人とも殺したんだ」 安井ナナミ

 「どうやって?」 佐藤エミ

 「どうやって、見つからずに村を出入りしたの?」 紫織

 「・・・僕、わかりますよ」 茂潮カツミ

 「どうやったの?」

 「仕事が終わった後、山田クニオの車のトランクに隠れて、村に入ったんです」

 「そして、夜にやると外部犯だと思われるので隠れて昼間で待ったんです」

 「山田クニオを殺して、山田一家を惨殺しようとしたら。妻と娘は買い物に行ってた」

 「仕方がなくて、隣の家に行ったら古川ノゾミちゃんが昼寝していたので」

 「山田の娘だと思って暴行して殺したんです」

 「そうすれば、自分が疑われず、済みますからね」 茂潮カツミ

 「・・・そ、それで・・・」 紫織

 「緒方ヒトシは医学生でしょう」

 「山田クニオの精液を取ってノゾミちゃんの中に入れたんですよ」

 「たぶん。娘のユキちゃんをやろうと思って、器具とか準備していたんじゃないんですか」 茂潮カツミ

 「・・・・・・・・」 一同

 「あとは、それらしく変装して車に乗り、山田クニオの遺体を山中のどこかに埋めて」

 「そのまま、奈河市に乗り捨てれば良いんです」

 「戻るときは電車を使えば良いですから」 茂潮カツミ

 「り、理に適っている、よね・・・」

 紫織は、自信なさそうに見渡す

 「・・うん・・・穴はないかも・・」 安井ナナミ

 「・・・正統派の推理探偵がいるじゃない・・・・たぶん・・・」 佐藤エミ

 「いや・・・・僕なんか」 茂潮カツミ

 「茂潮さん。これで、楠おねえちゃんと。行けるかも」

 「ほ、ほ、ほ、本当ですか」 茂潮の声が裏返る。

 盗聴されているスピーカーから緒方ヒトシの悲痛な泣き声が聞こえていた。

 全て録音されている。

  

  

 数日後

 例のごとく、占い師に化けた榊カスミが家に戻る前の緒方ヒトシを待ち伏せる。

 そして、緒方ヒトシに微笑んで・・・・・・

 数日後

 緒方ヒトシは、自首。

 紫織は、録画した証拠物件を古川カツノリに引き渡して、成功報酬を貰う。

 警察は、緒方ヒトシが自白した内容にしたがって、

 山田カツノリを埋めた場所を掘り起こす。

 「山田さんが犯人では、なかったんですね」 古川カツノリ

 「まだ自白は、終わっていません」

 「事務所の推理は、ここに書いてあるとおりです」

 「山田クニオさんも被害者といえると思います」

 「ですが山田クニオさんも緒方ヒトシを苦しめていたのが、今回の事件の原因だったようですね」

 「・・・ありがとうございます」

 「ありがとうございました。本当にありがとうございました」

 古川ユリコが息子のヨシトを抱きしめながら涙ぐむ。

 「解決できて、よかったです」

 「自首という形を取ったので減刑されるかもしれませんが、その方が裁判も早いので」 紫織

 「いえ・・・わたしの方も、山田さんの家族に冷たく当たったので後ろめたいですから」

 「あの母娘には、わたしも償わないと・・・・」

 「ああ、そうだ、キャンプでしたら、また、道守村に来てください」

 「精一杯、もてなし、させてください」

 「えぇ そのときは、よろしく、お願いします」

 古川家族は、なんとなくホッとしたような、安らいだ表情で帰っていく。

 「一時は、どうなるかと思ったけど、解決してよかった」

 「でも、道守村・・・怖いわね」

 「自分たちの土地が、どういうところか知らないのかな」 安井ナナミ

 「ただ同然で買った土地よ」

 「お金がかかったのは、建物代だけ。それくらいの覚悟はしているわよ」 佐藤エミ

 「日本の歴史は長いから、人が死んでいない土地なんてないと思うよ」 紫織

 「さすが紫織ちゃん。日本史で苦しめられているだけあって実感が、こもってる〜」 安井ナナミ

 「あははは」 佐藤エミ

 「あ〜ん」

   

  

 その後、道守村の記録物件の中に、

 うげ〜

 信じらんない〜

  ぎゃー

 あり得ない〜

 ひぇ〜

 気持ちわる〜

 やめて〜

 級の霊現象が映っていた。

 キャンプに行った8人は、除霊能力が強いと評判のお坊さんのところに駆け込むことになる。

 そして、古川家にも地鎮祭をきちんと行うように警告を送る。

 その後、道守村で大規模な地鎮祭が行われたという。

   

  

  

 修学旅行、京都

 賀茂別雷神社、賀茂御祖神社(賀茂神社)、

 東寺、清水寺、醍醐寺、仁和寺、高山寺、

 西芳寺、天竜寺、金閣寺(鹿苑寺)、銀閣寺(慈照寺)、

 竜安寺、西本願寺の13カ寺と二条城を見て回るというものだった。

 各グループとも衛星で追跡される携帯を持っていて、かなり自由に動くことが出来た。

 しかし、必ず通過しなければならない神社仏閣があって、

 各自証拠写真を撮らなければならない。

 角浦紫織のグループは、角浦紫織、沢渡ミナ、河本ヒトミ、鹿島ムツコ、

 古賀シンペイ、大竹ヨシキ、北見アツシ、田城タクヤの8人組。

 異質な仲間が混ざったのは、クジで女子4班と男子4班に分かれ、

 班内で好きなカップルが班を作る。

 そして、くじを引いて、二つ班が合流して4人

 その後、相談して、もう一つの班と合流して8人のグループになった。

 これは、中学の修学旅行を友達と気持ちよく過ごすと同時に、

 新しい仲間との繋がりも必要だと学校が考えたかららしい。

 紫織は、同じAの沢渡ミナとすぐに組んだ。早い者勝ち。

 クジで北見アツシと大竹ヨシキと組むことになり、

 次の話し合いで、田城タクヤ、河本ヒトミ、古賀シンペイ、鹿島ムツコと組んだ。

 残念ながら、三森とくっついた女の子が強烈に動いたため、

 三森と組むことが出来なかった。

 なんとなく、七夕の織姫と彦星になったような気分。

 ということで、仲が良いのは沢渡ミナと古賀シンペイだけ。

 あと、鹿島ムツコとも、なんとなく仲が良く。

 それ以外は、なんとか、気が合う仲間だろうか。

 奈河小色が分散されて薄れた感じだ。

 二年の一学期の最後を飾る修学旅行は、旅行自体が充実していれば仲間との会話も弾む。

 たぶん、二学期から受験戦争に突入していく。

 スタートラインを赤点ダッシュしなければならない紫織は厳しく。

 学生の、学生らしい、学生気分を味わえる少ない行事といえた。

 

 角浦紫織、沢渡ミナ、河本ヒトミ、鹿島ムツコ、

 古賀シンペイ、大竹ヨシキ、北見アツシ、田城タクヤの8人は、名所を歩き修学旅行を楽しんだ。

  

 

 

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第29話  『中堅の探偵だもん』

第30話  『ちょっと、本格的』

第31話  『生きるのに少し慣れたかな』

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