月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空歴史 『釈迦帝凰』

 

 

 第03話 『18世紀の世界大戦』

 1700年 大北方戦争

   バルト帝国(スウェーデン) VS モスクワ大公国(ロシア)、デンマーク、ポーランド、

 

 1701年 スペイン継承戦争

 スペイン・ハプスブルク家のカルロス2世は子供が生まれず、

 血縁であるフランス・ブルボン家のアンジュー公フィリップに相続が決まる。

 欧州最強のフランスと

 大航海時代で外地に地歩を持つスペインの同君連合成立は、欧州諸国を脅えさせ、

 イギリスとオランダは、対フランス大同盟を結んでフェリペの即位に反対し、

 フランス、スペインに宣戦布告した。

 

 そして、この傍迷惑な戦争に巻き込まれたのは、欧州諸国だけでなかった。

 イギリスとオランダ艦隊は、フランスとスペインと友好関係を結んでいた船を襲い。

 マラヤラム王国、タミル王国、日本を巻き込んでしまう。

 そして、イギリスとオランダ友好関係を結んでいた分裂気味のムガル帝国まで巻き込む。

スペイン継承戦争

 

VS

 
神聖ローマ帝国
*ハプスブルク君主国
*サヴォイア公国
*他にドイツ諸邦
グレートブリテン王国
ネーデルラント連邦共和国
プロイセン王国
ポルトガル王国(途中から)
フランス王国
スペイン王国
バイエルン選帝侯国
ハンガリー人集団
マラヤラム王国
タミル王国
ムガル帝国 日本
 

 人々は世界大戦と呼び、

 事実、地上戦は、北アメリカ、欧州で行われ、

 さらに海の戦いは、大西洋、インド洋、太平洋の全域に及び、

 遂にはインド大陸も戦禍に巻き込んでしまう。

 

 戦争において、国力、制度、知略、運の占める要素は、たぶんにあるものの、

 海上戦は、船、大砲、兵力の総量で計算されやすく、

 地上戦は、大砲、鉄砲、兵力の総量で計算される。

 何より兵力の差は、大きく、人口の持つ意味は、はかり知れなかった。

 インド大陸は、1億7000万の人口がひしめいていた。

 清国の1億3800万人より多く、

 世界人口の半分をインド大陸と清国だけで占めていた。

 この時期の西欧諸国は、8000万。

 フランスは1900万で、同盟国スペインが1000万。

 交戦しているイギリスは900万、オランダが300万。神聖ローマ帝国が1500万だった。

 そして、この頃の日本は2800万に過ぎなかった。

 ムガル帝国7王国は、南インド侵攻で、分裂を防ごうとしていた。

 スペイン継承戦争は、ムガル帝国と南インド2ヶ国の戦いの発端ともなっており、

 戦争の動機は、ともかく、

 スペイン継承戦争最大の戦場は、インド大陸だったと言える。

 ヒンディー王国(5100万)、ベンガル王国(1870万)、

 グジャラート王国(1360万)、ウルドゥー王国(1190万)、

 マラーティー王国(1700万)、テルグ王国(2040万)、

 カンナダ王国(850万)、

 ムガル帝国7カ国は分裂すると、

 単独でマラヤラム王国(850万)とタミル王国(1870万)と交戦に入るかもしれず。

 惰性と恐怖がムガル帝国を辛うじて繋ぎとめていた。

 そして、仲が良かったからと戦争に巻き込まれた日本と南インドも・・・

 

 日本 江戸城

 徳川綱吉(55)と側近たち。

 「何で戦争になったんだ?」

 「イギリス、オランダ帆船が日本船を攻撃しているからでしょう」

 「頭いてぇ・・・」

 「どうしろって言うんだ」

 「この場合、将軍が諸藩に命令を下し」

 「イギリス、オランダを攻撃させ、支配地を安堵するのが封建制度の習わしかと」

 「この天下太平の世に、戦いたがる者がいるのか?」

 「剣術の時代ではなく、鉄砲と大砲の時代だ」

 「武士は剣の技量を生かす前に命を落とすのではないか?」

 「ですが、攻撃されてますし、日本も艦隊を繰り出して、海上交易を守らないと・・・」

 「か、金は?」

 「「「「・・・・」」」」

 「そんな遠方の戦争に一両だって出したくない」

 「「「「・・・・」」」」

 「ああ、賛成だよ。戦争大賛成。金さえあればな」

 「相手を負かして、損害賠償で支払わせればいいのでは?」

 「はあ〜!」

 「豊臣秀吉が商人から金を借りるとき、やった手ですし」

 「負けて商人が破産したら、徳川幕府も巻き込んで潰れるだろう」

 「それに戦場は海の向こう。資金回収に失敗したらどうするんだよ」

 「私も、戦争になったら禿山になるので反対です」

 「じゃ イギリスとオランダ船に沈められる朱印船は?」

 「フランスとスペインが負けたら、イギリスとオランダが攻めてくるぞ」

 「イギリスとオランダが帆船で攻めてきたって、日本は守れますよ」

 「そうそう。イギリスとオランダだって、東アジアまで艦隊を送ってきたりしないよ」

 「だけど、外地の権益が入るかも」

 「途中で沈められなければな!」

 「不良民と不満分子も追い出せるかもしれません」

 「「「「「・・・・・」」」」」

 

 

 北アメリカ大陸西海岸

 購入したマニラ・ガレオン船から天下の常陸国水戸藩第3代藩主徳川綱條(つなえだ)(45)が降りた。

 水戸光圀の子供で、副将軍であり、

 北アメリカ方面軍総司令官となっていた。

 北アメリカ大陸スペイン領 ヌエバ・エストレマドゥーラの北側に未開地があり、

 北アメリカ北西部の未開地に日本軍陣地が作られていく。

 太平洋横断なら、インド洋、大西洋を回るより安全に北アメリカ大陸に到達でき、

 そこを拠点にスペインとフランス領の支援を行うことができた。

 「副将軍。インディアンです」

 「大石。物々交換をして、敵意がないことを示せ」

 赤穂藩は、転封が決まっていた。

 「「「・・・・」」」 ため息

 未知の種族との出会いほど、くたびれることはない。

 戦闘の方がよほど楽なのだが、どの程度の種族なのかわからず。

 相手の勢力がわからければ、無暗に敵対できなかった。

 

 

 マラヤラム王国、タミル王国、日本の艦隊は、南大西洋を荒らし回り、

 イギリス、フランス艦隊と凌ぎを削っていた。

 日印艦隊が北大西洋に進むほどインド洋の安全性が高まるかに思えた。

 しかし、その計略は、イギリス艦隊はオスマントルコ帝国、ムガル帝国と結ぶことで半減し、

 さらにイギリスとフランスもインド洋、太平洋で戦えば、

 日印艦隊の大西洋への進出が抑えられると、通商破壊を継続、

 インド洋の海賊は減る事がなかった。

 結果、帆船による壮大な海上戦が展開され・・・

 日印艦隊16隻は、ケープタウンを出撃すると、

 スペイン継承戦争に参戦すべく北上していく、

 日本艦隊 2500トン級戦列艦16隻 大砲60門

  伊勢、甲斐、紀伊、加賀。陸奥、土佐、安芸、飛騨

  播磨、武蔵、長門、因幡。薩摩、信濃、駿河、尾張

 16隻のうち12隻は、マニラ・ガレオン船を購入したものであり、

 対価は戦後の清算となった。

 大西洋で最強の艦隊というわけではなかったものの。

 3000トン級タミル艦隊24隻、2600トン級マラヤラム艦隊26隻と合わせれば、有力な艦隊となり、

 欧州に到達すれば、膨大な武器弾薬がフランスとスペインに届く事になった。

 日本艦隊は、4隻4隊に分かれて通商破壊を行い、

 イギリス商船を襲撃する。

 イギリス商船に満載されていたのは、黒人奴隷であり、

 狭い場所に押し詰められ、毎日、数人が死ぬ、

 日本は、奴隷制度は廃止されていたが江戸時代になると身売りが行われていた。

 しかし、奴隷貿易は、もっとも効率の良い商売だった。

 欧州船は、工芸品を積み込むとアフリカの奴隷と交換し、

 南北アメリカ大陸へ運んで使役させる。

 南北アメリカの鉱山と農場から上がる産物が船に積み込まれ、

 それが欧州に戻る黄金の三角貿易が行われていた。

 日本人は、積極的に奴隷売買をしなかったものの奴隷を解放せず、

 行き先をフランス領とスペイン領に変えて転売し、

 同じように取引し、懐を温めた。

 戦列艦 伊勢

 「碌に食料もないのに黒人を満載か、イギリスも酷いね」

 「黒人だろう、人食い人種もいるというし、力尽きたら餌になるんじゃないか」

 「もう、人間扱いしてないな」

 「噂じゃ 到着する前に3分の1が亡くなるらしいな」

 「はぁ〜」

 「アフリカの部族同士の争いだよ。負けたら奴隷」

 「欧州人が工芸品と交換して部族抗争を煽ってんじゃないの」

 「需要があるからね」

 「占領してるならインディアンを使えばいいのに」

 「インディアンは誇り高いから奴隷にならないだろう」

 「黒人は奴隷になるから、養殖されて人口が増えるな」

 「役に立たないインディアンは減るわけか」

 「需要があっても、奴隷売買は抵抗があるな」

 「日本だって、マニラガレオンを買ってるから、他人のふんどしで戦争だろう」

 「幕府も大型戦列艦を売ってくれるのなら、戦争しても良いかなって思うらしいな」

 「本当に良いのか、清国が舟山を襲撃したら危ないんじゃないか」

 「出征させたのは、外様ばかりだよ。徳川幕府は困っていない」

 「邪魔者を国外に出したいのだろう」

 「封建社会の悪癖か・・・」

 「この戦争、幕府の権力固めが目的と見た」

 「対外戦争を利用して同族殺しかよ」

 「ここまで利益誘導と派閥争いが酷いとはね。幕府も腐ってやがるな」

 「封建社会だからね。日本人の総意というわけじゃない」

 「日本人の総意を求めようとすると逆に歪になって、自滅してしまうと思うね」

 「まぁ 外地に自分の城を作るのは悪くないさ」

 「俺たちも、それが狙いだな」

 

 

 日本 江戸 日本橋

 立札の前に人だかりが作られていた。

 “人生と海外の富を賭けて戦える若者を募集する”

 “操船を覚えれば出世あり”

 “衣食住保証、生死保証せず 幕府”

 “追伸 船酔い注意”

 「「「「・・・・・」」」」

 「なんか、幕府のやる気を疑いたくなる文面だな」

 「でも衣食住保障は魅力だろう」

 「だよね」

 「でも海外か・・・」

 「広い土地がもらえたり、海外で羽振り良かったりするんだろう」

 「成功率低いらしいよ」

 「「「「・・・・」」」」

 「幕府に良いように利用されてサメの餌は嫌だよ」

 「でも日の本にいても人間は、犬様以下だからな」

 「そうそう。生類憐みの法なんてアホがいない所に行きたい」

 「だよねぇ・・・」

 「昔と違って剣術知らなくても戦える時代だよな」

 「訓練した武士だって、鉄砲の前だと赤子も同じ・・・」

 「・・・いくべ」

 「んだんだ」

 徳川幕藩体制から逃げ出したがる貧しい者は多く、

 夢を見る若者も多かった。

  

 

 フランス パリ

 若者たちが徴兵されていく、

 日本人労働者は、パリ清掃業と戦地への作物輸送で後方に残され、

 フランス軍の兵站を維持していた。

 日本人の荷馬車隊の兵站能力は高く、

 5パーセントほどフランス軍の兵力を上乗せできたといわれる。

 シャンゼリゼ カフェテラス

 日本人たち

 「結局、怠惰な身内より、勤勉勤労な他人の方が国益になるみたいだな」

 「ふっ しかし、フランスも危なそうだな」

 「フランスが負けると、俺たちヤバくないか」

 「そうそう、フランスには勝ってもらわないと」

 「日本艦隊は来るんだろうか」

 「さぁ しかし、幕藩体制じゃたいした戦力を捻出できないだろうな」

 「北アメリカに100万くらい送るらしいけど」

 「ふっ そういえば貧乏旗本、貧乏大名、貧乏百姓が多かったっけ」

 「この際、藩を統廃合してしまえばいいのに」

 「欧州は?」

 「タミルとマラヤラムは、アフリカ大陸に上陸してイギリス、オランダを一掃する気らしいけど」

 「やり過ぎて、フランスとスペインまで敵にしないだろうな」

 「どうかな。もう祖国存亡だから、簡単にやめないと思うけど」

 「だと良いけどね」

 「・・・さてと、仕事に行くか」

 「ああ・・・」

 

 

 スペイン

 戦場に送れる兵力は、食糧、武器弾薬の総量から逆算できる分しか送れない、

 現地徴収もあるが、そればかりでは、現地を敵に回してしまう。

 各部隊とも、割り当てから信頼でき言葉を理解できる一騎当千の兵士を望み、

 日本人の戦闘能力の高さは、評価されていても言葉で弱く、

 総数が少ないため後方が多かった。

 日本人労働者は、スペイン継承戦争とともにスペイン側へも移動していく。

 日本人は、労働観念で、スペイン人と、まったく違っており、

 スペイン人が昼寝している間も日本人は生産し、輸送し、働いていた。

 ビーゴ港

 積み下ろしと荷上げの合間、日本人たちが小休止していた。

 「シエスタ(昼寝の時間)中に攻撃されたらどうするんだ?」

 「日本、タミル、マラヤラムの艦隊が来ればもう少し、活気が出てくると思うが」

 「しかし、世界中で戦争を始めるなんて、それに日本も参戦とは・・・」

 「おかげで同盟国の人間で取引しやすいだろう」

 「こっち側で良かったよ。イギリス、オランダ側にいたら悲惨だった」

 「それは言える・・・」

 「!? な、なんだ」

 砲声が港湾に轟いた。

 イギリスとオランダ船28隻は、ビーゴ湾に侵入し、

 停泊していたスペイン・フランスの船団30隻を襲う。

 ビーゴ港は、英蘭艦隊によって完全に封鎖され、

 スペイン、フランス艦隊は、武装商船が多く、次々と拿捕されていく、

 イギリス戦列艦ケント

 「抵抗を続けるようなら撃沈しろ」

 「金塊は全て押さえろ」

 「て、提督!」

 「なんだ?」

 「思ったより金塊が少ないとのことです」

 「どういうことだ?」

 「積み下ろされた後かと」

 「バカな。こんなに早く積み下ろせるものか」

 「提督!」

 「ん? 日印艦隊だ!」

 「全艦反撃!」

 突如現れた日本船16隻、タミル船5隻が英蘭艦隊に襲いかかり、

 乱戦へと移行していく、

 英蘭艦隊は、将兵をスペイン船とフランス船に分乗させていた状態で、

 ビーゴ湾に閉じ込められ、

 大混乱のまま、撃沈され、日印艦隊に降伏していく、

 

 

 ビーゴ湾

 日印艦隊は、この戦勝において、英蘭艦隊の3分の2を拿捕、

 奪回したスペイン、フランス船の3分の2を得てしまう。

 残りは、スペインとフランスに帰属することになり、

 儲けたのは、一番戦力の大きかった日本艦隊となった。

 そして、割り当てられた金塊が日本艦隊に振り分けられ

 戦列艦 伊勢

 「すげぇ 金塊の山だ。初めて見た」

 「戦争って儲かるんだな」

 「いや、儲かるのは戦争じゃなくて、海賊業・・・」

 「やめらんねぇ」

 「勝てばね」

 「そりゃそうだ」

 「でっ どうするの? この金塊」

 「大西洋に足場がないとな」

 「日本に持って行くと幕府に取られそうで嫌だな」

 「取り敢えず、占領したカーボベルデか、アゾレス諸島でいいんじゃない」

 「何か不安だな」

 「タミル、マラヤラムと一緒だし、良いんじゃないか」

 「んん・・・インド人と商売すると負けるからな」

 「「「「あははは・・・」」」」

 

 

 1704年

 フランスは、イギリス、オランダ、オーストリアの包囲の一角を打ち破ろうとし、

 ウィーンを目指し、進撃を開始する。

 そして、ドナウ川流域ブレンハイムで戦いが起きた。

  バイエルン選帝侯国、フランス連合軍(63000)

        VS

      イギリス、オーストリア連合軍(52000)

 一進一退の攻防戦が続く、

 フランス軍 後方野営地

 いたるところに負傷者が転がり、軍医が手当てをし、

 重傷者は、さらに後方に下げられていく、

 戦地医療は、地味なようでも士気を保ち敵前逃亡を止めさせる効果があった。

 「軍医は?」

 「まだだ」

 「くっそぉ〜 イギリス人め、ドイツにまでしゃしゃり出やがって」

 「イギリスは、実力があれば庶民でも将官になれるらしい」

 「いいよな。こっちは貴族の世襲で才能も実力も意欲もない奴が上にいるからな」

 「やってらんねぇ」

 「道理でイギリスは強いはずだ」

 「オーストリアを落とせば、西に集中できて有利なんだけどな」

 「あ・・来た・・・」

 軍医にアルコールを吹きかけられ、

 「いっつつ・・・」

 銃創が手当てされていく、

 「・・・危なかった。さっきの攻撃で死ぬかと思ったよ」

 「銃剣がボロボロだ」

 血糊の付いた銃剣は、刃こぼれしていたものの、

 折れもせず、まだ使えそうだった。

 白兵戦は僅かな差で引っくり返る、

 日本製銃剣の比率が多いフランス軍は、命拾いしている将兵が少なくなかった。

 「おおーい。10km後退だ! 隊列を組め!」

 進撃で遅れても、後退で遅れると生き残れない。

 負傷者は肩を貸され、

 重傷者は荷馬車に乗せられ後退していく、

 この時、日本人の荷馬車が使われた。

 パリの糞尿を処理するための荷馬車であり、

 “ガレオン船を作る建造費が引かれた”

 とフランス海軍司令官をぼやかせたものだった。

 結局、ブレンハイムの戦いは痛み分けで終わり、

 両陣営とも戦意が保てず戦闘は、終息してしまう。

 しかし、この戦い以降、ポルトガルは、イギリス・オランダ側へ着いてしまう。

 

 

 

 ジブラルタル

 スペインの南端にある小さな半島は、切り立った崖で守りやすい地形が作られていた。

 そして、戦略上の要衝として何度も狙われていた。

 とはいえ、スペインは、対ポルトガル、対アラゴン・バレンシアで戦っているため、

 海を隔てた要衝を守る余裕はなかった。

 「艦隊だ!!!」

 イギリス艦隊が押し寄せジブラルタルを占領してしまう。

 

 

 パリ ヴェルサイユ宮殿

 フランスの将軍たち

 「イギリス艦隊がジブラルタルに集中しているのなら、イギリス本土に上陸すべきではないかね」

 「スペインがジブラルタル回復を望んでいる」

 「なんで、スペインの戦略に従わなければならん」

 「そうだよ。日印艦隊のカーボベルデ、アゾレス諸島の占領で、イギリス艦隊は散らされている」

 「イギリス本土上陸のチャンスだ」

 「スペインが剥れると困ると思うよ」

 「「「「・・・・・」」」」

 フランスとスペインは、ジブラルタル回復のため艦隊50隻を出撃させ、

 イギリスとオランダは、艦隊30隻で迎撃した。

 日印艦隊はマラガの海戦と呼称される海戦に参戦できなかったものの、

 海戦前に英蘭艦隊23隻以上を大西洋側に派遣させるほどの活躍を見せていた。

 英蘭艦隊は、善戦したものの、数で勝る仏西艦隊の猛攻を支え切れず、

 次々と撃沈され、

 ジブラルタルを占領したばかりのイギリス軍は備蓄が少なく降伏する。

 この勝敗によって、地中海におけるスペインとフランスの優位性は確立され、

 スペインに敵対する地中海側のアラゴン王国とバレンシア王国は孤立した。

 ジブラルタル

 戦いが終結した後、ジブラルタル港にタミル船が入港する。

 タミル船 船尾楼

 タミル人たち

 「フランスとスペイン艦隊は、ジブラルタルを回復したのか」

 「ジブラルタルに艦隊を派遣している間」

 「フランスとスペイン軍がイギリス本土に逆上陸していたら勝てたんじゃないか?」

 「イギリスだって、馬鹿じゃない。それくらいの備えくらいしていただろう」

 「イギリスは強いよ。海賊が貴族になる事もあるし」

 「カーストのような強力な枠組みで支配していないわけか」

 「カーストだって、4階級で分かれているだけで、横への職業移動は自由だよ」

 「しかしな。機会が与えられない国から機会が与えられている国へと移動したがるのが人間の性だよ」

 「ブラフミン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラ(スードラ)間の不信と憎しみは増大している」

 「もっと、アチュートを増やしたらどうだ」

 「身分制度を守るため、被差別人種の不可触賎民を作る手法はどうかと思うよ」

 「日本だってエタとヒニンを作って、やってたぞ」

 「日本の場合、職業に対してであって、血統に対してではないよ」

 「それはどうかな」

 「取り敢えず。積み荷を降ろすか」

 武器弾薬と日本人、タミル人労働者がジブラルタルに降りて行く。

 「スペインがポルトガルとバレンシア、アラゴンを落とせば、仏西の勝ち」

 「日印の足場は確保できるだろう」

 「どこまで信用できるかな」

 

 

 北アメリカ大陸、

 フランス、スペイン、イギリスは、互いに相克しつつ、

 インディアンと戦いながら己が植民地を広げていた。

 スペイン継承戦争から始まった世界大戦は、植民地同士の戦いに広がる。

 海上戦闘において、イギリス海軍の優位性は変わらず、

 同戦力ならイギリス艦隊が強かった。

 これは、日印西仏海軍が封建主義的な世襲に支配され、

 無能無知無策な艦長の下に有能な部下が付く悲喜劇が多く見られ、

 イギリスとオランダ海軍は、実力主義を貫く事が出来た。

 こういう状況では、勝てる戦も勝てない状況が作られてしまう。

 

 

 北アメリカ ヌーベルフランス

 ミシシッピ水系全域がフランス植民地になろうとしていた。

 日本は、仏西と協力関係にあり、

 金次第で戦地への輸送も強行した。

 日本のガリオン船がフランスとスペインの拠点に入港することは珍しくなく、

 日印船舶の増大は、フランス、スペインの植民戦争を優位にさせた。

 カリブ海

 イギリス帆船2隻がスペイン商船1隻を追撃していた。

 隻数で勝ち、個艦戦闘でも勝ち、技量においても勝っていた。

 イギリス帆船90門艦ネプチューン

 「艦長。思ったより船足が速いようです」

 「積み荷が少ないのか・・・」

 樽が舷側を抜けて行く。

 「積み荷を捨てて港に逃げ込もうとしているようです」

 「なぁに、あと、半日もあれば追い付ける」

 「・・・艦長! 10時方向に5隻!」

 マストの見張り台から声が響く。

 「どこの船団か?」

 「・・・タミル艦隊です!」

 「1隻増えました。6隻がこちらに向かってます!」

 「・・・ちっ 見つかったのか、引き揚げるぞ。取舵!」

 そう、敵に数倍する戦闘力を発揮できても、

 敵船が数倍では、戦いを躊躇するしかなかった。

 

 タミル艦隊

 「提督。イギリス艦隊は撤退していきます」

 「助かったな。積み荷ばかりで兵隊が足りなかった」

 

 

 1708年

 ムガル帝国は、

 ヒンディー王国、ベンガル王国、

 グジャラート王国、ウルドゥー王国

 マラーティー王国、テルグ王国、

 カンナダ王国

 の7言語王国連合の連合体であり、

 中央集権が弱体化すれば分裂の危機を迎える。

 ムガル帝国は、前皇帝アウラングゼーブが亡くなると、

 ムガル帝国第7代皇帝バハードゥル・シャー1世(67)の治世となり。

 分裂の危機を迎える。

 各王国で起こる反乱と鎮圧は、ムガル帝国を弱体化させ、

 ムガル帝国内紛は、マラヤラム王国とタミル王国の安泰と外洋への飛躍をもたらした。

 とはいえ南インドでも木材の枯渇が始まり、

 木材価格に引き揚げられた物価の高騰は、真っ当な商売より、

 海賊業を優位にさせ、各国の通商を萎みさせる。

 タミル王国 日本商館

 「大砲をもっと増やすべきだろうか」

 「オスマントルコ帝国の海賊も増えつつあるようだ」

 不意に知らせが入る。

 「大変だ。ムガルが攻めてきたぞ!」

 世界最強のムガル戦列艦8隻がタミルの港を砲撃する。

 そう、スペイン戦争でマラヤラム王国とタミル王国は、兵力不足に陥り、

 対英蘭海賊業で儲けたマラヤラムとタミルは、格好の獲物になっていた。

 崩壊寸前のムガルを結束させたのは、マラヤラムとタミルの富だった。

 

 カーボベルデ

 ポルトガル領だった。

 そして、ポルトガルはスペイン継承戦争で英蘭側だったため日印艦隊に占領される。

 アゾレス諸島も日印艦隊に占領されてしまう、

 スペイン継承戦争は、白人世界にとって負の戦略であり、

 日印連合は海外雄飛の機会となった。

 プライア港に日印艦隊が入港していた。

 日印欧州派遣軍司令部

 「すぐに金がなくなるな」

 「金がないと人を動かせないからね」

 「金持ちが生き死に賭けて戦うっていやだろう。金持ちも動かせない」

 「まぁ 利権を手に入れたら死ぬまで、のんびり往生したくなるわな」

 「しかし、マラヤラムとタミルは、本当に後退するので?」

 「インド洋のムガル艦隊を何とかしないと作戦不能だ」

 「そうなると、日本艦隊も動きにくい」

 「いや、インド洋のムガル艦隊は、何とか抑えよう」

 「日本艦隊は、大西洋の利権を守ってくれ」

 「んん・・・」

 

 

 八島 (舟山)

 ネルチンスク条約後、

 北方領土を安定させた清国は、その矛先を東と南に向けることができた。

 日清は、朝貢外交の是非で揉め続け、

 陸続きのシャムは、明側についていたため、清と朝貢外交でもめていた。

 清国の軍ジャンク船が八島 (舟山) 諸島を周回し、日本を牽制する。

 欧米諸国であれば牽制は、目的を達成するための手段に過ぎない。

 清国は、国内を安定させる目的で示威行動という手段を用いていた。

 八島城

 「清は、陸続きのチベット側に行くようだ」

 「朝貢を拒んだから?」

 「いや、陸地のほうが攻めやすいからだろう」

 「助かるね。舟山が島で・・・」

 「清・明戦争で清国官僚の中枢に食い込めたのが良かったのかね」

 「純粋に戦力差じゃないか」

 「政争で負けた時の避難所と、金だと思うけど」

 「権力者が変わると、墓をほじくり返す国だからな。怖い国だ」

 

 

 江戸時代中期、

 戦国の世が終わると、貨幣経済が安定し、商業が発達していく、

 農作物以外にも町にとって必要な生活物資があり、

 その生産物の中に商品作物と呼ばれるモノがあった。

 例えば木綿、菜種、紅花であり、

 当たれば利益が大きく、はずれると食べて飢えを凌ぐことも出来ない、

 幕府が経済の安定を望んでも、

 商人は、土地を担保に商品作物を勧める。

 そして、農家は、一攫千金と、より良い生活を夢見るのだった。

 しかし、商品作物は天候一つで値上げ、値崩れが起こる投機であり、

 生育に肥料が欠かせず、

 肥料の購入費用と作物の売上の利鞘が勝負となった。

 そして、同業の生産者が増えれば価格競争が激しくなり、

 利鞘が減ると失敗する農家が続出し、貧富の格差も広がる、

 勝ち残った農家は豪農となり、商人は豪商となった。

 有力者は、名主、庄屋と呼ばれ、

 敗者は、水飲み百姓になるか、

 一旗揚げるため、他の土地か、国外へと出て行く、

 その受け皿の一つとして樺太も存在した。

 樺太

 一年の大半を濃霧と雪が覆う島、

 トドマツ(15〜25m)とアカエゾマツ(40m)の針葉樹林が群生し、

 伐採された材木が山積みされていく、

 農作物は、米が作れず。

 甜菜(てんさい)、馬鈴薯(ジャガイモ)、青豌豆(あおえんどう)、

 菜豆類、蕎麦(そば)、玉ねぎ、大麦、ライ麦、カブ、

 キャベツ、ごぼう、レタスが植えられる。

 海では、鮭(サケ)、鰊(にしん)、カニ、鱈(たら)が獲れた。

 オホーツク諸族が地の利を押さえ、

 日本人、清国人、ロシア人が住んで曖昧な社会が作られていた。

 御端(オハ)城

 初期投資で城を建設した幕府は、資金繰りが続かず縮小しつつあった。

 金を持つ者しか生活を維持できず、支配できない地であり、

 幕府は、大名扱いの商人たちに樺太開発を任せたため商藩と呼ばれた。

 商人たちは、堺をはるかに超えた自治と広大な土地を保有してしまう。

 そして、利益重視、採算性重視の談合が樺太を支配し、

 資本の回収と利鞘を考えた投資が行われ、

 資本主義の下地が作られていく、

 西洋とインドの影響を受けた商品作物の研究も進み、

 その中、オホーツク諸族のウィルタ族のトナカイ牧畜が模倣され、

 チーズ、ミルク、燻製が試験的に作られていた。

 「どうだ?」

 「なかなか美味いな。フランス仕込みなだけはある」

 「ミルクを使った料理も増えるかもしれないな」

 「トナカイより、牛、豚、羊の放牧が良いと思うがね」

 「それは、北海道でしょう」

 「だけど、フランスと組むのはどうかと思うね」

 「フランスは手古摺っているようだけど欧州最強だろう」

 「巻き込まれやがって」

 「船を沈められたからしょうがないよ」

 「だから中立宣言すれば良かったんだ」

 「そんな事をしたら、フランスとの交易が低下するだろう」

 「財政難の幕府も引き気味だからどうしたものかな」

 「亜麻(リネン)の生産が軌道に乗れば樺太の収益になるのでは?」

 「フランスではランというそうだ」

 「どちらでもいいよ」

 「北海道と競合することになるよ」

 「まぁ 幕府に金を出させるにしても、我々の利権で押さえるのだろうな」

 「幕府に口出しされたくないぞ」

 「それはそうだ」

 

 

 

 コーチン沖

 マラヤラム艦隊22隻、タミル艦隊26隻は、ムガル帝国艦隊27隻と交戦していた。

 タミル艦隊は、世界最強と言われるムガル帝国の4000t級ガレオン帆船

 ルンビニー、ボードガヤー、サールナート、ラージギール、

 サヘート・マヘート、サンカーシャ、ヴァイシャリ、クシーナガラ、

 の8隻に切り込み、激しい砲撃戦を繰り広げた。

 タミルの1800トン級ダウ・ガレオン船チェンナイ

 「でかいだけで動きが鈍いぞ!」

 「死角に回り込んで帆に火矢を放て!」

 バリスタ(射出機)から火薬と油の瓶を詰めた大型の矢が次々と打出されていく、

 海上戦と操船に慣れたタミル・マラヤラム艦隊は、ムガル帝国艦隊を翻弄した。

 双方の隊列は崩れだし、戦いは、統一行動を執れなくなり、

 遂には、大混戦となって行く、

 この時、タミル艦隊は、2隻で最小戦隊を組んでおり、

 最悪の戦場でも相互支援が可能になっていた。

 早朝から始まった海戦は、夕刻まで続き、各個に戦場から離脱し、

 戦いは終息していく、

 満身創痍の1800トン級ダウ・ガレオン船チェンナイは幽霊船の如く浮いていた。

 「沈め損なったか」

 「海水を掛けて鎮火させてましたからね」

 「その分、船足は遅くなって、余計に火矢を撃ち込めた」

 「しばらくは出てこないのでは?」

 「こちらも同じだな」

 タミル・マラヤラム艦隊は、世界最強のガレオン船8隻を延焼させてしまう。

 しかし、タミル・マラヤラム艦隊も3分の2が撃沈され、

 タミル、マラヤラム、ムガル帝国の海軍戦力は急速に衰えていった。

 

 

 1709年

 スペイン船と日本船は、黒潮から北太平洋海流へ、

 そして、カリフォルニア海流にのってメキシコに到達する。

 この比較的楽な海流コースから一隻の日本ガレオン船が離れてしまう。

 渦流に巻き込まれて起きたことなのだが、

 戦争で新兵で水増しすると経験不足から気付くのが遅れてしまう。

 1400トン級 帆船 “愛宕丸” は、ハワイ諸島ニイハウ島に到達し、

 「・・・島・・・ですね」

 「あれぇ 暖かいと思ったら南に行ってたんだな」

 「夏だから暑くて当たり前とか言ってませんでしたか?」

 「いや、南にしては少し寒いだろう」

 「「「「・・・・」」」」

 ごほん! 

 「参ったな。新兵ばかりでアメリカに辿り着けるかな」

 その後、ハワイ諸島を歴訪し、現地民と接触しつつ、

 北アメリカ大陸の日本領 “すめらぎ” へ到達、

 ハワイ諸島の存在が幕府に知らされる。

 

 北アメリカ大陸 日本領 “すめらぎ”

 トゥッチョン区、マウンテン区、

 セカニ区、ビーバー区、トリンギト区、

 ヌートカ島、ハイダ島、チムシアン島

 コースト区、サリッシュ区、クーテネー区など、

 先住民の居住地と日本人居留民が混在していた。

 スペイン人とフランス人

 「いよいよ。日本人も北アメリカに入植か、いやな予感が当たったな」

 「スペイン本国が負けるより良いのでは?」

 「だが、南はスペイン領、東に行けばフランス領じゃないか」

 「日本人と北アメリカを巡って争奪戦になる可能性があるのか?」

 「さぁ フランスの日本人は増えているし、日仏関係は維持されると思うが」

 「そんなの“すめらぎ”の日本人と関係ないだろう」

 「北アメリカ争奪戦より、祖国が勝てるか気になるね」

 「タミル、マラヤラム、日本の参戦で大西洋は優勢らしいけど」

 「南インドは、ムガル帝国とも戦ってんだろう。いつまでもつかな」

 

 

 この年、もう一つの戦い、

 大北方戦争が分岐点を迎えようとしていた。

 大北方戦争と日本の関連性は小さい。

 とはいえ、バルト帝国(スウェーデン + フィンランド + バルト三国)は、人口こそ少ないものの、

 面積だけなら100万kuを超える北欧の大帝国で、

 モスクワ大公国も版図だけなら世界最大級と言えた。

 大北方戦争は、ロシアの東征の足を引っ張り、

 二大大国をスペイン継承戦争に干渉させなかった点で大きな位置付けと言えた。

 モスクワ大公国のピョートル1世(29)は、バルト海を欲し

 1700年、スウェーデンに侵攻した。

 緒戦、スウェーデン王カール12世(18)の反撃でロシア軍は敗北して後退、

 ロシア帝国は、スウェーデンの攻勢で本土決戦を強いられるものの、

 焦土作戦を展開し、

 スウェーデン軍は、補給を断たれ苦境に立たされていく、

 そして、ポルタヴァの戦いでロシア軍ピョートル1世(38)の総反撃に遭い、

 スウェーデン軍は総崩れとなって敗北、

 スウェーデン王カール12世(27)は、オスマントルコへと亡命し、

 ロシア帝国の優位が決まってしまう。

 ロシア帝国とオスマン帝国の関係は悪化し、

 戦雲は、もう一つの大国オスマントルコを巻き込もうとし、戦雲が高まっていた。

 イスタンブール

 トプカプ宮殿 アフメト3世(36)

 「ウィーンで包囲網戦敗北の傷心も癒えてないというのに何で揉め事を持ち込むかな」

 「カール12世を引き渡しては?」

 「大国のメンツがあるから引き渡せん」

 「それに反ロシアでいうならバルト帝国との共闘は必要だ」

 「では戦うので?」

 「だからウィーン包囲網戦の敗北から立ち直っていないと言ってるだろう」

 「「「・・・・」」」

 「清国とモスクワ大公国。戦争しないかな」

 「「「・・・・」」」

 

 

 1710年

 日本でキリスト教とヒンズー教が公認される。

 対外的には、フランス、スペイン。タミル、マラヤラムとの関係強化のため、

 そして、目に見えないモノに対する恐怖と死後の観念、

 教義として存在しなければ是非の選択すら与えられなかった。

 キリスト教とヒンズー教の輸入は、日本国民の総意だった。

 とはいえ、未知のモノを恐れ、

 権力構造と結びついた神道、儒教、道教など、

 己が権力を脅かす存在が現れる事を恐れる者も少なくなく、

 どちらも日本の風情に合わせたモノへと変貌していた。

 こういった事はプロテスタント(1521年)、イギリス国教(1534年)後、珍しいと言えない。

 何の事かというと、

 宗教上の人事権が日本国民にあるという最小限の権利であり、

 その点でいうと、カトリックは、好まれなかった。

 江戸城

 将軍家宣(のぶいえ)(49)と若年寄が城下町を見下ろしていた。

 家宣は、綱吉が定めた生類憐みを廃止した将軍として人気が高く、

 キリスト教とヒンズー教を公認した事で、さらに人気が高まる。

 「キリスト教とヒンズー教の容認は、日本人にとって必要なことだ」

 「日本人は、世界と共感を成し得なければ成せない事がらもある」

 「日本人が変わらなければ成せないこともある・・・」

 「将軍。これで、鳥居とも、お別れですかね」

 「まったくだ。船と鉄砲を作らねばならんし、家も建てなければ生活できない」

 「戦争も激しさを増している。これ以上、鳥居に木材を取られたくないな」

 「まったくです」

 「しかし、この戦争は、日本にとって、どうなのだ?」

 「北アメリカの日本領 “すめらぎ” は、日の本より広いとのこと」

 「んん・・・それなら目障りな薩摩、長州、伊達、加賀の転封をしたいものだな」

 「転封の口実が欲しいところですな」

 「伊達騒動は惜しかったがな」

 「上手く、内輪で治めてしまったようです」

 「しかし、いまより大きな土地を安堵するのだ。嫌とは言わないだろう」

 「開国していると、国内が外国勢力に引っ張られ易くなりますが」

 「世界中が日本と同じ封建社会で、徳川幕藩体制の理を証明している」

 「絶対王制のフランスが勝てば、内憂外患も減るだろう」

 「日の本で絶対王制となると天皇制になるのでは?」

 「んん・・・不便なようでも、人は不正もするし腐敗もする」

 「権威と権力は分かれていた方が良いだろう」

 「インド大陸派遣軍の編成は、どうされますか?」

 「ガンジス川の中州に上陸するという話しか」

 「タミルとマラヤラムとの同盟関係もあるので」

 「日本軍が上陸してもタミルとマラヤラムは警戒するだけだろう」

 「タミルとマラヤラムから要請があれば別だが・・・」

 「仮に南インドから要請があっても南インドが勝てるとは限らない」

 「それに日本が参戦することでムガル帝国の結束が高まり、逆効果という事もあり得る」

 「ガンジス流域は、ベンガル王国です」

 「ムガル帝国の分裂を足すか、結束を強めさせるか、微妙です」

 「・・・舟山で日本と清国は緊張関係にある」

 「このまま、インド大陸に参戦し」

 「清国が舟山を攻撃する様な事になれば、幕府の力は尽きてしまう」

 「では?」

 「舟山諸島防衛の戦力は保持せねばならん」

 「なにより、三大陸三大洋で戦争などするものではない」

 「インド大陸へは武器弾薬の供給だけで終わらせよう」

 

 

 インド大陸

 タミル、マラヤラム VS ムガル帝国七王国の戦いが激しさを増していた。

 戦いが激しくなるほど、ムガル帝国の中央集権と結束は強まり、

 南インドは不利になって行く、

 そして、日本は、武器弾薬の供給で資金力の増大と産業の拡大し、

 次々とマニラ・ガレオン船を購入し、インド大陸へ武器弾薬を供給する。

 タミルの港

 日本人たちが囲碁、将棋を楽しんでいるのをインド人たちが面白げに見つめる。

 元々、将棋の本家は、インドのチャトランガ(サイコロ将棋)と言われ、

 今では、日本の将棋だけではなく、

 シャンチー(中国象棋)、マークルック(タイ象棋)、チェス(西洋将棋)へと拡大していた。

 もっとも庶民に将棋が広がったのは家康以降だった。

 「ネロールでムガル軍とタミル軍30万同士がぶつかってるらしい」

 「大変な数だな」

 「お陰で、日本は儲けられてるらしいがね」

 「インドは、外国にお金を払っても内戦に勝ちたいのかね」

 「ムガルと南インドは外国同士だよ」

 「どちらにしろ、ムガルが勝つかもしれないと思うと思い切った投機はできないな」

 「南インドが勝つかもしれないだろう」

 「だと良いがね。有利に思えても勝敗は時の運だよ」

 「タミルは、幕府にインド大陸派遣軍を要請してるんじゃないのか?」

 「どうだかねぇ ガンジス川流域の中州に上陸しても、袋叩きにあうのは嫌だよ」

 「幕府も八島(舟山)を抱えてる、インドや大西洋で思いきった戦いは避けたいらしい」

 「同じ島国のイギリスは思いっきり戦ってるぞ」

 「近いからだろう。日本は主戦場から遠い」

 「ベンガル王国がムガル帝国から離脱するのなら別だけどね・・・」

 不意に歓声が上がる。

 「タミルがネロールで勝ったぞ!」

 そして、歓声はさらに広がって行く、

 「・・・へえ、やるじゃないか。タミル」

 「伝言ゲームだろう。本当に勝ったのか、まだわからないだろう」

 「あははは・・・それは言える。身内の伝令が来るまで待つべきだろうな」

 「勝ったとしたら大砲と鉄砲の数じゃないか」

 「そんなの象の突進と人海戦術に効果あるのかね」

 「勝つとわかっていれば、日本軍を派遣しても良かったと思うね」

 「そりゃまぁ そうだけどさ。ムガル帝国と南インドの国力比は10対1くらいだろう」

 「まだまだ、わからないんじゃないか」

 「南インドが負けると、インド洋と太平洋に築いた日本の足場が失われかねないな」

 「そうだよ。北アメリカに集中すれば良いのに」

 「それに南太平洋にも島があるだろう」

 「だよねぇ 無理して戦うより、未知の世界に飛び出す方が・・・」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 スペイン継承戦争が原因で世界大戦になってしまいました。

 史実では、暗殺で世界大戦になった例もありますし、

 フランス=スペイン同君連合が世界大戦を誘発させたのもありでしょうか、

 帆船時代の世界大戦は珍しいかもですが、無理をすればできるでしょう。

 

 ヒンズー(バラモン)教は、歴代、釈迦帝凰の弾圧で捻じ曲げられ、

 シク教に近い姿に変貌してるという事にしておいてください。

 

 

 すめらぎ領は、広そうです。

 ワシントン州(インディアン70部族)、

 オレゴン州(インディアン23部族)、

 アイダホ州(インディアン4部族)、

 カナダのブリティッシュコロンビア州、ユーコン州、アラスカ州まで入りそう。

 

 

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