月夜裏 野々香 小説の部屋

    

天ぼた系 火葬戦記 『神火風』

 

 第08話 1952年 『下手は作物を育て。上手は土壌を育てる』

 

 香港

 アメリカ船とイギリス船が入港し、中国軍閥と貿易を行い足場を構築していく、

 日本は中国京杭大運河の和洋州側に引き篭もり、開発を手がけていたことから、

 広州から侵入するアメリカとイギリスの浸透に目を瞑っていた。

 81237t級客船クイーン・メリー

 一等客室

 「どうやら、中国は軍閥政治に解体されているようだ」

 「代表権は?」

 「ほとんどは客家がもってるようです」

 「中国国内の鉄道管理は日本が行なっているのか?」

 「はい、鉄道株の取得は可能です」

 「いずれ、買い取るとしてもだ」

 「今のところ、鉄道運用できる人材に都合がつかないから日本にやらせておこう」

 「中国資源も日本が押さえているのか?」

 「どうも、日本の山師は突然、有能になったようで・・・」

 「日本は、中東でも大油田を掘り当ててるし。ブラジルでも鉱山を掘り当ててる」

 「それに日本資本は中国で幾つもの希少資源帯を抑えてる」

 「日本の秘密を探らないと我々は、負けるぞ」

 「死神教が鍵だろうか」

 「中東で死神教は広がっていない」

 「イスラム教は、死神教は、伝播に反対するような要素がないと言ってるそうだが」

 「キリスト教も教理自体は、なんら驚異になるようなものはないとの話しだ」

 「問題は、献金が取られ、半分を一律に払い戻したことだな」

 「まぁ どういう勢力の支配体制にとっても面白くない」

 「特に格差が大きい社会ではな」

 「とりあえず、ズタズタにされた諜報工作組織の再建をしなくては」

 「手っ取り早いのは、宗教だと思うが」

 「第二次太平天国の乱。第二次義和団の乱か。いいねぇ」

 「どちらも中国拳法を味方にして勢力を拡大するといった方向が早道になる」

 「なんにしても騒乱を起こして侵食するのが手口だけどな」

 「適当な母体を使って侵食しよう」

 「問題は日本だな。どうにも諜報工作組織が作れないらしい」

 「やはり鍵になる朝鮮人不在が大きいか」

 「ほとんど、四川盆地追い出されたらしい」

 「それに日満州と和洋州とも漢民族を排斥してる節があるし」

 「日本人だけで固められたら手の打ちようがない」

 「広長閥に諜報員を潜入させられないのか。情報が入ってこない」

 「サンフランシスコで日本行きの飛行機に乗った商務省事務官が死んだそうだ」

 「死神か」

 「症状はそっくりだったから、たぶんね」

 「我々だって、やり過ぎたら、どうなるかわからん・・・・」

 「「「「・・・・」」」」 キョロキョロ ごくん!

 「もう、無敵だな」

 「そりゃそうだ。機銃掃射していた戦闘機を何百機と墜落してるそうだからな」

 「やはりパイロットが?」

 「墜落した機体を調べたが墜落する前に異常があったとは思えないそうだ」

 「まぁ 整備士が何らかの催眠術でもかけられているなら別だがね」

 「もう、疑心暗鬼だな」

 「とにかく、日本は、人知を超えた、なにか、特殊な力を持ってる」

 「切っ掛けが原爆なのは確かなのか?」

 「ネバダ原爆実験は、1000人以上が火達磨になったし、墨になった」

 「しかし、被爆者の回復力が高まったデーターは皆無。逆に10000人が早死するそうだ」

 「何が違うんだ?」

 「わからんが、どこかの港湾都市に落とすわけにもいかないだろう」

 「だが、これ以上、アメリカ軍将兵を死なせるわけにはいかない」

 「しかし、無知なままでは、日本との戦略格差が広がるばかりだ」

 「どこか・・・ アフリカとかで実験してみたいな」

 「それか、中国だな」

 「中国でやると、死神が怒るのでは?」

 「確かに・・・」

 「時に日満州と和洋州は日本化してしまうのか?」

 「日本の城郭神社仏閣の建設計画もあるし、50年後、日本人ばかりになるかもな」

 「最悪だな」

 「だが身の丈が大き過ぎて軋轢も大きいのでは」

 「だから州制にしたんだろう」

 「国民一律に金を配るのも地域格差を押さえる意味があるし。投資格差を補う目的でもある」

 「中国と日本。どっちがアジアの盟主になるかな」

 「今のところ日本だろう」

 「しかし、上手く、舵取りをして日中を戦わせて消耗させることができればいいが」

 「中国は日本と戦争する気はない」

 「いくら中国でも、死神の正体もわからないのに日本と戦うわけにはいかないだろう」

 「戦争未満で日中を消耗させればいいわけか」

 「だがな。今の日本は、国家目標を戦争としていない勢力が主流だ。疲弊させるのはむつかしそうだ」

 「だが日中対立で、死神がボロを出して正体をバラしてくれるのなら助かるが」

 「それは言える」

 「では、中国の対日諜報工作は、その線で進めよう」

 「「「「・・・・・」」」」 こくん

 

 

 

 

 ニューヨーク

 アメリカは大恐慌から回復し、海外利権も大きくなって好景気が続いていた。

 しかし、国民の多くは、対日敗戦の後遺症で気落ちしているようにみえた。

 陰陽師の司会者が親指と中指を合わせ、

 “長寿と繁栄を”

 ““““長寿と繁栄を””””

 信者たちが応えた。

 死神教 礼拝

 “アメリカの所得格差は、軍需を中心に広がっているようです”

 “国防費は国家の根幹なので必要かもしれませんが”

 “一旦、軍需拡大が大きくなると戦争を誘発させてでも利権を守ろうとするでしょう”

 “日本軍が起こした満州事変、上海事変がそうです”

 “軍拡で暴走し国民を貧困層にしてしまうでしょう”

 “日本は軍縮に向かっているので一息ですが”

 “アメリカは軍事費の増大が増えつつあるので注意すべきでしょう”

 “もう一つ、心配事があります”

 “人種差別。これは心の問題なので、ある意味自由かもしれない”

 “しかし、差別された者たちにも人格がある”

 “差別された者たちは、差別した者たちに報復する自由もあるかもしれません”

 “時に・・・君はどう思うね”

 講師は、裕福そうな男に聞くと、男は引き攣った。

 「じ、人種差別は、近代国家国民が恥ずべき行為と思う」

 “だといいのですが・・・”

 有色人種系の信者たちはニヤニヤと微笑み、

 白人系の信者は、居心地が悪いのか居住まいを正した。

 “あとアメリカは資本主義が強いようです”

 “合理化で採算性がよくなって企業は精強になりスリムかし、利益を上げやすくなるでしょう”

 “無論、競争で豊かにもなります”

 “しかし、資本主義は、資本戦国時代なのです”

 “巨大資本を持つ資本家が支配する企業同士の殺し合いを加速させます”

 “社員や労働者は、企業間の戦いに巻き込まれ、理不尽な競争を強いられ、無慈悲な労働条件が作られます”

 “もちろん、企業同士の競争があるのは日本も同じですが、ある程度、保護されているのです”

 “アメリカは、強い企業がどこまでも弱い企業を飲み込んでいく趨勢があるので注意が必要です”

 “わずかな資本家が富を独占し。多くの人間がフードクーポンで食べなければならなくなり”

 “民主主義の権利すら奪われるかもしれません。注意しましょう”

 “下手な農家は作物を育てようとしますが。上手な農家は土壌を育てるのです”

 “天下り大企業を腐らせるより、国民と草の根の産業を育てることが大事なのです”

 “死神教・・・”

 “正式名称ではないのですが。一般的に使われてるので使いますが”

 “死神教系列企業は、人種差別をなるべくしないようにしています”

 “賃金格差は小さく、働きやすいので、勤労意欲がある人たちは一考していただきたい”

 「「「「・・・・」」」」

 

   

 

 

 日本食レストラン

 賃金格差が少ないせいか、調理人、ウェイター、ウェイトレスのモラルが高く、

 料理の味は、アメリカのファーストフードで食べるよりはるかにマシだった。

 白人たちは面白くなさそうに食べ、

 有色人種たちは美味しそうに食べていた。

 白人にとっては息子や父親を殺した国の料理だ。

 これが不味ければ、悪口の言いようもあるのだが、

 肉が少なく物足りないことを除くなら悪くなく、

 必要なら別皿に肉料理を盛ればいいだけだった。

 CIAたち

 「日系企業にお金が流れるのは面白くないな」

 「なんとかしたいが、日本人に手を出すのは危険な気がする」

 「同僚が何人も死んでるし、マフィアも手出しをやめた」

 「やっぱり死神か」

 「かもしれないが、そうでないかもしれない」

 「原爆に秘密があるのか?」

 「実験ではなかった」

 「戦争でもないのに10000人も殺したら大問題だぞ」

 「死んだのは身寄りのない兵士ばかり、外国人も多いから、秘密裏に処分できる」

 「しかしなぁ」

 「死神教が何か画策してる動きはないのか」

 「いや、諜報も工作も消極的過ぎて、単に足場を作って、親日を増やしてるだけのように思える」

 「じゃ ユダヤ人の言うように経済侵食が目的ってことか」

 「ところで、例のフィルムの出処は死神教なのか」

 「いや、別組織にしてるようだ」

 「日本が南米の反日勢力に金を渡して複製を作らせ、広めてる節はある」

 「沖縄戦とハワイ占領時の比較映像か。あれは流石にまずい」

 「アメリカの愛国者ですら嫌悪する映像だ。あんなものが広がったらアメリカの結束が崩壊する」

 「本来なら闇から闇に消えていくフィルムだからね」

 「日本に流さないよう頼んでみては?」

 「戦中はともかく、戦後は知らぬ存ぜずらしい」

 「まさか、日本との情報戦で苦境に立たされるとはな」

 「勝てばいくらでも歴史を改竄できるとハメを外した頃のフィルムだからね」

 「賭けで、赤子を放り投げて銃剣で串刺した映像なんて腐るほどある」

 「むしろ、冷静な日本人の方が異様に思えるね」

 「右の頬を撃たれたら左の頬を出せ・・・」

 「ひょっとしたら、日本人はキリスト教徒なんじゃないか」

 「ふっ」

 

 

 

 

 “原爆を落とされた人々の世界平和を望む会”

 ここでの会議が日本の政策を決め、世界に対する外交にもなっていた。

 神火人の政官財での人脈と金脈は、それほど強いものではなかった。

 遠距離でもリアルタイムで自由に交信する力と、

 致死率の高い強制力は、圧倒的で、世界最強の結社になっていた。

 でありながら一般には、原爆を落とされた人々の互助会にすぎず、被害者面している。

 この構造は欧米社会におけるユダヤ人の立ち位置と似ていた。

 というより、神火人は、ユダヤの構造を真似していた。

 神火人たち

 「プラズマと、電磁技術の予算をもう少し増やすべきかもしれない」

 「上手くいけばエネルギーシールドを開発できるかもしれない」

 「エネルギーシールドか。電磁波の操作は容易なものじゃないが」

 「神火核が少ないせいだろう」

 「あと100倍もあれば」

 「人間ではなくなるな」

 「「「「「あはははは」」」」」

 「結構な量の電磁波を外に向けて放出することはできる」

 「しかし、それを狭い範囲に閉じ込めたり、自由な形にすることは無理だ」

 「それを機械的に制御、増幅できるのなら、かなり有利だがね」

 「神火核を作れるのならいいのだが」

 「生憎、模倣すらできんよ。相当な科学技術力と工業力の産物だと思う」

 「並行次元世界からの贈りものだろうか」

 「YAP因子を鍵にしてることはわかってる」

 「つまり、日本人を贔屓にできるってことは、別世界の日本人なのだろうね」

 「なんにせよ。日本が助かったことには変わりない」

 「どちらにせよ。神火人は、戦艦や空母より戦闘力が高いのだから、戦艦や空母以上の防御力で守られるべきだと思うね」

 「それはそうだがね。しかし、装甲を着て歩く気にはなれない」

 「いま期待してるのは、神火核を覆っているシリコンとカーボンの網だが」

 「あれか。どうやって作ってるんだろうな」

 「存在するということは作れるってことだろう」

 「しかし、わけのわからない原子や素粒子みたいなのもあったな」

 「だけどさ。とてもじゃないけど国土再建や新領開発中だろう」

 「それと、戦争の心身障害関連費があるからな」

 「もっと一律で金を配るか」

 「やり過ぎると勤労意欲が低下する」

 「だが、需要に敏感な勝ち組は一気に伸びていく」

 「紙幣は、反政府系にも流れていくし。独立系にも流れる。政治的に望む方向に向かうとは限らない」

 「だが、天文学的な国債と大陸開発を軌道に乗せるまでは、続けるべきだろう」

 「問題は軍事的な戦力で余裕がないことだが」

 「神火人は、敵師団の中枢に潜入できれば司令部を全滅させることができるし」

 「敵艦に乗り込むことさえできるなら、1人で艦を制圧できる」

 「1人で1個師団。1個機動部隊分の戦力は、ゆうにあるよ」

 「それは敵がそのことを知らなければ、だろう」

 「それは言える」

 「今の戦力は?」

 「日満州と和洋州に40万。日本、輝夜、台湾に20万。扶桑と大和に20万」

 「80万か・・・」

 「民需を考えると、半分に減らしたいな」

 「核兵器を作ってからだろう」

 「核は使いたくない。他国にも神火人が現れたら怖い」

 「そりゃそうだ」

 「そうなると、通常戦で、がっぷり四つだろう」

 「もっと人口がないと無理だな」

 「あと2億ぐらい増えないとな」

 「まぁ この調子なら3億くらいは行きそうではある」

 「とりあえず、戦争の兆候が低いのなら予備役にして生産性を大きくすべきじゃないかな」

 「だが戦車部隊の突撃を防ぐ程度には、外縁部の防衛工事をしておくべきだろうな」

 「マジノ線の例もある。どの程度、役に立つやら」

 「マジノ線は、対戦車防御が弱かったと思うね」

 「京杭大運河は拡張してるし、鉄橋さえ落とせば移動は不可能」

 「上陸作戦をするとしても高さ100m級の堤防を建設中だから」

 「下手な戦車師団が待ち構えてるより躊躇するだろう」

 「だが運河を広げると決定的に水量が足りなくなり、和洋州まで流れていた河川が枯れてしまうらしいが」

 「運河を広げても海抜以下まで浚渫すれば運河は維持できる」

 「内陸に海水が流れ込んでも、大陸の河川水が流れ込むなら問題無いだろう」

 「だが和洋州の農業用水と、工業用水が不足すると競争力で負けてしまうのでは?」

 「それでも、米英ソに支援された中国軍と地上兵力で事を構えるのは面白くないよ」

 「防衛力が低いままだと和洋州移民が遅れる」

 「河川水は?」

 「揚子江の水を用水路から流し込むとか」

 「まぁ 適当かもしれないが中国で工業化が進むとまずいことになるかも」

 「それは幅1kmの海を隔てても同じだろう」

 「それは言える」

 「河川水が足りなくなっても中国人民に和洋州や日満州に流れ込まれるよりいい」

 「そうそう。いくら神火人でも荒事ばかりしたくはない」

 「「「「「・・・・」」」」」 こくんこくん

 

 

 

 

 大和(アラスカ)州 

 緑色に日の丸のB17フォートレス4機編隊が飛んでいた。

 アメリカは、B47爆撃機を飛ばしていたし、B52爆撃機を試験飛行させようとしていた。

 旧式化爆撃機より、民間旅客機の方が性能がいいくらいだったものの、後継機が開発されていなかった。

 しかし、レーダー探知距離は戦闘機より長く、

 射程160kmの長射程空対空ミサイルは、8発が装備されていた。

 国防省の空中巡洋艦構想は、B17、B24、B29を捕獲して始まった。

 爆撃機を迎撃機がわりに使ってると評判は悪かった。

 しかし、国防省に侵攻作戦の意図はなく、

 年々重量と大きさを増すレーダー管制システムを装備できたのは大型機しかなかった。

 コクピット

 “第5管制塔より、梅編隊へ。南西から低気圧が近づいてる。北西に回避せよ”

 「了解。北西に進路を執る」

 「これから季節は下り坂ですかね」

 「地上待機が増えるだろうな」

 「扶桑州と大和州の防衛計画がミサイルや地下鉄ばかりというのも、この天候のせいかね」

 「和洋州と、日満州もミサイル防衛が中心になるみたいですよ」

 「昔とちがってミサイルの打ち合いになっていくのはしょうがないのでは?」

 「だんだん敵の顔が見えなくなるな」

 「敵を殺したって実感は薄れてしまいますね」

 「いいのか悪いのかわからんが、部屋の中で戦争するようになったら、戦争自体が終わりかもな」

 「だといいのですが、資本家は、格差拡大の為だけに戦争しますからね」

 

 

 

 

 大和(アラスカ)州 

 小さな漁船が波から現れ、また波に消える、

 網を引き上げると、破けそうになるほどの魚が捕れた。

 人は、雄大な海に翻弄されながらも生きるために戦う。

 「えらく、魚が多いな」

 「アメリカの漁業は、それほど強くない」

 「やっぱし、食肉産業が強いからか」

 「みたいだな」

 「じゃ 漁業じゃ困らないか」

 「まぁ 漁礁はつくらないといけないが、寒冷地用漁船を全力で開発しないとな」

 「霧が多いからレーダーがいるよね」

 「アメリカ海軍の監視にもなるだろうから、漁船にもレーダーは標準装備だろう」

 「魚群探知機用にソナーも付けたらいいかも」

 「ついでにアメリカの潜水艦も見つけられるかもしれないし。いいねぇ」

 

 

 寒冷地は、都市型セントラルヒーティングの建設が決まり、

 街全体をパイプが網の目のように広がっていた。

 温水の元は、官庁と企業が多く、収入の一つになっていた。

 農業研究室

 室内は、かすかな熱源で21度前後の温度に保たれていた。

 神火人が作物に手をかざし、

 職員が作物育成を細かく調べていた。

 「特定の光というか電磁波が当たると作物の成長がいいのはわかるが」

 「大規模に展開するとなると、いろいろ大変だな」

 「いくら軍隊を強くしたところで、飢えたら負ける」

 「寒冷地でも食料は自立すべきだよ」

 「そういえば、ある種の電磁波や光は、魚にいい影響を与えているそうですよ」

 「じゃ 予算の取り合いになるかもしれないな」

 「しかし、カナダ軍は大和州に攻めて来るだろうか」

 「カナダは未開地が多いし、人口も少ない」

 「それほど日本人に恨みがあるわけでもないだろうし」

 「今のところ関係修復は問題ないと思う」

 「カナダも白人至上主義も強いようだが」

 「その白人至上主義を煽ってる連中は、なぜか減ってるらしいよ」

 「「「「「あはははは」」」」」

 

 

 

 

 和洋州

 ブルドーザーが行き交い、ローラー車が整地し、トラックが土砂を満載し、

 コンクリートが敷かれていく、

 発電所建設、新幹線建設、道路建設、工場建設が始まり、

 天津の8割は日本領になり、星型要塞風の街並みが作られていく、

 そして、それまで大陸になかった神社と鳥居が大量に作られようとしていた。

 関係者

 「上手くいきそう?」

 その建物はいかにも中国風の建築物だった。

 「大運河の伝統建築の移動は、なんとかなりそうだ」

 「まぁ あとは予算次第だけどね」

 「しかし、伝統建築の大工層が薄いのが問題かな」

 「大陸側に逃げたのか」

 「いや、執権者が同じ物を造らせたくなかったらしくて、連続性が少ない」

 「なんか酷い話しだな」

 「・・・時に例のアレは?」

 「アレ?」

 「だから中国文献の偽造」

 「まぁ 中国に陰陽師関連の資料があったら信憑性が増すわな」

 「死神教の偽造は、あまり気が進まないが」

 「日本人はそういうの苦手だからな」

 「それとなく書いてあるだけでもいいだろう」

 「陰陽師が昔から存在したのは事実だから、それくらいはかまわんが」

 「しかし、蒸し暑い地域だな。日本人が住みたがるかどうか」

 「日本人だって大きな庭と大きな家に住みたいだろうし」

 「とりあえず、大きなセカンドハウスでいいんじゃないか」

 「特に次男三男は、大陸だろうな」

 「子供が増えてるから大陸はなんとかなるか」

 「絨毯爆撃で絶滅させられかけた恐怖心があるから人口は増えるだろうな」

 「反動か。どちらにしろ、和洋州と日満州は和洋中折衷で面白い世界になりそうだな」

 「あ、アメリカとイギリスが三峡ダムの建設を検討してるらしいが」

 「ふーん、揚子江の上流を支配しようってわけか」

 「ところで漢民族は追い出せそうなのか」

 「朝鮮人は追い出せたから、漢民族も追い出せそうだけど」

 「今のところ、公共工事で手放せない」

 「ある程度教育して、金渡して追い出せば、大陸で権力者になろうとするんじゃないか」

 「そうなれば外交パイプになるし」

 「日本がその手でやられないようにしないとな」

 「そうだな」

 

 

 日本が中東の油田利権を手に入れると

 1万t級T2型タンカーを何度も往復させるより、

 少ない回数の往復で大量の石油を運べる10t級大型タンカーの需要が高まり、

 さらには、それを超える超大型タンカーの計画も進められていた。

 不要になった鉄材が溶鉱炉に投げ込まれ、

 基幹産業を中心に再建需要が大きくなりインフレは大きくなっていくが、

 国民にばらまいた金で貧富の格差は抑えられ、成り金が増えていた。

 横須賀

 大型タンカーが砕氷艦と並んで建造されていた。

 「・・・修理や解体作業ばかりで腐っていたが、ようやく、国産の船が作れそうだな」

 「まぁ 大きいことはいいことだっていうのは、戦艦大和で懲りてるはずなんだが」

 「民間船は別だろう」

 「どちらにしろ、ハードルの低い民間船で造船を立て直すのはいいと思うね」

 「しかし、よく、100000t級大型タンカーを建造する気になったもんだ」

 「中東油田の利権を手に入れたらしい」

 「中東はアメリカとイギリスが利権を抑えていただろう。よく割り込めたな」

 「米英だけで中東利権を独り占めすると、死ぬかもって、脅迫したらしい」

 「そりゃ怖いわ」

 「兵隊が300万近くも原因不明で死んだら大国でも涙目だし」

 「これ以上死人を出したらさすがにまずいだろう」

 「しかし、こういう外交政策はまずくないか」

 「中東で対等な交易状態を作っただけだろう。向こうはそう思ってないようだが・・・・」

 工員が工場に入ってくる。

 「ん・・・佐藤。おまえ、怪我してたんじゃないのか?」

 「あ、引っ掛けただけだし、朝起きたら治ってた」

 「本当かよ。えらい血が出ていただろう」

 「ほら、傷跡もないよ・・・」

 工員が腕を見せると治っていた。

 「「「「・・・・・」」」」

 「気をつけてくれよ」

 「わかった」

 「「「「・・・・」」」」

 「最近、怪我の治りがいいのが増えてるな」

 「そういや、俺の従兄弟は結核が治った」

 「あ、俺も結核気味だったのが治ったわ」

 「戦争を切り抜けて調子が良くなったな」

 「そうだな」

 

 

 

 

 自由都市リューベック (3000ku) は

 ドイツ人の、ドイツ人による、ドイツ人のための、政治行政が行われていた。

 国境は、鉄条網に囲まれ、

 日本人はいたがアメリカ人やロシア人の干渉を防ぐ監視のためにいるだけだった。

 日本大使館

 設計図が広げられていた。

 「パンター戦車の後継50t級戦車E50と。キングタイガーの後継70t級戦車E75か」

 「お金がないんだから、主力戦車は、一つに絞りたいね」

 「リューベックも日本と同じ規格にすれば相乗効果が高いだろうから本気で計画したようだ」

 「・・・陸戦兵器だけは、認めるところがあるな」

 「しかし、リューベックは狭いからパンツァーシュレックで地下防御にしたほうがいいと思うのだが」

 「国産戦車は、独立の象徴だよ。そして、象徴なので数じゃなく、性能と大きさってわけだ」

 「とはいえ、軍需生産工場はほとんど地下らしいが、まだ手狭なのだろう」

 「戦車まで手が回っていないらしい」

 「まぁ 日本も造成工事で地の利が得られても陸軍は面白くないし」

 「いつまでも捕獲兵器じゃ 国内産業も腐るだろうからね」

 「日本じゃ戦車開発してないんだっけ」

 「日本はまだ余裕があるから後回しだろう」

 「日本も大陸国家になってるというのに呑気なもんだ」

 「正直言って、日本の場合、国防は気にしなくてもいいくらいだからな」

 「いつまでも国防を死神に頼ってもいられまい」

 「まぁ そうだがね」

 

 

 広島と長崎に投下された核爆弾は、広範囲に広がり、

 当時、日本列島にいたYAP因子を持つ日本人は、数個の神火核を体内に持ち、

 目に見えない影響を与えていた。

 下層神火人は、数十個から十数個の神火核を体内に有し、

 放射線放出力が足りなくても、回復力が高く、寒冷地に強いことが挙げられた。

 また、赤外線や電磁波に強い感受性を持ち、

 致命傷さえ防ぐことができたら、強い回復力で持続的な戦闘が可能だった。

 そのため、専属衛生兵を伴っているのと同等の戦力と試算され、

 ゾンビの頭文字を取って “Zファイター” という隠語で呼ばれた。

 Zファイターの生存性をさらに高めるため、防弾性の高い軍服が開発され、

 平板状のチタンを鋳造したチタンヘルメットが使われ、軍服にチタン板が縫い付けられた。

 「どんな風?」

 「まぁ 比較的軽いけど」

 「とりあえず、1人で50人分くらい頑張れるだろう」

 「兵隊を増やせよ。少数精鋭なんて禺を犯すな」

 「北方開発が主流だからな」

 「民需もいいけど国防は国家の根幹だよ」

 「神火核は遺伝しない」

 「ということは、我々の世代が生きてる間に神火核を開発生産するか」

 「神火人の優位性を利用して開発を強行するかだろうな」

 「どの程度期待できるやら」

 「神火人の年寄りは体調が良くてね。長生きしそうだよ」

 「当然、若者は、もっと、長生きしそうだ」

 「本当に?」

 「神火核に取り込まれた遺伝子が何度もフィードバックして正常に戻そうとするからね」

 「下手したら、何度か死亡届けを出さないと拙い事になるかも」

 「それって長生きできるかもしれないってこと?」

 「上層部は、かもしれない、と思ってる。まだ、わからないけど」

 

 

 

 

 日本国防省

 軍が宇宙に目を向けたのは、ドイツ人技術者の協力でV2ロケットを開発できたからだった。

 開発中の後継A9/A10ロケットは2段ロケットで

 A09 全長14.18m、胴体直径1.67m、総重量16259kg。

 A10 全長20.0m、胴体直径4.12m、総重量69043kg。

 成層圏を飛び、最大射程5000kmとなっていた。

 そして、次期開発ロケットは衛星軌道を飛ぶ宇宙ロケットとなることが予想され、

 衛星軌道に乗せやすいロケット基地が赤道に近い島に建設することが予定されていた。

 マヌス島(1639ku)

 「宇宙ロケットを運び上げるのは面倒だけど、標高が高いほうがいい」

 「ここは標高400mあるよ」

 「悪くない」

 「予定地を確保したとしても、問題は、予算だけどね」

 「そうそう」

 「宇宙は人類の夢かもしれないが、夢は食えないからな」

 「いずれ生産性が高くなると、余剰人材が増えることになる」

 「そうなったら夢で人材を吸収できるだろう」

 「もっと有効雇用を考えないとな」

 「わかっちゃいるけどさ。放射線障害から回復しやすい人たちが宇宙開発に注目してる」

 「じゃ 宇宙に?」

 「被爆で死にかけた人間が回復して、いまじゃ スーパーマンだからな」

 「宇宙に出たら、もっと元気になるかも」

 「うぇえええ・・・ 普通の人間なら死ぬぞ」

 「放射線障害で細胞が死ぬより、回復が速いのだろう。羨ましい限りだ」

 「あと、宇宙もだけど、南極もね」

 「なんか、一般人と関わりのないトンデモ浪費だな」

 

 

 

 

 ブラジル

  空母ヨークタウンU、  軽空母サン・ジャシント、ベロー・ウッド、

  戦艦アラバマ、マサチューセッツ、

  重巡ボルチモア、

  軽巡サンタフェ、バーミングハム、デイトン 駆逐艦14

 日本人軍事顧問団が要所に付いて、ブラジル海軍の訓練を見ていた。

 水平線の彼方はアメリカ機動部隊が遊弋して警戒していた。

 艦上戦闘機は、F6F、ヘルダイバーを陸上基地に降ろし、

 複葉95式艦上戦闘機をリメイクした機体を訓練用で使っていた。

   重量1600kg/2000kg  全長7m×全幅10m

   800馬力 航続距離900km  速度360km/h   7.7mm機銃4丁

 空母ヨークタウンU 艦橋

 日本人将校たちが双眼鏡を覗き込んでいた。

 「「「「・・・・・」」」」 ドキドキ ドキドキ

 2隻の駆逐艦が数十メートルの距離まで縮まり、離れていく、

 「「「「・・・・・」」」」 ほっ

 「・・・危なかっしいな」

 「言葉が通じないと余計に反応が遅れるからな」

 「しかも国民の口癖が “問題無い” だし」

 「あはははは、どこかの民族性と似てるな」

 「艦隊の距離もう100m空けるか。衝突させないだけで神経が擦り切れる」

 「しかし、いくら、鉱物資源が欲しくてもな。機動部隊を丸ごとなんて気前良すぎなんじゃないか」

 「だけど、この機動部隊を100個くらい造れそうな鉱山を手に入れたらしいけど」

 「人間、胃袋で物事を考えるようになったらお終いだな」

 「そりゃそうだが、鉄があれば戦争で苦しまずに済んだ」

 「それに艦隊整備のため港湾事業も手掛けられて、日本企業は意外と美味しいそうだ」

 「ブラジルでのアメリカの反日活動は?」

 「ブラジルは有色人種が多いからね」

 「あのフィルムを見せると、対米不信が強まるし、日本人と組みたがるブラジル人が増えるよ」

 「それに死神教に興味を持ってるブラジル人は多い」

 「例の献金の半分を再分配するってやつ?」

 「まぁ 効果があるようだ」

 「ラテンカトリックは貰いグセをつけると怖いと聞くが」

 「下手をすると殺される」

 「そのへんは、死神の恐怖でなんとかできるだろう」

 「だといいけどね・・・」

 95式改がゆっくりと飛行甲板を横切って、ワイヤーをフックにかけて停止する。

 「「「・・・」」」 ほっ

 「いい調子だ」

 「95式は操縦しやすいからね。しかも改良型だ」

 「F6Fになったらどうなることやら・・・」

 「陸上の運用はいいみたいだけど」

 「F6Fはまだ余剰機あるけど、次期主力機はどうする?」

 「事故起こされたら面倒だし。練習用ジェット戦闘機を使うしかないかな」

 「アメリカ製より性能は落ちるけど、運用自体は容易な機体を検討している」

 「ブラジルはアメリカやイギリスを牽制してくれるだろうか」

 「どうかな。ラテンカトリック系が戦争に強いとは思えないのだが」

 「むしろ、平和的でいいじゃないか」

 「ふっ」

 

 

 

 

 中国 四川盆地 朝鮮自治区

 鉄道が到着すると朝鮮人が降ろされてくる。

 「こんな蒸し暑い場所に追いやるなんて日本人は酷いニダ」

 「電気も電話も無いニダ。水道も下水道も無いニダ」

 「最悪ニダ。戻るニダ」

 「駄目ニダ。日本に戻ったら死神に殺されるニダ」

 「でも、アメリカのキリスト教に入るとアメリカに移住できるかもしれないニダ」

 「アメリカに行きたいニダ」

 「そのあと、日本に潜入するニダ」

 「駄目ニダ。戻ろうとした朝鮮人が目の前で死んだにだ」

 「日本に行くと死神に殺されるニダ。とっても怖いニダ」

 「そうしないとアメリカは支援してくれないニダ」

 「酷いニダ」

 「アメリカに行けばいい生活ができるニダ」

 「それで、なんとかアメリカに居座れるよう誤魔化すニダ」

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

  

 日本・輝夜 (72万ku) 日本・半島

 和洋州 (25万ku) 中国京杭大運河東部域 

 日満州 (100万ku) 外満州 

 扶桑(カムチャッカ・チュクチ)州 (121万ku)

 大和(アラスカ)州 (171万7854ku)

 南洋 (ビスマルク・ソロモン諸島) (78150ku)

  フィリピン バターン・コレヒドール島 日本自治 “桃太郎” 区 (1000ku)

  マレーシア ブルネイ 日本自治 “金太郎” 区 (1000ku)

  インドシナ ダナン 日本自治 “舌切雀” 区 (1000ku)

  インドネシア パレンバン 日本自治 “浦島太郎” 区 (1000ku)

  ビルマ ヤンゴン 日本自治 “因幡の白兎” 区 (1000ku)

  シンガポール 日本人自治 “鶴の恩返し” 区 (1000ku)

 

 

 日本海軍

 第01機動部隊

  空母 白鳳(ランドルフ)、海鳳(ハンコック)、雷鳳(タイコンデロガ)

  戦艦 薩摩(ミズーリ)、駿河(ウィスコンシン)、

  重巡 穂高(セントポール)、

  軽巡 八瀬(ダルース)、黒部(サンタフェ)、白萩(モービル)、河津(ビロクシー)  駆逐艦18、

 

 第02機動部隊

  空母 蒼鳳(アンティータム)、幻鳳(シャングリラ)、慶鳳(ボノム・リシャール)、

  戦艦 因幡(アイオワ)、播磨(ニュージャージー)、

  重巡 蔵王(ボストン)、

  軽巡 天白(オクラホマシティ)、三原(アムステルダム)、日高(マイアミ)、天神(パサデナ)  駆逐艦18

 

 2410t級ガトー型潜水艦46隻

 2424t級バラオ型潜水艦26隻

 2424t級テンチ型潜水艦8隻

 

 1360t級エヴァーツ型護衛駆逐艦(21)  1740t級バックレイ型護衛駆逐艦(44)

 1240t級キャノン型護衛駆逐艦(23)  1250t級エドサル級護衛駆逐艦(24)

 1450t級ラッデロウ型護衛駆逐艦(4)  1350t級ジョン・C・バトラー型護衛駆逐艦(24)

 

 “原爆を落とされた人々の世界平和を望む会” 

 広島  賀茂忠行  天光正教  ウリエル  死神ウラン

 長崎  安倍晴明  聖炎主教  サリエル  死神プルト

 

  

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

第07話 1951年 『胎動、中規模海軍国群』

第08話 1952年 『下手は作物を育て。上手は土壌を育てる』
第09話 1953年 『封禅の儀』