月夜裏 野々香 小説の部屋

       

SF小説 『スターシード戦記』

       

 第01話 『恒星間 難民』

 西暦2305年

 幅500m、海抜120mの防波堤が海岸線を隠していた。

 防波堤は、地下100mまでコンクリートで敷き詰められ全長は600kmに及ぶという。

 なぜこのような巨大な防波堤が作られたのか、

 なぜ、洋上をソーラー船が巡回し、放射性物質を拐取しているのか

 記憶している者はもういない、

 しかし、21世紀初頭の記録が残されていた。

 1万8000ku分の森林、家屋と表土20cmを掻き集めて建設した防波堤で、

 その際、国中の原子炉が解体され、地下に埋設されていた。

 陸地側の表土は一度剥ぎ取られ砂漠化が進んでいたが、

 インド洋を浚って海底土を大地に撒き、

 今は、緑地で潤い、人々は計画都市で安心して生活していた。

 

 桐咲高校

 ネットを挟んで白いボールが行き交い、

 女生徒たちはバレーボールに熱中している。

 体操着の女生徒が一人、コートの隅で休んでいた。

 その視線は、綿毛を飛ばそうと背伸びしてるタンポポに向けられる。

 風が吹けば、直ぐに飛び散っていきそうだった。

 運がよければ、大地に花を咲かせ。

 運が悪ければ、大地に根付くこともなく消えていく。

 「・・榛名さん。体調は大丈夫?」

 「先生・・・大丈夫です。少し、暑さに負けたみたいで・・・」

 「そう、気をつけてね。榛名さん。最近、体調を崩している生徒が多いから」

 「ええ」

 不意に風が巻き上がり、タンポポの綿毛が剥がれて飛んでいく。

 『幸運を・・・』

 榛名ジルは、ぼんやりとコートを見つめ、

 時折、同級生の芳村シュウに視線が向けられた。

 恋愛感情ではなく、運命として受け入れているだけだった。

 瞳には、なんの感慨もない。

  

 放課後

 帰宅中の少女は、いったって普通に見えた。

 どちらかというと虚弱体質の文学少女風といえた。

 「どう? 榛名。調子は?」 シュウ

 「んん・・・今夜辺り狩らないと駄目かな」

 「僕も手伝おうか?」

 「芳村・・・一人でもできるよ」

 少年は、少しオタクがかって、優男という感じに見える。

 「でも広く浅くって調子、狂うよね」

 「一人に集中してしまうと殺してしまうし、魔女狩りはいやよ」

 「そうだけどね・・・」

   

  

 宇宙世紀

 月と小惑星で採掘した物資が無重力空間で均一に精製され、

 無重力精製の新素材は社会構造を変革させていた。

 ヘリウム3数十kgを燃料とし、人生10数回分もプロペラを回すことも可能だった。

 新素材による軽量化と高出力エネルギーは、社会生活を変革させ、

 成層圏にエイに似た大気圏空母、大気圏戦艦を遊弋させる。

 とはいえ、各国とも核兵器を配備し、

 国際紛争を戦争で解決する手段が取られなくなって久しかった。

 空中機動艦隊は、各国の思惑で軌道エレベーター建設構想が潰された代替案で、

 地球圏離脱の中継基地にすぎなかった。

 通常の航空機が飛行場を飛び立ち、空中基地に着艦する。

 その後、成層圏を飛ぶ大気圏中継基地から宇宙ロケットを打ち上げる。

 

 北大西洋上空

 大気圏空母 ホーネット艦橋

 「アルファ・ワンは?」

 「艦尾4時。マイナス13度です」

 「・・・ステルスも考えものだな」

 「大気圏艦隊になってから全天球を監視しなければならなくなりましたからね」

 「いまさら海上を這い回れないだろう」

 「大気圏空母は、発艦、着艦で楽ですからね」

 「あとは、平和なのが難点だな」

 「予算が厳しいですから」

 「大気圏機動艦隊の存在価値は、シャトルを衛星軌道に乗せるための中継基地だからな」

 「ですが、経済効率とはいえ、いまどき、プロペラですからね」

 「プロペラでも時速1000km。ブースターを使えば音速飛行だ」

 「航続距離は、長過ぎるほどだな」

 「そろそろ、客人を打ち上げますか?」

 「シャトルの発進準備は?」

 『完了しています。いつでもどうぞ』

 「では、ホーネット、上昇加速、ブースタージェットに切り替える」

 空母ホーネットは、加速しつつ上昇し、

 宇宙シャトルがカタパルト射出され、宇宙ロケットが打ち上げられていく、

  

 

    

 地球の先進主要国は、月、火星、金星、小惑星へと宇宙開発を進め植民地を拡大していた。

 その過程で足を引っ張り合うのは、採算性の関係から割に合わず、

 超国家的な法整備が必要となっていた。

 先進国を中心に軍事、教育、流通、航行、通信など緩やかな連邦法が制定され、

 連邦法を守る連邦保安軍が組織され、新世界秩序が形成されていた。

 月面 太陽観測基地

 月面天文台は各々1000kmほど離れ、

 一つの焦点に合わせられた望遠鏡は、プログラム通り動かされていた。

 その日の観測宙域は、期待されてないらしく、

 職員は、モニターを見ることもなく談笑し、コーヒーを飲み、

 時にまどろんでるだけだった。

 センサーが異常を発見し、警報を鳴らせるまでは・・・・

 「・・・・なんだ。小惑星じゃないか」

 「バカな、なぜ、黄道から北に32度も外れた場所に小惑星があるんだ」

 太陽の公転軌道は、黄道から8度以上、外れることはなかった。

 「大きさは?」

 「直径・・・・2000km」

 「なんてことだ。どこから・・・・」

 「太陽に向かっているな」

 「進路の計算は?」

 「速度は・・・速い・・・52.3265 km/s・・・・」

 「水星の47.8725km/sより速いぞ」

 「太陽系を突破する第3宇宙速度(16.7km/s)を超えているじゃないか」

 「変だな。太陽系の天体じゃないのか」

 「使える観測機を集めろ。全部だ」

 「直径2000kmの小惑星が太陽に突入する」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 小惑星は、太陽に突入するかに見えた。

 しかし、小惑星は太陽を掠るように回り込み、軌道を変えてしまう。

 地球連邦天文局は、小惑星の命名を決めるため古文書を漁り、

 太陽のコロナを抜けた小惑星に、古代エジプト神話の不死鳥ベンヌ。

 そして、ギリシャ神話の不死鳥フェニックスを合わせ、

 ベンヌックスと命名した。

 「ベンヌックスは、速度を落としたな」

 「ああ、調度、減速スイングバイでブレーキが、かかったようだ。公転周期は・・・・342年・・・」

 「探査衛星を送りたいな」

 「それは、予算しだいだな」

 

   

 数年後、

 地球がベンヌックス小惑星に向けて探査機を送った頃、

 大気圏空母ホーネットで警報が鳴り響いていた。

 「大佐・・・・」

 「・・・なんだ?」

 「流星群です。軌道が大気圏進入コースに乗っています」

 「落下地点は?」

 「ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、モスクワ、北京・・・全世界の大都市・・・全てです」

 「偶然にしては、怪しすぎる」

 「各国に警報を送れ、各艦、迎撃ミサイルは?」

 「準備できていますが、大きさと距離と速度だと、本艦隊の標的は・・・3つが限度です」

 「んん・・・」

 「どう考えても大都市を狙い撃ちしているようにも・・・」

 「都市被害を見逃すと予算を削られる」

 「弾道迎撃戦闘機を発進させよ」

 「艦隊も散開させて迎撃だ。一つでも多く撃墜しろ!」

 「了解」

 大気圏機動部隊から迎撃ミサイルが発射され、

 大気圏外で爆発が起こっていく、

 とはいえ、迎撃は流星群の一部だけに過ぎず、

 7割に近い流星群が地表へ落ちていく、

 「目標の撃破を確認。残りは都市に落ちます」

 大気圏に突入する隕石群がモニターに映っていた。

 「撃て」

 「間に合いません」

 「ちっ!」

 大都市上空で閃光が起こって、キノコ雲が連続して立ち昇る。

 「バカな! あの質量でキノコ雲などあり得ん」

 「司令、人口100万以上の諸都市は、全て、中性子系の核攻撃を受けています」

 「先進国は全て爆撃されました。攻撃した国を特定できません」

 「まさか、そんな」

 「原因は何だ?」

 「あの流星のようです」

 「そ、そんなバカな。核弾頭なのか。小さ過ぎる」

 「月、火星とも小規模ながら、核攻撃を受けている模様」

 「ぜ、全艦隊。流星を警戒せよ。全力で迎撃する!!」

  

  

 月軌道上

 先進諸国は、臨時の連邦軍指揮下で宇宙艦隊の編成を進めていた。

 「北アメリカ州艦隊18隻、欧州艦隊16隻、アジア州艦隊16隻、ロシア州艦隊10」

 「・・・・豪州艦隊5隻、南米州艦隊7隻。揃いました」

 「世界各国の連合艦隊か、どこの国のテロか、わからないが壮観だな」

 「外宇宙からの侵略なのでは?」

 「いや、目的は相互監視だよ」

 「な、なるほど・・・」

 警報が鳴り響く。

 「・・・正体不明の艦隊が接近」

 「なに?」

 「こちらの味方識別に反応しません」

 「各艦隊に警報を発令」

 「1時間で月軌道上の地球連邦艦隊の射程に入ります」

 「各国に確認させろ。所属不明艦隊に警告を送れ」

 「・・・形式不明・・・所属不明・・・?」

 光の束が地球連邦艦隊へと襲ってくる。

 「プラズマ障壁最大!!」

 「攻撃? 弾道速度が遅い・・・」

 地球艦隊は、光速以下のエネルギー弾によって、次々と破壊されていく、

 「月軌道から離脱」

 「ば、バカな。攻撃されているぞ。プラズマ障壁は、どうした?」

 「各艦とも最大です」

 「反撃しろ!!」

 敵艦隊は、地球艦隊の光線もレール弾も回避していく。

 そして、仮に命中しても効果がなかった。

 「なぜ外れる。敵艦隊は、なぜ曲線軌道で回避できるんだ」

 「まるで、大気圏にいるかのようだ」

 「こちらの攻撃が効きません」

 「レーザーも、ビームも、駄目か・・・レール弾は、核弾頭だぞ、なぜだ?」

 「敵艦隊のエネルギー弾の正体は?」

 「光速の半分程度です。我が艦隊の光線より、熱源が小さいようです」

 「光速の半分程度で、って。そんな速度で物理的な砲弾を発射しているのか、ありえんぞ」

 「提督。月軌道上のティラミス要塞の掃射範囲に入ります主砲発射します」

 「軌道を開けろ」

 巨大な光線が敵艦に命中すると撃破されたのか、爆発する。

 「おお〜! 要塞砲なら、やれるぞ」

 「エネルギー弾が本艦に向かっています」

 「か、回避だ!」

 「ま、間に合いません」

 「・・・っ・・・」

 地球艦隊は高速で直線的な機動しかできず、

 光速で撃ち出されたビーム兵器は敵艦隊に対し無力だった。

 一方、正体不明の宇宙艦隊は、低速ながら曲線的な機動が可能だった。

 そして、光速以下で撃ち出されたビーム弾は、地球艦隊を殲滅してしまう。

   

   

 地球統合軍作戦司令部

 「・・・駄目だ・・・まったく歯が立たない・・・」

 「どこの国の宇宙艦隊だ?」

 「外宇宙だろう」

 「外宇宙?」

 「あの艦体、恒星間航行だと小型過ぎないか?」

 「たぶん、外宇宙移動用の母船と恒星系侵攻用の艦隊に分かれているのだろう」

 「地球連邦の宇宙艦隊は、元々、警備用宇宙船に毛が生えたような艦艇だ。勝てるわけがない」

 「連邦法と平和が仇になったか」

 「いや、仮に本格的な、宇宙戦闘艦を建造しても勝てそうにないな」

 「宇宙要塞を建造するのか?」

 「そんな予算はないだろうが建造するしかなさそうだな・・・」

 

 地球連邦は、警備用宇宙艦隊を改良し、宇宙水雷戦隊を建造していく、

 しかし、敵艦隊の方が強力だった。

 「だが、なぜ、あんな、低速の宇宙艦隊に負けるのだ」

 「反重力装置が慣性飛行速度を制限している節があります」

 「たしかに、あの曲線的な機動力は、こちらの理解を超えている」

 「宇宙空間で宙返りか・・・燃料を考えると真似できんな」

 「機動性だと正体不明艦隊が有利か」

 「その気になれば、通常の宇宙航行もできるのだろうな」

 「こちらのエネルギービームが効かないのは?」

 「荷粒子砲、陽電子砲、中性子ビームも効果なしだ」

 「核弾頭装備のレール弾もです」

 「艦体の外側に対し、反重力で逆Gをかけているようです」

 「遠力障壁とか、重力障壁と呼べそうです」

 「それとは、別にプラズマ障壁も強靭です」

 「正体不明艦隊のビーム弾がほとんど見えず、光速以下なのは、どういうことだ?」

 「エネルギー収束の関係かと・・・」

 「熱源は小さいぞ、高エネルギーではない」

 「ですが、命中すると・・・」

 画像が流れるとプラズマ障壁に接触した途端、高エネルギーが剥き出し。

 プラズマ障壁と装甲隔壁を撃ち破る。

 「なんだ。プラズマ障壁のエネルギーと反応しているのか?」

 「いえ、そういった兆候ではないようです」

 「エネルギー弾を消失させないように光線を半物質化させているようです」

 「・・・どうやって?」

 「不明です」

 「現状では、収束率を度外視して、大出力のビーム兵器を使用せざるを得ません」

 「それだけのエネルギー砲台は地球軌道、月軌道、火星軌道、金星軌道の要塞衛星砲だけです」

 正体不明の緑色系の宇宙艦隊は、数度にわたって地球圏を襲撃し、

 北米州艦隊、欧州艦隊、アジア州艦隊、アフリカ州艦隊、南米州艦隊、豪州艦隊を撃破、

 地球連邦の拠点を襲撃していく、

  

  

  

 地球の地表

 大都市中心部は、建造物が焼け爛れ。瓦礫の山が広がっていた。

 そして、無傷に思える建物にも被害は、及んでいる。

 都市周辺部は、中性子爆弾らしく、外傷のない死体が転がり、

 生き残っている者も瀕死の重症者ばかりだった。

 その中で、二つの人影が夜空を見上げる。

 一人は少年。

 もう、一人は少女。

 そして、二人の背後から忍び寄る、もうひとつの影。

 「・・・生体エネルギーをよこせ」

 その姿は人外、

 振り返る少年と少女は、それを冷静に見つめた。

 「・・・核爆発で炙り出されたんだ」

 「直撃かしら。それとも程度の低いオーラースーツね」

 少年が手をかざすと人外の者が燃え崩れていく、

 「参ったね、榛名」

 「そうね、芳村」

 「ああ〜 せっかく隠れて潜んでいたのに・・・何で波風立てるかな」

 芳村が崩れ落ちた死体から小さい円盤を拾う。

 円盤から触手が伸び、芳村の指から入り込もうとし、

 パチパチと干渉し、防がれてしまう。

 「・・・核は生きている、さすが・・・」

 「ユニット式。アルデバラン系の住人よ・・・」

 「連中の寄生方式は悪くないよ。核の直撃だね」

 「うん、でも新種は何年ぶりだろう。それとも援軍か・・・」

 「さぁ でも、こんなに殺して勿体無い・・・」

 「宿木を殺してしまったら生態エネルギーを補充できなくなる」

 「そうなったら、オーラースーツを維持できなくなる」

 「そうなったら死んじゃうよ」

 「馬鹿たれ種族ね。きっと・・・」

 「それとも素で地表に降りられるのかしら?」

 「でも、センスなさ過ぎだよ。宇宙艦隊で武力侵攻だなんて、どこの恒星系だろう?」

 「さぁ 普通は、生態系が合わないなら、搦め手で取り込むのが基本よ。き・ほ・ん」

 「新参者は、程度、低かったんじゃない?」

 「ほかの連中も迷惑しているだろうな」

 「それは、良いんじゃない。不確定要素が少ないほうが、助かるよ」

 「まあ、敵は、地表じゃなくて、宇宙の彼方」

 「暴走じゃないから魔女狩りで炙り出されることもないけど・・・」

 「どうかな、日和見できるなら良いけど」

 「異種族も、同種族も、調整に失敗すると暴走。しわ寄せが魔女狩りだと大変だしね」

 「でも恒星間を小惑星で飛翔するなんて・・・なんて、でたらめな種族なの」

 「それだけの規模で恒星間を超えてきた種族はないよ」

 「普通は、宝くじ並みの確率で遺伝子カプセルとか、使うのに・・・」

 「大きくても、せいぜいロボット宇宙船」

 「自分の出自すら自覚できないで悩んでいる異種族もいるのに」

 「宇宙船を隠れて建造できた種族なんて片手で足りる」

 「どちらにしても見せたがりね。偉そうに・・・」

 「だけど・・・どうしよう」

 「せっかく、この世界に馴染んでいたのに・・・」

 「人口が減ってるし、本気で調べられたら、ばれちゃうよ」

 「また、魔女狩りだね」

 「こっちも宿り木に依存している身。弱点があるから・・・」

 「とにかく、ここは、やばいよ、病人の振りをして爆心地の外に出よう」

 「そうね。適当に生き延びましょう」

 「うん、でも侵略者が勝って、連中と違い過ぎると宿木と一緒に淘汰されちゃうよ」

 「それは、まずい」

  

  

 そして、数ヵ月後、

 地球連邦は、敵の正体を推測していた。

 小惑星ベンヌックスの進入角度と太陽系の相対速度が計算され、

 銀河系のある座標を横切る。

 それは、赤色巨星化した恒星系から脱出した小惑星に思われた。

 そして、解析された小惑星の映像がスクリーンに反映される。

 「・・・コイツが小惑星ベンヌックスか?」

 「ええ、直径2000kmの小惑星です」

 「小惑星ベンヌックスが発見されたのは、15年前です」

 「誰もがエッジワース・カイパーベルトか」

 「さらに外延のオールトの雲から飛来してきた小惑星と思っていました」

 「ですが、進入角度が全天球に対し32度」

 「進入速度が第三宇宙速度を超えていたのです」

 「太陽系の天体でない可能性も示唆されていました」

 「そして、太陽に突入すると思っていた・・・」

 「ところが小惑星は、太陽を掠めるように擦り抜け」

 「逆スイングバイで速度を落としながら太陽系天体の仲間入り」

 「正体は、他の赤色巨星化した恒星系から飛来してきた小惑星です」

 「「「「・・・・」」」」

 「科学技術の差ですね」

 「小惑星ベンヌックスは、現在の軌道を変えなければ、太陽に対する公転周期は342年・・・」

 「冥王星の外側になります」

 「我が方の核ミサイルは、ベンヌックスまで、まだ届かないか」

 「しかし、いくら小惑星の大きさでも恒星間航行だぞ、生物は?」

 「破壊した宇宙戦艦はロボット艦でした」

 「破壊された人型のアンドロイドを確認しています」

 スクリーンにそれらしい残骸が映し出された。

 「アンドロイドモデルの元は当然、本体だろうな」

 「人型は、知的生命体として合理的だと思うよ」

 「他にも増援の小惑星が、この太陽系に来るのだろうか・・・」

 「さぁ 別の恒星系に送るかもしれないし」

 「もう一つくらい、この太陽系に飛ばすかもしれないし・・・」

 「この小惑星を潰せば、とりあえず、侵略は終わりということかな」

 「たぶん、そういうことだろう」

 「まぁ この太陽系の太陽が赤色巨星化しても地球人類は同じ事をするだろうけどね」

 「ふ あながち理不尽でもないか」

 「弱肉強食だよ。地球人類が勝てば、連中の科学技術を応用できる」

 「なるほど・・・」

   

  

 地球 成層圏

 大気圏機動部隊 空母2隻、戦艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦16隻

 大気圏 空母ホーネット 艦橋

 「ベンヌックスの核ミサイルが軌道衛星の迎撃を突破してきます」

 「っく、ブースター全速、緊急回避!」

 「ブースター全速、緊急回避します」

 大気圏機動部隊の後方で爆発が起きた。

 「誘導ではなかったな」

 「誘導兵器の大きさなら、迎撃可能ですから」

 「くっそぉ〜 ベンヌックスめ・・・」

 「提督。地表から衛星軌道へのシャトル便が出るのでコース変更を求めています」

 「・・・ブースター停止。コースを変更だ」

  

  

 小惑星 『ベンヌックス』

 冷凍保存されていたカプセルから人型生命体が目を覚ましていた。

 直径2000kmの小惑星での恒星間を越えは時間がかかり過ぎ、

 保てるエネルギーも不足だった。

 人型生命体を維持するのも困難といえる。

 それでも、100体近くの人型生命体が冷凍保存から甦生する。

 この冷凍保損装置が失敗すると次点の方法が選択される。

 冷凍保存した精子と受精卵からの人工受精で培養。

 その後、睡眠学習しながらの保育、養育を経て成人まで待つ。

 全ての蘇生に失敗した場合、

 この小惑星ごと、この恒星系への贈り物となってしまう。

 幸運と凶運は、紙一重だった。

 そして、蘇生は幸運にも成功し、

 スターシードの来訪は、地球人の凶運となった。

 小惑星ベンヌックス 司令塔。

 「・・・ネオ総統」

 「条件の良さそうな恒星系だったが知的生命体が生まれていたか」

 「どうされますか?」

 「我々の恒星系は、赤色巨星化してしまった」

 「というより、既に超新星爆発し、数百年を経過してるかと・・・」

 「この恒星系で生きていくのみだな」

 「はっ!」

 「この太陽系は、勝ち残った生態系が支配する」

 「こういった形で戦いになってしまったのは残念です」

 「しかし、どうして戦争状態になったのだ?」

 「開戦するとしても、我々の蘇生を待ってからだろう」

 「欲を言えば、コンピュータが、この恒星系に順応できるオーラスーツを開発してから」

 「蘇生も数千年後のはずでした」

 「この体では、地表に降りられないからな」

 「コンピューターが誤作動でもしたかな?」

 「・・・記録は・・・・あ・・・・この恒星系の知的生命体に発見されたからのようです」

 「シナリオB22が採用されています」

 「ちっ! 意外に高度な知的生命体ということか」

 「共生は、考えられなかったのでしょうか・・・」

 データーが流れる。

 「炭素系の生命体は同じだな・・・」

 「銀河系は、珪素系の知的生命体は、百億年ぐらい先になるだろう」

 「この星の住人は?」

 スクリーンに映し出される、

 「視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚・・・消化器官、臓器・・・・似て非なる生命構造・・・」

 「素体の違いは明白」

 「共生は、無理だな・・・コンピューターのプログラムは正しい」

 「もう少し原始的な知的生命体でしたら楽でしたが・・・」

 「恒星は、誕生と死を繰り返す」

 「そして、その度に恒星から生命体が “飛翔” する」

 「恒星が死ぬ以前に知的生命体が育まれていれば、です」

 「それも高度な科学技術を有していないと全てが滅ぶな」

 「この太陽系の知的生命体は恒星の残りの寿命から逆算すると悪くないようです」

 「なかなか優秀な知的生命体のようだ」

 「ですが同族同士の切磋琢磨で優性遺伝を残していかないと、ここまでの進歩は・・・・」

 データーが流れ・・・

 「酷いな骨肉の争いは我々の生態系よりすさまじい」

 「同種族殺しは・・・いい勝負だ」

 「かなり殺しあっているようですね」

 「やりすぎると自滅する。その辺の許容範囲はギリギリかもしれないな」

 「野蛮ということでしょう」

 「ちっ! 人種、言語、文化、思想が分裂してるじゃないか」

 「最大勢力に集中攻撃して自滅させれば良かったものを・・・」

 「太陽に近づき過ぎて、コンピュータが判別できなかった様で・・・・」

 「どちらにせよ、知的生命にまで育った恒星系の住人は、恒星の死を迎えると連続性の望み」

 「何らかの方法で宇宙への “飛翔” を繰り返す」

 「この恒星系が我々の同種族でなくて良かったというべきでしょうか」

 「ヒス君。我々、ベンヌックスも他の天体から流れてきたと?」

 「我々の恒星系にあったオーパーツ」

 「我々と違う手法で種子が蒔かれた可能性は否定できません」

 「ふ どちらにせよ。恒星の終わりとともに住人は生き残る手段をとるしかない」

 「そして、我々は小惑星を使った・・・」

 「成功をお祝いします」

 「しかし、このベンヌックス。上手く逆スウィングバイを成功させて太陽系の軌道に乗ったものだ」

 「微調整を繰り返しながら太陽スレスレに接近」

 「太陽の引力でブレーキを掛け、速度を落として楕円軌道に乗せました」

 「計算通りか。だが、小惑星の表面はプロミネンスを被ったのだろう。焦げている」

 「眠っている間、このベンヌックスが太陽に落ちなくて、良かったといえます」

 「これからも悪夢が見れるわけだな」

 「・・・・・・」

  

  

 地球連邦軍が宇宙水雷戦隊を開発・建造編成する頃。

 地球、月、火星、金星は大打撃を受けていた。

 初期型の警備艦、水雷艦は、果敢にベンヌックス艦隊に戦いを挑んで時間を稼ぎ、

 戦局を持ち直させようとしていた。

 地球から火星に向かう宇宙艦隊があった。

 戦艦2隻、空母1隻、駆逐艦12隻、

 瑞穂艦 艦橋

 「ベンヌックス艦隊、戦艦4隻、空母2隻、駆逐艦18隻)が後方8万宇宙kmを追尾中です」

 「・・・やれやれ、しつこい艦隊だな。ベンヌックス艦隊の軸線は?」

 「本艦隊に対し、上下角15度、左右角20度。相対速度プラス3宇宙kmです」

 「罠を警戒しているな?」

 「はい。本艦隊の航跡は避けるかと・・・」

 「ベンヌックス艦の方が強いから、こっちも砲撃戦は避けたいがな」

 「ですが、これほど簡単にフェイクに引っ掛かるなんて・・・・」

 「欺瞞工作が飽和状態になると解析するためコンピューター制御は遅れる」

 「その罠が非合理的なほど効果的だ」

 「人間なら賭けに出るのに・・・」

 「連中が罠を避けるなら、このコースを通過するだろう」

 「前回は、突っ切ってきましたよ」

 「ふ それでもフェイクが多ければ混乱は大きくなる」

 宇宙空間に張られたピアノ線は、別段、危険でもない。

 宇宙線に晒されれば、いずれ消えてしまう・・・

 さらに無作為であれば、探すのも不可能。まして当たることなど奇跡に近い。

 しかし、作為的に張られると的中率が上がる。

 もちろん、ピアノ線で宇宙艦隊が、どうにかなるわけでもない。

 問題は、ピアノ線が張られた両端の先にある仕掛けがベンヌックス艦隊を混乱させる。

 たとえ、それが、子供のおもちゃで、あっても・・・

 一本のピアノ線が切られると地球連邦艦隊の3D映像が宇宙空間に投影される。

 ほとんどの仕掛けが危険も、支障も、実害もないものばかり。

 それどころか地球連邦艦隊のエネルギー攻撃の多くがベンヌックス艦に通用しない

 しかし、無数の仕掛けにベンヌックス艦の繊細なセンサーが反応し、コンピューターが警戒する。

 虚々実々の駆け引きが始まり、

 ベンヌックスのコンピュータは反応速度が鈍る。

 地球連邦艦隊は、収束率の悪いエネルギー攻撃を諦め、

 物理的なレール弾か、宇宙魚雷による攻撃を主にしていた。

 とはいえ、宇宙魚雷はエネルギー砲の砲身を飛ばしているようなもの。

 至近距離で、エネルギーをベンヌックス艦に叩き込む。

 ピアノ線が切れると宇宙ゴミに仕掛けられた宇宙魚雷がベンヌックス艦隊に向けて発射されていく。

 センサーが飽和状態にあれば、反応が遅れ宇宙魚雷の回避が間に合わず、

 ベンヌックス艦の艦体に命中し、大破していく。

 「・・・瑞穂提督、成功です。引っ掛かりました」

 「んん・・・罠の中心から少し外れているな、ベンヌックスのコンピュータもやりおる」

 「反撃しますか?」

 「反撃ねぇ 蒸気船で原子力艦隊に挑むようなものだ・・・」

 「ベンヌックス艦のエネルギー障壁の内側に入り込まないと勝ち目は、ありませんね」

 「レール弾も、あのエネルギー障壁が相手では致命傷に至らない・・・」

 「宇宙魚雷は、エネルギー障壁に命中する直前に相対速度を落とします」

 「エネルギー障壁の内側には、入れますが・・・」

 「苦戦か。しかし、宇宙戦闘でラム戦などしたくもないが・・・」

 「ベンヌックス艦の砲撃は、こちらのエネルギー障壁を簡単に突き破ります」

 「たとえ、ラム戦でも勝ち目はないな」

 「ええ・・・」

 「このまま、火星へ向かおう」

 「はっ!」

 地球連邦は地球、月、火星の軌道上のみ防衛線を維持できた。

 たとえ、収束率が悪いビームでも分母のエネルギーが大きければベンヌックス艦を寄せ付けなかった。

 瑞穂艦隊がフォボスに入港する。

 「ご苦労様です。瑞穂提督」

 「ベンヌックス艦隊は相変わらず強力だよ」

 「ですがベンヌックス艦3隻撃沈を確認しました」

 「至近距離からのビーム兵器で撃ち抜けると確認できただけでも幸いです」

 「欺瞞工作に引っ掛かってくれたおかげだ」

 「賢しいが反撃に必要な戦力が揃うまで我慢するしかない」

 「火星は地球より基礎の防衛力で劣る為、瑞穂艦隊の来航は助かります」

 「このフォボスとガイオスを小惑星ベンヌックスにぶつけてやりますよ」

 「護衛の艦隊は、どうしても必要だな」

 「地球では大型戦艦を建造しているとか?」

 「巡洋艦や駆逐艦では防衛線の維持が限界だからな」

 「侵攻作戦では大型戦艦が欠かせない」

 「そういえば、地球本星でも意見が割れているとか?」

 「人類種の遺伝子を詰め込んだ宇宙船を他の天体に打ち出すスターシード計画か」

 「理解できないわけではないよ」

 「限られた予算での振り分け。辛いところですか?」

 「少佐は、どっちかね?」

 「佐官ですから作戦に集中したいですね」

 「地球の総人口は、30億にまで激減した。廃墟を見れば、どっちの言い分もわかるよ」

 「冷戦時代のシェルターがなければ危ないところでしたね」

 「まったくだ」

 「スターシード計画は実現性があるのでしょうか?」

 「地球人類の科学技術は、ベンヌックスのように小惑星を恒星圏突破速度にまで加速させられない」

 「それでは・・・」

 「外宇宙航行速度まで加速、突破させられるのは、せいぜい小型宇宙船だ」

 「絶望的ですね」

 「どういう世界でも生きて行けるよう特殊なオーラで人体を身を包むことになるな」

 「それは、人類種といえないのでは?」

 「それだが新たな発見があった」

 「ミッシングリンクは、生態系の生存競争で淘汰されたもので連続性はない。しかし・・・・」

 「しかし?」

 「しかし、一部は外宇宙から飛来してきた可能性がある」

 「では、上手くいけば反撃できる?」

 「ひょっとすると我々が悪魔とか、妖怪とか、妖魔とか、呼んでいたものは外宇宙からの飛来者?」

 「特異なミッシングリンクは我々と同じ、危機状態に陥った太陽系から脱出してきた者達かもしれぬな」

 「では地球連邦内で異種族を捜索しているとか?」

 「苦しいときの神頼みというやつだ。少しでも可能性があるのなら、すがり付きたくなるよ」

 「それにベンヌックスは優れた技術があっても異質な生態系に入り込む段階で無理がある」

 「付け入る事はできるだろう」

 「ベンヌックス人はロボットによる地球侵攻すら躊躇しているのは、弱点が残っているかと」

 「だろうな。素のままでは地球に降りられまい」

 「やはり、この太陽系を守るべきでは?」

 「そうしてもらいたいね」

  

  

 小惑星ベンヌックス

 直径2000kmの小惑星ベンヌックスに配備していた艦隊は地球との交戦ですり減らされていた。

 「・・・地球連邦軍の物量は大きく、反撃も激しい。艦隊の10分の1を失った」

 「ロボット艦は柔軟性に乏しく、地球連邦軍のフェイクターン戦術は巧妙だ」

 「こちらの戦術プログラムに無い艦隊戦術で押されている」

 「対フェイクターン戦術プログラムの追加は?」

 「現在、連携プログラムで行き詰っている」

 「やれやれ」

 「こちらの艦隊損失の7割は、あの艦隊にやられている」

 「・・・こちらの観測用ナノマシーンは?」

 「中性子爆弾投下のドサクサに地表の知的生命体に送り込みました」

 「情報が集まれば、次で奴隷にできるかと」

 「どれくらいの時間を要する?」

 「視神経、情報伝達など、未知な領域が多いので、もうしばらく必要かと」

 「しかし、オーラー・ローブ開発は、どうしたものか」

 「生命活動に必要な熱エネルギーは、単純に1500から2000kcalで済む」

 「食料にこだわらなくても体内のヘリウム3を燃料にしたナノマシン発電で十分に足りる」

 「しかし、生態系に順応するためのエネルギーは非常に大きくなる」

 「順応レベルが高いほどオーラーローブを攻防に使いやすく。侵攻作戦で有利になる」

 「順応レベル次第では原住民がいなくてもいいのでは?」

 「その通り」

 「しかし、生命活動をヘリウム3発電に依存し切るのは危険すぎる」

 「それにこの体、完全に地球に順応しきれまい」

 「問題は、オーラーローブの生態系への調整だな」

 「人族への擬態は、エネルギーを消耗する」

 「可能な限り原住民の生体エネルギーを得て年月を稼ぐのがいいだろう」

 

  

  

 月基地

 地下に軍事基地が建設されていた。

 ロボットは、ヘリウム3をエネルギーに人間の数倍の能力を発揮し、

 寿命を超えるほど働ける。

 その地球のロボットよりベンヌックスのロボットは強く、

 キルレートは、ベンヌックスロボット 1体 VS 地球ロボット 20体 で負けていた。

 しかし、地球連邦軍は、ベンヌックスロボット軍の50倍のロボット軍を投入し、

 物量で押し返すことに成功していた。

 生体研究所

 「破壊されたベンヌックス艦からベンヌックス人の特徴は、だいたい推測が付いた」

 「「「「・・・・」」」」

 「人型ですが爬虫類に近いような・・・」

 「恒星間航行でDNAの形も、かなり変化しているはずだ」

 「さらにこの太陽系に合わせた身体の改造もしなければならないだろう」

 「どういった方法が取られますか?」

 「幾つか、検討すると、脳を機械に移植するロボット型が安全だろう」

 「しかし、それだとアイデンティティの喪失は免れず、生命力の喪失を促す」

 「身体的なアイデンティティを維持しながらとなると、オーラーを半物質化させる方法がある」

 「この場合、ナノテクノロジーによる核融合生命体となる可能性が高くなるだろう」

 「では、ヘリウム3の燃料が尽きたら?」

 「死ぬことになる」

 「しかし、生体エネルギーを吸収することで延命を図る方法を模索するかもしれない」

 「それは・・・」

 「生体エネルギーは、化学物質的な悪影響の少ないエネルギーといえる」

 「つまり、地球の作物を食べるより安全ということだ」

 「無論、生体エネルギーの質は、高等なものから下等なものまで多種多様かもしれないが・・・」

 「では・・・」

 「知的生命体の生体エネルギーを直接奪う・・・」

 「吸血鬼ですね。まるで・・・」

 「吸血鬼が外宇宙から来たのなら理にかなっている」

 「ベンヌックス人が吸血鬼でなければ嬉しいがな」

 「ベンヌックス人の目的は?」

 「彼らが恒星間を越えた成果を太陽系で求めたとしても、わからない事はないがな」

 「地球人類には、悲劇ですよ」

 「ものさしは、他人にも、自分にも、同じモノを使うべきだな」

 「地球も外宇宙へ侵攻できると?」

 「恒星間を越えるということは、その資格があるということだろう」

 「そういえば新型宇宙戦艦。どう使うつもりですかね」

 「新型戦艦・・・ヤマトか」

  

  

 新型戦艦の素材はチタン鋼、マルエージング鋼、グラフェン、シリコンナノグリット。

 高価な資材を使って建造するため、国力は擦り減らされる。

 月産のルナチタン装甲は、高張力鋼より強いわけではない。

 比重が軽く。宇宙戦の機動戦術で有用だった。

 「・・・なぜ、艦体の上部に主砲を集めたのです。これでは、むかしの戦艦だ」

 「全方位に火力を分散するより、一辺に集めた方が火力集中と、生産性が良いかと」

 「下方から攻撃されたら」

 「反転させれば、火力を集中できますよ」

 「全方位から攻撃されたら?」

 「火力集中は、戦略上の理にかないますよ。敵が分散しているなら確固撃破すべきです」

 「・・・」

 「問題はプラズマ障壁がベンヌックスの遠力バリアより劣っていることでしょう」

 「反重力エンジンのGを艦体の外側に向けて放出しているのか。信じられない技術だ」

 「ベンヌックス艦の機動性の良さと関係があるかと」

 「ヤマトの重力制御システムは、撃破したベンヌックス艦を撃破して得た技術です」

 「亜流コピーか。それでも感謝すべきだろうな」

 「代償が大き過ぎましたがね」

 「艦内だけでも1Gに保てるなら、それは、それで助かるよ」

 「しかし、ビームを半物質化させて収束率を上げると、ビームを光速以下に落としてしまう」

 「これは、敵のおかげですが大発見ですよ」

 「ベンヌックス艦のビームは、光速の半分以下か・・・地球の技術で可能なのか?」

 「まだ、解析中です」

 「戦術上、問題は?」

 「光速以下ですから命中率が低下することだけです」

 「光速の半分でも回避不可能だがね」

  

 

  

 芳村シュウと榛名ジルは、人里離れた場所を行ったり来たりしながら歩き回る。

 「・・・どうだったっけ?」

 「なんか、忘れちゃったな」

 遠くから見る者がいたとしたら、二人は、同じような場所を行ったり来たり。

 そして、不意に消える。

 芳村シュウと榛名ジルの目の前。

 それまで何もなかった空間が開かれた。

 クレーターを中心に周囲300mは、時空の歪みで周囲の空間と隔絶されていた。

 隠れ場所は、いかなる探知機にも引っかからず。

 特定の波長を持った者が特定のルートを行き来しなければ辿り着けない。

 この空間の歪みを維持するエネルギーは、いくつかのエネルギープラント。

 そして、高度な地脈技術が必要だった。

 この空間は、異質な世界で生きていくオーラースーツを開発・調整するまでのゆりかご。

 その宇宙船も機能が弱体化し放棄されていた。

 二人とも既に滅んだ出自の恒星系世界でさえ生きていけない肉体に変貌し、

 この世界の人間に肉体を近づけている。

 本来の生命体としての姿を変えてまで生き残る必要があるのだろうか。

 しかし、既にスターシードと言うサイは投げられ、

 二人は、ここにいる。

 この内部は、オーラースーツを解き、素体のまま生きることができた。

 「芳村、久しぶりだね。ここに来るの」

 「榛名、2回目だろう」

 「わたし達しか、来てないのかな」

 「壊れた乗り物があるだけだから」

 「何をするためというより、アイデンティティと宿命を確認するため以上のものはないよ」

 「わたし達にとっては、一応、聖地ね」

 「普通は、この程度の宇宙船で恒星間を越えて来るんだけどね」

 「芳村。いまの地球の生態系が地球原産だと思う?」

 「さぁ どこかの恒星系から撒かれたスターシードが今の地球の生態系を作っているかも・・・」

 「でも宿木は知らないみたい」

 「記録が残っていないのか。この恒星系原種の生命体か・・・」

 「どちらにしろ、出自を知らないスターシードも珍しくないよ」

 「早い者勝ちか。遅れてきたスターシードは寄生で苦労するのよね」

 「さぁ お互い様だよ。調整しだいでスペイン風邪とか、天然痘とか、エイズとか、宿木側も被害甚大だけどね」

 「でも、芳村。本当に地球人に協力するの?」

 「仕方がないよ。宿木の生体エネルギーでオーラースーツを維持しているから陰ながらね」

 「新参者に礼儀を教えてやるのも悪くないけど・・・」

 「地球人を使って? やぶ蛇にならなければいいけどね」

 「異端生命体の辛いところだね」

  

 

  

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 月夜裏 野々香です。

 SF 『金星のアフィリエイター』 と同列の時空未来世界です

 地球側も、ベンヌックス側も、ベンヌックスと総称するのは、お約束です。

 どういうSF小説かというと、

 いろんなSF小説、SFアニメ、オカルトの原因をスターシードで統合した野望小説でしょうか。

 

 

 

 太陽光のスペクトル比と放射線が異なる恒星系は住み難い、

 特に大気層のある惑星は、化学物質が多様で変化が激しく、

 生態系の循環から外れると生きていけない、

  地球

   窒素 78% 酸素 21% アルゴン 1% 二酸化炭素 微量。

   アンモニア、二酸化硫黄、塩化水素、塩素、二酸化窒素、一酸化窒素、

   水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン・・・

 他の恒星系の天体は、地球と大気組成の比率が違う事も多く、

 生きて行けないレベルになることも少なくない、

 仮に大気組成が許容範囲であったとしても、

 土壌成分の違いも大きな影響を受けた。

 異なる生態系から発生する化学物質は、致死レベルに達することももあり、

 その天体の生態系と循環系に合わせた身体改造が必要になった。

 とはいえ、他の恒星系に行き、

 その天体の生態系に合わせた身体改造をするのも無理があった。

 他の恒星系の生命体は、身体の機械化を検討しつつ、

 それとは別に非合理的ながら

 オリジナルの身体を可能な限り残したいと共通して開発する分野があった。

 生命エネルギーのオーラを強化し、異なる世界でも生きていける防御幕にする妥協案だった。

 他の恒星系の生命体は、生体科学を限界まで引き揚げ、

 身体から発生するオーラを強化し、擬態し、具現化する研究を推し進めた。

 それらは概ね、オーラースーツ計画、

 または、オーラーローブ計画と呼ばれる事が多く、

 他の恒星系に飛翔する生命体が生き残るため選択する手法の一つだった。

 

 

 地球は、他の恒星系からの飛翔記録が公式に残されていない世界だった。

 太陽系原産の生命体か。

 記録が失われたかのどちらかと言える。

 このことは驚くに値しない、

 スターシード計画は、死につつある恒星の知的生命体が

 宇宙に存在した生命と文明の痕跡が消えてしまうことを恐れ、

 天文学的分の1の可能性を賭けての “飛翔” だった。

 その内容は多種多様であり、

 成功確率は文明レベルと距離に比例し、

 飛翔させたのが、植物の種だけという恒星文明も少なくなく、

 到達するまで事故が起き、主要な記録が失われることもあった。

 そういう世界は神話があり、

 神、天使、悪魔、魔物、妖魔、妖怪など語り継がれる、

 多くは他愛のない空想だった。

 しかし、幾つかの恒星系からの飛翔が一つの恒星系に集まることも珍しくなく、

 伝承の中に真実が含まれることもあった。

 

 

 宿木・宿主

 惑星の主要知的生命体。

 広義では生態系も入れる。

 

  

 ※グラフェン

 大元は、フラーレンC60

 カーボンナノチューブを蜂の巣グリット状にしたものです。

 グラファイト構造の中空に置く原子核で、性能が変わるようです。

 詳細不明ですが、とても強い、ということにしてください。

 ある程度、精製技術が進むと中空にいろんな原子核を組み込むことができるそうです。

 物語の構成上、

 熱を直接電気変換する物質。

 電気を直接熱変換する物質。

 精製可能にしてください。

 

 

 光線の収束率を半物質化するまで高め、光速以下に落としてしまうこと、

 光線が内向きに絞り込まれ、エネルギー量が小さく見える。

 反重力制御装置による曲線機動。

 この二つは、化学的な根拠がありません、

 ビジュアル効果のため手段を選ばずです。

 

 

  

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SF小説 『スターシード戦記』

第01話 『恒星間 難民』

第02話 『情状酌量は?』