第55話 『少年よ、希望を抱け』
ここはどこ? わたしは誰?
狭い取調べ室に一ツ橋サツキ刑事と二人っきり。
普通、もう、一人刑事が、いるのではないかと、思うのだが・・・
ごっくぅううう〜ん!!!
目の前のプリンが気になって仕方がない、
不適に微笑む一ツ橋サツキが、憎らしい。
「・・・・」 にんまり〜
彼氏がいる紫織は、常日頃から節制、質実剛健を旨とし・・・云々で・・・・これは、鬼門。
『こ、ここで、プリンを持ってくるとは、い、意表を・・・』
不美人なのだから、せめて、腹だけでも、凹ませて・・・おく・・・べき・・・
ごっくぅううう〜ん!!!
『ぅ・・・プリンさん。あ、あなたのことが嫌いなんじゃないの』
『三森君が好きなの・・・だから・・・そんなに・・・見つめないで・・・』
ごっくぅううう〜ん!!!
「お友達の分もあるのよ」
箱詰めも、置かれている。
ごっくぅううう〜ん!!!
「彼氏も、きっと、喜ぶわ・・・」
『ぅ・・なんて、卑劣で卑怯な・・・』 くらぁ〜
ごっくぅううう〜ん!!!
『い、いけない、意識を集中しないと・・・手が出てしまう・・・』
世の理として、男は、女に暴力を働かないものだ。
強者の弱者に対する自制とかだろうか。
俗に機会均等とか、男女差別とか、ジェンダーフリーとか、
内容がどうあれ、実社会では、あったり、なかったり。
しかし、己の欲望に振り回されるのは、老若男女、強者、弱者、貧富の差もない。
気質の違いとか、実行力の差があるだけで欲望は、平等にある。
誰でも金や権力は、欲しいが人間は、聖人君主ではない。
悪党や無知な人間が努力もせず、欲望が叶ってしまうと怖い。
しかし、小さな努力で大きな実を得ようとする人間は後を絶たない。
今回の依頼内容は、見境なし底なしの欲望を持ったブラックホールな女達。
世間一般に悪女と呼ばれる女達。
犯罪の影に女ありとか、そういう女達。
ホラー映画に出てくる魔女より、リアルに、えげつない女達。
欲が深ければ他人を思いやる気持ちすらなく。
己の利益のため、利用して踏み躙り使い捨ててしまう。
人でなしとかに分類される無慈悲で理不尽な女達。
暴力で殴っても無駄。明らかに死んでくれた方が世のためという女達。
他人のために自分を犠牲にする人間なのではなく。
自分のために他人を犠牲にする人間。
「・・・・・」 ため息
少女は、奈河警察署を見上げた後、
包みを抱え、去っていく。
署内の窓辺
数人が黄昏の影を引きながら小さくなっていく少女を見下ろす、
「・・・まだ、中学生ですよ・・・大丈夫ですか?」
「警察署内の不祥事よ。署内で解決する道は閉ざされている」
「・・・捜査費用を・・困りましたね。本当に・・・」
「これほど、警察に自浄能力がないなんて・・・」
「国潰しな女って、いるんですね」
「なろうと思って、できる事じゃないわね。普通は自制するけど・・・」
「何で、こんな風になってしまうんですかね」
「社会を作っているのは人間よ。自分の保身や対面を守るため嘘をつく」
「しかし、ここまで・・・」
「母親だって努力も苦労もせず簡単料理とか、手抜き料理を “おいしい” と子供に押し付ける」
「それは、たまりませんね」
「“おいしい” と押し付けなければ、まだ良いけど」
「おいしくもないモノを “おいしい” と押し付ければ、子供は嘘つきになるわね」
「そういうものですか?」
「子供の倫理観なんて、そんなもの」
「そして、手抜きで育てられた子供の性根は、直らないわね」
「そ、そういう母親は、わからないでしょうね」
「自浄能力もなければスキルもない」
「でも、泥棒や嘘つきの性根を矯正するなんて、命がけよ。児童相談所じゃ 無理ね」
「め、迷惑な話しですね」
「そういう母親は、怠惰でバカだから、企業は、儲かるのよ。全体で見ると損だけどね」
「倫理観は、か、家庭の事情っすか?」
「全部じゃないけど、判例の研究くらいしなさいよ」
「はぁ」
「犯罪も後を絶たないし、国にとって、いない方が、いい母親って、いるのよね」
「当てにして良いんですかね。あの少女に・・・」
「身内の恥を晒したんだから見返りは期待したいわね」
「少女の正義感に期待しなければならないなんて・・・」
「正義感にじゃないわね」
「程度の差で彼女のほうが倫理観と自制心が強いだけか、守秘義務の実績もあるし」
「両親がいないんですよね」
「良い両親だったか、わからないけど、少なくとも、今の彼女は役に立つ」
「情けないですね。子供に頼るなんて」
「倫理観と自制心がある大人でも利害関係を超えて信用できる人間は少ない」
「人間、損はしたくないですからね」
「損して、徳を取る人間は少数派か・・・」
こもれび古本店 2階
紫織、佐藤エミ、安井ナナミ。
ため息 × 3
「・・・何で、こんな風になったのかしら」
「警察組織の中堅とか、上の失態を利用して、のし上がるんじゃないの?」
「確かに絶好の機会ではあるわね」
「主流派、反主流派、中道派で利害が複雑になっているんじゃないの」
「本店とか、公安が動くとか?」
「それは、最悪でしょう。あの一ツ橋も巻き込まれたくなさそうだったし」
「ちっ ポテンヒットとか、お見合いって、やつ」
「状況からすると浮気の原因は、悪妻にありか・・・」
「年齢差も、問題かな “最初は頼りになるわ♪” でも年月の問題で老いぼれに見えてくるし」
「でも韓流に走る悪妻が、いやだからって、浮気相手が悪女じゃねぇ〜」
「このジジイ。女を見る目、無しね」
「ていうか、容姿だけで選んだのなら正解だけど、見る目あり・・・」
「あはは・・・じゃ 見た目の魅力に騙されてか。自業自得」
「自業自得は良いけど立場を考えなさいよ。警察全体のモラルが下がったらどうするのよ」
「犯罪慣れして犯罪を取り締まる、警察の上層部がなにやっているんだか」
「やっぱり、男って、男の性には勝てないのかな」
「エロじじいぃ〜」
「この悪妻も問題よ。いい歳こいてブランドで身を固めて○○さまぁ〜 なんて、バッカじゃないの」
「それで “夫の出世が遅くて〜 おほほほ・・・” なんて・・」
「旦那に見限られて怨恨入っているんじゃないの」
「配偶者特権をかさにした傲慢病とか、贅沢病よ。馬鹿女の典型」
「妻が夫をこき下ろして、夫の居場所をなくしてしまうパターンね」
「ったく、いい歳こいて他力本願の癖に・・・どうしてくれようかしら」
「こういう悪妻は夫の人生まで腐らせるから、金だけの結婚詐欺より悪質ね」
「たぶん、この悪女を片付けても、こういう悪妻だと、また、ほかの悪女に引っかかるわね」
女が少ない方が相対的に自分の価値が上がると本能的に感じるのか、
佐藤エミと安井ナナミは、同姓に遠慮なし。
「あはは」
「・・・やれやれ・・・揉み消し工作か・・・」
「公金横領で貢いでいる男を助け、貢がせている女を陥れるなんて」
「女は、男に体の代価を払っているけど、男は、横領。不公平ね」
「体が、代価〜!」
「でも、依頼は、男の方じゃなくて、悪女の処理だから・・・」
「旦那は、悪妻の方を片付けて欲しかったりして」
「ふ 依頼してくれたら悪妻も、悪女も、二人、まとめて・・・」
「でも、この悪女の方、欲望に見境なしね」
「どっちも、似たようなものよ」
「どうする?」
「作戦は、あるけど・・・」 にやり
「エミちゃん。目が怖い・・・」
「どの段階を使うか、相手次第だけど、最悪、幸城を使って彼女を破滅させるわ」
はぁ・・・・・
善悪の問題なのか。
公共性の問題なのか。
依頼内容の問題なのか。
破壊衝動を内に秘めていて、ストレスの捌け口だったりする。
探偵業は、あこぎな仕事で依頼者がいると、動機を第三者に責任転嫁できた。
生活のため、金をもらって、しゃしゃり出て、
第三者が、関係もないのに他人の人生を追い詰めてしまう。
“仕事だから” とか “自業自得よ” とか、心のうちで、言い訳をしながら・・・
仕事柄、おまえが悪い、俺は “正義の味方” というより、
どっちも、どっち、というのが多い。
道義的な責任を追求しても依頼者の味方、金の味方。純粋なビジネス。
もちろん、違法な依頼は断るとしてもスレスレも少なくない。
ヤクザでさえ “借りた金は返すものだ” と、法律的に道義的に責める。
いろんな例を見ていると “浮気は、いけない” は、もちろんでも違う感情もわいてくる。
“こんな、自己中な妻だと、誰でも浮気したくなるだろう” とか。
“こんな、身勝手な夫だと、誰でも逃げ出したくなるだろう” とか。
“自業自得だろうが” とか。同情してしまう。
まぁ いろいろ
合法であっても良識を疑う場合もある。
違法であっても情状酌量があったり。
どっちも不可。
こりゃ駄目だ、という依頼もあって詐欺とか、人でなしの片棒で下手をすると、
手錠がかかるとか、そういうレベルもある。
倫理観が低下しているのか、その手の依頼も増えて受けるのも慎重になったりする。
今回の依頼は、警察全体の不祥事に繋がりかねず。
公金横領で貢いでいる警察官僚より、貢がせている女を何とかしてくれというもの・・・
民間なら私利私欲で当たり前だろうが、
でも、国家公務員は、公僕なのだから、もう少し良識とか、公序良俗に期待したい。
しかし、モラル・規範は、個人の資質による。
私利私欲に動きやすい民間も取引先と収入が増えていくと社会的な公益性を求められてしまう。
癒着とかあったりするのだが、
その分、税金の以外に公益支出が増えてしまって、今回は、それに近い。
夜の繁華街。
方丈ナツエ23歳
日本女性で8頭身は、少数種族。
さらに美人だと分母はさらに大きくなる。
彼女は、その美貌で、コード名 R32。倍の年齢の中年と歩く。
彼女も本音は、体を中年に委ねるのも歩くのも、いやだろう。
身も、心も、売っての成果なのだから、周りは法外でも彼女にすれば等価なのだろう。
彼女が、どの段階で手を引くか、見極めが必要だった。
できれば、最悪は避けたいところ・・・
「シンペイちゃん。どう?」
「・・・っ・・・」
「シンペイちゃん。なに泣いてんのよ」
「あの・・・おやじぃ・・・」
気のせいか、シンペイから殺意に満ちたオーラが見える。
国を売り渡しても良いかも、という女性がいる。
方丈ナツエは、そういう女性に分類できるタイプだ。
「あんたねぇ そっちを見るのは、わたし。あんたは違う方でしょ!」
「んん・・・・」
「まぁ 美人じゃないと、こういうのは無理ね」
「そうだね・・・」 涙・・・
「ったく。R32も、鼻の下を伸ばして、いい親父こいて、なにやっているんだか」
「宝石店に入っていくよ」
「ちっ 子供が入れない場所があるのよね」
「ていうか、この時間、見つかったら、こっちは、補導だよ」
「大丈夫よ。おまわりさんが知り合いということで助けてくれる手はずになっているから」
制服の警察官が少し離れた場所に立っている。
警察官僚の不祥事は、警察署全体のモラルと直結している。
有志は味方をしてくれるらしい。
もっとも警察権力を使って揉み消すまで至らず。
自らの手でキャリア官僚の愛人に手を出すまでは至らず。
微妙な人間関係なのだろう。
・・・・・・・
『プラザホテル』
「・・・二人でホテルに・・・入って・・・ぅ・・・」
「シ、シンペイちゃん」
「ば、ばっかやろう〜!!!!!」
ダッー!
「あ・・・シンペイちゃん・・・」
ホテルに入っていこうとする中年男と若い女性。
「待てよ・・・」
振り返る中年男と若い女性。
「げっ!!」 紫織
「行っちゃ 駄目だ〜!!!」
「な、何だね。き、君は・・・・」
「・・・・」
「き、君は、そんな男とホテルに入ったりしたらいけないよ・・・・・」
涙・・涙・・涙・・・っ・・・
「ち、ちくしょう・・・ちくしょう・・・・・ちっくしょう〜!!!・・・」
だっー!
「・・ち、ちょっと、シンペイちゃん」
シンペイは、街灯の中に消えていく。
そういえば、某アニメのあの娘に似ている・・・・
相手に善良さを押し付けるなど贅沢は言うまい。
ブスは、いいけど。
せめて、美人は、青少年のためにも体を売って欲しくないものだ。
特にアニメのヒロイン系は・・・・
少年が夜の道をトボトボ歩く、
二人の男に道を塞がれる・・・・
「よう、兄ちゃん。暗い夜道を歩いていちゃ危ないな」
「・・・・」
「お〜 もう涙目か。財布を寄越しな。かわいそうだから殴るのは、やめて、やるよ」
「・・・・」
「おい、財布を置いていきな」
少年は、ポケットから財布を出す。
大人が奪おうとすると財布が引っ込められる。
「「!?」」
「・・・お互いの財布を賭けようか」
「何だと、このくそガキ!」
「勝った方が総取り・・・」
「なめんな〜!」
どたっ! ばきっ! ぼこっ!
「ぐふぁ」
ぼこっ! どたっ! ばきっ!
「ぐふっ!」
腕と足をへし折られた二人の大人が転がり。
そばに空の財布が二つ捨てられる。
「び、び、ょ、い・・ん」
「・・・ありがとう。親切な、おじさん達・・・」
「び・・ょ・・う・・い・・・」 がくっ
「僕・・・なんか、やさしくなれそうだよ」
教育をなめてはいけない。
一度、崩れかけた少年の心を更生させる。
命がけだった。
学校で・・・・
「ええっ〜!!!!!」 佐藤エミ
「失敗〜!!!!!」 安井ナナミ
いや、かくかくしかじかで・・・・
「・・・っか・・・・はは・・・・・駄目だ、こりゃ・・・」 佐藤エミ
どうやら、20ほどある作戦のほとんどが アレ で、おじゃん。
投げぇ・・・・・
「「「・・・・・・・」」」 ため息
マンションが何棟も、建つと人口が増え、転校生も入学したりする。
人口が増えると需要が増加する。
しかし、マンションのテナントにライバル店の進出だと獲らぬ狸の皮算用になりやすい。
こもれび商店街は、奈河市全域に進出した新興テナント店に苦戦する。
需要より供給が大きくなると供給側は潰れてしまう。
さらに不況で財布の紐が硬くなると生活必需品か、魅力ある商品、リサイクル商品が有利になる。
こもれび商店街 会議
テーブルには、お茶と、お菓子。
ほとんどの商店街店主は、人口増加の消費を新規参入店に食われて、苦戦。
眉間にしわを寄せ、腕組で押し黙っている。
紫織も、どうしたものかと、お茶をすする。
那珂駅こもれび商店街側に大型古本チェーン店の出店。
本業だけだと、厳しく。
副業の旅行本の相乗効果で損益分岐点は、微妙に黒。
そして、人口が増えて裏家業は、大儲け・・・・
はぁ〜
世の中って・・・・不条理・・・・
この日、決まったのが、こもれびブランドのモヤシ栽培を行うかどうか・・・・
もやしの単価低過ぎる・・・
紫織、エミ、ナナミの3人は、中学生らしく明るいファーストフード店。
しかし、人の心境は、場の雰囲気さえも変えてしまうことがある。
気持ちだけは薄暗いシックで板張りのBAR。
悪化した離反工作を無理に進めようとすると強硬手段が選択されやすい。
「・・・そりゃ 正義感を振りかざしたって、第三者なんだから売名行為とか、偽善者だし」
「腹黒いやつからも金をもらって仕事もしているけどね・・・」
「はぁ」
「広い意味で社会の自浄化という点で、悪い仕事じゃないよ」
「しわ寄せされた方は、困るでしょうけど」
「自浄化ねぇ〜」
「まぁ 金の味方だけどね」
「それ・・自浄化なの」
「逆に無料奉仕で関係ないのに正義の味方を気取って、一方的に勧善懲悪も怖過ぎない?」
「そうそう、お面でも被れって言うの?」
「ぅ・・・」
「しょうがないよ。そっちの需要があるから」
「人間って身を守るためとか、他人のモノを奪うためとか、投資しやすいし」
「ある程度、仕事を選んでいるけどね・・・」
「人間って自分本位だから正義のため、人のために、お金払う人間は少数派ね」
「はぁ 子供のやる仕事じゃないよ」
「こういうのは、ハードボイルドで人生捨てた中年がやることよ」
「むしろ、配信側で、こき使っている方だけど・・・」
「なんか、むかし、学校で古本売って、ばれた時のことを思い出すな・・・」
「なによ、黄昏ちゃって、古本屋だけで、やっていけないでしょう」
「ぅ・・・」 涙
「あのねぇ 騙し合いなんて自然でも弱肉強食で、やっているでしょ。負けたら、即、餌」
「そうそう、擬態とか死んだ振りとか。人間だけが清純ぶるなんて、おかしいよ」
「そ、そうかな」
「まぁ 善良な人間の方が好きだけどね」
「まぁ 霊長類だし。性根の腐った人間には近づきたくないけど」
はぁ・・・・・
国も、人も、モチベーションを保つ上で重要なのは、公明正大な大義名分。
正義の側にいること。
たとえ、表面的に開き直ってみせても虚像・虚栄にしがみ付いても、
良心の呵責があると長続きしない。
一般的に “飲まなけりゃ やってられねぇぜ” という心境になる。
因みにこの3人は、未成年なので、そういった “飲む” が、規制される。
では、食欲に走るかといえば、彼氏がいると、それも上手くいかず。
紫織の場合、ブルーとか、グレーになる時期が周期的に訪れたりする。
はぁ〜
数日後 動物園
紫織は、ぼんやり、キリンを見つめる。
離反工作は根底から建て直し、以前より状況が悪化している。
半分、死んだ目・・・
不意に気配がすると、隣に一ツ橋サツキ
「・・・・・」 ため息
「はぁ〜い 紫織ちゃん」
「・・・・・」 ため息
「事件解決、ありがとう。全部、丸く収まっちゃった」 一ツ橋サツキ
「えっ?」
「なんか、次長。定年前に署を辞めるとか言うし。退職金も署に払い戻すって」
「はぁ?」
「結構、優秀で面倒見の良い人だったから。そこまでしなくて良いんだけど」
「後ろめたいみたいね “人間、足ることを知らないとね” だって」
「・・・・」
「なんかな、人間も丸くなっちゃって派閥も解消」
「・・・・」
「ほら、あの悪女も、なんか、仕事に就くみたいで次長とも縁が切れたみたい」
「・・・・」
「どうやったの?」
「さ、さぁ・・・」
人間は、心のどこかで善良さを求めるのだろうか。
切っ掛けさえ、あれば、改心するのだろうか・・・
ありえない、に近い・・・
「とりあえず。約束どおり警察も、こもれび探偵団を贔屓にするからね」
「それは、どうも・・・」
これで、比較的、健全な依頼が集まってくる。
夏の昼下がり。
午前の授業が終わると取り巻きの一人、阿須サヨコが暗い顔をしながら、近づいてくる。
「・・・角浦さん。相談があるの」
日頃の変化と表情と足取りを見ただけで、なんとなく、状況が見えてくるのが怖い。
普通は、親兄弟、先生、友達でも話さなければ、わからない。
しかし、経験値の高さだろうか、4つ、5つ、思いつく。
最近は、大抵のことも、顔色を変えなくなっている自分が怖い。
箸が転がっても、面白がる感性は、どこへやら・・・
はぁ〜
「・・・放課後、一緒に帰ろう」
「うん」
そして・・・・
中学3年の夏は、いろんな意味で暑い。
そして、珍客の関西弁は、もっと暑苦しい。
「古賀は、いるか?」
一目で、別の中学とわかる服装。
「今日は、本家の法事で学校を休むって」 紫織
「・・・ん・・・おまえ・・・」
「!?」
「古賀が大会に出ないのは、おまえのせいやな?」
突きつけられる雑誌。
事故現場から紫織とシンペイが歩き去る姿が写っている。
動画を消去しても写真は残っていたらしい。
「ぅ・・・」
普通、関西弁といえば漫才系で二.五枚目とか、三枚目と、相場が決まっている。
しかし、三森ハルキ並みの二枚目。
大阪の合気道の選手 鳥羽ショウヤという。
かっこいい男子は、それだけで物事を有利に進めることができる。
すぅー
取り巻きが白い目で陰口を叩きながら離れていく。
「なんでや、なんで古賀の邪魔をする?」
「じ、邪魔なんて・・・」
「おまえ、古賀に辛い思いをさせているんやな」
「えっ!」 ど、どっきぃ〜!!!
「キ、キスを拒んだりとか・・・」 赤
「!?」 くらぁ〜
「そ、そうなんやろう」
「ち、違うわよ。わ、わたし、彼しいるし」
紫織は、三森を指差す。
「なにぃ? ・・・嘘いうなボケ!!」
「むかぁ〜!!」
「そ、そうだよ。僕が彼氏」 三森
「うそ・・・」
「「本当だよ」」 赤
「じゃ あいつ・・・そうか・・・幼馴染が自分より、いい男を捕まえたから・・・・」
「振られたショックで・・・っくぅ〜・・・」 ・・・涙・・・
「いや、シンペイちゃん。彼女いるし」
紫織と三森は、たまたま、近くにいた沢木ケイコを指差す。
「な、なにぃ! 嘘いうな!!」
「沢木ケイコって言うたら。合気道界のアイドルやないか!!」 泣き〜
「ほ、本当よ〜!」 ぽっ! 沢木
「じゃ おまえが古賀の足引っ張っとんやな!!!」
「えっ えっ」 タジタジ
紫織と三森が、うんうんと、頷く。
「ち、違うわよ。紫織ちゃんが、シンペイ君を扱き使っているのよ」
「なっ! 違うでしょ」
「沢木が、甲斐高校を受験させようとするからじゃない。彼女だし、昨日も髪切らせてたし」
「だ、だって・・・紫織ちゃんだって、三日前にシンペイ君に髪、切らせてたじゃない!」
「ぅ・・・」 退き
“ひそひそ” × 10
女のエゴは、かなり怖い。批判的な目が、さらに集まる。
「と、とにかく、古賀の邪魔をするな。全国大会には、出させるんや!!」
「いいな!!」
「「ぅ・・・」」
熱い男。関西弁が帰っていく。
「・・古賀君。今日は、休み?」 エミ
「うん、なんか、本家の法事だって」
「ふ〜ん 良いわね。ボーイズラブ」
「え〜」
「で、沢木。あの関西弁。強いの?」
「強いよ。合気道で中学の部だと、東の古賀シンペイ。西の鳥羽ショウヤで決まっているから」
「ライバルを思う気持ち、あの熱い視線が、たまらないわ」
「わたしだけ、じゃないのに・・・・」 沢木
「なんか、妬けるでしょう。ライバル同士の間に割り込めないし。下手したら悪女認定ね」
「・・・・・・・」 むすぅ〜
“ひそひそ” × 10
沢木が じー と紫織を睨む
「ぅ・・・」 たじたじ
そう、古賀シンペイが忙しい原因の多くは、紫織の裏家業にある。
もうひとつは、沢木・中山の受験勉強。
どちらにしても3年の夏。
フルに時間を取られて地区大会に出られても、全国大会どころじゃない。
しかし、青春物で燃えるシチュエーションといえば “ライバルとの熱き戦い”
と、相場が決まっている。
そして、熱い男達が戦いを繰り広げるトーナメント戦。
学生の本分は勉学。
しかし、これ無くして青春は、語れまい。
青春の必須科目に対する冒涜、反逆は、人道に対する大罪。
必然的に非難の視線は、紫織と沢木・中山に集まる。
当の本人は、法事の帰りに萌え喫茶に寄って・・・
「なでなで・・・」
ナデナデ・・・
因みにナデナデは、アメリカンコーヒー。
「ありがとうございます。ご主人様」
『セイラさ〜ん』
ふぁ〜 心が洗われるよ〜 生きてて良かった・・・
親切なおじさん達にも良くしてもらったし、
世界って、やさしいんだな。
心の褒揚(法要)。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
日本人のモラルは、総じて高いのですが、やっぱり、そういう人種がいるもので、
この手の題材は、昔の事例とか、ゴシップ雑誌とか、三面ニュースとか。
やりっぱなしのヤツを参考にして、いくつか掛け合わせて、作っています。
勧善懲悪とか、
脳内理想を押し付けたりしませんが極端な類例を出さないと、
小説としては、面白くないわけで・・・
というわけで、そういう感じのサクセスストーリー小説でしょうか。
HONなびランキング に参加
よろしくです
第55話 『少年よ、希望を抱け』 |
|
|
|
|