月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第57話 『キキョウ』 

 温暖化の影響だろうか。

 木枯らしが似合う季節のはずが、まだ暖かい。

 紫織は、こもれび古本店の2階で商店街の雑踏を聞きながら宿題を片付けていく。

 表向き受付嬢なのだから、ブツを渡したり、依頼を受けるだけ。

 約束した日にち。

 そして、時計を見ると時間が近付いてくる。

 封筒の中を確認すると気が滅入る。

 夫婦は他人。親兄弟は他人の始まり。

 他人は血縁未満だろうか。

 “結局、エゴか・・・”

 エゴの衝突は交通事故に似ている。

 雑踏に不協和音が混ざる。

 「ふざけんな〜!!」

 「何よ! 冬のコートぐらい良いじゃない!!」

 「こっちだって、掃除洗濯食事をやっているんだからね!!!」

 「何だと〜!! まずい飯を食わせやがって、俺は刑務所の囚人か!」

 「囚人の方が、もっと、美味い食事を食べているよ」

 「きぃ〜!!! 何ですって〜!!」

 「この私の作る食事のどこがまずいって言うのよ」

 「ふざけんな。俺が作った方が、よっぽどおいしく作れる」

 「まずい飯食わせて俺を殺す気だな」

 「あ、あんたの給料が少ないから良い材料が買えないのよ」

 「食べさせてもらっているのに文句を言うな〜!!」

 「何よ! こっちだって、掃除洗濯をやっているんだからね!!!」

 「掃除だぁああ〜 週に一度、掃除機を使うのが、お前の掃除か」

 「俺の学生時代だって、もっと身奇麗にしていたぞ」

 「ほ、誇りが溜まっていたわ」

 「ゴミを溜めるな〜!!」

 「何よ! こっちだって、洗濯だって、やっているんだからね!!!」

 「この服を見ろ。この服を! おまえ〜! 一度でもアイロンを掛けたことがあるか」

 「か、掛けたことぐらいあるわよ」

 「じ、自分の服だろう!!」

 「き、給料が少ないんだから、そ、それくらい自分でやったら!」

 「わたし、あんたの家政婦じゃないんだからね」

 「ふざけんな!!!」

 ばっしぃ〜ん!!!!!!

 「ひどぉおおおい〜!!! 叩いたわね。この甲斐性なし〜!!」

 「何だとおぉおお〜!!」

 「きゃー!! 暴力男!」

 うがぁあ〜!!!

 「」

 「」

 よく、夫婦喧嘩は、犬も食わないという。

 しかし、ハルが聞き耳を立てているのだから意外と面白いのだろう。

 ああいうのが一組いれば、他の夫婦は我が振り直すで良いような気もする。

 愛が冷えてしまうと、相手より金や物の価値が大きくなる。

 たぶん、次は浮気。

 ヤクザな探偵業者だと “旦那が浮気しているよ” とか “妻が浮気しているよ” とか、広めたり・・・

 そこまでいかなくても、名刺を渡したくなる衝動に駆られる。

 

 人間関係は、総じて似たようなもので、

 一方が勝てば、他方が負けるゼロサムな利害関係になりやすい。

 性格の不一致、擦れ違いで済むなら良い方だろう。

 しかし、互いに分かり合っていないと不安になるのか、敢えて話し合って衝突する。

 互いに相手を組み敷いて、分かり合えると本気で思っているのだろうか。

 人間は、自己中にできている。

 分かり合おうとして逆に傷付け合い、不和と憎悪が広がる。

 夫婦喧嘩も、交通事故と同じ、特殊な例を除けば100パーセントの過失は珍しい。

 個性も違えば人格もある。

 趣向が違うのが当たり前で相手の人格や人権を尊重できなければ衝突する。

 やっていることが違っても動機は、ひがみ、ねたみ、

 嫉妬、やっかみ、足を引っ張りあって競争する。

 大人も、子供も、夫婦も、親子も、大して変わらない。

 人権を侵害されたり、価値や労力を否定されたりだと腹も立つ。

 その後、無視、不信、不正、裏切り、悪循環の相乗効果で愛情も破綻。

 家庭も、家族も、崩れていく。

 

 自己主張を繰り返し、利己主義を追求すれば、人間関係も崩れていく。

 優先順位が滅茶苦茶だと、

 一生、友達を作れないどころか、夫婦・親子・兄弟の絆すら断ち切ってしまう。

 時に最愛の者を踏み躙って傷つけ、より深い絆にする衝動も起こる。

 男の子が女の子にちょっとした嫌がらせをしたり、女の子が男の子を困らせたり・・・

 その延長だろうか。

 しかし、一度、不信感を持つと、不快になり、人間不信も、歯止めが利かなくなる。

 それが原因で憎しみ合い、破綻することもある

 “なぜ、そんなことをしたのか?” と問うても後の祭りだったり。

 この手の愛憎に直面しやすい探偵業は、必然的に統計を集めて利用する。

 『店長、お客さんが、のらくろを見たいと来ています』

 「わかったわ、通して」

 目の前の女性は、並みより綺麗な40代前半で上品で感じの良さそうな仕草。

 母親と娘の年齢差で、ほとんど覚えていない自分の母親を彷彿とさせる。

 離婚の原因は、

 夫の場合 

 1)性格が合わない  2)不倫・不貞(異性関係)  3)浪費する 

 4)異常性格  5)性的不満  6)酒癖が悪い  7)暴力をふるう

 妻の場合 

 1)性格が合わない  2)暴力をふるう  3)不倫・不貞(異性関係) 

 4)浪費する  5)性的不満  6)酒癖が悪い  7)異常性格

 

 紫織は、こりゃ駄目かもと、思いながら、正面の女性に浮気調査の結果を渡す。

 統計だと夫婦の3分の1は離婚する。

 そういう時代なのか、堪え性がなくなったのか、無いものねだりか。

 実は、事情は昔からで、離婚が増えたのは、離婚したあとの条件が良くなったからか。

 離婚の仲介業産業が強くなったせいだろうか。

 “男と女なのだから性格が合わないのは当たり前”

 “事前に警告があって、殴るのも暴力なのだろうか・・・”

 “浮気する側が悪いとしても、される側に原因はないのだろうか”

 “価値観の相違で、お金の考え方、使い方、配分は変わる”

 表面的に同情しつつ、覚めた目で、いろいろ思ってしまう。

 婦人は、書類を確認すると強張り青ざめていく。

 修羅場になりそうな写真も入っている。

 そして、呆然自失で帰っていこうと・・・

 「あっ! す、すみません」

 「え・・・」

 「ご主人様の尿で薬品成分が検出されました」

 「これが尿検査の詳細です」

 明細を別に渡すと婦人の顔色が変わる。

 「洗剤が落としきれない時の反応だそうです」

 「き、気をつけます」

 婦人はそそくさと帰っていく。

 夫婦で憎悪し合って残りの資産を巡って殺し合い、独り占めか・・・

 これも拝金主義の行き着く先なのだろうか。

 どんなに繕ってもシンペイが一目見れば殺意のある人間は “即” 分かる。

 夫が先に寿命を迎えるのも自然現象だけでなく、

 妻の愛情が薄れ、恨み辛みが膨れ上がった結果と思えなくもない。

 夫は気付いているのか、気付いていないのか・・・

 明白な殺意に至らず嫌がらせであっても相乗効果で悪循環が繰り返されれば、殺意に繋がる。

 人が結婚するのは、なぜだろうかと、思ったりもする。

 一人は寂しく。二人は煩わしい。

 短い時間だけ愛し合う。

 あとは、長い時間を労働者と家政婦で礼儀正しく、惰性の共同生活だろうか。

 夫婦は、いつ労働者と家政婦に成り下がるのだろう。

 夫婦の価値は、いつ、財産より小さくなるのだろう。

 最初から性欲だけで永遠を誓い合う愛が幻想か・・・

 性欲が尽きると愛も尽きて、あとは、金の亡者になるのだろうか。

 最近は親子の愛情すら歪に見える。

 開き直っている方が期待もせず、長続きするものを・・・

   

  

 携帯がなって、出ると、シンペイ。

 『犯人は、従兄弟のナツオだよ』

 「顔見知りか・・・何でだろう?」

 『憎んでいる相手は、娘の父親みたいだったけどね』

 「・・・父親は・・・んん・・・先物取引か・・・損でもさせられたかな」

 『たぶん、そんなとこ』

 「親への恨みが、その娘にか・・・」

 『なんか、いろいろありそうな一族だよ』

 「やったり、やられたりね」

 『女の子は、間藤村の方じゃないかな』

 「生きてるの?」

 『たぶん、まだ生きてる』

 「よ〜し♪ あとは、警察に任せましょう」

 『じゃ 戻るよ。あ、例の本は?』

 「プレミヤのマンガ本が簡単に見つかるわけないでしょう」

 『はぁ〜』

 「帰りに大路物産の社員を見て欲しいの・・・」

 「今、名前と住所をメールで送ったから」

 『・・・・うん、わかった』

 最近は、警察署の捜査も、ある程度、口を挟めて誘導できた。

 その気になれば冤罪に誘導できるのだから、よくよく考えると空恐ろしい権力だろうか。

 もっとも、それやると検挙率が落ちて信頼も失うが・・・

 殺人事件も統計がある。

 85パーセントから90パーセントが利害関係のある身内とか、

 顔見知りで重犯罪の検挙率の高さは、それ。

 過失とか、事故とか、衝動とか、運が悪かった系もある。

 10パーセントから15パーセントは、見ず知らずの通り魔とか、強盗殺人とか少数派で、

 現場近くで殺人可能圏にいた人間。

 推理ドラマとか、刑事ドラマも意外と、この比率だったり。

 こもれび探偵団の場合 “古賀シンペイのオーラが見える” で先に犯人の目星がついてしまう。

 その後、動機から犯行方法とか絞り込んでいく。

 普通は、現場で殺傷可能な者を把握しつつ証拠品を集めて犯人を特定していく。

 犯人が知能犯で衝動でなく、

 計画的でアリバイ工作があったりすると、

 この作業たるや費用対効果で割損。

 解決しやすい犯罪を先に片付けた方が予算上、割得。

 紫織の両親の交通事故が後回しにされたことが合理的な判断であり、

 理屈で理解できるようになると、理性と感情の狭間でジレンマを起こしやすい。

  

  

 そして、また電話

 「・・・はい、こもれび古本店です」

 『嘉村不動産だ。例の件は、うまく行ってるのかね』

 「二人とも、山形県の酒田市まで足取りを掴んでいます」

 『そうか、そうか、よろしく頼むよ』

 『上手く探せたら、あの五月蝿そうな古本チェーン店をへこましてやろう』

 「い、いえ、約束のものだけで十分です」

 『おいおい、もっと人でなしになって世の中を押し潰していかなければ、自分が世の中に押し潰されるぞ』

 ・・・ブルドーザー?

 「い、いえ、わたしも、時々、利用しているので・・・」

 『・・・まぁ いいか、じゃ 見つけたらすぐに頼むよ。警察より先にな!』

 「はい」

 がちゃ!

 善意で言ってるのか、悪意で言ってるのか、経験で言ってるのか・・・・

 絆を深めて見つけた後の処理までさせようとしているかも・・・

 机の上の雑誌を見ると3億の金を持ち逃げした男女のことが書かれている。

 犯罪者の履歴が書かれても、そうなった経緯は書かれていない。

 “社員を家族だと思い、信じ過ぎたのだと思います。こんなことになるなんて・・・” 社長談

 苦笑い・・・・

 社員を追い詰め過ぎたのだろうか。

 信じ過ぎて社員に裏切られるよりマシなのだろうか。

 『警察よりに先に・・・か・・・』

 盗んだのは、金だけではないらしい・・・

 だいたい、見当が付くが深入りすまい。

 逃げた二人も弱みを握れば、警察に訴えられないと思ったのだろう。

 捕まる可能性が低いなら、

 3億と自分達の人生を天秤に載せて賭けたといえる。

 警察に捕まれば、社長も道連れに刑務所。

 逃げ延びれば3億。

 不動産屋に捕まれば・・・・

 “搾取” “裏切り”

 自己正当化しながら一方的に相手の悪い面だけを非難して罵る。

 自業自得だろうか。

 卑怯な気もする。

 人間は元々卑怯にできているのだろう。

 どっちを悪いともいえないがゲーム感覚で犯罪に手を染めていく。

 世相を見れば、どっちも起きる悪循環で欲が絡むと人間は豹変しやすい。

  

   

 探偵稼業は、それほどカッコ良いものではない。

 正義の味方ではなく、依頼人の味方。

 素行調査、浮気調査、家出人探し、債務者探し、公文書系の資料集め。

 防ストーカー、経歴調査、医療・保険の不正受給調査。スパイ・カウンタースパイ

 別れさせ屋とお見合い工作。

 犯罪者に仕立て上げて、社会的抹殺工作(殺さない)

 こもれび探偵団は調査がほとんど、

 しかし、餅屋は餅屋で、そっち系の依頼先も知っていたりする。

 競争社会だと、利害が絡んで欲張り過ぎたり、勝ち過ぎたり。当たり前なことが起こる。

 愛憎問題で恨みを買うと大変なことも起こる。

 むかしは、縁戚・近所で根回ししながら村八分に追い詰めていたらしい。

 もっとも、倫理観の強い人間が一人いるだけで成功率が低下して、不確かだったり。

 いまは、縁戚・近所付き合いも薄く、人を落としいれるため数十万から数百万円が動く。

 こちらも、騙し取られても、訴えることもできない。

 しかし、まじめな業者もいて、偶然に見えて転落の原因が作為的な場合もあったり。

 そして、闇の世界を利用しているのが一般人。

 隣人だったりする。

 人のエゴは根深い。

 そして、一番強いのが癒着した政官財で動く金も大きく、

 汚れ役を引き受けてくれる人間さえいれば何でもできる。

  

  

 ちょっとした集まり社交場がある。

 官僚・大規模企業だと課長以上、

 中規模企業で言うと専務以上、

 小規模企業だと社長で、同じ階層の集まり。

 収入が違い過ぎると、お金持ちは気を使う。貧乏人は無理をして破綻する。

 そこで、同じレベルの資産家同士の集まりで、気兼ねなく付き合える層。

 紫織の階層は、奈河周辺でいうと、上の下。

 それなりに高い。

 カテゴリーだと華やかな世界に呼ばれず。

 闇の世界からも一線を退いている。

 残っているのは、影の部分で非主流の影派とも言うべき、中途半端な世界。

 階層とカテゴリーで言うと若干、後ろめたい世界で、

 きらびやか女性の 『おほほほ・・・・』 もない。

 紫織は、この世界の平均年齢を下げる最年少の少女で珍しい存在だった。

 紫織は、渉外を富田サナエに任せて、飲茶で時間潰し・・・

 「よぉ〜 角浦。元気か?」

 「・・・馬宮さん」

 「おれも、呼ばれてね」

 「高校生探偵のお出ましね」

 「中学生探偵に言われると、笑うしかないよ」

 「わたし、受付嬢だし」

 「まぁ 俺だって助手だけどね」

 「顔繋ぎ?」

 「んん・・・使えそうな人間だって思われたかも・・・」

 馬宮が名刺の束を見せる。

 「ふ〜ん モテモテね」

 「そっちもだろう。富田サナエは何枚名刺を交換しているんだ」

 「さぁ〜」

 「・・・対抗馬で落選している候補の娘と現役市長の秘書と一緒にいるのって、どうよ」

 「まぁ 仕事上じゃないの」

 「どんな仕事だよ。ありえねぇ〜」

 「いろいろ、あるよ。守秘義務でいえないけど・・・」

 「守秘義務ねぇ でも、なんで、あの木崎が怪しいと思ったんだ?」

 「第二相続人が第一相続人を殺したってやつ?」

 「そりゃ 神菜のアリバイを崩したのは、おれだけどさぁ」

 「たいしたものね。えらい、えらい」

 「・・・第三相続人が第一相続人と第二相続人を仲違いさせ、けし掛けて」

 「殺し合いにまで追い込んだのって、普通、分かるか?」

 「実行犯は、第二相続人だったんだから馬宮さんの勝ちじゃない」

 「ちっ! 種明かしは、なしかよ」

 「守秘義務かな」

 「勝った気がしねぇ〜」

 「じゃ 口先三寸、不信感で殺意を募らせて相殺。遺産をせしめた第三相続人が勝ちって事ね」

 「女は怖いよ」

 「えぇ〜 わたしも?」

 「・・・・・」

 馬宮の視線が紫織の胸に・・・

 「角浦は・・・・微妙・・・」

 「もう!」

 「ったく。最近は、どっちが悪党か分からないのばかりだ」

 「がんばったら、正義の味方で・・・」

 「おうよ」

 正義の味方を見るのは、人間の善意を信じられて、それなりに楽しい。

 空回りしたり、人脈、金脈を断ち切られ、

 いつの間にか、回り全部が敵になったり・・・

 それでも、押し切って自分の人脈・金脈を構築して王国を作ったり、

 潰されたり・・・

 「・・・角浦・・・食べ過ぎると太るぜ」

 「!? ぅ・・・・」

  

  

  

 学校の帰り、奈河川の河川敷。

 角浦 紫織は、高校入試をどうしたものかと、ぼんやり思い悩む。

 季節はずれの淡い紫のキキョウがの花が咲いている。

 誰かが枯れ草をキキョウにかけて守っているのだろう。

 人は、一人で問題を考えて何がしかの答えを出す。

 そして、仲の良い友達との会話の中で、

 自分の考え方、価値観、間違いを修正し、補正し、補強していく。

 エミちゃん  “高校なんて、闇世界の女帝になるなら、どこでも・・・”

 紫織     “角浦 紫織は、結婚し光の世界で幸せに暮らしましたとさ、メデタシ、メデタシが理想”

 エミちゃん  “ギャグ?”

 紫織     “うん・・・”

 もっとも、友人も聡い者から愚か者まで、いろいろあって善因楽果・悪因苦果。

 人生の節目をどうしようかと理解もできないのに専門書を見たりする。

 一人の時間で考え事も必要だったり、相談することも必要だったり、

 相手を助けることになったり、自分が助けられることもあったり。

 駆け引きとか、損得ばかり考え、出し惜しみしても人間不信が強くなって孤立していく。

 紫織の場合、天涯孤独のため友人関係を重視するしかなく、

 お人よしで、適当に誠実が良かったりする。

 とはいえ、現実に親がいても相談するだろうか、と思ったり。

 いや、するだろう、と思ったり。

 父親も、母親も、顔を思い出せなくなっているのに・・・

 親も権威主義だけで子供の気持ちを理解していないと親子の縁も離れ、絆も切れていく。

 親も、子も、気持ちに余裕がなくなり、

 相手を理解できなくなれば、思春期を前後して他人状態になっていく。

 互いに相手の事情がわからず、

 言わなきゃ分からないレベルになると他人と変わらない。

 

 いろいろ思い巡らせながら、自分の行けそうな、高校の目星を着けていく。

 はぁ〜

 節目といえば節目なのだが人は環境の変化を恐れる。

 迫り来る不安と重圧は大きい。

 学歴が高すぎるとドロップアウトが怖かったり。

 学歴が低すぎると将来が不安。

 もっとも、仕事柄、親子関係、夫婦関係、友人関係とも、

 かなり擦れた見方になって、冷めていたり・・・

 「紫織ちゃん!」

 聞き覚えのある声に振り向くと、車に乗った楠カエデが手を振っている。

 本庁の捜査第二課に栄転した人間が奈河町にいる。

 苦笑いしながら手を振り。車の中へ。

 「久しぶりね。紫織ちゃん。送るよ」

 「じゃ こもれび商店街に・・・」

 「楠お姉ちゃん。仕事で、こっちに来たの?」

 「何よ。警戒しちゃって・・・」

 「良かった♪ 違うのね」

 「当たり〜♪」

 「・・・・・」 むすぅう〜

 「まぁまぁ 良くあること、良くあること」

 天涯孤独は、親を頼れず、他人との関係を重視するしかない。

 彼女は、半闇世界に自分を引き込んだ人間だが恨む気持ちもない。

 「・・・まぁ いいけど・・・」

 「もう〜 紫織ちゃん。好きよ」

 「な、なに言ってるのよ」 ぽっ

 「くすっ 元気そうで安心した」

 「茂潮さんと、上手くやっているの?」

 「ん・・・まぁ 人生のパートナーってヤツかな」

 「へぇ〜♪」

 「利害が一致しているから、しょうがないのよ」

 「ふ〜ん そうか〜 うんうん」

 「あのねぇ〜」

 「結婚式は、いつ?」

 「そ、そのうちよ」

 「きゃー! すてきー!」

 「ふっ♪」

 「茂潮さんに逃げられないようにね。男に逃げられると、かなり恥ずかしいから」

 「し、紫織ちゃんも言うようになったわね」

 「・・・でも、受験前なんだけどな」

 「ぅ・・・そうだった。って、コネあるよ」

 「コネ?」

 「こっちの教育委員会にコネ」

 「わたしの成績、中の中なんだけど。スポーツもやってないし」

 「推薦枠じゃなくて・・・・一般枠で・・・・」

 「な、なに? 不正入学?」

 「まぁ そうともいう」

 「わたし学力ないから入った後、辛いよ。そんなの・・・」

 「そいう上じゃなくて、まぁ 何とか、入れそうなレベルよ」

 「ぅ・・・警察と思えない、せりふ」

 「あ、あのねぇ 入学させる高校は、受験の点数だけでなくて、面接の比重も大きいの」

 「50点差くらい平気で、ひっくり返るんだから」

 「でも、そればっかり当てにしてもね・・・」

 「ほら、がんばらないとライバルに負けるわよ」

 「ライバル?」

 「高校生探偵の馬宮シンイチ 17歳」

 「げっ! 別にライバルだなんて思っていないけど」

 「でも、矢沢探偵社、伸びているみたいよ」

 「わたし、探偵じゃないし・・・」

 紫織は、生活の糧とか、需要に応えて、仕事でやっているだけ。

 収入で余裕が出てくると、

 犯罪者を追い詰めることに喜びを感じていないせいか、意欲も下がり気味。

 強者側の理不尽な皺寄せに憤りを感じたり。

 弱者は、鬱積する気持ちを強者側に反発させるか、より弱者に向けて虐げるか。

 なにか、気晴らしを見つけるか。

 作用に対する反作用で犯罪が起きていたり、情状酌量の余地があったりする。

 人を呪うために生まれてきたわけでなし、

 人に恨まれるために生まれたわけでもなし、

 正義感ぶって犯人のあら捜しで自分が逆恨みされるのも懲り懲りだったりする。

 やさしい世界は、どこにあるのだろうかと思い悩んだり。

 父と母に連れられて、買い物に行った記憶がなんとなく思い出される。

 世界をやさしいと思った余韻は、唐突に消えてしまう。

 自分が犯罪者側に踏み出さないのは、世界をやさしいと思った頃の残照だろうか。

 まだ、中学生なのだから、あまちゃんでも良いような気もする。

 しかし、ニーズが、闇の側へ引っ張ろうとする。

 何のことはない、正義の味方だとウィンウィンの関係で悪巧みができず、信用されないらしい。

 世の中の腐り具合には閉口させられる。

 恨み辛みのない世界に行きたい・・・

 「・・・紫織ちゃん。それ、アニメの真似?」

 「そう、お日様に手をかざすとね。手が綺麗だと思えるの・・・」

 「危ないよ。走ってるんだから」

 「うん」

 

 

 

      

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 月夜裏 野々香です

 「もう〜 紫織ちゃん。好きよ」

 好きと言ってくれる人間は、モラルを保つ上で、重要かもです。

 親子でも養育費だけとかばかり。心と心の関係が薄れていく昨今。

 存在している価値を認められる。

 それは、やはり “好き” と言ってくれる人間によってでしょうか。

 好かれるため、モラルも維持しようと思ったりです。

 とはいえ、安上がりな言葉、モラル代で、角浦紫織は、働かされることに・・・

 

  

  ※ 捜査第二課(知能犯罪、金融関係犯罪及び選挙犯罪等)

  

 

高校入試

 選考基準は、点数だけでなく、人柄とかも判断されて、それなりに多様。

 A。学力500点。内申書330点。面接70点。 定員50〜80パーセント

 B。面接・作文・適性・内申重視  定員10〜40パーセント

 C。学力重視  定員10〜20パーセント

 という感じなので、楠カエデの言うのは、B選考基準。

 これだと、受験点数が足りなくても、繰上げで、入れるという感じでしょうか。

 

 

 

  

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第56話 『キモイのは、お好き?』
第57話 『キキョウ』
第58話 『人の形をしたモノたち・・・』

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