月夜裏 野々香 小説の部屋

     

現代小説 『紫 織』

     

第60話 『トリック方程式』

 そこは、四国の農村。

 黒塗りのロールスロイスは、谷の小さな田園に入っていく、

 『隠れ里ね・・・』

 『シンペイちゃん』

 『なに?』

 『あんたが代表で喋りなさいよ。わたし黙ってるから』

 『なんで?』

 『私は、御淑やかな少女だからよ』

 『・・・全部知ってると思うよ』

 『・・・・』 ため息

 書院造り風の民家が山茶花の木々に囲まれていた。

 爺と付き人の男は、紫織とシンペイを献立も値札も無い広間に通し、

 しばらくすると香ばしいアユの香りが漂い、

 様々な料理が出され・・・

 『『滅茶苦茶美味い・・・』』

 「若い男女が冬に船旅とは、いい関係じゃの」

 「デートだよ」

 『なっ シンペイのやつ〜』 むっ

 「そうか、そうか、いい仲か。若者は羨ましいの」

 「お、幼馴染だから・・・」

 「見たところ、中学生じゃな」

 「受験生です」

 「ほお、この時期に余裕じゃの」

 「なるようにしかならないので・・・」

 「しかし、世の中に疑問を持ち始める年頃じゃないかな。お嬢さん」

 「疑問より窮屈なのが嫌かも」

 「ほう、窮屈の本体としては心苦しいの」

 「「・・・・・」」

 「まぁ 社会に法は大切だからの」

 「権威と権力を嵩にきた人間ばかり増えていいのかしら」

 「あははは・・・痛いところを突くの。確かにそういう人間ばかりは困るの」

 「お嬢さんは、将来の夢があるのかの?」

 「お、お嫁さん」

 「あははは、そうやの、女の子はお嫁さんにならなの」

 「お嬢さんなら良いお嫁さんになれそうじゃの」

 「そ、そうかな・・・」

 「うんうん、料理の上手な女の子は向上心がある。男は飽きんでいい」

 「それに御淑やかそうに見えるのも男心をくすぐるの」

 「えへへへ・・・」

 「いま “見えるのも”・・って・・・」

 「う、うるさい」

 「あははは・・・芯が強いのもいい女の条件じゃ 仕事をすれば見識も広がるじゃろうて」

 「お爺さん、褒めても何も出ないよ」

 「いやいや、こちらから出したいくらいじゃ」

 「「・・・・」」

 「もう、猿芝居はよかろう」

 「老い先身近くなると次の機会を待つ気も失せてしまうからの」

 「わしはただの道楽老人ではないし」

 「お嬢さんもタダの受験生じゃない」

 「「・・・・」」

 「そこで、モノは、相談なんじゃが・・・」

 「」

 「」

 

 

 この世に悪の組織は存在しない、既得権とエゴが存在するだけといえる。

 保身と面子が自己改革に勝り、派閥争いを成長より優先する。

 内輪で聖域を確保したいばかり、対外的な敵対より、身内を淘汰してしまう。

 若いうちに友を作り、競争しながら力を付け独立していく、

 歳を経るにしたがって互いが互いを凌ぎを削り合い自己の位置と社会を構築していく、

 争いは、個人、骨肉から組織の抗争まで広がっており、

 日本は、慣れ合いで共倒れになりやすく、

 欧米は、切磋琢磨の出し抜き指向が強いと言えた。

 生まれ付いた不公平であれ、怠惰による力不足であれ、

 それは、血統を含めた自業自得な結果といえた。

 我が身の不運を呪っても、紫織は天涯孤独の身の上であり、

 孤児院に行かないのであれば、働かなければ生きていけない。

 古本屋稼業で貧しく慎ましくジリ貧で生きていくか、

 副業の小旅行冊子もプラスアルファで副業でしかない。

 もっとも実入りが良く、もっとも怪しげな裏稼業は、ハイリスクハイリターンであり、

 栄養価が高いのか、賭け金に応じて利潤が大きくなり、将来の展望も夢も広がる。

 時々 親の庇護の下で甘えながら成長したかったと思うのだが後戻りはきかない。

 小娘が一人、体も売らずに生きて行くには相応の覚悟が必要であり、

 実力と能力があると覇気を見せたり、

 小賢しくも女性らしく、しおらしく見せたり、

 受検前の冬空の下、小船に乗って竿を垂らしているのも、

 先祖から受け継いだ有象無象のモノと、

 平均以上の価値があると思えない体を守るためといえた。

 門獄島の近く、

 背中の向こう側で釣竿を垂らしているのは、幼馴染&同級生の少年だった。

 彼は、両親がいて庇護されており、働く事もないのだが、

 幼馴染&同級生の少女に悪の道に引っ張り込まれ、

 いまは、オーラが見える特異な才能を生かし、こもれび探偵団の稼ぎ頭・・・

 「茂潮さん、それで・・・」

 “あの爺さんは、かなりヤバイ人だよ”

 「やっぱり・・・どんな人?」

 “戦前戦中戦後の経緯もあるけど、爺さんは3代目”

 “どんな人といわれると全容が掴み難いけど・・・”

 「犯罪組織?」

 “テレビや映画じゃあるまいし”

 “大半は大手企業の集団で合法、一部、灰色だよ”

 “だから怖いというのもあるけど”

 “紫織ちゃんの組織を50万倍の日本全国レベルにしたような感じかな”

 「なっ・・・凄いのか凄くないのか全然分かんないじゃない。どんな組織よ」

 「まぁ 政官財のフィクサーっていえるかも」

 「人聞きの悪いこと言わないでよ。私がフィクサーの真似事してるみたいじゃない」

 “とんでもない人脈だから、当たらず障らずがいいと思うよ”

 「ぅぅ・・・もう、遭ってしまってる・・・」

 “ご愁傷様”

 「でっ・・・仕事だけど、あいつら本当にこの島にいるの?」

 “警備システムからすると、いると思うよ”

 「・・・・」 ため息

 「上手く、入りこめる?」

 “警備システムに入り込めたけど、入れない区画がある”

 “だから、そっちで警備システムのサーバーに繋げてもらうしかないよ”

 「ぅぅ・・産業スパイなんて・・・一ツ橋の野郎・・・」

 大企業の組織犯罪を暴いてしまうのは、何かと不味い、

 これは、倫理上というより、

 人と社会が正義で生きていないことの現れ、

 片や警察、片や大企業、

 下手うつと巡り巡って客が減ってしまう、

 というか尻尾切りされかねない、存亡の危機、

 どっちも引けない面子だけの巨大勢力の張り合い、

 その気になれば、圧力をかけるだけで自分たちを潰せるだろう。

 いくら、灰色な世界に片足を突っ込んだからって、それはないだろう。

 「・・・・・」 ため息。

 涙も出ない。

 小島に辿り着くと、ほどなくして、島の管理者が現れて、警告する。

 曰くこの島は、企業所有の島であり、部外者立ち入り禁止なのだと、

 ヒヤリとした掌が紫織の額に当たり・・・

 紫織が熱を出して魘されていなければ、島に入れなかっただろうが、

 幸運にも39度の高熱を出して、島の医務室に運び込まれた。

 表向き操業していないはずの島で、

 管理者と職員の家族がいて、助けられたのだった。

 「こんな冬の最中に舟遊びなんて、最近の子供は何考えてるんだか」

 「迎えの船がくるまで、大人しくしてるんだよ」

 「はい・・・」

 医者が出ていくと、

 医務室にシンペイが戻ってくる。

 「・・・上手く入り込んだけど、シンペイちゃん、どう?」

 「まぁ 普通かな」

 「普通か・・・罪悪感がないってこと?」

 「んん・・・むしろ善人・・・」

 「はぁ 生き馬の目を抜く海千山千の大手覇者企業が善人ってあるわけがないでしょ」

 「あははは・・・でも操業していない割に人が多いのが気になるな」

 「なに? 管理だけじゃないの?」

 「んん・・・なんか・・・やってる」

 「調べろ」

 「まぁ やっては見るけど・・・」

 企業所有の島に見慣れない子供がいる。

 怪しくても中学生であり、誰かの縁戚と思われてしまう。

 そして、元は、数百人が働いていた閉鎖された工場であり、

 隠れ場所は事欠かない。

 “シンペイ君。一時間だけ、君の指紋を登録している”

 “その間、監視カメラとセンサーもリピートさせるから、その間に抜けてくれ”

 「わかった」

 茂潮の誘導に従って移動する。

 シンペイは、人目を避けると重要区画に入り込んだ。

 センサー感知と数秒前の映像変化を比較検索するタイプの警備システムであり、

 閉鎖された工場の警備にしては過剰に思えた。

 『大企業の研究室か・・・あの爺さんといい・・・碌なことないな・・・』

 白衣の男たちが気密区画を出入りし、

 見覚えのある小滝ユウヤ、佐奈咲シズマ、増田ホウジョウもいた。

 『宗教がらみの繋がりじゃなく、大企業が絡みの繋がりか・・・だけど・・・』

 そう、オーラの見える少年の目には、善良な人間たちに思えた。

 不意に気配を感じ、近くの部屋に隠れた。

 室内は、薄暗く、誰もいなかった。

 ドアの前に人の気配を感じ、ドアの背側に隠れると、

 ドアが開いて、人が入り明かりが点けられる。

 間一髪、白衣の男の背後に回り込み、

 通路側へ出ると、ドアが閉められ、危地を脱っする。

 『あ、あぶねぇ・・・』

 抜き足、そろそろ

 差し足、そろそろ

 不意に気配を感じ、さらに階段の下に隠れる。

 「・・・やはり、脳内報酬系のアンフェタミン、メタンフェタミン、コカイン、メチルフェニデートを緩和させるか」

 「それか、側座核内のA10神経のドパミンの過剰な充溢を防ぐか」

 「シナプス前終末からのドパミン放出の再取り込みブロックをさせないようにしないと」

 「んん・・しかし、後遺症とかもあるからな」

 「」

 「」

 「」

 大企業が覚醒剤依存治療薬の開発を進め、

 その一部が下請け企業からから宗教団体の偽善的な仲間たちに漏れ、

 試行錯誤の模造品、劣化品が覚醒剤依存症の抑制剤として、巷に流れだしたのだった。

 そう、結果が不幸だっただけ・・・

 

 

 

 冬の動物園

 寒々としたコンクリートの壁の中、2匹の像がたたずんでいた。

 アフリカ大陸にいれば、もっと熱く、広い大地を行き来し、

 自由と比例した命の危険に晒され生きれただろう。

 人権があるように象権があったら怒るだろうか。

 「・・・もう、紫織ちゃん。寒いのにこんな処に呼び出して」

 報告書を一ツ橋サツキに手渡した。

 「喫茶 “取り調べ室” でいいのに・・・」

 「嫌よ」

 受験生を警察署の取調室に呼び出せる。

 この無神経さは、国権を代表しているところから来るのか、

 いや、この女の気質だろう。

 ・・・・・・

 「その大企業が人体実験をしている可能性は?」

 「大企業側も、まだ、モルモット段階なこと」

 「研究所側にデーターがフィードバックされた記録がないこと」

 「研究からほど遠い中途半端な劣化薬品が使用されていること」

 「デメリットが大き過ぎて、メリットが小さいこと」

 「・・・まぁ そんなところでしょうね」

 「どうするの?」

 「んん・・・」

 数枚の報告書に目を通していく、

 「まずいわね・・・」

 「これじゃ 犯人を捕まえたら大企業の企業秘密まで行ってしまう・・・」

 「本当は、それを狙ってたんじゃ・・・」

 「ふっ 掘り出しものだけど、そこまで腹黒くないわよ」

 「大企業との繋がりは低過ぎて、責任を追及できない」

 「抑制剤製造者も殺意はなさそうだし・・・」

 「警察って、大企業が絡むと退いちゃうのね」

 「だって、天下り先だもの、老後を考える警察関係者は多いし」

 「はぁ・・・」

 「あと、気になるのは、古木ナツオ(28)・・・」

 「アメリカ薬剤メーカのエージェントの可能性大・・・」

 「「・・・・」」

 「情報が漏れてる可能性は?」

 「持ち出された分は、知られている可能性がある」

 「ふ〜ん、医療関係は、向こうが上のはずだけど・・・」

 「日本の薬剤レベルを確認したかった、というところね」

 「たぶん」

 「まぁ いいわ、善意が動機らしいし。後は、こっちで処理するから」

 一ツ橋サツキは、そういうと去って・・・

 「あ、この件は内密にね」

 「あなたの老後のため?」

 「そうよ。でも、天下り先じゃなくて、私と貴方の平穏な老後のためよ」

 「・・・・」

 やれやれ、

 まったくもって、世の中、白黒より灰色が多い。

 しかも危険の割に実入りが少ない。

 寒そうな象も同情してくれるだろう。

 「・・・・」 ため息

 

 

 

 

 推理のトリック方程式

 犯人=動機×時間×空間×人×物=被害者

 犯人捜しは、システマチックやるべきでしょう。

 家でお嬢さんが死にました。

 カギがかけられて密室です。

 合い鍵は、被疑者Bが持っていますが大阪。

 犯人候補は4人いたとしましょう。

   被疑者A=(動機○) × 時間○) × (空間×) × (人×物)=被害者

   被疑者B=(動機○) × 時間×) × (空間○) × (人×物)=被害者

   被疑者C=(動機×) × 時間○) × (空間×) × (人×物)=被害者

   被疑者D=(動機×) × 時間○) × (空間×) × (人×物)=被害者

 被疑者が誰なのか、これは、後回しです。

 背中をナイフで刺されているので基本的に殺人。

 普通、動機が○なら殺人。

 動機が×なら過失致死の可能性があります。

 もう一つは、自殺。

 あるいは、身代わり自殺で誰も死んでいないとか

 保険金が絡むと、そういうこともあるわけです。

 あとは、時間的に可能か。空間的に可能か。

 時間的に無理は、犯行現場にいられない。

 空間的に無理は、密室殺人でしょう。

 最近の推理物は、やり尽くされた観があるので、

 今後の推理物はどうなっていくのか、不安だったりします。

 では、被疑者Aは、継母の吾妻スミコ(32)

 被疑者Bは、父親の吾妻イチロウ(35歳)。

 被疑者Cは、兄のイノチ(17歳)。

  ・

  ・

  ・

 被疑者Dは、客人の角浦紫織(15歳)

 紫織は、数日前読んだ “現代推理トリックの奥儀” の内容に、

 いまの状況を当てはめていた。

 『よりによって、この私が被疑者の仲間入りなんて・・・』

 まぁ いくらなんでも、子供を疑うまいと、おまわりさんに苦笑いしてみせる。

 そして、見覚えのある顔も現れる。

 「よ、久しぶりだな。少女探偵」

 「ど、どうも、浅間刑事に、樋口刑事・・・」

 「何しに現場に来たんだ。もう伝説は、いらないだろう」

 「伝説だなんて・・・」

 「でっ 少女探偵。なんで、殺したんだ?」

 「おい」

 「角浦。良かったな。密室殺人なら謎が解けるまで時間が稼げるぞ」

 『このやろう、わたしが犯人なら面白いと思ってやがる』

 「鑑別所に差し入れしてやるからな」

 「気にしないでくれ、馬宮刑事と広瀬刑事の御礼だ」

 「いま差し入れしやがれ」

 「「あははは・・・・」」

 鑑識課の職員が現場検証をしていく、

 紫織は、黙って見ているだけだった。

 「ところで、少女探偵は、進路は決まったのか?」

 「道善高校かな」

 「ほう、自分で稼いだ金で高校に行く気分はどうだ?」

 「泣いて勉強を嫌がるほどじゃないわね」

 「泣いて勉強させてくださいってほどじゃないけど」

 「ははは・・・最近のくそガキどもは、いっぺん、奉公に出したくなるな・・・て、働いてるか・・・」

 「将来は警察なんかどうだ? 婦警たちが面白がってるぞ」

 「警察・・・道理より権威と保身が通る世界よね」

 「道理より金な商売の方がいいのか?」

 「工夫と努力で実入りが良くなるから」

 「警察だってそんなもんだ」

 「しかし、世の中、世知辛くなっていくし、そのうち、工夫も努力も奪われるようになっていくぞ」

 「商売人は、みんな自分の工夫と努力をチップに載せてるみたいなものよ」

 「気を抜くと持っていかれる」

 「いうねぇ」

 「綺麗ごと言ってると損する世の中が理不尽なんだけどね」

 「まぁな」

 動機があるのは、継母の吾妻スミコ(32)と父親の吾妻イチロウ(35歳)。

 実の父親と継母が娘を・・・というのは、何とも言えないが、

 とにかく、お嬢さんの吾妻サユリ(16)は父親でも厄介払いしたくなるほどの不良で、

 非行少女がやっていそうな事は、全てやり尽くし、

 体けでなく、身内や家を叩き売っても自分の欲望を叶えようとする悪漢だった。

 まして、他人には・・・

 どうして、こういう人間に育つのか、成長過程を知りたいものだ。

 これが社会的淘汰なら上手く機能していると思いたい、

 二昔前なら村の品位と品性を保つため、

 全会一致で白羽の矢が軒下に当てられ、

 人身御供で神の御許に捧げられるタイプだ。

 表面上泣いて憐れんで見せても村の厄介者で、

 親でさえ難儀して、こいつ死ねばいいのにと、思われている子供なら、

 だれも文句は言わない、

 彼女は、そういう、お嬢さんだった。

 ムラ社会に懐疑的で、懐古出来るわけでないものの、

 むかしの方が出来損ないの処理が合理的に思えた。

 人命と人権を尊ぶあまり、中身の人間性を腐らせているのが現代なのかと・・・

 もっとも、崩れたのは道善高校に入ってからで、元々は、頭が良かったらしい、

 その素行調査の報告書は、依頼人の継母スミコに手渡され、

 警察と問答中だった。

 兄の吾妻イノチ(17)は、好青年で紫織も、ぽっ! としそうだった。

 そして、父の吾妻イチロウが帰宅する、

 娘の亡骸を見て、

 無念そうで、ホッとしたような表情を見せても驚くに値しない。

 死んだ吾妻サユリは、自分の面子のため他人だけでなく、親兄弟まで踏み躙れる、

 「なにか、気付いた事はないかね?」

 「さぁ 家の者に相談を受けていたとき・・・」

 「相談じゃなく、報告書を渡していたときだろう」

 刑事が報告書を振って見せる、

 「それは、こちら言えませんね」

 「守秘義務か・・・」

 「信用で成り立ってるものですから」

 「まぁ いいか」

 「とりあえず彼女の素行は、これを使わせてもらうことにするよ」

 「もう、クライアントに手渡したものですから」

 「それで、なにがあったのかな?」

 「サユリさんが外から帰ってくるなり部屋に入って、一、二分で悲鳴が上がって」

 「ドアはカギがかかっていたの?」

 「はい」

 「外に回り込んで窓から見たら、カーテン越しにサユリさんが倒れてて」

 「それで・・・」

 「救急車を呼んだ・・・」

 「ええ・・」

 「その・・・あれだ。どういう悲鳴だったのかね?」

 「背中にナイフを突き刺されるような悲鳴だと思うけど」

 そう、被害者は背中にナイフを刺されていた。

 これでは、自殺の可能性も少ない。

 「・・・・それで、息子さんは、その時どこに?」

 「ぼ、僕は、自分の部屋で勉強していたから」

 そう、彼は有名大学の受験生。

 好青年の将来を考えると、

 彼を無事、有名大学に送るには、彼女が邪魔だろう。

 「イノチ君は、サユリさんとどういう関係だったかな」

 「仲は良かったと思います」

 「最近、勉強を教えてなかったので、話しはしてませんでしたが・・・」

 「イノチ君は、受験生ですから」

 継母のスミコも、老後を託せそうなイノチの将来に期待しているのだろう。

 庇う気持ちは強そうだった。

 犯人は利害関係が直結してる家族の中にいる、

 例え、殺人を外部に依頼したとしても・・・

 少なくとも、自分の家の中でやりたくないはず、

 だいたい、殺人の容疑がかかれば将来どころか・・・

 パトカーが集まり、

 周辺は人だかり、

 衝動殺人だろうか、

 警察が家の間取り図を使い、

 殺害された時の被疑者の動きを見聞していた。

 むしろ、計画的にも思える・・・

 携帯が鳴り・・・

 「シンペイちゃん、まだ、来れないの?」

 “甲斐高校の説明会が終わったらすぐ行くから”

 「そう・・・」

 オタクな幼馴染とも高校は別か・・・

 父親が鍵を警察に見せていた。

 「お父さんが娘の部屋の合いかぎを持っているわけですな」

 「元々の作りがそうなっている家なんです」

 「ホテルと同じで自分のカギだけが全部の部屋を開けられます」

 「はい」

 「では、マスターキーか、娘さん鍵のコピーを作ったことは?」

 「いえ、私はないですが、娘は・・・わかりません」

 「壁は低いようで、娘さん側の庭も外部から侵入できなくなさそうですが・・・」

 「え、ええ・・・」

 「娘さんの交友関係は?」

 「夜遊びしているくらいですから・・・」

 「若い娘さんの夜遊び、止めなかったので?」

 「怒っても聞きませんし、私も仕事ばかりでしたから・・・」

 身に覚えがあるのだろう、警察たちは納得している、

 そして、見覚えのある顔が現れる、

 「やあ、角浦。御機嫌よう。今回は、犯人だって?」

 「なにしに来たわけ?」

 「僕は、道善高校だからね」

 「同級生の見舞いと、交友関係の報告だよ」

 「それと、犯人にされそうな、いたいけな少女を救いに来た白馬の王子様だ」

 「・・・・」

 「馬宮シンイチ君。わざわざ現場に来なくても」

 「浅間警部。邪魔はしませんよ」

 「それに学校で彼女の交友関係を聞いてきましたし」

 「気付くこともあるかもしれないでしょ」

 「そ、そうかもしれないが・・・」

 「それで、交友関係を調べて、家の間取りを見たところ外部犯じゃないかと・・・」

 「はぁ いきなりかね」

 「彼女、逢引きしようと内側から外の窓を開けて、男を入れようとしたところ、後ろから・・・」

 「か、帰りは? 部屋の鍵は閉まってて、外の窓も鍵がかかって閉まっていた」

 「部屋に連れ込んで逢引きしていた男ですよ」

 「合鍵を持ってても不思議じゃないですし」

 「彼女の部屋は、勝手口のすぐそば」

 「そ、それで、犯人は?」

 「外から入って、部屋のドアから勝手口に出て、こっそりと」

 「しかし、なぜそんなことを? 動機は?」

 「学校でアリバイ工作していた元野球部の卒業生がいて、フォーの事で強請られのかも・・」

 「「「・・・・」」」

 馬宮シンイチは、素早く、警察官たちの顔色を確認する、

 「・・・何度か来たことがあるようですし、指紋もあるかもしれませんね」

 「だ、誰かね?」

 馬宮シンイチは、浅間警部に耳打ちすると、

 警官たちが慌ただしく動き始める、

 「お礼をいうべきかしら」

 「いやいや、フォーの情報交換でいいよ」

 「ふ〜ん、受験前のいたいけな少女を気遣ってくれたのかと思ってた」

 「もちろん、後輩になるかもしれない君が心配できたんだよ」

 「ふっ 結婚詐欺に転職した方がいいかも」

 「君に追い詰められるの、悪くないけど、遠慮しておくよ」

 

 

 

 四国のとある農家

 5度ほどの日々が続いていた。

 鶏が草土虫を啄ばみ、時に庭を駆け回る、

 一羽がコックに捕らえられ、連れ去られていく、

 縁台に座る御隠居と呼ばれる老人の下に報告書が届けられた。

 眼光の鋭い彼は言葉の報告より、証拠として残る文書を重視する傾向があり、

 付き人も一読するまで黙っていた。

 「・・・ふっ あの小娘。まさか、漏洩の件で動いていたとはな」

 「こちらで内々で処理しようとしていた矢先に、関係各所へ通達が行われてしまいました」

 「・・・・」

 「申し訳ありません」

 「くっ くっ くっ 小娘に先んじられて実入りを一つ失ったわい」

 「しかし、小娘は、まだ情報を生かす道を知らぬと見える」

 「いかがいたしますか?」

 「ふっ むかしなら凌ぎを削ってライバルを倒してきた」

 「身贔屓の派閥のため邪魔者も消してきた」

 「しかし、聖域を広げても身内から腐り、恩を忘れ、反旗を翻す」

 「派閥連中も目障りな者が多い」

 「私も老いたな。そろそろ膿が気になり始めた」

 「世代交代が必要だろう」

 「では・・・」

 「身内を処分すれば済むことだ。不利な状況で戦うこともなかろう」

 「あの小娘への依頼は生きてるし、依頼を成功すれば邪魔者の足場を崩せる」

 「わかりました」

 付き人が縁側から離れていくと、

 老人の面白がるような笑い声が漏れてくる、

 

 

 

 大晦日、神社に行って合格を願い、

 初日の出を望み、御神籤を引く、

 受験生として在り来たりな行事と言える、

 ここで、恋愛が絡めば刺激的なはずが、そうもいかない、

 一緒にいるのは色気のない商店街組合の面々で、

 神社仏閣に積極的に協力することで霊験あらたかな見えない運勢を得て、

 商店街の公益性を喧伝しつつ人脈を広げ、

 少しでも売り上げにつなげようとする涙ぐましい場でもあり、

 皆、日頃の苦しさを忘れるように騒ぎ、

 鬼気迫る表情で拝み、来年の運気を御神籤に賭けていた。

 こもれび古本店の店主、角浦紫織も、立場上、参加しなければならず、

 若い娘は花があるのか、女のたしなみというやつか、

 酒臭い場で、お酌をさせられたりする、

 いい大人なら自重しろよとか、

 「紫織ちゃんにお酌してもらうと来年は売り上げが倍増だな」

 「えー 居酒屋のビルでも建てるつもり?」

 わっははははは!

 受験前の未成年になんてことさせやがるとか、

 「紫織ちゃん、こっちにも頼むよ。売上げ倍増!」

 「はぁーい」

 こういう大人たちに囲まれていたらロクな人間にならないとか、

 「紫織ちゃん、こっちもこっちも、売り上げ倍増!」

 「はぁーい」

 こんな商店組合行事は費用対効果で怪しく不毛だとか、

 いろいろ、思いつつ年が暮れ、

 「ごめんね、紫織ちゃん」 シンペイのお母さん

 「今日は、慰み者です」

 「おせちにビフテキつけるからね」

 「うん」

 「みんなからも、お年玉を準備するって」 ひそひそ

 「えー 大変なのに」

 「大変だから福の神にお年玉を上げたいのよ」

 「へぇ♪」

 ごぉーん! ごぉーん! ごぉーん! ごぉーん!

 除夜の鐘を聞き、

 年が明けていく、

 

 

 

 小雪が降る正月三箇日、

 当然、全国的に休みで、不登校の日、

 この時期、働く人間は少数派で、もし働くと割増しで給与が上乗せされる、

 もしくは、野心的に働かなければならない人間たちが、この時期を狙って動くこともあった。

 紫織、シンペイ、富田サナエ、鹿島の4人は、東京駅で降りた。

 表面的な引率者は、大学生の富田サナエだったものの、

 リーダーは紫織だった。

 「東京か・・・三箇日は流石にまばらね」

 「というか、右も左もわからないわね・・・」

 「携帯で、だいたいの位置が掴めるよ」

 「地図の上を歩いてるわけじゃないけど」

 「でも、どこに進めばいいかわかる、こっちだ」

 「店長。大丈夫? かなりヤバい仕事じゃない?」

 「ヤバいけど、矢面に立つメインじゃないよ。まぁ 後方支援みたいな感じかな」

 「取り敢えず、顔合わせだけでもしないと・・・」

 「雑木林はいいの?」

 「警察関係者は、やめた方がいいわね」

 「一応、茂潮さんと本庁二課の楠さんは、別に会うけど」

 「というより、一通り回って根回ししておかないと・・・」

 「二人とも、受験前なのに大変ね」

 「まったくよ。落ちたら世間に復讐してやるから」

 「あははは・・・」

 「道善は、そんなにレベルの高い高校じゃないけど」 と鹿島

 「悪かったわね。そういうとこしか狙えなくて」

 「あ・・・あれじゃない?」

 「こんな、東京駅の近くで・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 4人はクビが痛くなる角度でビルを見上げた。

 

 

 

 

 高校入試は2月頃、合否もその頃わかる、

 淀中三年二組

 高校入試の合否が発表され、同級生は、喜び、あるいは悲しんだ。

 紫織は、残り少ない中学生活を思って周りを見渡す、

 よくよく考えると通い慣れた学校と、思い出深い教室な気もする・・・

 「紫織ちゃ〜ん」

 背後からふわりと甘い香りに抱き締められる、

 天は二物を与えずというが、この沢木ケイコは別だ。

 容姿端麗で武芸も強い、微妙な腹黒さはあるものの、

 こういう女の子は希で、芸能界入り間近、

 紫織は、スポンサーになっていた。

 まぁ モノや情報だけでなく、

 人間に投資するのも悪くないと思っていたりする、

 「な、なに・・・」

 「紫織ちゃん、いいこと教えてあげようか・・・」

 「いいこと?」

 なぜか沢木ケイコの後ろに中山チアキもいて、

 こいつも芸能界入りが決まって投資対象だ。

 「うんうん」

 「私の方は、あまりよくない知らせだけど」

 「ぅ・・なに・・・聞かせて?」

 「芸能界は個人の才より、コネが強いこと」

 「ぅぅ・・そんな気がしてた」

 「あと、キャラが被ってると、相手を倒さないと収入が減ったり、自滅するタレントもいるから」

 「そういう落ち目は、物凄く攻撃的でアンチしてくるの」

 「私も二、三、圧力をかけられるけど、それほど強くないのよ」

 「あ、圧力って・・・」

 「まぁ 芸能関係に繋がりのある顧客がいるの」

 「あと、誰が裏工作をして誰を追い出したとか。弱みを握って追放したとか」

 「そういう、確証というか、物証・・・」

 「「・・・・」」 退き・・・

 「でもねぇ 政官財界と繋がりの強いタレントは気をつけて」

 「ど、どういう繋がりよ」

 「み、魅力的な人たちが多いから・・・まぁ いろいろよ」

 「「・・・・」」

 「そっちを怒らせるとマスコミとか、局を丸ごと敵に回したりとかで、お手上げだから」

 「「・・・・」」

 「て、ていうか、東京の芸能界にコネがある紫織ちゃんの方が怖いわよ」

 「た、たまたま、そっち方面の仕事の関係で繋がりができただけよ」

 「どういう仕事よ」

 「とりあえず、二人には、鹿島さんを付き人に付けてあげるから」

 「「はぁ?」」

 「なんで、鹿島が付き人になるのよ」

 「そういうのって、プロダクションが決めるんじゃないの」

 「と、とにかく、いろいろあるのよ。いろいろ」

 「んん・・・なんか怪しいわね。事務所に聞くからね」

 「いいわよ。事務所とは、話しがついてるから」

 「はぁ? どうして、奈河町の紫織ちゃんと東京の事務所で、そういうコネができちゃうわけ?」

 「も、もー 聞かないでー 私だって世の中に翻弄されてるんだから〜」

 「「・・・・」」 じーーー

 「あっ いいことって、なに?」

 「誤魔化した」

 「誤魔化した」

 「えへへへ・・・」

 「どうしようかな・・・」

 「教えて」

 「・・・まぁ いいか」

 沢木が紫織の耳元で囁くと、

 「・・・・」

 紫織の視線は、三森ハルキに向けられ、

 「ほら、がんばれ♪」

 こくん!

 とことこ とことこ とことこ とことこ

 「ふっ 行ったわね」

 「紫織ちゃん、いつもいつもシンペイちゃんを引っ張り回して、目障りだものね」

 「「・・・・」」 くす♪

 「でも、気になるな。何で鹿島なんだろう」

 「あとで、鹿島を問い詰めてみるか」

 「大丈夫?」

 「鹿島なら、いっぺん絞めたとこあるわよ」

 「あははは・・・沢木・・・でも知らなさそうよ」

 「そうなのよね・・・」

 「紫織ちゃん、私たちを利用して、東京に進出する気かな」

 「んん・・・出世払いで、私たちの収入の1.5パーセント回収だし、やりかねないわね」

 「まぁ 親だって出資しないんだから、我慢我慢じゃない」

 「まぁね」

 

 

 学校の帰り

 「ふ〜ん、今日は、三森とデートか・・・」

 「ごめんね。エミちゃん、いつも教えてもらってるのに」

 「別に恋に生きるのもいいけど・・・大丈夫かな・・・」

 「んん・・・」

 「まぁ いいわ、でも答えを探しても駄目よ」

 「答えは出てくるものだから、教科書をきちんと読んで頭に入れておくこと」

 「問題をきちん読んで片づけておくこと」

 「はい」

 

 

 三森家の台所

 「三森君。本当にうどんでいいの?」

 「うん、ごめんね。角浦、受験前の大事な時に」

 「大丈夫よ。それより、お母さんの具合、悪いの?」

 「熱は下がったみたい」

 「そう、出来たわ」

 母の味よりカップヌードルの方が美味い、

 残念ながら、今風の母親の料理は、そんなモノで、

 三森の母親も、その系統の人らしく、

 「まぁ 美味しい、このうどん汁、どこで買ったの? メーカはどこ?」

 「れ、冷蔵庫にあった醤油とみりんとかつお節と椎茸と昆布・・・」

 「こ、この油アゲと具は?」

 「出汁に付け込んだのと。野菜を油で揚げただけ・・・」

 「「・・・・・」」 父 & 息子

 「え・・・そ、そうなんだ・・・」

 三森の母親は、簡単に角浦を見込んでしまう、

 

 

 霙交じりで客足は少なかった。

 西口のこもれび商店街も、東口のせせらぎ商店街も、改装した時の目新しさと勢いが失われ、

 各商店の実力勝負で明暗が分かれていく、

 借金苦の店は、北奉銀行の抵当に入って植民地状態となり、

 生き残っている商店も自転車操業で息も絶え絶え、

 焦燥感だけが漂っていた。

 大規模フロアの商店でさえ、集客が成功しているとは言い切れず、

 どことなく、寂しげな那珂町だった。

 紫織は、入試前だというのに落ち着かず、

 買い取ったばかりの古本を拭いていた。

 染みついた生活習慣は簡単に変わらず、

 簡単な消毒と拭き上げで少しだけ売れ行きが良くなる、

 しかし、このまま高校生活を送り、

 古本屋を続けるなら裏稼業と副業の片方はやめられない、

 「ちわ〜」

 いつもの配達屋さんで、

 「御苦労さま」

 新しい新古本が積み上げられていく、

 たくさん買う方が1冊当たり安くなる、

 本当ならバナナの叩き売りなのだが作家と版元が許さない、らしい

 「ねぇ 他の古本屋の調子はどう?」

 「どこも微妙に落ちてるらしいよ」

 「どうにかならないかしら、私の将来、長いんですけど」

 「ふっ 残りの寿命は長そうだね」

 「なにか、根本的な問題かしら」

 「まぁ 根本的というなら作り元だな」

 「業界は毎月毎週アイデア出せだろう」

 「上手く書ける人材は腐るほどいるけどアイデアがない」

 「作文じゃないんだから、どんなに上手く書けてもアイデアが擦り切れてたら全然面白くない」

 「面白くて必ず見てるテレビは幾つある?」

 「二つか、三つ・・・」

 「必ず買ってる本は?」

 「売りたいくらいよ」

 「単行本、専門誌は?」

 「め、滅多に買わないかな」

 「見て読み手が減ってるから視聴率と部数が減るのに単価が上がる悪循環だろう」

 「アイデアが良くても新人はネームバリューがないから投資しないと作っても売れない」

 「さらに新人の文章が育つまで待てない」

 「一方でネームバリューがあって」

 「文章だけは上手い古参のベテラン勢がアイデアが浮かばず頭を抱えてる」

 「そこはプロだから、なんとかするんじゃない」

 「・・・締め切りは、あと5日」

 「さぁ 出してくれ・・・」

 「・・・・」

 「実のところ、プロは次回作に追い詰められてるらしいよ」

 「自己保身とプライドだけがでかくて、追い立てられて歩きまわる時間もない」

 「ネタ探しでネットを徘徊して回ってるらしい」

 「業界同士の既得権で膠着してるし」

 「損失を恐れ、最大公約数な大衆迎合とマニュアル化で安全策を取りたがって冒険ができなくなってる」

 「飽和状態で新規開拓と教育ができなくて、出来合いのモノで利益を上げてるし」

 「業界同士で市場の奪い合いの潰し合い」

 「新人は文章が下手で盗作紛いが多くても時々アイデアが光ってるときがあるからな」

 「いまじゃ こうしたらいいとか言わない」

 「かなり稚拙で下手らしいけど、新人のアイデアだけを使ってでも小さくなる業界を守りたくなる」

 「そして、ネームバリューは既にある」

 「本当に欲しいのは文章力なんかじゃない」

 「アイデアだ」

 「引っ込めて忘れてくれたら嬉しいだろうけど、最近は、そうもいかなくなってる」

 「なんで?」

 「好き勝手なことをネットで創作してる連中がいるから戦々恐々らしいよ」

 「最近は文章力貶して潰したあとアイデアを奪うとか、えげつなくなってね」

 「人を生かして開拓させるより、殺して奪う時代かな・・・と、営業の人が話してたかな」

 「ふ〜ん、どこも大変ね」

 「そういうこと」

 納品書が出され、紫織がサインすると帰っていく、

 『どん詰まりは、どこの世界も変わらない』

 『もう馬鹿がいないと社会が成り立たなくなってるのかしら』

 高校受験で将来が決まるらしい、

 どう将来が決まるのか実感がわかない、

 生業、副業、裏稼業と三つも仕切れば学校を卒業して楽になりたい気持ちの方が強くなる。

 実のところ頭の良い高校が自分に合ってるかわからない、

 頭がいい方が善人で、頭が悪い方が悪人とも限らない、

 力付くで奪うより、理知的に収奪する方が紳士的に見えるだけとも思える。

 何のことはない、

 心技体を鍛えて淘汰し合いながら生き残っていく構造は、弱肉強食の動物の世界と変わらない。

 いまさら机に縛りついても手遅れ、

 明日は入試だ。

 

 

 

      

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 月夜裏 野々香です

 とっても怖い爺さんと出会ってしまった紫織は、ちょっと幸運な時期だったようです。

 爺さんの依頼は全国レベルで芸能関係でしょうか、

 それとも芸能関係に繋がる・・・

 いったい、どんな運命が待ってるのでしょう。

 

 

 

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