月夜裏 野々香 小説の部屋

    

天ぼた系 火葬戦記 『神火風』

 

 第03話 1947年 『人生補完計画と、かまくらわらし』 

 

 日本政府発、ハワイ占領の報は、アメリカだけでなく全世界を驚かせた。

 アメリカ軍は、沖縄、ウルシー、マリアナを放棄していた。

 ハワイからの通信が途絶していたことから日本軍の占領は、想像に及ばないことでなかったものの

 日本政府が正式にハワイ占領を公表し、

 アメリカ政府がハワイとの連絡が取れないと発表したことで国際的な現実となった。

 国際常識だった日本必敗は覆され、

 対日参戦した各国は、死病を恐れて動揺し、対日講和の検討を始めた。

 

 

 

 

 吹き荒ぶ極寒の都市ハバロフスク。

 日の丸が描かれたT34戦車は、正面と側面を土塁に囲まれ、かまくらで蓋がされていた。

 かまくらといっても、水を箱に入れて凍らせて作った氷板を積み重ねたもので、

 雪がかまくらの上に降り積もるほど厚みが増し、頑丈さも増していく、

 かまくらは、小さなかまくらに出入口があって、大きなかまくらにつながっていた。

 大きなかまくらの中心に置かれた戦車は、いつでも戦闘可能な状態になっていた。

 日本軍戦車兵らは、車体の脇で七輪を囲み震える。

 餅がチリチリと焼け 「アツッ アツッ」 と言いながら砂糖醤油につけ、

 白い餅を引っ張りながら食べていた。

 ゴホン! ゴホン! ゴホン!

 「おい、佐々木伍長。大丈夫か。酒、もっと飲むか」

 「いや、もういいです」

 佐々木伍長は、もう一つの七輪を独占し、横たわっていた。

 「いま、夜なんですかね」

 「もう暗くなってから小一時間くらい経つからな、陽は沈んだろう・・・」

 見張りは、小さな窓から外を覗いていた。

 ソビエト軍主力は後退し、日本軍への攻勢も無かった。

 ソビエト軍将校は、兵卒を死地に追いやっても、自分がは死神の大鎌に刈られるのが嫌なのだろう。

 チタで4重5重の防御壁の建物に潜み、震えてるらしい。

 もっとも、自軍の将校も似たようなもので、いつも何かに怯え、

 内地からの無線と電文に直立不動になるという。

 とはいえ、ハバロフスクに至る空白地帯は地の利を有するソビエト軍前哨部隊が展開しいる。

 いつ攻撃されてもおかしくなく、

 全滅しないためには、最低限2人が交替で見張りについた。

 ゴホン! ゴホン! ゴホン!

 「吹雪が収まったら司令部に運んでやるから頑張れな」

 「済みません、少尉・・・」

 伍長の肺炎はひどく、元から結核気味だったのが進行し、末期だった。

 このまま吹雪が続けば、遠からず、朝には死ぬかもしれない。

 トン、トン

 「「「・・・・」」」

 トン、トン

 「なんだ?」

 「誰か外にいるぞ」

 「猛吹雪にか?」

 「開けてみろ」

 兵士たちは銃を構え、凍えるような寒気と一緒に現れた少年二人に驚く、

 毛皮こそ着ていたが、猛吹雪を歩けるような服装でなく、

 獲ったばかりなのか、30cmほどの岩魚を持っていた。

 「開拓民か。なんでこんなところにいる」

 「少し休ませてよ。歩くの疲れた」

 「馬鹿。こんな天候で外を出歩くな」

 兵士は少年を引っ張り入れると扉を締めた。

 「手を見せろ、壊死してないか。七輪のそばによれ」

 「親はどうした」

 「父親はガナルカナルで死んだ。母親は爆弾を落とされて死んだ」

 「同じ・・・」

 「そ、そうか・・・」

 「子供が、なんでこんなところに?」

 「伝令」

 「誰に? 司令部か?」

 「もう仕事は終わって、帰るところ」

 「そうか。迷って川側に来たんだな。司令部も泊めりゃいいのに」

 「おじさん、ナイフない?」

 「あ、ああ・・・」

 「少年は戦車兵から軍刀をもらうと、岩魚を裁いて刺身を作り始めた」

 「それ、釣ったばかりなのか」

 「うん」

 「どうやって、釣った?」

 少年たちは釣具らしきものを持ってなかった。

 仮に持っていたとしてもドリルで凍った川に穴を開けなければ釣れない。

 かまくらの外に置いてるのだろうか。

 「秘密」

 「そうか、ちょっと、酒を飲め、体が温まる」

 少年たちは、酒に慣れてないのか、赤くなっていく、

 「お前たち幾つだ」

 「16歳」

 「15歳」

 「お前たちみたいな年端もいかない子供まで、伝令に使うとは、軍令部は気でも狂ったか・・・」

 佐々木伍長は刺身を頬張ると、涙ながらに噛み締めていた。

 少年たちは、翌朝には消え、夢かと思えば、岩魚の刺身が残っていた。

 吹雪が収まると、兵士たちは、周りのかまくらから出てきて背伸びしていた。

 わずかな時間でも太陽に当たる。

 「おい、佐々木伍長。おまえ、大丈夫なのか」

 「なんか、生まれて初めてっていうくらい、清々しい気分だ」

 上官が手の甲を伍長の額に当てると、熱が下がっていた。

 「伍長。朝には死ぬと思ったがな」

 「自分も覚悟してました」

 司令部からの伝令が来る。

 「おい、チタでソビエト軍の高級将校が死んだらしい」

 「本当か」

 「平文で無線を流した馬鹿がいてな。翻訳されたぞ」

 「ん? どうした。佐々木伍長。いつになく顔色がいいじゃないか」

 「ああ・・・ どうやら “かまくらわらし” にあったようです」

 

 

 

 

 飛行場

 緑色に塗られたLa7とYak9。P47サンダーボルトとP51ムスタングが滑走路から飛び立っていく、

 ソビエト製戦闘機とアメリカ製戦闘機は機械的な信頼性が高く、

 性能が安定してることから主力戦闘機になり、

 比較試験は、日本各地の飛行場で行われていた。

 日本軍パイロットたち

 「地上戦はソビエト製。海洋戦になるとアメリカ製がいいような気がする」

 「総合ならムスタングの性能がいいぞ」

 「性能だけで総合とは言わんよ」

 「水冷型エンジンは苦手だしな」

 「となると、P47サンダーボルトとLa7か」

 「日本は工業力が足りないんだよ」

 「それ言うなよ。新型機開発が止まる」

 「なんで?」

 「まずは、軍事力より、工業力だって、誰だって考える」

 「そか」

 「利権は分母を削って分子を大きくするから神火人に嫌われてるしな」

 「やっぱ、原爆のせいか」

 「それもあるが、庶民は軍人が威張り腐って、亡国一歩手前までいったの見てる」

 「戦端を開いた将官は、軒並み干されて更迭されている」

 「それで子飼いの将校で固めて、広長閥の隆盛か。やれやれだな」

 「あの力には勝てんよ」

 「霧の中でも離着陸できるなんてどうかしてるよ」

 「賭け率がいいなら俺の頭の上にも原爆落としてくれんかな」

 「「「「あはははは」」」」

 

 

 

 

 

 東京

 沖縄戦を撮ったフィルムが神火人の手に落ち、映写機の前で流れていた。

 「「「「「・・・・・」」」」」 憮然

 「こりゃ 酷い」

 「まぁ こっちもやったし」

 「だが女子供にこれだけの残虐なことはしていないぞ」

 「同じ目に合わせてやるか」

 「いや、戦後、アメリカ領を占領する口実になるから複製を作って世界中に流そう」

 「「「「「・・・・・」」」」」 憮然

 「こっちは、紳士的に対応する」

 「「「「「・・・・・」」」」」 憮然

 「そう怒るなって、とにかく、真珠湾攻撃は日本の不手際が大きすぎる」

 「それを覆させるモノがこれだろう」

 「海軍と外務省の不手際のせいで、報復もせず我慢しろってか・・・・」

 「宣戦布告が遅れたらダメだよね」

 「「「「「・・・・・」」」」」 憮然

 

 

 

 人口7300万。国家歳入54億円の国で累積国債3000億円が重くのしかかっていた。

 個人所得は大将550円で、

 開戦前、二等兵5円50銭が、開栓後上昇し20円の月給時代である。

 帝国議会

 「日本帝国の真髄は帝国陸海軍である。陸海軍再建が最優先である」

 「国民は焼け野原にあって、国民は家もなく、飲まず食わずにある」

 「ここは、食糧生産、水力発電、鉄道など、工業再建を最優先とすべきで、軍需より民需優先である」

 「戦争中に何を言うか!」

 「しかし、敵軍は、はるか地平の彼方、水平線の彼方ではないか」

 「そうそう、陸海軍はな〜んもしとらん」

 「き、貴様ら! 皇軍に対し、無礼であろう!」

 「声だけは大きいの」

 「な、なんだと!!」

 「もう軍は何もせんでいいわい。捕獲品抱えて寝とけ」

 「な!」

 「国家再建が優先だ」

 「ふん! 業者と結託して、組織権益を大きくしたいだけだろう」

 「なっ!」

 「無駄に予算を食い潰して御用業者を味方につけ、組織を肥大化させていく光景が目に見えるようだ」

 「馬鹿な。日本国民が苦しんでるのだぞ」

 「日本を政官が業者に天下りしたがるだけのくだらん帝国にするつもりか」

 「なにを失礼な」

 「見え透いてるわ」

 「それは、あなたがた軍人がやってきたことではないか」

 「ば、馬鹿な皇軍を愚弄するつもりか」

 「皇軍がやってきた結果が日本の焼け野原では?」

 「わ、我々は、祖国のため働き、帝国を守ったのだ」

 「日本を滅ぼそうとしたの間違いでは?」

 「皇軍に対し、不敬だぞ。貴様!」

 「膨大な国力を持つアメリカと軍事力を競うなど愚の骨頂」

 「資産のほとんどが軍需に奪われ、総日本国民は貧困状態」

 「軍部は国民の困窮を顧みず大陸で暴走を続け、国力を消耗させ。アメリカにまで宣戦布告した」

 「その結果が日本の焼け野原なのですよ」

 「帝国陸海軍は天皇陛下の・・・」

 「またそれですか」

 「虎の威や大義名分を利用して、私腹を肥やすなど言語道断。日本人としてあるまじき行為ですな」

 「貴様。まだ戦時下であるぞ」

 「アメリカ軍とソビエト軍は総撤退。戦争は終わりますよ」

 「それも日本陸海軍の奮戦なのではなく。神火風などという異常事態でね」

 「「「「・・・・」」」」

 「あ・・・ どうでしょう。国民に対し、一律資金を分配しては?」

 「そ、そんなものに血税が使えるか」

 「そんなもの? 陛下の臣民に対し、不敬なものいいですな」

 「臣民は帝国を支えるのであって、帝国が臣民を支えてどうする」

 「たかが紙切れじゃないですか」

 「紙切れだと。血税だぞ」

 「血税? 金と交換する必要のない不換金紙幣は紙切れに過ぎませんよ」

 「し、しかし・・・」

 「あなたたちはユダヤの銀行屋に騙されてるんですよ」

 「連中は、紙切れを刷って利息を取り、戦争や競争させて、敗者の補填は利権や現物資産」

 「紙切れと利権や現物資産を交換し、回収し損なえば中小企業を潰して銀行のものにしている」

 「銀行と大企業が潰れそうになれば国家予算で補填して、私腹を肥やし続ける」

 「そして、最終的には、銀行が全世界の富を手中にする」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 「神国日本は、そのような愚劣な金融システムに従う必要はない」

 「し、しかし・・・」

 「最悪。天文学的な国債と軍票を回収するまでは、国民への分配を続けるよりない」

 「額は?」

 「単純計算で、7300万人×(100円×12ヵ月)=876億が成り立ちます」

 「国民に100円ずつ5年も配り続ければ赤字国債や軍票は綺麗さっぱり消えますよ」

 「し、しかし・・・二等兵の給与は5円50銭から20円に上がってる」

 「国民にタダで100円ずつ配るなど・・・」

 「年1200円」

 「どうせ、紙切れですよ」

 「しかし、インフレが」

 「インフレが恐ろしいのは貧しい庶民であって、我々ではありませんな」

 「それにインフレの原因は、労働組合の賃金昇給と原材料の高騰なのですよ」

 「それに国民に紙幣をばらまくなら、いくらインフレになったところで・・・」

 「そんなことをすれば大企業ほど不利になる。それに勤労意欲が」

 「紙幣をばら蒔くからと、組合を解散させ、必要な労働力は強制雇用すればいいじゃないですか」

 「な、ならんぞ。そんな金があるなら基幹産業を中心に・・・・」

 「そうだ。そんなクズ共に金を使うぐらいなら・・・」

 「民主主義の権利で紙幣を国民に配るのなら、国債を発行する必要はないでしょう」

 「政治と行政は、不必要な戦争を回避するべきだ」

 「戦争に至った責任があるはず」

 「帝国は必要なら国民の人生を補完すべきた」

 与野党議員の脇に置いてあるコップから水が湯気を出して吹き上がっていた。

 沸騰しているわけではなく、表面だけが熱せられ、蒸発している。

 コップにできるのなら、人間にもできた。

 「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」

 「どうやら政治家は風見鶏で、軍官僚も民官僚も同じ穴の狢のようだ」

 「保身と利権拡大しか望んでいない」

 「もし、些少なりとも違うというのなら証明してもらいたいものだな」

 「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」

 帝国議会は数人しかいない広長閥系の貴族議員に屈した。

 

 

 

 

 神火人の研究が進んでいた。

 「どうも普通の核物質じゃないような気がする」

 「そうなのか」

 「放射性物質が組み合わさって重核分子構造を作って、シリコンかカーボンの分子に覆われている」

 「それがヒロシマとナガサキの被害を抑えた?」

 「まぁ 外枠のカーボンとシリコンの網が人体を重金属障害から守ってる」

 「体内に取り込まれなかったら一週間ほどで網がバラけてしまう」

 「アメリカ軍はなぜ、そんな手の込んだ放射性物質を作ったんだ」

 「というより、核爆発できない分子構造を核爆発させてる」

 「はぁ?」

 「というか、爆発した瞬間に質量が増えてるような」

 「核爆発した瞬間に中身を別のモノにすり替えたような」

 「重核分子構造が遺伝子を取り込み、細胞に影響を与えてるというか、フィードバックしてる」

 「それが驚異的な再生能力の正体?」

 「身体全体を放射線で守ってる節もあるし。差し詰め自動再生ナノマシン」

 「これ以上は、もっとまともな研究施設がないとどうにもならん」

 「なんでアメリカはそんなものを」

 「いや、アメリカじゃないだろう。核爆弾は可能性として知られていた」

 「しかし、分子加工。原子加工は、基礎研究の痕跡すらない」

 「核爆発の過程で生まれたのでは?」

 「核分裂するならともかく、こんな複雑な分子構造が生まれるわけがない」

 「じゃ 神の悪戯?」

 「まぁ そういうことになるかな」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 

 

 

 オワフ島

 緑の機体に赤い印のB29爆撃機が飛び立っていく、

 「いい感じじゃないか」

 「操縦さえ覚えてしまえば、日本の4発機よりいい」

 「しかし、国が滅びかけても爆撃機最高で喜んでるのだから、もう病気だな」

 「国が持ち直せてよかったよ」

 「まさか。国民は飢餓で基幹産業も青色吐息」

 「国民の大半は反政府、反軍国で固まって、皮一枚で国が成り立ってる」

 「というよりアメリカやソビエトと戦ってることで日本国民が辛うじてまとまってるだけに過ぎない」

 「講和を結んだ瞬間、国民の不満は政府と軍に向くだろうね」

 「悪役を作り出して身を守る方法もあるだろうが」

 「広長閥が戦線を巻き返し、旧権力を破壊して解消してしまった」

 「かくして、悪者は、広長閥以前の勢力ということになる」

 「ちっ しがらみが無い上に、既得利権と組まなくていい上に、建前でやれるとこが羨ましい」

 「まぁ なんたって、半妖怪みたいな連中だからな」

 「おいおい、耳に入ったらいつの間にか死んでるぞ」

 「くわばら、くわばら」

 「へっ 神火人が俺たちみたいな下っ端相手にするかよ」

 「逆だろう。既得権を使わないとしたら、可能な限り下っ端で組織を組み上げていくからね」  

 「じゃ 脈アリ?」

 「さぁ」

 「それは楽しみ」

 

 

  

 

 

 “機関室に行くと死ぬ”

 噂は沖縄戦で広がり、ウルシーで確信になり、真珠湾で定説になった。

 国民も追加の機関士養成と戦死者の公開で現実と向き合わなければならず、

 現実と直面しなければならない海軍は、隠蔽しょうもなかった。

 そして、将兵たちが機関室に降りていくのは墓穴に向かう覚悟が必要で

 この年、機関士と随行するMPは拳銃を抜いていた。

 アラスカ州アンカレッジ

 戦艦ニューメキシコ、ミシシッピ、アイダホの見張り員は、M1カービンを握り締め、

 目に見えない何かに怯え、眼を風雪に晒さし充血させていた。

 装甲に防御された軍人だけでなく、アンカレッジの住民まで死んでいく、

 ニューメキシコ 艦橋

 「艦長。ミシシッピで機関室を警備していた兵士4人が死亡したそうです」

 「死亡か・・・ 戦死と言いにくいところが悲しいな」

 「相手が未確認で死因すら不明ですからね」

 「艦長。輸送船の到着は4時間遅れになりそうです」

 「体不調を訴える乗員も増えてるというのに」

 「このままだと、ハワイの二の舞だ」

 「到着すれば、機関士を補充できる。訓練まで時間がかかるがな」

 「艦長。タグボートが本艦の周りを調べるそうです」

 「またか。極寒の海に何かあるか」

 「掃海艇が海底を何度も渫ってますが、何も発見されてません」

 「まぁ 死神とは思いたくないからな・・・」

 タグボートは戦艦に触れるほど近い距離を巡回していく、

 5時間後、アラスカ州は、アメリカ本土からの通信に対し返信を途絶させ、沈黙した。

 

 

 

 神火人は、寒冷地が常人に対し優位性と戦力非が最も開く地域だと気づいた。

 日本の権力構造を支配すると、

 日本軍をカムチャッカ半島へ軍を進めさせ、シベリアの支配地も増やしていた。

 そして、対アメリカでアラスカ州も支配下にしたのだった。

 アンカレッジ州知事室

 「日本国民はぶつくさ言ってたが大丈夫なのか」

 「国民に一律、月100円を支給するから我慢してくれと伝えてるよ」

 「いきなり不労収入で所得が倍か」

 「だって、赤字国債を償還したいだろう」

 「それに俺たち元一般人で味方が少ないからな」

 「かと言って簡単に生殺与奪できるからな」

 「貧乏人を味方につける必要もないし、犯罪者を囲って工作する必要もない」

 「クビだとかで脅す必要もないし、賄賂を使う必要もない」

 「国民全部を味方につけたほうがいいんだよ」

 「財源は?」

 「資本主義は弱肉強食の貸し借りで財源がいる」

 「しかし、民主主義は、義務と権利に過ぎないからね」

 「一律分配で公平なら財源はいらない」

 「官僚は年金制度や保険でやり違ってたけど」

 「ふっ 関所を作って威張りたがるだけで国益なんて考えちゃいない」

 「どうせ赤字国債で埋めないと年金も保険も破綻するだろう」

 「赤字国債で負債を国民に押し付けて私腹を肥やされるより」 

 「赤字国債なしで国民に配ったほうがいい」

 「まぁ 無能な人間ほど保身や利権に拘るから自分より馬鹿を後任に付けるし」

 「そういうのを何十世代も続ければ国は滅ぶからね」

 「そういうのは終わらせたい」

 この日、日本はアラスカ州の占領を発表した。

 

 

 

 

 アメリカ合衆国 

 白い家

 「サンフランシスコ、ロスアンゼルス、サンチアゴに続き、シアトルの市長が死亡したそうだ」

 「どこでだ?」

 「市長室だよ」

 「警備は?」

 「20人近くいたはずだ」

 「死神は遠慮なしだな」

 「我々も標的になるだろう」

 「このままだと、西海岸を日本に奪われるぞ」

 「なぜだ。なぜ死病はアメリカを攻撃する」

 「なぜ、敵を見つけられない、本当に死神が日本に味方をしてるのか」

 「「「「・・・・」」」」

 「日本と講和を結ぶべきだ。手遅れになれば我々が殺されるぞ」

 「日本から講和についての返信は?」

 「ありません」

 「まさか西海岸にも上陸するつもりじゃないだろうな」

 「西海岸は死病が蔓延してるので、可能かもしれません」

 「冗談じゃない」

 「我々の帝国を滅ぼさせるわけにはいかん」

 「それに日本と講和を結んだところで死病が収まるかどうか」

 「とにかく講和だ。それで、神火風の正体を突き止めろ」

 「ハワイとアラスカを日本に取られても?」

 「「「「・・・・・」」」」

 「西海岸を日本に取られるよりましだ」

 「西海岸では10万人以上が死んでる」

 「それも貧乏人や一兵卒じゃなく、我々と同様、上層階層だ」

 「では、外交交渉の艦隊を日本に派遣しよう」

 

 

 

 

 ニューブリテン島に9万、ニューアイルランドに1万3000人が残存し、

 オーストラリア軍が対峙していた。

 今村将軍率いる日本軍の抵抗は激しく、

 既に戦争の焦点から外れた辺境の地で、消耗戦引きずり込まれることを恐れ、

 44年の7月以降、戦闘らしい戦闘は行われないでいた。

 日本軍の戦況が好転したのは45年9月以降で、

 ニューブリテン島でも46年以降になると連合軍将兵を中心に死病が広がり始め

 1947年後半、連合軍は組織を崩壊させながら撤収していた。

 士官たちがM4戦車に恐る恐る近づき覗き込もうとしていた。

 「宝の山を丸々残していくなんて、よほど慌ててたんでしょうね」

 「もう、引き揚げ船の都合すら付かなかったんじゃないか」

 「将軍。戦車兵は死んでます」

 「誰がやったんだろうな」

 「オーストラリア兵は、死病だと」

 「俺たちの間で死んでる将兵はいるか?」

 「友軍の場合、死因だけははっきりしてますよ。こんな・・・」

 「腹を膨らませると死ぬのか・・・」

 将軍は足元に倒れている血色の良さそうなオーストラリア兵の死体を見下ろす、

 「食糧があるなら、死んでも食べたいですよ」

 「そうだよな」

 「将軍、斥候部隊が西部海岸で友軍4人と接触したそうです」

 「捕虜?」

 「それが、潜入したと」

 「どうやってきたんだ?」

 「潜水艦で来たそうです」

 「何しに?」

 「ニューブリテンの戦況を知りたいと」

 「それで、ワザワザ敵地に上陸してか?」

 「上陸は、敵軍崩壊と時期を同じくしてのようです」

 「武器を持ってるのか」

 「食料と百式機関短銃だけのようで」

 「いくら海軍がとんまでも、上陸地点を間違えるわけないよな」

 「その辺は、妙に誤魔化してますが」

 「尋問しろ」

 「それが参謀本部直属部隊でして」

 「期は?」

 「全員、78期臨時卒で本国に帰還するまで少尉だとか」

 「はあ 軍組織を舐めてんのか。連れてこい」

 「4人単位でバラバラに上陸したらしく、総勢100人ほどだとか」

 「将軍。彼らは参謀本部直属で、ガダルカナルにも偵察に行くので、尋問は勘弁して欲しいと」

 「・・・・」

 その後、ガダルカナルからも連合軍の撤収が始まり。

 今村将軍の部隊が逆上陸すると、連合軍将兵の死体ばかりが作られていた。

 

 

 

 

 アメリカ、イギリスと日本の間で休戦が結ばれると、戦艦モンタナ、戦艦ヴァンガードが日本へと出航する。

 休戦の間、アメリカ西海岸に広がった死病は少しずつ減り、

 モンタナとバンガードが廃墟が広がる東京湾に入る頃、西海岸での死病による死者はゼロになっていた。

 モンタナ 艦橋

 艦橋から見ると、瓦礫とバラックのような家並みの平地が広がっていた。

 再建は進められていたが真珠湾ほどの設備さえ無かった。

 そのくせ、日章旗を棚引かせたアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシンは

 いつでもモンタナを砲撃する気構えを見せていた。

 「焼け野原とボロボロの産業。捕獲した軍艦で対応するしかないくせによくやるよ」

 「しかし、日本の勝ちは決まってる」

 「アメリカは、勝っていたのに」

 「民間人への絨毯爆撃で神の怒りを買った」

 「なぜ、ドイツの絨毯爆撃で死病が起きず、日本の絨毯爆撃で死病が起きたのだ」

 「日本に原爆を落として、神の怒りに触れたのかもしれないな」

 「それを信じろと」

 「信じない限り、敗北を納得できない」

 「「「「・・・・・」」」」 むっすぅ〜

 講和会議は1週間で決着が付き、

 アラスカ州、ハワイ州、グアムの日本領有と、アメリカ合衆国のヤード・ポンド法からメートル法移行が決まり、

 また、ドイツ占領地の一部1000kuの引渡しが決まり、日米英講和条約が調印された。

 

 

 “なぜ、負けたのか、誰もわからない”

 アメリカ人をしてそう言わしめた対日戦争が終わった。

 アメリカの権力層にしたら悠々自適で楽園生活を営んでいるのに、

 目に見えない正体不明の敵に殺されてはかない、

 その敵は、どんなに厳重な護衛に囲まれ、安全な密室にいても暗殺に成功するのだ。

 講和条約が調印されると死病は嘘のように消え、アメリカの権力層を安心させる。

 

 

 

 焼け野原からの再建と同時に新領土開発も進めなければならなかった。

 日米講和が結ばれたことで戦争は日ソ戦争だけとなり、

 航路の安全は確保され、拿捕した1000隻以上のリバティ船とT2タンカーが日本に資源を運び込んだ。

 東京 総理官邸

 「ソビエトが講和を結びたがってる」

 「ノボシビルスクで要人が死んで慌てたのかもしれないな」

 「どうします」

 「卑怯な侵略をしてきたのだから、カムチャッカ半島・チュコトと沿海州は貰わないと」

 「いいですな」

 「寒いところは好きですよ。我々 神火人が優位性を確立しやすいからね」

 「しかし、工業再建は大変だな」

 「元々 日本の産業は、軍事以外だと、繊維産業だけだったからね」

 「繊維産業しか持ってないのによく戦争できたものだ」

 「だから軍事産業があった」

 「今度は、ほかの産業も育てる」

 

 

 

 

 東京

 皇居に近い一等地

 ビルが建設され看板が付けられた。

 “原爆を落とされた人々の世界平和を望む会”

 表向き世界平和を望む会で、広告塔の放射線障害者もいる。

 しかし、会の名称に被害という単語はなく、

 その主導層は障害者どころか、敗戦直前の日本を勝利に導いた死神の集まりで、

 日本で維新後の薩長藩閥以上の支配構造を構築し、国民的な同情さえ受けていた。

 総会は、日本を軍拡と戦争に追いやった利権と張本人の処理機関であり、

 カウンタースパイの総本山で、

 今後、日本の内患となるであろう人々は、何らかの警告を受け、

 実態を知る者は “神火帝国政府” “死神議会” と呼び恐れた。

 

 

 

 フロアの一室で、印刷会社の担当者が入札を取るため盤上を見つめる。

 将棋で優勝した印刷会社が政府機関誌を受注できた。

 将棋の時もあれば、囲碁の時もあり、時には腕相撲、卓球のときもあった。

 当然、社員数が多いと強者選出で有利だったものの、

 零細企業でもたまたま強い人間がいれば受注することができた。

 これがゼネコンが関わる公共事業になると、バレー、サッカー、野球になることから、

 事業スポーツ部門の優劣が企業の命運を左右することもあった。

 「では、優勝は○○印刷会社になりました」

 ぱち! ぱち! ぱち! ぱち!

 「賞品は10年間の××機関誌の印刷になります」

 ぱち! ぱち! ぱち! ぱち!

 『『『『コネが効かねぇ・・・』』』』

 

 神火人は、放射線障害者に手をかざすと、放射性物質を身体に取り込んでいく、

 神火人にとって、核爆発時、人体に取り込まれた重金属分子はエネルギー源のようなもので、

 体内に多いほど上位に上がることができた。

 神火人たち

 「・・・とりあえず、公職追放者は、これくらいでいいか」

 「張本人といっても馴れ合いというか空気っていうか、灰色だから線引き自体が曖昧だ」

 「こんなもんでいいんじゃないかな」

 「ところでさ。なんか、アメリカで死神教が作れそうだってよ」

 「死神教?」

 「死神教に入れば死神から守ってもらえるって話し」

 「そりゃ 俺たちは手を出さないけどさ」

 「交通事故で死ぬ奴だって出てくるだろうし。意味ねぇ」

 「おいおい、アメリカ人がどれだけビビってると思ってるんだ」

 「そうなの?」

 「軍隊だけで150万。民間人で10万ほど原因不明で死んでる」

 「ロシア人だって同じだがな」

 「日本人がアメリカの喫茶店に入ると白人ウェートレスが震える手でコーヒーを置くんだぞ」

 「そら笑えるがズボンを火傷させないで欲しいな」

 「だから公式に死神教をやったらスパイ組織になるし儲かる」

 「ふっ だけど死亡比率で統計とられたら効果ないことわかるんじゃないか」 

 「だから、なるべく日本食で、腹八分目を心がけさせるとか」 

 「タバコは1日3本以下。酒は1日250ml以下で」

 「一日3時間以上、陽に当たって運動するとかを教義に入れたらいいんだよ」

 「そうすれば疾病は不摂生で守れなかったことにできる」

 「それに俺たちの場合、手かざしで・・・」

 「なるほど、事故や犯罪は?」

 「交通ルールを守って、危ないところにいかないも教義に入れる」

 「そりゃ長生きするわ」

 「「「「あははははは」」」」

 

 

 

 

 

 モスクワ

 講和会議は日本がカムチャッカ半島・チュコトと沿海州を領有し

 ドイツ占領地1000kuの引渡しが決まり、

 日ソ講和条約が調印されて第二次世界大戦は終結してしまう。

 ソビエトで広がっていた死病は消え、

 スターリンはようやく、安眠することができた。

 日本人たちは破壊された街並みを見ていた。

 ソビエト兵が遠巻きに護衛して、どこを歩くにもついて回る。

 「モスクワは本土決戦だったんだな」

 「というより首都攻防戦だよな」

 「ある意味、粘り勝ちか、日本もそういう根強い国にならないとな」

 「日本人は純血種でシャイなところがあるから粘り強さはどうかなって思うな」

 「まぁ 世界史と、国際情勢に疎いところがマイナスだよ」

 「内輪の争いが主で、机上の理論なところが悪い」

 「しかし、アジアは独立して白人のくびきから離れることができる」

 「そして、日本人も満州、沿海州、カムチャッカ、アラスカに拡大して、変わるだろう」

 「日本人が変われば世界も変わっていくかもしれない」

 「もうちょっとましな世界にね」

 

 

 

 

 神火人部隊が編成されていた。

 中位の放出系2人と下位の回復系2人の編成だった。

 この編成は戦時潜入最小編成だったが、講和後も同じ編成だった。

 もっとも任務は生産部門、管理部門に使われることが多かった。

 男たちが合金を検査していく、

 亀裂や歪みがある物を抜き取り、まともな物を選別していく、

 「荒仕事より精神衛生的にいいけどさ、しょぼい仕事だぜ」

 「適材適所じゃないの」

 「こういうのは機械的にやって欲しい。マジで」

 「むしろ、均一なモノ作れ」

 「嫌な記憶を忘れたいならこういう仕事だよ」

 「でもねぇ 嫌な目で見られるよ。なんでこれが駄目なんだって睨まれるし」

 「あはははは、そりゃ表面じゃなく中身を見てるんだし、仕方がないわ」

 「でもうちらはマシな方で、リバティ船とか金属疲労でやばい船が結構あるらしい」

 「そういやあったな。思わず人力で沈めてやろうかって船もあった」

 「特に日本のは、やば過ぎて。泣きたくなった」

 「そうそう、自殺志願者じゃなきゃ怖くて飛行機に乗れねぇ」

 「「「「あははははは」」」」

 

 

 日本の製鉄所

 不要になった兵器が次々と溶鉱炉に投げ込まれると素材が作られ、

 工場に送られると民生品が作られていく、

 建設機械と農業機械が作られ、

 国民にばら蒔いた月一律100円が需要を喚起し、供給を増大させていく、

 無論インフレ傾向はあったが、焼け野原が徐々に減り、

 簡易家屋は、急速に拡大し、破壊された工場も拡張されながら大きくなっていく、

 戦後の貿易は、互いに関税を掛け合っていたものの、条件闘争を繰り返しつつ低減化していく趨勢にあった。

 日米の通商は再開し、交易量は少しずつ増えていった。

 関係者たち

 「なんだこれ」

 「爆弾を解体したやつだろう」

 「焼夷弾だけじゃなかったのか」

 「復興を邪魔するため不発弾になるようなものまで落としたんじゃないかな」

 「よく見つけたな」

 「なんか、こういうの見つけるのが得意な連中がいるらしい」

 「聞いたことあるな。死神とかなんとか」

 「そんなのいたんか?」

 「原爆が爆発した時、次元が裂けて死神が現れたんじゃないかって噂もある」

 「怖ぇ」

 「アメリカ人の噂だけどな」

 「そういや、日本は、なんで勝てたんだろうな」

 「戦争好きが、原爆以降の国防研究所図書史料が閲覧禁止の禁書になったって騒いでたな」

 「もう編纂されたんだ」

 「編纂途中から禁書扱いらしい」

 「なんか、物凄く胡散臭いな」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 人口7300万人 歳入54億の国で、戦時国債3000億をどうやって返すか 

 大将550円 二等兵当初6.5円で戦時下20円の時代、

 毎年 7300万人×(100円×12ヵ月)=876億円を配ります。

 5年くらいで4380億になりますし、

 その前に税金と信用創造でなんとかなりそうです。

 

 これは、今でも通用しそうです。

 人口1億2000万人 歳入40兆円の国で国債1200兆円をどうやって返すか

 毎年 1億2000万人×(100000円×12ヵ月)=144兆円を配ります

 なんと10年で1440兆円となり1200兆円を回収できそうなくらいの紙幣が国民に配られるわけです。

 その前に信用創造でなくなるでしょうが。

 ちなみに紙幣の一律分配を民主主義。国民の権利にしてしまえば国債発行は不要。

 ユダヤ金融システムは、銀行家がありもしない借金創造詐欺で、

 国民国家資産を奪う発想なのでいけません。

 

 

 広長閥  “原爆を落とされた人々の世界平和を望む会”

綱領  国を守り国民を守る (非ゼロサム)

国民を守り国を犠牲にする (ゼロサム) 国を守り国民を守る (非ゼロサム) 国を守り国民を犠牲にする (ゼロサム)
民権派 民権・国権融和 国権派
民間産業中心 国策・民需融和 基幹産業中心
 労働者中心 労使融和 企業中心
国民を守り国を滅ぼす (過激派) 国を滅ぼし国民を滅ぼす 国を守り国民を滅ぼす (過激派)
左翼 外患 右翼
利己主義・私利私欲 内患 全体主義・滅私奉公
共産主義 利権 軍国主義

 

 

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第02話 1946年 『もう、藁でも掴みたい』

第03話 1947年 『人生補完計画と、かまくらわらし』
第04話 1948年 『不正腐敗と貧富格差は比例する』