月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空歴史 『釈迦帝凰』

 

 

 

 第07話 『三大洋国家連合 VS 三大陸国家連合』

 18世紀初頭、世界は二つの陣営に分かれていた。

 三大洋国家連合(フランス、スペイン。タミル、マラヤラム。日本)

 三大陸国家連合(イギリス、オランダ。ムガル帝国。清国)

 このと発端は、1685年の南アフリカのケープタウン、

 イギリス人とインド人入植者の小さな利害の衝突だった。

 にもかかわらず、騒動は両人種と両派に付いた黒人を巻き込んで拡大、

 タミル、マラヤラム VS イギリス、オランダの覇権を賭けた戦いに発展してしまう。

 この戦いは、欧州大陸とインド大陸の亀裂を生じさ対立させたかに思えた。

 しかし、各々の大陸と大洋で主導権を巡る国家間の対立は、それ以上に熾烈で激化していた。

 大航海の古参組と新参組の燻ぶっていた反目がスペイン継承戦争(1701年〜)で表面化、

 戦いを望んだ国は、戦いを望まない国をも巻き込み、

 三海洋と三大陸の主導権を賭けた戦いに発展、

 世界を二つの陣営に分けてしまう。

 戦いは、スペイン継承戦争でフランス、スペインが勝利した事で、冷え込んだものの、

 両陣営の組み分けは利権の関係から、その後も維持され、対立が続いていた。

 

 

 フランス=スペイン流通協定

 フランスの財政悪化は、フランス・スペインの経済的な垣根を取っ払ってしまう。

 スペインの貨幣をフランス貨幣に合わせた事で強大な経済圏が生まれ、流通量が増えていた。

 表向き、別々の王国であってもブルボン王朝に違いなく、

 経済統合は、周辺諸国を怯えさせた。

 とはいえ、市場拡大を押し進めただけであり、

 財政難を僅かに押し広げ、僅かに軽減しただけでしかなかった。

 パリの街を隊列を組んだ新撰組が巡回していく、

 質素な薄青と白で統一されたダンダラ羽織は、独創的でフランス人の注目を浴びた。

 異質な言語、民族、宗教、国家、文化の不信と排斥は存在するものの、

 封建社会は、共同体ではなく、主従関係で成り立っていた。

 日本人は、糞尿処理から郊外の農地経営、輸送業、商取引へと産業を拡大させ、

 増えた日本人は、ブルボン王朝への忠誠の証しを示すことで生存圏を確立する。

 とはいえ、フランスの国内情勢は、貧富の格差の拡大で悪化しており、

 新撰組は、国王に逆らえず、

 パリ市民にも強気に出られない状況が作られる。

 必然的に峰打ち、当て身など、武具を使用した逮捕術が発達していた。

 

 

 洋の東西を問わず、戦場の主役は槍と弓であり、

 脇役である刀剣類は、主力兵装の変遷に従う。

 銃の発明と発達は、射程の長さと破壊力の大きさから、

 既存の槍と弓を骨董品に変えてしまっただけでなく、

 戦場から重鎧を淘汰していた。

 そして、脇役だった刀剣類も銃の発達で変貌を余儀なくされていた。

 銃の先端に申し訳程度に付けられた銃剣がそれであり、

 機能優先の一体型は、針のように尖ったものとなり、

 利便性と汎用性を優先すると着脱式のナイフ型となっていく、

 とはいえ、刀剣類は、武器の主役でなくとも武人の象徴であり、

 近接戦闘における勝敗の要だった。

 日本は、銃を持つと日本刀(70〜80cm。850〜1400g)が邪魔になるからと、

 脇差、小太刀(40〜54cm。600g)の携帯が増え、

 西洋も、サーベル(70〜100cm。600〜2400g)は、軽装兵士に対し過剰と考えられ、

 細身軽量のエペを発生させていた。

 パリ 新撰組修道場

 刃のない日本刀。先端の丸いエペが置かれ、実戦に近い訓練が行われていた。

 エペ(全長100〜110cm)は、軽量(500〜800kg)であることを生かし、

 素早い突きを繰り出す。

 日本刀は、エペの高速の打突に対処できず、苦戦していた。

 一方、エペが日本刀に対して勝機を見出すなら、柳に風のように日本刀を受け切らず、

 柔軟に対応しつつ速い突きの連続攻撃を繰り出すしかなかった。

 次の瞬間、右手と左手の梃子を利用した日本刀の跳ね上げでサーベルが弾かれ、

 目の前に日本刀の切っ先が突きつけられる。

 「・・・参った」

 「やっぱり、日本刀を受け切れないエペは不利か」

 「しかし、妙な跳ね上げだったな」

 「左太刀に気付かなかったのか?」

 「左太刀?」

 「ほら、逆手で柄を持ってるだろう。つまり、通常と逆に力を掛けることができる」

 「し、しまったぁ」

 「まぁ 順手、逆手のどっちも使えるように倍は訓練しないといけないがな」

 「まとも日本刀の打突を食らうと、細身のエペでは反らせられないのが辛い」

 「しかし、相手を捕まえるなら十手の方が良くないか」

 「十手は捕縛で優れてるけど威圧感で劣るからね」

 「十手だって十分に叩き殺せるよ」

 「ダマスカス鋼の十手なら日本刀を防ぐことくらいできる」

 「だけどブルボン王朝の衛士だからな。刀剣じゃないと格好が付かないだろう」

 「しかし、血を流すとパリ市民から憎まれるぞ」

 「あまり非道はできないか」

 「だけど軍事力を国外じゃなく、国民に向けるようになったら終わりだな」

 「外地の守備隊の方がフランス人を鎮圧するより気が楽だけどな」

 「確かにそっちの方が気楽だな」

 

 

 神聖ローマ帝国

 カール6世治世、

 “神聖でなければ、ローマも継承しておらず、そもそも帝国ですらない”

 小領主の集まりでしかなく、統一した政策も実行できない名前だけの帝国だった。

 帝国の北方のプロイセン王国は徐々に力を付け、

 兵隊王と呼ばれるフリードリヒ・ヴィルヘルム1世が即位。

 質実剛健な王によって、軍事的な精強さが増していた。

 日本人たちは、烏合の衆だった神聖ローマ帝国とプロイセン王国の変化に気付き、

 商取引にかこつけ、内情を探っていた。

 ウィーンのどこかの城

 「まだ統一した国家と言えないと思うな」

 「しかし、プロイセン王とドイツ諸侯の関係は、徳川幕府と諸藩の関係に似ている」

 「いまのところ、プロイセン王国より、神聖ローマ帝国の吸引力が強いようだが」

 「名を取るなら神聖ローマ帝国。実を取るならプロイセン王国じゃないかな」

 「北のプロイセン側がバラバラなら、南の神聖ローマ帝国はボロボロだな」

 「日の本より、はるかに条件が悪そうだ」

 「そういえば、イタリアも、バラバラだったな」

 「プロイセンは力不足のようだし、神聖ローマ帝国も崩れるまで間がありそうだ」

 「どうだろう、あと100年くらいは、このままかもしれないな」

 「国家主権を発揮できない間は、攻勢能力に欠けていると判断してもいいだろう」

 「じゃ 当分、日本の対仏政策は、変わらないか」

 「東洋の客人。準備が整いました。こちらへ・・・」

 「「「・・・・」」」

 イタリアから始まったルネッサンス(14〜16世紀)は、暗黒時代以前の文化レベルを超え、

 フランス、イギリス。オーストリア、ドイツへと到達し、円熟していた。

 宮廷にバッハの音楽が流れ、人々を魅了していく。

 

 

 

 江戸湾

 135トン級スクーナー (全長27m×全幅7m×吃水3m) 6ポンド砲×12門が進水していた。

 同トン数のダウ船と比較検証が行われていた。

 「縦帆ラグ・セイル主体のスクーナー型船か・・・」

 「追い風なら横帆主体の船がいいがね」

 「縦帆は、風がよくなく、入り組んだところでも操作性が良いだろう」

 「ダウ・ガレオン船は、ラテン・セイルで、その傾向が強かったからね」

 「ガレオン船もガブ・セイルが大きくなっている」

 「西洋がインドのダウ・ガレオンに近付いたんじゃないか?」

 逆風に逆らってスクーナーが走り出し、ダウ船と競争する。

 「・・・悪くない」

 「悪くないどころか、戦争しないなら、スクーナーは費用対効果で最高だと思うけどな」

 「商藩との取引は、大きいからな」

 「だけど、すめらぎ領と南アフリカに行くなら、もっと大型の方がいい」

 「しかし、鄭和級ジャンクガレオンが怖い。戦列艦を建造しろよ」

 「鄭和級を相手にすると幕府は破産するだろう」

 「だったら幕藩連合しろよ」

 「商藩は大きくなっているから共和制を敷くと。徳川幕府は崩壊するだろう」

 「税制改革もしないとな」

 「税制か、金のない人間から金を取ろうとすると、一揆だな」

 「南アフリカ投資を増やせばよかろう」

 「あそこは、金も出るし、宝石も多い」

 「金さえあれば、封建社会を保ったまま、統一国家を構築できるはずだ」

 「幕藩体制が崩れたら藩閥の対立が消える」

 「商藩は、能力主義と実力主義の制度に移行したがるだろうし」

 「一番多い民衆を味方につけて権力を得ようとするやつも現れるだろう」

 「ちっ こうも簡単に日の本が追い詰められるとはな」

 「追い詰められたのは、清国が鄭和級ジャンクガレオン船を容易に建造できる国だったことだろう」

 「イギリスめ、余計なことしやがって」

 「まぁ 日本もフランスと組んだからね・・・」

 

 

 樺太

 商藩は、大名待遇でありながら、世襲ではなく、

 商人たちの合議によって大名が決められていた。

 北海道と樺太は、無米地領として、石高が上げられない地領ながら、

 海産物、皮革、資源、商品作物、トウモロコシ、ジャガイモが仙台、江戸、大阪へ送られ、

 仙台、大阪、江戸から買い付けた米俵が蔵に山積まれ、人々が米を買っていく、

 家々の庭に寒さに強いリンゴの苗木が植えられるようになり、

 集金能力の高さから内地より、一人当たりの米の消費量が多い年も珍しくなかった。

 商藩の支配者たる商人たちは、権威や忠誠より、利益や成果を求めやすく、

 商藩の風土は、封建社会と隔絶した土壌が作られ、

 また、国境より目先の利益を求めるためか、

 清国商人やロシア人狩猟者も珍しくなかった。

 貿易量が増えるにしたがって、毛皮を着る日本人は急増し、

 防寒に強い毛皮は、日本人圏の北限を切り開く原動力となっていた。

 うどん屋

 毛皮を着た日本人たちがうどんをすする。

 「最近、小判が増えてきたな。よくモノが売れている」

 「南アフリカの金山で金貨が採れるらしい」

 「ほお いいなぁ 金か・・・」

 「だけど、イギリス、ムガル帝国、清国が海賊をやって、危ないそうだ」

 「海賊にビビって引けば、南アフリカの金山を奪われてしまうわけか」

 「そういうこと、道理で船を作りたがるわけだ」

 「しかし、禿山を作るのはまずいだろう」

 「北東側の海に大きな半島があって低地にエゾマツとシラカバが群生しているらしい」

 「そこは、霧が多いだろう。船が沈むとまずい」

 「しかし、狩猟には良いかもしれない」

 「まぁ 毛皮は金になるがね。動物を殺すのは忍びない」

 「肉は食ってるだろう」

 「自分で殺すわけじゃないだろう」

 「ま、そうだけどね」

 

 

 

 

 日本領すめらぎは、北東南を山岳に囲まれた要衝だった。

 大規模な部隊をすめらぎ領に移動させられるのは、すめらぎ街道だけであり、

 その街道さえ防衛できるなら難攻不落の日・インディアン世界を構築できそうだった。

 日本人移民者を乗せた馬車十数台が連なって陽の昇る方向に向かっていく、

 そのうちの2台は、一回り大きく、

 6頭立てで、太陽の光を僅かに照り返していた。

 ダマスカス鋼で覆われた車体に完全武装の兵士が乗り込んで護衛していた。

 装甲馬車は、大きさの割に軽量のためか、積み荷も余計に載せられていた。

 道の両側に桑の木が植えられていた。

 その葉はカイコの餌で、

 桑の実はキイチゴのようで黒くなれば食べる事も出来た。

 護衛の装甲馬車に七輪で焼かれたガラガラ蛇が回されてくる。

 食料は、可能な限り現地調達が好ましいものの、

 何人かは眉間にしわを寄せる。

 不味いというより、骨が多いからといえた。

 もう少し危険の少ない食料が良くても、

 田畑を耕している農家にとって危険極まりない蛇であり、

 どうせ片付けるなら食ってしまう事が増えた。

 「ふぅ〜ん 蒲焼き風か」

 「小骨が多いからな」

 「しかし、幕府も開拓地があると遠慮がないな」

 「政争で負けると即行で海外に追いやるから始末に悪いよ」

 「最近の遠島は、すめらぎ領より、南アフリカらしいよ」

 「あっちは、黒人だっけ?」

 「やっぱり、金が採れるところは違うらしいな」

 「金か・・・いいな・・・この辺の川で取れないかな・・・」

 

 広大な土地に田畑が造られていた。

 日の本の四公六民に対し、

 すめらぎ領は、三公七民だった。

 一人当たりの土地面積は、1000坪であり、

 そこから上がる収穫は、3石1/3=7.5俵1/3=500kgだった。

 家屋敷分の土地を引いても食べて行くだけなら余裕があり、

 噂を聞いた日本人のすめらぎ移民は増え、村が作られていた。

 少ない武士階級、

 未知の生態系とインディアン部族、

 幕府諸藩混在の入植者の間で行政を容易にするため、

 中央の代表が村に派遣され、

 村の代表が中央へ派遣される主従補完制度が作られていく、

 安直ながら中央と地方の相互理解が進み、

 この制度は、インディアン部族にも適応され、日本にない共和制が形作られていた。

 すめらぎ所司代 族衆議会

 日本人の移民代表とインディアン部族の代表の間で交渉が進められていた。

 日本人とインディアンは、総論賛成、各論反対で同じ権利とされ、

 大まかながら必要最低限の法が適応されていた。

 日本人たち

 「やれやれ、インディアンとの会合は疲れるよ」

 「インディアン同士で殺し合ってくれるのなら良いけど、日本人を巻き込もうとするからな」

 「製鉄の技術さえ教えなければ、問題はないと思う」

 「装甲馬車でインディアンを押さえられるなら良いけどね」

 「製造費が高いのが難点だな」

 「安い馬車を数を作る方がいいような気もするが?」

 「錆びず、軽く、強靭なら山岳地でも無理が利く」

 「襲撃に強いならなおさらだ」

 

 

 喜望峰は、三海洋国家連合と三大陸国家連合の発端と争点となった地であり、

 その後も、両陣営の焦点となり続けていた。

 南アフリカ ケープタウン

 タミル、マラヤラム。フランス、スペイン。日本は、共同で南アフリカ会社を設立した。

 史上初、世界初の多国籍企業で、

 南アフリカ株式会社の誕生は、三大陸国家連合の圧力に耐え兼ねた妥協の結果だった。

 代表権は、最有力のタミルで、協調を深めるほど採算性が良くなり、配当を増やした。

 その結果、三海洋国家連合の間で、様々な国際協定が作られ海上保険を生みだした。

 保険金を取る事で、船と積み荷の損失補填を行うもので、

 各国のリスクを押し下げ、三海洋国家連合の船舶と交易を促進させた。

 一方、イギリスもロイド保険を整備し、

 三大陸国家連合にまで補償を拡大しつつあった。

 

 

 喜望峰沖

 イギリス海軍 三等70門装備戦列艦 オーフォードは、争点の海域にいた。

 長くとどまれば危険が増すものの、虎の穴には虎の子がいるかもしれず・・・

 艦長は、洋上に浮かぶ、独特な船影に気付いた。

 「・・・相変わらず。バカでかい船だな」

 「6000tを超えるとか」

 「3倍か・・・デタラメ過ぎて、帆船とは思えん」

 「海戦で役に立つかどうか・・・」

 「清国人が味方を撃たないのなら、洋上砲台として使い道があるだろう」

 「一つ、挨拶でもしてみますか?」

 「そうだな」

 「甲板でニワトリを飼っているらしい」

 「ブランディと交換に御馳走になるか」

 「ちょっとだけ羨ましいですね」

 「ふっ」

 

 清国海軍 鄭和級ジャンク・ガレオン船 鳳趨

 「帆船ある」

 「どこの船だ?」

 「・・・・イギリスある」

 正面から来るイギリス帆船は、見事な操作で回頭し、鳳趨と並走する。

 海の彼方に必要とするモノがないアジアの大国。

 その清国を国外に向かわせた動機は、漢民族の弱体化という国内問題から発していた。

 

 

 北アメリカ大陸の東側

 二つの陣営が荒野を挟み、銃弾が飛び交う、

 インディアンが狙いを定め、引き金を引くと衝撃で銃口が跳ね、

 爆煙とともに銃弾が飛び出し、離れた場所のインディアンが倒れる。

 対立するインディアン同士の戦いに、フランスとイギリスが加担した。

 違う見方をするならフランスとイギリスの対立は、共闘するインディアンを引き摺りこみ、

 対立関係のインディアンを巻き込んでいた。

 どちらの見方も正解であるものの、

 初期の戦いは前者で、中期以降は後者の見方が強まる。

 旧大陸から送り込まれた馬と銃が北アメリカ大陸の戦いを変えようとしていた。

 日本人たちが戦場から離れた場所に隠れていた。

 「・・・また、酷い戦いになったな」

 「新大陸は、勢力圏が定まってないからね」

 「牧畜をやろうとしているのが問題だろう」

 「土地は広いぞ」

 「だけど未開地が多い」

 「陣取り囲碁と同じだろう。上手く取って行けば、北アメリカ大陸を支配できる」

 「んん・・・最有力は、スペインかな」

 「フランスも北アメリカの中央を押さえてるぞ」

 「それに欧州は、フランスが優位だ」

 「人口は東海岸のイギリス領じゃないか」

 「人口なら大陸北西のすめらぎ領だって多いらしいぞ」

 「大陸を横断して、すめらぎに行くのも悪くないな」

 「未開地だろう。ここから、すめらぎ領に辿り着く前に野垂れ死にだよ」

 「んん・・・まぁ 馬があっても厳しそうだな」

 「インディアンが文明を興せなかったのは新大陸に馬がいなかったせいだろうな」

 「そりゃ 馬と文明の関係は大きいだろうけど」

 「人の足じゃ 移動に限りがあるから大きな文明は作れないだろうな」

 「南アメリカにインカ文明があったそうだけど」

 「スペインが滅ぼした文明か」

 「スペインに対抗できなかった文明だろう。高い評価はできないね」

 砲撃が轟くと陣営の一角が土煙が立ち昇る。

 「おっ イギリスは、大砲まで持ち出したのか」

 「なんか、豪勢だね」

 「まさか、東海岸製の大砲じゃないだろうな」

 「鉄生産が軌道に乗っているのかもしれないな」

 「・・・駄目だ。インディアンが浮足立ってる。フランス側が総崩れになるぞ」

 「に、逃げよう」

 大砲の威力に驚いたフランス側のインディアンが逃げ出し、戦線が崩壊していく、

 

 

 アフリカ大陸

 黒人の一部族が他の黒人部族を襲撃し、捕らえた黒人を奴隷として白人に売り渡した。

 白人は、弾薬を渡して奴隷を買うと、南北アメリカへと運んで行く、

 労働によって得る糧がキリスト教における罪の結果として認識されているとしたら、

 労働からの解放は、罪からの解放と思うのかもしれない、

 とはいえ、この繰り返しが奴隷貿易を拡大させ、

 アフリカ大陸の黒人勢力を塗り替えて行く、

 備蓄力の小さな自給自足の世界で潰しの効く奴隷が文明の踏み台となったことは確かであり、

 戦争で得た奴隷に対する酷使が生産過剰を生み、

 富を集約させ産業を増大させてしまう。

 西洋諸国は、躊躇せず奴隷を新大陸へ輸送して、入植の踏み台にしていた。

 そして、奴隷の供給地の支配は、莫大な権益であり、

 新大陸を植民地化しているイギリス、フランス、スペインの間で、

 アフリカの奴隷市場の争奪戦が展開され、

 帆船同士の戦いが繰り広げられた。

 アフリカ某所 奴隷海岸

 黒人同士が砦を巡って、銃撃戦を繰り広げていた。

 どちらも白人から銃の供給を受けており、

 勝った方が砦を支配し、奴隷市場を押さえることができた。

 そして、どちらの側にも白人部隊が率いていた。

 清国のジャンク・ガレオン船が沖に停泊しており、漢民族が見物していた。

 鄭和級 ジャンクガレオン船

 「凄い戦いある」

 「白人は、そんなに黒人どれが欲しいあるか」

 「理解できないある」

 「自前の国民を使えばいいある」

 「清国には腐るほど人がいるある」

 「きっと、欧州は人口が少ないある」

 「殺し合えばいいある。人口が減ったら清国で欧州も占領するある」

 「やっぱり、外地に漢民族の拠点を作るあるか?」

 「外地に漢民族の拠点を作って、化外の清国を倒すある」

 「「「・・・」」」

 

 

 中洋

 西洋と東洋に挟まれたインド洋に面した世界。

 紀元前に釈迦帝凰が即位して以来、

 継承者が現れるたびに言語統合の殺戮行われ、

 17世紀以降、言語統合戦は終息したものの、暗い影を落としていた。

 というのは、生まれた子供に罪はないものの、

 少なくとも滅ぼされた一族の恨みの対象は、加害者の子孫に向けられ

 間接的な憎しみの対象となっていた。

 複雑なのは、対象が混血だったことで、骨肉と軋轢の憎しみが足枷となっていた。

 インド大陸は、欧州大陸より古い歴史を持つにもかかわらず、

 外洋外征が、今世紀に至るまで阻害されたことは否めない。

 とはいえ、インド文化圏は、9言語にまで統合され、

 ムガル帝国は、オスマン帝国と並ぶ、巨大勢力であり、

 一つ一つの王国が西欧諸国や日本と並ぶ強力な国家群を形成していた。

 とはいえ、内情内実的な足枷はどこの国にも存在し、

 ムガル帝国第7代釈迦帝凰ムハンマド・シャーは、外戚、サイイド家の傀儡だった。

 名と実の権力二重構造は、ムガル帝国の混乱の種となっていた。

 無論、こういった状況は珍しくなく、

 日本、中国、欧州諸国でも同様の現象が見られた。

 ある意味、不幸な歴史の一時期と言えなくもないものの、帝国存亡の危機であり、

 ムガル七王国は、南インド2ヶ国と共存できるのなら帝国からの離脱を図っていた。

 そして、ムガル帝国解体の時が訪れた。

 ベンガル王国(1870万)が離脱すると、

 元々 南インドのドラヴィダ語族に属すテルグ王国(2040万)、カンナダ王国(850万)がムガル帝国を離脱し、

 南インドのマラヤラム王国(850万)とタミル王国(1870万)とドラヴィダ語同盟を構築してしまう。

 ムガル帝国は、ヒンディー王国(5100万)、

 グジャラート王国(1360万)、ウルドゥー王国(1190万)、マラーティー王国(1700万)、

 の4王国の連合体となり、4王国連合も結束が崩れかかっていた。

 ムガル帝国首都ラホール

 帝国の解体が進む中、

 ムガルの実権を握る宰相がテラスを行き惑う。

 「おのれ、ベンガル王国め」

 「どうやら、我々の代理人が藩王側に付いたようです」

 「裏切りモノが」

 「離脱した3藩王国と南インドが共同歩調を取ると帝国は、苦戦するかもしれません」

 「ヒンディー王国だけでもムガル帝国はインド最強なのだ」

 「それにヒンディー王国は、戦力の9割以上を温存しておる」

 「連合が離脱するというのなら帝国軍本体で戦うまで・・・」

 通路を伝令が走ってくる。

 「宰相、シャム側は、ムガルの提案を拒否しました」

 「宰相。ベンガル藩王は、シャムと結んでいるのかもしれません」

 「ちっ! そういうことか」

 「やはり、南インドが反ムガルの後ろ盾になっているのでは?」

 「・・・・・」

 宰相は、釈迦帝凰から実権を奪い帝国支配を強めている

 己が行為が王国群を離反させ、帝国を解体させていることに気付かない。

 仮に気付いたとしても権力喪失の代償は死で、サイイド家滅亡と直結していた。

 たとえ、宰相は、ムガル帝国を滅ぼしてもサイイド家と権力を守ろうとする。

 それは、釈迦帝凰の権力が権謀術数と勢力均衡によって歪められ、

 怠惰と無能と無理解で相続された結果であり、

 有力臣下が帝国の権力と地位安泰を追い続けた野望の果てだった。

 宰相は、全ての敵意と悪意がサイイド家に向けられる前にムガル帝国をずたずた滅ぼし、

 サイイド家の避難所を構築する必要に迫られていた。

 陸続きでは、どのような要衝であっても一族を守れず、

 圧倒的な兵力差の前では、一族の離反と裏切り者を出す可能性も高まる。

 「我がムガル海軍も海外地に入植地を建設し、南インドの海洋支配に終止符を打たねばならんな」

 サイイド家存続のためムガル帝国は大艦隊を建造することになった。

 

 

 蓬莱島

 米の取れない火山島で、火山灰とセメントを使ったコンクリート、レンガ産業が発達していた。

 蓬莱のレンガ、瓦は、品質が良く、

 木造船建造で建築材が高騰し、火事を恐れたのかレンガが家屋で使われ、

 寒冷地の開発でも用いられだしだ。

 結果、御禁制は密輸入で日本産扱いにされ、日蓬貿易は拡大していた。

 もちろん、清国との貿易も拡大し、

 拡大する経済力によって、大阪城を真似た城がハルラ山の麓に築城されていく、

 少ない領地と人口で列強に対するためか、

 縦の階級としての士農工商は崩れ、

 士は、世襲的な権利が薄まり、

 誰でも受けられる学科を身に付けた資格制度となっていた。

 蓬莱大君

 「大阪で火事があったらしい。セメントを輸出すれば、また儲かりそうだな」

 「水路を固めてますし、代わりに土を持ってくれば、農地ができるかもしれません」

 「農地は儲からんが、食糧を輸入するよりいいかもしれんな」

 「独立を保つためには、もう少し、鉄と船が欲しいところです」

 「船か・・・さすがにセメントやレンガで船は作れんな」

 「ところで、三大洋連合と三大陸連合ですが・・・」

 「清国と日本に挟まれてるのに、どちらにも付けないだろう。潰される」

 「というより、偏った貿易で依存が大きくなれば買い叩かれて、産業が廃れる」

 「厄介な対立です」

 「ふっ 小国の悲哀が漂うな」

 「島国なので辛うじて独立を保たれているようなものですが・・・」

 

 

 ロシア帝国とオスマン帝国の間で、イスタンブール条約調印され、ペルシャが分割される。

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 釈迦帝凰の18世紀は、

 三大洋国家連合(フランス、スペイン。タミル、マラヤラム。日本)

 三大陸国家連合(イギリス、オランダ。ムガル帝国。清国)に分かれ、

 三海洋・三大陸でトンデモ国際情勢です。

 神聖ローマ帝国は、やや、三大陸側。

 ロシア帝国とオスマン帝国は、どちらともつかず、でしょうか。

 

 

Three three ocean league of nations VS Three major land leagues of nations

 

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第06話 『ブルボン王朝の新撰組』

第07話 『三大洋国家連合 VS 三大陸国家連合』

第08話 『産業革命の予感』