月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第56話 『キモイのは、お好き?』 

 放課後の帰り道。

 阿須サヨコは、沈んだまま、隣を歩く。

 容姿は普通。

 背丈は変わらず中肉中背。

 あまり変わらない。

 胸の大きさでは、負けている。

 成績は、いい勝負。

 たぶん、同じレベルの女の子で同じ高校を目指すライバル。

 阿須は、思いつめた表情で切り出しにくそうに見えた。

 紫織の取り巻きの一人で親友を押し退け、

 無条件で味方して媚びてくるのも代償を求めての事だろう。

 親友たちも迷惑そうで、こっちも苦笑いレベルだろうか。

 それでも、同じ同級生に相談なのだから “溺れる者は、藁をも掴む”

 とか “清水の寺から飛び降りる” に近いはず。

 一方、紫織は、覚悟を決めているのか、たらたらと歩く。

 たまに、こういうのがないと、損得勘定だけの守銭奴人生。

 通帳を見て、ニタつきたくなるのも、わからないわけではないが・・・・

 金勘定に目聡い拝金主義者ばかり見ていると、そうなりたくないとも思う今日この頃、

 社会で独立すると弱肉強食、損益収支優先の競争とか、出世争いで、気持ちが荒んでいく。

 社会的に独立しやすい男は、ロマンを追求しやすく。

 社会的弱者の女は、ロマンを追及できず現実的になりやすい。

 しかし、損得勘定抜きで生きたい、という欲求も沸く。

 偽善とか、自己満足とか、言われても相談されれば応えたい。

 相手のためというより、自分のため。

 人に頼られると生きている価値があるとか、

 自画自賛しやすく、モチベーションを保ちやすい。

 高尚な気分で自尊心も誇れる。

 時には、善良市民を気取って盛大に損をするのも、いいものだ。

 「わたし・・・」

 「なに?」

 「・・・死にたい」

 はぁ〜 脱力

 「わたしなら殺されるくらいなら、殺す方を選ぶかな」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「角浦さん。強いのね」

 「強くはないけど、相手はだれ?」

 「で、でも、殺すなんて・・・」

 「もちろん、正当防衛じゃなければ殺したりしないけど」

 「そういう風に考えられるのが凄いかなって・・・」

 「でも、相談する前に良く考えた方がいいかも。わたし、介入するかもしれないよ」

 「・・でも、角浦さん、どうして、相手がいるって・・・まだ、何も言ってないのに・・・」

 「人間に危害を加えるのは人間だけよ」

 「そ、そうか・・・」

 「わたし、先生じゃないから慰めないかも・・・」

 「そ、そうね、先生には相談できなかった」

 「阿須に手出しさせなくすることくらいは、できるかも」

 「・・・・」 涙ぐむ

 「・・・でも、事情は聞かせてもらうよ。守秘義務は守るけど」

 「・・・わたし・・・お父さんに・・・・」

 ありがち、というか、巷で、ありそうな話しだった。

 それも、タブーで品性のない方・・・

 しわ寄せが弱者に、という典型。

 どのくらいの割合で起きているのだろうか。

 現象としては、妻に女としての魅力を感じなくなった。

 逆に夫に男としての魅力がなく、妻に拒まれて、はけ口で、娘が、というのもある。

 仕事柄、この手の話しに慣れた。

 あまり慣れたくはなかった “話し合えば、分かり合える” は、多い。

 しかし、互いに本音を知れば、親子、兄弟、夫婦でも殺し合いか、離縁も起こりえる。

 人の心は、それほどまで欲に目が眩み他者を虐げ、嫉妬しやすく衝突しやすい。

 日常、思っていることを隠して付き合うなど良くあること。

 夫婦仲睦まじく、兄弟が仲良くは、自ら自身が犠牲になるか。

 外に大敵がいるか、ウィンウィンの関係で他を犠牲にしなければ難しい。

 

  

 夫婦でも年齢に反比例して容姿の魅力と可能性が低下する。

 生活態度でも良い部分より悪い部分が大きく蓄積される。

 また、男は出世。

 女は、愛嬌で好みも移り変わっていく。

 どちらも、向上心がなければマンネリ化。怠惰と判断される。

 醜悪な性格が、そのまま残れば美醜のバランスが狂い始め愛着とか。

 馴れ合いを超えてしまう。

 ストレスとか、嫌悪感が強まって顔も見たくなくなる。

 次第に恨みがましく、醜くなり。心が腐っていく。

 最後は “おまえ、悪霊か” “呪詛家庭” “呪詛家族” という感じにもなる。

 そういう事例を見てると並みの女子中学生と感性も変わる。

 “娘に手を出すくらいなら、外で女を買えよ” と、言いたくなる。

 娘も自分が父親にやられるくらいなら “外で女を買え” と言うだろう。

 例え、母親が苦しんでも、その逆は、あるまい。

 親子でも同じ人間で、老いていけば先行きが不安になり、寂しくもなる。

 親が育てた子供に恩義を着せて代償を要求する気持ちは、わからなくもない。

 老後の面倒を見ろ、という気にもなるが、そういう親だと、

 子供も反発するのが人情で、悪循環な家系も多い。

 逆に守銭奴の如く、金に頼って、子供を謗る場合もある。

 結局、子供ではなく、他人の子供に私財を奪われてしまう。

 そういった揉め事は、他人事だと面白がって掻き回したり。

 道義的に否定したりする。

 子供の側の願望だと私心のない善意と愛情を親に期待する。

 しかし、あまい。

 悲劇のヒーローやヒロインで不幸を気取っても己も、他人も大して変わらない。

 親子も、兄弟も、他人も、ひとりよがり。

 自分本位で、片刃な物差しで正義を計って天誅を下す。

 両刃だったら自殺か、心中だろうか。

 己が不幸を嘆いて咲き誇る若さを妬み、可能性に嫉妬する。

 育てるより、潰す事がある。

 阿須サヨコは、父親に裏切られた子供特有の寂しさを宿している。

 親が力不足。

 あるいは、間違って子供を犠牲にする場合もある。

 また、実力、能力、社交性など優れ、

 社会的に成功した親でも子育ては、まったく別の要素が必要だった。

 子供が、堅実に生きる親を足を引っ張り、裏切る場合もある。

 親子の信頼や愛情が金勘定に置き換わり義理人情が廃れ、

 損得勘定で裏切られ、捨てられる。

 容認できなくても互いに相手の欲望を認識するのが大人な条件の一つだろうか。

 『リア王』は、ありがちな悲劇。

 しかし、リア王が勝って娘達が死んだら、王国は血の繋がらない他人の物か。

 下手をすれば、王位継承で下克上、戦乱。

 犬も食わないどころか、不毛で国潰しな例が多い。

 他人は骨肉で勝手の潰し合えば好都合とか。利権泥棒で浅ましかったり。

 内心、せせら笑っていたりする

 “もう見苦しいから、お家断絶しろよ。世のために・・・” だったり。

 

     

 仕事での経験上。

 肉親に騙され裏切られるのと他人に騙され裏切られるは、受けるダメージに開きがある。

 普通、肉親に裏切られれば人間不信で他人に相談すらできない。

 それでも、相談してきたのだから余程、思い詰め大変な勇気といえる。

 しかし、エゴの衝突も交通事故と似て加害者100パーセントは少数派。

 阿須サヨコの言い分だけを聞くわけには行かない。

 「お邪魔します」

 紫織は、丁寧に父親に挨拶する。

 4LDKで親子4人で、弟が1人。

 借家で、さして広くない家だと、

 ストレスが溜まるが豪邸でも起こるのだから、パラメーターの一つに過ぎない。

 父親は、リストラされて、職探し中。40過ぎて再就職は難しい。

 母親は、パート務めで好き勝手、無責任という感じ。

 天涯孤独な紫織にすれば、親がいると、なんとなく、落ち着くが人によりけり。

 阿須サヨコは、嫌悪感ばかり強まって、すぐに家から出たいという。

 これなら、受験勉強も、ままならずで有利かも、と思ってしまう。

 シンペイがいないと深い部分までわからない。

 それでも、一回り家族を見て、なんとなく、阿須サヨコは、事実を言っていると思える。

 互いに協力し合って生きていければ、プラスとプラス。

 弱肉強食で誰かを利用し、踏み躙って、のし上がる。プラスとマイナス。

 復讐で足を引っ張り合えば、不毛なマイナスとマイナス。

 それは、親子、夫婦、兄弟、同級生でも、同じで人を呪わば、穴二つ。

 法的にも処罰される。

 他人事で偽善者とか、聖人ぶって弱者に復讐はいけない、と言えなくもない。

 前向きに生きれば、巻き返せるかもしれない。

 しかし、あまりにも歪に心が踏み躙られてしまうと、

 巻き返せなくなり鬱積した憎しみは弱者に対して、しわ寄せが行く。

 受けた以上の暴力を加えたりするだろう。

 社会的弱者のしわ寄せがドメスティック・バイオレンスというのもありがち。

 負の連鎖は、強者に立ち向かうか、善良さを要求できる 『イワンの馬鹿』 が、現れるまで続く。

 強者の甘えとか、理屈だと、かなり卑怯で弱者に善良さを押し付け 『イワンの馬鹿』 に期待する。

 しかし、そんな者になりたいやつはいない。

 無理な話しだ。

 サヨコが、やさしければ、復讐に至らない悲哀で恨みが残り。

 サヨコが、やさしくなく、復讐も辞さないか、にもよる。

 復讐するは我にあり。

 この手の問題は、客観的な判断より、当人次第。

 他人が善良さを押し付けて口出しすべきでもない。

  

 問題は、相手が未成年だと、責任が、こっちになってしまう。

 もっとも、こっちも、未成年で同じだったりするが・・・

 「・・・あ、あのさ、我慢できなくて相談したと思うけど、一応、確認のために聞くね」

 「・・・」

 「復讐も辞さぬということね」

 頷く

 「ほかに身よりは?」

 首を振る。

 「貧しい母親がポン引き紛いのことをして、娘に売春させたのも、あるけど・・・」

 「!?」

 「だから、どうという訳じゃないのよ」

 「その娘は、養護施設行き。母親を殺したいと思っても不思議じゃない・・・」

 「復讐をするなって?」

 紫織は、不意に神妙な表情。

 「恩知らずと恥知らずの利害の衝突。そう思える」

 「・・・・」

 「恩知らずが倫理観を振りかざして生み育ててくれた親を裁くのも」

 「他人を利用して親を蔑むのもいただけない」

 「・・・・」

 「私は、利害関係の衝突で、お金の味方をするけど」

 「それは、生活のためであって正しいからでもなければ、正義の味方だからでもない」

 「・・・・」

 「今回、阿須の味方をするのも同級生に頼まれたから助けるだけ」

 「ぜ、善悪じゃないのは、わかったわ」

 「一般論だけど。人は、それほど、善人じゃないもの・・・」

 「良い親も、良い子供も、見たことないし」

 「わ、わたしも、できの良い娘じゃないけど・・・」

 「だから、親も、子も、お互い様ということで舐めた事をすれば半殺しに遭うぐらいの方がいいのよ」

 「その方が礼儀正しくなるし、工夫するし」

 「・・・・・」

 「子供だからって善良ぶっていたら。親もバカだから横着して安易に付け上がるし」

 「・・・・」

 「他人なら遠慮することでも親子、夫婦、兄弟だと遠慮しないで醜いぐらいに甘えて奪い合ったり」

 「・・・・」

 「普通にあることだから、警察が民事不介入も当たり前といえば、当たり前かな」

 「・・・・」

 「動物の世界で子別れの儀式って、あるけどね」

 「人間社会だと、親も、子も、独り善がりなくせに相手のためとか、変にええカッコしいで・・・」

 「・・・・」

 「ま いいか」

 「・・・・」

 「あと一つ、もし、阿須が母親になって、子供にドメスティック・バイオレンスをやったら」

 「子供も阿須と同じことをする、ということね」

 「え・・・そんなこと・・・」

 「調べると、いやになるほど、よくあることなのよ」

 「ぅ・・・」

 「あ・・・それと、リスクが伴うよ」

 「方法が、あるの?」

 「犯罪よ・・・」

 「まぁ 私的な復讐は、収拾がつかなくなって、治安が崩れるでしょう」

 「国は、法治国家を気取って、犯罪にしているけど・・・」

 「み、身も蓋もないような・・・・」

 「しょうがないのよ。取りこぼしも多いから」

 「一般には、善良さを押し付けて、モラルに頼っているのよね」

 「・・・・・」

 「性欲を減退させる薬があるけど、まず、これを使うのが犯罪」

 「それなりの値段になるし、性欲と同時に意欲も失われる」

 「当然、再就職は、期待薄ね。例え、就職していても長く続くないかも」

 「な、何で、そんな薬があるの?」

 「興奮とか。うつとか。極端な感情を抑える薬で副作用なの。だから、せいぜい、2、3日かな」

 「あと、糖分を過度に摂らせて糖尿病にさせる」

 「足を切ることもあるから意図してやると、これも、犯罪」

 「部屋に罠を仕掛けて半身不随にするのもある」

 「・・・・」

 「まず、理解して欲しいのは扶養家族が保養者の善悪を追求して貶めると」

 「衣食住を失う事になるの」

 「あとは、高校を卒業したら早めに独立を目指す」

 「高校を卒業したら・・・そんなに・・・」

 「だって、女子中学生とか、女子高生とか、囲ったら犯罪よ」

 「真っ当な人間は、そんなことしない」

 「・・・」

 「甘い声で拾われても良いように踏み躙られてポイ捨てよ」

 「じゃ その間は、薬を・・・」

 「ま〜 正当防衛といえば正当防衛なのよね」

 ほっ

 「なに?」

 「気が削がれたから。殺すとか、じゃなくて、良かった」

 「それって自然死なら、ともかく、死体をどうするとか、面倒なのよね」

 「そっち、なの?」

 「殺しあと死体をどうするか、考えるなんて素人よ」

 「て、ていうか、プロになりたくない」

 「ヤクザの知り合いがいるから脅迫して、半殺し、もあるけど逆ギレされると、こじれるのよね」

 「はぁ〜」

 「まぁ 警察にも顔が利くから、何でもあり、なんだけど」

 「家の中だと、どっちもね・・・・表立って法律を敵に回すと面倒だし・・・」

 「・・・」

 「最近は、偽善者というか、ビビリが多くて、信用と実行力のある人間が少ないから・・・」

 「・・・」

 「あと・・・アレを使うのもありだと思うけど・・・」

 「・・・・」

 「おばあちゃんとか、おじいちゃんとか、生きてる?」

 「二人とも、死んだけど」

 「写真ある?」

 「うん」

 「あと、口癖とか知ってたら、教えて」

 「うん・・・いろいろあるんだ・・・方法」

 「いろいろやるから相乗効果で上手くいくのよ」

 「一つだけだと、気のせいにしてしまうから」

 「うん、でも、なんか、勉強になっちゃった。社会のこと詳しいんだ」

 「全部、不良な悪友の受け売り」

 「そう・・・」

 「その代わり、上手くいったら、アレのときのこと教えて、わたし経験ないから」

 「むっ 角浦さん、ひどい。わたしの気持ちとか、考えてない」

 「大丈夫。脳内で違う相手に変換するから」

 「・・・上手くいったらね」 呆れ

  

  

 数日後

 なんとなく、阿須サヨコが性的虐待を受けた女の子の悲しさを背負って、登校する。

 それでも、当面は、落ち着いたらしい・・・

 ごにょ ごにょ、ごにょ

 「えっ〜 やだぁ うそぉ〜」

 と、構内の隅で赤い顔をした少女が、二人。

 携帯がなる。

 「・・・サナエ・・・なに?」

 『例の路賀さん、やっぱり、借金を踏み倒して逃げたみたい』

 「はぁ 酷いわね。会社の売掛金も騙し取って消費者金融まで根こそぎか」

 『いま、労金も調べているけど、こっちも怪しそう』

 「もう・・・賭博で負けた逆恨みで手当たり次第ね」

 「捜索は、佐藤財閥と安井組でも荷が重いかな・・・」

 『額が大きいから、たぶん、連盟で捜索願が出されそうだけど』

 「限度額以内で探せれば、どちらでも・・・だけど、シンペイちゃん抜きだと、損益怪しいわね」

 『お得意さんからの紹介だけど。どうする?』

 「ま、まずい・・・」

 『あそこ、贔屓にしてくれるところだから面子潰すと煽りを食うかも』

 「あの人・・・人を煽動家とか、置物、みたく、させようとしているから・・・」

 『人をまとめるの大変だから、うちが味方をしていると思わせるだけでもプラスになるのかも』

 「・・・断っちゃうか・・・外注で、うちの初動捜査抜きで受けてくれそうなところ探してもらえる?」

 『こもれび、指名でしょう』

 「そ、そうだった。当分、駄目だわ。わたしから、事情を話して謝るしかないか」

 『あの人、大見得切って、こもれびを紹介していなければ、いいけど・・・』

 「あいつら人を持ち上げといて、散々 利用して」

 「こっちが困っても面白がるんだから、えげつない・・・」

 『まぁ 出る杭は打たれるとか、言うから』

 「ちっ 一般の独り善がりには、だんだん、殺意を覚えてくるわね」

 『こうなったら、弱小下請けを磨り潰して・・・』

 「・・・ふ・・・ウツだわ・・・」 どよ〜ん

 「」

 「」

 私利私欲の収益優先なら時間を引き延ばして、クライアントを適当に誤魔化して繋げる。

 しかし、こもれび探偵団は、異常に高い依頼達成率と早期解決率がステータスで落とせない。

 その名声が失われれば、基本的に女子供の集まりに過ぎず、

 損益収支が怪しそうな、事件は負担が大きかった。

 素行調査、浮気調査が多かった頃ならともかく。

 稼ぎ頭の古賀シンペイ抜きだと、実質、開店休業に追いやられる。

 実績を誇り固定客がいても、一度、信用を失えば、固定客も離れていく。

 信用さえ確保なら、一時的な収益の目減りは、取り戻せる。

 一時的に弱小下請けを磨り潰すべきだろうか。

 大半が反感・反発で逆恨み。

 稀に逆境を肥やしに急成長で大化けというパターンもある。

 いい事などあまりないが、駄目駄目、下請けは、潰してやるのが、世の為か。

 阿須の父親みたいなのが増えると、自分のせいになるのか・・・・

 がっくり・・・

 阿須サヨコが、心配そうに覗き込む。

 「大変そう・・・」

 「ふ 虚飾な広告。身内でさえ、疑いの目を向けないと駄目な時代だから仕事はあるけど・・・」

 「世の中、世知辛いね」

 「なんか、社会に出るの怖いね」

 「人って、苦境に陥ったとき」

 「自己正当化と責任回避の手段で、他人を悪党にすることで平静を保って乗り越えようとするの」

 「ぅ・・・身に詰まされる話し」

 「人の心が、弱いのね。きっと・・・」

 「そのしわ寄せが、来るの?」

 「そう、負けないと、がんばれば、がんばるほど、しわ寄せが・・・」 ぐっすん

 「がんばっている人だと、応援したくなるよ」

 「あなたのお父さんが、おばあちゃんのお化けに負けないで部屋に入ってきたら?」 

 「そ、それは、いや」

 「悪の組織とか、だったら、いいけど」

 「相手は、普通の一般人。そういうの、ばっかりよ」

         

 世の中、利害関係で拗れ、折りが合わないと衝突する。

 警察、ヤクザ、財界に顔が利くというのは不便と同時に有利だった。

 不便というのは、あちらを立て、こちらを立てという調整能力が問われる階層レベル。

 有利というのは奈河市限定で、たいていの問題が手打ちで済まされていく。

 権力志向が小さく、さして取り得のない中学3年の女の子なのだから大変な権勢だろうか。

 渉外など積極的に繰り広げ、裏家業の組織増員で勢力拡大も可能だった。

 そうなると無理強いが利いて、金次第で一方を完全に踏み躙ったりもできて、

 暗黒世界の女帝。

 しかし、気質的にまだ、やさしいのか、生存権と仕事 & 惰性で、満足していた。

 まだ、女子供ばかりの効率の良い同好組織に近い。

 組織を拡大すると、営利組織に切り替えなければならなかった。

 当然、不利益な人間は、リストラで切る事になる。

 非情で冷徹な上下関係とラインが作られ、杓子定規が幅を利かせる。

 これができないと営利企業は、公私混同の挙句、自壊。

 家族的な企業は、労使とも甘え体質。

 依存し合って大きくなるほど自重を支えられず潰れていく。

 紫織も、そういった状況を佐藤エミから聞いているのか、躊躇。

 また、帝王学、人身掌握術など、えげつない話しを安井ナナミから聞いて、さらに躊躇。

 『世の中が自分の思い通りにならなくても個人経営で四苦八苦、気苦労するが、わたしの器ね・・・』

 社会に対する覇権も暗黒世界の女帝も棚上げ。

   

  

 というわけで、全国合気道大会会場で古賀シンペイの応援。

 紫織、沢木ケイコ、中山チアキも

 青春に対する背任とか、熱血に対する背信とか。

 友情、団結、勝利という、命題に抗し切れず。

 古賀シンペイの全国大会出場を邪魔できなくなったのか、

 妥協を重ねた結果、出場。

 合気道といえど普通は、修練、鍛錬を重ねて、

 心身を鋼のように研ぎ澄ませて、競り合って、強くなっていく。

 しかし、古賀シンペイは、少しばかり毛並みが違う。

 相手のオーラが見えることを最大限利用する。

 オーラが見えても反応速度など、間に合わない。

 しかし、足技が得意とか不調があるとか。

 受け主体か、攻め主体か。フェイク主体か、などなど、

 試合に対する相手の姿勢と雰囲気を知るだけでも有利。

 また、オーラを視認しながらコントロールし効率良く鍛錬して、

 それも有利な材料。

 というわけで修練不足を特殊能力で補って勝っているようなヤツで、

 客観的に見ると “いいのかよ” だったりする。

 もっとも、体格差と同様。個体差と割り切れば、ありなのかもしれない。

 紫織の隣は、沢渡ミナ。

 近くで沢木ケイコと中山チアキも応援していた。

 「・・・紫織ちゃん。シンペイ君。順調に勝ち進んで行くね」

 「地区じゃ 高校生とか、大人相手に組み手しているから」

 「そんなに強いんだ」

 「さぁ でも、合気道人口10万。柔道20万。空手人口300万。数が物をいうよね」

 「合気道って他流試合すると良く負けるって聞くよ」

 「昔と違って、試合するようになったから変わるって、シンペイちゃんは言ってたけど」

 「訓練の仕方とか、むかしと変わったって」

 「試合がなかったの?」

 「合気道は、和合とかいって、ずっと、試合が、なかったみたいだけど」

 「試合するようになったの最近でしょ」

 「でも、動きとか、変じゃないの、怪しくない?」

 「合気道って。権威主義? 宗教?」

 「怪しいのもあるけど、やられてみないと、わからないのよね。あれ」

 「えっ! 紫織ちゃん。やられたことあるの?」

 「離れて、というのはないけど、掴んでいる方が力が抜けるというか」

 「誘導させられるというか、負けるから不思議よね」

 「うそ」

 「鎌ヨも、ちょっと、できるみたいだけど、よほど気合入っていないと組む以前に負けちゃう」

 「え〜 鎌ヨも?」

 「沢木と中山は、強いけど、そういうの、まだ、みたい」

 「いい加減、アイドルに転向すれば良いのに・・・」

 「高校からかな・・・」

 「ああいう、美人は、横柄とか、横暴とか、エゴを振り撒きながら転落の道に向かっていくのよ」

 「もう、そうならないような、雰囲気だけど」

 「中山のやつ、昔は、もっと、タカビーだったのに・・・」 ミナ

 「料理だって卵焼きを私の焼きそばより上手く作って」 ミナ

 中山との料理対決で負けたのが悔しいらしい。

 「いくら金を掛けたと思ってんのよ。ふざけんな」 ミナ

 「才色兼備ね」

 「善人ぶりやがって、むかつく」

 「わたしも・・・容姿を含まれたら “総合負け” って、感じかな」

 「シンペイ君。将来、何になるのかな」

 「さぁ 髪は、上手に切っているけど。道場とか、やれるかも」

 「そういえば二日前、切ってもらったっけ」

 「スキンシップで親しみが湧けて、そっちの方が良いかも・・・」

 「試合前に?」

 「シンペイちゃんのライバルに呪われるよ」

 「今度、あの男が来たらミナちゃんに振るからね」

 「げっ」

 「ったく。こっちが遠慮しているのに・・・」

 「えっへへぇ でも、シンペイ君も合法的に女の子に触れて」

 「女の子たちも好意を寄せるシンペイ君に触られて・・・」

 「免許ないんだから・・・合法じゃなくて、違法。問題ありだって・・・」

 「そうだった・・・」

 「まぁ 最初、面白がって、やってしまったのは私だけど・・・」

 「でも、シンペイ君。いいよね。むかしは、根暗な漫画オタクだったのに・・・」

 「いまも、時々読んでいるけど・・・食事中も、漫画本を指で挟んでるし」

 「オ、オタクだけ、じゃないのがいいのよ」

 「どんな親父になるんだか」

 「うち、母親だけだから、なんか、親父が、キモイって、わかりにくいのよね」

 「母親から生まれる前は、父親の玉袋で泳いでいたのに親父がキモイと言ってもね・・・」

 ・・・・・・・・・・

 「「キモイぃ・・・」」

   

      

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 まぁ 人生、いろいろ。

 紫織の勧善懲悪でなく、

 善悪混在なサクセスストーリーは、どうなっていくのやらです。

   

    

 

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第55話 『少年よ、希望を抱け』

第56話 『キモイのは、お好き?』
第57話 『キキョウ』

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