月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第40話 『大陸の影』

 某空港を降りたビジネスマンが3人の男と合流するとベンツに乗る。

 「・・・わざわざ、呼ばれるとはな」 ビジネスマン

 「一部。誤解があるようなので」 男A

 「誤解?」

 「小娘のおかげで、日本での影響力が大きく後退した」

 「そして、市場が制限されたことも事実だ」

 「今後も敵対するか、判断を求められている」

 「ムーロン。15歳の娘と癒着しろと?」 男A

 「あまり、関わりたくないな」 ムーロン

 「とりあえず。本人を確認していただいて、今後の対応を検討すべきかと・・・」 男A

 「悪党にも悪党のルールがある」

 「互いに私腹を肥やして利益を守るというルールだ」

 「正義感で、どう動くか、わからないような子供は、交渉にならんよ」

 「しかし、榛名社、安井組とは、ある種の秘密協定を取り交わしているようで」

 「意外と話しがわかるかもしれませんが?」

 「奈河市から麻薬を排除するという協定が結ばれた。つまり、我々と敵対しているということだ」

 「では、消す。ということに?」

 「ふっ 日本人は、いつも物事を短絡に考える癖があるようだ。物事には、順番がある」

 「ここは、慎重に行く。小娘は、日本警察との関係が強く」

 「地場有力者やヤクザともつながりがある」

 「日本警察の体面を潰すと、今後の仕事が制限される」

 「外堀と内堀を埋めていくか、離反工作を検討しよう」

 

 車が止まる。

 公園でハルを散歩させている紫織とハルキ。

 「あの娘が “紫織”?」

 「ええ、そうです」

 「・・・・男の方は?」

 「ボーイフレンドのようです。資料にある三森ハルキです」

 ムーロンが資料と見比べる。

 「こちらは、金が入れば良い。分け合っても良い。争いがしたいわけではないのだ・・・・」

 「隙は、多いようだが現に失敗している」

 「佐藤財閥、安井組、榛名社と交渉してみるのもいいだろう」

 「・・・・・・・・」

 「山崎。折り合いが付けられるかね」

 「あいにく。大陸ほど腐敗していませんから。手間取りますよ」

 「元々、賄賂が馴染みにくい国ですから」

 「中国は、腐敗まみれの汚物のようなものだ」

 「しかし、日本は、別の意味で生き難い国だな。賄賂が通用しにくい」

 「むかしよりは、食い込みやすくなりましたがね」

 「まぁ、処女みたいなものだ」

 「だが食い込めないでいる。現に一定以上は、食い込めていない」

 「賄賂が通用しない人間が、いるということですよ」

 「普通は、賄賂をもらえる人間になりたいと思うものだがな」

 「日本人は、臆病ですから」

 「一人だけ。というより組織全体で利権を分配することは、抵抗がないようです・・・」

 「それだと高くつく。それに秘密漏洩も怖い」

 「確かに・・・」

 「もういい。行こう」

 ムーロンが言うと、車が動き出す。

   

  

 少し寂れたホテルの前で

 富田サナエに後輩が出来たのは悪くなかったが不良娘の鹿島ムツコだった。

 女子供とバカに出来ないのは、疑われにくいこと。

 身に覚えがある犯罪者でも女子供が張り込みや尾行をしていると思う者は、まずいない。

 そういうことなら富田サナエと鹿島ムツコの組み合わせもありだろう。

 遊び人の格好をすれば、さらに疑われない。

 少なくとも、沢木ケイコや中山チアキの様に美人然としておらず。

 その気になれば目立たなくすることも出来た。

 「浮気調査か」 鹿島ムツコ

 「浮気調査と素行調査は、探偵業の基本よ」 富田サナエ

 「佐藤や安井は、張り込み、やらないのかい」

 「佐藤エミちゃんは、無理ね。美人過ぎるから適性なし」

 「安井ナナミちゃんも、ヤクザとのパイプ役だし」

 「ヤクザも、使っているのかい」

 「アルバイトでね。ミカジメ料だけじゃ やっていけないし。結構、良いアルバイトね」

 「・・・・意外と手広いんだね」

 「奈河市周辺では、最強の探偵業者よ」

 「うそ・・・」

 「層は、薄いんだけど配給側だし・・・・・出て来た」

 撮影する鹿島ムツコ。初仕事。

  

  

 プールバー

 三森ハルキと紫織がナインボールに興じている。

 二人とも久しぶりのデート。

 「古賀は、甲斐高校を狙っているんだって?」 三森ハルキ

 「・・・うん。三森君は、光誠高校?」紫織

 「た、たぶんね」

 「わたしには、どっちも、無理かな」

 「がんばって、勉強すれば、光誠高校に入れるよ」

 「・・・・・・」 引きつる紫織

 奈河市周辺の高校で公私含めると

 上の上の宗仙高校。上の中の光誠高校。上の下の甲斐高校。

 中の上の道善高校。中の中の奉山高校。中の下の奈河高校。

 下の上の比叡高校。下の中の聖心高校。下の下の純清高校。

 に分かれていて、紫織の学力は、ようやく、奉山高校。

 それでも、一時は、聖心というボロボロな時期もあったほどで。

 佐藤エミがいなければ、いまだに聖心、下手をすれば純清高校だった。

 「角浦が勉強しやすいように店を手伝おうか?」 三森ハルキ

 「わ、悪いよ。アルバイトがいるし。三森君の勉強の邪魔したくないし」 紫織

 「まだ一年もあるから。そんなに焦ることないよ。探偵とか面白そうだね」

 「え〜 三森君はカッコ良すぎて張り込みとか、尾行したらすぐにばれちゃうから」

 「そ・・・そうなんだ・・・・」 ショック。

 「テレビの探偵物とか、警察物とか・・・」

 「無理と思う人が尾行したり、張り込みしたりするから、笑っちゃう」

 「格好が良くて、損することもあるんだ」

 「張り込みと尾行には向かないかな」

 「すれ違う人とかが自分の後ろばかり見たりしたら、誰だって気になって後ろを見たりするもの」

 「普通は、離れて尾行するんだけど。そうじゃない場合もあるから」

 「そうなんだ」

 「・・・わたしも、三森君と同じ光誠高校に行けたら良いのに」

 「きっと入れるよ」

 「でも、それだと、ライバルになっちゃうか」

 「いいね。それ・・・でも二人で入れば済むことだから」

 「でも・・・エミちゃんもわたしと同じ高校に入るって、言ってるから」

 「んんん・・・・それは、ちょっと。かな。でも、宗仙高校も考えているんだ」

 「すごい。この辺だと一番良い高校じゃない。わたし、無理」

 「ははは、でも、それくらいの意気込みで勉強して、光誠高校かな」

 「じゃ 余裕なんだ」

 「い、意気込みだけだよ。それくらいあれば、光誠高校にもいけるかなって・・・・」

 三森ハルキが店の奥の一点に集中する。

 高校生のカップルが隣に台に来る。

 「ハルキ・・・」 女子高生

 「・・・おねえちゃん」 ハルキ

 「ふ〜ん。角浦紫織ちゃんか」 女子高生

 「・・・・あ」

 紫織は、恋愛小説を売り買いする常連の女子高生を思い出す。

 「誰?」 男子高生

 「弟と弟の彼女かな」 女子高生

 「へぇ〜 また、奇特な組み合わせだね」

 「そうでもないよ。さあ、やろう。じゃあね。紫織ちゃん」

 「あ、はい」 紫織

 「・・・今日は勝つぞ」 男子高生

 「無理無理」 女子高生

 二人は、楽しそうにゲームを楽しみ始める。

 高校生のカップルは、高度な技の応酬だった。

 紫織とハルキは、先に終わって食事に行く。

  

  

 紫織とハルキは、なんとなく塞ぎこんでいたりする。

 「三森君のお姉さん。ビリヤード上手かったね。球をジャンプさせて落としたよ」

 「うん。本気みたいなんだ」

 「本気?」

 「プロを目差しているのかな。大会にも出たことある」

 「そ、そうなんだ。すごいね」

 「そうでもないよ。マイナーだし」

 「でも・・・店によく来る客だったから。びっくりしちゃった」

 「恋愛物ばっかり読んでいるけどね」

 「ふ〜ん。でも甲斐高校に行ってるから。頭は良いね」

 「良い高校に入ったからサボってるよ」

 「そういうのもあるかも」

 「結局。最終学歴が問題なんだ」

 「さ、最終学歴か・・・大学なんて、考えてなかったな・・・」

 「角浦は、大学に行かないの?」

 「んん・・・・まだ。考えてないかな」

 「大変なんだ」

 「お、お金なら・・・何とかなりそうだけど・・・頭のほうが大変かな・・・・」

 「・・・・・」 ハルキ

 「わたしが大学行ってないと三森君が恥ずかしいか」

 「そ、そんなことないよ。僕が見劣りするくらいだから」

 「そんなことないよ。さっきだって奇特な組み合わせだって言われたし」

 「僕が言われたと思ったよ」

 「そんなことないよ」

 紫織は、すれ違う女の子たちが奇異な目で自分を見ていることに気付いていた。

 足立クミコにリフォームされても土台の違いは、明らかで、

 ウィンドウに二人の姿が映ると、ため息しか出ない。

  

  

 富田サナエは、ため息をつきながら運転。

 後部ミラーのシンペイと沢木ケイコを見る。

 助手席の鹿島ムツコは、良いとして、

 問題は、後部座席の沢木ケイコ。

 美人は、駄目だと言われ、しょぼい服と大きめの色メガネをかけている。

 しかし、そんなもので隠せるほど沢木ケイコのオーラは小さくない。

 曲がりなりにも大手プロダクション数社から引き合いが来ている女の子。

 つまり何を着ても光る。

 シンペイが鹿島ムツコと動くと聞いて、

 強引に乗り込んできたのだから相当な熱の入れようだろうか。

 当然、沢木ケイコと鹿島ムツコは、冷戦状態。

 どっちが強いのかというと鹿島ムツコは、沢木ケイコに間接を極められて決着がついていた。

 合気道で、大会に出るだけはある。

 美人で、頭が良くて、強いのは、どういう気分だろうか。

 車から出ないことで、とりあえず、同行だけは許される。

 なにしろ、尾行には向かないタイプだ。

 「・・・シンペイ君。今日は、どこに行くの?」 沢木ケイコ

 「ただの素行調査だから。それだけ」 シンペイ

 「ふ〜ん。シンペイ君。終わったらクレープ食べに行かない?」

 「臨時収入があったから、奢るよ」

 「臨時収入?」

 「道を歩いてたら写真を撮られただけ。雑誌が出たら見せてあげるね」

 沢木ケイコが名刺を見せた。

 「うん」

 鹿島ムツコは、ムッとしている。

 どう考えても沢木ケイコのやり方は言いがかり。

 鹿島ムツコは、別にシンペイを狙っていたわけではない。

 さらに沢木ケイコと男を取り合っても勝てるわけがない。

  

  

 こもれび商店組合会議

 酒ッ気がなくなって、久しい。

 こもれび商店街特産。

 こもれび小旅行本。桜焼き(桜の焼印が入った回転焼き)のおかげか、

 商店街の客足は、悪くない。

 せせらぎ商店街との競争で何とか戦えるというレベル。

 どちらかというと、市外から客を取り込んで両商店街とも発展している。

 しかし、それが、問題になる。

 「やっぱり、マンションの店舗は、大型チェーン店の出店が内定されているそうだ」

 「こもれび側で古本屋の大型チェーン店。パソコンショップ」

 「せせらぎ側は、スポーツ用品店。中華料理店」

 「ネット喫茶が入る予定だが同業者には辛い話しだな」

 客足は増えていたが、借金返済は、これから。

 当然、共同で借金している、こもれび商店街は、他人事ではない。

 一店でも潰れたら、他の店舗に負担が被さる。

 もちろん、こもれび古本店は例外。

 副収入が本業の利益をはるかに越えているだろうことは、誰にも想像できる。

 しかも共同で借金しているわけではないので、

 フリーの状態で新規参入店を迎え撃つことが出来る。

 「・・・なんとか、特色のある商品を考え出さないと厳しいぞ」

 沈痛な沈黙が漂う。

 そんなに簡単に商店街特産の商品が出るわけがない。

 「しかし、マンションの住人の購買力は大きいから」

 「基本的には利益は上がるだろう。それに他の町からも集客が見込める」

 「計算上はそうだが・・・・・・」

 紫織は、他人事の様に聞いていたことからも、

 大手古本屋チェーン店を脅威と感じていないのがわる。

 事前に、せせらぎ古本店と、いくつかの文庫を住み分けていた、

 しかし、それだけではなかった。

 実のところ、店の本がまったく売れなくても全然困らないほどの収入。

 依頼を右から左に持っていく。

 紹介料だけで食べていける。

 初動捜査で的中率が高ければ、なおさら。

 依頼の配信側ということは、そういうことだ。

 そして、シンペイは、隣で、のほほんと、お茶を飲んでいる。

 『・・・・シンペイちゃん。珍しいじゃない。会議に出るなんて』

 『一度、顔を出せって』

 大人たちは、時折、この若い二人が気になるのか、ちらほら。

 当然だろうか、子供でありながら、とんでもない収入。

 そして、アイデアを持っているかもしれない、二人を気にしないはずがない。

 その気になれば大牟田市長、佐藤財閥、安井組の力を動員し、

 新規参入店をどうにでもできた。

 かといって、子供を当てにするのも気が引けるのか、誰も、何も、言わない。

 紫織は、自分の力で排除できる新規参入店なら排除する気になれない。

 いるだけで、テナント店を妨害し、

 マンション自体を安く買い叩くようなヤクザな真似がしたいわけでもない。

 排除できないレベルの新規参入店の方が怖く、

 成り行きに任せることに決めていた。

  

  

 こもれび公園

 幸城ショウタは、ぼんやり、くつろいでいる。

 正面には、元レンジャーの隊長と、内調の役人がいる。

 「・・・広東人の勢力が拡大している。福建人や朝鮮人との小競り合いが増えている」

 「それで、彼らの動きを事前に知っておきたいのだが・・・・」 内調

 「・・・中国で犯罪を犯せば、中程度の罪でも即行で死刑」

 「刑務所での扱いも酷いもので人権という概念すらない」

 「ですが日本で犯罪を犯しても死刑になるのは重犯罪のみ。刑務所も楽園」

 「どっちで犯罪を犯した方が良いか、誰でもわかるでしょう」

 「彼らの侵入は止まりませんよ。わかりきったことでしょう」 幸城

 「現行法では、対処できない。わかっているがね」

 「これ以上、事態を悪化させると政府も困る」

 「それで、わたしに日本のヤクザ組織を固めさせ、外国勢力を削ぎ落とさせて」

 「あなた方は、知らぬ存ぜぬですか?」

 「まさか、政府が直接、ヤクザに依頼をするわけにもいくまい」

 「暴対法。日本の暴力団に足枷した結果」

 「大陸・半島系マフィアの台頭と増長を招いたことは?」

 「国民を守りたいのですよ。ヤクザを守りたいわけではない」

 「その結果、大陸系の新規参入プレゼンテーションがトライアングル殺人パズルでしょう」

 「結果的には、大陸・朝鮮系の議員・官僚・財界を大量に処分できた」

 「ああいう失態でもない限り、処分は難しい」

 「大統領並みの権限があれば一人で決められることを」

 「議院内閣制だと議会の賛成多数が必要になる」

 「つまり、どんなに優秀な執政者でも無能にさせられる」

 「そして、どんな無能な執政者でも、なんとか、なってしまうのが日本の政体だ」

 「いっそのこと、量刑を強化したらどうです」

 「建前上。基本的人権があるだろう。まさか、中国並みにというわけにも行くまい」

 「内閣も人道を踏み外せば、お終いだよ」 内調

 「奇麗事ばかりで・・・・・そのシワ寄せが、こちら側ですか?」

 「報酬は、十分なはずだよ。成果に応じて報酬は加算されていく」

 「・・・十分ですか?」

 「財界の方が、もっと、金払いが良いですし」

 「連中の方が、もっと、待遇が良いようにも思えますね」

 「しかも、不利な上に、死して屍拾うもの無しでは、浮かばれませんね」

 「・・・君も、一度は、日本の国防を担った男だ。そこを何とか頼みたい」 元隊長が頭を下げる。

 「家族持ちには条件が厳しすぎませんか」

 「もう少し色をつけてもらえませんかね。お得意でしょう」

 「杓子定規で我田引水は、帳簿上ならどうとでも付けられるじゃありませんか」

 「・・・報酬の方は、再考しよう」

 「しかし、君には貸しがあったはずだ。忘れないでくれたまえ」

 「その分は、差し引きましょう」

 「しかし、国家の奴隷になるつもりは無い。お分かりでしょう。公僕さん」

 「・・・前向きに善処させていただきますよ」

  

  

 こもれび古本店

 「・・・・お父さんを助けて欲しいの」 女の子。涙目

 紫織は、ため息混じり、8歳ほどの珍客を見詰める。

  

 二日前。

 2つ隣の久喜町のパチンコ店の店員が銀行にお金を振り込みにいく途上に襲われた。

 店員が殺され、お金を奪われた事件があった。

 そして、この子の父親が犯人として、警察に捕まる。

 どう考えても、お金は、もって、なさそうで、無職の父親も社会的弱者だろうか。

 金には、ならないだろう。

 母親は何をしているのだろうか。

 とはいえ、客の目があるために無碍に断れない。

 泣きたくなるのは、こっちだろう。

 と思いながらも、引き受けてしまう。

 『このガキが確信犯だとしたら、相当な切れ者だ』

  

 どんよりとしながら、紫織とシンペイが弁護士と一緒に県警に行く。

 「それで、ただ働きなんだ」 シンペイ

 「せ、宣伝費よ。宣伝費!」 紫織

 「宣伝費って、仕事減らさないと三森君とデートできないって、言ってなかったっけ」

 「ひ、必要経費よ。必要経費」

 「身の丈が大きくなれば、公共への奉仕は、必然的に起きるの」

 「必要経費ね・・・・・」

 倉橋タイチ 37歳は、マジックミラーの向こう側で取調べを受けていた。

 『おまえが、やったんだろう』 刑事

 『違う。やっていない』 倉橋

 『あの通りで、何をやっていたんだ』

 『通りかかっただけだ』

 『それで・・・逃げたのか』

 『か、関わりたくなかったんだ』

 『ふぅ〜・・・・・・』

 『本当だ。俺じゃない。信じてくれ』

 『・・・・・』

 『・・・・』

  

  

 マクドナルド。

 外は寒風で、冬になりつつあった。

 ムッ!

 とする紫織とシンペイ

 ・・・・・・・冤罪。

 さらに県警のトイレで警官達が検挙率で、ぼやいていたの聞いたのだ。

 ノルマを達成させるために安易にそれらしいと思える人間を犯人にしていただけ。

 「本当に犯人じゃないの?」 紫織

 「うん、犯人じゃないよ」 シンペイ

 「ったく、いくら予算が決まっているからって変死者の検死率は低いし、検死もいい加減だし」

 「事故死や病死にして殺人事件を減らして、犯罪率を減らしているだけよ」

 「腐ってんじゃないの警察」

 「一部だと思うけど・・・」

 「どっちが一部よ」

 「あはは・・・・」

 「ったく。冗談じゃないわよ。ただ働きの上に、警察と敵対なんて」

 「最近、こういうのばっかりだね」

 「人間、無能になると、ろくなこと、しないわ」

 「そのくせ、出世欲と保身だけは、一人前なんだから」

 「で、本当に警察と敵対するの?」

 「不味くない」

 「思いっきり不味いわよ。今後の仕事でも支障が出るし。金にもならないんだから」

 「だいたい、多数派に付く。長いものに巻かれる。というのが日本の常識よ」

 「警察も面子があるみたいだし」

 「冤罪なんて認めたら、出世にも響くし」

 「県警も予算減らされて、痛手だもの。簡単には認めないわね」

 奈河小学校のイジメ。淀中のイジメの経験で、推測できた。

 学校も、社会も、人間の行動パターンは、同じ。

 「でも・・・真犯人を上げないと警察も退かないんじゃない」

 「ちっ! 警察まで社会的弱者をカモにするなんて」

 「前科の収賄も上からの命令なのに尻尾切りされたみたいだし」

 「今度は、たまたま、事件現場にいて巻き込まれただけみたいだから不運だね」

 「佐藤家も、安井組も、大牟田市長も、正面から警察と事を起こすのを嫌うだろし・・・・」

 「金にもならないで警察と敵対できて、頼りになりそうなのは?」

 「・・・一人いるわね。偽善や事実を金に換える錬金術師が・・・・・・」

  

  

 JAN局 社会部

 水島アヤノ

 県警を前に水島アヤノがレポーターを始める

 『・・・久喜町のパチンコ店の店員が銀行にお金を振り込みにいく途上、襲撃され』

 『殺害された強盗殺人事件ですが・・・』

 『現在、被疑者、倉橋タイチが取調べを受けています』

 『しかしここで疑問が発覚しました』

 『容疑者、倉橋タイチが殺害時刻にいたことは確かですが』

 『証拠となる物証である登山ナイフとの繋がりが無いことが判明』

 『また、襲撃した相手がパチンコ店の現金を運んでいた事実を知らなかったことから』

 『初動捜査に疑問が生じていることです』

 『警察は、これらの疑問を隠匿する動きを、このメールで判明しています』

 県警内でやり取りされた。メールの束を公表する。

 これらは、茂潮が県警内のコンピューターに入り込み、

 メールを水島アヤノに転送させたものだった。

 こもれびの二階で、紫織と倉橋メグミ 8歳が、その報道を見ていた。

 「・・・これで、たぶん、釈放されるはずよ。メグミちゃん」

 「ありがとう。紫織お姉ちゃん」 倉橋メグミ

 なんとなく “紫織お姉ちゃん” という単語に感動する。

 天涯孤独の紫織には、特別な響きだろうか。

 翌日、公判を維持できないと悟った県警は、倉橋タイチを釈放。

 初動捜査の誤りで犯人の捜査は困難になっていく。

  

  

 馬宮刑事と広瀬刑事の張り込み

 「やっぱり、メールの転送は、こもれびの仕業だな」 馬宮

 「県警のネットワークにまで侵入されるなんて」

 「Bファントムは恐ろしいですね」 広瀬

 「アメリカ国防省やCIAのメインコンピューターにまで入り込むことが出来る人間だぞ」

 「県警のネットワークに入り込むなど簡単なものだ」

 「おかげでバカ課長はともかく」

 「こっちは巻き込まれて、別件で減俸じゃないですか。上から睨まれてしまうし」

 「思い込み捜査の典型だな、しかもプライドばかり、高すぎる」

 「“こもれび” も、どうせなら、真犯人も挙げてくれれば良いのに」

 「おいおい、公僕の面子があるだろう。それを言うな」

 「しかし、初動捜査で失敗すると。あとが、きついですよ」

 「とりあえず。課長の目を盗んで他の被疑者も洗っていて良かったな」

 「本当ですよ」

 「しかし、また、モラルが下がるな・・・・・」

 しょんぼり

  

 

 三十路銀行社長の娘の誕生会

 紫織は、富田サナエと一緒に大牟田市長に誘われて参席。

 特に事業を拡大する気もなかったため銀行と仲良くしたいとも思っていない。

 しかし、市長との付き合いを断るのも、これが問題になる。

 そして、誕生会は口実で、

 県警の署長、安斎ケイジと顔合わせが目的と気付かされる。

 「・・・・これは、角浦さん」 県警の署長 安斎ケイジ

 「ど、どうも、署長さん」 紫織、引きつり

 「ご活躍のほど、耳にしていますよ」

 「いえ、ほとんどは、配信しているので直接は、少ないです」

 「いや、お若いのにたいしたものだ」

 「もし、よろしければ、お互い協力関係を築いていきたいですな」

 「ええ」

 「もし捜査上で問題があれば “直接” 県警に連絡していただければ、善処しますよ」

 「お互いに重複している部分もあるようですから」

 紫織は、署長の安斎ケイジと名刺を交換する。

 警察は、紫織が冤罪事件を報道側にリークしたことを不問。

 協力関係を構築する方が得策になったらしい。

 中学二年生の女の子とすれば、破格の待遇だろうか。

 紫織は、奈河市を核にしたローカルエリアに限れば、政官財で強力なラインを作ってしまう。

 今回のような場合、直接、圧力をかけ、捜査方針に介入できるのだろうか。

  

  

 数日後。

 富田サナエは、大学入学資格試験で合格。

 来年の大学受験も出来ることになった。

 「良かったじゃない。サナエ。来年は、大学生になれるかもね」

 紫織は、暇潰しにサナエの合格発表を見に来ていた。

 「どうも」

 サナエにすれば、別に嬉しいわけではない。

 探偵業で、大学卒が有利だから入学するだけで、大学に行きたいわけではない。

 サナエの携帯に依頼が入ってくる。

 スケジュールを計算しながら他の探偵業者に振り分ける。

 実務で依頼と配信の振り分けをしているのはサナエで、

 これは、専属で無ければ、出来ない仕事。

 そして、大学の入試勉強をしながら、この仕事が出来るのは、基本的に頭が良いのだろう。

   

  

 萌え喫茶 “萌え萌え”

 茂潮とシンペイ。石井ショウヘイが頬を赤らめながら。ニタついている。

 そして、萌え語が店内を飛び交う。

 某アニメ、最強のレイ風メイドが来る。

 「・・・ご主人様。今日は、何になされますか?」

 茂潮、シンペイ。石井ショウヘイは、萌え萌え状態で幸せを満喫している。

 「ええぇ〜と・・・・ナデナデを・・・・」

 茂潮が、恐る恐るレイ風メイドの頭をナデナデ。

 因みにナデナデは、アメリカンコーヒーのこと。

 「ありがとうございます。ご主人様」

 「じゃ ぼ、ぼ、僕もナデナデ・・・・」

 シンペイ、手が震える

 「ありがとうございます。ご主人様」

 「あ・・・僕もナデナデ」

 石井ショウヘイ、朦朧としている。

 「ありがとうございます。ご主人様」

 えへへ。

 漢の夢が叶って、茂潮、シンペイ、石井ショウヘイは、真っ赤になる。

 「「「綾波〜」」」

 茂潮、シンジ、ショウヘイは鼻血。

 変態。萌え萌えモード突入。

  

  

 楠カエデが人事で本庁勤務になってしまうと、

 こもれび探偵団のローテーションも厳しくなっていく。

 楠カエデ、榊カスミ、萩スミレは、バーにいた。

 「楠先輩〜 本当に本庁に行っちゃうんですか?」 萩スミレ

 「うん がんばってね」

 「うぅぅ 寂しいです〜」

 「結局、キャリアか・・・・」 榊カスミ

 「そうね〜 でも、時々、こっちに来るかもしれないけどね」

 「それは、広域捜査の時じゃない」 榊カスミ

 「こっちで広域捜査あるときは、楽しみね」

 「探偵は、どうするの?」 榊カスミ

 「本庁でも協力できるわよ。というより、して貰おうかしら」

 「茂潮は、連れて行くの?」 萩スミレ

 「・・・・」 楠カエデ

 「茂潮の協力がないと痛いんだけどな〜」

 「はっきり言って、こもれび探偵団は、茂潮とシンペイ君で、もっているのよ」 榊カスミ

 「た、楽しかったんだけどね・・・・」

 「まぁ キャリアで交通課に干されても、めげずに頑張って来たんだから何も言えないんだけどね・・・」 榊カスミ

 「ここは、二人に結婚して貰って副収入を維持するということで・・・・」

 「あんたね。人の人生を何だと思ってんのよ。何で、あんなロリコン変態オタクと」

 「あはは」 萩スミレ

 「ったくぅ」

 「捜査第二課だっけ。知的犯罪捜査ね。茂潮がいると楽よ」 榊カスミ

 「・・・・・」 楠カエデ

 「うん、うん」 萩スミレが頷く。

 「そうそう。世のため人のため。出世にも直結しているし。人間、あきらめが肝心」

 榊カスミも頷く

 「うん、うん」 萩スミレが頷く。

 「・・・・人身御供か、わたしは〜」 楠カエデ。泣き

  

  

 

 新川開発区

 大規模な開発が行われ、新規の工場や新興住宅が建設されていた。

 深夜。

 馬宮は、広瀬に肩を貸していた。

 二人とも血を流し、足を引き摺りながら歩く。

 「広瀬・・・・済まんな」

 「・・・本当ですよ・・・このままじゃ・・・殉職ですよ」

 「殉職なら・・・死体が・・見つかるということだ・・・」

 「・・葬式だけは・・・・あげて・・・・・貰えるな」

 「はは、はは・・・・行方・・・・不明・・・・ですか?」

 「わかって・・・・いるだろう・・・・広瀬」

 二人とも歩けなくなったのか、壁を背に座り込んだ。

 「・・・・ったく・・・・県警の・・・・ノンキャリアで・・」

 「・・・行方不明なんて・・・・カッコウが・・・悪すぎ・・・ですよ・・・」

 「そう・・・・だな・・・・」

 馬宮も、広瀬も、近付く、数人の男たちに気付いていた。

 しかし、ぼんやりと見詰めることしか出来なかった。

  

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第39話  『猫と人形』

第40話  『大陸の影』

第41話  『孤独の行方』

登場人物