第53話 『ライバル?』
廊下に張られた成績表。
学生の本分は勉強。紫織は、中の中。
誰かに責任転嫁して憂さ晴らしすべきだろうか。
自分の不幸を上げて、この世に復讐しても良いのではないか。
それとも、中の中の点数を良くやったと褒めるべきだろうか。
と、いろいろ思ったりもするのだが、ちょっと卑屈な諦め加減に落ち着く。
上の上の佐藤エミが隣に並ぶ。
「まぁ 良くも、ないけど、悪くもないわね」
「が、がんばった方よ」
「いつも言ってるでしょ。少し上を見なさいって」
「わ、わかっているわよ」
佐藤エミは、上流階級で成績が良く、容姿端麗。なんと羨ましい。
「・・・紫織ちゃんが望まなくても、社会が一定の知的水準を紫織ちゃんに求めているのよ」
「で、でもさぁ 出る杭は、打たれるって言うし。やっかみとか、世知辛くて・・・・」
「それは、各論。優秀すぎて自分の地位を脅かす者も困る」
「でも、総論でバカも困るのよ」
「それに圧力や妨害なんて。これまで通り、やり過ぎない程度に蹴散らせばいいのよ」
「・・・で、でも私の場合、ちょっと、違うかなって・・・」
「枠組みの中に入っても、枠組みから飛び出しても」
「どちらも、自分の居場所を会得する為、生きる力が必要になっていくの」
「勉強をサボって良い理由にはならないよ」
「そうだけど・・・・」
「力を付けた者は、生きる道を広げられ」
「力を付けられなかった者は、生きる道を狭められていく。当然ね」
「だけど、教室も、雰囲気が変わってきてない?」
「受験は運命の分かれ道。目標とか意欲で個人差があるけど」
「スタートをかけたら、友達同士でも、ライバルになっていくもの」
「節目か・・・・なんか、へこむな」
「惰性で流されるまま、節目に気付かなければ、そのまま崖っぷち」
「できる事といったら、慌ててライバルの足を引っ張るくらいかな」
「それ、なんか、殺伐過ぎない?」
「みんな、知らない場所と、新しい人間関係が怖いのよ」
「それと、夢と現実の差で苦しんでいるのね」
「エミちゃんは?」
「紫織ちゃんと同じところに行くから、暇過ぎ」
「な、なんか、悪よ」
「良いわよ。家、お金持ちだし。紫織ちゃんといると、楽しいし」
「大学で良いところに入るから。高校は、楽勝で特待生ね」
「良く私に合わせて、良い点を取れるのか不思議」
「紫織ちゃんに教えている時が復習で、わたし、いま、高校の教科書を読んでるもの」
「・・・・・・」
一緒に並ぶとわかりやすいのだが本来なら卒業まで相手にされないで終わる関係。
それが、経緯上、親友。
いつまでも昔を引き摺って入られない、三年も経つと時間が解決する。
奈河小の事件は、ほとんど忘れ去られている。
紫織の場合。いじめ事件より。
襲撃事件の恐怖がフラッシュバックするくらいだろうか。
いまは、惰性的な人間関係が残されているだけ。
佐藤エミとの関係は、お金の受け渡しが、影を落としている気がする。
本当の意味で親友なのだろうかと疑ったり。
親友という絆が強くなれば強くなるほど、お金の授受という楔が、大きくなっていく。
「・・・エミちゃん。なるべく良い高校に入れるようにがんばるから」
「そう」
少し微笑むが、あまり、当てにもしていないように見える。
焦りのない人間は、将来でも、ゆとりが、あるようだ。
しかし、大多数は、義務教育を巣立つ中学3年生になると目の色が変わりはじめる。
親の保護があって、良い高校に入れば楽だ。
自分本位で小賢しく刹那的に生活することもできる。
1年、遊んで。
2年、ちょっと勉強して。
3年で、次の大学受験を・・・となる。
3年毎のエスカレーター。
かじる脛があれば良いのだが紫織にはない。
自分の脛をかじっても痛いばかり。
いつの間にか、奨学金も不要なほど稼ぐ様になった紫織も安楽ではない。
古本屋だけなら中卒でも良いだろう。
しかし、大型古本チェーン店の進出など、浮世の厳しさから、そうもいかなくなっている。
最大の収入源は、ヤバイ仕事で守秘義務の関係から、やめる方が身の危険に繋がる。
今となっては、引き返せない状況。
なのに本人は、どこにでもいる女子中学生だったりする。
シンペイの様な特殊能力もなく。
茂潮の様な特殊技能もない。
佐藤エミの様な地場豪族系の人脈・金脈もなく。
安井ナナミの様な暴力系の圧力もない。
生きる道を切り開く為には高卒どころか、大学も目指して塞がった扉をこじ開けるしかない。
ある種の人間は、高卒を下層階級。
中卒を人間扱いせず。大卒さえ、疑われる時代。
誰がこんな世界を、と言いながら雇う立場だと大卒者を使いたがる。
容姿端麗なら学歴を埋められるが無理。基礎になる容姿レベルで標準。
体力は並みより、少し上だろうか。
知性、容姿、体力など個体的な優位性がないと唯我独尊は難しい。
他人を踏み躙りながら利用し、利益を得ていく手法もあるが可能な限り避けたい。
残された選択は、オーソドックスな道。
人の間で、翻弄されながら自立し、
相応に役に立ち、一生懸命に生きていく。
それが人間。
この時期、我が受験で煩わしかった取り巻きも忙しいのだろう、
紫織も、ほっと一息。
同級生は、自立している紫織を興味津々で見る。
沈んでいると、同級生も実社会が不安なのか、影響も大きい。
颯爽としていれば良いのだろうか。とんでもない勘違いだ。
学校の中でもそうなのだが実社会も、失望、色褪せた焦燥感がある。
良いことは数えるばかりで苦渋の選択、いやな思いが多い。
ニュースを見ているような事柄を肌身で感じる、というところだ。
受験生がニュースを見ているか定かではないが自立しても、かっこいいものでもない。
温室生活で、すねかじり、反抗期、も悪くない。
両親が生きていた頃の生活が甘酸っぱく楽しかった記憶で蘇る。
人間、そういう時期も、必要だと思いたい。
古今東西いかなる社会構造にも表と裏の側面が現れる。
若干の増減があっても比率でいうと、GDP国内総生産約500兆円 VS 地下経済22兆円。
表の世界の方が圧倒的に大きい。
表に出ない地下経済も確実に存在しているが裏の世界に金がとどまることはない。
表の経済から裏の経済へ資金が流れることもあり。
裏の経済から表の経済へと資金が流れることもある。
濃淡があっても、ここから表経済。
ここから裏経済という明確な壁も存在しない。
一般との境は、広範囲に広がって実態が掴み難く、
核心に触れようとすると、消されてしまうこともある。
“こもれび” 探偵団も、看板さえ存在していないのだから、
地下経済の比重が大きく、白・黒・灰色で混ざっている。
アルバイト料が表のものか。裏のものか。と言われれば収入比率で、かぎなく黒に近い灰色。
人間のエゴと負の感情が歪に具現化した地下経済は、いかなる世界にも存在し、
増減があっても消えることがない。
表沙汰になると、裏の人間ばかりか、表の人間でさえ困る。
丸菱商社
シンペイが出入り口の近くで社員名簿と出入りする社員を見ながら ○ と × をつけていく。
チラリとしか見ないため、不審がられても問題にならない程度。
企業は、合理主義を進め過ぎて同じ尺度で自らも否定される。
世襲や権威主義を否定され、
能力主義や実力主義を追求して自らも立場を追われて下克上。
こういう世相になると、利己主義が蔓延し、
自分本位で組織を破壊する者が増えてしまう。
人間は、誰しも潜在的な病気や、がん細胞を持つという。
自らの心身を管理できなければ病院行き。
当然、社会にも風邪の様な人間から、がん細胞のような人間まで多種多様で現れる。
企業も自浄能力で人事制御できなければ自らの矛盾で潰れていくか、
国や他社に管理されてしまう。
企業を大きいか、小さいか、で選ぶ時代でもなかろう。
健全かどうかを見定める時代だろうか。
不健全であれば、皺寄せが弱者へと向かう。
こもれび古本店 2F
刻々と減らされていく時間。
あらん限りの能力を振り絞って記憶に刻み込む。
ミスは、使った気力を萎えさせる原因にもなる。
無常に時を刻む秒針を見ながら、何度も反復してギリギリまで要点をおさえていく。
「・・・はい」 佐藤エミが、手を差し出す。
「・・・・・・」 紫織は、渋々と教科書を佐藤エミに渡す。
佐藤エミが、内容を質問していく。
単純な、誰が?、いつ?、どこで?、何をした? どうして? 関係などなど・・・・・
まず読んでいないと応えようがない。覚えていなければならず。
筋書きから、個々の人間像の動機から行動。
さらに登場人物の相互関係まで・・・・・
次第に答える要領が悪くなり、曖昧になっていく。
「主人公は、どうして? Kの善良に付けこんで利用したのかしら?」 佐藤エミ
「・・り、理由があるから・・・」
「どんな?」
「・・い、いろいろ」
「いろいろって、何?・・・」
「え〜ん・・・」
紫織、泣きが入る。
「読んで」
「違う!」
「何が?」
「何かが!」
「何が、違うか言ってみて・・・・・」
「・・・・・・・」
と、紫織の目の前に教科書が返される。
「あ〜ん いつまで続くの?」
「私の質問に全部、答えられるまで何十回でも、何百回でも読むことになるわね・・・」
「ひどい〜」
「あら、夏目漱石の “こころ” 傑作よ」
「人のエゴと良心の呵責を自然に書けているもの」
「何回読んでも損はないわ」
「ふぇ〜ん」
『・・・私のエゴで教科書検定から “こころ” を外してやる〜』
佐藤エミの教え方は、国語重視の絨毯爆撃型だろうか。
理数系の沢木ケイコの波状爆撃型。
中間的な中山チアキの精密爆撃型。
三森ハルキが、絨毯爆撃型と精密爆撃型を足して割ったような感じで、
4人とも、自分なりの勉強法を確立している。
塾に行ってないのに頭が良い。
自分に合う勉強法を確立していない紫織は、ひたすら教わるしかない。
「文書で覚えるより。何を書いているか、流れを読むことね」
「何百回も、聞いたわよ」 ぶすぅ〜
「もっと言って欲しいのかしら」
「・・いい・・・・あ・・・・来た」
パソコンにメールが送られてくる
「・・・丸菱商社の格付」 紫織
覗きこむ紫織とエミ。
公にされている格付けもあるが、より、深い情報に基づいた格付けもあったりする。
「・・・格付ランキングでいうと丸菱商社は、健康体といえないけど不健康でもなさそうね」 佐藤エミ
「派閥争いは根腐れまで、いってないということね」
「ライバルの三紅が派閥争いを煽って、潰しにかかっている節もあるわね」
「・・・・あらら・・・・知らぬが仏ね」
「良くあるパターンよ。トップが保身の為に派閥を仲違いをさせて」
「派閥抗争を勝つ為に外部勢力すらも取り込んで利用するの」
「そこを外部勢力が突いて、バラバラにして根こそぎよ」
「頭に良い悪いに関係なく、やるのよね。他の選択ってないのかしら」
「トップに全知全能の実力があるか。幹部を間抜けにして閉塞的な企業体にするかね」
「全知全能はありえないわね。それに幹部が間抜けもいやね」
「上の人間に寛容さと指導力。下の人間に倫理観があれば、もう少しマシね」
「そっちに期待したいわ」
「人間は欲張りだから。無理」
「あはは・・・・でも・・・・・大手なのに・・・この関係って・・・・ありえるの?」
「さぁ 丸菱商社は、大手だから、私たちは入りにくいわよ」
「茂潮が、北奉銀行の依頼が終わったら、丸菱を調べるから、それを待つしかないわね」
「でも、古賀君は、どうやって、犯人を特定しているのかしら」
「さ、さぁ〜・・・・」
「・・・・・・・・」 じと〜
子供は親の背を見て育つという。
正面を見ないところがミソで、いくら親が正面で奇麗事を言っても無駄。
本音や精神を伝えるのが後姿だろうか。
そんな子に育てた覚えないは勘違いで立派にそういう子供に育てたといえる。
警察官の子供は、やはり警察官という職業に特別な気持ちを抱き、
子供が親の道を進むかも親次第。
無論、親の道が良いかというと、適性があったりする。
ここに1人の学生がいる。
道善高校2年B組
馬宮シンイチ 17歳 高校生。
父親が刑事で殉職。
犯人は中国系窃盗団。
敵を討ったのが中国系マフィア。
真相を暴いたのが中学生の女の子では、面白いはずもない。
人によっては、いじけたり、ひがんだり、やっかんだり、
なのだが勧善懲悪で正義感の方が強く。
気概が負の感情を上回る。
そして、父親が面白半分に娘の話をし、下手をすると父親より、その娘に影響されたりもする。
街路
散歩中 紫織、シンペイ そして、ハル。
「・・・・一ツ橋のヤツ〜」
「でも、犯人が怒るのは、無理ないよ」
「無理はなくても、そんなに、ややこしい事しなくても・・・」
「・・・あまり、踏み込みたくないね」
「・・・まいったわね」
「可能性は高いけど、何で、そっちに行くかな。気持ちは、わかるけど」 紫織
「犯人だって身の安全を図りながら、だから・・・・」
「おかげで、ウツだわ」
「・・・・・・・・・・」
「なに?」
「・・・・・・・・」
「「・・・・・・」」
すれ違う中学生の男女と、含み笑いの高校生の男子。
「・・・来年は、道善高校かも・・・・」 紫織
喫茶店 さすけはな
馬宮シンイチは、雑誌から目を離すとショーウィンドウから外を眺める。
雑誌には謎の外国人犯罪組織 “東夷” の事が書かれている。
ウェートレスが注文をとりに来る。
「・・・ねぇ ここで人が死んだって、本当?」 シンイチ
「ええ・・・」 ウェートレス。
良く聞かれているのか、うんざり気味に答える。
「・・・ふ〜ん なんか、変わった様子はなかった」
「普通かな、時々 咳払いして、タオルで鼻を拭いていたけど」
「風邪?」
「さぁ〜」
「薬は飲んでいた?」
「いいえ、気付かなかったけど・・・」
飽き飽き気味に答える。
何度も聞かれたのだろう。
「ありがとう。その人と同じもので良いよ」
「はい、モンブランケーキセットですね」
全国的に有名になってしまった喫茶店殺人事件だ。
一つは、周囲に誰もいなかったこと。
一つは、犯人がまだ捕まっていないこと。
新聞で得られた情報以上は、得られていない、
プロファイリングの概念くらいわかる。
犯人になったつもりで犯行を試みる。
どうやって人に青酸カリを飲ませるか。
重要なのは、絶対にバレないこと。
そして、成功率の高い方法を選択する。
本人に気付かれないため、
被害者が、いつも飲んでいる常備薬に仕込むのが上策だろうか。
青酸カリの、もう一つの特性は、皮膚から浸透し、死に至らしめるらしい。
怖い薬、怖い話しだ。下手をすれば、他人どころか、自身すらも巻き込む。
青酸カリの推理物で穴がある、
そういった危険性を犯人自身に向けさせる為でもあるのだろう。
ひらめきなどは、邪道。
手がかりから犯行手段を遡って、犯人に至るのが推理の王道。
プロファイリングは、犯人と共感することで犯行を考察する。
情報が少ない場合。
欺瞞工作があった場合。
切込みを間違った場合。
思い込みの世界で失敗する可能性がある。
とはいえ、喫茶店は、ありふれた構造、場所的な特異性がない様に見える。
『・・・ここで、なければ、ならない・・・・・というのは、なさそうだ』
自分ならどうするだろうか、と突き詰めると、
自分自身が、そばにいて、すぐに死ぬと、被疑者で犯行が、ばれやすい。
ばれないようにするには、自分自身が、そばにいないことが必要で時間差をかける必要があった。
使うとすれば、カプセル錠剤。
しかし、他人がカプセル錠剤を渡したとして、それを簡単に飲まないだろう。
普通は、医者か薬屋で買った薬を飲む。
足取りを掴もうにも殉職した刑事の息子でも高校生に捜査情報を教えたりはしない。
『・・・・方法は、考え付くんだけどな・・・』
誰しも、殺意があれば能力に応じて殺人方法を考え付く。
探偵も、犯人と似た思考で擬似的に殺人方法を考え付くに過ぎない。
『情報が欲しいな・・・』
一人の男が前の席に座る。
「よう、久しぶり、馬宮君」
「久しぶり、矢矧さん」
「今日は、なんだい? 馬宮君」
「アルバイトで雇ってよ」
「んん・・・・・」
警官の父親が生前である間は、相互に情報交換が行われていた。
シンイチも、情報交換の仲介で一役買ったことがあり、
まんざら知らない関係でもない。
しかし、殉職後では、メリットはない。
シンイチがノートに書いた文書を矢矧に見せる。
「・・こりゃあ・・・・・・君が推理したのかい?」
「情報が、もっとあれば、もう少し、絞り込めますよ」
「・・・し、しかし・・・・・確かに・・・これなら・・・・」
「どうです?」
「大して、お金は、払えないぞ。うちは弱小だからな」
「成功したときの報酬だけで良いですよ。テンパーセント」
「まぁ そういうことなら、かまわないが・・・・」
「情報をもらえませんか?」
「そりゃ こっちも、名を上げる為に独自に情報を集めているがね・・・・」
「」
「」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
矢矧探偵事務所がブレーンを一人得て、
馬宮シンイチが探偵業に足を踏み入れた瞬間だった。
個人の趣向が意欲につながり。
才覚、人脈、機会、ルートがあれば、その道に踏み込みやすく。
一人立ちできるかは、運、才能、努力だったりする。
矢矧探偵事務所
アスナ運送会社の調査を始める矢矧探偵事務所。
ここを怪しいと思った理由は、カプセル剤が溶ける時間だった。
カプセルを二重、三重にすれば、時間を遅らせることができた。
最初のカプセルが溶ければ、睡眠薬で眠くなり。喫茶店で休む。
胃で溶けずに腸で溶けるカプセルもある。
それだと、もっと、時間を遅らせることができる。
内側の、もう一つのカプセルが溶ければ青酸カリの手法だろう。
問題は、薬を摩り替えたのか、必要とさせたのか、ということになる。
福村ジロウは、常備薬を持っていない。
ということは、薬を飲ませたということになる。
それも、進んで飲むように仕向けた・・・・
「・・・例の資料は?」
「・・・揃いました」 秘書
テーブルの上に束となって載せられる資料。
「・・・・・・・・・・」 矢矧コウジ
「・・・・・・・・・・」 馬宮シンイチ
「まずい。組織犯罪じゃないか」
「やはり、不味いですか?」
「“こもれび”は、これで大きくなった。命がけだぞ」
「矢面に立つのは矢矧さんですから」
「俺の人生って、何なんだろうな・・・・」
「うだつの上がらない。3流探偵社では?」
「馬宮君〜 煽るなよ・・・・」 泣き。
「死んでも獅子になるか。生きて負け犬に成り下がるか・・・・」
「・・・・・・・・・」
こもれび探偵団
集められる証拠。
そして、結論から一つの仮定が、推測される。
「・・・・やっぱり・・・」 紫織
「本当・・・信じられないことをするわね。この人」 佐藤エミ
「良い根性してるわね。組で欲しかったわ」 安井ナナミ
「えぇ〜 怖過ぎる」
「誰かさんに似てない?」 ナナミ
「・・・・・・・」 紫織 頷く。
「誰よ?」 佐藤エミ
「「解いた人・・・」」
「・・・・・・・・」 むすぅ〜
謎解き側に犯人と同類同属がいると有利だったりする。
職に就けず、まっとうに生きれない不法入国層が存在する。
金の為ならなんでもする彼らの存在を利用する者たちがいる。
彼らは、豊かな日本に吸い寄せられてきた者たち。
むかしは、左翼ゲリラだったり、極右だったり。
ヤクザだったり。汚い仕事を彼らにやらせる事もあった。
しかし、国内に身内も親類縁者も存在しない不法入国者層は飢えて、潰しが利いて、便利。
いざとなれば、国外退去させれば足も付きにくい。
ここで需要と供給が成り立ってしまう。
そして、次第に日本に慣れてきた彼らは、基盤を作りながら組織を固めてしまう。
表経済と裏経済の二面性を持ちながら、勢力を増大させていく。
左翼ゲリラ、極右。ヤクザの道案内を必要としなくなってしまう。
直接、クライアントと接触し、利益を得たほうがマシ。
当然、純日本系の組織と外資系の縄張り争いは、激化。
そして、自らも発見されず、
継続的に甘い汁を得ようと動いた事件といえる。
アスナ運送会社
鑑識班が、事務所の中を調べていた。
数人の男たちが一人を囲むように立っている。
「・・・西条ヤスオさん。あなたは、福村ジロウに対し」
「多額の賄賂を払って、この運送会社に引き付けた」
「・・・・・・・」
「それも、コーヒーの運送などでは、考えられないような多額のお金」
「・・・・・・・」
「そして、福村ジロウに薬を飲ませるため。ヒスタミンを使いましたね」
「・・・・・・」
「ヒスタミンは、花粉症を起こす物質です。抗ヒスタミンは、花粉症対策の薬ですよ」
「・・・・・・」
「あなたは、事前に花粉症だと言ってマスクをしていた」
「そして、空調機からヒスタミンの粉末を部屋に撒き散らした」
「・・・・・・」
「違いますか?」
「・・・・・・」
「あなたは、空調機と部屋を掃除したようですが、残っていたんですよ。ヒスタミンの粉末がね」
「それが、殺人の証拠になるのか?」
「ヒスタミンで、人が死ぬのか」
「あなたは、自分の花粉症の薬を福村ジロウさんに渡した。違いますか?」
「・・・・・・・・」
「一度、剥がし、もう一度、蓋をした包装紙から直接、破って手のひらに落とす」
「よほど用心深くなければ、気付かない」
「・・・・・・・・・」
「それは、事前に二重構造か、三重構造のカプセル状剤」
「外側に睡眠薬。内側に青酸カリが入っていた。安楽死の薬ですな」
「・・・・し、証拠はない」
「あなたのアパートに鑑識班が待っていますよ」
「これから、ご同行することになります。青酸カリの保存は、注意が必要ですから」
「・・・・・・・・・」
「ところで、あなたは、福村ジロウさんに脅迫されていたんじゃないですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「というより、脅迫されていたのは、殺人集団の “東夷” 名簿も上がっていますよ」
「記録チップの名簿を公にすると・・・・」
矢矧がチラチラと記録チップを見せる。
「・・・・・・・・・・・」
「この記録チップは、福村ジロウさんの毛髪が挟まっていて」
「自分宛で自分の家に届くようにしていました」
「勇気があるようですが。殺される可能性も考えていたんでしょうな」
矢矧は、名簿を見せると楠カエデと警官たちが西条ヤスオを囲んで捕まえる。
「あなたが本国で使っている。本名も一緒に書いてますね」
同じ頃 丸菱商社
一ツ橋刑事が逮捕状を突きつける。
「・・・斉藤ショウジ」
「あなたは、殺害された福村ジロウのIDを使って」
「殺人集団の “東夷” の名簿を公に公表すると脅迫した容疑がかけられています」
「・・・なぜ? 俺が・・・」
「福村ジロウに現金過不足の疑いをかけられ、出世コースから外された恨みによる犯行ですね」
「俺は、盗ってなんかいない。それをあいつが、さも俺が盗んだかのように・・・・」
「そして、東夷の代行者の一人と関連があるアスナ運送から多額の賄賂が出されると福村ジロウに匂わせた」
「・・・・・・」
「その後、福村ジロウの毛髪と記録チップを仕込ませた封筒を彼の名義で本人宛に期日指定で送って、自分の犯行を完全に消そうとした」
「・・・・・・」
「証拠は、全て上がっています」
“東夷” との関係を示す。ログなどの書類を見せる。
「・・・ふ、福村が悪いんだ。か、会社が悪いんだ」
「派閥争いで、俺を・・・・俺を利用して・・・・チ、チクショウ・・・・」
うな垂れる斉藤ショウジ。
丸菱商社の一つの部門が 犯罪組織 “東夷” と連絡網を構築していたことが発覚。
大騒ぎになる。
こもれび古本店の前に回転焼屋がある。
桜の木は、花を散らせても自然であることに変わりなく。
長いすに座って木を見ながら、タイヤキを頬張り。
勉強の息抜きが楽しみだったりする。
ラジオが午後のニュースを流している。
「大企業が、安全保障上の対策でアウトローと一定の関係を構築するなんて、許されませんよ」
「そうですね。やはり、断固とした処分をすべきでしょうね」
「本当は、社内の派閥争いに対する圧力もあったとか、そういう噂もあります」
「それは、ありがちでしょうか。でも、派閥争に犯罪集団を利用するなんて見境、なさ過ぎますね」
「やはり、警察の不祥事と不信も根っ子にあるのでは?」
「しかし、頼るべきは警察ですね。今回の犯罪で活躍したようですし」
「民間の矢矧探偵事務所の協力もあったとか」
「逮捕された斉藤ショウジは金銭の恨みから、被害者の名を騙ったそうですから、怖い時代になりましたね」
「ええ、ですが “東夷” という犯罪組織は、ほとんど逮捕されたのが救いですね」
「今後は、多様な犯罪に対し警察も、民間との協力で国民の安全を確保していけると思います・・・」
“こもれび”は、名よりもリスクの小さい実を取った。
今後、一ツ橋経由の情報は、増えて捜査上の融通も利きやすくなる。
「・・・・父が、お世話になったね。角浦紫織」
不意に声をかけた高校生は、長いすの反対側でタイヤキを頬張っている。
見覚えがあるような、ないような・・・・・
「馬宮シンイチだ」
「・・・・馬宮刑事の・・・・」
「ふ まさか、僕のデビュー戦でケチを付けられるとは、思わなかったよ」
「・・・彼らに手を出すのは、危険よ・・・・馬宮さん」
「安全な方で、お茶を濁したんだ。良いねぇ 横綱相撲じゃないか」
「命の方が大事だもの・・・」
「でも、知っている人は、知っているよ。矢矧探偵事務所にブレーンが付いたって」
「へぇ〜 情報が早いね」
「でも、どうして、わかったんだい?」
「個人が他人の名を語って、犯罪組織を脅迫したなんて」
「・・・企業秘密よ。馬宮さん」
「・・・ふ〜ん ひょっとしたら、高校では先輩になるかもしれないね」
「・・・外では、私が、先輩になるわね」
「ふ・・・そうだね。よろしく、こもれび先輩」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
自然から学ぶというのは、大切でしょうか。
花は、栄養を種に送り、枯れて死んでいく。
しかし、もし、花が、自らの栄誉を惜しんで種に栄養をやらず、
種を枯らして、延命を望むとしたら・・・・
容姿は、美しく見えても、不自然。
別の見方をすると、逆に醜く思えたりする。
人は、長寿と健康を望む。
そして、長寿社会は、己の保身と繁栄を謳歌した結果ともいえる。
自浄能力のない企業が、新興企業を潰しながら・・・・
不自然で、無理な延命は、考え物かも・・・
いまの日本は、そういう国だろうか、と思う。
子孫に魂を伝えられず。指針も伝えられない時代。
今際の際に子供たちに伝えられる精神があるだろうか。
恨み事では困るし。
遺産(お金)の話しだと寂しすぎる。
離合集散な派閥争いと、不信感や拝金主義から孤立化していく社会。
利己主義に走るあまり。建前的な事さえも、はばかれる時代。
金や土地、権力に執着し、不自然に醜く生きて、後を汚していく。
主役の紫織は、どう生きていくのだろう。
馬宮シンイチ。
本当は、正義の味方、名探偵コナンでやりたかったけど、
オリジナル小説なのでやめときます。
外伝で、やったら良かったか。
HONなびランキング に参加
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