架空歴史 『釈迦帝凰』
第06話 『ブルボン王朝の新撰組』
フランスは、対英、対蘭、対神聖ローマ帝国との戦いに勝利し、
欧州最強の国家となっていた。
強大な中央集権と戦争権益が生みだした勝利であり、
その利益は、権力者層に転がり込んだ。
ルイ14世没後、
フランスの権力構造は、王位継承権の直系たるルイ15世(1715年(5歳)〜)と、
王位継承権を持つ摂政オルレアン公とスペイン王(フェリペ5世)が争い、
王権は、貴族、議会、パリ高等法院の勢力抗争で大きく揺れていた。
何はともあれ、絶対君主制(アンシャン・レジーム)は続き、
ブルボン王朝の栄誉栄華は悠久なものと思われた。
しかし、歳入1.5億リーブルに対し、国債残高30億リーブルという浪費振りで、
国民の総意なくして、財政再建は見込めそうになかった。
その国民は三つの身分に分けられており、
第一身分 聖職者14万人、
第二身分 貴族40万人、
第三身分 平民2600万人。
第一身分と第二身分は、生活保障の免税特権が認められ、
老後も安心な年金支給が認められていた。
それらは全て、赤字財政によってもたらされたもので、
莫大な赤字を抱えた国家財政は破綻していた。
重税がフランス国民に重く圧し掛かり、
フランス国民は、憎しみの対象を権力者へと向けていた。
スペイン継承戦争で敗北したイギリス人とオランダ人の謀略が城下で不穏な動きをみせ、
フランス社会に暗い影を落としていた。
パリ郊外
社会不安とは余所に、日本人労働者は増え、
上下水道の建設が少しずつ進むにつれ、糞尿が窓から投げ落とされる光景が消え、
パリから糞尿が一掃されていく、
フランス人は、パリに日本人が居ることと、その性格に慣れ、
日本人と働く事も少なくなくなっていた。
保守的な日本人は、事勿れに王党派に付き、
王党派も日本人を信頼すると、言語の理解力に比例して道が開き、
職業選択の自由が増えていく、
この頃の国際外交戦略のトレンドは、遠交近攻策なのか、
日本人だけでなく、タミル人とマラヤラム人も増えていた。
そして、在留民は、ブルボン王朝の忠誠の証しとして衛士隊が組織され、
王族直属の部隊となって行く、
衛士隊の装備は、軽装の銃剣士であり、剣と短銃を所持していた。
日本人は、衛士隊(Un corps de l'escorte militaire)が煩わしいのか、
自らを “新撰組” と呼び、
薄青のダンダラ羽織をまとって隊列を組み、フランス人の注目を浴びていた。
その保持する日本刀は、西洋サーベルを折ると囁かれ、
見掛けだけ、刀に見せた西洋サーベルが現れたり、
逆に西洋サーベルに見せかけた作りが日本刀も現れたりした。
もっとも、この頃、最強の武器は銃で、
刀剣類は、主役の座から追い落とされていた。
フランス郊外のどこかの城
部屋からフランス人たちが出て行く、
そして、失望したイギリス人たちが残った。
「ちっ せっかくお膳立てしたというのにバカたれが」
「自己陶酔の酔えるやつは、幸せかもしれんな」
「女に触りたくないとか、相変わらず屈折した人種だ」
「いい顔してるのに男色とはね・・・」
「貴族女を誑し込めそうなのに残念です」
「それはそうと、フランス社会は?」
「貧富の格差は広がり、鬱憤が溜まってる」
「フランス貴族の浪費癖は助かるな」
「カタツムリ野郎。戦争に勝ったくらいで、でかい顔をしていられるのも今のうちだ」
「やはり、オルレアン公をけしかけ、内戦を誘発するので?」
「フランス王家と貴族は、継承戦争に戦争に勝って贅沢三昧だ」
「権力側が贅沢するほど高額商品が増えて物価は高くなる」
「同時に貴族は、高額商品を得るため、領民搾取を大きくしていくだろう」
「重税と引き抜かれた社会資本で民衆は生きていけなくなる」
「ブルボン王朝は、自らの見栄によって民衆から憎まれ人心を失う」
「我々がサービスをフランス貴族に提供するほど、流通している資本を吸い上げ」
「貴族による領民の搾取は大きくなるから面白い事になるかもしれないな」
「というと?」
「イギリスの労力と商品の提供で、欧州最強のフランスは自壊するだろう」
「もっとも、それを大規模にやっているのは日本就労者だがな」
「バカにされていた糞尿清掃業者が、いまでは、貴族並みの資本家ですからね」
「いまでは市民権を得て、日本人の衛士隊まで組織されつつあるそうです」
「糞尿塗れのパリが綺麗になるとはな」
「日本人雇用で産業が広がっているので、ブルボン王朝が延命するかも知れません」
「まず、日仏離反と、貴族の贅沢病を大きくすることが先決だ」
「イエスマイロード」
セーヌ川をマスト二つの帆走カッターが遡りパリに着岸した。
日本人とタミル人がパリの地に足を降ろした。
「参った参った方言が酷くてよくわからんよ」
「地方に行くと外国語かと思うよ・・・」
「また浮浪者が増えたな」
「また税金が上がったんだろう」
「またか、旨みが減っちまうな」
「仕事が減って貧民層が増えてると、売れないから高くなるわけか」
「相変わらずだな」
「まぁ どこの国でも庶民は生かさず殺さずで悲惨だよ」
「しかし、民衆は社会資本を奪われている」
「もう、犯罪を起こさないと、どうにもならないだろうな」
「商人は、貴族に高額商品を売る方が金になると味を占めてるし」
「生活水準を上げるため商品価格を上げようとするばかり」
「だけど、フランスは、食料が豊富で肉も美味いし安い」
「まだ、余裕ありそうだけど」
「バンカトラ。俺たちは、仕事さえ選ばなければ、生きて行くのは楽だ」
「だけど、フランス人は、見栄えを気にするからね」
「日本は、肉は?」
「肉を食べるだけの土地がなくてね」
「最近は、牧畜も増えたみたいだけど、田畑と魚で人口を支えてるよ」
「俺たちは牛が駄目だからな」
「ヒンズーはそうだっけ」
「そう、ヒンズーは牛が駄目で、イスラムは豚が駄目」
「日本は、肉が少ないだけで、肉を食べたくないわけじゃないからな」
「日本でヒンズー教が弱いのは肉が食えないことだな」
「高い精神性は重視しないのか?」
「長いモノに巻かれて、事勿れて、処世術に反しない限り重視するよ」
「相変わらずの権威主義と年功序列か、日本人は小心だな」
「島の中で封建社会に閉じ込められていたらそうなるだろう」
「それで、ようやく、日本は世界に出たわけか」
「インドも欧州より世界に出るのが遅れただろう」
「言語統合の内輪争いで虐殺が続いたからな」
「釈迦帝凰以降、インドは血塗られた歴史だよ」
「9言語、9王国で安定したのは、それほど古いことじゃない」
「じゃ 誰かが釈迦帝凰を名乗るたびに少数言語民族を?」
「そういうこと。道は、混血か、死ぬかだろう」
「最後のタミル・シンハラ統合は、惨劇だったらしい」
「・・・・」
「強制された混血は死ぬより辛いから、普通は殺し合いだよな」
「おいおい」
「いや本当に、5分の1は混血で、俺はそっちだった」
「そういう夫婦は、憎み合って悲惨だったらしい」
「海外に出るのも、そういう過去から逃げる気持ちが強いからだな」
「酷い話しだな」
「インド大陸は、もう少し、異質な言語に寛容だったらよかったんだがな」
「ふっ」
「ところで、サイトウは、新撰組に入るのか?」
「ああ、ブルボン王朝は、国民から身を守るのに同盟国の傭兵を使いたいらしい」
「しかし、国民が自国の王様を守らないと駄目だろう・・・」
路地裏を怪しげな男たちが駆け抜けていく、
「ふっ フランス国民は、そんな気分じゃないらしいな」
「いいのか?」
「まだ新撰組じゃないし、怪我しても補償はないだろう」
「おれもヴィシュヌ隊に入ろうかな」
「これだけ不穏な動きなら、出世できるかも」
「ヴィシュヌは、インドの神だっけ?」
「世界を維持する神だ」
「たいそうな名前だな」
「フランス風の発音だろ」
「まぁな、だけどブルボンの語源はケルト語の “泥” だぜ」
「それで食べていけるなら泥でも維持する価値があるよ」
日本の朱印船がジブラルタル海峡を越えて地中海に入って行く、
1500トン級 ガレオン船 衣笠丸
両舷に60門の大砲が並べられ、取引用の積み荷を満載していた。
船の採算効率は、安く建造し、少ない員数で運用し、
積み荷を可能な限り載せて、速く移動させることで利潤を増やした。
なので武装ガリオン船は、有益と言い難く、著しく採算効率を低下させる。
とはいえ、隙あらば海賊がこの時代の海であり、
海賊は勇気と強さの象徴であり、幸運に魅入られた職業として人気があった。
もっとも、海賊業が自国の海運業を危険なものにさせ、
交易品を高騰させていたことも事実であり、
海軍に自国の海の海賊を掃討させる方向に向かいやすく、
海賊業にも陰りが見え始めていた。
衣笠丸、
船を国家の延長とするなら、いかなる領海にあったとしても、
その甲板は日本領土で、乗組員は日本を代表していた。
「喜望峰回りか、スエズに運河を掘りたくなるな」
「スペインとフランスがそう思ってくれたらな」
「スペインとフランスは、地中海の西側を支配して、その勢力は南イタリアに達している」
「オスマントルコにだって負けんよ」
「だが東地中海を支配しているのは、オスマントルコ帝国だ」
「栄光のベネチアは、どうかな」
「内陸に人材と金を取られて海洋国家として衰退している」
「それでも一時は地中海の女王と言われた国、直接取引できたら金になるだろう」
「まぁ ちょっとは期待できそうだけどね」
「地中海世界の内情と、フランス、スペインへの影響力を知りたいのが実情だな」
「それとルーマニア産の灯油を手に入れるいい機会になるだろう」
「役に立つのか?」
「さあ・・・」
「イギリスが、フランスとスペインをオスマントルコにけしかけさせているのは本当か?」
「フランスとスペインの艦隊を地中海に集中させて」
「イギリスは、大西洋で有利になろうとしているのだろう」
「地中海は、ガレオン船より、ジーベック船が効率が良いからね」
「じゃ 大西洋の日本領が危ないな」
「その辺は微妙だな」
「日本、タミル、フランスでオスマントルコを落とせたら、大西洋の拠点を失ってもお釣りがくる」
「清国が指を銜えて見ているならな」
「それが最大の問題だよ」
「清国の鄭和級ジャンクガレオン船は常軌を逸してる」
「いくら国力が有り余ってるからって、ためらいとか、つつしみがあるだろう」
「漢民族には無縁の単語だな」
スペイン
スペインは、継承戦争で勝利し、
ブルボン王朝が支配する国家となっていた。
カスティーリャ王国とアラゴン王国を併合することに成功し、
ポルトガルをイギリスから切り離し、中立化させていた。
余力があれば、ポルトガルを併合できたものの継承戦争の痛手は大きく、
そして、スペインも、ブルボン王朝本家のフランス影響下にあった。
太陽の国と呼ばれるほど強い日差しが降り注ぎ、
人々は日陰でシェスタ(昼寝)を決め込んでいた。
日本人・タミル商人たちが縁の広い帽子を被り、マドリッドの繁華街を歩いていく、
「気候が良く、収穫が安定して国が豊かで、カトリックと地主が強そうだ」
「鉄生産は遅れている気がするな」
「貧富の格差も大きいが、地域差も大きいな」
「イスラムの影響も強そうだな。700年ほど占領されていただけある」
「だけどスペインはイスラム世界の産業を移植して強いと思うね」
「それに大航海時代を推し進めた国だからね」
「しかし、大らかで情熱的な国民性が強い国を作れるとは限らないな」
「特権意識が強くなり過ぎて、採算性を押し下げ、海運業を悪化させている」
「船が増えてスパイスも安くなってしまったからな」
「一回の航海で得られる利潤も減っている」
「利潤を上げるには、船員を減らすか、積み荷を増やすか、船足を速くするか」
「武装していたら、厳しいな」
「ああ・・・」
日本は、二つの問題で苦しんでいた。
一つは内圧であり、貨幣の国外持ち出し制限の拡大。
幕府の歳入に倍する歳出が行われ、
幕府は商人たちに借金をしていた。
商藩の突き上げは、貨幣の国外持ち出し制限の拡大に集約する、
南アフリカから金山が採掘されたという希望があったものの、
山師に国運を賭けるわけにもいかず・・・
それを認めれば、国難の貧富の格差はさらに広がった。
もう一つは外圧であり、清国との朝貢問題だった。
朝貢と言っても権威付けに過ぎず、
送る朝貢より、見返りの恩賜の方が大きかった。
しかし、朝貢を行えば日の本は、表面上、清国に隷属することになり、
聖徳太子以降、守られていた独立国としての体面と威信が失われる。
当然、幕府の権威は失墜し、
倒幕に向かう風潮も作られていく・・・
そう、一旦失われた権威と権力は、血の対価を払って再統合するしかなかった。
帝王学的な推論から導き出される未来像は、幕臣らを怯ませる。
江戸城
吉宗は、溜め息を漏らしていた。
「じい。まだ、時間はあると思うか」
「将軍。時間はありますが、時間稼ぎをするほど徳川幕府への信任が低下します」
「財政を立て直し、同時に清国に対抗する方法はある」
「共和制に移行して、日の本を国家として統合することだ」
「実に簡単な話しじゃないか」
「しかし、徳川は、片隅に追いやられる」
「諸藩は、前田、薩摩、伊達、長州。好きな藩に結集するだろう」
「商藩も、そちらと組めば、徳川は簡単に引っくり返る」
「御意にございます」
「・・・・・」
「参議は、どうされますか?」
「・・・・明日に持ち越しじゃ」
南インド
欧州ゴシック様式を基にした建物が建てられていた。
釣り殿(サロン)が日本庭園の小川を渡って張り出し、
ピアノが置かれ音色を奏で、南国の風が調べを転がしていく、
日本の音楽は4拍子、西洋は3拍子が多く、
インドの拍子は、多彩であり2拍子から16拍子まで複雑だった。
南インドで西洋、中洋、東洋の3つの文明が紡まれようとしていた。
北インドでもイギリスとオランダが協力関係を築いており、
北印橋と南印橋は、大西洋、インド洋、太平洋の全域に拡大していた。
象の籠にフランス商人たちが乗っていた。
「タミル人は、不穏な動きが少ないようだ」
「ムガル帝国に占領されるとタミル言語ごと殲滅されると思っているのだろう」
「それに元々 タミルは、絶対王制でなく、合議制の強い国だ」
「国民も貧しさを王のせいばかりと考えていない」
「誰が王になっても同じと思っている節もある」
「欧州最強のフランスと」
「ムガル帝国の脅威に晒されているタミルは国情が違うからな」
「脅威そのものか。脅威に晒されているかの違いだろう」
「しかし、フランスは、最大最強の軍隊を削減しないと財政再建が難しいだろうな」
「軍事費の削減か。島国なら可能でも国境陸続きの国は難しかろう」
「まぁ 難しいよな・・・」
この時期、世界最大最強の地域はインド圏だった。
しかし、世界最大最強の帝国は東アジア圏で清国だった。
日本は、世界最強の帝国に対し、八島(舟山)諸島の利権を維持しようと
フランス、スペイン、
タミル、マラヤラムの商館を作らせていた。
日本の商屋で、パチパチと算盤が弾かれていく、
14〜15世紀、ヴェネツィア商人によって複式簿記が発明された。
それまでの単式簿記は、書き連ねられただけであり、
複式の商業簿記は、商取引を分析し、利害関係を明確にした。
能動的な認識を可能にした簿記は、積極的な商業拡大に寄与してしまう。
以来、複式簿記は欧州へ広がり、南インドと日本にも伝わる。
日本の大福帳も複式簿記へ移行し、商業とともに発展していた。
八島は、取引量の増大に伴い、
世界最大級の一大商業地帯となっていた。
八島所司代
上海ガニが山盛りになって、テーブルに載せられていた。
日本人たちは、洋風の内着に羽織を背にしていた。
「ここまで、利権分けしなければならないとはな」
「徳川は国内の権力構造を守るため、外国勢力に利権を分けるしかないのだろう」
「まったく、行き過ぎた保身と支配欲ってやつは、国益を損なわせる」
「沿海島礁の国家は、基盤が弱く」
「大陸側の帝国。清国、ムガル帝国、オスマン帝国、フランスはいずれも強大だ」
「弱い側の島国は連合して押さえ込むしかない」
「幕府は、それで、清国の朝貢を拒めると?」
「幕藩統合の共和制移行で国力を増大させても、徳川幕府は命懸けだからな」
「吉宗様も我が身大事で優柔不断だな」
「だが、ダモクレスの剣が頭上にあるのは、どの世界の君主でも同じだ」
「それにドミノは、どちらにでも倒れる」
「清国との関係を誤れば、忠誠を期待する幕臣と領民たちが将軍に銃を向け兼ねないからな」
「だからって、保身に有利な方ばかり傾いては、社会全般で膠着してしまう」
「それに一度、戦国の世にしたら外国に付け込まれるし、内戦なんてするもんじゃないよ」
「諸藩が、そう思ってくれれば良いがね」
「徳川幕府が腐っていると思われたら、清国に対抗するために、やるかも・・・」
すめらぎ領主は、副将軍が任ぜられた。
日本で食いっ逸れた百姓たちが帆船を降り、
巨大な紅い鳥居を抜け、入植奉行所へと手続きに行く、
そして、帆船からは、人と積み荷だけでなく、
馬も降りてくる。
大陸の足は、馬であり、馬を制するモノが大陸を制した。
そのため、日本領すめらぎは、本格的な騎馬社会の成立を必要としていた。
日本在来馬は、中小型で体質強健、
消化器官が発達し、粗飼な野草でも育った。
寒冷地の放牧が可能で骨や蹄が堅く、
少ないエネルギーで小回りの利く仕事が可能だった。
それとは別に北海道で育てられた大型西洋馬も帆船から降りた。
こちらは西洋馬産、オスマントルコ産の大型で軍用も兼ねていた。
日本人入植者らは、割り当てられる土地を求めて広がり、
水路を引き、田畑を広げていく、
所有できる土地は、制限されていたものの、日本より生活が楽だった。
入植者は、水利で有利な土地を求めて、すめらぎ(オレゴン)街道を越えいく、
すめらぎ所司代は、田畑の拡大に伴い砦を建設し、
広大な土地を見回るため騎兵隊を編成していた。
彼らは、銃を持ち、常に数人で行動し、
インディアンの部族との交渉を行った。
入植者とインディアンとの諍いは、基本的に喧嘩両成敗で咎められた。
日本人の農産物とインディアンの狩猟・家畜の交換は多く、
生産で競合していないのか、基本的に協調関係にあった。
インディアンは、日本人の神道、儒教、道教など精神性に興味を持ち、
共感したのは神と精霊を同一視できそうな神道だった。
もっとも、求められたのは、日本の柔術と剣術だった。
日本柔術は、肉体の鍛錬強化と同時に、最小の力で最大の力を発揮する。
無手同士の1対1で圧倒的で、流派によっては1対多まで考えられていた。
また、武器の所持も仮定され、
日本刀は斬って良し、受けて良しと攻防一体で対応できた。
すめらぎ所司代
鍛冶場
北アメリカ産の豊富な樹林から木炭が作られ、
砂鉄が運び込まれ、タタラ吹きが始まる。
本家のインドで失われつつあったダマスカスの剣は、日本人の鍛冶職人によって再生され、
熟成されつつあった。
銃剣も少なくなかったが、インディアンは銃を作れないため、
日本刀でも十分にインディアンを威圧できた。
また、鎧も刀と同様に折り返し打たれて作られたものであり、
薄くても防御力が高かった。
インディアンの原始的な武器は威力が半減し、
日本製の武器は、容易にインディアンを圧倒する。
この力関係は、圧倒的であり、
インディアンの部族は、大砲の威力を認識する前に日本と協調し、
取引は増大していた。
日本人たち
「インディアンって、西洋貴族並みのプライドだな」
「精霊信仰か」
「個人と精霊を結びつけるのは、日本の守護霊に近くないか」
「守護霊ねぇ〜」
「まぁ そう思えないこともないが、インディアンの方が身近だな」
「日本人は、身近に感じるより、物理的に切り離す方が好きなんだよ」
「日本の八百万の神は、自分の体から切り離して考えるだろう」
「どちらにしろ、インディアンは仕事に生きるって感じじゃないから、生産性がな・・・」
「狩猟と採取は、農業と違って備蓄が難しいから、その違いかな」
「だけど、すめらぎ領が国として成立してしまうと、不利にならないか?」
「独立するのか?」
「すめらぎは、幕藩政治の余剰子息の所領分けみたいなものだろう」
「つまり、長子制であぶれた次男以下の厄介払いの地」
「道理で遠島先に選ばれているわけだ・・・」
新型6頭立ての馬車は、鋼で覆われて作られていた。
騎兵隊が重たい鎧を着こむことを嫌ったためで、
重量は、通常の馬車とそれほど変わらないにもかかわらず、
鋼板は、薄いにも拘らず強靭で、銃も矢も利かなかった。
「役に立つかな」
「本当に錆びないだろうな」
「心配なら時々 油でも塗ればいいだろう」
「油を塗ると埃が付きそうだな」
「しかし、薄いな」
「軽い方が速く走れるだろう」
「まぁ 鉄砲の弾を防げるのなら、インディアンの襲撃にも対応しやすいだろう」
「内側の扉を閉じれば、侵入はできなくなるから。食料が尽きるまで持つ」
「そういうことなら鎧より良いかもしれないな」
「とりあえず40台ほど作って、騎兵隊で運用することになるだろう」
北アメリカ大陸 イギリス東海岸領
13の州にイギリス総督府が置かれ、貴族たちの所領が作られ、
ハノーヴァー朝の直轄領化が進む。
イギリス農家の入植は、宗教的、経済的、政治的に敗北した棄民が大半を占めていた。
イギリス人だけでなく、同盟関係にあるオランダ人、ドイツ人の入植も進み、
白人たちは、地の利を得、人口比でインディアンに対して有利になると豹変する、
インディアンを排斥し、抗争は掃討殲滅戦へと発展、
インディアン戦争が始まった。
戦いは激しさを増していくものの、
日本すめらぎ領の共同参画型。スペイン領の混血融合型。
フランス領のミシシッピー計画など商業開発型に比べて、安定した社会を構築しやすかった。
入植地は、軍隊組織と警察組織はあるものの、
地方にまで行き届かず、
無法地帯の中、インディアンと命懸けの交渉もしなければならなかった。
もっとも、インディアンも独自の秩序があって、明文化されていないだけど言える。
百姓たちは、割り当てられた土地に家を建て、農地を耕していく、
農業が軌道に乗るまで金と工具と農具と種が必要であり、
栽培が軌道に乗っても競合する作物だと価格が低く抑えられた。
もっとも、欧州にいたころの数十倍の土地が広がっていたのである。
「ちっ あいつら北アメリカ大陸でも貴族面しやがる」
「貴族は、金を持っているからしょうがないよ」
「このままだと、自作農が多いだけで、イギリスと変わらない社会になるな」
「どうせ利潤を当てんだ商品経済が発達すれば、貧富の格差が広がる」
「リスクが大きくなれば失敗者も増えて、借金で働かされる人間も増えるだろう」
「自作農ばかりだと労働力と資本を集約して強国になれないから、総督府もみて見ぬふりだな」
「労働力は、黒人を使うんじゃないのか?」
「仕事が楽でも、労働者の大多数を黒人奴隷にしてしまうと反乱を起こされた時怖いだろう」
「社会不安は警察組織に頼ることになるし、いつも怯えて暮らさないといけなくなるよ」
「まぁ それは言えるが、白人だって犯罪するだろう」
「ふっ むしろ白人の方が怖いか・・・」
1921年
大北方戦争(1700年〜1721年)終結。
ピョートル1世率いるロシア軍は、カール12世率いるスウェーデンに勝利し、
ピョートル1世は、ロシア皇帝(インペラートル)に就任してロシア帝国を成立させ、
世界最大の大帝国を創設させた。
ピョートル1世のロシア最大の貢献は、軍事的な貢献より、ロシアの西洋化にあった。
その改革は行政にとどまらず、科学技術の近代化まで広範囲多岐に渡り、
通常考えられる範囲のロシア人の常識を超え、
辺境ロシアに対する西欧諸国の認識を一変させる。
日本のガレオン船から積み荷が降ろされ、ロシア皇帝ピョートル1世の下に届けられる。
「これが、日本製の銃か?」
「軽量で強靭という噂は、これから確認するとして、美しさは事実のようだ」
「ダマスカス鋼で作られたものとか」
「・・・見事だ。金と同量で取引されるだけはある」
「極東で使って欲しくないとのことです」
「ふっ♪ そうだろうな。戦場で使うのが勿体無いくらいだ」
「日本は、毛皮を得てシベリア域で拡大しようと考えているのでは?」
「それは仕方がなかろう」
「ロシア帝国は高性能な武器を得て欧州で覇を競い」
「日本は毛皮で北方を開拓するだろう」
「ロシア帝国は、取引せねば、劣った武器で欧州諸国に対さねばならず」
「日本も北方開発が遅れる」
「要は、どちらが得かということだろうな」
樺太最北の地 御端(オハ)城
商藩と呼ばれ、商人たちの合議制によって、多くの事柄が決められていく、
こういった商人行政は、商品作物の拡大に伴って、利権も大きくなり、
堺衆、博多商人の得意とするところであり、
一旦、軌道に乗った商品作物と流通機構は、金の生る木となった。
そして、米が全く取れない北海道と樺太の商人たちが米を食らっていた。
その経済力に引き寄せられたのか、清国人とロシア人も品物を運び込み、
冬には閉ざされる寒冷地に国際市場を作り出していた。
ダイヤモンドダストが、チラチラと光を放ち、
白銀の大地を煌めかせていた。
オホーツク族が最大で、次が日本人で、清国商人とロシア人が続いた。
清国との国境線は、あいまいだったものの、
樺太島の日本の城塞は大きくなり、日本圏内になりつつあった。
厚みのある壁に覆われた小屋で、白樺の木炭が燃やされ、
海産物が焼かれ、ウォッカ、白酒、清酒が飲み比べられる。
「ん? これは?」
「ちくわと、きりたんぽだよ」
「ちくわは焼くと美味いんだ。きりたんぽは鍋が美味い」
「ほぉ そっちは?」
「チーズ。焼くと上手いんだ」
「ほぉ そっちは?」
「チマキある」
「チマキは日本料理では?」
「中国産ある」
「・・・・」
「中国産ある」
「中国産ある」
「中国産ある」
「わかったよ。チマキは中国産」
「日本人は、もっと北に行くのか?」
「んん・・・もっと寒くなるじゃないか」
「もっとって、ここ、そんなに寒くないだろう」
「そりゃ 北から来た人間はそう思うだろうがね」
「金になるならどこまでも行くある〜♪」
扉が叩かれ、雪塗れの男が寒風とともに部屋に入り込んだ。
「康熙帝が崩御したぞ」
「「「「・・・・・」」」」
「つ、次は、誰?」
「雍正帝(ようせいてい)だ」
「「「「・・・・・」」」」
「怖いのは戦争だけだが?」
「まだわからんな」
「清国は、少数民族支配。外征ができるとは思えんが・・・」
「そんなのわかるもんか。清国の御膝元の八島は、朝貢してないんだぞ」
「八島の兵力は?」
「幕藩連合で5万ほどかな」
「戦争になれば、住民に武器が支給されるはず」
「「「「・・・・・」」」」
「いやだぜ。八島で戦争が起こると、樺太が冷え込む」
「それはそうだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です。
フランス革命と新撰組です (笑
史実より早い新撰組ですが、いまから作らないと地の利が得られないので、
もう、末期が見えてます、
フランス革命に壬生、維新志士、坂本竜馬は現れるでしょうか、
ブルボン王朝滅亡を新撰組が駆け抜けていくことになる・・・かも
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