月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空歴史 『釈迦帝凰』

 

 

 

 第05話 『享保の超改革』

 1717年

 スペイン継承戦争は、インドと日本を巻き込み、

 欧州(フランス、スペイン)、南インド(タミル王国、マラヤラム王国)。日本。

           VS

    欧州(イギリス、オランダ、神聖ローマ帝国)。北インド(ムガル帝国)。

 の大陸と大洋をまたがる史上初の世界大戦を誘発。

 戦争は、1701年から1712年にまで及び、

 フランス・スペインの優勢勝ちでスペイン継承戦争は終結する。

 しかし、欧州が戦後を迎えても、

 インド大陸でムガル帝国と南インドの戦いが継続し、

 清国も鄭和級大型ジャンク・ガレオン船を建造し、

 日本と清国は、緊張関係を高めていた。

 二つの三大洋三大陸同盟の確立は、火種を抱えたたまま燻ぶりつつ

 黒人奴隷、茶、コーヒー、タバコ、キャラコ、鉄の国際交易を軌道に乗せ、

 世界の認識を一変させてしまう。

 国際情勢において、もう一つ注目されていたのは、大北方戦争であり、

 スウェーデン VS モスクワ大公国、デンマーク、神聖ローマ帝国の戦いだった。

 こちらは、主力軍を失ったスウェーデンの敗勢が確実であり、

 周辺諸国の思惑を巻き込んでいたものの、

 欧州最強国家のフランスがルイ14世の死去で静観することが決まると、

 焦点は、勢力図の曖昧な北アメリカ大陸へと移っていった。

 イギリスの北アメリカ植民地は、独立農民の移民が多く、

 自主独立の気概が生まれつつあった。

 北アメリカ大陸

 ヌーベルフランスは、北はセントローレンス川から南のミシシッピー川を押さえ、

 イギリス植民地をアパラチア山脈の東側に押しやっていた。

 もっともフランスとイギリスの移民人口比は、1対10であり、

 圧倒的にイギリスが優勢だった。

 ヌエバ・エスパーニャは、メキシコシティを植民地首都とし、

 その勢力を北に伸ばし、日本領すめらぎ領とフランス植民地と接していた。

 スペイン人は、性格的な資質なのか、

 積極的にインディオと混血を繰り返し、無計画に勢力を広げていた。

 

 北アメリカ大陸 日本領すめらぎ

 日本は、スペイン、イギリス、フランスに遅れて新大陸北アメリカ大陸に取り付いていた。

 日本人入植者とインディアンとの協調路線は、勢力比が引っくり返るまで続けられ、

 その後も惰性のまま、続いていた。

 日本人の持つ大砲、銃、日本刀は圧倒的で、

 タタラ衆の移民と、

 ヌートカ島(バンクーバー)で採掘された石炭で、

 鉄製品の自給も可能になっていた。

 すめらぎ領最大の特徴は、インディアンが多く、日本人も広大な土地へと散ってしまい、

 封建社会が成り立ちにくいことにあった。

 すめらぎ所司代は、水利の調整で権威を保っていたものの、

 我田引水とはよく言ったモノで、農民たちの争い事は、水利に集約され、

 多くの場合、土地所有制限の確認と、土地の安堵を追認し、

 水利権を調整するくらいだった。

 つまるところ、川から300尺(約90m)は、所有できないとし、共有地としてしまう。

 90メートル以上も水路を掘らなければならない農民たちは、喚くものの、

 河川域の一時使用は、所有制限外で10年だけ認められるようになり、

 農民同士の諍いは収まる。

 「どいつもこいつも水利と肥えた土地を狙いやがって」

 「とにかく、嫌がらせで水利を止めやがるやつは、叩き出すしかないな」

 「インディアンは、こちらの提案を受けたんだろうか」

 「稲作で食べていける広さと人間の数を説明したが、どうにも要領得ないな」

 「また、精霊か・・・」

 「俺たちが知らない感覚能力があるんじゃないか」

 「まぁ 綺麗な土地だから、わかる気がするがね」

 

 

 ヌートカ島

 4頭立ての馬車に乗った探索隊が、すめらぎ城に帰還する。

 すめらぎ所司代

 副将軍と重臣たちの中央に地図が置かれ、

 新しい情報が描き込まれていく、

 「川に沿って東に向かう街道を押さえれば、フランス領に行けるわけか」

 「はい、対フランス防衛は、その街道を押さえることで成功すると思われます」

 「最悪でも “すめらぎ川” の源泉までは押さえておきたいからな」

 「はい」

 「しかし、どんな広大な領土でも資源と人口が足りなければ防衛できそうにない」

 「フランスとは同盟関係にあるのでは?」

 「そんなもの、どうなるかわからんよ」

 「フランス、スペインにすめらぎの領土を主張するとして」

 「インディアンを野放しにすると将来禍根を残すのでは?」

 「事を荒立てるとインディアンと戦いになる」

 「日本人は入植したばかりで数が少なく、戦いたくはない」

 「それに欧米は牧畜が多いから土地は余計に必要だが」

 「日本は、農耕が多いから必要な土地は小さくて済むよ」

 「当然、衝突も少ない」

 「それに揉め事が増えると入植者が減りますから、ここは穏便に行くべきでしょう」

 「事勿れですか?」

 「こ、事勿れだっていいじゃないか」

 「しかし、このままだと、インディアンが強くなってしまうのでは」

 「インディアンは、誇り高い種族だが、それ故に学ぶことに消極的だ」

 「また、主従関係が土地を安堵する利害関係でなく、力関係になってる」

 「それでは、大規模な組織を作れない」

 「ですが “すめらぎ” も所領制限がありますし」

 「俸禄の割り振りもまだ小さく、大きな組織になり難いようですが」

 「所司代領で割り振れば良いだろう」

 「多少、不自由でも我々はまだ余所者なのだ」

 日本人街の市場で鍋、釜、包丁が売られ、

 インディアンたちが肉、作物を運び込んでくる。

 漁業の能力と鉄製品は、日本人の入植を助け、

 インディアンの生活も豊かにしていった。

 日本人街の規模は、徐々に広がり、文化交流も増えて行く。

 剣術と柔術がインディアンにも伝わり、日本文化の拡大が進んでいく、

 日赤調和時代とも言われ、僅かに混血もすすんでいく、

 

 

 

 インダス川が乾燥した大地を縫うように流れ、

 蒼い天空が地平線に向かって広がり目線の高さで大地と合わさっていた。

 陽が沈み陽が昇り、大陸特有のゆったりとした時が流れ、

 人々は、一日5度、決められ時間に集まりメッカのカアバ神殿に向かって頭を垂れる。

 イスラム教は、方位と時で人を習慣付けて支配し、全世界へ拡大していた。

 ムガル帝国首都ラホールは、インドに近いパキスタン側にあった。

 北西はアフガニスタン山岳が連なり、

 北東はカシミール山岳が連なる。

 インダスの支流ラーヴィー川に近い高台、

 白大理石のラホール城が城壁(426m×339m)によって守られていた。

 シャーラマール庭園は、滝が作られ、

 500もの噴水が飛沫を上げ、

 水路と樹木と草花が、いくつものモスクを飾り立てていた。

 歴代インド王朝は、いずれも覇を競い、王国群を統合すると釈迦帝凰を名乗った。

 そして、世界的な宗教が国家に根付いても世俗的な権力闘争は行われ、

 古今東西、地域、民族、宗教、文化に関わりなく、起こるべきことは起こる。

 ムガル帝国末期、釈迦帝凰の権威は地に落ち、

 ムガル帝国第9代釈迦帝凰ファッルフシヤルは、外戚サイイド家の傀儡にされていた。

 帝国の権力構造が名と実の二重構造となると、

 帝国官吏の処世術は複雑になり、

 七王国は崩壊の危機に立たされていく、

 権謀術数と生き残りに懸命になると意識は、ラホール城と己が所領に向けられてしまう。

 将軍たちは敵に殺されるより味方に殺される事を恐れ、

 ムガル帝国の南インド侵攻は減り、戦いは自然消滅し、戦線に静寂が訪れた。

 この時期、北インドのムガル帝国はムスリム(イスラム)教が強くなり、

 南インドのタミル、マラヤラム王国は、ヒンズー教が強くなった。

 この状況が、もう少し強く、長く続くなら南北で宗教分離が行われたかもしれない。

 しかし、ムガル帝国は機能不全に陥っていた。

 ムガル帝国七王国のひとつベンガル王国(1870万)は、神聖ローマ帝国に準ずる国力を有し、

 ヒンディー王国(5100万)に次ぐ勢力を誇り、帝国の要となっていた。

 そして、ベンガル王国の帝国離脱は帝国の崩壊に繋がる。

 ベンガル王国首都コルカタ

 ベンガル人が徳川幕府の代理人と非公式に交渉していた。

 「清国がチベット遠征に行くそうですな」

 「ええ、清国皇帝直々に」

 「日本は、余裕ができたのでは?」

 「そうですな。しかし、清国は大国ですので・・・」

 「ベンガル王国は、ムガル帝国の支配から抜け出たいと考えているのですがね」

 「実に興味深い話しですが、日本国内は強い自治を持った諸藩が多く」

 「徳川幕府は、4分の1の勢力でしかないわけです」

 「つまり、軍事的な対外遠征は困難と?」

 「ええ、まぁ 余程のうまみがない限りは・・・」

 「・・・こういったモノは、どうでしょう」

 ベンガル人は、そういうと、懐から出した袋を引っ繰り返し、

 小粒の宝石で山を作った。

 「「「・・・・・」」」

 幕府が金銀流出を制限したのは、国内で流通させる貨幣が不足し、

 金融的な危機に陥るのを防ぐためで、逆に金銀に変わる資本があるのなら・・・

 

 

 

 清国の鄭和級大型ジャンク・ガレオン船80隻は、東アジアの軍事バランスを狂わせ、

 世界最大の清国海軍の増強は、江戸幕府の権威を失墜させかねない脅威として映る、

 国内流通貨幣の金貨4分の1、銀貨4分の3が国際交易関連に消費され、

 幕府は、政治・経済・軍事とも追い詰められ、諸藩も騒ぎ始めていた。

 江戸

 神社(神道)、道観(道教)、聖堂(儒教)と並ぶ、

 第4勢力キリスト教教会と第5勢力ヒンズー教寺院が建設されていた。

 こういった建物は、二つの精神帝国を物理的に守る根拠地であり、

 世俗から目に見えない魂の救済を大地にもたらす砦でもあった。

 建造物の建設が進むにつれ、日本人信者も少しずつ増えていた。

 信者数は、幕府が考えていたより多く、警戒するより少なかった。

 幕府は、目に見えないモノから身を守る鳥居建設負担に堪えられず、

 そう “鳥居を世俗にまで伸ばしていく必要はない” という、

 彼らの教義を利用する。

 

 

 八島(舟山)諸島は、清国の巨大ジャンク・ガレオン艦隊に囲まれ生きた心地がせず。

 徳川幕府が清国艦隊に対抗しようとするなら諸藩を廃し、徳川絶対王制を敷くか。

 諸藩と妥協した合議制による国政を執り、関所を廃し、日本規格を定め、

 統合軍を編成するよりなかった。

 しかし、近代化は口で言うほど容易ではない。

 戦国時代から培われた封建社会は、人脈以外のコネが存在せず。

 不公平で差別的な絆で縛られていた。

 その忠誠は、特権的な贔屓を認める主家にのみ向けられ、

 人情の通わない正体不明で杓子定規な国家に向けられるものではなかった。

 何より統廃合が強行されると地位の削減に繋がってしまう。

 そして、国体の形成は、客観的な法の体系化と強化に繋がり、

 守るべき主家を否定し、自らを本家とする分家の離反を足し、

 主従秩序社会の崩壊を招く恐れもあった。

 しかし、蝦夷、樺太の商藩は、徐々に力を付け、

 旧幕藩体制では日本国を治められなくなろうとしていた。

 そう、吉宗による享保の改革が始まろうとしていた。

 板敷きの広間にロココ様式のテーブルが置かれ、

 フランス料理、スペイン料理、タミル料理が並べられた。

 フォーク、ナイフ、スプーンが使われ・・・

 「無礼講としよう。検分してきた事柄で実直な意見が聞きたい」

 「フランス料理がおいしいですな」

 「タミルのカレーも庶民的でいいのでは?」

 「・・・日本人好みかもしれないな」

 「しかし、今日は、久しぶりに暖かい食事だ」

 「将軍は残りモノでしたからね」

 「ったく、何で将軍が残りモノを食べねばならんのだ」

 「毒殺されると困るからでしょう。わたしたちが・・・」

 「おい・・・」

 「「「「・・・」」」」

 「しかも、一口で皿を交換だぞ、信じられん無駄だ」

 「作法ですから」

 「むかしのように、熱いうどんが食べたいものだな」

 「口にするまでに、乾燥してしまうか、伸びてしまいますよ」

 「ったくぅ」

 「「「・・・・」」」

 「それは、そうと、清国艦隊の報告を聞きたい。増強されているのだろう」

 「見てまいりました。鈍い船ですが、大きい船でしたな」

 「日本全体を挙国一致できなければ清国海軍の脅威に対抗できないのではないか?」

 「幕府が諸藩領地領民の統治権を奪うのが最善かと・・・」

 「幕藩体制で中央集権をやったら、全国から反乱を起こされるだろうよ」

 「では、逆に全国藩主を幕政に参画させると反発が小さく、よいかと・・・」

 「前者は内戦になるし、後者は我々が追放されてしまう」

 「絶対王制が出来ないのでしたら、フランスの三部会は悪くないのでは?」

 「日本だと藩主と神主と平民になるのか」

 「領民主権など考えたくもないですな」

 「藩主だけか、商人、商藩を加えたものでいいだろう」

 「しかし、仮に藩主だけだとしてもだ」

 「票を石高で割り振ると徳川幕府は天領400万石。旗本の知行地300万石」

 「大名領は2250万石。天皇・公家10万石。寺社領40万石」

 「幕府の勢力は全体の2割5分しかない」

 「殿、石高は、米の量で人口を現わしているだけです」

 「そうだった。隠し田も1割を超えるだろうな」

 「伊達藩は、62万石というが、実質3倍超えの200万石でしたね」

 「あははは・・・」

 「それに蝦夷、樺太の商藩は、米が採れずとも莫大な利益を上げている」

 「ジャガイモ、トウモロコシ、小麦、てんさい。牧畜業、漁業を糧にした人口も増えている」

 「表高と実高は違うし、商品作物も大きい」

 「もう石高は日の本の実情を現わしていない」

 「是正できなければ幕府より強い藩が増え、倒幕になるぞ」

 「それに北アメリカ大陸の “すめらぎ領” は、遠過ぎて別の国だな」

 「どうしたものか・・・・」

 「三部会を構成するとしたら、商人も加えた方がすんなり幕政が進みそうだな」

 「卑しい商人なんぞ幕政に参画させられるものか」

 「しかし、卑しい商人に借金していることは確かだしの・・・」

 「「「「・・・・・・」」」」

 「儒教は、貨幣経済を削ぐし、実情に合わんところがあるからの」

 「それで・・・三部会による国政化は?」

 「我々が幕政の中心から追い出される可能性が高くなる・・・」

 「石高以外の目安は?」

 「佐渡金山は当てにならんし」

 「蝦夷、樺太の商藩は、商品作物で強大になりつつあるし」

 「年貢じゃなくて、全国から銭納で納めさせてはどうだ」

 「農家は、どうやって銭納するんだ?」

 「米を売って・・・・」

 「農民から金で米を買えってか、そんな金がどこにある!」

 「このまま座して清国に屈して朝貢するか」

 「中央集権戦争を始めるか」

 「幕政に諸藩を参画させるかだな・・・」

 「答えは決まっている」

 「しかし、徳川家が望まぬ答えでは、先延ばしするしかなかろう」

 「先延ばしして、状況が好転しますかな」

 「清国は、少数民族によって支配された国、外征なぞ出来るものか」

 「チベットに遠征したそうです」

 「鄭和級ジャンク・ガレオン船は、脅威だろうな」

 「全長は通常のガレオン船の2倍。幅は、4倍から5倍」

 「ムガル帝国海軍のダウ・ガレオンも強大だと思うたが、清国は非常識だな」

 「それだけ大きいと。沈めるのは難しいだろう」

 「上陸作戦用だよ」

 「清国の内政は、本当にズタズタなのかな」

 「ええ、そう聞いております」

 「良くそんな状況で大艦隊を建造できるものだ」

 「日の本が十何個分もある大陸だ。手抜きで造って、そんなものなのだろうな」

 「この際、挙国一致で、備えるべきでは?」

 「お前らの地位の半分を諸藩の人間が占めることになるんだぞ」

 「「「「・・・・・」」」」

 「将軍の地位でさえ、諸藩の思惑に引き摺られる」

 「「「「・・・・・」」」」

 「それに天皇家を祭り上げられたら徳川幕府は、引っくり返ってしまうからな」

 「「「「・・・・・」」」」

 

 

 

 蓬莱島

 豊臣大君は、日の本という枠組みの中にありながら徳川と対立し、独立していた。

 もっとも、諸藩も、その領地行政で幕府から独立していたのであり、

 違いがあるとするなら参勤交代に応じず、闇市場取引を除いて疎遠だった。

 とはいえ、小さな火山島の領主に過ぎず。

 水利が悪く、石高で評価するなら20万石で恐れるに値しない。

 しかし、大阪夏の陣のおり持ち出した財宝は、莫大であり、

 その後、蓬莱島の単一勢力である事をいいことに階級制を保たせつつ特権を薄れさせ、

 民間活力で清国との交易で利潤を増やし、身の丈を超える経済力となっていた。

 そして、その最大の功労者が農地として不適格にさせている火山灰だった。

 島全土を覆う火山灰と、

 日本から購入した石灰を混ぜたセメントが蓬莱島の一大産業になりつつあった。

 蓬莱城

 第7代蓬莱大君 豊臣利勝(43)

 「やはり、水がないと徳川に負けるの」

 「日本は清国、半島から購入しているので、価格が高騰してますので・・・」

 「どいつもこいつも利潤を上乗せしたがるから、生きにくい世の中になるな」

 「貯水池を増やさんことには・・・・」

 「貯水池か・・・」

 「セメントがあればなんとか・・・・」

 「確かにそうではあるが、水は流さねばならんだろう」

 「確かに・・・ですが産業を維持するには膨大な水を必要としますので・・・」

 「んん・・・」

 

 

 

 タミル王国(1870万)

 インド文明の源泉を辿れば、北インド北部パキスタン域のインダス文明に行きつく、

 しかし、後の諸王国と文明的な隔絶があった。

 インド文明をバラモン教からヒンズー教に至る継承で辿るなら、

 北インドは中東発祥のイスラム教影響下で、

 南インドが原インド文明を継承していると言えなくもない。

 特にタミルは、半島と同時に島国でもあり、

 神話ラーマーヤナの発祥でもあった。

 いずれにせよ、

 文明圏における大陸と島の関係は、ある種、太陽と月であり、

 欧州大陸でイギリスが果たし、

 アジア大陸において日本が果たした。

 そして、インド大陸では、タミル王国が中途半端ながら役割を果たしていた。

 中途半端というのは、島国が大陸に与える影響力の強さであり、

 セイロン島の大きさは、6万5610kuで、

 日本の37万7914kuより小さく、

 イギリスの21万9850ku + 8万4412ku より影響力が小さかった。

 そして、タミル王国は、大陸と島の両方にまたがる中途半端な国家であり、

 王国形成で血塗られた民族殲滅戦も暗い影を落としていた。

 もっとも民族殲滅戦を経験した人間は、この時代におらず、歴史の闇に埋没していた。

 とはいえ、タミル王国は、大陸と島国の両方の気質を持つ特異な文明を誇っていた。

 欧州の大航海に誘発されたタミル船は、インド洋へと船出し、

 インド洋から大西洋と東アジアまで足を伸ばしていた。

 もっともいくら足のをばしてもタミル言語圏は1870万であり、

 その版図は、インド大陸のベンガル湾の南端とセイロン島に至り、

 人口が増えない限り、実質な版図とは言えない地域が海外に広がっていた。

 その一つ、南アフリカがあった。

 タミル・マラヤラム連合艦隊は、イギリス、オランダ連合艦隊に敗北しつつも、

 入植人口でイギリスとオランダを圧倒し、

 タミルとマラヤラムは、イギリスとオランダ勢を南アフリカから追い散らすと、

 日本、フランス、スペインと結束、

 反イギリス、反オランダ、反ムガル帝国で、南アフリカ権益を守ってしまう。

 もっとも、タミル人とマラヤラム人は、自前の奴隷がいるのか、

 日本人と似ているのか、

 入植後は、軍事支配より、取引重視に移行していく、

 南アフリカ大陸 (ケープタウン) タミル王国シータ城 

 南アフリカ会社創立

 株式配当比は、フランス(2)、スペイン(1)。タミル(4)、マラヤラム(2)。日本(1)。

 共同出資した会社は南アフリカの開発を始める。

 株の配当に比例したダイヤと金が各国の利権者に振り込まれると、

 権力者たちは色めき立たせた。

 株の増資は、急速に進み、

 4ヵ国の南アフリカ出資は増大した。

 南アフリカ所司代。

 「所司代! いけません!」

 「我が日の本は、交易によって国内産業を育てて来たのです」

 「それを本国に、そのように国外に金を投資させるような要求を・・・」

 「国内の人材を育てるべきではありませんか」

 「ええい、黙っておれ! このダイヤと金を見て、黙っていられるか!」

 「日本の領民を育成し、領民を金、ダイヤに変えるべきです」

 「や、やかましい、投資すれば、もっと大きな利益が出るのだ」

 「ほどほどにしてください」

 「俺ばっかりが悪いわけではなかろう」

 「本国では、農民から米を取り上げて、大阪に送って大枚に換えてるではないか」

 「し、しかし・・・」

 「どうせ、農民を餓死させたところで、また生まれてくるわ」

 「また、そのような事を・・・」

 「ええい、領民なんぞ、少しくらい追い詰めて痩せさせていた方が自助能力を発揮できて良いのだ」

 「ほかの国は増資を決めている。割り当て通り増額せねば舐められてしまうわ」

 「ですが・・」

 「それに一時のことだけだ、一時のこと」

 「それからでも日本人の育成は遅くあるまい・・・」

 所司代は、おもむろに小判を家臣の袖の下に入れる。

 「し、所司代・・・」

 「よいな」

 「・・・・」

 

 

 北アメリカ大陸

 イギリス領ニュー・イングランド ニューヨーク港

 イギリスのガレオン船が十数隻並んでいた。

 イギリスは、スペイン継承戦争で敗北したオランダと同君連合を結び、

 北アメリカ入植に生き残りをかけようとしていた。

 イギリス人の北アメリカ東海岸入植人口は、220万人に達し、

 黒人50万を奴隷として使っていた。

 それは、フランスの北米植民地の移民の20倍に達し、

 人口密度の低いフランス領とスペイン領を圧迫していく、

 イギリス海軍将校たち、

 「北米は、南米と違って、金は採れないし、いいことねぇな」

 「だけど、貴族は少ないし、農民たちは自分の土地でやっていける」

 「黒人を扱き使えば俺たちが貴族様だよ」

 「インディアンが、もう少し聞きわけが良ければいいのにな」

 「精霊だとか、分けわからんし。無知なくせにプライドだけは高いぜ」

 「しかし、カタツムリ野郎。インディアンと組みやがって」

 「なぁに数ではイギリス人が勝っている」

 「準備が整えれば押し切れるだろう」

 「メキシコとフロリダのスペイン領も怖いが?」

 「そっちだって、広さの割に数は人口密度が小さい、産業は大きくできないだろう」

 「それに混血が多くて実情は戦争に堪えられないはずだ」

 「日本人の入植は、多いと聞いたぞ」

 「大陸の反対側だよ。こっちに来てる連中はあぶれ者だな」

 「しかし、フランスとスペインはアジア人と組むとは、欧州の裏切り者が」

 「いま、神聖ローマ帝国とスウェーデンを和解させて、対フランス・スペイン同盟を画策中だ」

 「そういえば、フランスは、ルイ14世が亡くなって、いま、落ち目だろう」

 「どうかな・・・」

 入港したばかりのガレオン船から伝令がやってくる

 「おーぃ スウェーデンのカール12世がノルウェーで戦死したぞ」

 「「「・・・・」」」

 イギリスが対フランス・スペイン連合で頼りになる同盟国の一つを失った瞬間だった。

 

 

 江戸湾

 清国海軍の巨大ジャンク・ガレオン船10隻が入港する。

 全長は、日本のガレオン船のほぼ倍。

 日本の船体幅の狭い快速輸送型ガレオン船と対照的であり、

 浮かべる要塞のように江戸湾に停泊していた。

 タミルとフランス、スペインの商業帆船も停泊しており、

 江戸湾全域は、騒然とした空気に包まれる。

 清国側曰く、タダの外交訪問ということなのだが、

 その規模は、圧倒的で、

 舷側に並ぶ大砲は・・・

 「艦首2門、艦尾2門に42ポンド砲」

 「両舷側に32ポンド砲120門だ」

 「大きさの割には少ないようです」

 「欧州は、合理的に小口径の上段、中口径の中段、大口径の下段で同数だ」

 「日本のガレオン船に至っては、中口径28ポンドで60門でもっと不利だ」

 「洗濯物が干してあるな」

 「まぁ 当然だろう」

 「しかし、大砲に洗濯物を掛けたら駄目だろう」

 「んん・・・単純な比較で計算すべきではないとはいえ」

 「沈み難さで、清国艦隊が上だな」

 「文字通り世界最強ですか」

 「何で、寄りにもよって、そんな大国が東シナ海の向こうにあるかな」

 「問題は、清国が要求する朝貢外交に幕府が応じるか、ですかね」

 「あんな大型ジャンク・ガレオン船を見せられちゃな」

 「しかし、清国軍の主力軍を日本に上陸し、日本の占領に手間取ったら・・・」

 「清国で漢民族の反乱が起きるだろうな」

 「なるほど」

 「つまり、上陸させて手間取らせたら、何とかなる?」

 「上陸してくるのが満州族でなく、漢民族の可能性もあるがね」

 「占領出来たら漢民族にやるって?」

 「それくらい言うだろう。それで漢民族が減れば清国の寿命は延びる」

 「か〜! そりゃ まずい〜」

 「チベット遠征もそれなんじゃないかな」

 「なるほど」

 「じゃ日本上陸の方が漢民族が戻って来れなくていいわけか」

 「そういうことだな」

 「やれやれ」

 「宿舎は?」

 「旅館は大儲けのようだ」

 「そういうことなら、時折、来て欲しいね」

 日本橋に瓦版が流れ始めていた。

 “太平の眠りを覚ます烏龍茶。たった10杯で夜も眠れず”

 

 この状況は早馬で日本全国へと伝えられ、

 諸藩をも慌てさせる。

 幕府の対応いかんでは、倒幕の可能性も出てきた。

 江戸城

 「1隻500人で10隻だと5000人だそうだ」

 「他に50隻あるのだろう」

 「単純計算だと、60隻の乗員だけで30000人か、とんでもない数だな」

 「上陸部隊は乗っていないだろうな」

 「陸戦隊は搭乗しているようですが、日本に上陸できる規模ではないそうです」

 「しかし、派手な外交だな」

 「日本に朝貢させてアジアの盟主を勝ち取りたいのでしょう」

 「アジア完全制覇というわけか」

 「戦いになれば、フランス、タミルは、日本側についてくれるのだろうな?」

 「どうでしょう・・・結局、南インド側についてムガルに参戦しませんでしたし」

 「武器弾薬は、送ったのだ。参戦と変わるまい」

 「それなら武器弾薬くらいは、購入できるかもしれません」

 「どうしたものか・・・・」

 「この状態で幕府による中央集権は無理かと・・・」

 「わ、わかっておるわ!」

 「で、では・・・」

 「仕方がない」

 

 

 刀鍛冶

 ダマスカスの剣が作られていた。

 硬柔の鉄材が年輪のように打ち叩かれ、日本刀の形へと整えられていく、

 形は、日本刀でも中身はダマスカスの剣に限りなく近いものだった。

 刀身全体に波紋が広がり、独特な美しさを見せた。

 武士たちも刀剣が錆びないと目の色が変わる。

 そう、父子一子相伝のウーツ鋼は、インド全域で廃れ始め、

 そのウーツ鋼によって作られていたダマスカスの剣も失われつつあった。

 日本刀も一子相伝めいていたものの、

 価格競争が激しく、数を作るため労力を必要とし、

 外戚、弟子へも技術が相伝され、

 競争原理が働く事で質と量の両面で発展してきたのだった。

 日本人はインド・中東から製法を掻き集め、

 ダマスカスの剣の製造を辛うじて復興させていた。

 しかし・・・・

 非主流派系の武士たち

 「せっかくの名刀を銃剣に使うなんて」 どんより

 「罰当たりだよな」

 「切っ先が喉元に来るまでに3発は撃てる。銃の方が良いだろう」

 「だけど欧州とインドじゃ狙って撃つというより、弾幕で防ぐ感じだったよ」

 「日本でも長篠の戦の頃から三段構えで、そういう傾向があっただろう」

 「個人戦じゃないんだから狙いなんていい加減なものだ」

 「武家諸法度がそういう武士の規範めいた方向になってるだろう」

 「金銀流出で一時は鎖国って話しもあったからな」

 「でもキリスト教とヒンズー教の導入でお流れになったし」

 「キリスト教に日本が支配されるって騒いでいた奴がいたけど」

 「あり得んね。日本人は都合のいいように改ざんしてしまうし」

 「プロテスタント系だし、目に見えないモノで安心したいだけなんだろう」

 「悪いことをすると地獄に行きます、か」

 「あははは・・・」

 「だけど日本刀より、優れた刀剣があったとはな」

 「キレ味で長短あるけど、錆びないのが大きいな」

 「だけど、まだ、硬と柔が安定していないような気がするな」

 「慣れだよ。慣れ、技術を自分のモノにしてしまうまで年月がかかるだけだ」

 「問題は、年寄りが変化を恐れるか、だね」

 「ふっ 徳川はどうするつもりかな」

 「日本幕府が創設されたら、実質32万で兵団を編成できるからな」

 「いや、銃と大砲を増やすともっと目減りしそうだな28万くらいだろうな」

 「それでも日本全体の守りは容易になる」

 「だが徳川は幕政の4分の1の権限にまで落ちる」

 「いまなら最大勢力で国を押さえられるが、不正も無理も利かなくなるな」

 「もし、徳川幕府が清国の朝貢に応じるようなら・・・」

 「ふっ そうだな。その時は、徳川幕府の権威は失墜か・・・」 にやり

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 釈迦帝凰によって捻じ曲げられたインド大陸は、紆余曲折の歴史を経て、

 9言語、9王国の寡頭大勢へと移行、

 宗教も北のイスラム教、南のヒンズー教に分離されていきそうです。

 9ヵ国は、欧州大陸と並ぶ、寡頭国家群として、世界に覇を唱えられるかもです。

 同じ縮小ですが印欧は、面積でほぼ拮抗でしょうか、

 人口比は、インド3 VS 欧州1

 経済もインド2 VS 欧州1というところです。

 単体の国家で清国が一位でも、

 インド圏、中国圏、欧州圏で見た場合、インド圏は世界一でしょうか。

 日本を含めた東アジア圏でようやく、天秤が東アジアという感じです。

 白人至上主義が作れない釈迦帝凰世界が誕生です。

 

 

 上位20藩を石高に応じて幕政に参画できるようにすると・・・

 幕府と上位藩主による共和制型でしょうか。

        石高
00 幕府   徳川 400万0000石 700
01 外様 加賀藩 前田 120万0000石 120
02 外様 薩摩藩 島津 72万8000石 72
03 外様 仙台藩 伊達 62万0000石 62
04 三家 尾張藩 徳川 61万9500石 61
05 三家 紀伊藩 徳川 55万5000石 55
06 外様 肥後藩 細川 54万0000石 54
07 外様 福岡藩 黒田 47万3000石 47
08 外様 安芸藩 浅野 42万6000石 42
09 外様 長門藩 毛利 36万0000石 36
10 外様 佐賀藩 鍋島 35万7000石 35
11 三家 水戸藩 徳川 35万0000石 35
12 外様 津藩 藤堂 32万3900石 32
13 親藩 福井藩 結城 32万0000石 32
14 外様 鳥取藩 池田 32万0000石 32
15 外様 岡山藩 池田 31万5000石 31
16 親藩 会津藩 保科 28万0000石 28
17 外様 徳島藩 蜂須賀 25万7000石 25
18 外様 高知藩 山内 24万0000石 24
19 譜代 彦根藩 井伊 23万0000石 23
20 外様 久留米藩 有馬 21万0000石 21
          1532

 幕府は、明治政府並みに全国から税を集めることに成功するでしょうか。

 下手をすると野党藩主系が領民を味方に付け

 民権重視を進めて、封建社会と身分制度が崩れ、

 がくがく、ぶるぶる、一気に民主化へと天秤が向かうかもです。

 

 

 

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第04話 『新世界秩序』

第05話 『享保の超改革』

第06話 『ブルボン王朝の新撰組』