月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第39話 『猫と人形』

 

 紫織と富田サナエは、魁町の依頼が終わり、

 峠の自動車道を車で走っていた。

 突然の急ブレーキ。

 小さな衝撃。

 そして、短く、小さな鳴き声が聞こえて、車が止まる。

 真っ青になる紫織。

 8歳の時。

 両親を亡くした交通事故の記憶が瞬時に早送りされる。

 「・・な、なに?」 紫織

 「い、いま、猫」 サナエ

 「う、うそっ やだっ」

 「ど、どうする?」

 周りに走っている車はなかった。

 「ひ、轢いちゃったの?」

 「う・・・う・・・うん」

 「いや〜 ちょ、ちょっと。見てきてよ」 紫織。ムンク

 「え〜 だ、だってぇ〜」

 「み、見てきて!」 紫織。半泣き

 サナエは、渋々と車から出て、車の前に・・・・

 紫織は、恐々とシートの後ろから覗き込む。

  

 動物病院で・・・・・

 獣医が手術室から出てくると。小さく首を振る。

 「手術は、成功しましたが体力を消耗し切っているので、長くは持たないと思います」

 「そ、そうですか・・・・」

 紫織。どんより・・・・

  

  

 灰黒のアビシニアンタビー種系の雑種。

 3歳くらいのオスの野良猫。

 元気がなく、動かず。寝そべっていた。

 紫織がスプーンを口元に運ぶと、

 猫は、最上級のキャットフードを弱々しく噛んで食べる。

 車に両親を轢き逃げされた紫織は、ショックを受ける。

 力なく、うな垂れる猫に泣くしかない。

 「ごめんね。セイちゃん・・・ごめんね。セイちゃん・・・ごめんなさい。セイちゃん」

 紫織は、涙ぐむばかり。

 セイという名前は、生、精、盛、晴、凄、整、醒を掛けて付けていた。

 猫は、恨めしげに見ているのか、

 それとも怒っているのか、どこか寂しげで憂いがあるようにも思えた。

 紫織は、泣きながら、セイを撫でて詫びる。

 事情を察しているのか、佐藤エミ。安井ナナミ。沢渡ミナは何も言わずに手伝う。

  

 二日後

 セイは、介護の甲斐もなく逝く。

 そして、富田サナエと一緒に奈河川の土手に埋める。

 両親の交通事故とダブる・・・・・

 花を並べて、涙に目を腫らす紫織。

  

 数日後。

 紫織は、表面上、活気を取り戻していたものの、

 奈河川の土手に花を置き続けている。

 「・・・セイちゃん。お仕事に行くから。しばらくこれないけど、ごめんね」

  

  

 木枯らし吹き荒ぶハイウェー。

 自動車には、富田サナエ、紫織、シンペイが乗っている。

 依頼内容は、某県のお金持ちの洋館の調査。

 ここで、不思議な現象が起こると。

 こもれびの女狐に・・・

 いや、こもれびの化け狐。

 いや・・・・に依頼が届いた。

 人に言えない結構な金額に思わず。ニンマリする紫織

 オーラが見えるシンペイなら、楽勝だと高をくくる。

 「なんか本格的な探偵物じゃない?」

 「洋館の調査なんて」 富田サナエ

 「建物で怪奇現象だから。たぶん、地上げ屋の仕業ね。むふっ♪」 紫織

 「ひょっとして、老後の計算をしてる?」

 「・・・・・」 シンペイ。笑う。

 「半分は、ハイパーインフレに備えてドル建てにして・・・」

 「てっ シンペイちゃんの方が取り分が多いんだからね」

 「いいな〜 わたしは、お留守番か」

 「他の依頼もあるから、がんばってね」

 「なんか、わたしたちの場合。地道だな・・・でも、大丈夫? 2人だけで」

 「まぁ〜 何とかなるでしょう」

 「さすが、こもれびのイタコ娘。怪奇物専門ね」

 「あ、あ、あんたね・・・しっかり前を向いて運転しなさい!」

 「はいはい」

 「・・ったくぅ〜」

  

  

 別名、笹波洋館

 佐竹邸は、生唾を飲むほど大きな3階建。

 庭木の多くが竹林。

 旧華族の系統で日露戦争と第一次世界大戦で莫大な資産を持つ、

 現在、低迷して4店舗の雑貨商。

 富田サナエが帰っていく。

 『・・・さすが、自由資本主義』

 紫織は、ぼんやり見上げる。

 メイドの浅田ヒカル21歳が迎えに出る。

 「お待ちしていました。どうぞ」

 紫織が行こうとすると、シンペイが遅れていることに気付く。

 「・・・ほら、行くよ。シンペイちゃん」

 「う・・・うん」

 シンペイは、怪訝そうに洋館を見て呟く。

 「先に部屋に案内するので荷物をお持ちします」

  

 洋館全体に監視カメラが付けられていることがわかる。

 そして、この辺りが郊外の避暑地。

 資産価値は、高くても地上げの可能性については疑問が持ち上がる。

 既に地上げ屋の動きは、茂潮の調査でわかっていた。

 ここ一帯に北奉系列が大型住宅団地の建設を計画しており、

 まだ、調査段階で目立った動きはない。

  

 紫織の部屋とシンペイの部屋は、隣り合わせ。

 6畳。シャワールームが別に付いて清楚な感じだった。

 ちょっとしたリゾート感覚だろうか。

 窓から外を見ると庭が刈られ、竹林が秋風に揺れている。

  

 佐竹エイゾウ 67歳

 佐竹ヒナコ 54歳

 長男 イゾウ 35歳

 妻 ヨシコ 28歳

 次男 ジロウ 30歳

 長女 サオリ 26歳

 メイド 浅田ヒカル 21歳

 吉村サキ 20歳

 庭師 梶田サブロウ 50歳

 この豪邸に住んでいるのは、7人。

  

 他に雑貨商の店長の4人。

 上総シロウ 34歳。

 三田イチロウ 40歳。

 島田ヨシト 36歳。

 戸塚ナオコ 33歳

 弁護士の駒村サイゾウ 49歳が立ち寄る。

 ほとんどは、事前に調べていた。

 パソコンをLANに繋ぐと、茂潮に繋がる。

 特殊な暗号を使ったネットワークで普通ならわからない。

  

  

 そして、一階の広間で昼食を取りながら屋敷の住人と簡単な挨拶を交わす。

 そこに、一ツ橋サツキ!!

 「・・・・・・刑事さん?」

 「縁があるわね。紫織ちゃん」

 「何で、ここに?」

 「ここ旧華族でしょう。わたしも旧華族の系統なの・・・」

 「昔は、遊びに来てたけどね」

 「実はね。サツキ君の紹介で君たちに依頼したんだ」

 「どうにも、弱ってしまってな」 当主 佐竹エイゾウ 67歳

 「・・・お話しは、事前に受けています」

 「他に怪奇現象で思い当たることはありませんか?」

 紫織は、ノートパソコンで確認する。

 「昨夜も、ポルターガイストが遭ったよ。俺は、もう家を出るからな」 次男 ジロウ 30歳

 「わたしたちも・・・・」

 長男 イゾウの妻 ヨシコ 28歳が遠慮がちに呟く

 長男 イゾウも右腕を包帯で釣って、やつれた様にうな垂れる。

 数日前。風邪で寝込んだ梶田サブロウ

 50歳の代わりに庭の手入れをして、脚立から落ちたのだ。

 「ポルターガイストが始まったのは、2週間前からだ」

 「このままでは、我が家は、廃屋になってしまう」 当主

 佐竹エイゾウ 67歳が、ムッとしながら長男を睨みつける。

 「もう、売っちゃおうよ。不動産屋さんが買いたいって言って来たでしょう」長女 サオリ 26歳

 「この通りだ。メイドの二人も止めたがっている」

 「代わりが見つかれば、そうなるだろう」 当主 佐竹エイゾウ 67歳

 「ねぇ〜 カツミ。本当にこんな、子供二人に任せて大丈夫なの?」

 「こっちがバカみたいじゃないの」 長女 サオリ 26歳

 サオリがカツミに文句を言う。

 「それは、解決された場合? 確かにそうね」 サツキが笑う

 「もう〜 どうでもいいわよ。解決できればね」 長女 サオリ 26歳

  

  

 竹林の庭の中。

 紫織とシンペイ

 「シンペイちゃん。どう?」

 「・・・・・・」 シンペイは、挙動不審

 「何よ?」

 「・・・・なんか。変なんだ・・・・」

 「何が?」

 「たぶん、佐竹ジロウは、人を殺していると思うよ」

 「う、うそ〜 なんで・・・」

 「わからないけど」

 「ちょっと・・・ただの怪奇現象の調査なのよ」

 「殺人事件となんか関わっていられないよ」

 「・・・怪奇現象と関係があったら?」

 「うそっ!!」

 「わからないけど」

 「じょ 冗談じゃないわよ。帰る!」

 しかし、一度引き受けた依頼をお化けが怖いからでは断れるはずもない。

 佐竹邸の監視カメラで撮られた映像が居間の大型モニターに流れていた。

 椅子が勝手に動き。

 皿が勝手に落ちた。

 コツコツという音が響く。

 紫織は、真っ青になりながら絶望的な気分で見つめる。

 ポルターガイストを起こして犯人を自首に追い込んだことは、何回もあった。

 しかし、本当のポルターガイストにお目にかかったことはない。

 すぐに茂潮に状況を伝えるが志向性の強い、

 波長を複数から当てて共振や振動を起こせば、不可能でないとのことだが・・・・

  

 そして、現実に紫織の目の前に置いてあったコーヒーカップが不意に動き出し、

 位置を変えると絶句する。

 思わず、シンペイの腕に掴まる紫織

 「ちょっと、どういうこと?」

 「・・・なんか、いるような。感覚がするけど」

 「ど、どうしよう」

 「犯人を捕まえたら、収まるかな?」

 「うぅ しょうがない。一ツ橋刑事に聞くか」

  

 佐竹邸

 一ツ橋刑事は、3階のテラスでコーヒーを飲み、くつろいでいた。

 旧華族出身も頷ける。

 そういう、たたずまいと落ち着きがある女性だ。

 紫織が、なんとなく。近付き、テーブルに着く。

 「・・・・殺人事件?」 一ツ橋サツキ

 「そう」

 「ここのところは、なかったけど」

 「それは、行方不明で死体が見つかっていないということね」

 「まあ、何割かは、そうなるわね」

 「この近くで行方不明の事件は、ないかしら?」

 「・・・・・それが、ポルターガイストと関係があることなの?」

 「ここ、一ヶ月から2週間の間」

 「・・・・どうやら。あなた達を誤解していたみたいね」

 「・・・あのね・・・一ツ橋刑事に手柄を一つ、あげるというのに、そういうことを言うわけ?」

 ・・・・・一ツ橋刑事の顔色が変わる

 秋風がすぅーと流れ。

 一ツ橋刑事が手を差し出す。

 紫織が握手で応え。

 同盟が成立。

  

 紫織の部屋。紫織とシンペイがいる。

 紫織のノートパソコンに警察からの情報が入ってくる。

 一ヶ月前。火事で焼け出され、

 唯一生き残った魚島サオリ 15歳が二週間前に養護施設から行方不明。

 写真を見ると顔が整っていたが寂しげで古い西洋風アンティーク人形を抱えている。

 紫織は、自分と似た境遇の魚島サオリに同情する

 「どう? この娘」

 シンペイが頷いた。

 「・・・た、たぶん・・・・良くわからないけど」

 「た、頼りにならないわね」

 「うんん・・・・写真だし。オーラというのと違うような気がするな〜」

 「とりあえず。家の中を見て回るからね」

 「応援は?」

 「いま、ローテーションで空いている人いない」

  

 紫織とシンペイは、吉村サキに案内され、恐々と佐竹邸内を歩き回る。

 一階は大広間があって、他に5つの部屋。

 二階と三階は、部屋が7つずつ。

 まったく使われていない部屋もある。

 贅沢だが掃除にかかる時間を計算すると呆れる。

 当主の佐竹エイゾウ 67歳に貰った予備のマスターキー。

 時々、何か物音がする。

  

 『幽霊屋敷だ〜』

 紫織は、いつの間にか、シンペイのすそを掴んでいた。

 恐る恐る、部屋を一つずつ見て回る。

 「ねぇ 吉村さん。怖くないの?」

 「こんなふうに時々、音がするの?」

 「こ、怖いわよ」

 「代わりが見つかるまでの約束で、お給料倍にしてもらったから。いるだけで本当は辞めたいのに・・・・」

 メイドも恐々と歩く。

 紫織は、あたりを見て誰もいないことを確認する。

 監視カメラはあるが監視室の鍵を持っているのは、当主と紫織だけ。

 「そ、そうなんだ・・・・ねぇ〜 吉村さん」

 「何?」

 「ここ、一ヶ月から二週間の間に次男のジロウさんの様子で変わったことはなかった?」

 「・・・一ヶ月・・・・普通かな・・・二週間・・・・二週間前は、なんか、楽しげな感じだったけど・・・」

 「ポルターガイストが始まると」

 「急に落ち込むようになったみたい。でも落ち込んだのはみんな同じだけど」

 「素行なんかは?」

 「素行は、結構、粗暴だけど表向きかな」

 「こっちがはっきりした態度を取れば気弱い感じ」

 「ふ〜ん」

 「何?」

 「出て行くって言ってたけど。当てがあるの?」

 「んん・・・家を出たいって言うのは、ポルターガイストのせいだと思うけど」

 「当てがあるとしたら西の離れにあるプレハブ住宅かな」

 「昔、無理を言って作ってもらったみたい」

 「あそこに直接、自動車をつけて寝泊りしていたときもあったけど・・・・」

 「ポルターガイストが始まってからは、ずっと、こっちに自動車をつけて、こっちに寝てる」

 「やっぱり、一人だと怖いよね」

  

  

 夕食は、黙々と食べるだけだった。

 時折、物音が建物のあちらこちらから聞こえてくる。

 「・・・・おい! 探偵。どうなんだ?」

 「この怪奇現象の原因は、わかったのか?」 次男 ジロウ

 「ぼちぼち」

 座が動揺する。

 「ほ、本当なんでしょうね」 長女 サオリ

 「ぼちぼち、なんて、本当は、全然。わかってないんじゃないのか?」 次男 ジロウ

 紫織は、なんとなく苦笑いする。

 大きな物音がして、どこかのガラスが割れる。

 この家にいる者は、慣れてしまったのか、麻痺したのか。

 様子を見に行こうともしなかった。

 「・・・・なるべく早く。お願いね」

 当主の妻 佐竹ヒナコが気味が悪そうに呟く。

  

 シンジと紫織。

 メイドの浅田ヒカルが二階の割れたガラスの部屋に行く。

 電気を点けると窓ガラスが内側から外側に向かって割られていた。

 食堂には全員が揃っていた。

 「・・・防犯ガラスなのに」 浅田ヒカル

 「う、うそぉ〜」 紫織

 紫織は、市販の防犯ガラスがどういうものか知っていた。

 広告で防犯ガラスを割る仕事を依頼され。

 ハンマーを使って、何度も叩いて割ったのは、30分後。

 「本当に防犯ガラスなんですか?」

 「え、ええ。ここ、二週間で、ほとんど、一度は、割られたから・・・」

 「たしか、業者に頼んで、防犯ガラスに張り替えたけど・・・・・」

 紫織は、カメラで一通り撮影。

 浅田ヒカルが散らかっているガラスを片付け始めた。

 窓から外を除く。

 ほとんどの破片は、外側のテラスに落ちている。

 内側から破壊した。そう見える。

 一度で割れるようなガラスではなかった。

 お化けが強くても、そんな強い力があろうはずがないと紫織は思いたかった。

 しばらくすると、長男のイゾウが恐々と覗き込む。

 「大丈夫ですか?」 長男の イゾウ

 「えぇ もうすぐ片付きますから」

    

 夜。

 茂潮からメールが入る。

 “精神波が物質に影響を与える程度は、たかが知れている”

 “人の言葉や精神が植物に与える影響は、実験で確認されている”

 “そこから、帰結される力は、ガンを誘発したり”

 “アトピーを増長したりといった程度で健康であれば治癒できる”

 “幽霊に防犯ガラスを割る力があるかは、疑問”

    

 富田サナエからメールが入る。

 “例の物は、明日一番に借りに行き、そちらに持っていきます”

   

 紫織とシンペイは、佐竹邸の巡回をする。

 この大邸宅が便利なのは、6時以降。

 センサーが人の気配を感知すると自動的に通路に明かりがともる。

 それでも、念のために紫織は右手に懐中電灯を持ち、

 左手でシンペイのすそを掴んで見回る。

 時々、物音が聞こえる。

 住人は、自分の部屋に引き篭もって、布団を被っている。

  

  

 深夜

 紫織の部屋

 「・・・・シンペイちゃん。わ、わかっているでしょうね?」

 「わかっているよ」

 「な、何もしないでよね」

 「別に、紫織ちゃんじゃなくても・・・」

 「な、な、なんですって。ど、どうせ、沢木さんや、中山さんには、負けるわよ」

 「・・・・うん」

 「むっ ムカツク〜!」

   

  

 翌日。

 長女 サオリ。

 2階の自分の部屋から飛び降りて死んでいるのが発見された。

 一ツ橋刑事が警察に通報すると、慣れたように検死する。

 「・・・何しているの紫織ちゃん、シンペイ君」

 一ツ橋刑事が、遠巻きに見ている紫織に声をかける。

 思わず退く紫織。

 シンペイも、あまり近付きたくなさそう。

 「・・・・あんたたち、検死も出来ないのに、良く、これまで事件を解決してこれたわね」

 「じゃ 邪魔したら、駄目かなって・・・」

 「・・・・・・じゃ、二階の現場検証でもしてきたら」

 「でも、何も触っちゃ駄目よ。指紋をつけないように犯人にされるわよ」

 「は〜い」

 紫織とシンペイが二回へと上がっていくと警察のパトカーが入ってくる。

   

 長女 サオリの部屋は、密室。

 鍵は、中にあって扉は閉まっていた。

 そして、マスターキーを持つのは、当主の佐竹エイゾウを除けば、紫織しかいない。

 飛び降りたのは、死亡推定時刻から夜中の3時。

 念のために行政解剖が行われる、

 どう考えても、自殺。

  

 警察が引き上げると同時に雑貨店の店主たちが、お悔やみにやってくる。

 そして、富田サナエとハルがやってきて、ビニールに入ったシャツを渡した。

 「・・・ひょっとして、殺人事件?」 サナエ

 「・・・たぶん、自殺」

 「探偵物だと “始まった、始まった” って、思うけど。本当に起こると迷惑な話しね」

 「悪いけど、この邸宅の周辺を探って欲しいの」

 「ええ」

 サナエは、ハルにビニールの中の物を臭いをかがせると歩き始めた。

 残った家族は、消沈したのか、誰も気にしていない。

   

 ハルは、プレハブ小屋に寄った後。

 そのまま、佐竹邸の外に向かう。

 「・・・どこに行くの?」 一ツ橋刑事

 「もう一つ、あるわ」 紫織

 「な、何が?」

 「死体」

 「・・え」

 紫織は、携帯で取ったプレハブの中の映像を見せた。

 そして、魚島サオリの写真。

 同じような人形が映っていた。

  

 紫織、シンペイ、富田サナエ、一ツ橋刑事とハル

 そこは、佐竹邸から離れた森の中。

 人通りが少ないことが幸いして、臭いが途切れなかったらしい。

 そして、森の中で少し開けた場所。

 いかにも土を盛りましたという跡が残っている。

 ハルが、そこを掘り始める。

 「誰が犯人なの?」 一ツ橋刑事

 「・・次男のジロウさん」 泣き

 基本的に依頼者の利益を守るはずが・・・・

 「バカな男。人形を残して置くなんて」

 一ツ橋刑事は、携帯を出して、連絡を取る。

  

 「・・・・でっ。どうして、まともな検死も出来ないくせに」

 「この暴行殺人遺棄がわかったのかしら?」 一ツ橋刑事

 「・・・この近辺で、二週間から一ヶ月の間で行方不明になった人間で近い3人のうちの1人」

 「次男のジロウの行動範囲に一致したのが、この娘だけ・・・」

 「あんたね・・・無茶苦茶言ってない。どうして、この二人を結びつけることが出来たわけ?」

 「・・・そ、それは・・・・」

 「・・・振り子を使って、なんていわないでよ」

 「振り子なんか使っていないのは見てたんだからね。使ったのは犬でしょう」 一ツ橋刑事

 「ハ、ハル! ス、ストップ。ストップ! 戻れ!」

 ハルが掘っていた場所から、指のようなものが見える。

 紫織とシンペイは、思いっきり退いていく。

 一ツ橋刑事が呆れたように二人と遺体を交互に見る。

 紫織は、ハルに抱きついて目を逸らす。

 「楽しみだわ。推理ショーが・・・」 嫌味。

 推理ショーなんかやったこともない。

 もちろん、出来そうもない紫織は、苦笑いするしかない。

 まして、二週間前から幽霊が出るから、

 二週間以前、

 この屋敷の住人に行方不明者が殺されてたと思ったでは、小学生並みの発想。

 まず幽霊の存在を前提にするなど、探偵物ではあるまじき話しだ。

  

 到着した警察が遺体処理を進め。

 紫織とシンペイは、なるべく見ないように魚島サオリに手を合わせる。

 4人は、警察に後から佐竹邸に来るように取り決めをし、

 佐竹邸に戻ると異変が起きていた。

 プレハブ小屋の中の人形が消えている。

  

 慌てて佐竹邸に戻る。

 一階の正面玄関で佐竹ヒナコがナイフで刺され、息絶えていた。

 庭師の梶田サブロウが側で、おろおろとしている。

 どことなく、きな臭い、燃えているような臭い。

 きゃゃぁああ〜!!!

 悲鳴が聞こえる。

 一ツ橋刑事が悲鳴に向かって駆けて行く。

 そして、怖くなった、紫織とシンペイ。富田サナエ。ハルが付いていく。

 「サ、サナエ。電話して、電話!」

 メイドの吉村サキが血だらけで通路に座り込んでいた。

 「大丈夫?」

 一ツ橋刑事の声にメイドの吉村サキが肩を抑えて虫の息で頷く。

 「やめて!!」 長男の妻ヨシコ

 そこは、3階の一室だった。

 「やめなさい!」

 一ツ橋刑事が部屋に入ると、修羅場。

  

 部屋の中央。

 佐竹ジロウが血だらけの鉈を持って立つ。

 そして、佐竹エイゾウ。長男 イゾウ。妻 ヨシコ。メイドの浅田ヒカルの4人が、壁際で怯える。

 佐竹ジロウが怖い形相で、こちらを睨むと襲い掛かってくる。

 「ハル。アタック!」

 紫織の命令でハルが佐竹ジロウに飛びかかろうとする。

 一ツ橋刑事は、部屋に落ちていた目覚まし時計を投げつけ、

 佐竹ジロウが鉈で振り払う。

 その瞬間に一ツ橋刑事が懐に飛び込んで佐竹ジロウを投げ飛ばした。

 そして、シンペイがすぐに佐竹ジロウの関節を極めると押さえ込み、

 一ツ橋刑事が腕をねじ上げる。

 「・・・そこにある紐を取って!」

 一ツ橋刑事が逡巡した後、長男のイゾウに叫ぶ。

 非番中の一ツ橋刑事は、手錠を持っていない。

 紐でジロウを縛り上げる。

 そして、ようやく。火が広がっているのがわかる。

 下から煙が立ちこめて、外からサイレンが近付く。

 「みんな。急いで!!」

 一ツ橋刑事は、ジロウを引っ張り先導。

 佐竹エイゾウ。長男 イゾウ。妻 ヨシコ。メイドの浅田ヒカルの4人が続き。

 紫織、シンペイ、富田サナエも逃げ出した。

 煙は、次第に増えて周りが真っ白に・・・

    

 不意に気付いたとき、紫織は、一室の部屋のに紛れ込んでいた。

 サイレンの音は、聞こえている。

 そして、入り口のドアが閉まっていることを確認する。

 『・・・ど、どうして・・・』

 紫織は、部屋を見渡すとテーブルの上に人形を見つけた。

 ・・・・・・・証拠品。

 ぼんやりと人形に手を伸ばそうとする紫織は、何かに押されて倒れた。

 そして、気付く。

 辺りは、煙。

 一刻も早く逃げなければならない。

 慌てて、逃げ出そうとした紫織は、人形の方を見ると、

 そこに一匹の猫。

 ・・・・セイがいた。

 そして、魚島サオリが現実味のなさそうな姿を見せている。

 動揺する

 魚住サオリがセイを抱き上げると、セイは、大人しく。抱かれる。

 そして、セイと一緒に人形を睨み付け、魚住サオリがドアを指差す。

 紫織は、慌ててドアに向かって逃げ出した。

  

 一度だけに振り返ると、人形だけがテーブルに残されている。

  

 紫織は、最後に焼け出された。

 一ツ橋刑事が紫織を抱きかかえるように安全な場所にまで運ぶ。

  

 そして、消防車と救急車がやってきたが、間に合わず佐竹邸は、全焼。

 佐竹家で生き残ったのは、5人。

 佐竹エイゾウ。

 長男 イゾウ。妻 ヨシコ。

 暴行殺人遺棄の容疑。

 そして、殺人、放火で逮捕された次男 ジロウ。

 メイドの浅田ヒカル。吉村サキ。

 庭師の梶田サブロウ。

 あまりの悲惨さにかける声もない。

 とてもじゃないが調査料の請求もできそうにない。

 依頼を遂行することで依頼者に不利益を与えたのだから当然だろうか。

 そこまで悪徳になれないだろう。

  

 紫織、シンペイ、サナエ、一ツ橋刑事は、燃えながら崩れていく佐竹邸を見ていた。

 「問題ありだけど、協力していきましょう」

 一ツ橋刑事は、妥協した。

 「・・・・・・」 紫織

 二人は、握手する

 勢いを増した火の柱がさらに燃え上がる。

 『セイちゃん』

 紫織が呟く。

  

 その後の調査で魚住家の火事も不審火だった事がわかる。

 そして、紫織は、佐竹邸に近付かなかった。

 人形の写真は、一ツ橋刑事に渡している。

 分かれば、何か言ってくるはずだが何も言ってこなかった。

  

 奈河川の土手。

 紫織は、猫のセイを埋めた場所に花を二つ添えた。

  

  

  

     

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  

 月夜裏 野々香です

 ちょっと、これまでと、雰囲気が違いますね。

 初のオカルトものです。

 

 

 

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