月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空歴史 『釈迦帝凰』

 

 

 

 第08話 『産業革命の予感』

 18世紀初頭、異なる大陸、異なる大洋の国家と結び、

 同じ大陸、同じ大洋に面する国家群が潰し合う

 遠交近攻の原則が世界規模で展開されていた。

 大同小異の文化圏闘争は、権謀術数、内憂外患であり、

 骨肉同士の醜い争いといえなくもなく、

 異種間強国同士の国交による出し抜き戦は、自然の摂理に思われ、

 同根同胞の文化圏で切磋琢磨と排斥は、珍しくないことだった。

 西洋、中洋、東洋の帆船は、世界的な需要に応え、

 大西洋、インド洋、太平洋を走り、文化的な交流を深めさせ、

 国家利権を奪い合う鍔迫り合う世界情勢を形成していく、

 そして、18世紀は、もう一つの世界を垣間見せた。

 カリブ海 海賊酒場

 テーブルの上は、血塗られた一攫千金の山だった。

 男たちは、嫌な記憶を払うかのように酒を飲み、出される料理を平らげた。

 「狼になろうと海賊になったのに、いまさら羊に戻れるか」

 「そうだそうだ。俺は、海賊稼業をやめねえぞ!」

 「「「「おー!!」」」」

 「俺たちは海賊だ。臭い奴隷なんか運べるか!」

 「「「「おー!!」」」」

 たった、一日の稼ぎで、一年を遊んで暮らせる戦果を上げた海賊の気持ちは大きかった。

 海洋は、元々 国家の法、陸上の縛りから放たれた無法の世界だった。

 14世紀以降、祖国の庇護の下、海賊は、敵性国家の船を襲い羽振りのよい生活をしていた。

 身も蓋もなくいうなら、王国が海賊の総元締めだった。

 成功した海賊は尊敬され、サーと呼ばれ、

 己が領地で貴族のような生活を満喫することができた。

 しかし、18世紀初頭、フランス=スペイン同君連合が結ばれ、

 イギリス=オランダ同君連合が結ばれ、

 三大洋連合と三大陸連合の大きな枠組みで共闘関係が強まると海賊の付け込む隙は減り、

 北アメリカ大陸、カリブ海周辺の狩り場さえ狭められた。

 もう一つ、海賊組織そのものが封建社会から自由を求めた者の混成で、

 無国籍化が進んでいた。

 海賊は、王国の庇護を失いつつあった。

 生き残りを模索するのなら国家の枠組みの中、運送稼業で扱き使われるか、

 夢も希望もない、封建的な海軍に転向するか、

 あくまでも食み出し者のまま、海賊稼業を続け、海軍に殲滅させられるかだった。

 海賊は、証拠さえ残さなければ良いのだから、

 損傷船を襲うなどハイエナ化し船であればどんな船でも襲うようになった。

 封建社会全盛、最後の世紀、

 階級が固定された貧困層が唯一、成り上がる事が出来る稼業が海賊だった。

 うだつの上がらない貧困層が唯一、成功できる海賊が最後の花を咲かせた世紀でもあった。

 領地経営の才が高ければ領地経営が軌道に乗ると祖国に依存しなくなり、

 同業の海賊にショバ代を払わせ、危険を冒して海賊稼業から足を洗う者もあらわれる。

 そして、フランス=スペイン同君同盟成立後、カリブ海賊が襲撃し得る標的は確実に減っていた。

 海賊が慌てて酒場に飛び込んでくる。

 「海軍の艦隊がこの島に近付いてるぞ!」

 「「「「「!?」」」」」

 「に、逃げろ!」

 「「「「おー!!」」」」

 祖国から見限られ始めた海賊たちは、フラフラしながら酒場を出て行く、

 

 

 

 広大な “すめらぎ” の大地が広がっていた。

 日本人の入植は、年々増え、いまでは、インディアン最大部族より増えていた。

 そして “すめらぎ” で、唯一、鉄を作りだせる民族は、北西アメリカ大陸の支配を確立していた。

 この時期、インディアンの農耕人口も増加していた。

 農作物の生産拡大と備蓄は、農作物の価格を押し下げ、

 より利潤の大きな商品経済である絹織物、綿織物、麻織物、陶磁器、製紙、

 醸造、醤油、水産業、製塩、林業、金銀銅細工、鉄製品などの産業を拡大させていく、

 労働は対価が必要であり、対価を支払えば社会資本が拡大し、

 社会資本を回収すべく、

 さらに文化的な柔術、剣術、茶道、華道、絵画の門戸がインディアンに開かれていく、

 インディアンは、すめらぎ領内の貨幣経済に馴染み始めた。

 もちろん、総論的な意味での日本人支配であり、

 各論的に反発するインディアンは日本人と衝突し、

 インディアン同士の諍いも起こった。

 しかし、圧倒的な軍事力を持つ “すめらぎ” 銃騎兵の前に多くのインディアンは屈していく、

 この時期、日本人とインディアンとの混血も増え、

 自然の精霊を崇拝し、人から学ぶことを恐れるインディアンの子弟の中に、

 社子屋(神社)、道観(道教)、聖堂(儒教)で学ぶ者も現れる。

 そして、相互のコミュニケーションで漢字と平仮名が多用された時期でもあった。

 

 すめらぎ所司代は、北方領地の開拓のため、北方の私有地の制限を10000坪に増やし、

 南の10倍の私有地に惹かれた日本人が広大な私有地を求め、

 米を育てられない北方に向かった時期でもあった。

 農耕民族の日本人は、皮革業を苦手とするところでも、北方のインディアン部族と取引はできた。

 日本商人は、莫大な富を得んと北方へと向かい、

 インディアンと組んで開拓地を広げていく、

 山々を針葉樹林が覆っていた。

 船を作れば、大きな利益になると思われ、

 狩猟で毛皮を手に入れれば利益になった。

 「ヤラキット。本当に北のインディアンと面識あるんだろうな」

 「石庵。精霊の声が行くべき道を示してくれる」

 「ありえないよぉ」

 「内なる心の声を聞き、精霊と友になるのだ」

 「おまえ、いいやつなんだけど・・・」 ため息

 「来た」

 「へっ?」

 木の影からインディアンが現れる。

 “お前の事は、精霊から聞いている。精霊の名を聞こう”

 “熊の牙だ”

 “我の精霊は、白鷹の羽”

 「「「「・・・・」」」」 茫然

 不可思議な出会いの後、話しが進み、

 米・衣服と毛皮の交換条件が話し合われ・・・・

 すめらぎ領に一人の豪商が誕生した。

 

 

 北アメリカ大陸

 イギリス領東海岸13州(87万8675ku)に街が作られ、

 イギリス本土(31万5102ku)より広大な大地に白人たちの群れが広がっていく、

 イギリス人だけでなく、

 クロムウェルに属領にされたアイルランド人、

 同君連合のオランダ人。

 友邦国のドイツ人、スウェーデン人も増えていた。

 入植者たちは、貴族の重圧から解放され、封建的な隷属から逃れ、

 アメリカ大陸で自由と平等の観念と気風の中で、何かが変わろうとしていた。

 そう、アメリカ人と呼ばれることに抵抗をなくしつつあった。

 ガレオン船から移民者が降りてくる。

 アメリカ人たち

 「ほう、アイルランド人が増えたんじゃないか」

 「植民地化されて嫌になったんだろう」

 「そういえば、クロムウェルに侵略されて、70年くらいか・・・」

 「インドじゃ 負けると釈迦帝凰に言語ごと滅ぼされるんだぞ」

 「アイルランドなんて、サッサと合併すりゃいいのに・・・」

 「反発招くと煩わしいんだろう」

 「逆に黒髪と丸い鼻のアイルランド人との合併が嫌なんだろうな」

 「しかし、移民者が増えれば、賑やかになるな」

 「だけど、本国で不作が続かないと移民に弾みはつかない気もするな」

 「おっ 貴族が混じってるな」

 「けっ! 貴族風吹かせやがって、ムカつく連中だぜ」

 「イギリスと違って少ないだろう」

 

 

 

 

 ムガル帝国と、

 ムガル帝国から独立したテルグとカンナダの間で戦いが起きていた。

 テルグとカンナダの独立戦争にマラヤラム、タミル連合軍も加わり、ドラヴィダ同盟が結ばれていた。

 デカン高原中央で起きたマラータの戦いは、

 ムガル帝国とドラヴィダ同盟の双方の兵力合わせて50万を超え、

 北インドムガル帝国と南インド連合最大の戦いだけでなく、史上最大規模の戦いとなった。

 双方の伝令が戦場を駆け巡り、

 時間差を置いて、次から次へと軍団が差し向けられ、突撃していく、

 大地を埋め尽くす人海戦術同士の戦いに戦術の入り隙はなかった。

 こムガル帝国最大のヒンディー王国軍もこの戦いに投入された。

 双方とも大砲と銃剣が大量に使われ、

 肉塊と流血で大地が覆われ、噎せ返る様な異臭が戦意を削ぎ、

 余りに壮絶な光景に双方の軍団は、マラータから後退していく、

 この戦いがムガル帝国最大のヒンディー王国の箍を剥がしてしまう。

 元々 モンゴル帝国、チムール帝国を名前だけ継承したのがムガル帝国だった。

 中身は、ペルシャ系イスラム王朝に乗っ取られたヒンディー王国に過ぎず。

 ヒンディー王国が利権構造で優遇されていたとしてもヒンズー教徒が多く、

 厭戦気運は、反ムガル勢力を増大させていく、

 そして、憎しみの対象は、第12代釈迦帝凰ムハンマド・シャーだけでなく、

 外戚サイイド家へも向けられようとしていた。

 ムガル帝国は、マラータの戦い以降、外征する力を失っていく、

 

 

 テルグ王国とカンナダ王国は、独立を勝ち取り、

 双方の国民は、歓声で沸き返っていた。

 ドラヴィダ同盟の協約は、4ヵ国が独立を保ちつつ、

 対ムガル戦に協力し合うといったものだった。

 この戦いの後、日本、フランス、スペインは、テルグとカンナダとも通商を結び、

 交易を増やしていく、

 

 

 ムガル帝国のムンバイで大型ダウ・ガレオン船が出航する。

 ムガル帝国帆船は、南インドのマラヤラム王国とタミル王国海軍だけでなく、

 帝国から離脱し敵国となったテルグ海軍とカンナダ海軍の封鎖線を抜け、

 インド洋に出るため、そして、帰還するため必然的に大型船になっていく、

 ムガル帝国大型ダウ・ガレオン船は、イギリス、オランダの技術提供を受けて実用性で清国に勝り、

 大きさでもフランス、スペインの大型ガレオン船に勝っていた。

 端的に言うなら、世界最強の海軍帆船を有していたのがムガル帝国海軍だった。

 しかし、その海軍の目的は、外戚サイイド家の避難所を作るためであり、

 ムガル帝国の制海権のためではなかった。

 

 

 南インドのマラヤラム、タミルでは、北インドのムガル帝国圧力に対抗するため、

 全人民的な防衛増強が望まれ、

 その結果、国民に支持されやすい人権が発達していた。

 封建的な特権階級で縛るムガル帝国に対し、

 南インド世界は、地域住民に支持される者が長になり、

 各地の長の連合が代表になり、さらに上の連合の・・・

 南インドの王国が望むと望まざるとに関わらず、国民の総意が強くなっていく、

 脅威という作用に対し、自己防衛が政治に影響を与える反作用は珍しくない。

 適切な政治決断ができない権力層は、国を誤らせ、領民を他国に隷属させる、

 結果、インド大陸から多くの言語を消し去ったことから、

 権力層が適切な判断を行う確率は高くないと言える。

 言語統合戦争でマラヤラム王国が勝ち残った素因はいくつもあったものの、

 民衆を治められる権力基盤と、

 民衆の愛国心を失望させえないだけの封建社会を築き上げていた。

 テルグ王国(2040万)、カンナダ王国(850万)が離脱して南インド同盟に加わった事で、

 ムガル帝国の崩壊が進み、

 それまで言語存亡の危機に晒されていたマラヤラム王国とタミル王国は緩衝地帯を手に入れる。

 両国は、負担の大きかった軍事負担を減らすことができ、

 社会資本を成長する切っ掛けにも繋がった。

 インド大陸の人口は世界最大で、

 その市場は単一でないものの世界最大の規模だった。

 そして、庶民の生活水準が高く、購買力が見込めたとき、

 同じモノを大量生産するといった観念が生まれる。

 炭鉱のカマドで石炭が燃やされ、その熱で蒸気を起こし、

 圧力から逃れようとする蓋が持ち上がると、梃の原理で円盤が回転し、

 炭鉱の底の水が汲み上げられていく、

 この頃、労動を軽減するかもしれない、熱蒸気機関は、西洋、中洋で試され、

 マラヤラムも生産力を上げるためか、人手を上手く使う試行錯誤がなされていた。

 その一つ、蒸気機関が注目されていた。

 日本人たち

 「へぇ 噂には聞いてたけど、本当に蒸気で水を汲み上げてるよ」

 「フランスで見たのと少し似てるじゃないか」

 「佐渡金山で使うといいかも」

 「まぁ 水を吸い上げられるなら腰を痛めなくていいかもしれないけど」

 「そういえば、日本でも水車の回転を利用した機織り機械が作られてるってよ」

 「でも、川岸限定じゃなぁ 錆びるんじゃないの」

 「そうだよなぁ でも木を燃やすのに抵抗を感じる人間が多いからな」

 「インド人も比較的そうだぞ」

 「イギリスとフランスが無節操に木を切って船を作るから、対抗上やもなくだろう」

 各大陸で産業革命前夜といった気風が作られようとしていた。

 

 

 

 欧州最強の王国はフランスだった。

 赤字財政危機への対処は、増税、

 そして、北アメリカのミシシッピー計画、

 もう一つは、フランス=スペインの勢力圏で経済を統合することだった。

 貨幣価値を合わせ、経済的な壁を低くした事で交易量が増えたものの、

 ピレネー山脈がフランスとスペインを隔てていた。

 山脈は、イベリア半島の北辺の東西430km、幅、約100kmに渡って延び。

 大西洋側は1000m級の山々が連なり、

 中部から地中海側に至るまで2000m級の山脈がそびえていた。

 険しい山脈は、過去において、イスラムに対する防波堤となっていたものの、

 フランス=スペイン同君体制においては、交通を妨げるため不利益となった。

 大規模な工事がなされ、海岸沿いの道が舗装され、

 山々のなだらかな大西洋側の1000m級の峠が整備され、

 ビスケ湾沿いにパリ=マドリッドを結ぶ大動脈ビスケ街道が建設され、

 荷馬車運送で力を付けた日本人の行き来も増えていた。

 日本人の御者が4頭立ての馬車を操りスペインへと向かっていく、

 山賊除けの警備の馬が増えれば、それだけ利益が減る。

 ピレネー越えは隊列を増やし、護衛の負担を減らさなければ、うまみの少ない仕事だった。

 「いよいよ。国境越え、スペインか・・・」

 「異端審問は嫌だぜ」

 「もう、ほとんど行われていないってよ」

 「だと良いけどな」

 「どっちかって言うと、山賊の方が怖いけど」

 「しかし、俺たちが矢面なんて、酷いよな」

 「日本人とタミル人は、変に保守的でフランス王直属が大きいんだよ」

 「体のいい駒だな」

 「まぁ 流通と仕事を押さえれば、いろいろと旨みがあるんじゃないか」

 「ブルボン王朝が健在の間は、だろう」

 「やっぱり、王朝は危ないのか?」

 「もう、王さまへの忠誠なんか吹き飛んでると思うよ」

 「王様以上に信頼できる勢力がいたら、引っくり返ってるかもしれん」

 「オルレアン家とか?」

 「どうだか。どっちが益しかなんて、周りの人間しか、わからないし」

 「庶民は、限界まで我慢しそうだけど」

 「問題は、我慢の限界が近いことだろうな」

 「積み荷を行き来させれば、フランス財政も少しは持ち直すだろうよ」

 「だと良いけどな」

 

 

 

 

 近代化は自給自足経済からの脱却でもあった。

 偏った生産、商品経済の発達は、生産量の増大と隙間産業の発生を促す、

 勝者と敗者を分け、貧富の格差を広げていた。

 勝者は豊かになり、敗者は、財を失い貧しいまま延々と働き続ける。

 社会保障の制度もない封建社会で、

 貧困層に固定された者は生きて行くことが難しく、

 犯罪は急増していた。

 出羽国 羽黒山の山伏たち

 険しい山岳で厳しい鍛錬の日々が続く、

 しかし、世俗は、己が平穏を得るために戦い、憎み合い、病んでいるように見えた。

 「我々は、山々の中に埋もれていてもいいのだろうか」

 「山蔵。我が身を高めることこそ山伏の必定だ」

 「しかし、あまりにも世俗は、荒んでいるではないか」

 「中国の故事でもある “蓮は泥より出でて、泥に染まらず” と」

 「世俗が荒れるのは世俗の生き方ぞ」

 「しかし、我々も世俗から出でたる者。棄て置くわけにはいくまい」

 「山伏は、己が身を律する気概のない者を導く事などかなわぬ」

 「世俗なれば、世俗に合う教理を与えてはどうか?」

 「だが、神道、道教、儒教は、目に見えない世界の認識で劣り」

 「善を志向させ、人々の欲望を自責の念によって押さえ、全体へ寄与させる点で不足だ」

 「インドにヒンズー教。欧州にキリスト教があるという」

 「彼らの力を借りではどうであろう」

 「うぬぅ・・・」

 領民の犯罪は、古来より悩みの種であり、

 商人の財欲は、飢饉になれば米を動かし、

 領民を餓死させてでも米価を吊り上げ私腹を肥やした。

 領主は、武士階級の下剋上を防ぐため苦心し、

 警護の負担で頭を悩ませた。

 人々は歯止めもなく、魑魅魍魎の如く、利己主義を追及していた。

 幕府は、欲望を自制させる鎮静剤代わりにキリスト教とヒンズー教を輸入したものの、

 その手綱は、まだ庶民に根付いていなかった。

 

 

 

 八島(舟山)諸島(1371ku)は、小さな島々だった。

 最大の島、舟山の面積は、476kuほどであり、

 ポルトガル領マカオの28.6kuより広大だった。

 清明戦争時、幕府と明の条約によって日本領有が保障され、

 江戸幕府直轄領として、清国の窓口として栄えていた。

 しかし、清が日本の八島領有を保障しているわけでもなく、

 八島が栄えれば栄えるほど、人質としての価値が増し、

 清国の脅威も比例して大きくなっていく、

 清国を支配する満州族は少数民族であり、

 権力基盤を強化するため、

 漢民族に権威を示そうと日本への朝貢を迫っており、

 徳川幕府は拒み続けていた。

 そして、満州族の権力基盤の強化を望まない漢民族が八島の日本利権を守ろうとしていた。

 もちろん、己の不正蓄財の避難所にするつもりであり、

 漢民族の中には、清国打倒を画策する有力者も少なくなかった。

 日本は、表の顔で清国と付き合いつつ、

 裏の顔では、反清国を画策する有力中国人との結束が強まっていた。

 「もう少し便宜を図ってくれないと、八島を守れないある」

 「そんなには金を出せないよ」

 「何とかするある」

 「いま、幕藩統合が進んでいる。そうなったら、もう少し余裕が出来る」

 「日本は、内政改革できるあるか。凄いある」

 「い、いや、まだ構想だけだから」

 「中国は構想で殺されるある」

 

 

 清国の国力は、日本の10倍以上だった。

 八島を中継にした日本の対清国貿易は年々増加し、

 日本商人は、市場の大きな清国向けの商品を八島に送り込み、

 清国から得た金、銀が大陸資源を購入する代金となり、

 日本に流通する小判となった。

 地代が幕府の税収となり、

 18世紀以降激減した佐渡金山を補填する貨幣収入となった。

 清国との取引停止や戦争は、商人だけでなく、

 商人に関わっている武士階級や庶民にも悪影響が及んだ。

 日清外交が下手に拗れると幕府財政を巻き込んで、経済破綻させられる。

 清国の脅威朝貢要求は、年々強まっていた。

 清国は、少数民族の多数民族の支配と自業自爆の利己主義を除けば弱点などあろうはずもなく、

 圧倒的な資源、市場、軍事力で日本を追い詰めていた。

 江戸城

 諸藩・商藩の代表が新年の挨拶で大広間に集まっていた。

 軍事的に大国清国の朝貢要求を撥ねつける方法は、いくつかあった。

 清国を支配する少数民族の満州族と、

 支配されている多数民族の漢民族の軋轢と対立を利用することだった。

 それは、消極的な策であり、

 工作が漏洩した場合のリスクは大きかった。

 国内行政において、圧倒的な国力を有する大国に抵抗する方法もあった。

 絶対王制の挙国一致。

 徳川家が諸藩の大名の特権を廃し、

 幕府が任官する者を大名にすることだった。

 支配圏は関東にとどまらず、

 日本全域の支配圏を確保、国家の大勢を動かす。

 もっとも、これを成そうとすると反乱が起こり、

 戦国の世に戻ること折り紙つきといえた。

 そして持ち上がったのが、諸藩を幕政に参画させ、

 石高に応じた発言力を与える事だった。

 しかし、徳川幕府の石高は全国の4分の1に過ぎず、

 幕政から追い立てられる可能性も高まる。

 妥協案として持ち上がったのが、

        石高
00 幕府   徳川 400万0000石 700
01 外様 加賀藩 前田 120万0000石 120
02 外様 薩摩藩 島津 72万8000石 72
03 外様 仙台藩 伊達 62万0000石 62
04 三家 尾張藩 徳川 61万9500石 61
05 三家 紀伊藩 徳川 55万5000石 55
06 外様 肥後藩 細川 54万0000石 54
07 外様 福岡藩 黒田 47万3000石 47
08 外様 安芸藩 浅野 42万6000石 42
09 外様 長門藩 毛利 36万0000石 36
10 外様 佐賀藩 鍋島 35万7000石 35
11 三家 水戸藩 徳川 35万0000石 35
12 外様 津藩 藤堂 32万3900石 32
13 親藩 福井藩 結城 32万0000石 32
14 外様 鳥取藩 池田 32万0000石 32
15 外様 岡山藩 池田 31万5000石 31
16 親藩 会津藩 保科 28万0000石 28
17 外様 徳島藩 蜂須賀 25万7000石 25
18 外様 高知藩 山内 24万0000石 24
19 譜代 彦根藩 井伊 23万0000石 23
20 外様 久留米藩 有馬 21万0000石 21
          1532

 20万石以上の諸藩を幕政に参画させることだった。

 これなら徳川の石高は半分に近付き、

 国民の総意に近付きつつも徳川の権力と権威を保てそうだった。

 しかし、肉を斬らせて骨を断つ心境に変わりはなく、

 徳川吉宗も、決断が付かないでいた。

 「大岡。どう思うか?」

 「将軍の決断する事でございます」

 「相談しているのだが」

 「既に善かれと思われる案は、いくつも出しておりますれば・・・」

 「決断は将軍の胸一つでは?」

 「・・・・」

 そう、仮に享保の改革を成し、

 国内市場を統合し、流通を増大させても経済規模が拡大し、

 貨幣経済の重要性が増すだけであり、

 金銀の需要は高まり、豪商が力を付けるだけ、

 軍事的に清国に対応しやすくなっても、

 日本経済が資源と市場で大陸に依存している事情は変えられない。

 そして、厄介な事に蝦夷と樺太の商藩で商品経済が発達し、

 ジャガイモ、トウモロコシ、テンサイ、小麦が江戸、大阪、名古屋の市場に流れ込み、

 庶民の食事に占める米の量は、減り続けていた。

 石高で国家の総意を決定する妥協案では収まらない。

 「・・・仮に商藩を幕政に参画させたとしてもだ」

 「豪商どもは、国外持ち出しの金銀を増やそうと画策するに決まっている」

 「商品を八島に持って行って資金を得るだけでは “買い” の機会を逃しますし」

 「商品が売れるまでの時間が無駄になりますれば・・・」

 「国内に流通する金銀をこれ以上減らすわけにはいかん」

 「・・・・・」 ため息

 封建社会において寄生虫は、武士階級だった。

 特権を剥奪し、能力主義、実力主義で生産に寄与させない限り、

 10倍の国力を有する清国に対応できない。

 目に見えて、わかっていても自らの利権を放棄するバカはいない。

 「幕藩統合。どうされますか?」

 「も・・もう少し待ってくれ」

 「・・・・」

 

 

 300トン級スクーナー型帆船 玉龍 (全長48m×全幅7m×5m 12ポンド砲12門)

 スクーナー型帆船は、最初、北米で建造される。

 操作性と費用対効果に優れた帆船は、微風逆風でも海上を滑り、

 羨望の眼差しで見られた。

 スクーナー船は、各国で研究されるようになり、

 日本にも伝播し建造される。

 建造が慣れて行くうちにスクーナーは、大型化していた。

 幕府海軍所司代

 海軍奉行の人たち

 「こりゃいいな」

 「しかし、ガレオン型と違って防御力は低い、砲撃戦に向かないかも」

 「中型軍用船なら使い勝手がいいでしょう」

 「そうだなぁ 輸送が楽になれば、すめらぎ領も南アフリカも行きやすい」

 「南アフリカか。そんなに金とダイヤが採れるのか」

 「その金とダイヤで建造してるだろう」

 「んん・・・でも商藩から金を借りてじゃな〜」

 「商藩に借金ばっかりしているからだ」

 「それで次の改革で商藩の声が強くなるんだと」

 「金かよ。あの守銭奴どもの言い分を聞いたら、貧富の格差が広がるだけだ」

 「領民たちは、商人どもの水田か、家畜にされるな」

 「幕府の水田か、家畜だったのに、このままだと領民を商人に取られちゃうぞ」

 「しかし、大変だな。幕府も・・・」

 灰色の空の下、

 再建された江戸城の天守閣が光芒に照らされていた。

 桟橋に駕籠と銃騎兵が現れる。

 「ん? 海軍所司代だ」

 「なんだろう。珍しい」

 「艦長。客人を乗せて、外洋に行ってくれないか」

 山伏たちが所司代の後ろに立っていた。

 「「「「・・・・」」」」

 「取り敢えず顔合わせだ。準備ができたら出航してくれ」

 

 

 その日、山伏一行が幕府海軍のスクーナー型帆船に乗り込み、

 横須賀から出港しつつあった。

 「山蔵。行くのか?」

 「ああ、天皇陛下の勅語も、幕府の任命ある」

 「インドに行って、ヒンズーの経典を貰ってくるよ」

 「そうか・・・」

 「その後は、大西洋を回ってローマで聖遺物を分けてもらってくる」

 「それで人心は、むしり合う事より、分かち合う事を知るだろう」

 「慣れ合いの世にならないか?」

 「いまの世は、負の心と争いが大き過ぎる」

 「偽善に生きようとする心が社会の安寧に繋がるだろう」

 「がんばってくれ」

 「おお!」

 「おい、護空。佐五条。白海。行くぞ!」

 「「「はい、師匠」」」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 1000年以上遅れて、日本版西遊記です。

 山伏たちは、無事役目を果たし、

 ヒンズーの経典とキリスト教の聖遺物を持ち帰り、

 日本の荒れた人心を和らげることができるでしょうか (笑

 

 

 宗教は、欲望に対する鎮静剤と言えるでしょう。

 効き過ぎれば意欲が削がれて社会が低迷し、

 効かなければ人の欲望は歯止め知らず、

 人間不信な社会が築かれます。

 隣人と同僚が泥棒、強盗では信頼できず、

 社会生活すら営めなくなるでしょう。

 さて、仏教のない世界で、神道、道教、儒教がどんな役割を果たしたのか、

 仏教無しを完全には埋められず、

 人心を押さえるための警察、警察の警察など負担は大きかったかもです。

 

 

 清国の圧力増大、

 中興の祖と言われる徳川吉宗も、優柔不断、不決断のヘタレのようです。

 

 

 中洋

 ムガル帝国は、国力で優勢のようです。

 しかし、ビルマ側のベンガル王国も離脱し、

 低迷する北インドムガル帝国と、

 離脱した2ヶ国が南インド2ヶ国と同盟を結び、

 躍進するドラヴィダ4王国同盟でしょうか

 インド大陸は、南北に大勢力に分かれ拮抗しました。

 

 

 植民地は、人種問題で混血が進むかもです。

 スペインは、混血型。

 日本は、融和調整型。

 タミル、マラヤラムは、カースト組み込み型。

 フランスは、排斥型。

 イギリス、オランダは、淘汰殲滅型。

 ムガル帝国、清国は、自前の奴隷がいるよ型。

 

 

 産業革命の先陣争いは、どこがなるでしょう。

 東アジア

   少数民族に支配された世界最大の帝国 清国

   島国の利点を生かしつつ、自己改革を求められる 日本

 

 中洋 

   低迷する覇者 ムガル帝国

   躍進中 ドラヴィダ同盟

 

 西洋 

   欧州最大最強 フランス=スペイン同君連合

   生き残りに躍起な イギリス=オランダ同君連合

 

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第07話 『三大洋国家連合 VS 三大陸国家連合』

第08話 『産業革命の予感』

第09話 『そんな時代の西遊記』