第38話 『萌え萌え』
こもれび商店街組合
奈河駅を中心に新店舗の新規参入が話題になっていた。
商店街から外れた単体の店舗。
床面積の大きさは、商店街の店舗の2倍から4倍。
当然。こもれび商店街だけでなく、
せせらぎ商店街も含めて、商店街離れが予測される。
この新規店舗参入組は、こもれび、せせらぎ商店街の改装と再建で、
駅周辺の魅力が増したのが原因。
ため息ばかりの組合会議。
大牟田市長も顔を出すものの、
名誉回復したばかりで微妙なのか、歯切れが悪い。
地場商店の状態を考えれば、存亡の危機でもある、
借金返済まで待ったをかけたいところだ。
しかし、マンション建設は進み。
需要と同時に供給も生み出している。
同業者参入なら苦しく。
他業種でも商店街の多くは、団体補償、他人事ではない。
商店街の店長が市長や役所に詰め寄る。
紫織は、こういった妨害工作のようなことに関わりたがらず。
組合会議が終わると、ため息混じりに紫織は帰宅する。
需要より、供給が大きくなれば潰れる店も出てくる。
そして、潰れる店は、余剰資金を持たず競争力のない店。
新規参入組は、借金を抱えた商店街が余剰資金を持っていない間に開店。
価格競争を仕掛けて、勝ち残る意図が見え見えだった。
この場合、資金力の関係で良い店が消えて。悪い店が勝ち残る場合もある。
資本主義の闇の部分だろうか。
時間は、あっても、余裕は、なかった。
佐藤家の大邸宅
ハルが大人しく座り。ポメラニアンのハデスが、はしゃぐ。
ため息が出るような大きな庭園
テラスハウスは、大理石で眺めが良い。
メイドがティータイムの軽食をテーブルに準備すると下がっていく。
上品な香りが広がる。
紫織は、いろんな意味で、ため息。
「・・・紫織ちゃん。まだ悩んでいるの?」
「新規参入組みをどうするか?」
「態度がはっきりしていないって聞いてるけど」
「わたしが態度をはっきりしたからと言って、どうにかなるものじゃないでしょう」
「さぁ〜 どうかな。結構、癒着しているからソコソコ、いけると思うけどな〜」
「合法、非合法に関わらずね」
「非、非合法は、やめようよ」
「お人好しね」
「住み良い町は、好きだけどね」
「ふっ・・・市長にでも立候補する?」
「歳が、足りないじゃない」
「思考が、わかりやすくて、いいけど」
「誰が淹れても、コーヒーは、美味しければ良いよ」
紫織は、上品な香りに感心する
「そんなことを言ってられるのは、資金的に余裕がある人間だけよ」
「商店街は、負ければ大半が、家族でホームレスよ」
「・・・そうなのよね・・・佐藤家の見込みだと、需要と供給は、どうなりそう?」 ため息
「ここ、4年ぐらいが、山じゃないかな・・・」
「需要を上手く分けるなんて無理ね。行くところまでいって、食い潰し合い」
「そして、歯止めも無理。資本主義なんて。欲の皮を突っ張って越え太るばかり」
「魅力的な商店が増えるのなら他の町から客が集まって、市の人口も増えるかもしれないけど・・・」 紫織
「じゃ 他の町が寂れるかもね・・・・良いけど」
「・・・・・・・」
「どちらにしろ、こもれび古本店は、裏家業があるから何とかなるんじゃない」
「まあね・・・危ないけど」
「榛名社は、約束を守っているみたいだけど」
「道義的にちょっと問題ありだけどね」
「逆恨みで殺されるなら。道義的責任を追及される方がマシ」
「向こうが麻薬で手を引くのなら、我慢するわ」
「確かにね」
萌え喫茶
“萌え萌え”
茂潮、シンペイ、ショウヘイは、ニタついていた。
そして、萌え言葉が店内に飛び交う。
お気に入りのセイラ 18歳。
某アニメの女の子がメイド服を着ている。
萌え萌え状態で幸せ満喫の茂潮、シンペイ。石井ショウヘイ。
「ご主人様。今日は、何になされますか?」
「ええぇ〜と・・・・シュンを・・・・」
茂潮が落ち込んだ振りをする
因みにシュンは、八宝菜定食のことだ。
「ご主人様、しっかり」 セイラ (メイド)がやさしく肩に触る
「萌え〜」
「じゃ ぼ、ぼ、僕も、シュン・・・・」 シンペイ。
「ご主人様、しっかり」 セイラ (メイド)がやさしく肩に触る
「も、萌え〜」
「あ・・・僕も、シュン」 石井ショウヘイ。
「ご主人様、しっかり」 セイラ (メイド)がやさしく肩に触る
「萌え〜」
えへへ。
茂潮、シンペイ、石井ショウヘイは真っ赤になる。
シンペイ、茂潮、ショウヘイが鼻血。
変態。萌え萌えモード突入。
しかし、シンペイの携帯が鳴り、呼び出される。
こもれび古本店
二階
パチンコ店で2500万を奪って逃亡した従業員。
牛島コウスケ 26歳、浜野トモヨ 22歳の捜索依頼。
こういった盗難は早急に捕まえないと、お金が戻ってこない。
多少、割り引かれても有力な興信所や探偵に依頼する場合がある。
脂ぎった親父。
いや、パチンコ社長の武藤ノリタカから、依頼内容を確認。
シンペイを引っ張り出して、パチンコ店に向かう。
既に警察も集まっている。
店長に案内され、紫織、シンペイ、ハルが警察に混じって、現場をうろつくのは違和感がある。
「・・・・シンペイちゃん。なんで鼻にティッシュを入れてるわけ?」 紫織、白い目。
「・・は、はは、ははは・・・・・」
「・・・ったく。今回も、結構な額なんだから、しっかり、してよね」
「・・・うん」
「でも、こういうのが、いいのよね」
「殺人やら、覚醒剤やら、犯罪組織とか、危なすぎるもの」
武藤ノリタカから、牛島コウスケ、浜野トモヨの遺留品を借りると、ハルに捜索させる。
そして、ハルがソコソコ優秀なのは、警察犬と同様のところまで追跡できたことで証明される。
「ここまでか」 紫織
シンペイが振り子を垂らして何かに集中していた。
「君達は?」 警察官A。
先に来て止まっている警官二人が怪訝そうに聞く。
「パチンコ店の社長に頼まれて、人探し」
「ほう。まさか、探偵とか言うんじゃなかろうな」 警察官A
「・・・・・・」 紫織がビニールに入った慰留品を振って見せた。
「・・・・・・」 警察官A・B
警察無線が入る
「はい・・・・ええ。神崎町4丁目の公道までです・・・・ええ・・・・ええ・・」
「・・あ、子供が2人、被疑者を捜索しているようなんですが・・・」
「・・えっ!・・・・・・中学生の男女・・・・・はい・・・・・えっ・・こもれび探偵団・・・」
「・・・はい・・・・そうです・・・・・・・・わかりました」 警察官A
警察無線が切れる。
「君達があの有名な、こもれび探偵団か」 警察官A
「取りあえず、犬の捜索は、ここまでね」
「痕跡が消えても人の臭いは消えない。犯人に近付けば、捕まえられるさ」 警察官B
「・・・・ドーベルマン・ピンシャーか。利口そうな犬だ」 警察官A
「ハルよ」
「良い名だ」 警察官A
「そっちのシェパードは?」
「小太郎だ」 警察官A
「小太郎か。見かけと違って、かわいい名前」
紫織は、ハルを買うときに教わったとおり、小太郎を撫でる
「ハルには、何を背負わせているんだ」 警察官B
「食料よ。自分の食料は、自分で持ち歩く」
「・・・・ほう。背中の食料を気にせずここまで来るとはな」 警察官A
「来たよ」
富田サナエの車がGPSで誘導されて、向かってくる。
紫織、シンペイ、ハルが車に乗り込むと、移動を開始。
車の中
ホンダ ステップワゴン 2000 I フルエアロ&18AW
「どうする?」 サナエが聞く。
「他の県に逃げているでしょうね」
「・・・・・・・」 サナエ
「事前に下見に行っているか、二人の故郷の近くね・・・・どう?」
シンペイは、振り子を持って精神統一。
「・・・北東かな」
シンペイは、地図に線を引いていた。
「じゃ 被疑者の家に戻って、もう一度調べた方が良いか」
「北に行ってもう一度、振り子で調べる?」
「んん・・被疑者の家に戻った方がいいかな」
「じゃ 社宅に行って」
パチンコ店の社宅は、古いマンションビルだった。
男女に分かれて、2人から3人が共同生活。
従業員の半分は、ここに住んでいる。
「はぁ〜 また、おまえたちか」 広瀬刑事
紫織、シンペイ、富田サナエが被疑者の社宅に入ると例のごとく刑事がいた。
「久しぶり、刑事さん」
「学校は、どうしたんだ」 馬宮刑事
「えへっ」
「えへっ、って。おまえら〜 保護観察で、突き出してやろうか」 馬宮刑事
「今日は、創立記念日で〜す」 紫織。敬礼。
「・・・ご都合主義だな」 馬宮刑事
「本当だろうな。年に30回ぐらいあるんじゃないだろうな」 広瀬刑事
「まさか。邪魔しないでね。今日中に捜査の方針を決めるんだから」
「このやろう・・・邪魔するなは、こっちのセリフだ」 馬宮刑事
紫織とシンペイ、富田サナエは、さっさと被疑者の部屋に行く。
牛島コウスケ、浜野トモヨとも、同室の仲間に気付かせず。
そして、それらしい兆候を見せずに金を持ち逃げしたらしい。
ルームメイトは、警察で、事情聴取。いなかった。
計画的犯行。
牛島コウスケは会計。
浜野トモコは、フロアレディー。
シンペイは、部屋に入ると振り子を垂らしては、地図に線を入れていた。
「会計って家族持ちとか。身元がしっかりした人間じゃないと、なれないんじゃないの?」
紫織は、携帯をかける。
「・・・・在日朝鮮系・・・・・ふ〜ん・・・・・そう・・・・店長も、そうなんだ・・・」
「・・主任会計士じゃないから、大丈夫だと思ったわけね」
周りにいる警察官が興味深そうに中学生二人の行動を見ていた。
そして、富田サナエは、カメラで撮影しながら。
他の部屋の従業員の名前を確認。
紫織がマニュアルに沿って質問が終わると、そそくさと、帰っていく。
車の中
こもれび探偵団の捜査は、マニュアル化されていた。
それが優れているかは、別にして、
楠カエデは、子供がわかりやすく、合理的に質問できるものを作った。
要領がだんだん、わかってくると質問の仕方に重複する “引っ掛け” が、あるのがわかる。
保身の強い人間や偽善者は、同じ質問を違う言い回しで、されているのに、気付かず、引っ掛かる。
保身のあまり、自己矛盾を起こしてしまいやすい質問ばかり。
それを紫織、佐藤エミ、安井ナナミは、さらに付け加えて改編。
完成度の高いものにしていた。
「どう? シンペイちゃん。怪しいのは、いる?」
「結構。悪さをしている従業員がいるけど、パチンコ店にいた、あの専務が、怪しいかな」
紫織は、カメラをまき戻す。
「・・専務は、吉村ケイジか・・・・被疑者との関係はなさそうだけど・・・・・」
「・・・・・・・」 シンペイ
「後ろめたいとか、そんな感じ?」
「うんん・・そんな感じ」
「事件の動機が見えてくるわね・・・・少し寄り道するけど、カマかけてみるか」
「できたら、部屋の感覚が残っている間に三角測量をしたいんだけど」
「はぁ〜 わかった。サナエ。北に向かって」
元々、こもれび探偵団は、不良婦警3人組のアルバイトから、始まっていた。
当然、女子供の火遊び程度の技能しかなく。
警察権力を利用して素行調査や浮気調査が限度の探偵業者。
こもれび探偵団は、二線級以下の探偵団に過ぎなかった。
それを豪族娘の佐藤エミ。ヤクザ娘の安井ナナミの参入で、
並みの探偵業者に引き揚げられ。
シンペイのオーラが見えるという特殊能力を利用、
初動捜査の的中率を向上させて、注目を浴びる。
そこにネットサイバーの天才、茂潮カツミの参入で、
最有力探偵業者に引き上げられてしまう。
こもれび探偵団特有の弱点は、層の薄さ。
シンペイの振り子が、どの程度、信頼できるか、怪しかったものの、実績が証明していた。
シンペイの初動捜査で方針を定めて外注。低価格で処理できた。
その利潤は大きく。
こもれび探偵団の収入は、公に出来ないほどになっている。
パチンコ店の一室
紫織、シンペイ、サナエは、武藤ノリタカと吉村ケイジと向き合う。
「吉村さん。浜野トモヨさんを強姦してませんか?」 紫織
吉村ケイジの顔色が変わる。
体格の良い36歳の男だ。
22歳の女性を押し倒すぐらい、わけないことだろう。
「・・・・・」 吉村ケイジ
「よ、吉村。お、おまえ」 武藤ノリタカが驚く
「・・・正直に言ってもらえませんか、事件を解決する上で早道になるので」 紫織
「・・・・・」 吉村ケイジ
「このことは、ここだけの話しにします」
「・・ああ・・・・やったよ」 吉村ケイジが開き直る。
「よ、吉村・・・なんてことを」
「たぶん、動機は、それだと思われます」
「約束ですので警察に言いませんが慰謝料の形で妥協されるのなら」
「お金も返ってきやすいと思われますが」
「い、慰謝料だと」 吉村ケイジ
バシンッン!!!!
紫織がテーブルを叩く。
掌で叩いて、音も大きい。
「あ、あのね。強姦は立派な犯罪です。女が欲しかったら買えばいいでしょう!」
女子中学生の言葉とも思えず。
大の大人2人も仰け反り、絶句。
「金は回収します。その代わり慰謝料を渡して、そのまま逃がす」
「ということで良いですね。金が回収されたら、告訴も下げてください」
「金が回収できるなら、あの二人のことなど、どうでも良いが・・・」
「慰謝料は、どの程度のものかね」 武藤ノリタカ
「・・・・・・500万」
「・・・戻ってくるのは、2000万ということだな・・・・当然、成功報酬も5分の1・・・」 武藤ノリタカ
「やむ得ないわ」
「良かろう・・・・・それで手を打とう・・・・」
「ふっ すくなくとも、警察に任せていたら犯人が捕まっても、お金は返ってきそうにない」
「しゃ 社長!」
「もういい。吉村。半分は、おまえが出せ」
「もし、隠そうとしていたら、全額、出させていたところだ」
「・・・・・」
「いいな。やつらがサツに掴まっていたら、こっちまで恥をかくところだ」
「フロアレディーに逃げられてもみろ、事だぞ」
「はい・・・すみません」
「・・・・じゃ あとは、頼む。約束は守ろう」
「では」
地図で二つの線が交差した場所は、新潟県 南魚沼市。
人口63000人弱。
紫織は、牛島コウスケ 26歳、浜野トモヨ 22歳と新潟県 南魚沼市の関係を調べる。
牛島コウスケが大学時代に南魚沼市六日町のスキー場でアルバイトをしていたことがわかる。
数日後。
萩スミレ、紫織、シンペイ、富田サナエとハル。
4人と1匹がスキー場に到着する。
「・・・・秋なのに。さむ〜」 紫織
「早く回りましょう」 萩スミレも手をすり合わせている。
「こんなに寒いなら雪が降ればいいのに」
「雪山で追走劇なんて、最高のシチュエーションなのに」 富田サナエ
・・・・・・・沈黙。
残りの全員が 『バカか、おまえ!!』 と心の中で叫んでいた。
4人は、牛島コウスケと浜野トモヨの遺留品を嗅がせたハルを先頭にコテージ型ホテルを回る。
そして、開店準備中の職員の中にそれらしい、二人を見つける。
二人とも、コテージ型ホテルの掃除をしている。
「牛島コウスケさんと浜野トモヨさんね」 紫織は、名刺を渡す。
女子供ばかりで、追いかけてくると思わなかったのだろう。
二人は、ドキッとしたように立ち尽くす。
「牛島コウスケ社長が慰謝料500万を渡すから。2000万を返還して欲しいそうです」
「返還すれば、告訴も取り下げるとのことです」
紫織は、念書を見せた。
牛島コウスケと浜野トモヨは、念書を見たあとサインをする。
そして、持ってきたバックを紫織に渡す。
富田サナエが、お金を数えて、確認。
そして、携帯で武藤ノリタカと連絡を取る。
「もしもし、角浦紫織です」
「牛島コウスケと浜野トモヨと接触して2000万を回収しました。本人と確認してください」
紫織は、携帯を牛島コウスケに渡す
「私です・・・・はい・・・・・はい・・・・・・わかりました・・・・・失礼します」
牛島コウスケが紫織に携帯を返す。
「・・・社長。夜には、お金をお渡しできると思いますので・・・」
「はい・・・・では、近くに来たらもう一度、連絡します」
呆然としている牛島コウスケ。
「あ・・・ありがとうございました。慰謝料を請求してくれたんですよね」
「追いかけっこが、したいわけじゃないもの。力ずくも無理そうだし」
「ふっ」
牛島コウスケが笑う。
「じゃ がんばってね」
それぞれ、握手をした後、別れる。
4人は、交替で温泉に入った後。
パチンコ店に戻って、武藤ノリタカに金を渡し。
成功法報酬を貰って事件は終わる。
翌日。
牛島コウスケと浜野トモヨの起訴が取り下げられる。
こもれび商店街のクレープ店
紫織、佐藤エミ、安井ナナミは、スペシャル・デラックス・クレープにかぶりついていた。
「最近、依頼が増えてない?」 佐藤エミ
「人手不足よね」 紫織
「というより、学校があるから、初動捜査で遅れを取るでしょう」 安井ナナミ
「シンペイちゃん。学校を休ませると沢木と中山がうるさいから」 紫織
「古賀君の初動捜査抜きで他にまわすと、手間取るよ」 安井ナナミ
「配給側になれば、一流よ」 佐藤エミ
「それだって、サナエのおかげで依頼処理を振り分けられているようなものだから」 紫織
「意外と掘り出し物だったみたいね。引き篭もり女」 佐藤エミ
「そうね。自由に動けるのは、サナエだけだし」
「紫織。高校入学を、やめて、そのまま、探偵業に専念する? 儲かるよ」 安井ナナミ
「・・・セーラー服。似合うと、思うんだけどな・・・」
「ふ〜ん。かわいい女子高生か〜 くすっ」 安井ナナミ
「なによ。その笑い」
「佐藤なら、かわいいと思うけどね」 安井ナナミ
「・・・・・・」 佐藤エミ
「あのね。わたしだって、高校生になればって、思っているんだから、夢を壊さないでくれる」
「はぁ〜 金の問題じゃないか」 安井ナナミ
「そうよ。金の問題じゃないわよ」
「頭の問題ね」 佐藤エミ
「・・・・・・・・・」 ため息
富田サナエの携帯に送られてくる依頼。
こもれび探偵団に空いている人間がいない時。
他の探偵事務所や興信所に転送して外注する。
それだけで、結構な金額の紹介料が、こもれび探偵団に入る。
当然。他の探偵事務所や興信所との折衝が多くなり。
実質的な繋ぎ役、顔になっている。
喫茶店アスナで、中間報告書を読むメガネっ子娘の富田サナエ。
正面に座っているのは、体格の良い40代前半の男性で、倍以上の年齢。
「・・・失踪中の横山カズエの痕跡は那賀町にありました」
「ですが、2週間前に会津に移動したそうです。現在、追跡調査中です」
「接触できそう?」
「ええ、発見次第。警察に通報して確保できるはずです」
「そう・・・・」
「他の浮気調査4件や素行調査3件は、時間の問題です」
「しかし、捜索調査は、普通、困難なはずです」
「これほど高い精度で、潜伏場所がわかるのは、どういうことでしょうか?」
「企業秘密ですから」
サナエがパラパラと報告書をめくる
「・・・ごもっともで」
「浮気調査が、もう、一件。来ているんだけど」
「・・・あと、二日ほど、すれば、人手が空くのですが・・・・」
「二日・・・・」
サナエは、携帯で何かを確認する。
「・・・では、先約ということで、スケジュールに入れて置いてください」
「後ほど依頼を送ると思います」
「はい。よろしくお願いします」
「いえ、いつも丁寧な仕事をしていただいているので、こちらこそ、助かっています」
「ところで、カウンタースパイの経験は?」
「あ・・・いえ、まだ」
「そう・・・」
他所から見れば、出会い系で出会ったような2人。
あっさりと分かれていくところが違う。
その後、富田サナエは、喫茶店から外に出て、100mほど歩いて、
ため息をつきながら某×××喫茶店に入っていく。
こもれび探偵団。
最大最強の稼ぎ頭二人が入り浸りになっている店。
満席の店内で、シンペイ、茂潮、ショウヘイが萌え萌えムードにひたっている。
三人とも、デレデレ状態で萌え嬢とジャンケンをしていた。
勝てば、ジュース700円が500円になるそうだ。
引き分け狙いで、永遠にジャンケンしたがっているのは、見てわかる。
普通の喫茶店ならジュース500円が相場。
富田サナエに言わせれば “バカめ” なのだが人気があって満杯状態。
シンペイとショウヘイが勝って茂潮が負けていた。
「はぁ〜 シンペイ君。白瀬精密機械工業で、カウンタースパイが入っているんだけど」
「・・・これから」
シンペイは、青汁風ジュースをストローで吸いながらチラチラと横目で萌え嬢を覗き見ている。
「そうよ」
「はぁ〜」 シンペイ、ため息
「・・・あのぅ・・・茂潮さん・・・・・いっ!・・・・」
鼻血を出している茂潮に、サナエが思わず退く。
「・・・なに?・・・」 茂潮
「・・・い、依頼は、そちらにも転送されているから、よろしくお願いします」
「・・・・あやなみ・・・と・・・じゃんけん・・・ふふふ、ふふふ」
茂潮。妄想の世界に入っていた。
「・・・・・・・」 脱力
富田サナエとシンペイが白瀬精密機械工業に着く。
そして、白瀬社長に案内されて、工場内を歩き回る。
一応、社長の親戚筋という触れ込みで歩き回る。従業員は35人。
サナエが撮影役。
「親戚の子達でね。いや〜 少子化で人口が減るだろうから、今の内にね・・・・・」
白瀬フミタカは、従業員にそう言って紹介した。
白瀬社長は、一通り面談を終わらせると、
社長室でコピーした履歴書を引っ張り出して、あの男、この男と披露する。
スパイは、ほとんどの場合。信頼できそうな人間。
こいつ怪しそう、と思えるような人間にスパイは勤まらない。
シンペイは首を振る
「白瀬社長。コソドロじゃありません。スパイですよ」
「コンピューターに精通していないのなら信頼できる人間にしか、スパイは勤まらないです」
「・・・・・・・・・・」 白瀬社長は黙り込む
「設計図を盗みだせる人間は、限られているじゃないですか?」
「不良社員も、下っ端も、辞めさせたいような社員も論外」
「無能な人間には、無理ですよ」
サナエは、履歴書の中から10枚ほど、選んでテーブルに並べる。
創業以来の功労者も含め、どの部署でも、NO.1。NO.2。右腕、片腕、有能な者ばかり。
絶句する白瀬社長。
シンペイは、その中から三枚を取って、注視する。
白瀬社長は人的損失の大きさに青くなる。
「・・・・では、社長。こちらのマニュアル通りに行動してください」
「出来れば平常心で、良いですね」
サナエは、マニュアルを白瀬社長に渡す。
「わ・・・わかった」
「もう一つ、可能性としてインターネットから直接。設計図データーが抜き取られている場合があります」
「夜にパソコンを調べさせていただけますか」
「・・ああ・・・いいだろう」
「別途料金でリターンプログラムをセッティングできますが」
「リターンプログラム?」
「ええ、重要な情報を特定のネットコンピュータ内だけでしか、開けないようにするものです」
「もし、他のコンピュータに取り込まれた場合。戻ってくるものです」
「どこが盗んだかすぐにわかりますよ」
「い、いくらかね」
「一件に付き、50000円」
「そうか・・・そのう・・・他の会社のプログラムを破壊すること、とかもできるのかね」
「そういった仕事は、しません。訴えられるのは嫌ですから」
「ただし、盗まれた情報は、暗号が、わからなければ、開くことが出来ませんし」
「たどることが出来るので破壊できますが」
「わかった。10件ほど守りたい情報がある」
「わかりました。それでは夜に、もう一度」
社長室に落胆した社長が残される。
もし、社内にスパイがいるとしたら片腕や片足が、もぎ取られるようなものだ。
深夜。
白瀬社長の監視の下。
茂潮が白瀬精密機械工業で一仕事をする。
学校
早朝。合気道部。
空手で自信をつけたのか、三森ハルキがシンペイに挑戦。
多くの部員が驚いていたがシンペイは、予測していたのか、冷静。
三森ハルキの方が一回り体格が良かった。
しかし、シンペイは強いだけで勝てないことがわかる。
県大会で古賀シンペイと戦った者は、シンペイにサトリという、あだ名をつける。
心を読む特殊な人間のことでシンペイは、それに近かった。
相手が涼しげにしていてもオーラが見え。
自分に向けて挑戦する気持ちが日に日に強まっているのがわかる。
そして、どういう戦いを試みようとしていることさえ、見当が付く。
フェイクも、フェイントも、なんとなくわかれば、どれほど有利だろうか、
単純に同レベルであれば、シンペイが有利。
そして、三森ハルキの空手技は、黒帯クラスで素人の振りをしながら間合いに入っていく。
刹那、ハルキが蹴り技を繰り出す。
シンジは、その蹴りをかわし、足を掴むと関節を極め、重心を狂わせて倒す。
会心の一撃をあっさり、かわされ。
一瞬のうちに落とされた三森ハルキは、愕然とする。
萌え喫茶“萌え萌え”
茂潮、シンペイ、石井ショウヘイが頬を赤らめ。ニタついている。
そして、萌え語言葉が飛び交う。
某アニメのアスカ風のメイドが来る。
「ご主人様。今日は、何になされますか?」 アスカ (メイド)
萌え萌え状態で、幸せを満喫する茂潮、シンペイ。石井ショウヘイ。
「ええぇ〜と・・・・ナデナデを・・・・」 茂潮
恐る恐るアスカ風メイドの頭をナデナデする。
因みにナデナデは、アメリカンコーヒー。
「ありがとうございます。ご主人様」
「萌え〜」
「じゃ ぼ、ぼ、僕もナデナデ・・・・」
シンペイ、手が震える
「ありがとうございます。ご主人様」
「萌え〜」
「あ・・・僕もナデナデ」
石井ショウヘイ、朦朧としている。
「ありがとうございます。ご主人様」
「萌え〜」
えへへ。
真っ赤になる茂潮、シンペイ、石井ショウヘイ。
「「「アスカさ〜ん」」」茂潮、シンペイ、石井ショウヘイ
茂潮が鼻血。
変態。萌え萌えモード突入。
むかしは、2階同士で筋交いで、
部屋が隣り合っていた紫織とシンペイの部屋。
いまでは、同じ筋で2階と3階。
部屋窓での交流は、幼少のころを除いてほとんどなかった。
いまも、携帯だけ。
シンペイの部屋に張ってある 『目差せ甲斐高校!!』 の張り紙。
沢木ケイコが書いたものだ。
彼女の動機がどうあれ。意識付けは、悪くない。
今の学力を維持できれば射程内だった。
そして、学問の天女と女神の祈りが届いているのか。
毎日の復習と予習がシンペイの日課。
勉学を条件反射にまで、昇華させた沢木と中山の力量が褒められる。
しかし、一時間も勉強すると限界、マンガの本を読み始める。
そして、隣に家では、紫織が佐藤エミと勉強。
一人暮らしの紫織の家は、格好の泊まり場。
良く泊まるのが、こもれび探偵団系の佐藤エミ、安井ナナミ、
こもれび小旅行系の沢渡ミナ、足立クミコ、
シンペイファンクラブ系の鎌田ヨウコ、沢木ケイコ、中山チアキ。
他にも国谷ヒロコ、白根ケイコ、仁科マイが泊まることがある。
天涯孤独ながら、意外と、一人で寝ることの方が少ない。
そして、大型テレビの前でゲームに興じる沢木ケイコと鎌田ヨウコは恋敵。
「・・・・三森君。負けちゃったんだ・・・・当然ね」 沢木ケイコ
「そう。伝え聞きだけど。あっさりと」 鎌田ヨウコ
「・・・・だよね。合気道の県大会上位のシンペイ君と、やろうというのが無謀よ」
「でもないみたいよ。三森君は、極真よ」
「空手道場で県大会行きの実力があったけど」
「シンペイ君にバレないように断ってたんだって。当然、学校にも秘密」
「へぇ〜 そうなんだ。空手人口の方が多いから競争率激しいのに」
「それだけ、シンペイ君に勝ちたかったのよ」
「なるほど・・・紫織ちゃんも、罪な女ね」
「カッコいいところを見せるはずが、かっこ悪かったわけか」
「三森君クラスになるとショックが大きいわね」
「結構。不安になるよね。かっこいい男って挫折に弱いから」
「あんたもね。沢木」
「大丈夫よ。一般的に女の子は耐性が強いから」
「むっ そういえばシンペイ君に甲斐高校を狙わせているんですって?」 鎌田ヨウコ。怒
「えっ! そ、そうなの? ぜ〜んぜん知らなかった」
「あんたね・・・・シンペイ君の部屋に張ってある色紙」
「あんたの署名付きなんだから、とぼけるな」 鎌田ヨウコ。怒怒
「へへへ」
「むか〜 わたしをゲームに誘って動機が見え見えよ。あんたって」 鎌田ヨウコ。怒怒怒
「や、やぁあね〜 紫織ちゃんから引き離したいだけよ」
「んん・・・わからない・・・ことも・・・なけいど」
鎌田ヨウコ、中山チアキ、鎌田ヨウコとも最大の脅威を紫織と認定。
紫織にその気がないだけに腹立たしい。
「んん・・甲斐高校か・・追い込まないと」
「あれ〜 ヨウコちゃん。シンペイ君、甲斐高校に行かないで〜 じゃないんだ」
「そんな手に、乗るか! いつも、いつも、小賢しい手を使いやがって」
「ふふん♪」
「あんたの、小賢しい性格をどうやって、公開しようかしら」
「公開しても誰も信じないもの」
「むか〜! 良い子ぶって」
「体力で負けているから頭を使うのがいいのよ。当然」
「ふん! その辺の男子よりも強くなっているくせに」
「力で強くなっているわけじゃないから」
「・・・わたしも、勉強するか」
「紫織ちゃんも勉強しているからな〜」
「ゲームに誘えれば良いんだけど。佐藤が引っ付いているから」
「・・・“も”・・・ということは、やっぱり。わたし “も” ということね」
「あはは」
「ムカ〜! 絶対に甲斐高校に受かってやる」
路上の車の中
一ツ橋サツキが、鹿島ムツコと座っていた。
「・・・・早く連れて行けばいいだろう」 鹿島ムツコ
「・・・一休み、一休み」 一ツ橋サツキ
「けっ!・・・警察のくせにサボりやがって」
「恐喝なんかしたら駄目でしょう」
「向こうが言い寄ってきたんだよ。先に触ったのは、向こうだ」
「ふ〜ん。随分、色っぽい服ね」
「化粧もソコソコでナイフを持ち歩いているし。これも危ないし・・・」
一ツ橋刑事が、小さいショックガンを見せる
「ふん、正当防衛だよ」
「財布も、取っちゃうし」
「慰謝料よ」
そこに紫織がハルの散歩で歩いてくる。
「少し、降りましょうか」
一ツ橋刑事がドアを開けて降りる
「・・な、なんだよ」
「少し、外の空気も吸わなくちゃ」
一ツ橋刑事に誘われて、鹿島ムツコが車から出ると紫織と出くわす
「・・あら・・・紫織ちゃん。散歩?」
「刑事さ、ん」
「・・・・・・」 鹿島ムツコ
紫織は、一ツ橋刑事に気付き、
一緒にいる鹿島ムツコに驚く。
「あっ この子。現行犯なの・・・たいした罪じゃないけどね・・」
「・・・・・・・」 紫織
「わたしも、非番だから、あまり警察に行きたくないんだけど・・・・・」
一ツ橋刑事が、鹿島ムツコの頭を撫でる。
「鹿島さん・・・」
「あれ・・・知り合いなの紫織ちゃん」
「・・・同級生」
「そうなんだ・・・・じゃ 引き取ってくれる」
「えっ!」
「捕まえたものの。今日は、非番だから警察に行きたくなくて」
「たいした罪じゃないし、紫織ちゃんなら引き渡してもいいかな」
「・・・・」 鹿島ムツコ
「わ、わかった。引き取る」
「そう。良かった。ナイフとスタンガンは、没収ね」
「・・・・・・」 鹿島ムツコ
「また、会いましょう。紫織ちゃん」
一ツ橋刑事は、車に乗ると去っていく。
「せ、世話になったね。角浦」 鹿島ムツコ。恥
「いいよ・・・・な、なに、やったの」
「恐喝」 鹿島ムツコ
「き、恐喝って・・・あ、危なくない?」
「あの女が、いなければ、掴まらなかったさ」
「い、いや、そういう問題じゃなくて・・・・」
「じゃな・・・・・」
「・・・うん・・・あっ・・・鹿島さん」 振り返る鹿島ムツコ
「・・・よ、良かったら。アルバイトしない?」
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第38話 『萌え萌え』 |
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