月夜裏 野々香 小説の部屋

    

天ぼた系 火葬戦記 『神火風』

 

 第02話 1946年 『もう、藁でも掴みたい』

 

 アメリカ合衆国

 警官が重要施設の周りに集まり、極度に緊張していた。

 白い家

 「神火風がワシントンに届く・・・」

 「この・・・ 神火風とは?」 ローマから来たエクソシストが尋ねる

 「日系人や捕虜に聞いたところ、八百万の神々の一つで、既名は存在してません」

 「勝手に命名したのではないかと」

 「んん・・・」

 エクソシストたちは手を組んで物思いにふける。

 「・・・死病を神火風と読んだということはだ。日本人の作為的な力なのか」

 「原爆投下と関連があるのでは?」

 「確かに原爆の破壊力と人間の関連性は、実験してませんな」

 「蒸発か灰になるはず。生きていたとしても放射線障害で長くない」

 「日本の新聞も、そう書いてますよ」

 「なにか、放射線で超自然的な兆候があったのでは?」

 「何人か、奇跡的に回復した記事はありますが、その後は何も・・・」

 「何もないことはないだろう」

 「死者数は?」

 「新聞では、広島で80000人。長崎で60000人ほどだとか」

 「計算より、半分も少ない?」

 「日本の新聞は、爆撃を恐れ市民が都市中心から離れていたことが幸いしたと」

 「新聞が嘘を書いてるのでは?」

 「かもしれませんが、違うかもしれません」

 「日本は、なぜ、アメリカ軍に死病が広がってることを知ってる?」

 「ソビエト軍が満州から逃げ出してるからでしょう」

 「アメリカ軍も沖縄から逃げ出してることも知ってますね」

 「死亡した兵士の検死と、連行した日本人の調査は?」

 「収容所に入れてますが、監視員が何人か死ぬと、腫れ物を触るように扱い始めてますね」

 「日本人は武器を持ってるのでは?」

 「隅々まで調べてますよ。ですが武器は持っていない」

 「マッカーサー将軍の遺体を確認した限り、武器で殺したようには見えないぞ」

 「日本人と接触したのでは?」

 「まぁ プライベートですし」

 「何人か言いたまえ、君の出世と関わる」

 「・・・・確認してるのは45人。生存してるのは12人」

 「生存者と遺体は持ってきてるのだろうな」

 「可能な限り。全部ではありませんが」

 「調査結果は?」

 「特に異常はないかと」

 「何としても保菌者を探せ。ワクチンを作らないと話しにならん」

 「人間を媒介してるとは限りませんよ」

 「艦隊や航空機が汚染されてるのでは?」

 「交替で熱消毒とアルコール消毒してます・・・」

 扉が開いた。

 「大統領。アラスカとハワイで死病が蔓延して住民が恐慌状態に陥ってます」

 「このままでは、アメリカ合衆国が崩壊するぞ・・・」

 「わかりました」

 「「「「「・・・・・・」」」」」」

 「日本人の収容所に行ってみましょう」

 エクソシストがそう言うと、支配者たちは藁でも掴んだのか、ホッとする。

 

 

 

 

 

 オアフ島

 昼夜なく、人が次々と死んでいく、

 将兵たちはピリピリと周囲を警戒していた。

 日本人と接触した将兵がひとつの兵舎に集められる。

 一人一人が十字架のペンダントを身につけ、

 教会から毎日供給される聖水で手を洗い、

 深夜になると密室に籠もって不意に後ろを振り返り、

 もう一度、前を見ては、安心する。を繰り返した。

 兵士たちは日曜日に教会に行き、頭を垂れて信心深く見せ

 告解室で、何やら懺悔を繰り返した。

 不意に1人が倒れ、

 絶命を確認すると5人に1人が半狂乱になって逃げ出した。

 

 諜報室

 「なにやら無線発信があるようです」

 「どこの部隊だ」

 「日本語ですね。非常に短い簡単な単語ばかりですが」

 「日本人が紛れ込んでるのか」

 「かもしれませんが、沖縄でも同じ現象が起きてるとか」

 「無線機を持った日本人がハワイでうろついてるというのか・・・」

 “あそこを狙うか”

 “そうだな”

 「確かに日本語だな」

 「発信場所を特定しろ」

 「それが移動してるようです」

 「無線機を持ってか?」

 「無線ですから」

 「捜索部隊に無線機を担いだ人間を捕まえろと伝えろ」

 「はっ」

 「沖縄でもそうですが、そういった日本人は居なかったと」

 「白人でもいい、無線機を担いだ人間は全て捕まえろ」

 「はっ」

 

 

 

 

 

 神火人たち

 「なんか、気付かれたみたいですね」

 「交信を盗聴されたのかも、波長を変えたほうがいいな」

 「まぁ 向こうの無線も聞こえますがね」

 「だが何を言ってるのかわからん」

 「英語がわかる人間が翻訳してくれますが、時間がかかります」

 「というより、暗号だろう」

 「ですけど、暗号を解読してる間に移動できますし。壁の裏に隠れても無駄ですからね・・・」

 どさっ!

 塀の向こう側に隠れていた兵士3人が倒れた。

 ガンマ線や中性子線だけでなく、

 双方向通信ができ、X線、赤外線の眼を持つ神火人が何百人といた。

 

 

 沖縄

 アメリカ軍将兵は、風が吹くたびに周りを見渡し、物音がするたびに銃を握り締めた。

 不意に爆音に気付き、友軍機のエンジンに安堵したように巡回を続ける。

 「おい」

 「どうした?」

 友軍機のサンダーボルトが降下すると機銃掃射で日本人の家に穴を空けていた。

 「鬱憤が溜まってるんだな」

 「死病が怖くてたまらないのだろ・・・」

 機銃掃射していた機体が傾くと体勢を立て直すこともできず墜落して燃え上がる。

 「行くぞ」

 

 

 日が沈む頃、日本人たちが燃える機体を見下ろしていた。

 「クソが、面白半分に日本人を殺しやがって」

 「追い詰められてキレたのかも・・・」

 銃声音が響き渡り、右肩に激痛が走った。

 「大丈夫か?」

 「・・・死ぬほど痛い」

 暗闇から銃口をまっすぐ向けたアメリカ軍兵士たちが近づく、

 次の瞬間、アメリカ軍将兵たちが崩れ落ちて倒れていく、

 「傷口は?」

 「血は止めた」

 「俺も手伝おう」

 もう一人が銃槍の反対側から両手を当てると、傷口が塞がっていく、

 「暗くなって、火に近づくのは危険だな」

 「そういや、新兵訓練した軍曹がそんなこと言ってたっけ」

 「まったく、軍事教練もそこそこで、沖縄に潜入だからな。どうせなら軍曹に付いてきてもらえばよかった」

 「足でまといだろう」

 「しかし、痛かったし、これで、遠慮する気もなくなったな」

 「痛いというか、当たり場所が悪からった死んでるぞ」

 「さすがに、脳と心臓は、困るな」

 「ていうか、頭上から原爆を落とされた時点で、アメリカ人に遠慮する気なし」

 「まぁ そうだが、この力を頂けて貰ったことを思うと、ちょっとだけ気が引けてたからな」

 「それより、火のそばから離れよう」

 「ああ・・・ なんか、お腹が空いてきた」

 「この力は、エネルギーかもしれないが、材料は食べるか、脂肪を使うか、らしい」

 「通りで脂肪が取れて体型がよくなってると思った」

 「ふっ」

 

 

 

 

 沖縄アメリカ軍司令部

 三階級も昇進した将校は、庭で子羊が生贄にされているのを一瞥し、

 門を赤く塗ってる士官に何も言わず。

 ため息混じりに肩を叩くと、中へ入っていく、

 「撤退が決まったよ」

 「撤退ですか」

 「もう、40000人が死んでる」

 「将兵は室内に籠もって震えてるし、これ以上、指揮系統を保てない」

 「迎えの艦隊が真珠湾を出航した。3週間もあれば、最後の便が来るだろう」

 士官もホッとしていた。

 「もっとも、ハワイ、アラスカ、西海岸でも神火風が暴れているようだがね」

 「伝染性の病原菌の疑いもあるから、帰還してもすぐには家に帰れないかもしれないな」

 「ネ、ネブラスカは・・ネブラスカは聞いてますか?」

 「いや、今は何も聞いてないが、日本政府は “神火風は、ワシントンに届く” と言ってる」

 「たぶん、脅しだと思うが・・・」

 「40000人も殺されているのに脅しですか」

 「我々は、その百倍は日本人を殺してるだろう」

 「し、しかし・・・」

 そう、死因のわかる死と、死因不明の死は、不公平過ぎて同一視できない。

 「まぁ 沖縄撤収は決まってる」

 「しかし、死因の検査結果が出たら、日本に反撃できるだろう」

 「「「「「・・・・・」」」」」 ごくん

 アメリカ軍将兵たちは戦意喪失していた。

 「・・・・・」

 

 

 

 

 

 ヒロシマ、ナガサキで新聞に載っているのは、蒸発して影が焼き付けられた痕跡、

 黒焦げの遺体、そして、焼けただれた人々ばかりだった。

 多くは放射線障害で障害苦しみ、本来の寿命を全うできず亡くなっていく、

 それは、全体の6割にも満たなかった。

 実態を知る者は、ヒロシマ、ナガサキで異常回復した人々を神火人と呼んで恐れ、口を噤む。

 神火人は能力に差があった。

 10万もの下位者は、常人より身体能力と回復力が高いくらいだった。

 2万もの中位者になると放射線をコントロールし放出することができた。

 数千人の上位者になると、放射線で刺激され、生体エネルギーの活用し超常的な力を発揮する。

 ヒロシマのウラン型核爆弾と、ナガサキのプルトニウム型核爆弾の質の違いなのか、

 上位者は、物理的に影響力の強い広島型と、精神的に影響力の強い長崎型に分かれた。

 彼ら広長閥が日本の権力構造に取り込まれると、

 明治維新を主導した薩長軍閥は霞ヶ関で力を失って口を出せなくなり、

 ヒロシマ・ナガサキ閥が日本の権力構造の中心になっていた。

 神火人たちの区画整理で貧富の格差が縮まり、

 土地を取られた者は、ぶすくれたものの、半島の土地で補填されていた。

 

 この頃、朝鮮人は、死病に怯えて半島から満州へ移動し、

 日本人は徐々に朝鮮(輝夜:かぐや)半島へと移動していた。

 朝鮮人は旧権力層にとって都合のいい捨て駒でも、神火人は、彼らの力を必要とせず、

 旧権力再興を阻むためか、遠慮なく淘汰した。

 「軍事費と核開発の予算が少ないと思うが」

 「んん・・・当面、再建予算が大事」

 「しかし、国防を考えると」

 「国防は、我々の力でヤレるよ」

 「し、しかし・・・」

 「軍隊は、不発弾処理と掃海でもしてたらいい。あと我々の運び屋」

 「潜水艦の建造は必要なのでは? 輸送で」

 「そうだな。しかし、俺たちの方がうまく設計できそうだ」

 「し、しかし、軍艦の設計は資格や経験が」

 「それは、このまえの戦闘機設計でも決着が付いただろう」

 「しかし」

 「我々は、君らより優秀だよ」

 そう上位者は、基礎工学さえ覚えてしまえば、その範囲で専門家を圧倒してしまう。

 

   

 

 「おい、お前たち、食事の時間に何やってる、コック長が怒って・・・」

 「お、おい・・・」

 兵士は慌ててタラップを駆け登っていく、

 深夜のウルシー環礁

 停泊中の艦隊が大恐慌に陥っていた。

 第02任務群

  空母イントレピッド、レキシントンU、  軽空母カウペンス、

  戦艦ミズーリ、ウィスコンシン、

  重巡ボルチモア、

  軽巡サンタフェ、モービル、ビロクシー。コンコード、トレントン、  駆逐艦12

 空母イントレピッド

 艦橋

 「機関は動かせないのか」

 「機関士全員が死亡しました」

 「一体、何が起こってる。艦底に潜って調べろ」

 「何人か、潜らせましたが帰ってきません」

 「掃海艇はどうした」

 「現在、海底を漁っています」

 「駆逐艦に爆雷を落とさせろ」

 「機銃掃射してますが、爆雷は浅瀬なので艦底が破壊されます」

 “モービルより通信。モービル航行不能。モービル航行不能”

 「提督。沖縄の第03任務群、第05任務群は全艦航行不能です」

 「急に神火風が強まりましたね」

 「神火風は、日本の新兵器なのか」

 「レーダーはなにも映ってません」

 「ソナーに反応なし」

 「なぜ、機関室や見張りの者たちばかりが」

 「いえ、少数ですが艦内も死亡者が」

 「日本の死神に魅入られたか。日本人の祟りなのか・・・」

 「提督。それは言ってはならないと、軍令が」

 「わかっておるが艦が動かせなければなにもできないだろう」

 “カウペンスより通信。軽空母カウペンスは航行不能”

 『提督。機関を動かせなければ水を作れません、このままでは・・・・』

 『わかってる』

 『せめて、パラオか。グアムに行けるなら水はなんとかなるが・・・』

 『警備部隊だけ残し』

 『PBYカタリナ、PB2Yコロネード飛行艇を使って交替でグアムやパラオに水兵を移動させましょう』

 『しかし、艦隊を守れなくなる』

 『日本艦隊に攻撃力はありません』

 『そうではあるが・・・』

 『このまま放置すれば、艦隊ごと日干しです・・・』

 『・・・・・』

 “ミズーリ。航行不能です”

 「戦艦もか」

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 

 

 

 サンチアゴの浜辺

 男女6人の死体をアメリカ軍将兵と警察官が囲む

 「いつ死んだかわかるか」

 「8時間前、推定すると14時頃だな」

 「誰か、目撃者はいないのか」

 「最近は海に近づく者が減ってまして・・・」

 「警部。13時頃、トラックの運転手が何人か浜辺にいたのを目撃したそうです」

 「トラックの運転手は何か目撃してないか?」

 「いえ、人数さえ覚えていない風で」

 「誰かが殺した可能性は?」

 「中尉殿。その前にどうやって、殺したのか、教えて欲しいですな」

 「心臓発作ってことはないよな」

 「それを言うなら日本人の祟りの方が・・・」

 「誰がそんなこと言ってる!」

 「て、手を離してくれ、みんなそう言ってる」

 「見ろ。この時間帯で、誰も浜辺にいない」

 「よっぽどの酔狂じゃなきゃ海には近づかないだろう」

 「それより、軍は、なぜ周囲に向かって銃を構えてるのです?」

 「は、犯人が潜んでるかもしれないだろう」

 「普通の犯人は、現場から逃亡するんですよ。警察じゃ常識なんですがね」

 「とにかく、遺体は集団自殺か、海難事故で処理しろ。これ以上の流言はゆるさん」

 「中尉殿。遺族にそう言ってくださいませんか・・・」

 遺族たちは、恐る恐る横たわってる身内に近づき、泣いていた。

 「我々にはできかねます」

 

 

 

 

 

 小さな島 伊403号

 「ああ・・・ 17kmも泳いで疲れた・・・」

 「ご苦労様です」

 「しかし、潜水艦は相変わらず、狭いし、臭いが強いし、湿っぽいし、なんとかならんのかね」

 「それでも神火人に乗船されてからずいぶんと艦内が楽になりました」

 「少しは居心地を良くしたいからね」

 神火人の放射熱で艦内の乾気が強まっていた。

 「とりあえず・・・」

 神火人は印のついた地図を渡す。

 「西海岸に拠点を幾つか作ったから、後続部隊に伝えてくれ」

 「はっ」

 「西海岸の住民は東側に移動している」

 「空家は増えているが、あと200人も上陸できたら西海岸をゴーストタウンにできるだろう」

 「その前に、アメリカ機動部隊の足を絶ちたいと」

 「じゃ アメリカ太平洋艦隊は・・・」

 「全滅するはずです」

 「ふっ」

 神火人は原爆の復讐なのかアメリカ人に躊躇しなかった。

 

 

 

 

 北九州

 焼け野原となった都市の再建がはじまっていた。

 製鉄所はようやく中国から入ってきた鉄鉱石を高炉に入れ、製鉄業を回転させ、

 建設土木機械や農業機械。修復用の部品を作っていく、

 関係者たちはヘルメットかぶって見上げていた。

 「もう駄目だと思ったけど、製鉄産業はギリギリで持ち直せそうだな」

 「だけど、民需中心だから拍子抜け」

 「まぁ 民需であれ軍需であれ、工業は、起こさないと」

 「軍需をどうするか、ですからね」

 「総理。アメリカは、講和条約で日本に譲歩しても良いと」

 「んん・・・ そう言われてもねぇ 神火人が決める事だし」

 「沖縄、マリアナ、ハワイ、アラスカじゃ始まってるし、手遅れじゃないかな」

 「あと、民需生産を進める代わりに。アメリカ軍やソビエト軍から頂ける物は頂かないと」

 

 

 

 

 沖縄

 M4戦車から一人が慌てて外に出ると、小隊長に報告する。

 最も防御力高い戦車内で戦車兵が死ぬなら生き残る術はない、

 「助けてくれ、頼む、殺さないでくれ。死にたくない。死にたくない」

 アメリカ軍将兵は十字を切って口々に呟き、小隊全員が全方位に小銃を構えた。

 遠くのサトウキビ畑では、日本人数人が収穫に忙しいのか、見向きもせず働いでいる。

 「サンダース軍曹。基地に戻りましょう」

 「馬鹿野郎。司令部は全滅してるし、基地で何百人も死んでるんだぞ」

 「佐々木上等兵。お前、日本人だろう。なんとかしろ」

 「し、しかし、神火風なんて、聞いたこともない神だ」

 「嘘を付け」

 「嘘なんか付くもんか。師団長もそう言ってただろう」

 「お前が師団長にそう言ったんだろうが」

 「アメリカ中の日系人全員に尋問しての発表だろう。神に誓って知らん・・・」

 どたっ!

 一人が倒れて死ぬと、兵士たちはその場から離れ、散り散りになった。

 そして、次々と倒れ、時に何もない空間に小銃を乱射し、死んでいく、

 農作業していた日本人たちが集まってくる。

 「なんで死んでしまうかの」

 「こいつらに孫娘が殺されて悔しいが本人かわからんし。墓でも作ってやるか」

 「そうやな」

 「認識票は預かったほうがいいんかの」

 「そうやな」

  

 

 

 

 補給がとどまると現地調達が増えた。

 ジープに引っ張られた作物満載のリヤカーが港湾に届けられ、

 カッターに載せ替えられ、空母の中へと運び込まれていく、

 貯蔵庫

 酒樽の中からずぶ濡れの少年たちが蓋を開けて出ると、将兵は死んでいた。

 「なんか。酔ってしまいそうだ」

 「ちょっと頭が痛い」

 体中から湯気が出ると、衣服が乾いていく、

 狭い通路を歩き回り、目に付いた兵士を一睨みで殺していく、

 音もなく、ただ、アメリカ軍将兵の死体だけが増え、

 格納庫で作業中の将兵も少年に気づく前に意識を混濁させられていく、

 英語の叫び声や命令口調が伝声管で伝わる。

 しかし、手遅れかもしれない。

 狭い艦内で隔壁を無視して攻撃できる神火人に勝てるはずもなく、

 目の前は、艦橋の扉だった。

 

 

 

 沖縄 金武湾

 空母 鳳翔

 巡洋艦 八雲、酒匂、鹿島、輸送船12隻

 鳳翔 艦橋

 「敵潜水艦だけは気を付けろ」

 「はっ」

 「艦長。アメリカ第38機動部隊です」

 「撃ってこないな」

 「ええ」

 「乗員を乗り込ませて捕獲しろ」

 「はっ」

 「ここが終わったら、ウルシー環礁とマリアナに行く」

 日本海軍はアメリカ機動部隊第03任務群、第05任務群と、

 リバティ船とT2タンカーを1000隻以上を捕獲してしまう。

 そして、沖縄の飛行場はB24爆撃機、P51ムスタング、P47サンダーボルトが2000機以上放置され残されていた。

 第03任務群

  空母ワスプU、ベニントン、  軽空母ラングレー、バターン、

  戦艦サウス・ダコタ、インディアナ、

  重巡ピッツバーグ

  軽巡モントピリア、デンバー、パサデナ。セントルイス、サンディエゴ、   駆逐艦13

 

 第05任務群

  空母ランドルフ、ハンコック、タイコンデロガ

  戦艦ワシントン、ノース・カロライナ

  重巡ウィチタ、

  軽巡ダルース、アストリア、アトランタ。サンフアン、  駆逐艦18、

 

 日本軍拿捕部隊

 「こいつら、なんで死んでるんだ」

 「いいから、認識票だけ預かって死体を処理してしまえ」

 「はっ」

 港湾で数百人の神火人が沖の様子を見ていた。

 

 

 1000隻以上のリバティ船とT2タンカーが日本と東南アジア・中国を行き来していた。

 動いているのは輸送船ばかりで、軍艦は停泊しているだけだった。

 第01任務群

  空母エセックス、ヨークタウンU、 軽空母インディペンデンス、

  戦艦アイオワ、ニュージャージー、

  重巡ポートランド、

  軽巡クリーブランド、コロンビア、フリント、ツーソン。デトロイト、リッチモンド、

  駆逐艦14

 

 彩鳳(ヨークタウンU) 艦橋

 海軍長官と副官

 「訓練は?」

 「なんとか進んでいますがT2タンカーの燃料が心細くなりました」

 「ほとんど、民需に取られてしまったからな」

 「神火人は民間出が多いので民需が好きですからね」

 「ふっ まぁ アメリカと戦争して日本国の底の浅さがわかったよ」

 「元々 資源がありませんでしたからね」

 「しかし、これだけの艦隊があれば戦える」

 「国民は憔悴しきってますがね」

 「だが、戦勝に違いない」

 「我々の戦勝ではありませんがね」

 「神風が吹いたとでも思えばいいだろう」

 「ええ」

 「しかし、アメリカの軍艦は住みやすいな」

 「確かに」

 「問題は燃料と艦隊乗員が不足なことか」

 「このままじゃ フジツボに沈められるぞ」

 「艦隊勤務の仕事がフジツボ処理じゃ泣きたくなりますがね」

 「日本中が野良仕事で忙しいからな」

 「しかし、ハワイには行けるそうですよ」

 「本当に大丈夫なんだろうな」

 「到着する頃には、ほとんど死んで組織的な抵抗はないとか」

 

 

 

 アメリカ合衆国

 白い家

 職員らが情報収集に懸命になっていた。

 「いったいどうなっている」

 「それが・・・ 沖縄とマリアナからの通信が途絶えたとか」

 「第38機動部隊との通信も途絶しています」

 「ルメイはどうした」

 「テニアンとも音信不通です」

 「いったい、何があった」

 「何度も問い合わせてますが、今のところわかりません」

 「なぜ、こんなことに・・・」

 「日本が以前と違うとしたらヒロシマとナガサキに核爆弾を落としたことでしょうか」

 「原爆で日本人が、なにか不可思議な力を手に入れたと?」

 「それはわかりませんが将兵は暗闇に潜んでも物陰に隠れても死んでいく」

 「アラモゴードの実験の時は何も現れなかったぞ」

 「砂漠と人口密集地では違いますよ」

 「原爆をニューヨークにでも落とせってか。そんなことできるはずがない」

 「可能性の一つとしてあげただけですから・・・」

 「わかってる。だが根拠は無きにしも非ずか・・・」

 扉が開いた。

 「大統領。ハワイからです。機関士大量死により艦隊は航行不能」

 「機関乗員の追加要請です」

 「日本との講話交渉は?」

 「まだ、返事がありません」

 「もう一度、日本に伝えよ。講和条約を結んでやると」

 「アメリカ民主主義の温情により、日本の条件に歩み寄ってもいいとな」

 「はっ」

 「大統領・・・」

 「何だ。まだ何かあるのか」

 「サンフランシスコから住民ら5万人が東に向かって移動中です」

 「流言飛語に惑わされるなと住民に伝えろ」

 「はっ」

 士官が出ていく

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「どうする」

 「神火風の正体を突き止めろ」

 「検死の結果はわからないのか」

 「大統領・・・」

 一人の科学者が重い口を開いた。

 「遺体の部位に細胞が破壊されてるか所があります」

 「はあ」

 「あと金属にも極細の強力なガンマ線か中性子線を照射された放射化と言えるような形跡があります・・・」

 「は、博士・・」

 「いいんだ」

 「それで」

 「ガンマ線は即効性が高く、6グレイほどで即死するでしょうし」

 「中性子線は即効性が低いのですが浸透率が高く、戦車の中の人間を殺せます」

 「軍艦も?」

 「海中での中性子線の浸透率は低いのですが。艦底は装甲が薄いですから」

 「では、日本はガンマ銃や中性子銃を持っているというのか」

 「いえ、検死で症状の説明がつくだけです」

 「なぜ、言わなかった」

 「日本に。それほどの量の放射性生成物を作れないこと」

 「メートル厚の鉛で覆わなければ目的地到達する前に10000回は死ぬこと」

 「日本にその科学力、技術力、工業力、輸送力がないこと」

 「放射線を武器化することのハードルが高いことはわかった」

 「しかし、科学的に症状を説明できるのだな」

 「はい」

 「少なくとも敵を死神と思わなくてもいいわけだ」

 「死神の大鎌が、ガンマ線や中性子線でないといいきれませんがね」

 「死神の話しは聞きたくない」

 「とにかく、湾内の機雷のような物を除去が先決だな」

 「大統領。海軍は沖縄、ウルシー、真珠湾に掃海艇を並べて海底を漁ってますよ」

 「博士に聞いて再度調査しましたが、結果は何も無かったです」

 「「「「・・・・」」」」

 「ではどうやって・・・」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 中国大陸

 深夜と濃霧の重慶

 爆音が響き何か航空機が近づき、旋回すると過ぎ去っていく、

 赤外線の目を持つ神火人がいて、昼夜濃霧に関わらず、航空機を飛ばすことができた。

 地上に降りた神火部隊も悪条件をものともせず、目標に向かわせる。

 武器を使う必要はなく、邪魔な敵は一睨みで殺傷できた。

 「起きろ」

 寝ぼけ眼の蒋介石は自分が日本軍に捉えられたことを知る。

 「ここはどこだ」

 「2式大艇の中だ」

 「どうやって」

 「重慶の上流に着水して、重慶の岸辺に寄せ。眠ってるお前を運び込んだ」

 「運ばれてるのに、眠ってるだと」

 「騒がれると面倒だったんでな。そのまま睡眠薬を使わせてもらった」

 「どうやって着水した。夜中だぞ。しかも霧だ」

 「軍事機密だ」

 蒋介石は、京杭大運河より東を日本に譲渡し、日中講和が調印される。

 

 

 

 T34戦車。あるいはBT7快速戦車は性能が高く、

 戦車1両と小隊(50人)は、それまでの1個中隊(200人)分に匹敵した。

 中国大陸の歩兵部隊は、4分の1で守れるようになり、

 日本軍は少数民族で警官部隊を組織し、中国軍から捕獲した武器を渡してしまう。

 上海港

 「俺は帰還だよ」

 「いいなぁ」

 「日本で工場勤めだよ」

 「うぇえぇ〜」 脱力

 「だけど日本本土が焼け野原になってるのによく戦えるな」

 「死ぬまで日本を守るさ」

 「ああ、俺も頑張るわ」

 「家族に伝えることはあるか?」

 「全員、爆撃で死んだよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「気軽な身だ。中国大陸でのんびりするさ」

 

 

 

 

 

 ブルネイ

 T2タンカーで油を給油すると出航する。

 東南アジアの石油産出は少なく、別のT2タンカーが並んでいる。

 アメリカのように石油が湧いて溢れるような地域ではなかった。

 「ようやく安全に海を渡れても燃料産出が少ないのが問題だな」

 「海軍がすぐに使ってしまうからだろう」

 「もっと、油がないと戦争できない」

 「結局、油余りのアメリカと同じ土俵に乗せられて戦わされたようなものだな」

 「しかし、指揮系統で風通しがよくなったのは助かる」

 「権力構造改革に反対した数百人が処刑されたらしいからね」

 「広長閥も思い切ったことをしたよ」

 「ふっ 利権は金の生る木だからね」

 「自分の金の生る木を命懸けで守ろうとしたら殺された。その程度に過ぎないよ」

 「日本は、貧しい国だったからな」

 「というより近代化でアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの方式を取り入れたからだろう」

 「広長閥が日本に潜む外患の系譜を断ったのは悪くないよ」

 

 

 

 

 焼け野原の東京

 国会議事堂の周辺は小屋が作られ、農地に野菜が植えられ、洗濯物が干されていた。

 衣食住を最優先で整備するため60年償還の建設国債で紙幣が印刷されていた。

 地方から米が運び込まれて配給がされ、吹き出しが作られ、配られていく、

 神火人の作った区画整理通りに測量が行われ、

 土木建設機械が瓦礫を片付け、地盤を作っていた。

 道路は削られると、上下水道と電線が埋められ、コンクリートが敷かれていく、

 被災者は、掲示板の地図と、

 持ち主の名前が書かれた札を確認し、家を再建しなければならなかった。

 被災者たち

 「土地が広くなってるぞ」

 「人口が減ったからだろう」

 「元から住んでたところから離れてしまったな」

 「でもまぁ 生き残っただけでも御の字だし。さっさと家を作ろう・・・・」

 「ん、坊主。どうした?」

 「おとう、おかん、死んじゃった」

 血の滲んだ包帯を頭に巻いた10歳くらいの子供は、涙も枯れたのだろう。

 吹き出しの器を持ったまま立ちすくんでいた。

 「おまえ、名前は?」

 「田中一郎」

 「おとうとおかんの名前は?」

 「田中正造と田中光枝」

 「知ってるか?」

 「あそこだろう」

 一人が指差した方向に田中家の名札があった。

 「木材が来てるじゃないか」

 「じゃ 先に家を建ててやるから、そこに住め」

 「・・・・・」 こくん

 「一人で大丈夫か?」

 「・・・・・」 こくん

 「まぁ 何かあったら、俺のとこに来いや、俺の家は、あそこだから」

 「・・・・・ありがとうございます」 こくん

 杭が打ち込まれた土地がロープで切り分けられ、

 木工所で規格通りに板が切り分けられ、トラックで運び込まれていた。

 合板を組み合わせると子供でもプレハブの家を作ることができ、

 疎開から戻った子供たちは後片付けの手伝いをし、幾らかの小遣いを貰っていた。

 希望者には爆撃されていない輝夜(かぐや)半島の家と土地が割り当てられることもあった。

 

 

 

 

 

 満州国

 スターリン重戦車、T34戦車が100両ほど並んでいた。

 神火人が決めた場所を掘ると泥のような油が現れ採掘が始まる。

 「よく見つけたな」

 「神火人が飛ぶと地面の熱量が違うとかでわかるんだと」

 「へぇ 便利」

 「スコップで採掘できそうだな」

 「黒い泥に見えるが本当に燃えるのか?」

 「ああ、精製所は大きくなりそうだが、まぁ 設計図はあるし、いずれは完成する」

 「ソビエト軍が攻めてこないことを願うよ」

 「国境線は、今のところ静かだよ」

 

 

 オワフ島

 命令を下す者が失われた軍隊は、統制を失い組織的な行動が困難になっていく、

 そして、オワフ島守備隊は、中隊以上の指揮系統を失っていただけでなく、

 常時、目に見えない何かと戦い恐怖心すら抱いていた。

 日本艦隊がオアフ島ワイアルア湾の沿岸に到達した時、

 海軍艦艇は機関士を失って身動きが取れず。

 守備軍は目に見えない敵との戦いで疲労困憊し、 

 上陸してきた日本軍によって制圧され、司令部に日の丸が翻った。

 占領に抵抗した一部の市民は鎮圧され、

 ハワイは、アメリカの兵器武器弾薬で身を固めた日本軍に支配されていた。

 無料の映画上映会が始まる。

 アメリカ軍が沖縄戦の様子を撮影したもので、本来なら表に出ることなく、闇に消えていく映像だった。

 白人の観客が表情を変え、真っ青になっていく、

 白人将兵の沖縄の蛮行に比べるなら、

 日本軍将兵のハワイ占領政策は紳士的とさえ言えるもので、

 白人女性が夜間外出しても無事に家に戻ることができ、

 強姦事件が起こるとしたら貧しい白人が犯人であることが多かった。

 日本軍のハワイ占領も同じように撮影され、

 アメリカ軍の沖縄戦と比較するような映画フィルムを作り、全世界に複製を流した。

 アメリカは莫大な資本を使って、日本が流した映画フィルムを買い続け、

 日本はさらに複製を作って、第三国に無料で配布する、いたちごっこになっていた。

 その映画フィルムは、南米から中米に移動し、

 ついにはアメリカ本土にも広がり始めた。

 それに一役買ったのはオアフ島から上げられた風船爆弾や

 バンクーバー島付近からフィルム缶をばら蒔いた伊号だった。

 この情報戦は、アメリカ政府を追い詰め、徐々に戦争継続を困難にしていった。

 

 

 

 

 

 オアフ島の滑走路に緑色に塗装されたB29スーパーフォートレス、B24リベレーター、

 P51ムスタング、P38ライトニング、F6Fヘルキャットが配備されていた。

 日本軍守備隊は20万、M4戦車300両が配置されている。

 ハワイの生産力は高く、衣食住は、最低限自給でき、

 必要なものは燃料だけだった。

 そして、アメリカはハワイを攻略するか。

 アラスカ・ベーリング海から千島・北海道を占領するしか対日侵攻を考えられなくなっていた。

 深夜の東太平洋

 ハワイ東方に漁船団が配置されている。

 魚を釣るが同時に哨戒任務も帯びていた。

 漁船団のさらに東方は、二式大艇が海に浮かんで、やはり釣竿が垂らされていた。

 魚が釣れると、ナイフで捌いてワサビ醤油をつけて堪能する。

 「家が焼かれても、刺身の味は変わらんな」

 「まったくだ」

 「しかし、アメリカ軍はまだ来ないのかね」

 「さぁ アメリカ艦隊の半分ぐらいを捕獲したらしいが」

 「日本海軍は開戦以来の大艦隊なのに。あれで半分かよ」

 「アメリカは空母をベルトコンベアーに乗せて建造してるらしいよ」

 「日本は、なんで、アメリカと戦争したんだろうな」

 「全くだ。戦争しなければ、俺の家は燃やされなかった」

 「だな・・・・」

 

 

 

 

 アメリカ合衆国

 コンベアB36が飛び立った。

 乗員15名

 全長49.40m×全幅70.10m×全高14.25m

 自重77580kg

 R4360エンジン6基(3800馬力)  J47ターボジェット4基(2300kg)

 最大速度685km/h 航続距離11000km(フェリーフライトなら16000km)

 機銃16門、爆弾39000kg

 「B36とB29を比べると大人と子供くらいの差があるな」

 「この大きさで、よく空中に浮かぶもんだ」

 「飛行船より小さいよ」

 「B36なら東京を楽勝で爆撃できる」

 「しかし、議会は大騒ぎになってるぞ」

 「権力者と富裕層は勝ち戦で名誉のためだけに子供を沖縄に送っていたらしいからな」

 「前線が音信途絶でハワイまで占領されたら大騒ぎになるだろう」

 「もし、沖縄に日本人狩りに行った息子が死んでいたら、それこそ、大統領の断罪が始まる」

 「もう始まってるよ。正直、大統領は長くないだろう」

 「というか、あいつら資本家が、この戦争の仕掛け人じゃないのか」

 「大統領は飾りさ。戦争の仕掛け人は資本家だよ」

 「逆に、やけくそになって日本に復讐するかも」

 「ふっ やりかねんな」

 「しかし、原爆実験は、凍結らしいから通常兵器で攻撃しないとな」

 「それは辛いな」

 「潜水艦は?」

 「沖縄、ウルシー、真珠湾の港に係留中に奪われたらしい」

 「どうやったのかわからんが、抵抗したあとすらないと聞く」

 

 

 

 アメリカ東海岸

 ジキル島

 悪党たちが集まっていた。

 「日本外務省に問い合わせた」

 「現在、ハワイでの民間人死亡者1243人は名前をリストに乗せてる」

 「保管したドッグタグは130万個以上あって、電報にあった認識番号は、これから照合するから待て、とのことだ」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「それは、我々の息子たちの生存が期待できないということなのか」

 「なぜだ。勝てると保障したじゃないか」

 「どう計算しても勝ってたさ。計算外のことが起きただけだ」

 「なぜだ。神火風とはなんだ。まだわからないのか?」

 「神火風は、神の刑罰といった印象操作を与えるための名称で」

 「日本政府が現象を勝ってに命名したに過ぎんよ」

 「ヒロシマ・ナガサキの核爆発で、この世界と黄泉の世界と繋がり、住人の死神が日本贔屓だったのでは」

 「たしかに不公平ではあるな」

 「だが、アラモゴードの実験では、なにも現れなかった」

 「つまり、アメリカ国内で実験しているなら、黄泉の世界の干渉はないと考えていいのでは」

 「黄泉の世界とは限らんだろう」

 「不合理で不公平な死病がアメリカ合衆国軍とソビエト軍ばかり襲ってる。黄泉の世界といって何が悪い」

 「相手が悪魔だというのなら、我々は味方のはずなのだが」

 「同族嫌悪かもしれんな」

 「だから日本人の味方か。それなら、ありえる」

 「核の研究はどうしますか?」

 「続けるべきだろう」

 「わかりました」 ほっ

 「さて、対日作戦をどうするかだな」

 「日本はノックダウン寸前のはず」

 「それは、いったい、いつの情報だ」

 「日本の主要都市のほとんどが焼け野原になっている」

 「そのことは事実だ。日本再建と同時にアメリカとソビエト相手に戦えるものか」

 「だが、日本と中国とは講和した」

 「どうやったのかわからんが重慶の総統府が強襲され、蒋介石は誘拐されて日本軍に降った」

 「中国軍閥はバラバラになって、親日勢力に傾いている」

 「そして、アメリカ機動部隊は沖縄、ウルシー、真珠湾の港で身動き取れないまま、日本軍に制圧され」

 「戦線はハワイとの連絡は奪われ、西海岸まで後退して。住民は恐怖から東に移動している」

 「何より、例の映像フィルムはまずい。全世界で反アメリカが強まってるし。アメリカ国民の戦意を低下させてしまう」

 「日本には石油がない。もう一度、艦隊で攻撃すべきだ」

 「戦力比で不利だよ。それに死病対策がされなければ奪われにくようなものでもある」

 「日本軍のベテラン将兵の9割は餓死で失われてるはず」

 「だといいがな」

 「「「「・・・・・」」」」

 扉が開いた。

 「大変です」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 

 

 

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第01話 1945年 『08月06日午前08時15分』

第02話 1946年 『もう、藁でも掴みたい』
第03話 1947年 『人生補完計画と、かまくらわらし』